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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】巻鉄心及び変圧器
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/245 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
H01F27/245 155
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024556588
(86)(22)【出願日】2024-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2024020943
【審査請求日】2024-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2023184924
(32)【優先日】2023-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】市原 義悠
(72)【発明者】
【氏名】大村 健
(72)【発明者】
【氏名】中村 公二
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-69940(JP,A)
【文献】国際公開第2020/218607(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/245
H01F 27/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向性電磁鋼板を圧延方向に巻き回した構成の巻鉄心であって、
前記巻鉄心のコーナー部の曲げ部における前記圧延方向に平行な断面の、前記方向性電磁鋼板の板厚の中心から前記巻鉄心の外周側の領域内において、剪断領域の幅が100μm以上且つ400μm以下である、巻鉄心。
【請求項2】
前記剪断領域の幅が、150μm以上且つ350μm以下である、請求項1に記載の巻鉄心。
【請求項3】
前記コーナー部は、屈曲部を有する、請求項に記載の巻鉄心。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の巻鉄心と、コイルとを備える、変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、巻鉄心及び変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器の鉄心は、巻鉄心と積鉄心とに大別される。いずれの鉄心においても、方向性電磁鋼板が素材として用いられていることが多い。
【0003】
巻鉄心の型式として、2つの型式が知られている。本明細書中においては、一方を「トランココア」又は「トランコ」と称し、他方を「ユニコア」と称する。
【0004】
図1に、2つの型式を模式的に示す。トランコは、例えば特許文献1に記載されている。トランコは、方向性電磁鋼板を圧延方向に巻き回してバウムクーヘン状の形状にした後、四方から加圧成形を施して、円弧上のコーナー部を有する四角形状とした巻鉄心である。
【0005】
ユニコアは、例えば特許文献2に記載されている。ユニコアは、コーナー部に該当する箇所に予め曲げ加工を施し、屈曲部を形成した鋼板を、板厚方向に積層させた巻鉄心である。
【0006】
ユニコアは、トランコと比較して、加圧成形が不要のため、製造するための設備を比較的小型とすることができる。また、ユニコアは、製造時に鋼板に導入される歪みが、曲げ加工を施す箇所のみに集中することから、歪み取り用の焼鈍設備が不要である。ユニコアにはこのような工業的なメリットがあるため、ユニコアの適用が進んでいる。
【0007】
近年では、省エネ・環境規制の観点から、変圧器におけるエネルギー損失の低減、及び、変圧器の動作時における騒音の低減が強く求められている。変圧器の高効率化に向けては、鉄心素材である方向性電磁鋼板の特性向上が進められている。
【0008】
方向性電磁鋼板を鉄心素材として変圧器を製造する場合、変圧器の鉄損が素材である電磁鋼板の鉄損よりも増加することが知られている。この増加比率は、ビルディングファクタとして知られている。ビルディングファクタは、変圧器の鉄損/素材電磁鋼板の鉄損として定義される。
【0009】
そのため、変圧器の効率を改善するためには、素材の電磁鋼板の特性改善に加え、ビルディングファクタを改善することが重要な開発要素となっている。
【0010】
