(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】塗膜管理装置及び塗膜管理システム
(51)【国際特許分類】
G01N 22/00 20060101AFI20241210BHJP
G01N 17/04 20060101ALI20241210BHJP
G01N 22/02 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G01N22/00 U
G01N22/00 N
G01N22/00 S
G01N17/04
G01N22/02 Z
(21)【出願番号】P 2024026083
(22)【出願日】2024-02-24
【審査請求日】2024-09-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520445521
【氏名又は名称】株式会社ダックビル
(73)【特許権者】
【識別番号】500489015
【氏名又は名称】建装工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230115118
【氏名又は名称】西村 義隆
(72)【発明者】
【氏名】野口 高志
(72)【発明者】
【氏名】谷口 角
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-147406(JP,A)
【文献】特開2008-39422(JP,A)
【文献】特開2004-074151(JP,A)
【文献】特開2004-294288(JP,A)
【文献】特開2002-014067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N22/00-G01N22/04
G01N21/00-G01N21/01
G01N21/17-G01N21/61
G01B15/00-G01B15/08
G01V 1/00-G01V99/00
G01S 7/00-G01S 7/42
G01S13/00-G01S13/95
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物に塗布した塗料の塗膜を管理するための装置であって、
前記工作物に固定され、前記塗膜によって覆われる無線通信装置と、
前記無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、測定した周波数ごとの電波強度を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、前記計測部が測定した前記電波強度を用いて前記塗膜の劣化を推定する劣化推定部を有する塗膜管理装置。
【請求項2】
工作物に塗布した塗料の塗膜を管理するための装置であって、
前記工作物に固定され、前記塗膜によって覆われる無線通信装置と、
前記無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、測定した周波数ごとの電波強度を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、前記計測部が測定した前記電波強度を用いて前記塗膜の劣化を劣化指数として数値で推定する劣化推定部とを有し、
前記受信機の前記劣化推定部が推定する劣化指数は、前記計測部において計測した複数の時点の前記電波強度を用いて、前記電波強度における周波数特性の変化に基づいて算出する塗膜管理装置。
【請求項3】
工作物に塗布した塗料の塗膜を管理するための装置であって、
前記工作物に固定され、前記塗膜によって覆われる無線通信装置と、
前記無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、測定した周波数ごとの電波強度を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、前記計測部が測定した前記電波強度を用いて前記塗膜の劣化を劣化指数として数値で推定する劣化推定部とを有し、
前記受信機の前記劣化推定部が推定する劣化指数は、前記計測部において計測した前記電波強度について、時刻t1における周波数f1の電波強度をP(t1,f1)、周波数f2の電波強度をP(t1,f2)、時刻taにおける周波数f1の電波強度をP(ta,f1)、周波数f2の電波強度をP(ta,f2)とし、以下の式によって算出する塗膜管理装置。
【数6】
【請求項4】
工作物に塗布した塗料の塗膜を管理するための装置であって、
前記工作物に固定され、前記塗膜によって覆われる無線通信装置と、
前記無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、測定した周波数ごとの電波強度を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、前記塗膜の膜厚を推定する膜厚推定部と、前記計測部が測定した前記電波強度と、前記膜厚推定部が推定した膜厚を用いて前記塗膜の劣化を推定する劣化推定部を有する塗膜管理装置。
【請求項5】
工作物に塗布した塗料の塗膜を管理するための装置であって、
前記工作物に固定され、前記塗膜によって覆われる無線通信装置と、
前記無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、測定した周波数ごとの電波強度を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、前記計測部が測定した前記電波強度を用いて前記塗膜の膜厚を推定する膜厚推定部と、前記計測部が測定した電波強度と、前記膜厚推定部が推定した膜厚を用いて前記塗膜の劣化を推定する劣化推定部を有する塗膜管理装置。
【請求項6】
工作物に塗布した塗料の塗膜を管理するための装置であって、
前記工作物に固定され、前記塗膜によって覆われる無線通信装置と、
前記無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、測定した周波数ごとの電波強度を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、前記塗膜の膜厚を推定する膜厚推定部と、複数の時間において前記計測部において測定された前記電波強度と、複数の時間において前記膜厚推定部が推定した膜厚を用いて、修繕時期を推定する修繕推定部とを有する塗膜管理装置。
【請求項7】
工作物に塗布した塗料の塗膜を管理するための装置であって、
前記工作物に固定され、前記塗膜によって覆われる無線通信装置と、
