(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】タイヤ試験機の路面部形成方法及びタイヤ試験機
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20241210BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
(21)【出願番号】P 2020204182
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】井上 寛治
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-083812(JP,A)
【文献】特開平06-129951(JP,A)
【文献】特開2010-054316(JP,A)
【文献】特開2008-196912(JP,A)
【文献】特開2006-300725(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0301183(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/02
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状体からなる路面部のうち空気入りタイヤが転動する走行面に貼着する複数のシート片を、前記走行面の周方向の全長である周長よりも短い長さで形成し、かつ、前記周方向の両端に形成される一対の切断縁が、前記走行面上において前記周方向に対して傾斜するように形成し、
前記走行面の全周にかけて前記シート片を並べて貼り付け、前記複数のシート片からなる接地シートを備える前記路面部を形成する、
タイヤ試験機の路面部形成方法。
【請求項2】
前記周方向の最大長さ(Lb)が250cm以下になるように前記複数のシート片を形成する、請求項1に記載のタイヤ試験機の路面部形成方法。
【請求項3】
前記一対の切断縁が同じ傾斜角度になるように、前記シート片を形成する、請求項1又は2に記載のタイヤ試験機の路面部形成方法。
【請求項4】
前記一対の切断縁が前記周方向に重複しない寸法で、前記シート片を形成する、請求項3に記載のタイヤ試験機の路面部形成方法。
【請求項5】
前記一対の切断縁のうち前記シート片の前記周方向中央側に位置する内端間の前記周方向の長さ(Lc)が、前記空気入りタイヤの接地長よりも長くなるように、前記シート片を形成する、請求項3又は4に記載のタイヤ試験機の路面部形成方法。
【請求項6】
前記切断縁の前記周方向の長さ(Ld)が、前記空気入りタイヤの接地長よりも長くなるように、前記シート片を形成する、請求項3から5のいずれか1項に記載のタイヤ試験機の路面部形成方法。
【請求項7】
前記一対の切断縁間の前記周方向の長さ(La)
が前記空気入りタイヤの接地長よりも長くなるように
、前記複数のシート片を形成する
、請求項1から6のいずれか1項に記載のタイヤ試験機の路面部形成方法。
【請求項8】
前記周方向の長さ(La)が同じになるように前記複数のシート片を形成する、請求項1から7のいずれか1項に記載のタイヤ試験機の路面部形成方法。
【請求項9】
前記路面部に貼着された前記複数のシート片のうち、損傷したシート片のみを剥がし、
前記路面部のうち前記シート片を剥がした部分に、予め形成された損傷していない未使用のシート片を貼り付ける、
請求項1から8のいずれか1項に記載のタイヤ試験機の路面部形成方法。
【請求項10】
回転可能な無端状体であって、空気入りタイヤが転動する走行面を有する路面部と、
前記走行面の全周にかけて貼着された接地シートと
を備え、
前記接地シートは、前記路面部の周方向に分割した複数のシート片によって構成され、
前記シート片の前記周方向の両端に形成される一対の切断縁は、前記走行面上において前記周方向に対して傾斜している、
タイヤ試験機。
【請求項11】
前記シート片の前記周方向の両端に形成される一対の切断縁間の前記周方向の長さ(La)は、前記空気入りタイヤの接地長よりも長い
