(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】アセナピンの苦味抑制剤および苦味抑制方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/407 20060101AFI20241210BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241210BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20241210BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20241210BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20241210BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241210BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20241210BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20241210BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20241210BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20241210BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241210BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20241210BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
A61K31/407
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/20
A61K47/22
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/38
A61K9/20
A61K9/70
A61K9/06
A61K9/12
A61P25/18
(21)【出願番号】P 2021529201
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2020026220
(87)【国際公開番号】W WO2021002457
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2019124969
(32)【優先日】2019-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006091
【氏名又は名称】Meiji Seikaファルマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】兼重 順一
(72)【発明者】
【氏名】太田 真人
(72)【発明者】
【氏名】金子 聡
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 奈津美
(72)【発明者】
【氏名】今 真実
(72)【発明者】
【氏名】平岡 秀一
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0328163(US,A1)
【文献】国際公開第2014/127786(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/125152(WO,A1)
【文献】インド国特許出願公開第22/2014号明細書(インド国特許出願第2240/MUM/2012号)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール(但し、芳香族ポリオールを除く)、脂肪族ヒドロキシ酸、サッカリン、アセスルファムカリウム、アルキル硫酸塩、ポピドン、ステアリン酸マグネシウム、タルクおよびフマル酸ステアリルナトリウムからなる群から選択される1種以上を有効成分(但し、シクロデキストリンおよびその誘導体を除く)として含んでなるアセナピンの苦味抑制剤
であって、ポリオールが、炭素数2~3の脂肪族ポリオール、単糖、二糖、単糖もしくは二糖の糖アルコール、デキストリン類、デンプン類、セルロース類またはポリエチレングリコールである、苦味抑制剤。
【請求項2】
炭素数2~3の脂肪族ポリオールが、グリセリンまたはプロピレングリコールである、請求項
1に記載の苦味抑制剤。
【請求項3】
