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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】吊り天井構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 9/18 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
E04B9/18 E
E04B9/18 B
E04B9/18 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020200625
(22)【出願日】2020-12-02
(65)【公開番号】P2022088269
(43)【公開日】2022-06-14
【審査請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502306903
【氏名又は名称】八潮建材工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中本 康
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良介
(72)【発明者】
【氏名】井上 諭
(72)【発明者】
【氏名】吉川 昇
(72)【発明者】
【氏名】岩下 裕樹
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-084600(JP,A)
【文献】特開2015-007326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 9/00-9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体から吊り下げられた野縁受け部及び野縁部を有する吊り天井構造であって、
前記野縁受け部とリップ部を有する前記野縁部との交差部に取り付けられた補強金具と、
前記構造体に上部が固定される鉛直部材とを備え、
前記補強金具は、
上方に配置される前記野縁受け部に固定される第1金具と、
前記第1金具に跨らせて前記野縁部に固定される第2金具とを備え、
前記第1金具は、前記野縁受け部に跨らせる折曲げ部と、前記野縁部が嵌合可能となるように下部に形成された切欠き部と、前記野縁受け部に固定するための接合手段とを有し、
前記第2金具は、前記野縁部のリップ部を挟んで対向させる板部と、前記板部のそれぞれの上縁から反対方向に前記野縁受け部の上端面に接しながら延伸されて平面を形成するステージ部と、前記リップ部側の前記板部の下部に設けられた引掛け部と、前記引掛け部が前記リップ部に引っ掛けられる状態で前記板部間に締結力を導入させるために前記野縁受け部を挟んだ両側に配置されるボルト部とを有するとともに、
前記鉛直部材の下部は前記補強金具の前記ステージ部に接続されていることを特徴とする吊り天井構造。
【請求項2】
前記鉛直部材の下端面に遮音部を設けたことを特徴とする請求項に記載の吊り天井構造。
【請求項3】
構造体から吊りボルトを介して吊り下げられた野縁受け部及び野縁部を有する吊り天井構造であって、
前記野縁受け部とリップ部を有する前記野縁部との交差部に取り付けられた補強金具と、
前記野縁受け部及び前記野縁部の少なくとも一方の軸方向に沿って側面視略V形に配置された斜め部材とを備え、
前記補強金具は、
上方に配置される前記野縁受け部に固定される第1金具と、
前記第1金具に跨らせて前記野縁部に固定される第2金具とを備え、
前記第1金具は、前記野縁受け部に跨らせる折曲げ部と、前記野縁部が嵌合可能となるように下部に形成された切欠き部と、前記野縁受け部に固定するための接合手段とを有し、
前記第2金具は、前記野縁部のリップ部を挟んで対向させる板部と、前記板部のそれぞれの上縁から反対方向に前記野縁受け部の上端面に接しながら延伸されて平面を形成するステージ部と、前記リップ部側の前記板部の下部に設けられた引掛け部と、前記引掛け部が前記リップ部に引っ掛けられる状態で前記板部間に締結力を導入させるために前記野縁受け部を挟んだ両側に配置されるボルト部とを有するとともに、
前記斜め部材の上端は前記吊りボルトの上部に固定され、前記斜め部材の下部は遮音部を介して前記補強金具の前記ステージ部に接続されていることを特徴とする吊り天井構造。
【請求項4】
