(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】部材配置システム、完成体組立て方法
(51)【国際特許分類】
E01D 21/00 20060101AFI20241210BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20241210BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
E01D21/00 B
G01C15/00 104Z
G01B11/00 A
(21)【出願番号】P 2021004641
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2020009709
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508036743
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジ
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀川 博文
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 豊
【審査官】坪内 優佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-103515(JP,A)
【文献】特開平09-113271(JP,A)
【文献】特開平03-092706(JP,A)
【文献】特開2010-144368(JP,A)
【文献】特開2010-085131(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1869586(CN,A)
【文献】米国特許第04937768(US,A)
【文献】特開平02-108771(JP,A)
【文献】特開平09-311021(JP,A)
【文献】特開平10-077609(JP,A)
【文献】特開2002-092047(JP,A)
【文献】特開2003-114105(JP,A)
【文献】特開2007-277907(JP,A)
【文献】特開平08-254409(JP,A)
【文献】米国特許第06368022(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
G01C 1/00-1/14
G01C 5/00-15/14
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の個別部材からなる完成体を組み立てるため、
1の該個別部材を基準として他の該個別部材を適正位置に配置するシステムであって、
他の前記個別部材の下に載置され、他の該前記個別部材を3方向に移動させ得る調整ジャッキと、
前記完成体の3次元モデルを記憶するモデル記憶手段と、
前記モデル記憶手段から読み出した前記3次元モデルと、暫定的に配置された
他の前記個別部材の位置を計測した実測データと、を照らし合わせることによって該3次元モデルと該実測データとの較差を求め、該較差に応じて前記調整ジャッキを制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、基準となる前記個別部材の要所を原点とし部材軸方向に応じた座標軸からなる座標系を設定し、前記3次元モデルの要所を原点に合わせるとともに該3次元モデルの部材軸を座標軸に合わせたうえで、該3次元モデルと他の前記個別部材に係る前記実測データとの前記較差を求め、
前記制御手段が前記調整ジャッキを制御し、
他の前記個別部材が前記較差だけ3方向に移動することによって、該個別部材が適正位置に配置される、
ことを特徴とする部材配置システム。
【請求項2】
前記個別部材の要所に設置された反射体を自動追尾して、該反射体の座標を計測する測量機器を、さらに備え、
前記制御手段は、前記測量機器によって計測された前記実測データと、前記3次元モデルと、を照らし合わせる、
ことを特徴とする請求項1記載の部材配置システム。
【請求項3】
該較差と許容値を比較する適否判定手段を、さらに備え、
前記適否判定手段は、前記較差が許容値の範囲外であれば、前記制御手段に前記調整ジャッキを制御させる、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の部材配置システム。
【請求項4】
前記個別部材の所定位置に設置される2以上の温度検知手段を、さらに備え、
2以上の前記温度検知手段で計測された温度が、均一又は略均一になったときに自動で起動する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の部材配置システム。
【請求項5】
2以上の個別部材からなる完成体を組み立てるため、
1の該個別部材を基準として他の該個別部材を適正位置に配置する方法であって、
3方向に移動させ得る複数の調整ジャッキに調整対象である
他の前記個別部材を載置することで、
他の該個別部材を暫定的に配置する暫定配置工程と、
前記個別部材の要所の座標を計測して、実測データを取得する計測工程と、
前記完成体の3次元モデルと、前記実測データと、を照らし合わせることによって該3次元モデルと該実測データとの較差を求め、制御手段を用いて