前記無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、測定した周波数ごとの電波強度を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、前記塗膜の膜厚を推定する膜厚推定部と、前記計測部が測定した前記電波強度と、前記膜厚推定部が推定した膜厚を用いて前記塗膜の劣化の程度を劣化指数として算出する劣化推定部と、前記膜厚推定部が推定した膜厚が閾値を下回る時期及び/又は前記劣化推定部が推定した劣化指数が閾値を超える時期を修繕時期として推定する修繕推定部とを有する塗膜管理装置。
【請求項8】
工作物に塗布した塗料の塗膜を管理するためのシステムであって、
前記工作物に固定され、前記塗膜によって覆われる複数の無線通信装置と、
前記無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、測定した周波数ごとの電波強度を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、前記塗膜の膜厚を推定する膜厚推定部と、前記計測部が測定した前記電波強度と前記膜厚推定部が推定した膜厚を用いて前記塗膜の劣化の程度を劣化指数として算出する劣化推定部を有する塗膜管理システム。
【請求項9】
工作物に塗布した塗料の塗膜を管理するためのシステムであって、
前記工作物に固定され、前記塗膜によって覆われる複数の無線通信装置と、
前記無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、測定した周波数ごとの電波強度を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、前記塗膜の膜厚を推定する膜厚推定部と、前記計測部が測定した前記電波強度と前記膜厚推定部が推定した膜厚を用いて前記塗膜の劣化の程度を劣化指数として算出する劣化推定部と、前記膜厚推定部が推定した膜厚が閾値を下回る時期及び/又は前記劣化推定部が推定した劣化指数が閾値を超える時期を修繕時期として推定する修繕推定部とを有し、
前記修繕推定部は、前記無線通信装置のうち閾値を超える数だけ修繕時期として推定される時期を最終的な修繕時期として推定する塗膜管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗膜管理装置及び塗膜管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物などの建築物、橋梁などの工作物は(以下、建築物と工作物をまとめて「工作物」という)、常に雨風や紫外線などにさらされるため、審美性の観点だけでなく、工作物の保護の観点からも塗装し、塗膜を形成することがなされる。しかし、塗膜は雨風や紫外線の影響を一番受けやすいところに形成されるため、経時的に劣化し、劣化を放置すると、工作物そのものの劣化を早めてしまう。したがって、適切な時期に塗膜の劣化を検出して塗装のやり直しを行うことが望ましい。
【0003】
例えば、特許文献1では、塗膜に電流を流してインピーダンスを測定し、その測定結果から、塗膜の劣化の程度を診断し、塗装のやり直し時期を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塗膜のインピーダンスを測定する方法は、下地が金属であり電流が流れることにより測定が可能であるが、工作物の表面は、例えばコンクリートなど、必ずしも金属で構成されているとは限らず、どのような素材の工作物であっても塗膜の劣化の状況を予想できることが望ましい。
【0006】
したがって、下地の素材に拘わらず、塗膜の品質を判別し、塗膜のやり直し(塗り直し)時期を判別できることが望ましい。
【0007】
本開示は、上記の課題に鑑みて提案するものであり、工作物に塗布された塗膜の劣化状態を複数の周波数を用いた電波により測定して診断し、かつ情報管理を行うことが可能な塗膜管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示に係る塗膜管理装置は、工作物に固定され、塗膜によって覆われる無線通信装置と、無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、無線通信装置は、受信機から発せられる電波を受信するアンテナと、電波から給電する制御回路と、測定した周波数ごとの電波強度を記憶するメモリとを有し、受信機は、無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、無線通信装置から受信する電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、計測部が測定した電波強度を用いて塗膜の劣化を推定する劣化推定部を有する。
【0009】
上記目的を達成するため、本開示に係る塗膜管理システムは、工作物に固定され、塗膜によって覆われる複数の無線通信装置と、無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、無線通信装置は、受信機から発せられる電波を受信するアンテナと、電波から給電する制御回路と、測定した周波数ごとの電波強度を記憶するメモリとを有し、受信機は、無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、無線通信装置から受信する電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、計測部が測定した電波強度を用いて塗膜の劣化を劣化指数として数値で推定する劣化推定部を有する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、工作物に塗布された塗膜の下に塗膜を管理するための無線装置を設置しておくことで、容易に塗膜の劣化を管理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】無線通信装置100のハードウェア構成を示す図である。
【
図3】無線通信装置100の基本的な機能を示すブロック図である。
【
図4】無線通信装置100の記憶部120の塗膜DB121が記憶する内容の一例を示す図である。
【
図5】受信機200のハードウェア構成を示す図である。
【
図6】受信機200の基本的な機能を示すブロック図である。
【
図7】膜厚測定の際の受信機200の設置方法の一例を示す図である。
【
図8】無線通信装置100の記憶部120の塗膜DB121が記憶する内容の一例を示す図である。
