(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ロックボルト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E21D 20/00 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
E21D20/00 F
E21D20/00 K
(21)【出願番号】P 2021032637
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(73)【特許権者】
【識別番号】592197968
【氏名又は名称】サンライズ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】福田 聡
(72)【発明者】
【氏名】三河内 永康
(72)【発明者】
【氏名】末松 幸人
(72)【発明者】
【氏名】菅原 崇秀
(72)【発明者】
【氏名】石原 淳
(72)【発明者】
【氏名】真壁 雄貴
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0314394(US,A1)
【文献】特開2019-143404(JP,A)
【文献】特開2005-314993(JP,A)
【文献】特開平10-280899(JP,A)
【文献】特開昭63-072446(JP,A)
【文献】実開昭60-104500(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 20/00-20/02
G01L 5/00- 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部の打設方向における後側に略半球状の頭部が
熱間鍛造で前記軸部と一体的に形成され、
前記頭部に前記軸部から連続した熱間鍛造による鍛流線が形成され、
前記頭部の前端面が前記軸部に外挿される支圧プレートを押圧可能に設けられていると共に、
引抜試験用のテンションロッドを螺着可能な雌ねじ部が、前記頭部に後端側から前記軸部と同軸となるよう
に形成されていることを特徴とするロックボルト。
【請求項2】
請求項1記載のロックボルトの前記軸部に支圧プレートが外挿され、
前記支圧プレートの角部がアール面取りされていることを特徴とするロックボルト構造体。
【請求項3】
請求項1記載のロックボルトの製造方法であって、
前記軸部の外形状と外周サイズを有する棒鋼材の一方の端部に、熱間鍛造で略半球状の前記頭部を形成することを特徴とするロックボルトの製造方法。
【請求項4】
請求項1記載のロックボルトの施工方法であって、
前記ロックボルトの前記軸部に先端側から支圧プレートを外挿する第1工程と、
前記支圧プレートを前記頭部の前端面で地山に押し付けるようにして前記ロックボルトを前記地山に打設する第2工程を備えることを特徴とするロックボルトの施工方法。
【請求項5】
請求項1記載のロックボルトが打設される地山補強構造であって、
前記軸部に外挿された前記支圧プレートが、略半球状の前記頭部の前端面と、地山若しくは吹付コンクリートの被打設面との間に介在する状態で、前記ロックボルトが地山に打設され、
略半球状の前記頭部を直接若しくは間接的に覆うように防水シートが敷設されていることを特徴とする地山補強構造。
【請求項6】
請求項5の地山補強構造で打設されている前記ロックボルトの引抜試験方法であって、
打設された状態の前記ロックボルトの前記頭部の雌ねじ部にテンションロッドを螺着する第1工程と、
前記テンションロッドを介して前記頭部に引抜方向の力を加え、前記ロックボルトの引抜耐力を認識する第2工程を備えることを特徴とする引抜試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネル空間の支保に用いられるロックボルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なトンネルでは、
図10及び
図11に示すように、トンネルの掘削面101に沿って吹付コンクリート102が打設され、吹付コンクリート102から周囲の地山103にロックボルト104が放射状に打設される。各ロックボルト104は、定着材105で地山103に定着されると共に、外挿された支圧プレート106が吹付コンクリート102に密着するように、後端部の雄ねじ107にナット108が嵌められる。そして、放射状に打設されたロックボルト104によってトンネル周囲の地山103に構築されたアーチ構造109により、トンネル空間110が支保される。
【0003】
