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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】着色された金属製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/26 20060101AFI20241210BHJP
   B23P 13/00 20060101ALI20241210BHJP
   B24B 23/02 20060101ALI20241210BHJP
   C25D 11/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C25D11/26 302
B23P13/00
B24B23/02
C25D11/00 308
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024016888
(22)【出願日】2024-02-07
【審査請求日】2024-02-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和6年1月27日から2月7日、チームラボ株式会社が、「森ビル デジタルアート ミュージアム エプソン チームラボボーダレス」のエントランスにて、猪子寿之、井上慧、中村晋、出崎揚大、及び五月女怜菜が発表した「着色された金属製品の製造方法」により作成された看板を展示した。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501041894
【氏名又は名称】チームラボ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】猪子 寿之
(72)【発明者】
【氏名】井上 慧
(72)【発明者】
【氏名】中村 晋
(72)【発明者】
【氏名】出崎 揚大
(72)【発明者】
【氏名】五月女 怜菜
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-149995(JP,A)
【文献】特開平06-306685(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第117248259(CN,A)
【文献】特開2015-124439(JP,A)
【文献】特開2017-200578(JP,A)
【文献】特開昭56-058990(JP,A)
【文献】特開2022-181536(JP,A)
【文献】特開2001-315044(JP,A)
【文献】特開2003-226996(JP,A)
【文献】特開平08-333699(JP,A)
【文献】国際公開第2018/138989(WO,A1)
【文献】特表2013-503973(JP,A)
【文献】国際公開第2019/244206(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 13/00
C25D 11/02-11/38
B24B 23/02-23/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が着色されたチタン又はチタン合金の金属製品を製造する方法であって、
前記表面をディスクグラインダ又は砥石を用いて複数方向から研削する研削工程と、
電源の正極を前記チタン又は前記チタン合金に接続し、前記電源の負極を炭酸水素ナトリウム水溶液である電解液を保持した吸液性部材に接続し、前記吸液性部材を研削された前記表面に接触させることにより前記表面を変色させる着色工程を含む
見る方向によって前記表面の光の輝き方が変わって見える金属製品の製造方法。
【請求項2】
前記研削工程は、前記表面を3方向以上から研削する
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記研削工程は、粒度の異なる研削部材により前記表面を複数回研削する
請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記電源の電圧は5~110Vである
請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記着色工程は、前記吸液性部材を用いて前記電解液を不均一に前記表面に付着させることを含む
請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色された金属製品の製造方法に関する。本発明により製造された金属製品は例えば看板に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
従来から、電解液に浸漬させた軽金属又はそれらの合金を陽極として陽極酸化皮膜を形成することにより、その表面を着色して意匠性を付与することが知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
また、特許文献2では、酸化性の溶融物浴中にチタン又はチタン合金材を浸漬するチタン等の着色方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-183065号公報