【
図9】受信機200が劣化推定を行う際の制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】受信機500の基本的な機能を示すブロック図である。
【
図11】膜厚推定部534が用いる対応表の具体例を示す図である。
【
図12】受信機500が修繕時期推定を行う際の制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図13】塗膜管理システム1の具体的構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本開示の第1実施形態について図面を参照して説明する。第1実施形態では、複数の周波数、複数の時点において測定した電波強度を用いて、塗膜の劣化を推定する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではない。また、実施形態に示される構成要素のすべてが、本開示の必須の構成要素であるとは限らない。
【0013】
(塗膜管理装置10の全体的構成)
図1は、塗膜管理装置10の概要を示す図である。塗膜管理装置10は、無線通信装置100と、受信機200からなる。また、無線通信装置100は、工作物300と塗料400との間に設置される。具体的には、無線通信装置100は、両面テープや接着剤などによって工作物300に固定され、その上から塗料400が塗られて塗膜が構成される。塗料400が塗られることで、無線通信装置100を雨風や紫外線等から保護することが可能である。
【0014】
無線通信装置100は、RFID(Radio Frequency Identification)、RFタグ、ICタグ、無線タグなどと呼ばれる回路により構成可能である。無線通信装置100は、工作物300に固定され、その上から塗料が塗布されることで塗料に覆われて設置される。無線通信装置100は、受信機200から発せられる電波を受信して、給電を行い、受信機200との間で無線通信を行う。無線通信装置100は、RFIDなどの小型の回路により構成することで、工作物300と塗料400の間に設置することが可能となり、これにより無線通信装置100は雨風や紫外線から守られる。さらに、審美性にも影響を与えることなく無線通信装置100を設定することが可能となる。
【0015】
受信機200は、無線通信装置100に対して電波を発信し、無線通信を行う。受信機200は、無線通信装置100の上に塗布された塗料の膜厚を通過した電波強度を測定して分析できるよう塗料の上に接触させて又は塗料と離して設置する。受信機200は無線通信装置100から受信する電波強度の測定をし、無線通信装置100のメモリ103に記憶されたデータの読み出しと、無線通信装置100のメモリ103に対してデータを記憶させる。なお、受信機200と無線通信装置100の距離は常に一定に保たれるよう設置することが望ましい。これは後述のように、受信機200と無線通信装置100の距離を一定に保つことにより、受信機200は無線通信装置100から発せられる電波の電波強度を正確に測定することができるからである。
【0016】
工作物300は、建物などの建築物、橋梁、鉄塔などをはじめ、塗料を塗布する対象が土地に定着しているものである。
【0017】
塗料400は、工作物300に塗布され、乾燥すると工作物300に密着する素材からなり、工作物300の美化を目的とする素材だけでなく、防水材など工作物300の保護を目的とする素材も配合される。
【0018】
(無線通信装置100の説明)
図2は、無線通信装置100のハードウェア構成を示す図である。無線通信装置100は、アンテナ101、制御回路102、メモリ103とを備える。また、これ以外に、CPU(Central Processing Unit)や揮発性メモリを備えていてもよい。
【0019】
アンテナ101は、受信機200と無線通信を行うために、電波を送信又は受信する。なお、アンテナ101からは、2種類以上の周波数の電波を送信することが可能なよう構成する。
【0020】
制御回路102は、無線通信装置100の制御を行うための回路である。例えば、アンテナ101で送受信する電波を変調、復調するための回路、アンテナ101で受信した電波から給電を行うための回路、メモリ103からデータを読み出すための回路、メモリ103にデータを書き込むための回路が含まれる。
【0021】
制御回路102は、アンテナ101と接続し、アンテナ101で受信した電波を復調し、また、データを変調してアンテナ101を介して送信する。また、制御回路102は、メモリ103と接続し、メモリ103にデータを書き込み、またメモリ103からデータを読み出す。
【0022】
メモリ103は、データを記憶する。メモリ103が記憶するデータには、測定した電波強度などが含まれる。メモリ103は、不揮発性メモリにより実現され、電源が断たれても記憶したデータを保持する。
【0023】
詳細は後述するが、無線通信装置100にメモリ103が設置されることで、工作物300上に工作物300に関するデータを記憶することが可能となる。
【0024】
図3は、無線通信装置100の基本的な機能を説明するためのブロック図である。無線通信装置100は、通信部110、記憶部120、制御部130とを備える。
【0025】
通信部110は、受信機200と通信するための処理を行う。例えば通信部110は、受信機200と通信し、制御部130を介して記憶部120から読み出した素材、日時、周波数ごとの電波強度、劣化指数、膜厚などのデータを受信機200に送信する。また、例えば通信部110は、受信機200と通信し、受信機200から受信した素材、日時、周波数ごとの電波強度、劣化指数,膜厚などのデータを制御部130を介して記憶部120に記憶する。
【0026】
記憶部120は、無線通信装置100が保持するデータを記憶する。例えば記憶部120は、素材、日時、周波数ごとの測定した電波強度、劣化指数,膜厚などのデータを記憶する。また、測定した場所に関する位置情報や識別子(ID:Identification)を記憶してもよい。
【0027】
無線通信装置100が記憶部120を備えることにより、工作物300と分離されたシステムないし媒体ではなく、工作物300と共にデータを記憶しておくことが可能となる。工作物300は、一般的には取壊してその役目を終えるまで数十年の単位で存続するものであるから、分離したシステムや装置上に記憶した場合には、データを消失するリスクがある。本開示のように工作物300と共に設置された無線通信装置100内にデータを記憶することで、管理者や所有者等が変更された場合においても、データの消失
