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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】フレキシブル基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/40 20060101AFI20241210BHJP
   C23C 18/16 20060101ALI20241210BHJP
   C23C 18/31 20060101ALI20241210BHJP
   C23C 28/02 20060101ALI20241210BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20241210BHJP
   C25D 5/34 20060101ALI20241210BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C23C18/40
C23C18/16 A
C23C18/31 A
C23C28/02
C25D7/00 J
C25D5/34
H05K3/18 F
H05K3/18 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020219088
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022104088
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000189327
【氏名又は名称】上村工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 優子
(72)【発明者】
【氏名】中山 智晴
(72)【発明者】
【氏名】山本 久光
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-001291(JP,A)
【文献】特開平09-316649(JP,A)
【文献】特表2021-527166(JP,A)
【文献】特開2014-129598(JP,A)
【文献】特開2016-060935(JP,A)
【文献】特開平02-030770(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0178572(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0253975(US,A1)
【文献】米国特許第05039338(US,A)
【文献】中国特許出願公開第112400036(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103898489(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106661734(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-20/08
C23C 24/00-30/00
C25D 5/00-7/12
H05K 3/10-3/26
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材上と、該樹脂基材の一部に形成された圧延銅箔上とに無電解銅めっき皮膜、及び電気銅めっき皮膜が積層されたフレキシブル基板の製造方法であって、
前記製造方法は、
無電解銅めっき処理を行って前記樹脂基材、及び圧延銅箔に前記無電解銅めっき皮膜を形成する工程、
電気銅めっき処理を行って前記無電解銅めっき皮膜に前記電気銅めっき皮膜を形成する工程を有し、
前記無電解銅めっき処理は、銅化合物、還元剤、第三級アルカノールアミン、ニッケル化合物、および含窒素芳香族化合物を含有する無電解銅めっき液を用いる。
【請求項2】
前記無電解銅めっき液における
前記第三級アルカノールアミンの濃度は、0.001g/L~1000g/L、
前記ニッケル化合物の濃度は、ニッケル濃度として0.0005g/L~5g/L、
前記含窒素芳香族化合物の濃度は、0.00001g/L~2g/Lである請求項1に記載のフレキシブル基板の製造方法。
【請求項3】
前記第三級アルカノールアミンは、トリエタノールアミン、およびトリイソプロパノールアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載のフレキシブル基板の製造方法。
【請求項4】
