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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】塗膜管理装置及び塗膜管理システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 22/00 20060101AFI20241210BHJP
   G01N 22/02 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G01N22/00 U
G01N22/00 N
G01N22/00 S
G01N22/02 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024026082
(22)【出願日】2024-02-24
【審査請求日】2024-09-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520445521
【氏名又は名称】株式会社ダックビル
(73)【特許権者】
【識別番号】500489015
【氏名又は名称】建装工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230115118
【弁護士】
【氏名又は名称】西村 義隆
(72)【発明者】
【氏名】野口 高志
(72)【発明者】
【氏名】谷口 角
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-147406(JP,A)
【文献】特開2008-39422(JP,A)
【文献】特開2004-074151(JP,A)
【文献】特開2004-294288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N22/00-G01N22/04
G01N21/00-G01N21/01
G01N21/17-G01N21/61
G01B15/00-G01B15/08
G01V 1/00-G01V99/00
G01S 7/00-G01S 7/42
G01S13/00-G01S13/95
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物に塗布した塗料の塗膜を管理するための装置であって、
前記工作物に固定され、前記塗膜によって覆われる無線通信装置と、
前記無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、推定した塗膜の素材を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、前記計測部が測定した前記電波強度を用いて前記塗膜の素材を推定する素材推定部を有する塗膜管理装置。
【請求項2】
工作物に塗布した塗料の塗膜を管理するための装置であって、
前記工作物に固定され、前記塗膜によって覆われる無線通信装置と、
前記無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、推定した塗膜の素材を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、前記計測部が測定した前記電波強度を用いて前記塗膜の素材を推定する素材推定部とを有し、
前記素材推定部は、前記電波強度と膜厚を用いて算出した周波数ごとの透過率と、各素材の周波数ごとの透過率の差の大きさの合計が最も小さくなる素材を選択し、当該素材を塗料の素材として推定する塗膜管理装置。
【請求項3】
工作物に塗布した塗料の塗膜を管理するための装置であって、
前記工作物に固定され、前記塗膜によって覆われる無線通信装置と、
前記無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、推定した塗膜の素材を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、前記計測部が測定した前記電波強度を用いて前記塗膜の素材推定する素材推定部とを有し、
前記素材推定部は、前記電波強度と膜厚を用いて算出した周波数ごとの透過率を要素としたベクトルで表現したTと、素材ごとに、周波数ごとの透過率を要素としたベクトルで表現したTMとの間で、前記Tと前記TMとの間のコサイン類似度が最も大きくなるTMを示す素材を塗布された塗料の素材として推定する塗膜管理装置。
【請求項4】
工作物に塗布した塗料の塗膜を管理するための装置であって、
前記工作物に固定され、前記塗膜によって覆われる無線通信装置と、