脂肪族ヒドロキシ酸が、クエン酸、乳酸、リンゴ酸または酒石酸である、請求項1に記載の苦味抑制剤。
【請求項4】
アルキル硫酸塩が、ラウリル硫酸ナトリウムまたはラウリル硫酸アンモニウムである、請求項1に記載の苦味抑制剤。
【請求項5】
アセナピン含有組成物の服用前に、服用と同時に、あるいは服用後に使用するための、請求項1~
4のいずれか一項に記載の苦味抑制剤。
【請求項6】
アセナピン含有組成物の服用と同時に使用するための、苦味抑制剤であって、前記アセナピン含有組成物に前記有効成分が配合されている、請求項5に記載の苦味抑制剤。
【請求項7】
アセナピン含有組成物が口腔粘膜吸収型製剤である、請求項
5または6に記載の苦味抑制剤。
【請求項8】
口腔粘膜吸収型製剤が、口腔内崩壊錠、口腔内崩壊フィルム剤、口腔内貼付剤、舌下錠、バッカル錠、トローチ剤、ゼリー剤またはスプレー剤である、請求項
7に記載の苦味抑制剤。
【請求項9】
請求項1に記載の有効成分を用いることを特徴とする、アセナピンの苦味抑制方法
であって、前記有効成分をアセナピン含有組成物の服用前に別途使用する、苦味抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、先行する特願2019-124969(出願日:2019年7月4日)の優先権の利益を享受するものであり、その開示内容全体は引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、アセナピンの苦味抑制剤と、アセナピンの苦味抑制方法に関する。本発明はまた、アセナピンを有効成分として含有する、苦味が抑制された口腔粘膜吸収型製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
アセナピンは本邦においては統合失調症治療薬として承認されている医薬品(製品名:シクレスト(商標名)舌下錠(アセナピンマレイン酸塩舌下錠)5mg・10mg)である。アセナピンは経口投与時に肝臓および消化管吸収における初回通過効果が大きく、生物学的利用率が低いため、口腔粘膜から速やかに吸収される速崩壊性の舌下錠として開発された(シクレスト舌下錠 医薬品インタビューフォーム 2018年4月改訂(第5版))。しかしながら、アセナピンには特有の苦味があり(亀井浩行ら「統合失調症患者における第二世代抗精神病薬のasenapine舌下錠の満足度に関する調査」臨床精神薬理、2018;21:1495-1506)、舌下錠を服用した患者はその苦味に耐えなければならなかった。また、薬物吸収が低下することを避けるため、服用後10分間は飲食を控えることが求められており、水を飲むことや食物により苦味を緩和することも困難であった(シクレスト舌下錠 添付文書 2018年3月改訂(第3版))。
【0004】
これまでにアセナピンの苦味を抑制するためにシクロデキストリンを使用した製剤の事例が報告されているが、口腔粘膜吸収型製剤に限定しない経口投与製剤に関するものであり、吸収性への影響や服用後の後味については示されていない(特許文献1)。また一般的には、苦味を有する薬物の苦味抑制は医薬品製剤にコーティングを施すことによって物理的に薬物成分と舌との接触を遮断する手法が多く採用されている。この手法は消化管で吸収される経口製剤には有効であるのに対し、口腔粘膜吸収型製剤には適用できないという問題がある。また、アセナピンの経口製剤(口腔内崩壊錠)に糖類等の甘味料を配合した事例は知られているものの、苦味抑制を目的としたものではない(特許文献2および3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】インド公開特許IN2240MU2012A公報
【文献】国際公開第2013/041435号
【文献】国際公開第2014/127786号
【発明の概要】
【0006】
このように服用時(特に口腔粘膜を経由した服用時)におけるアセナピンの苦味抑制は依然として課題であった。本発明はこのような現状に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明はアセナピンの新規苦味抑制剤および新規苦味抑制方法を提供することを目的とする。本発明はまた、アセナピンを有効成分として含有する、苦味が抑制された口腔粘膜吸収型製剤を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、味覚センサによるアセナピンの苦味評価システムを構築し、ソルビトールをはじめとする各種成分にアセナピンの苦味抑制効果があることを見出した。本発明者らはまた、アセナピンの濃度条件が実際の服用時に近い場合や、各種成分をアセナピンと同時に使用しない場合においても同様に苦味抑制効果があることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]ポリオール(但し、芳香族ポリオールを除く)、脂肪族ヒドロキシ酸、サッカリン、アセスルファムカリウム、アルキル硫酸塩、ポピドン、ステアリン酸マグネシウム、タルクおよびフマル酸ステアリルナトリウムからなる群から選択される1種以上を有効成分として含んでなるアセナピンの苦味抑制剤。
