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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】スピーカ
(51)【国際特許分類】
   H04R 9/02 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
H04R9/02 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021135710
(22)【出願日】2021-08-23
(65)【公開番号】P2023030533
(43)【公開日】2023-03-08
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】戸板 大樹
【審査官】稲葉 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-308174(JP,A)
【文献】特開昭53-144723(JP,A)
【文献】特開2018-163023(JP,A)
【文献】特開平7-264696(JP,A)
【文献】特開2001-78294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 9/00-9/18、31/00
H04R 3/00-3/14
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と前記振動板に固定されたボビンおよび前記ボビンに設けられたボイスコイルを有する振動部と、前記振動部を振動自在に支持する支持部と、前記支持部に含まれる磁気回路部と、を有するスピーカにおいて、
前記磁気回路部は、内部に前記ボイスコイルが位置する磁気ギャップと、前記磁気ギャップの内側に位置する内側ヨークと、前記磁気ギャップを横断し前記内側ヨーク内で前記振動部の振動方向に沿って流れる駆動磁束を形成する固定磁石と、を有し、
前記振動部に、前記振動方向と交差する向きの可動磁束を形成する可動磁石が固定され、前記振動方向に垂直な平面で見たときに、前記磁気ギャップよりも内側に位置する磁気センサが、前記支持部に固定されており、
前記磁気センサで、前記磁気回路部からの漏れ磁束に基づいて前記振動方向に作用する固定磁場成分と、前記可動磁束に基づいて前記固定磁場成分と交差する方向に作用する可動磁場成分とが検知され、前記可動磁束成分の強度変化に基づいて前記振動部の動作が測定されることを特徴とするスピーカ。
【請求項2】
前記磁気センサで、2方向からの前記磁場成分の合成ベクトルの向きが検知される請求項1記載のスピーカ。
【請求項3】
前記磁気センサで、2方向からの前記磁場成分の強度の比が検知される請求項1記載のスピーカ。
【請求項4】
前記内側ヨークに、前記振動方向に沿う中心穴が形成されており、前記振動方向と垂直な平面で見たときに、前記磁気センサが前記中心穴の領域内に位置している請求項1ないし3のいずれかに記載のスピーカ。
【請求項5】
前記内側ヨークにセンサ支持部材が固定され、前記磁気センサが前記センサ支持部材に支持されており、前記磁気センサに導通する配線材が前記中心穴内を経て外部に延びている請求項4記載のスピーカ。
【請求項6】
前記センサ支持部材で前記中心穴が塞がれている請求項5記載のスピーカ。
【請求項7】
前記振動部に、前記ボビンを前記振動板の側から塞ぐキャップが設けられ、前記キャップに前記可動磁石が固定されている請求項1ないし6のいずれかに記載のスピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動板を含む振動部の動作を磁気センサで高精度に測定することができるスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
音響装置における従来のスピーカは、アンプから出力されるオーディオ信号をそのまま受け入れて音圧を再生する処理を行うだけであり、スピーカ自らがオーディオ信号に合わせた制御動作を行っていなかった。そのため、発音に歪が発生しやすく、音質のばらつきが生じやすかった。さらには、振動板の振幅が過大になったときに、振動板やダンパーなどが破損することもあった。