前記無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、推定した塗膜の素材を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、前記計測部が測定した前記電波強度を用いて前記塗膜の素材推定する素材推定部とを有し、
前記素材推定部は、電波強度と膜厚を用いて算出した周波数ごとの透過率を要素としたデータを学習データとして用い、前記電波強度と前記膜厚を用いて算出した周波数ごとの透過率を要素としたデータを機械学習モデルに入力したときに、前記機械学習モデルから出力された最も正解に近いと推定された素材を塗布された塗料の素材として推定する塗膜管理装置。
【請求項5】
工作物に塗布した塗料の塗膜を管理するためのシステムであって、
前記工作物に固定され、前記塗膜によって覆われる複数の無線通信装置と、
前記無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、推定した塗膜の素材を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、前記計測部が測定した前記電波強度を用いて前記塗膜の素材を推定する素材推定部を有する塗膜管理システム。
【請求項6】
工作物に塗布した塗料の塗膜を管理するためのシステムであって、
前記工作物に固定され、前記塗膜によって覆われる複数の無線通信装置と、
前記無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、推定した塗膜の素材と当該無線通信装置とは別の無線通信装置上の塗膜の素材とを含む情報を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、前記計測部が測定した前記電波強度を用いて前記塗膜の素材を推定する素材推定部を有する塗膜管理システム。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗膜管理装置及び塗膜管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物などの建築物、橋梁などの工作物は(以下、建築物と工作物をまとめて「工作物」という)、常に雨風や紫外線などにさらされるため、審美性の観点だけでなく、工作物の保護の観点からも塗装し、塗膜を形成することがなされる。しかし、塗膜は雨風や紫外線の影響を一番受けやすいところに形成されるため、経時的に劣化し、劣化を放置すると、工作物そのものの劣化を早めてしまう。したがって、適切な時期に塗膜の劣化を検出して塗装のやり直しを行うことが望ましい。
【0003】
このような観点から、適切な時期に適切な修繕が実現できるよう、工作物に塗られた塗膜に対してシステムなどを用いて自動的に管理できることが望ましい。例えば、工作物と塗膜との間に、小型の無線通信装置を備えておき、かかる無線通信装置に塗膜の情報を記憶しておくことで、塗膜の劣化や分析に役立てることができる。また、塗膜の劣化や分析の前提として、塗膜がいかなる素材で構成されているか把握することが重要であり、これもシステムなどにより自動的に検出できると望ましい。
【0004】
素材の識別という観点でいうと、例えば、特許文献1では、赤外線を用いてプラスチックの素材を識別する識別装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-074151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、赤外線を用いた素材の識別に関する技術は存在しているところではあるが、工作物と塗膜の間に設置された無線通信装置を用いて素材の識別ができれば、情報を記憶するための機構と素材を判別するための機構の両者を実現することができ、有用である。
【0007】
また、無線通信装置を用いて素材の識別を行うためには、通信可能な電波を介して素材の識別に役立てることが有用である。
【0008】
本開示は、上記の課題に鑑みて提案するものであり、工作物に塗布された塗膜の素材を複数の周波数を用いた電波により測定して識別し、かつ情報管理を行うことが可能な塗膜管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本開示に係る塗膜管理装置は、工作物に固定され、塗膜によって覆われる無線通信装置と、無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、無線通信装置は、受信機から発せられる電波を受信するアンテナと、電波から給電する制御回路と、推定した塗膜の素材を記憶するメモリとを有し、受信機は、無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、無線通信装置から受信する電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、計測部が測定した電波強度を用いて塗膜の素材を推定する素材推定部を有する。
