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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ラックアンドピニオン機構
(51)【国際特許分類】
   B62D 3/12 20060101AFI20241210BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B62D3/12 503A
B62D5/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021004127
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2022108908
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】生田 篤志
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-084002(JP,A)
【文献】特開2006-182321(JP,A)
【文献】特開2002-079946(JP,A)
【文献】特開2005-035414(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0047792(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/12
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ピニオンギヤを有し軸周りに回転可能に支持される第1ピニオンと、
第2ピニオンギヤを有し軸周りに回転可能に支持される第2ピニオンと、
前記第1ピニオンギヤと前記第2ピニオンギヤとに噛合するラック歯を有するラックバーと、
前記ラックバーの軸方向における前記第1ピニオンギヤの軸方向位置に配置され、前記ラックバーの背面に摺接するガイド部で、前記ラック歯を前記第1ピニオンギヤに押圧する滑り式ラックガイドと、
前記軸方向における前記第2ピニオンギヤの軸方向位置に配置され、前記ラックバーの背面に転がり接触するローラで、前記ラック歯を前記第2ピニオンギヤに押圧する転がり式ラックガイドと、
前記転がり式ラックガイドの前記軸方向両側に設けられ、前記ラックバーを前記軸方向に摺動自在に支持する一対のラックブッシュと、を備え
前記ラック歯は、前記第1ピニオンギヤと噛合する第1ラック歯と、前記第2ピニオンギヤと噛合する第2ラック歯とを有し、
前記一対のラックブッシュのうち一方のラックブッシュは、前記滑り式ラックガイドと前記転がり式ラックガイドとの間に配置され、前記ラックバーが中立位置にあるときに、前記ラックバーに前記第2ラック歯が形成される箇所を支持する、
とを特徴とするラックアンドピニオン機構。
【請求項2】
前記第1ピニオンはステアリングホイールに連結されて回転駆動され、前記第2ピニオンはアクチュエータに連結されて回転駆動されることを特徴とする請求項1に記載のラックアンドピニオン機構。
【請求項3】
前記第1ピニオンはアクチュエータに連結されて回転駆動され、前記第2ピニオンはステアリングホイールに連結されて回転駆動されることを特徴とする請求項1に記載のラックアンドピニオン機構。
【請求項4】
前記一対のラックブッシュのうち一方のラックブッシュは、前記滑り式ラックガイドと前記転がり式ラックガイドとの間、かつ前記ラックバーの前記軸方向中央よりも前記転がり式ラックガイドに近い位置に配置されることを特徴とする請求項に記載のラックアンドピニオン機構。
【請求項5】
前記滑り式ラックガイドと前記転がり式ラックガイドのうち、前記転がり式ラックガイドの前記軸方向両側のみに、前記一対のラックブッシュが設けられることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のラックアンドピニオン機構。
【請求項6】
第1ピニオンギヤを有し軸周りに回転可能に支持される第1ピニオンと、
第2ピニオンギヤを有し軸周りに回転可能に支持される第2ピニオンと、
前記第1ピニオンギヤと前記第2ピニオンギヤとに噛合するラック歯を有するラックバーと、
前記ラックバーの軸方向における前記第1ピニオンギヤの軸方向位置に配置され、前記ラックバーの背面に摺接するガイド部で、前記ラック歯を前記第1ピニオンギヤに押圧する滑り式ラックガイドと、