、請求項10に記載のタイヤ試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ試験機の路面部形成方法及びタイヤ試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、路面部を構成する回転ドラムの外面に実路面を再現するための接地シートが貼り付けられたタイヤ試験機が開示されている。接地シートには所定粗さの研磨紙が用いられている。接地シートは、連続した一枚の研磨紙を全周にかけて貼り付けることで構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
試験時、接地シートは、空気入りタイヤから強い負荷が加わると、破れたり損傷したりすることがある。接地シートは一部でも破れや破損が生じると貼り替える必要があるが、張力をかけた状態で路面部全周にわたって接地シートを貼り付ける作業は容易でない。このような接地シートの貼り付け作業性について、特許文献1では何も考慮されていない。
【0005】
本発明は、タイヤ試験機において、実路面を再現するための接地シートの貼り付け作業性を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、無端状体からなる路面部のうち空気入りタイヤが転動する走行面に貼着する複数のシート片を、前記走行面の周方向の全長である周長よりも短い長さで形成し、かつ、前記周方向の両端に形成される一対の切断縁が、前記走行面上において前記周方向に対して傾斜するように形成し、前記走行面の全周にかけて前記シート片を並べて貼り付け、前記複数のシート片からなる接地シートを備える前記路面部を形成する、タイヤ試験機の路面部形成方法を提供する。
【0007】
本態様では、接地シートが複数のシート片に分割されている。そのため、試験中に強い力が接地シートに加わって、一部のシート片に破れや損傷が生じたとしても、路面部の修復は破れや損傷が生じたシート片のみを貼り替えるだけよい。しかも、分割したシート片は短尺になるため、貼り付け作業性を向上できる。また、貼り替え範囲と貼り替え時間を最小限に抑えることができるため、試験に関する稼働時間を増やすことができる。
【0008】
本態様では、シート片の両端の切断縁が傾斜しているため、路面部の周方向に対して空気入りタイヤを傾斜させたスリップ角付与状態での試験時、隣り合うシート片の切断縁を突き合わせたジョイント部に加わるせん断力を低減できる。よって、ジョイント部からシート片が剥がれることを抑制できる。
【0009】
前記周方向の最大長さ(Lb)が250cm以下になるように前記複数のシート片を形成する。
【0010】
本態様では、シート片の最大長さが250cm以下である。そのため、予め形成したシート片の保管スペースを削減でき、平坦に延ばした状態で保管できる。しかも、作業員が取り扱うには最適な寸法であるため、路面部に対して張力をかけた状態でシート片を確実に貼り付けることができる。
【0011】
前記一対の切断縁が同じ傾斜角度になるように、前記シート片を形成する。
【0012】
本態様では、一対の切断縁の傾斜角度が同じであるため、予め形成したシート片の保管性を向上できる。また、貼り付け時、所定のシート片の選択は必要ないうえ、誤った姿勢でシート片を配置することはないため、貼り付け作業性を向上できる。
【0013】
前記一対の切断縁が前記周方向に重複しない寸法で、前記シート片を形成する。
【0014】
本態様では、シート片は両端の切断縁が路面部の周方向に重複しない寸法設定であるため、両端の切断縁に跨がって空気入りタイヤが接地することを抑制できる。その結果、空気入りタイヤからの負荷によって隣り合う2枚以上のシート片が同時に破れたり損傷したりすることを抑制できる。
【0015】
前記一対の切断縁のうち前記シート片の前記周方向中央側に位置する内端間の前記周方向の長さ(Lc)が、前記空気入りタイヤの接地長よりも長くなるように、前記シート片を形成する。
【0016】
本態様では、一対の切断縁それぞれの内端のうち一方から他方までの長さが空気入りタイヤの接地長よりも長いため、両端の切断縁に跨がって空気入りタイヤが接地することを防止できる。その結果、空気入りタイヤからの負荷によって隣り合う2枚のシート片が同時に破れたり損傷したりすることを防止できる。
【0017】