【0010】
上記目的を達成するため、本開示に係る塗膜管理システムは、工作物に固定され、塗膜によって覆われる複数の無線通信装置と、無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、無線通信装置は、受信機から発せられる電波を受信するアンテナと、電波から給電する制御回路と、推定した塗膜の素材を記憶するメモリとを有し、受信機は、無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、無線通信装置から受信する電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、計測部が測定した電波強度を用いて塗膜の素材を推定する素材推定部を有する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、工作物に塗布された塗膜の下に塗膜を管理するための無線装置を設置しておくことで、容易に塗膜の劣化を管理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】塗膜管理装置10の概要を示す図である。
図2】無線通信装置100のハードウェア構成を示す図である。
図3】無線通信装置100の基本的な機能を示すブロック図である。
図4】無線通信装置100の記憶部120の塗膜DB121が記憶する内容の一例を示す図である。
図5】受信機200のハードウェア構成を示す図である。
図6】受信機200の基本的な機能を示すブロック図である。
図7】受信機200の記憶部220の素材DB221が記憶する内容の一例を示す図である。
図8】膜厚測定の際の受信機200の設置方法の一例を示す図である。
図9】受信機200が素材推定を行う際の制御処理の一例を示すフローチャートである。
図10】塗膜管理システム1の具体的構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではない。また、実施形態に示される構成要素のすべてが、本開示の必須の構成要素であるとは限らない。
【0014】
(塗膜管理装置10の全体的構成)
図1は、塗膜管理装置10の概要を示す図である。塗膜管理装置10は、無線通信装置100と、受信機200からなる。また、無線通信装置100は、工作物300と塗料400との間に設置される。具体的には、無線通信装置100は、両面テープや接着剤などによって工作物300に固定され、その上から塗料400が塗られて塗膜が構成される。塗料400が塗られることで、無線通信装置100を雨風や紫外線等から保護することが可能である。
【0015】
無線通信装置100は、RFID(Radio Frequency Identification)、RFタグ、ICタグ、無線タグなどと呼ばれる回路により構成可能である。無線通信装置100は、工作物300に固定され、その上から塗料が塗布されることで塗料に覆われて設置される。無線通信装置100は、受信機200から発せられる電波を受信して、給電を行い、受信機200との間で無線通信を行う。無線通信装置100は、RFIDなどの小型の回路により構成することで、工作物300と塗料400の間に設置することが可能となり、これにより無線通信装置100は雨風や紫外線から守られる。さらに、審美性にも影響を与えることなく無線通信装置100を設定することが可能となる。
【0016】
受信機200は、無線通信装置100に対して電波を発信し、無線通信を行う。受信機200は、無線通信装置100の上に塗布された塗料を透過した電波を測定できるよう塗料の上に又は塗料と離して設置する。受信機200は無線通信装置100から受信する電波強度の測定をし、無線通信装置100のメモリ103に記憶されたデータの読み出しと、無線通信装置100のメモリ103に対してデータを記憶させる。なお、受信機200と無線通信装置100の距離は常に一定に保たれるよう設置することが望ましい。これは後述のように、受信機200と無線通信装置100の距離を一定に保つことにより、受信機200は無線通信装置100から発せられる電波の電波強度を正確に測定することができるからである。
【0017】
工作物300は、建物などの建築物、橋梁、鉄塔などをはじめ、塗料を塗布する対象が土地に定着しているものである。
【0018】
塗料400は、工作物300に塗布され、乾燥すると工作物300に密着する素材からなり、工作物300の美化を目的とする素材だけでなく、防水材など工作物300の保護を目的とする素材も配合される。
【0019】
(無線通信装置100の説明)
