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特許7601386モンモリロナイトスラリー、粘土膜、及びモンモリロナイトスラリーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】モンモリロナイトスラリー、粘土膜、及びモンモリロナイトスラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/40 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
C01B33/40
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021119510
(22)【出願日】2021-07-20
(65)【公開番号】P2023015615
(43)【公開日】2023-02-01
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 道也
(72)【発明者】
【氏名】窪田 宗弘
(72)【発明者】
【氏名】原 康祐
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-077794(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168945(WO,A1)
【文献】特開2018-083728(JP,A)
【文献】特開2015-147300(JP,A)
【文献】特開2017-031015(JP,A)
【文献】特開2018-193276(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112058214(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103213998(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水とアセトンとを含有してなる極性媒体中に、陽イオン交換容量が50meq/100g以下のリチウム固定型モンモリロナイトが分散してなり、該分散状態における前記リチウム固定型モンモリロナイトの粒子径が15μm以下である、モンモリロナイトスラリー。
【請求項2】
前記極性媒体が、ホルムアミド基を有する極性有機溶媒、アセトニトリル及びメチルエチルケトンのいずれも含まない、請求項1に記載のモンモリロナイトスラリー。
【請求項3】
前記極性媒体中、水の含有量とアセトンの含有量の合計に占める水の割合が80質量%以下である、請求項1又は2に記載のモンモリロナイトスラリー。
【請求項4】
前記極性媒体がアンモニアを含む極性媒体であり、当該アンモニアの含有量が、前記モンモリロナイトスラリー中の前記リチウム固定型モンモリロナイト1g当たり0.1mmol以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のモンモリロナイトスラリー。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のモンモリロナイトスラリーを用いた粘土膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モンモリロナイトスラリー、粘土膜、及びモンモリロナイトスラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用粘土は増粘剤、粘結剤、レオロジー改質剤、無機バインダー、土木泥水、止水材、化粧品原料等、様々な分野で利用されている。
工業用粘土の一種としてモンモリロナイトが知られている。モンモリロナイトの一般的な結晶構造は、ケイ酸のネットワークが広がるケイ酸四面体シートがアルミナ八面体シートを挟んで存在する、2:1層構造の単位結晶層からなる。多くの場合、この結晶層中においてアルミナ八面体シートの中心原子であるアルミニウムの一部がマグネシウムに置換され、これにより結晶層は負に帯電し、この負電荷を中和する形で層間には陽イオンが取り込まれている。また、この陽イオンはイオン交換が可能であるため、モンモリロナイトは陽イオン交換性を示す。イオン交換可能な陽イオン量は陽イオン交換容量(CEC:Cation Exchange Capacity)と呼ばれ、モンモリロナイトの特性を示す指標の一つとなっている。
【0003】
モンモリロナイトを加熱処理に付すると、脱水に伴い層間の陽イオン(プロトン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、アンモニウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等)が固定化されることが知られている。陽イオンが固定化されると、水に対する分散安定性、増粘性、膨潤性、陽イオン交換性といったモンモリロナイトの基本的な特性が低下する。特にリチウムイオンは、200℃程度あるいはそれ以上の温度をかけることにより固定化される。従って、層間にリチウムイオンを一定量以上含むモンモリロナイトは、200℃程度あるいはそれ以上の加熱処理によって陽イオン交換性が大幅に低下し、水を加えても元の状態に戻らず水分散性が著しく低下する。上記加熱処理によるリチウムイオンの固定化は、層間に存在するリチウムイオンがモンモリロナイト結晶の八面体シートの空席に移動することで生じると考えられている。この現象はHofmann-Klemen効果と呼ばれ、層電荷密度をコントロールするために利用されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
上記の加熱処理によるリチウムイオンの固定化現象を利用してモンモリロナイトの機能性を高めることが報告されている。例えば、特許文献1及び2には、層間にリチウムイオンを有するモンモリロナイトの水分散液を用いて成膜した後、これを乾燥機中で加熱処理に付することで、耐水性(水蒸気バリア性)に優れた粘土膜が得られることが記載されている。