なく管理を行うことが可能となる。
【0028】
制御部130は、無線通信装置100の制御回路102により、無線通信装置100の動作を制御する。具体的には、制御部130は、アンテナ101が受信した電波の電磁誘導等を用いて、無線通信装置100に電源供給を行うための回路を備える。また、制御部130は、通信部110が受信機200から受信したデータを復調し、通信部110が受信機200に送信するためのデータを変調する。また、制御部130は、記憶部120から、素材、日時、周波数ごとの電波強度、劣化指数、膜厚などの情報を読み出し、又は、記憶部120に対して素材、日時、周波数ごとの電波強度、劣化指数,膜厚などの情報を書き込んで記憶させる。
【0029】
アンテナ101が受信した電波の電磁誘導等を用いて電源供給を行うと、蓄電装置や電源供給のための配線を不要とし小型化できる点に利点があり、無線通信装置100を塗料400内に設置することが容易となる。
【0030】
(無線通信装置100が記憶するデータの具体例)
記憶部120は、工作物完成時(塗膜の塗装時)の時点(日時等の時間的情報)、素材、完成時(塗膜の塗装時)の膜厚、受信機200が無線通信装置100から受信する電波の周波数ごとの電波強度、劣化指数、膜厚,これらを測定した時点などを記憶する。そのほか、測定した場所に関する位置情報や識別子(ID)を記憶してもよいし、これらの要素の一部を記憶してもよい。
【0031】
また、記憶部120は、工作物300内に複数の無線通信装置100が設置される場合、無線通信装置100が設置された場所の情報だけではなく、工作物300に設置された他の無線通信装置100が設置された場所の情報を記憶してもよい。このとき、位置情報又は識別子などの情報とセットにして記憶することで、どの無線通信装置100に関する情報か識別する。このように、複数の無線通信装置100に情報を記憶することで、万が一情報が失われた際に、他の無線通信装置100から情報を取得することが可能となる。
【0032】
図4は、記憶部120の塗膜DB121が記憶する具体的な内容を示したものである。工作物完成時の2000年10月1日において、膜厚が2mm、受信機200が無線通信装置100から受信した電波の電波強度が900MHz,2.45GHz帯のいずれにおいても250mWであることを示している。また、その後の測定において、2006年10月1日においては、受信機200が無線通信装置100から受信した電波の電波強度が900MHz帯で310mW,2.45GHz帯で340mWであり、それにより推定された劣化指数が0.09,推定された膜厚が1.8mmであることを示している。
【0033】
記憶部120は、工作物完成時の日時、素材、膜厚を記憶しておくことで、所有者や管理者の変更、工作物関連資料の紛失などが生じた場合にも、データを参照することが可能となる。さらに、工作物完成以降の測定日時、周波数ごとの電波強度、劣化指数,膜厚などを記憶しておくことで、工作物完成からの経過時間と塗膜自体の劣化の程度を把握し、分析に役立てることも可能となる。加えて、無線通信装置100を工作物の複数の箇所に設置することで、工作物の箇所ごとの劣化の程度を把握し分析に役立てることが可能となる。
【0034】
(受信機200の説明)
図5は、受信機200のハードウェア構成を示す図である。受信機200は、汎用のコンピュータにより構成可能である。
【0035】
図5に示すように、受信機200は、プロセッサ201、メモリ202、ストレージ203、通信IF204(なお、IFはInterFaceの略語として記載した)、入出力IF205を備える。
【0036】
プロセッサ201は、プログラムに記述された命令セットを実行するためのハードウェアであり、演算装置、レジスタ、周辺回路などにより構成される。メモリ202は、プログラム、及び、プログラム等で処理されるデータ等を一時的に記憶するためのものであり、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性のメモリにより実現される。ストレージ203は、プログラムなどのデータを保存するための記憶装置であり、例えばフラッシュメモリ、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard disk Drive)により実現される。通信IF204は、受信機200が無線通信装置100と通信するため、信号を送受信するためのインタフェースである。例えば、通信IF204は、無線通信装置100との間でデータを読み出すための信号やデータを書き込むための信号を送受信するインタフェースを含む。入出力IF205は、ユーザからの入力を受け付けるためのキーボード、マウス、テンキーなどの入力装置、及びユーザに対し情報を提示するためのディスプレイなど出力装置のインタフェースとして機能する。
【0037】
図6は、受信機200の基本的な機能を説明するためのブロック図である。受信機200は、通信部210、記憶部220、制御部230とを備える。
【0038】
通信部210は、無線通信装置100と通信するための処理を行う。例えば、受信機200の通信部210は、無線通信装置100との間で無線通信を行い、無線通信装置100に記憶された素材、日時、周波数ごとの電波強度,劣化指数,膜厚などのデータを無線通信装置100の通信部110を介して取得し、及び/又は通信部110を介して送信する。
【0039】
記憶部220は、受信機200が使用するデータ及びプログラムを記憶する。
【0040】
制御部230は、受信機200のプロセッサ201が記憶部220に記憶されるプログラムを読み込み、プログラムに含まれる命令を実行することにより実現される。制御部230は受信機200の動作を制御する。具体的には、制御部230は、送受信部231、計測部232、劣化推定部233としての機能を発揮する。
【0041】
送受信部231は、通信部210を介して無線通信装置100と通信を行い、無線通信装置100に記憶された素材、日時、周波数ごとの電波強度、劣化指数、膜厚などのデータを受信して取得する。また、送受信部231は、取得したデータを、入出力IF205を介して表示する。
【0042】
送受信部231は、通信部210を介して無線通信装置100と通信を行い、入出力IF205を介して入力されたデータや、他の制御部230の機能により算出したデータを無線通信装置100に対して送信し、無線通信装置100の記憶部120に記憶させる。
【0043】
