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特許7601333焼却灰の付着状況予測方法、焼却灰の付着対処方法及び焼却システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】焼却灰の付着状況予測方法、焼却灰の付着対処方法及び焼却システム
(51)【国際特許分類】
   F23G 5/50 20060101AFI20241210BHJP
   C02F 11/06 20060101ALI20241210BHJP
   F23J 3/00 20060101ALI20241210BHJP
   F23J 15/06 20060101ALI20241210BHJP
   F23J 1/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
F23G5/50 N
C02F11/06 A ZAB
C02F11/06 B
F23J3/00 Z
F23J15/06
F23J1/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021181163
(22)【出願日】2021-11-05
(65)【公開番号】P2023069369
(43)【公開日】2023-05-18
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【弁理士】
【氏名又は名称】林 恒徳
(72)【発明者】
【氏名】堀口 一騎
(72)【発明者】
【氏名】平松 正敬
(72)【発明者】
【氏名】山内 渉
(72)【発明者】
【氏名】野島 栄司
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-012425(JP,A)
【文献】特開2015-213885(JP,A)
【文献】特開2020-056549(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0276486(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23G 5/50
C02F 11/06
F23J 3/00
F23J 15/06
F23J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却炉における被焼却物の焼却によって発生した焼却灰に含まれる各成分の包含量から、前記焼却炉及び前記焼却炉の後段に設けられた設備のうちの少なくともいずれかにおける前記焼却灰の付着状況を予測する焼却灰の付着状況予測方法であって、
前記焼却灰に含まれるリンの第1包含量、アルミニウムの第2包含量、カルシウムの第3包含量、マグネシウムの第4包含量及び鉄の第5包含量を測定し、
前記第3包含量と前記第4包含量と前記第5包含量との和と前記第1包含量との積に対する前記第2包含量の割合を、前記付着状況の予測指標として算出する、焼却灰の付着状況予測方法。
【請求項2】
前記算出する工程では、式(1)に従うことによって前記予測指標Xを算出する、請求項1に記載の焼却灰の付着状況予測方法。
=[Al(mol)÷{CaO(mol)+MgO(mol)+Fe
(mol)}]÷(n×P)(mol) ・・・式(1)
nは任意の整数である。
【請求項3】
さらに、前記予測指標が閾値未満であるか否かを判定し、
前記閾値は、1.8を超える値であって2.7未満の値である、請求項1に記載の焼却灰の付着状況予測方法。
【請求項4】
前記算出する工程では、前記焼却灰に含まれる二酸化ケイ素についての値を用いることなく前記予測指標を算出する、請求項1に記載の焼却灰の付着状況予測方法。
【請求項5】
焼却炉における被焼却物の焼却によって発生した焼却灰に含まれる各成分の包含量から、前記焼却炉及び前記焼却炉の後段に設けられた設備のうちの少なくともいずれかにおける前記焼却灰の付着に対処する焼却灰の付着対処方法であって、
前記焼却灰に含まれるカルシウムの包含量と前記焼却灰に含まれるマグネシウムの包含量と前記焼却灰に含まれる鉄の包含量との和と前記焼却灰に含まれるリンの包含量との積に対する前記焼却灰に含まれるアルミニウムの包含量の割合が閾値未満の場合、前記焼却から排出される排ガスの温度を低下させる制御、前記焼却炉及び前記焼却炉の後段に設けられた設備のうちの少なくともいずれかに付着した前記焼却灰を除去する制御、及び、前記被焼却物に対して所定の薬剤を添加することによって前記焼却灰の融点を上げる制御のうちの少なくともいずれかを行う、焼却灰の付着対処方法。
