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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】シンチレータおよび放射線測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 3/06 20060101AFI20241210BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20241210BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20241210BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G01T3/06
C09K11/00 E
C09K11/61
G01T1/20 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021028343
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022129614
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514115065
【氏名又は名称】株式会社C&A
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】吉川 彰
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 圭
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 優威
(72)【発明者】
【氏名】沓澤 直子
(72)【発明者】
【氏名】村上 力輝斗
(72)【発明者】
【氏名】庄子 育宏
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/190444(WO,A1)
【文献】特開2021-025806(JP,A)
【文献】特開2019-119798(JP,A)
【文献】特開2018-175080(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064588(WO,A1)
【文献】特開2017-149883(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0052265(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-7/12
C09K 11/00
C09K 11/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Liを含有する第1結晶相および放射線励起で発光する第2結晶相を含む複数の結晶相からなる共晶体から構成され、
前記複数の結晶相の各々は、互いの屈折率差が0.04以下であり、
前記第2結晶相は、発光中心としてPr、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Dy、Er、Tm、Yb、Tl、Pb、Bi、Ag,Ti,Crのうち少なくとも一種からなる元素を、前記第2結晶相の総物質量に対して0.001mol%以上含有し、
前記第1結晶相は、化学式A x y x+2y (0<x<1、0<y≦1)で表されるハロゲン化物を含み、
Aは、Liであり、
BはBe、Mg、Ca、Sr、Baのうち少なくとも一種を含む元素であり、
はCl、Br、Iのうち少なくとも一種を含む元素である
ことを特徴とするシンチレータ。
【請求項2】
Liを含有する第1結晶相および放射線励起で発光する第2結晶相を含む複数の結晶相からなる共晶体から構成され、
前記複数の結晶相の各々は、互いの屈折率差が0.04以下であり、
前記第2結晶相は、発光中心としてPr、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Dy、Er、Tm、Yb、Tl、Pb、Bi、Ag,Ti,Crのうち少なくとも一種からなる元素を、前記第2結晶相の総物質量に対して0.001mol%以上含有し、
前記第1結晶相は、化学式LiXで表されるハロゲン化物を含み、XはCl、Br、Iのうち少なくとも一種を含む元素であることを特徴とするシンチレータ。
【請求項3】
請求項1または2のシンチレータと、
前記シンチレータが発するシンチレーション光を受光する受光素子と
を備える放射線測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータおよび放射線測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子線検出器(測定装置)の応用分野は、有機物・無機物に対する結晶構造解析、中性子線を用いたホウ素中性子捕捉療法などの医療技術、高エネルギー放射光施設での中性子線検出、非破壊検査分野、あるいは貨物検査等の保安分野等多岐にわたる。また、中性子利用技術の発展に伴い、より感度の高い中性子検出器が求められている。
【0003】
例えば特許文献1記載には、Ce添加Cs2LiYCl6の化合物単結晶が、発光量が1中性子あたり73000光子である中性子シンチレータとして開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2および非特許文献1には、フッ化リチウム結晶とフッ化カルシウム結晶、フッ化ストロンチウムからなる共晶体に、発光中心元素としてCeあるいはEuを含有させ、フッ化カルシウムやフッ化リチウムが放射線励起により発光する共晶体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第8969824号公報