[2]ポリオールが、炭素数2~3の脂肪族ポリオール、糖類、糖類の還元物または複数の水酸基を有する合成高分子である、上記[1]に記載の苦味抑制剤。
[3]炭素数2~3の脂肪族ポリオールが、グリセリンまたはプロピレングリコールである、上記[2]に記載の苦味抑制剤。
[4]糖類が、単糖、二糖または多糖である、上記[2]に記載の苦味抑制剤。
[5]糖類の還元物が、単糖および二糖の糖アルコールである、上記[2]に記載の苦味抑制剤。
[6]多糖が、デキストリン類、デンプン類またはセルロース類である、上記[4]に記載の苦味抑制剤。
[7]脂肪族ヒドロキシ酸が、クエン酸、乳酸、リンゴ酸または酒石酸である、上記[1]に記載の苦味抑制剤。
[8]アルキル硫酸塩が、ラウリル硫酸ナトリウムまたはラウリル硫酸アンモニウムである、上記[1]に記載の苦味抑制剤。
[9]アセナピン含有組成物の服用前に、服用と同時に、あるいは服用後に使用するための、上記[1]~[8]のいずれかに記載の苦味抑制剤。
[10]アセナピン含有組成物が口腔粘膜吸収型製剤である、上記[9]に記載の苦味抑制剤。
[11]口腔粘膜吸収型製剤が、口腔内崩壊錠、口腔内崩壊フィルム剤、口腔内貼付剤、舌下錠、バッカル錠、トローチ剤、ゼリー剤またはスプレー剤である、上記[10]に記載の苦味抑制剤。
[12]上記[1]に記載の有効成分を用いることを特徴とする、アセナピンの苦味抑制方法。
[13]前記有効成分をアセナピン含有組成物の服用前に、服用と同時に、あるいは服用後に使用する、上記[12]に記載の苦味抑制方法。
[14]前記有効成分をアセナピン含有組成物に添加することを含んでなる、上記[12]に記載の苦味抑制方法。
[15]アセナピン含有組成物が口腔粘膜吸収型製剤である、上記[13]または[14]に記載の苦味抑制方法。
[16]口腔粘膜吸収型製剤が、口腔内崩壊錠、口腔内崩壊フィルム剤、口腔内貼付剤、舌下錠、バッカル錠、トローチ剤、ゼリー剤、スプレー剤である上記[15]に記載の苦味抑制方法。
[17]アセナピンを有効成分として含有する口腔粘膜吸収型製剤であって、ポリオール(但し、芳香族ポリオールを除く)、脂肪族ヒドロキシ酸、サッカリン、アセスルファムカリウム、アルキル硫酸塩、ポビドン、ステアリン酸マグネシウム、タルクおよびフマル酸ステアリルナトリウムからなる群から選択される1種以上の成分を含有し、かつ、アセナピンの苦味が抑制された、口腔粘膜吸収型製剤。
[18]口腔粘膜吸収型製剤が舌下口腔内崩壊錠である、上記[17]に記載の口腔粘膜吸収型製剤。
[19]舌下口腔内崩壊錠が凍結乾燥型である、上記[18]に記載の口腔粘膜吸収型製剤。
【0009】
本発明によればアセナピンの強い苦味を効果的に抑制できることから、口腔粘膜を経由した服用であっても患者の苦味に対する苦痛が緩和され、ひいてはアセナピンの服薬遵守につながることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、味覚センサの測定手順と、測定手順に対応したセンサ出力を示す。
【
図2】
図2は、各濃度のアセナピン溶液のCPAを味覚センサで測定した結果(n=3の平均±SD)を示す。
【
図3】
図3は、各濃度のリドカイン溶液のCPAを味覚センサで測定した結果(n=3の平均±SD)を示す。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明の苦味抑制剤は、上記[1]に記載された成分の少なくとも1種を有効成分として含有する。本発明において苦味抑制の有効成分は、上記[1]に記載された成分のいずれか1種であっても、これらの一部または全部の組み合わせであってもよい。本発明において苦味抑制の有効成分は薬学上許容される塩の形態であってもよく、例えば、サッカリンはサッカリンナトリウムを含む意味で用いられる。
【0012】
本発明の苦味抑制剤の有効成分である「ポリオール」は多価アルコールと同義であるが、芳香族ポリオールは除かれる。本発明においてポリオールは複数の水酸基(-OH基)を有する化合物であり、例えば、2~9個の水酸基(-OH基)を有するものとすることができる。ポリオールの一例としては、炭素数2~3個の脂肪族ポリオールが挙げられ、その具体例としては、グリセリン、プロピレングリコールが挙げられる。上記以外のポリオールとしてはまた、単糖、二糖、多糖等の糖類と、糖類の還元物が挙げられる。前記糖類としては、ブドウ糖、果糖等の単糖;乳糖水和物、トレハロース、ショ糖等の二糖、デキストリン類、デンプン類(例えば、バレイショデンプン)、セルロース類(例えば、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースナトリウム)等の多糖等が挙げられ、前記糖類の還元物としては、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール(特に単糖または二糖の糖アルコール)が挙げられる。