前記ステージ部には、上下方向に貫通する取付孔が穿孔されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の吊り天井構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物などの構造体から吊り下げられた野縁受け部及び野縁部を有する吊り天井構造の野縁受け部と野縁部との交差部に取り付けられる補強金具、及びそれが取り付けられた吊り天井構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1-3に開示されているように、床スラブ又は梁などの建物の構造体から吊り下げられた野縁受け部及び野縁部を有する吊り天井構造を、野縁受け部と野縁部との交差部において補強する耐震補強金具が知られている。
【0003】
これらの文献に開示された吊り天井構造では、天井内に耐震用のブレースを配置している。詳細には、斜めに配置される4本のブレースの下端を、野縁受け部と野縁部との交差部に取り付けられる一つの耐震補強金具に接続している。
【0004】
そして、このような耐震補強金具を使用することによって、ブレースの負担力が直下の野縁部に直接伝わることになって、その野縁を介して効率的に力を天井板に分散させることができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4963484号公報
【文献】特許第4845212号公報
【文献】特許第6290167号公報
【文献】特開2009-2435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら吊り天井の天井内には、スペースの制限などでブレースを配置できない場合があり、別の形態の補強材を取り付けることがある。また、特許文献4に開示されているように、吊り天井を支える構造体に車両の通行や歩行等により生じた振動が、ブレースを介して天井板に伝わって音が発生することを防ぐために、防振部材が配置されることもある。
【0007】
そこで本発明は、野縁受け部と野縁部との交差部を補強できるうえに、様々な部材を容易に取り付けることが可能となる補強金具、及びそれが取り付けられた吊り天井構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の補強金具は、構造体から吊り下げられた野縁受け部及び野縁部を有する吊り天井構造において、前記野縁受け部とリップ部を有する前記野縁部との交差部に取り付けられる補強金具であって、上方に配置される前記野縁受け部に固定される第1金具と、前記第1金具に跨らせて前記野縁部に固定される第2金具とを備え、前記第1金具は、前記野縁受け部に跨らせる折曲げ部と、前記野縁部が嵌合可能となるように下部に形成された切欠き部と、前記野縁受け部に固定するための接合手段とを有し、前記第2金具は、前記野縁部のリップ部を挟んで対向させる板部と、前記板部のそれぞれの上縁から反対方向に前記野縁受け部の上端面に接しながら延伸されて平面を形成するステージ部と、前記リップ部側の前記板部の下部に設けられた引掛け部と、前記引掛け部が前記リップ部に引っ掛けられる状態で前記板部間に締結力を導入させるために前記野縁受け部を挟んだ両側に配置されるボルト部とを有することを特徴とする。
ここで、前記ステージ部には、上下方向に貫通する取付孔が穿孔されていることが好ましい。
【0009】
また、吊り天井構造の発明は、構造体から吊り下げられた野縁受け部及び野縁部を有する吊り天井構造であって、前記野縁受け部とリップ部を有する前記野縁部との交差部に取り付けられた上記補強金具と、前記構造体に上部が固定される鉛直部材とを備え、前記鉛直部材の下部は前記補強金具の前記ステージ部に接続されていることを特徴とする。ここで、前記鉛直部材の下端面に遮音部を設けることができる。
【0010】
さらに、別の吊り天井構造の発明は、構造体から吊り下げられた野縁受け部及び野縁部を有する吊り天井構造であって、前記野縁受け部とリップ部を有する前記野縁部との交差部に取り付けられた上記補強金具と、前記野縁受け部及び前記野縁部の少なくとも一方の軸方向に沿って側面視略V形に配置された斜め部材とを備え、前記斜め部材の下部は遮音部を介して前記補強金具の前記ステージ部に接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明の補強金具は、野縁受け部と野縁部との交差部において吊り天井構造を補強する。この補強金具では、野縁受け部に固定される第1金具に野縁部に固定される第2金具を跨らせる。そして、この第2金具は、野縁受け部の上端面に接しながら延伸されて平面を形成するステージ部を有している。
【0012】
このため、野縁受け部と野縁部との交差部を補強できるだけでなく、平面に形成されたステージ部に対して様々な部材を容易に取り付けることができる。このステージ部は、野縁受け部の上端面に接しているので、上から荷重が作用しても、野縁受け部の反力によって支持することができる。
