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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ニッケル基合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
C22C19/05 C
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020542211
(86)(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 GB2018052973
(87)【国際公開番号】W WO2019077333
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-09-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】1716964.0
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】520440054
【氏名又は名称】アロイド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100209060
【弁理士】
【氏名又は名称】冨所 剛
(72)【発明者】
【氏名】クラッデン,デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】リード,ロジャー チャールズ
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】“Modelling of the influence of alloy composition on flow stress in high-strength nickel-based superalloys”, D.J.Crudden et al. , Acta Materialia, Vol 75, 15 August 2014, pp356-370
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00-19/07
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、9.5~14.4%のクロム、3.8~9.6%のコバルト、0.0~4.0%の鉄、0.6~5.1%のモリブデン、0.7~6.2%のタングステン、2.6~3.3%のアルミニウム、2.3~5.6%のチタン、0.0~4.0%のニオブ、0.0~2.4%のタンタル、0.01~0.1%の炭素、0.001~0.1%のホウ素、0.001~0.3%のジルコニウム、0.0~0.5%のケイ素、0.0~0.1%のイットリウム、0.0~0.1%のランタン、0.0~0.1%のセリウム、0.0~0.003%の硫黄、0.0~0.25%のマンガン、0.0~0.5%のバナジウム、0.0~0.5%の銅、及び0.0~0.5%のハフニウム、残部がニッケルおよび不可避的不純物からなり、
合金に含まれるニオブ、タンタル、チタン及びアルミニウムの質量%をそれぞれWNb、WTa、WTi及びWAlとすると、
0.6WTi+0.31WNb+0.27WTa+0.12WAl≧3.7
との式を満たし、
合金に含まれるニオブ、タンタル及びコバルトの質量%をそれぞれW Nb 、W Ta 及びW Co とすると、以下の式を満たす、ニッケル基合金組成物。
Nb +1.53W Co +3.7W Ta ≦14.7
【請求項2】
合金に含まれるニオブ、タンタル、チタン及びアルミニウムの質量%をそれぞれWNb、WTa、WTi及びWAlとすると、以下の式を満たす、請求項1記載のニッケル基合金組成物。
0.6WTi+0.31WNb+0.27WTa+0.12WAl≧4.0
【請求項3】
合金に含まれるニオブ、タンタル、チタン及びアルミニウムの質量%をそれぞれWNb、WTa、WTi及びWAlとすると、以下の式を満たす、請求項1または2に記載のニッケル基合金組成物。
(0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa)/WAl≦1.3
【請求項4】
合金に含まれるニオブ、タンタル、チタン及びアルミニウムの質量%をそれぞれWNb、WTa、WTi及びWAlとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし3のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa+0.9WAl≦6.3
【請求項5】
合金に含まれるニオブ、タンタル、チタン及びアルミニウムの質量%をそれぞれWNb、WTa、WTi及びWAlとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし4のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
5.4≦0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa+0.8WAl≦6.0
【請求項6】
合金に含まれるタングステン及びタンタルの質量%をそれぞれW及びWTaとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし5のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
+1.1WTa≦6.2
【請求項7】
合金に含まれるタングステン、コバルト及びモリブデンの質量%をそれぞれW、WCo及びWMoとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし6のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
+0.96WCo+1.2WMo≧16.0
【請求項8】
クロムを、質量%で、10.0%以上含有する、請求項1ないし7のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項9】
コバルトを、質量%で、5.5%以上含有する、請求項1ないし8のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項10】
コバルトを、質量%で、8.1%以下含有する、請求項1ないし9のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項11】
鉄を、質量%で、1.0%以上含有する、請求項1ないし10のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項12】
鉄を、質量%で、2.0%以下含有する、請求項1ないし11のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項13】
モリブデンを、質量%で、2.2%以上含有する、請求項1ないし12のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項14】
モリブデンを、質量%で、4.1%以下含有する、請求項1ないし13のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項15】
タングステンを、質量%で、1.9%以上含有する、請求項1ないし14のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項16】
タングステンを、質量%で、4.6%以下含有する、請求項1ないし15のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項17】
アルミニウムを、質量%で、2.6%以上含有する、請求項1ないし16のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項18】
アルミニウムを、質量%で、3.0%以下含有する、請求項1ないし16のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項19】
チタンを、質量%で、2.6%以上含有する、請求項1ないし18のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項20】
タンタルを、質量%で、1.8%以下含有する、請求項1ないし19のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項21】
ニオブを、質量%で、2.7%以下含有する、請求項1ないし20のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項22】
