IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リンテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-粘着シートおよび印刷物 図1
  • 特許-粘着シートおよび印刷物 図2
  • 特許-粘着シートおよび印刷物 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】粘着シートおよび印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/22 20180101AFI20241210BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20241210BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241210BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241210BHJP
   B32B 23/08 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C09J7/22
B41M5/52 100
B32B27/00 M
B32B27/30 101
B32B23/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020190353
(22)【出願日】2020-11-16
(65)【公開番号】P2022079263
(43)【公開日】2022-05-26
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】本橋 望
(72)【発明者】
【氏名】大久保 拓磨
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06800340(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J1/00- 5/10
7/00- 7/50
9/00-201/10
B32B1/00- 43/00
C08J5/00- 5/02
5/12- 5/22
B41M5/00
5/50
5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット法による印刷に用いられる粘着シートであって、
ポリ塩化ビニルおよびセルロース誘導体としてのセルロースアセテートプロピオネートを含む材料で構成された基材と、
粘着剤層とを有し、
ASTM D817-12に準拠した測定により求められる前記セルロース誘導体中におけるアセチル基の含量が、0.5%以上3.0%以下であり、
ASTM D817-12に準拠した測定により求められる前記セルロース誘導体中におけるプロピオニル基の含量が、30%以上60%以下であり、
ASTM D817-12に準拠した測定により求められる前記セルロース誘導体中における水酸基の含量が、0.3%以上10%以下であり、
前記セルロース誘導体の数平均分子量が、8000以上100000以下であり、
前記基材中における前記ポリ塩化ビニル100質量部に対する前記セルロース誘導体の含有量が2質量部以上20質量部以下であり、
前記ポリ塩化ビニルの数平均分子量が40000以上290000以下であり、
前記基材の厚さが5μm以上200μm以下であることを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
インクジェット法による印刷に用いられる粘着シートであって、
ポリ塩化ビニルおよびセルロース誘導体としてのセルロースアセテートブチレートを含む材料で構成された基材と、
粘着剤層とを有し、
ASTM D817-12に準拠した測定により求められる前記セルロース誘導体中におけるアセチル基の含量が、0.2%以上30%以下であり、
ASTM D817-12に準拠した測定により求められる前記セルロース誘導体中におけるブチリル基の含量が、20%以上50%以下であり、
ASTM D817-12に準拠した測定により求められる前記セルロース誘導体中における水酸基の含量が、0.3%以上10%以下であり、
前記セルロース誘導体の数平均分子量が、8000以上100000以下であり、
前記基材中における前記ポリ塩化ビニル100質量部に対する前記セルロース誘導体の含有量が2質量部以上20質量部以下であり、
前記ポリ塩化ビニルの数平均分子量が40000以上290000以下であり、
前記基材の厚さが5μm以上200μm以下であることを特徴とする粘着シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の粘着シートの前記基材上に、インクジェット法による印刷層が形成されていることを特徴とする印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートおよび印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
耐候性、曲面や凹凸を有する表面への形状追従性等に優れていること等から、従来から、広告、看板等の装飾用の粘着シートとして、ポリ塩化ビニル製のシートが広く用いられている。
【0003】
