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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   B29B 15/12 20060101AFI20241210BHJP
   B29K 105/10 20060101ALN20241210BHJP
   B29K 101/10 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
B29B15/12
B29K105:10
B29K101:10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024516653
(86)(22)【出願日】2023-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2023021355
(87)【国際公開番号】W WO2023243532
(87)【国際公開日】2023-12-21
【審査請求日】2024-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2022095041
(32)【優先日】2022-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391059399
【氏名又は名称】株式会社アイ.エス.テイ
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】大庭 圭一朗
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186718(JP,A)
【文献】国際公開第2022/009612(WO,A1)
【文献】特開2004-324007(JP,A)
【文献】特開2006-237047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 15/12
B29K 105/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロメリット酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、パラフェニレンジアミンの重合反応により得られ、56体積%以上70体積%以下の範囲内の体積含有率を占める非熱可塑性のポリイミド繊維と、
熱硬化性樹脂と
を備え、
5GHz以上80GHz以下の周波数帯における誘電率が3.5以下であり、
前記周波数帯における誘電正接が0.015以下である
繊維強化樹脂成形体。
【請求項2】
引張強度が0.5GPa以上2.5GPaの範囲内であり、
引張弾性率が25GPa以上120GPa以下の範囲内である
請求項1に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項3】
前記ポリイミド繊維の引張弾性率は100GPa以上170GPa以下の範囲内である
請求項1または2に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項4】
前記ポリイミド繊維の繊維直径は10μm以上18μm以下の範囲内である
請求項1からのいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体を製造するために使用されるプリプレグであって
ピロメリット酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、パラフェニレンジアミンの重合反応により得られ、56体積%以上70体積%以下の範囲内の体積含有率を占める非熱可塑性のポリイミド繊維と、
熱硬化性樹脂の前駆体と
を備えるプリプレグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた誘電特性を有する繊維強化樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体素子や移動体通信機器等の電子機器の更なる高機能化・高速化・小型化に伴い、電気信号送受信の高速化や高密度配線化が進められている。この結果、半導体基板、印刷回路基板、EMC(Epoxy Molding Compound)などのような電子部品および情報通信機器における電気信号の帯域が高くなる傾向にある。電気信号の伝送損失は、絶縁材料の誘電正接および電気信号の周波数に比例する。したがって、電気信号の周波数が高いほど伝送損失が大きくなって電気信号の減衰をもたらし、電気信号の伝送信頼性の低下が生じる。また、伝送損失の熱への変換による発熱の問題が発生することがある。そこで、高周波領域では、誘電正接が非常に小さい絶縁材料が求められている。
【0003】
例えば特開2016-166347号公報には、誘電特性に優れた高周波回路基板を提供することを課題として、織布および/または不織布と、その織布および/または不織布に充填されると共にその表面を被覆する、エポキシ樹脂、硬化剤およびフッ素樹脂フィラーを含む樹脂組成物の半硬化物とを有するプリプレグが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-166347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、近年では電気信号の伝送速度をさらに速くすることが求められており、低誘電率のみならず、伝送損失を減少させるための誘電正接を有する樹脂成形体が求められている。