他の前記調整ジャッキを制御する調整工程と、を備え、
前記調整工程では、基準となる前記個別部材の要所を原点とし部材軸方向に応じた座標軸からなる座標系を設定し、前記3次元モデルの要所を原点に合わせるとともに該3次元モデルの部材軸を座標軸に合わせたうえで、該3次元モデルと他の前記個別部材に係る前記実測データとの前記較差を求め、
前記制御手段が前記較差に応じて前記調整ジャッキを制御し、
他の前記個別部材を該較差だけ3方向に移動させることによって該個別部材を適正位置に配置したうえで、前記完成体を組み立てる、
ことを特徴とする完成体組立て方法。
【請求項6】
前記計測工程では、前記個別部材の要所に設置された反射体を自動追尾して該反射体の座標を計測する測量機器を用いて計測し、
前記調整工程では、前記測量機器によって計測された前記実測データと、前記3次元モデルと、を照らし合わせる、
ことを特徴とする請求項5記載の完成体組立て方法。
【請求項7】
前記調整工程の後に、再度、前記実測データを取得するとともに、該実測データと前記3次元モデルを照らし合わせることによって前記較差を求め、該較差と許容値を比較する適否判定工程を、さらに備え、
前記適否判定工程において、前記較差が許容値の範囲内であれば前記完成体を組み立て、前記較差が許容値の範囲外であれば繰り返し前記調整工程を行う、
ことを特徴とする請求項5又は請求項6記載の完成体組立て方法。
【請求項8】
前記完成体が橋梁の主桁であり、地組立てによって完成させた該主桁を下部工上に設置する、
ことを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の完成体組立て方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、2以上の個別部材を組み立てる技術に関し、より具体的には、自動的に個別部材を適正位置に配置する部材配置システムとこれを用いた完成体組立て方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁は、橋台や橋脚といった下部工と、主桁や床版といった上部工によって主に構成される。この主桁は、下部工の上で直接構築されることもあるし、一旦他の場所で組立てた後に下部工上に架設することもある。このように、構造物を構築するにあたって、例えばヤードや工場などであらかじめ完成品を組立てたうえで正規の場所に設置することもあり、他の場所で完成品を組立てる手法は「地組立て」と呼ばれている。
【0003】
例えば主桁を地組立てする場合、工場で製作された2以上の個別部材を下部工近くのヤードで連結する。そして、所定の延長になった完成品を橋脚等の上に架設していく。もちろん、個別部材を連結して完成品を組立てるには、計画どおりの寸法や形状となるように出来形を管理しながら行われる。
【0004】
従来、主桁を地組立てする際の出来形管理は、作業者が実施する計測に基づいて行われていた。具体的には、連結された個別部材をスチールテープなどで計測することで「総延長」を管理し、基準となる水糸から連結された個別部材までの距離を計測することで「通り」を管理し、連結された個別部材上の所定位置に配置したスタッフを水準器で計測することで「そり」を管理していた。そして、完成品が計画通りの寸法や形状となるよう、個別部材の下に配置されたジャッキで位置調整を行う。
【0005】
この一連の作業を行うには、2人一組の作業者が計測を担当し、やはり2人一組の作業者がジャッキ調整を担当し、すなわち4人の作業者が必要であった。しかしながら、建設業界における近年の人手不足を考えると、地組立ての出来形管理のために4人の作業者を配置することは望ましいことではない。また従来手法では、作業者の判断によるところが大きく、ヒューマンエラーが生じやすいという難点もある。さらに、日中は直射日光等の影響で部材の温度が変化しやすいため温度ムラによる部材変形が生じることもあり、そのため一般的には地組立て作業は温度ムラの影響が小さい就業時間外(つまり、早朝や夜間)に行われることが多く、時間外労働を余儀なくされていた。
【0006】
そこで、地組立ての出来形管理に係る作業を自動化し、省人化を図ることが考えられる。例えば特許文献1では、被制御体の位置合わせを行うため、被制御体移動用のアクチュエータを遠隔操作する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1が開示する技術は、遠隔操作によってアクチュエータを制御するため、アクチュエータを直接操作する作業者を省くことができ、すなわち省人化を図ることができる。しかしながら特許文献1が開示する技術は、あくまで単体として被制御体の位置合わせを行うものであって、地組立ての出来形管理を行うものではない。そのため、ジャッキ調整を担当する作業者は省くことができても、計測を担当する2人の作業者は変わらず必要となる。
【0009】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、ジャッキ調整を担当する作業者を配置することなく、しかも計測を担当する作業者も配置しない部材配置システムとこれを用いた完成体組立て方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、完成体の3次元モデルと個別部材の位置計測データを照らし合わせ、その結果に応じて自動的にジャッキで調整する、という点に着目してなされたものであり、従来にはない発想に基づいて行われた発明である。