層間にリチウムイオンを一定量以上有するモンモリロナイトは、上述のとおり特定温度以上の加熱処理に付すと水に対する分散性が低下するため、その水分散液(スラリー)を用いて粘土膜を形成することが困難となる。実際、特許文献1及び2に記載の耐水性粘土膜は、層間にリチウムイオンを有するモンモリロナイトの水分散液を用いて成膜した後に、これを乾燥機中で高温に加熱してリチウムイオンを固定化し、調製される。しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法では、膜を形成してから加熱処理に付す必要があるため、製造効率の向上には制約がある。
加熱してリチウムイオンが固定化されたリチウム型モンモリロナイト(リチウム固定型モンモリロナイト)の水分散性(分散安定性)を高めることができれば、当該リチウム固定型モンモリロナイトのスラリーの調製が可能となり、このスラリーを塗布し、乾燥するだけで、耐水性(本明細書において「耐水性」とは「水蒸気ガスバリア性」を意味する)に優れた粘土膜の形成が可能になる。そして実際に、リチウム固定型モンモリロナイトの水分散性を高める技術がいくつか報告されている。
例えば特許文献3には、陽イオン交換容量が50meq/100g以下のリチウム固定型モンモリロナイトと、アンモニアと、水と、ホルムアミド基を有する極性有機溶媒とを各特定量配合してなるスラリーが、リチウム固定型モンモリロナイトの分散安定性に優れることが記載されている。また特許文献4には、陽イオン交換容量が50meq/100g以下のリチウム固定型モンモリロナイトと、アンモニアと、水と、少なくともアセトニトリル及びメチルエチルケトンから選択される有機溶媒とを各特定量含有するスラリーが、リチウム固定型モンモリロナイトの分散安定性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-247719号公報
【文献】特開2009-107907号公報
【文献】特開2015-147300号公報
【文献】特開2018-83728号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】「粘土ハンドブック」,第三版,日本粘土学会編,2009年5月,p.125
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献3及び4の技術により、リチウム固定型モンモリロナイトが安定に分散したスラリーの調製が可能になり、リチウム固定型モンモリロナイトの機能性材料としての工業的利用分野の拡大が期待される。しかし、これらの技術では、リチウム固定型モンモリロナイトのスラリー化において必須となる有機溶媒の、生体に対する安全性が問題視される場合がある。すなわち、一般的な工業的利用においては問題が生じないとしても、例えば、リチウム固定型モンモリロナイトのスラリーを用いて形成した耐水膜(水蒸気ガスバリア膜)を食品保存用のケースないしフィルムとして用いる場合には、必ずしも適したスラリー組成であるとはいえない。
【0008】
リチウム固定型モンモリロナイトは、特許文献1及び2に記載される通り、耐水性に優れた機能性膜材料としても利用が期待されている。しかし、この耐水膜として十分な機能を有するには、リチウム固定型モンモリロナイトのスラリー中において、リチウム固定型モンモリロナイトが微粒状に分散して存在することが重要である。例えば、スラリー中に分散したリチウム固定型モンモリロナイトの粒子径が大きいと(凝集していると)、このスラリーを用いて形成した膜には微細な欠陥が生じやすく、目的の耐水性を発現することが難しくなる。本発明者らの検討により、スラリー中に分散したリチウム固定型モンモリロナイトの粒子径(メディアン径、体積基準)を15μm以下まで小さくすれば、通常の膜厚(5~50μm)で十分な耐水性を実現でき、粒子径が小さくなるほど、耐水膜をより薄膜状としてもより高い耐水性を達成できることが分かってきた。
【0009】
本発明は、リチウムイオンが固定化されて陽イオン交換性及び水分散性が低下したリチウム固定型モンモリロナイトを安定に分散してなり、分散状態のリチウム固定型モンモリロナイトの粒子径が十分に小さく、工業的利用において安全上の問題も生じにくいスラリー、当該スラリーを用いた粘土膜、及び当該スラリーの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた。その結果、リチウム固定型モンモリロナイト粉末の水分散液を調製するに当たり、分散媒(水)中にアセトンを特定量混合した上で、この混合液とリチウム固定型モンモリロナイト粉末とを混合することにより、当該リチウム固定型モンモリロナイトをより微粒化した状態で分散媒中に安定に分散でき、経時的な分散安定性にも優れたスラリーが得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成させるに至ったものである。
【0011】
本発明の上記課題は下記の手段により達成された。
〔1〕
水とアセトンとを含有してなる極性媒体中に、陽イオン交換容量が50meq/100g以下のリチウム固定型モンモリロナイトが分散してなり、該分散状態における前記リチウム固定型モンモリロナイトの粒子径が15μm以下である、モンモリロナイトスラリー。
〔2〕
前記極性媒体が、ホルムアミド基を有する極性有機溶媒、アセトニトリル及びメチルエチルケトンのいずれも含まない、〔1〕に記載のモンモリロナイトスラリー。
〔3〕
前記極性媒体中、水の含有量とアセトンの含有量の合計に占める水の割合が80質量%以下である、〔1〕又は〔2〕に記載のモンモリロナイトスラリー。
〔4〕
前記極性媒体がアンモニアを含む極性媒体であり、当該アンモニアの含有量が、前記モンモリロナイトスラリー中の前記リチウム固定型モンモリロナイト1g当たり0.1mmol以上である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のモンモリロナイトスラリー。
