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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】HTLV-I特異的CTL活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/15 20150101AFI20241210BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241210BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20241210BHJP
【FI】
A61K35/15
A61P35/02
A61P37/04
A61P43/00 105
C12N5/0783
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021524895
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2020022065
(87)【国際公開番号】W WO2020246535
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019105453
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん医療創生研究事業「成人T細胞白血病細胞のアジュバント特性に基づく新規免疫療法の開発」委託研究開発および平成29年度国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん医療創生研究事業「成人T細胞白血病細胞のアジュバント特性に基づく新規免疫療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】神奈木 真理
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 温彦
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/035681(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/092373(WO,A1)
【文献】特開2016-077185(JP,A)
【文献】特開2012-090574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養して得られる末梢血単核細胞を抗がん剤で処理して得られる末梢血単核細胞を含有する、前記対象に投与するための、HTLV-I特異的細胞傷害性T細胞(CTL)活性化剤。
【請求項2】
末梢血単核細胞が、HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を、1日以上培養して得られる末梢血単核細胞である、請求項1に記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤。
【請求項3】
動物細胞培養用培地が、IL-2、IL-15又はその両方を含有する、請求項1又は2に記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤。
【請求項4】
動物細胞培養用培地が、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を含有する、請求項1~3のいずれかに記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤。
【請求項5】
HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞が、HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞からCD8陽性細胞を除去した末梢血単核細胞である、請求項1~4のいずれかに記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤。
【請求項6】
HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞が、HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞からCD8陽性細胞を除去した後、CD3抗体、又は、CD3抗体及びCD28抗体の両抗体で活性化された末梢血単核細胞である、請求項1~5のいずれかに記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤。
【請求項7】
HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養して得られる末梢血単核細胞を抗がん剤で処理して得られる末梢血単核細胞が、HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養して得られる末梢血単核細胞を抗がん剤で処理した後に、HTLV-1感染細胞に結合し得る抗体を接触させた末梢血単核細胞である、請求項1~6のいずれかに記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤。
【請求項8】
(a)ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養する工程;
(b)前記工程(a)の培養で得られた末梢血単核細胞を抗がん剤で処理した後、末梢血単核細胞を採取する工程;及び、
(c)前記工程(b)で採取された末梢血単核細胞を薬学的に許容される担体と混合して製剤化する工程;
を有する、前記対象に投与するための、HTLV-I特異的CTL活性化剤の製造方法。
【請求項9】
動物細胞培養用培地が、IL-2、IL-15又はその両方を含有する、請求項8に記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤の製造方法。
【請求項10】
動物細胞培養用培地が、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を含有する、請求項8又は9に記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤の製造方法。
【請求項11】
工程(a)が、HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞からCD8陽性細胞を除去した末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養する工程である、請求項8~10のいずれかに記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤の製造方法。
【請求項12】
工程(a)が、HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞からCD8陽性細胞を除去した後、CD3抗体、又は、CD3抗体及びCD28抗体の両抗体で活性化した末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養する工程である、請求項8~11のいずれかに記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HTLV-I特異的CTL活性化剤、及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
成人T細胞白血病(Adult T cell leukemia;ATL)は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T cell leukemia virus type-1;HTLV-1)を原因とする悪性リンパ性腫瘍であり、HTLV-1感染者の約5%に発症する。ATLのうち、急性型やリンパ腫型(両型併せて「アグレッシブATL(aggressive ATL)」とも呼ばれる)は、急激な発症と高頻度の再発のため、予後不良である。アグレッシブATLの3年生存率は、化学療法では24%、造血幹細胞移植では33%であり、日本で最近臨床適用が可能となったモガムリズマブ(Mogamulizumab)、レナリドミド(Lenalidomide)等の新薬による全生存期間(overall survival)の中央値も2年以内に留まっている。したがって、アグレッシブATLに対する安全かつ有効な治療方法の確立が求められている。
【0003】
一方、ATLのうち、くすぶり型や慢性型(両型併せてインドレントATL(indolent ATL)とも呼ばれる)は、アグレッシブATLと比較して病状の進行は遅いものの、数年以内に増悪するケースが多く、長期の予後はやはり不良である。ただし、インドレントATLに対しては、化学療法はかえって病状の進行を早めることが指摘されているため、アグレッシブATLへの急性転化の兆候(血液中の乳酸脱水素酵素(LDH)濃度の増加等)が現れて、実際に急性転化するまで、無治療で経過観察することが臨床上、原則となっている。ATLは早期診断が可能であるにもかかわらず、インドレントATLは病期が進行するまで為す術が無く、インドレントATLに対して安全かつ有効で、しかも早期に適用できる治療方法の確立が求められている。
【0004】
また、HTLV-1は、ATL以外にも、HTLV-1関連脊髄症(HTLV-I-associated myelopathy:HAM)又は熱帯性痙性対麻痺(Tropical spastic paraparesis:TSP)、HTLV-1ぶどう膜炎(HTLV-1 uveitis:HU)の原因ウイルスとしても知られている。
【0005】
さらに、2010年から妊婦検診におけるHTLV-1抗体検査の推奨レベルが上がり、抗体陽性者には感染告知を行うことが開始されている。これは、抗体陽性者には乳児への授乳を制限することによって、母乳を介した乳児へのHTLV-1の垂直感染の頻度を減少させるためである。しかし、人工乳で乳児を保育しても、数%の乳児にはHTLV-1の感染が成立してしまう。また、HTLV-1感染者の発症リスクを減少させる方法や発症予防方法は確立していないため、感染妊婦自身に対してはカウンセリングのみで対応しているのが実情であり、感染告知による心理的、社会的問題は計り知れない。この問題は献血時にHTLV-1感染が判明した者への感染告知においても同様である。従って、HTLV-1感染者に対する発症予防方法の確立は急務である。
【0006】
これまでに、本発明者らは、抗腫瘍効果を担うHTLV-1 Tax特異的CTL活性がATL患者では低下していることを確認し、HTLV-1 Tax特異的CTLを活性化させる方法について研究を行ってきた。例えば、特許文献1には、HTLV-1 Tax特異的CTLを活性化させることができる、Tax特異的CTLのエピトープ部位のペプチドや、かかるペプチドを含む免疫応答誘導用ワクチンが開示されている。本発明者らは、かかるペプチドを抗原とするTaxペプチドパルス樹状細胞ワクチンの開発を実際に行った。かかる樹状細胞ワクチン療法の予備的な臨床研究では、3例中2例で4年以上生存の好成績が得られ、免疫療法の有効性が示唆された(非特許文献1)。このような免疫療法は、化学療法等に比べて副作用が少なく、今後、より早期のATL患者への適応拡大が期待される。しかし、現時点では、使用可能なエピトープの種類が限られているため、適応となる患者は、HLA-A0201、HLA-A2402又はHLA-A1101というヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen:HLA)のタイプを有する患者に限定されている。日本では、かかるHLA型を有するATL患者は、ATL患者全体の約65%であり、残りの約35%のATL患者に対してはかかるペプチドワクチンを使用することができない。そのため、より多くのATL患者に適用することができる、より普遍的な治療方法の確立が望まれている。