【請求項6】
被焼却物を焼却する焼却炉と、
前記焼却炉における前記被焼却物の焼却によって発生した焼却灰に含まれる各成分の包含量から、前記焼却炉及び前記焼却炉の後段に設けられた設備のうちの少なくともいずれかにおける前記焼却灰の付着状況を予測する制御装置と、を有し、
前記制御装置は、
前記焼却灰に含まれるリンの第1包含量、アルミニウムの第2包含量、カルシウムの第3包含量、マグネシウムの第4包含量及び鉄の第5包含量を特定し、
前記第3包含量と前記第4包含量と前記第5包含量との和と前記第1包含量との積に対する前記第2包含量の割合を、前記付着状況の予測指標として算出する、焼却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却灰の付着状況予測方法、焼却灰の付着対処方法及び焼却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥(以下、汚泥または被焼却物とも呼ぶ)の焼却炉等を含む焼却システムでは、焼却炉から排出される高温の排ガスを熱交換器に通すことによって排熱の一部を回収してから、集塵機においてダストを分離除去し、さらに、排煙処理塔に通して水洗浄を行うことによって排ガス中のSOやHCl等の成分を除去する排ガス処理が行われている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-227441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような焼却炉や熱交換器では、汚泥の焼却に伴って発生する焼却灰(排ガスに含まれる焼却灰)が焼却炉や熱交換器や配管内に付着すると、正常運転の維持が困難になる場合がある。なお、配管は、ダクトとも呼ばれることがあり、排ガス用のダクトは排ガスダクトとも呼ばれる。そのため、上記のような焼却システムでは、例えば、焼却炉や熱交換器や配管内における焼却灰の付着状況を予測し、さらに、その予測結果に応じた対策を行うことによって正常運転の維持が行われる。
【0005】
ここで、焼却炉において焼却される汚泥の性状は、焼却システムが設置される下水処理場ごとに異なる場合がある。そのため、例えば、管理対象となる複数の焼却システムごとに異なる予測指標を用いる必要性が生じ、各焼却システムの管理等が煩雑になる場合がある。したがって、汚泥の性状が異なる場合であっても共通の予測指標を算出することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような予測指標を算出するため、本発明における焼却灰の付着状況予測方法は、焼却炉における被焼却物の焼却によって発生した焼却灰に含まれる各成分の包含量から、前記焼却炉及び前記焼却炉の後段に設けられた設備のうちの少なくともいずれかにおける前記焼却灰の付着状況を予測する焼却灰の付着状況予測方法であって、前記焼却灰に含まれるリンの第1包含量、アルミニウムの第2包含量、カルシウムの第3包含量、マグネシウムの第4包含量及び鉄の第5包含量を測定し、前記第3包含量と前記第4包含量と前記第5包含量との和と前記第1包含量との積に対する前記第2包含量の割合を、前記付着状況の予測指標として算出する。
【発明の効果】
【0007】
本発明における焼却灰の付着状況予測方法、焼却灰の付着対処方法及び焼却システムによれば、汚泥の性状が異なる場合であっても共通の予測指標を算出することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施の形態における焼却システム100の構成例を説明する図である。
図2図2は、第1の実施の形態における工程を説明するフローチャート図である。
図3図3は、第1の実施の形態における焼却システム100の実験結果を示す図である。
図4図4は、第1の実施の形態における焼却システム100の変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0010】
[第1の実施の形態における焼却システム100]
