IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 関西ペイント株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】防食塗料組成物及び湿潤面防食塗装方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20241210BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20241210BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20241210BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241210BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20241210BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/08
C09D7/63
C09D7/61
C09D7/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020042404
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021143270
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(72)【発明者】
【氏名】志村 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】佐野 真
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-124665(JP,A)
【文献】特開2016-065118(JP,A)
【文献】特開2018-065929(JP,A)
【文献】特開2019-196417(JP,A)
【文献】特開昭60-260620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,
101/00-201/10
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、顔料(B)、ポリアミン化合物(C)及び有機溶剤(D)を含み、不揮発分が60~99質量%の範囲内、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対するポリアミン化合物(C)の活性水素当量比が0.4~3.0の範囲内であり、
顔料(B)が、その成分の一部として、タルク及びガラスフレークを含む燐片状顔料を含み、
ガラスフレークの使用量がエポキシ樹脂(A)の不揮発分質量100質量部を基準として0を超えて59.9質量部未満であり、
ポリアミン化合物(C)が、水及びアセトン等量混合液に対し非相溶性であり、活性水素当量が126以上且つ500以下であり、
有機溶剤(D)が、労働安全衛生法の第3種に規定される有機溶剤(D1)を40質量%以上含有し、労働安全衛生法の第2種有機溶剤に規定される有機溶剤(D2)を全く含まないか、含む場合は有機溶剤(D2)のうちいずれか1種の有機溶剤の含有量が有機溶剤(D)中5.0質量%未満であり、有機溶剤(D2)が複数の併用物である場合は、複数の有機溶剤(D2)の個々の含有量が、いずれも有機溶剤(D)中に5質量%未満であり、
有機溶剤(D1)が、ガソリン、コールタールナフサ、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレビン油、ミネラルスピリツト、およびこれらの組み合わせから選ばれる少なくとも1種であり、
有機溶剤(D2)が、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール、エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、オルト‐ジクロルベンゼン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル、酢酸エチル、酢酸ノルマル-ブチル、酢酸ノルマル-プロピル、酢酸ノルマル-ペンチル、酢酸メチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、N・N‐ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、トリクロルエタン、トルエン、ノルマルヘキサン、1-ブタノール、2-ブタノール、メタノール、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチル-ノルマル-ブチルケトン、及びこれらの組み合わせから選ばれる少なくとも1種である、湿潤面用の防食塗料組成物。(ただし、塗料組成物の100質量部に対して硫酸第一スズの含有量が2.0~8.0質量部であるものを除く)
【請求項2】
エポキシ樹脂(A)が、数平均分子量900以上の変性エポキシ樹脂である、請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項3】
顔料(B)が、その成分の一部として防錆顔料を含む、請求項1または2に記載の防食塗料組成物。
【請求項4】
さらにシランカップリング剤を含む、請求項1ないしのいずれか1項に記載の防食塗料組成物。
【請求項5】
塗料形態が、エポキシ樹脂(A)及び顔料(B)を含む主剤成分と、ポリアミン化合物(C)を含む硬化剤成分とからなり、主剤成分及び/又は硬化剤成分が有機溶剤(D)を含む2成分系の組成物である、請求項1~のいずれか1項に記載の防食塗料組成物。
【請求項6】
塗料形態が、エポキシ樹脂(A)及び顔料(B)を含む主剤成分と、ポリアミン化合物(C)を含む硬化剤成分とからなり、主剤成分及び/又は硬化剤成分が有機溶剤(D)を含み、主剤成分及び/又は硬化剤成分がシランカップリング剤を含む2成分系の組成物である、請求項に記載の防食塗料組成物。
【請求項7】