地山103に打設、定着されたロックボルト104は、地山103が押し出してこようとする力Fに対して、ロックボルト104に生ずる引張方向の軸力Tによって抗することにより、アーチ構造109が壊れないように支保する。このようなロックボルト104の機能を発現するには、ロックボルト104が地山103に所要の引抜耐力を有する状態で強固に定着されていることが重要となる。更に、ロックボルト104が破断しないことや、支圧プレート106が吹付コンクリート102に密着するようにロックボルト104にナット締めがされていることも必要となる。
【0004】
また、特許文献1では、ロックボルトの後端部に円形の平鋼板からなるプレート固定部材を一体的に接合し、且つロックボルトの軸部に支圧プレートを外挿するロックボルトが提案されている。このロックボルトは、地山の挿入孔に押し込むように施工され、プレート固定部材で支圧プレートを押さえ付けるようにして地盤に設置される。従って、ロックボルトの施工において支圧プレートをナット締めで取り付ける作業を省略することが可能である。更に、特許文献1のロックボルトは、支圧プレートからトンネル内側に突出するプレート固定部材の厚みが僅かであるため、支圧プレートを覆うように敷設される防水シートの破損を防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のような地山103に打設されたロックボルト104では、所要の引抜耐力を有する状態で打設されていることを確認するため、施工管理上の仕様に従って引抜試験が行われる。ナット締め方式のロックボルト104に対する引抜試験では、支圧プレート106を押圧するナット108を取り外し、ロックボルト104の後端部の雄ねじ107にカップリングを介してテンションバーを接続し、そのテンションバーをセンターホールラムに挿通して油圧ジャッキで載荷することにより、ロックボルトに引張力をかけ、所定の引抜強度まで抜けてこないかの計測を行う。所定の引抜試験まで抜けてこないことを確認した後には、カップリング、テンションバー、センターホールラム、油圧ジャッキで構成される試験装置をロックボルト104から取り外し、支圧プレート106を押圧するナット108をロックボルト104の雄ねじ107に再度締め付ける。
【0007】
このような引抜試験は、地山103に打設した全てのロックボルト104からサンプリングした一部のロックボルト104に対して行うのが通常であるが、サンプリングしたロックボルト104に対して行うにしても、ロックボルト104からナット108を取り外し、原状復帰のために再度締め付ける作業にはかなりの手間がかかる。更に、ロックボルト104の後端部の雄ねじ107をトンネル内側に突出する構成では、支圧プレート106を覆うようにトンネル内側に防水シートを敷設する場合、防水シートが破損する危険性が生ずるか、破損を防止する処理を別途に施す必要が生ずる。
【0008】
また、特許文献1のロックボルトは、後端部に支圧プレートを押さえつける平鋼板のプレート固定部材が一体的に接合されているため、引抜試験を行うこと自体が困難である。更に、特許文献1の第2実施形態のように、支圧プレートの角部に地山側に折り曲げた折曲部を形成すると、仮にロックボルトがトンネル内側に飛び出してきた場合に、支圧プレートを覆うように敷設された防水シートに折曲部が引っかかって防水シートが破損する危険性もある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、引抜試験を行う際のナットの取り外しと再度の締め付けの作業を無くすことができ、簡単に引抜試験を行うことができると共に、防水シートの破損を防止することができるロックボルト及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のロックボルトは、軸部の打設方向における後側に略半球状の頭部が熱間鍛造で前記軸部と一体的に形成され、前記頭部に前記軸部から連続した熱間鍛造による鍛流線が形成され、前記頭部の前端面が前記軸部に外挿される支圧プレートを押圧可能に設けられていると共に、引抜試験用のテンションロッドを螺着可能な雌ねじ部が、前記頭部に後端側から前記軸部と同軸となるように形成されていることを特徴とする。
これによれば、ロックボルトの引抜試験の際には略半球状の頭部の雌ねじ部にテンションロッドを螺着して行うことが可能となり、ナットの取り外しと再度の締め付けの作業を無くすことができ、簡単にロックボルトの引抜試験を行うことができる。また、ナット締めの必要なく、地山に押し込むだけで施工することが可能であるから、ロックボルトの打設作業に要する手間を低減することができる。また、ロックボルトの頭部が略半球状であるため、ロックボルトの頭部を直接若しくは間接的に覆うように敷設される防水シートの破損を防止することができる。