【文献】特開平01-000279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、陽極酸化法は、特許文献1のように電解液中に金属等を浸して行う場合、電気分解設備が必要であり設備費が高くなる上に、複数の金属部材を連続的に着色処理することが技術的に難しいとされている。
【0006】
また、特許文献2では、チタン等の着色方法に用いる溶融物として、硝酸塩、重クロム酸塩、過マンガン酸塩、水酸化物の一種または二種以上の混合物が用いることとしてる。しかしながら、ここで挙げられている溶融物は皮膚に対する腐食性や発癌性や、あるいは可燃性物質と反応した際に火災や爆発の可能性があるため、いずれも危険性の高い物質であり取り扱いが難しいという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、より簡単に金属表面を着色する方法を提案することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、着色された金属製品を製造する方法に関する。具体的には、金属製品は、遷移金属又はそれを主成分とする合金材(以下単に「金属等」ともいう)の表面が着色されたものである。本発明では、まず金属等の表面を一又は複数方向から研削する(研削工程)。次に、電源の正極を金属等に接続し、電源の負極を電解液を保持した吸液性部材に接続し、吸液性部材を研削された金属等の表面に接触させることによりその表面を変色させる(着色工程)。すなわち、電源の正極に接続された金属等が陽極となるため、吸液性部材に保持されている陰極側の電解液に接触することで、金属等の表面に有色の陽極酸化被膜が形成されるなお、吸液性部材は特に制限されないが、市販のスポンジや筆などの液体を一時的に保持可能な部材を用いればよい。
【0009】
チタン等の遷移金属は、その表面に無色透明の酸化被膜が形成することが知られており、その酸化被膜の安定性により優れた耐食性を持つ。そこで、本発明では、まず、金属等の表面を研削することにより無色透明の酸化被膜を除去する。そして、その後に、電源の正極に金属等を接続し、電源の負極に電解液を保持した吸液性部材を接続して、この吸液性部材を金属等の研削後の表面に接触させることで、金属等の表面に有色の酸化被膜を再度形成することとしている。これにより、金属等を電解液中に浸漬させなくても、金属等の表面に着色を施すことができる。特に、本発明では吸液性部材を金属等に接触させることとしているため、絵を書いたり塗り絵をするような感覚で金属等の表面を着色できる。また、金属等の表面を深く傷つけて細かい凹凸を形成した後に上記手順で着色することで、金属等の表面は光を様々な方向に拡散することから、金属等の表面がキラキラと光って見えるようになる。これにより、本発明によれば、従来とは異なる斬新な意匠性をも着色済みの金属製品を提供することができる。
【0010】
本発明において、研削工程では金属等の表面を3方向以上から研削することが好ましく、特に研削方向は5方向以上であることが好ましい。このように、金属等の表面を3方向以上(又は5方向以上)から研削することで、金属等の表面は見る方向によって光の輝き方が変わって見えるようになる。このため、例えば本発明の方法によって着色された金属製品を看板に用いることで、観者が歩きながらこの看板を見たときに金属の表面がキラキラと光って見えるようになる。
【0011】
本発明において、研削工程では粒度の異なる研削部材により金属等の表面を複数回研削することが好ましい。研削工程において粒度の異なる研削部材を用いることで、金属等の表面に付く傷(凹凸)の深さや状態が多様になる。これにより、金属等の表面は光の反射具合が多様となるため観者の興味をより惹きつけることができる。
【0012】
本発明において、遷移金属はチタンであることが好ましく、合金材がチタン合金であることが好ましい。チタン又はチタン合金は無色透明の酸化被膜を除去した後に、電解液に触れさせると美しく変色する。このため、例えば金属製品によって看板を用いるときには、チタン又はチタン合金を採用することが好適である。
【0013】
本発明において、電解液は炭酸水素ナトリウム水溶液(重曹水)であることが好ましい。炭酸ナトリウム水溶液はアルカリ性を示すが、古くから食品添加物や洗剤などとして一般的に使用されており、人体に対して比較的安全なものであることから、金属製品の着色する際に取り扱い易い材料であるといえる。
【0014】
本発明において、電源の電圧は5~110Vであることが好ましい。電源から金属等に印加する電圧を調整することで、金属等の表面の色を調整することができる。
【0015】
本発明において、着色工程は吸液性部材を用いて電解液を不均一に金属等の表面に接触させることを含むことが好ましい。電解液をあえて不均一に金属等の表面に接触させて着色ムラを形成することで、金属等の表面の色味が多様となるため観者の興味をより惹きつけることができる。
【0016】
