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特許7601472浴槽の製造方法、浴槽を備えた建物の製造方法、浴槽及び浴槽を備えた建物。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】浴槽の製造方法、浴槽を備えた建物の製造方法、浴槽及び浴槽を備えた建物。
(51)【国際特許分類】
   A47K 3/02 20060101AFI20241210BHJP
   A47K 3/04 20060101ALI20241210BHJP
   A47K 3/16 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
A47K3/02
A47K3/04
A47K3/16
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024060058
(22)【出願日】2024-04-03
【審査請求日】2024-06-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】324002339
【氏名又は名称】株式会社アクアジャパン東京
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 徹
【審査官】神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3192338(JP,U)
【文献】特開2014-087961(JP,A)
【文献】特開2007-085027(JP,A)
【文献】特開昭61-242969(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2024/0065487(US,A1)
【文献】韓国登録実用新案第20-0434378(KR,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 3/02- 4/00
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(工程1) 設置場所で発泡合成樹脂を含む浴槽基体を成形する工程、
(工程2) 前記浴槽基体の表面にモルタルと合成樹脂の間を仲介する仲介接着剤を塗布して仲介接着剤層を形成する工程、
(工程3) 前記仲介接着剤層上に間接的に仕上げ材取付層を設ける工程、
前記(工程3)の間接的に前記仕上げ材取付層を設ける工程は、
(工程3-1) 前記仲介接着剤層上に防水モルタル層を設ける工程、
(工程3-2) 前記防水モルタル層上に、セメント用防水シートを敷設する工程、
(工程3-3) 前記セメント用防水シート上に前記仕上げ材取付層を設ける工程を含むものであり、
(工程4) 前記仕上げ材取付層を仕上げ材で覆う工程
を含む浴槽の製造方法。
【請求項2】
前記発泡合成樹脂が発泡ポリスチレンであり、
前記仲介接着剤が、セメント系カチオン性樹脂モルタルである請求項1記載の浴槽の製造方法。
【請求項3】
(工程1) 設置場所で発泡合成樹脂を含む浴槽基体を成形する工程、
(工程2) 前記浴槽基体の表面にモルタルと合成樹脂の間を仲介する仲介接着剤を塗布して仲介接着剤層を形成する工程、
(工程3) 前記仲介接着剤層上に間接的に仕上げ材取付層を設ける工程、
前記(工程3)の間接的に前記仕上げ材取付層を設ける工程は、
(工程3-1) 前記仲介接着剤層上に防水モルタル層を設ける工程、
(工程3-2) 前記防水モルタル層上に、セメント用防水シートを敷設する工程、
(工程3-3) 前記セメント用防水シート上に前記仕上げ材取付層を設ける工程を含むものであり
(工程4) 前記仕上げ材取付層を仕上げ材で覆う工程
を含む浴槽を備えた建物の製造方法。
【請求項4】
前記発泡合成樹脂が発泡ポリスチレンであり、
前記仲介接着剤が、セメント系カチオン性樹脂モルタルである請求項3記載の建物の製造方法。
【請求項5】
浴槽基体と仲介接着剤層と仕上げ材取付層と仕上げ材を備え、
前記浴槽基体は、発泡合成樹脂を含むものであり、
前記浴槽基体の表面にモルタルと合成樹脂の間を仲介する前記仲介接着剤層を有し、
前記仕上げ材取付層は、前記仲介接着剤層上に間接的に設けられ、
