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特許7601518再充電可能な金属ハロゲン化物電池のための多孔質シリコンアノード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】再充電可能な金属ハロゲン化物電池のための多孔質シリコンアノード
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20241210BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241210BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241210BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20241210BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M4/58
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/134
H01M10/052
H01M10/054
H01M10/0569
H01M10/0567
H01M10/058
H01M4/1395
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022525961
(86)(22)【出願日】2020-10-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-20
(86)【国際出願番号】 IB2020095002
(87)【国際公開番号】W WO2021095027
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】16/685,105
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【弁理士】
【氏名又は名称】太佐 種一
(74)【代理人】
【識別番号】100120710
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】ナ、ヨン-ヘ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジャンウー
(72)【発明者】
【氏名】アレン、ロバート、デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】デソーザ、ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】コリンズ、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】サダナ、デヴェンドラ
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0221887(US,A1)
【文献】特表2013-509687(JP,A)
【文献】特表2013-510405(JP,A)
【文献】特開2014-011105(JP,A)
【文献】特開2009-064584(JP,A)
【文献】特開2010-251647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36
H01M 4/13-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池であって、
カソード集電体と;
0.5ミクロン~500ミクロンの深さの細孔を有する表面を具備し、前記表面におよび前記細孔の少なくとも一部に金属を含む、多孔質シリコンアノードと;
前記アノードおよび前記カソード集電体に接触し、活性カソード材料として作用する金属ハロゲン化物およびニトリル化合物を含む、電解質と
を含み、
前記金属が、Li、Na、Mg、Zn、Al、ならびにこれらの混合物および組合せからなる群から選択される、電池。
【請求項2】
前記金属が、5オングストローム未満のRMS表面粗さを有する層を含む、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記アノードが結晶Siを含む、請求項1に記載の電池。
【請求項4】
前記アノードが、B、Al、In、Ga、ならびにこれらの混合物および組合せからなる群から選択される金属でドープされている、請求項1に記載の電池。
【請求項5】
前記アノードと前記カソード集電体の間にセパレータを含む、請求項1に記載の電池。
【請求項6】
前記電解質がイオン伝導性材料を含む、請求項1に記載の電池。
【請求項7】
前記電池が、酸素、空気、一酸化窒素、二酸化窒素、ならびにこれらの混合物および組合せからなる群から選択される酸化性ガスを含む、請求項1に記載の電池。
【請求項8】
前記電解質が、エーテル、グリム、カーボネート、アミド、アミン、有機硫黄溶媒、有機リン溶媒、有機シリコン溶媒、フッ化溶媒、複素環溶媒、ならびにこれらの混合物および組合せからなる群から選択される溶媒を含む、請求項1に記載の電池。
【請求項9】
前記金属ハロゲン化物が、溶媒中で各ハロゲン化物イオンおよび各金属イオンに解離する電解質塩を含み、前記ハロゲン化物イオンがI、Br、ClおよびFのうちの少なくとも1つのイオンを含み、前記金属イオンが、Li、MgおよびNaのうちの少なくとも1つのイオンを含む、請求項1に記載の電池。