【0003】
上記の問題を解決するために、特許文献1には、磁気センサによって振動板の動きを検知してフィードバック制御を行うスピーカシステムが記載されている。
【0004】
このスピーカシステムは、磁気回路部を構成するプレートを有し、このプレートにおけるボイスコイルとの対向部に磁気センサであるホール素子が支持されている。磁気回路部のギャップ内の有効磁束密度がホール素子により検出され、その検出信号が増幅されてパワーアンプにフィードバックされる。パワーアンプからボイスコイルに駆動電流が与えられボイスコイルとともにボビンが振動すると、ギャップ内の有効磁束密度が、ボイスコイルに流れる電流およびボイスコイルに生じる逆起電力によって変化する。この有効磁束密度の変化をホール素子で検知しパワーアンプにフィードバックすることで、ボイスコイルに与えられる駆動電流の歪分が補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭57-184397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたスピーカシステムのフィードバック制御には、検知素子として光学検知素子やコイルなどよりも小型の素子であるホール素子が使用されているため、スピーカの寸法が過大になるのを防止でき、消費電力が増大するのも防止することができる。しかしながら、磁気回路部のギャップの有効磁束密度の変化をホール素子で検出する方式は、ボイスコイルやボビンの動きを直接に検知できないため、音の歪や音質のばらつきなどを高精度に補正することが難しい。
【0007】
また、特許文献1のスピーカシステムは、プレートにおけるボイスコイルとの対面部にホール素子を埋め込む構造であるため、ホール素子の取付け構造が複雑であり、組み立て作業も非効率的である。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、2方向の磁場成分を検知する磁気センサを用いて振動部の振動を高精度に検知することができるスピーカを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、振動板と前記振動板に固定されたボビンおよび前記ボビンに設けられたボイスコイルを有する振動部と、前記振動部を振動自在に支持する支持部と、前記支持部に含まれる磁気回路部と、を有するスピーカにおいて、
前記磁気回路部は、内部に前記ボイスコイルが位置する磁気ギャップと、前記磁気ギャップの内側に位置する内側ヨークと、前記磁気ギャップを横断し前記内側ヨーク内で前記振動部の振動方向に沿って流れる駆動磁束を形成する固定磁石と、を有し、
前記振動部に、前記振動方向と交差する向きの可動磁束を形成する可動磁石が固定され、前記振動方向に垂直な平面で見たときに、前記磁気ギャップよりも内側に位置する磁気センサが、前記支持部に固定されており、
前記磁気センサで、前記磁気回路部からの漏れ磁束に基づいて前記振動方向に作用する固定磁場成分と、前記可動磁束に基づいて前記固定磁場成分と交差する方向に作用する可動磁場成分とが検知され、前記可動磁束成分の強度変化に基づいて前記振動部の動作が測定されることを特徴とするものである。
【0010】
本発明のスピーカは、前記磁気センサで、2方向からの前記磁場成分の合成ベクトルの向きが検知される。あるいは、前記磁気センサで、2方向からの前記磁場成分の強度の比が検知される。
【0011】
本発明のスピーカは、前記内側ヨークに、前記振動方向に沿う中心穴が形成されており、前記振動方向と垂直な平面で見たときに、前記磁気センサが前記中心穴の領域内に位置していることが好ましい。
【0012】
本発明のスピーカは、前記内側ヨークにセンサ支持部材が固定され、前記磁気センサが前記センサ支持部材に支持されており、前記磁気センサに導通する配線材が前記中心穴内を経て外部に延びているものである。
【0013】
本発明のスピーカは、前記センサ支持部材で前記中心穴が塞がれている構造とすることができる。
【0014】
