(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】X線管
(51)【国際特許分類】
H01J 35/14 20060101AFI20241210BHJP
H01J 35/06 20060101ALI20241210BHJP
H01J 35/18 20060101ALI20241210BHJP
H01J 35/08 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H01J35/14
H01J35/06 Z
H01J35/18
H01J35/08 Z
H01J35/06 C
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019235476
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-12-20
(32)【優先日】2018-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503310327
【氏名又は名称】マルバーン パナリティカル ビー ヴィ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ファン オッシュ ヤープ
(72)【発明者】
【氏名】チャン ヤン-ピーテル
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-033992(JP,A)
【文献】特表2010-525506(JP,A)
【文献】特開平08-180822(JP,A)
【文献】特開2010-055883(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0194124(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00-35/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管であって、
ターゲット表面を有し、X線を放出するアノードと、
第1端と第2端との間で延在する耐火性金属の第1ワイヤであって、放出ループを有する第1ワイヤと、前記第1ワイヤの周りで前記第1ワイヤを覆うように延在する耐火性金属の第2ワイヤのスパイラルと、前記第2ワイヤの前記スパイラルを覆うコーティングであって、4eV未満の仕事関数を有するコーティングと、を有するカソードであって、前記放出ループは前記アノードを通過する軸の周りに延在し、前記アノード及び前記カソードは前記軸に沿って相互に離間して配置されている、カソードと、
前記放出ループによって放出された電子が、前記アノードの前記ターゲット表面の領域を照射するように構成された電子ビームガイドであって、電子によって照射されている前記ターゲット表面の前記領域は単一の境界によって取り囲まれている中実のスポットである、電子ビームガイドと、
を備え、
前記放
出ループは前記軸を中心としており、前記ターゲット表面と前記放出ループ上の点から前記ターゲット表面の中心を通って延在する直線との間の角度は30度から60度である、X線管。
【請求項2】
前記電子ビームガイドは、
前記アノードと前記放出ループとの間の第1壁部分を有し、
前記第1壁部分は前記軸周りに延在するリングを有する、
請求項1記載のX線管。
【請求項3】
前記電子ビームガイドは、前記軸周りに延在する第2壁部分をさらに有し、
前記放出ループは前記第1壁部分と前記第2壁部分との間に配置され、
前記第2壁部分は、前記アノードの前記ターゲット表面から前記軸に沿って前記アノードから離れる方向に先細になるテーパ状の容積を画定する傾斜した内表面を有する、
請求項2記載のX線管。
【請求項4】
前記リングは、使用中に、前記カソードによって放出された電子が前記カソードから前記アノードへの曲線軌道に沿って移動するように、前記放出ループから前記アノードへの少なくとも1つの直接的視線を遮るように配置されている、
請求項2又は3記載のX線管。
【請求項5】
前記リングは、前記放出ループに面する傾斜した外表面を有し、
前記外表面は、前記外表面と前記軸との間で30度と60度との間の角度を画定するように、前記軸に関して傾斜している、
請求項4記載のX線管。
【請求項6】