【0011】
本発明のロックボルト構造体は、本発明のロックボルトの前記軸部に支圧プレートが外挿され、前記支圧プレートの角部がアール面取りされていることを特徴とする。
これによれば、支圧プレートの角部がアール面取りして形成されることにより、ロックボルトの頭部と支圧プレートを直接若しくは間接的に覆うように敷設される防水シートの破損をより確実に防止することができる。
【0012】
本発明のロックボルトの製造方法は、本発明のロックボルトを製造する方法であって、前記軸部の外形状と外周サイズを有する棒鋼材の一方の端部に、熱間鍛造で略半球状の前記頭部を形成することを特徴とする。
これによれば、略半球状の頭部を軸部と同一材料から形成することができることに加え、略半球状の頭部に、軸部から連続した熱間鍛造による鍛流線が形成された、内部組織が均質の材料構造、粘りの増した靭性に富む材料構造とすることができる。従って、高強度、高耐力を全長に亘って発揮するロックボルトを得ることができる。また、熱間鍛造の製造により、迅速且つ安価に本発明のロックボルトを製造することができる。
【0013】
本発明のロックボルトの施工方法は、本発明のロックボルトを施工する方法であって、前記ロックボルトの前記軸部に先端側から支圧プレートを外挿する第1工程と、前記支圧プレートを前記頭部の前端面で地山に押し付けるようにして前記ロックボルトを前記地山に打設する第2工程を備えることを特徴とする。
これによれば、支圧プレートを地山或いは吹付コンクリートに密着させるまでナット締めをする必要が無く、ロックボルトを押し込むように移動するだけでロックボルトを打設することができることから、施工作業を容易化することができる。
【0014】
本発明の地山補強構造は、本発明のロックボルトが打設される地山補強構造であって、前記軸部に外挿された前記支圧プレートが、略半球状の前記頭部の前端面と、地山若しくは吹付コンクリートの被打設面との間に介在する状態で、前記ロックボルトが地山に打設され、略半球状の前記頭部を直接若しくは間接的に覆うように防水シートが敷設されていることを特徴とする。
これによれば、地山補強構造で打設されたロックボルトにおいて、支圧プレートに当接する頭部にテンションロッドを取り付けることにより、ナットの取り外しと再度の締め付けの作業を行わずに、簡単にロックボルトの引抜試験を行うことができる。また、ナット締めの必要なく、地山に押し込むだけで施工することが可能であるから、ロックボルトの打設作業に要する手間を低減することができる。また、ロックボルトの頭部が略半球状であるため、ロックボルトの頭部を直接若しくは間接的に覆うように敷設される防水シートの破損を防止することができる。
【0015】
本発明の引抜試験方法は、本発明の地山補強構造で打設されている前記ロックボルトの引抜試験方法であって、打設された状態の前記ロックボルトの前記頭部の雌ねじ部にテンションロッドを螺着する第1工程と、前記テンションロッドを介して前記頭部に引抜方向の力を加え、前記ロックボルトの引抜耐力を認識する第2工程を備えることを特徴とする。
これによれば、地山補強構造で打設されたロックボルトにおいて、支圧プレートに当接する頭部にテンションロッドを螺着して取り付けることにより、ナットの取り外しと再度の締め付けの作業を行わずに、簡単にロックボルトの引抜試験を行うことができる。また、引抜試験完了後には、テンションロッドをロックボルトの頭部から取り外すだけで簡単に原状復帰することができ、ナットの再度の締め付けの作業を不要にすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のロックボルトによれば、引抜試験を行う際のナットの取り外しと再度の締め付けの作業を無くすことができ、簡単に引抜試験を行うことができると共に、防水シートの破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明による実施形態のロックボルトに支圧プレートを外挿した状態の斜視図。
【
図2】(a)は実施形態のロックボルトの頭部周辺を示す正面図、(b)は実施形態のロックボルトの頭部周辺を示す一部断面説明図。
【
図3】(a)は実施形態のロックボルトに外挿される支圧プレートの平面図、(b)はその正面図。
【
図4】(a)~(e)は実施形態のロックボルトの製造工程を説明する工程説明図。
【
図5】(a)~(d)は実施形態のロックボルトの施工工程を説明する工程説明図。
【