前記軸方向における前記第2ピニオンギヤの軸方向位置に配置され、前記ラックバーの背面に転がり接触するローラで、前記ラック歯を前記第2ピニオンギヤに押圧する転がり式ラックガイドと、
前記滑り式ラックガイドと前記転がり式ラックガイドとの間に配置され、前記ラックバーが中立位置にあるときに、前記第2ピニオンギヤと噛合するラック歯が前記ラックバーに形成される箇所を前記軸方向に摺動自在に支持するラックブッシュと、
を備え、
前記第1ピニオンはアクチュエータに連結されて回転駆動され、前記第2ピニオンはステアリングホイールに連結されて回転駆動される、
ことを特徴とするラックアンドピニオン機構。
【請求項7】
第1ピニオンギヤを有し軸周りに回転可能に支持される第1ピニオンと、
第2ピニオンギヤを有し軸周りに回転可能に支持される第2ピニオンと、
前記第1ピニオンギヤと前記第2ピニオンギヤとに噛合するラック歯を有するラックバーと、
前記ラックバーの軸方向における前記第1ピニオンギヤの軸方向位置に配置され、前記ラックバーの背面に摺接するガイド部で、前記ラック歯を前記第1ピニオンギヤに押圧する滑り式ラックガイドと、
前記軸方向における前記第2ピニオンギヤの軸方向位置に配置され、前記ラックバーの背面に転がり接触するローラで、前記ラック歯を前記第2ピニオンギヤに押圧する転がり式ラックガイドと、
を備え、
前記第1ピニオンはアクチュエータに連結されて回転駆動され、前記第2ピニオンはステアリングホイールに連結されて回転駆動され、
前記滑り式ラックガイドと前記転がり式ラックガイドのうち、前記転がり式ラックガイドの前記軸方向両側のみに、前記ラックバーを前記軸方向に摺動自在に支持する一対のラックブッシュが設けられることを特徴とするラックアンドピニオン機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックアンドピニオン機構に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、運転者が与えるマニュアル操舵力によって回転する第2ピニオンがラック軸と噛み合う位置と、電動モータが発生する操舵補助力によって回転する第1ピニオンがラック軸とが噛み合う位置の各々に、滑り式ラックガイドを配置したステアリング装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6120047号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
滑り式ラックガイドは、ラックバーの背面に摺接してラック歯をピニオンギヤに押圧するため、滑り式ラックガイドとラックバーとの間に摺動摩擦が発生する。このため、複数のピニオンがラックバーと噛み合う位置の各々に滑り式ラックガイドを配置すると、ラックバーの駆動に要する力が増加するという問題があった。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、複数のピニオンを有するラックアンドピニオン機構において、ラックガイドとラックバーとの間の摩擦力が増加するのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によるラックアンドピニオン機構は、第1ピニオンギヤを有し軸周りに回転可能に支持される第1ピニオンと、第2ピニオンギヤを有し軸周りに回転可能に支持される第2ピニオンと、第1ピニオンギヤと第2ピニオンギヤとに噛合するラック歯を有するラックバーと、ラックバーの軸方向における第1ピニオンギヤの軸方向位置に配置され、ラックバーの背面に摺接するガイド部で、ラック歯を第1ピニオンギヤに押圧する滑り式ラックガイドと、軸方向における第2ピニオンギヤの軸方向位置に配置され、ラックバーの背面に転がり接触するローラで、ラック歯を第2ピニオンギヤに押圧する転がり式ラックガイドと、転がり式ラックガイドの軸方向両側に設けられ、ラックバーを軸方向に摺動自在に支持する一対のラックブッシュと、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複数のピニオンを有するラックアンドピニオン機構において、ラックガイドとラックバーとの間の摩擦力が増加するのを抑制できる。また、ラックガイドとラックバーとの摺接箇所の摩耗を低減でき、ピニオンギヤとラック歯との噛み合い箇所の剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態のラックアンドピニオン機構を備える操舵機構の一例の概要を示す構成図である。