【0007】
T細胞には、主に、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞が存在し、CD4陽性のT細胞としては、CD4陽性ヘルパーT細胞が挙げられ、CD8陽性のT細胞としては、CD8陽性細胞傷害性T細胞(CD8+CTL)が挙げられる。一般に、CD8+CTLの応答を活性化させるためには、抗原を貪食した抗原提示細胞(antigen presenting cell;APC)が活性化し、副刺激分子(CD86等)の発現やIL-12等のサイトカイン産生を行うと共に、抗原ペプチドをMHCクラスII分子だけでなくMHCクラスI分子にも提示すること(すなわち、「抗原のクロスプレゼンテーション」)が必要である。しかし、抗原として、タンパク抗原を免疫した場合、かかるタンパク抗原は主にMHCクラスII分子に提示され、MHCクラスI分子にはほとんど提示されない。そのため、CD8+CTL応答を活性化する場合には、MHCクラスIに結合可能な合成オリゴペプチドが抗原として使われることが多いが、この場合には抗原提示細胞を活性化するためのアジュバントが別途必要となる。現在、ヒトに使用可能なアジュバントは限られており、CD8+CTL応答の誘導効率も不確実である。
【0008】
ところで、本発明者らは、これまでに、HTLV-1の経口感染モデルラットが、HTLV-1特異的T細胞の免疫寛容を示すこと、前述のモデルラットにおけるHTLV-1のプロウイルス量がHTLV-1特異的T細胞応答と逆相関すること、及び、前述のモデルラットへの同系のHTLV-1感染細胞の接種により、HTLV-1特異的T細胞応答が回復したこと等を見いだしている(非特許文献2及び3)。しかし、これら非特許文献2及び3では、かかるT細胞応答が、CD4陽性T細胞の応答か、CD8陽性T細胞の応答かを区別しておらず、HTLV-1感染細胞の接種がCD8陽性T細胞の応答を活性化することは開示されていない。また、本発明者らは、ATL患者由来の末梢血単核細胞(PBMC)を培養し、かかる末梢血リンパ球におけるTax発現を確認したところ、約半数のATL患者においてTax発現が誘導されると共に、CD80等の副刺激分子が誘導されることを見いだしている(非特許文献4)。また、非特許文献4には、ATL患者由来の末梢血リンパ球を培養後にホルマリン固定したものを健常ラットに投与したところ、HTLV-1特異的T細胞応答がCD4優位で惹起されることが記載されている。
【0009】
しかし、ATL患者等のHTLV-1感染者から採取されたPBMCを培養して得られるPBMCを抗がん剤で処理して得られるPBMCを対象に投与すると、その対象において、HTLV-1特異的なCD8陽性CTLを効率的に活性化することができることは、これまでに知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2006/035681号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【文献】Br J Haematol, 169: 356-367, 2015
【文献】J Virol 77: 2956-2963. 2003
【文献】J Virol 80:7375-7381. 2006
【文献】Int J Cancer 114:257-267. 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、HTLV-I特異的CTL活性化剤、及びその製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、以下のような研究を鋭意行った。
まず、CD8陽性Tax特異的CTLと、かかるCTLとMHC-Iの一致する抗原提示細胞を用意した。次に、これら両細胞(CD8陽性Tax特異的CTL及び抗原提示細胞)とはMHC-Iが一致しないHTLV-1感染T細胞を培養した後、抗がん剤で処理した。前述の培養後抗がん剤で処理したHTLV-1感染T細胞(以下、「抗がん剤処理した培養感染T細胞」とも言う。)を、前述の抗原提示細胞と共培養し、さらにこれをホルマリン固定した後、前述のCTLと共培養したところ、IFN-γの産生が認められた。このことから、その共培養中に抗原提示細胞が「抗がん剤処理した培養感染T細胞」を取り込み、MHC-I上にHTLV-1由来のTax抗原を提示し、CTLがそのTax抗原を認識してIFN-γを産生したことが示された。また、「抗がん剤処理した培養感染T細胞」と、健常者の単球由来の未熟樹状細胞とを共培養したところ、その未熟樹状細胞からのCD86(CD8陽性CTLの応答を活性化するために必要であることが知られる副刺激分子の1種)の発現が大幅に増加した。これらのことから、「抗がん剤処理した培養感染T細胞」は、HTLV-I特異的CTL活性化剤として用い得ることが示された。
【0014】
また、HTLV-1感染T細胞を培養する際の培地にヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を添加すると、抗原提示細胞(好ましくは樹状細胞)からのIL-12産生が増加し、また、クロスプレゼンテーション効率も向上することが示された。
【0015】
また、HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞からCD8陽性細胞を除去した末梢血単核細胞を培養して得られる末梢血単核細胞を、抗がん剤で処理して得られた末梢血単核細胞では、HTLV-1由来の抗原であるTaxタンパク質を発現する細胞の割合が高くなることが示された。
【0016】
本発明者らは、これらのことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、
(1)ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養して得られる末梢血単核細胞を抗がん剤で処理して得られる末梢血単核細胞を含有する、前記対象に投与するための、HTLV-I特異的CTL活性化剤;や、
(2)末梢血単核細胞が、HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を、1日以上培養して得られる末梢血単核細胞である、上記(1)に記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤や;
(3)動物細胞培養用培地が、IL-2、IL-15又はその両方を含有する、上記(1)又は(2)に記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤や;
(4)動物細胞培養用培地が、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を含有する、上記(1)~(3)のいずれかに記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤や;
(5)HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞が、HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞からCD8陽性細胞を除去した末梢血単核細胞である、上記(1)~(4)のいずれかに記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤や;
(6)HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞が、HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞からCD8陽性細胞を除去した後、CD3抗体、又は、CD3抗体及びCD28抗体の両抗体で活性化された末梢血単核細胞である、上記(1)~(5)のいずれかに記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤や;
(7)HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養して得られる末梢血単核細胞を抗がん剤で処理して得られる末梢血単核細胞が、HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養して得られる末梢血単核細胞を抗がん剤で処理した後に、HTLV-1感染細胞に結合し得る抗体を接触させた末梢血単核細胞である、上記(1)~(6)のいずれかに記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤;や、
(8)(a)ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養する工程;
(b)前記工程(a)の培養で得られた末梢血単核細胞を抗がん剤で処理した後、末梢血単核細胞を採取する工程;及び、
(c)前記工程(b)で採取された末梢血単核細胞を薬学的に許容される担体と混合して製剤化する工程;
を有する、前記対象に投与するための、HTLV-I特異的CTL活性化剤の製造方法;や、
(9)動物細胞培養用培地が、IL-2、IL-15又はその両方を含有する、上記(8)に記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤の製造方法;や、
(10)動物細胞培養用培地が、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を含有する、上記(8)又は(9)に記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤の製造方法;や、
(11)工程(a)が、HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞からCD8陽性細胞を除去した末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養する工程である、上記(8)~(10)のいずれかに記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤の製造方法;や、
(12)工程(a)が、HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞からCD8陽性細胞を除去した後、CD3抗体、又は、CD3抗体及びCD28抗体の両抗体で活性化した末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養する工程である、上記(8)~(11)のいずれかに記載のHTLV-I特異的CTL活性化剤の製造方法;