前記外表面と前記軸との間の前記角度は、40度と50度との間にある、
請求項
5記載のX線管。
【請求項7】
前記第1壁部分の外表面は、前記軸を中心とした円錐台形の表面を画定する、
請求項2乃至6いずれか1項記載のX線管。
【請求項8】
前記X線管は、前記アノード及び前記カソードを取り囲むハウジングをさらに有し、
前記第1壁部分は前記ハウジングと一体的に形成されている、
請求項2乃至7いずれか1項記載のX線管。
【請求項9】
前記放出ループの周囲は、前記ターゲット表面の周囲よりも大きい、
請求項1乃至8いずれか1項記載のX線管。
【請求項10】
前記X線管は、前記X線管からX線が出射できるようにするウインドウをさらに有し、
前記アノード、前記放出ループ及び前記ウインドウは前記軸に沿って離間して配置されている、
請求項1乃至9いずれか1項記載のX線管。
【請求項11】
前記X線管は、第3壁部分をさらに有し、
前記第3壁部分は環形状であり、
前記軸は前記環形状の中心を通って延在する、
請求項7乃至10いずれか1項記載のX線管。
【請求項12】
前記環形状は前記アノードに面する内表面を有し、
前記内表面は前記アノードの前記ターゲット表面に平行な平面内で延在する、
請求項11記載のX線管。
【請求項13】
前記放出ループは、前記軸に沿った方向において、前記第3壁部分と前記アノードとの間に配置されている、
請求項11又は12記載のX線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線管に関する。
【背景技術】
【0002】
X線は、X線源によって生成され、しばしばカソード及びアノードを含む真空管の形態(すなわちX線管)のX線源によって生成される。カソードからの電子は、電界によってアノードへ向けて加速されて、アノードとの衝突時にX線を生成する。これらのX線は、ウインドウを通ってX線管の外へ出て行く。高電圧(例えば、1kV~100kVの範囲)がアノードに印加されるとともに、カソードはグラウンドに保たれる。すなわち、X線管のアノードとカソードとの間に高い電位差がある。
【0003】
カソードから放出され、アノードに向けて方向づけられる電子のビームと関連する電流は、放出電流と呼ばれている。一般に、放出電流が高いほど、単位時間あたりにアノードに向けて方向づけられる電子の数は多くなる。
【0004】
カソードからの電子によって照射されるアノードの領域は、X線管の「焦点スポット」と称される。いくつかのX線分析法用途において、特に高分解能を必要とする用途において、小さい焦点スポット(focal spots)を有することが、好ましい。一般に、より小さい焦点スポットはより高い輝度を有し、検出器での比較的高い効率を達成するために、X線分析装置において使用される。
【0005】
通常、小さい焦点が必要とされる場合、コイル状のタングステンフィラメントを含むX線管が設けられる。電子は、フィラメントを抵抗加熱することにより、カソードからの熱イオン放出又は熱電子放出(thermionic emission)によって放出される。これらのX線管は、低い高電圧設定(たとえば、10kV未満)で動作する場合、スペクトル安定性が乏しい傾向がある。
【0006】
低い高電圧設定での電力を最大化するためには、フィラメントに印加する電流を増大させる必要がある(それにより放出電流を増大させる)。しかしながら、これは、フィラメントから気化してアノードに堆積するタングステンの量を増加させ、X線がアノードから放出されるのを妨げ得る。これは、X線管のスペクトル安定性を低減させ得る。
【0007】
いくつかの他の用途では、コーティングされた放出ループを含むX線管が用いられてきた。放出ループを含むX線管は、従来、高解像度を必要としない用途にのみ用いられていた。これらのループが大きい、環形状の焦点スポットを作り出すからである。
【0008】
小さい焦点、低い高電圧設定での高い放出電流、優れたスペクトル安定性(つまり、低い出力ドリフト)を提供するという点で優れた性能を達成できる小型のX線管を提供することが望まれる。
【発明の概要】
【0009】
本発明の一態様によれば、X線管が提供され、X線管は、
X線を放出するアノードであって、ターゲット表面を有するアノードと、
電子を放出するための放出ループを有するカソードであって、放出ループはアノードを通過する軸の周りに延在し、カソード及びアノードは前軸に沿って相互に離間して配置されている、カソードと、