850℃で51~58%の体積分率のガンマプライムを備える、請求項1ないし21のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項23】
請求項1ないし22のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物から形成された、タービンディスク。
【請求項24】
請求項23に記載のタービンディスクを備える、ガスタービンエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジン及び他のターボ機械内のタービンディスク部品として用いられるニッケル基超合金組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タービンディスクは、ガスタービンエンジンにおいて重要な部品である。最大動作温度及び最大耐用年数の観点に基づきタービンディスク合金の性能を向上させることは、エンジンの効率及びエンジンの動作の費用対効果に対して、重大な影響を及ぼす可能性がある。
【0003】
タービンディスク部品に使用されるニッケル基超合金の典型的な組成の例を表1に列挙する。図1を参照して、より高い強度を備える合金の開発においては、コストがより高いレベルに向かう傾向がある。表1は、粉末冶金タービンディスクに使用される、一般的に適用されるニッケル基超合金の、質量%における公称組成である。
【0004】
【表1】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、コスト低減と耐酸化性/耐食性の改善とが組み合わされた、非常に高い強度を提供することを目的とする。新たな合金の特性のバランスにより、高温用途(特に、部品の動作温度が800度以上であるタービンディスク用途としての使用)の部品の製造において、費用対効果をさらに高めることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、質量%で、9.5~14.4%のクロム、3.8~9.6%のコバルト、0.0~4.0%の鉄、0.6~5.1%のモリブデン、0.7~6.2%のタングステン、2.6~3.3%のアルミニウム、2.3~5.6%のチタン、0.0~4.0%のニオブ、0.0~2.4%のタンタル、0.01~0.1%の炭素、0.001~0.1%のホウ素、0.001~0.3%のジルコニウム、0.0~0.5%のケイ素、0.0~0.1%のイットリウム、0.0~0.1%のランタン、0.0~0.1%のセリウム、0.0~0.003%の硫黄、0.0~0.25%のマンガン、0.0~0.5%のバナジウム、0.0~0.5%の銅、及び0.0~0.5%のハフニウムを備え、残部がニッケルおよび不可避的不純物であり、合金に含まれるニオブ、タンタル、チタン及びアルミニウムの質量%をそれぞれWNb、WTa、WTi及びWAlとすると、以下の式を満たす、ニッケル基合金組成物が提供される。
0.6WTi+0.31WNb+0.27WTa+0.12WAl≧3.7
【0007】
この合金は、高強度、コスト、耐酸化性/耐食性、及びTCPの形成に対する耐性の間で、良好な折衷点を取る。
【0008】
好ましい実施形態では、合金に含まれるニオブ、タンタル及びコバルトの質量%をそれぞれWNb、WTa及びW Co すると、以下の式を満たす。
Nb+1.53W Co 3.7WTa≦14.7
好ましくは、以下の式を満たす。
Nb+1.53W Co 3.7WTa≦12.4
最も好ましくは、以下の式を満たす。
Nb+1.53W Co 3.7WTa≦9.5
このような合金は、コスト削減のために最適化されている。
【0009】
好ましい実施形態では、合金に含まれるニオブ、タンタル、チタン及びアルミニウムの質量%をそれぞれWNb、WTa、WTi及びWAlとすると、以下の式を満たす
0.6WTi+0.31WNb+0.27WTa+0.12WAl≧4.0
このような合金は、さらに高い強度を備える。
【0010】
一つの実施形態では、合金に含まれるニオブ、タンタル、チタン及びアルミニウムの質量%をそれぞれWNb、WTa、WTi及びWAlとすると、以下の式を満たす。
(0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa)/WAl≦1.3
このような合金は、γ´相の安定性が高く、望ましくないイータ相及びデルタ相に耐性を有する。すなわち、このような合金は、優れた延性及び耐疲労性を有する。
【0011】
一つの実施形態では、合金に含まれるニオブ、タンタル、チタン及びアルミニウムの質量%をそれぞれWNb、WTa、WTi及びWAlとすると、以下の式を満たす。
0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa+0.9WAl≦6.3
好ましくは、以下の式を満たす。
0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa+0.9WAl≦5.9
このような合金は、γ´相のソルバス温度が1180℃未満であるため、ガンマプライムソルバス以上の熱処理を可能としつつ、γ´ソルバス温度以上の温度からの冷却時における合金の割れ感受性を低減することができる。
【0012】
一つの実施形態では、合金に含まれるニオブ、タンタル、チタン及びアルミニウムの質量%をそれぞれWNb、WTa、WTi及びWAlとすると、以下の式を満たす。
5.4≦0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa+0.8WAl≦6.0
このような合金は、優れた強度特性を有する。
【0013】
一つの実施形態では、合金に含まれるタングステン及びタンタルの質量%をそれぞれW及びWTaとすると、以下の式を満たす。
+1.1WTa≦6.2
好ましくは、以下の式を満たす。
+1.1WTa≦4.6
最も好ましくは、以下の式を満たす。
+1.1WTa≦2.9
このような合金は、高い強度を維持しつつ密度が制限されている。
【0014】
一つの実施形態では、合金に含まれるタングステン、コバルト及びモリブデンの質量%をそれぞれW、WCo及びWMoとすると、以下の式を満たす。
+0.96WCo+1.2WMo≧16.0
このような合金は、特に高い耐クリープ性を有する。
【0015】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるクロムは、質量%で、10.0%以上、より好ましくは11.5%以上である。このような合金は、耐食性が向上する。
【0016】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるコバルトは、質量%で、5.5%以上である。このような合金では、耐クリープ性と合金安定性とのバランスが改善される。
【0017】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるコバルトは、質量%で、8.1%以下、好ましくは8.0%以下、より好ましくは6.0%以下である。このような合金は、コストが削減される。
【0018】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備える鉄は、質量%で、1.0%以上である。このような合金は、より安価であるという利点が得られるとともに、より容易にリサイクルされる。
【0019】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備える鉄は、質量%で、2.0%以下である。このような合金では、微細構造安定性が改善されるとともに、低コストと改善されたリサイクル性の良好なバランスが得られる。
【0020】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるモリブデンは、質量%で、2.2%以上、好ましくは3.6%以上である。このような合金では、耐クリープ性と密度とのより良好なバランスが得られる。一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるモリブデンは、質量%で、4.1%以下である。このような合金では、さらに改善された合金安定性が得られる。
【0021】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるタングステンは、質量%で、1.9%以上である。このような合金では、耐クリープ性と合金安定性とのバランスがさらに優れている。
【0022】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるタングステンは、質量%で、4.6%以下、好ましくは2.9%以下である。これにより、さらに密度の低い合金が得られる。