広告、看板等の用途では、比較的短期間で交換することが多く、また、小ロットでの生産が求められることがある。
【0004】
一方、インクジェット法による印刷は、オンデマンド性に優れ、少量多品目の印刷物の製造に適するという特性を有している。
【0005】
装飾用の粘着シートへの印刷にも、インクジェット法に適用されることが多くなってきている。
【0006】
しかしながら、従来のポリ塩化ビニルに対して、インクジェット法による印刷を施した場合、インクジェット法による印刷が不鮮明になりやすいという問題があった。
【0007】
インクジェット法による印刷を施した際における上記のような問題を解決すること等を目的に、所定の材料で構成されたインク受理層を設けたシート材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、このようなシート材料においても、インクジェット法による印刷適性を十分に優れたものとすることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第3745993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、耐候性等に優れるとともに、インクジェット法による印刷適性に優れる粘着シートを提供すること、また、耐候性等に優れるとともに、インクジェット法による滲み等の少ない優れた印刷品質の印刷部を有する印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記(1)~()に記載の本発明により達成される。
(1) インクジェット法による印刷に用いられる粘着シートであって、
ポリ塩化ビニルおよびセルロース誘導体としてのセルロースアセテートプロピオネートを含む材料で構成された基材と、
粘着剤層とを有し、
ASTM D817-12に準拠した測定により求められる前記セルロース誘導体中におけるアセチル基の含量が、0.5%以上3.0%以下であり、
ASTM D817-12に準拠した測定により求められる前記セルロース誘導体中におけるプロピオニル基の含量が、30%以上60%以下であり、
ASTM D817-12に準拠した測定により求められる前記セルロース誘導体中における水酸基の含量が、0.3%以上10%以下であり、
前記セルロース誘導体の数平均分子量が、8000以上100000以下であり、
前記基材中における前記ポリ塩化ビニル100質量部に対する前記セルロース誘導体の含有量が2質量部以上20質量部以下であり、
前記ポリ塩化ビニルの数平均分子量が40000以上290000以下であり、
前記基材の厚さが5μm以上200μm以下であることを特徴とする粘着シート。
【0012】
(2) インクジェット法による印刷に用いられる粘着シートであって、
ポリ塩化ビニルおよびセルロース誘導体としてのセルロースアセテートブチレートを含む材料で構成された基材と、
粘着剤層とを有し、
ASTM D817-12に準拠した測定により求められる前記セルロース誘導体中におけるアセチル基の含量が、0.2%以上30%以下であり、
ASTM D817-12に準拠した測定により求められる前記セルロース誘導体中におけるブチリル基の含量が、20%以上50%以下であり、
ASTM D817-12に準拠した測定により求められる前記セルロース誘導体中における水酸基の含量が、0.3%以上10%以下であり、
前記セルロース誘導体の数平均分子量が、8000以上100000以下であり、
前記基材中における前記ポリ塩化ビニル100質量部に対する前記セルロース誘導体の含有量が2質量部以上20質量部以下であり、
前記ポリ塩化ビニルの数平均分子量が40000以上290000以下であり、
前記基材の厚さが5μm以上200μm以下であることを特徴とする粘着シート。
【0021】
) 上記(1)または(2)に記載の粘着シートの前記基材上に、インクジェット法による印刷層が形成されていることを特徴とする印刷物。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、耐候性等に優れるとともに、インクジェット法による印刷適性に優れる粘着シートを提供すること、また、耐候性等に優れるとともに、インクジェット法による滲み等の少ない優れた印刷品質の印刷部を有する印刷物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の粘着シートの好適な実施形態を示す模式的な縦断面図である。
図2】本発明の印刷物の好適な実施形態を示す模式的な縦断面図である。
図3】本発明の印刷物をラミネートシートで被覆した状態の一例を示す模式的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]粘着シート
まず、本発明の粘着シートについて説明する。
【0025】
図1は、本発明の粘着シートの好適な実施形態を示す模式的な縦断面図である。
粘着シート10は、インクジェット法による印刷に用いられる粘着シート10であって、ポリ塩化ビニルおよびセルロース誘導体を含む材料で構成された基材11と、粘着剤層12とを有することを特徴とする。
【0026】
これにより、耐候性等に優れるとともに、インクジェット法による印刷適性に優れる粘着シートを提供することができる。また、基材11と粘着剤層12との密着性を特に優れたものとすることができる。また、耐候性、造膜性、柔軟性等の特性も優れたものとすることができる。