放出ループによって放出された電子がアノードのターゲット表面の領域を照射するように構成された電子ビームガイドであって、電子によって照射されているターゲット表面の前記領域は単一の境界によって取り囲まれている電子ビームガイドと、
を有する。
【0010】
電子ビームガイドは、カソードからアノードまでの電子の軌道に影響を及ぼすように構成され、その結果、電子は、アノードの「中空」領域ではなく、「中実」領域を照射する。より形式的に、電子ビームは、2つの別個の境界によって取り囲まれる領域(例えば、環は2つの別個の境界によって取り囲まれる領域である)ではなく、単一の境界によって取り囲まれる領域を照射する。
【0011】
この配置は、アノードの小さな領域を照射するために、放出ループを使用することを容易にする。同時に、カソードのフィラメントは、従来のコイル状タングステンフィラメントではなく放出ループである。この配置を設けることは、X線管の出力安定性への最小限の影響で、X線管を高い放出電流で動作させることができることを確実にするのに役立つ。
【0012】
アノードの照射領域の最大直線寸法は、0.1mmと2.0mmとの間、好ましくは0.9mmと1.5mmとの間であり得る。照射領域が円形の場合、照射領域の直径は0.1mmと2.0mmとの間、好ましくは0.9mmと1.5mmとの間であり得る。
【0013】
X線管は、アノードと放出ループとの間の第1壁部分をさらに有し、第1壁部分は軸周りに延在するリングを有する。
【0014】
いくつかの実施態様において、リングは、放出ループからアノードまでの少なくとも1つの直接の視線を遮るように配置されており、その結果、使用中に、放出ループから放出された電子は、放出ループからアノードへの曲線軌道に沿って移動する。
【0015】
使用中に、放出ループによって放出される電子は、アノードに向かって加速される。第1壁部分は放出ループからアノードまで最短経路を中断する、その結果、電子は湾曲した軌道をとる。アノード及びカソードは軸に沿って相互に離間して配置されており、その結果、第1壁部分は、アノードを部分的にブロックする。この配置は、「中空の」焦点スポットの形成を回避するのを助ける。この配置を設けることは、小さな、中実な、焦点スポットの形成を容易にする。
【0016】
軸は、第1壁部分によって取り囲まれる領域の中心を通過する。
【0017】
いくつかの実施態様において、リングは、放出ループに面する傾斜した外表面を有し、外表面は、軸に対して傾斜しており、外表面と軸との間で、30度と60度との間の角度を画定し、好ましくは、角度は40度と50度との間である。
【0018】
いくつかの実施態様において、第1壁部分の外表面は、軸を中心とする円錐台形の表面を画定する。
【0019】
いくつかの実施態様において、X線管は、アノード及びカソードを取り囲むハウジングをさらに有し、第1壁部分はハウジングと一体的に形成されている。
【0020】
第1壁部分は、ハウジングの内壁の一部を形成する。あるいは、第1壁部分は、ハウジングから分離することができる。
【0021】
いくつかの実施態様において、放出ループは、ハウジングの長手軸周りに延在する。これらの実施形態において、長手軸は、アノードのターゲット表面を通過する。
【0022】
いくつかの実施態様において、放射ループは軸を中心としており、ターゲット表面と放出ループ上の点からターゲット表面の中心を通って延在する直線との間の角度は30度から60度である。
【0023】
好ましくは、角度は、40度と50度との間にある。アノードのターゲット表面と放出ループの中心の間の距離は、10mm以下である。いくつかの実施態様において、放出ループの周囲(the perimeter)は、ターゲット表面の周囲よりも大きい。
【0024】
いくつかの実施態様において、X線管は、軸周りに延在する第2壁部分をさらに有し、放出ループは第1壁部分と第2壁部分との間に配置され、第2壁部分は、アノードのターゲット表面から軸に沿ってアノードから離れる方向に先細になるテーパ状の容積を画定する傾斜した内表面を有する。
【0025】
第2壁部分の内表面の形状は、対称形の焦点スポットを形成するのを助けることができる。テーパ状の容積は、アノードから放出ループに向かう方向に先細になっている。
【0026】