前記仕上げ材取付層が、前記仲介接着剤層に間接的に設けられている構造は、
前記仲介接着剤層上に防水モルタル層を設け、
前記防水モルタル層上に、セメント用防水シートを設け
前記セメント用防水シート上に前記仕上げ材取付層があるものであり
前記仕上げ材は、前記仕上げ材取付層に設けられることを特徴とする浴槽。
【請求項6】
前記発泡合成樹脂が発泡ポリスチレンであり、
前記仲介接着剤層が、セメント系カチオン性樹脂モルタルである請求項5記載の浴槽。
【請求項7】
浴槽基体と仲介接着剤層と仕上げ材取付層と仕上げ材を備え、
前記浴槽基体は、発泡合成樹脂を含むものであり、
前記浴槽基体の表面にモルタルと合成樹脂の間を仲介する前記仲介接着剤層を有し、
前記仕上げ材取付層は、前記仲介接着剤層上に間接的に設けられ、
前記仕上げ材取付層が、前記仲介接着剤層上に間接的に設けられている構造は、
前記仲介接着剤層上に防水モルタル層があり、
前記防水モルタル層上に、セメント用防水シートがあり、
前記セメント用防水シート上に前記仕上げ材取付層があるものであり、
前記仕上げ材は、前記仕上げ材取付層に設けられることを特徴とする浴槽を備えた建物。
【請求項8】
前記発泡合成樹脂が発泡ポリスチレンであり、
前記仲介接着剤層が、セメント系カチオン性樹脂モルタルである請求項7記載の建物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工しやすい浴槽に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サウナが流行し、既設の分譲マンションや戸建ての建物の所有者が、部屋内に後付けの浴槽(水風呂)やサウナを設け浴室を作りたいという要望が多くなっている。
既設の建物は重量物である浴槽を支える構造設計になっておらず、通常の部屋を浴室にリフォームすることは簡単にできなかった。
そのような中で、特許文献1記載のようにFRPで被覆された軽量な浴槽が実用化されていた。通常の部屋として設計された部屋に大きな浴槽を搬入することはドアを壊すなどしないと困難であり、作業者は現場で浴槽を作ることが要求される。
しかしながら、FRP製の浴槽はエポキシ樹脂とガラス繊維を何層も重ねる必要があり、浴槽設置現場でその作業をすることは手間を要していた。
FRPをプリプレグとして硬化成形する手法が特許文献2のように知られているが、成形用金型を用いてプリプレグを加圧及び加熱して成形する必要があり、浴槽全体を収める加熱装置は浴槽より大きく、なおさら現場に持ち込むことはできず、この施工法は不可能であった。
また、新設建物で、通常の浴室に加えサウナ用浴室を作るには、設置階床の耐荷重強度を補強する必要があり、建築費が高くなるという問題があった。
仮に、特許文献1のようなFRP製の浴槽を使う場合、FRPには表面が傷つきやすいという欠点があり、作られた浴槽は高級感に欠けていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-157403
【文献】特開平5-285973
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、これまでにない軽量の浴槽を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題に鑑みて、本発明の浴槽の製造方法に係る態様は、以下の構成を具備するものである。
(工程1) 設置場所で発泡合成樹脂を含む浴槽基体を成形する工程、
(工程2) 前記浴槽基体の表面にモルタルと合成樹脂の間を仲介する仲介接着剤を塗布して仲介接着剤層を形成する工程、
(工程3) 前記仲介接着剤層上に間接的に仕上げ材取付層を設ける工程、
前記(工程3)の間接的に前記仕上げ材取付層を設ける工程は、
(工程3-1) 前記仲介接着剤層上に防水モルタル層を設ける工程、
(工程3-2) 前記防水モルタル層上に、セメント用防水シートを敷設する工程、
(工程3-3) 前記セメント用防水シート上に前記仕上げ材取付層を設ける工程を含むものであり、
(工程4) 前記仕上げ材取付層を仕上げ材で覆う工程
を含む浴槽の製造方法。
【0006】
また、本発明の浴槽に係る態様は、以下の構成を具備するものである。
浴槽基体と仲介接着剤層と仕上げ材取付層と仕上げ材を備え、
前記浴槽基体は、発泡合成樹脂を含むものであり、