【請求項10】
各金属イオンおよび各対アニオンに解離する追加の塩をさらに含み、前記金属イオンが、Li、MgおよびNa、ならびにこれらの混合物および組合せからなる群から選択され、前記アニオンが硝酸アニオン(NO )、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF )、テトラフルオロホウ酸アニオン(BF )、ビスオキサラトホウ酸アニオン(BOB)、ジフルオロオキサラトホウ酸アニオン(DFOB)、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン(TF)、トリフルオロスルホニルイミドアニオン(TFSI)、ならびにこれらの混合物および組合せからなる群から選択される、請求項9に記載の電池。
【請求項11】
前記金属ハロゲン化物を含む前記活性カソード材料に加えて専用のカソード材料をさらに含む、請求項1に記載の電池。
【請求項12】
電池を形成する方法であって、
結晶Si基板を陽極酸化して、少なくとも500nmの深さの細孔を有する多孔質Siアノードを形成することと;
前記多孔質Siアノードを、Li、Na、Mg、Zn、Al、ならびにこれらの混合物および組合せからなる群から選択される金属で金属化することと;
セパレータを、金属ハロゲン化物を含む活性カソード材料およびニトリル化合物を含む非水溶媒を含む電解質溶液に浸すことと;
前記電解質溶液に浸した前記セパレータを前記アノードと集電体の間に置くことと;
酸化性ガスを前記積層されたアノード、前記溶液に浸した前記セパレータ、および前記集電体に導入して前記電池を形成することと
を含む、方法。
【請求項13】
前記多孔質Siアノードが、Li金属層を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記層が、5オングストローム未満のRMS表面粗さを有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記多孔質Siアノードが、B、Al、In、Ga、ならびにこれらの混合物および組合せからなる群から選択される金属でドープされる、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
一般的な再充電可能な電池は、作用イオンの電気化学的インターカレーション/デインターカレーション反応を介して、または活性電極/電解質材料の変換反応を介して駆動する。一例において、リチウムイオン電池は、電極材料としてインターカレートしたリチウム化合物を利用し得る。液体電解質は、正に帯電したリチウムイオンをアノードからカソードに運び、その逆も同様に行う。放電中、リチウムイオンの移動は、アノードにおいて自由電子を生成し、これはカソードに接続された正の集電体で電荷を生成し、同時に外部回路を通る電流を発生させる。充電中は逆のプロセスが起こり、電流は、正の集電体から通電中の装置(携帯電話、コンピュータなど)を通ってアノードに接続された負の集電体に流れる。電池が放電中であり、電流を供給している間、アノードはリチウムイオンをカソードに解放し、一方から他方への電子の流れを発生させる。電池が充電中のとき、リチウムイオンは、カソードから解放され、アノードで受け取られる。
【0002】
潜在的に有害な液体電解質、ならびに比較的低エネルギー密度および高コストのカソード材料は、例えばリチウムイオン電池などの再充電可能な電池の潜在的用途を制限し得る。インターカレートしたリチウムアノードの代替物として、リチウム金属は、高いエネルギー貯蔵容量を有し、一次電池のアノード材料として利用されてきた。しかし、場合によっては、リチウム金属アノードはデンドライトを形成し得、これは電池動作中の短絡の原因となり得る。加えて、リチウム金属または液体電解質成分あるいはその両方は、電池装置の使用中周囲条件に曝露されると、一部の条件下で可燃性になり得る。また、リチウム金属アノードから抽出された大量のリチウムイオンおよび電子を収容できる適度に安価なカソード材料を見出すのは困難であることが実証された。
【0003】
シリコンアノードは、電池動作中デンドライトを生成せず、高いエネルギー密度を提供できる。しかし、電池の充放電サイクルが進行するにつれて、シリコンの体積は、リチウム化および脱リチウム化の過程で大きく変化し、これは粒子の粉砕をもたらし得、電極上での不安定な固体電解質界面(SEI)層の形成を引き起こし得る。SEI層は、電極表面での電気的接触の喪失を引き起こす可能性があり、これは容量フェージングをもたらし、電池のサイクル寿命を制限する可能性がある。加えて、場合によっては、シリコン電極材料は一般的な電解質材料に適合しない場合がある。
【発明の概要】
【0004】
全般的に、本発明は、多孔質シリコンアノードおよび金属ハロゲン化物カソードを含む再充電可能な金属ハロゲン化物電池を対象とする。金属ハロゲン化物電池は、高いエネルギー密度および優れたサイクル挙動を有する。シリコンアノードは、エネルギー貯蔵装置内でのリチウム金属の制御のための高い電位を可能にするため、シリコンは、安全性を高めると共に、アノードとしてのリチウム金属と比較して高い理論重量容量を有する。1つの例示的な実施形態において、多孔質シリコンアノードを製造するために、結晶シリコン基板は、陽極酸化されて多孔質表面領域を提供し、これは比表面積を増加させ、基板材料の表面反応性を高める。多孔質表面は、シリコンアノードに持続可能で可逆的な電荷受け入れおよび運搬を付与し、繰り返しの充放電サイクルに曝された場合の寿命延長を向上する。一部の実施形態において、多孔質シリコンアノードは、性能をさらに向上するために、任意選択で例えばリチウムなどの他の金属でメッキまたは合金化され得る。