に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、HTLV-I特異的CTL活性化剤、及びその製造方法等を提供することができる。また、本発明によれば、HTLV-1の感染に起因する疾患の患者のHLA型に制限されずに、多くの患者に比較的安価で効果的な免疫療法を提供できることが期待される。また、本発明によれば、現在、安全で有効な治療法が存在しないため無治療観察が原則となっているくすぶり型や慢性型のATL(インドレントATL)に対して早期段階で適用が可能な治療法を提供できることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、急性型ATL患者(aATL)のPBMCを培養前(Day0)又は3日間(Day3)培養後に固定/透過処理し、細胞内Taxタンパクを一次抗体(抗Tax抗体、又は、対照抗体であるマウス抗IgG抗体)で染色後、二次抗体(A488標識抗マウスIgG)で染色した細胞内のHTLV-1 Taxタンパク質を検出した結果を示す図である。図1左パネルはDay0の結果を表し、図1右パネルはDay3の結果を表す。
図2図2は、急性型ATL患者(aATL)のPBMCをそのまま(Whole)又はCD8陽性細胞を除去した後(CD8(-))、1日間(day1)培養した後、PBMCの細胞内のTaxタンパク質を検出した結果を示す図である。図2左パネル(Whole day1);aATLのPBMCをそのまま1日間培養した場合の結果を表す。図2右パネル(CD8(-) day1);aATLのPBMCからCD8陽性細胞を除去した後、そのPBMCを1日間培養した場合の結果を表す。
図3図3は、慢性型ATL患者(cATL)のPBMCからCD8陽性細胞を除去した後、CD3及びCD28抗体で刺激し、そのPBMCを24日間培養した後、PBMCの細胞内のTaxタンパク質を検出した結果を示す図である。
図4図4は、aATLのPBMC由来の細胞株(ILT-A株)またはcATLのPBMC由来の細胞株(ILT-B株)を、SAHA(スベロイルアニリドヒドロキサム酸)又はDMSO(コントロール)を含有する培地で2日間培養した後、PBMCの細胞内のTaxタンパク質を検出した結果を示す図である。図4左下パネル;ILT-A株を、IL-15及びSAHA含有培地で培養した場合の結果を表す。図4左上パネル;ILT-A株を、IL-15及びDMSO含有培地で培養した場合の結果を表す。図4右下パネル;ILT-B株を、IL-2及びSAHA含有培地で培養した場合の結果を表す。図4右上パネル;ILT-B株を、IL-2及びDMSO含有培地で培養した場合の結果を表す。
図5図5は、本発明者らが構築した評価系であって、HTLV-1感染細胞による抗原提示細胞の活性化及びクロスプレゼンテーションの評価系を表す。
図6図6は、本発明者らが構築した評価系により、培養液の上清中のIFN-γ濃度(pg/mL)を測定した結果を示す。図6の「ILT-MMC alone」;始めの培養として、MMC処理したILT-A細胞(ATL患者由来HTLV-1感染T細胞株)のみを培養した場合のCTLとの共培養液上清中のIFN-γ濃度を表す。図6の「ILT-Formalin alone」;始めの培養として、ホルマリン処理したILT-A細胞(ATL患者由来HTLV-1感染T細胞株)のみを培養した場合のCTLとの共培養液上清中のIFN-γ濃度を表す。図6の「THP1 alone」;始めの培養として、抗原提示細胞であるTHP1細胞のみを培養した場合のCTLとの共培養液上清中のIFN-γ濃度を表す。図6の「ILT-MMC+THP1」;始めの培養として、MMC処理したILT-A細胞と、THP1細胞(抗原提示細胞)を培養した場合のCTLとの共培養液上清中のIFN-γ濃度を表す。図6の「ILT-Formalin+THP1」;始めの培養として、ホルマリン処理したILT-A細胞と、THP1細胞(抗原提示細胞)を培養した場合のCTLとの共培養液上清中のIFN-γ濃度を表す。図6の「None (CTL alone)」;始めの培養の際にILT-A細胞もTHP1細胞(抗原提示細胞)も培養しなかった場合(すなわち、CTLであるTc-M1のみを培養した場合)のIFN-γ濃度を表す。
図7図7は、MMC処理ILT-A細胞に、ATL患者、HAM/TSP患者、又は非感染者の血漿を接触させた後、THP1細胞(抗原提示細胞)と共培養を行い、ホルマリンで固定した後、CTLとの共培養上清中のIFN-γ濃度(pg/mL)を測定した結果を表す。図7の「ILT alone」;MMC処理ILT-A細胞を用いたが、THP1細胞を用いなかった場合の結果を表す。図7の「ILT+APC」;MMC処理ILT-A細胞とTHP1細胞を用い、血漿や抗体は用いなかった場合の結果を表す。図7の「SN-1」及び「SN-2」;MMC処理ILT-A細胞とTHP1細胞に加えて、非感染者の血漿を用いた場合の結果を表す。図7の「ATL-1」、「ATL-2」及び「ATL-3」;MMC処理ILT-A細胞とTHP1細胞に加えて、ATL患者の血漿を用いた場合の結果を表す。図7の「HAM-1」、「HAM-2」及び「HAM-3」;MMC処理ILT-A細胞とTHP1細胞に加えて、HAM/TSP患者の血漿を用いた場合の結果を表す。図7の「Poteligeo」;MMC処理ILT-A細胞とTHP1細胞に加えて、抗CCR4抗体であるモガムリズマブを用いた場合の結果を表す。図7の「APC alone」;MMC処理ILT-A細胞を用いずに、THP1細胞を用いた場合の結果を表す。
図8図8は、MMC処理後、HTLV-1感染者の血漿で処理したILT-A細胞と、THP1細胞とを共培養した後、ホルマリンで固定し、CTLとの共培養上清中のIFN-γ濃度(pg/mL)を測定した結果を表す。図8の「10(5)」;上記のILT-A細胞とTHP1細胞とを、1:1の比率(細胞の個数の比率)で共培養した場合の結果を表す。図8の「5×10(4)」;上記のILT-A細胞とTHP1細胞とを、0.5:1の比率(細胞の個数の比率)で共培養した場合の結果を表す。図8の「2.5×10(4)」;上記のILT-A細胞とTHP1細胞とを、0.25:1の比率(細胞の個数の比率)で共培養した場合の結果を表す。また、図8において、黒塗りの棒グラフ(「MMC-ILT/(+)plasma」)は、「MMC処理ILT-A細胞」とHTLV-1感染者の血漿を接触させた場合の結果を表し、グレーの棒グラフ(「MMC-ILT/(-)plasma」)は、「MMC処理ILT-A細胞」に非感染者の血漿を接触させた場合の結果を表し、白抜きの棒グラフ(「MMC-ILT」)は、「MMC処理ILT-A細胞」にHTLV-1感染者の血漿を接触させなかった場合の結果を表す。
図9図9は、逆転写酵素阻害剤(ジドブジン:AZT)で処理した抗原提示細胞(THP1細胞)と、MMC処理したILT-A細胞とを16時間共培養した後、得られた全細胞をホルマリン水溶液で固定し、HLA-A2拘束性CD8陽性Tax特異的CTL(Tc-M1)と16時間共培養を行い、その培養上清中のIFN-γ濃度(pg/mL)を測定した結果を表す。図9の「ILT 1×10(5)」;上記のILT-A細胞とTHP1細胞とを、1:1の比率(細胞の個数の比率)で共培養した場合の結果を表す。図9の「ILT 3×10(4)」;上記のILT-A細胞とTHP1細胞とを、0.3:1の比率(細胞の個数の比率)で共培養した場合の結果を表す。図9の横軸の「Medium」;ILT-A細胞を用いなかった場合の結果を表す。また、図9において、黒塗りの棒グラフ(「THP1-AZT」)は、培地にAZTを添加してTHP1細胞等を培養した場合の結果を表し、グレーの棒グラフ(「THP1」)は、培地にAZTを添加しなかった場合の結果を表し、白抜きの棒グラフ(「Medium」)はTHP1細胞を用いなかった場合の結果を表す。
図10図10は、HLA-A2陰性の健常人未熟樹状細胞とMMC処理したHLA-A2陽性のILT-C株とを24時間共培養した後、抗HLA-A2抗体と、抗ヒトCD83抗体又は抗ヒトCD86抗体とで染色し、フローサイトメーターでHLA-A2陰性樹状細胞分画のCD83及びCD86の発現強度を測定した結果を示す。なおグレーの結果は、対照抗体(マウスIgG1)染色の結果を表す。図10左下パネル;健常人未熟樹状細胞とMMC処理ILT-C株とを共培養して得られた細胞におけるCD83の発現を測定した結果を表す。図10左上パネル;MMC処理ILT-C株を用いずに健常人未熟樹状細胞を培養して得られた細胞におけるCD83の発現を測定した結果を表す。図10右下パネル;健常人未熟樹状細胞とMMC処理ILT-C株とを共培養して得られた細胞におけるCD86の発現を測定した結果を表す。図10右上パネル;MMC処理ILT-C株を用いずに健常人未熟樹状細胞を培養して得られた細胞におけるCD86の発現を測定した結果を表す。
図11図11は、ILT-A細胞又はILT-B細胞を、SAHA(HDAC阻害剤の1種)含有培地又はDMSO含有培地(コントロール培地)で24時間培養して得られた細胞をMMC処理した後、樹状細胞と共培養を行い、その培養上清中のIL-12濃度(pg/mL)を測定した結果を表す。図11の「ILT-A SAHA」;ILT-A細胞をSAHA含有培地で培養して得られた細胞をMMC処理した細胞を用いた場合の結果を表す。図11の「ILT-A DMSO」;ILT-A細胞をDMSO含有培地で培養して得られた細胞をMMC処理した細胞を用いた場合の結果を表す。図11の「ILT-B SAHA」;ILT-B細胞をSAHA含有培地で培養して得られた細胞をMMC処理した細胞を用いた場合の結果を表す。図11の「ILT-B DMSO」;ILT-B細胞をDMSO含有培地で培養して得られた細胞をMMC処理した細胞を用いた場合の結果を表す。なお、各項目における右側には、樹状細胞と共培養した場合の結果(黒塗りの棒グラフ(「DC」))を表し、各項目における左側には、樹状細胞を用いなかった場合の結果(「Medium」)を表す。ただし、「Medium」の実際の結果はいずれも検出限界以下(n.d.)であった。
図12図12は、ILT-B細胞を、VPA(HDAC阻害剤の1種)含有培地又はDMSO含有培地(コントロール培地)で24時間培養して得られた細胞をMMC処理した後、樹状細胞と共培養を行い、その培養上清中のIL-12濃度(pg/mL)を測定した結果を表す。図12の「VPA」;ILT-B細胞をVPA含有培地で培養して得られた細胞をMMC処理した細胞を用いた場合の結果を表す。図12の「DMSO」;ILT-B細胞をDMSO含有培地で培養して得られた細胞をMMC処理した細胞を用いた場合の結果を表す。なお、各項目における右側には、樹状細胞と共培養した場合の結果(黒塗りの棒グラフ(「DC」)を表し、各項目における左側には、樹状細胞を用いなかった場合の結果(「Medium」)を表す。ただし、「Medium」の実際の結果はいずれも検出限界以下(n.d.)であった。
図13図13は、ILT-A細胞又はILT-B細胞を、SAHA(HDAC阻害剤の1種)含有培地又はDMSO含有培地(コントロール培地)で24時間培養して得られた細胞をMMC処理した後、樹状細胞と共培養を行い、ホルマリンで固定した後、CTLとの共培養上清中のIFN-γ濃度(pg/mL)を測定した結果を表す。図13の「ILT-A SAHA」;ILT-A細胞をSAHA含有培地で培養して得られた細胞をMMC処理した細胞を用いた場合の結果を表す。図13の「ILT-A DMSO」;ILT-A細胞をDMSO含有培地で培養して得られた細胞をMMC処理した細胞を用いた場合の結果を表す。図13の「ILT-B SAHA」;ILT-B細胞をSAHA含有培地で培養して得られた細胞をMMC処理した細胞を用いた場合の結果を表す。図13の「ILT-B DMSO」;ILT-B細胞をDMSO含有培地で培養して得られた細胞をMMC処理した細胞を用いた場合の結果を表す。図13の横軸の「Medium」;ILT細胞を用いず、培地または樹状細胞(DC)のみをCTLと共培養した場合の結果を表す。なお、各項目における右側には、樹状細胞と共培養した場合の結果(黒塗りの棒グラフ(「DC」))を表し、各項目における左側には、樹状細胞を用いなかった場合の結果(白抜きの棒グラフ(「Medium」)を表す。ただし、「n.d.」は検出限界以下を表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、
