(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
H01L21/68 R
(21)【出願番号】P 2020180076
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】山本 考史
(72)【発明者】
【氏名】平中 絢子
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 敬太
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-109806(JP,A)
【文献】特開2013-247342(JP,A)
【文献】特開2017-157726(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065710(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面とを備える板状部材と、第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面とを備えるベース部材と、前記板状部材の前記第2の面と前記ベース部材の前記第3の面との間に配置され、前記板状部材と前記ベース部材とを接合する接合層と、を有し、前記板状部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記板状部材には、前記第1の面と前記第2の面を貫通する第1の貫通孔が形成され、
前記ベース部材には、前記第3の面と前記第4の面を貫通し、前記第1の貫通孔に連通する第2の貫通孔が形成されており、
前記第2の面に、前記第1の貫通孔の開口部周辺に凹部が設けられ、
前記接合層は、前記凹部の少なくとも一部に充填配置された他の部位よりも厚い厚層部を有
し、
前記凹部は、前記第1の貫通孔に向かって徐々に前記第1の面の方向に深くなるテーパ形状をなしており、
前記厚層部は、前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔とを連通させる第3の貫通孔が中央に形成された前記第1の面側に凸である
ことを特徴とする保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載する保持装置において、
前記板状部材は、内部に発熱抵抗体を有し、
前記発熱抵抗体は、前記板状部材と前記ベース部材との積層方向から見たときに、前記厚層部に重なるように配置されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する保持装置において、
前記ベース部材は、冷媒を流すための冷媒流路を備え、
前記冷媒流路は、前記板状部材と前記ベース部材との積層方向から見たときに、前記厚層部に重ならないように配置されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項4】
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面とを備える板状部材と、第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面とを備えるベース部材と、前記板状部材の前記第2の面と前記ベース部材の前記第3の面との間に配置され、前記板状部材と前記ベース部材とを接合する接合層と、を有し、前記板状部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記板状部材には、前記第1の面と前記第2の面を貫通する第1の貫通孔が形成され、
前記ベース部材には、前記第3の面と前記第4の面を貫通し、前記第1の貫通孔に連通する第2の貫通孔が形成されており、
前記第2の面に、前記第1の貫通孔の開口部を取り囲むように凹部が設けられ、
前記凹部は、前記第1の面の方向に深くなる形状をなしており、
前記接合層は、前記凹部の少なくとも一部に充填配置された他の部位よりも厚い厚層部を有し、前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔とを連通させる第3の貫通孔が中央に形成された前記第1の面側に凸であり、
第3貫通孔の直径は、前記第1の貫通孔の直径と同等である
ことを特徴とする保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象物を保持する保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
保持装置として、例えば、特許文献1に記載された静電チャックが知られている。この静電チャックは、対象物であるウエハを保持する静電チャック基板(セラミックス部材)と、冷却用のベースプレート(ベース部材)と、両部材を接合する接合層とを備えている。そして、静電チャック基板は、発熱抵抗体を内蔵している。また、このような静電チャックには、ウエハを静電チャック基板からリフトアップするためのリフトピンが挿入されるリフトピン孔や、静電チャック基板の表面(保持面)とウエハとの間にガスを充填するためのガス孔などの貫通孔が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような保持装置では、発熱抵抗体の露出を防止するために、貫通孔付近においては発熱抵抗体が貫通孔から少し離れた箇所(言い換えると、貫通孔を避けるよう)に配置されている。そのため、対象物を保持する保持面において、貫通孔周辺では、他の部位に比べて低温になり易い。そのため、保持面において、貫通孔周辺まで温度を均一化することが困難であった。