本発明のスピーカは、前記振動部に、前記ボビンを前記振動板の側から塞ぐキャップが設けられ、前記キャップに前記可動磁石が固定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスピーカは、支持部に固定された磁気センサによって、磁気回路部からの漏れ磁束である固定磁場成分と、振動部とともに移動する可動磁石からの可動磁場成分の、互いに交差する2方向の磁場成分が検知される。例えば、2つの磁場成分の合成ベクトルの向きの変化が求められ、あるいは、2つの磁場成分の相対値が求められることにより、周囲のノイズに影響を受けることなく、振動部の動作を高精度に測定することができる。この測定に基づいて、振動部の動作を補正する高精度なフィードバック制御を行なうことが可能になる。
【0016】
前記固定磁場成分は、磁気回路部の内側ヨークから漏れ出た振動方向に沿う向きの磁場成分である。磁気センサを、平面視で磁気ギャップよりも内側に配置し、好ましくは平面視で内側ヨークの中心穴に位置させる。これにより、磁気回路部から漏れ出た振動方向に沿う向きの安定した強度の固定磁場成分を検知することができ、磁気センサから安定した検知出力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(A)は、本発明の第1実施形態のスピーカを、X-Z平面と平行で且つ中心軸Oを含む切断面で断面した半断面斜視図、(B)は、磁気センサに作用する2つの磁場成分を説明する部分斜視図、
図2】前記第1実施形態のスピーカの変形例を示す、X-Z平面と平行で且つ中心軸Oを含む切断面で断面した断面図、
図3】本発明の第2実施形態のスピーカを示す、X-Z平面と平行で且つ中心軸Oを含む切断面で断面した断面図、
図4】本発明の第3実施形態のスピーカを示す、X-Z平面と平行で且つ中心軸Oを含む切断面で断面した断面図、
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1(A)に示される本発明の第1実施形態のスピーカ1はZ1―Z2方向が前後方向であり、Z1方向が前方でZ2方向が後方である。Z1-Z2方向は振動部の振動方向である。スピーカ1は、振動部の振動によりZ1方向が発音方向として使用されることもあるし、Z2方向が発音方向として使用されることもある。
【0019】
図1(A)には、前後方向(Z1-Z2方向)に延びる中心軸Oが示されている。スピーカ1の主要部は、中心軸Oを中心とするほぼ回転対称な構造である。中心軸Oは、振動板3の中心とボビン6の中心および磁気回路部10の中心を通過している。図1(A)には、中心軸Oと直交する平面において互いに直交するX1-X2軸とY1-Y2軸が示されている。
【0020】
図1(A)に示されるスピーカ1はフレーム2を有している。フレーム2は、非磁性材料または磁性材料で形成されており、前方(Z1方向)に向けて直径が徐々に広がるテーパ形状である。フレーム2の後方(Z2方向)に磁気回路部10が接着やねじ止めなどの手段で固定されている。フレーム2と磁気回路部10とで「支持部」が構成されている。
【0021】
磁気回路部10は、中心軸Oを中心とするリング状の固定磁石11と、固定磁石11の前方に接合されたリング状の対向ヨーク12と、固定磁石11の後方に接合された後方ヨーク13を有している。後方ヨーク13には内側ヨーク14が一体に形成されている。内側ヨーク14は、固定磁石11と対向ヨーク12の内側に位置し、後方ヨーク13から前方(Z1方向)に隆起して形成されている。なお、内側ヨーク14が後方ヨーク13と別体に形成され、後方ヨーク13と内側ヨーク14とが接合されていてもよい。対向ヨーク12と後方ヨーク13および内側ヨーク14は、磁性材料すなわち磁性金属材料で形成されている。
【0022】
内側ヨーク14の外周面と、対向ヨーク12の内周面との間に、中心軸Oを中心とする円周に沿って磁気ギャップGが形成されている。内側ヨーク14は磁気ギャップGの内側に位置している。図1(A)に示される実施形態では、磁気ギャップGの外側に位置する固定磁石11の前方(Z1方向)に向く面がN極に着磁され、後方(Z2方向)に向く面がS極に着磁されている。そのため、固定磁石11から発せられた駆動磁束Φ1は、対向ヨーク12内を中心軸Oに向かって流れ、磁気ギャップGを横断する。磁気ギャップGを横断した駆動磁束Φ1は、内側ヨーク14内で中心軸Oに沿う方向、すなわち振動部の振動方向に沿ってZ2方向に流れ、後方ヨーク13を経て固定磁石11に戻るように周回する。なお、磁気回路部10は、固定磁石11の後方(Z2方向)に向く面がN極で前方(Z1方向)に向く面がS極となるように着磁されていてもよい。