【0013】
ポリオールはまた、複数の水酸基を有する合成高分子を含む。複数の水酸基を有する合成高分子としては、ポリエチレングリコール(マクロゴール)やポリビニルアルコール(PVA)が挙げられる。
【0014】
本発明の苦味抑制剤の有効成分である「脂肪族ヒドロキシ酸」は、水酸基を有する脂肪族カルボン酸を意味する。脂肪族ヒドロキシ酸の炭素数は2~6個である。脂肪族ヒドロキシ酸としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸等が挙げられる。
【0015】
本発明の苦味抑制剤の有効成分は上記以外に、ポリエチレングリコール(マクロゴール)、アセスルファムカリウム、アルキル硫酸塩(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム)、ポビドン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、フマル酸ステアリルナトリウム、サッカリンナトリウム等が挙げられる。
【0016】
本発明の苦味抑制剤の有効成分はいずれも経口摂取可能な成分として公知であり、公知の方法により合成、抽出、精製等することにより取得することができ、あるいは、市販品を使用することもできる。
【0017】
本発明の苦味抑制剤の形態は特に限定されず、使用態様に応じて、溶液状、懸濁状、シロップ状、粉末状、顆粒状、粒子状、錠剤状、キャンデー状、ガム状等のいずれの形態をとり得る。また、本発明の苦味抑制剤は有効成分のみからなる用剤であっても、有効成分および他の成分を含む組成物であってもよい。本発明の苦味抑制剤は、例えば、歯磨き粉、マウスウォッシュ、マウススプレー等の口腔ケア製品の形態で提供することができる。
【0018】
本発明の苦味抑制剤は、アセナピンの苦味を抑制するために用いられる。アセナピンは統合失調症治療薬の有効成分として知られている。本発明において「アセナピン」とは、アセナピンおよびその薬学的に許容される塩を意味し、例えば、アセナピンのフリー体、マレイン酸塩、パモ酸塩が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明において「苦味抑制」とは、アセナピンを服用する際の苦味が低減されることを意味する。ここで、アセナピンは中枢神経系に作用するためヒトを対象とした味覚官能試験を実施することは倫理的に困難である。このため本発明において、苦味抑制の効果は味覚センサにより評価することができる。例えば、脂質膜電極を備えた味覚センサを苦味抑制の評価に用いる場合には、例1(1)に記載されるように、膜電位(センサ出力)から算出されるCPA(Change of membrane Potential caused by Absorption)値に基づいて苦味抑制効果を評価することができ、CPAの変化率がマイナス10%以上(好ましくは、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上または60%以上)の場合に苦味抑制効果があると評価することができる。
【0020】
本発明の苦味抑制剤は、アセナピン含有組成物を服用する際に併用することができる。例えば、アセナピン含有組成物の服用前に、服用と同時に、あるいは服用後に本発明の苦味抑制剤を使用することができる。特に、アセナピン含有組成物が舌下投与用の場合には、本発明の苦味抑制剤も舌下に接するように使用することができる。本発明の苦味抑制剤はまた、アセナピン含有組成物に配合することにより使用することもできる。ここで「アセナピン含有組成物」とは、アセナピンを有効成分として含有する医薬組成物が挙げられ、口腔粘膜吸収型製剤が該当する。例えば、口腔内崩壊錠、口腔内崩壊フィルム剤、口腔内貼付剤、舌下錠、バッカル錠、トローチ剤、ゼリー剤、スプレー剤等の、口腔内に一定時間滞留させる医薬品製剤が挙げられる。
【0021】
本発明の苦味抑制剤をアセナピンに対して使用する場合のアセナピンに対する本発明の苦味抑制剤の有効成分の比率(質量比、固形分換算)は成分ごとに設定することができる。
【0022】
本発明の別の側面によると、本発明の苦味抑制剤の有効成分を用いることを特徴とする、アセナピンの苦味抑制方法が提供される。本発明の苦味抑制方法は、本発明の苦味抑制剤に関する記載に従って実施することができる。
【0023】