[1]ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養して得られる末梢血単核細胞を抗がん剤で処理して得られる末梢血単核細胞を含有する、前記対象に投与するための、HTLV-I特異的CTL活性化剤(又は、HTLV-I特異的CTL活性化用組成物);や、
[2](a)ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養する工程;
(b)前記工程(a)の培養で得られた末梢血単核細胞を抗がん剤で処理した後、末梢血単核細胞を採取する工程;及び、
(c)前記工程(b)で採取された末梢血単核細胞を薬学的に許容される担体と混合して製剤化する工程;
を有する、前記対象に投与するための、HTLV-I特異的CTL活性化剤(又は、HTLV-I特異的CTL活性化剤又は活性化用組成物)の製造方法;
などの態様を含んでいる。なお、本明細書において、HTLV-I特異的CTL活性化剤は、HTLV-I特異的CTL活性化用組成物として用いることができる。
【0021】
また、本発明はその他の態様として、
[3](a)ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養する工程;
(b)前記工程(a)の培養で得られた末梢血単核細胞を抗がん剤で処理した後、末梢血単核細胞を採取する工程;及び、
(c)前記工程(b)で採取した末梢血単核細胞(又は、かかる末梢血単核細胞を含むHTLV-I特異的CTL活性化剤又は活性化用組成物)を前記対象に投与する工程;
を有する、前記対象におけるHTLV-1感染に起因する疾患の予防又は治療方法;や、
[4](a)ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養する工程;
(b)前記工程(a)の培養で得られた末梢血単核細胞を抗がん剤で処理した後、末梢血単核細胞を採取する工程;及び、
(c)前記工程(b)で採取した末梢血単核細胞(又は、かかる末梢血単核細胞を含むHTLV-I特異的CTL活性化剤又は活性化用組成物)を前記対象に投与する工程;
を有する、前記対象における抗HTLV-1特異的CTLの活性化方法;や、
[5]HTLV-1感染に起因する疾患の予防又は治療における使用のための、「ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養して得られる末梢血単核細胞を抗がん剤で処理して得られる末梢血単核細胞」;や、
[6]HTLV-1感染に起因する疾患の予防又は治療剤(又は、予防又は治療用医薬組成物)の製造のための、「ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養して得られる末梢血単核細胞を抗がん剤で処理して得られる末梢血単核細胞」の使用;
などの態様も含んでいる。
【0022】
(末梢血単核細胞)
本発明における「末梢血単核細胞」としては、ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)に感染した対象から採取された末梢血単核細胞(以下、「感染対象由来PBMC」とも表示する。)を動物細胞培養用培地で培養して得られる末梢血単核細胞(以下、「培養感染PBMC(cultured infected PBMC)」とも表示する。)を抗がん剤で処理して得られる末梢血単核細胞(以下、「抗がん剤処理した培養感染PBMC」とも表示する。)である限り特に制限されない。
【0023】
本発明における末梢血単核細胞(PBMC)の種類としては、末梢血由来のT細胞、B細胞、NK細胞、単球が挙げられ、中でも、末梢血由来のT細胞が特に好ましく挙げられる。
【0024】
上記の「ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)に感染した対象」として具体的には、HTLV-1に起因する疾患(以下、「HTLV-1疾患」とも表示する。)に罹患している対象や、HTLV-1疾患に罹患していない(すなわち、HTLV-1疾患を未発症である)がHTLV-1に感染している対象を挙げることができる。なかでも、本発明の効果をより多く享受する観点から、Tax特異的CTL活性の低い対象を好ましく挙げる事ができる。上記のHTLV-1疾患としては、成人T細胞白血病(ATL)、HAM、TSP、HUを挙げることができ、ATLを好ましく挙げることができる。
【0025】
ある対象がHTLV-1に感染しているかどうかは、公知の方法を用いることができる。かかる公知の方法としては、その対象の血液中に抗HTLV-1抗体が含まれているかを調べるウエスタンブロット法又はラインブロット法、あるいは、その対象のPBMCのゲノム中のHTLV-1ウイルスDNA(プロウイルスDNA)を特異的に検出する核酸検出法(PCR法)を挙げることができる。
【0026】
HTLV-1に感染した対象からPBMCを採取する方法としては、特に制限されず、対象から採取した末梢血について公知の密度勾配遠心法などを適用することにより、PBMCを採取する方法を好ましく挙げることができる。上記の密度勾配遠心法には、市販のヒトリンパ球分離液を好適に用いることができる。
【0027】
HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞(「感染対象由来PBMC」)としては、HTLV-1に感染したPBMCを好ましく挙げることができる。HTLV-1に感染した対象から採取されたPBMCの細胞集団は、HTLV-1に感染したPBMCを含んでいればよく、その細胞集団の個々のすべての細胞がHTLV-1に感染していなくてもよいが、感染細胞の割合は高いほど良く、かかる細胞集団のPBMCのうち、5%以上、15%以上、40%以上の割合の個数の細胞がHTLV-1に感染していることが挙げられる。
【0028】
また、感染対象由来PBMCとしては、HTLV-1に感染した対象から採取されたPBMC(PBMCの細胞集団)からCD8陽性細胞を除去したPBMC(PBMCの細胞集団)を好ましく挙げることができる。CD8陽性細胞を除去したPBMC(PBMCの細胞集団)を感染対象由来PBMCとして用いると、該PBMCを培養したときに、HTLV-1由来の抗原であるTaxタンパク質を発現する細胞の割合が高くなるため好ましい。かかる割合としては、20%以上、35%以上、50%以上などが好ましく挙げられる。
【0029】
また、感染対象由来PBMCとしては、HTLV-1に感染した対象から採取されたPBMC(PBMCの細胞集団)からCD8陽性細胞を除去したPBMC(PBMCの細胞集団)をCD3抗体、又は、CD3抗体及びCD28抗体の両抗体で刺激したPBMC(PBMCの細胞集団)を好ましく挙げることができる。かかる刺激したPBMC(PBMCの細胞集団)を感染対象由来PBMCとして用いると、該PBMCを培養したときに、HTLV-1由来の抗原であるTaxタンパク質を発現する細胞の割合が高くなるため好ましい。
【0030】
(動物細胞培養用培地)
本発明に用いる「動物細胞培養用培地」としては、末梢血単核細胞(好ましくは末梢血T細胞)の増殖に適している液体培地である限り特に制限されず、RPMI1640培地、RPMI培地、DMEM培地、IMEM培地、MEM培地などの動物細胞培養用基本培地を使用することができる。また、これらの動物細胞培養用基本培地の混合培地を用いることもできる。これらの動物細胞培養用基本培地は市販されているものを用いることができる。
【0031】
本発明における動物細胞培養用培地は、無血清培地であってもよいが、血清含有培地であってもよく、かかる血清含有培地としては、前述の動物細胞培養用基本培地にさらに5~20重量%の血清(例えばFCS)を添加した培地を好ましく挙げることができる。
【0032】
また、本発明における動物細胞培養用培地は、IL-2(インターロイキン-2)及びIL-15(インターロイキン-15)のいずれも含有していなくてもよいが、IL-2(インターロイキン-2)及びIL-15(インターロイキン-15)からなる群から選択される1種又は2種の物質をさらに含有していることが好ましい。IL-2やIL-15は、末梢血単核細胞の培養を長期間継続させるために好適であるため、感染者対象由来PBMCを例えば2日間以上培養する場合に特に好適に用いることができる。本発明における動物細胞培養用培地中のIL-2の濃度としては、例えば3~300u/mL、好ましくは6~150u/mL、より好ましくは15~60u/mLを挙げることができ、また、IL-15の濃度としては、例えば1~100ng/mL、好ましくは2~50ng/mL、より好ましくは5~20ng/mLを挙げることができる。なお、IL-2やIL-15は市販されているものを用いることができる。
【0033】
また、本発明における動物細胞培養用培地は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含有していなくてもよいが、さらにHDAC阻害剤を含有していることが好ましい。感染対象由来PBMCを培養する培地にHDAC阻害剤が含まれていると、かかるPBMCを抗原提示細胞(APC)と共培養した際の、APCからのIL-12産生が増加し、また、APCのクロスプレゼンテーション効率も向上するため好ましい。
【0034】
HDAC阻害剤としては、HDACへの阻害作用を有する物質である限り特に制限されず、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)、バルプロ酸(Valproic acid, VPA)、トリコスタチンA(TSA)、スクリプタイド(Scriptaid)、オキサムフラチン(Oxamflatin)、トラポキシン(trapoxin)、フェニル酪酸(phenylbutyrate)、MS-275(Entinostat)、ピロキシアミド(pyroxamide)等を挙げることができ、中でも、SAHAやVPAを好ましく挙げることができる。また、HDAC阻害剤は2種類以上を併用してもよい。なお、これらのHDAC阻害剤は市販されているものを用いることができる。
【0035】
本発明における動物細胞培養用培地中のHDAC阻害剤の濃度としては、用いるHDAC阻害剤の種類に応じて適宜設定することができるが、例えばSAHAの場合、例えば0.1~20μM、好ましくは0.25~10μM、より好ましくは0.5~2μMを挙げることができ、VPAの場合は、例えば0.1~20mM、好ましくは0.25~10mM、より好ましくは0.5~2mMを挙げることができる。
【0036】
本発明におけるPBMCを、CD3抗体、又は、CD3抗体及びCD28抗体で刺激する場合、本発明における動物細胞培養用培地中に添加するCD3抗体やCD28抗体の量は特に制限されないが、本発明における動物細胞培養用培地中に、CD3抗体を付着したイムノビーズをPBMCの細胞数に対して0.3~2倍(好ましくは0.5~1.5倍、より好ましくは0.8~1.2倍)の個数となるように添加すること、あるいは、CD3抗体及びCD28抗体を付着したイムノビーズをPBMCの細胞数に対して0.3~2倍(好ましくは0.5~1.5倍、より好ましくは0.8~1.2倍)の個数となるように添加することができる。
【0037】
(感染対象由来PBMCの培養方法)
感染対象由来PBMCの培養方法としては、該細胞を動物細胞培養用培地で培養する方法である限り特に制限されない。上記の動物細胞培養用培地を用いること以外は、PBMCの通常の培養条件(例えば温度条件、二酸化炭素濃度条件、培養期間等)を用いることができる。