図6】実施形態のロックボルトを打設した地山補強構造で構成されるトンネルの模式説明図。
【
図7】
図7のトンネルの例における実施形態のロックボルトの定着メカニズムを説明する説明図。
【
図8】(a)は地山補強構造における実施形態のロックボルトへの力のかかり方を説明する説明図、(b)は実施形態のロックボルトの頭部への引張荷重のかかり方を説明する説明図。
【
図9】実施形態のロックボルトを打設した地山補強構造におけるロックボルトに対する引抜試験を説明する一部断面説明図。
【
図10】一般的な構築途中のトンネルの模式説明図。
【
図11】一般的なロックボルトの定着メカニズムを説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔実施形態のロックボルト〕
本発明による実施形態のロックボルト1は、金属材或いは棒鋼材である異形棒鋼から構成され、
図1及び
図2に示すように、異形棒鋼の形状である軸部11の打設方向における先端には略円錐形の剣先部12が形成されている。軸部11の打設方向における後側には略半球状の頭部13が形成されており、頭部13は軸部11の外周から外側に略フランジ状に突出するように設けられている。
【0019】
頭部13は、その先端の前端面14が軸部11に外挿される後述の支圧プレート2を押圧可能に設けられており、頭部13の外径が支圧プレート2に形成された軸部11の挿通穴21よりも大径をなすように設けられている。本実施形態における頭部13の前端面14は平坦面になっている。また、頭部13には、後側から雌ねじ穴で構成される雌ねじ部15が形成されており、雌ねじ部15の軸心は軸部11の軸心と同軸になるように形成されている。
【0020】
更に、本実施形態のロックボルト1では、頭部13と軸部11とが一体的に形成されており、例えばJIS G3112に規定された高張力異形棒鋼を用い、軸部11の後側に熱間鍛造によって頭部13が一体的に形成されている。即ち、本実施形態のロックボルト1では、同一の高張力金属材で頭部13と軸部11とが一体的に形成されている。
【0021】
また、ロックボルト1の軸部11に外挿され、ロックボルト1と共にロックボルト構造体を構成する支圧プレート2は、
図1及び
図3の例では、略矩形板状であり、それぞれの角部22がアール面取りして形成されている。支圧プレート2の平面視略中央には、ロックボルト2の軸部11が内挿される挿通穴21が形成されており、挿通穴21の径は、軸部11の外径よりも大きく、且つ頭部13の外径よりも小さくなっている。
【0022】
本実施形態のロックボルト1において、軸部11の後側に熱間鍛造によって略半球状の頭部13が一体的に形成されたロックボルト1を製造する場合、素材として軸部11の外形状と外周サイズを有す棒状の金属材或いは棒鋼材が用いられ、例えば
図4(a)に示す異形棒鋼1mが用いられる。異形棒鋼1mは高張力の異形棒鋼とすると好適であり、JIS G3112に規定された高張力異形棒鋼とするとより好適である。
【0023】
この異形棒鋼1mを熱間鍛造で加工する際には、高熱に加熱した異形棒鋼1mを径方向に開いたり閉じたりすることができるチャック31、32の間を通してストッパー35に当たる位置まで挿入し、チャック31、32に対して挿入側と逆側に異形棒鋼1mの一方の端部を所定長L1だけ突出させた状態に配置し、チャック31、32で強固に挟み込む(
図4(a)参照)。この異形棒鋼1mの突出長L1は、熱間鍛造によって異形棒鋼1mから頭部13形状を成型するために毎加工ごとに同じ突出長となるように設計されている。
【0024】
こうして異形棒鋼1mのチャック31、32からの突出長L1を規定したところで、ストッパー35を異形棒鋼1mの軸線上から横に退避させ、その後、第1の型34を異形棒鋼1mを強固に挟持した状態のチャック31、32に当接させるように異形棒鋼1mの突出部に押し当てて熱間鍛造を行い、第1段階の頭部13m1を形成する。第1の型34の内部には異形棒鋼1mの端部を頭部13形状にする為の中間形状の型内空間33が閉塞空間として形成されており、所定長さL1分の異形棒鋼1mが型内空間33に押し込められるようにして中間形状の頭部13m1が形成される(
図4(b)参照)。頭部13m1の形成後には、第1の型34を撤退させる。
【0025】
次に、チャック31、32で異形棒鋼1mを強固に挟み込んだ状態のまま、異形棒鋼1mの軸線上に、内部に略半球状の頭部13に相当する形状の型内空間37が設けられた第2の型38を配置し、第2の型38がチャック31、32に当接する状態となるまで高熱に加熱した異形棒鋼1mの頭部13m1に押し込んで熱間鍛造を行い、異形棒鋼1mの軸部11mの後側に略半球状の頭部13と同一の外形とサイズを有する頭部13m2を一体的に形成する(