【0013】
また、平面に広がるステージ部には、それぞれ上下方向に貫通する取付孔が穿孔されているので、ボルトやネジなどの接合手段を使用して、簡単に様々なアタッチメントなどを取り付けることができる。
【0014】
そして、梁などの構造体に上部が固定される鉛直部材の下部が上記補強金具に取り付けられた吊り天井構造であれば、構造体から鉛直部材を介して伝わった力を、伝達経路に屈曲を起こすことなく、まっすぐに野縁部や天井板まで伝達させることができる。さらに、鉛直部材の下端面に防振ゴムなどの遮音部を設けることで、ステージ部との間に遮音部が介在されることになって、遮音機能を備えた接続にすることができる。
【0015】
また、側面視略V形に配置された斜め部材の下部を、遮音部を介してステージ部に接続させる吊り天井構造であれば、斜め部材の下部が集約された箇所に遮音部を配置すればよいので、部品数を減らしても遮音機能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施の形態の吊り天井構造の構成を説明するための斜視図である。
図2】本実施の形態の補強金具の構成を説明するための分解斜視図である。
図3】本実施の形態の補強金具の構成を説明するための斜視図である。
図4】交差部に補強金具が取り付けられた状態を説明するための斜視図である。
図5】補強金具に装着するアタッチメントの構成を示した説明図である。
図6】実施例1の補強金具にアングル材を装着した状態を説明するための斜視図である。
図7】補強金具にアングル材を装着した状態を別の角度から見た斜視図である。
図8】実施例2の補強金具に角パイプ材を装着した状態を説明するための斜視図である。
図9】実施例3の吊り天井構造の構成を説明するための斜視図である。
図10】実施例3の補強金具に遮音部を装着した状態を説明するための平面図である。
図11図10のA-A矢視方向で見た断面図である。
図12図10のB-B矢視方向で見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の吊り天井構造1の構成を説明するための図である。また、図2図4は、本実施の形態の補強金具3の構成を説明するための図である。
【0018】
吊り天井構造1は、例えば体育館、集会場、災害応急対策の拠点となる公共施設、ビルなどの様々な建物に設けられる。本実施の形態の吊り天井構造1は、既存の吊り天井に対しても、新設される吊り天井に対しても適用することができる。
【0019】
図1に示すように、建物の構造体となる床スラブ11の下面や梁12には、間隔を置いて複数の吊りボルト13が吊り下げられており、吊りボルト13の下端のハンガー131に野縁受け部14が吊り下げられる。
【0020】
また、野縁受け部14の軸方向に間隔を置いて、略直交する方向に向けて野縁部15が取り付けられる。さらに野縁部15の下面には、石こうボードなどの天井板16が取り付けられる。
【0021】
本実施の形態の吊り天井構造1では、野縁受け部14と野縁部15との交差部17A,17Bにおいて、梁12に近接した位置では、後述する補強金具3を介して鉛直部材である束材2が取り付けられる。この束材2は、梁12の側面に上部が固定されるとともに、下部は補強金具3に接続される補強材である。例えば、吊り天井の天井内にスペースの制限などでブレースを配置できない場合に、補強材となる束材2が配置される。
【0022】
補強金具3は、図2図4に示すように、野縁受け部14と野縁部15との交差部17Aに取り付けられる。そして、この補強金具3には、束材2の下部が、後ほど実施例で例示するような形態などによって取り付けられる。
【0023】
吊りボルト13のハンガー131が引っ掛けられる野縁受け部14は、図2に示すように、例えば略水平面の上端面を形成する上フランジ141と、それに略平行な下フランジ142と、上フランジ141と下フランジ142との側縁間を繋ぐ略鉛直面のウェブ143とによって、断面視略コ字形に形成されている。
【0024】
一方、野縁受け部14に固定される野縁部15は、底部153と、その両側から立ち上がる側壁部152,152と、側壁部152,152のそれぞれの上縁から内側に2度屈曲させたリップ部151,151とによって形成される。すなわち野縁部15には、リップ部151,151を有する断面視略U字形の鋼材が使用できる。また、リップ部151は、上面と垂下面とによって横向きの断面視略L字形に形成される。
【0025】
そして補強金具3は、図2図4に示すように、上方に配置される野縁受け部14に固定される第1金具4と、第1金具4に跨らせて野縁部15に固定される第2金具5とによって主に構成される。