図2】滑り式ラックガイドの一例の概略断面図である。
図3】転がり式ラックガイドの一例の概略断面図である。
図4】(a)は運転者により印加される操舵トルクの時間変化の一例を示す概念図であり、(b)は操舵トルクの時間変化に応じたアシストトルクの時間変化の一例を示す概念図であり、(c)はラックガイドに生じる摩擦力の時間変化の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
(第1実施形態)
(構成)
図1は、第1実施形態のラックアンドピニオン機構を備える操舵機構の一例の概要を示す構成図である。第1実施形態の操舵機構は、アクチュエータ(例えば電動モータ)によって車両の操舵系に操舵補助トルクを付与する電動パワーステアリング装置1を有する。
電動パワーステアリング装置1において、ステアリングホイール(操向ハンドル)2の操舵軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)3は、ユニバーサルジョイント4a及び4b、第1ピニオンシャフト5、第1ピニオンギヤ5a、ラックバー6、タイロッド7L、7Rを経て操向車輪8L、8Rに連結されている。
【0010】
一方で、電動モータ20の出力軸である回転軸21は、減速機構22、第2ピニオンシャフト23、第2ピニオンギヤ23a、ラックバー6、タイロッド7L、7Rを経て操向車輪8L、8Rに連結され、電動モータ20が発生した操舵補助トルクを操向車輪8L、8Rに伝達する。減速機構22は、例えば、回転軸27に連結された駆動ギヤ22a(例えばウォーム軸等)と、駆動ギヤ22aと噛み合い第2ピニオンシャフト23と一体回転可能に連結された従動ギヤ22b(例えばウォームホイール等)を備えている。
なお、第2ピニオンシャフト23及び第2ピニオンギヤ23aに回転駆動力を付与する構成は上記の構成に限られない。電動モータ以外の様々なアクチュエータと様々な動力伝達機構によって第2ピニオンシャフト23及び第2ピニオンギヤ23aを回転駆動することができる。
【0011】
図示の通り、第1ピニオンシャフト5及び第1ピニオンギヤ5aと、第2ピニオンシャフト23及び第2ピニオンギヤ23aとは、ラックバー6の軸方向(以下、単に「軸方向」と表記することがある)の中央Cを挟んで、軸方向両側に配置されている。
軸方向におけるラックバー6の範囲R1には、第1ピニオンギヤ5aと噛合する第1ラック歯6aが形成されており、軸方向におけるラックバー6の範囲R2には、第2ピニオンギヤ23aと噛合する第2ラック歯6bが形成されている。
いる。
【0012】
また、ラックバー6を収納するラックハウジング9には、軸方向における第1ピニオンギヤ5aの軸方向位置に滑り式ラックガイド10が設けられている。滑り式ラックガイド10は、ラックバー6の背面に摺接することにより、第1ラック歯6aを第1ピニオンギヤ5aに押圧するガイド部を備えている。
一方で、ラックハウジング9には、軸方向における第2ピニオンギヤ23aの軸方向位置に、転がり式ラックガイド30が設けられている。転がり式ラックガイド30は、ラックバー6の背面に転がり接触することにより、第2ラック歯6bを第2ピニオンギヤ23aに押圧するローラを備えている。
【0013】
なお、ラックバー6の「背面」とは、ラックバー6の外周面のうち、ラックバー6の径方向において第1ラック歯6aや第2ラック歯6bと反対側にある面をいう。
以下の説明において、第1ピニオンギヤ5aと第2ピニオンギヤ23aとを総称して「ピニオンギヤ」と表記し、第1ラック歯6aと第2ラック歯6bとを総称して「ラック歯」と表記し、滑り式ラックガイド10と転がり式ラックガイド30とを総称して「ラックガイド」と表記することがある。
【0014】
図2は、滑り式ラックガイド10の一例の概略断面図である。図2において、Z方向はラックバー6の軸方向であり、X方向は滑り式ラックガイド10が第1ラック歯6aを第1ピニオンギヤ5aに押圧するラックガイド軸方向であり、Y方向はX方向及びZ方向に直交する方向である。
滑り式ラックガイド10のラックガイドスクリュー12は、ラックハウジング9に取り付けられる。例えば、ラックガイドスクリュー12の外周面に設けられるねじ溝が、ラックハウジング9の内周面に設けられるねじ溝に噛み合う。弾性部材15は、ラックガイドスクリュー12と、ガイド部11との間に配置される。弾性部材15は、例えばコイルばねである。
弾性部材15が、ガイド部11をラックバー6の背面に押し付けることで、ガイド部11がラックバー6の背面に摺接して、第1ラック歯6aを第1ピニオンギヤ5aに押圧する。