【0027】
これに対し、上記のような構成を満たさない場合には、このような優れた効果は得られない。
【0028】
例えば、基材がポリ塩化ビニルを含まない材料で構成されたものであると、粘着シート全体としての、耐候性、曲面や凹凸を有する表面への形状追従性、造膜性、柔軟性等を十分に優れたものとすることが困難となる。
【0029】
また、基材がセルロース誘導体を含まない材料で構成されたものであると、インクジェット法による印刷適性を十分に優れたものとすることが困難となる。より具体的には、インクジェット法による印刷に適用した場合に、インクが濡れ広がりすぎ、画像が滲んでしまい、鮮明な画像を形成することが困難となる。
【0030】
また、ポリ塩化ビニルで構成された基材上に、セルロース誘導体を含み、塩化ビニルを含まない材料で構成されたコート層が設けられている場合、コート層にクラックを生じたり、基材との間での剥離が生じやすくなったりする。
【0031】
[1-1]基材
基材11は、ポリ塩化ビニルおよびセルロース誘導体を含む材料で構成されたものであり、インクジェット法による印刷が施される部位である。
【0032】
[1-1-1]ポリ塩化ビニル
ポリ塩化ビニルは、耐候性や柔軟性、形状追従性等に優れるという特徴を有する材料である。
【0033】
基材11中に含まれるポリ塩化ビニルの数平均分子量は、40000以上290000以下であるのが好ましく、70000以上200000以下であるのがより好ましく、100000以上120000以下であるのがさらに好ましい。
【0034】
これにより、粘着シート10全体としての耐候性や柔軟性、形状追従性等を、いずれも、より優れたものとすることができる。また、ポリ塩化ビニルとセルロース誘導体との親和性、相溶性をより優れたものとすることができ、前述したようなポリ塩化ビニルとセルロース誘導体との共存させることにより得られる効果をより顕著に発揮させることができる。
【0035】
数平均分子量は、例えば、臭化リチウムのジメチルホルムアミド溶液(50mM濃度)を溶媒として用いるGPC法による測定で、ポリスチレン換算で求めることができる。測定時における温度は、例えば、80℃とすることができる。
基材11中におけるポリ塩化ビニルの含有率は、50質量%以上であるのが好ましい。
【0036】
[1-1-2]セルロース誘導体
セルロース誘導体は、粘着シート10において、主に、インクジェット法による印刷適性を向上させる機能を有している。
【0037】
セルロース誘導体は、セルロースの誘導体であればよく、例えば、セルロースが有する水酸基の一部がエステル化された化合物等が挙げられる。より具体的には、セルロース誘導体としては、セルロースが有する水酸基の少なくとも一部がアセチル化されたセルロースアセテート、セルロースが有する水酸基の少なくとも一部がプロピオニル化されたセルロースプロピオネート、セルロースが有する水酸基の少なくとも一部がブチリル化されたセルロースブチレート、セルロースが有する水酸基の一部がアセチル化されるとともに、セルロースが有する他の水酸基の少なくとも一部がプロピオニル化されたセルロースアセテートプロピオネート、セルロースが有する水酸基の一部がアセチル化されるとともに、セルロースが有する他の水酸基の少なくとも一部がブチリル化されたセルロースアセテートブチレート等のアシル基を有する誘導体であるセルロースエステル誘導体等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、セルロースエステル誘導体であるのが好ましく、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートのうちの少なくとも一方であるのがより好ましく、セルロースアセテートプロピオネートであるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0038】
ASTM D817-12に準拠した測定により求められるセルロース誘導体(基材11を構成するセルロース誘導体)中におけるアセチル基の含量は、0.2%以上30%以下であるのが好ましく、0.4%以上15%以下であるのがより好ましく、0.5%以上3.0%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0039】
ASTM D817-12に準拠した測定により求められるセルロース誘導体(基材11を構成するセルロース誘導体)中におけるプロピオニル基の含量は、30%以上60%以下であるのが好ましく、35%以上55%以下であるのがより好ましく、40%以上50%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0040】
ASTM D817-12に準拠した測定により求められるセルロース誘導体(基材11を構成するセルロース誘導体)中におけるブチリル基の含量は、20%以上50%以下であるのが好ましく、25%以上45%以下であるのがより好ましく、35%以上40%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0041】