【0026】
第1金具4は、中央に設けられて野縁受け部14に跨らせる折曲げ部41と、野縁部15が嵌合可能となるように下部に形成された切欠き部42と、第1金具4を野縁受け部14に固定する接合手段としてのビス材43とによって主に構成される。
【0027】
折曲げ部41は、図2に示すように、野縁受け部14を上方から覆うように、断面視略門形に形成される。要するに折曲げ部41は、野縁受け部14の上フランジ141及びウェブ143の両側方を覆う形状に形成される。
【0028】
そして、折曲げ部41の下部には、野縁部15の上部が嵌合可能となる形状に切り欠かれた切欠き部42が設けられる。要するに切欠き部42によって、野縁部15の上方及び両側方が囲まれることになる。
【0029】
このように形成された折曲げ部41を野縁受け部14の上フランジ141に載せるとともに、切欠き部42をその下方の野縁部15に嵌めることで、側壁部152,152の上端に第1金具4を載せる。
【0030】
また、折曲げ部41を挟んだ両側では、野縁受け部14のウェブ143と第1金具4とにビス材43,43を連続して貫通させて、両者を接合させる。この結果、第1金具4は野縁受け部14に固定される。
【0031】
このように第1金具4を野縁受け部14に固定するための接合手段を、双方を貫通させるビス材43とすることで、ビス材43のせん断抵抗による強固な接合とすることができる。要するに、野縁受け部14のウェブ143に第1金具4を貫通させたビス材43が直接、ねじ込まれていれば、野縁受け部14と第1金具4との間にずれが生じない強固な接合とすることができる。そしてこの状態であれば、仮に野縁受け部14と野縁部15とが接合されていないとしても、野縁部15の軸方向以外の方向への第1金具4の移動は制限されることになる。
【0032】
さらに、第1金具4の野縁受け部14の軸方向の両側縁には、野縁部15の軸方向と略平行となる方向に向けてリブ44,44が張り出される。このリブ44,44によって、鋼板などの板材を折り曲げ加工することで製作される第1金具4の剛性を高めることができる。
【0033】
このようにして野縁受け部14に取り付けられた第1金具4の上方から第2金具5を跨らせる。この第2金具5は、野縁部15の片方のリップ部151を挟んで対向させる一対の板部(51,52)を有している。
【0034】
一対の板部(51,52)は、いずれも野縁受け部14を跨ぐことができるように、中央に溝部511,521が設けられた鋼板等によって形成される。ここで、リップ部151側(野縁部15の内側)に配置される板部をリップ部側板部51とし、野縁部15の外側に配置される板部を止め板部52とする。
【0035】
一対の板部(51,52)には、それぞれの上縁から反対方向に、野縁受け部14の上端面となる上フランジ141に接しながら延伸されて平面を形成するステージ部53A,53Bが設けられる。ここで、リップ部側板部51に設けられる平面をステージ部53Aとし、止め板部52に設けられる平面をステージ部53Bとする。
【0036】
ステージ部53Aには、野縁受け部14を跨がせるためにリップ部側板部51の中央に設けられる溝部511に連続する凹部532Aが形成される。一方、ステージ部53Bには、野縁受け部14を跨がせるために止め板部52の中央に設けられる溝部521に連続する凹部532Bが形成される。
【0037】
一対のステージ部53A,53Bのそれぞれに設けられる凹部532A,532Bは、図3に示すように連続した長方形の空間を形成する。この凹部532A,532Bによって形成される空間には、第1金具4の折曲げ部41の上面が収容される。要するに、ステージ部53A,53Bと折曲げ部41の上面とによって、略面一の長方形の広い平面が野縁受け部14上に形成されることになる。
【0038】
この一対のステージ部53A,53Bによって上フランジ141から張り出すように形成される広い長方形の平面には、例えば隅角部付近に、上下方向に貫通する取付孔531が穿孔される。本実施の形態では、それぞれの隅角部に4つの取付孔531が設けられた例を説明する。
【0039】
また、リップ部側板部51の下部には、図2図3に示すように側面視略レ字形の引掛け部512が設けられる。この引掛け部512は、リップ部151に下方から引っ掛けられる位置に設けられる。
【0040】
引掛け部512は、リップ部側板部51の下部の一部に対して、長方形の上辺及び両側辺に切り込みを入れてリップ部151側に倒し込むことによって形成される(図11参照)。
【0041】
図2図4に示すように、引掛け部512の上方には挿通孔513が穿孔されており、リップ部151を挟んでボルト部54が貫通される。このボルト部54は、リップ部側板部51から止め板部52の挿通孔523に向けて貫通されて、止め板部52側に突出される先端にはナット541が装着される(図6参照)。