前記切断縁の前記周方向の長さ(Ld)が、前記空気入りタイヤの接地長よりも長くなるように、前記シート片を形成する。
【0018】
本態様では、切断縁の周方向の長さが空気入りタイヤの接地長よりも長いため、隣り合うシート片の切断縁を突き合わせたジョイント部は、空気入りタイヤの接地領域から路面部の周方向に突出し、空気入りタイヤから負荷を受けない部分を有する。よって、ジョイント部からシート片が剥がれることを抑制できる。
【0019】
前記一対の切断縁間の前記周方向の長さ(La)が前記空気入りタイヤの接地長よりも長くなるように、前記複数のシート片を形成する。
【0020】
前記周方向の長さ(La)が同じになるように前記複数のシート片を形成する。
【0021】
本態様では、シート片が1種のみであるため、シート片を形成する際の作業性を向上できる。また、路面部にシート片を貼り付けて接地シートを新規に形成する際、及び所定のシート片を貼り替える際の作業性を向上できる。
【0022】
前記路面部に貼着された前記複数のシート片のうち、損傷したシート片のみを剥がし、前記路面部のうち前記シート片を剥がした部分に、予め形成された損傷していない未使用のシート片を貼り付ける。
【0023】
本発明の他の態様は、回転可能な無端状体であって、空気入りタイヤが転動する走行面を有する路面部と、前記走行面の全周にかけて貼着された接地シートとを備え、前記接地シートは、前記路面部の周方向に分割した複数のシート片によって構成され、前記シート片の前記周方向の両端に形成される一対の切断縁は、前記走行面上において前記周方向に対して傾斜している、タイヤ試験機を提供する。
また、前記シート片の前記周方向の両端に形成される一対の切断縁間の前記周方向の長さ(La)は、前記空気入りタイヤの接地長よりも長い。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、タイヤ試験機において、実路面を再現するための接地シートの貼り付け作業性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るタイヤ試験機の平面図。
【
図3】
図1のIII-III線で切断した部分の一部の断面図。
【
図4】接地シートを構成するシート片の製造方法を示す斜視図。
【
図6A】接地シートと空気入りタイヤの関係を示す概略図。
【
図6B】接地シートとスリップ角を付与した空気入りタイヤとの関係を示す概略図。
【
図7A】第2実施形態の接地シートと空気入りタイヤの関係を示す概略図。
【
図7B】第2実施形態の接地シートとスリップ角を付与した空気入りタイヤとの関係を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0027】
(第1実施形態)
図1及び
図2は、本発明の第1実施形態に係るタイヤ試験機10を示す。このタイヤ試験機10は、空気入りタイヤ1の摩耗特性やコーナリング特性を確認するための装置である。空気入りタイヤ1は、一般の乗用自動車用であってもよいし、トラック又はバス用であってもよい。以下の説明では、空気入りタイヤ1を単にタイヤと言うことがある。
【0028】
図1及び
図2を参照すると、タイヤ試験機10は、タイヤ1を支持する支持装置15と、タイヤ1を転動させる転動装置20とを備える。本実施形態では、転動装置20を構成するベルト(路面部)23に対する接地シート26の貼り付け作業性を改善する。
【0029】
支持装置15は、タイヤ1を回転可能に支持する支持部16と、タイヤ1に対して所定の接地荷重を加えるための荷重付与部17とを備える。
【0030】
支持部16は、回転軸A1まわりにタイヤ1を回転可能に支持する部材であり、いわゆる車軸として機能する。支持部16には、ホイール2に装着されたタイヤ1が着脱可能に取り付けられる。
【0031】
荷重付与部17は、転動装置20に対してタイヤ1を所定圧力で配置するための機構である。本実施形態の荷重付与部17は、転動装置20に対して支持部16を接近及び離反する方向(
図2において上下方向)へ移動させ、転動装置20上にタイヤ1を載置する。また、荷重付与部17は、接地荷重の他に、タイヤ1に対して回転駆動力、制動力及びスリップ角を付与することもできる。
【0032】