ビルディングファクタを改善するために、様々な方法が検討されている。例えば特許文献3は、接合部近傍の方向性電磁鋼板に歪みによる磁区細分化処理を施すことを提案している。磁区細分化技術は、熱歪み部によって圧延方向の磁気的不連続部を形成する技術である。磁区細分化技術は、このような磁気不連続部を形成することによって、方向性電磁鋼板の磁区を細分化し、鉄損を改善することができる。
【0011】
また、例えば特許文献4は、磁束渡りによる鉄損を改善するために、接合部を巻き回し方向に対して傾斜させることを提案している。
【0012】
また、ユニコアでは、曲げ加工によってコーナー部に大きな歪みが付与されるが、この歪みがビルディングファクタを増加させている。例えば特許文献5は、コーナー部の歪みによる磁性劣化の改善手法として、コーナー部の曲げ部に追加の溝による磁区細分化処理を施すことを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2016-146441号公報
【文献】特開2005-286169号公報
【文献】特開2020-96100号公報
【文献】特開2005-150507号公報
【文献】特開2021-163942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ビルディングファクタを改善するための方法として、特許文献3~5が開示する内容は、いずれも有効である。しかしながら、特許文献3~5が開示する内容は、鉄心の設計時に追加の処理を行うことを前提とする提案である。そのため、製造工数が増加すること、製造中に剪断方向を変化させる必要があるため製造コストが増加することなどの問題があった。
【0015】
本開示の目的は、製造工数及び製造コストの増加を抑えてビルディングファクタを改善することが可能な巻鉄心及び変圧器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
[1]方向性電磁鋼板を圧延方向に巻き回した構成の巻鉄心であって、
前記巻鉄心のコーナー部の曲げ部における前記圧延方向に平行な断面の、前記方向性電磁鋼板の板厚の中心から前記巻鉄心の外周側の領域内において、剪断領域の幅が100μm以上且つ400μm以下である、巻鉄心。
【0017】
[2]前記剪断領域の幅が、150μm以上且つ350μm以下である、上記[1]に記載の巻鉄心。
【0018】
[3]前記コーナー部は、屈曲部を有する、上記[1]又は[2]に記載の巻鉄心。
【0019】
[4]上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の巻鉄心と、コイルとを備える、変圧器。
【発明の効果】
【0020】
本開示に係る巻鉄心及び変圧器によれば、製造工数及び製造コストの増加を抑えてビルディングファクタを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】巻鉄心の2つの型式を模式的に示す図である。
図2】実験を行ったときの鋼スラブの成分組成を示す図である。
図3】ビルディングファクタと剪断領域の幅との関係の測定結果を示す図である。
図4】騒音と剪断領域の幅との関係の測定結果を示す図である。
図5】本開示の一実施形態に係る巻鉄心の構成を模式的に示す図である。
図6】本開示の一実施形態に係る変圧器の構成を模式的に示す図である。
図7】曲げ部の構成の一例を示す図である。
図8】Krマップ図の模式図である。
図9】コーナー部の模式図である。
図10】実施例における鋼スラブの成分組成を示す図である。
図11A】実施例における剪断領域の幅とビルディングファクタの関係などを示す表である。
図11B】実施例における剪断領域の幅とビルディングファクタの関係などを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実験結果)
最初に、本開示の実施形態の着想に至った実験結果について説明する。
【0023】
図2に、実験を行ったときの鋼スラブの成分組成を示す。実験においては、図2に示す成分組成を有する鋼スラブを使用して一般的な製造工程にて製造した方向性電磁鋼板鋼帯を供試材として使用した。
【0024】
方向性電磁鋼板鋼帯は、板幅100mmにスリットし、積み厚30mm、長辺300mm、短辺150mmの形状となるように巻き回した。このようにして、単相のユニコアを製造した。この際、短辺に該当する部分を剪断したカットコアと呼ばれる形状とした。また、この際、曲げ部は、90度1回曲げ、45度2回曲げ、30度3回曲げの3種類のコアを製造した。この際、それぞれの屈曲角度θは、θ±1度とした。コアを製造する際、いずれのコアにおいても、歪み取り焼鈍(SRA)は施さずに製造した。
【0025】