【0011】
本願発明の部材配置システムは、2以上の個別部材からなる完成体を組み立てるためそれぞれの個別部材を適正位置に配置するシステムであり、調整ジャッキとモデル記憶手段、制御手段を備えたものである。このうち調整ジャッキは、載置された個別部材を3方向に移動させ得るもので、モデル記憶手段は、完成体の3次元モデルを記憶する手段である。また制御手段は、モデル記憶手段から読み出した3次元モデルと暫定的に配置された個別部材の位置を計測した実測データとを照らし合わせることによって、3次元モデルと実測データとの較差を求めるとともに、この較差に応じて調整ジャッキを制御する手段である。そして、制御手段が調整ジャッキを制御し、個別部材が較差だけ3方向に移動することによって、個別部材が適正位置に配置される。
【0012】
本願発明の部材配置システムは、測量機器をさらに備えたものとすることもできる。この測量機器は、2以上の個別部材の要所に設置された反射体を自動追尾してその反射体の座標を計測するものである。この場合、制御手段は、測量機器によって計測された実測データと3次元モデルとを照らし合わせる。
【0013】
本願発明の部材配置システムは、較差と許容値(「規格値」と呼ぶこともできる)を比較する適否判定手段をさらに備えたものとすることもできる。この適否判定手段は、較差が許容値の範囲外であれば、制御手段に調整ジャッキを制御させるものである。
【0014】
本願発明の部材配置システムは、2以上の温度検知手段(温度センサ)をさらに備えたものとすることもできる。この場合、本願発明の部材配置システムは、2以上の温度検知手段で計測された温度が略均一(均一含む)になったときに自動的に起動する。
【0015】
本願発明の完成体組立て方法は、2以上の個別部材からなる完成体を組み立てる方法であり、暫定配置工程と計測工程、調整工程を備えた方法である。このうち暫定配置工程では、3方向に移動させ得る複数の調整ジャッキに載置することで個別部材(調整対象である個別部材)を暫定的に配置し、計測工程では、個別部材の要所の座標を計測して実測データを取得する。また調整工程では、完成体の3次元モデルと実測データとを照らし合わせることによって3次元モデルと実測データとの較差を求め、制御手段を用いて調整ジャッキを制御する。そして、制御手段が較差に応じて調整ジャッキを制御し、個別部材を較差だけ3方向に移動させることによって個別部材を適正位置に配置したうえで、完成体を組み立てる。
【0016】
本願発明の完成体組立て方法は、適否判定工程をさらに備えた方法とすることもできる。この適否判定工程では、調整工程の後に再度、実測データを取得するとともに、実測データと3次元モデルを照らし合わせることによって較差を求め、較差と許容値を比較する。
【0017】
本願発明の完成体組立て方法は、個別部材の要所に設置された反射体を自動追尾する測量機器を用いて反射体の座標を計測する方法とすることもできる。この場合、調整工程では、自動追尾の測量機器によって計測された実測データと3次元モデルとを照らし合わせる。そして適否判定工程において、較差が許容値の範囲内であれば完成体を組み立て、較差が許容値の範囲外であれば繰り返し調整工程を行う。
【0018】
本願発明の完成体組立て方法は、橋梁の主桁を地組立によって完成させる方法とすることもできる。そして完成された主桁は、下部工上に設置される。
【発明の効果】
【0019】
本願発明の部材配置システム、完成体組立て方法には、次のような効果がある。
(1)ジャッキ調整を担当する作業者を配置することなく、しかも計測を担当する作業者も配置しないことから、従来手法に比べて大幅に省人化を図ることができる。
(2)完成体の3次元モデルと暫定的に配置された個別部材の位置とを自動的に比較し、その較差に応じて自動的にジャッキが位置調整を行うことから、作業者の判断によるところが小さく、すなわちヒューマンエラーを回避することができる。
(3)計測と位置調整を機械に委ねることから、昼夜を問わず作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本願発明の部材配置システムの主な構成を示すブロック図。
【
図2】本願発明の部材配置システムの主な処理の流れを示すフロー図。
【
図3】測量機器が個別部材の要所の座標を計測する状況を模式的に示すモデル図。
【
図4】(a)は実測データを3次元座標系に配置した状況を模式的に示すモデル図、(b)は完成体の3次元モデルを模式的に示すモデル図。
【
図5】(a)は架台上に配置され個別部材を支持する調整ジャッキを示す部分斜視図、(b)は3軸方向に独立して伸縮する調整ジャッキを示す部分斜視図。
【
図6】(a)は位置調整を行う前の個別部材を模式的に示す側面図、(b)は位置調整を行った後の個別部材を模式的に示す側面図。
【
図7】本願発明の完成体組立て方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図8】実際に個別部材の仮組みを行って形成された仮の完成体に基づいて3次元モデルを作成する手順を示すフロー図。
【