本発明のさらに別の側面によると、アセナピンを有効成分として含有する医薬組成物であって、本発明の苦味抑制剤の有効成分を含有し、かつ、アセナピンの苦味が抑制された医薬組成物が提供され、該医薬組成物は口腔粘膜吸収型製剤として提供することができる。本発明の口腔粘膜吸収型製剤は舌下口腔内崩壊錠であってもよく、舌下口腔内崩壊錠は好ましくは凍結乾燥法により製造された凍結乾燥型の舌下口腔内崩壊錠とすることができる。本発明の医薬組成物および口腔粘膜吸収型製剤は、本発明の苦味抑制剤の有効成分を原材料に配合して製造すること以外は公知の製造方法に従って製造することができる。
【0024】
本発明によれば以下が提供される。
[101]2~9個の水酸基を有するポリオール(但し、芳香族ポリオールを除く)、脂肪族ヒドロキシ酸およびサッカリンからなる群から選択される1種以上を有効成分として含んでなるアセナピンの苦味抑制剤。
[102]ポリオールが、炭素数2~3の脂肪族ポリオール、糖類および糖類の還元物である、上記[101]に記載の苦味抑制剤。
[103]炭素数2~3の脂肪族ポリオールが、グリセリンおよびプロピレングリコールである、上記[102]に記載の苦味抑制剤。
[104]糖類が、単糖および二糖である、上記[102]に記載の苦味抑制剤。
[105]糖類の還元物が、単糖および二糖の糖アルコールである、上記[102]に記載の苦味抑制剤。
[106]脂肪族ヒドロキシ酸が、クエン酸である、上記[101]に記載の苦味抑制剤。
[107]アセナピン含有組成物の服用前に、服用と同時に、あるいは服用後に使用するための、上記[101]~[106]のいずれかに記載の苦味抑制剤。
[108]アセナピン含有組成物が口腔粘膜吸収型製剤である、上記[107]に記載の苦味抑制剤。
[109]口腔粘膜吸収型製剤が、口腔内崩壊錠、口腔内崩壊フィルム剤、口腔内貼付剤、舌下錠、バッカル錠、トローチ剤、ゼリー剤またはスプレー剤である、上記[108]に記載の苦味抑制剤。
[110]上記[101]に記載の有効成分を用いることを特徴とする、アセナピンの苦味抑制方法。
[111]前記有効成分をアセナピン含有組成物の服用前に、服用と同時に、あるいは服用後に使用する、上記[110]に記載の苦味抑制方法。
[112]前記有効成分をアセナピン含有組成物に添加することを含んでなる、上記[110]に記載の苦味抑制方法。
[113]アセナピン含有組成物が口腔粘膜吸収型製剤である、上記[111]または[112]に記載の苦味抑制方法。
[114]口腔粘膜吸収型製剤が、口腔内崩壊錠、口腔内崩壊フィルム剤、口腔内貼付剤、舌下錠、バッカル錠、トローチ剤、ゼリー剤、スプレー剤である上記[113]に記載の苦味抑制方法。
[115]アセナピンを有効成分として含有する口腔粘膜吸収型製剤であって、2~9個の水酸基を有するポリオール、脂肪族ヒドロキシ酸およびサッカリンからなる群から選択される1種以上の成分を含有し、かつ、アセナピンの苦味が抑制された、口腔粘膜吸収型製剤。
[116]口腔粘膜吸収型製剤が舌下口腔内崩壊錠である、上記[115]に記載の口腔粘膜吸収型製剤。
[117]舌下口腔内崩壊錠が凍結乾燥型である、上記[116]に記載の口腔粘膜吸収型製剤。
【実施例】
【0025】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0026】
例1:味覚センサによるアセナピンの苦味評価(1)
(1)方法
ア 試料
アセナピンマレイン酸塩はMeiji Seika ファルマのものを用いた。味覚センサでの測定に必要な基準液はインテリジェントセンサテクノロジー品を、水は日局精製水(共栄製薬)を用いた。アセナピンの苦味抑制効果を評価する成分として、グリセリン(日局「濃グリセリン」、健栄製薬)、プロピレングリコール(特級、関東化学)、マクロゴール400(日局、日興製薬)、乳糖水和物(日局、DFE Pharma)、トレハロース(日局、林原)、ショ糖(日局「精製白糖」、伊藤忠製糖)、デキストリン(日局、日澱化學)、バレイショデンプン(日局、松谷化学工業)、結晶セルロース(日局、旭化成)、低置換ヒドロキシプロピルセルロース(日局、信越化学)、クロスカルメロースナトリウム(日局、ニチリン化学工業)、カルメロースカルシウム(日局、ニチリン化学工業)、ブドウ糖(一級、関東化学)、果糖(Ultra、SIGMA)、キシリトール(日局、物産フードサイエンス)、D-ソルビトール(一級、富士フイルム和光純薬)、エリスリトール(日局、三菱ケミカルフーズ)、クエン酸(日局、メルク・ホエイ)、乳酸(GR、ナカライテスク)、リンゴ酸(GR、ナカライテスク)、酒石酸(GR、ナカライテスク)、酢酸(特級、ナカライテスク)、ラウリル硫酸ナトリウム(一級、和光純薬)、ラウリル硫酸アンモニウム(医薬部外品、花王ケミカル)、サッカリンナトリウム(日局、山和商事)、アセスルファムカリウム(日局、三菱商事ライフサイエンス)、ポビドン(日局、BASF)、クロスポビドン(日局、BASF)、コポリドン(日局、BASF)、ステアリン酸マグネシウム(日局、日油)、ステアリン酸カルシウム(日局、太平化学)、タルク(日局、松村産業)、合成ケイ酸アルミニウム(日局、協和化学工業)、フマル酸ステアリルナトリウム(日局、SANAQ)およびアスパルテーム(食添、味の素)を用いた。