〔5〕
前記モンモリロナイトスラリーが30~100℃の加熱処理に付されたものである、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のモンモリロナイトスラリー。
〔6〕
前記リチウム固定型モンモリロナイトが、リチウム型モンモリロナイトを180~600℃の加熱処理に付して得られたものである、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載のモンモリロナイトスラリー。
〔7〕
〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載のモンモリロナイトスラリーを用いた粘土膜。
〔8〕
陽イオン交換容量が50meq/100g以下のリチウム固定型モンモリロナイトと、水とアセトンを含む極性媒体とを混合し、極性媒体中にリチウム固定型モンモリロナイトを分散してなるスラリーを得ることを含む、モンモリロナイトスラリーの製造方法。
〔9〕
前記極性媒体がホルムアミド基を有する極性有機溶媒、アセトニトリル及びメチルエチルケトンのいずれも含まない、〔8〕に記載のモンモリロナイトスラリーの製造方法。
〔10〕
前記水の混合量と前記アセトンの混合量の合計に占める水の割合が80質量%以下である、〔8〕又は〔9〕に記載のモンモリロナイトスラリーの製造方法。
〔11〕
前記極性媒体がアンモニアを含み、当該アンモニアの混合量が、前記リチウム固定型モンモリロナイト1g当たり0.1mmol以上である、〔8〕~〔10〕のいずれか1項に記載のモンモリロナイトスラリーの製造方法。
〔12〕
前記リチウム固定型モンモリロナイトと前記極性媒体との混合物を、30~100℃の加熱処理に付す工程を有する、〔8〕~〔11〕のいずれか1項に記載のモンモリロナイトスラリーの製造方法。
〔13〕
前記極性媒体中に分散してなるリチウム固定型モンモリロナイトの粒子径が15μm以下である、〔8〕~〔12〕のいずれか1項に記載のモンモリロナイトスラリーの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のモンモリロナイトスラリー(以下、単に「本発明のスラリー」ともいう。)は、陽イオン交換性が特定レベル以下にある水分散性の低いリチウム固定型モンモリロナイトが、より微粒化されて安定に分散され、経時的な分散安定性にも優れ、工業的利用における安全上の問題も生じにくい。
また本発明の粘土膜は、本発明のスラリーを用いて形成された膜であり、耐水性に優れ、生産効率にも優れる。
また本発明のモンモリロナイトスラリーの製造方法(以下、単に「本発明のスラリーの製造方法」ともいう。)によれば、陽イオン交換性が特定レベル以下にある水分散性の低いリチウム固定型モンモリロナイトを、より微粒子状に、かつ安定に分散してなり、さらに経時的な分散安定性にも優れ、工業的利用において安全上の問題も生じにくいスラリーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好ましい実施の形態について以下に説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外はこれらの形態に限定されるものではない。
【0014】
[モンモリロナイトスラリー]
本発明のモンモリロナイトスラリーは、陽イオン交換容量が50meq(ミリ当量)/100g以下であるリチウム固定型モンモリロナイトが極性媒体中に分散してなるスラリーである。この極性媒体は水とアセトンとを含有し、リチウム固定型モンモリロナイトは当該極性媒体中に、粒子径が15μm以下の微粒子状に分散している。
本発明のスラリーは、本発明の効果を損なわない範囲で、上記の各成分以外の成分を含有していてもよい。
本発明のモンモリロナイトスラリーを構成する各成分について、以下に詳細に説明する。
【0015】
<リチウム固定型モンモリロナイト>
本発明に用いるリチウム固定型モンモリロナイトは、リチウム型モンモリロナイトの結晶構造の層間に存在するリチウムイオン(Li)を、後述する加熱処理等により固定化して得られる。本発明のスラリーにおいて、リチウム固定型モンモリロナイトは分散質を構成する。
本明細書において、「リチウム型モンモリロナイト」とは、モンモリロナイトの浸出陽イオン量(すなわち浸出陽イオンの総量、単位:meq/100g、以下同様)に占めるリチウムイオンの量(すなわち浸出リチウムイオン量、単位:meq/100g、以下同様)が60%以上のモンモリロナイトであり、好ましくは、浸出陽イオン量に占める浸出リチウムイオン量が70%以上、より好ましくは80%以上のモンモリロナイトである。リチウム型モンモリロナイトの浸出陽イオン量に占める浸出リチウムイオン量は100%でもよいが、通常は99%以下である。加えて、本明細書において「リチウム型モンモリロナイト」とは、その陽イオン交換容量が50meq/100gを越えるものである。リチウム型モンモリロナイトの陽イオン交換容量は好ましくは60~150meq/100gであり、より好ましくは70~120meq/100gであり、さらに好ましくは80~110meq/100gである。
【0016】
本明細書において、「リチウム固定型モンモリロナイト」とは、その陽イオン交換容量が50meq/100g以下である。リチウム固定型モンモリロナイトの陽イオン交換容量は好ましくは5~50meq/100gであり、より好ましくは7~46meq/100g、さらに好ましくは8~40meq/100gである。なお、本発明において、リチウム固定型モンモリロナイトの陽イオン交換容量は、極性媒体中に分散しているリチウム固定型モンモリロナイトの陽イオン交換容量を意味する。