ASTM D817-12に準拠した測定により求められるセルロース誘導体(基材11を構成するセルロース誘導体)中における水酸基の含量は、0.3%以上10%以下であるのが好ましく、0.8%以上10%以下であるのがより好ましく、1.5%以上7.0%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0042】
基材11中に含まれるセルロース誘導体の数平均分子量は、8000以上100000以下であるのが好ましく、10000以上80000以下であるのがより好ましく、15000以上40000以下であるのがさらに好ましい。
【0043】
これにより、粘着シート10についてのインクジェット法による印刷適性をより優れたものとすることができる。また、ポリ塩化ビニルとセルロース誘導体との親和性、相溶性をより優れたものとすることができ、前述したようなポリ塩化ビニルとセルロース誘導体との共存させることにより得られる効果をより顕著に発揮させることができる。
【0044】
基材11中におけるセルロース誘導体の含有率は、1.0質量%以上であるのが好ましく、1.9質量%以上であるのがより好ましい。
【0045】
基材11中におけるポリ塩化ビニル100質量部に対するセルロース誘導体の含有量は、2質量部以上20質量部以下であるのが好ましく、3質量部以上15質量部以下であるのがより好ましく、5質量部以上10質量部以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような各特性のバランスをより優れたものとすることができる。
【0046】
[1-1-3]可塑剤
基材11は、前述したポリ塩化ビニル、セルロース誘導体以外に可塑剤を含んでいてもよい。
可塑剤は、通常、柔軟性向上のために用いられる。
【0047】
可塑剤としては、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ-n-オクチル、フタル酸ジシクロヘキシル等のフタル酸エステル系可塑剤;トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリイソノニル、トリメリット酸トリイソデシル等のトリメリット酸エステル系可塑剤;アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル等のアジピン酸系可塑剤;フタル酸系ポリエステル等のポリエステル系可塑剤、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステル系可塑剤;エポキシ化アマニ油、エポキシ化ステアリン酸ブチル等のエポキシ系可塑剤等が挙げられる。
【0048】
ポリエステル系可塑剤の重量平均分子量は、2000以上6000以下であるのが好ましい。
【0049】
可塑剤の含有量は、ポリ塩化ビニル100質量部に対し、25質量部以上40質量部以下であるのが好ましく、27質量部以上35質量部以下であるのがより好ましい。
【0050】
[1-1-4]着色剤
基材11は、着色剤を含んでいてもよい。
【0051】
着色剤としては、例えば、各種顔料、各種染料を用いることができるが、耐光性等の観点から、顔料が好ましい。
【0052】
基材11を白色のものとする場合、着色剤(顔料)としては、例えば、酸化チタンを好適に用いることができる。
【0053】
[1-1-5]その他の成分
基材11は、前述した成分以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、ポリ塩化ビニル以外の樹脂材料、セルロース、各種フィラー、界面活性剤、分散剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、レベリング剤、酸化防止剤、pH調整剤、防腐剤、防錆剤、消臭剤、抗菌剤、抗カビ剤、抗ウイルス剤、殺菌剤、架橋剤、重合開始剤、定着剤、凝集剤等が挙げられる。
【0054】
ただし、基材11中におけるポリ塩化ビニル、セルロース誘導体、可塑剤、着色剤以外の成分の含有量は、ポリ塩化ビニル100質量部に対して、10質量部以下であるのが好ましく、5質量部以下であるのがより好ましく、3質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0055】
[1-1-6]基材のその他の条件
基材11は、その全体が実質的に均一な組成を有するものであってもよいし、互いに異なる組成の部位を有するものであってもよい。例えば、基材11は、その厚さ方向に組成が傾斜的に変化する傾斜材料で構成されたものであってもよいし、複数の層を有する積層体であってもよい。また、基材11の面内の異なる部位で異なる組成を有していてもよい。
【0056】
基材11の厚さは、5μm以上200μm以下であるのが好ましく、30μm以上100μm以下であるのがより好ましい。
【0057】
これにより、粘着シート10の柔軟性と耐久性とをより高いレベルで両立することができる。また、粘着シート10の被着体への貼着の際の取り扱いのしやすさをより優れたものとすることができる。
【0058】
基材11としては、例えば、前述した成分を溶媒に溶解した溶液を用いた溶液キャスト法により得られたものを好適に用いることができるが、基材11の製造方法は、特に限定されず、例えば、カレンダー法により製造してもよい。
【0059】
[1-2]粘着剤層
粘着剤層12は、粘着剤を含む材料で構成されており、被着体に貼着する際に被着体と接触する部位である。