【0027】
イ 使用機器
味覚センサとして味認識装置(SA402B、インテリジェントセンサテクノロジー社製)(以下、「味覚センサ1」という)を用いた。味覚センサ1の測定手順を
図1に示す。
図1中、Vrは人の唾液に相当する基準液(10mM KCl+0.3mM酒石酸溶液)の測定値(センサ出力)であり、Vsは試料溶液(サンプル)の測定値であり、Vr’は試料溶液を測定後、基準液で洗浄し、再び基準液を測定した際の値である。Vs-Vrは試料を口の中に入れた直後の味(先味)を、Vr’-VrはCPA(Change of membrane Potential caused by Absorption)値と呼ばれ、口の中で後に残る味(後味)を表す。
【0028】
味覚センサ1は味覚細胞に相当する脂質膜からなる電極、神経線維経路に相当するロボットアーム、ヒト大脳に相当する情報解析のためのコンピューターから構成される。医薬品の味の評価の多くはCPAに基づいて行われることから、味の強度指標としてCPAを求めた。脂質膜電極のタイプとしては、薬物の苦味への応答性が高いBT0電極を用いた(内田享弘「味センサを用いた薬物の苦味評価(上)」、月刊薬事2003.7;45(8):91-97および内田享弘および宮永洋子「味センサを用いた薬物の苦味評価(下)」、月刊薬事2003.8;45(9):167-174)。なお、調製液の濃度は、それぞれの原薬および添加剤の溶解度を踏まえて設定した。
【0029】
(2)結果
味覚センサ1のアセナピンへの応答性を評価するため、0~1mg/mL(遊離体基準)のアセナピンの溶液を味覚センサで測定した。結果を
図2に示す。アセナピン濃度の上昇に伴いCPAが上昇したことから、味覚センサ1はアセナピンの苦味に応答することが確認された。
【0030】
例2:味覚センサ1を用いた各種物質によるアセナピンの苦味抑制評価
アセナピンの苦味抑制効果を評価するため、D-ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール、サッカリンNa、キシリトール、クエン酸、果糖、ショ糖、ブドウ糖、アスパルテームのほか、各種物質を種々の濃度でアセナピン溶液に添加し、味覚センサ1で膜電位を測定した。ここでアセナピン濃度は、味覚センサ1のCPAが20~50mVで良好な応答性の範囲である0.02mg/mL(CPA=32.1mV)とした。なお、各種物質を添加する前のCPAは、味覚センサの取扱説明書に記載のある数値範囲(推奨値)を満たしていることを確認した。また、CPAの変化率がマイナス10%以上の場合に苦味抑制効果ありと判断した。結果を表1に示す。
【0031】
【0032】
評価成分のうちグリセリン、プロピレングリコール、ブドウ糖、果糖、乳糖水和物、トレハロース、ショ糖、デキストリン、バレイショデンプン、結晶セルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、マクロゴール400、キシリトール、D-ソルビトール、エリスリトール等のポリオール類にはいずれも苦味抑制効果が認められた。クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸等の脂肪族ヒドロキシ酸には苦味抑制効果が認められた一方、水酸基を含まない脂肪族カルボン酸である酢酸には苦味抑制効果はなかった。アルキル硫酸塩であるラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウムにはいずれも苦味抑制効果が認められた。その他成分として、サッカリンナトリウム、アセスルファムカリウム、ポピドン、ステアリン酸マグネシウム、タルクおよびフマル酸ステアリルナトリウムに苦味抑制効果が認められた。一方、ポビドンと構造が類似するクロスポビドンやコポビドン、ステアリン酸マグネシウムと同じステアリン酸塩であるステアリン酸カルシウム、タルクと同じケイ酸化合物である合成ケイ酸アルミニウムには苦味抑制効果は認められなかった。苦味抑制効果が認められた成分の中でも特にショ糖、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウムおよびD-ソルビトールを添加した場合にCPA低下が大きく、表1に記載の濃度で添加した場合のCPAは、添加しない場合と比べてそれぞれ94.2%、92.2%、79.0%、63.1%低下することが示された。
【0033】