計測部232は、通信部210を介して無線通信装置100のアンテナ101から発せられる電波の電波強度を測定する。通信部210は、2種類以上の周波数において電波強度の測定が可能であり、計測部232は、無線通信装置100のアンテナ101から発せられる電波の強度を周波数ごとに測定する。このとき、測定した電波強度は、測定時における時間的情報、周波数情報と共に通信部210を介して、無線通信装置100の記憶部120に記憶する。
【0044】
計測部232は、通信部210を介して無線通信装置100の記憶部120に測定時の時間的情報と電波強度を併せて記憶することにより、これらのデータを解析し、工作物の完成時からの経過時間と電波強度の推移を分析することが可能となる。加えて、計測部232は、周波数ごとの電波強度を計測することにより、膜厚だけでなく塗膜の劣化の程度を分析するための基礎となる情報を取得することが可能となる。
【0045】
劣化推定部233は、計測部232が測定した周波数ごとの電波強度を用いて、無線通信装置100の上に設置された塗料400の塗膜の劣化を推定する。例えば、雨風や紫外線などの影響により、塗膜が薄くなっていく場合、膜厚を挟むように電波を送信してその電波強度を測定して膜厚を測ることが可能である。このとき、複数の周波数帯域の電波を用いることで、塗膜の品質変化に応じて、周波数帯域において受信する電波強度が変化し、周波数特性が変化する。
【0046】
例えば、劣化推定部233は、計測部232が推定した周波数ごとの電波強度について、複数の時点の情報を用い、電波強度の周波数特性の変化に基づいて算出してもよい。
【0047】
より具体的には、劣化推定部233は次のような計算を行ってもよい。時刻t1における周波数f1の電波強度をP(t1,f1)、周波数f2の電波強度をP(t1,f2)とする。同じように、時刻t2における周波数f1の電波強度をP(t2,f1)、周波数f2の電波強度をP(t2,f2)とし、時刻taにおける周波数f1の電波強度をP(ta,f1)、周波数f2の電波強度をP(ta,f2)とする。仮に塗膜に品質変化がないとすれば、P(t1,f1)/P(t1,f2)とP(ta,f1)/P(ta,f2)は同じ値になるが、品質変化があれば、P(ta,f1)/P(ta,f2)の比率が変化することになる。したがって、劣化の指数を(P(ta,f1)/P(ta,f2)-P(t1,f1)/P(t1,f2))の大きさ(絶対値)をD1として、D1の大きさを劣化指数として、塗膜の劣化の程度を推定することが可能となる。
【数1】
【0048】
劣化推定部233は、上述のように、ある時刻において計測部232が測定した周波数ごとの電波強度の比と、塗料を塗り終えた直後の時刻において計測部232が測定した周波数ごとの電波強度の比との差を指標として、劣化の程度を推定してもよい。
【0049】
劣化推定部233は、閾値TDを用いて、D1>TDとなる場合には塗り直しが必要な程度に劣化が進行しているとして、塗り直し(修繕)が必要か否か判定するようにしてもよい。
【0050】
(電波強度測定のための受信機200の設置方法)
受信機200は、無線通信装置100から発せられる電波強度を用いて劣化の分析及び膜厚の推定を行うため、受信機200の位置が毎回変わってしまうと正しい塗膜管理が実現できない。したがって、受信機200の設置位置は、どの測定においても同じ位置であることが望ましい。
【0051】
図7は、劣化分析及び膜厚推定の際の受信機200の設置方法の一例を示したものである。
図7のように、劣化分析及び膜厚推定のためのセンサ部分をプローブ240として設置し、プローブ240を塗料400に接触させて電波強度を測定するとよい。なお、プローブ240を設置せず、受信機200の電波の送受信部231を塗料400に接触させて電波強度を測定してもよい。
【0052】
また、無線通信装置100は一定の面を有するものの、受信機200の電波の送受信部231(プローブ240を設置する場合にはプローブ240)と無線通信装置100のアンテナ101との距離が測定ごとに異なると正しく電波強度を測定することができない。そこで、例えば、受信機200の電波の送受信部231(プローブ240を設定する場合にはプローブ240)に車輪をつけ、塗料400と接触させながら電波強度を測定できるように構成し、無線通信装置100のアンテナ101付近において受信機200の電波の送受信部231(プローブ240を設定する場合にはプローブ240)をまんべんなく動かし、最も電波強度が強い値を測定値として膜厚測定してもよい。
【0053】
さらに、受信機200の電波の送受信部231(プローブ240を設定する場合にはプローブ240)を動かすためのレールを無線通信装置100を覆う塗料の上に設置してもよい。受信機200は、塗料400と接触させながら、無線通信装置100から電波を受信し、電波強度を測定できるよう構成し、最も電波強度が強い値を測定値としてもよい。レールを設置しておくことで、同じ軌道上で測定が可能となることから、劣化分析及び膜厚推定の正確性を高めることができる。
【0054】
受信機200の設置方法は上記に限られるものではなく、例えば受信機200の設置位置を決めておき、常にその位置から電波強度を測定してもよいし、上記以外の方法により塗料400と接触させながら電波強度を測定してもよい。
【0055】
(劣化推定のための具体的処理方法)
劣化推定部233の具体的な処理の一例を示す。例えば、
図4に示すように、2つの周波数帯域(900MHzと2.45GHz)において計測部232が計測した電波強度を記憶しているとき、劣化推定部233は、各周波数帯域における観測した電波強度の割合を算出する。
図4では、2000年10月1日に最初の電波強度が計測されているため、これを基準とする。2000年10月1日における900MHzと2.45GHzの電波強度の割合は250mW/250mW=1である。次に、2014年9月1日の劣化の程度を推定する場合、900MHzと2.45GHzの電波強度の割合は、510mW/630mW=0.81となる。数1に当てはめれば、1-0.81=0.19となる。この値を劣化指数として、劣化指数が大きくなるほど、劣化の程度は大きいということになる。
【0056】
図8に別の事例を示す。この事例では、2014年9月1日の劣化の程度を推定すると、510mW/520mW=0.98となり、[数1]にあてはめれば、1-0.98=0.02となる。
図4の事例と比較すると、数値が小さいため、劣化は少ないということになる。このように、劣化推定部233は、劣化の程度について、数値を用いて推定し、閾値を用いて、一定以上のものを劣化大、また別の閾値を超えるものを劣化中などとランク分けしてもよい。
【0057】
(処理の流れ)
以下、