【0005】
そこで、本開示は上記した問題点を解決するためになされたものであり、対象物を保持する保持面において、貫通孔周辺まで温度を均一化することができる保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本開示の一形態は、
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面とを備える板状部材と、第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面とを備えるベース部材と、前記板状部材の前記第2の面と前記ベース部材の前記第3の面との間に配置され、前記板状部材と前記ベース部材とを接合する接合層と、を有し、前記板状部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記板状部材には、前記第1の面と前記第2の面を貫通する第1の貫通孔が形成され、
前記ベース部材には、前記第3の面と前記第4の面を貫通し、前記第1の貫通孔に連通する第2の貫通孔が形成されており、
前記第2の面に、前記第1の貫通孔の開口部周辺に凹部が設けられ、
前記接合層は、前記凹部の少なくとも一部に充填配置された他の部位よりも厚い厚層部を有し、
前記凹部は、前記第1の貫通孔に向かって徐々に前記第1の面の方向に深くなるテーパ形状をなしており、
前記厚層部は、前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔とを連通させる第3の貫通孔が中央に形成された前記第1の面側に凸であることを特徴とする。
【0007】
この保持装置では、板状部材の第2の面に、第1の貫通孔の開口部周辺に凹部が設けられており、接合層が凹部の少なくとも一部に充填配置された他の部位よりも厚い厚層部を有している。つまり、板状部材の貫通孔周辺に接合層の厚さが他の部位よりも大きい厚層部が設けられている。これにより、第1の面において低温になりやすい貫通孔周辺に、接合層の厚層部が配置される。そのため、厚層部によってベース部材と板状部材との熱伝達(ベース部材による冷却)が抑制されるので、貫通孔周辺の温度低下を抑制することができる。従って、第1の面において、貫通孔周辺まで温度を均一化することができる。
【0008】
また、ベース部材側ではなく板状部材側に厚層部を設けているため、ベース部材と板状部材との熱伝達がより抑制されるとともに、厚層部が第1の面により近い位置に配置される。そのため、第1の面において低温になりやすい貫通孔周辺の温度制御が容易になるので、第1の面の温度制御性を向上させることができる。
さらに、厚層部を、第1の貫通孔と第2の貫通孔とを連通させる第3の貫通孔が中央に形成された第1の面側に凸にすることにより、貫通孔周辺において、接合層に厚層部を簡単に形成することができる。また、厚層部の厚さが徐々に変化するため、第1の面における貫通孔周辺の温度分布に応じて厚さの変化率を調整することによって、第1の面において低温になりやすい貫通孔周辺の温度を更に均一化することができる。
【0009】
上記した保持装置において、
前記板状部材は、内部に発熱抵抗体を有し、
前記発熱抵抗体は、前記板状部材と前記ベース部材との積層方向から見たときに、前記厚層部に重なるように配置されていることが好ましい。
【0010】
このように、発熱抵抗体を、板状部材とベース部材との積層方向から見たときに、厚層部に重なるように配置することにより、発熱抵抗体からの熱がベース部材へ伝達され難くなる。その結果として、発熱抵抗体からの熱は、厚層部の上方(第1の面側)へ効率良く伝達される。従って、厚層部が配置されている貫通孔周辺の温度低下を抑制することができるため、第1の面において、貫通孔周辺まで温度をより均一化することができる。
【0011】
上記した保持装置において、
前記ベース部材は、冷媒を流すための冷媒流路を備え、
前記冷媒流路は、前記板状部材と前記ベース部材との積層方向から見たときに、前記厚層部に重ならないように配置されていることが好ましい。
【0012】
このように、ベース部材に備わる冷媒流路を、板状部材とベース部材との積層方向から見たときに、厚層部に重ならないように配置することにより、厚層部が冷却され難くなる。その結果として、厚層部が配置されている貫通孔周辺の温度低下を抑制することができるため、第1の面において、貫通孔周辺まで温度をより均一化することができる。
【0015】
上記課題を解決するためになされた本開示の別形態として、