転動装置20は、2つのローラ21A,21Bと、これらのローラ21A,21Bに跨って取り付けられた無端状体であるベルト23と、ベルト23に貼着された接地シート26とを備える。
【0033】
ローラ21Aはモータ22Aに機械的に接続され、ローラ21Bはモータ22Bに機械的に接続されている。ローラ21Aの回転軸A2とローラ21Bの回転軸A3は、支持部16の回転軸A1に対して平行に延びている。モータ22A,22Bによってローラ21A,21Bは、それぞれ同方向(
図2において時計回り)に回転駆動される。モータ22A,22Bは、図示しない制御装置によって所定の回転速度に制御される。但し、2つのローラ21A,21Bのうち、一方のみがモータによって回転駆動され、他方はベルト23を介して従動回転されてもよい。
【0034】
ベルト23は、タイヤ1が転動する路面部であり、2つのローラ21A,21B間に巻き付けられ、ローラ21A,21Bの回転によって周回(回転)する。
【0035】
ベルト23には、ローラ21A,21Bに対して非接触状態となる平面部23a,23bと、ローラ21A,21Bに対して接触状態となる湾曲部23c,23dとが形成される。ベルト23のうち、平面部23a,23b及び湾曲部23c,23dとなる部位は、周回によって順次遷移する。
【0036】
ベルト23は、少なくともタイヤ1が圧接される面がステンレスからなるスチールベルトによって構成されている。本実施形態では、上側に位置する平面部23aの外面23eにタイヤ1が圧接され、ベルト23の回転に伴ってタイヤ1が所定回転数で転動する。つまり、ベルト23の外面23eが、タイヤ1が転動する走行面である。但し、タイヤ試験機10は、平面部23a又は23bの内面23fにタイヤ1が圧接される構成であってもよい。
【0037】
接地シート26は、所定の粗さ(例えば番手が#120)を有する研磨布からなり、ベルト23の外面23eの全周にかけて貼着されている。
【0038】
図3を参照すると、接地シート26は、シート本体26aと、シート本体26aの外面に設けられた研磨部26bと、シート本体26aの内面に設けられた接着部26cとを備える。研磨部26bは、シート本体26aに研磨材を付着することで形成されている。接着部26cは、接着剤をシート本体26aに付着させることで形成されている。接着部26cには両面テープを用いてもよい。接地シート26(シートロール25)には、例えば3M社製のセーフティ・ウォーク(登録商標)を用いることができる。
【0039】
図1を参照すると、接地シート26は、ベルト23の幅方向Wの中央領域に貼着されている。ベルト23の幅方向Wは、ベルト23上においてベルト23の周方向Cに対して直交する方向であり、ローラ21A,21Bの回転軸A2,A3が延びる方向と同じである。接地シート26の幅方向もベルト23の幅方向Wと同じ方向である。接地シート26の幅W1は、ベルト23の幅W0よりも小さく、タイヤ1の幅W2よりも大きい。例えば、ベルト23の幅W0は100cmであり、接地シート26の幅W1は、ベルト23の幅W0の0.7倍以上0.9倍以下の範囲に設定され、本実施形態では50cmである。幅W2は、タイヤ1の種類によって異なる。
【0040】
図1及び
図2を参照すると、接地シート26は、ベルト23の周方向Cに分割した複数のシート片27によって構成されている。
図1では、3枚のシート片27によって接地シート26が構成されている。
【0041】
図4を参照すると、個々のシート片27は、渦状に巻回されたシートロール25を、定められた長さLaに切断して形成されている。つまり、接地シート26は、シートロール25を切断した複数のシート片27を、ベルト23の全周にわたって並べて貼り付けることで形成されている。シート片27の周方向長さLaは接地シート26の周長よりも短い。
【0042】
図5を参照すると、シート片27は、
図5において上下両側に位置する一対の側縁27aと、
図5において左右両端に位置する切断縁27b,27cとで画定されている。
【0043】
一対の側縁27aは、シートロール25(
図4参照)の繰り出し方向に直交する方向の両側縁に対応し、平行に延びている。一対の側縁27a間の寸法であるシート片27の幅W1は、