本明細書において「リチウム固定型モンモリロナイト」とは、その調製において原料として用いたリチウム型モンモリロナイト(上述のように、リチウム固定型モンモリロナイトはリチウム型モンモリロナイトを後述の加熱処理に付して得ることができる。)の浸出リチウムイオン量と、当該リチウム固定型モンモリロナイトの浸出リチウムイオン量との差(単位:meq/100g)が、上記の原料として用いたリチウム型モンモリロナイトの陽イオン交換容量(単位:meq/100g)に対して60%以上であることが好ましく、より好ましくは60~99%であり、より好ましくは65~95%である。
本発明に用いる上記リチウム固定型モンモリロナイトは粉末状であることが好ましい。
【0017】
また、上記リチウム固定型モンモリロナイトは、通常は、浸出陽イオンとしてリチウムイオン以外に、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)等を含んでいる。本発明に用いるリチウム固定型モンモリロナイトにおいて、Na、K、Mg2+及びCa2+の浸出イオン量は、総量で1~30meq/100gが好ましく、1~20meq/100gがより好ましく、1~10meq/100gがさらに好ましい。
【0018】
モンモリロナイトの陽イオン交換容量は、Schollenberger法(粘土ハンドブック第三版,日本粘土学会編,2009年5月,453~454頁)に準じた方法で測定することができる。より具体的には、日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS-106-77に記載の方法で測定することができる。
モンモリロナイトの浸出陽イオン量は、モンモリロナイトの層間陽イオンをモンモリロナイト0.5gに対して100mLの1M酢酸アンモニウム水溶液を用いて4時間以上かけて浸出させ、得られた溶液中の各種陽イオンの濃度を、ICP発光分析や原子吸光分析等により測定し、算出することができる。
【0019】
本発明に用いるリチウム固定型モンモリロナイトは、リチウム型モンモリロナイトを加熱処理に付して結晶構造の層間に存在するリチウムイオンを固定化することで得ることができる。
リチウム型モンモリロナイトは、例えば、天然のナトリウム型モンモリロナイトの分散液に、水酸化リチウム、塩化リチウム等のリチウム塩を添加し、陽イオン交換させることで得ることができる。分散液中に添加するリチウムの量を調節することで、得られるリチウム型モンモリロナイトの浸出陽イオン量に占めるリチウムイオンの量を適宜に調節することができる。また、リチウム型モンモリロナイトは、陽イオン交換樹脂をリチウムイオンにイオン交換した樹脂を用いたカラム法、またはバッチ法によっても得ることができる。
また、リチウム型モンモリロナイトは商業的に入手することもできる。リチウム型モンモリロナイトの市販品として、例えば、クニピア-M(商品名、クニミネ工業社製)が挙げられる。
【0020】
本発明に用いるリチウム固定型モンモリロナイトは、リチウム型モンモリロナイトに比べて陽イオン交換性及び水分散性が低い。これは、リチウム固定型モンモリロナイトにおいて、リチウムイオンが粘土結晶の八面体シートの空席に移動して固定化されることで、粘土結晶が電気的に中和されて層間が密に閉じた状態になり、水分子が進入しにくくなる(層間陽イオンの水和が生じにくくなる)ためと考えられる。
【0021】
リチウム型モンモリロナイトを加熱処理に付してリチウム固定型モンモリロナイトを調製する場合において、加熱処理の温度条件は、リチウム型モンモリロナイトをリチウム固定型モンモリロナイトとすることができれば特に制限はない。リチウムイオンを効率的に固定化し、陽イオン交換容量を大きく低下させる観点から、150℃以上に加熱することが好ましい。上記加熱処理の温度は150~600℃がより好ましく、さらに好ましくは180~600℃であり、さらに好ましくは200~500℃であり、さらに好ましくは220~400℃である。上記温度に加熱することで、陽イオン交換容量をより効率的に低下させることができると同時に、モンモリロナイト中の水酸基の脱水反応等を抑えることができる。上記加熱処理は開放系の電気炉で実施することが好ましい。この場合、加熱時の相対湿度は5%以下となり、圧力は常圧となる。上記加熱処理の時間も、リチウム固定型モンモリロナイトを上記の陽イオン交換容量とすることができれば特に制限はなく、生産の効率性の観点から、0.5~48時間が好ましく、1~24時間がより好ましい。
加熱処理前のリチウム型モンモリロナイトの含水率は1~12質量%であることが好ましく、加熱処理後のリチウム固定型モンモリロナイトの含水率は0.1~5質量%となることが好ましい。
【0022】
本発明のスラリー中のリチウム固定型モンモリロナイトの含有量に特に制限はなく、目的に応じて適宜に調節することができる。スラリーとしての流動性を確保し、混練、および撹拌工程が実際的に可能なものとする観点から、本発明のモンモリロナイトスラリー中のリチウム固定型モンモリロナイトの含有量は、1~30質量%が好ましく、2~25質量%がより好ましく、2~20質量%がさらに好ましく、2~15質量%がさらに好ましく、3~12質量%とすることも好ましい。
【0023】
本発明のスラリー中において、リチウム固定型モンモリロナイトは粒子径が15μm以下の状態で分散している。スラリーを用いて形成した膜の欠陥を防いで耐水性等の機能性をより高める観点から、上記粒子径は好ましくは12.0μm以下、より好ましくは10.0μm以下、さらに好ましくは9.5μm以下、さらに好ましくは8.0μm以下、さらに好ましくは6.0μm以下、さらに好ましくは5.0μm以下、さらに好ましくは4.0μm以下であり、3.0μm以下とすることが特に好ましい。また、本発明のスラリー中、リチウム固定型モンモリロナイトを粒子径の下限に特に制限はなく、通常は1.0μm以上であり、1.2μm以上でもよく、1.5μm以上でもよく、1.8μm以上でもよい。
本発明においてスラリー中のリチウム固定型モンモリロナイトの「粒子径」は、体積基準のメディアン径である。この粒子径は、レーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置により決定することができる。
【0024】
<アセトン>