味覚センサ1は、呈味物質が味蕾細胞に吸着することによりヒトが味を認識する機構を模した装置である。電極部は脂質を高分子化合物で固定して作製された複数の人工脂質膜から構成されており、呈味物質が人工脂質膜に吸着すると膜電位が変化する機構である(中川知哉ら「味覚センサを活用した医薬品開発研究(2)ドネペジル塩酸塩OD錠のマスキングと製剤開発」、PHARM TECH JAPAN2012.28(3);31-37)。また、味覚センサ1が苦味マスキングを検知する機構には、(i)苦味抑制物質が優先的に人工脂質膜表面へ吸着して苦味物質の脂質膜への吸着を阻害する、(ii)シクロデキストリンに代表される苦味抑制物質が苦味物質を包接して苦味物質の脂質膜への吸着を阻害する、(iii)苦味抑制物質が苦味物質の電荷を中和して脂質膜への吸着を阻害する、との3種類が知られている(内田享弘「味センサを用いた苦味評価系の構築と製剤設計への応用」薬剤学2008.68(4);220-229)。
【0034】
本発明の苦味抑制剤の多くは前記(i)に分類される。一般に分子量の小さい物質の方が電極へ吸着する速度が大きいため、アセナピンよりも分子量が小さく、電極への親和性の高い物質が人工脂質膜表面へ先に吸着したものと考えられる。また、電極への親和性に本発明の苦味抑制剤が有する水酸基やスルホニル基の存在が関係していると推定される。その結果、アセナピンの電極への吸着が妨げられCPAが低下し、苦味抑制効果が発揮されると考えられる。
【0035】
また、ショ糖と同様に甘味料として知られるアスパルテームについても味覚センサ1を用いてアセナピンの苦味抑制効果を評価した。その結果を表2に示す。
【0036】
【0037】
アスパルテームは甘味の強さがショ糖と同程度となる濃度(5mg/mL)の場合においても苦味抑制効果が認められなかった。この結果から甘味成分すべてにアセナピンに対する苦味抑制効果が認められるものではなく、アセナピンの苦味が単に甘味によりマスキングされているのではないことが示された。
【0038】
例3:味覚センサ1による苦味および苦味抑制効果の評価の妥当性
アセナピンについてヒトを対象とした味覚官能試験を実施することは倫理的に困難であるため、例2におけるアセナピンについての苦味および苦味抑制効果の評価は味覚センサ1を用いて行った。そこで、その評価の妥当性を確認するため、苦味薬物として知られているリドカイン塩酸塩(以下、リドカイン)を含み、苦味が抑制された経口表面麻酔剤として販売されているメドカイン(商標名)内用ゼリー (添付文書. 2012年1月作成(第1版))の情報を参考にして検証を行った。
【0039】
まず、リドカインの苦味に対する味覚センサ1の応答性評価を目的に、0~3mg/mLのリドカイン(富士フイルム和光純薬)を含む溶液を味覚センサ1で測定した。結果を
図3に示す。リドカイン濃度の上昇に伴いCPAが上昇したことから、味覚センサ1はリドカインの苦味に応答することが確認された。
【0040】
次に、リドカインの苦味はクエン酸により抑制されることが報告されている(特開2011-074090号公報参照)。そこで、それを検証するため、味覚センサ1のCPAが20~50mVで良好な応答性の範囲となった1mg/mLのリドカイン溶液(CPA=21.4mV)に、クエン酸(日局、メルク・ホエイ)の濃度が2.5mg/mLおよび10mg/mLになるよう添加した試料溶液を味覚センサ1で測定した。結果を表2に示す。クエン酸の添加濃度の上昇に従ってCPAが低下し、2.5mg/mLまたは10mg/mLのクエン酸を添加した場合のCPAは、クエン酸を含まない場合のCPAと比べ低下率はそれぞれ約94%、約88%と大きかった。これらの結果から、味覚センサ1は苦味抑制物質による苦味抑制現象を検証できることが確認された。
【0041】
【0042】
以上の検証により、味覚センサ1による苦味および苦味抑制効果の評価の妥当性が確認された。
【0043】
例4:苦味抑制剤が苦味原因物質固有のものであることの検証
アセナピンにおいて見出された苦味抑制剤がアセナピンに固有のものであることを検証するため、一例としてサッカリンナトリウムを使用し、アセナピンとリドカインの苦味抑制効果を味覚センサ1により評価した。結果を表3に示す。アセナピンにサッカリンを添加すると変化率はマイナスの数値となり、苦味抑制効果が認められるのに対し、リドカインにサッカリンを添加すると変化率はプラスとなり、苦味が増強される結果となった。このことから苦味抑制剤は苦味原因物質すべてに有効なものではなく、苦味原因物質(薬物)に応じて固有のものであり、味覚センサ1により効果が認められた苦味抑制剤はアセナピンに対して特に効果の高い物質であることが検証された。また、アセナピンに対してアスパルテームの効果が認められないことと同様、リドカインに対してサッカリンの効果がないことから、甘味により苦味が抑制されている訳ではないことが本結果からも検証された。
【0044】
【0045】
例5:味覚センサによるアセナピンの苦味評価(2)
例5では、味覚センサ1とは異なる味覚センサを用いて実際の服用時に近い濃度条件でアセナピンの苦味評価を行った。
【0046】
(1)方法