【0023】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるアルミニウムは、質量%で、2.6%以上である。このような合金では、強度、γ´ソルバス及びγ´安定性の組み合わせが改善される。
【0024】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるアルミニウムは、質量%で、3.0%以下である。このような合金では、より低い温度でγ´ソルバスが達成される。
【0025】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるチタンは、質量%で、2.6%以上、好ましくは3.0%以上、より好ましくは3.5%以上、最も好ましくは4.1%以上である。チタンの含有量を増やすことにより、所定の強度を有する合金の提供に必要なタンタルの量を削減することができ、これにより合金のコストを削減することができる。
【0026】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるタンタルは、質量%で、1.8%以下、好ましくは1.0%以下である。このような合金では、コスト及び密度が削減される。
【0027】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるニオブは、質量%で、2.7%以下である。これにより、低コストでクリープ特性が改善された合金が実現される。
【0028】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物は、850℃で51~58%の体積分率のガンマプライムを備える。これにより、低いガンマプライムソルバスと組み合わされた、強度の高い合金が得られる。
【0029】
本発明の一つの実施形態では、本発明に係るニッケル基合金組成物から形成されるタービンディスクが提供される。
【0030】
本発明の一つの実施形態において、ガスタービンエンジンは、本発明に係るニッケル基合金組成物から形成されたタービンディスクを備える。
【0031】
本明細書における「を備える」との用語は、組成物を100%として、追加の成分の存在を排斥することでパーセンテージを100%にしていることを示すために用いられる。特に明記しない限り、%は質量%として表される。
【0032】
本発明について、単なる例示を通じて、添付図面を参照しながら、さらに十分に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、表1に列挙された合金及び表2に列挙された合金設計領域内に存する合金について、元素コストと(強度メリット指数の観点からの)降伏強度との間の計算されたトレードオフを示す。
図2図2は、合金の元素コストに対するコバルト及びニオブの影響を示す等値線図である。この合金におけるタンタル含有量は、0.0質量%に固定されている。
図3図3は、合金の元素コストに対するコバルト及びニオブの影響を示す等値線図である。この合金におけるタンタル含有量は、1.0質量%に固定されている。
図4図4は、合金の元素コストに対するコバルト及びニオブの影響を示す等値線図である。この合金におけるタンタル含有量は、2.0質量%に固定されている。
図5図5は、合金の元素コストに対するコバルト及びニオブの影響を示す等値線図である。この合金におけるタンタル含有量は、3.0質量%に固定されている。
図6図6は、合金の元素コストに対するコバルト及びニオブの影響を示す等値線図である。この合金におけるタンタル含有量は、4.0質量%に固定されている。
図7図7は、好ましい元素コスト(<14.7$/kg)の合金における、(強度メリット指数の観点からの)降伏強度に対するアルミニウム元素及びチタン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、ニオブ含有量は0.0質量%に固定されており、タンタル含有量は0.0質量%に固定されている。(0.6WTi+0.31WNb)/WAlとの関係性に基づくチタン元素、ニオブ元素及びアルミニウム元素の比率の好ましい制限が、重ね合わされている。
図8図8は、好ましい元素コスト(<14.7$/kg)の合金における、(強度メリット指数の観点からの)降伏強度に対するアルミニウム元素及びチタン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、ニオブ含有量は1.0質量%に固定されており、タンタル含有量は0.0質量%に固定されている。(0.6WTi+0.31WNb)/WAlという関係性に基づくチタン元素、ニオブ元素及びアルミニウム元素の比率の好ましい制限が、重ね合わされている。
図9図9は、好ましい元素コスト(<14.7$/kg)の合金における、(強度メリット指数の観点からの)降伏強度に対するアルミニウム元素及びチタン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、ニオブ含有量は2.0質量%に固定されており、タンタル含有量は0.0質量%に固定されている。(0.6WTi+0.31WNb)/WAlという関係性に基づくチタン元素、ニオブ元素及びアルミニウム元素の比率の好ましい制限が、重ね合わされている。
図10図10は、好ましい元素コスト(<14.7$/kg)の合金における、(強度メリット指数の観点からの)降伏強度に対するアルミニウム元素及びチタン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、ニオブ含有量は3.0質量%に固定されており、タンタル含有量は0.0質量%に固定されている。(0.6WTi+0.31WNb)/WAlという関係性に基づくチタン元素、ニオブ元素及びアルミニウム元素の比率の好ましい制限が、重ね合わされている。
図11図11は、好ましい元素コスト(<14.7$/kg)の合金における、(強度メリット指数の観点からの)降伏強度に対するアルミニウム元素及びチタン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、ニオブ含有量は4.0質量%に固定されており、タンタル含有量は0.0質量%に固定されている。(0.6WTi+0.31WNb)/WAlという関係性に基づくチタン元素、ニオブ元素及びアルミニウム元素の比率の好ましい制限が、重ね合わされている。
図12図12は、好ましい元素コスト(<14.7$/kg)の合金について、γ´ソルバス温度に対する、アルミニウム元素及び(0.6WTi+0.3WNbの関係性に基づく)ニオブ元素+チタン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、タンタル含有量は0.0質量%に固定されている。(0.6WTi+0.31WNb)/WAlの関係性に基づくチタン元素、ニオブ元素及びアルミニウム元素の比率の好ましい制限及び(0.6WTi+0.3WNb+0.12WAl=3.7)という関係性に基づくアルミニウム、チタン及びニオブの好ましい濃度が、重ね合わされている。
図13図13は、好ましい元素コスト(<14.7$/kg)の合金について、900℃でのγ´体積分率に対する、アルミニウム元素及び(0.6WTi+0.3WNbの関係性に基づく)ニオブ元素+チタン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、タンタル含有量は0.0質量%に固定されている。(0.6WTi+0.31WNb)/WAlという関係性に基づくチタン元素、ニオブ元素及びアルミニウム元素の比率の好ましい制限及び(0.6WTi+0.3WNb+0.12WAl=3.7)という関係性に基づくアルミニウム、チタン及びニオブの好ましい濃度が、重ね合わされている。
図14図14は、合金密度に対するタングステン元素及びタンタル元素の影響を示す等値線図である。
図15図15は、(クリープメリット指数の観点からの)耐クリープ性に対する、タングステン元素及びモリブデン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、タンタル含有量は0.0質量%に固定されている。
図16図16は、(クリープメリット指数の観点からの)耐クリープ性に対する、タングステン元素及びモリブデン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、タンタル含有量は1.0質量%に固定されている。
図17図17は、(クリープメリット指数の観点からの)耐クリープ性に対する、タングステン元素及びモリブデン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、タンタル含有量は2.0質量%に固定されている。
図18図18は、(クリープメリット指数の観点からの)耐クリープ性に対する、タングステン元素及びモリブデン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、タンタル含有量は3.0質量%に固定されている。