図9を参照しながら、受信機200が劣化推定のために実行する制御処理の一例を説明する。
【0058】
受信機200の制御部230は、通信部210を介して無線通信装置100から素材、過去に測定された電波強度、測定日時、膜厚などの情報を取得する(ステップS101)。
【0059】
受信機200の制御部230は、通信部210を介して無線通信装置100から発せられる電波の電波強度を複数の周波数について測定する(ステップS102)。
【0060】
受信機200の制御部230は、測定した複数の周波数帯域の電波強度と、過去に測定された電波強度、測定日時などの情報を用いて、例えば[数1]の式などを用いて、劣化指数を推定する。また、劣化指数が閾値を超える場合には、修繕が必要であることを表示してもよい(ステップS103)。
【0061】
(効果の説明)
以上、実施形態1における塗膜管理装置10の構成について説明したが、無線通信装置100を用いることで、工作物300にデータを記憶することが可能となる。これにより、当該工作物300の管理者や所有者が変更され、適切に資料・データの引継ぎがなされなかったとしても、工作物300上に設置された無線通信装置100にデータが記憶されているため、建造当時の膜厚や塗料400の素材に関する情報、それ以降に計測された塗膜の劣化に関する情報を把握することが可能となる。
【0062】
また、無線通信装置100が複数の周波数で電波を発することで、受信機200はこの電波強度を計測し、それよりも前の時点で測定した各周波数の電波強度と比較することで塗膜の劣化を分析することが可能となる。このように、無線通信装置100と通信を行うための電波を用いて、塗膜の劣化及び/又は膜厚の推定を行うことが可能となる。
【0063】
<実施形態2>
第2実施形態では、受信機200の代わりに、受信機500を用いることで、複数の周波数において測定した電波強度に加え、測定した膜厚を用いて、塗膜の劣化を測定する。さらに、複数の時点において測定した複数の周波数における電波強度と測定した膜厚を用いて、塗膜を改修すべき時期の推定を行うことを可能とする。
【0064】
図10は、受信機500の基本的な機能を説明するためのブロック図である。受信機500は、通信部210、記憶部220、制御部530とを備える。通信部210、記憶部220は受信機200と同様である。
【0065】
制御部530は、受信機500のプロセッサが記憶部220に記憶されるプログラムを読み込み、プログラムに含まれる命令を実行することにより実現される。制御部530は受信機500の動作を制御する。具体的には、制御部530は、送受信部231、計測部232、劣化推定部533、膜厚推定部534、修繕推定部535としての機能を発揮する。送受信部231及び計測部232については、制御部230と同様であるため、制御部230と異なる点について示す。
【0066】
受信機500における劣化推定部533は、観測した複数の周波数の電波強度と膜厚並びに素材に応じた係数を用いて、塗膜の劣化を推定する。なお、膜厚は、膜厚推定部534の結果を用いてよい。周波数f1の電波強度をP(f1)、周波数f2の電波強度をP(f2)とし、膜厚をdとする。そして[数2]のような関係が成り立つ透過率に応じた周波数fに応じた係数をAfとする。
【数2】
【0067】
劣化がないときの係数をAf、実際に観測した値から求められる劣化を含んだ係数をA’fとすると、劣化を示す指標たる劣化指数D2は、電波強度を測定する周波数をf1とf2としたとき、実際に観測した電波強度P(fi)と膜厚dを用いて、[数3]のようにして求めることができる。
【数3】
【0068】
劣化推定部533は、劣化推定部233が算出する劣化指数D1の代わりに、劣化指数D2を用いて、劣化の程度を推定することができる。そして、劣化指数D2は、測定した電波強度Pのほかに、素材に応じた係数A、膜厚dの情報があれば、経時データがなくとも劣化の程度を推定することが可能となる。
【0069】
膜厚推定部534は、例えば、計測部232が測定した電波強度を用いて、無線通信装置100の上に設置された塗料400の膜厚を推定してよい。このとき、計測部232が測定した電波強度は、無線通信装置100と受信機200との間の距離の2乗に比例して減衰するので、これをもとに計測部232が測定した電波強度から距離を算出してもよい。
【0070】
膜厚推定部534は、例えば、予め素材ごとに電波強度と膜厚との対応表を作成しておき、無線通信装置100の記憶部120に記憶された素材の種類と、計測部232が測定した電波強度を用いて塗料400の膜厚を推定してもよい。
【0071】
膜厚推定部534は、以下のように塗料400の膜厚を推定してもよい。無線通信装置100から発せられる電波強度をP0、膜厚をd、受信機200の計測部232が測定した電波強度をP、塗料400の素材の電波の透過率をTとすると、測定した電波強度Pを以下のようなモデルで示すことができる。
【数4】
これをdについて解くと、[数2]のように示すことができる。
【数5】
受信機200は、記憶部220に塗料400の素材ごとの透過率Tと無線通信装置100が発する電波強度P0を記憶しておき、計測部232が測定した電波強度Pを用いることで、膜厚dを算出することが可能となる。
【0072】
上述のように、膜厚推定部534が推定した結果を、受信機200が測定した膜厚として利用することができる。
【0073】
また、膜厚推定部534は、計測部232が測定した電波強度を用いて膜厚推定を行うことで、電磁式、過電流式、赤外線、超音波など従来の方式を用いることと比較して必要な機構を省略することが可能となる。これにより、コスト削減、小型化などに資することになる。
【0074】
ただし、膜厚推定部534は、上述のように電波強度を用いることに限られるものではなく、電磁式、過電流式、赤外線、超音波など従来の方式を用いる機構を設置した上で、膜厚推定部534は、かかる方式により膜厚推定を行ってもよい。
【0075】
修繕推定部535は、複数の計測時点において劣化推定部533が推定した塗膜の劣化データを用いて、修繕が必要な時期を推定する。劣化推定部533が推定する劣化データは、計測部232が測定した電波強度と、膜厚推定部534が推定した膜厚によって推定されるから、すなわちこれらのデータを用いて修繕が必要な時期を推定する。
【0076】
工作物の塗膜については、塗膜が一定値を下回る場合には塗り直しが必要であり、また、劣化が一定以上進行した場合にも塗り直しが必要である。したがって、膜厚をd、膜厚について塗り直しが必要な厚さの閾値をTd、劣化指数をD、劣化について塗り直しが必要な劣化指数の閾値をTDとしたときに、d<Td及び/又はD>TDとなるような時点で塗り直し、すなわち修繕が必要となる。