供試材鋼帯から切り出した単板試料を用いて、JIS C2556に規定の単板磁気測定法にて鉄損を測定した。また、この測定とともに、製造した巻き鉄心トランスの各々について、周波数50Hzにおいて鉄心脚部分の磁束密度が1.7Tとなるときの鉄損特性(変圧器鉄損)を測定した。
【0026】
上述のような、鉄心脚部分の磁束密度が1.7T、周波数が50Hzにおける鉄損特性の測定は、ワットメータを用いて無負荷損を測定することにより行った。
【0027】
このようにして測定した変圧器鉄損と単板鉄損の比から各トランスのビルディングファクタ(BF)を算出した。
【0028】
さらに、各モデルトランスを、防音室内で、最大磁束密度Bm=1.7T、周波数50Hzの条件で励磁し、騒音計を用いて騒音レベル:dBA(変圧器騒音)を測定した。
【0029】
各種の測定が完了した後の鉄心のコーナー部からサンプルを切り出し、サンプルをカーボンモールドに埋め込んだ。その後、圧延方向に平行な断面を研磨し、EBSD(Electron BackScatter Diffraction)測定を行った。
【0030】
このようにして得られた結果からKAM(Karnel Average Misorientation)値を算出した。また、鋼板の板厚中央から巻鉄心の外周側の領域内において、曲げ部の全板厚断面の平均KAM値Kaveに対する、各点のKAM値Kpの比Kr=Kp/Kaveが1.0を超える複数の点が板厚方向に貫通するように形成された剪断帯が圧延方向に連なる剪断領域の幅を算出した。
【0031】
図3に、ビルディングファクタと剪断領域の幅との関係の測定結果を示す。図4に、騒音と剪断領域の幅との関係の測定結果を示す。
【0032】
図3を参照すると、剪断領域の幅が広くなるとビルディングファクタが改善している。特に、剪断領域の幅が100μm以上になると、大きな改善効果が認められる。これは、KAMは、隣接する測定点との方位差であるため、Krの大きな剪断領域内では磁化方向がわずかに変化し、これによって磁気不連続部が形成された結果、磁区細分化効果が発現したためと考えられる。
【0033】
図4を参照すると、変圧器の騒音は、剪断領域の幅が広くなると増加する傾向が認められる。特に、剪断領域の幅が400μm以上になると、騒音が大きく増加している。これは、鋼板内部の歪みが増加したため、磁歪特性が劣化したためと考えられる。
【0034】
これらの結果から、剪断領域の幅を100μm以上且つ400μm以下とすることによって、良好な特性の巻鉄心を得ることが可能であることがわかる。また、より好ましくは、剪断領域の幅を150μm以上且つ350μm以下とすることによって、さらに良好な特性の巻鉄心を得ることが可能であることがわかる。
【0035】
(本実施形態)
続いて、本開示の実施形態に係る巻鉄心について図面を参照して説明する。
【0036】
図5は、本開示の一実施形態に係る巻鉄心10の構成を模式的に示す図である。
【0037】
巻鉄心10は、方向性電磁鋼板11を圧延方向に巻き回した構成である。巻鉄心10は、コーナー部12-1~12-4を有する。以後、コーナー部12-1~12-4について特に区別する必要がない場合は、単に「コーナー部12」と称して説明する場合がある。図5は、巻鉄心10の型式がユニコアである場合を示している。巻鉄心10の型式がユニコアである場合、コーナー部12は、図1に示したような屈曲部を有する。
【0038】
巻鉄心10は、変圧器の構成要素として用いることができる。図6に、本開示の一実施形態に係る変圧器1の構成を模式的に示す。変圧器1は、巻鉄心10と、コイル20-1及びコイル20-2とを備える。コイル20-1及びコイル20-2は、図2に示すように、巻鉄心10に巻き回されている。
【0039】
図5に示す方向性電磁鋼板11は、鋼素材であるスラブから製造されたものであってよい。方向性電磁鋼板11用のスラブの成分組成は、二次再結晶が生じる成分組成であればよい。
【0040】
方向性電磁鋼板11にインヒビターを利用する場合は、例えばAlN系インヒビターを利用する場合であれば、Al及びNを、また、例えばMnS・MnSe系インヒビターを利用する場合であれば、MnとSe及び/又はSとを適量含有させればよい。また、両インヒビターを併用することも可能である。
【0041】
両インヒビターを併用する場合における、Al、N、S及びSeの好適な含有量は、それぞれ以下の通りである。
Al:0.010~0.065質量%、
N:0.0050~0.0120質量%、
S:0.005~0.030質量%
Se:0.005~0.030質量%
【0042】
また、方向性電磁鋼板11は、Al、N、S及びSeの含有量を制限した、インヒビターを使用しないものであってもよい。この場合における、Al、N、S及びSeの含有量は、それぞれ以下のように抑制することが望ましい。