第2壁部分の内表面は、軸を中心とする円錐台表面を画定することができる。
【0027】
いくつかの実施態様において、X線管は、X線管からX線が出射できるようにするウインドウをさらに有し、アノード、放出ループ及びウインドウは軸に沿って離間して配置されている。
【0028】
いくつかの実施態様において、X線管は、第3壁部分をさらに有し、第3壁部分は環形状であり、軸は環形状の中心を通って延在する。
【0029】
いくつかの実施態様において、環又は環形状の第3壁部分は、アノードに面する内表面を有し、内表面はアノードのターゲット表面に平行な平面内で延在する。
【0030】
いくつかの実施態様において、放出ループは、軸に沿った方向において、第3壁部分とアノードとの間に配置されている。
【0031】
環は、X線管のウインドウ周りに延在する。放出ループ及び第3壁部分は、アノードのターゲット表面を通って通過する軸を中心としている(centred around)。
【0032】
いくつかの実施態様において、カソードは、第1端と第2端との間で延在する耐火性金属の第1ワイヤであって、放出ループを有する第1ワイヤと、第1ワイヤの周りで第1ワイヤを覆うように延在する耐火性金属の第2ワイヤのスパイラルと、第2ワイヤのスパイラルを覆うコーティングであって、4eV未満の仕事関数を有するコーティングと、
を有する。
【0033】
コーティングは、熱イオン放出又は熱電子放出(thermionic emission)によって放出ループが電子を放出できる温度を低減することができる。このカソードを設けることは、X線管の出力安定性への最小限の影響で、X線管が高い放出電流で動作できることを確実にするのに役立つ。いくつかの実施態様において、コーティングは、バリウム酸化物コーティングである。
【0034】
本発明の態様において、X線管が提供され、X線管は、X線を放出するアノードであって、ターゲット表面を有するアノードと、電子を放出するための放出ループ(11)を有するカソードであって、放出ループはアノードを通過する軸の周りに延在し、カソード及びアノードは軸(10)に沿って相互に離間して配置されている、カソードと、アノードと放出ループとの間の第1壁部(19)を有する電子ビームガイドであって、第1壁部分は前記軸周りに延在するリングを有し、リングは、使用中に放出ループによって放出された電子が、放出ループからアノードへの曲線軌道に沿って移動するように、放出ループからアノードへの少なくとも1つの直接的視線を遮るように配置されている、電子ビームガイドと、を有する。
【0035】
電子ビームガイドは、電子がアノードの「中空(hollow)」領域ではなく、「中実(solid)」領域を照射するように、カソードからアノードまでの電子の軌道に影響を及ぼすように構成される。より形式的に、電子ビームは、2つの別個の境界によって取り囲まれる領域(例えば、環は2つの別個の境界によって取り囲まれる領域である)ではなく、単一の境界によって取り囲まれる領域を照射する。
【0036】
この配置は、アノードの小さな領域を照射するために、放出ループの使用を容易にする。同時に、カソードのフィラメントは、従来のコイル状タングステンフィラメントではなく放出ループであり、これは、X線管の出力安定性への最小限の影響で、X線管が高放出電流において動作することを可能にする。
【0037】
アノードの照射領域の最大直線寸法は、0.1mmと2.0mmとの間、好ましくは0.9mmと1.5mmとの間であり得る。照射領域が円形の場合、照射領域の直径は0.1mmと2.0mmとの間、好ましくは0.9mmと1.5mmとの間であり得る。
【0038】
X線管は、アノードと放出ループとの間の第1壁部分をさらに有し、第1壁部分は軸周りに延在するリングを有する。
【0039】
いくつかの実施態様において、リングは、放出ループからアノードまでの少なくとも1つの直接の視線を遮るように配置されており、その結果、使用中に、放出ループから放出された電子は、放出ループからアノードへの曲線軌道に沿って移動する。
【0040】
使用中、放出ループによって放出される電子は、アノードに向かって加速される。第1壁部分は放出ループからアノードまで最短経路を中断する、その結果、電子は湾曲した軌道をとる。アノード及びカソードは軸に沿って相互に離間して配置されており、その結果、第1壁部分は、アノードを部分的にブロックする。この配置は、「中空の」焦点スポットの形成を回避するのを助ける。この配置を設けることは、小さな、中実な、焦点スポットの形成を容易にする。