【0005】
一態様において、本発明は、金属ハロゲン化物および導電性材料を含むカソードであって、金属ハロゲン化物が活性カソード材料として作用する、前記カソードと;約0.5ミクロン~約500ミクロンの深さの細孔を有する表面と、その表面におよびその細孔の少なくとも一部に金属とを有する、多孔質シリコンアノードと;アノードおよびカソードと接触する電解質であって、前記電解質がニトリル部分(moiety)を含む、前記電解質とを含む電池を対象とする。
【0006】
別の態様において、本発明は、電池であって、(a)充電中、金属イオンを電解質から取り込み、放電中、イオンを電解質に解放するアノードであって、前記アノードが少なくとも0.5ミクロンの深さの細孔を有する多孔質シリコンを含む、前記アノードと;(b)電池のための活性材料として機能する金属ハロゲン化物および導電性材料を含むカソードであって、金属が、Li、Na、Mg、ならびにこれらの混合物および組合せからなる群から選択され、ハロゲン化物がI-、Br-、Cl-、F-、ならびにこれらの混合物および組合せからなる群から選択される、前記カソードと;(c)電解質であって、前記電解質がニトリル化合物を含む溶媒を有する、前記電解質とを含む、電池を対象とする。
【0007】
別の態様において、本発明は、電池を形成する方法を対象とする。方法は、結晶Si基板を陽極酸化して、少なくとも500nmの深さの細孔を有する多孔質Siアノードを形成することと;多孔質Siアノードを、Li、Na、Mg、Zn、Al、ならびにこれらの混合物および組合せからなる群から選択される金属で金属化することと;セパレータを、金属ハロゲン化物を含む活性カソード材料およびニトリル化合物を含む非水溶媒を含む電解質溶液に浸すことと;電解質溶液に浸したセパレータをアノードと集電体の間に置くことと;酸化性ガスを積層されたアノード、溶液に浸したセパレータおよび集電体に導入して、電池を形成することとを含む。
【0008】
本発明の1つまたは複数の例の詳細が、添付の図面および以下の詳細な説明に示される。本発明の他の特徴、目的および利点は、説明および図面から、ならびに請求項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】アノード、電解質、集電体および任意選択のセパレータを含む例示的な電池を例示する概念図である。
図2】多孔質シリコン基板を示す略断面図である。
図3】閉鎖セル内の図1の例示的な電池を例示する概念図である。
図4】(A)は1200秒のエッチング時間で、49%HF溶液中5mA/cmの陽極酸化電流密度での実施例2のプレリチウム化されたp型多孔質シリコンの断面の走査電子顕微鏡写真である。破線の枠は、(B)に示す近似拡大領域をハイライト表示するものであり、約16nmのリチウム金属層には、多孔質シリコン電極が一体構造で取り付けられている。
図5】p型多孔質シリコンアノードを有するヨウ化リチウム電池のサイクル寿命を示すプロットである(エッチング時間:500秒、49%HF溶液中5mA/cmの陽極酸化電流密度)。
図6】p型多孔質シリコンアノードを有するヨウ化リチウム電池のサイクル寿命を示すプロットである(エッチング時間:1200秒、49%HF溶液中5mA/cmの陽極酸化電流密度)。
図7】p型多孔質シリコンアノードを有するヨウ化リチウム電池のサイクル寿命を示すプロットである(エッチング時間:2400秒、49%HF溶液中5mA/cmの陽極酸化電流密度)。
図8】非陽極酸化対照試料である、裸の(非多孔質)プレリチウム化シリコンアノードを有するヨウ化リチウム電池のサイクル寿命を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図中の同様の記号は、同様の要素を示す。
【0011】
図1は、アノード12、電解質14、カソード集電体16、任意選択のセパレータ18および任意選択のアノード集電体17を含む電池10の実施形態を例示する概念図である。電池10は、還元酸化(レドックス)反応を介して動作し、充放電のために1つまたは複数の構成要素または要素の様々な酸化状態およびレドックス反応を利用する。図1に示す構造は、例示的な実施形態であり、様々な形状、サイズ、スケールおよび同様のものを含むように変更されてもよい。例えば、電池10は、パウチセル、3次元(3D)電池の形態および同様のものであり得る。
【0012】
アノード12は、一部の実施形態において、結晶Siを含み得るか、またはこれからなり得る多孔質シリコン基板を含む。様々な実施形態において、Si基板は、単結晶Si、マルチ結晶Si、ポリ結晶Si、またはこれらの混合物および組合せであり得る。
【0013】
一部の実施形態において、Si基板は、任意選択で、不純物でドープされて、Si元素の伝導性を改変し得る。例えば、Si基板は、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)ならびにこれらの混合物および組合せなどの元素でp型ドープされ得る。p型ドーパントは、シリコン結晶格子中の置換型三価不純物であり、したがって四価の原子価の構造のシリコン原子の価電子帯にホールを残す。不純物は、イオンインプランテーション、制御されたドーパント濃度を有するSiのエピタキシャル成長および同様のものを含むがこれらに限定されない多種多様な技術によりSi基板に取り込まれ得る。
【0014】