湿潤面に、請求項1~のいずれか1項に記載の防食塗料組成物を塗装する、湿潤面防食塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤面に適した防食塗料組成物及び防食塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高度経済成長期に建設された石油プラットフォーム又は石油リグ、桟橋、海上空港などのいわゆる海洋構造物の防食塗装は経年劣化により補修時期を迎えている。しかしながらこれら海洋構造物は設置区域からの移動が不可能であるため、海洋環境下で塗装作業を行わなければならない。通常、海中にある基材に塗装された塗膜は水流や水圧が大きくかかることによって塗膜剥離が起きやすい。このため、海中にある基材の補修塗装を行うときには、粘度が極めて高い塗料組成物をコテやヘラを使ったしごき塗りを行っている。
【0003】
海中塗装に用いる塗料組成物として特許文献1には、液状エポキシ樹脂、ポリアミン硬化剤および固体プロトン供与体を含む海中鋼材構造物用塗料組成物が開示されている。
【0004】
かかる塗料組成物によれば、塗料粘度が高いために海中での塗装作業性に優れ、造膜後の基材に対する付着性にも優れるものであるが、スプレー及び刷毛を使った塗装あるいは狭隙部や凹凸を有する基材への塗装が困難であるという問題がある。
【0005】
一方、海中構造物の塗装部位としては、常に海中に浸漬している領域である海中部、潮の干満により海水への浸せきと露出を繰り返す領域である干満部、常に大気中に露出して波しぶきのかかる領域である飛沫部、常に大気中に露出して波しぶきのかからない領域である海上大気部に分類され、その部位に適した防食塗装が行われている。
この中で干満部及び飛沫部のような海中部と大気部の中間にある部位は、腐食環境の変化が大きい上に塗る場所が海水で濡れているため、塗装で防食性を付与することは困難である。特許文献2および3には、エポキシ樹脂、ポリオキシアルキレンポリアミン類、マンニッヒ変性アミン類及びケチミン類から選ばれる少なくとも1種のアミン硬化剤、水、水酸基含有変性樹脂を含む防食塗料組成物が開示されている。この防食塗料組成物はスプレー塗装が可能であり、干満部及び飛沫部のように、基材が水で濡れた状態であっても、良好な付着性と防食性を有する塗膜を形成することができるものである。
【0006】
しかしながら特許文献2及び3に記載の防食塗料組成物は水及び親水性官能基を多く含んでいるために基材との付着性には優れるものの、その反面、塗装作業性及び防食性に改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平2-55789号公報
【文献】特開2017-25158号公報
【文献】特開2017-25159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、基材が湿潤状態であっても容易に塗装でき、防食性に優れた塗膜を形成するのに適する防食塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、水に濡れた状態の基材に着目し、鋭意検討した。その結果、特定の有機溶剤を含む塗料組成物が、基材表面に水が残存している状態でも容易に塗装でき、当該基材に対して防食性に優れた塗膜を形成できることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、
項1
エポキシ樹脂(A)、顔料(B)、ポリアミン化合物(C)及び有機溶剤(D)を含み、不揮発分が60~99質量%の範囲内、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対するポリアミン化合物(C)の活性水素当量比が0.4~3.0の範囲内であり、
顔料(B)が、その成分の一部として、タルク及びガラスフレークを含む燐片状顔料を含み、
ガラスフレークの使用量がエポキシ樹脂(A)の不揮発分質量100質量部を基準として0を超えて59.9質量部未満であり、
ポリアミン化合物(C)が、水及びアセトン等量混合液に対し非相溶性であり、活性水素当量が126以上且つ500以下であり、
有機溶剤(D)が、労働安全衛生法の第3種に規定される有機溶剤(D1)を40質量%以上含有し、労働安全衛生法の第2種有機溶剤に規定される有機溶剤(D2)を全く含まないか、含む場合は有機溶剤(D2)のうちいずれか1種の有機溶剤の含有量が有機溶剤(D)中5.0質量%未満であり、有機溶剤(D2)が複数の併用物である場合は、複数の有機溶剤(D2)の個々の含有量が、いずれも有機溶剤(D)中に5質量%未満であり、
有機溶剤(D1)が、ガソリン、コールタールナフサ、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレビン油、ミネラルスピリツト、およびこれらの組み合わせから選ばれる少なくとも1種であり、
有機溶剤(D2)が、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール、エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、オルト‐ジクロルベンゼン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル、酢酸エチル、酢酸ノルマル-ブチル、酢酸ノルマル-プロピル、酢酸ノルマル-ペンチル、酢酸メチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、N・N‐ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、トリクロルエタン、トルエン、ノルマルヘキサン、1-ブタノール、2-ブタノール、メタノール、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチル-ノルマル-ブチルケトン、及びこれらの組み合わせから選ばれる少なくとも1種である、湿潤面用の防食塗料組成物。(ただし、塗料組成物の100質量部に対して硫酸第一スズの含有量が2.0~8.0質量部であるものを除く)
項2
エポキシ樹脂(A)が、数平均分子量900以上の変性エポキシ樹脂である、項1に記載の防食塗料組成物。