図4(c)、(d)参照)。
【0026】
頭部13m2の形成後には、第2の型38を撤退させると共にチャック31、32を開いて脱型し、頭部13m2が形成された異形棒鋼1mから必要に応じて不要なバリを取り除く。そして、タップ39を用いて、異形棒鋼1mの頭部13m2に後側からねじ切りを行い、有底の雌ねじ穴で構成される雌ねじ部15を形成する(
図4(d)、(e)参照)。そして、異形棒鋼1mの先端には略円錐形の剣先部12を別途形成し、本実施形態のロックボルト1を得る。尚、本実施形態のロックボルト1を熱間鍛造で形成する場合の熱間鍛造は、本発明の趣旨の範囲内で適宜であり、例えば鍛造型を用いない自由鍛造の熱間鍛造とすることも可能である。
【0027】
このように軸部11の後側に熱間鍛造によって略半球状の頭部13が一体的に形成されたロックボルト1の例として、JIS G3112に規定された高張力異形棒鋼SD345で呼び径25mmのD25の異形棒鋼1mを素材とするロックボルト1では、引張荷重が生じたときに頭部13の根元即ち軸部11mに近い側で破断することになるが、その破断強度は213.3kNとなる。一方、従来のナット締結方式によるSD345素材でD25の異形棒鋼ロックボルトはねじ部が引張強度、降伏点の制約、ボトルネックとなってしまうため、引張強度の規格値は120kNとなっている。この為、本発明によるロックボルト1によれば、呼び径22mmのD22の異形棒鋼素材を用いたとしても、従来のD25相当の規格値をクリアすることができ、より小径で軽量のロックボルトを用いることができると共に、ロックボルトを打設する際の穿孔の削孔径をより小さくすることができ、ロックボルトを打設する施工作業を容易化することができる。
【0028】
次に、本実施形態のロックボルト1の施工工程について説明する。ロックボルト1を施工する際には、
図5(a)、(b)に示すように、ロックボルト1の軸部11に打設方向の先端側から挿通穴21を有する支圧プレート2を外挿する。ロックボルト1の軸部11を支圧プレート2の挿通穴21に内挿する工程は適宜の仕方で行うことが可能であり、例えばロックボルト打設装置のガイドセル41の先端付近に設けられた保持機構で支圧プレート2をガイドセル41の先端で保持した状態にすると共に、後述するように、ガイドセル41に沿ってスライド移動する押し込み式の打設機42でロックボルト1の後端部を保持し、打設機42を前進させて、ロックボルト1の軸部11を保持機構で所定位置に保持された支圧プレート2の挿通穴21に内挿するようにすると好適である(
図5(a)~(c)参照)。尚、支圧プレート2はロックボルト1の頭部13に近づけるように移動せずとも良く、支圧プレート2は軸部11の先端付近に配置して外挿した状態とする。また、地山50、或いは地山50と吹付コンクリート51には予め穿孔52を形成し、穿孔52内にモルタル等の定着材53を予め注入しておく(
図7参照)。
【0029】
そして、
図5(c)の太線矢印に示すように、ガイドセル41に沿ってスライド移動する押し込み式の打設機42でロックボルト1の後端部を保持し、打設機42を地山50に向かって前進させ、定着材が注入されている穿孔52に剣先部12が形成された先端側からロックボルト1を押し込んでいく。ロックボルト1の押し込みは、頭部13の前端面14で支圧プレート2を押し付けるまで行い、支圧プレート3が頭部13の前端面14と地山50或いは吹付コンクリート51の被打設面(地山50の表面或いは吹付コンクリート51の表面)との間に介在するようにして、ロックボルト1を地山50に打設する(
図5(d)参照)。この施工工程で構築された地山補強構造では、軸部11に外挿された支圧プレート2が略半球状の頭部13の前端面14と地山50或いは吹付コンクリート51の被打設面との間に介在し、地山50が押し出してきたときに支圧プレート2が押し出し力を受けることが出来る状態で、ロックボルト1が地山10に打設される。
【0030】
上記施工工程で構築された地山補強構造を有するトンネルの例を
図6及び
図7に示す。本例では、トンネルの掘削面54に沿って吹付コンクリート51が打設され、吹付コンクリート51から周囲の地山50にロックボルト1が放射状に打設されている。各ロックボルト1は、定着材53で地山50に定着されると共に、外挿された支圧プレート2が吹付コンクリート51に密着するように、略半球状の頭部13の前端面14が支圧プレート2に押し付けられている。そして、放射状に打設されたロックボルト1によってトンネル周囲の地山50に構築されたアーチ構造55により、トンネル空間56が支保されている。