図2に模式的に示すように、Si基板120は、本出願において、基板120が多孔質領域121を含むことを意味する多孔質である。上記の条件を利用して、多孔質領域121は、基板120の露出面122の下方に延在する複数の細孔124を含む。
【0015】
細孔124は、約3nm~約5nmの平均孔径w、表面122から基板120の多孔質領域の全厚、または表面122の上部から約5ミクロン~約25ミクロン、もしくは約7ミクロン~約20ミクロン、もしくは約7ミクロン~約13ミクロンの平均深さdを有する。細孔124間の壁126は、約2nm未満~約10nm超または約6nm~約10nmの平均壁厚tを有する。一部の実施形態において、壁126は、約5nm~約20nm、または約10nm~約20nm、または約12nm~約17nmの平均中心間距離rを有する。
【0016】
細孔124は、例えば電気化学エッチング、触媒エッチング、ステインエッチングおよび同様のものなどの任意の好適な技術により、Si基板120の表面122に形成され得る。細孔124を生成するのに特に有用な技術の1つは、電気化学セル内で行われる電気化学陽極酸化法である。限定することを意図するものではない1つの例示的な陽極酸化法において、Si基板120は、濃縮フッ化水素酸の電解質浴に浸漬され、ここでSi基板120は、正極を形成し、負極は、例えば、炭素、グラファイト、Pt、Auなどの金属および同様のものなど、濃縮HF浴に化学的に不活性な材料の板または棒である。限定することを意図するものではない様々な例示的な実施形態において、陽極酸化法は、0.05mA/cm~150mA/cmまたは1mA/cm~10mA/cmの電流密度で動作する定電流源を用いて行われる。
【0017】
陽極酸化法は、陽極酸化時間により制御される細孔特性を有するSi基板の表面で多孔質領域を生成する。限定することを意図するものではない一例において、約10μmの深さdを有する細孔124を有する表面多孔質領域は、HF電解質浴中5mA/cmの電流密度で1200秒の陽極酸化に対して得られる。限定することを意図するものではない以下の実施例の別の実施形態において、多孔質領域121を生成するために用いられる陽極酸化条件は、以下の通りである:49%HF溶液、5mA/cmの陽極酸化電流密度、およびp型ドープシリコン基板(約1×1019/cmのBドープ)および陽極酸化時間約30秒~40分。公称室温(約25℃)で濃縮HF浴中で陽極酸化された1cm範囲当たり1019のドーピングレベルを有するホウ素ドープSi基板については、5mA/cmの電流密度が、約1秒~約5時間または約2000秒~約10000秒印加される。この例示的な陽極酸化法において、表面122から約5~6ミクロンの平均深さdを有する細孔124は、500秒の陽極酸化時間で形成され、約7~13ミクロンの深さを有する細孔は、1200秒の陽極酸化時間で形成され、約20~25ミクロンの深さを有する細孔は、2400秒の陽極酸化時間で形成される。
【0018】
細孔124間の壁126は、陽極酸化エッチングプロセスで利用される時間および電流に同様に依存する平均壁厚tを有する。非限定的な実施例として、5mA/cmで200秒陽極酸化された多孔質シリコン基板は、約2nm未満~約6nm超の細孔径範囲を有し、5mA/cmで500秒陽極酸化された多孔質シリコン基板は、約2nm未満~約10nm超の細孔径範囲を有し得る。
【0019】
陽極酸化法後、得られた多孔質Si構造体は、任意選択で脱イオン水でリンスされ、次いで乾燥される。
【0020】
図2を再び参照すると、一部の実施形態において、多孔質領域121の化学的および物理的構造は、金属が表面122におよび細孔124の少なくとも一部に存在するように、多孔質Si基板を金属化することにより、任意選択で改変され得る。多孔質基板120は、任意の好適な技術により金属化され得る。例えば、原子層堆積(ALD)、気相堆積、電気化学的メッキおよび同様のものなどの任意の好適な金属堆積手法が用いられ得るが、金属が溶融され、多孔質基板120と接触する直接溶融合金などの簡単な技術が用いられてもよい。
【0021】
任意の金属または合金、金属の組合せ、合金の組合せまたは金属と合金の組合せは、細孔124内に取り込まれ得る。選択された金属、合金またはこれらの組合せは、電解質媒体を通ってイオン化形態の電池アノードとカソードの間を前後に移動できなくてはならず、活性カソード材料との電位差が適度に大きくなくてはならない(約1V超)。好適な例としては、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムおよび同様のものが挙げられるが、これらに限定されない。金属化基板がリチウム電池での使用を目的とする場合、Liによる金属化は、特に有用であることが見出され、このようなLi金属化方法は、本明細書でプレリチウム化と称される。
【0022】
一部の実施形態において、金属130は、細孔124を満たし、実質的に平面状の金属表面134を有する金属領域132を形成する。一部の実施形態において、金属領域は金属濃度勾配を有し、金属濃度は表面134付近で最大になり、細孔124で徐々に低下する。Si基板120の多孔質領域121および多孔質領域121の直下のSi基板の結晶領域136は、電気的、物理的および化学的に相互接続されて、一体構造を形成する。一部の実施形態において、滑らかな表面は効率的な電池動作に不要であるが、金属表面134は非常に滑らかで、二乗平均平方根(RMS)表面粗さは約10オングストローム(Å)未満、または5Å未満または約3Å未満である。限定することを意図するものではない一部の例示的な実施形態において、金属表面134は、表面122から約10nm~約100nm、約10nm~約50nmまたは約10nm~約20nmの高さhを有する。