【0060】
[1-2-1]粘着剤
粘着剤層12を構成する粘着剤としては、特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤等が挙げられる。
【0061】
これらの中でも、アクリル系粘着剤が好ましい。アクリル系粘着剤は、一般に、粘着性を与える(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と官能基を含有する単量体との共重合体を、架橋剤により架橋したものである。
【0062】
粘着性を与える(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0063】
官能基を含有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0064】
架橋剤としては、例えば、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、金属キレート化合物等が挙げられる。
【0065】
[1-2-2]その他の成分
粘着剤層12は、上述した粘着剤以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、粘着付与剤、可塑剤、顔料、染料等の着色剤、各種フィラー、界面活性剤、分散剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、レベリング剤、酸化防止剤、pH調整剤、防腐剤、防錆剤、消臭剤、抗菌剤、抗カビ剤、抗ウイルス剤、殺菌剤、架橋剤、重合開始剤が挙げられる。
【0066】
粘着付与剤としては、例えば、ロジン、ロジンフェノール樹脂、およびそのエステル化合物、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂、テルペン低重合体、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂等のテルペン系樹脂、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂等の粘着付与剤等を使用できる。また、より好ましくは、水添ロジンエステルおよび/または芳香族変性テルペン樹脂を使用することができる。
【0067】
ただし、粘着剤層12中における粘着剤以外の成分の含有率は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0068】
[1-2-3]粘着剤層のその他の条件
粘着剤層12は、その全体が実質的に均一な組成を有するものであってもよいし、互いに異なる組成の部位を有するものであってもよい。例えば、粘着剤層12は、その厚さ方向に組成が傾斜的に変化する傾斜材料で構成されたものであってもよいし、複数の層を有する積層体であってもよい。また、粘着剤層12の面内の異なる部位で異なる組成を有していてもよい。
【0069】
粘着剤層12の厚さは、5μm以上100μm以下であるのが好ましく、10μm以上60μm以下であるのがより好ましい。
【0070】
粘着剤層12は、例えば、前述した基材11上に粘着剤層12形成用の組成物を塗工して形成することもできるし、後述する剥離ライナー20上に粘着剤層12形成用の組成物を塗工し、これを基材11に転写して形成することもできる。
【0071】
[1-3]粘着シートの全体構成
粘着シート10は、前述した基材11と粘着剤層12とを有していればよく、さらに、基材11と粘着剤層12との間に、図示しない少なくとも1層の中間層を有していてもよい。
【0072】
粘着シート10の厚さは、10μm以上300μm以下であるのが好ましく、40μm以上160μm以下であるのがより好ましい。
【0073】
これにより、粘着シート10の柔軟性と耐久性とをより高いレベルで両立することができる。また、粘着シート10の被着体への貼着の際の取り扱いのしやすさをより優れたものとすることができる。
【0074】
[1-4]剥離ライナー
未使用の粘着シート10の粘着剤層12の表層は、図1に示されているように、剥離ライナー20によって覆われているのが好ましい。
【0075】
これにより、未使用の粘着シート10が取り回しやすくなるとともに、被着体に貼付される前の粘着剤層12を好適に保護できる。
【0076】
剥離ライナー20としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアリレート等の各種樹脂よりなるシートや、ポリエチレンラミネート紙、ポリプロピレンラミネート紙、クレーコート紙、樹脂コート紙、グラシン紙、上質紙等の各種紙材を基材とし、この基材の粘着剤層12との接触面に、必要により剥離処理が施されたもの等を用いることができる。
【0077】
剥離処理としては、例えば、シリコーン系樹脂、長鎖アルキル系樹脂、フッ素系樹脂等の剥離剤よりなる剥離剤層の形成等が挙げられる。
【0078】
[2]印刷物
次に、本発明の印刷物について説明する。
【0079】
図2は、本発明の印刷物の好適な実施形態を示す模式的な縦断面図である。図3は、本発明の印刷物をラミネートシートで被覆した状態の一例を示す模式的な縦断面図である。
【0080】
印刷物100は、粘着シート10の基材11上に、インクジェット法による印刷層30が形成されていることを特徴とする。