初めに、第1の実施の形態における焼却システム100について説明を行う。図1は、第1の実施の形態における焼却システム100の構成例を説明する図である。また、図2は、第1の実施の形態における工程を説明するフローチャート図である。なお、以下に示すライン(配管)やポンプの配置位置や数は、例示であり、これに限られるものではない。
【0011】
焼却システム100は、図1に示すように、例えば、焼却炉1と、熱交換器2と、集塵機3と、排煙処理塔4と、煙突5と、制御装置10とを有する。
【0012】
焼却炉1は、例えば、汚泥を焼却する流動焼却炉である。具体的に、焼却炉1は、例えば、いわゆる流動層1aを有する。また、前記した汚泥は、脱水ケーキとも呼ばれる。以下、焼却炉1を流動焼却炉として説明を行うが、例えば、ストーカ炉や、多層式燃焼炉、他にも様々な形式の焼却炉でもよい。
【0013】
熱交換器2は、例えば、ラインL1(排ガスダクト)を介して焼却炉1から排出された排ガスと、ラインL11を介して送風ブロア(図示せず)から供給された空気との間において熱交換を行う。具体的に、熱交換器2は、例えば、焼却炉1から排出された排ガスを用いることによって、ラインL11を介して供給された空気を昇温する。そして、熱交換器2は、例えば、ラインL12を介して昇温後の空気を焼却炉1に供給する。
【0014】
なお、焼却システム100は、コンプレッサ及びタービンを有する過給機(図示せず)を有するものであってよい。この場合、熱交換器2は、例えば、焼却炉1から排出された排ガスを用いることによって、コンプレッサが圧縮した圧縮空気を昇温し、昇温後の圧縮空気をタービンに供給するものであってもよい。そして、タービンは、例えば、熱交換器2から供給された昇温後の圧縮空気を焼却炉1に供給するものであってよい。
【0015】
集塵機3は、例えば、熱交換器2の後段に配置され、ラインL2(排ガスダクト)を介して熱交換器2から供給された排ガスの不純物を除去する。具体的に、集塵機3は、例えば、耐熱性の優れたセラミック集塵機である。
【0016】
排煙処理塔4は、例えば、集塵機3の後段に配置され、ラインL3(排ガスダクト)を介して集塵機3から供給された排ガスを塔の下部等から導入する。そして、排煙処理塔4は、例えば、上部の散水ノズル(図示せず)から散水される水に接触させることによって、排ガス中のSOやHCl等の成分を水に含ませて除去する。また、排煙処理塔4の上部には、例えば、排煙処理塔4において洗浄された排ガスを大気に放出する煙突5が配置される。
【0017】
誘引機F1は、例えば、焼却炉1から排出された排ガスを排煙処理塔4まで誘引するファンまたはブロアであり、排煙処理塔4において洗浄された排ガスを煙突5に送出する。
【0018】
本実施形態では、設計者や管理者等の手動制御、又は、計測器及び情報処理装置による自動制御を問わず、焼却炉1における被焼却物の焼却によって発生した焼却灰に含まれるカルシウムの包含量とこの焼却灰に含まれるマグネシウムの包含量とこの焼却灰に含まれる鉄の包含量との和とこの焼却灰に含まれるリンの包含量との積に対するこの焼却灰に含まれるアルミニウムの包含量の割合が閾値未満の場合、焼却炉から排出される排ガスの温度を低下させる制御、焼却炉及び焼却炉の後段に設けられた設備のうちの少なくともいずれかに付着した焼却灰を除去する制御、及び、被焼却物に対して所定の薬剤を添加することによって焼却灰の融点を上げる制御のうちの少なくともいずれかを行う。ここで、被焼却物に対して所定の薬剤を添加するとは、被焼却物が汚泥の場合、各種処理(例えば、水処理や、濃縮処理や、脱水処理)の過程で、所定の薬剤を添加することを意味する。濃縮処理は、例えば、初沈汚泥や、余剰汚泥や、初沈汚泥と余剰汚泥との混合汚泥等の各種汚泥を濃縮し濃縮汚泥を生成する処理である。また、脱水処理は、汚泥(例えば、濃縮汚泥)を脱水し、脱水汚泥を生成する処理である。なお、脱水処理後の脱水汚泥に対して所定の薬剤を添加してもよい。
【0019】
発明者は、研究の結果、上記割合が閾値未満の場合に、焼却灰の溶流、冷却により焼却灰が他の物に付着する付着性が高くなることを見出した。そして、発明者は、地理的に異なる下水処理場に設置された焼却システム、換言すれば、設置場所が異なる複数の焼却システムについて上記割合を算出し、更に、最適な閾値を定める実験をすることで、この割合を、複数の焼却システムにおいても共通して適用可能な予測指標として利用できることを見出した。なお、閾値、実験については後記する。