前記含窒素芳香族化合物は、ビピリジン類、およびフェナントロリン類よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1~3のいずれかに記載のフレキシブル基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレキシブル配線基板の前駆体であるフレキシブル基板の製造方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線基板は柔軟性を有し、電子機器内の三次元配線や可動部配線が可能となるため、携帯型端末、液晶テレビ、ノート型パソコン、デジタルカメラなどの各種電子機器で使用されている。フレキシブル配線基板は、導電層が基材に形成されたフレキシブル基板(前駆体)に配線パターンを形成して作製される。フレキシブル基板は各種公知の方法によって製造されているが、接続信頼性を高めるために様々な改良技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、第二銅塩、還元剤、少なくとも2種類の錯化剤、安定剤を含む青銅めっき液、及び該めっき液を用いたフレキシブル基板の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、特定のホスフィン化合物を安定剤として含有する無電解銅めっき浴、及び該めっき浴を用いたフレキシブル基板の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、所定の表面粗さを有するポリイミド基板に無電解銅めっき層を形成したフレキシブル基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】中国公開特許公報第108559980号
【文献】特開2005-290415号公報
【文献】特開2012-15448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
導電層としては電解銅箔や圧延銅箔が用いられているが、より一層高い屈曲性や耐折性が要求される電子機器のヒンジ部などの可動部に使用するフレキシブル配線基板には圧延銅箔が汎用されている。電解銅箔は厚み方向に柱状結晶組織が発達しているため、折り曲げた際に粒界に沿ってクラックが伝播して早期に破断してしまうのに対し、圧延銅箔は結晶組織が等方的であるためクラックが伝播しにくく、耐屈曲信頼性が高い。
近年、樹脂基材に圧延銅箔、無電解銅めっき皮膜、電解銅めっき皮膜を組み合わせた導電層が形成されたフレキシブル基板が用いられるようになっているが、従来の無電解銅めっき液を用いた無電解銅めっき処理に起因して以下のようなめっき皮膜不良が発生していた。
まず、i)樹脂基材を用いた場合、従来の無電解銅めっき液では圧延銅箔が形成されていない樹脂基材部分には無電解銅めっき処理をしてもめっきが析出せず、樹脂基板上に無電解銅めっき皮膜が形成できない部分が生じていた。そのため無電解銅めっき処理後に電解銅めっき処理をしても該未析出部分には電気銅めっき皮膜を形成できず、該未析出部分に起因して配線パターン不良が生じたり、接続信頼性が低下したりすることがあった。
またii)樹脂基材上に形成された無電解銅めっき皮膜にはブリスター、すなわち無電解銅めっき皮膜が膨れて樹脂基材との間に空隙が発生することがあった。そのためめっき皮膜が樹脂基材から剥離したり、接続信頼性が低下したりする原因となることがあった。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされた発明であって、その目的は上記i、iiの問題を解決できるフレキシブル基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]樹脂基材上と、該樹脂基材の一部に形成された圧延銅箔上とに無電解銅めっき皮膜、及び電気銅めっき皮膜が積層されたフレキシブル基板の製造方法であって、
前記製造方法は、
無電解銅めっき処理を行って前記樹脂基材、及び圧延銅箔に前記無電解銅めっき皮膜を形成する工程、
電気銅めっき処理を行って前記無電解銅めっき皮膜に前記電気銅めっき皮膜を形成する工程を有し、
前記無電解銅めっき処理は、銅化合物、還元剤、第三級アルカノールアミン、ニッケル化合物、および含窒素芳香族化合物を含有する無電解銅めっき液を用いる。
【0010】
[2]前記無電解銅めっき液における
前記第三級アルカノールアミンの濃度は、0.001g/L~1000g/L、
前記ニッケル化合物の濃度は、ニッケル濃度として0.0005g/L~5g/L、
前記含窒素芳香族化合物の濃度は、0.00001g/L~2g/Lである上記[1]に記載のフレキシブル基板の製造方法。
【0011】
[3]前記第三級アルカノールアミンは、トリエタノールアミン、およびトリイソプロパノールアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である上記[1]または[2]に記載のフレキシブル基板の製造方法。
【0012】
[4]前記含窒素芳香族化合物は、ビピリジン類、およびフェナントロリン類よりなる群から選ばれる少なくとも1種である上記[1]~[3]のいずれかに記載のフレキシブル基板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、めっき未析出箇所、及びブリスターが抑制された良好な無電解銅めっき皮膜を形成できる。
また本発明によれば、ピット状の不良が抑制された良好な電気銅めっき皮膜を形成できる。