【文献】特開2011-232305号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】T. Yanagida et al., "Scintillation properties of LiF-SrF2 and LiF-CaF2 eutectic", Journal of Luminescence, vol. 144, pp. 212-216, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に係る技術では、単結晶であることから透明度が高く、かつ発光量が高いものの、化合物単結晶の化学組成が限定されるため、Liの含有量を高めることができない。このため、特許文献1に係る技術では、Cs2LiYCl6におけるLiのモル含有率は10%と低いため中性子線に対する感度が低いという問題がある。
【0008】
一方、特許文献2および非特許文献1に係る技術では、層状のフッ化リチウム結晶と層状のフッ化カルシウム結晶、フッ化ストロンチウム結晶とが交互に積層した共晶体シンチレータとなっており、フッ化カルシウム結晶やフッ化ストロンチウム結晶が放射線励起により発光する構造となっている。ここで、フッ化リチウム結晶と、層状のフッ化カルシウムと、フッ化ストロンチウムとの屈折率の差が発光波長において0.04以上と大きい。このため、この技術では、放射線励起により発光した光が、各結晶相の間で、散乱、吸収されるため、透過率が低下し、シンチレーション光がシンチレータ内で減衰して受光素子に到達することから、発光量が低下するという問題がある。
【0009】
上述したように、従来の技術では、高い感度および発光量を得ることができないという問題があった。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、高い感度および発光量が得られるシンチレータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るシンチレータは、Liを含有する第1結晶相および放射線励起で発光する第2結晶相を含む複数の結晶相からなる共晶体から構成され、複数の結晶相の各々は、互いの屈折率差が0.04以下である。
【0012】
上記シンチレータの一構成例において、第2結晶相は、発光中心としてPr、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Dy、Er、Tm、Yb、Tl、Pb、Bi、Ag,Ti,Crのうち少なくとも一種からなる元素を、第2結晶相の総物質量に対して0.001mol%以上含有する。
【0013】
上記シンチレータの一構成例において、第1結晶相は、化学式Axyx+2y(0x<1、0<y≦1)で表されるハロゲン化物を含み、Aは、Li、Na、K、Rb、Csのうち少なくとも一種を含む元素であり、BはBe、Mg、Ca、Sr、Baのうち少なくとも一種を含む元素であり、XはF、Cl、Br、Iのうち少なくとも一種を含む元素である。
【0014】
上記シンチレータの一構成例において、第1結晶相は、化学式LiXで表されるハロゲン化物を含み、XはF、Cl、Br、Iのうち少なくとも一種を含む元素である。
【0015】
本発明に係る放射線測定装置は、上述したいずれかのシンチレータと、シンチレータが発するシンチレーション光を受光する受光素子とを備える。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、シンチレータを構成する共晶体の第1結晶相は、Liを含有するものとし、共晶体を構成する複数の結晶相の各々の、互いの屈折率差を0.04以下としたので、高い感度および発光量が得られるシンチレータが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明に係るシンチレータの構成を示す構成図である。
図2図2は、放射線測定装置200の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係るシンチレータについて図1を参照して説明する。このシンチレータは、Liを含有する第1結晶相101、および放射線励起で発光する第2結晶相102を少なくとも含む複数の結晶相からなる共晶体から構成されている。第1結晶相101が、放射線励起により発光する構成とすることもできる。また、このシンチレータを構成する共晶体は、第1結晶相101,第2結晶相102に加え、Liを含有する他の結晶相を含むことができる。また、第1結晶相101,第2結晶相102に加え、放射線励起で発光する他の結晶相を含むことができる。また、シンチレータを構成する複数の結晶相の各々は、互いの屈折率差が0.04以下である。このシンチレータの共晶体を構成する結晶相の形状は、図1に示すように、略円柱形、楕円形、マトリックス形に限らず、種々の形状から構成することができ、例えば、多角形を含む3次元的ラメラ構造とすることもできる。
【0019】
このシンチレータは、例えば中性子の入射によってシンチレーション光を発生する中性子シンチレータとして機能する。まず、中性子がLiを含有する第1結晶相101に入射すると、中性子がLi中の6Li同位体に捕獲され、捕獲反応を起こして2次粒子であるα粒子およびトリチウムを生じる。第1結晶相に含有されているLiは、線吸収断面積に優れている。
【0020】
次いで、上記2次粒子が、共晶体であるシンチレータ中を遊走し、放射線により発光する第2結晶相102に到達して第2結晶相102を励起する。最終的に、励起された第2結晶相102がシンチレーション光を発する。このように、実施の形態に係るシンチレータは、第1結晶相101が中性子捕獲材となり、第2結晶相102が蛍光体として機能する。前述したように、シンチレータを構成する第1結晶相101は、線吸収断面積に優れたLiを含有するため、このシンチレータは、中性子に対し高い感度を有するものとなる。