Al:0.010質量%未満、
N:0.0050質量%未満、
S:0.0050質量%未満
Se:0.0050質量%未満
【0043】
方向性電磁鋼板11用の鋼素材(スラブ)に適用する代表的な基本成分及び任意添加成分について、以下、具体的に述べる。
【0044】
C:0.08質量%以下
Cは、熱延板組織の改善のために添加をする。Cの含有量が0.08質量%を超えると、製造工程中に磁気時効の起こらない50質量ppm以下まで脱炭することが困難となる。そのため、Cの含有量は、0.08質量%以下とすることが望ましい。また、Cを含まない鋼素材でも二次再結晶することから、Cの含有量の下限については特に設けない。
【0045】
Si:2.0~8.0質量%
Siは、鋼の電気抵抗を増大させ鉄損を改善するのに有効な元素である。Siの含有量が2.0質量%未満であると、上述の改善効果が十分に発揮されない。一方、Siの含有量が8.0質量%を超えると、加工性、通板性が著しく劣化することに加え磁束密度も低下する。そのため、Siの含有量は、2.0~8.0質量%の範囲とすることが望ましい。
【0046】
Mn:0.005~1.0質量%
Mnは、熱間加工性を向上させるうえで必要な元素である。Mnの含有量が0.005質量%未満であると、熱間加工性を向上させる効果を十分に得ることが難しい。一方、Mnの含有量が1.0質量%を超えると、磁束密度が劣化する。そのため、Mnの含有量は、0.005~1.0質量%の範囲とすることが望ましい。
【0047】
方向性電磁鋼板11用のスラブには、上記の基本成分以外に以下の任意添加成分を1種類以上選んで適宜含有させてもよい。以下の任意添加成分は、磁気特性改善に有効であることが知られている。
Ni:0.03~1.50質量%、
Sn:0.01~1.50質量%、
Sb:0.005~1.50質量%、
Cu:0.03~3.0質量%、
P:0.03~0.50質量%、
Mo:0.005~0.10質量%
Cr:0.03~1.50質量%
【0048】
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させるために有効な元素である。Niの含有量が0.03質量%未満であると、磁気特性の向上への貢献は小さい。一方、Niの含有量が1.50質量%を超えると二次再結晶が不安定となり磁気特性が劣化する。そのため、Niの含有量は、0.03~1.50質量%の範囲とすることが望ましい。
【0049】
また、Sn、Sb、Cu、P、Mo、Crも、磁気特性を向上させる元素である。いずれの元素も、含有量が上記の下限未満であると、磁気特性を向上させる効果が十分ではない。また、いずれの元素も、含有量が上記の上限を超えると、二次再結晶粒の成長が抑制されるために磁気特性が劣化する。そのため、Sn、Sb、Cu、P、Mo、Crの含有量は、それぞれ、上記の含有量の範囲とすることが望ましい。
【0050】
方向性電磁鋼板11用のスラブは、上記以外の成分として、Fe及び不可避的不純物を含む。
【0051】
上記の成分系からなる方向性電磁鋼板11の鋼素材(スラブ)には、熱間圧延が施された後、熱延板焼鈍が行われる。続いて、スラブには、1回又は2回の冷間圧延が施される。そして、最終板厚の鋼帯が仕上がる。
【0052】
その後、最終板厚の鋼帯には、脱炭焼鈍が施され、焼鈍分離剤が塗布される。続いて、最終板厚の鋼帯は、コイル状に巻き取られる。続いて、最終板厚の鋼帯には、二次再結晶を目的とした最終焼鈍が施される。その後、最終焼鈍後の鋼帯に対して、平坦化焼鈍が施され、張力被膜が形成され、製品板の鋼帯ができる。
【0053】
方向性電磁鋼板11を製造するための平坦化焼鈍後の工程においては、方向性電磁鋼板11の表面にエネルギービーム照射により熱歪みを形成させる磁区細分化工程を含んでもよい。また、方向性電磁鋼板11を製造するための冷間圧延以降の工程においては、方向性電磁鋼板11に電解エッチング又はレーザー照射をして溝を形成するような磁区細分化工程を含んでもよい。
【0054】
続いて、本実施形態におけるKAM値及びKr値の算出方法について説明する。
【0055】
巻鉄心10のコーナー部12は、曲げ部を有する。曲げ部において変形して曲がることによって、巻鉄心10は、コーナー部12において90度に曲がっている。コーナー部12は、少なくとも1つの曲げ部を有する。例えば、コーナー部12が1つの曲げ部を有する場合、曲げ部において90度曲がる。また、例えば、コーナー部12が2つの曲げ部を有する場合、1つの曲げ部において45度曲がる。また、例えば、コーナー部12が3つの曲げ部を有する場合、1つの曲げ部において30度曲がる。
【0056】
図7に示す曲げ部の構成の一例を参照して、曲げ部について説明する。コーナー部12の曲げ部は、図7において、曲げ部Fとして示す領域である。