本発明において、金属製品の表面は、例えば青色に着色される。例えばチタン又はチタン合金を約30Vの電圧を加えて陽極として、電解液に付着させるとで、美しい青色を呈するようになる。なお、「青色」とは、Lab表色系におけるL*値が10以上、a*値が-80~15、b*値が-15以下の色を意味する。なお、金属製品の着色された表面は全体が青色であることが好ましいが、必ずしもその必要はなく、少なくとも部分的に青色を呈していればよい。ただし、チタン又はチタン合金に印加する電圧を調整することで、黄色、橙色、赤色、紫色に着色することも可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡単に金属表面を着色することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態における着色工程を示した模式図である。
図2図2は本発明の実施例によって着色された金属製品を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、以下に説明する形態に限定されるものではなく、以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
【0020】
本発明は、着色された金属製品の製造方法に関する。本発明は、例えば金属製の看板の製造に適用することができる。具体的には、看板を構成する文字や図形、記号などを金属によって成型し、その成型された金属に対して色を付けることができる。その他にも本発明は、多様な金属製品の表面に着色を施す用途に利用できる。
【0021】
本発明による着色の対象となる金属製品は、電圧をかけて陽極とし、電解液を付着させることにより表面を変色させることのできる金属からなる製品である。このような金属は、主に遷移金属又はそれを主成分とする合金材である。遷移金属とは、周期表においてdブロックに属する金属元素である。電解液により着色できる遷移金属の例は、チタン、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、及びクロムであるがこれに限定されない。なかでも、本発明による着色の対象となる金属は、チタン、銅、又はクロムであることが好ましく、特にチタンであることが好ましい。また、遷移金属を主成分とする合金材とは、主成分となる遷移金属が80質量%以上で含まれるものを意味する。電解液により着色できる遷移金属の合金材の例は、チタン合金、アルミニウム合金、鉄合金、銅合金、亜合金、及びクロム合金であるがこれに限定されない。なかでも、本発明による着色の対象となる合金材は、チタン合金、銅合金、又はクロム合金であることが好ましく、特にチタン合金であることが好ましい。チタン合金の例は、Ti-6Al-4V(グレード5)、Ti-3Al-2.5V(グレード9)、Ti-6Al-7Nb(グレード23)、Ti-5Al-2.5Fe(グレード24)、Ti-0.5Pd(グレード7)、Ti-0.5Ru(グレード21)、及びTi-0.5Ni-0.5Cuである。
【0022】
本発明に係る金属製品の製造法は、主に研削工程と着色工程を含む。
【0023】
研削工程は、主に金属等の表面に形成された無色透明の酸化被膜を除去すると共に、その表面に微小な凹凸を形成してその表面積を増加させることで、後の着色工程においてアルカリ性水溶液による変色反応を促進することを目的として行われる。また、研削工程により金属等の表面に細かい傷を付けることで、その表面において光を拡散させることができるようになる。研削工程は、硬い金属の表面を研削できる加工部材が用いられる。加工部材としては、金属加工用のディスクグラインダや砥石を利用すればよい。
【0024】
研削工程では、金属等の表面を3方向以上から研削することが好ましい。特に金属等の表面の研削方向は4方向以上であることがより好ましく、5方向以上であることが特に好ましい。金属の研削方向とは、研削の始点から終点を結ぶ直線的な方向である。研削方向が複数である場合、ある研削方向とその隣りの研削方向の間の角度は、研削方向の数をnとした場合に、180/n度の±10度とすると良い。例えば研削方向が2方向であるあり、最初の研削を行う方向と次に研削を行う方向の間の角度は90度±10度であることが好ましい。また、例えば研削方向が5方向である場合、ある研削方向その隣の研削方向の間の角度は36度±10度であることが好ましい。また、同じ研削方向に沿って2度以上研削を行うこともできる。さらに、同じ方向に沿って往復で研削することとしてもよい。
【0025】
また、研削工程では、異なる粒度の研削部材を用いて複数回に亘って金属等の表面を研削することが好ましい。例えば、複数の方向から金属等の表面を研削する場合、ある方向に研削するときと別の方向で研削するときとで、研削部材の粒度を異ならせることとしてもよい。例えば、研削方向を5方向とする場合、それぞれの方向で研削部材の粒度を変えることもできる。あるいは、複数の方向から金属等の表面を研削する場合に、ある方向に沿って2度以上研削するときに、それぞれ研削部材の粒度を異ならせることとしてもよい。例えば、研削方向を5方向とする場合、第1の粒度の研削部材で5方向それぞれに研削した後、第2の粒度の研削部材で再び5方向それぞれに研削することとしてもよい。研削部材の粒度は、着色の対象となる金属等の硬度や性質、あるいは表面の輝かせ方に応じて適度な粒度に調整すればよい。
【0026】