前記浴槽基体の表面にモルタルと合成樹脂の間を仲介する前記仲介接着剤層を有し、
前記仕上げ材取付層は、前記仲介接着剤層上に間接的に設けられ、
前記仕上げ材取付層が、前記仲介接着剤層に間接的に設けられている構造は、
前記仲介接着剤層上に防水モルタル層を設け、
前記防水モルタル層上に、セメント用防水シートを設け
前記セメント用防水シート上に前記仕上げ材取付層があるものであり
前記仕上げ材は、前記仕上げ材取付層に設けられることを特徴とする浴槽。
【0007】
さらに、本明細書は、上記態様の浴槽を備えた建物に関する態様も開示する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の浴槽は、きわめて軽量である。本発明は既設建物において、浴室を増設する場合にあっても、床を補強せずまたは最小限の補強で既存の部屋を浴室に改装できる。また、新設建物において、本発明は、重い浴槽を考慮した設計荷重の構造設計をする必要が無くなり、建物のコストダウンに寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1の浴室の断面図である。
図2図2は、実施例1の浴槽の断面図である。
図3図3は、変形例1の浴槽の断面図である。
図4図4は、実施例2の浴槽の製造における(工程1)の説明図である。
図5図5は、実施例3の浴室の床の断面図である。
図6図6は、実施例4の浴室の壁を含む断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0011】
(実施例1)
(浴室の概略)
実施例1は、既設の建物1(マンション)の一室を、浴槽2(水風呂)を有する浴室19に改装する例である。なお、サウナは別途設置される。
実施例1の建物1(マンション)の一室は、既設の床板や天井板が取り払われる。
浴室19予定の部屋は、床スラブ11、壁5、上階床スラブ11Aが露出した状態になる。
【0012】
(床スラブ防水シート)
壁5は、壁5の少なくとも中間高さまでは、床スラブ防水シート12で覆われる。後に説明するが新たに設置される浴室19の床3や浴槽2は、防水処理がなされており、床スラブ11に水が流れ込まない設計になっている。床スラブ防水シート12は、何らかのトラブルが起き、床スラブ11に水が流れ込んだ場合であっても、階下に水が流れ落ちるのを防止する役割を果たす。したがって、通常使用時に床スラブ防水シート12は、水と接触することはない。
【0013】
また、床スラブ防水シート12は、壁5の略中間高さまで防水しており、体を洗うときにはねた水が壁5に浸み込むことを防いでいる。
なお、床スラブ防水シート12は、壁5の最上部まで設けられていてもよい。
【0014】
(鉄筋コンクリート基礎と固定用ブロック)
鉄筋コンクリート基礎14は、壁5を支える鉄筋コンクリート(RC)基礎である。固定用ブロック13は、壁5の下端を構成する鉄筋コンクリート基礎14に当接するように設けられる。鉄筋コンクリート基礎14に当接する固定用ブロック13は、床3の壁5の高さを決める役割も果たす。床3は、壁5(鉄筋コンクリート基礎14)と当接しておらず、床3の端部と壁5(鉄筋コンクリート基礎14)の間に、シーリング用凹部9が設けられている。シーリング用凹部9は、床3が施工された後に不定形シール材でシールされる。不定形シール材は、壁5(鉄筋コンクリート基礎14)と床3が当接するわずかな隙間から水が床スラブ11に流れ落ちることを防止する。
【0015】
既設の部屋を中間で仕切り浴室19とするような態様の場合、固定用ブロック13は、新たに設置される壁5の設置位置を決める役割を果たす。
【0016】
(床支持部材)
床支持部材15は、床スラブ11の上に敷かれた床スラブ防水シート12上に設置され床3を支える。床支持部材15は、鋼鉄などの強度の高い材料で作られ、床支持部材15の支柱の高さを変えられるアジャスターになっている。
複数設けられる床支持部材15は、床3に排水孔4に向けて水勾配ができるように高さが調整されてその上に床3が設置される。
【0017】
(床)
床3の詳細は、後述するが、床3の中間層にセメント用床防水シート37が設けられており、防水性が強化されている。
床3の表面は、床仕上げ材39(図示せず)で覆われている。このため外見から床3が発泡合成樹脂層311(図示せず)を基体として作られていることが全く分からない。