図19図19は、(クリープメリット指数の観点からの)耐クリープ性に対する、タングステン元素及びモリブデン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、タンタル含有量は4.0質量%に固定されている。
図20図20は、(クリープメリット指数の観点からの)耐クリープ性に対する、タングステン元素及びモリブデン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、タンタル含有量は5.0質量%に固定されている。
図21図21は、安定度数Mdに対する、クロム元素及び(WMo+0.5Wの関係性に基づく)タングステン元素+モリブデン元素の影響を示す等値線図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
従来、ニッケル基超合金は、経験主義に基づき設計されてきた。したがって、ニッケル基超合金の化学的組成物は、限られた量の材料の小規模処理と、挙動についてのその後の特性分析と、を含む時間のかかる高価な実験開発によって特定されてきた。その後、最良の、すなわちもっとも望ましい特性の組み合わせを示すことを見出された合金組成物が採用される。この組み合わせを達成可能な合金元素群が多数存在することは、これらの合金が完全には最適化されておらず、より改良された合金が存在する可能性が高いことを示している。
【0035】
超合金においては一般的に、耐酸化性/耐食性を付与するためにクロム(Cr)及びアルミニウム(Al)が添加され、硫化に対する耐性を向上させるためにコバルト(Co)(Co)が添加される。耐クリープ性の為に、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、コバルト(Co)が導入されるが、これは、これらの元素が、クリープ変形の割合を決定する熱活性化過程(例えば、転位上昇)を阻害するためである。静的強度及び繰り返し強度を高めるために、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)及びチタン(Ti)が導入されるが、これは、これらの元素が、析出硬化相ガンマプライム(γ´)の形成を促進させるためである。この析出相は、ガンマ(γ)と呼ばれる面心立方(FCC)マトリックス相とコヒーレントである。
【0036】
本明細書においては、ニッケル基超合金の新たなグレードの特定に用いられる、モデルに基づく手法を、「合金設計」(ABD)法という用語で記載する。この手法には、非常に広範な組成領域に亘って設計関連特性を推定するための計算材料モデルのフレームワークが利用される。原則的に、この合金設計ツールにより、いわゆる逆問題が解決可能となる。すなわち、指定された設計制約を最も満足する、最適な合金組成を特定できる。
【0037】
設計過程の第1ステップは、元素表と、その元素表に付随した組成制限の上限及び下限と、を規定することである。本発明においては、「合金設計領域」と呼ばれる、各元素を添加する際の元素ごとの組成制限が考慮される。この組成制限については、表2に詳述されている。表2に、研究された合金設計領域を示す。
【0038】
【表2】
【0039】
第2ステップは、特定の合金組成物の相図及び熱力学的特性を計算するための、熱力学的計算に基づいて行われる。これは、CALPHAD法(CALculate PHAse Diagram)と呼ばれることが多い。これらの計算を、新しい合金の典型的な使用温度(900℃)で実施することで、相平衡(微細構造)についての情報が得られる。
【0040】
第3段階には、所望の微細構造を有する合金組成物を特定することが含まれる。クリープ変形に対する優れた耐性を必要とするニッケル基超合金の場合、析出硬化相γ´の体積分率が増加するにつれてクリープ破断寿命が徐々に改良される。クリープ破断寿命が最も有益となるγ´の体積分率の範囲は、900℃で60~70%である(ただし、他の設計上の制約により、体積分率がこれより低い値に制限されることが多いため、γ´体積分率が50~60%の合金も含まれる)。γ´の体積分率が70%を超えると、耐クリープ性の低下が観察される。
【0041】
また、γ/γ´格子不整は、コヒーレンシーを失うため、正又は負のうち、いずれか小さい値に従う必要がある。したがって、制限はその値の絶対値に依存する。格子不整δは、γ相とγ´相との間の不整合として定義され、以下の式によって求められる。
【0042】
【数1】
【0043】
ここで、αγ及びαγ´は、γ相及びγ´相の格子定数である。
【0044】
したがって、このモデルにより、γ´の体積分率の計算結果が所望の値となる、設計領域内における全ての組成物が特定される。これらの組成物では、γ´の格子不整が所定の絶対値未満である。
【0045】
第4段階では、データセット内に残った特定された合金組成物について、メリット指数が推定される。メリット指数として、クリープメリット指数(平均組成のみに基づく合金の耐クリープ性を示す)、強度メリット指数(平均組成のみに基づく合金の析出降伏強度(an alloy’s precipitation yield strength)を示す)、密度、コスト、微細構造安定性及びガンマプライムソルバス温度が含まれる。
【0046】
第5段階では、計算されたメリット指数が所望の挙動に対する制約と比較され、これらの設計制約が、問題に対する境界条件とみなされる。境界条件を満たさないすべての組成物は排斥される。この段階において、試験データセットのサイズは非常に小さくなる。
【0047】
最後の第6段階には、残った組成物のデータセットを分析することが含まれる。この分析は、様々な方法で行われ得る。1つには、メリット指数が最大値を示す合金について、データベースを介して分類してもよい。メリット指数が最大値を示す合金とは、例えば最軽量合金、最も耐クリープ性が高い合金、最も耐酸化性が高い合金、及び最も安価な合金である。又は、その代わりに、データベースを用いて、特性の異なる組み合わせによって生じる、性能の相対的なトレードオフを求めてもよい。
【0048】
6つのメリット指数について説明する。
【0049】
第1のメリット指数はクリープメリット指数である。最も重要な観測は、ニッケル基超合金の時間依存変形(即ち、クリープ)が、γ相に限られた初期活性に伴う転位クリープによって発生することである。したがって、γ´相の割合が大きくなるため、転位セグメントが急速にγ/γ´界面に固定される。律速段階は、γ/γ´界面からの、転位のトラップされた構成の離脱である。それは、クリープ特性に対して合金組成物が及ぼす重大な影響を引き起こす局所化学(この場合はγ相の組成)に依存する。
【0050】
物理学に基づいた微細構造モデルは、荷重が一軸であって<001>結晶学的方向に沿っている場合において、クリープ歪εの蓄積速度に援用される。集合方程式は、以下の式である。
【0051】
【数2】
【0052】
ここで、ρは可動転位密度、φpはγ´相の体積分率、ωはマトリックスチャネルの幅である。項σ及びΤはそれぞれ、作用応力及び温度である。項b及びkはそれぞれ、バーガースベクトル及びボルツマン定数である。項KCFは、拘束係数である。
【0053】
【数3】
【0054】
項KCFは、これらの合金内の立方状粒子の近接度を示す。式3は、乗算パラメータC及び初期転位密度の推定を必要とする転位乗算過程を示している。項Deffは、粒子/マトリックス界面における上昇過程を制御する有効拡散率である。
【0055】
なお、上述の内容において、組成依存性は、2つの項φとDeffから生じる。したがって、微細構造が一定である(微細構造の大部分が熱処理によって制御される)と仮定すると、φが固定されるため、化学組成への依存性は、Deffによって生じる。ここに説明されている合金設計モデリングの目的のために、各プロトタイプ合金組成物に対して式2及び式3の完全な積分を実施する必要がないことがわかる。代わりに、最大化が必要な、一次メリット指数Mcreepが用いられる。Mcreepは、以下の式で求められる。
【0056】
【数4】
【0057】
ここで、xは、γ相中の溶質iの原子分率である。D は、適切な相互拡散係数である。
【0058】
第2のメリット指数は強度メリット指数である。高ニッケル基超合金の場合、強度の大部分は析出相に由来する。したがって、析出強度を最大とするために合金組成を最適化することは、設計上の重要な考慮事項である。硬化理論に基づき、強度のメリット指数Mstrengthが提案される。この指数は、(弱い結合から強い結合への転位せん断の移行が起こる点として決定される)最大可能析出強度を考慮しており、下記の式を用いて近似される。
【0059】
【数5】
【0060】
ここで、M-はテイラー係数、γAPBは逆位相境界(APB)エネルギー、φpはγ´相の体積分率、bはバーガースベクトルである。
【0061】
