(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】回転機械システムの診断装置および診断方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20241210BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
(21)【出願番号】P 2020089288
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南波 昇吾
(72)【発明者】
【氏名】成澤 伸之
(72)【発明者】
【氏名】馬飼野 祐貴
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0153935(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0246506(US,A1)
【文献】特開2020-076332(JP,A)
【文献】特開2019-070580(JP,A)
【文献】国際公開第2018/109993(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H17/00
G01M13/00-13/045,99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から供給される電力に基づいて駆動される電動機と、
前記電動機に接続されている動力伝達機構と、
前記動力伝達機構に接続されている回転機械と、
前記電動機または前記電源から前記電動機までの電源線に接続され、前記動力伝達機構の状態を診断する診断装置と、
を備える回転機械システムにおける前記診断装置であって、
前記動力伝達機構は、前記電動機の回転駆動力を出力する第1プーリーと、前記回転機械を駆動する第2プーリーと、前記第1プーリーと前記第2プーリーとを接続する駆動伝達部品と、を有し、
前記電動機から前記動力伝達機構を通じて前記回転機械に加わる負荷が変動する場合において、
前記診断装置は、
前記電力における電流を検出し、
前記検出した電流の時系列上の電流値に基づいて、前記電動機の推定回転速度を演算し、
前記電動機の推定回転速度に基づいて、前記回転機械の推定回転周波数を演算し、
前記電動機の推定回転速度に対応する電流周波数のピークと、前記回転機械の推定回転周波数に対応する前記電流周波数とは異なる周波数のピークとを抽出し、
前記電動機の推定回転速度に対応する電流周波数と、前記回転機械の推定回転周波数に対応する前記電流周波数とは異なる周波数との関係に基づいて、前記電流周波数のピークと前記電流周波数とは異なる周波数のピークとの比較による相対値を用いて、前記動力伝達機構の状態を判定し、診断結果を記憶および出力する、
回転機械システムの診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の回転機械システムの診断装置において、
前記診断装置は、前記回転機械の推定回転周波数を含む周波数帯について、スペクトル分析に基づいてスペクトルピークを計算し、前記スペクトルピークの周波数および振幅を用いて、前記動力伝達機構の状態を判定する、
回転機械システムの診断装置。
【請求項3】
請求項2記載の回転機械システムの診断装置において、
前記診断装置は、
学習モードを備え、
前記学習モードの時、
前記動力伝達機構が正常状態の時における前記スペクトルピー
クを正常データとして学習
を行い、当該正常データを含む当該学習に係わるデータをメモリに保存し、
前記学習が済んだ後、前記学習モードではない診断の時、前記学習
に係わるデータを用いて、
前記正常データにおける前記スペクトルピークと、診断対象における前記スペクトル分析に基づいて計算されたスペクトルピークとに基づいて、前記動力伝達機構の状態を判定する、
回転機械システムの診断装置。
【請求項4】
請求項3記載の回転機械システムの診断装置において、
前記診断装置は、基準となる前記
正常データにおける前記スペクトルピークと、
前記診断対
象における前記スペクトルピークとの比率に基づいて、前記動力伝達機構の状態を判定する、
回転機械システムの診断装置。
【請求項5】
請求項2記載の回転機械システムの診断装置において、
前記診断装置は、前記スペクトルピークの時系列のデータを用いて、マハラノビス距離を計算し、前記マハラノビス距離を用いて、前記動力伝達機構の状態を判定する、
回転機械システムの診断装置。
【請求項6】
請求項2記載の回転機械システムの診断装置において、
前記診断装置は、
前記電動機に対し接続される通信装置と、
前記通信装置に対し通信網を介して接続されるサーバ装置と、
を有し、
前記通信装置は、前記検出した電流のデータを記憶し、前記サーバ装置へ送信し、
前記サーバ装置は、前記通信装置から取得したデータを用いて、前記動力伝達機構の状態を判定する、
回転機械システムの診断装置。
【請求項7】
電源から供給される電力に基づいて駆動される電動機と、
前記電動機に接続されている動力伝達機構と、
前記動力伝達機構に接続されている回転機械と、
前記電動機または前記電源から前記電動機までの電源線に接続され、前記動力伝達機構の状態を診断する診断装置と、
を備える回転機械システムにおける診断方法であって、
前記動力伝達機構は、前記電動機の回転駆動力を出力する第1プーリーと、前記回転機械を駆動する第2プーリーと、前記第1プーリーと前記第2プーリーとを接続する駆動伝達部品と、を有し、
前記電動機から前記動力伝達機構を通じて前記回転機械に加わる負荷が変動する場合において、
前記診断装置が実行するステップとして、
前記電力における電流を検出するステップと、
前記検出した電流の時系列上の電流値に基づいて、前記電動機の推定回転速度を演算するステップと、
前記電動機の推定回転速度に基づいて、前記回転機械の推定回転周波数を演算するステップと、
前記電動機の推定回転速度に対応する電流周波数のピークと、前記回転機械の推定回転周波数に対応する前記電流周波数とは異なる周波数のピークとを抽出するステップと、
前記電動機の推定回転速度に対応する電流周波数と、前記回転機械の推定回転周波数に対応する前記電流周波数とは異なる周波数との関係に基づいて、前記電流周波数のピークと前記電流周波数とは異なる周波数のピークとの比較による相対値を用いて、前記動力伝達機構の状態を判定し、診断結果を記憶および出力するステップと、
を有する、回転機械システムの診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械システムの状態診断技術に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械システムは、例えば、交流電力に基づいて、電動機(言い換えるとモータ)から、ベルト等を含む動力伝達機構を通じて、駆動力を伝達することで、回転機械を駆動する。例えば、ベルト駆動型の回転機械としては、空気圧縮機、射出成型機、ファン等、多数が存在する。
【0003】
回転機械システムは、動力伝達機構に劣化や異常等の状態が発生した場合、駆動力の伝達が不十分または異常になってしまう。そのため、動力伝達機構の状態を診断や検知できる技術が検討されている。
【0004】
回転機械システムの状態診断に係わる先行技術例としては、国際公開第2018/109993号(特許文献1)が挙げられる。特許文献1では、「動力伝達機構の異常診断装置」等として、異常診断装置は、動力伝達機構の異常を判定する異常診断部と、電動機の電源に接続された電流検出器を備え、異常診断部は、電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、解析部の解析結果から、動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
回転機械システムにおけるベルト等を含む動力伝達機構の状態は、回転機械の性能および安全性を担保する目的から、定期メンテナンス等において適切に管理する必要がある。しかし、連続稼働時間が長い装置や、機構が複雑な装置は、他の装置と比較して、定期メンテナンスによるダウンタイムコストが相対的に増加してしまう。
【0007】
動力伝達機構の状態診断に係わる特許文献1の例では、電流検出器から取得した電流値を周波数解析して、電動機の回転周波数以外の側帯波のピークで閾値を超えた個数を検出することで、動力伝達機構に発生した異常を判定する旨が記載されている。
【0008】
従来、特許文献1の例のように、一定の負荷を想定した回転機械における動力伝達機構の状態診断を行う技術はあった。このような技術では、設定された一定の閾値を用いて、動力伝達機構の状態を判定している。
【0009】
しかしながら、電動機および動力伝達機構に対し連結された回転機械において、回転機械を駆動するための負荷が変動する場合、一定の閾値を用いて診断する方式では、状態判定が難しく、誤診断や誤報が生じる場合がある。より詳しく言えば、電動機の負荷が変化する場合、電動機の電気情報における周波数のスペクトルピーク値も変化する。これにより、電気情報を一定の閾値と比較して状態を判定する方式では、誤判定による失報や誤報が生じる可能性がある。誤判定は、正常なのに異常と判定することや、異常なのに正常と判定すること等である。よって、従来の状態診断技術は、時々刻々と負荷が変化する回転機械システムへの適用は困難である。
【0010】