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面とを備える板状部材と、第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面とを備えるベース部材と、前記板状部材の前記第2の面と前記ベース部材の前記第3の面との間に配置され、前記板状部材と前記ベース部材とを接合する接合層と、を有し、前記板状部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記板状部材には、前記第1の面と前記第2の面を貫通する第1の貫通孔が形成され、
前記ベース部材には、前記第3の面と前記第4の面を貫通し、前記第1の貫通孔に連通する第2の貫通孔が形成されており、
前記第2の面に、前記第1の貫通孔の開口部を取り囲むように凹部が設けられ、
前記凹部は、前記第1の面の方向に深くなる形状をなしており、
前記接合層は、前記凹部の少なくとも一部に充填配置された他の部位よりも厚い厚層部を有し、前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔とを連通させる第3の貫通孔が中央に形成された前記第1の面側に凸であり、
第3貫通孔の直径は、前記第1の貫通孔の直径と同等であることを特徴するものであってもよい。
【0016】
このようにすることにより、貫通孔周辺において、接合層に厚層部をより簡単に形成することができる。また、凹部がテーパ形状の場合と比べて厚層部の体積が大きくなるため、貫通孔に侵入したプラズマや腐食性ガスによる接合層の浸食を抑制し易くなる。これにより、接合層の保護性能と第1の面における温度均一性の両立を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、対象物を保持する保持面において、貫通孔周辺まで温度を均一化することができる保持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態の静電チャックの概略斜視図である。
【
図2】第1実施形態の静電チャックのXZ断面の概略構成図である。
【
図3】第1実施形態の静電チャックのXY平面の概略構成図である。
【
図5】第2実施形態の静電チャックのXZ断面の概略構成図である。
【
図6】第2実施形態の静電チャックのXZ断面の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
本開示に係る実施形態である保持装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態では、対象物である半導体ウエハWを保持する静電チャック1を例示して説明する。本実施形態の静電チャック1について、
図1~
図4を参照しながら説明する。
【0020】
本実施形態の静電チャック1は、半導体ウエハW(対象物)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば、半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウエハWを固定するために使用される。
図1に示すように、静電チャック1は、板状部材10と、ベース部材20と、板状部材10とベース部材20とを接合する接合層40とを有する。
【0021】
なお、以下の説明においては、説明の便宜上、
図1に示すようにXYZ軸を定義する。ここで、Z軸は、静電チャック1の軸線方向(
図1において上下方向)の軸であり、X軸とY軸は、静電チャック1の径方向の軸である。そして、Z軸方向は、本開示の「積層方向」の一例である。
【0022】
板状部材10は、
図1に示すように、円盤状の部材であり、材料としてはセラミックスを用いてもよい。セラミックスとしては、様々なセラミックスが用いられるが、強度や耐摩耗性、耐プラズマ性等の観点から、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al
2O
3)または窒化アルミニウム(AlN)を主成分とするセラミックスが用いられることが好ましい。なお、ここでいう主成分とは、含有割合の最も多い成分(例えば、体積含有率が90vol%以上の成分)を意味する。
【0023】
また、板状部材10の直径は、上段部が例えば150~300mm程度であり、下段部が例えば180~350mm程度である。板状部材10の厚さは、例えば2~6mm程度である。なお、板状部材10の熱伝導率は、10~50W/mK(より好ましくは、18~30W/mK)の範囲内が望ましい。また、板状部材10は、板状部材10の熱伝導率が接合層40の熱伝導率よりも高くなるように形成される。
【0024】
図1、
図2に示すように、板状部材10は、半導体ウエハWを保持する保持面11と、板状部材10の厚み方向(Z軸方向に一致する方向、上下方向)について保持面11とは反対側に設けられる下面12とを備えている。なお、保持面11は本開示の「第1の面」の一例であり、下面12は本開示の「第2の面」の一例である。
【0025】
板状部材10の保持面11は、凹凸形状をなしている。具体的には、保持面11には、
図2、
図3に示すように、その外縁付近に環状の環状凸部16が形成され、環状凸部16の内側に複数の独立した柱状の凸部17が形成されている。なお、環状凸部16は、シールバンドとも呼ばれる。環状凸部16の断面(XZ断面)の形状は、