【0038】
前述の温度条件としては、例えば30~39℃、好ましくは35~39℃を挙げることができる。
【0039】
前述の二酸化炭素濃度条件としては、例えば3~7%、4~6%などを挙げることができる。
【0040】
前述の培養期間の下限としては、例えば1日間以上を挙げることができ、HTLV-1由来のTaxタンパク質を発現する細胞の割合がより高くなる観点から、好ましくは3日間以上、より好ましくは5日間以上を挙げることができる。培養期間の上限としては、特に制限されないが、6か月間以下、3か月間以下、1か月間以下を挙げることができる。前述の培養期間としてより具体的には、1日間~6か月間、1日間~3か月間、1日間~1か月間、2日間~6か月間、2日間~3か月間、2日間~1か月間、3日間~6か月間、3日間~3か月間、3日間~1か月間、5日間~6か月間、5日間~3か月間、5日~1か月間などを挙げることができる。
【0041】
感染対象由来PBMCを動物細胞培養用培地で培養する際に、培養開始時に用いる、培地1mLあたりの感染対象由来PBMCの個数としては、例えば、10~10個/mL、5×10~5×10個/mLなどを挙げることができる。
【0042】
(抗がん剤)
培養感染PBMCでは、感染対象由来PBMCと比較して、HTLV-1抗原の発現が増加している。かかる培養感染PBMCをHTLV-I特異的CTL活性化剤としてHTLV-1感染者に投与した場合、その感染者が体液中に既に有しているHTLV-1中和抗体が働き、培養感染PBMCに基づく新たなHTLV-I感染は基本的に生じないと考えられる。さらに、本発明では培養感染PBMCを抗がん剤で処理することにより、培養感染PBMC自体をほとんど死滅させるため、新たなHTLV-I感染が生じる可能性はほとんどなく、あったとしても極めて限定的且つ一過性と考えられる。
【0043】
本明細書における「抗がん剤」とは、培養感染PBMCの生存及び/又は増殖を阻害する活性を有する物質である限り特に制限されず、例えば通常、抗がん剤として用いられない物質についても便宜上含まれるが、抗がん剤を好ましく挙げることができる。
【0044】
かかる抗がん剤としては、抗腫瘍性抗生物質、アルキル化薬、白金製剤、トポイソメラーゼ阻害薬などのDNA複製阻害薬;葉酸代謝拮抗薬、ピリミジン代謝阻害薬、プリン代謝阻害薬などの代謝拮抗薬;微小管重合阻害薬、微小管脱重合阻害薬などの微小管阻害薬;分子標的治療薬;などを挙げることができる。
【0045】
上記の抗腫瘍性抗生物質としては、マイトマイシンC(MMC)、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ブレオマイシン、ザルコマイシンなどを挙げることができ、中でも、マイトマイシンCを好ましく挙げることができる。
【0046】
上記のアルキル化薬としては、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、ブスルファン、チオテパなどのナイトロジェンマスタード類;ニムスチン、ラニムスチン、ダカルバジン、プロカルバシン、テモゾロマイド、カルムスチン、ストレプトゾトシン、ベンダムスチンなどのニトロソウレア類を挙げることができる。
【0047】
上記の白金製剤としては、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチンなどを挙げることができる。
【0048】
上記のトポイソメラーゼ阻害薬としては、イリノテカン、エトポシド、ドキソルビシン、エピルビシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン、レボフロキサシンなどを挙げることができる。
【0049】
上記の葉酸代謝拮抗薬としては、スルファジアジン、スルファメトキサゾール、ジアフェニルスルホンなどのジヒドロプテロイン酸シンターゼ阻害薬;メソトレキセート、トリメトプリム、ピリメタミンなどのジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害薬;などを挙げることができる。
【0050】
上記のピリミジン代謝阻害薬としては、フルオロウラシル(5-FU)、フルシトシン(FC)などのチミジル酸シンターゼ阻害薬を挙げることができる。
【0051】
上記のプリン代謝阻害薬としては、6-メルカプトプリン、アザチオプリンなどのIMPDH阻害薬;ペントスタチンなどのアデノシンデアミナーゼ阻害薬;ヒドロキシウレアなどのリボヌクレオチドレダクターゼ阻害薬;チオグアニン、リン酸フルダラビン、クラドリビンなどのプリンアナログや、シタラビン、ゲムシタビンなどのピリミジンアナログなどのヌクレオチドアナログ;などを挙げることができる。
【0052】
上記の微小管重合阻害薬としては、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、フォルデシンを挙げることができる。
【0053】
上記の微小管脱重合阻害薬としては、パクリタキセル、ドセタキセルなどを挙げることができる。
【0054】
上記の分子標的治療薬としては、モガムリズマブなどを挙げることができる。
【0055】
なお、これらの抗がん剤は2種類以上を併用してもよい。また、これらの抗がん剤は市販されているものを用いることができる。
【0056】
(培養感染PBMCを抗がん剤で処理する方法)
本発明において、培養感染PBMCを抗がん剤で処理する方法としては、培養感染PBMCと抗がん剤を接触させる方法である限り特に制限されず、例えば、培養感染PBMCを含む溶液(例えば培地)中に抗がん剤を添加したのち、一定時間静置する方法を好ましく挙げることができる。
【0057】
培地等の溶液中の抗がん剤濃度としては、培養感染PBMCの生存及び/又は増殖を阻害することができる限り特に制限されず、当業者は用いる抗がん剤の種類に応じて適宜設定することができる。例えばマイトマイシンCを用いる場合のマイトマイシンCの培地中の濃度としては、例えば5~500μg/mL、好ましくは10~250μg/mL、より好ましくは25~100μg/mLを挙げることができる。
【0058】
培養感染PBMCを抗がん剤に接触させる時間としては、培養感染PBMCの生存及び/又は増殖を阻害することができる限り特に制限されず、例えば、30分間~24時間、30分間~8時間、30分間~2時間などを挙げることができる。
【0059】
培養感染PBMCを抗がん剤で処理した後は、培養感染PBMCから抗がん剤を除去するために、培養感染PBMCを培地等で洗浄することが好ましい。かかる洗浄の後、遠心分離するなどして、培養感染PBMCを採取することができる。
【0060】
(HTLV-1感染細胞に結合し得る抗体を接触させること)
抗がん剤処理した培養感染PBMCは、さらに、HTLV-1感染細胞に結合し得る抗体を接触させなくてもよいが、抗原提示細胞による貪食作用が高まる場合があるため、さらに、HTLV-1感染細胞に結合し得る抗体を接触させることが好ましい。
【0061】
本発明において「HTLV-1感染細胞に結合し得る抗体」としては、モガムリズマブや、HTLV-I感染対象の血液中に含まれる抗体を挙げることができる。
【0062】
抗がん剤処理した培養感染PBMCを、HTLV-1感染細胞に結合し得る抗体に接触させる方法としては、該抗体を含む溶液中に、抗がん剤処理した培養感染PBMCを入れる方法が挙げられる。なお、HTLV-I感染対象の血液中に含まれる抗体を用いる場合、かかる感染対象の血漿を用いることができる。
【0063】
(HTLV-I特異的CTL活性化剤)
本発明のHTLV-I特異的CTL活性化剤は、抗がん剤処理した培養感染PBMC(すなわち、ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養して得られる末梢血単核細胞を抗がん剤で処理して得られる末梢血単核細胞)のみを含んでいてもよいし、他の成分(すなわち任意成分)をさらに含んでいてもよい。
【0064】
本発明のHTLV-I特異的CTL活性化剤は、抗がん剤処理した培養感染PBMCを、薬学的に許容される担体と混合する等の常法にしたがって製剤化したものであってもよい。かかる製剤としては、固体製剤であってもよいし、液体製剤であってもよいが、液体製剤を好ましく挙げることができる。
【0065】
かかる液体製剤としては、液剤、懸濁剤、シロップ剤、スラリー、乳剤などを挙げることができる。かかる液体製剤に用い得る液体担体としては、任意の適当な有機又は無機溶媒、例えば食塩水、緩衝生理食塩水(例えばリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水)、生理食塩水溶液などを挙げることができる。これらの溶媒は無菌化処理されたものが好ましい。
【0066】
本発明のHTLV-I特異的CTL活性化剤中の「抗がん剤処理した培養感染PBMC」の含有量としては、活性剤全体の約0.1~100重量%、好ましくは約1~99重量%、より好ましくは10~90重量%を挙げることができる。また、本発明のHTLV-I特異的CTL活性化剤中の「抗がん剤処理した培養感染PBMC」の含有量を、HTLV-I特異的CTL活性化剤1mL当たりの「抗がん剤処理した培養感染PBMC」の個数で述べると、例えば10~10個/mL、5×10~5×10個/mLなどを挙げることができる。
【0067】
(投与量)
本発明のHTLV-I特異的CTL活性化剤の投与量は、疾患の状態、個々の患者の年齢、体重等により適宜調節されるが、対象への1回の投与における薬剤中の「抗がん剤処理した培養感染PBMC」の個数として、例えば10~10個、好ましくは5×10~5×10個を挙げることができる。このような投与を数日間、数週間又は数か月に1回ずつ、合計2回以上(例えば2~10回)、反復投与することが好ましい。
【0068】
(投与方法)
本発明のHTLV-I特異的CTL活性化剤の投与方法としては、HTLV-I特異的CTL活性化効果が得られる限り特に制限されないが、例えば皮下投与、皮内投与、筋肉内投与などを挙げることができ、中でも、皮下投与を好ましく挙げることができる。
【0069】
(投与対象)
本発明のHTLV-I特異的CTL活性化剤の投与対象は、感染対象由来PBMCを採取した対象と同じであることが望ましい。この場合、HTLV-I特異的CTL活性化剤は、拒絶反応を起こさずに、投与対象のHTLV-I特異的CTLを活性化することができる。
【0070】
(本発明の用途)
本発明のHTLV-I特異的CTL活性化剤は、HTLV-1疾患の患者において、HTLV-I特異的CTLを活性化することができ、その結果、HTLV-1疾患に対して治療効果を有すると考えられる。かかる治療効果には、HTLV-1疾患の症状を改善する効果や、HTLV-1疾患(特にATL)が急性転化することを抑制する効果、化学療法後の再発を防止する効果などが含まれる。また、本発明のHTLV-I特異的CTL活性化剤は、HTLV-1疾患を発症していないものの、HTLV-Iに感染している対象において、HTLV-I特異的CTLを活性化することにより、HTLV-1疾患の発症抑制効果を有すると考えられる。
【0071】
したがって、本発明のHTLV-I特異的CTL活性化剤(HTLV-I特異的CTL活性化用組成物)又は抗がん剤処理した培養感染PBMCは、HTLV-1感染に起因する疾患の改善剤(又は改善用医薬組成物)、HTLV-1感染に起因する疾患の急性転化抑制剤(又は急性転化抑制用医薬組成物)、HTLV-1感染に起因する疾患の発症抑制剤(又は発症抑制用医薬組成物)、HTLV-1感染に起因する疾患の予防又は治療剤(又は予防又は治療用医薬組成物)などとしても用いることができる。