ガイド部11の外周面には係止凹溝16が形成され、弾性リング(例えばOリング)17が係止凹溝16に係止されている。このような弾性リング17を設けることでガイド部11ががたつくことを防止するとともに、滑り式ラックガイド10内部に泥水などの異物が進入するのを防止できる。
【0015】
図3は、転がり式ラックガイド30の一例の概略断面図である。図3において、Z方向はラックバー6の軸方向であり、X方向は転がり式ラックガイド30が第2ラック歯6bを第2ピニオンギヤ23aに押圧するラックガイド軸方向であり、Y方向はX方向及びZ方向に直交する方向である。
転がり式ラックガイド30は、ピン31と、ローラ32と、略円筒形のホルダ33を備える。
ラックバー6を支承するローラ32は、略円筒形のホルダ33の内面に形成されたピン挿入溝34に挿入されたピン31の上に、ニードルベアリング35を介して回転自在に保持されている。これにより、ローラ32がラックバー6の背面に転がり接触して、第2ラック歯6bが前記第2ピニオンギヤ23aに押圧される。
ホルダ33の外周面には係止凹溝36が形成され、弾性リング(例えばOリング)37が係止凹溝36に係止されている。このような弾性リング37を設けることでホルダ33ががたつくことを防止するとともに、転がり式ラックガイド30内部に泥水などの異物が進入するのを防止できる。
【0016】
第1実施形態では、ステアリングホイール2に連結されて回転駆動される第1ピニオンギヤ5aの軸方向位置に配置されるラックガイド(すなわち、第1ラック歯6aを第1ピニオンギヤ5aに押圧するラックガイド、以下「操舵側ラックガイド」と表記することがある)として、滑り式ラックガイド10を採用する。
また、電動モータ20に連結されて回転駆動される第2ピニオンギヤ23aの軸方向位置に配置されるラックガイド(すなわち、第2ラック歯6bを第2ピニオンギヤ23aに押圧するラックガイド、以下「アシスト側ラックガイド」と表記することがある)として、転がり式ラックガイド30を配置する。
これにより、ラックバー6が動いており電動モータ20による操舵補助トルクが比較的大きい領域において、ラックバー6とラックガイドとの間に生じる摩擦力を低減させ、ラックバーの駆動に要する力が増加するのを抑制できる。その理由を以下に説明する。
【0017】
ラックバー6が動いている状態でラックガイドとラックバー6の間に生じる摩擦力は、以下の式(1)により計算される。
F’=μ’N …(1)
式(1)において、F’は動摩擦力、μ’は動摩擦係数、Nはラックバー6に対してラックガイド軸方向(X方向)に作用する垂直抗力である。
【0018】
ここで、ピニオンギヤに生じる回転トルクと、垂直抗力との関係について説明する。
ラックアンドピニオン機構において、ピニオンギヤに回転トルクが発生すると、ラックバー6には、ピニオンギヤから離れる方向の力が作用する。
このピニオンギヤから離れる方向の力は、ピニオンギヤからラック歯に伝達される力の、ラックガイド軸方向に生じる分力である。
【0019】
したがって、ピニオンギヤからラック歯に伝達される力が増加するほど、ラックバー6がピニオンギヤから離れる力が増加する。換言すると、ピニオンギヤに生じるトルクが増加すると、ラックバー6がピニオンギヤから離れる力が増加し、ラックガイドとラックバー6との間に発生する垂直抗力も増加する。
【0020】
ここで、ラックバー6が動いており電動モータ20による操舵補助トルクが大きい領域では、ステアリングホイール2により回転駆動される第1ピニオンギヤ5aの回転トルクよりも、電動モータ20により回転駆動される第2ピニオンギヤ23aの回転トルクの方が大きい。
【0021】
このため、操舵側ラックガイドとラックバー6との間の摩擦力よりも、アシスト側ラックガイドとラックバー6との間の摩擦力の方が大きくなり易い。ラックガイドとラックバーとの間の摺動摩擦が大きくなると、ラックバー6の駆動に要する力の増加を招く。
そこで、アシスト側ラックガイドとして摺動抵抗の小さい転がり式ラックガイド30を配置し、アシスト側ラックガイドに生じる摩擦力を低減することで、ラックバー6全体に生じる摩擦を効果的に減少させることができる。
また、アシスト側ラックガイドに設けられるラックガイドとラックバー6との摺接部分の耐摩耗性を向上できる。
【0022】
しかしながら、転がり式ラックガイド30には、ラックバー6の軸方向(Z方向)とラックガイド軸方向(X方向)とに直交するY方向においてラックバー6を保持するための保持力が、滑り式ラックガイド10よりも小さくなるという傾向がある。