図1に示す接地シート26の幅W1と同じである。
【0044】
切断縁27bは、切断縁27cよりも先に切断され、シートロール25(
図4参照)の繰り出し方向前側に位置する傾斜縁である。切断縁27cは、切断縁27bの後に切断され、シートロール25(
図4参照)の繰り出し方向後側に位置する傾斜縁である。シート片27は、シート片27の長さ方向Xがベルト23の周方向Cに対応するように貼り付けられる。切断縁27b,27cは、ベルト23上においてベルト23の周方向Cに対して傾斜し、それぞれ直線状に延びている。
【0045】
切断縁27bの傾斜角度θ1と切断縁27cの傾斜角度θ2とはいずれも同じ値であり、シート片27は全体として平行四辺形状を呈する。ここで、傾斜角度θ1は、側縁27aと切断縁27bとがなす小さい方の角度として定義され、傾斜角度θ2は、側縁27aと切断縁27cとがなす小さい方の角度として定義される。これらの傾斜角度θ1,θ2は、シート片27の幅W1と、長さ方向Xにおける切断縁27b,27cの周方向長さLdとによって算出できる。
【0046】
切断縁27bは、シート片27の長さ方向Xの中央側に位置する内端27dと、シート片27の長さ方向Xの外側に位置する外端27eとを有する。切断縁27cは、シート片27の長さ方向Xの中央側に位置する内端27fと、シート片27の長さ方向Xの外側に位置する外端27gとを有する。
【0047】
図5において、Laはシート片27の周方向長さを示し、Lbはシート片27の最大長さを示し、Lcは切断縁27b,27cの内端27d,27f間の周方向長さを示し、Ldは個々の切断縁27b,27cの周方向長さを示している。周方向長さLaは、一対の切断縁27b,27c間の寸法、つまり側縁27aの全長として定義される。最大長さLbは、切断縁27bの外端27eから切断縁27cの外端27gまでの長さ方向Xの寸法、つまりシート片27の全長として定義される。周方向長さLcは、切断縁27bの内端27dから切断縁27cの内端27fまでの長さ方向Xの寸法、つまりシート片27のうち切断縁27b,27cが存在しない部分の長さ方向Xの寸法として定義される。切断縁27b,27cの周方向長さLdは、切断縁27b,27cそれぞれの内端27d,27fから外端27e,27gまでの長さ方向Xの寸法として定義される。
【0048】
複数のシート片27の周方向長さLaは、全て同じ寸法である。例えば、ベルト23の周長が400cmの場合、
図1のように3枚のシート片27によって接地シート26が構成され、個々のシート片27の周方向長さLaはベルト23の周長を三等分した寸法で形成される。
【0049】
接地シート26を構成するシート片27の数は、2以上であれば必要に応じて変更が可能であるが、シート片27の保管性と貼り付け作業性を考慮すると、シート片27の最大長さLbは250cm以下とすることが好ましい。
【0050】
ここで、
図4に示すシートロール25を切断した直後のシート片27には、ロール状に戻るような癖が付いている。この癖は、シートロール25の残量が少なくなり、直径が小さくなるほど大きくなる。このような癖はシート片27をベルト23に貼り付ける作業を阻害するため、シート片27は癖が無くなるまで平坦な状態で保管することが好ましい。しかし、シート片27の最大長さLbが過度に大きい場合、広い保管スペースが必要になる。また、シート片27(接地シート26)は、張力をかけた状態でベルト23に貼着する必要があるが、シート片27が過度に長い場合、1人で作業を行うには取り回し性が悪い。これらの不都合を防ぐために、シート片27の最大長さLbは250cm以下とすることが好ましい。
【0051】
但し、シート片27の周方向長さLa又は最大長さLbを過度に小さくした場合、ベルト23の周方向Cに隣り合う2枚以上のシート片27にタイヤ1が同時に接地し、2枚以上のシート片27が同時に破れたり損傷したりする可能性がある。そのため、切断縁27b,27cの内端27d,27f間の周方向長さLcを、タイヤ1の接地長GL(
図6A参照)よりも大きく設定し、シート片27の両端の切断縁27b,27cが長さ方向Xに重複しない寸法にすることが好ましい。
【0052】
ここで、