図2は、無線通信装置100のハードウェア構成を示す図である。無線通信装置100は、アンテナ101、制御回路102、メモリ103とを備える。また、これ以外に、CPU(Central Processing Unit)や揮発性メモリを備えていてもよい。
【0020】
アンテナ101は、受信機200と無線通信を行うために、電波を送信又は受信する。なお、アンテナ101からは、2種類以上の周波数の電波を送信することが可能なよう構成する。
【0021】
制御回路102は、無線通信装置100の制御を行うための回路である。例えば、アンテナ101で送受信する電波を変調、復調するための回路、アンテナ101で受信した電波から給電を行うための回路、メモリ103からデータを読み出すための回路、メモリ103にデータを書き込むための回路が含まれる。
【0022】
制御回路102は、アンテナ101と接続し、アンテナ101で受信した電波を復調し、また、データを変調してアンテナ101を介して送信する。また、制御回路102は、メモリ103と接続し、メモリ103にデータを書き込み、またメモリ103からデータを読み出す。
【0023】
メモリ103は、データを記憶する。メモリ103が記憶するデータには、測定した電波強度などが含まれる。メモリ103は、不揮発性メモリにより実現され、電源が断たれても記憶したデータを保持する。
【0024】
詳細は後述するが、無線通信装置100にメモリ103が設置されることで、工作物300上に工作物300に関するデータを記憶することが可能となる。
【0025】
図3は、無線通信装置100の基本的な機能を説明するためのブロック図である。無線通信装置100は、通信部110、記憶部120、制御部130とを備える。
【0026】
通信部110は、受信機200と通信するための処理を行う。例えば通信部110は、受信機200と通信し、制御部130を介して記憶部120から読み出した計測日時、膜厚などのデータを受信機200に送信する。また、例えば通信部110は、受信機200と通信し、受信機200から素材、計測日時、周波数ごとの電波強度などのデータを受信して、記憶部120に記憶する。
【0027】
記憶部120は、無線通信装置100が保持するデータを記憶する。例えば記憶部120は、計測日時、周波数ごとの測定した電波強度、膜厚、塗膜の素材などのデータを記憶する。また、測定した場所に関する位置情報や識別子(ID:Identification)を記憶してもよい。
【0028】
無線通信装置100が記憶部120を備えることにより、工作物300と分離されたシステムないし媒体ではなく、工作物300と共にデータを記憶しておくことが可能となる。工作物300は、一般的には取壊してその役目を終えるまで数十年の単位で存続するものであるから、分離したシステムや装置上に記憶した場合には、データを消失するリスクがある。本開示のように工作物300と共に設置された無線通信装置100内にデータを記憶することで、管理者や所有者等が変更された場合においても、データの消失なく管理を行うことが可能となる。
【0029】
制御部130は、無線通信装置100の制御回路102により、無線通信装置100の動作を制御する。具体的には、制御部130は、アンテナ101が受信した電波の電磁誘導等を用いて、無線通信装置100に電源供給を行うための回路を備える。また、制御部130は、通信部110が受信機200から受信したデータを復調し、通信部110が受信機200に送信するためのデータを変調する。また、制御部130は、記憶部120から、計測日時、膜厚などの情報を読み出し、又は、記憶部120に対して計測日時、周波数ごとの電波強度、膜厚、塗膜の素材などの情報を書き込んで記憶させる。
【0030】
アンテナ101が受信した電波の電磁誘導等を用いて電源供給を行うと、蓄電装置や電源供給のための配線を不要とし小型化できる点に利点があり、無線通信装置100を塗料400内に設置することが容易となる。
【0031】
(無線通信装置100が記憶するデータの具体例)
記憶部120は、工作物完成時(塗膜の塗装時)の時点(日時等の時間的情報)、素材、完成時(塗膜の塗装時)の膜厚、受信機200が無線通信装置100から受信する電波の周波数ごとの電波強度、測定した膜厚,測定した日時などを記憶してもよい。そのほか、測定した場所に関する位置情報や識別子(ID)を記憶してもよいし、これらの要素の一部を記憶してもよい。ただし、これらのデータは、必ず記憶しなければならないものではない。
【0032】
また、記憶部120は、工作物300内に複数の無線通信装置100が設置される場合、無線通信装置100が設置された場所の情報だけではなく、工作物300に設置された他の無線通信装置100が設置された場所の情報を記憶してもよい。このとき、位置情報又は識別子などの情報とセットにして記憶することで、どの無線通信装置100に関する情報か識別する。このように、複数の無線通信装置100に情報を記憶することで、万が一情報が失われた際に、他の無線通信装置100から情報を取得することが可能となる。