【0077】
修繕推定部535は、d<Td及び/又はD>TDとなる時点を推定する。劣化推定部533と膜厚推定部534は、それぞれ、計測を行った時点(時間的情報)、電波強度、推定した膜厚、劣化指数などの情報を塗膜DB121に記憶し、これらの情報を用いてd<Td及び/又はD>TDとなる時点を推定する。
【0078】
修繕推定部535は、d<Td及び/又はD>TDとなる時点を推定するに際し、回帰分析などの方法を用いて当該時点を推定してもよい。例えば、膜厚の減少については、膜厚dは工作物に塗膜が形成された時点からの経過時間を説明変数とした単回帰分析を用いてd<Tdとなる時間を推定してもよい。同様に塗膜の劣化指数Dについても、[数3]で示される式が経過時間を説明変数とした単回帰分析を用いて、D>TDとなる時間を推定してよい。
【0079】
修繕推定部535は、膜厚が閾値よりも薄くなるか、又は、劣化指数が閾値を超えたときに修繕すべきとして、d<Td又はD>TDとなる時間を修繕時期として推定してもよいし、膜厚が閾値よりも薄くなりかつ、劣化指数が閾値を超えたd<Td及びD>TDとなる時間を修繕時期として推定してもよい。
【0080】
(膜厚推定のための具体的処理方法-対応表を使う場合)
受信機500の膜厚推定部534による膜厚推定において、膜厚測定を行う一例を以下に示す。まず、受信機500のプローブ240を無線通信装置100付近の塗料400でまんべんなく動かして電波強度をスキャンし、最も強い電波強度を測定する。このとき、受信機500から発せられた電波は無線通信装置100のアンテナ101で生ずる電磁誘導により電波を発生させ、当該電波を受信機500のプローブ240で感知して電波強度を測定する。
【0081】
受信機500の送受信部231は、予め無線通信装置100の塗膜DB121から、素材データを取得しておく。計測部232で測定された最も強い電波強度をPとすると、膜厚推定部534は、塗料ごとに作成した電波強度に応じた膜厚を示す対応表から、電波強度Pに対応する膜厚dを取得し、これを推定結果の膜厚とする。
【0082】
図11に、膜厚推定部534が用いる対応表の具体例を示す。例えば、塗料400の素材がAであり、受信した電波強度が990mWだった場合、対応表の990mWに対応する0.11mmを膜厚推定部534が推定する膜厚として算出する。
【0083】
(膜厚推定のための具体的処理方法-モデル化した数式を使う場合)
対応表を使う場合と同様に、まず、受信機500のプローブ240を無線通信装置100付近の塗料400でまんべんなく動かして電波強度をスキャンし、最も強い電波強度を測定する。このとき、受信機500から発せられた電波は無線通信装置100のアンテナ101で生ずる電磁誘導により電波を発生させ、当該電波を受信機500のプローブ240で感知して電波強度を測定する。
【0084】
受信機500の送受信部231は、予め無線通信装置100の塗膜DB121から、素材データと、無線通信装置100が発する電波強度P0を取得しておく。また、受信機500の記憶部220には、素材に対応する透過率Tを記憶しておく。例えば、素材がAであり、その透過率T=1であるとする。
【0085】
計測部232で測定された最も強い電波強度をP=250とし、透過率T=1、P0=1000とすると、膜厚推定部534は、[数5]を用いて、d=2と算出し、これを推定結果の膜厚とする。
【0086】
(修繕推定のための具体的処理方法)
修繕推定部535の具体例について示す。例えば、塗膜の施工完了日を0日として、経過日数をN(日)、膜厚をd(mm)として、(d,N)の組み合わせが(0.1,0),(0.095,740),(0.089,1440),(0.083,2220),(0.078,2930)として観測されたとき、回帰分析を用いると、N=-130924d+13118となる。膜厚の閾値Td=0.075とすると、3298.7となる。したがって、d<Tdとなる日は、施工完了日から3299日後であり、この日には塗膜の塗り直しをした方がよいと推定する。
【0087】
修繕推定部535の具体例についてもう一つ示す。係数Afi、観測した電波強度P(fi)、及び膜厚dを用いて、[数3]で示されるD2について、塗膜の施工完了日からの経過日数をN(日)、算出したD2の(D2,N)の組み合わせが、(0,0),(0.0001,740),(0.00015,1440),(0.00021,2220),(0.00026,2930)として算出されたとき、回帰分析を用いると、N=11413623D2-178となる。D2の閾値TD=0.00035とすると、N=3816.768となる。すなわち、修繕推定部535は、D2>TDとなる日として施工完了日から3817日後を推定し、この日には塗膜の塗り直しをした方がよいと推定する。
【0088】
(処理の流れ)
以下、
図12を参照しながら、受信機500が膜厚測定、劣化推定、修繕推定のために実行する制御処理の一例を説明する。
【0089】
受信機500の制御部530は、通信部210を介して無線通信装置100から素材、過去に測定された電波強度、測定日時、膜厚などの情報を取得する(ステップS201)。
【0090】
受信機500の制御部530は、通信部210を介して無線通信装置100から発せられる電波の電波強度を測定する(ステップS202)。
【0091】
受信機500の制御部530は、測定した電波強度と、取得した素材そのほか過去に測定された膜厚、測定日時などの情報を用いて、膜厚を推定する(ステップS503)。
【0092】
受信機500の制御部530は、測定した複数の周波数帯域の電波強度と、過去に測定された電波強度、測定日時、膜厚などの情報を用いて、劣化指数を推定する(ステップS504)。
【0093】
受信機200の制御部230は、測定日時、測定日時における電波強度、膜厚、劣化指数などの情報を用いて、修繕が必要な時期を推定する(ステップS505)。
【0094】
膜厚を推定した後、受信機200の制御部230は、通信部210を介して無線通信装置100が推定された膜厚に関するデータを記憶するため、無線通信装置100に対して、測定日時、膜厚、電波強度などの情報を送信する。このとき、劣化指数や修繕が必要な推定時期の情報を併せて送信してもよい(ステップS506)。
【0095】
(効果の説明)