図6Aを参照すると、接地長GLとは、ベルト23上に所定の負荷を加えてタイヤ1を載置した状態で、タイヤ1がベルト23に密着する接地領域1aのうち、周方向Cの寸法を意味する。また、基準とする接地長GLには、タイヤ試験機10によって試験する複数種のタイヤ1のうち、タイヤ径が最も大きいタイヤの接地長を用いてもよいし、タイヤ1毎に異なる接地長を個別に用いてもよい。
【0053】
以上のようにシート片27の長さLa~Lcを設定することで、シート片27の両端の切断縁27b,27cに対してタイヤ1が同時に接することを防止できる。そのため、ベルト23の周方向Cに隣り合う2枚以上のシート片27が同時に破れたり損傷したりすることを抑制できる。しかも、ベルト23に対するシート片27の貼付枚数の過度な増加を抑制できる。
【0054】
切断縁27b,27cの周方向長さLdは、前述した切断縁27b,27cの傾斜角度θ1,θ2に関連する。この周方向長さLdは、シート片27の幅W1に対する割合(Ld/W1)が0.5以上になるように設定することが好ましい。これらの割合を過度に小さくした場合、切断縁27b,27cの延在方向がベルト23(シート片27)の幅方向Wに近くなる。この場合、ベルト23の周方向Cに対してタイヤ1を傾斜させたスリップ角付与状態(
図6B参照)での試験時、タイヤ1との間のせん断力によるシート片27への負荷が増し、切断縁27b,27cからシート片27が剥がれことがある。このような不都合を防ぐために、シート片27の切断縁27b,27cは、周方向Cに対して傾斜させることが好ましく、幅W1に対する周方向長さLdの割合は0.5以上とすることがより好ましい。
【0055】
次に、複数のシート片27からなる接地シート26を備えるベルト(路面部)23の形成方法について説明する。以下の説明では、3枚のシート片を27A,27B,27Cとして区別して言うことがある。
【0056】
まず、
図4に示すように、シートロール25を定められた長さLaかつ傾斜角度θ1,θ2で切断し、複数のシート片27を形成する。シート片27を形成する数は、接地シート26の形成に必要な数よりも多くし、ロール状に湾曲するような癖が無くなるまで、損傷していない未使用のシート片27を平坦に広げて保管することが好ましい。
【0057】
続いて、
図1及び
図2に示すように、ベルト23の外面23eの幅方向W中央に、湾曲するような癖が無くなったシート片27A~27Cを全周にかけて並べて貼り付ける。具体的には、ベルト23に対して、周方向Cに沿ってシート片27Aを貼着し、続いてシート片27Aの長さ方向Xの端から周方向Cに沿ってシート片27Bを貼り付けた後、シート片27Bの長さ方向Xの端から周方向Cに沿ってシート片27Cを貼り付ける。隣り合うシート片27A~27Cの貼り付けは、互いの切断縁27b,27cが突き合うように行う。
【0058】
これにより、複数のシート片27A~27Cからなる接地シート26を備えるベルト(路面部)23が完成する。
【0059】
シート片27の貼り付けは張力をかけた状態で行う必要がある。そのため、シート片27A~27Cの貼付作業は、ローラ21A,21Bによって支持されたベルト23の湾曲部23c又は23dで行われる。また、シート片27が長尺な場合、シート片27の取り回し性が悪いため、2人以上の作業員が必要である。しかし、本実施形態のシート片27は250cm以下であるため、1人の作業員でも取り回し性は良い。よって、1人の作業員でも、例えばシート片27の一端を押さえつつ、他端側を引っ張って張力を与えながら貼り付けることが可能なため、シート片27の貼り付け作業性を向上できる。
【0060】
タイヤ1の試験時には、転動装置20から離反させた支持部16に対して、ホイール2に組み付けたタイヤ1を装着する。その後、荷重付与部17によって支持部16を下降させ、
図2に示すように接地シート26上にタイヤ1を載置する。この状態で、モータ22A,22Bを駆動させてベルト23を周回させる。
【0061】
直進時のタイヤ1の摩耗特性を確認する場合、
図6Aに示すように、ベルト23(
図1参照)の周方向Cとタイヤ1の周方向とを一致させ、スリップ角α(
図6B参照)を0度にする。タイヤ1のコーナリング特性を確認する場合、
図6Bに示すように、ベルト23(
図1参照)の周方向Cに対してタイヤ1を傾斜させ、所定のスリップ角αを付与する。