【0033】
図4は、記憶部120の塗膜DB121が記憶する具体的な内容を示したものである。工作物完成時の2000年10月1日において、膜厚が2mm、素材はA、受信機200が無線通信装置100から受信した電波の電波強度が900MHzと2.45GHzの両方において250mWであることを示している。
【0034】
記憶部120は、工作物完成時(塗膜の塗装時)の日時、素材、膜厚を記憶しておくことで、所有者や管理者の変更、工作物関連資料の紛失などが生じた場合にも、データを参照することが可能となる。さらに、本開示では、工作物完成時(塗膜完成時)の複数の周波数において観測した電波強度と膜厚を記憶しておくことで、素材について記憶していなくても、自動的に素材を推定し、素材を追記することが可能である。これにより、塗膜の劣化の程度など分析を行うことを可能にする。
【0035】
(受信機200の説明)
図5は、受信機200のハードウェア構成を示す図である。受信機200は、汎用のコンピュータにより構成可能である。
【0036】
図5に示すように、受信機200は、プロセッサ201、メモリ202、ストレージ203、通信IF204(なお、IFはInterFaceの略語として記載した)、入出力IF205を備える。
【0037】
プロセッサ201は、プログラムに記述された命令セットを実行するためのハードウェアであり、演算装置、レジスタ、周辺回路などにより構成される。メモリ202は、プログラム、及び、プログラム等で処理されるデータ等を一時的に記憶するためのものであり、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性のメモリにより実現される。ストレージ203は、プログラムなどのデータを保存するための記憶装置であり、例えばフラッシュメモリ、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard disk Drive)により実現される。通信IF204は、受信機200が無線通信装置100と通信するため、信号を送受信するためのインタフェースである。例えば、通信IF204は、無線通信装置100との間でデータを読み出すための信号やデータを書き込むための信号を送受信するインタフェースを含む。入出力IF205は、ユーザからの入力を受け付けるためのキーボード、マウス、テンキーなどの入力装置、及びユーザに対し情報を提示するためのディスプイなど出力装置のインタフェースとして機能する。
【0038】
図6は、受信機200の基本的な機能を説明するためのブロック図である。受信機200は、通信部210、記憶部220、制御部230とを備える。
【0039】
通信部210は、無線通信装置100と通信するための処理を行う。例えば、受信機200の通信部210は、無線通信装置100との間で無線通信を行い、無線通信装置100に記憶された計測日時、周波数ごとの電波強度、膜厚、素材などのデータを無線通信装置100の通信部110を介して取得し、及び/又は通信部110を介して送信する。
【0040】
記憶部220は、塗料の素材の周波数ごとの透過率など塗料の特徴に関する情報を記憶する素材DB221を含む。また、記憶部220は、受信機200が使用するデータ及びプログラムを記憶する。
【0041】
図7は、素材DB221の具体例を示す。素材DB221は、素材ごとに周波数ごとの透過率を記憶する。周波数は2以上を用い、素材推定に用いる周波数の透過率を記憶しておく。例えば、素材1は周波数f1の透過率が0.92、周波数f2の透過率が0.90であることを示す。
【0042】
制御部230は、受信機200のプロセッサ201が記憶部220に記憶されるプログラムを読み込み、プログラムに含まれる命令を実行することにより実現される。制御部230は受信機200の動作を制御する。具体的には、制御部230は、送受信部231、計測部232、素材推定部233としての機能を発揮する。
【0043】
送受信部231は、通信部210を介して無線通信装置100と通信を行い、無線通信装置100に記憶された計測日時、周波数ごとの電波強度、膜厚、素材などのデータを受信して取得する。また、送受信部231は、取得したデータを、入出力IF205を介して表示させる機能を有してもよい。
【0044】
送受信部231は、通信部210を介して無線通信装置100と通信を行い、入出力IF205を介して入力されたデータや、他の制御部230の機能により算出し、及び/又は識別したデータを無線通信装置100に対して送信し、無線通信装置100の記憶部120に記憶させる。
【0045】