本発明のスラリーを構成する極性媒体にはアセトンが含まれる。使用するアセトンは、試薬、工業用品の公知慣用の一般的なものを用いることができる。
本発明のスラリー中のアセトンの含有量は、スラリー中のリチウム固定型モンモリロナイト1質量部当たり、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることがさらに好ましい。また、前記アセトンの含有量は、通常10質量部以下であり、6質量部以下とすることもできる。アセトンの含有量を上記の好ましい範囲とすることにより、水の存在下でリチウム固定型モンモリロナイトに作用してその層間に侵入し、リチウム固定型モンモリロナイトがより微粒化した状態で安定的に分散してなるスラリーが得られる。
【0025】
本発明者らの検討により、水とアセトンとの混合液を含む極性媒体を用いて、これにリチウム固定型モンモリロナイトを混合して、30~100℃の加熱処理に付してリチウム固定型モンモリロナイトに当該極性媒体を作用させることにより、当該極性媒体が後述のアンモニアを含んでいるか否かに関わらず、水の存在下でアセトンがリチウム固定型モンモリロナイトに作用するなどして、スラリー中におけるリチウム固定型モンモリロナイトを十分に微細化できることが明らかとなった。
また、アセトンは、それ自体が生体安全性が比較的高く、また乾燥処理により除去しやすいため、生体安全性が求められる利用分野においても適合性が高い。
【0026】
<水>
本発明のスラリーを構成する極性媒体は水を含む。使用する水に特に制限はないが、蒸留水、イオン交換水等の水中のイオン成分を除去したものが好ましい。イオン除去度合としては、水のイオン伝導度が10μS/m以下が好ましく、5μS/m以下がより好ましく、2μS/m以下が更に好ましい。
また前記極性媒体が水とアセトン以外の成分を含有する場合、水とアセトン以外の、極性媒体に混合した成分由来の水も、スラリー中の水を構成するものとする。例えば本発明のスラリーを構成する極性媒体が下記のアンモニアを含有する場合、アンモニア源としてアンモニア水を用いたときのアンモニア水中の水は、スラリー中の水を構成する。
【0027】
本発明のスラリーを構成する極性媒体において、水の含有量とアセトンの含有量の合計に占める水の割合は、リチウム固定型モンモリロナイトの分散性向上の観点から、80質量%以下が好ましく、75質量%以下とすることも好ましく、70質量%以下としてもよい。また、同様の観点から、本発明のスラリーにおいて水の含有量とアセトンの含有量の合計に占める水の割合は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、25質量%以上がさらに好ましい。
【0028】
本発明のスラリーを構成する極性媒体に占める、水とアセトンの各含有量の合計の割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上とすることも好ましい。極性媒体のすべてが水とアセトンで構成されていることも好ましい。
【0029】
<アンモニア>
本発明のスラリーを構成する極性媒体は、さらにアンモニアを含んでいても良い。当該極性媒体がアンモニアを含む場合には、加熱処理を行うことなく分散粒子径が小さいスラリーを得ることができる。当該極性媒体がアンモニアを含まない場合でも、加熱処理をすることにより、リチウム固定型モンモリロナイトの微粒化を達成することができる。本発明のスラリー中にアセトンとアンモニアが共存する場合、アセトンのカルボニル基の酸素原子がアンモニアに一部置き換えられるケチミン反応が生じることで、黄色~オレンジ色に強く呈色する場合がある。従って、本発明のスラリーがアンモニアを含有する場合は、呈色が問題にならない用途に用いることが好ましい。
【0030】
アンモニア源としては、アンモニア水、気体アンモニア、液体アンモニアのいずれを使用してもよいが、大気圧下でスラリーを製造する場合には、アンモニア水を用いることが好ましい。
本発明のスラリーがアンモニアを含有する場合、スラリー中のアンモニアの含有量は、スラリー中のリチウム固定型モンモリロナイト1g当たり、好ましくは0.1mmol以上とすることが好ましく、より好ましくは0.2mmol以上であり、さらに好ましくは0.5mmol以上であり、0.8mmol以上とすることも好ましい。アンモニアの含有量を上記好ましい値とすることで、リチウム固定型モンモリロナイトの粘土結晶の層間に十分な分子数のアンモニアが侵入し、リチウム固定型モンモリロナイトの溶液分散性をより向上させることができる。また、アンモニア臭気の発生や製造コストを考慮すると、モンモリロナイトスラリー中へのアンモニアの含有量は、モンモリロナイトスラリー中のリチウム固定型モンモリロナイト1g当たり、10mmol以下が好ましく、より好ましくは5mmol以下、さらに好ましくは4mmol以下、さらに好ましくは2mmol以下である。
本明細書において「リチウム固定型モンモリロナイト1g当たり」とは、具体的には、スラリー中に配合されたリチウム固定型モンモリロナイト1g当たり、を意味する。より詳細には、スラリーが含有するリチウム固定型モンモリロナイトをスラリー中から取り出し、取り出したモンモリロナイトを、温度200℃で24時間処理して得られる処理物の質量1g当たり、を意味する。上記加熱処理は開放系の電気炉で実施することが好ましい。この場合、加熱時の相対湿度は5%以下となり、圧力は常圧となる。
また、リチウム固定型モンモリロナイト1g当たりのアンモニアの量は、スラリー中のアンモニアの量(mmol)を、スラリー中のリチウム固定型モンモリロナイトの質量(すなわち、スラリー中に存在する、配合されたリチウム固定型モンモリロナイトを取り出し、取り出したモンモリロナイトを温度200℃で24時間加熱処理して得られる処理物の質量)(単位:g)で除することで得られる。
スラリー中のアンモニアの含有量はインドフェノール法、ケルダール法、ガスクロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0031】