【0023】
アノード12は、充電中、金属イオンを電解質14から取り込み、放電中、金属イオンを電解質14に解放する。水性または非水性であり得る電解質14は、溶媒、金属ハロゲン化物および任意選択の酸化性ガスを含む。電解質14中の溶媒は、例えば再充電可能性、サイクル性、電極構造または同様のものを向上させることによるなど、電池10の電気化学的性能をさらに高めるように選択され得る。限定することを意図するものではない様々な実施形態において、好適な溶媒は、エーテル、グリム、カーボネート、ニトリル、アミド、アミン、有機硫黄溶媒、有機リン溶媒、有機シリコン溶媒、フッ化溶媒、アジポニトリル(ADN)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメトキシエタン(DME)、ならびにこれらの混合物および組合せなどの非水性有機溶媒から選択され得る。一部の実施形態において、ニトリル化合物を含む非水性溶媒は、特に有用であることが見出された。
【0024】
一部の実施形態において、電解質14は、本願において、環員として少なくとも2つの異なる元素の原子を有する芳香族または非芳香族環状化合物を指す任意選択の複素環化合物を含み得る。本願で用いられる環状化合物(環化合物)は、化合物中の1つまたは複数の一連の原子が結合して環を形成する化合物を指す。様々な実施形態において、電解質14に好適な環状化合物としては、ピロリドン、オキソラン、チオラン、ピロール、フランおよびチオフェンなどの5員環;ピペラジン、オキサン、チアン、ピリジン、ピランおよびチオピランなどの6員環;ならびにアゼパン、オキセパン、チエパン、アゼピン、オキセピンおよびチエピンなどの7員環が挙げられる。好適な複素環化合物の例としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオフェン、オキサチオラン、スクシンイミド、オキサゾリドン、γ-ブチロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-バレロラクトン、ピロリジン、イミダゾリジン、スルホラン、チアンならびにこれらの混合物および組合せが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態において、好適な複素環化合物としては、環状エーテル、環状エステル、ならびにこれらの混合物および組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
電解質14はまた、電解質14にイオン伝導性を与える金属ハロゲン化物(例えばMX、ここでMは金属元素であり、Xはハロゲン元素である)を含む。一部の例において、金属ハロゲン化物は、各ハロゲン化物イオンおよび各金属イオンに解離する電解質塩を含む。例えば、金属ハロゲン化物は電解質14の溶媒に溶解し得、その各金属およびハロゲン化物イオンに解離し得る。限定することを意図するものではない一部の例において、ハロゲン化物イオンは、I、Br、ClまたはFのうちの少なくとも1つのイオンを含み得(例えば、XはI、Br、ClまたはFであり得る)、金属イオンは、Li、MgまたはNaのうちの少なくとも1つのイオンを含み得る(例えば、MはLi、MgまたはNaであり得る)。
【0026】
一部の実施形態において、電解質14は、各金属イオンおよび各対アニオンに解離する任意選択の追加の塩を含む。限定することを意図するものではない一部の例において、金属イオンは、Li、MgおよびNaのうちの少なくとも1つを含み、対アニオンは、硝酸アニオン(NO )、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF )、テトラフルオロホウ酸アニオン(BF )、ビスオキサラトホウ酸アニオン(BOB)、ジフルオロオキサラトホウ酸アニオン(DFOB)、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン(TF)およびトリフルオロスルホニルイミドアニオン(TFSI)のうちの1つまたは複数を含む。
【0027】
一部の実施形態において、電解質14の金属ハロゲン化物は、電池10の充放電中、その金属イオンを受け取り、貯蔵し、解放する活性カソード材料として機能する。したがって、電池10は、専用のカソード材料を欠き、イオン輸送では電解質14の金属ハロゲン化物の活性カソード材料および集電体16に依存する。延いては、電池10は、安価に製造され得るか、より軽量であり得るか、高い電力密度を有し得るか、またはその組合せであり得る。場合によっては、活性カソード材料として機能する金属ハロゲン化物を含む電解質の高い電力密度は、本明細書に記載される電解質を含まない他のいくつかの他の電池より著しく速く電池10を充電することを可能にし得る。一部の例において、金属ハロゲン化物を欠く電解質は、金属ハロゲン化物を含む電解質14と比較して、電気化学的性能(例えば、可逆性、再充電可能性、またはサイクル性あるいはその組合せ)を低下させ得るか、不可逆的なカーボネート副産物を生成し得るか、電力密度を低下させ得るか、またはこれらの組合せを起こし得る。
【0028】