項3
顔料(B)が、その成分の一部として防錆顔料を含む、項1または2に記載の防食塗料組成物。
項4
さらにシランカップリング剤を含む、項1ないしのいずれか1項に記載の防食塗料組成物。
項5
塗料形態が、エポキシ樹脂(A)及び顔料(B)を含む主剤成分と、ポリアミン化合物(C)を含む硬化剤成分とからなり、主剤成分及び/又は硬化剤成分が有機溶剤(D)を含む2成分系の組成物である、項1~のいずれか1項に記載の防食塗料組成物。
項6
塗料形態が、エポキシ樹脂(A)及び顔料(B)を含む主剤成分と、ポリアミン化合物(C)を含む硬化剤成分とからなり、主剤成分及び/又は硬化剤成分が有機溶剤(D)を含み、主剤成分及び/又は硬化剤成分がシランカップリング剤を含む2成分系の組成物である、項に記載の防食塗料組成物。
項7
湿潤面に、項1~のいずれか1項に記載の防食塗料組成物を塗装する、湿潤面防食塗装方法。
に関する。

【発明の効果】
【0011】
本発明の防食塗料組成物は、基材表面に残存した水の影響を受けることなくローラーやハケ塗装などの簡易な塗装器具を用いて容易に塗装することが可能である。また、形成された塗膜は外観が良好であり、防食性も十分に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<エポキシ樹脂(A)>
本発明において、エポキシ樹脂(A)は、分子中にエポキシ基を少なくとも2個有する樹脂であり、数平均分子量が900以上、好ましくは900~10000、さらに好ましくは900~8000の範囲内にあり、エポキシ基当量が80~2400、好ましくは200~1500の範囲内にあることが適している。
【0013】
本明細書において、数平均分子量はゲルパーミュエーションクロマトグラフィにより測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算した値である。
【0014】
具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(東ソー株式会社製、「HLC8120GPC」)で測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算した値を挙げることができる。カラムは、「TSKgel G-4000H×L」、「TSKgel G-3000H×L」、「TSKgel G-2500H×L」、「TSKgel G-2000H×L」(いずれも東ソー株式会社社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0015】
本明細書において、「エポキシ当量」は、エポキシ基1グラム当量あたりの樹脂(不揮発分)の質量(g)であり、JISK7236(1995)に準拠して次のようにして測定することができる。
【0016】
試料をクロロホルムおよび酢酸で溶解し、その溶解液に、臭化テトラエチルアンモニウム100gを酢酸400mlに溶解した溶液を10ml加え、クリスタルバイオレットを指示薬として過塩素酸酢酸溶液で滴定し、下記式により算出する。
エポキシ当量(g/eq)=1000×m/(C×V)
m:試料不揮発分質量(g)、
C:滴定液の過塩素酸酢酸の濃度、
V:滴定量。
【0017】
エポキシ樹脂(A)の具体例としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、ダイマー酸ジグリシジルエステル、ノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂;アルキルフェノール又はアルキルフェノールノボラック型樹脂とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等その他のエポキシ樹脂とを反応させてなるエポキシ基導入アルキルフェノール又はアルキルフェノールノボラック型樹脂などを挙げることができる。
【0018】
前記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、例えば、多価アルコール、多価フェノールなどとエピハロヒドリン又はアルキレンオキシドとを反応させてなるグリシジルエーテル基を有するエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0019】
前記多価アルコールの例としては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビトールなどを挙げることができる。
【0020】
前記多価フェノールの例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2-ビス(2-ヒドロキシフェニル)プロパン、2-(2-ヒドロキシフェニル)2-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ハロゲン化ビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、トリス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、レゾルシン、テトラヒドロキシフェニルエタン、1,2,3-トリス(2,3-エポキシプロポキシ)プロパン、ノボラック型多価フェノール、クレゾール型多価フェノールなどを挙げることができる。
【0021】
前記その他のグリシジル型エポキシ樹脂としては、例えば、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレートなどを挙げることができる。
【0022】
前記脂環族エポキシ樹脂としては、(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシル)メチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、「エポリードGT300」(ダイセル化学工業(株)製、商品名、3官能脂環式エポキシ樹脂)、「エポリードGT400」(ダイセル化学工業(株)製、商品名、4官能脂環式エポキシ樹脂)、「EHPE」(ダイセル化学工業(株)製、商品名、多官能脂環式エポキシ樹脂)などを挙げることができる。