図2に示すように、略矩形である。環状凸部16の高さ(Z軸方向の寸法)は、例えば、10μm~20μm程度である。また、環状凸部16の幅(X軸方向の寸法)は、例えば、0.5mm~5.0mm程度である。
【0026】
各凸部17は、
図3に示すように、Z軸方向視(平面視)で略円形をなしており、略均等間隔で配置されている。また、各凸部17の断面(XZ断面)の形状は、
図2に示すように、略矩形である。凸部17の高さは、環状凸部16の高さと略同一であり、例えば、10~20μm程度である。また、凸部17の幅(Z軸方向視での凸部17の最大径)は、例えば、0.5~1.5mm程度である。なお、板状部材10の保持面11における環状凸部16より内側において、凸部17が形成されていない部分は、凹部18となっている。
【0027】
そして、半導体ウエハWは、板状部材10の保持面11における環状凸部16と複数の凸部17とに支持されて、静電チャック1に保持される。半導体ウエハWが静電チャック1に保持された状態では、半導体ウエハWの表面(下面)と、板状部材10の保持面11(詳細には、保持面11の凹部18)との間に、空間Sが存在することとなる(
図2参照)。この空間Sには、後述するガス孔31を介して不活性ガス(例えば、ヘリウムガス)が供給されるようになっている。
【0028】
このような板状部材10には、保持面11と下面12との間を厚み方向(Z軸方向、
図2において上下方向)に貫通する円筒形状の第1貫通孔15a,15bが形成されている。そして、板状部材10の下面12には、第1貫通孔15aの開口部周辺に凹部13aが形成され、第1貫通孔15bの開口部周辺に凹部13bが形成されている。本実施形態の凹部13a、13bは、第1貫通孔15a,15bに向かって徐々に保持面11の方向に深くなるテーパ形状をなしている。
【0029】
また、板状部材10は、その内部にヒータ電極14(発熱抵抗体)を備えている。ヒータ電極14は、例えば、
図4に示すように、Z軸方向視で略螺旋状に延びるパターンを構成しており、導電性材料(例えば、タングステン、モリブデン、白金等)により形成されている。そして、ヒータ電極14は、Z軸方向視で第1貫通孔15a,15b付近において、ヒータ電極14が露出しないように第1貫通孔15a,15bを迂回して(第1貫通孔15a,15bから離れて)配置されている。また、ヒータ電極14は、Z軸方向視で後述する接合層40の厚層部42a,42bに重なるように配置されている(
図2参照)。
【0030】
なお、ヒータ電極14の線幅は、例えば、0.1~10mm程度、ヒータ電極14の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば、0.02~3mm程度である。このようなヒータ電極14に図示しない電源から電圧が印加されることによって、ヒータ電極14が発熱し、保持面11が加熱されることにより、保持面11の保持された半導体ウエハWが加熱される。
【0031】
ベース部材20は、
図1に示すように円柱状、詳しくは、直径の異なる2つの円柱が、大きな直径の円柱状の上面部の上に小さな直径の円柱状の下面部が載せられるようにして、中心軸Caを共通にして重ねられて形成された段付きの円柱状である。このベース部材20は、金属(例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等)により形成されていることが好ましいが、金属以外であってもよい。
【0032】
そして、
図1、
図2に示すように、ベース部材20は、上面21と、ベース部材20(板状部材10)の中心軸Ca(
図2参照)方向(すなわち、Z軸方向)について上面21とは反対側に設けられる下面22と、を備えている。なお、上面21は本開示の「第3の面」の一例であり、下面22は本開示の「第4の面」の一例である。
【0033】
ベース部材20の直径は、上段部が例えば150mm~300mm程度であり、下段部が例えば180mm~350mm程度である。また、ベース部材20の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば20mm~50mm程度である。なお、ベース部材20(アルミニウムを想定)の熱伝導率は、板状部材10よりも大きく、180~250W/mK(好ましくは、230W/mK程度)の範囲内が望ましい。
【0034】
また、
図2に示すように、ベース部材20には、冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)を流すための冷媒流路23が形成されている。この冷媒流路23は、Z軸方向視で凹部13a,13b(つまり、後述する接合層40の厚層部42a,42b)に重ならないように配置されている。そして、冷媒流路23は、ベース部材20の下面22に設けられた不図示の供給口と排出口とに接続しており、供給口からベース部材20に供給された冷媒が、冷媒流路23内を流れて排出口からベース部材20の外へ排出される。このようにして、ベース部材20の冷媒流路23内に冷媒を流すことにより、ベース部材20が冷却され、これにより、接合層40を介して板状部材10が冷却される。
【0035】