したがって本発明の製造方法によれば、良好な無電解銅めっき皮膜、及び良好な電気銅めっき皮膜を有するフレキシブル基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本発明のフレキシブル基板の製造過程の概略説明図である。
図2図2は本発明のフレキシブル基板を用いたフレキシブル配線基板の製造過程の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のフレキシブル基板は、樹脂基材の圧延銅箔形成面に無電解銅めっき処理、電気銅めっき処理を順次施して無電解銅めっき皮膜、及び電解銅めっき皮膜を形成することで製造できる。本発明では特に上記課題を解決する手段として所定の組成を有する無電解銅めっき浴を用いることに特徴を有する。
【0016】
本発明の無電解銅めっき液は、第三級アルカノールアミン、ニッケル化合物、含窒素芳香族化合物、銅化物、および還元剤を含む。本発明の無電解銅めっき液は第三級アルカノールアミン、ニッケル化合物、および含窒素芳香族化合物の相乗効果により、
1)基材表面での無電解銅めっき皮膜の未析出を抑制、
2)基材表面に形成した無電解銅めっき皮膜のブリスターの抑制、及び
3)圧延銅箔表面に該圧延銅箔と同じ結晶配向をもたない無電解銅めっき皮膜を形成できる。
特に上記3)は本発明者らが従来の上記i)、ii)の問題について検討を重ねた結果、得られた知見である。すなわち、圧延銅箔上に形成した無電解銅めっき皮膜が圧延銅箔の結晶配向性と同じ結晶配向性を有すると、電気銅めっき皮膜も該結晶配向を有すること、また、このような電気銅めっき皮膜は表面光沢性がなく、電気銅めっき皮膜の表面にピット状の不良が生じることがわかった。そしてこのような電気銅めっき皮膜に起因してパターン不良や、接続信頼性の低下などの回路不良が生じる。このような問題を避けるためには上記3)のような無電解銅めっき皮膜を形成することが有効である。
本発明の無電解銅めっき液を用いれば、基板に対して上記1~3の効果が得られる。そして本発明の無電解銅めっき液を用いて形成された無電解銅めっき皮膜に電気銅めっき処理を施して形成した電気銅めっき皮膜はピット状の不良も抑制されている。
【0017】
まず、本発明の無電解銅めっき液について説明する。
本発明の無電解銅めっき液は、銅化合物、還元剤、第三級アルカノールアミン、ニッケル化合物、および含窒素芳香族化合物を含有する。
【0018】
第三級アルカノールアミン
第三級アルカノールアミンは、錯化剤として作用するだけでなく、特に上記3)圧延銅箔表面に該圧延銅箔と同じ結晶配向をもたない無電解銅めっき皮膜の形成に有効であり、該無電解銅めっき皮膜表面に形成した電気銅めっき皮膜のピット状の不良抑制に寄与する。
【0019】
第三級アルカノールアミンは、直鎖状、または分枝状のアルカノール基を3個以上有する化合物である。第三級アルカノールアミンは、好ましくは炭素数1~18のアルカノール基を有する化合物であり、より好ましくはトリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリペンタノールアミン、トリヘキサノールアミン、トリヘプタノールアミン、トリオクタノールアミン、トリノナノールアミン、トリデカノールアミン、トリドデカノールアミン、トリテトラデカノールアミン、トリヘキサデカノールアミン、トリオクタデカノールアミンである。第三級アルカノールアミンは、更に好ましくはトリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンである。
第三級アルカノールアミンは、1種、または2種以上を任意の割合で併用できる。
【0020】
第三級アルカノールアミンの濃度が低すぎると添加効果が十分得られないことがある。また第三級アルカノールアミンの濃度が過剰になると、基材や圧延銅箔に無電解銅めっき皮膜で被覆されない箇所が生じるなど無電解銅めっき皮膜を均一(以下、皮膜均一性ということがある)に形成できないことがある。
無電解銅めっき液中の第三級アルカノールアミン濃度は、好ましくは0.001g/L以上、より好ましくは0.005g/L以上、更に好ましくは0.01g/L以上、より更に好ましくは0.5g/L以上であって、好ましくは1000g/L以下、より好ましくは600g/L以下、更に好ましくは200g/L以下である。
【0021】
ニッケル化合物
ニッケル化合物は特に上記2)基材表面に形成した無電解銅めっき皮膜のブリスターの抑制に寄与する。
ニッケル化合物は好ましくは水溶性ニッケル化合物であり、より好ましくは、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、クエン酸ニッケル、酒石酸ニッケル、グルコン酸ニッケル等である。
ニッケル化合物は、1種、または2種以上を任意の割合で併用できる。
【0022】
ニッケル化合物の濃度が低すぎると添加効果が十分得られないことがある。またニッケル化合物の濃度が過剰になると皮膜均一性が得られないことがある。
無電解銅めっき液中のニッケル化合物濃度は、ニッケル濃度として好ましくは0.0005g/L以上、より好ましくは0.005g/L以上、更に好ましくは0.05g/L以上であって、好ましくは5g/L以下、より好ましくは2.5g/L以下、更に好ましくは0.5g/L以下である。