【0006】
本発明は上記背景に鑑みてなされたものであり、誘電特性に優れると共に、強度が高く、しかも軽量である繊維強化樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1局面に係る繊維強化樹脂成形体は、ポリイミド繊維および樹脂を備える。この繊維強化樹脂成形体は、5GHz以上80GHz以下の周波数帯における誘電率が4.0以下であり、同周波数帯における誘電正接が0.02以下である。
【0008】
なお、本発明の第1局面に係る繊維強化樹脂成形体において、引張強度が0.5GPa以上2.5GPaの範囲内であり、引張弾性率が25GPa以上120GPa以下の範囲内であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の第1局面に係る繊維強化樹脂成形体において、ポリイミド繊維は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの重合反応により得られることが好ましい。なお、ここで、芳香族テトラカルボン酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の少なくとも一方であり、芳香族ジアミンは4,4′-ジアミノジフェニルエーテルおよびパラフェニレンジアミンの少なくとも一方である。
【0010】
また、本発明の第1局面に係る繊維強化樹脂成形体において、ポリイミド繊維の引張弾性率は100GPa以上170GPa以下の範囲内であることが好ましい。
【0011】
本発明の第2局面に係るプリプレグは、上述の繊維強化樹脂成形体を製造するために使用される。そして、このプリプレグは、ポリイミド繊維と、樹脂もしくは樹脂前駆体を備える。なお、ここにいう「樹脂前駆体」とは、硬化前の単量体組成物(架橋剤などを含む場合がある。)や、ポリマー前駆体などである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、誘電特性に優れると共に、強度が高く、しかも軽量である繊維強化樹脂成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体の構成>
本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体は、主に、ポリイミド繊維および樹脂から成っている。
【0014】
上述のポリイミド繊維は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの重合反応により得られることが好ましい。芳香族テトラカルボン酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の少なくとも一方であることが好ましい。芳香族ジアミンは、4,4′-ジアミノジフェニルエーテルおよびパラフェニレンジアミンの少なくとも一方であることが好ましい。
【0015】
なお、ポリイミド繊維は、本発明の主旨を損なわない範囲で、ガラス繊維、アラミド繊維、(液晶)ポリエステル繊維、ポリアクリル繊維、炭素繊維等と組み合わされて用いられてもよい。ただし、繊維強化樹脂成形体における誘電率や誘電正接等の誘電特性の観点から、ポリイミド繊維のみが用いられるのが好ましい。
【0016】
上述のポリイミド繊維は、引張弾性率が100GPa以上170GPa以下の範囲内であることが好ましく、110GPa以上150GPa以下の範囲内であることがより好ましい。
【0017】
また、本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体の強度を高めるために、ポリイミド繊維の繊維直径は10μm以上18μm以下の範囲内とすることが好ましい。ポリイミド繊維の繊維直径をこの範囲内とすることによりポリイミド繊維の製造性を良好に維持すると共に、ポリイミド繊維の剛性を良好なものとすることができ延いてはその取り扱い性を維持することができ、好ましい。また、繊維強化樹脂成形体におけるポリイミド繊維の体積含有率は、40体積%以上70体積%以下の範囲内であることが好ましい。ポリイミド繊維の体積含有率をこの範囲内とすることにより、繊維強化樹脂成形体においてポリイミド繊維の高強度高弾性が発現することができると共に、樹脂と繊維の接着性能を良好に維持することができ延いてはボイドを少なくすることができ、好ましい。なお、ポリイミド繊維の体積含有率は、45体積%以上65体積%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0018】
上述の樹脂としては、エポキシ系樹脂,フェノール系樹脂,ポリイミド系樹脂,不飽和ポリエステル系樹脂,ポリフェニレンエーテル系樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂やペルフルオロアルコキシフッ素樹脂などのフッ素系樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂の中でもエポキシ系樹脂やポリイミド系樹脂は、電気特性および接着性のバランスが良好であり、より好ましい。