また、研削工程で金属等の表面に付与される凹凸(傷)の深さは、0.1~5mm程度とすることが好ましく、0.5~3mm程度とすることが特に好ましい。なお、凹凸の深さは、例えばマイクロスコープ(KEYENCE社製、製品名「ワンショット3D測定マクロスコープ VR-3100」)を使用して研削後の金属等の表面を撮影し、その撮影画像を画像解析用のソフトウェア(同社製、製品名「VR-H1A」)を利用して測定することができる。具体的には、高さプロファイルの断面曲線から「輪郭曲線」を計算し、この輪郭曲線のうちの上に凸となる2つの変曲点と、これらの変曲点で挟まれる最小値を求め、深さの最小値Minと、2つの変曲点の深さの値の平均値を深さの最大値Maxとし、凹凸の深さ=最大値Max-最小値Minとする。
【0027】
次に、着色工程では、金属等に電圧をかけて陽極とし、研削された金属等の表面に電解液を付着させることにより、その表面を変色させる。なお、この着色工程は、上記した研削工程後、再び金属等の表面に無色透明の厚い酸化被膜が形成される前に行うとよい。具体的には、着色工程は研削工程の直後(1時間以内)に行うことが好ましいが、48時間以内又は24時間以内であってもよい。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態における着色工程のやり方を模式的に示している。図1に示した例では、チタンなどからなる金属板10と、電源20と、2つのクリップ付きの通電部材(ワニ口クリップ)30,40と、スポンジなどの吸液性部材50を用意する。また、この吸液性部材50には電解液(アルカリ性水溶液)を染み込ませておく。電源20の正極に第1の通電部材30を接続し、その先端のクリップで金属板10を挟み込む。また、電源の負極に第2の通電部材40を接続し、その先端のクリップで吸液性部材50を挟み込む。この状態で、電源20から金属板10と吸液性部材50とに電圧を掛けて、吸液性部材50が金属板10に接触したときに両者の間に電流が流れるようにする。この状態では金属板10が陽極となり、吸液性部材50を挟み込んでいるクリップが陰極となる。これにより、金属板10のうち、吸液性部材50に接触して電解液が付着した箇所に有色の酸化被膜が形成され、その表面が徐々に変色していくこととなる。なお、吸液性部材50が乾いてきたら、電解液を補充すればよい。
【0029】
着色工程で吸液性部材に保持させるアルカリ性水溶液の例としては、炭酸水素ナトリウム水溶液(重曹水)、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水、炭酸ナトリウム水溶液、及び炭酸カリウム水溶液が挙げられる。これらのアルカリ性水溶液は一般的に入手しやすいことから、本発明に係る金属製品の製造方法に適したものであるといえる。なお、アルカリ性水溶液が強アルカリ性を示すものである場合、着色工程において人手で扱いにくくなることから、アルカリ性水溶液はpH8~11の弱アルカリ性を示すものを用いることが好ましく、特にpH8~10であることが好ましい。アルカリ性水溶液のpHの調整は、水に溶かすアルカリ性化合物や、水溶液中におけるアルカリ性化合物の濃度を調整すればよい。
【0030】
また、着色工程においては、電解液を吸液性部材に保持させた後、その吸液性部材を人手で金属等の表面に接触させることで、電解液を金属等に付着させることが好ましい。吸液性部材としては、スポンジや筆を用いることが好ましいが、その他に布や不織布、ペーパータオルなどであってもよい。このように電解液が染み込んだ吸液性部材を用いて金属等の表面を着色することで、絵を書くような感覚で簡単に着色作業を行うことができる。また、金属等の表面に一様に電解液を付着させるのではなく、吸液性部材を用いて電解液を不均一に金属等の表面に付着させると良い。すなわち、金属等の表面には斑模様や帯状の色ムラが残るようにすると良い。金属等を電解液に浸漬させるとその表面が一様に着色されることになるが、上記のようにスポンジ等の吸液性部材を用いて電解液を金属等の表面に付着させることで、このような色ムラを表現することが容易になる。
【0031】
また、電源の電圧によって金属等の表面の色を調整することができる。電源の電圧は、5~110Vであればよく、5~40Vであることが好ましく、5~30Vであることが特に好ましい。例えば、金属等としてチタンを用いる場合、5~10Vであるとチタンの表面は黄色となり、10~15Vで橙色から赤色となり、15~20Vで赤紫色から薄紫色となり、20~30Vで青色から水色となる。なお、電源としては、直流安定化電源を用いることが好ましい。
【0032】
本発明の一実施形態としては、着色対象の金属等をチタン又はチタン合金とし、電解液(アルカリ性水溶液)として炭酸水素ナトリウム水溶液を選択すると良い。なお、前述の研削工程を経たチタン又はチタン合金に対して、吸液性部材(スポンジ)を用いて炭酸水素ナトリウム水溶液を付着させる。炭酸水素ナトリウム水溶液の濃度は、例えば5~50%とすることが好ましく、9~30%とすることがより好ましい。なお、例えば炭酸水素ナトリウム水溶液のpHは、5%濃度で8.2、9%濃度で8.26となり、30%濃度で8.5となり、50%濃度で8.7となる。例えば研削されたチタン又はチタン合金に25~35Vの電圧を掛けて陽極とし、その表面に陰極側の炭酸水素ナトリウム水溶液を付着させると、その表面は鮮やかな青色を呈するようになる。また、その表面は複数方向から研削されているため、見る方向によって青色の輝き方が異なって見える。