計測部232は、通信部210を介して無線通信装置100のアンテナ101から発せられる電波の電波強度を測定する。通信部210は、2種類以上の周波数において電波強度の測定が可能であり、計測部232は、無線通信装置100のアンテナ101から発せられる電波の強度を周波数ごとに測定する。このとき、測定した電波強度は、測定時における時間的情報など計測日時に関する情報、周波数情報と共に通信部210を介して、無線通信装置100の記憶部120に記憶してもよい。
【0046】
計測部232は、通信部210を介して無線通信装置100の記憶部120に測定時の時間的情報と電波強度を併せて記憶することにより、これらのデータを解析し、工作物完成からの経過時間と電波強度の推移を分析することが可能となる。加えて、計測部232は、周波数ごとの電波強度を計測することにより、塗膜に関する分析が可能となる。具体的には、素材の情報が記憶されていなかった場合に、周波数ごとの電波強度と膜厚の情報を用いて、塗膜の素材を推定する。
【0047】
素材推定部233は、計測部232が測定した周波数ごとの電波強度と塗膜の膜厚を用いて、無線通信装置100の上に設置された塗料400の塗膜の素材を推定する。
【0048】
素材推定部233は、例えば次のような処理を行ってもよい。無線通信装置100から発せられる周波数fkの電波強度をPk0、膜厚をd、受信機200の計測部232が測定した周波数fkの電波強度をPkとし、ある素材Mの周波数fkの透過率をTMkとする。そうすると、周波数fkの測定した電波強度Pkは以下の数1のようなモデルで示すことができる。
【数1】
【0049】
[数1]をTMkについて示すように変換すると、[数2]のようになる。
【数2】
【0050】
素材推定部233は、計測部232において観測したPk及び、無線通信装置100から発せられる電波強度Pk0、膜厚dを用いると、周波数ごとの透過率T=(T1,T2,…,Tn)を求めることができる。したがって、素材推定部233は、素材DB221に登録されている素材MのTMとどれが一番近いかを比較して、素材Mを決定することができる。
【0051】
(素材推定方法1)
素材推定部233は、例えば、周波数ごとの透過率を要素とするTと、素材Mの周波数ごとの透過率を要素とするTMの要素のそれぞれの差の合計を算出し、差が一番小さいものを素材として選択してもよい。
【0052】
すなわち、[数3]のような式によって素材MのDM(算出した周波数ごとの透過率を示すTと各素材の周波数ごとの透過率を示すTMの周波数ごとの透過率の差の大きさの合計)を求め、最も小さいDMとなる素材Mを無線通信装置100の上に塗られた塗膜の素材として推定してもよい。
【数3】
【0053】
素材推定部233は、上記のような計算式において素材の推定を行うことで、複雑な機構を要することなく、素材の周波数ごとの透過率に関する情報と測定した電波強度の情報に基づいて素材の推定が可能になる。
【0054】
(素材推定方法2)
素材推定部233は、例えば、TとTMをそれぞれベクトルとして捉え、コサイン類似度を両者の類似度として捉えて、最も類似する素材を推定してもよい。ベクトルAとBのコサイン類似度をcos(A,B)としたとき、cosM(T,TM)として、Tと素材TMのコサイン類似度を求める。コサイン類似度は1以下の数値をとるから、cosM(T,TM)が最も大きな値となるTMの素材Mを無線通信装置100の上に塗られた塗料と推定してもよい。
【0055】
素材推定部233は、素材の周波数ごとの透過率に関する情報と測定した電波強度の情報に基づいて素材の推定が可能になる。特に、測定する周波数の数が2よりも多くなるほど正確な推定が期待できる。
【0056】
(素材推定方法3)
素材推定部233は、例えば、機械学習を用いて、素材を推定してもよい。機械学習は、例えば、ニューラルネットワークを用いてもよい。このとき、学習用のデータとして、さまざまな素材において、計測したデータから算出した複数の周波数の要素をもつTを集める。そして、素材ごとに学習モデルを生成し、正しい素材のラベルは1、正しくない素材のラベルは0として、素材がJ個あるときに、J個の学習モデルを用意する。それぞれの学習モデルを、L1,L2,…LJとする。
【0057】
素材推定部233は、観測したデータをもとに、複数の周波数の要素をもつTを得たときに、TをそれぞれL1,L2,…LJのモデルに入力し、その値が最も大きいモデルに対応する素材を無線通信装置100の上に塗られた塗料と推定してもよい。これは、各学習モデルにおいて、1に最も近いものが正解に最も近いと推定されるからである。
【0058】
素材推定部233は、機械学習を用いて素材を推定することにより、特に学習データを多く取得し、測定する周波数の数も2よりも多くすることでより正確な素材推定の実現が期待できる。
【0059】