【0023】
また、本発明では、エポキシ樹脂(A)は、アルキルフェノール及び/又は脂肪酸で変性された変性樹脂であることが湿潤面に対する塗装作業性の点から適している。
【0024】
前記アルキルフェノールとしては、炭素原子数約2~18のアルキル基を有するフェノールが好ましく、具体例として、パラt-ブチルフェノール、パラオクチルフェノール、ノニルフェノール、これらをアルデヒドで縮合したノボラック樹脂などを挙げることができる。
【0025】
前記脂肪酸としては、炭素数6~24、特に12~20の脂肪族モノカルボン酸が包含され、それ自体既知の不飽和脂肪酸や飽和脂肪酸を特に制限なく使用することができ、例えば、魚油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ケシ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸等の乾性油脂肪酸;ヤシ油脂肪酸、水添ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸等の不乾性油脂肪酸;カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸を挙げることができる。これらの中でも常温架橋性の観点から、乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸が適している。
【0026】
本発明において前記エポキシ樹脂(A)は、市販品を用いても良いし、合成して調製することも可能である。
【0027】
<顔料(B)>
本発明において顔料(B)は塗料分野において公知の着色顔料、体質顔料、防錆顔料を使用することができる。
【0028】
着色顔料の具体例としては、例えば、二酸化チタン等の白色顔料;カーボンブラック、アセチレブラック、ランプブラック、カーボンブラック、黒鉛、鉄黒、アニリンブラックなどの黒色顔料;黄色酸化鉄、チタンイエロー、モノアゾイエロー、縮合アゾイエロー、アゾメチンイエロー、ビスマスバナデート、ベンズイミダゾロン、イソインドリノン、イソインドリン、キノフタロン、ベンジジンイエロー、パーマネントイエロー等の黄色顔料;パーマネントオレンジ等の橙色顔料;赤色酸化鉄、ナフトールAS系アゾレッド、アンサンスロン、アンスラキノニルレッド、ペリレンマルーン、キナクリドン系赤顔料、ジケトピロロピロール、ウォッチングレッド、パーマネントレッド等の赤色顔料;コバルト紫、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット等の紫色顔料;コバルトブルー、フタロシアニンブルー、スレンブルーなどの青色顔料;フタロシアニングリーンなどの緑色顔料等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
前記着色顔料の含有量としては、用いる着色顔料の種類によって調整できるが一般にはエポキシ樹脂(A)不揮発分100質量部を基準として、5~80質量部、特に10~70質量部の範囲内が適している。
【0030】
本明細書において不揮発分とは、揮発成分を除いた残存物を意味するものであり、残存物としては常温で固形状であっても液状であっても差し支えない。不揮発分質量は、乾燥させた時の残存物質量の乾燥前質量に対する割合を不揮発分率とし、不揮発分率を乾燥前の試料質量に乗じることで算出することができる。不揮発分率を求める条件としては試料の質量は約1グラム、乾燥条件は110℃、3時間とする。
【0031】
前記体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、珪藻土、マイカ、クレー、カオリン、シリカ、アルミナ、アルミニウム、バライト粉、ベントナイト、リトポン、ガラスフレーク、ガラス繊維、カーボンファイバー、ミネラルファイバー、二硫化モリブデン、ウォラスナイト、モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、セリサイト、イライト、バーミュクライト等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0032】
前記体質顔料の含有量としては、エポキシ樹脂(A)不揮発分質量100質量部を基準として、5~300質量部、好ましくは10~250質量部の範囲内にあることが適している。
【0033】
本発明において湿潤面の基材に対する防食性の点から、前記顔料(B)が、その成分の一部として鱗片状顔料を使用することが適している。本明細書において鱗片状とは鱗形状に限るものではなく板状などの形状を包含するものであり、球状や塊状等の立体形状のものを一方向に押し潰した薄片形状をいう。
【0034】
このような鱗片状顔料の具体例としては、例えば、タルク、マイカ、鱗片状アルミナ、鱗片状シリカ、葉状シリカ、鱗片状二硫化モリブデン、ガラスフレーク、鱗片状アルミニウム、モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、セリサイト、イライト、カオリン、バーミュクライト、クレー等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0035】
本発明では前記鱗片状顔料として、タルク及び/又はガラスフレークを使用することが好ましい。この場合のエポキシ樹脂(A)不揮発分を基準とするタルクの使用量としては、10~160質量部、20~150質量部の範囲内であり、ガラスフレークの使用量としては5~80質量部、10~70質量部の範囲内が適当である。
【0036】