【0020】
制御装置10は、例えば、焼却炉1における被焼却物の焼却によって発生した焼却灰に含まれる各成分の包含量から、焼却炉1と焼却炉1の後段に設けられた設備(例えば、熱交換器2やラインL1)とのうちの少なくともいずれかにおける焼却灰の付着状況を予測する処理を行う。制御装置10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やメモリを有するコンピューター装置である。
【0021】
制御装置10は、図2に示すように、例えば、焼却炉1において発生した焼却灰に含まれる各成分の包含量を計測する計測装置Mを参照して、予め定められた量の焼却灰に含まれるリンの包含量(以下、第1包含量とも呼ぶ)、アルミニウムの包含量(以下、第2包含量とも呼ぶ)、カルシウムの包含量(以下、第3包含量とも呼ぶ)、マグネシウムの包含量(以下、第4包含量とも呼ぶ)及び鉄の包含量(以下、第5包含量とも呼ぶ)を測定(特定)する(S1)。
【0022】
そして、制御装置10は、例えば、カルシウムの包含量とマグネシウムの包含量と鉄の包含量との和とリンの包含量との積に対するアルミニウムの包含量の割合を、焼却灰の付着状況の予測指標として算出する(S2)。
【0023】
さらに具体的に、制御装置10は、例えば、以下の式(1)に従うことによって、焼却灰の付着状況の予測指標(予測指標X)を算出する。なお、以下の式(1)において、nは任意の整数である。
【0024】
=[Al(mol)÷{CaO(mol)+MgO(mol)+Fe(mol)}]÷(n×P)(mol) ・・・式(1)
【0025】
その後、制御装置10は、例えば、算出した予測指標が示す値が予め定められた閾値(以下、単に閾値とも呼ぶ)未満であると判定した場合、焼却炉1と焼却炉1の後段に設けられた設備とのうちの少なくともいずれかにおいて焼却灰が付着し、各種不具合が発生する可能性が高いと判定し、焼却炉1等における焼却灰の付着状況を改善するための制御(以下、改善制御とも呼ぶ)を実施する(S3、S4)。なお、改善制御の具体例については後述する。
【0026】
すなわち、焼却システム100では、熱交換器2やラインL1内における焼却灰の付着量が増加した場合、熱交換器2やラインL1において閉塞が発生する可能性がある。また、焼却システム100では、焼却灰が流動砂(流動層1aを構成する流動砂)に付着して成長した場合、流動層1aにおける流動性が悪化する場合がある。そのため、焼却システム100では、熱交換器2やラインL1に対する焼却灰の付着状況や流動層1aを構成する流動砂における焼却灰の付着状況によって、正常運転の維持が困難になる場合がある。
【0027】
そこで、制御装置10は、例えば、焼却灰の付着状況の予測指標を参照し、焼却システム100における焼却灰の付着状況についての予測を行う。そして、制御装置10は、焼却灰の付着状況が予め定められた条件(例えば、焼却システム100の正常運転を阻害する状況にあると判定可能な条件)に達したと判断した場合、改善制御を行うことによって焼却システム100の正常運転の維持を図る。
【0028】
ここで、焼却炉1における焼却対象となる汚泥の性状は、焼却システムの設置される下水処理場ごとに異なる場合がある。具体的に、例えば、焼却灰の付着の原因となる無機物(例えば、リン等)の量は、下水処理場ごとに異なる場合がある。そのため、例えば、管理対象の焼却システムが複数存在する場合、管理対象に含まれる第1の焼却システムにおける焼却灰の付着状況の予測に最適な予測指標は、管理対象に含まれる第2の焼却システムにおける焼却灰の付着状況の予測に最適な予測指標とならない場合がある。
【0029】
したがって、制御装置10は、例えば、複数の焼却システムにおいて共通して適用可能な予測指標(すなわち、各焼却システムにおける汚泥の性状に応じた予測を行うことが可能な予測指標)を用いることが好ましい。
【0030】
この点、焼却灰の融点は、焼却灰に含まれる塩基性成分(例えば、カルシウム、マグネシウム及び鉄)の包含量及びリンの包含量が多いほど低くなり、その結果、焼却灰が溶流、冷却し他の物に付着する付着性が高くなると判断できる(換言すれば、クリンカにより閉塞しやすくなると判断できる)。一方、焼却灰の融点は、焼却灰に含まれる酸性成分(例えば、アルミニウム)の包含量が多いほど高くなり、その結果、焼却灰が溶流、冷却し他の物に付着する付着性が低くなると判断できる(換言すれば、クリンカにより閉塞しにくくなると判断できる)。