(素材推定の具体例)
以下、素材推定の具体例を示す。素材推定部233は、例えば、観測した膜厚、送出される電波強度、観測される電波強度を用いて、[数2]に基づいて透過率を算出する。算出された透過率が周波数f1において0.93、周波数f2において0.89であったとする。推定方法1では、素材DB221において、[数3]などの式に基づいて、周波数ごとの差の合計が最も小さいものを素材として推定する。図7のように素材DB221が定義されていたとすると、素材1の差異は0.02、素材2の差異は0.12、素材3の差異は0.03、素材Nの差異は0.37となるので、素材1が塗膜の材質として推定されることとなる。
【0060】
次に、推定方法2では、周波数の透過率を要素としたベクトルに見立ててコサイン類似度を用いて素材を推定する。そうすると、素材1とのコサイン類似度は0.99994、素材2とのコサイン類似度は0.999759、素材3とのコサイン類似度は0.999868、素材Nとのコサイン類似度は0.998407となるので、最もコサイン類似度の大きな素材1が塗膜の素材として推定されることとなる。
【0061】
推定方法3の場合には、実際にそれぞれの素材で観測された透過率を用いて、素材ごとに学習モデルを用意する。正しい素材の場合には正解のラベル(1)を付与し、誤った素材の場合には不正解のラベル(0)を付与して、素材ごとの学習モデルを構築する。実際に観測した透過率をそれぞれ1からNまでの学習モデルに入力し、最も正解に近い(1に近い)出力を得た学習モデルの素材を塗膜の材質として推定する。
【0062】
(電波強度測定のための受信機200の設置方法)
受信機200は、無線通信装置100から発せられる電波強度を用いて塗膜の素材を識別するため、受信機200の位置が毎回変わってしまうと正しい塗膜管理が実現できない。したがって、受信機200の設置位置は、どの測定においても同じ位置であることが望ましい。
【0063】
図8は、塗膜の素材推定の際の受信機200の設置方法の一例を示したものである。図8のように、塗膜の素材推定のためのセンサ部分をプローブ240として設置し、プローブ240を塗料400に接触させて電波強度を測定するとよい。なお、プローブ240を設置せず、受信機200の電波の送受信部を塗料400に接触させて電波強度を測定してもよい。
【0064】
また、無線通信装置100は一定の面を有するものの、受信機200の電波の送受信部(プローブ240を設置する場合にはプローブ240)と無線通信装置100のアンテナ101との距離が測定ごとに異なると正しく電波強度を測定することができない。そこで、例えば、受信機200の電波の送受信部(プローブ240を設定する場合にはプローブ240)に車輪をつけ、塗料400と接触させながら電波強度を測定できるように構成し、無線通信装置100のアンテナ101付近において受信機200の電波の送受信部(プローブ240を設定する場合にはプローブ240)をまんべんなく動かし、最も電波強度が強い値を測定値として膜厚測定してもよい。
【0065】
さらに、例えば、受信機200の電波の送受信部(プローブ240を設定する場合にはプローブ240)を動かすためのレールを無線通信装置100を覆う塗料の上に設置してもよい。受信機200は、塗料400と接触させながら、無線通信装置100から電波を受信し、電波強度を測定できるよう構成し、最も電波強度が強い値を測定値としてもよい。レールを設置しておくことで、同じ軌道上で測定が可能となることから、塗膜の素材推定の正確性を高めることができる。
【0066】
受信機200の設置方法は上記に限られるものではなく、例えば受信機200の設置位置を決めておき、常にその位置から電波強度を測定してもよいし、上記以外の方法により塗料400と接触させながら電波強度を測定してもよい。
【0067】
(処理の流れ)
以下、図9を参照しながら、受信機200が塗膜の素材推定のために実行する制御処理の一例を説明する。
【0068】
受信機200の制御部230は、通信部210を介して無線通信装置100から膜厚の情報を取得する(ステップS101)。
【0069】
受信機200の制御部230は、通信部210を介して無線通信装置100から発せられる電波の周波数ごとの電波強度を測定する(ステップS102)。
【0070】
受信機200の制御部230は、測定した複数の周波数帯域の電波強度と、膜厚、素材ごとの透過率などの情報を用いて、素材を推定する。(ステップS103)。
【0071】
(効果の説明)
以上、塗膜管理装置10の構成について説明したが、無線通信装置100を用いることで、工作物300にデータを記憶することが可能となる。これにより、当該工作物300の管理者や所有者が変更され、適切に資料・データの引継ぎがなされなかったとしても、工作物300上に設置された無線通信装置100にデータが記憶されているため、建造当時の膜厚や塗料400の素材に関する情報を把握することが可能となる。さらに、工作物上に存在する無線通信装置100に情報を記憶することで、塗膜の劣化などの分析に役立てることも可能となる。