式(5)より、γ´相における欠陥エネルギー(例えば逆位相境界APBエネルギー)が、ニッケル基超合金の変形挙動に大きな影響を与えることは明らかである。APBエネルギーを増加させることは、引張強度およびクリープ変形に対する耐性を含む機械的性質を改善することがわかった。APBエネルギーの研究は、密度汎関数理論を用いて、多くのNi-Al-X系について行われた。この研究により、γ´相のAPBエネルギーに対する三元元素の影響が計算され、複合多成分系を考慮した場合における、各三元元素の添加による影響の線形重畳が仮定された。その結果、以下の式が導かれた。
【0062】
【数6】
【0063】
ここで、xCr、xMo、x、xTa、xNb及びxTiはそれぞれ、γ´相におけるクロム、モリブデン、タングステン、タンタル、ニオブ及びチタンの原子%濃度を表す。γ´相における組成は、相平衡計算によって求められる。
【0064】
第3のメリット指数は密度である。密度ρは、混合物の単純な規則及び補正係数を用いることで計算された。ここで、ρは所与の元素の密度であり、xiは合金元素の原子分率である。
【0065】
【数7】
【0066】
第4のメリット指数は、コストである。各合金のコストを推定するために、混合物の単純な規則を適用した。ここで、各合金のコストは、合金元素の質量分率xiに、合金元素の現在(2017)の原材料コストcを掛けたものを用いた。
【0067】
【数8】
【0068】
この推定は、加工コストがすべての合金において同一であると仮定している。すなわち、製品収率は組成による影響を受けない。
【0069】
第5のメリット指数は、TCP相に対する感受性(susceptibility)に基づいて作成された不適切な微細構造を基礎とする合金候補の除外に基づいている。これを行うために、合金元素のd軌道エネルギーレベル(Mdと称す)を用い、以下の式に従って総有効Mdレベルを決定する。
【0070】
【数9】
【0071】
ここで、xは、合金に含まれる元素iのモル分率を表す。Mdの値が高いほど、TCP形成の可能性が高いことを示す。
【0072】
第6のメリット指数は、ガンマプライムソルバス温度である。ガンマプライムソルバスは、ガンマプライムの体積分率が0になる傾向がある温度として定義される。これは、合金設計法の第2ステップにおいて上述したように、熱力学計算を用いて決定される。特定の合金組成物の相図及び熱力学的特性を計算し、相転移が生じる温度を発見するために用いる。
【0073】
上述のABD法を用いて、本発明の合金組成物を特定した。この合金の設計意図は、合金コストの削減と耐酸化性/耐食性の向上と組み合わされ、実質的に高い強度を実現することである。新たな合金の特性のバランスにより、高温用途(特に、部品の動作温度が800度以上であるタービンディスク用途としての使用)の部品の製造において、費用対効果をさらに高めることができる。
【0074】
粉末冶金(PM)タービンディスク用途として用いられている一般的に適用/調査された合金(表1に記載)の公称組成の(ABD法を用いて決定された)材料特性を、表3に列挙する。これらの合金について列挙されている予測特性と関連付けて、新しい合金の設計が考慮された。表3は、「合金設計」ソフトウェアによって作成された、計算された相割合、不整合及びメリット指数を示している。これは、表1に列挙されたニッケル基超合金に関する結果である。
【0075】
新しい合金の設計原理について、以下に説明する。
【0076】
【表3】
【0077】
図1は、粉末冶金(PM)タービンディスク用途として用いられている一般的に適用/調査された合金(表1に記載)の公称組成における、コストメリット指数及び強度メリット指数の計算結果を示す。図1には、表2に記載の組成設計領域に含まれる数百万の合金における、コスト及び強度メリット指数の計算結果も示されている(影がついている領域)。所定の合金コストに対し、達成可能な最大強度には上限がある(図1)。図1における点線は、所与の合金コストで達成可能な最大強度を表している。合金の元素コストを低減しつつ、(従来技術と同等かそれ以上の)高い強度レベルを達成可能であることが看取される。図1にハッチングで示す領域は、合金のコスト及び強度メリット指数の観点から、本発明が目標とする性能基準を示す。高強度と低コストとの組み合わせを有する合金組成物の特定については、次のセクションで説明する。
【0078】
図2~6は、合金コストに対して、タンタル元素、コバルト元素及びニオブ元素が及ぼす影響を示す。これらの元素は、基本元素であるニッケルより大幅に高いコストがかかるため、合金の価格が大幅に上昇する(2017年9月の金属価格に基づく)。ニッケルの価格に対して正規化された、タンタル、コバルト及びニオブのコストはそれぞれ、11.93、5.45及び3.82である。図15~20に関連して後に説明するように、(クリープメリット指数の観点から)十分なクリープ強度を備える合金とするためには、コバルトの最小レベルは、3.8質量%であることが好ましい。
【0079】
本発明におけるコスト目標は、14.7$/kg以下、すなわち、表1に列挙された合金のうち最も低コストの合金(合金N19、16.4$/kg)と比べて元素コストを10%低減させることである。図2~6から、(ニオブ、コバルト及びタンタルに基づく)元素添加量と、目標とする合金コストと、の関係性が導き出された。3次元の表面を表す関係性は、以下の方法で決定される。コスト目標である14.7$/kg及び好ましいコスト目標である14.0$/kg及び13.1$/kgにおいて、合金コストと、ニオブ及びコバルトと、の関係性が、図2~6から決定された。これは、これらの値における等値線から決定されたものである。異なるタンタル含有量の関数としての線の変換は、図2~6から決定された。上述のプロセスより、タンタル、コバルト及びニオブの添加量は、以下の式に準拠することが特定された。
【0080】
【数10】
【0081】
ここで、f(cost)は数値であり、WNb、WCo及びWTaはそれぞれ、合金に含まれるニオブ、コバルト及びタンタルの質量%を示す。例えば、14.7$/kg以下のコストの合金を製造するためには、f(cost)の数値は14.7以下とすべきである。本発明におけるコバルトの最小レベル(3.8質量%)及びニオブの最小濃度(0.0質量%)に基づき、合金に含まれるタンタルの最大含有量は、f(cost)を参照して、2.4質量%以下とすべきである。コスト目標を達成するために、コバルトの最大含有量は9.6質量%までに制限すべきである(図2参照)。好ましくは、14.0$/kg以下のコストを達成する(すなわち、最も低コストの合金(合金N19、16.4$/kg)と比べて元素コストを15%低減させる)ために、f(cost)の数値は12.4以下とすべきである。この場合、好ましくは、コバルトの最小濃度(3.8質量%)及びニオブの最小濃度(0.0質量%)に基づき、合金に含まれるタンタルの最大量は、1.8質量%以下とすべきである。コストを考慮して、コバルトの最大含有量は、8.1質量%以下に制限されることが好ましい(図2参照)。最も好ましくは、13.1$/kg以下のコストを達成する(すなわち、最も低コストの合金(合金N19、16.4$/kg)と比べて元素コストを20%低減させる)ために、f(cost)の数値は9.5以下とすべきである。この場合、好ましくは、コバルトの最小濃度(3.8質量%)及びニオブの最小濃度(0.0質量%)に基づき、合金に含まれるタンタルの最大量は、1.0質量%以下とすべきである。13.1$/kg以下のコストを達成するために、コバルトの最大含有量は6.0質量%までに制限することが最も好ましい(図2参照)。
【0082】
本発明の一実施形態では、ニッケルを含有させる代わりに、鉄を含めることが望ましい。これにより、合金コストを低減できるとともに、合金のリサイクル能力を高めるという利点がある。鉄を添加することにより、微細構造安定性が損なわれる可能性がある。鉄の添加のレベルを4.0質量%までに制限することにより、低コスト、リサイクル性の向上及び微細構造安定性の良好なバランスが得られる。より好ましくは、1.0質量%~2.0質量%の間の範囲であることが望ましい。
【0083】
低コストと組み合わせて、本発明は高強度合金に関する。本発明の目標は、1700MPa以上の強度メリット指数を有することである。この目標の強度メリット指数を有することにより、表1に列挙された合金のうち最高強度の合金(1719MPa~1854MPaの間の範囲の、3つの最高強度合金)と同等の最大動作温度を有しながらも、大幅に低減された元素コスト(1700MPa超の強度メリット指数を有する合金と比較して30~45%)を有する合金が提供される。したがって、強度とコストとの組み合わせの大幅な改善が達成される。
【0084】