【0042】
これに対してボルト部54の頭部側には、図4に示すように長方形(略正方形)の鋼板等によって形成される座金部55が配置される。すなわちボルト部54を締め付けることによってリップ部側板部51と止め板部52との間に導入される締結力は、座金部55とリップ部側板部51とが接触する面を通して伝達される。
【0043】
ここで、この座金部55の回転を制限させるために、リブ部514をリップ部側板部51の側縁から張り出させる。詳細には、リップ部側板部51の野縁部15の軸方向の両側縁には、野縁受け部14の軸方向と略平行となる方向に向けてリブ部514,514が張り出される。このリブ部514,514によって、鋼板などの板材を折り曲げ加工することで製作されるリップ部側板部51の剛性を高めることができる。
【0044】
さらに、図4に示すように、止め板部52の野縁部15の軸方向の両側縁にも、野縁受け部14の軸方向と略平行となる方向に向けてリブ部522,522を張り出させて剛性を高めることができる。
【0045】
ボルト部54によって板部(51,52)間に締結力が導入されると、リップ部151が圧潰して第2金具5が野縁部15に固定される。すなわち、ボルト部54の締結力が座金部55を介してリップ部側板部51に伝達されると、それに接するリップ部151が変形して押しつぶされる。
【0046】
そして、導入された締結力と変形したリップ部151とによって圧着された第2金具5は、野縁部15の軸方向への移動が制限されることになる。また、門形に成形されて第1金具4及び野縁受け部14に跨るリップ部側板部51及び止め板部52によっても、第2金具5の野縁部15の軸方向への移動は制限される。
【0047】
さらに、図示していないが、野縁受け部14に固定される第1金具4と、第1金具4に跨らせて野縁部15に固定される第2金具5とは、一体化手段によって接合させることが好ましい。
【0048】
例えば、リップ部側板部51から略直交するように接合片を突出させて第1金具4の折曲げ部41の外側面に沿って配置し、第1金具4と第2金具5とを接合させる一体化手段としてのビス材をねじ込ませる。特に、第1金具4と第2金具5との一体化手段を複数本のビス材とすることで、1本のビス材で一体化させた場合に比べて接合強度が増加して両者の一体性をさらに高めることができる。
【0049】
このようにして野縁受け部14と野縁部15との交差部17Aは、剛性の高い補強金具3によって固定することができる。この補強金具3を取り付けるだけでも、交差部17Aの接合強度が高められて補強される。
【0050】
一方、図1に示すように、補強金具3が取り付けられた交差部17A以外の交差部17Bには、補強クリップ6やクリップ61が取り付けられる。補強クリップ6は、補強金具3が取り付けられていない野縁受け部14と野縁部15との交差部17Bに取り付けられる通常のクリップ61よりも、強固に野縁受け部14と野縁部15とを連結させることができる。
【0051】
そして、交差部17Aに取り付けられた補強金具3のステージ部53A,53Bには、束材2の下端などを固定するためのアタッチメント7などが取り付けられる。図5に、補強金具3に装着するアタッチメント7の一例を示した。
【0052】
図5には、アタッチメント7の平面図と、2方向の側面図を示した。アタッチメント7は、正方形などの平面視長方形の平板部71と、平板部71の中央に上方に向けて突出させる中央凸部72とを備えている。
【0053】
平板部71の隅角部には、ステージ部53A,53Bの取付孔531と重なる位置に、それぞれボルト孔711が穿孔される。このボルト孔711と取付孔531にボルト73を通してナット731で締結することで、アタッチメント7を補強金具3に固定することができる(図6など参照)。なお、ステージ部53A,53Bの取付孔531に雌ねじ溝が刻まれている場合は、ナットを使用せずに上からねじ込んだボルト73によってアタッチメント7を固定することができる。
【0054】
アタッチメント7の中央凸部72は、例えば四角筒状の角形鋼管などによって形成することができる。また、角形鋼管の上端開口を上蓋部722で塞ぐことによって、中央凸部72の剛性を高めることができる。
【0055】
中央凸部72の側面には、図5に示すように、必要に応じて孔部721を穿孔しておくことができる。この孔部721を利用することで、束材2の下部を、ボルトやネジで簡単に固定することができるようになる。詳細については、実施例1で後述する。
【0056】