【0018】
(排水孔)
実施例1の排水孔4は、浴槽2に隣接した位置に設けられ、床3の水勾配により流れてくる水が流れ込む。排水孔4は厳重にシールされ、床3と排水孔4の接続部から水が床スラブ11に向かって流れ込まないようにされている。排水孔4の中には、排水トラップ41が設けられている。排水トラップ41により髪の毛などのゴミが除去された排水は排水管42を通って排水される。
【0019】
(浴槽と固定用ブロック)
浴槽2の下部には固定用ブロック13が設置され、浴槽2の位置が決められる。固定用ブロック13は、床スラブ防水シート12の上に設けられている。
【0020】
(浴槽)
浴槽基体22は、発泡ポリスチレンなどの発泡合成樹脂を含んでいる。発泡合成樹脂は、発泡することで内部に合成樹脂内部に気体が封じ込められており、きわめて軽い。その上、気体が封じ込められているため断熱性が高い素材である。
そのため、軽量な浴槽2は、既設の建物1の設計荷重の範囲内で浴室19に改装することを可能にする。
また、新設の建物1は、軽量な浴槽2を備えた浴室19であれば重い浴槽2を考慮した設計荷重の構造設計をする必要が無くなり、コスト減が可能となる。
【0021】
浴槽2の下部と床スラブ防水シート12の間には、排水溝形成部材21が配置されている。排水溝形成部材21は、複数設けられており、互いに排水溝211となる隙間を空けて配設されている。排水溝形成部材21は、漏水が起きたとしても、浴槽2の下部の排水溝211から漏水が抜けるようにする。
排水溝形成部材21は、水(湯)の溜まった浴槽2を支えることができれば材料の種類は問わないが、軽量であることが好ましい。排水溝形成部材21は、浴槽2と同じ発泡ポリスチレンであることがさらに好ましい。
【0022】
(仕上げ材)
浴槽2の構造の詳細は後述するが、浴室19内に露出する部分が、セメント用防水シート27で覆われている。セメント用防水シート27の上に図示していない仕上げ材取付層28(浴槽用)が設けられる。仕上げ材取付層28(浴槽用)は、タイル291(浴槽用)で浴槽2の表面を覆うためのものである。
浴槽2の上部は、御影石などの石材292が図示していない仕上げ材取付層28に取付けられる。
おおよそ浴室19内から見える浴槽2の部分は、すべて浴槽用の石材292やタイル291で覆われる。これにより、実施例1の浴槽2は軽量であっても、高級感あふれる外見になる。
仕上げ材29は、意匠的な観点から取り付けられる要素が強い。そのため、自然石や磁器製タイルなどの高級感あふれる材料であることが好ましい。軽量化の観点から樹脂などの軽量化した仕上げ材29が選ばれてもよい。ただし、防火性能を満たす必要がある。
【0023】
(天井材)
天井は、天井材6で覆われる。天井材6は防湿性且つ防水性の材質が好ましい。
【0024】
(浴槽の断面構造)
浴槽2は、きわめて軽く脆い発泡合成樹脂を含む浴槽基体22で構成されているので、様々な工夫がなされている。
(浴槽基体)
浴槽基体22は、発泡ポリスチレンや発泡ポリウレタンなどの発泡合成樹脂で構成されている。合成樹脂の種類は様々であり得るが、軽量であることが求められる。
なお、浴槽基体22は、発泡合成樹脂の中心に芯材などが設けられていてもよい。
浴槽2の厚さは、50mm~300mmが好ましく、特に好ましくは、200mm~250mmが好ましい。浴槽2の深さは400mm~1200mmが好ましい。浴槽2の深さの下限は、体が十分水に沈む深さであることが好ましい。特に好ましくは、400mm~800mmである。浴槽2の容積や深さは荷重に影響を与え、底面積や浴槽2の底2Aの厚さは荷重の分散に影響を与える。浴槽2の底2Aの厚さや底面積は、設置する部屋の構造設計上許容される荷重などを考慮して決められる。
【0025】
(仲介接着剤層)
図2は、実施例1の浴槽2の断面図である。浴槽2に用いられる仲介接着剤層24は、モルタル(樹脂セメントを含む)と浴槽基体22の材料である発泡合成樹脂の間を仲介するものである。疎水性の合成樹脂とモルタルのシリカ骨材に含まれる親水性のシラノール基を仲介するシランカップリング剤や、マイナスに荷電するセメントや骨材粒子に対して、吸着作用を及ぼすカチオン性(プラス)の電荷を帯びた樹脂製エマルジョンから成るカチオン性仲介接着剤などが選ばれる。仲介接着剤層24は、硬化過程において、発泡合成樹脂とセメントや骨材粒子を引き合わせ強力な接着力をもたらす。仲介接着剤層24の主剤であるセメント系カチオン性アクリル樹脂モルタルは、カチオンタイト(ヤブ原産業株式会社登録商標)として販売されている。