一部の実施形態において、電解質14は、任意選択の酸化性ガスを含むか、またはその存在下にあり得、本明細書で利用する「酸化性ガスを含む」はいずれかの構成を含むことが意図される。一部の例において、酸化性ガスは、電解質14の溶媒に溶解され得る。限定することを意図するものではない一部の例において、酸化性ガスは、酸素、空気、一酸化窒素または二酸化窒素のうちの少なくとも1つを含む。酸化性ガスは、上述の電池10のレドックス反応を誘起する一助となり、高度に可逆的なレドックス反応を達成する一助となり、これは、電池10の電気化学的性能の向上に寄与し得る。酸化性ガスは、このようなレドックス反応を誘起する一助となり得るが、電池10の使用中消費または放出されない(例えば、酸化性ガスは、電池10のレドックス反応に関与しない)。一部の例において、金属ハロゲン化物および溶媒を含むが、酸化性ガスを含まない電解質は、再充電可能性をほとんどまたは全く示さない場合がある。
【0029】
集電体16~17は、電池10の放電中、レドックス反応により発生した電子を収集し、電池10が接続される外部電子回路への導電路を提供するために好適な導電率を有する任意の材料を含み得る。同様に、電池10の再充電中、集電体16~17は外部電圧源と電解質14の間の電気経路を提供し、別のレドックス反応のための電圧を供給して、電池10を充電する。一部の例において、集電体16~17は、金属または炭素粉末あるいはその両方などの導電性粉末、織もしくは不織金属繊維、金属フォーム、織もしくは不織炭素繊維または同様のものを含み得る。一部の実施形態において、集電体16~17は、ステンレス鋼メッシュ、アルミニウム(Al)メッシュ、ニッケル(Ni)フォームまたは炭素紙あるいはその組合せを含み得る。例えば、一実施形態において、集電体16~17のうちの1つまたは両方は、その上に堆積した炭素ナノ粒子を有するステンレス鋼メッシュを含む。さらに別の例として、集電体16~17のうちの1つまたは複数は、導電性の多孔質材料であり得る。
【0030】
他の例において、電池10は、活性カソード材料として機能する金属ハロゲン化物に加えて、任意選択の専用のカソード材料15を含み得る。例えば、電池10は、電池10が接続される外部電気回路への導電路を提供するカソード15を含み得る。場合によっては、電池10は、Li-イオン電池で使用できるカソードを含み得る。例えば、カソードは、リチウムコバルト酸化物(LCO、例えばLiCoO)、ニッケルコバルトアルミニウム(NCA、例えばLiNiCoAl、LiNi0.8Co0.15Al0.05)、リチウムイオンマンガン酸化物(LMO、例えばLiMn)、リチウムマンガンオキフッ化物(LMOF)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC、例えばLiNiMnCoO)、ニッケルコバルトマンガン(NCM、例えばLiNiCoMn、LiNi0.33Co0.33Mn0.33)またはリン酸鉄リチウム(LFP、例えばLiFePO)のうちの少なくとも1つを含み得る。
【0031】
一部の例において、電池10は、任意選択のセパレータ18を含む。セパレータ18は、対向電極間の物理的接触を防止し、その結果として、金属イオンが、充放電中、電池10を通って流れることが依然として可能でありながら、電子が電池10を通って(例えば、電池10の電解質14を通って)移動しないように全内部回路を通る電子の輸送を防止することにより、電池の短絡を防止する。一部の例において、セパレータ18は、電解質14に浸され得るか、電解質14内にあり得るか、電解質14に取り囲まれ得るか、または同様のことが行われ得る。様々な実施形態において、セパレータ18は、電子が代わりに外部回路を通って移動するように、電池10を通る電子の移動を防止するための電気的に非導電性の材料を含む。一部の非限定的な例において、セパレータ18は、ガラス、不織繊維、ポリマーフィルム、ゴムまたは同様のもので製造され得る。
【0032】
一部の例において、電池10は、閉鎖されたまたは実質的に閉鎖されたセルまたは筐体に収容される。このようにして、電解質14の酸化性ガスは、本明細書に記載されるように電池10が比較的速い充電速度、高いエネルギー効率、高い電力密度、高い可逆性、高いサイクル性またはこれらの組合せを有するように電池10内に留まる。
【0033】
一部の実施形態において、電池10は、比較的高い充電密度でも、多くの充放電サイクルを経ることが可能であり得る(例えば、良好な再充電可能性を示す)。一部の例において、電池10は、約1mA/cm、約5mA/cm、約10mA/cmまたは約20mA/cm以上の電流密度で、少なくとも100サイクルの充放電を終了することが可能である。一例として、電池10は、約1mA/cm、約5mA/cm、約10mA/cmまたは約20mA/cm以上の電流密度で、少なくとも1000サイクルの充放電を終了することが可能であり得る。
【0034】
アノードが、陽極酸化法により金属化された結晶Si基板である実施形態において、限定することを意図するものではない一部の例において、充電/放電サイクル数における電池10の平均サイクル寿命と陽極酸化時間との比は、約2以上、または約6以上、または約12以上である。
【0035】
一部の実施形態において、電池10は、比較的高いエネルギー効率を示す。例えば、電池10は、約1mA/cm、約5mA/cm、約10mA/cmまたは約20mA/cm以上の電流密度で90%以上のエネルギー効率を示し得る。一部の例において、電池10は、約1mA/cm、約5mA/cm、約10mA/cmまたは約20mA/cm以上の電流密度で99%以上のエネルギー効率を示し得る。
【0036】