次に、本実施の形態の補強金具3及び吊り天井構造1の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の補強金具3は、野縁受け部14とリップ部151を有する野縁部15との交差部17Aにおいて吊り天井構造1を補強する。
【0057】
この補強金具3では、野縁受け部14に固定される第1金具4に野縁部15に固定される第2金具5を跨らせる。この際、座金部55が正確な向きで配置されて座金部55の全面がリップ部側板部51に接触していれば、ボルト部54による締結力が設計通りの所望した大きさで導入されて、リップ部151を設計した範囲で圧潰させることができる。
【0058】
そして、補強金具3の第2金具5によって形成されたステージ部53A,53Bにアタッチメント7を取り付けることで、図1に示すように、束材2によって梁12と補強金具3とを連結させることができる。このように束材2を配置することで、ブレースを配置することができない場合であっても、束材2を介して梁12などの構造体に地震力を伝えることができるようになる。
【0059】
さらに、束材2が補強金具3を介して交差部17Aに接続されると、束材2からの力が天井板16に伝達されることにもなる。要するに、束材2の下端を補強金具3に取り付けるのであれば、効果的に力が伝達されるように固定することができる。
【0060】
例えば、地震力が野縁部15の軸方向に作用すると、鉛直部材である束材2を介して補強金具3に力が入力されることになる。補強金具3から真下の野縁部15に伝達される力は、補強金具3を介して野縁部15の軸方向(材軸方向)に伝達され、野縁部15と天井板16とを接合させる留付けビスなどの位置において天井板16に伝達される。すなわち梁12から束材2を介して伝わった力を、伝達経路に屈曲を起こすことなく、まっすぐに野縁部15や天井板16まで伝達させることができる。
【0061】
このように補強金具3のステージ部53A,53Bを利用して束材2を設置することで、ブレースが設置できない場合でも、地震時に野縁部15の軸方向に作用する力に対して、補強金具3からそのまま直下の野縁部15に伝達させて、その野縁部15を介して効率よく天井板16に分散させることができる。
【0062】
また、野縁受け部14と野縁部15との交差部17Aは、補強金具3を取り付けることによって補強することができる。さらに、束材2が接続されるステージ部53A,53Bは、野縁受け部14の上フランジ141に接しているので、上から荷重が作用しても、野縁受け部14の反力によって支持することができる。
【0063】
さらに、平面に形成されたステージ部53A,53Bに対しては、束材2だけでなく、実施例で後述するように様々な部材を容易に取り付けることができる。すなわち、平面に広がるステージ部53A,53Bには、上下方向に貫通する取付孔531が穿孔されているので、ボルトやネジなどの接合手段を使用して、簡単に様々なアタッチメントを取り付けることができる。
【実施例1】
【0064】
以下、前記した実施の形態の補強金具3の使用例について、図6図7を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0065】
本実施例1では、鉛直部材である束材2の具体例として、アングル材2Aを使用する場合について説明する。アングル材2Aは、断面視略L字形の山形鋼によって形成される。2つの直交する側面の一方の上部を、梁12の側面に接触させて固定する。
【0066】
アングル材2Aの側面には、上部と下部のそれぞれに孔部22が穿孔されている。アングル材2Aの下部の2つの内側面は、図6に示すように、アタッチメント7の中央凸部72の直交する2つの外側面に接触させる。
【0067】
アングル材2Aの下部の孔部22と中央凸部72の孔部721には、図7に示すように固定ボルト74を挿し込んで、中央凸部72にアングル材2Aの下部を固定する。例えば、中央凸部72の孔部721に雌ねじ溝が設けられていれば、固定ボルト74を孔部721にねじ込むことで、アングル材2Aの下部を中央凸部72に接合させることができる。
【0068】
このように補強金具3のステージ部53A,53Bにボルト73で固定されたアタッチメント7に対して、固定ボルト74によって簡単にアングル材2Aの下部を取り付けることができる。
【0069】
一方、梁12に固定させるアングル材2Aの上部の孔部22には、梁12が鉄筋コンクリート造の場合はアンカー材21を挿し込む。梁12が鉄骨造などの場合は、孔部22にボルトを挿し込んで固定させることもできる。
【0070】
このように簡単に、交差部17Aに取り付けられた補強金具3にアングル材2Aを取り付けることができる。
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例2】