【0081】
これにより、耐候性等に優れるとともに、インクジェット法による滲み等の少ない優れた印刷品質の印刷部を有する印刷物を提供することができる。
【0082】
印刷層30を形成するのに用いるインクは、特に限定されず、例えば、油性インク、水性インク、ラテックスインク、光硬化型インク(紫外線硬化型インク、電子線硬化型インク)等が挙げられる。中でも、油性インク、ラテックスインクがより好ましい。
【0083】
従来においては、インクジェット法による印刷層の形成に、このようなインクを用いた場合に、上述したような問題が特に起こりやすかったが、本発明によれば、このようなインクを用いた場合であっても、上述したような問題の発生を効果的に防止することができる。すなわち、印刷層30の形成に前述したようなインクを用いる場合に、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0084】
また、印刷層30の形成には、2種以上のインクを組み合わせて用いてもよい。
図示の構成では、印刷層30が基材11の全面に設けられているが、印刷層30は、基材11の表面の一部にのみ設けられていてもよい。
【0085】
印刷層30は、粘着シート10を被着体に貼着する前に形成されるものであってもよいし、粘着シート10を被着体に貼着した後に形成されるものであってもよい。
印刷層30による表示内容等は、特に限定されない。
【0086】
印刷物100は、そのまま、被着体に貼着した状態で用いられるものであってもよいし、例えば、図3に示すように、印刷層30が設けられた側の面をラミネートシート200で被覆した状態で用いられるものであってもよい。
【0087】
ラミネートシート200の構成は、特に限定されないが、図示の構成では、ラミネートシート基材50と粘着剤層60とを有している。
【0088】
ラミネートシート基材50は、いかなる材料で構成されたものであってもよいが、通常は、主として樹脂材料で構成されたものである。
【0089】
ラミネートシート基材50を構成する樹脂材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0090】
ラミネートシート基材50は、樹脂材料以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、顔料、染料等の着色剤、各種フィラー、分散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤、防腐剤、防錆剤、消臭剤、抗菌剤、抗カビ剤、抗ウイルス剤、殺菌剤、架橋剤、重合開始剤、定着剤、凝集剤等が挙げられる。
【0091】
ただし、ラミネートシート基材50中における樹脂材料以外の成分の含有率は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0092】
ラミネートシート基材50は、その全体が実質的に均一な組成を有するものであってもよいし、互いに異なる組成の部位を有するものであってもよい。例えば、ラミネートシート基材50は、その厚さ方向に組成が傾斜的に変化する傾斜材料で構成されたものであってもよいし、複数の層を有する積層体であってもよい。また、ラミネートシート基材50の面内の異なる部位で異なる組成を有していてもよい。
【0093】
ラミネートシート基材50の厚さは、10μm以上100μm以下であるのが好ましく、20μm以上80μm以下であるのがより好ましい。
【0094】
粘着剤層60は、粘着剤を含む材料で構成されており、印刷物100の印刷層30が設けられた側の面と接触する部位である。
【0095】
粘着剤層60を構成する粘着剤としては、特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤等が挙げられる。
【0096】
粘着剤層60は、粘着剤以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、粘着付与剤、可塑剤、顔料、染料等の着色剤、各種フィラー、分散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤、防腐剤、防錆剤、消臭剤、抗菌剤、抗カビ剤、抗ウイルス剤、殺菌剤、架橋剤、重合開始剤が挙げられる。
【0097】
ただし、粘着剤層60中における粘着剤以外の成分の含有率は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0098】
粘着剤層60は、その全体が実質的に均一な組成を有するものであってもよいし、互いに異なる組成の部位を有するものであってもよい。例えば、粘着剤層60は、その厚さ方向に組成が傾斜的に変化する傾斜材料で構成されたものであってもよいし、複数の層を有する積層体であってもよい。また、粘着剤層60の面内の異なる部位で異なる組成を有していてもよい。
【0099】
粘着剤層60の厚さは、5μm以上100μm以下であるのが好ましく、10μm以上60μm以下であるのがより好ましい。
【0100】
印刷物100をラミネートシート200で被覆する場合、印刷物100へのラミネートシート200の被覆は、印刷物100の被着体への貼着前に行ってもよいし、印刷物100の被着体への貼着後に行ってもよい。
【0101】