本発明の目的は、回転機械システムの状態診断技術に関して、電動機および回転機械の負荷の変動がある場合でも、動力伝達機構に係わる異常等の状態を、誤診断等を抑制または防止しつつ、高精度に診断できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のうち代表的な実施の形態は、以下に示す構成を有する。一実施の形態の回転機械システムの診断装置は、電源から供給される電力に基づいて駆動される電動機と、前記電動機に接続されている動力伝達機構と、前記動力伝達機構に接続されている回転機械と、前記電動機または前記電源から前記電動機までの電源線に接続され、前記動力伝達機構の状態を診断する診断装置と、を備える回転機械システムにおける前記診断装置であって、前記動力伝達機構は、前記電動機の回転駆動力を出力する第1プーリーと、前記回転機械を駆動する第2プーリーと、前記第1プーリーと前記第2プーリーとを接続する駆動伝達部品と、を有し、前記電動機から前記動力伝達機構を通じて前記回転機械に加わる負荷が変動する場合において、前記診断装置は、前記電力における電流を検出し、前記検出した電流の時系列上の電流値を、所定の時間毎に正規化し、前記正規化した後の電流データを用いて、前記動力伝達機構の状態を判定し、診断結果を記憶および出力する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のうち代表的な実施の形態によれば、回転機械システムの状態診断技術に関して、電動機および回転機械の負荷の変動がある場合でも、動力伝達機構に係わる異常等の状態を、誤診断等を抑制または防止しつつ、高精度に診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態1の診断装置を含む、回転機械システムの構成を示す図である。
【
図2】実施の形態1で、診断装置の構成例を示す図である。
【
図3】実施の形態1で、診断装置の主な処理のフローを示す図である。
【
図4】実施の形態1で、検出電流データおよび電流情報を示す図である。
【
図5】実施の形態1で、包絡線検知および電流正規化について示す図である。
【
図6】実施の形態1で、電流の周波数解析結果の例を示す図である。
【
図7】実施の形態1で、表示画面例を示す図である。
【
図8】実施の形態1で、負荷の変動の例を示す説明図である。
【
図9】実施の形態1の比較例で、負荷の変動の場合の判定例を示す図である。
【
図10】実施の形態1で、負荷の変動の場合の判定例を示す図である。
【
図11】本発明の実施の形態2の診断装置の主な処理のフローを示す図である。
【
図12】実施の形態2で、表示画面例を示す図である。
【
図13】本発明の実施の形態3で、マハラノビス距離について示す図である。
【
図14】本発明の実施の形態4の診断装置を含む、回転機械システムの構成を示す図である。
【
図15】本発明の実施の形態5の診断装置を含む、回転機械システムの構成を示す図である。
【
図16】本発明の実施の形態6の診断装置を含む、回転機械システムの構成を示す図である。
【
図17】実施の形態6で、スペクトルピークの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、全図面において同一部には原則として同一符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
【0015】
<実施の形態1>
図1~
図7を用いて、本発明の実施の形態1の回転機械システムの診断装置および診断方法について説明する。実施の形態1の診断方法は、実施の形態1の診断装置で実行されるステップを有する方法である。
【0016】
[回転機械駆動システム]
図1は、実施の形態1の診断装置10を含むシステムとして回転機械システム100の構成を示す。この回転機械システム100は、実施の形態1の診断装置10と、交流電源1と、スイッチ2と、電動機3と、動力伝達機構6と、回転機械4とを備える。部分101は、電動機3と動力伝達機構6と回転機械4との接続で構成される部分である。動力伝達機構6は、ベルト駆動伝達部であり、構成要素として、電動機側プーリーである第1プーリー3Pと、ベルト5と、回転機械側プーリーである第2プーリー4Pとを有する。回転機械システム100は、交流電源1、スイッチ2、電動機3、動力伝達機構6、および回転機械4から主要部が構成されており、その主要部に対し診断装置10が接続されている。診断装置10は、電動機3等に対し近接配置されてもよいし、遠隔配置されてもよい。操作者であるユーザU1は、診断装置10を操作および管理し、回転機械システム100の状態の確認等を行う。
【0017】
実施の形態1では、回転機機4を含む部分101として、空気圧縮機に適用した例を示すが、これに限らず、他の種類の回転機械システムにも同様に適用可能である。
【0018】
交流電源1は、三相交流電源であり、スイッチ2を介して、電動機3に電力を供給する。スイッチ2は、電源の投入(言い換えるとオン状態)と遮断(言い換えるとオフ状態)との状態を切り替えられるスイッチ基板であり、スイッチ回路のみならず、他の制御回路等を含んでもよい。スイッチ2は、交流電源1と電動機3との間に接続されている電源線1Lの途中に設けられている。電源線1Lは、三相交流電力を伝達する線である。ユーザU1は、回転機械システム100の運転開始時に、スイッチ2を操作して電源投入状態にする。これにより、交流電源1の電力が電源線1Lおよびスイッチ2を介して電動機3に供給されることで、電動機3が回転駆動される。
【0019】
電動機3は、電力に基づいて動力として回転機械4の回転駆動力を生成する。電動機3には、例えば誘導電動機が適用される。これに限らず、電動機3には、種々の電動機が適用可能である。電動機3は、動力伝達機構6を介して回転機械4と接続されている。回転機械4は、動力伝達機構6から、電動機3の回転駆動力を受けて、回転駆動する。
【0020】
電動機3は、駆動軸(モータ軸ともいう)に設けられた第1プーリー3Pを有する。回転機械4は、駆動軸に設けられた第2プーリー4Pを有する。各プーリー(3P,4P)は、駆動軸とベルト5との間で動力を伝達する部品である。ベルト5は、動力伝達部品の例である。動力伝達部品は、ベルト5に限らず、チェーンやロープ等が適用されてもよい。第1プーリー3Pと第2プーリー4Pとの間には、摩擦等を伴って、ベルト5が掛けられている。第1プーリー3Pには、ベルト5の一方の端部が掛けられ、第2プーリー4Pには、他方の端部が掛けられている。これにより、プーリー(3P,4P)とベルト5によるベルト駆動伝達部(言い換えると巻掛伝動装置)が構成されている。
【0021】
診断装置10は、動力伝達機構6の状態を診断する機能を有する装置であり、例えばPCや電子回路基板等で実装できる。
図1の構成例では、診断装置10は、交流電源1と電動機3との間の電源線1Lに対し接続されている。特に、診断装置10は、交流電源1とスイッチ2との間の電源線1Lにおける一箇所(三相の線のうちの1本の線)に対し、端子1Nおよび検出用電線1Sを通じて接続されている。
【0022】
診断装置10は、電気情報検出部11、診断部13、表示装置14、報知装置15、操作部16、および設定部17を有する。ユーザU1は、操作部16を操作することで、診断装置10に指示や情報を入力する。操作部16は、例えばキーボード、マウス、操作パネル等でもよいし、通信接続されるPC等を用いてもよい。
【0023】
電気情報検出部11は、端子1Nおよび検出用電線1Sを通じて、交流電源1と電動機3との間の電源線1Lにおける一箇所(三相の線のうちの1本の線)に対し接続されている。電気情報検出部11は、交流電源1と電動機3との間の電源線1Lの電気情報を検出、検知または測定する部分であり、回路等の装置で構成される。実施の形態1では、電気情報として、電流(本例では相電流)を用いる。つまり、実施の形態1では、電気情報検出部6は、電流センサを有し、電流(言い換えると電流情報、電流値)を検出できる。電気情報検出部11は、検出した電流の信号を電流信号E1として、診断部13へ出力する。電流信号E1は、時系列での電流値を表すアナログ信号である。なお、診断装置10内、例えば診断部13内(電気情報検出部11内でもよい)には、アナログ・デジタル変換器(ADC)を有する。電流信号E1であるアナログ信号は、そのADCによって適宜にデジタル信号に変換される。
【0024】
診断部13は、電流信号E1に基づいて、動力伝達機構6の状態、特にベルト5による駆動伝達に係わる状態を診断し、診断結果の記憶および出力等の処理を行う部分である。言い換えると、診断部13は、ベルト5の伝達や駆動力に関する異常や劣化、あるいは予兆等の状態を検知し、ユーザU1等に対し報知等の出力を行う部分である。予兆は、異常や故障等に至る前における異常や故障等の予兆を指す。
【0025】
なお、変形例としては、診断部13から、診断結果に基づいて、出力制御として、電動機3や回転機械4を含む部分101についての何らかの駆動制御を行ってもよい。この制御は、例えば、診断結果の状態が、異常または劣化度合いが高い状態である場合に、電動機3や回転機械4の駆動動作を一時停止させることや、減速運転させること等が挙げられる。その場合、診断装置10から、制御用の信号を、スイッチ2または電動機3等に与える。
【0026】
電動機3と動力伝達機構6と回転機械4とで構成される部分101において、電動機3の電流周波数(電気周波数、回転周波数、等と呼ばれる場合もある)をfm[Hz]とし、回転機械4の回転周波数をfc[Hz]とする。電流周波数fmは、電動機3の回転速度に対応する周波数である。
【0027】
なお、電流周波数fmは、交流電源1から電動機3に供給される交流電力の周波数から事前に知ることができる。これに限らず、電動機3内、または交流電源1から電動機3までの間に、所定のセンサを設け、そのセンサによって電流周波数fmを検出する構成、あるいはセンサ検出情報から電流周波数fmを計算する構成としてもよい。
【0028】
実施の形態1等では、回転機械4は、負荷が変動する場合がある回転機械であり、周期的な負荷トルクや回転変動が生じる場合がある。これに対応して、電動機3も、負荷が変動する場合がある。この回転機械4では、電動機3の電流周波数fmで変化する電流波形が、回転機械4の周期的な負荷トルクにより回転周波数fcで変調されて観測される。言い換えると、電動機3の電流周波数fmでの電流波形における振幅が、回転機械4の回転周波数fcで変調される。
【0029】