【0023】
含窒素芳香族化合物
含窒素芳香族化合物は特に上記1)基材表面での無電解銅めっき皮膜の未析出の抑制に寄与する。
含窒素芳香族化合物は特に限定されないが、好ましくはピロリジン類、イミダゾール類、トリアゾール類、テトラゾール類、ベンゾイミダゾール類、ベンゾトリアゾール類、ピペリジン類、モルホリン類、ピペラジン類、ピリジン類、ビピリジン類、フェナントロリン類、オキサゾール類、ベンゾオキサゾール類、ピリミジン類、キノリン類、およびイソキノリン類であり、より好ましくはビピリジン類、フェナントロリン類である。
含窒素芳香族化合物は、1種、または2種以上を任意の割合で併用できる。
【0024】
より具体的には4,4´-ジメチル-2,2´-ジピリジル、2,2´-ビキノリル、3-(2-ピリジル)-5,6-ジフェニル-1,2,4-トリアジン、3-(2-ピリジル)-5,6-ジフェニル-1,2,4-トリアジン-p,p´-ジスルホン酸2ナトリウム、3-(2-ピリジル)-5,6-ジフェニル-1,2,4-トリアジン、2,2´-ビス(5,6-ジメチル-1,2,4-トリアジン)、6,7-ジメチル-2,3-ジ(2-ピリジル)-キノキサリン、2,3-ビス(2-ピリジル)-6,7-ジメチルキノキサリン、2,2´-ビピリジル、6,7-ジエチル-2,3-ジ(2-ピリジル)-キノキサリン、1,10-フェナントロリン、2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン、および2,9-ジフェニル-1,10-フェナントロリンよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0025】
含窒素芳香族化合物の濃度が低すぎると添加効果が十分得られないことがある。また含窒素芳香族化合物の濃度が過剰になると皮膜均一性が得られないことがある。
無電解銅めっき液中の含窒素芳香族化合物の濃度は、好ましくは0.00001g/L以上、より好ましくは0.0001g/L以上、更に好ましくは0.001g/L以上であって、好ましくは2g/L以下、より好ましくは1g/L以下、更に好ましくは0.1g/L以下、より更に好ましくは0.05g/L以下である。
【0026】
銅化合物
銅化合物は無電解銅めっき皮膜の形成に必須の化合物である。
上記銅化合物は水溶性銅塩であり、好ましくは硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、酢酸銅、クエン酸銅、酒石酸銅、グルコン酸銅等が例示される。
銅化合物は、1種または2種以上を任意の割合で併用できる。
【0027】
銅化合物の濃度が低すぎると析出速度が遅く、めっき時間が長くなることがある。また銅化合物濃度が高すぎるとめっき液が不安定になることがある。
無電解銅めっき液中の銅化合物の濃度は、銅濃度として好ましくは0.05g/L以上、より好ましくは0.5g/L以上であって、好ましくは30g/L以下、より好ましくは10g/L以下である。
【0028】
還元剤
還元剤は無電解銅めっき液中の銅イオンの還元剤として公知の還元剤を使用できる。還元剤は好ましくはホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グリオキシル酸、グリオキシル酸塩、ジメチルアミンボラン等のアミノボラン、水素化ホウ素アルカリ金属塩、ヒドラジン、ポリサッカリド、グルコース等の糖、次亜リン酸、次亜リン酸塩、グリコール酸、グリコール酸塩、ギ酸、ギ酸塩等である。
還元剤は、1種、または2種以上を任意の割合で併用できる。
【0029】
還元剤の濃度は銅イオンの還元に必要量含有されていればよい。無電解銅めっき液中の還元剤濃度は、好ましくは0.01g/L以上、より好ましくは0.5g/L以上であって、好ましくは100g/L以下、より好ましくは80g/L以下、更に好ましくは50g/L以下である。
【0030】
本発明の無電解銅めっき液は、更に任意の添加剤として錯化剤、界面活性剤、pH調整剤、安定剤などを必要に応じて含有してもよい。
【0031】
錯化剤
本発明では第三級アルカノールアミンが錯化剤としても作用する。そのため他の錯化剤は添加しなくてもよいが、任意で添加してもよい。他の錯化剤としては無電解銅めっき液で用いられる公知の錯化剤を用いることができる。錯化剤は好ましくは酢酸、ギ酸などのモノカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩;リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;エチレンジアミンジ酢酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸等のアミノポリカルボン酸やこれらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等である。
錯化剤は、1種、または2種以上を任意の割合で併用できる。
【0032】