<その他の成分>
本発明のスラリーを構成する極性媒体は、水及びアセトンに加え、本発明の効果を損なわない範囲でさらに各種成分を含有することができる。リチウム固定型モンモリロナイトの分散性向上を考慮すれば、例えば、特開2015-147300号公報に記載されるホルムアミド基を有する極性有機溶媒や、特開2018-83728号公報に記載されるアセトニトリルやメチルエチルケトンを含有することができる。
本発明のスラリーの用途によるが、例えば生体安全性の観点からは、本発明のスラリーを構成する極性媒体は、ホルムアミド基を有する極性有機溶媒、アセトニトリル及びメチルエチルケトンのいずれも含まないことが好ましい。
【0032】
また、本発明のスラリーは、本発明の効果を実質的に損なわない範囲で、さらにシランカップリング剤、架橋剤、有機高分子、非膨潤性ケイ酸塩化合物、シリカ、界面活性剤、無機ナノ粒子等を含んでいてもよい。
【0033】
本発明のスラリーは粘土濃度が高濃度であれば目的の濃度に希釈して用いることができる。
【0034】
[モンモリロナイトスラリーの製造方法]
続いて本発明のスラリーの製造方法について説明する。
本発明のスラリーを構成する極性媒体がアンモニアを含まない場合、本発明のスラリーは、スラリーを構成する各成分(原料)を混合し、30~100℃で加熱処理することにより得ることができる。すなわち、上記加熱処理を経ることにより、極性媒体中のアセトンが、水の存在下でリチウム固定型モンモリロナイトに作用してその層間に侵入し、リチウム固定型モンモリロナイトがより微粒化した状態で安定的に分散してなるスラリーが得られる。
【0035】
各原料の混合方法(加熱処理前の混合方法)は特に制限されるものではなく、各原料を同時にあるいは任意の順序で混合することができる。また、混合に際しては、一般的な羽根つき撹拌機、ホモミキサー、万能混合機、自転公転ミキサー、アイリッヒミキサーなどを用いることができる。なかでも、モンモリロナイト濃度が20質量%を超えるような場合でも効率的に混合することができる万能混合機、自転公転ミキサーを好適に用いることができる。各原料を混合する温度は30℃未満が好ましく、27℃未満とすることが好ましい。
【0036】
上記の各原料の混合後の30~100℃の加熱処理は、30~100℃の温度に加熱する処理であれば特に制限はない。リチウム固定型モンモリロナイトの分散性、ハンドリング性の両面から、加熱処理温度は30~90℃がより好ましく、35~90℃がより好ましく、40~90℃がより好ましく、45~85℃がさらに好ましく、50~85℃がさらに好ましい。また、この加熱温度は80℃以下でもよく、70℃以下でもよく、65℃以下とすることも好ましい。
また、30~100℃の加熱処理の時間は、リチウム固定型モンモリロナイトを目的の粒子径へと微細化できれば特に制限はなく、加熱温度等に応じて適宜に設定される。加熱処理時間は、通常は2時間以上であり、4時間以上がより好ましく、6時間以上がさらに好ましい。加熱処理時間が長い方が、リチウム固定型モンモリロナイトをより微粒化できる傾向にあり、例えば加熱処理温度が30~50℃の比較的低温であっても、加熱処理時間を10時間以上、好ましくは15時間以上、さらに好ましくは20時間以上、さらに好ましくは24時間以上とすることにより、リチウム固定型モンモリロナイトの目的の微粒化をより確実に達成することができる。また、加熱処理時間の上限に特に制限はなく、通常は50時間以下であり、30時間以下であっても十分な分散性を実現することができる。また、オートクレーブ等を用いて高温高圧処理を施すことにより、加熱処理時間を短縮できる傾向にある。
30~100℃の加熱処理時間は、通常は2~50時間であり、4~40時間が好ましく、6~30時間とすることも好ましく、10~30時間とすることも好ましい。
この加熱処理は静止状態で行ってもよく、撹拌しながら行ってもよい。
【0037】
また、前記極性媒体がアンモニアを含む場合には、本発明のスラリーは、スラリーを構成する各成分(原料)を混合し、前記加熱処理に付すことで分散粒子径が小さいスラリーを得ることもできるし、前記加熱処理に付さずに分散粒子径が小さいスラリーを得ることもできる。
各原料の混合方法は特に制限されず、上述した混合方法を適宜適用できる。また、混合時間も特に制限されず、本発明のスラリーの分散状態を見て適宜設定することができるが、1時間以上混合することが好ましく、2時間以上混合することがより好ましく、4時間以上混合することも好ましく、10時間以上混合することも好ましい。
各原料を混合する温度も特に制限されず、上記の加熱温度を適用することもできる。また、ケチミン反応による呈色を抑制する観点から、通常は30℃未満とすることが好ましく、27℃未満とすることがより好ましい。
【0038】
上記加熱処理、又はアンモニアを混合する混合処理により、得られる本発明のスラリー中において、リチウム固定型モンモリロナイトを粒子径が15μm以下の微細な粒子(分散質)として分散媒中に安定に分散させることができる。スラリー中のリチウム固定型モンモリロナイトの好ましい粒子径の説明は上述した通りである。
【0039】
本発明のスラリーは、これを基板上に成膜し、所望のレベルまで乾燥させるだけで、耐水性に優れた粘土膜を形成することができる。すなわち、本発明のスラリーは、水分と接触しても吸水しにくく、耐久性の高い粘土膜の形成に好適に用いることができる。
本発明のスラリーを用いて調製した粘土膜は、例えば、包装フィルム、電子基盤、難燃フィルム、水蒸気バリアフィルム、絶縁フィルム、コートフィルム等として用いることができる。
【実施例
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
<リチウム固定型モンモリロナイトの調製>
原料とするリチウム型モンモリロナイトとして、天然モンモリロナイトのイオン交換処理によって得られたリチウム型モンモリロナイト(商品名:クニピア-M、クニミネ工業社製)を用いた。