【0041】
軸は、第1壁部分によって取り囲まれる領域の中心を通過する。
【0042】
いくつかの実施態様において、リングは、放出ループに面する傾斜した外表面を有し、外表面は、軸に対して傾斜しており、外表面と軸との間で、30度と60度との間の角度を画定し、好ましくは、角度は40度と50度との間である。
【0043】
いくつかの実施態様において、第1壁部分の外表面は、軸を中心とする円錐台形の表面を画定する。
【0044】
いくつかの実施態様において、X線管は、アノード及びカソードを取り囲むハウジングをさらに有し、第1壁部分はハウジングと一体的に形成されている。
【0045】
第1壁部分は、ハウジングの内壁の一部を形成する。あるいは、第1壁部分は、ハウジングから分離することができる。
【0046】
いくつかの実施態様において、放出ループは、ハウジングの長手軸周りに延在する。これらの実施形態において、長手軸は、アノードのターゲット表面を通過する。
【0047】
いくつかの実施態様において、放射ループは軸を中心としており、ターゲット表面と放出ループ上の点からターゲット表面の中心を通って延在する直線との間の角度は30度から60度である。
【0048】
好ましくは、角度は、40度と50度の間にある。アノードのターゲット表面と放出ループの中心の間の距離は、最高10mmである。
【0049】
いくつかの実施態様において、放出ループの周囲は、ターゲット表面の周囲よりも大きい。
【0050】
いくつかの実施態様において、X線管は、軸周りに延在する第2壁部分をさらに有し、放出ループは第1壁部分と第2壁部分との間に配置され、第2壁部分は、アノードのターゲット表面から軸に沿ってアノードから離れる方向に先細になるテーパ状の容積を画定する傾斜した内表面を有する。
【0051】
第2壁部分の内表面の形状は、対称形の焦点スポットを形成するのを助けることができる。テーパ状の容積は、アノードから放出ループに向かう方向に先細になっている。
【0052】
第2壁部分の内表面は、軸を中心とする円錐台表面を画定することができる。
【0053】
いくつかの実施態様において、X線管は、X線管からX線が出射できるようにするウインドウをさらに有し、アノード、放出ループ及びウインドウは軸に沿って離間して配置されている。
【0054】
いくつかの実施態様において、X線管は第3壁部分をさらに有し、第3壁部分は環形状であり、軸は環形状の中心を通って延在する。
【0055】
いくつかの実施態様において、環はアノードに面する内表面を有し、内表面はアノードのターゲット表面に平行な平面内で延在する。
【0056】
いくつかの実施態様において、放出ループは、軸に沿った方向において、第3壁部分とアノードとの間に配置されている。
【0057】
環は、X線管のウインドウ周りに延在する。放出ループ及び第3壁部分は、アノードのターゲット表面を通って通過する軸を中心としている。
【0058】
いくつかの実施形態では、カソードは、第1端と第2端との間で延在する耐火性金属の第1ワイヤであって、放出ループを有する第1ワイヤと、第1ワイヤの周りで第1ワイヤを覆うように延在する耐火性金属の第2ワイヤのスパイラルと、第2ワイヤの前記スパイラルを覆うコーティングであって、4eV未満の仕事関数を有するコーティングと、を有する。
【0059】
コーティングは、熱イオン放出によって放出ループが電子を放出できる温度を低減することができる。このカソードを設けることは、X線管の出力安定性への影響を最小限に抑えながら、X線管を高い放出電流で動作させることができることを確実にするのに役立つ。いくつかの実施態様において、コーティングは、バリウム酸化物コーティングである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
発明の実施例は添付の図面を参照して詳述される。
【
図1】本発明の実施形態によるX線管の模式的断面を示す図である。
【
図2A】放出ループを有するカソードの斜視図を示す図である。
【
図3】「リング形状の」焦点及び「点形状の」焦点を示す図である。
【
図4】
図1のX線管内の電子ビームの経路を示す図である。
【
図5】実施形態によるX線管内部の電界を示す図である。