無電解銅めっき液中の他の錯化剤の濃度は本発明の効果を阻害しない程度であればよく、好ましくは0.0001g/L以上、より好ましくは0.01g/L以上であって、好ましくは1000g/L以下、より好ましくは500g/L以下である。
【0033】
界面活性剤
本発明では、無電解銅めっき液で用いられる公知の界面活性剤を用いることができる。界面活性剤は、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、および両性界面活性剤のいずれも使用可能であり、適宜選択して使用できる。
界面活性剤は、1種、または2種以上を任意の割合で併用できる。
【0034】
無電解銅めっき液中の界面活性剤の濃度は特に限定されず、好ましくは0.000001g/L以上、より好ましくは0.00001g/L以上であって、好ましくは5g/L以下、より好ましくは2g/L以下である。
【0035】
pH調整剤
本発明では必要に応じてpH調整剤を添加して無電解銅めっき液のpHが下記範囲となるように適宜調整することが好ましい。
無電解銅めっき液で用いられる公知のpH調整剤を用いることができる。pH調整剤は好ましくは塩基性化合物、無機酸、有機酸であり、より好ましくは硫酸、塩酸、リン酸等の無機酸及び水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、水酸化ルビジウム、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化ブチルアンモニウムである。
pH調整剤は、1種、または2種以上を任意の割合で併用できる。
【0036】
無電解銅めっき液のpH
無電解銅めっき液のpHは好ましくは酸性からアルカリ性までの領域、より好ましくは中性からアルカリ性までの領域である。具体的な無電解銅めっき液のpHは好ましくはpH2以上、より好ましくはpH7以上であって、好ましくはpH13以下である。
【0037】
以下、本発明のフレキシブル基板の製造方法について説明する。
【0038】
樹脂基材
樹脂基材1は要求される可撓性を有する樹脂基板であれば特に限定されず、各種公知の樹脂基板を使用できる(図1(a))。例えばポリイミド、ポリエチレンテレフタラート(PET)などの耐熱性に優れた樹脂を原料とする基材が好ましい。ポリイミド系基材やPET系基材は寸法安定性や熱収縮が少なく、また可撓性にも優れている。
【0039】
圧延銅箔
樹脂基材1の少なくとも1方の表面には圧延銅箔2が積層されている(図1(b))。樹脂基材の両面に圧延銅箔が積層されていてもよい。また圧延銅箔は、樹脂基板の表面の少なくとも一部に積層されていればよい。圧延銅箔の原料、製造方法、及び圧延銅箔の樹脂基材への積層方法は各種公知の方法を採用できる。また本発明では市販されている公知の圧延銅箔を有する樹脂基材を使用できる。圧延銅箔のサイズや配線パターンは要求特性に応じて適宜選択できる。
本発明のフレキシブル基板は、圧延銅箔表面上と基材表面上の両方に無電解銅めっき皮膜が形成されている。本発明では圧延銅箔でラインアンドスペースパターンが形成されたフレキシブル基板を用いることが好ましい。具体的にはフレキシブルディスプレイやFPC用コネクターなどに用いられるフレキシブル基板が例示される。
【0040】
前処理工程
無電解銅めっき処理を行なう前に必要に応じて圧延銅箔を有する樹脂基板に適宜前処理を施してもよい。前処理としては脱脂工程、コンディショニング工程、酸洗工程、増感工程(触媒付与工程)、密着促進処理工程など各種公知の工程が例示される。
【0041】
無電解銅めっき処理
本発明では樹脂基材の圧延銅箔形成面側に無電解銅めっき皮膜を形成するための無電解銅めっき処理を行なう。無電解銅めっき液に樹脂基材を浸漬して基材1表面上、及び圧延銅箔2表面上に無電解銅めっき皮膜3を形成する(図1(c))。
無電解銅めっき処理には本発明の上記無電解銅めっき液を用いる。本発明では上記無電解銅めっき液を用いること以外の処理条件は限定されず、公知の無電解銅めっき処理条件を採用できる。
【0042】
無電解銅めっき皮膜の膜厚は要求特性に応じて適宜変更できる。無電解銅めっき皮膜は電気銅めっき処理時に溶解しない程度の膜厚とすることが好ましい。
無電解銅めっき皮膜の膜厚は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下である。
【0043】
前処理工程
電気銅めっき処理を行なう前に必要に応じて無電解銅めっき皮膜表面に適宜前処理を施してもよい。前処理としては脱脂工程、コンディショニング工程、酸洗工程など各種公知の工程が例示される。
【0044】
電気銅めっき処理
本発明では無電解銅めっき皮膜3表面に電気銅めっき皮膜4を形成するための電気銅めっき処理を行なう(図1(d))。
電気銅めっき処理に用いる電気銅めっき液の組成は特に限定されない。例えば実施例で使用している電気銅めっき液のように公知の電気銅めっき液を用いることができる。また電気銅めっき処理条件も限定されず、公知の電気銅めっき処理条件を採用できる。
【0045】