本発明の印刷物は、例えば、各種の広報、広告、看板等に用いることができる。これらには、例えば、車体のラッピング、壁面への貼着等の使用形態が含まれる。
【0102】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0103】
例えば、図示の構成では、印刷層が基材上に設けられているが、印刷層の一部は、基材中に浸透していてもよい。
【実施例
【0104】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の実施例中の処理、測定で、温度条件を示していないものについては、25℃で行った。
【0105】
[3]粘着シートの製造
(実施例1)
まず、数平均分子量:120000のポリ塩化ビニルと、数平均分子量:25000、ASTM D817-12に準拠した測定により求められる、アセチル基の含量が2.5%、プロピオニル基の含量が45.0%、水酸基の含量が2.6%のセルロース誘導体としてのセルロースアセテートプロピオネートと、顔料としての酸化チタンとを用意し、これらを所定の割合で、溶媒としてのエチレングリコールモノブチルエーテルとトリメチルベンゼンとの混合物に溶解した。
【0106】
このようにして得られた溶液を用いた溶液キャスト法により、厚さが50μmの基材を得た。
【0107】
一方、剥離ライナーの剥離剤処理面上に、ロールナイフコーターを用いて、乾燥後の塗布厚みが15μmとなるように、粘着剤組成物を塗工し、90℃にて1分間乾燥した。
粘着剤組成物としては、アクリル系粘着剤を用いた。
【0108】
その後、この粘着剤組成物を、上記のようにして製造した基材と接触させ、粘着剤層が剥離ライナーで保護された状態の粘着シートを得た。
【0109】
(実施例2~7)
粘着シートの構成が表1に示すものとなるようにした以外は、前記実施例1と同様にして粘着シートを製造した。
【0110】
(比較例1)
基材が、セルロース誘導体を含まず、ポリ塩化ビニルからなるものとなるようにした以外は、前記実施例1と同様にして粘着シートを製造した。
【0111】
前記各実施例および比較例1の粘着シートの構成を表1にまとめて示した。なお、表1中、数平均分子量が120000のポリ塩化ビニルを「PVC1」、数平均分子量が25000、ASTM D817-12に準拠した測定により求められる、アセチル基の含量が2.5%、プロピオニル基の含量が45.0%、水酸基の含量が2.6%のセルロース誘導体としてのセルロースアセテートプロピオネートを「CAP1」、数平均分子量が15000、ASTM D817-12に準拠した測定により求められる、アセチル基の含量が0.6%、プロピオニル基の含量が42.5%、水酸基の含量が5.0%のセルロース誘導体としてのセルロースアセテートプロピオネートを「CAP2」、数平均分子量が20000、ASTM D817-12に準拠した測定により求められる、アセチル基の含量が13.5%、ブチリル基の含量が38.0%、水酸基の含量が1.3%のセルロース誘導体としてのセルロースアセテートブチレートを「CAB1」で示した。
【0112】
【表1】
【0113】
[4]印刷物の製造
前記各実施例および比較例1の粘着シートの基材側の表面に、インクジェットプリンター(ミマキエンジニアリング社製、JV33-130)を用いたインクジェット法により、所定のパターンの印刷層の形成を行い、印刷物を得た。
【0114】
このとき、インクとしては、溶剤系インク(油性インク)であるSS21インク(ミマキエンジニアリング社製)を用いた。
【0115】
[5]評価
前記各実施例および比較例1の印刷物について、以下のような評価を行った。
【0116】
[5-1]外観評価
前記各実施例および比較例1の印刷物の印刷層が設けられた面側について、目視による観察を行い、以下の基準に従い評価した。
【0117】
A:にじみが全く認められない非常に鮮明な外観を呈する。
B:にじみがほとんど認められない十分に鮮明な外観を呈する。
C:にじみがわずかに認められるものの比較的鮮明な外観を呈する。
D:にじみがはっきりと認められ、鮮明さが不十分である。
E:にじみが顕著に認められ、不鮮明な外観を呈する。
【0118】
[5-2]耐候性評価
前記各実施例および比較例1の粘着シートについて、アクリル塗装板に貼付しサンシャインウェザーメータを用いて2000時間促進耐候性試験を行い、以下の基準に従い評価した。
【0119】
A:クラックや黄変が認められない。
B:クラックや黄変がわずかに認められる。
C:クラックや黄変がはっきりと認めれれる。
これらの結果を表2にまとめて示す。
【0120】
【表2】
【0121】
表2から明らかなように、前記各実施例の粘着シートでは、優れた結果が得られた。これに対し、比較例1の粘着シートでは、満足のいく結果が得られなかった。
【0122】
また、前記各実施例および比較例1の粘着シートについて、印刷層の形成に、HP社製、HP Latex プリンターを用いた以外は、前記と同様にして印刷物を製造し、前記と同様にして評価を行ったところ、いずれも、前記と同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0123】
10…粘着シート
11…基材
12…粘着剤層
20…剥離ライナー
30…印刷層
50…ラミネートシート基材
60…粘着剤層
100…印刷物
200…ラミネートシート
図1
図2
図3