実施の形態1では、動力伝達機構6の状態、特にベルト5の伝達に係わる状態に関して、少なくとも、“正常”と“異常”との2つの状態を区別して診断する。情報処理上では、例えば、“正常”状態が値0、“異常”状態が値1のように定義される。ベルト5の伝達に係わる状態が“正常”状態の場合とは、第1プーリー3Pとベルト5と第2プーリー4Pとの間で、スリップ等が発生していない場合や、ベルト5等に損傷等が発生していない場合が該当する。“異常”状態の場合とは、第1プーリー3Pとベルト5と第2プーリー4Pとの間で、スリップ等が発生している場合や、ベルト5等に損傷等が発生している場合が該当する。
【0030】
これに限らず、動力伝達機構6の状態は、より詳しく、3値以上の状態値で定義されてもよい。例えば、ベルト5に関する状態値として、正常から異常までの間での劣化度合いを表す複数の状態値を用いてもよい。例えば、劣化度合いが小さい状態を値1、劣化度合いが中程度の状態を値2、劣化度合いが大きい状態を値3とする等である。その場合、診部13では、劣化度合いを判断する手法を用いる。
【0031】
また、状態値として、“異常”状態とは別に、その“異常”状態に至る前の状態として“予兆”状態を用いてもよい。その場合、診断部13では、予兆を判断する手法を用いる。上記劣化度合いや予兆を判断する手法の詳細については限定しない。
【0032】
実施の形態1では、状態の診断のために、電流センサを用いるが、これに限らず、動力伝達機構6の付近に設置される他の種類のセンサ(例えばマイク等)を併用してもよい。
【0033】
動力伝達機構6のベルト5の状態が正常である前提の場合、電流周波数fmと回転周波数fcとの関係は、下記の式1で表すことができる。R1は第1プーリー3Pの径である。R2は第2プーリー4Pの径である。Rmは、電動機3の構造により決まる極対数であり、機械的なモータ軸の回転周波数と電動機3の電気的な周波数とを変換する係数である。
式1: fc=R2/R1×fm/Rm
【0034】
診断部13は、電気情報検出部11から取得した電気情報としての電流信号E1に基づいて、まず、
図1の吹き出しでも示すように、第1情報S1を演算する。第1情報S1は、ベルト5の伝達の異常度合いを表す状態値である。診断部13は、診断および検知の結果として、その第1情報S1を含むデータを、記憶および出力する。診断部13は、例えば第1情報S1を含むデータを、表示装置14の表示画面に表示させる。これにより、ユーザU1に対し、動力伝達機構6のベルト5の状態が伝えられる。
【0035】
また、診断部3は、第1情報S1に応じて、診断結果および報知等に係わる第2情報S2を決定し、第2情報S2の値に応じて、報知装置15等の出力を制御する。すなわち、診断部13は、第2情報S2の値に応じて、報知信号を報知装置15に与えることで、ユーザU1に対し、警告等を報知させる。報知装置15は、報知信号に従って、ベルト5の異常状態等をユーザU1に伝えるための警告を報知する。
【0036】
診断部13は、例えば、後述のスペクトルピーク値と、設定された閾値(Hとする)との比較に基づいて、第1情報S1の状態値を決定する。例えば、スペクトルピーク値が閾値H以上である場合、異常状態(言い換えると異常度合いが十分に高い状態)と判定される。また、診断部13は、第1情報S1の状態値に応じて、第2情報S2を決定する。
【0037】
表示装置14は、診断装置10に内蔵または外付けで設けられ、表示画面に画像を表示する。診断装置10は、所定のグラフィカル・ユーザ・インタフェースで、表示装置14の表示画面に情報を表示する。報知装置15は、音声や発光や画面表示等を用いてユーザU1への報知を実現する装置である。報知装置15は、例えば、ブザー音等を発生させてスピーカから出力するブザー装置でもよいし、合成音声によって異常状態をスピーカから出力する装置でもよい。報知装置15は、ランプの発光で状態を伝える装置でもよいし、表示画面に警告等を表示する装置でもよいし、メール等で宛先へ状態を通知する装置でもよい。報知装置15と表示装置14とが一体でもよい。
【0038】
診断装置10は、電動機3、動力伝達機構6および回転機械4を含む部分101の稼働中に、すなわち稼働の開始から終了までの時間に、動力伝達機構6に関する状態の診断を行う。例えば、診断装置10は、電気情報検出部11での検出状態から、部分101の稼働状態を判断できるので、その稼働状態に合わせて診断の開始や終了を制御してもよい。あるいは、診断装置10は、電動機3等から稼働状態に関する情報を入力し、その情報に合わせて診断の開始や終了を制御してもよい。あるいは、診断装置10は、ユーザU1による操作部16の操作に基づいて、診断の開始と終了を制御してもよい。
【0039】
設定部17では、ユーザU1による表示装置14の画面確認、および操作部16の操作に基づいて、診断部13の処理に係わる閾値H等の設定情報を設定することができる。
【0040】
なお、実施の形態1の
図1の構成例は、回転機械4等を含む部分101に対し、外付けで診断装置10が設置される場合であるが、後述のように、これに限定されない。診断装置10は、電動機3やスイッチ2等に内蔵で実装されてもよい。
【0041】
[回転機械]
回転機械4を含む部分101は、言い換えると、製造ライン等を構成する産業機械である。回転機械4の具体例としての圧縮機、特に空気圧縮機(コンプレッサー)の構成例は以下の通りである。空気圧縮機には各種が存在し、いずれも適用可能である。空気圧縮機の場合、
図1の部分101において、回転機械4は、空気圧縮機構で構成される。電動機3で生成された動力は、動力伝達機構6によって、空気圧縮機構に伝達される。空気圧縮機構には、吸気機構や吐出機構を備える。空気圧縮機構の容器内部には、ロータあるいはピストン等を備える。吸気機構から吸気された空気は、空気圧縮機構の容器内部に供給され、その空気が空気圧縮機構で圧縮される。空気圧縮機構は、動力伝達機構6から伝達された動力に基づいて、容器内でのロータの回転運動、あるいはピストンの往復運動によって、容器内の空気を圧縮する。空気圧縮機構で圧縮された空気は、吐出機構から吐出される。吐出機構から吐出された圧縮空気は、配管を通じて、その圧縮空気を必要とする装置(例えばエアシリンダやエアモータ等)に供給される。
【0042】
例えば、装置に応じて必要な圧縮空気の圧力等に応じて、空気圧縮機での負荷が変動し得る。その負荷変動に応じて、電動機3に与える電流、および電動機3から動力伝達機構6を通じて回転機械4である空気圧縮機構に与える回転駆動力等が変動する。
【0043】
適用可能な回転機械4としては、空気圧縮機に限定されない。回転機械4は、動力伝達機構6からの回転駆動力を受ける機械であればよい。回転機械4として例えばプレス機である場合、構成例は以下の通りである。プレス機は、金属等の素材に対し、強い圧力による加工を行い、金型に基づいた形状に変形させる機械である。プレス機の場合、
図1の部分101において、回転機械4は、プレス加工機構で構成される。電動機3で生成された動力は、動力伝達機構6によって、プレス加工機構に伝達される。プレス機は、電動機3の回転運動を、動力伝達機構6を通じて、プレス加工機構での往復運動に変換する。プレス加工機構は、往復運動によって、金型内の供給部材に対しプレス加工を行う。例えば、プレス加工機構での加工内容に応じて、プレス機で必要な負荷が変動し得る。その負荷変動に応じて、電動機3に与える電流、および電動機3から動力伝達機構6を通じて回転機械4であるプレス加工機構に与える回転駆動力等が変動する。
【0044】
[診断装置]
図2は、診断装置10のハードウェアやソフトウェアの構成例を示す。診断装置10は、プロセッサ201、メモリ202、補助記憶装置203、通信インタフェース装置204、電流センサ205、表示装置14、および報知装置15等を備え、それらがバス等を介して相互に接続されている。プロセッサ201は、CPU、ROM、RAM等で構成され、言い換えるとコントローラであり、ソフトウェアプログラム処理に基づいて、
図1の機能ブロック構成に基づいた状態診断機能等を実現する。処理の一部は専用回路で実現されてもよい。メモリ202または補助記憶装置203には、制御プログラム210、設定情報220、処理データ220等が記憶される。補助記憶装置203には、診断結果データ240等が記憶される。処理データ220や診断結果データ240は、
図1の第1情報S1や第2情報S2を含む。処理データ220は、処理中に使用または生成された後述のスペクトル分析結果、包絡線信号、正規化信号等を含む。通信インタフェース装置204は、所定の通信インタフェースで外部との通信処理を行う。電流センサ205は
図1の電気情報検出部11を構成する。
【0045】
[処理フロー(1)]
図3は、診断装置10の特に診断部13による主な処理のフローを示す。
図3のフローはステップS101~S114を有する。ステップS101では、診断部13は、診断動作のフラグFを設定する。フラグFは、値0が停止、値1が開始を意味するとする。フラグFの設定は、例えばユーザが診断動作を開始したい場合に、操作部16のボタン操作等に基づいて、フラグFを値1に立てる場合が挙げられる。あるいは、診断装置10にタイマー機能を有する場合、タイマー機能を用いて、予め設定された時間毎に自動的にフラグFを値1に立てる場合が挙げられる。
【0046】
ステップS102では、診断部13は、フラグFの値が1(すなわち開始)の場合、ステップS103に進み、値が0(すなわち停止)の場合、フローを終了する。ステップS103では、診断部13は、電気情報検出部11からの電流信号E1であるアナログ信号をADCで変換してデジタル信号にする。このデジタル信号は、言い換えると、時系列上の検出電流データである。
【0047】
ステップS104では、診断部13は、上記検出電流データに基づいて、予め決められた単位時間TU(言い換えるとサンプリング時間)毎に、データとして単位時間データDUを取得・収集する動作を行う。単位時間データDUは、言い換えるとサンプリング電流値である。診断部13は、この動作を、予め決められた蓄積時間(TLとする)毎に、複数回の動作として繰り返す。