【0031】
以上より、焼却灰に含まれる塩基性成分の包含量及びリンの包含量が少なく、かつ、焼却灰に含まれる酸性成分の包含量が多い焼却灰は、付着性が低いと判断できる。
【0032】
そこで、発明者は、焼却灰に含まれる塩基性成分(カルシウム、マグネシウム及び鉄)の包含量及びリンの包含量の割合が高いほど低い値を取り、酸性成分(アルミニウム)の包含量の割合が高いほど高い値を取る指標を、焼却灰の付着状況の予測指標とした。
【0033】
そして、発明者は、予測指標が示す値が閾値未満である場合、例えば、焼却炉1と焼却炉1の後段に設けられた設備とのうちの少なくともいずれかにおいて焼却灰の付着が発生し易く、焼却システム100においてクリンカによる閉塞を回避する対策を実施する必要性が高くなることを見出した。一方、発明者は、予測指標が示す値が閾値未満でない場合、例えば、焼却炉1と焼却炉1の後段に設けられた設備とのそれぞれにおいて焼却灰の付着が発生しにくく、焼却システム100においてクリンカによる閉塞を回避する対策を実施する必要性が低くなることを見出した。
【0034】
このように、本実施の形態では、焼却灰の性状の違い(焼却灰に含まれる各成分の包含量の違い)を考慮することが可能な予測指標を算出する。具体的に、本実施形態では、例えば、カルシウムの包含量とマグネシウムの包含量と鉄の包含量との和とリンの包含量との積に対するアルミニウムの包含量の割合を、焼却灰の付着状況の予測指標として算出する。
【0035】
これにより、本実施の形態では、複数の焼却システムにおいて共通して適用可能な予測指標であって、かつ、各焼却システムにおける焼却灰の付着状況の予測を精度良く行うことが可能な予測指標を算出することが可能になる。そのため、制御装置10は、算出した予測指標を用いることで、各焼却システムの焼却炉1等における焼却灰の付着状況を改善するための各種制御を、各焼却システムの適切なタイミングにおいて実施することが可能になる。
【0036】
また、本実施の形態では、算出した予測指標を用いることで、焼却システムごとに異なる複数の予測指標を用いる必要なくなり、各焼却システムの管理の煩雑さ(各焼却システムの管理に要する管理者の作業負担)を抑制することが可能になる。具体的には、本実施形態では、予め焼却灰の性状を分析及び把握することにより、焼却システム設計及び建設過程で必要な対策を講じることができ、運用開始後の管理の煩雑さ(焼却システムの管理に要する管理者の作業負担)を抑制することが可能になる。
【0037】
さらに、本実施の形態では、算出した予測指標を用いることで、各焼却システムにおける汚泥の性状に季節変動等がある場合であっても、予測指標の変更や追加等を行う必要がなくなる。
【0038】
なお、予測指標が示す値が予め定められた閾値未満であると判定した場合、制御装置10は、例えば、焼却炉1と焼却炉1の後段に設けられた設備とのうちの少なくともいずれかにおいて焼却灰の付着が発生している可能性が高いことを示す情報(以下、予測結果情報とも呼ぶ)を出力するものであってもよい。具体的に、制御装置10は、例えば、焼却システム100の管理者(以下、単に管理者とも呼ぶ)が閲覧可能なPC(Personal Computer)等の出力端末(図示せず)に対して予測結果情報を出力するものであってもよい。
【0039】
これにより、管理者は、例えば、出力端末を閲覧することで、焼却炉1等における焼却灰の付着状況を把握することが可能になる。
【0040】
また、上記の例では、焼却灰の付着状況を予測する処理が制御装置10において行われる場合について説明を行ったが、焼却灰の付着状況についての予測(すなわち、図2で説明したS1からS4までの各工程)は、例えば、マニュアル等を参照した管理者が手動によって行うものであってもよい。
【0041】
[第1の実施の形態についての実験結果]
図3は、第1の実施の形態についての実験結果を説明する図である。図3に示す横軸は、実験対象である各焼却システム(焼却システム100から焼却システム900までのそれぞれ)に対応する。また、図3に示す縦軸は、実験対象である各焼却システムについて算出した予測指標Xの実験結果に対応する。ここで、各焼却システムは、地理的に異なる下水処理場に設置されている。