【0031】
更に、本例では、ロックボルト1のトンネル内側に突出する略半球状の頭部13と支圧プレート2を覆うように不織布等のシート状の緩衝材57が敷設され、緩衝材72の内側に積層するように防水シート58が敷設されており、略半球状の頭部13を間接的に覆うように防水シート58が敷設されている。緩衝材57と防水シート58の敷設は、例えば緩衝材57をアンカーや釘等の留め具571で吹付コンクリート51に固定して吹付コンクリート51の内表面に沿って敷設し、この緩衝材57の固定により、点在する固定部で緩衝材57に固定されて緩衝材57に重ねて設けられている防水シート58を吹付コンクリート51の内表面に沿って敷設する。図示の59は覆工コンクリートである。
【0032】
この防水シート58が敷設された地山補強構造では、地山50に設置された支圧プレート2は例えば吹付コンクリート51の表面から9~12mmの厚みで突出し、更に、支圧プレート2の内表面から略半球状の頭部13が例えば約30mmの高さで突出し、これらを覆うように緩衝材57、防水シート58が敷設されるが、ロックボルト1のトンネル周方向の打設ピッチは1mm以上離れているため、
図6の模式例よりも実際の緩衝材57と防水シート58は凹凸の少ない敷設状態となる。尚、緩衝材57を敷設せずに、略半球状の頭部13や支圧プレート2を直接覆うように防水シート58を敷設する構成とすることも可能である。
【0033】
このように地山50に打設、定着されたロックボルト1と、支圧プレート2を備えるトンネルの地山補強構造では、地山50が押し出してこようとする力Fを支圧プレート2で支え、ロックボルト1に生ずる引張方向の軸力Tによって抗することにより、アーチ構造55が壊れないように支保する(
図7、
図8(a)参照)。この際、ロックボルト1の略半球状の頭部13には、
図8(b)に示す仮想的に取り出した円錐台16vの外周側面161vに対して垂直方向に引張荷重がかかることから、略半球状の頭部13の素材の引張強度に外周側面161vの面積Sを乗じた破断荷重を要求値を超えるように設定すると良い。
【0034】
次に、本実施形態のロックボルト1に対する引抜試験について説明する。地山補強構造で打設された状態のロックボルト1に対して引抜試験を行う際には、例えば
図9に示すように、地山50の表面に沿って吹付コンクリート51が打設され、吹付コンクリート51と地山50に削孔された穿孔52にロックボルト1が打設され、穿孔52内の定着材53でロックボルト1が定着されている地盤補強構造において、打設されたロックボルト1の略半球状の頭部13の雌ねじ部15にテンションロッド62を螺着する。図示例では、ロックボルト1の頭部13の前端面14で吹付コンクリート51に当接している支圧プレート2に載置するようにして略キャップ状の引抜試験用反力台座61のベースプレート611が設けられ、引抜試験用反力台座61の内部で、引抜試験用反力台座61の貫通穴から挿入されたテンションロッド62の先端部の雄ねじ部621とロックボルト1の頭部13の雌ねじ部15が螺着されている。
【0035】
地山50と逆側に引抜試験用反力台座61から突出するテンションロッド62の部分には、センターホールジャッキ63、引抜試験用測定板64を外挿するように設け、テンションロッド62に引抜試験用押さえナット65を螺合して、引抜試験用測定板64の地山50と逆側への移動を規制する。
【0036】
そして、センターホールジャッキ63の伸長方向の加圧により、引抜試験用測定板64、引抜試験用押さえナット65を介してテンションロッド62に引抜力を載荷する。これにより、引抜試験用反力台座61から反力を得て、テンションロッド62を介して頭部13からロックボルト1に引抜方向の力が加えられる。このようにロックボルト1に引抜力を載荷して、載荷荷重からロックボルト1に加えられた軸力を算出すると共に、引抜試験用測定板64の変位を測定することにより、ロックボルト1の伸びを認識し、ロックボルト1の引抜耐力、伸びを認識する。ロックボルト1の引抜耐力、伸びの認識は、相互の対応関係データを記憶部に格納するパーソナルコンピュータ、スマートフォン或いは専用端末等のコンピュータ装置で算出させ、出力部で出力するようにすると好適である。
【0037】