強度メリット指数を増加させるために、ガンマ-プライム(γ´)形成元素である、アルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルが、主な金属として添加される。図7~11は、コスト目標を満たす合金において、強度に対する、アルミニウム元素、チタン元素及びニオブ元素の影響を示す。なお、結果(図7~11)には、タンタルを含有する金属を含めていない。チタン、ニオブ及びタンタルの添加量には、添加した重量%を「アルミニウム相当量」に変換するための係数が与えられている。密度が大きく異なる元素の影響を直接比較することができる。例えば、アルミニウムは2.7g/cmの密度を有するのに対して、チタンは4.5g/cmの密度を有するため、係数として0.6が適用される(すなわち、2.7/4.5=0.6)。チタンと同様に、ニオブ元素(8.57g/cm)及びタンタル元素(16.4g/cm)の添加量を「アルミニウム相当量」に変換するために、定数が追加される。すなわち、ニオブ及びタンタルの補正係数は、アルミニウムに対するそれらの元素の密度から決定され、それぞれ0.3と0.15である。図7~11に基づいて、(チタン、アルミニウム及びニオブに基づく)元素の添加量と、目標とする金属強度と、の関係性が得られた。(3次元表面を描く)該関係性は、以下の方法によって決定された。1700MPaの目標強度における、金属強度と、アルミニウム及びチタンと、の関係性が、図7~11から決定されたが、この関係性は、これらの値の等値線において決定された。異なるニオブ含有量の関数としての線の変換は、図7~11に基づいて決定された。上述のプロセスに基づき、アルミニウム、チタン及びニオブの添加量は、以下の式に従うことがわかる。
【0085】
【数11】
【0086】
ここで、f(strength)は数値であり、WTi、WNb及びWAlはそれぞれ、合金に含まれるチタン、ニオブ及びアルミニウムの質量%である。1700MPa以上の強度メリット指数を有する合金を製造するために、f(strength)の数値は、3.7以上である必要がある。
【0087】
タンタルは、2.4質量%以下の量で存在する追加元素である。本発明の一実施形態においては、チタン及びニオブの原子置換により、2.4質量%のレベルまでタンタルを添加することができる。すなわち、添加されるタンタルのすべての原子のために、チタン及びニオブの少なくとも一方の許容レベルの最大を減少させて、チタンとタンタルとニオブとの最大原子百分率の合計を、チタン及びニオブの最大許容レベルの合計に相当する原子百分率と等しくする。
【0088】
アルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルの添加量は、以下の式に従う。なお、タンタルには、係数として、γ´形成に対する影響に基づいて決定される0.15ではなく、0.27が適用される。これは、式(6)に示すように、タンタルが、APBエネルギー強度に対して大きな影響を与えるためである。式(6)に基づき、タンタルのAPB強度係数は27.1であり、チタンには該係数として15が適用される。すなわち、タンタルは強度の面で1.8倍有効である。この係数にタンタルのアルミニウム相当量(0.15)をかけることにより、係数0.27が得られた(すなわち、0.15×1.80=0.27)。
【0089】
【数12】
【0090】
1700MPa以上の強度メリット指数を有する合金を製造するために、f(strength)の数値は、3.7以上である必要がある。強度をさらに高めるために、f(strength)の数値を、4.0以上、または4.1以上とすることが好ましい。
【0091】
強度と合金を処理する能力との良好なバランスを達成するために、γ´相のソルバス温度は、1180℃以下であることが必要である。γ´ソルバス以上の熱処理を可能としつつ、γ´ソルバス温度以上の温度からの冷却時における合金の割れ感受性を低減することができるため、γ´ソルバスは1180℃以下であることが好ましい。γ´ソルバス温度以上の温度で熱処理を行うことにより、粗粒を成長させて滞留疲労(dwell fatigue)に対する耐性を向上させることができるため、γ´ソルバス温度以上の温度で熱処理を行うことが望ましい。この損傷メカニズムは、このクラスの合金においてしばしば寿命を制限する要因である。図12に基づいて、合金のγ´ソルバスと、アルミニウムと、(0.6WTi+0.31WNbという関係性に基づく)チタン元素及びニオブ元素の合計量と、の関係性が得られた。アルミニウム、チタン及びニオブの添加量は、以下の式に従う。
【0092】
【数13】
【0093】
ここで、f(solvus)は数値である。本発明の一実施形態では、チタン及びニオブの代替として、2.4質量%のレベルまでタンタルを添加することができる。このとき、関数f(solvus)は以下の式となる。
【0094】
【数14】
【0095】
ソルバスが1180℃以下の合金を製造するためには、f(solvus)の数値は6.3未満である必要がある。1170℃未満のソルバスを有する合金を製造するために、f(solvus)の数値は5.9未満であることが好ましい。ソルバスが1170℃未満の場合、合金を処理する能力を向上させることができる。
【0096】
f(strength)を表す式と、γ´ソルバスを1180℃以下とする必要性と、に基づき、アルミニウムの最大含有量は、3.3質量%以下に制限される(図12)。γ´ソルバスを1170℃未満とするために、アルミニウムの含有量は3.0質量%以下に制限されることが好ましい(図12)。(0.6WTi+0.31WNb)/WAl≦1.3に基づく元素の割合が望ましい(D.J. Crudden, N. Warnken, A. Mottura, and R.C. Reed. Modelling of the influence of alloy composition on flow stress in high-strength nickel-based superalloys. Acta Materialia, 7:356~370, 2014 参照)。これは、γ´相の安定性を維持するために必要であり、この値を超えると、合金の延性及び耐疲労性を減少させる、望ましくないイータ相(Ni3Ti)及びデルタ相(Ni3Nb)が形成されやすくなる。ニオブを高濃度にするとニオブリッチなデルタ相Ni3Nbを安定化させてしまうため、ニオブは4.0質量%未満に制限される必要がある。ニオブは、安定性に対して悪い影響を与えうるため、合金内に存在する必要はない。
【0097】
本発明の一実施形態では、チタン及びニオブの代替として、2.4質量%のレベルまでタンタルを添加することができる。この実施形態では、元素の割合は、(0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa)/WAl≦1.3という関係性に従う。
【0098】
ニオブ元素の最大含有量(4質量%)、アルミニウム元素の最大含有量(3.3質量%)、タンタル元素の最大含有量(2.4質量%)に基づき、必要なチタンの最小レベルは、2.3質量%である(f(strength)の式参照)。タンタルを好ましい含有量(1.8質量%)とするために、チタンは2.6質量%以上とすることが好ましい。タンタルをより好ましい含有量(1.0質量%)とするために、チタン含有量は3.0質量%以上とすることがより好ましい。チタンは3.5質量%以上とすることが最も好ましい。チタンを3.5質量%以上とすることにより、合金が実質的にタンタルを含まなくてもよく、これによりコストと強度との組み合わせが改善される。さらにより好ましくは、チタンは4.1質量%以上とする。チタンを4.1質量%以上とすることにより、合金が実質的にタンタルを含まなくてもよく、また、クリープメリット指数と合金コストとの関係性において後述するように、好ましいレベル(2.7質量%以下)でニオブを用いることができる。最大ソルバス温度(1180℃)に基づき、0.6WTi+0.31WNb+0.15WTaとの関係性によって導かれる元素の合計量は、最大アルミニウム含有量(3.3質量%)と、最小ニオブ含有量及び最小タンタル含有量(0.0質量%)と、に基づき、3.33以下とする必要がある(f(solvus)の式参照)。したがって、チタンの最大許容含有量は、5.6質量%である(3.33/0.6=5.6)。強度と、γ´ソルバスと、γ´相の安定性と、の望ましい組み合わせを確実に達成するために、アルミニウムの含有量を2.6質量%以上とする必要がある(すなわち、(0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa)/WAl≦1.3)(図12参照)。γ´ソルバスを低下させるために、アルミニウムの含有量を3質量%までに制限することが、より好ましい(図12参照)。
【0099】