【0019】
上述のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、およびこれらのエポキシ樹脂構造体中の水素原子の一部をハロゲン化することにより難燃化したエポキシ樹脂等が挙げられる。また、このエポキシ樹脂の硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミドや脂肪族ポリアミド等のアミド系硬化剤、ジアミノジフェニルメタンやトリエチレンジアミン等のアミン系硬化剤、フェノールノボラック樹脂やビスフェノールA型ノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤、酸無水物系化合物、メルカプタン系化合物、フェノール樹脂、アミノ樹脂類等が挙げられる。
【0020】
また、上述のポリイミド樹脂としては、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンからなるポリイミド樹脂が挙げられる。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2-ビス[3,4-(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、オキシジフタル酸無水物(ODPA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホキシド二無水物、チオジフタル酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物や9,9-ビス[4-(3,4’-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,4-ジカルボキシ-1-シクロヘキシルコハク酸二無水物、3,4-ジカルボキシ-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフタレンコハク酸二無水物等が挙げられる。芳香族ジアミンとしては、例えば、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、2,5-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-4、4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MDA)、2,2-ビス-(4-アミノフェニル)プロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(133APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(134APB)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2-ビス(3-アミノフェニル)1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0021】
本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体は、5GHz以上80GHz以下の周波数帯において、誘電率が4.0以下であり、誘電正接が0.02以下である。なお、誘電率は1.0以上4.0以下の範囲内であることが好ましく、誘電正接は0以上0.02以下の範囲内であることが好ましい。また、誘電率は1.0以上3.5以下の範囲内であることがより好ましく、誘電正接は0以上0.015以下の範囲内であることがより好ましい。これにより伝送速度を高速化することができるからである。
【0022】
本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体は、5GHz以上80GHz以下と広い周波数帯であっても誘電率や誘電正接が周波数に対する依存性がないため、衛星携帯電話や次世代携帯電話(1.0GHz~2.5GHz)の筐体または部品、ネットワーク対応端末(パソコン、携帯電話、携帯ゲーム、タブレット、携帯音楽プレーヤー)の筐体または部品、無線LAN(5GHz~60GHz)の筐体または部品、無線通信:AWA(22GHz~45GHz)の筐体または部品などの分野において誘電率等を調整する必要がなく、好適に使用することができる。
【0023】
また、本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体の引張強度や引張弾性率は、繊維強化樹脂成形体に含まれる繊維方向や繊維体積含有率に依存する。このため、繊維強化樹脂成形体の引張強度や引張弾性率を調整するためには、維強化樹脂成形体に含まれる繊維方向や繊維体積含有率を適宜調整する必要がある。例えば、繊維強化樹脂成形体における繊維の配向方向が全て同一方向であるとすると、繊維方向(繊維の長手方向)の繊維強化樹脂成形体の引張強度は0.5GPa以上2.5GPa以下の範囲内であることが好ましく、0.75GPa以上2.5GPa以下の範囲内であることがより好ましく、1.0GPa以上2.5GPa以下の範囲内であることがさらに好ましい。同一の条件において、繊維強化樹脂成形体の引張弾性率は25GPa以上120GPa以下の範囲内であることが好ましく、30GPa以上120GPa以下の範囲内であることがより好ましく、35GPa以上120GPa以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0024】