これは、転がり式ラックガイド30は、略円筒形のホルダ33内にピン31を入れ、ピン31とラックバー6との間にローラ32を配置するという構造を有するため、ローラ32の径方向寸法には制限があり、ラックバー6と対向する面に形成されたローラ32の凹部が、滑り式ラックガイド10のガイド部11(図2)の凹部と比べて、浅くなるためである。
【0023】
そこで、第1実施形態のラックアンドピニオン機構では、転がり式ラックガイド30の軸方向両側に、ラックバー6を摺動自在に支持する一対のラックブッシュを設ける。
これにより、転がり式ラックガイド30の配置位置でラックバー6を保持するY方向の保持力を増加させることができる。この結果、第2ピニオンギヤ23aと第2ラック歯6bとの噛み合い箇所の剛性を高めることができる。
【0024】
再び図1を参照する。ラックハウジング9には、転がり式ラックガイド30の軸方向両側に一対のラックブッシュ40、41が設けられている。ラックブッシュ40、41は、ラックバー6を軸方向に摺動自在に支持する。
ラックブッシュ40、41は、ラックハウジング9に挿入される円筒状部材であり、例えば円筒部分の外周面のつばがラックハウジング9の内周面の溝に嵌合する等の構成によって、ラックハウジング9に対する軸方向における相対移動が規制される。
ラックバー6をラックブッシュ40、41に挿入し、ラックハウジング9とラックバー6との隙間にラックブッシュ40、41を介在させることにより、ラックバー6が軸方向に摺動自在に支持される。
【0025】
例えば、一対のラックブッシュ40、41のうち一方のラックブッシュ40を、滑り式ラックガイド10と転がり式ラックガイド30との間、かつラックバー6の軸方向中央Cよりも転がり式ラックガイド30に近い位置に配置してよい。
転がり式ラックガイド30に近い位置にラックブッシュ40を配置することにより、転がり式ラックガイド30の配置位置におけるY方向のラックバー6の保持力をより増加させることができる。
例えば一対のラックブッシュ40、41は、転がり式ラックガイド30の軸方向両側の近傍に設けてよい。
【0026】
また例えば、一対のラックブッシュ40、41のうち、滑り式ラックガイド10と転がり式ラックガイド30との間に配置する一方のラックブッシュ40を、ラックバー6が中立位置にあるときに、ラックバー6に第2ラック歯6bが形成される範囲R2を支持するように配置してもよい。
このように、転がり式ラックガイド30に近い位置にラックブッシュ40を配置することにより、転がり式ラックガイド30の配置位置におけるY方向のラックバー6の保持力をより増加させることができる。
なお、ラックバー6が中立位置にあるときとは、操舵機構が中立位置にあるときや、ステアリングホイール2が中立位置にあるときを意味する。
【0027】
なお、図1の例では、一対のラックブッシュは、滑り式ラックガイド10と転がり式ラックガイド30のうち、転がり式ラックガイド30の軸方向両側のみに設けられ、滑り式ラックガイド10の軸方向両側には設けられていない。これは、滑り式ラックガイド10がラックバー6をY方向に保持するための保持力は、転がり式ラックガイド30の場合よりも大きくし易いからである。ただし変形例として、滑り式ラックガイド10の軸方向両側に一対のラックブッシュを設けてもよい。
【0028】
(第1実施形態の効果)
(1)ラックアンドピニオン機構は、第1ピニオンギヤ5aを有し軸周りに回転可能に支持される第1ピニオンシャフト5と、第2ピニオンギヤ23aを有し軸周りに回転可能に支持される第2ピニオンシャフト23と、第1ピニオンギヤ5aと第2ピニオンギヤ23aとに噛合する第1ラック歯6a、第2ラック歯6bを有するラックバー6と、ラックバー6の軸方向における第1ピニオンギヤ5aの軸方向位置に配置され、ラックバー6の背面に摺接するガイド部11で、第1ラック歯6aを第1ピニオンギヤ5aに押圧する滑り式ラックガイド10と、軸方向における第2ピニオンギヤ23aの軸方向位置に配置され、ラックバー6の背面に転がり接触するローラ32で、第2ラック歯6bを第2ピニオンギヤ23aに押圧する転がり式ラックガイド30と、転がり式ラックガイド30の軸方向両側に設けられ、ラックバー6を軸方向に摺動自在に支持する一対のラックブッシュ40、41とを備える。
【0029】
これにより、第1ラック歯6aを第1ピニオンギヤ5aに押圧するラックガイドと、第2ラック歯6bを第2ピニオンギヤ23aに押圧するラックガイドの一方を、摺動抵抗の少ない転がり式ラックガイド30とすることで、ラックガイドとラックバー6との間の摩擦によりラックバー6の駆動に要する力が増加するのを抑制できる。