アルミニウム、ニオブ及びチタンの添加は、析出硬化γ´相(precipitate hardening γ´ phase)の割合に影響を与える。強度メリット指数を1700MPa超とする必要がある点(f(strength)の関数によって決定)と、元素の割合((0.6WTi+0.31WNb)/WAl≦1.3)と、に基づき、合金のγ´割合は、850℃の温度において51%~58%の範囲となる必要がある(図13参照)。ガンマプライム体積分率は、以下の手順によって実験的に測定される。850℃での時効熱処理の後、材料の一部が切り取られ、走査型電子顕微鏡を用いて従来の/標準的な冶金準備技術を利用して研磨される。準備されたガンマ/ガンマプライムの微細構造は、走査型電子顕微鏡によって観察できるはずであり、直径30μm以下の粒子が観察できるはずである。統計的に代表的なデータセットを提供する10枚の画像が撮影される。該画像は少なくとも1mmの領域をカバーする必要がある。ガンマ/ガンマプライムの微細構造を明らかにする2次元画像を、ガンマプライム相を特定するように処理し、ガンマプライム相の面積率を算出する必要がある。該相の面積率は、ガンマプライムの体積分率とみなされ、51~58%の間に存する必要がある。図13に基づき、合金のγ´割合と、アルミニウムと、(0.6WTi+0.31WNbという関係性に基づく)チタン元素及びニオブ元素の合計量と、の関係性が得られた。51~58%の間のγ´割合を有する合金を達成するために、アルミニウム、チタン及びニオブの添加量は、以下の式に従う。
【0100】
【数15】
【0101】
ここで、f(γ´)は、5.4~6.0の範囲の数値である。
【0102】
本発明の一実施形態では、チタン及びニオブの代替として、2.4質量%のレベルまでタンタルを添加することができる。この実施形態では、アルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルの添加量は、好ましくは以下の式に従う。
【0103】
【数16】
【0104】
タンタルを添加すると、γ´体積分率が増加することにより、また逆位相境界エネルギーが増加することにより、(強度メリット指数の観点から)合金の強度が増加する。合金にタングステンを添加すると、ガンママトリックス内における拡散が非常に遅くなるため、(クリープメリット指数の観点から)合金内のクリープ強度が向上する。また、合金にタングステンを添加すると、ガンママトリックス相が固溶体強化(solid solution
strengthening)されるため、強度が向上する。一方、タングステンとタンタルは、表2の設計領域に列挙されている合金元素のうち、最も重い元素であり、かつニッケルより大幅に密度の高い元素である。したがって、強度に対するタングステン及びタンタルの寄与は、合金密度に対する悪影響とバランスを取る必要がある。本発明における目標密度は、8.4g/cm以下である。これにより、1700MPa超の強度メリット指数を有する他の合金(表3)より軽い合金となる。図14は、合金密度に対するタンタル元素及びタングステン元素の影響を示す。密度を8.4g/cm以下とするために、タングステンの添加量は、6.2質量%以下とする。図14より、タンタル元素及びタングステン元素の添加量が以下の式に従うことがわかる。
【0105】
【数17】
【0106】
ここで、f(density)は、8.4g/cm以下の密度を達成するために、6.2以下の数値となる。好ましくは、8.3g/cm以下の密度の合金を製造するために、f(density)の数値は4.6以下である。より好ましくは、8.2g/cm以下の密度の合金を製造するために、f(density)の数値は2.9以下である。したがって、タングステンは、4.6質量%以下であることが好ましく、2.9質量%以下であることがより好ましい。
【0107】
低コストで合金N19と同等のクリープ強度を提供するために、合金の目標クリープメリット指数は、2.4×10-15-2s以上である必要がある。目標密度が8.4g/cm以下であるため、タングステンは6.2質量%以下に制限される(図14)。タングステン、コバルト及びモリブデンの役割について、図15~20に示す。図15~20より、(コバルト、モリブデン及びタングステンに基づく)元素の添加量と、目標とする合金クリープメリット指数と、の関係性が得られた。(3次元表面を描く)該関係性は、以下の方法によって決定される。合金のクリープメリット指数と、コバルトと、タングステンと、の関係性は、目標とするクリープメリット指数を2.4×10-15-2sとして図15~20から決定されたが、この関係性は、これらの値の等値線において決定された。異なるモリブデン含有量の関数としての線の変換は、図15~20に基づいて決定された。上述のプロセスに基づき、(クリープメリット指数の観点から)耐クリープ性を向上させるために、タングステン、コバルト及びモリブデンの添加量は、以下の式に従う。
【0108】
【数18】
【0109】
ここで、f(creep)は、2.4×10-15-2s以上のクリープメリット指数を達成するために、16.0以上の数値である必要がある。したがって、タングステンの最大レベル(6.2質量%)及びコバルトの最大レベル(9.6質量%)に基づき、十分な耐クリープ性を達成するために、モリブデンを少なくとも0.6質量%含有することが必要である。合金密度を低くするために、タングステンは4.6質量%までに制限されることが好ましく、これに従い、モリブデンを2.2質量%以上に増加させることが好ましい。合金の密度とコストとの双方を低減するために、タングステンを4.6質量%までに制限し、かつコバルトを8.1質量%以下とすることが、より好ましく、これに従い、モリブデンを3.6質量%以上とすることが好ましい。図21を参照して後に説明するように、安定性の要求により、モリブデンの最大含有量は、5.1質量%以下に制限される。
【0110】
最小クリープメリット指数である2.4×10-15-2sを達成するために、9.6質量%の最大コバルトにおいて、最小のタングステン含有量を0.7質量%とする必要がある(図20参照)。合金の安定性を向上させるために、モリブデンを4.1%までに制限することが好ましいため(下記参照)、耐クリープ性と合金安定性とのより良好なバランスを得るために、タングステン含有量は1.9質量%以上とすることが好ましい。タングステンの最大レベル(6.2質量%)及びモリブデンの最大レベル(5.1質量%)に基づき、耐クリープ性を良好なレベルとするために、コバルトの最小濃度は3.8質量%であることが望ましい(図20)。タングステンは4.6質量%までに制限されることが好ましいため、これに従ってコバルトのレベルは5.5質量%以上であることが好ましく、タングステンは2.9質量%までに制限されることがより好ましいため、これに従ってコバルト含有量は8.0質量%以上であることが好ましい(図20)。これにより、耐クリープ性と合金安定性とのバランスを取る。好ましいコバルト含有量が8.0質量%以上であることに基づき、耐クリープ性と密度とのバランスを向上させるために、ニオブは2.7質量%以下に制限されることが好ましい(図2)。
【0111】
図21は、安定度数に対する、クロム含有量と、(Mo+0.5Wという関係性に基づく)モリブデン元素及びタングステン元素の合計量と、の影響を示す。安定度数が高いほど、TCP相が形成されやすい合金となる。TCP相は材料特性の劣化に繋がるため、TCP相形成の析出を制限又は停止することは有益である。タングステンは、モリブデンの約2倍の密度を有するため、補正係数として0.5が適用される。この係数により、元素の密度の大幅な違いが示される。耐酸化性を良好なレベルとするために、クロムレベルは9.5質量%以上とすることが望ましい。微細構造安定性を確保しつつTCP形成を回避するために、目標とする安定性は0.91以下である。したがって、モリブデンの含有量は、5.1質量%以下(md≦0.91)が望ましく、4.1質量%以下(md≦0.90)が好ましい(図21)。f(creep)で決定されるクリープ要件に基づき、Mo+0.5Wという関係性によるモリブデンとタングステンとの最小合計量は、3.7質量%である(タングステンの最大含有量は6.1質量%であり、モリブデンの最小含有量は0.6質量%である)。したがって、クロムの最大レベルは、14.4質量%である必要がある。耐酸化性をより向上させるために、クロムの含有量は10.0%以上とすることが好ましい。1700MPa以上の強度メリット指数を有する他の合金よりも耐酸化性を改善させる(Cr含有量を多くする)ために、クロムの含有量は11.5質量%以上、さらに12.0質量%以上とすることが、より好ましい。図21に基づき、モリブデン元素、タングステン元素及びクロム元素の添加量は、以下の式に従うことが分かった。
【0112】
【数19】
【0113】
ここで、f(stability)は、合金安定性を維持するために、15.5以下の数値である。
【0114】
粒界に強度を与えるためには、炭素、ホウ素及びジルコニウムの添加が必要である。これは、特に、合金のクリープ及び疲労特性に有益である。炭素は、粒界ピン止め粒子として機能するように添加される。炭素は、過度な粒子の成長を抑制するためにガンマプライムソルバス温度を超える温度で熱処理を行う場合に必要である。炭素濃度は、0.01質量%~0.1質量%の範囲とする必要がある。合金の微細構造、特に粒径を制御するための炭化物相をよりよい分布とするために、炭素のレベルは、0.2~0.06の間とすることが好ましい。