【0042】
図3に示すグラフは、焼却システム100における予測指標Xの実験結果が約0.6であり、焼却システム200における予測指標Xの実験結果が約1.6であり、焼却システム300における予測指標Xの実験結果が約1.8であることを示している。また、図3に示すグラフは、焼却システム400における予測指標Xの実験結果が約2.7であり、焼却システム500における予測指標Xの実験結果が約4.0であり、焼却システム600における予測指標Xの実験結果が約4.6であることを示している。さらに、図3に示すグラフは、焼却システム700における予測指標Xの実験結果が約4.65であり、焼却システム800における予測指標Xの実験結果が約8.5であり、焼却システム900における予測指標Xの実験結果が約5.8であることを示している。
【0043】
ここで、発明者は、図3に示す各予測指標Xの算出時において、縦の1点鎖線の左側に位置する、焼却システム100、焼却システム200及び焼却システム300のそれぞれでは、熱交換器及び排ガスダクトを含む各箇所のうちのいずれかにおいて実際に閉塞が発生していることを確認した(図3の「閉塞有」)。一方、発明者は、前記算出時において、2点鎖線の右側に位置する、焼却システム400、焼却システム500、焼却システム600、焼却システム700、焼却システム800及び焼却システム900のそれぞれでは、熱交換器及び排ガスダクトを含む各箇所において閉塞が発生していないことを確認した(図3の「閉塞無」)。
【0044】
すなわち、図3に示す実験結果は、例えば、予測指標Xが約1.8以下である焼却システムにおいて閉塞が発生していることを示している。また、図3に示す実験結果は、例えば、予測指標Xが1.8を超える焼却システム、予測指標Xが2.7未満である焼却システムにおいて閉塞が発生する可能性が不明であることを示している。
【0045】
そこで、発明者は、各焼却システムにおいて閉塞が発生する可能性があるか否かについての判定をする閾値として、1.8を超え2.7未満である数値(以下、閾値範囲と記す)を定めた。そして、発明者は、焼却システムについて算出した予測指標Xがこの閾値範囲の最大値未満である場合、この焼却システムにおいて閉塞が発生する可能性が高くなると考え、改善制御を実行するようにした。この閾値の数値として、例えば、1.8と2.7との平均値の小数点第1位を四捨五入した値未満例えば2.0と定めてもよい。
【0046】
[第1の実施の形態の変形例]
次に、第1の実施の形態における焼却システム100の変形例について説明を行う。図4は、第1の実施の形態における焼却システム100の変形例を説明する図である。以下、図1で説明した焼却システム100と異なる点について説明を行う。
【0047】
焼却システム100の建築前(例えば、焼却システム100の設計段階など)や、建築中や、建築後等に、第1の実施の形態で説明したように、焼却システム100の焼却灰の付着状況の予測指標Xが閾値(例えば2.0)未満の場合には、焼却システム100に改善制御の設備を設置すると設計者等が決定する。改善設備としては、図4に示すように、例えば、焼却炉1から排出された排ガスの温度を抑制する温度抑制装置20と、焼却システム100の各箇所に付着した焼却灰に除去する焼却灰除去装置30と、焼却炉1に投入される前の汚泥に対して焼却灰の融点を高くすることが可能な薬剤を添加する薬剤添加装置40などの各種装置の中の少なくともいずれか1つの装置である。また、設置後は、季節ごとなど適宜のタイミングで、焼却システム100の焼却灰の付着状況の予測指標Xが算出され、焼却システム100は、算出結果に応じた、各種装置を制御する。
【0048】
図4では、焼却システム100は、例えば、温度抑制装置20と、焼却灰除去装置30と、薬剤添加装置40とを有する。すなわち、温度抑制装置20、焼却灰除去装置30及び薬剤添加装置40のそれぞれは、例えば、改善制御の実施に用いられる装置である。
【0049】
なお、以下、焼却システム100が温度抑制装置20と焼却灰除去装置30と薬剤添加装置40とのそれぞれを有する場合について説明を行うが、焼却システム100は、温度抑制装置20、焼却灰除去装置30及び薬剤添加装置40のうちの少なくとも1つを有するものであってよい。