電気銅めっき皮膜の膜厚は要求特性に応じて適宜変更できる。電気銅めっき皮膜の膜厚を適宜調整して導電層の厚みを調整してもよい。
電気銅めっき皮膜の膜厚は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上であって、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。
【0046】
電気銅めっき処理によって、樹脂基材上、及び圧延銅箔上に、無電解銅めっき皮膜と電気銅めっき皮膜がこの順番で積層された多層フレキシブル基板が得られる。
【0047】
本発明のフレキシブル基板(図2(a))に公知の方法によって配線パターンを形成することでフレキシブル配線基板が得られる。
例えば電気銅めっき皮膜4上にレジスト層5を設け、該レジスト層5を所望の回路パターンにパターニングした後(図2(b))、露出した電気銅めっき皮膜4、その下地層である無電解銅めっき皮膜3をエッチング除去し(図2(c))、次いで該レジスト層5を剥離することにより、フレキシブル配線基板が得られる(図2(d))。
本発明のフレキシブル基板を用いると、配線の欠けや断線などの不良のないフレキシブル配線基板が得られる。
【実施例
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0049】
実験1
樹脂基材としてポリイミドフィルム(Kapton200EN、東レ・デュポン社製:サイズ50mm×50mm)を用いた。このポリイミドフィルムの表面にラインアンドパターン(JX金属社製:各ライン幅1mm×ライン長さ50mm、スペース幅1mm)を形成した高機能圧延銅箔HA-V2銅箔を設けた。
このポリイミドフィルムに、表1に示す工程表に沿って前処理を行なった後、表2~7に示す組成の無電解銅めっき液を用いた無電解銅めっき処理を行なって樹脂基材表面、及び圧延銅箔表面に無電解銅めっき皮膜が形成された各試料を作製した。
試料の無電解銅めっき皮膜について下記2点を評価した。
(1)無電解銅めっき皮膜の未析出部分の有無を目視で確認した。
ポリイミドフィルムが露出している部分、すなわち無電解銅めっき皮膜の未析出部分がある場合は「不良」、未析出部分がない場合は「良好」と評価した。
(2)無電解銅めっき皮膜のブリスターの有無を目視で確認した。
ポリイミドフィルム上の無電解銅めっき皮膜にブリスターが1箇所以上ある場合は「あり」、ブリスターがない場合は「なし」と評価した。
【0050】
実験2
実験1と同様にして無電解銅めっき処理を行なった後、無電解銅めっき皮膜に表1に示す酸洗クリーナー処理、酸洗処理を施してから電気銅めっき処理を行なって無電解銅めっき皮膜上に電気銅めっき皮膜が形成された各試料を作製した。
試料の電気銅めっき皮膜について下記評価をした。
(3)走査電子顕微鏡を用いて試料の電気銅めっき皮膜表面の光沢の有無を評価した。光沢がある場合を「あり」、光沢がない場合を「なし」とした。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
【表7】
【0058】
表2~表7より、本発明の無電解銅めっき液を用いて作製した実施例1~62の各試料は樹脂基材上の無電解銅めっき皮膜に(1)未析出部分、(2)ブリスターもなく、良好な無電解銅めっき皮膜を形成できた。また該無電解銅めっき皮膜上に形成した電気銅めっき皮膜は(3)光沢を有しており、本発明のフレキシブル基板はピットなどの欠陥もなかった。したがって本発明の製造方法で得られたフレキシブル基板を用いれば高い信頼性を有するフレキシブル配線基板を製造できる。
【0059】
比較例1、2は含窒素芳香族化合物を含まない無電解銅めっき液を用いた例であり、樹脂基板上には無電解銅めっき皮膜の未析出部分があった。そのため該未析出部分には電気銅めっき皮膜を形成できなかった。
【0060】
比較例3、4はニッケル化合物を含まない無電解銅めっき液を用いた例であり、樹脂基板上の無電解銅めっき皮膜にはブリスターが発生していた。そのためブリスター部分の無電解銅めっき皮膜は基板との密着性が悪く、また該ブリスター部分に形成した電気銅めっき皮膜は平滑性が低下した。
【0061】
比較例5、6はニッケル化合物と含窒素芳香族化合物を含まない無電解銅めっき液を用いた例であり、樹脂基板上には無電解銅めっき皮膜の未析出部分やブリスターがあった。そのため比較例1~4と同様の問題が生じた。
【0062】
比較例7は第三級アルカノールアミン、ニッケル化合物、および含窒素芳香族化合物を含まない無電解銅めっき液を用いた例であり、樹脂基板上には無電解銅めっき皮膜の未析出部分やブリスターがあり、また形成した電気銅めっき皮膜の表面光沢がなかった。そのため比較例1~4と同様の問題に加えて、電気銅めっき皮膜にはピット状の欠陥などが生じていた。
【0063】
比較例1~7のフレキシブル基板は無電解銅めっき皮膜、および/または電気銅めっき皮膜に欠陥があり、配線パターン等の不良原因となる。したがって信頼性を有するフレキシブル配線基板を製造できない。
【符号の説明】
【0064】
1 樹脂基材
2 圧延銅箔
3 無電解銅めっき皮膜
4 電気銅めっき皮膜
5 レジスト層
図1
図2