【0072】
(HTLV-I特異的CTL活性化)
本発明において、「HTLV-I特異的CTL活性化」(HTLV-I特異的CTLを活性化すること)とは、HTLV-I特異的CTLのHTLV-1に対する細胞傷害活性を向上させることを意味し、例えば、本発明のHTLV-I特異的CTL活性化剤又は「抗がん剤処理した培養感染PBMC」を投与した対象の体内において、抗原提示細胞(好ましくは樹状細胞)のクロスプレゼンテーションが誘導され、次いで、細胞傷害活性を持たないナイーブCD8陽性T細胞からHTLV-I特異的CTLが誘導されるなどして、前記対象の体内におけるHTLV-I特異的CTLのHTLV-1に対する細胞傷害活性を向上させることが含まれる。
【0073】
HTLV-I特異的CTLのHTLV-1に対する細胞傷害活性が向上しているとは、本来あるべきHTLV-I特異的CTL活性が減弱している感染対象に対して、抗がん剤で処理した末梢血単核細胞を投与した場合、投与前と比較して、対象におけるHTLV-I特異的CTLのHTLV-1に対する細胞傷害活性が向上していることを意味する。
【0074】
(HTLV-I特異的CTL活性化剤の製造方法)
本発明のHTLV-I特異的CTL活性化剤の製造方法としては、
(a)ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養する工程;
(b)前記工程(a)の培養で得られた末梢血単核細胞を抗がん剤で処理した後、末梢血単核細胞を採取する工程;及び、
(c)前記工程(b)で採取された末梢血単核細胞を薬学的に許容される担体と混合して製剤化する工程;
を有している限り特に制限されない。
【0075】
上記の(a)の工程としては、ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)に感染した対象から採取された末梢血単核細胞を動物細胞培養用培地で培養する工程である限り特に制限されない。かかる培養の方法は前述したとおりである。なお、かかる工程(a)の中でも、HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞からCD8陽性細胞を除去した末梢血単核細胞をCD3抗体、又は、CD3抗体及びCD28抗体の両抗体で刺激した後、動物細胞培養用培地で培養する工程を好ましく挙げることができる。また、HTLV-1に感染した対象から採取された末梢血単核細胞からCD8陽性細胞を除去した末梢血単核細胞をCD3抗体、又は、CD3抗体及びCD28抗体の両抗体で刺激する方法としては、CD3抗体を付着したイムノビーズ又はCD3抗体及びCD28抗体を付着したイムノビーズをPBMC(CD8陽性細胞を除去した末梢血単核細胞)の細胞数に対して0.3~2倍(好ましくは0.5~1.5倍、より好ましくは0.8~1.2倍)の個数となるように添加した本発明における動物細胞培養用培地中にて、CD8陽性細胞を除去した末梢血単核細胞を培養する方法が挙げられる。
【0076】
上記の(b)の工程としては、前記工程(a)の培養で得られた末梢血単核細胞を抗がん剤で処理した後、末梢血単核細胞を採取する工程である限り特に制限されない。かかる抗がん剤での処理方法、採取方法は前述したとおりである。
【0077】
上記の(b)の工程としては、前記工程(a)の培養で得られた末梢血単核細胞を抗がん剤で処理した後に、HTLV-1感染細胞に結合し得る抗体を接触させ、次いで、かかる末梢血単核細胞を採取する工程を好ましく挙げることができる。
【0078】
上記の(c)の工程としては、前記工程(b)で採取された末梢血単核細胞を薬学的に許容される担体と混合して製剤化する工程である限り特に制限されない。かかる方法は前述したとおりである。
【0079】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例
【0080】
試験1.[HTLV-1感染T細胞の培養によるTax抗原発現誘導試験]
HTLV-1感染者(ATL患者を含む)の末梢血中にはHTLV-1に感染した単核細胞が存在する。しかし、末梢血から分離した直後の感染単核細胞では、HTLV-1抗原は全く検出されない。HTLV-1感染末梢血単核細胞をワクチン抗原として使うためには、HTLV-1のTax抗原の発現が必要である。そこで、HTLV-1感染末梢血単核細胞を培養することにより、Tax抗原の発現がどのようになるかを調べるために以下の試験を行った。
【0081】
(1)PBMCの培養方法
2人の急性型ATL(aATL)患者からそれぞれ末梢血を採取した。ヒトリンパ球比重分離液であるFicoll-Paque(登録商標)を用いた密度勾配法により、前述の末梢血から末梢血単核細胞(PBMC)をそれぞれ分離した。10u/mLとなるようにrhIL-2(「イムネース(Immunace)」(登録商標)、シオノギ製薬社製)を添加した10%FCS(ウシ胎仔血清)添加 RPMI 1640培地(以下、「IL-2添加培地」と言う。)に、前述のPBMCをそのまま5×10個/mL添加し、数日間~数週間、COインキュベーターで37℃にて培養を行った。
【0082】
(2)CD8陽性細胞を除去したPBMCの培養方法
また、前述のPBMCをそのままIL-2添加培地に添加することに代えて、前述のPBMCからCD8陽性細胞を除去したPBMCをIL-2添加培地に添加して、数日間~数週間、COインキュベーターで37℃にて培養を行った。なお、PBMCからのCD8陽性細胞の除去には、CD8抗体を付着させたイムノビーズ(「Dynabeads」(登録商標)、ThermoFisher社製)を用いた。
【0083】
(3)培養後のPBMCにおけるTax抗原の発現の確認
上記(1)の方法でaATL患者由来のPBMCを3日間培養した後、そのPBMCについてフローサイトメトリーを行い、PBMCの細胞内のTaxタンパク質を検出した。フローサイトメトリーによるTaxタンパク質の検出方法は以下のとおりである。
【0084】
3日間培養後のPBMCをPermeabilization/Fixation Buffer(eBioscience社製)で30分間固定した後、Permeabilizing buffer(eBioscience社製)で洗浄した。これらのPBMCに一次抗体としてマウス抗HTLV-1 Tax抗体LT-4(Lee B, Tanaka Y, Tozawa H. 1989. Monoclonal antibody defining tax protein of human T-cell leukemia virus type-I. Tohoku J Exp Med 157:1-11.)を加え、氷上で30分間インキュベートした。これらのPBMCを洗浄した後、二次抗体としてAlexa488-抗マウスIgG抗体を添加して、PBMCを30分間染色した。これらのPBMCを洗浄した後、細胞解析装置MACSQuant(Miltenyi Biotec社製)を用いてPBMC内のHTLV-1 Taxタンパク質を検出した(図1の右パネル(Day3))。
【0085】
一方、コントロールとして、上記(1)の方法におけるaATL患者由来の、培養前のPBMCについて、同様のフローサイトメトリーを行って、PBMC内のHTLV-1 Taxタンパク質を検出した(図1の左パネル(Day0))。
【0086】
図1の結果から分かるように、培養前のPBMCからはTaxタンパク質を全く検出することができなかったが、3日間培養後には約半数以上のPBMCからTaxタンパク質を検出することができた。これらの結果から、aATL患者のPBMCを培養すると、細胞内でのTax抗原の発現が誘導されることが示された。
【0087】
(4)PBMCからのCD8陽性細胞を除去することの影響
上記(1)の方法でaATL患者由来のPBMCを1日間培養した後、そのPBMCについて、上記(3)に記載の方法でフローサイトメトリーを行い、PBMCの細胞内のTaxタンパク質を検出した。その結果を図2の左パネルに示す。
【0088】
また、上記(2)の方法でaATL患者由来のPBMCからCD8陽性細胞を除去した後、かかるPBMCを上記(1)の方法で1日間培養した。かかるPBMCについて、上記(3)に記載の方法でフローサイトメトリーを行い、PBMCの細胞内のTaxタンパク質を検出した。その結果を図2の右パネルに示す。
【0089】
図2の結果から分かるように、PBMCからCD8陽性細胞を除去してから1日間培養を行った場合の、Taxタンパク質が検出される細胞の割合(7.15%)は、PBMCをそのまま1日間培養を行った場合のその割合(5.33%)よりも高かった。この結果から、感染対象PBMCからCD8陽性細胞を除去してから培養すると、HTLV-1由来の抗原であるTaxタンパク質を発現する細胞の割合が高くなる点で好ましいことが示された。
【0090】
(5)CD8陽性細胞を除去したPBMCのより長期間の培養
上記(2)と同様の方法で慢性ATL患者由来のPBMCからCD8陽性細胞を除去した後、CD3抗体及びCD28抗体を付着させたイムノビーズ(Dynabeads, ThermoFisher社製)を培地にPBMCと同数加えてPBMCを刺激した後、かかるPBMCを上記(1)の方法で24日間培養した。かかるPBMCについて、上記(3)に記載の方法でフローサイトメトリーを行い、PBMCの細胞内のTaxタンパク質を検出した。その結果を図3に示す。
【0091】
図3の結果から分かるように、PBMCからCD8陽性細胞を除去してから24日間培養を行うと、約60%以上のPBMCからTaxタンパク質を検出することができた。
【0092】
(6)ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤の影響
これまでに、本発明者らは、ATL患者のPBMCを、30u/mLのIL-2(rhIL-2;Peprotec社製)又は10ng/mLのIL-15(rhIL-15;Peprotec社製)存在下で長期培養することにより、Taxタンパク質を発現したT細胞株を樹立した(J Virol 79:10088-10092や、PLoS Pathog. 2017 Sep 14;13(9):e1006597.)。本発明者らが樹立したそのような細胞株のうち、ILT-A株とILT-B株を用意した。ILT-A株は急性ATL患者のPBMC由来のIL-15依存性細胞株であり、ILT-B株は慢性ATL患者のPBMC由来のIL-2依存性細胞株である。抗がん作用が知られているヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤が、ILT-A細胞やILT-B細胞を培養した際のTaxタンパク質の発現にどのような影響を与えるか確認を試みた。
【0093】
上記(1)又は(6)に記載のIL-2またはIL-15添加培地に、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)を添加して、0.5μMのSAHAを含むSAHA含有培地を調製した。また、上記(1)又は(6)に記載のIL-2またはIL-15添加培地に、ジメチルスルホキシド(DMSO)を添加して、0.001重量%のDMSOを含むDMSO含有培地(コントロール培地)を調製した。
【0094】
ILT-A細胞を、SAHA含有培地とコントロール培地にてそれぞれ2日間、COインキュベーターで37℃にて培養を行った。かかるILT-A細胞について上記(3)に記載の方法でフローサイトメトリーを行い、ILT-A細胞内のTaxタンパク質を検出した。ILT-A細胞に代えて、ILT-B細胞を用いて同様の実験を行い、ILT-B細胞内のTaxタンパク質を検出した。これらの結果を図4に示す。図4の結果から、PBMC細胞株をHDAC阻害剤の存在下で培養すると、HDAC阻害剤非存在下で培養した場合と比較して、Taxタンパク質発現の誘導効率が向上することが示された。