【0057】
図7に示すように、コーナー部12の曲率半径を有する領域に向かって、圧延方向両側に存在する曲率半径を有さない領域(平坦部)の平坦面(鋼板外周表層及び鋼板内周表層)から半直線として接線を引く。図7においては、方向性電磁鋼板11の外周の表層、すなわち鋼板外周表層から引いた接線を、接線L1及び接線L2として示している。また、図7においては、方向性電磁鋼板11の内周の表層、すなわち鋼板内周表層から引いた接線を、接線L3及び接線L4として示している。
【0058】
図7に示すように、接線L1及び接線L2と鋼板外周表層との接点を、それぞれ、接点O1及び接点O2とする。また、接線L3及び接線L4と鋼板内周表層との接点を、それぞれ、接点I1及び接点I2とする。このとき、接点O1、接点O2、接点I1及び接点I2の4つの接点で囲まれる領域が曲げ部Fである。
【0059】
KAM値及びKr値を算出する場合、巻鉄心10のコーナー部12の曲げ部から方向性電磁鋼板11の一部を、圧延方向断面が切断面となるように採取する。続いて、切断面に無歪み研磨を施す。
【0060】
続いて、無歪み研磨が施された研磨面について、EBSD(Electron BackScatter Diffraction)により結晶方位差を解析し、KAM(Karnel Average Misorientation)値を算出する。このとき、方位差は、ある測定点に対して第三隣接点との方位差とする。
【0061】
そして、方向性電磁鋼板11の板厚の中心から巻鉄心10の外周側の領域内において、曲げ部の全板厚断面の平均KAM値Kaveに対する、各点のKAM値Kpの比をKr(=Kp/Kave)と定義する。
【0062】
本実施形態において、剪断領域の幅は、上述のKr値を観察面全体にマッピングしたKrマップ図を用いて計測される。なお、本実施形態において、「剪断領域」とは、Kr値が1.0を超える複数の点が方向性電磁鋼板11の板厚を貫通するように形成された剪断帯が圧延方向に連なる領域全体のことである。
【0063】
図8に、Krマップ図の模式図を示す。図8は、コーナー部12の曲げ部における圧延方向に平行な断面の観察視野のうち、方向性電磁鋼板11の板厚の中心(1/2板厚)から巻鉄心10の外周側(鋼板外周表層)までの、方向性電磁鋼板11の外側半分の観察領域におけるKrマップの模式図を示している。
【0064】
図8において、剪断領域と示している領域が、上述のようにして定義した剪断領域である。図8に示すように、1/4板厚での剪断領域の圧延方向の長さを、本実施形態においては、「剪断領域の幅」と称する。
【0065】
剪断領域の幅は、上述の実験結果において図3及び図4を参照して説明したように、100μm以上且つ400μm以下とすることが望ましい。これにより、良好な特性の巻鉄心10を得ることが可能となる。また、剪断領域の幅は、150μm以上且つ350μm以下とすることがさらに望ましい。これにより、さらに良好な特性の巻鉄心10を得ることが可能となる。
【0066】
図9は、巻鉄心10のコーナー部12の模式図である。
【0067】
巻鉄心10の製造時に、コーナー部12に隣接する長辺と短辺の延長線が巻鉄心10の内周方向になす角(曲げ角度)が90度未満になるように加工してから、曲げ戻して四角状に形成すると、剪断領域の幅を上述のような幅にすることができ、特に高い効果を得やすい。あるいは、巻鉄心10の製造時に、巻鉄心素片に用いる方向性電磁鋼板11の張力被膜がコーナー部12の内周側と外周側とで膜厚又はコーティング種を異なるようにし、内周側の張力が外周側よりも高くしたものを用いて巻鉄心10を製造することによっても、剪断領域の幅を上述のような幅にすることができ、特に高い効果を得やすい。
【0068】
これは、各巻鉄心素片を組み上げて巻鉄心10とした際に、曲げ角度が90度に開くこと、及び、内外の張力差によって各鋼板の板厚外周部に圧縮応力が生じることなどによって、上述のような剪断領域の幅を有する剪断領域が生じるためと推定される。
【0069】
しかしながら、上述のような剪断領域の幅を有する巻鉄心10を製造する方法は、このような製造方法に限定されない。他の製造方法によって、剪断領域の幅を上述のような幅にしてもよい。コーナー部12の剪断領域が上述のような幅を有していれば、巻鉄心10は、磁区細分化効果によるビルディングファクタ改善効果を得ることができる。
【0070】