【0048】
図4は、検出電流データと各種の時間との関係を示す。
図4の(A)のグラフは、横軸が時間(時点をtとする)であり、縦軸が電流[A(アンペア)]である。時間401は、複数(m)の蓄積時間TLとして、蓄積時間TL1,TL2,……,TLmからなる時間を示す。なお、1つの蓄積時間TLの単位で、あるいは、所定の複数(m)の蓄積時間TLを1つの時間401とした単位で、後述の平均等の統計値が計算されてもよい。
【0049】
図4の(B)のグラフは、1つの蓄積時間TLでの拡大を示す。1つの蓄積時間TL内には、複数の単位時間TUを含む。単位時間TU毎の単位時間データDUとして、電流情報Ir(言い換えると電流値)を有する。すなわち、1つの蓄積時間TL内には、複数の単位時間データDUである複数の電流情報Irを有する。この蓄積時間TL毎のデータ毎に、後述の包絡線信号、正規化信号、スペクトルピーク等が計算される。
【0050】
ステップS105では、診断部13は、ステップS104で収集する蓄積時間TLでの各単位時間データDU(電流情報Ir)を、メモリ(
図2のメモリ202)に蓄積する。時系列上で、このような蓄積時間TL毎に、データの収集・蓄積等の処理が同様に繰り返される。
【0051】
[処理フロー(2)-包絡線検知処理]
ステップS106では、診断部13は、蓄積時間TLの電流情報Irについて、包絡線検知処理を行う。
図5は、ステップS106の包絡線検知処理について示す。ステップS106で、診断部13は、ステップS105で蓄積した単位時間データDUである電流情報Irを時系列で入力する。診断部13は、その電流情報Irに基づいて、包絡線検知処理を行い、包絡線信号IhLとして抽出する。
【0052】
図5の(A)は、包絡線信号IhLの例を示す。(A)のグラフは、横軸が時間、縦軸が電流である。線501は、包絡線信号IhLの例である。(A)では、
図4の1つの蓄積時間TLに対応するデータ分の包絡線信号を図示している。このような包絡線信号IhLは、図示のように周期変化する波となっており、回転機械4側の回転情報、特に回転周波数fcが表われている。診断部13は、このような包絡線検知によって、電動機3の検出電流から、回転機械4側の回転情報(すなわち回転周波数fcに対応する情報)を抽出できる。蓄積時間TL内での包絡線信号IhLは、最大値や最小値を有する。最大値をmax(IhL)とし、最小値をmin(IhL)とする。例として、最大値502a、最小値502bを示す。
【0053】
実施の形態1の例では、診断部13は、ステップS106の包絡線検知で、ヘテロダイン検波を行う。ヘテロダイン検波では、下記の式2に示すように、電流情報Irに、電動機3の電流周波数fmで変化する正弦波関数が乗算される。診断部13は、電動機3の電流周波数fmを用いて、正弦波関数を発生する。診断部13内の乗算器は、電流情報Irとその正弦波関数とを乗算する。電流情報Irのヘテロダイン検波後の電流情報を、検波後電流情報Ihとする。
式2: Ih=Ir×sin(2π×fm×t)
【0054】
ここで、電流情報Irが下記の式3に従うと仮定して説明する。式3で、Ioは電流振幅である。また、式3から、式2は、半角の公式を用いて、下記の式4のように変形できる。
式3: Ir={Io×sin(2π×fc×t)}×sin(2π×fm×t)
式4: Ih={Io×sin(2π×fc×t)}×(1-cos(2×2π×fm×t)/2
【0055】
診断部13は、式4の検波後電流情報Ihを、2×fm[Hz]の周波数成分を除去するようなローパスフィルタ(LPF)に通過させる。すると、下記の式5により、回転機械4の回転周波数fcで変化する包絡線信号IhLが得られる。
式5: IhL={Io×sin(2π×fc×t)}/2
【0056】
上記のように、診断部13は、ステップS106での包絡線検知処理によって、
図4の電流情報Irから、
図5の(A)のような回転周波数fcで表現される包絡線信号IhLに変換する。本例では、包絡線検知の際にヘテロダイン検波を適用したが、これに限らず、ヒルベルト変換等を同様に適用可能である。診断部13の各演算は、ソフトウェアプログラム処理で実現してもよいし、ハードウェア回路で実現してもよい。
【0057】
[処理フロー(3)-正規化処理]
続いて、
図3のステップS107では、診断部13は、電気情報(特に電流情報)の正規化処理を行う。ステップS107では、診断部13は、ステップS106で得た包絡線信号IhLに対し、正規化処理(特に包絡線信号正規化処理)を行うことで、包絡線正規化信号Istを取得する。実施の形態1で扱う「正規化」は、数学的な正規化であり、所定の範囲(例えば0から1までの範囲)の値に変換することである。
【0058】
図5の(B)は、ステップS107の正規化処理後の包絡線正規化信号Istの例を示す。線503は、包絡線正規化信号Istの例である。診断部13は、包絡線正規化信号Istの演算では、下記の式6を用いる。包絡線正規化信号Istは、時間(t)の関数であり、Ist(t)で表す。式6の演算は、包絡線信号IhLの電流値と最小値との差を、包絡線信号IhLの最大値と最小値との差によって除算することで、正規化する演算である。
式6: Ist(t)={IhL(t)-min(IhL)}/{max(IhL)-min(IhL)}
【0059】
式6の演算によって、
図5の(A)の包絡線信号IhL(線501)が、(B)の包絡線正規化信号Ist(線503)のように正規化される。(B)で、範囲504は、正規化における最小値0から最大値1までの範囲である。すなわち、包絡線正規化信号Istは、最小値0から最大値1までの範囲に正規化されたデータである。
【0060】
このように、診断部13は、各蓄積時間TL内で、各検出電流データに対し、正規化を含む処理を繰り返す。
図4の蓄積時間TL(TL1,TL2,……)毎に包絡線正規化信号Ist(Ist1,Ist2,……)が得られる。
【0061】
[処理フロー(4)-スペクトルピーク検出処理]
続いて、
図3のステップS108では、診断部13は、蓄積時間TL毎の包絡線正規化信号Istについて、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)によるスペクトル分析処理を行い、スペクトル分析結果であるスペクトラムを得る。次のステップS109では、診断部13は、ステップS108のスペクトラムに基づいて、スペクトルピーク検出処理を行う。診断部13は、蓄積時間TL毎に、スペクトルピーク値(Pとする)を検出する。
【0062】
図6は、ステップS109のスペクトルピーク検出処理について示す。
図6のグラフは、スペクトラムを示し、横軸は周波数[Hz]、縦軸は振幅[無次元量]である。
図6の(A)は、動力伝達機構6のベルト5に関する状態が正常状態である場合の例を示し、
図6の(B)は、異常状態である場合の例を示す。(A)で、スペクトルピーク601は、正常状態でのスペクトルピークを示し、ある周波数と振幅値で表される。スペクトルピーク601の周波数は、定格周波数として回転機械4の回転周波数fcが表われている。スペクトルピーク601の振幅値を振幅値a1で示す。前述のステップS106の包絡線信号IhLでは、回転機械4側の回転情報である回転周波数fcが抽出されている。その結果、(A)の正常状態におけるスペクトルピーク601の周波数は、その回転周波数fcの周波数帯と一致している。
【0063】
一方、(B)で、異常状態でのスペクトルピーク602は、ある周波数と振幅値で表される。本例では、異常状態でのスペクトルピーク602の周波数は、正常状態でのスペクトルピーク601の周波数、すなわち回転周波数fcと、同じ位置にある。異常状態でのスペクトラムでは、図示のように、スペクトルピーク602の回転周波数fcの付近の別の周波数の位置に、側帯波603が生じている。スペクトルピーク602の振幅値を振幅値a2で示す。
【0064】
なお、ステップS109でのスペクトルピークの検出範囲(対応する周波数範囲)は、予め設定された範囲として、回転機械4の回転周波数fcのとり得る範囲としてもよいし、その範囲のうちの一部の範囲としてもよい。その回転周波数fcの範囲は、電動機3の電流周波数fmおよびプーリー比(R1:R2)から式1に基づいて計算されてもよい。
【0065】
ここで、
図6の(A)と(B)を比較すると、(B)の異常状態でのスペクトルピーク602の振幅値a2は、(A)の正常状態でのスペクトルピーク601の振幅値a1よりも減少していることが確認できる。これは以下のような作用のためである。すなわち、ベルト5の伝達の異常がある場合、それによって、電動機3側の負荷に対応する駆動力が、回転機械4側に、適切・効率的には伝達されない。これにより、異常状態では、正常状態で観測される定格周波数である回転周波数fc以外での回転周波数が発現し、その回転周波数を含む周波数帯での側帯波603が観測される。その結果、スペクトルピーク602の振幅値a2がスペクトルピーク601の振幅値a1よりも減少する。振幅値a1,a2は、0から1までの範囲内の値である。
【0066】
診断部13は、ステップS109で、検出した蓄積時間TL毎のスペクトルピーク値Pのデータ(
図6のように周波数と振幅の情報を含む)を、メモリ(
図2)に保存する。なお、
図6の例では、1つの周波数である回転周波数fcにピークが出現した場合を示したが、これに限らず、実際の事例によっては複数の周波数に各ピークが出現する場合もある。その場合でも診断処理が同様に適用可能である。
【0067】
[処理フロー(5)-状態診断処理]