【0115】
ホウ素濃度は、0.001~0.1質量%の範囲とすべきである。ホウ素を添加することにより、ホウ化物相の形成を通じて、クリープ延性及び粒界強度を向上させることができる。ホウ化物相を望ましいレベルとするために、合金内のホウ素含有量は、0.01~0.05質量%とすることが好ましい。
【0116】
ジルコニウム濃度は、0.001質量%~0.3質量%の範囲とすべきであり、好ましくは0.02~0.1質量%である。ジルコニウムは、合金に含まれる望ましくない不純物(例えば、酸素や硫黄)を排出する役割を果たす。これらの不純物は、特に粒界脆化(grain boundary embrittlement)により、合金の脆化を引き起こす可能性がある。
【0117】
合金が製造されるとき、合金に不可避的不純物が実質的にないことが有益である。これらの不純物には、硫黄元素(S)、マンガン元素(Mn)及び銅元素(Cu)が含まれ得る。硫黄元素は、0.003質量%(質量換算で30PPM)より低くするべきである。マンガンは、0.25質量%までに制限される不可避的不純物であり、好ましくは0.1質量%未満に制限される。銅(Cu)は、好ましくは0.5質量%までに制限される不可避的不純物である。0.003質量%を超える硫黄の存在は、合金の脆化を引き起こす可能性があり、また、硫黄は、酸化中に形成される合金/酸化物界面に偏析する。このため、硫黄のレベルは、好ましくは、0.001質量%未満である。不可避的不純物であるバナジウムは、合金の酸化挙動に悪影響を及ぼすため、好ましくは0.5質量%までに制限され、好ましくは0.3質量%未満、最も好ましくは0.1質量%未満に制限される。この偏析は、保護酸化物スケールの破砕の増加につながる可能性がある。これらの不可避的不純物の濃度が指定されたレベルを超えると、製品の歩留まりと合金の材料特性の劣化に関する問題が予期される。
【0118】
合金内の不可避的不純物を拘束するため、及び強度を付与するために、ハフニウム(Hf)を0.5質量%まで添加することは有益である。ハフニウムは強力な炭化物形成材であるため、さらなる粒界の強化をもたらし得る。元素コストが大きく、添加すると合金コストに対して悪影響を与えるため、ハフニウムは、0.2質量%までに制限されることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましい。
【0119】
いわゆる「反応性元素」(イットリウム(Y)、ランタン(La)及びセリウム(Ce))は、0.1質量%までのレベルの添加とする。これは、Cr等の保護酸化物層の接着性を向上させるのに有益である。これらの反応性元素は、硫黄などの有害元素を「掃討」することができる。硫黄は、合金酸化物界面に偏析して酸化物と基材との結合を弱め、酸化物の剥離をもたらす。ケイ素(Si)は、0.5質量%まで添加することが有益となりうる。ニッケル基超合金に0.5質量%までのレベルのケイ素を添加することは、酸化特性に対して有益であることが示されている。特にケイ素は合金/酸化物界面に偏析し、基材に対する酸化物の結合力を向上させる。これにより、酸化物の剥離が抑制され、結果として耐酸化性が向上する。
【0120】
このセクションにおける本発明の記載に基づき、本発明の広範な範囲を表4に列挙する。また、表4には、好ましい範囲が示されている。
【0121】
【表4】
【0122】
次のセクションでは、本発明の例示的な組成物について説明する。これらの新しい合金における計算された特性が列挙される。これらの合金の設計の論理的根拠を、次に説明する。
【実施例
【0123】
本組成物の発明の例(例示するLCPM-1)を、表5に記載する。列挙された合金は、表1に列挙された、1700MPa以上の強度メリット指数を有する高強度合金(表3)と比べて、複数の利点を有する。特に、コストはこれらの合金(21.6~28.6$/kgのコストを有する)と比較して大幅に低減しており(14.5$/kg)、同等の強度を保持しながら元素コストを少なくとも32%削減する。LCPM合金はさらに、これらの合金(8.5~8.7g/cmの密度を有する)と比較して低密度である(8.3g/cm)。LCPM合金は、これらの合金(10.0~13.4質量%のクロム含有量)と同等のクロム含有量(11.8質量%)を有する。
【0124】
表5において、(0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa)/WAlとの関係性に基づく元素の比率を、1.13~1.28の間に修正した。これにより、合金の強度がさらに強化されることが示された(表6)。表5は、(0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa)/WAlの割合が1.13~1.28の間で修正された組成の例を示す。表6は、「合金設計」ソフトウェアによって作成された、計算された相分率及びメリット指数を示す。これは、例示した合金LCPM-1において、(0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa)/WAlの割合が1.13~1.28の間で修正された組成物(表5)の結果である。
【0125】
【表5】
【0126】
【表6】
【0127】
表7では、さらに低コストの合金とするために、例示した合金LCPM-1の組成が変更されている。合金コストを下げるために、合金のコバルト含有量を低減する。コバルトは合金に耐クリープ性を提供するため、f(creep)で定義された関係性に基づき、コバルトの代替としてモリブデン及びタングステンの使用が必要となる。合金の安定性を管理するために、f(stability)の関係性に基づき、クロムの減少に伴ってモリブデン及びタングステンのレベルを上昇させる。合金LCPM6~8は、合金コストの削減に対して強い要望があり、合金密度の低下(表8)及び合金耐食性の向上をあまり望まない場合(すなわち、クロムレベルを低下させる)に有益である。表7は、例示した合金LCPM-1において、より低いコストで合金の耐クリープ性を維持するために、クロム、コバルト、モリブデン及びタングステンの組成を変更した例を示す。表8は、「合金設計」ソフトウェアによって作成された、計算された相分率及びメリット指数を示す。これは、例示した合金LCPM-1において、より低いコストで合金の耐クリープ性を維持するために、クロム、コバルト、モリブデン及びタングステンを変更した組成物(表7)の結果である。
【0128】
【表7】
【0129】
【表8】
【0130】
表9では、追加元素であるタンタルを含有するように、例示した合金LCPM-7を変更した。タンタルがチタンと代替可能なこと(LCPM13~14)及びタンタルがニオブと代替可能なこと(LCPM15~18)が示されている。チタン又はニオブと原子置換してタンタルを添加すると、合金コストが増大することがわかる。例に示すように、タンタルを添加することは、合金コストの削減よりも合金強度の増加が望ましい場合に、有益である。表9は、例示した合金LCPM-7において、ニオブ、チタン及びタンタルの含有量を変更した組成の例を示す。表10は、「合金設計」ソフトウェアによって作成された、計算された相分率及びメリット指数を示す。これは、例示した合金LCPM-7において、ニオブ、チタン及びタンタルの含有量を変更した組成物(表9)の結果である。
【0131】
【表9】
【0132】
【表10】
【0133】
表11では、例示する合金LCPM-1について、合金に含まれるモリブデン及びタングステンのバランスを変更した。f(creep)の関係性に基づいてモリブデンを削減してタングステンを増加させた場合には、f(stability)の関係性に基づき、合金に含まれるクロムレベルをさらに増加させることが可能であることが示された。モリブデンに対するタングステンの元素割合が増加すると、クロムレベルの増加による耐食性の向上がある場合に、これに関連するトレードオフが、合金密度において増加することが、例で示されている(表8)。表11は、例示した合金LCPM-1において、耐クリープ性と耐食性とのバランスを調整するために、クロム、モリブデン及びタングステンの含有量を変更した組成の例を示す。表12は、「合金設計」ソフトウェアによって作成された、計算された相分率及びメリット指数を示す。これは、例示した合金LCPM-1において、耐クリープ性と耐食性とのバランスを調整するために、クロム、モリブデン及びタングステンの含有量を変更した組成物(表11)の結果である。
【0134】
【表11】
【0135】
【表12】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21