図9】個別部材の仮想組み立てを行うことで形成された仮の完成体に基づいて3次元モデルを作成する手順を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願発明の部材配置システム、完成体組立て方法の実施の例を図に基づいて説明する。なお、本願発明の部材配置システム、完成体組立て方法は、2以上の独立した部品(以下、「個別部材」という。)によって組立てられる様々な物に適用することができるが、便宜上ここでは橋梁の主桁を対象とした例で説明する。なお、2以上の個別部材を組立てたもののことを、ここでは「完成体」ということとする。つまり、主桁を橋軸方向や橋軸直角方向に分割した部品が「個別部材」であり、この個別部材を少なくとも2個連結したものが「完成体」であって、必ずしも橋長分だけ個別部材が連結されたもののみが完成体ではない。
【0022】
1.全体概要
本願発明は、個別部材が配置される場所とは異なる場所で、個別部材の配置を制御することができる。例えば、既に構築された下部工付近に現地ヤードを設け、この現地ヤードに個別部材を配置し、現地ヤードから離れた管理事務所などから個別部材の配置を制御するわけである。もちろん、後述するように携帯端末などを利用することによって、現地ヤードにおいて個別部材の配置を調整することもできる。
【0023】
2.部材配置システム
次に、本願発明の部材配置システムについて詳しく説明する。なお、本願発明の完成体組立て方法は、本願発明の部材配置システムを用いて完成体を組立てる方法である。したがって、まずは本願発明の部材配置システムについて説明し、その後に本願発明の完成体組立て方法について説明することとする。
【0024】
図1は、本願発明の部材配置システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の部材配置システム100は、制御手段101と調整ジャッキ102、モデル記憶手段103を含んで構成され、さらに測量機器104や適否判定手段105、ディスプレイといった表示手段106を含んで構成することもできる。
【0025】
部材配置システム100を構成する制御手段101と適否判定手段105は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、マウスやキーボード等の入力手段やディスプレイ(表示手段106)を具備するもので、パーソナルコンピュータ(PC)や、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末などによって構成することができる。コンピュータ装置を利用する場合、そのコンピュータ装置は管理事務所など個別部材とは異なる場所に置くこともできるし、特にタブレット型PCや携帯端末を利用する場合は作業者が携行することもできる。なお管理事務所などにコンピュータ装置を設置するときは、後述するように調整ジャッキ102に信号を送るため、あるいは測量機器104とのデータ通信を行うために、無線通信(あるいは有線通信)手段を設けるとよい。
【0026】
またモデル記憶手段103は、汎用的コンピュータの記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバに構築することもできる。またデータベースサーバに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由(つまり無線通信)で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0027】
以下、主に
図2を参照しながら部材配置システム100を用いて行われる主な処理について詳しく説明する。
図2は、本願発明の部材配置システム100の主な処理の流れを示すフロー図である。なおこれらのフロー図では、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。
【0028】
まず、H型鋼などの鋼材を敷きならべて架台を設置するとともに、要所(例えば、個別部材の四隅など)に調整ジャッキ102を配置する。そして、第1の個別部材を複数の調整ジャッキ102の上に載置し、続いて第2の個別部材も複数の調整ジャッキ102の上に載置する。3以上の個別部材を連結する場合は、第3、第4・・・と順次載置していく。なお後述するように、基準とされる個別部材は位置の調整を行わないようにすることもできることから、一方の個別部材(例えば、第1の個別部材)は調整ジャッキ102上に載置しない(つまり、一方の個別部材の下には調整ジャッキ102を配置しない)こともできる。ここで調整ジャッキ102上に載置する個別部材の位置は正確である必要はなく、あくまで暫定である。また、調整ジャッキ102上に載置された第1の個別部材と第2の個別部材は、仮締めボルトによって仮に連結しておくとよい。
【0029】
計画された数(便宜上ここでは、2個の場合で説明する)の個別部材が調整ジャッキ102上に載置されると、
図3に示すように個別部材DEの要所(例えば、隅角部など)の座標を計測する(
図2のStep10)。