図3は、閉鎖(enclosed)セルシステム20内の図1の例示的な電池10を例示する概念図である。閉鎖セルシステム20は、動作中、電池10を収容するセル、電池10を作製するために用いられるセルまたはその両方を含み得る。例えば、閉鎖セルシステム20は、Swagelok of Solon、OHからSWAGELOKの販売名で入手できるセルを含み得、電池10を作製するために用いられ得る。一部の例において、閉鎖セルシステム20は、入口管22または出口管24あるいはその両方を含み得る。入口管22および出口管24は、電解質14の酸化性ガスなどの空気または他のガスを、閉鎖セルに導入し、その外へ除去するために用いられ得る。
【0037】
一例において、図3の閉鎖セルシステム20を作製するために、金属ハロゲン化物は、溶媒に溶解されて溶液を形成する。金属ハロゲン化物を溶媒に溶解するために、金属ハロゲン化物は、溶媒に添加され得、一晩軽く撹拌するなど、軽く撹拌され得る。一部の例において、溶媒に溶解された金属ハロゲン化物の溶液は、約0.1M~約20M、約0.5M~約10Mまたは約1M~約5Mの濃度を有する。
【0038】
一部の例において、金属ハロゲン化物は、溶媒に溶解される前に乾燥され得る。乾燥温度または乾燥時間あるいはその両方は、電解質14で用いられる金属ハロゲン化物に基づき選択され得、一部の非限定的な例において、金属ハロゲン化物は、アルゴンを満たしたグローブボックス内のホットプレート上で約120℃で12時間超乾燥され得る。
【0039】
次いで、任意選択のセパレータ18は、例えばディッピングにより電解質溶液に浸される。一部の例において、セパレータ18を溶液に浸すことは、セパレータ18を約1μL/cm~約500μL/cm、約10μL/cm~約250μL/cmまたは約50μL/cm~約100μL/cmの溶液に浸すことを含み得る。
【0040】
次いで、アノード12、溶液に浸された任意選択のセパレータ18および集電体16は、閉鎖セルシステム20内に一緒に積層され得る。一部の例において、積層工程は、アノード12と集電体16の間にセパレータ18を置くことを含み得る。一部の例において、アノード12、溶液に浸されたセパレータ18および集電体16のうちの1つまたは複数は、セパレータ18を溶液に浸す前に積層され得る。例えば、セパレータ18がアノード12上に積層され得、次いで溶液に浸され得る。場合によっては、閉鎖セルシステム20は、積層手順中少なくとも部分的に開放していてもよく、アノード12、溶液に浸されたセパレータ18および集電体16が積層された後、閉鎖セルシステム20は、閉鎖されるかまたは実質的に閉鎖されて、閉鎖されたまたは実質的に閉鎖された体積をアノード12、溶液に浸されたセパレータ18および集電体16の周りに形成し得る。
【0041】
酸化性ガスは、任意選択で、閉鎖セルシステム20内に導入され得る。一部の例において、酸化性ガスは、入口管24から閉鎖セルシステム20内に導入され得る。一部の例において、閉鎖セルシステム20は、酸化性ガスを閉鎖セルシステム20に導入する前、アルゴンなどの不活性ガスを含み得るか、またはその存在下にあり得る。一部のこのような例において、酸化性ガスの導入は、閉鎖セルシステム20内の不活性ガスを酸化性ガスでパージおよび完全に置換し得る。例えば、酸化性ガスは、入口管24から閉鎖セル20に導入され得、不活性ガスは、出口管26を通ってパージされ得る。一部の例において、閉鎖セルシステム20内の酸化性ガスの濃度は、閉鎖セルシステム20内の酸化性ガスおよび不活性ガスの総量などの閉鎖セルシステム20内のガスの総量の約5重量(wt)%~約100wt%、約50wt%~約100wt%または約80wt%~約100wt%であり得る。
次に、本発明を以下の非限定的な実施例に関して記載する。
【実施例
【0042】
(実施例1)
【0043】
多孔性Siの調製
陽極酸化法を、約700ミクロンの厚さのホウ素ドープ(p型)結晶シリコン基板を濃縮HF(49%)の溶液に浸漬することにより行った。次いで、電気バイアスを、同様に溶液中に置かれたPt電極に対する基板に印加する。p型ドープIV族半導体材料層は正極として機能し、Pt電極は負極として作用した。
【0044】
実施例1の陽極酸化法を、約5mA/cmの電流密度で動作する定電流源を利用して行った。実施例1の電流密度を室温(25℃)で約1200秒印加して、表面多孔質領域に約9.3μmの深さの細孔を設けた。陽極酸化法の後、多孔質構造体を脱イオン水でリンスし、次いで乾燥した。
(実施例2)
【0045】
多孔質シリコンのプレリチウム化
直接溶融合金法を利用して、実施例1の多孔質シリコンアノードをプレリチウム化および金属化した。リチウム金属をホットプレート上で160℃~190℃で加熱し、リチウム金属を溶融状態に到達させた。次いで、多孔質シリコンの表面を、溶融されたリチウム金属と約30秒間密接に接触させた。その後、未反応のLi金属を多孔質シリコンの表面から除去した。
【0046】
該方法により、図4(A)に示すように非常に滑らか(<5オングストロームの二乗平均平方根粗さ)で平面状のリチウム化表面が形成された。図4(A)において、多孔質シリコンと結晶シリコンとの対比が、約9.3μmの多孔質シリコン領域を例示するスケールバーでハイライト表示されている。図4(A)の表面領域(破線の枠)の拡大構造が図4(B)に示されており、約16nmの主にリチウム金属を含有する層が視認できる。
【0047】
SEM(二次電子顕微鏡)断面の色の対比から分かるように、Liに富む表面領域より下方の深さでリチウムの濃度の低下が見られた。Liに富む表面、多孔質Siおよび多孔質Siの直下の結晶Siを含むすべての領域を、結晶シリコン基板に電気的、物理的および化学的に接続し一体化した。