【
図6】例示的なアノードの照射領域の位置による強度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明は、カソード及びアノードを有するX線管を提供する。カソードは、電子を放出するための放出ループを備える。X線管は、単一の境界線によって取り囲まれるアノードの領域(中実領域)を照射するために、放出ループから電子を生じさせるように構成された電子ビームガイドも有する。カソードは、従来は、大きい、中空の焦点(例えば及び12mmの直径)を形成するためにしか使用されていなかった放出ループを有する。
【0062】
図1は、X線管1を断面で示す。X線管1は、ハウジング7内に配置されたカソード3及びアノード5を有する。ハウジング7は、真空管をもたらす。使用中、カソード3は、加熱され、熱電子放出によって電子を放出する。カソード3からの電子は電子ビームを形成し、それはアノード5のターゲット表面6に向けて方向づけられている。カソード3がグラウンドに保持されるとともに、高圧がアノード5に印加され、したがって、アノード5とカソード3との間に電位差が生じる。カソード3からの電子は、アノード5に向けて加速する。カソード3からの電子がアノード5に衝突するとき、それらはアノード5から放出されるべきX線を生じさせる。放出されたX線は、管1のウインドウ9を通って、X線管1の外へ出る。ウインドウはX線管の端部に、アノード5のターゲット表面6に面するように配置される。カソードは、アノード5とウインドウ9との間に配置される。
【0063】
図1において20、ハウジング7は、長手軸10を有する。カソード3及びアノード5は、真空管7の長手軸10に沿う方向において互いに離間して配置されている。カソード3は、放出ループ11を備え、放出ループ11は軸10を中心とするように、長手軸10周りに延在する。放出ループの周囲はターゲット表面6の周囲より大きく、したがって、放出ループ11もアノード5のターゲット表面6周りに延在する。長手軸10は、アノード5のターゲット表面6を通り、放出ループ11の中心を通り、ウインドウ9を通って、通過する。
【0064】
放出ループによって放出される電子は、電子ビームガイドによって導かれ、電子ビームガイドは、電子によってとられるカソードからアノードまでの経路を少なくとも部分的に特定する。
【0065】
図1に示される実施形態において、電子ビームガイドは、ハウジング7の内壁によってもたらされる。内壁は、使用時に、X線管1内の電界が、カソード3から放出された電子をアノード5のターゲット表面6に向けて方向づけ、ターゲット表面の(中空領域よりむしろ)中実領域を照射するように、形成される。内壁の形状は、X線管内部の電界に影響を及ぼし、したがって、カソード3によって放出される電子の35の軌道に影響を与える。動作中に、内壁はグラウンドに保持されるとともに、アノード5には高電圧が印加される。
【0066】
X線管の内壁は、第1壁部分19を備える。第1壁部分は、放出ループからアノード5のターゲット表面6への最短直線経路を物理的に遮断するように、放出ループ11とアノード5との間に配置される。第1壁部分19は外表面13を有し、外表面13は、放出ループ11に向かって、軸10から外側に向いている。外表面は、軸10に関して傾斜している。
図1において、外表面は、軸10に対して45度の角度にある。この構成では、第1壁部分19は、アノードのターゲット表面6を放出ループから部分的にブロックする。放出ループによって放出される電子は、それらがアノードのターゲット表面6に到達する前に、第1壁部分19の上方で(over)強制的に湾曲される。アノードが軸10に沿って放出ループから空間的に分離されていることから、電子は延長された経路(an extended path)に沿って、ターゲット表面に向けて移動する。これは、アノードの照射領域のサイズを低減するのに役立つ。
【0067】
内壁は第2壁部分21も有し、第2壁部分21は、軸10に沿う方向において、第1壁部分とウインドウ9との間に配置される。第2壁部分15は、軸10周りに延在するリングを備える。第2壁部分の内面は、傾斜しており、アノードのターゲット表面6からウインドウ9に向けて先細になるテーパ状の容積を画定する。
【0068】
内壁の第3壁部分はウインドウ9を取り囲み、X線管の首を画定する。X線管の内壁の第2壁部分21は、第3の壁部分の下に配置される。