【0071】
以下、前記した実施例1と同様に、補強金具3の使用例について、図8を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0072】
本実施例2では、鉛直部材である束材2の具体例として、角パイプ材2Bを使用する場合について説明する。角パイプ材2Bは、四角筒状の角形鋼管によって形成される。4つの側面の一面の上部を、梁12の側面に接触させて固定する。
【0073】
角パイプ材2Bの側面には、上部と下部のそれぞれに孔部22が穿孔されている。アタッチメント7の中央凸部72に、角パイプ材2Bの下端開口を挿し込んで、角パイプ材2Bをアタッチメント7の平板部71上に立たせる。
【0074】
角パイプ材2Bの下部の孔部22を利用した固定は、上記実施例1で説明したように、中央凸部72の孔部721に固定ボルト74をねじ込む方法で行うこともできるが、孔部721が穿孔されていない中央凸部72に対する固定方法であってもよい。
【0075】
例えば、角パイプ材2Bの孔部22に雌ねじ溝を設けておき、軸部が短い固定ボルト74をねじ込んで、中央凸部72の側面に先端を当接させる。固定ボルト74のねじ込みを、角パイプ材2Bの4つの側面から行うことで、角パイプ材2Bの傾きや平板部71上での平面位置などの調整を容易に行うことができるようになる。
【0076】
さらに、角パイプ材2Bの下端面を平板部71から離隔させた状態での接続が可能になる。要するに角パイプ材2Bの高さ方向の位置を、中央凸部72の高さの範囲内で任意に調整することができるようになる。
【0077】
そして、浮かせた角パイプ材2Bの下端面と平板部71との隙間に、防振ゴムなどを介在させることで、実施例3で後述するような遮音部を介した遮音機能を備えた接続にすることもできる。
【0078】
一方、角パイプ材2Bの上部では、対向する孔部22,22に貫通するようにアンカー材21を挿し込むことで、梁12の側面に接合させる。
このように剛性の高い角パイプ材2Bであっても、アタッチメント7を介して簡単に補強金具3に取り付けて、交差部17Aと梁12とを連結することができるようになる。
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例3】
【0079】
以下、前記した実施の形態及び実施例1,2とは別の実施形態の吊り天井構造1Aについて、図9図12を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は実施例1,2で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0080】
本実施例3で説明する吊り天井構造1Aでは、図9に示すように、防振ハンガー94を備えた吊りボルト13によって吊り下げられた既存の吊り天井に対して、遮音性を損なわないような形態でブレースなどの斜め部材を配置しての耐震補強が行われる。ここで、防振ハンガー94とは、特開2009-2435号公報に記載されているような、吊りボルト13の途中に取り付けられて、天井板16の重量が作用している状態で充分な遮音性能が発揮できるように設計された防振部材である。
【0081】
吊り天井構造1Aには、野縁受け部14の軸方向に沿って側面視略V形に配置される一対の野縁受け方向の斜め部材としてのブレース8,8と、野縁部15の軸方向に沿って側面視略V形に配置される一対の野縁方向の斜め部材としてのブレース8,8とが設けられる。
【0082】
ブレース8の上端は、取付金物81を介して吊りボルト13の上部に固定される。一方、野縁受け部14と野縁部15との交差部17Cには、補強金具3が取り付けられる。そして、この補強金具3に対して、ブレース8の下端が取り付けられる。
【0083】
詳細には、図10に示すように、補強金具3に対してアタッチメント7Aが取り付けられ、そのアタッチメント7Aに取り付けられる防振部材となる遮音部9を介してブレース8の下端が取り付けられる。
【0084】
この遮音部9は、図10図12に示すように、アタッチメント7Aの中央凸部72Aに装着される。この中央凸部72Aは、前記実施の形態で説明したアタッチメント7の中央凸部72と比較して、45°回転させた向きで取り付けられる。すなわち図10に示すように、中央凸部72Aの隅角部は、野縁受け部14と野縁部15の軸方向に向いて配置される。
【0085】
そして、遮音部9は、中央凸部72Aの外周を囲繞する四角筒状のさや管91と、中央凸部72Aとさや管91との隙間に介在させる防振ゴム92と、ブレース8の下端を取り付けるための取付片93とによって主に構成される。
【0086】