また、ベース部材20には、上面21と下面22との間を厚み方向(Z軸方向、
図2において上下方向)に貫通する円筒形状の第2貫通孔25a,25bが形成されている。なお、第2貫通孔25a,25bは、第1貫通孔15a,15bと同軸であり、第2貫通孔25a,25bの径が、第1貫通孔15a,15bの径より大きい。
【0036】
さらに、ベース部材20の第2貫通孔25a,25bには、貫通孔を有する絶縁性のスリーブを嵌合してもよい。このとき、第2貫通孔25a,25bは、ベース部材20の第2貫通孔ではなくスリーブの貫通孔を指す。
【0037】
接合層40は、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21との間に配置され、板状部材10とベース部材20とを接合している。この接合層40を介して、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21とが熱的に接続されている。
【0038】
この接合層40は、第1貫通孔15a,15bの周辺にて板状部材10の下面12に設けられた凹部13a,13bに充填配置された厚層部42a,42bと、厚層部42a,42bより厚さが薄い薄層部41を備えている。つまり、接合層40のうち凹部13a,13bに配置されたものが厚層部42a,42bであり、接合層40のうち凹部13a,13b以外に配置されたものが薄層部41となる。そして、厚層部42a,42bは、第1貫通孔15a,15bと第2貫通孔25a,25bとを連通させる第3貫通孔45a,45bが中央に形成された保持面11側に凸形状になっている。また、第1貫通孔15a,15bの周辺とは、静電チャック1の軸線方向視で、第1貫通孔15a,15bの外縁部から板状部材10の下面12の平面方向に10.0mm離れた地点までの領域を指す。
【0039】
接合層40は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着材により構成されている。なお、接合層40の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば0.1~1.0mm程度である。また、接合層40の熱伝導率は、例えば1.0W/mKである。なお、接合層40(シリコーン系樹脂を想定)の熱伝導率は、0.1~2.0W/mK(好ましくは、0.5~1.5W/mK)の範囲内が望ましい。
【0040】
また、接合層40には、上記のように、第1貫通孔15a,15bと第2貫通孔25a,25bとの間に位置する円筒形状の第3貫通孔45a,45bが形成されている(
図2参照)。つまり、本実施形態のように、第1貫通孔15a,15bの開口部が凹部13a,13bの内部に形成されている場合には、凹部13a,13bのうち、第1貫通孔15a,15bと第2貫通孔25a,25bとを連通する空間(第3貫通孔45a,45b)には、接合層40が配置されていない。
【0041】
なお、第3貫通孔45a,45bは、第1貫通孔15a,15b及び第2貫通孔25a,25bと同軸である。第3貫通孔45a,45bの直径は、第1貫通孔15a,15bよりも大きく、第2貫通孔25a,25bと同等である。第1貫通孔15a,15bと第3貫通孔45a,45bと第2貫通孔25a,25bとは、Z軸方向(静電チャック1の軸線方向)に連なって配置されている。
【0042】
そして、第1貫通孔15aと第3貫通孔45aと第2貫通孔25aとによって、静電チャック1をZ軸方向に貫通するリフトピン挿入孔30を形成している。このリフトピン挿入孔30には、半導体ウエハWを保持面11上から押し上げるリフトピン60が、ベース部材20の下面22側から挿入されている。このリフトピン60は、円柱形状(丸棒形状)をなしており、リフトピン挿入孔30内をZ軸方向に移動する。リフトピン60がZ軸方向の一方側(
図2では上側)に移動して、リフトピン60の先端部(上端部)が板状部材10の保持面11から外部に突出することで、保持面11上に載置されている半導体ウエハWを保持面11から離間させる(リフトピン60によって半導体ウエハWを持ち上げる)ようになっている。
【0043】
なお、本実施形態の静電チャック1では、リフトピン挿入孔30が3個形成されており、各々のリフトピン挿入孔30内にリフトピン60が挿入されている。なお、3個のリフトピン挿入孔30は、静電チャック1の周方向に等間隔で形成されている(
図3参照)。
【0044】
また、第1貫通孔15bと第3貫通孔45bと第2貫通孔25bとによって、静電チャック1をZ軸方向に貫通するガス孔31を形成している。このガス孔31は、不活性ガス(例えば、ヘリウムガス)が流通するガス流路である。これにより、ベース部材20の下面22側からガス孔31内に不活性ガス(例えば、ヘリウムガス)を供給することで、半導体ウエハWの下面と板状部材10の保持面11(凹部18)との間の空間S内に、この不活性ガスを充填することができるようになっている。
【0045】
ここで、静電チャック1に対する要望の1つとして、保持面11における温度の均一化がある。ところが、静電チャック1では、ヒータ電極14が第1貫通孔15a,15bから少し離れた箇所に配置されている(