防錆顔料としては、塗料分野で公知のものを使用できる。その具体例としては、リン酸亜鉛、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム・アンモニウム共析物、リン酸一水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、リン酸マグネシウム・コバルト共析物、リン酸マグネシウム・ニッケル共析物、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムアンモニウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸塩化フッ化カルシウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素アルミニウム等のリン酸系金属化合物;亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、塩基性亜リン酸亜鉛、亜リン酸バリウム、亜リン酸マンガン、次亜リン酸カルシウム等の亜リン酸系金属化合物;ケイ酸カルシウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、オルトケイ酸アルミニウム、水化ケイ酸アルミニウム、アルミノケイ酸塩、ホウケイ酸塩、ベリロケイ酸塩、ケイ酸アルミニウムカルシウム、ケイ酸アルミニウムナトリウム、ケイ酸アルミニウムベリリウム、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、ケイ酸カルシウムナトリウム、ケイ酸ジルコニウム、オルトケイ酸マグネシウム、メタケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム・カルシウム、ケイ酸マンガン、ケイ酸バリウム等のケイ酸金属塩;マグネシウムイオン交換シリカ、カルシウムイオン交換シリカ等の金属イオン交換シリカ系化合物;トリポリリン酸ニ水素アルミニウム、トリポリリン酸マグネシウム、トリポリリン酸アルミニウム、トリポリリン酸二水素亜鉛等のトリポリリン酸系金属化合物;モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウム等のモリブデン酸系金属化合物;酸化鉄と酸化マグネシウムとの複合酸化物、酸化鉄と酸化カルシウムとの複合酸化物;酸化亜鉛、酸化鉄と酸化亜鉛との亜鉛化合物等を挙げることができる。前記したようにこれらは単独で又は2種以上組み合わせたものであってもよいし、2種以上を複合した複合物であることもできる。また、これら例示の化合物をシリカ、ケイ酸カルシウム等のケイ酸化合物や酸化マグネシウム等による変性物もしくは処理物も防錆顔料に包含される。
【0037】
防錆顔料は、単独もしくは複数の組み合わせの市販品を用いることができる。かかる市販品としては、例えば「EXPERT NP-1000」、「EXPERT NP-1020C」、「EXPERT NP-1100」、「EXPERT NP-1102」(以上、東邦顔料工業社製、商品名)、「LFボウセイ CP-Z」、「LFボウセイMZP-500」、「LFボウセイ CRFC-1」、「LFボウセイ M-PSN」、「LFボウセイ MC-400WR」、「LFボウセイ PM-300」、「LFボウセイPM-308」(以上、キクチカラー社製、商品名)、「K-WHITE140」「K-WHITE Ca650」、「K-WHITE450H」、「K-WHITE G-105」、「K-WHITE #105」、「K-WHITE #82」、「K-WHITE G102S」(以上、テイカ社製、商品名)、「SHIELDEX C303」、「SHIELDEX AC-3」、「SHIELDEXC-5」(以上、いずれもW.R.Grace&Co.社製)、「サイロマスク52」、「サイロマスク52M」、「サイロマスク22MR-H」(富士シリシア社製)、「ノビノックスACE-110」(SNCZ社製・フランス)等を挙げることができる。
【0038】
前記防錆顔料を使用する場合の量としてはエポキシ樹脂(A)不揮発分100質量部を基準として1~50質量部、5~50質量部の範囲内が適当である。
【0039】
<ポリアミン化合物(C)>
本発明において、ポリアミン化合物(C)は、分子中にアミノ基を少なくとも2個有する化合物であり、具体例としては、脂肪族ポリアミン類、芳香族ポリアミン類、脂肪族ポリアミドアミン類、芳香族ポリアミドアミン類、これらポリアミン類又はポリアミドアミン類を、それぞれエポキシ樹脂と反応させて得られるエポキシアダクト変性物のアミン系樹脂などが挙げられる。
【0040】
ここで脂肪族ポリアミン類としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、及びこれらの変性ポリアミン等が挙げられ、芳香族ポリアミン類としては、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン及びこの変性ポリアミン等が挙げられる。ポリアミドアミン類としては、前記脂肪族又は芳香族ポリアミン類と、ダイマー酸(不飽和脂肪酸の重合物)またはその他のポリカルボン酸類とを反応させることで得られるポリアミドアミン等の生成物及びこの変性ポリアミドアミン等が挙げられる。
【0041】
本発明において前記ポリアミン化合物(C)は、市販品を用いても良いし、合成して調製することも可能である。
【0042】
前記ポリアミン化合物(C)は、湿潤面に対する塗装作業性、塗膜の防食性の観点から、活性水素当量が、25~2000、好ましくは50~500、より好ましくは70~200の範囲内のものを使用することが好ましい。
【0043】
本発明においては前記ポリアミン化合物(C)が、水及びアセトン等量混合液に対して非相溶性であることが好適である。このような特徴を備えたポリアミン化合物(C)を使用することにより、本発明の防食塗料組成物が湿潤面に対する塗装作業性に優れ、且つ、湿潤面に対して形成された塗膜が防食性に優れるという効果がある。
【0044】
本明細書において、ポリアミン化合物(C)の水及びアセトン等量混合液に対する相溶性は以下のようにして判定される。
【0045】
250mlの丸缶に、脱イオン水50g、相溶化剤としてのアセトン50gを入れ、そこに、ポリアミン化合物(C)を不揮発分が50gとなるように添加する。丸缶内液の温度を20℃に保持しながらディスパーで900rpm、30分間撹拌混合して懸濁液を作成する。得られた懸濁液のうち、25gを容量が50mlの透明容器に入れた後、透明容器内液の温度を20℃に調整し、下記式で計算される遠心加速度(G)が3000の条件で30分間遠心分離処理を行った後、処理液を30cmの距離で目視観察する。このときに層分離が全く視認できないものを相溶性、少なくとも1の層分離を視認できるものを非相溶性であるものとする。