次に、ステップS110で、診断部13は、上記スペクトルピーク値Pのデータに基づいて、ベルト伝達異常度合いを表す第1情報S1の演算処理を行う。本例では、診断部13は、スペクトルピーク値P(周波数と振幅)と、設定された閾値H(すなわちスペクトルピーク閾値)とを比較し、第1情報S1の状態値を判定する。閾値Hは、ベルト伝達異常度合いを表す第1情報S1の判定に係わる閾値であり、特に振幅の閾値を含む。本例では、診断部13は、スペクトルピーク値Pが閾値H未満である場合(P<H)には、第1情報S1の値を0とし、スペクトルピーク値Pが閾値H以上である場合(P≧H)には、第1情報S1の値を1と判定する。実施の形態1での状態の定義では、第1情報S1は、値0または値1をとる。S1=0は正常状態、S1=1は異常状態である。スペクトルピーク値Pが閾値Hに近づくほど、第1情報S1の値が0(正常)に近づく値となり、異常度合いが小さい状態を表し、スペクトルピーク値Pが閾値Hから離れるほど、第1情報S1の値が1(異常)に近づく値となり、異常度合いが大きい状態を表す。
【0068】
図6の(C)は、上記判定に関する説明図を示す。あるスペクトルピーク値Pの振幅値をapとする。振幅の閾値をahとする。スペクトルピーク値Pの振幅値apが閾値ah以上の場合には、第1情報S1の値を0とし、スペクトルピーク値Pの振幅値apが閾値ah未満の場合には、値を1とする。
【0069】
次に、ステップS111では、診断部13は、第1情報S1を用いて、診断結果および報知に係わる第2情報S2の値を判定し、その値に応じた出力制御内容を決める。本例の第2情報S2の定義では、第2情報S2は、値0または値1をとる。S2=0は、正常であるため報知しないことを表し、S2=1は、異常に関する警告を報知することを表す。本例では、診断部13は、S1=0の場合にはS2=0とし、S1=1の場合にはS2=1とする。
【0070】
ステップS112では、診断部13は、上記S2=0の場合(N)にはステップS102へ戻り、S2=1の場合(Y)にはステップS113へ進む。ステップS102に戻った場合、同様の繰り返しである。ステップS113で、診断部13は、S1=1(異常)に対応する信号を表示装置14に送信することで、表示装置14の表示画面に、動力伝達機構6が異常状態であることを表す画像を表示させる。また、診断部13は、S2=1に対応する信号を報知装置15に送信することで、報知装置15から、動力伝達機構6が異常状態であることを警告する報知を出力させる。
【0071】
ステップS113では、診断部13は、診断終了処理を行うために、フラグFの値を0に設定し、これによりフローが終了する。
【0072】
[状態判定]
ステップS107の正規化処理後に、動力伝達機構6の状態をどのように判定するかの方法として、実施の形態1では、上記のように、スペクトルピーク値Pと一定の閾値Hとを比較して判定する方法を用いた。この方法の例には限定されず、各種の方法を適用可能である。他の方法の例としては、複数の閾値および対応する複数の範囲を用いて、第1情報S1の状態値として3値以上の状態値に分類する方法を用いてもよい。また、他の方法の例としては、さらに時間閾値を用いて、あるパラメータ値の状態が時間閾値以上の時間で継続した場合に、異常状態等の状態と判定する方法を用いてもよい。
【0073】
[画面例]
図7は、表示装置14での画面例として、回転機械システム100の動力伝達機構6の状態を表示する例を示す。
図1の動力伝達機構6を含む部分101毎に、管理上の識別情報(ID)が付与されている。そのID毎に、第1情報S1の状態値が表示される。診断装置10は、動力伝達機構6の状態がユーザU1に容易に認識できるように、状態値を表す画像を表示する。(A)の画面例では、S1=0の場合に、「正常」文字列画像が表示されている。診断装置10は、S1=0である限り、この「正常」状態の表示を継続する。(B)の画面例では、S1=1の場合に、「異常」文字列画像が表示されている。診断装置10は、第1情報S1の値が0から1に変わった場合には、この「異常」状態の表示に切り替える。なお、画面では、このような状態の表示に限らず、例えば、ユーザU1に対し保守作業等の対処を促すメッセージ等を出力してもよい。
【0074】
図7の(C)は、回転機械システム100において、診断対象となる動力伝達機構6を含む部分101が複数存在する場合に、それらの複数の部分101の各部分101の状態を並列に同時に診断する場合の表示例を示す。この場合でも、このシステムでは、複数の部分101の状態についての一括監視が可能である。(C)の画面例では、動力伝達機構6が4つ存在する場合であり、ID毎の第1情報S1の画像が並列で表示されている。例えば、ID=003を持つ動力伝達機構6の部分101のみが、S1=1として異常状態となっている。なお、表示通信14は、置き型のPCでもよいし、タブレットやスマートフォン等の情報端末を用いてもよい。その場合、診断装置10からそれらの情報端末へWi-Fi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等の通信インタフェースで通信を行ってもよい。
【0075】
[出力制御例]
他の出力制御例として以下としてもよい。診断装置10は、診断結果として例えば第1情報S1の値が1(異常)の場合、自動的に、
図1のスイッチ2に制御信号を与えることでスイッチ2をオフ状態に切り替えるように制御する。これにより、電動機3からの動力伝達機構6を通じた回転機械4の稼働を停止させる。また、診断装置10は、その停止の旨を表示装置14等で出力させ、ユーザU1に保守作業等の対処を促す。同様に、減速運転への移行の制御等も可能である。
【0076】
[他の画面例]
診断装置10は、他にも、表示装置14の表示画面に、
図4,
図5,
図6のようなグラフを表示してもよい。特に、
図5のような包絡線正規化信号Istが表示されてもよい。また、
図6のようなスペクトラムが、周波数、振幅、閾値H等の値とともに表示されてもよい。また、表示装置14の画面では、前述の設定部17を用いてユーザ設定が可能である。ユーザ設定では、判定方式(例えば各実施の形態の方式)の選択や、判定用の閾値の設定を可能とする。また、ユーザ設定では、診断実行のタイマー設定や、対象の回転機械4等の情報管理等を可能とする。また、ユーザ設定では、電動機3や回転機械4の負荷の変動の範囲の設定を可能とする。
【0077】
[効果等(1)]
上記のように、実施の形態1の診断装置10および診断方法によれば、電動機3および回転機械4の負荷の変動がある場合でも、動力伝達機構6に係わる異常等の状態、例えばベルト5による回転駆動力の伝達異常を、誤診断等を抑制または防止しつつ、高精度に診断できる。特に、実施の形態1によれば、最低限、電流センサがあればよく、電動機3や回転機械4の負荷を測定するセンサ等の追加設置は不要であるため、低コストで診断を実現できる。実施の形態1によれば、誤診断等を抑制して高精度に診断できるので、連続稼働時間が長い装置や、機構が複雑な装置であっても、定期メンテナンスによるダウンタイムコストを低減できる。
【0078】
従来技術例の回転機械システムの状態診断技術の場合、一定の閾値を用いて動力伝達機構の状態を診断する方式では、回転機械の負荷の変化には対応できず、誤判定等が生じる可能性が高い。誤判定に関する対策としては、負荷に応じて変動する閾値を設定する状態診断技術も考えられる。しかし、この技術の場合、各負荷に応じた適切な各閾値を設定する必要とともに、回転機械の負荷を測定するセンサ(例えば回転センサ)等の追加設置も必要である。また、そのセンサ等による負荷情報に基づいて、変動する負荷と閾値との対応関係を設定する閾値データテーブル、およびそのテーブルを記憶するメモリ資源等も必要になる。すなわち、この技術の場合、追加コスト増大や、メモリデータ量逼迫等を招く。
【0079】
実施の形態1によれば、回転機械システムの運転時に電動機3に供給される電流の検出に基づいて、回転機械4の負荷が変化する場合でも、同一のアルゴリズムで、動力伝達機構6の異常等の状態を検知することができる。この方式では、基本的に
図1のように電動機3への電流を検出して処理するだけで済み、回転機械4の負荷を計測するセンサ等の特別の手段の設置は不要である。また、このシステムでは、診断装置10が異常状態を検知した場合、即時に警告を報知することで、ユーザU1に対しベルト5等の異常の発生を伝えることができる。ユーザU1は、加工作業を行う作業者でもよい。また、報知等の出力は、診断装置10の近傍への出力に限らず、通信を介して遠隔の所定の場所や宛先への通知としてもよい。
【0080】
[効果等(2)]
図8~
図10を用いて、実施の形態1による作用効果についてより詳しく説明する。本システムでは、前述のように、電動機3側の電流情報の処理結果から回転機械4側の回転周波数fcが抽出でき、その情報を用いて動力伝達機構6の状態が判定できる。特に、実施の形態1では、包絡線正規化処理を経たスペクトルピークから回転周波数fcが抽出できる。このようなデータを用いることで、負荷変動がある場合でも、一定の閾値H等のアルゴリズムで、高精度の状態判定が可能である。
【0081】
負荷変動が発生する
図1の回転機械4において、実施の形態1のように
図3のステップS107での正規化処理がある構成の場合と、比較例としてその正規化処理が無い構成の場合とで、ステップS109で得られるスペクトルピーク値Pの変化について説明する。
【0082】
図8の(A)は、時間と共に回転機械4の負荷が単調に増加する回転機械システム(
図1での部分101)での負荷変動の例を示す。(A)のグラフは、横軸が時間、縦軸が回転機械4の負荷[無次元量]を示す。回転機械4の負荷の増加は、電動機3の回転仕事の増加と対応している。
【0083】
図8の(B)は、(A)のように回転機械4の負荷が増加する場合に、電気情報検出部11で検出される電流の例を示す。(B)のグラフで縦軸は電流[A]である。(B)のように、電動機3の回転仕事が増加することで回転機械4の負荷が増加し、回転機械4の負荷の増加とともに電流値のピークが増加することが分かっている。(B)中には蓄積時間TLの例も破線枠で示す。
【0084】
図9の(A)は、
図8の(B)の電流に対し、ステップS105で蓄積時間TL毎に繰り返してデータが収集されて、ステップS106で包絡線検知処理された結果を示す。(A)のグラフで縦軸は包絡線信号IhLの電流[A]である。このように、負荷が変動した場合では、包絡線検知後の電流値は、負荷と共に増加している。