【0026】
仲介接着剤層24の種類の選択は、仲介接着剤層24の上に重ねられる仕上げ材取付層28の性質により決まる。仕上げ材取付層28は、合成樹脂を主材としてもよいし、モルタルを主材としてもよい。しかし、合成樹脂を素材とする仕上げ材取付層28は、一般的に耐久性や防火性が弱い。そのため、モルタルを主材とする仕上げ材取付層28が好ましい。
特に、モルタルを主材とする仕上げ材取付層28は、浴槽基体22の発泡合成樹脂と一般的に相性が悪く、直接接着することが困難である。
そこで、上述のようなモルタルなどを主材とする仕上げ材取付層28と浴槽基体22の発泡合成樹脂の間を仲介する、仲介接着剤層24が用いられる。
仲介接着剤層24があるため、仕上げ材取付層28と浴槽基体22の発泡合成樹脂はしっかりと直接固定される。
【0027】
(仕上げ材取付層と仕上げ材)
仕上げ材29は、タイル291や石材292などである。仕上げ材取付層28によりしっかりと固定されるのであれば、仕上げ材29は合成樹脂製であってもよい。
仕上げ材29は、意匠的な要素が強い部材である。高級感を高めるため、仕上げ材29は、磁器製のタイル291や御影石や大理石などの石材292を採用することが好ましい。
また、磁器製のタイル291や御影石や大理石などの石材292は、合成樹脂製のタイル291などと比べて傷がつきにくく耐久性が高い。
仕上げ材29は、耐久性の観点から選択されてもよい。
さらに、仕上げ材29の裏面は、仕上げ材取付層28にしっかりと固定されるよう、凹凸面となっていることが好ましい。
【0028】
(変形例1 間接的に設けられる仕上げ材取付層)
上記実施例1は、仕上げ材取付層28が、仲介接着剤層24上に直接設けられた例であった。
変形例は、仕上げ材取付層28が、仲介接着剤層24上に間接的に設けられる例である。変形例は、浴槽2の防水性を強化したい場合に採用される。
図3は、変形例の浴槽2の断面図である。変形例は、仲介接着剤層24と仕上げ材取付層28の間に、防水モルタル層26とセメント用防水シート27が設けられる。
【0029】
仲介接着剤層24は、防水モルタル層26と発泡合成樹脂を基体とする浴槽基体22の間を仲介し、強固に両者を接着させる。
セメント用防水シート27は、セメント用防水シート27がセメントに強固に結合するように化学的処理がなされていたり、特殊繊維が植毛されているような物理的処理がなされている。そのため、セメント用防水シート27は、防水モルタル層26と仕上げ材取付層28の間に挟まれるように設置されるが、しっかりと固定される。
変形例は、浴槽2の防水性を高めることができる。
【0030】
図1を参照されたい。図1のセメント用防水シート27は、浴槽2の外側面、上部、内側面及び底面に設けられている。浴室19から浴槽2が見える部分は、すべてセメント用防水シート27で覆われている。
浴槽2に水がかかる部分はすべてセメント用防水シート27で覆われ、防水性を高めている。
【0031】
(実施例2)
実施例2は、製造方法に焦点を当てた態様である。
既存の建物1の室内に、完成した浴槽2を搬入することが困難なことが多い。浴槽2は防水性が求められるため、複数のパーツに分解することができず、浴槽2をそのままドアを通って室内に搬入することは困難である。
本発明の浴槽2は、現場施工性に優れている。
【0032】
(工程1)
図4は、実施例2の浴槽2の製造における(工程1)の説明図である。
作業者は、設置場所に浴槽基体22の材料である、発泡ポリスチレン板を搬入する。発泡ポリスチレン板は、浴槽2の高さまで積み上げ(組み立て)られ、発泡ポリスチレンの大きな塊が形成される。発泡ポリスチレン板と発泡ポリスチレン板同士は接着されてもよいし接着されなくてもよい。接着する場合は、発泡ポリスチレン板に適した接着剤が選択される。
浴槽2の底2Aとなる発泡ポリスチレン板は、設計された浴槽2の底2Aの厚さBHと同じ厚さであることが好ましい。
接着剤で接着する場合は、側壁2Bとなる部分のみが接着されることが望ましい。少なくとも、浴槽2の底2Aとなる部分は、上にある発泡ポリスチレン板と接着されないことが好ましい。