【0072】
また、無線通信装置100からデータを取得するためには、電波を用いた通信が必要となるが、この電波を塗膜管理にも用いることで、超音波や電流を用いる方法など膜厚測定のために別の機構を用いる必要がなく、簡単な構成で塗料400の素材を推定することが可能となる。
【0073】
本来、塗膜の素材は、塗装完成時にデータとして記憶させておけばよいが、それを忘れてしまったときに、本実施形態のような形で自動的に塗料を推定し、素材を記憶しておくことで、その後の塗膜の膜厚推定や、劣化具合の分析などに役立てることが可能となる。
【0074】
(塗膜管理システム)
塗膜管理装置10は、複数の無線通信装置100並びに単一又は複数の受信機200を有し、塗膜管理システム1として構成してもよい。
【0075】
図10に塗膜管理システム1の構成図を示す。例えば、塗膜管理システム1は、複数の無線通信装置100-1から100-Nと受信機200から構成される。なお、受信機200は1台でも複数でもよい。
【0076】
受信機200は、無線通信装置100-1から100-Nと通信が可能であり、無線通信装置100-1から100-Nと通信することで、塗膜の素材を測定し、その素材データをそれぞれ無線通信装置100-1から100-Nに記憶する。これにより、無線通信装置100におけるそれぞれの箇所の素材データを記憶することが可能となる。
【0077】
また、無線通信装置100-1から100-Nは、該当箇所の素材に関するデータのみでなく、工作物300における他の無線通信装置100に関する素材データをともに記憶してもよい。
【0078】
無線通信装置100-1から100-Nは、他の無線通信装置100に関する素材データも記憶することにより、例えばある無線通信装置100-Kのデータが失われたとしても、他の無線通信装置100-Lからデータを復元することが可能となる。特に屋外に設置される工作物300においては、場所によって紫外線、雨、風などの影響により劣化しやすく、データが消失する可能性があるため、このように冗長化された構成によりデータを保護することが可能となる。
【0079】
以上で実施形態の説明を終了するが、上記実施形態は一例に過ぎない。そのため、塗膜管理システム1、無線通信装置100、受信機200の具体的な構成、処理内容等は上記実施形態で説明したものに限定されるものではない。
【0080】
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、本開示には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲が含まれる。また、上記実施形態及び変形例で説明した装置の構成は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…塗膜管理システム、10…塗膜管理装置、100・100-1~100-N…無線通信装置、101…アンテナ、102…制御回路、103…メモリ、110…通信部、120…記憶部、121…塗膜DB、130…制御部、200…受信機、201…プロセッサ、202…メモリ、203…ストレージ、204…通信IF、205…入出力IF、210…通信部、220…記憶部、221…素材DB、230…制御部、231…送受信部、232…計測部、233…素材推定部、240…プローブ、300…工作物、400…塗料、NW…ネットワーク

【要約】
【課題】塗膜管理装置により、工作物に塗布された塗膜の素材を推定することを可能とする。塗膜の管理を行うためには、塗膜の素材を把握することが必要であるが、塗装時に入力し忘れた際にも自動的に塗膜の素材を推定して記憶することが可能となる。
【解決手段】塗膜管理装置は、工作物に固定され、塗膜によって覆われる無線通信装置と、無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、無線通信装置は、受信機から発せられる電波を受信するアンテナと、電波から給電する制御回路と、推定した塗膜の素材を記憶するメモリとを有し、受信機は、無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、無線通信装置から受信する電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、計測部が測定した電波強度を用いて塗膜の素材を推定する素材推定部を有する。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10