【0046】
遠心加速度(G)={r×(2πN/60)}/g
(式中、Nは1分間当たりの回転数(rpm)、rは回転半径(m)、gは重力加速度(9.8m/s)、πは円周率を指す)。
【0047】
ここで層分離とは、水滴同士の合一とポリアミンとの比重差による沈降によって、水・アセトン・ポリアミン懸濁液の縮小に伴い、ポリアミンを含む親ポリアミン層と水を含む親水層がそれぞれ徐々に増大し、親ポリアミン層と親水層の上下2層もしくは親水層と親ポリアミン層の上下2層、あるいは親ポリアミン層、少なくとも1の中間層及び親水層の3層以上の多層に分離することを意味する。
【0048】
本発明では前記ポリアミン化合物(C)の使用量は、前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対するポリアミン化合物(C)の活性水素当量比が0.4~3.0の範囲内にあるものである。0.7~2.2の範囲内にあるとさらによい。
エポキシ樹脂(A)に対するポリアミン化合物(C)の量が上記範囲にあることによって本発明防食塗料組成物のポットライフ(可使時間)、湿潤面に対する防食性及び耐黄変性の向上に役立つ。
【0049】
<有機溶剤(D)>
本発明の防食塗料組成物は有機溶剤(D)を含む有機溶剤系塗料であり、当該有機溶剤(D)は、労働安全衛生法の第3種に規定される有機溶剤(D1)を含むことを特徴とする。
【0050】
《有機溶剤(D1)》
本発明では塗装時の塗料組成物中に有機溶剤(D1)が存在することによって、湿潤面への塗装が容易に達成される。有機溶剤(D1)によるその効果の理由は定かではないが、本発明者らは、塗装時に基材に付着したウェット塗膜が、基材表面に残存した水滴を効果的に押し退ける作用が発生するものと考察している。
【0051】
前記有機溶剤(D1)の具体例としては、労働安全衛生法の第3種に規定される有機溶剤が挙げられる。より詳しくは有機溶剤中毒予防規則に別表第6の2に規定される有機溶剤のうち、第一種有機溶剤等及び第二種有機溶剤等以外の有機溶剤である。労働安全衛生法の第3種に規定される有機溶剤は疎水性の性質を有しているため、基材表面に残存した水を除去する効果がある。具体例を挙げると、ガソリン、コールタールナフサ(別名:ソルベントナフサ)、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレビン油、ミネラルスピリツト(別名:ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリツト、ホワイトスピリツト及びミネラルターペン)およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0052】
本発明では、前記有機溶剤(D1)の含有量が有機溶剤(D)中40質量%以上であり、好ましくは70質量%以上である。有機溶剤(D1)の含有量がこの範囲内にあることにより、湿潤面に対するローラー、刷毛での塗装作業性及び湿潤面上に形成された塗膜の防食性に効果がある。
【0053】
本発明では、前記有機溶剤(D)は有機溶剤(D1)を必須成分として含むものであり、有機溶剤(D)の全量が有機溶剤(D1)であってもよいが、それ以外の有機溶剤を含んでいても差し支えない。前記それ以外の有機溶剤としては例えば労働安全衛生法の第2種有機溶剤に規定される有機溶剤(D2)が挙げられる。
【0054】
《有機溶剤(D2)》
有機溶剤(D2)としては労働安全衛生法の第2種に規定される有機溶剤であり、より詳しくは有機溶剤中毒予防規則の別表第6の2に規定される有機溶剤のうち、第二種有機溶剤に規定される有機溶剤である。具体例としては、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール(別名イソアミルアルコール)、エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル(別名セロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(別名セロソルブアセテート)、エチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテル(別名ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノメチルエーテル(別名メチルセロソルブ)、オルト‐ジクロルベンゼン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル(別名酢酸イソアミル)、酢酸エチル、酢酸ノルマル-ブチル、酢酸ノルマル-プロピル、酢酸ノルマル-ペンチル(別名酢酸ノルマル-アミル)、酢酸メチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、N・N‐ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、トリクロルエタン、トルエン、ノルマルヘキサン、1-ブタノール、2-ブタノール、メタノール、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチル-ノルマル-ブチルケトン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0055】
本発明では、前記有機溶剤(D)が有機溶剤(D2)を全く含まないか、あるいは前記有機溶剤(D)が有機溶剤(D2)を含む場合は有機溶剤(D2)のうちいずれか1種の有機溶剤の含有量が有機溶剤(D)中5質量%未満であることができる。
また、本発明において有機溶剤(D2)が前記例示の有機溶剤の複数の併用物である場合、有機溶剤(D1)の含有量が本発明範囲内にあり、有機溶剤(D2)における当該複数の有機溶剤の個々の含有量が有機溶剤(D)中に5質量%未満であれば、複数の有機溶剤の合計含有量が有機溶剤(D)中5質量%以上になっても差し支えない。
【0056】