<本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体の製造方法>
本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体は、プリプレグを経由する方法、プリプレグを経由しない方法のいずれでも成形することができる。ポリイミド繊維は、長繊維であってもよいし、任意の長さにカットされた短繊維であってもよい。プリプレグを経由する方法としては、例えば、上述の繊維から成る繊維基材に樹脂を含侵させたプリプレグを複数積層した後、積層体を加熱加圧して硬化させる方法等が挙げられる。かかる方法では、繊維基材の形態として、繊維を一方向に配列させたいわゆるUDシートや、長繊維フィラメント糸を製織または製編したものを好ましく用いることができる。織物としては、例えば、二方向織物、三軸織物等の多軸織物等が挙げられる。編物としては、丸編機等のよこ編機、トリコット編機、ラッセル編機、ミラニーズ編機等のたて編機で製編したものが挙げられる。プリプレグを経由しない方法としては、例えば、上述の樹脂を有するワニスを調製し、同ワニスを繊維基材に含浸させた後、加熱及び加圧して硬化させる方法、具体的には、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、プルトルージョン法等が挙げられる。
【0025】
<実施例および比較例>
以下、具体的に実施例および比較例について説明するが、本発明は、これら実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
1.ポリイミド繊維の作製
136gのパラフェニレンジアミン(PPD)と、N-メチルピロリドン2,224gとを反応容器に投入し、PPDをN-メチルピロリドンに溶解させた。次に、259.0gの3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)と、82.30gのピロメリット酸二無水物(PMDA)とを上述の反応容器に投入して、室温でPMDAとPPDを重合させた。その結果、濃度が17.7重量%のポリイミド前駆体溶液が得られた。次に、このポリイミド前駆体溶液に、1,3-ジアゾール21.41gをN-メチルピロリドン40.41gに溶解させた溶液を加え、紡糸用ポリイミド前駆体溶液を調製した。次いで、紡糸用吐出機を用いて、この紡糸用ポリイミド前駆体溶液を、水を主成分として含む凝固浴中に吐出させてポリイミド前駆体繊維を得た。続いてこのポリイミド前駆体繊維を水洗した後に延伸、加熱してポリイミド繊維を得た。
【0027】
得られたポリイミド繊維の繊維径および引張物性を以下の方法で測定した。
【0028】
(1)繊維径
サーチ社製のオートバイブロ式繊度測定器DC21を用いて、上述の通りにして得られたポリイミド繊維の繊度を測定した。測定された繊度とポリイミド繊維の比重からポリイミド繊維の繊維径を求めたところその値は14μmであった。
【0029】
(2)引張物性
「JISR7606」に準拠した方法で、上述の通りにして得られたポリイミド繊維の引張弾性率(cN/dtex)および引張強度(cN/dtex)を測定した。そして、弾性率(cN/dtex)×比重÷10の換算式より、同ポリイミド繊維の引張弾性率(GPa)を求めた。一方、強度(cN/dtex)×比重÷10の換算式より、同ポリイミド繊維の引張強度(GPa)を求めた。その結果、ポリイミド繊維の引張弾性率は137GPaであり、引張強度は3.1GPaであった。
【0030】
2.繊維強化樹脂成形体の作製
上述の通りにして得られたポリイミド繊維を繊維目付56g/mとなるように一定方向に引き揃えた後、その引き揃えられたポリイミド繊維に、エポキシ主剤(三菱ケミカル株式会社製のJER828)100重量%と硬化剤(株式会社ADEKA製のADEKAハードナーEH-3636AS)8重量%を混合したエポキシ樹脂組成物を含侵させ、その組成物含浸ポリイミド繊維を恒温槽にて120℃で30分加熱することでUDプリプレグを作製した。次に、得られたUDプリプレグをプレート状金型に挟んでバギングした後に、そのUDプリプレグをオートクレーブにおいて130℃で90分、6気圧で加熱加圧することで繊維強化樹脂成形体を得た。なお、この際、オートクレーブの昇降温速度は2℃/分であった。得られた繊維強化樹脂成形体の厚みは65μmであり、ポリイミド繊維の体積含有率は56%であった。
【0031】
なお、ポリイミド繊維の体積含有率Vfは下式(1)により求めた。
Vf=Faw/ρ/T×100・・・(1)
なお、ここで、Fawはポリイミド繊維の目付(g/m)であり、ρはポリイミド繊維の密度(g/cm)であり、Tは繊維強化樹脂成形体の厚み(μm)である。ここで、ポリイミド繊維の密度は1.5g/cmである。
【0032】
得られた繊維強化樹脂成形体の誘電率および誘電正接ならびに引張物性を以下の方法で測定した。
【0033】
(1)5GHz~80GHzにおける誘電率および誘電正接の測定