【0069】
第2壁部分及び第3壁部分は、共同して、カソード3の上方で首から延在する肩を画定する。第3壁部分の、アノードに面する下表面は肩の上部分を画定し、第2の壁部分21の内表面は内壁の肩の下部分を提供する。
【0070】
肩より下、かつ、カソードの下方では、内壁の第1壁部分が、軸に向かって内方に、かつ、アノードのターゲット表面から遠ざかるように上方に突出する。
【0071】
図2Aには、カソード3がさらに詳細に示される。カソード3は、隣接して配置される第1端部と第2端部との間に延在するタングステンワイヤの単一の長さを有する。カソードは、円形放出ループ11の形態を有し、放出ループ11と、第1端部及び第2端部と、の間に形成される第1及び第2熱ループ12を有する。第1及び第2熱ループのそれぞれは、ワイヤのU字状ループの形態であり、U字の脚は放出ループに平行に延在し、すなわち円に続いている。「熱ループ(thermal loop)」の用語は、そのループの機能又は作用が、放出ループとワイヤの両端部との間で何らかの熱抵抗をもたらすことから用いられている。
【0072】
図2Bは、放出ループをさらに詳細に示す。カソードは、円形放出ループを形成する第1タングステンワイヤ4と、第2タングステンワイヤ30と、エミッタコーティング32とを含む。第2タングステンワイヤ30は、第1タングステンワイヤ4周りにスパイラルに配置されている。エミッタコーティング32は、ワイヤの組立体上に(on the composition of wires)配置される。本実施例において、スパイラルワイヤの個別のターンの間に小さなギャップがあり、コーティングはこれらのギャップ内及び表面にわたって延在する。これは、コーティング32とワイヤ4、30との間の強い結合(a strong bond)及び良好な化学コンタクト(chemical contact)を作り出すと考えられる。
【0073】
放出ループは、0.5mmから5mmまでの最大直線寸法(すなわち円の場合直径)を有する。コーティング厚さは、0.5のμmから放出ループの直径の50%までであることができる。第2のワイヤは、第1のワイヤに緊締(tightly bound)されることができるか、又は、例えば放出ループの直径の0から20%まで、間隔を置いて配置されることができる。サポートワイヤは、例えば、20から500のμm直径であり、かつ任意の適切な長さ、例えば2mmから30mmまで、であることができる。サポートワイヤは、特に、内部ワイヤの直径の、20%~80%、又は20%~50%の直径であることができる。
【0074】
エミッタコーティング32は、タングステンよりも低い温度で熱電子放出を生じる材料を含有する。例えば、コーティングは、酸化バリウム及び/又は酸化ストロンチウムを含有する。コーティングされた放出ループ11は、低温で電子放出をもたらし、その結果、材料の蒸発は低減され又は回避される。したがって、カソードは、経時的に(over time)安定なX線出力を達成することができる。
【0075】
カソードは、コーティングとコイル状のワイヤ間の良好な結合(bonding)及び均一な温度分布の理由によって、極めて均一なX線スポットを供給する。
【0076】
本発明者らは、アノードの上方に設けられた放出ループを有するX線管を提供することにより、完全に/中実な(すなわち、中空ではない)焦点スポットを提供することができ、同時に低い高電圧設定で安定に高出力を達成できることを見出した。
【0077】
表1は、本発明によるX線管及び2つの比較例X線管に対する、いくつかの低kV設定を示す。比較例X線管の1つは、コイルの形態の、コーティングされていないタングステンフィラメントを有する。この比較例X線管の、許容できない出力ドリフトの無い、最低kV設定は10kVであることが分かる。カソードの寿命を保つために、この低い高電圧設定において、出力は500Wに制限されている。また、12mmの放出ループを用いる焦点スポットは環状であることにも留意されたい。
【0078】
本発明によるX線管は、より高いmA設定で使用されることもできる。例えば、依然として良好なスペクトル安定性を達成しながら、最高12mAの電流で動作させることが可能である。
【0079】
【0080】