このリチウム型モンモリロナイト800gを電気炉(マッフル炉、FO410、ヤマト科学社製)に入れ、110℃で1時間加熱処理した後、250℃で1.5時間の加熱処理に付した。こうしてリチウム固定型モンモリロナイト1の粉末を得た。
また、別サンプルとして、上記イオン交換処理後のリチウム型モンモリロナイト800gを電気炉(マッフル炉、FO410、ヤマト科学社製)に入れ、110℃で1時間加熱処理した後、180℃で24時間の加熱処理に付した。こうしてリチウム固定型モンモリロナイト2の粉末を得た。
【0042】
原料としたリチウム型モンモリロナイト並びに加熱処理品(リチウム固定型モンモリロナイト1及び2)について、陽イオン交換容量(CEC)を測定した。
CECの測定は、日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS-106-77に記載の方法により行なった。
その結果、原料として用いたリチウム型モンモリロナイトのCECが105meq/100gであり、リチウム固定型モンモリロナイト1のCECが7.7meq/100gであり、リチウム固定型モンモリロナイト2のCECが45.2meq/100gであった。
【0043】
[スラリーの調製]
<実施例1>
蒸留水45.0g、リチウム固定型モンモリロナイト1を10.0g、アセトン(関東化学社製)45.0gをビーカーに入れ、攪拌機(商品名:TORNAD PM-201、AS ONE社製)を用いて回転数700rpmとして、25℃で1時間撹拌した。得られた混合物をガラス容器(KIMAX(登録商標)耐熱広口びん100ml、KIMBLE社製)へ全量移し入れ、送風定温恒音器(商品名:DKM400、ヤマト科学社製)にて40℃で24時間加熱処理を施した。こうして実施例1のモンモリロナイトスラリーを得た。
【0044】
<実施例2>
蒸留水67.1g、リチウム固定型モンモリロナイト1を5.0g、アセトン(関東化学社製)27.9gをビーカーに入れ、攪拌機(商品名:TORNAD PM-201、AS ONE社製)を用いて回転数700rpmとして、25℃で1時間撹拌した。得られた混合物をガラス容器(KIMAX(登録商標)耐熱広口びん100ml、KIMBLE社製)へ全量移し入れ、送風定温恒音器(商品名:DKM400、ヤマト科学社製)にて50℃で24時間加熱処理を施した。こうして実施例2のモンモリロナイトスラリーを得た。
【0045】
<実施例3>
蒸留水23.0g、28%アンモニア水(関東化学社製)1.0g、リチウム固定型モンモリロナイト1を20.0g、アセトン(関東化学社製)56.0gをビーカーに入れ、攪拌機(商品名:TORNAD PM-201,AS ONE社製)を用いて回転数700rpmとして、25℃で1時間撹拌の後、加熱は行わずに25℃下で24時間放置し、実施例3のモンモリロナイトスラリーを得た。
実施例3のモンモリロナイトスラリーにおいて、リチウム固定型モンモリロナイト1g当たりのアンモニアの配合量は0.83mmolであった。
【0046】
<実施例4>
蒸留水45.0g、リチウム固定型モンモリロナイト2を10.0g、アセトン(関東化学社製)45.0gをビーカーに入れ、攪拌機(商品名:TORNAD PM-201、AS ONE社製)を用いて回転数700rpmとして、25℃で1時間撹拌した。得られた混合物をガラス容器(KIMAX(登録商標)耐熱広口びん100ml、KIMBLE社製)へ全量移し入れ、送風定温恒音器(商品名:DKM400、ヤマト科学社製)にて35℃で24時間加熱処理を施した。こうして実施例4のモンモリロナイトスラリーを得た。
【0047】
<実施例5>
蒸留水24.0g、リチウム固定型モンモリロナイト2を20.0g、アセトン(関東化学社製)56.0gをビーカーに入れ、攪拌機(商品名:TORNAD PM-201、AS ONE社製)を用いて回転数700rpmとして、50℃で1時間撹拌した.得られた混合物をガラス容器(KIMAX(登録商標)耐熱広口びん100ml、KIMBLE社製)へ全量移し入れ、送風定温恒音器(商品名:DKM400、ヤマト科学社製)にて50℃で24時間加熱処理を施した。こうして実施例5のモンモリロナイトスラリーを得た。
【0048】
<実施例6>
蒸留水65.5g、28%アンモニア水(関東化学社製)1.0g、リチウム固定型モンモリロナイト2を5.0g、アセトン(関東化学社製)28.5gをビーカーに入れ、攪拌機(商品名:TORNAD PM-201,AS ONE社製)を用いて回転数700rpmとして、25℃で1時間撹拌の後、加熱は行わずに25℃下で24時間放置し、実施例6のモンモリロナイトスラリーを得た。
実施例6のモンモリロナイトスラリーにおいて、リチウム固定型モンモリロナイト1g当たりのアンモニアの配合量は3.30mmolであった。
【0049】
<比較例1>
蒸留水90.0g、リチウム固定型モンモリロナイト1の10.0gをビーカーに入れ、攪拌機(商品名:TORNAD PM-201、AS ONE社製)を用いて回転数700rpmとして、25℃で1時間撹拌した。得られた混合物をガラス容器(KIMAX(登録商標)耐熱広口びん100ml、KIMBLE社製)へ全量移し入れ、送風定温恒音器(商品名:DKM400、ヤマト科学社製)にて80℃で24時間加熱処理を施した。こうして比較例1のモンモリロナイトスラリーを得た。
【0050】
<比較例2>
蒸留水89.0g、28%アンモニア水(関東化学社製)1.0g、リチウム固定型モンモリロナイト1の10.0gをビーカーに入れ、攪拌機(商品名:TORNAD PM-201、AS ONE社製)を用いて回転数700rpmとして、25℃で1時間撹拌した。得られた混合物をガラス容器(KIMAX(登録商標)耐熱広口びん100ml、KIMBLE社製)へ入れ、送風定温恒音器(商品名:DKM400、ヤマト科学社製)にて80℃で24時間加熱処理を施した。こうして比較例2のモンモリロナイトスラリーを得た。
比較例2のモンモリロナイトスラリーにおいて、リチウム固定型モンモリロナイト1g当たりのアンモニアの配合量は1.65mmolであった。
【0051】