ベクトルネットワークアナライザ(キーサイト・テクノロジー社製のベクトルネットワークアナライザN5290A)、スプリットポスト共振器(キーサイト・テクノロジー社製)およびスプリットシリンダ共振器(EMラボ株式会社製)を用いて、5GHz~80GHzの周波数帯における繊維強化樹脂成形体の誘電率(ε)および誘電正接を測定したところ、5GHzの周波数における誘電率は3.35であり、10GHzの周波数における誘電率は3.38であり、20GHzの周波数における誘電率は3.42であり、28GHzの周波数における誘電率は3.38であり、40GHzの周波数における誘電率は3.36であり、60GHzの周波数における誘電率は3.33であり、80GHzの周波数における誘電率は3.30であった。また、5GHzの周波数における誘電正接は0.0123であり、10GHzの周波数における誘電正接は0.0130であり、20GHzの周波数における誘電正接は0.0143であり、28GHzの周波数における誘電正接は0.0137であり、40GHzの周波数における誘電正接は0.0140であり、60GHzの周波数における誘電正接は0.0139であり、80GHzの周波数における誘電正接は0.0132であった。
【0034】
(2)引張物性
精密万能試験機(株式会社島津製作所製、AGS―10kNG)を用いて、得られた繊維強化樹脂成形体を、繊維強化樹脂成形体の繊維方向(繊維の長手方向)に引張速度2mm/分で引っ張って、その繊維強化樹脂成形体の引張弾性率や引張強度を測定したところ、その繊維強化樹脂成形体の引張強度は1.45GPaであり、引張弾性率は41.8GPaであった。
【実施例2】
【0035】
ポリイミド繊維の体積含有率が60%となるように繊維強化樹脂成形体を製造した以外は、実施例1に記載される方法と同様の方法で繊維強化樹脂成形体を得た。
【0036】
得られた繊維強化樹脂成形体の厚みは62μmであった。また、5GHz~80GHzの周波数帯における繊維強化樹脂成形体の誘電率および誘電正接ならびに繊維強化樹脂成形体の引張物性を実施例1に記載される方法と同様の方法で測定したところ、5GHzの周波数における誘電率は3.48であり、10GHzの周波数における誘電率は3.48であり、20GHzの周波数における誘電率は3.46であり、28GHzの周波数における誘電率は3.47であり、40GHzの周波数における誘電率は3.42であり、60GHzの周波数における誘電率は3.39であり、80GHzの周波数における誘電率は3.38であった。また、5GHzの周波数における誘電正接は0.0120であり、10GHzの周波数における誘電正接は0.0127であり、20GHzの周波数における誘電正接は0.0129であり、28GHzの周波数における誘電正接は0.0125であり、40GHzの周波数における誘電正接は0.0124であり、60GHzの周波数における誘電正接は0.0127であり、80GHzの周波数における誘電正接は0.0114であった。また、繊維強化樹脂成形体の引張強度は1.55GPaであり、引張弾性率は44.8GPaであった。
【実施例3】
【0037】
ポリイミド繊維の体積含有率が40%となるように繊維強化樹脂成形体を製造した以外は、実施例1に記載される方法と同様の方法で繊維強化樹脂成形体を得た。
【0038】
得られた繊維強化樹脂成形体の厚みは93μmであった。また、5GHz~80GHzの周波数帯における繊維強化樹脂成形体の誘電率および誘電正接ならびに繊維強化樹脂成形体の引張物性を実施例1に記載される方法と同様の方法で測定したところ、5GHz誘電率は3.32であり、10GHzの周波数における誘電率は3.34であり、20GHzの周波数における誘電率は3.31であり、28GHzの周波数における誘電率は3.18であり、40GHzの周波数における誘電率は3.22であり、60GHzの周波数における誘電率は3.20であり、80GHzの周波数における誘電率は3.12であった。また、5GHzの周波数における誘電正接は0.0198であり、10GHzの周波数における誘電正接は0.0189であり、20GHzの周波数における誘電正接は0.0197であり、28GHzの周波数における誘電正接は0.0194であり、40GHzの周波数における誘電正接は0.0174であり、60GHzの周波数における誘電正接は0.0165であり、80GHzの周波数における誘電正接は0.0194であった。また、繊維強化樹脂成形体の引張強度は0.60GPaであり、引張弾性率は29.8GPaであった。
【実施例4】
【0039】
ポリイミド繊維の体積含有率が58%となるように繊維強化樹脂成形体を製造した以外は、実施例1に記載される方法と同様の方法で繊維強化樹脂成形体を得た。
【0040】
得られた繊維強化樹脂成形体の厚みは64μmであった。また、5GHz~80GHzの周波数帯における繊維強化樹脂成形体の誘電率および誘電正接ならびに繊維強化樹脂成形体の引張物性を実施例1に記載される方法と同様の方法で測定したところ、5GHzの周波数における誘電率は3.47であり、10GHzの周波数における誘電率は3.46であり、20GHzの周波数における誘電率は3.45であり、28GHzの周波数における誘電率は3.45であり、40GHzの周波数における誘電率は3.43であり、60GHzの周波数における誘電率は3.40であり、80GHzの周波数における誘電率は3.39であった。また、5GHzの周波数における誘電正接は0.0137であり、10GHzの周波数における誘電正接は0.0138であり、20GHzの周波数における誘電正接は0.0138であり、28GHzの周波数における誘電正接は0.0134であり、40GHzの周波数における誘電正接は0.0137であり、60GHzの周波数における誘電正接は0.0155であり、80GHzの周波数における誘電正接は0.0133であった。また、繊維強化樹脂成形体の引張強度は1.50GPaであり、引張弾性率は43.1GPaであった。