【0095】
試験2.[HTLV-1感染細胞による抗原のクロスプレゼンテーションの誘導]
一般に、CD8+CTLの応答を活性化させるためには、抗原を貪食した抗原提示細胞が活性化し、副刺激分子(CD86等)の発現やIL-12等のサイトカイン産生を行うと共に、抗原ペプチドをMHCクラスII分子だけでなくMHCクラスI分子にも提示すること(すなわち、「抗原のクロスプレゼンテーション」)が必要である。そこで、本発明者らは、クロスプレゼンテーションが生じているかのin vitroでの評価系について検討し、かかる評価系を構築した(図5)。この評価系では、CD8陽性Tax特異的CTL(Tc-M1)とMHC-Iの一致する抗原提示細胞(THP1)を用いる。そして、そのCTLやその抗原提示細胞とは、MHCの一致しないHTLV-1感染T細胞(ILT-A又はILT-B)を、マイトマイシンC(MMC)(抗がん剤の1種)で処理したものを、前述のCTL及び抗原提示細胞と共培養する。かかる共培養中に、抗原提示細胞がHTLV-1感染T細胞を取り込み、HTLV-1由来のTax抗原をMHC-I上に提示(クロスプレゼンテーション)した場合には、CD8陽性Tax特異的CTLが提示されたTax抗原を認識し、培養液中にIFN-γを産生する。培養液の上清中のIFN-γ濃度の高さで、プレゼンテーションによりCTLが活性化した程度を評価することができる。この評価系によるクロスプレゼンテーションの評価は、具体的に以下の方法で行った。
【0096】
CD8陽性Tax特異的CTLとしては、HLA-A2拘束性CD8陽性Tax特異的CTLであるTc-M1株を用いた。Tc-M1株は、HAM/TSP患者のPBMCを100u/mL rhIL-2存在下で培養し、自家HTLV-1感染細胞で2週間隔にて繰り返し刺激することにより誘導して得られた細胞株である(International immunology 3:761-767)。HLA-A2陽性の抗原提示細胞としては、ヒト単球由来THP1細胞株(Virology 318:17-23)を用いた。抗原細胞としては、「HLA-A2を持たないILT-A細胞(ATL患者由来HTLV-1感染T細胞株)をIL-15添加培地で2日間培養後、50μg/mLのMMC(協和発酵キリン社製)(抗がん剤の1種)で37℃、30分間処理した後、洗浄した細胞」(以下、単に「MMC処理したILT-A細胞」とも表示する。)、あるいは、「HLA-A2を持たないILT-A細胞(ATL患者由来HTLV-1感染T細胞株)をIL-15添加培地で2日間培養後、1重量%ホルマリンで15分間処理した後、洗浄した細胞」を用いた。
【0097】
HLA-A2を持たない前述の抗原細胞を、HLA-A2陽性のTHP1細胞株と16~20時間共培養した。かかる共培養で得られた全細胞を1重量%ホルマリン水溶液で室温にて15分間固定した後、洗浄した細胞を、25u/mLのIL-2と10%FCSを含むRPMI1640培地中で、前述のHLA-A2拘束性CD8陽性Tax特異的CTL(Tc-M1)と16時間共培養した。共培養して得られた培養液の上清を回収し、かかる上清中のIFN-γ濃度をELISA(BD OptiEIA(登録商標))で測定した。そしてそのIFN-γ濃度を、CTL活性の指標とした。
【0098】
なお、コントロール実験の1つとして、抗原細胞と抗原提示細胞との共培養を行わずに、抗原細胞を前述のHLA-A2拘束性CD8陽性Tax特異的CTL(Tc-M1)と16時間共培養し、得られた培養液の上清中のIFN-γ濃度を測定した。
【0099】
これらのIFN-γ濃度の測定結果を図6に示す。図6において、「ILT-MMC alone」は、始めの培養として、MMC処理したILT-A細胞(ATL患者由来HTLV-1感染T細胞株)のみをCTLと共培養した場合の培養液上清中のIFN-γ濃度を表し、「ILT-Formalin alone」は、始めの培養として、ホルマリン処理したILT-A細胞(ATL患者由来HTLV-1感染T細胞株)のみをCTLと共培養した場合のIFN-γ濃度を表し、「THP1 alone」は、始めの培養として、抗原提示細胞であるTHP1細胞のみをCTLと共培養した場合のIFN-γ濃度を表し、「ILT-MMC+THP1」は、始めの培養として、MMC処理したILT-A細胞と、THP1細胞(抗原提示細胞)を培養した場合のCTLが産生するIFN-γ濃度を表し、「ILT-Formalin+THP1」は、始めの培養として、ホルマリン処理したILT-A細胞と、THP1細胞(抗原提示細胞)を培養した場合のCTLが産生するIFN-γ濃度を表し、「None (CLT alone)」は、始めの培養の際にILT-A細胞もTHP1細胞(抗原提示細胞)も培養しなかった場合(すなわち、CTLであるTc-M1のみを培養した場合)のIFN-γ濃度を表す。
【0100】
図6の結果から以下のことが示された。
CD8陽性Tax特異的CTL(Tc-M1)は、MMC処理したILT-A細胞とのみ共培養しても、ほとんど活性化しない。また、CD8陽性Tax特異的CTL(Tc-M1)は、THP1細胞(抗原提示細胞)とのみ共培養しても、ほとんど活性化しない。しかし、CD8陽性Tax特異的CTL(Tc-M1)は、「ILT-A細胞とTHP1細胞を共培養した細胞」と共培養すると活性化する(IFN-γを産生する)。これらのことから、MMC処理したHTLV-1感染T細胞(例えばMMC処理したILT-A細胞)を、抗原提示細胞(例えばTHP1細胞)と共培養すると、抗原提示細胞はHTLV-1感染T細胞を取り込み、HTLV-1由来のTax抗原をMHC-I上に提示していると考えられた。すなわち、抗原提示細胞は、Tax抗原をクロスプレゼンテーションしていると考えられた。
なお、図6の「ILT-Formalin+THP1」の結果から分かるように、「ホルマリン固定したHTLV-1感染T細胞と抗原提示細胞を共培養した細胞」と、CTLとを共培養しても、CTLはほとんど活性化しなかった。
【0101】
試験3.[HTLV-1中和抗体及び逆転写酵素阻害剤の影響]
前述の試験2において、CD8陽性Tax特異的CTL(Tc-M1)は、「ILT-A細胞とTHP1細胞を共培養した細胞」と共培養すると活性化する(IFN-γを産生する)ことが示された。試験2におけるこの現象が、HTLV-1感染細胞であるILT-A細胞から抗原提示細胞へHTLV-1が新たに感染し、その新たな感染細胞から生じるHTLV-1抗原の結果ではないことを確認するために、HTLV-1の新たな感染をHTLV-1中和抗体又は逆転写酵素阻害剤で阻害した上で、試験2のクロスプレゼンテーションの評価試験を行った。具体的には以下のような実験を行い、HTLV-1感染細胞によるTax抗原のクロスプレゼンテーション惹起効率に対して、HTLV-1中和抗体や逆転写酵素阻害剤がどのような影響を与えるかを調べた。
【0102】
(1)HTLV-1中和抗体による影響
HTLV-1感染者の血中には高濃度のHTLV-1中和抗体が含まれており、HTLV-1抗原を発現した細胞に結合することが予想される。抗CCR4抗体であるモガムリズマブ(商品名ポテリジオ(登録商標);協和発酵キリン社製)も同様にHTLV-1感染細胞に結合する。HTLV-1感染細胞に結合するこれらの抗体による影響を調べるために以下の実験を行った。
【0103】
ILT-A細胞をIL-15添加培地で2日間培養後、50μg/mLのMMC(協和発酵キリン社製)(抗がん剤の1種)で37℃、30分間処理した後、洗浄することによって、「MMC処理したILT-A細胞(MMC処理ILT-A細胞)」を得た。一方、ATL患者3例、HAM/TSP患者3例及び非感染者2例の血漿(plasma)をそれぞれ0.5重量%含む水溶液を調製し、血漿水溶液とした。かかる血漿水溶液中に前述の「MMC処理ILT-A細胞」をそれぞれ約10cellずつ添加して、血漿中の抗体とILT-A細胞を接触させた。MMC処理ILT-A細胞を洗浄した後、約10cellずつのTHP1細胞と共培養した。かかる共培養で得られた全細胞を1重量%ホルマリン水溶液で室温にて15分間固定した後、洗浄した細胞を、前述のHLA-A2拘束性CD8陽性Tax特異的CTL(Tc-M1)と16時間共培養した。共培養して得られた培養液の上清を回収し、かかる上清中のIFN-γ濃度をELISA(BD OptiEIA(登録商標))で測定した。そしてそのIFN-γ濃度を、CTL活性の指標とした。
【0104】
また、患者等の血漿を0.5重量%含む水溶液に代えて、抗CCR4抗体であるモガムリズマブ(商品名ポテリジオ(登録商標);協和発酵キリン社製)を10μg/mL含む水溶液を用いて同様の実験を行い、上清中のIFN-γ濃度を測定した。
【0105】
これらの実験でIFN-γ濃度を測定した結果を図7に示す。図7の結果から分かるように、HTLV-1感染者の血漿で処理した場合(図7の「ATL-1」、「ATL-2」、「ATL-3」、「HAM-1」、「HAM-2」、「HAM-3」)や、抗CCR4抗体で処理した場合(図7の「Poteligeo」)に、IFN-γ濃度が有意に低下するということはなかった。これらの結果から、HTLV-1感染細胞によるTax抗原のクロスプレゼンテーションの誘導は、HTLV-1の新たな感染によるものではないことが示された。また、HTLV-1感染者の血漿で処理した場合(図7の「ATL-1」、「ATL-2」、「ATL-3」、「HAM-1」、「HAM-2」、「HAM-3」)と、非感染者の血漿で処理した場合(図7の「SN-1」、「SN-2」)と、抗CCR4抗体で処理した場合(図7の「Poteligeo」)とで、有意な差までは認められなかった。
【0106】
(2)「MMC処理ILT-A細胞」とTHP1細胞の細胞数の比率の影響
ILT-A細胞をIL-15添加培地で2日間培養後(前述)、50μg/mLのMMC(協和発酵キリン社製)(抗がん剤の1種)で37℃、30分間処理した後、洗浄することによって、「MMC処理したILT-A細胞(MMC処理ILT-A細胞)」を得た。
「MMC処理ILT-A細胞」とTHP1細胞を共培養する際の、そのILT-A細胞とTHP1細胞の細胞数の比率を、1:1又は0.5:1又は0.25:1として、上記の「(1)HTLV-1中和抗体による影響」と同様の方法でIFN-γ濃度を測定した。その際、ALT患者の血漿として、ATL-1の血漿を用いた。
【0107】
これらの実験の結果を図8に示す。横軸は、HTLV-1感染T細胞数を表し、左から1~3番目の棒グラフはHTLV-1感染T細胞が10個(cell)(すなわち、前述の比率が1:1)の場合の結果を表し、左から4~6番目の棒グラフはHTLV-1感染T細胞5×10個(cell)(すなわち、前述の比率が0.5:1)の場合の結果を表し、右から1~3番目の棒グラフが2.5×10個(cell)(すなわち、前述の比率が0.25:1)の場合の結果を表す。また、図8において、黒塗りの棒グラフ(「MMC-ILT/(+)plasma」)は、「MMC処理ILT-A細胞」とHTLV-1感染者の血漿を接触させた場合の結果を表し、グレーの棒グラフ(「MMC-ILT/(-)plasma」)は、「MMC処理ILT-A細胞」に非感染者の血漿を接触させた場合の結果を表し、白抜きの棒グラフ(「MMC-ILT」)は、「MMC処理ILT-A細胞」にHTLV-1感染者の血漿を接触させなかった場合の結果を表す。
【0108】