【0085】
図9の(B)は、(A)の包絡線検知後の電流値に対し、ステップS108,S109の処理を行った際のスペクトルピーク値Pを示す。(B)のグラフでのスペクトルピーク値Pは、
図6のような周波数と振幅とで表されるスペクトルピークの先端部分を、時間軸の推移として表している。線901は、動力伝達機構6の正常状態の場合のスペクトルピーク値Pの推移を示す。線902は、異常状態の場合のスペクトルピーク値Pの推移を示す。グラフ中には、前述の閾値Hとして一定の振幅閾値を表す線903も示す。
【0086】
正常状態の線901と異常状態の線902とを比較すると、いずれの状態でも、負荷の増加と共にスペクトルピーク値Pが増加することが分かる。これでは、例えばステップS110で、第1情報S1の状態値に関する閾値Hを、図示の線903のように負荷に依らない一定値として設定する場合、以下のような恐れがある。すなわち、負荷によっては、実際に正常状態でも、例えば時点911のように、スペクトルピーク値Pが閾値Hを下回る場合があり、誤って異常状態と判定されてしまう。また、負荷によっては、実際に異常状態でも、例えば時点913のように、スペクトルピーク値Pが閾値Hを超える場合があり、誤って正常状態と判定されてしまう。また、負荷に応じて閾値Hを変更する構成とする場合、前述のように、負荷を計測するセンサ等の設置が必要で、コスト増大等を招く。
【0087】
次に、
図10を用いて、負荷変動が発生する回転機械4において、ステップS107の正規化処理がある場合について説明する。ここでも
図8の負荷が単調に増加する前提は同じであるとする。
図10の(A)は、
図8の(B)の電流に対し、ステップS105で収集した蓄積時間TL毎のデータを、ステップS106で包絡線検知し、ステップS107で正規化した結果を示す。(A)のグラフで、横軸は時間、縦軸は包絡線信号IhLの電流値である。この電流値は、正規化の作用によって、0から1までの範囲内の値をとっている。このように、予めステップS107で電流情報が所定の範囲内の値に正規化されているため、負荷が変動した場合でも、蓄積時間TL毎のデータ(図示の電流値)は、所定の範囲内に必ず収まる。
【0088】
ここで、
図8の(B)で示した電流の振幅(例えば電流振幅802)の情報は、ステップS107の正規化処理によって失われる。
【0089】
次に、
図10の(B)は、(A)の電流のデータに対し、ステップS108,S109の処理が行われた際のスペクトルピーク値Pを示す。線1001は、正常状態でのスペクトルピーク値Pの推移の例を示す。線1002は、異常状態でのスペクトルピーク値Pの推移の例を示す。線1003は、閾値Hとして一定の値(振幅閾値)の例を示す。
【0090】
ここで、図示のように、スペクトルピーク値Pは、正常状態と異常状態とのいずれの条件においても、0から1までの範囲内に振幅が収束している。線1001も線1002も、
図9の(B)とは異なり、一定の値に収束している。正常状態の線1001では、電動機3で発生した動力が動力伝達機構6を通じて効率良く伝達されるため、異常状態の線1002と比べて、高い値であることが確認できる。さらに、ステップS107で正規化処理がされているので、負荷が増大した場合でも、図示のようにスペクトルピークは増大していない。
【0091】
したがって、実施の形態1の診断装置10および診断方法では、
図3のステップS107の正規化処理を含む診断処理によって、回転機械4の負荷変動がある場合でも、動力伝達機構6の状態の診断が可能である。すなわち、
図10のように、前述の回転周波数fcが表れているスペクトルピーク値Pに対し、一定の閾値Hを用いた比較で、動力伝達機構6の状態の診断が可能である。
【0092】
実施の形態1で、正規化処理を行う対象となるデータおよびタイミングは、ステップS106の包絡線検知処理後のデータおよびタイミングとしており、また、所定の時間(蓄積時間TL)毎のデータ処理としている。これにより、処理データ量や処理時間を低減する効果も得られる。
【0093】
<実施の形態2>
図11~
図13を用いて、本発明の実施の形態2の診断装置および診断方法について説明する。実施の形態2等における基本的な構成は実施の形態1と同様であり、以下では、実施の形態2等における実施の形態1とは異なる構成部分について説明する。実施の形態2では、診断処理に関して、学習を用いる。
【0094】
[診断部-処理フロー]
図11は、実施の形態2の診断装置10における診断部13の診断処理のフローを示す。
図11は、ステップS201~S216を有する。
図11のフローのステップS203~S209,S210~S214は、
図3のフローのステップS103~S109,S110~S114と同様であり、異なるステップとして、ステップS201,S202,S215,S216を有する。
【0095】
ステップS201で、診断部13は、フラグFを設定する。実施の形態2でのフラグFは、値0が停止、値1が開始、値2が学習を示す。実施の形態2では、診断装置10での学習が可能であり、F=2は、その学習を行わせる場合(「学習モード」とする)の値である。ステップS202では、フラグFの値が1もしくは2の場合、ステップS203に進み、フラグFの値が0の場合には、フローを終了する。ステップS203~S209では、診断部13は、実施の形態1と同様の処理を行い、ステップS209の結果、スペクトルピーク値Pを得る。
【0096】
次に、ステップS215では、診断部13は、フラグFの値が2かどうか、つまり学習モードかどうかを確認する。F=2の場合にはステップS216に進み、F=1の場合にはステップS210に進む。
【0097】
ステップS216では、診断部13は、正常データ学習処理を行う。診断部13は、動力伝達機構6の状態が正常状態の時における、ステップS209の演算結果のスペクトルピーク値Pを、正常データとして学習する。学習に係わるデータはメモリに記憶される。ステップS216の後、フローの終了となり、同様に繰り返しである。ステップS216で、実施の形態2の例では、診断部13は、スペクトルピーク値Pの相加平均値を、正常データのスペクトルピークPhとしてメモリに保存する。この正常データのスペクトルピークPhは、下記の式7で演算される。Σは、スペクトルピーク値Pについての時刻t=0からnまでの総和である。Phはその総和をnで除算した値である。
式7: Ph={ΣP(t)}/n
【0098】
学習済みの場合、ステップS210では、学習データが参照される。診断部13は、ステップS216で学習済みの正常データのスペクトルピークPhと、ステップS209で得たスペクトルピーク値Pとを参照する。診断部13は、正常データのスペクトルピークPhと、スペクトルピーク値Pとから、ベルト5の伝達異常度合いを表す第1情報S1の状態値(S1(t)とする)を計算する。この場合の状態値S1(t)は、時点t毎の値であり、下記の式8で演算される。P(t)は、時点t毎のスペクトルピーク値Pである。
式8: S1(t)=1-P(t)/Ph
【0099】
次に、ステップS213では、診断部13は、第1情報S1の状態値S1(t)と、予め設定された閾値Hとの比較で、状態値S1(t)が閾値H未満の場合には正常状態と判定して、第2情報S2の値を0とし、状態値S1(t)が閾値H以上の場合には異常状態と判定して、第2情報S2の値を1とする。ステップS214で、S2=1の場合には、ステップS213で、診断部13は、異常状態を伝える警告を報知させる。ステップS214では、フラグF=0にされ、フローが終了する。
【0100】
[表示例]
図12は、実施の形態2における表示装置14の画面への出力例を示す。(A)は、現時点が正常状態の場合(S1<H)の画面例を示す。この画面では、現時点での「正常」状態を表す画像と、現時点までの状態の時系列上の遷移に係わるグラフとが表示されている。グラフは、横軸が時間(t)、縦軸が伝達異常度合いを表す第1情報S1の状態値であり、閾値Hを表す線も表示されている。(B)は、現時点が異常状態の場合(S1≧H)の画面例を示す。この画面では、現時点での「異常」状態を表す画像と、同様のグラフとが表示されている。ユーザU1は、
図12のような画面をみることで、第1情報S1の状態値(異常度合い)の推移を確認できる。診断装置10は、状態の変化に応じて画面表示内容をリアルタイムで更新する。複数台の回転機械4等の一括監視の場合にも、同様の表示が適用可能である。
【0101】
[効果等]
上記のように、実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果に加え、正常状態のデータの学習に基づいた異常状態の判定が可能であり、動力伝達機構6の異常度合い(状態値S1)を時系列で定量的にユーザU1へ提示可能である。これにより、劣化部品の交換等の保守点検作業をより容易にすることができる。
【0102】
<実施の形態3>
図13を用いて、本発明の実施の形態3について説明する。実施の形態3は、実施の形態2の変形例である。実施の形態2では、
図11のステップS210で、スペクトルピーク値Pと、スペクトルピーク値Pの相加平均値Phとから、第1情報S1の状態値を計算した。この第1情報S1の状態値の計算について、実施の形態3では、以下のように、マハラノビス距離を計算し、このマハラノビス距離をその状態値とする。
【0103】
[マハラノビス距離]
診断部13は、マハラノビス距離を計算するために、前述のステップS216の正常データ内における平均値、標準偏差、および相関行列を計算して、マハラノビス空間を作成する。正常データのスペクトルピーク値Pと、スペクトルピーク値Pに関連する状態量とを、行列Xで与えた場合、下記の式9で示される。式9の行列Xから、式10、式11のように、マハラノビス距離が計算される。マハラノビス距離をDで表すとする。Xmは状態量の平均値を表す。σは状態量の標準偏差を表す。Rは相関行列を表す。XmTはXmの転置行列を表す。
式9: X=[X1,X2,……,Xn]