この発泡ポリスチレン塊は、ヒーター線の付いた市販の発泡ポリスチレン切断装置により、一点鎖線で表された側壁2Bに沿って上から下へと切断される。
四方の側壁2Bの切断が終了すると、側壁2Bと底2Aを残して、水が溜まる浴槽2の中央部の発泡ポリスチレン板は、上に抜き出される。
以上のように、(工程1)である設置場所で発泡合成樹脂を基体とする浴槽基体22を成形する工程が完了する。
【0033】
別の態様として、浴槽基体22は、室外で浴槽基体22を側壁2Bや底2Aがドアを通ることが出来る程度に分割可能に成形しておき、設置場所で組み立てて成形してすることで(工程1)としてもよい。
【0034】
いずれの(工程1)の態様を採用するにせよ、軽い発泡ポリスチレンを現場に運び成形する(工程1)は作業効率が非常に高い。
【0035】
(工程2)
(工程2)は、(工程1)組み立てた浴槽基体22の表面にセメントと合成樹脂(発泡ポリスチレン)の間を仲介する仲介接着剤を塗布して仲介接着剤層24を形成する工程である。
仲介接着剤層24の厚さは、次の工程で塗られるモルタルとの間を仲介すればよいため、厚く塗る必要はない。
【0036】
(工程3)
(工程3)は、仲介接着剤層24上に直接または間接的に仕上げ材取付層28を設ける工程である。
仕上げ材取付層28が仲介接着剤層24上に設けられる場合は、仲介接着剤層24の上に防水モルタルが所定の厚さで塗られる。防水モルタル層26の厚さは、防水モルタル層26に仕上げ材29を設けるのに適した厚さが採用される。
【0037】
以下の(工程3-1)~(工程3-3)は、浴槽2の防水性を高める工程であり、行ってもよいし、行わなくてもよい。
(工程3-1)
(工程3-1)は、(工程3)の間接的に仕上げ材取付層28を設ける工程である。(工程3-1)で防水モルタル層26が仲介接着剤層24上に設けられる。さらに、防水モルタル層26は、次工程のセメント用防水シート27を固着するために設けられる層である。
【0038】
(工程3-2)
(工程3-2)は、防水モルタル層26上に、セメント用防水シート27を敷設する工程である。前述したようにセメント用防水シート27は、セメントに強固に結合するように化学的処理がなされていたり、特殊繊維が植毛されているような物理的処理がなされている。そのため、セメント用防水シート27は、防水モルタル層26にしっかりと固定される。
【0039】
(工程3-3)
(工程3-3)は、セメント用防水シート27上に仕上げ材取付層28を設ける工程である。仕上げ材取付層28は、仕上げ材29を設けるための下地となるものであり、仕上げ材29がしっかりと固定される厚さで設けられる。
仕上げ材取付層28の材質は、モルタルであることが好ましい。防火性や耐久性が高ければ、合成樹脂であってもよい。合成樹脂は、水の温度で熱膨張したり熱収縮する欠点があるため、耐久性を高めるため、熱に対して膨張収縮しな合成樹脂が選択される。合成樹脂系の仕上げ材取付層28が採用される場合は、セメント用防水シート27上に、仲介接着剤層24を更に設けることがある。
【0040】
(工程4)
(工程4)は、仕上げ材取付層28を仕上げ材29で覆う工程である。実施例2の浴槽2は、浴槽2の内側面、外側面、底面が仕上げ材29であるタイル291で覆われる。浴槽2の上面は、高級感を出すため、御影石などの石材292で覆われる。
実施例2の浴槽2は、隣接するタイル291とタイル291の間に仕上げ材取付層28が見えるように仕上げ材取付層28にタイル291が埋め込まれている。
【0041】
(大容積の浴槽の変形例)
構造設計上大容積の浴槽2を設置できる場合がある。浴槽基体22は、発泡合成樹脂を主材とするものであり、大容積とする場合、水や湯を入れることで変形することがある。そのような場合、浴槽2を構成する外側面の周囲に、ステンレスや鋼材の「タガ」が嵌められる。「タガ」は、桶や樽の周囲に取付けられ外側面から締め付ける部材として知られている。「タガ」が浴槽基体22の外側面の適宜な層に取付けられることで、完成した浴槽2が変形しなくなる。
変形例として「タガ」を利用する態様が開示されているため、浴槽設計者が発泡合成樹脂の種類を選択するに際して、発泡合成樹脂の変形性などの強度を考慮する必要が無くなり、選択の幅を広げることができる。
【0042】
(浴槽容積や形状)