図3は、環状焦点スポット36及び中実焦点スポット38を示す。環状焦点スポットは中空の形状を有し、2つの別個の境界の間に画定される。従来、放出ループを用いるX線管は、この形状の焦点スポットを生成する。これらの焦点スポットは大きい(典型的には直径約12mm)。
【0081】
図3の中実焦点スポットは、単一の連続的な境界(boundary)によって取り囲まれる。これは中空でない。1.5mmの直径を有する。
【0082】
図4は、
図1のX線管1の、使用中の、電子ビームの経路の概略図である。
図4に示すように、使用時に、電子はカソード3から放出され、X線管1内の電界の影響を受けながらアノード5に向かって移動する。電子ビームガイドは、アノード5のターゲット表面6の中実領域を電子が照射するように、カソードからの電子ビームを整形するように配置される。
内壁は、カソードからの電子が第1壁部分の上方で湾曲する軌道をとることを強制されるように、成形されている。内壁の形状は、電子がアノードの表面の中実領域を照射するように、カソードからの電子がアノードの上方で広がることを確実にするのに役立つ。
図4に示すように、カソード3からの電子は、アノード5に向けて方向づけられ、単一の境界によって取り囲まれるアノードの領域を照射する。
【0083】
図5は、X線管が使用されているときの、X線管1内部の電界を示す。
【0084】
図6は、焦点領域の強度が位置によってどのように変化するかを示す。これは、焦点領域が「中実」(単一の境界によって囲まれる領域)であるか、又は「中空」(複数の境界線によって囲まれる領域)であるかを特定するために使用される。焦点領域の形状を評価するために、アノードの画像を捕捉し、その画像を処理することによって、焦点領域の形状を特定することが可能である。
【0085】
電子によって照射されるアノードの部分は、アノードの画像内でより高い強度を有する。アノードの領域の中央区域が電子によって照射されているかどうかを特定するための1つの方法は、アノードの画像を解析することである。
【0086】
例えば、単一の境界(boundary)によって取り囲まれるアノードの領域が選択される。選択された領域は、焦点領域を取り囲む。選択された領域のピーク強度が特定される。その後、選択された領域の中央区域の平均強度が特定される。例えば、中央区域は、選択された領域の中央の区域であり、選択された領域全体(the total selected area)のほぼ10%に等しい。中央区域の平均強度が、ピーク強度の5%以下の場合、焦点領域は中空の焦点領域である。中央区域の平均強度がピーク強度の5%より大きい場合、焦点領域は中実の焦点領域である。
【0087】
図6では、ページの左側にアノードの選択された領域の画像が示されている。ページの右側のグラフは、測定された強度が、アノードの選択された領域の画像上での位置によって、どのように変化するかを示す。この例では、中央区域は、ピーク強度の5%より大きい強度を有する。したがって、焦点領域は、「中実の」焦点領域である。
【0088】
いくつかの実施態様において、第1壁部分はリングである。リングが、必ずしも円形であるというわけではない。
【0089】
いくつかの実施態様において、カソードは、いかなる熱ループも備えない。
【0090】
いくつかの実施態様において、第1壁部分は、ハウジングと一体的に形成されていない。すなわち、第1壁部分は、ハウジングに対して別個の物体である。
【0091】
いくつかの実施態様において、第1壁部分及び第2壁部分は、別個の構成要素(separate entities)である。他の実施形態として、第1壁部分及び第2壁部分は、一体的に形成されている。
【0092】
いくつかの実施態様において、第2壁部分及び第3壁部分は、別個の構成要素である。他の実施形態として、第2壁部分及び第3壁部分は、一体的に形成されている。
【0093】
いくつかの実施態様において、電子ビームガイドは、真空管の内表面によって提供される。他の実施形態では、電子ビームガイドは、真空管に対して分離されている。
【0094】
電子ビームによって照射されるアノードの領域は、円形であってもよいし、異なる形状を有していてもよい。例えば、電子ビームによって照射される領域は楕円形であってもよい。
【0095】
アノードは、X線を発生させるのに適した任意の材料であってよい。
【0096】
当業者は、X線管が厳密に管状ではないことを理解するであろう。