式10: Xm=[(X1-Xm1)/σ1,(X2-Xm2)/σ1,……,(Xn-Xmn)/σn]
式11: D=√{1/n×XmR-1×XmT} (D≧0)
【0104】
実施の形態3での診断装置10の処理フローは
図11と同様である。ある程度の時間でステップS216での正常データの学習がされた場合(ステップS201でフラグF=2が入力されてから一定時間経過後にF=0となった場合)における、マハラノビス距離Dについて、以下に説明する。
【0105】
図13は、マハラノビス距離Dについての説明図である。
図13の(A)は、フラグF=2の入力の時点taからF=0となった時点tbまでの時間(すなわち学習時間)における、スペクトルピーク値Pの時系列データを示す。このグラフは、横軸が時間(t)、縦軸がスペクトルピーク値Pである。上側の点群は、正常状態での正常データ1301、下側の点群は、異常状態での異常データ1302を示す。異常データ1302は、正常データ1301と比較し、スペクトルピーク値Pが減少する。ここで、(A)のうち黒点で示すデータ1303を対象として、マハラノビス距離Dを計算する。
【0106】
図13の(B)は、スペクトルピーク値Pを標準偏差σで除した値(「基準化距離」と記載する)に対する、正常データ1311および異常データ1312の確率密度関数を示している。このグラフは、横軸が基準化距離(P/σ)[無次元量]、縦軸が確率密度[無次元量]である。正常データ1311は正常データ1301と対応し、異常データ1312は異常データ1302と対応している。平均1313は、正常データ1311の平均である。前述の式10および式11に基づいて、マハラノビス距離Dは、図示のように、正常データ1311の平均1313からの対象のデータ1303までの基準化距離(P/σ)、として定義できる。データ毎のマハラノビス距離Dを、伝達異常度合いを表す状態値として用いることができる。すなわち、マハラノビス距離Dが大きいほど、異常度合いが大きいことを表す。
【0107】
[効果等]
実施の形態3によれば、実施の形態2と同様の効果に加え、以下の効果を有する。負荷変動がある回転機械4、例えばスペクトルピーク値Pのデータ分散が大きい回転機械4の場合、まだ学習データが少ない状況だと、第1情報S1の状態値のばらつきも大きくなる。学習データを増やすことで、上記基準化距離およびマハラノビス距離Dが更新される。これにより、
図13の例のように正常データと異常データとの弁別がしやすくなり、すなわち診断精度が上がる。
【0108】
図13の例では、スペクトルピーク値P、特に相加平均値Phという一変数を用いた、一次元のマハラノビス距離について説明した。これに限らず、各種の状態量がセンサ等によって取得できる場合には、それらの複数の変数を用いた多次元のマハラノビス距離について、同様に計算でき、第1情報S1として用いることができる。
【0109】
<実施の形態4>
図14を用いて、本発明の実施の形態4について説明する。実施の形態4は、実施の形態1の変形例である。
図14は、実施の形態4の診断装置10を含む回転機械システム100の構成を示す。実施の形態4では、前述の診断装置10は、スイッチ2および電動機3に一体の部分として内蔵されるように実装されている。実施の形態4では、特に、診断装置10が、電動機3のコントローラ31の一部として実装されている。
【0110】
図14では、電動機3は、スイッチ部32、コントローラ31、およびモータ部33を有する。スイッチ部32の機能は前述のスイッチ2と同様である。スイッチ部32とコントローラ31とが一体で実装されてもよい。モータ部33は、三相誘導電動機を構成するロータおよびステータ等の機械構造部、言い換えると駆動部である。コントローラ31は、モータ部33の駆動を制御する部分である駆動制御部34を含み、例えばインバータ等の電力変換装置や、IC基板等で構成できる。そして、コントローラ31内には、前述の電気情報取得部11や診断部13が実装されている。スイッチ部32内に電気情報取得部11や診断部13が実装される構成も可能である。
【0111】
診断部13による診断処理の結果として、前述の第1情報S1や第2情報S2が出力される。これらの出力情報は、コントローラ31から通信を介して外部の表示装置14や報知装置15へ出力される。また、診断部13からは、第1情報S1や第2情報S2に応じた出力制御、例えば稼働停止や減速運転の制御の指示を、駆動制御部34に出力してもよい。駆動制御部34は、その指示に従って、モータ部33を駆動制御する。ユーザU1は、コントローラ31の外部の操作部16等からの操作によって、診断装置10の機能を利用する。
【0112】
上記のように、実施の形態4によれば、電動機3に一体で実装された診断装置10を用いて、動力伝達機構6の状態診断が可能であり、状態診断結果に応じて異常等に対処するための駆動制御も可能である。
【0113】
<実施の形態5>
図15を用いて、本発明の実施の形態5について説明する。実施の形態5は、実施の形態1,4の変形例である。
図15は、実施の形態5の診断装置10を含む回転機械システム100の構成を示す。実施の形態5では、前述の診断装置10は、通信装置50と診断サーバ500とで実装されている。通信装置50は、部分101に対し接続されている。診断サーバ500は、通信装置50に対し、通信網501を介して遠隔に配置されている。通信網501は、広域網またはLAN等である。
【0114】
通信装置50は、電動機3および動力伝達機構6を含む部分101に対し、例えば近接に配置されている。通信装置50は、電気情報検出部51と、電機情報格納部52と、通信部53とを有する。電気情報検出部51は、例えば実施の形態1と同様に、電源線1Lに対し検出用電線1Sを通じて接続されている。電気情報検出部51は、実施の形態1の電気情報検出部11と同様に、電流を検出する。また、電気情報検出部51は、アナログ電流信号をデジタル信号に変換するADC等を備える。
【0115】
電気情報格納部52は、電気情報検出部51で得た電気情報である検出電流のデータを、不揮発性メモリ等で構成されるメモリに格納し保持する。通信部53は、通信インタフェース装置を含み、電気情報格納部52に格納されている検出電流データを、通信網501を介して、診断サーバ500へ送信する。通信インタフェースは、Wi-Fi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等を適用できる。このデータの通信は、予め設定されたタイミングで自動実行されてもよいし、診断サーバ500側からの要求に応じて行われてもよい。
【0116】
診断サーバ500は、通信部54、電気情報取得部55、データベース(DB)56、および診断部13を備える。通信部54は、通信インタフェース装置を含み、通信網501を介して、通信装置50との通信処理を行う。通信部54は、通信装置50から、検出電流データを取得し、メモリまたはDB56に格納する。診断部13は、取得されたデータを用いて、実施の形態1等と同様に診断処理を行い、結果をDB56に格納するとともに、表示装置14や報知装置15から出力させる。ユーザU1は、操作部16または自分のPC等からの操作に基づいて診断サーバ500を利用し、回転機械システム100の動力伝達機構6の状態を認識できる。
【0117】
診断サーバ500は、同様に、1つの回転機械4を含む部分101に限らず、複数の部分101から、データを収集し、診断し、DB56に格納してもよい。診断サーバ500は、DB56の情報を用いて分析処理等を行ってもよい。ユーザU1は、適宜に、DB56の情報を表示装置14の画面で表示させて確認できる。
【0118】
上記のように、実施の形態5によれば、通信装置50に電気情報を一旦保持でき、遠隔の診断サーバ500で状態診断が可能である。通信装置50に電気情報を保持できるので、例えば通信網501の通信速度が遅い場合でも、電気情報検出部51の検出周波数を低減する必要は無い。また、電気情報検出部51を含む通信装置50と、診断部13を含む診断サーバ500とを完全に分離できるので、例えば保守点検者等のユーザU1が遠隔で動力伝達機構6の診断が可能であり、点検時の巻き込み事故や点検工数の削減が可能である。
【0119】
<実施の形態6>
図16,
図17を用いて、本発明の実施の形態6について説明する。実施の形態1等では、電動機3の電流周波数fmと回転機械4の回転周波数fcとの関係に基づいて動力伝達機構6の状態を診断する方式、特に、正規化処理を用いることで、負荷変動に対応できる状態診断方式を示した。それに対し、実施の形態6は、電動機3の電流周波数fmと回転機械4の回転周波数fcとの関係に基づいて、正規化処理を用いずに、負荷変動に対応できる状態診断方式を示す。実施の形態6では、推定の演算によって、回転機械4側の回転情報である回転周波数fcを推定回転周波数として得る。
【0120】
図16は、実施の形態6の診断装置10を含む回転機械システム100の構成を示す。診断装置10は、
図1の構成要素に加え、回転情報演算部12を有する。回転情報演算部12は、電気情報検出部11から電気情報である電流信号E1(またはデジタル化された検出電流データでもよい)を入力し、回転機械4側の回転情報を演算する。回転情報演算部12は、回転情報を含む処理結果情報を、診断部13に出力する。診断部13は、その情報を用いて、実施の形態1(
図3)とは詳細が異なる診断処理を行う。
【0121】
実施の形態6の診断装置10は、推定の演算によって、電動機3の推定回転速度(Efmとする)と、回転機械4の推定回転周波数(Efcとする)とを得る。推定回転速度Efmは、電流周波数fmと対応した推定情報である。推定回転周波数Efcは、回転周波数fcと対応した推定情報である。そして、診断部13は、推定回転速度Efmと推定回転速度Efmとの関係に基づいて、動力伝達機構6の状態を診断する。
【0122】