また、第2ピニオンギヤ23aの軸方向位置に設けられるラックガイドとラックバー6との摺接箇所の摩耗を軽減できる。
【0030】
また、転がり式ラックガイド30の軸方向両側に一対のラックブッシュ40、41を設けることで、転がり式ラックガイド30の配置位置でラックバー6を保持するY方向(ラックバー6の軸方向とラックガイド軸方向とに直交する方向)の保持力を増加させ、第2ピニオンギヤ23aと第2ラック歯6bとの噛み合い箇所の剛性を高めることができる。
【0031】
(2)アシスト側ラックガイドを転がり式ラックガイド30とし、操舵側ラックガイドを滑り式ラックガイド10としてよい。
アクチュエータによる操舵補助トルクが大きい領域では、ステアリングホイール2により回転駆動される操舵側のピニオンギヤよりも、アクチュエータにより回転駆動されるアシスト側のピニオンギヤの回転トルクの方が大きい。このため、アシスト側ラックガイドとラックバー6との間の摩擦力が大きくなり易い。
アシスト側ラックガイドを転がり式ラックガイド30とすることにより、ラックバー6全体に生じる摩擦を効果的に減少させることができる。
【0032】
(3)一対のラックブッシュ40、41のうち一方のラックブッシュ41は、滑り式ラックガイド10と転がり式ラックガイド30との間、かつラックバー6の軸方向中央Cよりも転がり式ラックガイド30に近い位置に配置してよい。
このように、転がり式ラックガイド30に近い位置にラックブッシュ40を配置することにより、転がり式ラックガイド30の配置位置におけるY方向のラックバー6の保持力をより増加させることができる。
【0033】
(4)一対のラックブッシュ40、41のうち、滑り式ラックガイド10と転がり式ラックガイド30との間に配置する一方のラックブッシュ40を、ラックバー6が中立位置にあるときに、ラックバー6に第2ラック歯6bが形成される範囲R2を支持するように配置してもよい。
このように、転がり式ラックガイド30に近い位置にラックブッシュ40を配置することにより、転がり式ラックガイド30の配置位置におけるY方向のラックバー6の保持力をより増加させることができる。
【0034】
(5)滑り式ラックガイド10と転がり式ラックガイド30のうち、転がり式ラックガイド30の軸方向両側のみに、一対のラックブッシュ40、41を設けてもよい。
これにより、転がり式ラックガイド30の配置位置におけるY方向のラックバー6の保持力をより増加させることができる。
【0035】
(第2実施形態)
第2実施形態のラックアンドピニオン機構では、操舵側ラックガイドを、転がり式ラックガイド30とし、アシスト側ラックガイドを、滑り式ラックガイド10とする。
そして、操舵側ラックガイドである転がり式ラックガイド30の軸方向両側に、一対のラックブッシュ40、41を設ける。
【0036】
これにより、アシスト側ラックガイドと操舵側ラックガイドの両方に滑り式ラックガイドを用いる場合に比べ、電動モータ20による操舵補助トルクが比較的小さい領域において、ステアリング操作特性を向上させることができる。
アシストトルクが低い領域の具体例は、運転者が操舵を開始してから、電動モータ20が操舵補助トルクを発生させた直後までの間の領域(いわゆる動き出し領域)である。
【0037】
この動き出し領域では、運転者はいわゆるはりつき感を感じやすい。はりつき感とは、運転者が付与した操舵トルクに見合ったラックバー6の移動量が得られない場合に、運転者が体感する感覚である。
通常、運転者が比較的大きな操舵トルクを付与した場合、運転者はラックバー6が大きく移動することを期待するが、ラックバー6の移動量が小さい場合、ラックバー6が現在位置に張り付いたような感覚を覚える。
【0038】
典型的には、ラックバー6を軸方向に移動させる際に、移動方向と反対方向に生じる摩擦力が大きいほど、運転者は大きなはりつき感を感じる。
操舵側ラックガイドとして転がり式ラックガイド30を用い、アシスト側ラックガイドとして滑り式ラックガイド10を用いる場合には、アシスト側ラックガイドと操舵側ラックガイドの両方に滑り式ラックガイドを用いる場合に比べ、電動モータ20による操舵補助トルクが低い領域において、ラックバー6に生じる摩擦力を効果的に減少させることができ、したがって、はりつき感を低減させることができる。
【0039】