本発明において有機溶剤(D)は有機溶剤(D1)及び有機溶剤(D2)以外のその他の有機溶剤も含むことができる。前記その他の有機溶剤としては、特に制限されないが、例えば、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-t一ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル系溶剤;アセト酢酸メチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶剤;アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶剤;エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、n-ペンタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール系溶剤等;並びにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0057】
有機溶剤(D)は、市販品を使用することもできる。市販品名としては、「スワゾール1000」、「スワゾール1500」、「スワゾール1800」(以上商品名、丸善石油社製)、「ミネラルスピリットA」、「T-SOLTM100 FLUID」、「T-SOLTM 150 FLUID」、(以上商品名、JXTGエネルギー社製)、「イプゾール100」、「イプゾール150」、「イプゾールTP」(以上商品名、出光興産社製)等が挙げられる。
【0058】
<シランカップリング剤>
本発明の防食塗料組成物に必要に応じて配合されるシランカップリング剤は、形成される塗膜の防食性の向上に寄与することができる成分である。
前記シランカップリング剤としては、例えば、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、N-β(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン-塩酸塩、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、オクタデシルジメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、トリメチルクロロシラン等を挙げることができる。なかでもγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤が好適である。シランカップリング剤を含む場合の含有量としては、エポキシ樹脂(A)不揮発分質量100質量部を基準として0.1~10質量部、特に0.5~5質量部の範囲内であることが適している。
【0059】
<防食塗料組成物>
本発明の湿潤面用防食塗料組成物は、エポキシ樹脂(A)、顔料(B)、ポリアミン化合物(C)及び有機溶剤(D)を含む組成物である。
【0060】
前記防食塗料組成物は、必要に応じて、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等の改質用樹脂;可塑剤、造膜助剤、分散剤、表面調整剤、消泡剤、防腐剤、増粘剤等の通常の塗料用添加剤を含むことができる。
【0061】
また、前記塗料組成物の不揮発分は60~99質量%の範囲内であり、65~85質量%の範囲内にあることが好ましい。不揮発分がこの範囲内にあることによって、塗装作業性に優れ、湿潤面に対しても防食性に優れた塗膜を容易に形成することができるからである。
【0062】
貯蔵時の塗料形態としては、使用する材料によって適宜変更はできるが、エポキシ樹脂(A)及び顔料(B)を含む主剤成分と、ポリアミン化合物(C)を含む硬化剤成分とからなり、前記主剤成分及び/又は硬化剤成分が有機溶剤(D)を含む2成分系組成物であること、あるいはシランカップリング剤を含む場合はエポキシ樹脂(A)及び顔料(B)を含む主剤成分と、ポリアミン化合物(C)を含む硬化剤成分とからなり、主剤成分及び/又は硬化剤成分が有機溶剤(D)を含み、主剤成分及び/又は硬化剤成分がシランカップリング剤を含む2成分系の組成物であることが好ましい。
【0063】
<防食塗装方法>
本発明の防食塗料組成物は湿潤面に塗装される。本明細書において湿潤面とは、基材が湿潤状態であることを意味する。前記基材としては、特に制限はないが、鉄鋼、非鉄金属が挙げられ、旧塗膜が設けられたものであってもよい。湿潤状態とは、基材表面に水滴、水膜、水分が付着している状態をいう。
【0064】
被塗物の具体例としては、海上にある石油・ガス施設、桟橋、海上空港、船、タンカーなどの海洋鋼構造物の干満部、飛沫部が挙げられるが、塔、タンク、プラント等の陸上鋼構造物に対して降雨水が付着した状態、素地調整後に散水処理した乾燥前の状態、もしくは高湿度環境下にあるために結露した状態も湿潤面に包含される。
【0065】
前記防食塗料組成物は、1回あたり乾燥膜厚で通常10~2000μm、好ましくは15~500μmの範囲内となるようにして前記湿潤面に塗装する。その塗装は、それ自体既知の塗装手段、例えば、エアスプレー、エアレススプレー、刷毛塗り又はローラー塗り等で行なうことができる。塗膜の乾燥条件としては常温乾燥することができるが、必要に応じて強制乾燥又は加熱乾燥を行ってもよい。
【0066】
本発明の防食塗料組成物を用いた防食塗装方法では、湿潤面に対して本発明に係る防食塗料組成物を塗装し塗膜を形成後、必要に応じて公知の中塗り塗料及び/又は上塗り塗料を塗装してもよい。中塗り塗料としては、例えば、エポキシ樹脂系中塗り塗料、変性エポキシ樹脂系中塗り塗料及びウレタン樹脂系下塗り塗料等が挙げられる。上塗り塗料としては、例えば、アクリル樹脂系上塗り塗料、ウレタン樹脂系上塗り塗料、シリコン樹脂系上塗り塗料及びフッ素樹脂系上塗り塗料等が挙げられる。
【実施例
【0067】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
<防食塗料組成物の製造>
実施例1
容器に、60%変性エポキシ樹脂溶液(注1)167部、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2.4部、チタン白55部、防錆顔料(注3)15部、タルク100部、ガラスフレーク(注4)40部、消泡剤1部、沈降防止剤2部、増粘剤4部、ミネラルスピリット5部を配合し、撹拌混合して主剤成分を得た。