図8の結果から、ILT-A細胞をHTLV-1感染者の血漿により処理すると、CTL活性化効果がある程度増加する傾向が認められた。また、この傾向は、標的細胞である「MMC処理ILT-A細胞」の数が、抗原提示細胞の数に対して比較的少ない場合(図8の「5~2.5×10」)により強く認められた。なお、ILT-A細胞をHTLV-1感染者の血漿により処理するとCTL活性化効果が増加することは、ILT-A細胞に感染者の血漿中の抗HTLV-1抗体が結合することによるオプソニン効果の結果であると考えられた。
【0109】
(3)逆転写酵素阻害剤による影響
逆転写酵素阻害剤として、ジドブジン(Zidovudine:AZT)(商品名レトロビル(登録商標)、グラクソスミスクライン社製)を用いた。20μMのAZTを含む培地中で、抗原提示細胞であるTHP1細胞を37℃で1時間、前培養した。一方、ILT-A細胞をIL-15添加培地で2日間培養後、50μg/mLのMMC(協和発酵キリン社製)(抗がん剤の1種)で37℃、30分間処理した後、洗浄することによって、「MMC処理したILT-A細胞(MMC処理ILT-A細胞)」を得た。前述の前培養を行ったTHP1細胞の培地中に、MMC処理ILT-A細胞を添加して37℃で16時間共培養した。なお、共培養の際の培地中のAZT濃度は10μMであった。かかる共培養で得られた全細胞を1重量%ホルマリン水溶液で室温にて15分間固定した後、洗浄した細胞を、HLA-A2拘束性CD8陽性Tax特異的CTL(Tc-M1)と16時間共培養した。共培養して得られた培養液の上清を回収し、かかる上清中のIFN-γ濃度をELISA(BD OptiEIA(登録商標))で測定した。そしてそのIFN-γ濃度を、CTL活性の指標とした。
【0110】
これらのIFN-γ濃度の測定結果を図9に示す。右から1~3番目の棒グラフはHTLV-1感染T細胞(ILT-A細胞)が10個(cell)(すなわち、前述の比率が1:1)の場合の結果を表し、右から4~6番目の棒グラフはHTLV-1感染T細胞(ILT-A細胞)が3×10個(cell)(すなわち、前述の比率が0.3:1)の場合の結果を表し、左から1~3番目の棒グラフはHTLV-1感染T細胞(ILT-A細胞)を用いなかった場合の結果を表す。また、図9において、黒塗りの棒グラフ(「THP1-AZT」)は、培地にAZTを添加してTHP1細胞等を培養した場合の結果を表し、グレーの棒グラフ(「THP1」)は、培地にAZTを添加しなかった場合の結果を表し、白抜きの棒グラフ(「Medium」)はTHP1細胞を用いなかった場合の結果を表す。
【0111】
図9の結果から分かるように、AZT処理の有無により、CTL活性には大きな影響は認められなかった。これらの結果から、HTLV-1感染細胞によるTax抗原のクロスプレゼンテーションの誘導は、HTLV-1の新たな感染によるものではないことが示された。
【0112】
試験4.[抗原提示細胞における副刺激分子の発現の、HTLV-1感染T細胞による増強]
樹状細胞等の抗原提示細胞がT細胞を活性化させるためには、CD83、CD86等の副刺激シグナルを表出することが必要とされている(例えば、Leukemia & lymphoma 38:247-263)。そこで、MMC処理ILT-C細胞(ATL患者PBMCを長期培養したHTLV-1感染細胞株)が、抗原提示細胞上の副刺激分子の発現を増強するかを調べるために、以下の実験を行った。
【0113】
(1)健常人のPBMC由来の未熟樹状細胞
抗原提示細胞としては、抗原を取り込む能力を未だ保持している未熟樹状細胞を用いた。この未熟樹状細胞は、10%FCS添加 RPMI1640培地をプラスチックプレートに入れ、その培地中で健常人のPBMCを2時間培養した後、プラスチックプレートに接着した単球細胞にrhGM-CSF(Miltenyi Biotec社製)(培地中の最終濃度1000u/mL)及びrhIL-4(Miltenyi Biotec社製)(培地中の最終濃度500u/mL)を添加し、5日間培養して得られた未熟樹状細胞(以下、「健常人未熟樹状細胞」とも表示する。)である。
【0114】
(2)副刺激分子の発現の評価
ILT-C22細胞(HLA-A2陽性)をIL-2添加培地で2日間培養後、50μg/mLのMMC(協和発酵キリン社製)(抗がん剤の1種)で37℃、30分間処理した後、洗浄することによって、「MMC処理したILT-C細胞(MMC処理ILT-C細胞)」を得た。次に、前述の健常人未熟樹状細胞(HLA-A2陰性)とMMC処理ILT-C株とを、10%FCS添加 RPMI1640培地で24時間共培養した後、FITC標識HLA-A2抗体(「BD 551285」;ベクトン・ディッキンソン社製)と、PerCP/Cy5.5標識抗ヒトCD83抗体(「305320」;Biolegend社製)又はPerCP/Cy5.5標識抗ヒトCD86抗体(「BD 561129」;ベクトン・ディッキンソン社製)とを用いて氷上で30分間染色し、洗浄後、フローサイトメーターMACSQuant(登録商標)(Miltenyi Biotec社製)を用いたフローサイトメトリーでHLA-A2陰性樹状細胞分画のCD83及びCD86の発現強度を測定した。また、MMC処理ILT-C株を用いないこと以外は同じ方法(すなわち、MMC処理ILT-C株と共培養しない健常人未熟樹状細胞を用いた方法)で、CD83及びCD86の発現強度を測定した。なお、HLA-A2発現の有無により、樹状細胞とILT-C細胞を区別した。
【0115】
これらの測定結果を図10に示す。MMC処理ILT-C株を用いなかった場合の健常人未熟樹状細胞と比較して、MMC処理ILT-C株と共培養した健常人未熟樹状細胞では、CD83の発現が軽度に増加し(図10の左上パネル及び左下パネル)、CD86の発現は大幅に増加した(図10の右上パネル及び右下パネル)。これらの結果から、MMC処理HTLV-1感染T細胞と未熟樹状細胞を共培養すると、MMC処理HTLV-1感染T細胞が未熟樹状細胞を刺激して、CD83やCD86等の副刺激分子の発現を増強させることが示された。
【0116】
試験5.[抗原提示細胞におけるIL-12の発現の、HTLV-1感染T細胞による増強]
抗原提示細胞からIL-12が産生されることは、抗原提示の際に免疫環境をTh1型に傾け、CTLを誘導する上で重要であるとされている(Therapeutic immunology 1:187-196.)。そこで、抗原提示細胞を、MMC処理したILT-A細胞又はILT-B細胞と共培養することにより、抗原提示細胞におけるIL-12産生にどのような影響が生じるかを調べるために、以下の実験を行った。
【0117】
(1)抗原提示細胞におけるIL-12の発現の、HTLV-1感染T細胞の薬剤処理による影響
IL-15またはIL-2を含む10%FCS(ウシ胎仔血清)添加 RPMI 1640培地に、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤であるスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)を添加して、0.5μMのSAHAを含むSAHA含有培地を調製した。また、10%FCS(ウシ胎仔血清)添加 RPMI 1640培地に、ジメチルスルホキシド(DMSO)を添加して、0.001重量%のDMSOを含むDMSO含有培地(コントロール培地)を調製した。
【0118】
ILT-A細胞又はILT-B細胞を、SAHA含有培地又はDMSO含有培地(コントロール培地)で24時間、COインキュベーターで37℃にて培養を行った。培養して得られた細胞を、50μg/mLのMMC(協和発酵キリン社製)で37℃30分間処理した後、洗浄した。このMMC処理ILT細胞(すなわち、MMC処理したILT-A細胞又はILT-B細胞)をHLA-A2陽性健常人未熟樹状細胞(DC)と37℃で20時間共培養した。かかる共培養後の培地の上清を分取し、上清中のIL-12濃度をELISA(BD OptiEIA(登録商標))で測定した。これらの結果を図11の「DC」にそれぞれ示す。
また、コントロールとして、前述のMMC処理ILT細胞(すなわち、MMC処理したILT-A細胞又はILT-B細胞)を、健常人未熟樹状細胞(DC)と共にではなく、37℃で20時間培養した。かかる培養後の培地の上清を分取し、上清中のIL-12濃度(pg/mL)をELISA(BD OptiEIA(登録商標))で測定した。これらの結果を図11の「Medium」にそれぞれ示す。
【0119】
DMSO含有培地で培養したILT-B細胞をMMC処理した後、洗浄し、樹状細胞と共培養した場合は、培地の上清に約120pg/mLのIL-12産生が検出されたが(図11の「ILT-B」の「DMSO」の黒塗りの棒グラフ(「DC」))、DMSO含有培地で培養したILT-A細胞をMMC処理した後、洗浄し、樹状細胞と共培養した場合は、培地の上清中のIL-12濃度は感度以下であった(図11の「ILT-A」の「DMSO」のうちの右側)。一方、0.5μMのSAHA(HDAC阻害剤の一種)を含むSAHA含有培地で培養したILT細胞(ILT-A細胞又はILT-B細胞)を用いると、DMSO含有培地で培養したILT細胞(ILT-A細胞又はILT-B細胞)を用いた場合と比較して、培地へのIL-12産生が有意に増加した(図11の「ILT-A」の「SAHA」の黒塗りの棒グラフ(「DC」)及び「ILT-B」の「SAHA」の黒塗りの棒グラフ(「DC」)。
【0120】
SAHAの替わりに別のHDAC阻害剤であるバルプロ酸(VPA)を用いた場合の結果を図12に示す。ILT-B細胞をVPA含有培地又はDMSO含有培地(コントロール培地)で24時間培養した。この細胞をMMC処理した後、洗浄し、樹状細胞と共培養し、上清中のIL-12濃度を測定した。図12の「DC」にそれぞれ示すように、1mMのVPAを含む培地で培養したILT-B細胞を用いると、DMSO含有培地で培養したILT-B細胞を用いた場合と比較して、培地へのIL-12産生が有意に増加した(図12の黒塗りの棒グラフ(「DC」))。
【0121】
(2)抗原提示細胞による抗原クロスプレゼンテーションへの、HTLV-1感染T細胞の薬剤処理による影響
図11における共培養後の各細胞を1重量%ホルマリンで15分間処理した後、洗浄した細胞を、HLA-A2拘束性CD8陽性Tax特異的CTL(Tc-M1)と16時間共培養した。共培養して得られた培養液の上清を回収し、かかる上清中のIFN-γ濃度(pg/mL)をELISA(BD OptiEIA(登録商標))で測定した。これらの結果を図13に示す。
【0122】
図13から分かるように、SAHA処理されたILT細胞を用いた場合は、SAHA処理されていないILT細胞を用いた場合よりも、CTLからのIFN-γ産生量が高かった。これらの結果から、HTLV-1感染T細胞を、SAHA等のHDAC阻害剤で処理すると、抗原提示細胞がTax特異的CTLへ抗原をクロスプレゼンテーションする効率も向上することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、HTLV-I特異的CTL活性化剤、及びその製造方法等を提供することができる。また、本発明によれば、HTLV-1の感染に起因する疾患の患者のHLA型に制限されずに、多くの患者に比較的安価で効果的な免疫療法を提供できることが期待される。また、本発明によれば、現在、安全で有効な治療法が存在しないため無治療観察が原則となっているくすぶり型や慢性型のATL(インドレントATL)に対して早期段階で適用が可能な治療法を提供できることが期待される。
図1
図2
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図10
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図13