【0062】
コーナリング特性を確認する際、タイヤ1には、進行方向(ベルト23の周方向C)に戻る力Fが作用し、ベルト23には力Fとは反対向きの力が加わる。この力が切断縁27b,27cに対して過度に加わると、切断縁27b,27cが捲れ上がり、ベルト23からシート片27が剥がれることがある。しかし、本実施形態では、切断縁27b,27cを傾斜させ、切断縁27b,27cの幅W1に対する周方向長さLdの割合(Ld/W1)を0.5以上にしている。そのため、隣り合うシート片27A~27Cにおいて、切断縁27b,27cを突き合わせたジョイント部には、タイヤ1の接地領域1aから突出し、タイヤ1が接しない部分を確保できる。よって、タイヤ1の試験を行うことによるシート片27の剥がれを抑制できる。
【0063】
一方、接地シート26は、タイヤ1から強い負荷が加わった場合に破れたり損傷したりすることがある。これに対して、本実施形態では、接地シート26が複数のシート片27に分割されている。そのため、試験中に強い力が接地シート26に加わり、一部のシート片27に破れや損傷が生じたとしても、路面部を構成する接地シート26の修復は破れや損傷が生じたシート片27のみを貼り替えるだけでよい。しかも、接地シート26が連続した一枚のシートで構成される場合、周方向の広範囲にわたって破れが連鎖する可能性があるが、本実施形態では1枚のシート片27は破れても、周方向に隣接したシート片27には破れが連鎖しないため、広範囲にわたって接地シート26が破れることを防止できる。
【0064】
具体的には、接地シート26が破損又は損傷した場合、複数のシート片27A~27Cのうち、破損又は損傷した1枚をベルト23から剥がす。その後、ベルト23のうちシート片27を剥がした部分に、予め切断されている損傷していない未使用のシート片27を貼り付ける。これにより、路面部を構成する接地シート26の修復が完了する。
【0065】
このように構成した路面部形成方法及びタイヤ試験機10は、以下の特徴を有する。
【0066】
路面部を構成するベルト23に貼り付けられる接地シート26は、周方向Cに分割した複数のシート片27によって構成されている。そのため、タイヤ1からの負荷によって1枚のシート片27は破れや損傷が生じたとしても、修復は破れや損傷が生じたシート片27のみを貼り替えるだけよい。しかも、分割されたシート片27は短尺になるため、貼り付け作業性を向上できる。また、貼り替え範囲と貼り替え時間を最小限に抑えることができるため、試験に関する稼働時間を増やすことができる。
【0067】
複数のシート片27は、周方向長さLaが全て同じ1種のみである。そのため、シートロール25を切断してシート片27を形成する際の作業性を向上できる。また、ベルト23にシート片27を貼り付けて接地シート26を新規に形成する際、及び破損又は損傷したシート片27を貼り替える際の作業性を向上できる。
【0068】
シート片27の最大長さLbは250cm以下である。そのため、予め形成したシート片27の保管スペースを削減でき、平坦に延ばした状態で保管できる。しかも、一人の作業員が取り扱うには最適な寸法であるため、ベルト23に対して張力をかけた状態でシート片27を確実に貼り付けることができる。
【0069】
シート片27の両端の切断縁27b,27cは、ベルト23の周方向Cに対して傾斜している。そのため、スリップ角αを付与した状態での試験時、隣り合うシート片27A~27Cのジョイント部(切断縁27b,27c)に加わるせん断力を低減できる。よって、ジョイント部からシート片27が剥がれることを抑制できる。
【0070】
一対の切断縁27b,27cの傾斜角度θ1,θ2は同じである。つまり、シート片27は、長さ及び形状が同一の1種のみである。そのため、予め形成したシート片27の保管性を向上できる。また、貼り付け時、所定のシート片27の選択は必要ないうえ、シート片27を誤った姿勢で配置することはないため、貼り付け作業性を向上できる。
【0071】
シート片27は、両端の切断縁27b,27cがタイヤ1の周方向Cに重複しない寸法設定である。そのため、両端の切断縁27b,27cに跨がってタイヤ1が接地することを抑制できる。その結果、タイヤ1からの負荷によって、複数のシート片27A~27Cのうち隣り合う2枚以上が同時に破れたり損傷したりすることを抑制できる。