前述のように、動力伝達機構6のベルト5等の伝達が正常状態の場合、電動機3の電流周波数fmと回転機械4の回転周波数fcとの関係は、式1で表される。また、電動機3の電流周波数fmは、電動機3の回転速度に対応する回転周波数でもあり、電動機3に供給される交流電力の周波数やセンサよって事前に知ることができる。実施の形態1では、診断装置10は、電動機3の電流周波数fmのピークとは異なる周波数(回転機械4側の回転周波数fc)のピークを検出することで、そのピークの大きさの変化を監視または観察等し、状態を判定する。前述の
図6のスペクトルピーク値Pには、回転機械4の回転周波数fcが表れている。これにより、回転機械システムのうち代表的な構成要素である、ベルト5、プーリー(3P,4P)、電動機3、または回転機器4に、何らかの異常または兆候があることを、診断・検知することができる。
【0123】
しかしながら、回転機械4の負荷の変化によって、電流周波数fmのピークが大きくなる、または小さくなる場合(
図8,
図9)、電流周波数fmのピークに追随して、その電流周波数fmとは異なる周波数(fxとする)のピークが大きくまたは小さくなることが多い。このように周波数同士で追随する状態について、上記異なる周波数fxのピークのみを監視する技術の場合、回転機械システムが正常に稼働しているにもかかわらず、上記異なる周波数fxのピークが上昇しているために、異常または兆候の状態として誤判定され得る。
【0124】
また、上記異なる周波数fxのピークの大きさのみを監視する技術の場合、回転機械4に接続される負荷によっては、電流周波数fmのピークが下がるが、上記異なる周波数fxのピークが変化しないという場合もある。これは、ベルト5やプーリー(3P,4P)に異常が生じておらず、電動機3から回転機械4へ適切に回転駆動力が伝達されている場合である。この場合は、回転機械システムが正常に稼働しているにもかかわらず、上記異なる周波数fxのピークが上昇しているために、異常または兆候の状態として誤判定され得る。
【0125】
そこで、実施の形態6の診断装置10では、電気情報検出部11によって検出された電気情報である電流信号E1について、
図3のステップS106の包絡線検知とステップS107の正規化処理とを用いない処理方式で、部分101の異常等の状態を判定・検知する。これにより、実施の形態6では、実施の形態1と同様に電動機3の電流周波数fmと回転機械4の回転周波数fcとの関係を用いることは同じとして、異なる処理方式で、課題を解決できる。
【0126】
図16で、回転情報演算部12は、ソフトウェアプログラム処理またはハードウェア回路等で実現できる。回転情報演算部12は、電気情報検出部11が電源線1Lから計測した電気情報である電流信号E1を、所定の時間でサンプリングした電気情報を得る。回転情報演算部12は、その電気情報を時系列で並べた情報である検出電流データから、
図16中にも吹き出しで示すように、電動機3の電流周波数fmを特定する演算として、推定回転速度Efmの演算を行う。
【0127】
次に、回転情報演算部12は、その電流周波数fm(対応する推定回転速度Efm)のピークを基準として、その電流周波数fmとは異なる周波数fxのピークを比較する。回転情報演算部12は、上記異なる周波数fxとして、前述の回転周波数fcに対応する情報として、推定回転周波数Efcを演算する。
【0128】
つまり、実施の形態6の方式では、電流周波数fm(対応する推定回転速度Efm)のピークと、上記異なる周波数fx(対応する推定回転周波数Efc)のピークとを、相対値で比較する。そのため、電流周波数fmに対応する情報を基準として、上記異なる周波数fxに対応する情報を、比較することができる。
【0129】
この比較で用いる電流周波数fmのピークと上記異なる周波数fxのピークとしては、前述のスペクトルピーク値Pに限らず、これらの周波数(fm,fx)の周辺の周波数を平滑化した値を用いてもよい。
【0130】
これにより、実施の形態6では、上記異なる周波数fx(例えば回転周波数fc)のみを監視する技術の場合とは異なり、前述のように負荷の大きさに応じて電流周波数fmのピークの変化が生じた場合でも、電流周波数fmのピークの大きさを基準として、上記異なる周波数fxのピークを比較する。よって、回転機械4の負荷変動に対応して、異常や兆候等の状態を検知することができる。
【0131】
図17は、実施の形態6の補足として、負荷の大小に応じた、上記電流周波数fmのピークと上記異なる周波数fxのピークとの例を示す。(A)は、負荷が小さい場合の例であり、スペクトルピーク1701は、電流周波数fm、振幅値a11を有する。スペクトルピーク1702は、電流周波数fmに追随する、電流周波数fmとは異なる周波数fx、振幅値a12を有する。(B)は、負荷が大きい場合の例であり、スペクトルピーク1703は、電流周波数fm、振幅値a13(a13>a11)を有する。スペクトルピーク1704は、電流周波数fmに追随する、電流周波数fmとは異なる周波数fx、振幅値a14(a14>a12)を有する。(A)で、相対値1711は、スペクトルピーク1701とスペクトルピーク1702との振幅の差である。(B)で、相対値1712は、スペクトルピーク1703とスペクトルピーク1704との振幅の差である。診断装置10は、このようなピーク同志の比較の相対値を用いて、例えば閾値との比較で、動力伝達機構6の状態を判定する。
【0132】
[効果等]
上記のように、実施の形態6によれば、実施の形態1等と同様の効果が得られる。また、実施の形態6によれば、包絡線検知処理を用いないため、その分、計算量を小さくすることができ、例えば組み込み機器に用いられるマイコンへの実装が容易となる。
【0133】
また、実施の形態6で、診断精度をより向上させるために、取得した検出電流データにFFT処理を行った上で、上記電流周波数fmのピークと上記異なる周波数fxのピークとの比較をする構成も可能である。
【0134】
さらに、実施の形態6で、上記電流周波数fmのピークと上記異なる周波数fxのピークとに、移動平均や加重平均等の統計処理を行う構成としてもよい。この場合、回転機械4の負荷の変化に対する時間的な遅れに対応させて、異常等の状態の検知精度が向上する効果がある。例えば、診断装置10は、最新の電流周波数fmのピークのサンプリング値と前回以前の電流周波数fmのピークのサンプリング値との平均を計算する。診断装置10は、その平均と、最新の上記異なる周波数fxのピークのサンプリング値とを比較する。あるいは、診断装置10は、その平均と、最新の上記異なる周波数fxのピークと、前回以前の上記異なる周波数fxのピークとの平均とを比較してもよい。これらの構成は、回転機械システムに瞬時的な衝撃が与えられた場合や、AD変換の周辺または電源線1Lに電気的なノイズが生じた場合等に有効である。
【0135】
実施の形態6で用いる包絡線処理の例は以下である。診断装置10は、電気情報検出部11で測定した電流を時系列でプロットした検出電流データに対し、包絡線処理を行う。この包絡線処理によって、複数の周波数帯を有する合成波における各ピークを結ぶ曲線を描くことができる。そして、この包絡線処理後の波形では、合成波のそれぞれの周波数や信号によって生じる側帯波そのものの観察だけでなく、電気情報の全体像の観察が可能となる。なお、実施の形態6の方式は、実施の形態2の学習モードの機能でも同様に適用できる。
【0136】
[変形例]
上記実施の形態6は、包絡線検知処理を行わない構成例であるが、実施の形態6の変形例として、包絡線検知処理を用いる場合の構成例を説明する。前述の
図5の(A)の包絡線信号IhLに示すように、包絡線を検知または取得する処理が施された波形において、時間に対して繰り返し凸となる部分が、回転周波数fcに相当する。診断装置10は、回転周波数fcを考慮した所定の区間中のピークを、移動平均等の処理によって測定することで、回転周波数fcのピークを取得することができる。一方、所定の区間中における、回転周波数fcとは異なる周波数fxは、回転周波数fcの凸部分以外の波形の大きさとする。この異なる周波数fxの波形は、凸部分以外の波形を積分する処理や、所定のタイミングの大きさを移動平均等する処理によって得ることが可能である。
【0137】
診断装置10は、上記処理によって、回転周波数fcの波形とは異なる周波数fxの波形の情報を得ることができる。そして、診断装置10は、回転周波数fcの波形を基準として、上記異なる周波数fxの波形を比較する。すなわち、診断装置10は、回転周波数fcの波形と上記異なる周波数fxの波形との相対値をみる。これにより、この変形例でも、回転機械4の負荷変動に対応させて、異常や兆候等の状態を検知できる。
【0138】
以上、本発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は前述の実施の形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。各実施の形態を組み合わせた形態も可能である。本開示の技術は、動力伝達機構を含む回転機械システムに広く適用可能である。前述の各実施の形態では、診断装置10は、交流電源1から電動機3までの範囲からの電流の検出や計測に基づいて、電動機3側の電流周波数fmとの関係で、回転機械4側の回転周波数fcに対応する情報として回転情報を得る。そして、診断装置10は、この情報を用いることで、回転機械4に負荷変動がある場合でも、所定のアルゴリズムで、動力伝達機構6の状態を診断できる。上記回転情報を得る際には、前述のように、正規化処理、包絡線検知処理、推定演算、周波数変化(異なる周波数fx)等を利用できる。これに限らず、上記回転情報を得る処理であれば、適用可能である。例えば、
図5のような包絡線におけるピーク間隔の発生時間をカウントし、そのピーク間隔の発生時間から、回転機械4の推定回転周波数Efcを演算する方式等も適用可能である。
【符号の説明】
【0139】
1…交流電源、2…スイッチ、3…電動機、4…回転機械、3P…第1プーリー、4P…第2プーリー、5…ベルト、6…動力伝達機構、10…診断装置、11…電気情報検出部、13…診断部、14…表示装置、15…報知装置、100…回転機械システム、101…部分。