【0023】
フレーム2の前方部分の内側に振動板3が設けられている。振動板3は円錐状のいわゆるコーン形状である。フレーム2の前端周囲部2aと振動板3の外周端3aは、弾性変形可能なエッジ部材4を介して接合されている。エッジ部材4と前端周囲部2aおよびエッジ部材4と外周端3aは接着剤で固定されている。フレーム2の中腹部の内面に内周固定部2bが形成されており、断面がコルゲート形状の弾性変形可能なダンパー部材5の外周部5aが内周固定部2bに接着剤により固定されている。
【0024】
フレーム2の内部にボビン6が設けられている。ボビン6は、中心軸Oを中心とする円筒形状である。振動板3の内周端3bはボビン6の外周面に接着剤で固定されており、ダンパー部材5の内周部5bも接着剤によってボビン6の外周面に固定されている。振動板3の中心部には前方に向けて隆起するドーム形状のキャップ8が設けられている。キャップ8は、ボビン6の前方の開口部を覆って塞いでおり、キャップ8の周縁部8aが振動板3の前面に接着剤を介して固定されている。
【0025】
ボビン6の後方(Z2方向)に向く後端部では、その外周面にボイスコイル7が設けられている。ボイスコイル7を構成する被覆導線は、ボビン6の外周面において所定のターン数で巻かれている。ボイスコイル7は、磁気回路部10の磁気ギャップG内に位置している。磁気回路部10とボイスコイル7とで、「磁気駆動部」が構成されている。
【0026】
振動板3とボビン6は、弾性支持部材であるエッジ部材4およびダンパー部材5の弾性変形により、フレーム2に対して(「支持部」に対して)前後方向(Z1-Z2方向)に振動自在に支持されている。振動板3とキャップ8およびボビン6とボイスコイル7が、フレーム2を含む「支持部」に対して前後方向に振動する「振動部」を構成している。また、エッジ部材4およびダンパー部材5のうちの振動板3と共に前後に振動する部分も、「振動部」の一部を構成している。
【0027】
スピーカ1に、振動部の振動を検知する検知部(振動検知部)が設けられている。検知部は、前記磁気回路部10と、可動部に向けられて振動板3と一緒に振動する可動磁石22と、支持部側に固定された磁気センサ21とで構成されている。
【0028】
図1(A)に示されるように、磁気回路部10では、内側ヨーク14に中心穴15が形成されている。中心穴15は中心軸Oが中心に位置する断面が円形の穴であり、内側ヨーク14を前後に貫通して形成されている。中心穴15にセンサ支持部材26が嵌着されている。センサ支持部材26は、合成樹脂材料や合成ゴムなどの非磁性材料で形成されている。センサ支持部材26の前端部には保護キャップ23が固定されている。保護キャップ23は非磁性金属材料や合成樹脂材料などの非磁性材料で形成されている。センサ支持部材26と保護キャップ23との間に密閉された支持空間が形成されている。支持空間では、センサ支持部材26と一体に形成された支持突部26bに回路基板24が固定されており、この回路基板24に磁気センサ21が実装されている。回路基板24には、配線材25が接続され、回路基板24の表面に形成された導体パターンによって、配線材25と磁気センサ21の端子部21a(図1(B)参照)とが導通されている。配線材25は、センサ支持部材26の内部を通って、中心穴15内を通過し、スピーカ1の後方の空間に延び出ている。
【0029】
センサ支持部材26と保護キャップ23ならびに回路基板24と磁気センサ21および配線材25は、予め組み立ててユニット化しておくことが可能である。ユニット化された状態で、保護キャップ23を前方に向け、後方から中心穴15の内部に挿入し、センサ支持部材26の後端に形成されたフランジ部26aを後方ヨーク13の後面13aに突き当てることで、磁気センサ21と配線材25を、支持体の一部である磁気回路部10の内部に位置決めして組み付けることができる。センサ支持部材26は、中心穴15の内部に圧入されて磁気回路部10に固定される。あるいはセンサ支持部材26は接着やねじ止めなどの固定手段により磁気回路部10に固定される。仮に磁気センサ21や回路基板24などが故障した場合でも、振動部や支持部を分解することなく、ユニット化されたセンサ支持部材26および磁気センサ21を中心穴15から後方へ抜き出すことができるので、メンテナンス作業を容易に行うことができる。