別の容器に、70%ポリアミン溶液(注5)を36部、炭化水素系溶剤(注8)45部を配合し、撹拌混合して硬化剤成分を得た。
【0069】
主剤成分が収容された容器に、硬化剤成分を配合し、均一になるまで撹拌混合して防食塗料組成物(A-1)を製造した。
【0070】
実施例2~16及び比較例1~4
使用する材料と配合量を下記表1-1及び1-2とする以外は実施例1と同様にして、防食塗料組成物(A-2)~(A-20)を製造した。得られた各防食塗料組成物について、下記の評価を行った。
【0071】
【表1-1】
【0072】
【表1-2】
【0073】
(注1)60%エポキシ樹脂溶液:「EPICLON 5900-60」 商品名、DIC社製、不揮発分60%、数平均分子量1000のアルキルフェノールノボラック変性エポキシ樹脂、不揮発分あたりのエポキシ当量700、有機溶剤(D1)40%含有、
(注2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂:「jER 828」商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、数平均分子量370、エポキシ当量190、
(注3)防錆顔料:「KWHITE G-105」、商品名、テイカ社製、トリポリリン酸二水素アルミニウム・酸化亜鉛混合物、
(注4)ガラスフレーク「RCF-140」、商品名、日本硝子社製、ガラスフレーク、平均粒子径140μm、
(注5)70%ポリアミン溶液:「ラッカマイド B-2201-70ES」、商品名、DIC社製、変性ポリアミン、不揮発分70%、不揮発分あたりの活性水素当量 126、有機溶剤(D1)30%含有、水・アセトン相溶性試験は二層分離、
(注6)ポリアミン化合物:「ガスカミン240」、商品名、三菱ガス化学社製、ポリアミドアミン、活性水素当量103、水・アセトン相溶性試験は二層分離、
(注7)ポリアミン化合物:「トーマイド225E」、商品名、T&K TOKA社製、ポリアミドアミン、活性水素当量115、水・アセトン相溶性試験は透明化(層分離なし)
(注8)炭化水素系有機溶剤:「T-SOLTM 100 FLUID」商品名、JXTGエネルギー社製、ソルベントナフサ、芳香族炭化水素系有機溶剤。
【0074】
<評価試験>
(*)ポットライフ:
主剤及び硬化剤を混合後20℃で放置して、刷毛での塗装可能限界粘度に達するまでの時間(H)を測定した。表中数値が大きいほど良好である。
(*)塗装作業性(非湿潤面):
実施例1~16及び比較例1~4の各塗料を、ブリキ板に乾燥膜厚が150μmとなるようにローラーおよび刷毛で塗装した際の塗装作業性を、以下に従って評価した。
《ローラー》
◎:塗装作業に全く問題がなかった、
〇:ローラーが少し重く、又は、少し軽いものの、均質な塗装面は形成できる、
△:塗料が垂れやすく、又は塗面が不均質になりやすかったため、塗装作業に熟練を要した、
×:ローラーが重く、又は、軽すぎたため、均質な塗装面が形成できなかった。
《刷毛》
◎:塗装作業に問題がなかった、
〇:刷毛が少し重く、又は、少し軽いものの、均質な塗装面は形成できる、
△:塗料が垂れやすく、又は塗面が不均質になりやすかったため、塗装作業に熟練を要した、
×:刷毛が重く、又は、軽すぎたため、均質な塗装面が形成できなかった。
(*)塗装作業性(湿潤面):
水道水を30g/mとなるよう吹き付けて均一に湿潤させたブリキ板を基材とする以外は上記と同様に塗装を行った。評価基準は下記通りである、
《ローラー》
◎:ローラーが基材の水滴を除去しながら容易に塗料をつけることができ、均質な塗装面形成可能、
〇:ローラーが基材の水滴にわずかに影響されるが、基材に塗料をつけることができ、均質な塗装面形成可能、
△:ローラーが基材の水滴の影響を受けて、基材に塗料をつけにくいが、塗装面は形成可能、
×:ローラーが基材の水滴の影響を大きく受けて、基材に塗料をつけられない。
《刷毛》
◎:刷毛が基材の水滴を除去しながら容易に塗料をつけることができ、均質な塗装面形成可能、
〇:刷毛が基材の水滴にわずかに影響されるが、基材に塗料をつけることができ、均質な塗装面形成可能、
△:刷毛が基材の水滴の影響を受けて、基材に塗料をつけにくいが、塗装面は形成可能、
×:刷毛が基材の水滴の影響を大きく受けて、基材に塗料をつけられない。
【0075】
(*)防食性(非湿潤面):
70×150×3.2mmサンドブラスト鋼板に、各防食塗料組成物を、乾燥膜厚が150μmとなるようにエアースプレー塗装し、23℃、7日間乾燥させたものを試験塗板とした。各試験塗板に素地に達するまでカットを入れて複合サイクル腐食試験(JIS K-56007-9 サイクルD 法)に準じたサイクル試験方法に1200時間供したあとで以下の基準に沿って評価した。
◎:一般部に膨れ・錆なく、カット部からの錆膨れ幅が平均3mm未満、
〇:一般部に3点以下の小さな膨れまたは錆があるが、カット部からの錆膨れ幅が3mm未満であるか、又は、一般部に膨れ・錆なく、カット部からの錆膨れ幅が3mm以上7mm未満、
△:一般部に3点を超える膨れまたは錆があり、かつカット部からの錆膨れ幅が3mmを超えるか、又は、一般部に膨れ・錆がないものの、カット部からの錆膨れ幅が7mmを超える、
×:一般部4点以上の錆または膨れの発生があり、かつ、カット部からの錆膨れ幅が7mmを超える。
(*)防食性(湿潤面):
70×150×3.2mmサンドブラスト鋼板を上水に没水して引き上げた直後の板を基材とする以外は上記と同様にして防食性を評価した。
(*)黄変性
300×100×1mmの鋼板に刷毛塗り塗装で乾燥膜厚が150μmとなるように2枚塗装し、23℃、7日間乾燥させたものを試験片とした。1枚を暴露用試験片、もう1枚を比較用試験片とした。暴露用試験片をJISK 5600-7-6に記載の手順で屋外暴露試験を24か月実施した後に、塗膜外観を以下の基準に従って目視評価した。
◎:暴露用試験片が比較用試験片に対して変化なし、
○:暴露用試験片が比較用試験片に対して、わずかに黄変が見られるが、実用レベル、
△:露用試験片に黄変が明らかに見られる、
×:暴露用試験片に著しい黄変が見られる。