実施例2の浴槽2は、現場で施工することができるため、床3の構造設計上の荷重の範囲内であれば、顧客の思う通りの容積や形状の浴槽2を作ることが可能である。浴槽2は、丸い浴槽2や、多角形の浴槽2など思い通りの形に設計することが可能である。
また、浴槽2は、小容積であっても、浴槽基体22が発泡合成樹脂を含むので断熱性が高く、時間当たりの水温変化を抑えることが可能である。
【0043】
[実施例3]
実施例3は、床3の態様である。図5は、実施例3の浴室19の床3の断面図である。
床3は、人が歩るいても撓むことが無いように剛体である必要がある。また、薄く軽いことが好ましい。
浴室使用者が清掃などのため脚立を用いて作業をするなど、特定の領域に大きな荷重がかかる使用形態が想定される。床3が撓むと、床仕上げ材取付層38や床防水モルタル層36などにひびが入ったり、床仕上げ材39が剥がれるなどのトラブルが起きる。
実施例3の床3は、荷重が一点にかかっても撓まぬような工夫がなされている。
【0044】
床3の基体は、発泡合成樹脂層311を含んでおり、30mm~100mmである。発泡合成樹脂は、発泡ポリスチレンや発泡ポリウレタンなどで構成されている。発泡合成樹脂の種類は様々であり得るが、軽量であることが求められる。
なお、床3の基体は、発泡合成樹脂の中心に芯材などが設けられていてもよい。
【0045】
発泡合成樹脂層311は、上下を上板材312と下板材313で挟まれて、発泡合成樹脂層311が含まれるサンドイッチパネル31(床基体)となる。サンドイッチパネル31(床基体)は市販品でもよい。また、作業者がサンドイッチパネル31を作成してもよい。上板材312と下板材313は、セメント系の板材が好ましい。
【0046】
なお、床3は、繊維層35が配置された床仲介接着剤層34が十分な強度を提供できる場合、上板材312や下板材313をすることができる。
【0047】
サンドイッチパネル31(床基体)の上には、床仲介接着剤層34が積層される。床仲介接着剤層34に使われる接着剤は、ガラス繊維などの繊維層35になじみが良く、また、床仲介接着剤層34の上下に位置する上板材312や床防水モルタル層36ともなじみが良いものである。繊維層35、床防水モルタル層36、上板材312の材質によって、選ばれる床仲介接着剤層34で使われる接着剤の種類が選択される。疎水性の合成樹脂とモルタルのシリカ骨材に含まれる親水性のシラノール基を仲介するシランカップリング剤や、マイナスに荷電するセメントや骨材粒子に対して、吸着作用を及ぼすカチオン性(プラス)の電荷を帯びた樹脂製エマルジョンから成るカチオン性仲介接着剤などが選ばれる。
繊維層35は、織り込まれた織物や一方向に引き揃えられた繊維シートを方向を変えて何層も積み重ねられていることが好ましい。
様々な方向に繊維層35が積み重ねられることで、方向に対する強度にムラが無くなり、均一な強度を実現できる。
【0048】
床仲介接着剤層34とそこに埋設される繊維層35は、床3に剛性を与えるものであり、求められる強度に応じてその厚さが決められる。
【0049】
床防水モルタル層36は、床仲介接着剤層34の上に積層される。そして、セメント用床防水シート37は、床防水モルタル層36の上に積層される。
床防水モルタル層36やセメント用床防水シート37の材質などは、浴槽2のそれと同様である。
【0050】
床仕上げ材取付層38は、床仕上げ材39を埋め込むためのものであり、床防水モルタル層36の上に積層される。
【0051】
床仕上げ材39は、タイル291や石材292などであり、浴槽2とデザインの一体感を出してもよい。また、床仕上げ材39は、浴槽2で使われているものより大きめのタイル291や石材292などを使うことで、床3の剛性を高めることもできる。
1枚当たりの面積の大きい床仕上げ材39は、荷重の分散に寄与できる。
【0052】
(床の施工)
既設の建物1の一室に浴室19を設ける場合は、床3は現場施工される。顧客が希望する浴室19となる部屋は、大きさ、形、入口の位置は様々であり現場施工が求められる。
新設の建物1の場合は、ユニットバスのように浴室19がユニット化されていてもよい。もちろん、既設の建物1でも対応可能な場合は、ユニット化された浴室19を設置することができる。
【0053】
(実施例3の態様のまとめ)