【0030】
図1(A)に示されるように、キャップ8の中心部に磁石支持部材27が固定されている。磁石支持部材27は、前端に固定部27aが形成され、固定部27aがキャップ8に接着されて固定されている。磁石支持部材27は、キャップ8からボビン6の内側空間に向けて後方(Z2方向)に延びている。磁石支持部材27の後部に可動磁石22が接着されて固定されている。可動磁石22はほぼ中心軸O上に位置している。
【0031】
可動磁石22は、Y1側に向く面がN極でY2側に向く面がS極となるように着磁されている。よって、可動磁石22から出る可動磁束Φ2の向きはY1方向である。磁気回路部10では、内側ヨーク14内を流れる駆動磁束Φ1の向きが振動部の振動方向である前後方向(Z1-Z2方向)すなわち中心軸Oに沿う方向である。可動磁石22の着磁方向および可動磁石22から出る可動磁束Φ2の向きと、内側ヨーク14内に流れる駆動磁束ΦF1とは互いに交差し、好ましくは直交している。
【0032】
図1に示される実施形態では、磁気センサ21の中心と可動磁石22の中心が、共に中心軸O上に位置している。また、可動磁石22は、振動部が前後方向に最大振幅で動作したときに、保護キャップ23に当たらないように、保護キャップ23から前方に距離を空けて配置されている。
【0033】
振動部の振動方向に垂直な平面、すなわち中心軸Oと垂直な平面で見たときに、磁気センサ21は、磁気ギャップGよりも内側でボビン6やボイスコイル7よりも内側に位置している。図1(B)に示されるように、磁気センサ21には、磁気回路部10からの漏れ磁束に基づく固定磁場成分H1と、可動磁石22で生成される可動磁束Φ2に基づく可動磁場成分H2が作用する。内側ヨーク14内で駆動磁束Φ1が中心軸Oに沿ってZ2方向に流れているため、磁気センサ21には、固定磁束Φ1の漏れ磁束により固定磁場成分H1がZ2方向に作用する。可動磁石22の着磁方向はY方向であり、可動磁石21のN極からY1方向に出た可動磁束Φ2が空間を周回して可動磁石22のS極に戻るため、磁気センサ21には、可動磁束Φ2に基づく可動磁場成分H2がY2方向に作用する。固定磁場成分H1の強度はZ2方向に向くベクトル量であり、可動磁場成分H2の強度はY2方向に向くベクトル量である。磁気センサ21に作用する固定磁場成分H1の強度は実質的に一定であるが、可動磁場成分H2の強度は振動部の振動に応じて変化する。
【0034】
磁気センサ21は、中心軸Oを含むY-Z平面において、ベクトル量である2つの磁場成分H1,H2を検知することができる。磁気センサ21は、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子を有している。磁気抵抗効果素子は、固定磁性層とフリー磁性層を有するGMR素子またはTMR素子である。固定磁性層の磁化の向きはY-Z平面内の所定の方向で、例えばY2方向に向けて固定されている。フリー磁性層はバイアス磁界により単磁区化され、フリー磁性層の磁化の向きは、外部から作用する磁場の向きに追従して、Y-Z平面内で変化する。磁気抵抗効果素子は、固定磁性層の磁化の向きとフリー磁性層の磁化との向きとの相対角度の変化に応じて電気抵抗値が変化する。
【0035】
図1(B)に示されるように、磁気センサ21には、Z2方向に向くベクトル量である固定磁場成分H1とY2方向に向くベクトル量である可動磁場成分H2が作用するため、磁気抵抗効果素子のフリー層の磁化の向きは、固定磁場成分H1と可動磁場成分H2とのベクトル和である検知磁場成分Hdの向きに追従する。振動部に固定された可動磁石22が前方(Z1方向)へ移動して磁気センサ21から遠ざかると、磁気センサ21に作用する可動磁場成分H2の強度が低下するため、固定磁性層の磁化方向であるY2方向に対する検知磁場成分Hdのベクトルの角度θが大きくなり、磁気抵抗効果素子の電気抵抗が増加する。可動磁石22が後方(Z2方向)に移動して磁気センサ21に接近すると、可動磁場成分H2の強度が増加するため、検知磁場成分Hdのベクトルの角度θが小さくなり、磁気抵抗効果素子の電気抵抗が低下する。