【0021】
さらに、実施の形態に係るシンチレータは、シンチレータを構成する複数の結晶相の各々の、互いの屈折率差が0.04以下であるところに特徴がある。この構成によって、第2結晶相102で発生した光のうち、他の結晶相との界面で全反射条件を満たさない角度で入射した光は減衰することなく透過する。この結果、光は複数の結晶相の間と透過し、シンチレータ内に広がり、最終的にシンチレータより放射される。この結果、例えば、シンチレータの近傍に受光素子を配置すれば、上述した光は、受光素子で受光されることになる。
【0022】
第2結晶相102や放射線励起で発光する他の結晶相は、発光中心としてPr、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Dy、Er、Tm、Yb、Tl、Pb、Bi、Ag、Ti、Crのうち少なくとも一種からなる元素を、第2結晶相102の総物質量に対して0.001mol%以上含有することが好ましい。
【0023】
第2結晶相102や放射線励起で発光する他の結晶相が、Nd、Pr,Ce,Eu、Tm、Tl、Smを含有する場合は、f-d遷移による数nsから数100nsec程度の高速な蛍光寿命を示し、Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Dy,Er,Tm,Yb、Crを含有する場合はf-f遷移による数百n秒から数μn秒程度の蛍光寿命を示す。また、第2結晶相102が、Ybを含有する場合は、ホスト結晶の組成により、チャージトランスファー発光による数n秒程度の高速な発光を示すこともある。
【0024】
第1結晶相101は、化学式Axyx+2y(0x<1、0<y≦1)で表されるハロゲン化物を含み、Aは、Li、Na、K、Rb、Csのうち少なくとも一種を含む元素であり、BはBe、Mg、Ca、Sr、Baのうち少なくとも一種を含む元素であり、XはF、Cl、Br、Iのうち少なくとも一種を含む元素である。また、第1結晶相101は、化学式LiXで表されるハロゲン化物を含み、XはF、Cl、Br、Iのうち少なくとも一種を含む元素でとすることができる。
【0025】
第1結晶相101において、含有するLi元素の6Li同位体比は、20~99%とすることが好ましい。6Li同位体比を20%以上とすることによって、前述した捕獲反応の確率が高まり、中性子の検出効率が向上する。一方、同位体濃縮に係るコストを鑑みると、6Li同位体比は、99%以下とすることが好ましい。
【0026】
実施の形態に係るシンチレータの、前述した中性子線感度および光導波機能を、より一層向上させるためには、Liの含有率は、シンチレータの各イオンのモル量に対して、15モル%以上の量で含むことが好ましく、25モル%以上の量で含むことがより好ましい。また、各結晶相の屈折率差は0.3以下が好ましく、発光量は1中性子に対し15000光子が好ましく、1中性子に対し30000光子がより好ましい。またそれぞれの結晶相の屈折率差は発光波長において0.04未満が好ましく、0.03以下がより好ましく、0.02以下がさらに好ましい。
【0027】
実施の形態によれば、シンチレータを構成する共晶体の、それぞれの結晶相の屈折率差が、0.04以下と小さいため、放射線励起によって発光した光が減衰することなく周囲に拡散する。この結果、実施の形態によれば、発光波長における透明度が高く、発光量の高い中性子シンチレータを得ることができる。また、Liを含有する第1結晶相101を有する共晶体とすることでLiの含有率を高め、中性子線に対する感度の高い、シンチレータを得ることができる。また、このシンチレータを用いた中性子測定装置によれば、中性子線を高感度で測定できる。
【0028】
ところで、図1を用いて説明した共晶構造を有するシンチレータを得るためには、概ね共晶組成でシンチレータを製造することが好ましい。ただし、必ずしも共晶組成から外れてはならないというものではなく、共晶組成比に対して共晶組成±20mol%の範囲は許容範囲とすることができる。
【0029】
上述した組成の許容範囲を規定する要因は、共晶組成近傍で上記材料の凝固を行うことで図1に示すような構造を有する共晶体を得ることができるからである。上記許容範囲外、つまり上記組成比が共晶組成±15mol%の範囲を逸脱している場合は、一方の結晶相が先に析出するが、それぞれの結晶相の屈折率差が小さい場合、シンチレータ内で生じるシンチレータ光は、減衰が小さく受光素子に到達するため、不規則な形状やサイズの結晶相が析出しても問題はなく、共晶体の構造や結晶相の形状はいずれの形状でも良い。
【0030】
[シンチレータ共晶体の製造]
シンチレータ共晶体を製造する方法は、所望の材料系を最適組成において溶融凝固する方法であればいずれの方法によっても製造が可能である。例えば、チョクラルスキー法やマイクロ引き下げ法、ブリッジマン法、EFG(Edge-defined Film-fed. Growth)法、キロプロス法のように融液から結晶を育成する方法により製造可能である。さらに、フローティングゾーン法でも製造可能である。
【0031】
また、シンチレータの結晶相の粒径や結晶相間の最近接距離の周期の平均値は、凝固速度に依存し、特に最近接距離の周期に関しては次式の相関があるとされる。すなわち、周期をλとし、凝固速度をvとすれば、λ2・v=一定である。したがって、凝固速度を制御することで、結晶相の粒径や結晶相間の最近接距離の周期を制御することができる。
【0032】
[シンチレータの利用]