【0072】
両端の切断縁27b,27cが有する内端27d,27fのうち、一方から他方までの周方向長さLcは、タイヤ1の接地長GLよりも長い。そのため、両端の切断縁27b,27cに跨がってタイヤ1が接地することを防止できる。その結果、タイヤ1からの負荷によって、複数のシート片27A~27Bのうち隣り合う2枚が同時に破れたり損傷したりすることを防止できる。
【0073】
切断縁27b,27cの幅W1に対する周方向長さLdの割合を0.5以上としている。そのため、隣り合うシート片27A~27Cの切断縁27b,27cを突き合わせたジョイント部に、タイヤ1が接地しない領域を確保できる。よって、タイヤ1からの負荷によるジョイント部からシート片27が剥がれることを抑制できる。
【0074】
(第2実施形態)
図7A及び
図7Bは第2実施形態のタイヤ試験機に用いるシート片27を示す。この第2実施形態では、シート片27の切断縁27b,27cの周方向長さLdを、タイヤ1の接地長GLよりも長くした点で第1実施形態と相違する(Ld>GL)。より具体的には、シート片27の幅W1に対する切断縁27b,27cの周方向長さLdの割合を1としている。
【0075】
このようにした第2実施形態では、切断縁27b,27cの周方向長さLdがタイヤ1の接地長GLよりも長い。そのため、隣り合うシート片27A~27Cの切断縁27b,27cを突き合わせたジョイント部上にタイヤ1が位置する状態で、ジョイント部には、タイヤ1の接地領域1aから周方向Cに突出し、タイヤ1から負荷を受けない部分を長い寸法で確保できる。よって、ジョイント部からシート片27が剥がれることを大幅に抑制できる。
【0076】
(第3実施形態)
図8は第3実施形態のタイヤ試験機10を示す。この第3実施形態のタイヤ試験機10は、転動装置20の路面部を、モータ(図示せず)によって回転可能なドラム30で構成した点で、第1実施形態のタイヤ試験機10と相違する。
図8に示すドラム30は、木又はステンレスによって形成された円筒状の部材であり、タイヤ1と比較して十分大きい曲率半径を有する。
【0077】
このドラム式のタイヤ試験機10においても、ドラム(路面部)30には全周にかけて接地シート26が貼着される。また、接地シート26は、ドラム30の周方向Cに分割した複数のシート片27によって構成される。これにより、第1実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0078】
なお、本発明の路面部形成方法及びタイヤ試験機10は、前記実施形態の構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0079】
例えば、複数のシート片27の周方向長さLaは、それぞれ異なっていてもよい。シート片27の両端の切断縁27b,27cの傾斜角度θ1,θ2は、異なっていてもよい。切断縁27b,27cは、直線状に限られず、内端27d,27fから外端27e,27gに向けて、周方向C(長さ方向X)の外側へ次第に広がる構成であれば、多少湾曲していてもよい。また、シート片27の両端の切断縁27b,27cは、ベルト23の周方向Cに対して直交し、ベルト23の幅方向Wに沿って延びていてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 空気入りタイヤ
1a 接地領域
2 ホイール
10 タイヤ試験機
15 支持装置
16 支持部
17 荷重付与部
20 転動装置
21A,21B ローラ
22A,22B モータ
23 ベルト(路面部)
23a,23b 平面部
23c,23d 湾曲部
23e 外面(走行面)
23f 内面
25 シートロール
26 接地シート
26a シート本体
26b 研磨部
26c 接着部
27 シート片
27a 側縁
27b,27c 切断縁
27d 内端
27e 外端
27f 内端
27g 外端
30 ドラム(路面部)
La シート片の周方向長さ
Lb シート片の最大長さ
Lc 切断縁が存在しない部分の周方向長さ
Ld 切断縁の周方向長さ
W シート片の幅
θ1,θ2 切断縁の傾斜角度
α スリップ角