(実施例3)
【0048】
電解質の調製およびセルの組み立て
ヨウ化リチウム(LiI)をバイアルに置き、アルゴンを満たしたグローブボックス(<0.1ppmのHOおよびO)内のホットプレート上で120℃で1時間乾燥した。3-メトキシプロピオニトリル(MPN)を分子篩(3Å)で一晩精製した。1Mの乾燥LiIをMPNに添加および溶解し、一晩軽く撹拌した。
【0049】
上の実施例1~2に記載されるように、多孔質シリコンアノードを、結晶シリコンウェハの化学エッチング法およびその後のプレリチウム化により調製した。ウェハ中の多孔質領域の深さを、エッチング時間の量により決定した。
【0050】
得られた溶液を使用して、金属化された多孔質シリコンアノードの上部に存在するセパレータを浸し、カソード集電体をセパレータの上部に置いた。カソード集電体は、多孔質炭素およびポリマーバインダを約8:1の重量比で含んでいた。
【0051】
電解質溶液で濡らしたセパレータを、多孔質シリコンアノードとカソード集電体の間に置き、多孔質シリコンアノードとカソード集電体の両方に接触させた。多孔質シリコンアノード、電解質溶液で濡らしたセパレータおよびカソード集電体を含むセル構成要素でのセルの組み立てを、アルゴンを満たしたグローブボックス(<0.1ppmのHOおよびO)内で行った。すべてのセル構成要素を、ガス流のための入口管と出口管の両方を備えるSwagelok型セル内に置いた。
(実施例4)
【0052】
多孔質シリコンアノードを有する再充電可能なヨウ化リチウム電池
(エッチング時間:500秒)
図5は、5mA/cmの電流密度での比容量に対する、多孔質シリコンアノードを有する再充電可能なヨウ化リチウム電池のサイクル数のプロットである。エッチング時間は500秒と記録され、これは上述したように、結晶シリコンアノードで形成された多孔質領域の深さを決定し、エッチング時間の増加は、多孔質領域においてより深い細孔を提供する。比放電容量は、第1のサイクルでは約0.7mAh/cmから開始し、次のサイクルでは約1.0mAh/cmまで増加し、約50回目のサイクルまで続いた。
(実施例5)
【0053】
多孔質シリコンアノードを有する再充電可能なヨウ化リチウム電池
(エッチング時間:1200秒)
図6は、5mA/cmの電流密度での比容量に対する、多孔質シリコンアノードを有する再充電可能なヨウ化リチウム電池のサイクル数のプロットである。エッチング時間は1200秒と記録された。比放電容量は、第1のサイクルで約0.5mAh/cmから開始し、次のサイクルでは約1.0mAh/cmまで増加し、約250回目のサイクルまで続いた。
(実施例6)
【0054】
多孔質シリコンアノードを有する再充電可能なヨウ化リチウム電池
(エッチング時間:2400秒)
図7は、5mA/cmの電流密度での比容量に対する、多孔質シリコンアノードを有する再充電可能なヨウ化リチウム電池のサイクル数のプロットである。エッチング時間は2400秒と記録された。比放電容量は、第1のサイクルで約0.5mAh/cmから開始し、次のサイクルでは約1.0mAh/cmまで増加し、約500回目のサイクルまで続いた。
【0055】
比較例1
非多孔質シリコンアノードを有する再充電可能なヨウ化リチウム電池
図8は、5mA/cmの電流密度での比容量に対する、裸の(非多孔質)シリコンアノードを有する再充電可能なヨウ化リチウム電池のサイクル数のプロットである。エッチング時間は、アノードが多孔質領域を含んでいないこと示す0秒と記録された。裸の(非多孔質)シリコンアノードを上の実施例4~6に記載したのと同じ方法でプレリチウム化した。比放電容量は、第1のサイクルで約0.6mAh/cmから開始し、次のサイクルでは約0.9mAh/cmまで増加し、約20回目のサイクルまで続いた。
【0056】
様々な実施形態が本明細書に記載される。これらおよび他の実施形態は、以下の請求項の範囲内である。
【0057】
本発明の好ましい実施形態において、電池であって、(a)充電中、金属イオンを電解質から取り込み、放電中、イオンを電解質に解放するアノードであって、前記アノードが少なくとも0.5ミクロンの深さの細孔を有する多孔質シリコンを含む、前記アノードと;(b)電池のための活性材料として機能する金属ハロゲン化物および導電性材料を含むカソードであって、金属ハロゲン化物中の金属が、Li、Na、Mg、ならびにこれらの混合物および組合せからなる群から選択され、ハロゲン化物がI-、Br-、Cl-、F-、ならびにこれらの混合物および組合せからなる群から選択される、前記カソードと;(c)電解質であって、前記電解質がニトリル化合物を含む溶媒を含む、前記電解質とを含む、電池が提供される。好ましくは、電池は、アノードとカソードの間のセパレータをさらに含む。電解質は、エーテル、グリム、カーボネート、アミド、アミン、有機硫黄溶媒、有機リン溶媒、有機シリコン溶媒、フッ化溶媒、複素環溶媒、ならびにこれらの混合物および組合せからなる群から選択される溶媒を好ましくは含む。電池は、空気、酸素、一酸化窒素、二酸化窒素、ならびにこれらの混合物および組合せからなる群から選択される酸化性ガスを好ましくは含む。電池は、活性カソード材料として機能する金属ハロゲン化物に加えて第2のカソードを好ましくは含む。アノードは、細孔を覆う金属層を好ましくは含む。金属層は、約5オングストローム未満のRMS表面粗さを好ましくは有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8