図4参照)。そのため、保持面11において、第1貫通孔15a,15bの周辺では、ベース部材20による冷却が他の部位よりも促進される。その結果、第1貫通孔15a,15bの周辺が、他の部位に比べて低温になり易く、保持面11において、第1貫通孔15a,15bの周辺まで温度を均一化することができないおそれがある。また、第1貫通孔15a,15bから少し離れた箇所とは、静電チャック1の軸線方向視で、第1貫通孔15a,15bの外縁部から板状部材10の下面12の平面方向に1.0mm離れた地点から、第1貫通孔15a,15bの外縁部から板状部材10の下面12の平面方向に7.0mm離れた地点までの領域を指す。ヒータ電極14のうち第1貫通孔15a,15bに最も近い部分が、この領域内に配置されている。
【0046】
そこで、静電チャック1では、
図2に示すように、板状部材10の下面12に、第1貫通孔15a,15bの開口部周辺に凹部13a,13bを設け、その凹部13a,13bに接合層40の厚層部42a,42bを形成している。つまり、板状部材10の第1貫通孔15a,15bの周辺に厚層部42a,42bを設けている。これにより、接合層40の厚みが、第1貫通孔15a,15bの周辺が他の部分と比べて大きくなっている。
【0047】
そのため、厚層部42a,42bによって、ベース部材20と板状部材10との熱伝達(ベース部材20による冷却)が抑制される。従って、第1貫通孔15a,15b周辺の温度低下を抑制することができるので、保持面11において、第1貫通孔15a,15b周辺まで温度を均一化することができる。
【0048】
そして、厚層部42a,42bを、ベース部材20側ではなく板状部材10側に設けているため、ベース部材20と板状部材10との熱伝達がより抑制されるとともに、厚層部42a,42bが保持面11により近い位置に配置される。そのため、保持面11において低温になりやすい第1貫通孔15a,15b周辺の温度制御が容易になるので、保持面11における温度制御性を向上させることができる。さらに、板状部材10の熱膨張率がベース部材20の熱膨張率よりも小さい場合、板状部材10の方がベース部材20よりも温度変化による変形量が小さい。そのため、厚層部42a,42bをベース部材20側に設けたときに比べて、板状部材10側に設けた方が、厚層部42a,42bの変形を抑制することができるので、厚層部42a,42bの変形による保持面11の温度均一性の低下を抑制することができる。
【0049】
また、静電チャック1では、凹部13a,13bが保持面11の方向へ徐々に深くなるテーパ形状をなし、厚層部42a,42bが第1貫通孔15a,15bと第2貫通孔25a,25bとを連通させる第3貫通孔45a,45bが中央に形成された保持面11側に凸になっている。そのため、第1貫通孔15a,15bの周辺において、接合層40に厚層部42a,42bを簡単に形成することができる。そして、厚層部42a,42bの厚さが徐々に変化するため、保持面11における第1貫通孔15a,15b周辺の温度分布に応じて厚さの変化率を調整することにより、保持面11において低温になりやすい第1貫通孔15a,15b周辺の温度を更に均一化することができる。
【0050】
さらに、静電チャック1では、ヒータ電極14が、Z軸方向視で、厚層部42a,42bに重なるように配置されているため、ヒータ電極14からの熱がベース部材20へ伝達され難い。そのため、ヒータ電極14からの熱は、厚層部42a,42bの上方(保持面11側)へ効率良く伝達される。従って、厚層部42a,42bが配置されている第1貫通孔15a,15b周辺の温度低下を効果的に抑制することができるため、保持面11において、第1貫通孔15a,15b周辺まで温度をより均一化することができる。
【0051】
また、静電チャック1では、ベース部材20に備わる冷媒流路23を、Z軸方向視で、厚層部42a,42bに重ならないように配置されているため、厚層部42a,42bが冷却され難くなる。そのため、厚層部42a,42bが配置されている第1貫通孔15a,15b周辺の温度低下を抑制することができる。従って、保持面11において、第1貫通孔15a,15b周辺まで温度をより均一化することができる。
【0052】
以上のように、本実施形態の静電チャック1によれば、第1貫通孔15a,15bの周囲に凹部13a,13bを設け、凹部13a,13bに厚層部42a,42bを形成することにより、保持面11において、第1貫通孔15a,15b周辺まで温度を均一化することができる。
【0053】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施と基本的な構造は同じであるが、板状部材の下面に設ける凹部、及び接合層に備わる厚層部の各形状が、第1実施形態とは異なる。すなわち、第2実施形態では、凹部113a,113b、及び厚層部142a,142bがテーパ形状ではなく、円柱形になっている。そこで、第1実施形態と同様の構成については同符号を付して説明を適宜省略し、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0054】
本実施形態の静電チャック101では、