実施例3は、床基体31と床仲介接着剤層34と床仕上げ材取付層38と床仕上げ材39を備え、床基体31は、発泡合成樹脂を含む部材であり、床仲介接着剤層34は、繊維層35を含むものであり、床仕上げ材取付層38は、床仲介接着剤層34上に直接または間接的に設けられ、床仕上げ材39は、床仕上げ材取付層38に設けられることを特徴とする床3を備えた建物1を開示している。
【0054】
床仕上げ材取付層38が、床仲介接着剤層34上に間接的に設けられている構造は、床仲介接着剤層34上に床防水モルタル層36があり、床防水モルタル層上に、セメント用床防水シート37があり、セメント用床防水シート37上に床仕上げ材取付層38がある浴槽2を備えた建物1になる。
【0055】
[実施例4]
実施例4は、浴室19の壁5の態様である。
既設建物又は新設建物の壁基体51は、どのような材質でもよい。
(壁)
図6は、実施例4の浴室19の壁5を含む断面図である。壁基体51は、壁紙などの不要な材料が剥がされ、壁防水防湿シート53が貼られる。前述したように床スラブ防水シート12が少なくとも壁5の中間高さまで取り付けられる。実施例4の壁5は、上階の床スラブ11の下面まで床スラブ防水シート12が取り付けられている。次いで、壁5は、床スラブ防水シート12の上に壁防水モルタル層52が設けられる。壁防水防湿シート53は、壁防水モルタル層52と共に設置される。壁防水防湿シート53と壁防水モルタル層52は、浴槽2や床3を支える床スラブ11から、上階の床スラブ11の下面まで設けられることが好ましい。壁5は、浴室19から見える部分に壁仕上げ材取付層54が設けられ、壁仕上げ材59が取付けられる。すなわち壁仕上げ材59が取付けられ得る範囲は、床3から天井材6までである。
壁5は、浴室使用者が歩くなどを想定する必要がなく床3と異なり強度や剛性を要さない。そのため、壁5は、防水や防湿を主に考慮した設計となる。
【0056】
(天井)
天井材6は、浴槽用のものが選択され、天井に取り付けられる。
【0057】
[実施例5]
実施例5は、木造の建物1に浴室19を設ける改装する例である。基本的に、実施例1~実施例4と変わることは無く、床スラブ11などが木質の材料に変わるだけである。
【0058】
浴槽2、床3、壁5の材料は、防火性を考慮したものであることが好ましい。
【0059】
以上、本発明に係る実施の態様を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施の態様に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
また、前述の各実施の態様は、その目的および構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 建物
11 床スラブ
12 床スラブ防水シート
13 固定用ブロック
14 鉄筋コンクリート基礎
19 浴室
2 浴槽
21 排水溝形成部材
22 浴槽基体(発泡合成樹脂層)
24 仲介接着剤層
26 防水モルタル層
27 セメント用防水シート
28 仕上げ材取付層
29 仕上げ材
291 タイル
292 石材
3 床
31 サンドイッチパネル(床基体)
311 発泡合成樹脂層
312 上板材
313 下板材
34 床仲介接着剤層
35 繊維層
36 床防水モルタル層
37 セメント用床防水シート
38 床仕上げ材取付層
39 床仕上げ材
4 排水孔
41 排水トラップ
42 排水管
5 壁
51 壁基体
52 壁防水モルタル層
53 壁防水防湿シート
54 壁仕上げ材取付層
59 壁仕上げ材
6 天井材
【要約】
【課題】本発明は、これまでにない軽量の浴槽を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、(工程1) 設置場所で発泡合成樹脂を含む浴槽基体を成形する工程、(工程2) 前記浴槽基体表面にモルタルと合成樹脂の間を仲介する仲介接着剤を塗布して仲介接着剤層を形成する工程、(工程3) 前記仲介接着剤層上に直接または間接的に仕上げ材取付層を設ける工程、(工程4) 前記仕上げ材取付層を仕上げ材で覆う工程を含む浴槽の製造方法とすることで課題を解決した。また、上記製造方法で作られた浴槽、浴槽を取り付けた建築物を開示する。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6