図4(a)~図4(c)は、運転者が時刻t1において操舵トルクTmを付与し始め、t4において操舵トルクTmを所定の値に保持した場合における、操舵トルクTm、電動モータ20によるアシストトルク(操舵補助トルク)Ta、各ラックガイドに生じる摩擦力の時間変化を示す概念図である。
図4(a)に示すとおり、操舵トルクTmは、時刻t1から上昇し、時刻t4にて所定の値に維持される。また図4(b)に示すとおり、アシストトルクTaは、時刻t1からやや遅れた時刻t2から上昇し始め、時刻t4からやや遅れた時刻t5にて所定の値に維持される。
【0040】
このような操舵トルクの時間変化に対するアシストトルクの時間変化の遅れは、コントローラにおける制御計算などにより生じる。
図4(c)は、操舵側ラックガイドとアシスト側ラックガイドとの両方を滑り式ラックガイドにした場合において、各ラックガイドとラックバー6との間で生じる摩擦力の時間変化を示した図である。
【0041】
実線は、滑り式ラックガイドであるアシスト側ラックガイドに生じる摩擦力を示し、破線は、滑り式ラックガイドである操舵側ラックガイドに生じる摩擦力を示す。
上述の通り、ピニオンに生じる回転トルクが大きいほど、ラックガイドとラックバー6との間で生じる摩擦力が大きくなる。
【0042】
このため、操舵側ラックガイドに生じる摩擦力(破線)は、操舵トルクTmが時刻t1から時刻t4にかけて増加することに伴って、同様のタイミングで増加する。
また、アシスト側ラックガイドに生じる摩擦力は、アシストトルクTaが時刻t2から時刻t5にかけて増加することに伴って、同様のタイミングで増加する。
【0043】
ここで、図示の時刻t3は、操舵側ラックガイドに生じる摩擦力と、アシスト側ラックガイドに生じる摩擦力とが一致する時刻である。
すなわち、時刻t1からt3においては、操舵側ラックガイドに生じる摩擦力は、アシスト側ラックガイドに生じる摩擦力に比べて大きい。したがって、この時刻t1からt3においては、操舵側ラックガイドに生じる摩擦力を低減させることにより、ラックバー6全体に生じる摩擦を効果的に減少させることができる
【0044】
図4(c)の一点鎖線は、操舵側ラックガイドとして、転がり式ラックガイドを用いた場合における、操舵側ラックガイドに生じる摩擦力の時間変化を表した図である。転がり式ラックガイドは滑りラックガイドに比べて動摩擦係数μ’が小さいため、滑り式ラックガイドを用いた場合(点線)に比べ、発生する摩擦力が小さくなる。
【0045】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態のラックアンドピニオン機構では、操舵側ラックガイドを転がり式ラックガイド30とし、アシスト側ラックガイドを滑り式ラックガイド10とする。
これにより、電動モータ20による操舵補助トルクが低い領域において、ラックバー6に生じる摩擦力を効果的に減少させることができ、運転者が体感するはりつき感を低減させることができる。
【0046】
(変形例)
また、上記の説明では、実施形態のラックアンドピニオン機構を、アクチュエータによって車両の操舵系に操舵補助トルクを付与する電動パワーステアリング装置に適用する場合について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されず、少なくとも2つのピニオンギヤに噛合するラックバーを備えるラックアンドピニオン機構に広く適用可能である。例えば、ステアリングホイールと操向車輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ(SBW:Steer-By-Wire)式の操舵装置に適用してもよい。この場合、一方のピニオンギヤをステアリングホイールにクラッチを介して連結し、転舵力を発生させるアクチュエータを他方のピニオンギヤに連結してよい。
【符号の説明】
【0047】
1…電動パワーステアリング装置、2…ステアリングホイール、3…操舵軸、4a、4b…ユニバーサルジョイント、5…第1ピニオンシャフト、5a…第1ピニオンギヤ、6…ラックバー、6a…第1ラック歯、6b…第2ラック歯、7L、7R…タイロッド、8L、8R…操向車輪、9…ラックハウジング、10…滑り式ラックガイド、11…ガイド部、12…ラックガイドスクリュー、15…弾性部材、20…電動モータ、21…回転軸、22…減速機構、22a…駆動ギヤ、22b…従動ギヤ、23…第2ピニオンシャフト、23a…第2ピニオンギヤ、30…転がり式ラックガイド、31…ピン、32…ローラ、33…ホルダ、34…ピン挿入溝、35…ニードルベアリング、40、41…ラックブッシュ
図1
図2
図3
図4