本実施形態によれば、ロックボルト1の引抜試験の際には略半球状の頭部13の雌ねじ部15にテンションロッド62を螺着して行うことが可能となり、引抜試験時のナットの取り外しと再度の締め付けの作業を無くすことができ、簡単にロックボルト1の引抜試験を行うことができる。また、ナット締めの必要なく、地山50に押し込むだけでロックボルト1を施工することが可能であるから、ロックボルト1の打設作業に要する手間を低減することができる。また、ロックボルト1の頭部13が略半球状であるため、ロックボルト1の頭部13を直接若しくは間接的に覆うように敷設される防水シート58の破損を防止することができる。更に、支圧プレート2の角部22をアール面取りして形成することにより、ロックボルト1の頭部13と支圧プレート2を直接若しくは間接的に覆うように敷設される防水シート58の破損をより確実に防止することができる。
【0038】
また、ロックボルト1の軸部11の外形状と外周サイズを有する棒鋼材の一方の端部に、熱間鍛造で略半球状の頭部13を形成してロックボルト1を製造する場合には、略半球状の頭部13を軸部11と同一材料から形成することができることに加え、略半球状の頭部13に、軸部11から連続した熱間鍛造による鍛流線が形成された、内部組織が均質の材料構造、粘りの増した靭性に富む材料構造とすることができる。従って、高強度、高耐力を全長に亘って発揮するロックボルト1を得ることができる。また、熱間鍛造の製造により、迅速且つ安価にロックボルト1を製造することができる。
【0039】
また、本実施形態のロックボルト1の施工方法では、支圧プレート2を地山50或いは吹付コンクリート51に密着させるまでナット締めをする必要が無く、ロックボルト1を押し込むように移動するだけでロックボルト1を打設することができることから、施工作業を容易化することができる。
【0040】
また、ロックボルト1が打設された地盤補強構造において行うロックボルト1の引抜試験では、支圧プレート2に当接する頭部13にテンションロッド62を螺着して取り付けるだけで、ナットの取り外しと再度の締め付けの作業を行わずに、簡単にロックボルトの引抜試験を行うことができる。また、引抜試験完了後には、テンションロッド62をロックボルト1の頭部13から取り外すだけで簡単に原状復帰することができ、ナットの再度の締め付けの作業を不要にすることができる。
【0041】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や変形例も含まれる。
【0042】
例えば本発明のロックボルトは、上記実施形態のように頭部13を軸部11に熱間鍛造で一体的に形成した構成とすると好適であるが、例えば雌ねじ部15が形成される略半球状の頭部13に、軸部11の高張力材よりも高強度の材料を用い、軸部11の後側に別材料の頭部13を摩擦圧接して形成したロックボルト1としても良好である。また、これら以外の製造方法で形成したものも本発明の趣旨の範囲内で本発明のロックボルトに含まれ、例えば軸部11と同一形状で同一サイズの棒鋼材の一方の端面に略半球状の頭部13が溶接された構成のロックボルト、又は、略半球状の頭部13を軸部11に冷間鍛造など熱間鍛造以外で一体的に形成された構成のロックボルトとすることも可能である。
【0043】
また、上記実施形態のロックボルト1の施工において、略半球状の頭部13の前端面14で支圧プレート2を押圧するロックボルト1の打設は、打設機42等でロックボルト1を自動的に押し込んで打設するようにすると良好であるが、ロックボルト1を人力で押し込んで打設、施工することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、例えばトンネルで打設するロックボルト、斜面に打設するロックボルト等に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…ロックボルト 11…軸部 12…剣先部 13…頭部 14…前端面 15…雌ねじ部 16v…円錐台 161v…外周側面 1m…異形棒鋼 11m…軸部 13m1、13m2…頭部 2…支圧プレート 21…挿通穴 22…角部 31、32…チャック、33…型内空間 34…第1の型、35…ストッパー、37…型内空間 38…第2の型 39…タップ 41…ガイドセル 42…打設機 50…地山 51…吹付コンクリート 52…穿孔 53…定着材 54…掘削面 55…アーチ構造 56…トンネル空間 57…緩衝材 571…留め具 58…防水シート 59…覆工コンクリート 61…引抜試験用反力台座 611…ベースプレート 62…テンションロッド 621…雄ねじ部 63…センターホールジャッキ 64…引抜試験用測定板 65…押さえナット T…軸力 F…地山が押し出してこようとする力 S…円錐台の外周側面の面積 101…トンネルの掘削面 102…吹付コンクリート 103…地山 104…ロックボルト 105…定着材 106…支圧プレート 107…雄ねじ 108…ナット 109…アーチ構造 110…トンネル空間