【0036】
また、磁気センサ21として、ホール素子などの指向性を有する2個の検知素子が、Y-Z面内でその検知方向を交差させ、好ましくは直交させて配置されたものを使用してもよい。この磁気センサ21では、Z軸方向に指向性を有する一方の検知素子で、固定磁場成分H1の強度が検知され、Y軸方向に指向性を有する他方の検知素子で、可動磁場成分H2の強度が検知される。図示しない検知回路において、ほぼ一定値である固定磁場成分H1の強度と、可動部の振動に応じて変化する可動磁場成分H2の強度との比を求めることにより、検知磁場成分Hdのベクトルの角度θの変化を求めるのと同等の検知出力を得ることができる。
【0037】
次に、スピーカ1の発音動作を説明する。
発音動作では、オーディオアンプから出力されたオーディオ信号に基づいてボイスコイル7に駆動電流が与えられる。磁気回路部10から発せられる駆動磁束Φ1がボイスコイル7を横断するため、駆動磁束Φ1と駆動電流とで励起される電磁力により、振動板3およびボビン6とボイスコイル7を含む振動部が前後方向に振動して、駆動電流の周波数に応じた音圧が発生し、前方(Z1方向)または後方(Z2方向)に向けて音が発せられる。
【0038】
スピーカ1に併設された回路部は検知回路と制御部とを構成しており、磁気センサ21の検知出力が検知回路で検知されて制御部に与えられる。制御部では、磁気センサ21からの検知出力に基づいてフィードバック制御が行われる。磁気センサ21によって検知磁場成分Hdのベクトルの角度θの変化を検知することにより、制御部では、振動板3を含む振動部の前後方向の位置およびその変化を測定することができる。例えば、制御部では、オーディオ信号の印加により想定される振動部の前後方向の理想的な位置およびその変化と、磁気センサ21の検知出力から測定される振動部の実際の位置およびその変化とのずれ量が演算される。ずれ量がしきい値を超えたら、ずれ量を補正する補正信号(オフセット信号)が駆動信号(ボイス電流)に重畳されてボイスコイル7に与えられる。このフィードバック制御により、スピーカ1による発音の歪みや音ずれなどが補正され、さらには、振動板3が前後方向に過振動するのが防止される。
【0039】
磁気センサ21は、ほぼ一定値である固定磁場成分H1の強度を基準として、可動磁場成分H2の強度の変化を測定し、合成ベクトルである検知磁場成分Hdの傾きの変化が検知され、または固定磁場成分H1の強度と可動磁場成分H2の強度の比が検知される。ほぼ一定値である固定磁場成分H1の強度を基準としているため、外部からのノイズの影響を受けにくく、振動部の位置および動作を精度よく測定することができる。また、本来は検知動作にノイズを与えかねない磁気回路部10からの漏れ磁束を検知動作のために利用し、この漏れ磁束を基準となる固定磁場成分H1として検知しているため、外部ノイズの影響を受けにくく、常に高精度で高感度のフィードバック制御を行なうことができる。
【0040】
振動方向に垂直な平面、すなわち中心軸Oに垂直な平面(X-Y平面)で検知部の構造を見たとき、あるいはX-Y平面に投影して検知部の構造を見たときに、磁気センサ21が、磁気ギャップGよりも中心軸Oに近い内側に位置している。図2以下に示される実施形態からも明らかなように、内側ヨーク14は、X1-X2方向の厚さ寸法(半径方向の厚さ寸法)よりも、Z1-Z2方向の長さ寸法の方が大きくなっており、内側ヨーク14の内部では、駆動磁束Φ1の経路長が、X1方向(中心軸Oに向かう方向)で短く、Z2方向で長くなっている。そのため、磁気ギャップGよりも内側では、磁気回路部10からの漏れ磁束の密度が、X1方向よりもZ2方向で比較的大きくなり、また安定している。基準値となる固定磁場成分H1の強度が大きく安定しているため、ノイズの影響を受けにくく安定した検知出力を得ることができる。
【0041】