相分離構造を有するシンチレータは、受光素子と組み合わせることで中性子線などの放射線測定器(検出器)として用いることが可能である。特に、実施の形態に係るシンチレータは、光の導波機能を有しているために、隔壁を設けること無く、受光素子に向けて特定の方向に光を導波する必要がある状況に適用することができる。例えば、位置有感型光電子増倍管、半導体受光素子アレイ、イメージインテンシファイヤー、CCDカメラなどの受光素子と組み合わせることができる。これら場合、発光相(第2結晶相102)への他材料の添加や、発光中心物質の添加をすることで、受光素子の受光感度特性に適合するようにシンチレータの発光波長を調整することが可能である。
【0033】
例えば、図2に示されるように、シンチレータ201が発するシンチレーション光を受光できる受光素子202と組み合わせることで、放射線測定装置200としての使用が可能となる。
【0034】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせ全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0035】
[実施例]
まず、表1の実施例1~実施例8に示すように、各結晶相の組み合わせにおいて、各組成比になるように評量した。この混合粉末に、総物質量に対してハロゲン化ユーロピウムを1mol%添加した試料を十分に混合した粉末を準備した。また、ハロゲン化リチウムについては、6Li同位体比が95%の原料を用いた。
【0036】
次いで、上述した原料の混合物を、内径が6mmの石英管に充填し、真空排気装置を用いて、石英管の内部を2.0×10-4Pa以下まで真空排気した後、ガスバーナーにより石英管を封入した。
【0037】
次に、加熱ヒーターによって石英管の中の原料混合物を加熱して溶融・固化した。なお、この加熱の後において、融液の温度を降下させる速度、すなわち凝固速度は、20mm/hrとした。この降温の操作により、融液を全て凝固させ、実施例における共晶体を得た。
【0038】
[比較例]
まず、表1に示す比較例1および比較例2の各結晶相の組み合わせにおいて、各組成比になるように評量した。この混合粉末に、総物質量に対してフッ化ユーロピウムを1mol%添加した試料を十分に混合した粉末を準備した。また、フッ化リチウムについては、6Li同位体比が95%の原料を用いた。
【0039】
次いで、作製した原料混合物を、内径が6mmのカーボンルツボに充填し、加熱ヒーターを備える真空チャンバー内に設置した。さらに、真空排気装置を用いて、真空チャンバーの内部を2.0×10-4Pa以下まで真空排気した後、アルゴンガスを導入した。
【0040】
真空チャンバー内のガス置換操作を行った後、加熱ヒーターによって原料混合物を加熱して溶融・固化した。なお、この加熱の後の、融液の温度を降下させる速度、すなわち凝固速度は20mm/hrとした。この降温の操作により、融液を全て凝固させ、比較例の共晶体を得た。
【0041】
次に、実施例1~8および比較例1,比較例2で得られた共晶体を粉砕した粉末について粉末X線回折測定を行い、結晶相を同定した。また、得られた共晶体を、ダイヤモンドワイヤーを備えたワイヤーソーによって0.1mm厚に切断し、切断面を鏡面研磨してウエハとした。得られたウエハについて透過率を測定した。さらに、得られたウエハにX線を照射し、分光器を用いて発光スペクトルを取得し、得られたスペクトルのピーク波長を発光波長とした。
【0042】
[中性子検出器の作製と特性評価]
当該中性子用シンチレータの中性子に対する応答特性を,次に示す方法によって評価した。まず、光電子増倍管(浜松ホトニクス社製、R7600U)の光電面に、中性子用シンチレータを凝固方向に垂直な面で接着し、中性子検出器(測定器)を製作した。光電子増倍管の光電面に外の光が入射しないよう、中性子検出器を黒色のビニールシート製の遮光材で覆った後に、1MBqの放射能の252Cfからの中性子を、厚さ40mmのポリエチレンブロックからなる中性子減速材を介して減速して照射した。
【0043】
中性子用シンチレータより発せられたシンチレーション光を計測するため、光電子増倍管には、電源供給線より800Vの高電圧を印加し、シンチレーション光を電気信号に変換し、信号出力線より出力した。ここで、光電子増倍管より出力される電気信号は、シンチレーション光を反映したパルス状の信号であり、パルスの波高がシンチレーション光の発光強度を表す。光電子増倍管より出力された電気信号を整形増幅器で整形、増幅した後、多重波高分析器に入力して解析し、波高分布スペクトルを作成し、中性子シンチレータの基準材料であるLi-ガラスと発光量を比較し、発光量を算出した。
【0044】
実施例1~8および比較例1,比較例2で得られた共晶体の評価結果を表1に示す。比較例1,比較例2のシンチレータでは、それぞれの結晶相の屈折率差が0.04以上あるために、透過率が低い。さらに発光量が低いことから、中性子の検出器(測定器)として用いた場合の性能が低下する。一般に、中性子検出器では、1インチ径、1インチ厚を超える大型の中性子シンチレータを用いるため、透過率の低い比較例1、比較例2のシンチレータでは、結晶のサイズ、厚みが大きくなるほど、シンチレータ内の光の減衰が大きくなり、発光量がさらに減少することとなる。
【0045】
実施例1~8に示す共晶体では、それぞれの結晶相の屈折率差が0.03以下であることから65%以上の透過率を示す。さらに、発光量が1中性子あたり35000光子以上と高く、Liのモル含有率も14%以上と高いため、感度に優れた中性子検出器を実現できる。
【0046】
【表1】
【0047】
以上に説明したように、本発明によれば、シンチレータを構成する共晶体の第1結晶相は、Liを含有するものとし、共晶体を構成する複数の結晶相の各々の、互いの屈折率差を0.04以下としたので、高い感度および発光量が得られるシンチレータが提供できるようになる。
【0048】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0049】
101…第1結晶相、102…第2結晶相。
図1
図2