図5に示すように、板状部材110の下面12に設ける凹部113a,113bが、下面12に段差を作る沈め穴、本実施形態では円柱形の空間となっている。凹部113aは、第1貫通孔15aの開口部周辺に設けられ、凹部113bは、第1貫通孔15bの開口部周辺に設けられている。
【0055】
そして、これら凹部113a,113b内に接合層140が充填されて、厚層部142a,142bが形成されている。このように、第1貫通孔15a,15bの開口部周辺において、接合層140に厚層部142a,142bを非常に簡単に形成することができる。
【0056】
このように、静電チャック101では、
図5に示すように、板状部材110の下面12に、第1貫通孔15a,15bの開口部周辺に凹部113a,113bを設け、その凹部113a,113bに接合層140の厚層部142a,142bを形成している。つまり、板状部材110の第1貫通孔15a,15bの周辺に厚層部142a,142bを設けている。これにより、接合層140の厚みが、第1貫通孔15a,15bの周辺が他の部分と比べて大きくなっている。
【0057】
そのため、厚層部142a,142bによって、ベース部材20と板状部材110との熱伝達(ベース部材20による冷却)が抑制される。従って、第1貫通孔15a,15b周辺の温度低下を抑制することができるので、保持面11において、第1貫通孔15a,15b周辺まで温度を均一化することができる。
【0058】
また、厚層部142a,142bを、ベース部材20側ではなく板状部材110側に設けているため、ベース部材20と板状部材110との熱伝達がより抑制されるとともに、厚層部142a,142bが保持面11により近い位置に配置される。そのため、保持面11において低温になりやすい第1貫通孔15a,15b周辺の温度制御が容易になるので、保持面11における温度制御性を向上させることができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、凹部が第1実施形態のようにテーパ形状の場合と比べて、厚層部142a,142bの体積が大きくなるため、静電チャック101の使用中に、第1貫通孔15a,15bに侵入したプラズマや腐食性ガスによる接合層140の浸食を抑制し易くなる。従って、接合層140の保護性能と保持面11における温度均一性の両立を図ることができる。
【0060】
以上のように、本実施形態の静電チャック101でも、第1貫通孔15a,15bの周囲に凹部113a,113bを設け、凹部113a,113bに厚層部142a,142bを形成することにより、保持面11において、第1貫通孔15a,15b周辺まで温度を均一化することができる。
【0061】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本開示を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記の実施形態では、本開示を静電チャックに適用した場合を例示したが、本開示は、静電チャックに限られることなく、表面に対象物を保持する保持装置全般について適用することができる。
【0062】
また、上記第2実施形態では、板状部材110の下面12に設けられた凹部113a,113b内に、第1貫通孔15a,15bが形成されているが、凹部113a,113bと第1貫通孔15a,15bとの配置位置はこれに限られない。すなわち、凹部113a,113bは第1貫通孔15a,15bの周囲に設けられていればよく、例えば
図6に示すように、凹部113a,113bが形成された部位で凹部113a,113bに近接して第1貫通孔15a,15bが配置されていてもよい。このような場合でも、第1貫通孔15a,15b周辺の温度低下を抑制することができるため、保持面11において第1貫通孔15a,15b周辺まで温度を均一化することができる。
【0063】
また、上記の実施形態では、厚層部42a,42b,142a,142bは、ベース部材20の上面21から凹部13a,13b,113a,113bの上面に接するまで接合層40を充填して形成しているが、厚層部42a,42b,142a,142bは、薄層部41,141よりも厚ければよく、接合層40が凹部13a,13b,113a,113bの上面に接しないように充填され形成されていてもよい。さらに、温度分布に応じて、厚層部42a,42b,142a,142bは、第1貫通孔15a,15bまたは第2貫通孔25a,25bの側面と同一面にならないように充填してもよい。これにより、第3貫通孔45a,45bに空間が生じて断熱層となるため、板状部材10から熱が逃げにくくなり、第1貫通孔15a,15b周辺の温度低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 静電チャック
10 板状部材
11 保持面
12 下面
13a 凹部
13b 凹部
14 ヒータ電極
15a 第1貫通孔
15b 第1貫通孔
20 ベース部材
21 上面
22 下面
23 冷媒流路
25a 第2貫通孔
25b 第2貫通孔
40 接合層
42a 厚層部
42b 厚層部
101 静電チャック
110 板状部材
113a 凹部
113b 凹部
140 接合層
142a 厚層部
142b 厚層部
W 半導体ウエハ