特に、X-Y平面で見たときに、またはX-Y平面に投影したときに、磁気センサ21が内側ヨーク14の中心穴15の範囲内に位置していると、磁気センサ21が設けられた領域での漏れ磁束のZ1方向の磁束密度を高くでき、磁気センサ21で検知する固定磁場成分H1の検知強度を安定させることができる。さらに、図1(A)に示される実施形態では、磁気センサ21が、前後方向においても、中心穴15の内部に位置し、さらに中心穴15の中心に位置する中心軸O上に位置している。中心穴15の内部で、さらに中心軸O付近では、Z1方向の漏れ磁束の密度が高くなるため、磁気センサ21で検知される固定磁場成分H1の強度が安定する。固定磁場成分H1の強度を安定して検知できるため、固定磁場成分H1と可動磁場成分H2の相対的な強度比を、低ノイズで検知できるようになる。
【0042】
図2に本発明の第1実施形態のスピーカ1の変形例が示されている。このスピーカ1は、キャップ108が図1(A)に示されたキャップ8と相違している。キャップ108は合成樹脂材料などで形成されており、ボビン6の前方(Z1方向)に向く端部に嵌着され、接着剤などで固定されている。キャップ108に、磁石支持部材127が一体に形成されており、磁石支持部材127に可動磁石22が固定されている。
【0043】
図2に示されるスピーカ1は、組立作業の最終段階で、キャップ108と可動磁石22をボビン6の前方の端部に簡単に固定することができる。そのため、フレーム2に磁気回路部10を固定し、さらに振動板3とエッジ部材4およびボビン6とボイスコイル7を組み込み、キャップ108を取付ける前に、磁気回路部10の固定磁石11を着磁する作業を行い、その後に、キャップ108と可動磁石22を簡単に取り付けることができる。この組み立て作業では、固定磁石11の着磁作業に使用される着磁磁場によって可動磁石22の着磁状態が影響を受けることがなくなる。
【0044】
図3に示される本発明の第2実施形態のスピーカ101では、内側ヨーク14に形成された中心穴15の前方(Z1方向)の端部にセンサ支持部材126が嵌着されて固定されている。回路基板24と磁気センサ21は、センサ支持部材126の前方に固定されている。振動部の振動方向である前後方向に垂直なX-Y平面で見たときに、またはX-Y平面に投影したときに、磁気センサ21は中心穴15の領域内に位置し、ほぼ中心軸O上に位置している。ただし、磁気センサ21は中心穴15の内部ではなく、中心穴15よりも前方の空間内に位置している。
【0045】
このスピーカ101においても、X-Y平面で見たときに、またはX-Y平面に投影したときに、磁気センサ21が中心穴15の領域内に位置し、ほぼ中心軸O上に位置しているため、磁気センサ21で検知する固定磁場成分H1を強い磁場として安定して検知することができる。
【0046】
また、図1(A)と図2に示されるセンサ支持部材26または図3に示されるセンサ支持部材126は、内側ヨーク14の中心穴15を塞いでいるため、内側ヨーク14の前端とキャップ8,108とで挟まれた空間への埃や水分の浸入を防止できるようになる。
【0047】
図4に示される本発明の第3実施形態のスピーカ201では、センサ支持部材226が、内側ヨーク14の中心穴15の縁部に固定されており、センサ支持部材226に支持された磁気センサ21が、中心軸Oから半径の外側に偏った位置に配置されている。ボビン6の前方の端部がキャップ208で塞がれ、キャップ208に一体に形成された磁石支持部材227に可動磁石22が支持されている。可動磁石22も中心軸Oから半径の外側に離れて位置している。ただし、磁気センサ21と可動磁石22は中心軸Oと平行な同じ軸上に位置していることが好ましい。
【0048】
このスピーカ201においても、X-Y平面で見たときに、またはX-Y平面に投影したときに、磁気センサ21が中心穴15の領域内に位置しているため、磁気センサ21で検知する固定磁場成分H1を強い磁場として安定して検知することができる。
【符号の説明】
【0049】
1,101,201 スピーカ
2 フレーム
3 振動板
6 ボビン
7 ボイスコイル
10 磁気回路部
11 固定磁石
12 対向ヨーク
13 後方ヨーク
14 内側ヨーク
15 中心穴
21 磁気センサ
22 可動磁石
26,126,226 センサ支持部材
Φ1 駆動磁束
Φ2 可動磁束
H1 固定磁場成分
H2 可動磁場成分
Hd 検知磁場成分
O 中心軸
図1
図2
図3
図4