ア 試料
例1(1)アに記載の試料と同様のものを用いた。
【0047】
イ 使用機器
味覚センサとして、電子味覚システムASTREE(V5、アルファ・モス・ジャパン)(以下、「味覚センサ2」という)を用いた。味覚センサ2はAHS(酸味)、CTS(塩味)、NMS(うま味)、PKS、CPS、ANS及びSCSのそれぞれ部分選択性を持つ7本のセンサによる応答パターンを取得し、人の脳における処理機能に関連付けたパターン認識手法(主成分分析)により味の数値化が可能である。味覚センサ2は味覚感覚器に相当する化学的電界効果トランジスタ(CHEMFET)の基盤に感応膜としてそれぞれ異なる共重合体がコーティングされた7本のセンサと参照電極およびコンピューター(脳における信号処理に相当)から構成される。味覚センサ2は溶解成分が感応膜に接触すると、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス力などの相互作用などが誘発され、センサと参照電極(Ag/AgCl)間で変化する電位差が信号として検出される。膜の組成が応答する物質の選択性を決定づけるが、異なる広域スペクトルを示す7種類のセンサを組み合わせることで味の違いを、感度高く応答、識別することができ、医薬品の苦味に関する多くの報告がなされている(吉田浩一「製剤開発における電子嗅覚および味覚システムの利用」製剤機械技術研究会誌2011.20(2);87-91、Takahiro Uchida et al「Bitterness prediction of H1-antihistamines and prediction of masking effects of artificial sweeteners using an electronic tongue」International Journal of Pharmaceutics.2013.441;121-127、吉田浩一「小児製剤開発における電子味覚・嗅覚システムの有用性」薬剤学2015.75;48-53)。また、味覚センサ2は測定可能な試料の濃度や測定プログラムの適応範囲が広い点で味覚センサ1とは異なる特徴を有する。
【0048】
(2)結果
実際の服用時に近い濃度(0~3.0mg/mL(遊離体基準))のアセナピン液を味覚センサ2により測定し、アセナピンの苦味応答性を評価した。結果を表5に示す。7種類のセンサを説明変数とした主成分分析から得られたセンサ値のうち最も相関の高かった第一主成分(PC1)値は、アセナピン濃度の上昇に伴い水に対してプラス方向に値が変化した。また、得られたPC1からPC7(第七主成分)までのセンサ値を総合的に分析した結果から求めた水(A0)に対するそれぞれのアセナピン液の距離は、アセナピン濃度が高くなるほど水(A0)から遠くなった。これはアセナピン濃度の上昇に伴い、苦味が強くなる様子を味覚センサ2にて捉えた結果と考えられた。この結果から、味覚センサ1では測定が難しかった1.0mg/mLを超える実際の服用時に近い濃度のアセナピン液でも、アセナピン液は濃度依存的に苦味が強くなることが確認された。
【0049】
【0050】
例6:味覚センサ2によるアセナピンの苦味抑制評価(1)
例6では、味覚センサ1による測定で効果が確認された苦味抑制剤の有効成分の一つであるD-ソルビトールを種々の濃度でアセナピン溶液に添加し、味覚センサ2によりアセナピンの苦味抑制効果について評価した。アセナピン濃度は実際の服用時に近い1.0mg/mLとした。
【0051】
結果を表6に示す。D-ソルビトールの濃度が高くなるほどPC1は小さい値を示し、水(DW)に対する距離もD-ソルビトールの濃度が高くなるほど減少した(水に味が近くなった)。この結果から、味覚センサ1で確認されたD-ソルビトールによる苦味抑制効果が味覚センサ2でも確認され、また、実際の服用時に近い濃度のアセナピン液でもD-ソルビトールにより苦味を抑制できることが確認された。
【0052】
【0053】
例7:味覚センサ2によるアセナピンの苦味抑制評価(2)
味覚センサ2は測定順序のプログラムの適応範囲が広く、アセナピンの苦味抑制物質であるD-ソルビトールとアセナピン液を、それぞれ別の試験液として連続的に評価することができる。そこで、例7では、アセナピン液を測定する前にセンサを水に浸した場合と、アセナピン液を測定する前にD-ソルビトールに浸した場合のセンサ応答値を比較した。アセナピン液の濃度は1.0mg/mL、別試験液としたD-ソルビトール液の濃度は1000mg/mLとした。結果を表7に示す。水に浸した後にアセナピン液を測定した場合に比べ、D-ソルビトール液に浸した後にアセナピン液を測定した場合の方がPC1は小さい値を示し、水に対する距離も近かった(味が水に近い)。この結果から、アセナピン服用前にD-ソルビトールを用いる(例えば、嗽をする)場合でもアセナピンの苦味が抑制されると考えられた。
【0054】