このように、本実施形態に係る巻鉄心10は、方向性電磁鋼板11を圧延方向に巻き回した構成であって、巻鉄心10のコーナー部12の曲げ部における圧延方向に平行な断面の、方向性電磁鋼板11の板厚の中心から巻鉄心10の外周側の領域内において、剪断領域の幅が100μm以上且つ400μm以下である。本実施形態に係る巻鉄心10は、剪断領域の幅をこのような範囲とすることによって、圧延方向に平行な断面のKAM値を適正化することができる。したがって、本実施形態に係る巻鉄心10は、ビルディングファクタを改善して、巻鉄心10の鉄損を改善することができる。この際、本実施形態に係る巻鉄心10は、少ない製造工程で製造することができるため、製造工数及び製造コストを低減することができる。
【0071】
(実施例)
続いて、実施例に基づいて本開示の内容を具体的に説明する。以下の実施例は、本開示の好適な一例を示すものであり、本実施例によって何ら限定を受けるものではない。本開示の趣旨に適合しうる範囲で変更を加えて実施することも可能であり、そのような態様も本開示の技術範囲に含まれる。
【0072】
図10は、実施例における鋼スラブの成分組成を示す図である。このような鋼スラブを使用し、鋼帯A、鋼帯B、鋼帯C及び鋼帯Dを製造した。
【0073】
鋼帯Aは、一般的な製造工程にて製造した方向性電磁鋼板である。鋼帯Bは、冷延工程後の鋼帯表面に電解エッチングを施すことで、圧延方向を垂直に横切る方向に深さ15μm、幅40μmの線状溝を、5mm間隔で周期的に形成させた後、仕上げ焼鈍工程までを行った方向性電磁鋼板である。鋼帯Cは、鋼帯Aの一部に対してレーザーを照射した方向性電磁鋼板である。鋼帯Dは、鋼帯Aの一部に対して電子ビームを照射した方向性電磁鋼板である。
【0074】
これらの鋼帯A、鋼帯B、鋼帯C及び鋼帯Dを供試材として使用した。この際、張力被膜の種類は共通として、巻鉄心の外周部及び内周部において、それぞれ、被膜厚みを1~5μmの範囲で変化させて方向性電磁鋼板鋼帯を製造した。
【0075】
上述のようにして製造した供試材の鋼帯から、幅100mm×長手280mmの試験片(試料)を切り出し、各試験片につきJIS C2556に記載の単板磁気測定法にて鉄損を測定した。
【0076】
その後、それぞれの鋼帯を圧延方向に巻き回して、三相巻き鉄心モデルトランス(鉄心重量50kg)を製造した。鋼帯A及び鋼帯Bについては、トランコ、ユニコアの双方の型式を製造した。ユニコアについては、歪み取り焼鈍を施したコアも作成した。鋼帯C及び鋼帯Dについては、歪み取り焼鈍によって、レーザー、電子ビームによる磁区細分化効果が消失するため、ユニコアのみを製造した。
【0077】
製造した各トランス(変圧器)について、周波数50Hzにて鉄心脚部分の磁束密度が1.7Tとなるときの鉄損特性を測定した。この磁束密度が1.7T、周波数が50Hzの条件での鉄損特性は、ワットメータを用いて無負荷損を測定した。同時に、このモデルトランスを、防音室内で、最大磁束密度Bm=1.7T、周波数50Hzの条件で励磁し、騒音計を用いて騒音レベル(dBA)を測定した。
【0078】
各種測定完了後の鉄心のコーナー部からサンプルを切り出し、カーボンモールドに埋め込んだのち、圧延方向に平行な断面を研磨し、EBSD測定を行った。また、得られた結果からKAM値を算出し、鋼板の板厚中央から巻鉄心の外周側の領域内において、剪断領域の幅を算出した。これらの結果を図11A及び図11Bに示す。
【0079】
図11A及び図11Bを参照すると、本実施形態の構成を満たす条件において、低鉄損且つ低騒音を満たす良好な変圧器を得ることができていることが確認できる。また、ユニコアは、トランコよりもBF改善効果が高いことが確認できる。特に、剪断領域の幅が150μm以上且つ350μm以下のときに、変圧器特性の改善が顕著である。
【0080】
本開示は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、ブロック図に記載の複数のブロックを統合してもよいし、又は1つのブロックを分割してもよい。フローチャートに記載の複数のステップを記述に従って時系列に実行する代わりに、各ステップを実行する装置の処理能力に応じて、又は必要に応じて、並列的に又は異なる順序で実行してもよい。その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲での変更が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 変圧器
10 巻鉄心
11 方向性電磁鋼板
12 コーナー部
20 コイル
【要約】
巻鉄心10は、方向性電磁鋼板11を圧延方向に巻き回した構成である。巻鉄心10は、巻鉄心10のコーナー部12の曲げ部における圧延方向に平行な断面の、方向性電磁鋼板11の板厚の中心から巻鉄心10の外周側の領域内において、剪断領域の幅が100μm以上且つ400μm以下である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B