以上、実施形態2の構成について説明したが、無線通信装置100を用いることで、工作物300上にデータを記憶することが可能となる。これにより、当該工作物300の管理者や所有者が変更され、適切に資料・データの引継ぎがなされなかったとしても、工作物300上に設置された無線通信装置100にデータが記憶されているため、建造当時の膜厚や塗料400の素材に加え、それ以降に計測された膜厚、電波強度など塗膜の劣化を分析するために有用な情報を把握することが可能となる。
【0096】
また、無線通信装置100からデータを取得するためには、電波を用いた通信が必要となるが、この電波を塗膜管理にも用いることで、超音波や電流を用いる方法など膜厚測定のために別の機構を用いる必要がなく、簡単な構成で塗料400の膜厚を測定することが可能となる。
【0097】
加えて、無線通信装置100が複数の周波数で電波を発することで、受信機500はこの電波強度を計測し、それよりも前の時点で測定した各周波数の電波強度と比較することで塗膜の劣化を分析することが可能となる。このように、無線通信装置100と通信を行うための電波を用いて、塗膜の劣化及び/又は膜厚の推定を行うことが可能となる。
【0098】
さらに、経時データを用いた分析により、塗装のやり直しをすべき修繕時期を推定することも可能となる。
【0099】
なお、一般的な膜厚計と比較すると、無線通信装置100との距離により測定する膜厚に影響を与える可能性があるが、受信機500にプローブ240などを設置して塗料400上でまんべんなく動かして最も強い電波強度を測定することにより、上記の問題を解決して正しい膜厚測定が可能となる。さらに、プローブ240に車輪を設けたり、プローブ240を動かすためのレールを設置することで、プローブ240をまんべんなく動かすことを容易にすることが可能となる。
【0100】
(塗膜管理システム)
塗膜管理装置10は、複数の無線通信装置100並びに単一又は複数の受信機200(又は受信機500)を有し、塗膜管理システム1として構成してもよい。
【0101】
図13に塗膜管理システム1の構成図を示す。例えば、塗膜管理システム1は、複数の無線通信装置100-1から100-Nと受信機200(又は受信機500)から構成される。なお、受信機200(又は受信機500)は1台でも複数でもよい。
【0102】
受信機200(又は受信機500)は、無線通信装置100-1から100-Nと通信が可能であり、無線通信装置100-1から100-Nと通信することで、膜厚を測定し、その膜厚データをそれぞれ無線通信装置100-1から100-Nに記憶する。これにより、無線通信装置100におけるそれぞれの箇所の膜厚データを記憶することが可能となる。
【0103】
また、無線通信装置100-1から100-Nは、該当箇所の膜厚に関するデータのみでなく、工作物300における他の無線通信装置100に関する膜厚データをともに記憶してもよい。
【0104】
無線通信装置100-1から100-Nは、当該無線通信装置上の過去から現在までの膜厚データのみならず、他の無線通信装置100に関する膜厚データも記憶することにより、例えばある無線通信装置100-Kのデータが失われたとしても、他の無線通信装置100-Lからデータを復元することが可能となる。特に屋外に設置される工作物300においては、場所によって紫外線、雨、風などの影響により劣化しやすく、データを消失する可能性があるため、このように冗長化された構成によりデータを保護することが可能となる。
【0105】
塗膜管理システム1における受信機500の修繕推定部535は、修繕時期の推定について、以下のように構成してもよい。
【0106】
修繕推定部535は、無線通信装置100-1から100-Nにおいて計測した電波強度を用いて、膜厚をd、膜厚について塗り直しが必要な厚さの閾値をTd、劣化指数をD、劣化について塗り直しが必要な指数をTDとしたときに、d<Td及び/又はD>TDとなるような時期を計算することで、修繕時期を推定する。このとき、無線通信装置は100-1から100-NまでN個あるため、いずれかの無線通信装置においてd<Td及び/又はD>TDとなるような時期を計算することで、修繕時期を推定可能である。
【0107】
修繕推定部535は、一方で、例えば、d<Td及び/又はD>TDとなる無線通信装置100の個数に関する閾値をTKとし、d<Td及び/又はD>TDとなる無線通信装置の個数KがK>TKとなるような時期を計算することで、修繕時期を推定してもよい。このとき、無線通信装置100-1から100-Nまでの全てにおいて修繕時期を推定した上で、K+1個の無線通信装置100がd<Td及び/又はD>TDを満たす時期を推定する。
【0108】
以上で実施形態の説明を終了するが、上記実施形態は一例に過ぎない。そのため、塗膜管理システム1、無線通信装置100、受信機200(又は受信機500)の具体的な構成、処理内容等は上記実施形態で説明したものに限定されるものではない。
【0109】
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、本開示には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲が含まれる。また、上記実施形態及び変形例で説明した装置の構成は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0110】
1…塗膜管理システム、10…塗膜管理装置、100・100-1~100-N…無線通信装置,101…アンテナ、102…制御回路、103…メモリ、110…通信部、120…記憶部、121…塗膜DB、130…制御部、200・500…受信機、201…プロセッサ、202…メモリ、203…ストレージ、204…通信IF、205…入出力IF、210…通信部、220…記憶部、230・530…制御部、231…送受信部、232…計測部、233・533…劣化推定部、534…膜厚推定部、535…修繕推定部、240…プローブ、300…工作物、400…塗料、NW…ネットワーク
【要約】
【課題】塗膜管理装置により、工作物に塗布された塗膜の劣化の分析を通して、修繕時期の推定を行うことを可能にする。
【解決手段】塗膜管理装置は、工作物に固定され、塗膜によって覆われる無線通信装置と、無線通信装置と2以上の周波数の電波を介して通信を行うための受信機とを備え、無線通信装置は、受信機から発せられる電波を受信するアンテナと、電波から給電する制御回路と、測定した周波数ごとの電波強度を記憶するメモリとを有し、受信機は、無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、無線通信装置から受信する電波の周波数ごとの電波強度を測定する計測部と、計測部が測定した電波強度を用いて塗膜の劣化を推定する劣化推定部を有する。
【選択図】
図1