さや管91の大きさは、介在させる防振ゴム92の厚さに応じて設定される。中央凸部72Aとさや管91との間に防振ゴム92を介在させることで、ブレース8と補強金具3との間で微振動などが伝達されるのを抑えることができる。要するに、ブレース8と補強金具3との間で音響的な絶縁が図れればよいので、中央凸部72Aとさや管91との間は単なる隙間であっても良い。
【0087】
このように防振ゴム92を介在させたり、中央凸部72Aとさや管91との間に隙間を設けたりすることで、床スラブ11などの構造体側で発生した振動が、ブレース8を介して天井板16下方の空間に伝達されるのを防ぐことができる。反対に、天井板16の下方空間で発生した音が、ブレース8を介して上階などに伝達されるのも防ぐことができる。
【0088】
取付片93は、さや管91のそれぞれの隅角部から、野縁受け部14と野縁部15の軸方向にそれぞれ延伸される。そして、図11及び図12に示すように、それぞれの軸方向に延びた取付片93に対して、アーム材82がボルト821によって斜めに取り付けられる。
【0089】
このアーム材82には、ブレース8の下端が接合される。アーム材82は、ブレース8の下端を取り付けるための断面視略L字形に形成されている。このように2方向にそれぞれ側面視略V形に配置された4本のブレース8の下端は、1箇所の遮音部9に集約して取り付けることができる。
【0090】
そして、遮音部9は、アタッチメント7Aを介して補強金具3に接続される。このように、野縁受け部14と野縁部15との交差部17Cに取り付けられる補強金具3に遮音部9を設けることで、設置箇所が集約されるので、使用する部品数が少なくなり施工性に優れている。すなわち、4本のブレース8のそれぞれに防振部材を介在させる場合と比べて、交差部17Cの1箇所に遮音部9を設置するだけでよいため、部品数を大幅に削減することができ合理的である。
【0091】
このように構成された実施例3の吊り天井構造1Aでは、ブレース8が補強金具3を介して交差部17Cに接続されているため耐震性が高いうえに、ブレース8からの力が天井板16に伝達されるまでに遮音部9が介在されるので、遮音機能を確保することができる。
【0092】
すなわち、野縁受け部14と野縁部15との交差部17Cに補強金具3を取り付け、補強金具3に遮音部9を介して4本のブレース8をそれぞれ繋ぐだけで、効率的に耐震性と遮音性を高めることができる。
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【0093】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態及び実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0094】
例えば、前記実施の形態及び実施例では、補強金具3のステージ部53A,53Bにアタッチメント7を介して束材(2,2A,2B)や遮音部9付きのブレース8を接続する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、補強金具3のステージ部53A,53Bによって形成される平面には、様々なアタッチメントや部材を接続することができる。
【0095】
また、前記実施の形態では、補強金具3を束材2が配置される交差部17Aにだけ取り付けたが、補強クリップ6などに代えてそれ以外の交差部17Bにも補強金具3を取り付けることで、大地震によって揺れが非常に大きくなっても脱落しにくい吊り天井構造にすることができる。
【0096】
要するに、野縁受け部14と野縁部15との交差部の接合強度を補強金具3によって増加させることで、天井の脱落防止効果を高めることができる。例えば、束材2やブレース8などが配置されていない吊り天井であっても、補強金具3を交差部に取り付けることによって、風揺れや鉛直荷重の継続作用等に伴う脱落を防ぐことができるようになる。
【符号の説明】
【0097】
1,1A :吊り天井構造
11 :床スラブ(構造体)
12 :梁(構造体)
14 :野縁受け部
141 :上フランジ(上端面)
15 :野縁部
151 :リップ部
17A,17C:交差部
2 :束材(鉛直部材)
2A :アングル材(鉛直部材)
2B :角パイプ材(鉛直部材)
3 :補強金具
4 :第1金具
41 :折曲げ部
42 :切欠き部
43 :ビス材(接合手段)
5 :第2金具
51 :リップ部側板部(板部)
512 :引掛け部
52 :止め板部(板部)
53A,53B:ステージ部
531 :取付孔
54 :ボルト部
8 :ブレース(斜め部材)
9 :遮音部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12