【0033】
また、上記した研削工程及び着色工程の後に、例えば着色された金属等の表面を保護するためのコーティングを施すこととしてもよい(コーティング工程)。このコーティング工程では、例えば金属等の表面にコーティング剤を塗工することが好ましい。コーティング剤としては、フッ素コーティング剤、シリコーンコーティング剤、UV硬化型コーティング剤、エポキシコーティング剤、アクリルコーティング剤、セラミックコーティング剤などの可視光に対して透明なコーティング剤を用いると良い。
【実施例
【0034】
続いて、実施例を参照して、本発明に係る金属製品の製造方法についてさらに具体的に説明する。
【0035】
本実施例では、着色対象の金属として、純チタン製(TP340,純チタン2種)の金属板を用いた。この金属板の表面に対して、ディスクグラインダを用いて研削加工を行った。研削加工では、ディスクグラインダの砥石を回転させながら、金属板に対して約45度の角度で砥石を当てて研削した。ディスクグラインダによる研削は、方向を変えながら、5方向に対してそれぞれ複数回ずつ行った。また、ディスクグラインダの砥石は、各方向について、粒度の異なる3種の砥石を使用した。砥石は、粒度の粗いものから順に使用し、段階的に粒度を細かくした。砥石は、WONDER SHARP #46、WONDER SHARP #60、WONDER SHARP #120をこの順で使用した(いずれも株式会社TKX製)。
【0036】
次に、本実施例では、電解液として炭酸水素ナトリウム水溶液(重曹水)を用いた。炭酸水素ナトリウム水溶液は、水の量(100%)に対して10%の炭酸水素ナトリウムを溶かして約9%濃度の水溶液を作成した。この炭酸水素ナトリウム水溶液のpHは約8.26であった。この炭酸水素ナトリウム水溶液をスポンジに十分に染み込ませた。また、電源の正極に接続されたワニ口クリップで金属板を挟み込み、電源の負極に接続された別のワニ口クリップでスポンジを挟み込んで、電源から電圧を印加した。電源の電圧は30Vに設定した。この状態でスポンジを金属板に接触させることにより、金属板の表面に炭酸水素ナトリウム水溶液(電解液)を付着させた。スポンジと金属板の接触時間は1秒程度であった。これにより、純チタンからなる金属板の表面が青色に変色した。その後、金属板から所定の文字を切り出す加工を行い、金属製品とした。
【0037】
図1は、上記工程を経て得られた金属製品をデジタルカメラで撮影した写真である。本来、当該写真はカラー写真であり金属製品は青色を呈しているが、図面の都合によりモノクロ写真となっている。デジタルカメラで撮影した金属製品をカラー写真(iPhone(登録商標) 15 Proにて撮影)をコンピュータに取り込み、その写真に含まれる金属製品の表面の色を解析したところ、例えば以下に示すカラーコードの色味が抽出された。なお、括弧内はLab表色系におけるL*値、a*値、及びb*値を示す。

・#23406e (L*=27,a*= 5,b*=-30)
・#386cb3 (L*=45,a*= 6,b*=-43)
・#29549a (L*=36,a*=10,b*=-43)
・#4f5d74 (L*=39,a*= 1,b*=-15)
・#1e2d4d (L*=19,a*= 5,b*=-22)
・#446c96 (L*=44,a*=-1,b*=-27)
・#5c8ccc (L*=57,a*= 2,b*=-38)
・#2c4e85 (L*=33,a*= 7,b*=-35)
・#385cac (L*=40,a*=14,b*=-47)
・#162c5d (L*=19,a*=10,b*=-32)
・#365c89 (L*=38,a*= 1,b*=-29)

このように、本実施例において得られた金属製品の表面は青色を呈するものであることが分かる。また、図1に示した写真からもわかるように、金属製品の表面は斑模様のようにキラキラと輝いており、見る角度や方向によっては輝き方が異なるものとなる。
【0038】
なお、上記実施例は、着色対象の金属として純チタン製のものを採用し、電解液として炭酸水素ナトリウム水溶液を採用したものであるが、その他の遷移金属又はそれを主成分とする合金材に対して同様の手順でその他のアルカリ性水溶液(特に弱アルカリ性)を付着せた場合も変色反応は生じると推測できる。また、電源の電圧を調整することにより、金属板の表面の色を調整できると推測される。
【0039】
以上、本願明細書では、本発明の内容を表現するために、図面を参照しながら本発明の実施形態及び実施例の説明を行った。ただし、本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
【要約】
【課題】簡単に金属表面を着色できる方法を提供する。
【解決手段】表面が着色された遷移金属又はそれを主成分とする合金材の金属製品を製造する方法であって、その表面を一又は複数方向から研削する研削工程と、電源の正極を遷移金属又は合金材に接続し、その負極を電解液を保持した吸液性部材に接続し、吸液性部材を研削された表面に接触させることによりその表面を変色させる着色工程を含む。
【選択図】図1
図1
図2