【0050】
温度抑制装置20は、例えば、焼却炉1内に設けられたウォーターガンであり、焼却炉1内(例えば、焼却炉1内のフリーボード部)に対して水を噴出することによって、焼却炉1から排出される排ガスの温度を低下させる。温度抑制装置20は、一般的に、排ガス温度を下げることで後段機器に対する熱応力を抑制する目的に設けられており、本実施の形態では、温度抑制装置20を焼却灰の付着を抑制する手段として利用している。
【0051】
具体的に、制御装置10は、例えば、予測指標Xが2.0未満であった場合、焼却炉1の出口付近の温度が所定の温度まで低下するように、温度抑制装置20を自動的に動作させるものであってよい。また、管理者は、例えば、制御装置10によって算出された予測指標Xが2.0未満であった場合、焼却炉1の出口付近の温度が所定の温度まで低下するように、温度抑制装置20を手動によって動作させるものであってよい。
【0052】
これにより、本実施の形態における焼却システム100では、熱交換器2やラインL1が高温域になることの防止が可能になり、熱交換器2やラインL1における焼却灰の付着を抑制することが可能になる。
【0053】
焼却灰除去装置30は、例えば、熱交換器2やラインL1に設けられたエアブラスタであり、熱交換器2内やラインL1内に対して空気を噴霧することによって、熱交換器2やラインL1に付着した焼却灰を除去する。また、焼却灰除去装置30は、例えば、熱交換器2やラインL1に設けられたダスト掻き落とし装置であり、熱交換器2やラインL1に付着した焼却灰を物理的に除去する。
【0054】
具体的に、制御装置10は、例えば、予測指標Xが2.0未満であった場合、熱交換器2やラインL1に付着した焼却灰が除去されるように、焼却灰除去装置30を自動的に動作させるものであってよい。また、管理者は、例えば、制御装置10によって算出された予測指標Xが2.0未満であった場合、熱交換器2やラインL1に付着した焼却灰が除去されるように、焼却灰除去装置30を手動によって動作させるものであってよい。
【0055】
これにより、本実施の形態における焼却システム100では、熱交換器2内やラインL1内において付着した焼却灰を局所的または全体的に除去することが可能になる。
【0056】
薬剤添加装置40は、例えば、焼却灰に含まれるリンの割合を低下させて焼却灰の融点を上げることを目的として、ポリ硫酸第二鉄、ポリ塩化アルミニウム(PAC:Polyelectrolyte Aluminum Chloride)または消石灰等の金属含有薬剤(以下、単に金属含有薬剤とも呼ぶ)を汚泥に添加する。薬剤添加装置40が所定の薬剤(例えば、金属含有薬剤)を添加する汚泥は、前記したように、例えば、水処理の過程で生成される汚泥や、濃縮汚泥や、脱水汚泥である。なお、図4では、薬剤添加装置40が金属含有薬剤を添加する前の汚泥を添加前汚泥と記し、添加後の汚泥を添加後汚泥と記す。添加後汚泥が被焼却物である。
【0057】
具体的に、制御装置10は、例えば、予測指標Xが2.0未満であった場合、被焼却物に対して金属含有薬剤が添加されるように、薬剤添加装置40を自動的に動作させるものであってよい。また、管理者は、例えば、制御装置10によって算出された予測指標Xが2.0未満であった場合、被焼却物に対して金属含有薬剤が添加されるように、薬剤添加装置40を手動によって動作させるものであってよい。
【0058】
これにより、本実施の形態における焼却システム100では、焼却システム100の全体における焼却灰の付着を抑制することが可能になる。具体的に、焼却システム100では、例えば、流動層1aにおける流動砂の流動性悪化を抑制することが可能になる。また、焼却システム100では、熱交換器2やラインL1における閉塞の発生を抑制することが可能になる。
【符号の説明】
【0059】
1:焼却炉 1a:流動層
2:熱交換器 3:集塵機
4:排煙処理塔 5:煙突
10:制御装置 20:温度抑制装置
30:焼却灰除去装置 40:薬剤添加装置
100:焼却システム 200:焼却システム
300:焼却システム 400:焼却システム
500:焼却システム 600:焼却システム
700:焼却システム 800:焼却システム
900:焼却システム F1:誘引機
L1:ライン L2:ライン
L3:ライン L11:ライン
L12:ライン M:測定装置
図1
図2
図3
図4