<比較例3>
蒸留水90.0g、リチウム固定型モンモリロナイト2の10.0gをビーカーに入れ、攪拌機(商品名:TORNAD PM-201、AS ONE社製)を用いて回転数700rpmとして、25℃で1時間撹拌した。得られた混合物をガラス容器(KIMAX(登録商標)耐熱広口びん100ml、KIMBLE社製)へ全量移し入れ、送風定温恒音器(商品名:DKM400、ヤマト科学社製)にて50℃で24時間加熱処理を施した。こうして比較例3のモンモリロナイトスラリーを得た。
【0052】
<比較例4>
蒸留水89.0g、28%アンモニア水(関東化学社製)1.0g、リチウム固定型モンモリロナイト2の10.0gをビーカーに入れ、攪拌機(商品名:TORNAD PM-201、AS ONE社製)を用いて回転数700rpmとして、25℃で1時間撹拌した。得られた混合物をガラス容器(KIMAX(登録商標)耐熱広口びん100ml、KIMBLE社製)へ全量移し入れ、送風定温恒音器(商品名:DKM400、ヤマト科学社製)にて50℃で24時間加熱処理を施した。こうして比較例4のモンモリロナイトスラリーを得た。
比較例4のモンモリロナイトスラリーにおいて、リチウム固定型モンモリロナイト1g当たりのアンモニアの配合量は1.65mmolであった。
【0053】
<比較例5>
蒸留水44.0g、28%アンモニア水(関東化学社製)1.0g、リチウム固定型モンモリロナイト1を10.0g、エタノール(Ethanol、関東化学社製、試薬特級)45.0gをビーカーに入れ、攪拌機(商品名:TORNAD PM-201、AS ONE社製)を用いて回転数700rpmとして25℃で1時間撹拌の後、加熱は行わずに25℃下で24時間放置した。こうして比較例5のモンモリロナイトスラリーを得た。
比較例5のモンモリロナイトスラリーにおいて、リチウム固定型モンモリロナイト1g当たりのアンモニアの配合量は1.65mmolであった。
【0054】
<比較例6>
蒸留水62.0g、28%アンモニア水(関東化学社製)1.0g、リチウム固定型モンモリロナイト1を10.0g、2-プロパノール(IPA、山一化学工業社製)27.0gをビーカーに入れ、攪拌機(商品名:TORNAD PM-201、AS ONE社製)を用いて回転数700rpmとして、25℃で1時間撹拌の後、加熱は行わずに25℃下で24時間放置した。こうして比較例6のモンモリロナイトスラリーを得た。
比較例6のモンモリロナイトスラリーにおいて、リチウム固定型モンモリロナイト1g当たりのアンモニアの配合量は1.65mmolであった。
【0055】
<比較例7>
蒸留水44.0g、28%アンモニア水(関東化学社製)1.0g、リチウム固定型モンモリロナイト1を10.0g、N-メチル-2-ピロリジノン(N-Methyl-2-pyrrolidinone、NMP、関東化学社製)45.0gをビーカーに入れ、攪拌機(商品名:TORNAD PM-201、AS ONE社製)を用いて回転数700rpmとして、25℃で1時間撹拌した。得られた混合物をガラス容器(KIMAX(登録商標)耐熱広口びん100ml、KIMBLE社製)へ入れ、送風定温恒音器(商品名:DKM400、ヤマト科学社製)にて80℃で24時間加熱処理を施した。こうして比較例7のモンモリロナイトスラリーを得た。
比較例7のモンモリロナイトスラリーにおいて、リチウム固定型モンモリロナイト1g当たりのアンモニアの配合量は1.65mmolであった。
【0056】
[試験例1] リチウム固定型モンモリロナイト(分散質)の粒子径
実施例1~6及び比較例1~7のスラリーを水で固形分2質量%に希釈し、湿式粒度測定によりリチウム固定型モンモリロナイトのメディアン径を測定した。このメディアン径は体積基準である。メディアン径の測定にはレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-950V2、HORIBA社製)を使用した。
【0057】
[試験例2] 分散安定性
得られた実施例1~6及び比較例1~7のスラリーを、ガラス容器に入った状態で、25℃で24時間静置した。この24時間静置後のリチウム固定型モンモリロナイトの分散状態を目視で観察し、分散安定性を下記評価基準により評価した。

-分散安定性の評価基準-
○:層分離が生じておらず、安定した分散状態にある。
×:層分離が生じ、沈殿が認められる。
【0058】
得られた結果を下記表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
上記表1に示される通り、極性媒体が水のみの場合には、スラリーを加熱しても分散質であるリチウム固定型モンモリロナイトの粒子径を所望の小粒径(15μm以下)とすることができず、分散安定性にも劣る結果となった(比較例1、3)。また、比較例1及び3の極性媒体にアンモニアを添加しても上記の結果は変わらなかった(比較例2、4)。
他方、水とともにアルコールとアンモニアとを組み合わせて分散媒とし、スラリーを加熱しなかった場合には、分散質であるリチウム固定型モンモリロナイトの分散安定性に優れていた。しかし、リチウム固定型モンモリロナイトの粒子径を測定するとその粒子径は大きく、所望の小粒径として分散しているものではなかった(比較例5~6)。
さらに、低級アルコールでない極性有機溶媒(NMP)を用いた場合もまた、分散質であるリチウム固定型モンモリロナイトの粒子径を所望の小粒径とすることができず、かつ分散安定性にも劣る結果となった(比較例7)。
これに対し、極性媒体として水とともにアセトンを組み合わせて配合し、スラリーを加熱処理に付すことにより、分散質であるリチウム固定型モンモリロナイトの粒子径を所望の小粒径とすることができ、かつ分散安定性にも優れたスラリーが得られた(実施例1、2、4、5)。また、極性媒体として水とアセトンに加えて、アンモニアを添加することにより、加熱処理を行わなくても、分散質であるリチウム固定型モンモリロナイトの粒子径を所望の小粒径とすることができ、かつ分散安定性にも優れたスラリーが得られた(実施例3、6)。