【実施例5】
【0041】
ポリイミド繊維の体積含有率が45%となるように繊維強化樹脂成形体を製造した以外は、実施例1に記載される方法と同様の方法で繊維強化樹脂成形体を得た。
【0042】
得られた繊維強化樹脂成形体の厚みは83μmであった。また、5GHz~80GHzの周波数帯における繊維強化樹脂成形体の誘電率および誘電正接ならびに繊維強化樹脂成形体の引張物性を実施例1に記載される方法と同様の方法で測定したところ、5GHzの周波数における誘電率は3.34であり、10GHzの周波数における誘電率は3.33であり、20GHzの周波数における誘電率は3.35であり、28GHzの周波数における誘電率は3.25であり、40GHzの周波数における誘電率は3.27であり、60GHzの周波数における誘電率は3.25であり、80GHzの周波数における誘電率は3.19であった。また、5GHzの周波数における誘電正接は0.0193であり、10GHzの周波数における誘電正接は0.0195であり、20GHzの周波数における誘電正接は0.0182であり、28GHzの周波数における誘電正接は0.0179であり、40GHzの周波数における誘電正接は0.0190であり、60GHzの周波数における誘電正接は0.0154であり、80GHzの周波数における誘電正接は0.0169であった。また、繊維強化樹脂成形体の引張強度は0.75GPaであり、引張弾性率は32.1GPaであった。
【0043】
(比較例1)
ポリイミド繊維をアラミド繊維(東レデュポン株式会社製のケブラー(登録商標)49、繊維径:12μm、引張強度:3.0GPa、引張弾性率:112GPa)に代えると共に繊維目付を54g/mにした以外は、実施例1に記載される方法と同様の方法で繊維強化樹脂成形体を得た。
【0044】
得られた繊維強化樹脂成形体の厚みは62μmであり、アラミド繊維の体積含有率は56.3%であった。また、5GHz~80GHzの周波数帯における繊維強化樹脂成形体の誘電率および誘電正接ならびに繊維強化樹脂成形体の引張物性を実施例1に記載される方法と同様の方法で測定したところ、5GHzの周波数における誘電率は3.63であり、10GHzの周波数における誘電率は3.63であり、20GHzの周波数における誘電率は3.58であり、28GHzの周波数における誘電率は3.56であった。また、5GHzの周波数における誘電正接は0.0201であり、10GHzの周波数における誘電正接は0.0210であり、20GHzの周波数における誘電正接は0.0226であり、28GHzの周波数における誘電正接は0.0223であった。なお、40GHz以上の周波数帯における誘電率および誘電正接は、損失が大きいため測定することができなかった。また、繊維強化樹脂成形体の引張強度は1.53GPaであり、引張弾性率は54.1GPaであった。
【0045】
(比較例2)
ポリイミド繊維をガラス繊維(日東紡績株式会社製のECG150 1/0)に代えた以外は、実施例1に記載される方法と同様の方法で繊維強化樹脂成形体を得た。
【0046】
得られた繊維強化樹脂成形体の厚みは70μmであり、ガラス繊維の体積含有率は55.7%であった。また、5GHz~80GHzの周波数帯における繊維強化樹脂成形体の誘電率および誘電正接ならびに繊維強化樹脂成形体の引張物性を実施例1に記載される方法と同様の方法で測定したところ、5GHzの周波数における誘電率は4.85であり、10GHzの周波数における誘電率は5.03であり、20GHzの周波数における誘電率は4.77であり、28GHzの周波数における誘電率は4.78であり、40GHzの周波数における誘電率は4.74であった。また、5GHzの周波数における誘電正接は0.0148であり、10GHzの周波数における誘電正接は0.0162であり、20GHzの周波数における誘電正接は0.0199であり、28GHzの周波数における誘電正接は0.0238であり、40GHzの周波数における誘電正接は0.0221であった。また、60GHz以上の周波数帯における誘電率および誘電正接は、損失が大きいため、測定することができなかった。また、繊維強化樹脂成形体の引張強度は1.42GPaであり、引張弾性率は33.2GPaであった。
【0047】
(比較例3)
UDプリプレグを、一方向材である炭素繊維プリプレグ(東レ株式会社製のP3252S-10)に代えた以外は、実施例1に記載される方法と同様の方法で繊維強化樹脂成形体を得た。
【0048】
得られた繊維強化樹脂成形体の厚みは94μmであり、炭素繊維の体積含有率は59%であった。また、5GHz~80GHzの周波数帯における繊維強化樹脂成形体の誘電率および誘電正接を実施例1に記載される方法と同様の方法で測定しようと試みたが、繊維強化樹脂成形体が導電体であったため誘電率および誘電正接を測定することはできなかった。また、繊維強化樹脂成形体の引張物性を実施例1に記載される方法と同様の方法で測定したところ、引張強度は2.46GPaであり、引張弾性率は117.2GPaであった。