図3は、測量機器104が個別部材DEの要所の座標を計測する状況を模式的に示すモデル図である。この測量機器104は、通常のトータルステーション(TS:Total Station)を利用することもできるし、自動追尾型のトータルステーションを利用することもできるし、あるいは写真測量を行うためカメラを利用することも、レーザースキャナを利用することも、3D-TOF(Time of Flight)カメラを用いて反射体を使わずに3次元座標を取得する計測手法を利用することも、その他従来用いられている様々な測量手段を利用することもできる。測量機器104として自動追尾型のトータルステーションを利用する場合、個別部材DEの要所には測量用プリズム(ミラーやターゲットとも呼ばれる)が設置される。すなわち、自動追尾型の測量機器104が測量用プリズムを自動的に検出したうえで、測量用プリズムの位置(3次元座標)を取得するわけである。また、自動追尾型の測量機器104によって計測された測量用プリズムの座標(以下、「実測データ」という。)は、無線通信(あるいは有線通信)手段を介して制御手段101に送信され、制御手段101はこの実測データを受信する。
【0030】
実測データが得られると、制御手段101がモデル記憶手段103から3次元モデルを読み出すとともに、実測データと3次元モデルを照らし合わせる(
図2のStep20)。ここで「3次元モデル」とは、複数の個別部材DEが正しい配置で連結された完成体のモデルであり、コンピュータの仮想空間に作成された立体形状(つまり3次元)モデルである。なおこの3次元モデルは、設計図から直接作成することもできるし、設計図にしたがって個別部材DEを一旦仮組みした「仮の完成体」に基づいて作成することもできる。設計図から直接作成する場合、例えば3D-CAD(Computer-Aided Design)を操作することによって、設計図データから3次元モデルを作成することができる。一方、仮の完成体に基づいて作成する場合、設計図データにしたがって実際に個別部材DEを仮組みし、設計図データとの較差が最小になるように仮の完成体を完成させる。そして、実際の現場で形状が再現できるように基準孔(パイロットホール)や基準線を設置するとともに、仮の完成体の形状を測量して得られた3次元座標に基づいて3次元モデルを作成することができる。あるいは、それぞれ個別部材DEの形状を測量して3次元座標を取得し、これら3次元座標に基づいて例えば3D-CADコンピュータ上で個別部材DEを仮想組み立て(シミュレーション)することによって3次元モデルを作成することもできる。実測データも3次元座標であるから、座標系を合わせることによって、実測データと3次元モデルを照らし合わせる(例えば、重ね合わせる)ことができる。
図4(a)に実測データを3次元座標系に配置した状況を示し、
図4(b)に完成体の3次元モデルを示す。なお、3次元モデルはあらかじめ作成しておき、モデル記憶手段103に記憶させておくとよい。
【0031】
実測データと3次元モデルを照らし合わせるにあたっては、実測データに基づく座標系を設定するとよい。例えば、第1の個別部材DEの要所(測量用プリズム)を原点に設定するとともに、個別部材DEの部材軸方向(あるいは橋軸方向)をX軸、個別部材DEの部材軸直角方向(あるいは橋軸直角方向)をY軸、鉛直軸をZ軸とするわけである。もちろん原点の位置や軸方向は、適宜設定することができる。
【0032】
ところで、個別部材DEは暫定的に配置されていることから、この段階では個別部材DEの位置は計画どおりとはなっていないはずである。したがって、同じ座標系で実測データと3次元モデルを配置すると、両者には較差(ズレ)が生じている。より詳しくは、座標系を設定した個別部材DE(例えば、第1の個別部材DE)の実測データと3次元モデルは略一致しているが、他の個別部材DE(例えば、第2の個別部材DE)の実測データと3次元モデルには較差が生じている。そこで制御手段101は、実測データと3次元モデルとの3軸方向の座標差(dX、dY、dZ)を較差として求める。
【0033】
実測データと3次元モデルとの較差が得られると、制御手段101が調整ジャッキ102を制御することによって個別部材DEの位置を調整する(
図2のStep30)。調整ジャッキ102は、
図5(a)に示すようにH型鋼などの鋼材を敷きならべた架台TRの上に配置され、要所で個別部材DEを支持するものである。またこの調整ジャッキ102は、
図5(b)に示すように3軸方向に独立して個別部材DEを移動させることができる。より詳しくは、制御手段101から無線通信(あるいは有線通信)手段を介して制御信号が電動ポンプEPに送信され、これを受信した電動ポンプEPがその制御信号にしたがって調整ジャッキ102を3軸方向に伸縮させる。このとき制御手段101は、実測データと3次元モデルとの較差(dX、dY、dZ)だけ個別部材DEが移動するような制御信号を送信する。
【0034】
図6は、個別部材DEの位置を調整する状況を模式的に示すモデル図であり、(a)は位置調整を行う前の個別部材DEの側面図を示し、(b)は位置調整を行った後の個別部材DEの側面図を示している。この図の例では、個別部材A(図では左側の個別部材DE)の要所を原点とする座標系を設定しており、したがって個別部材B(図では右側の個別部材DE)の位置を調整している。すなわち、
図6(a)に示す個別部材Bは計画配置(ここでは水平配置)に対して右上がりに傾斜しているため、個別部材B側にある調整ジャッキ102を較差(dZ)分だけ鉛直方向に縮めることによって、
図6(b)に示すように個別部材Bが計画配置となるように調整する。なおこの図では、鉛直方向にのみ個別部材DEの位置を調整しているが、もちろん水平方向にも較差(dX、dY)が生じているときは、その較差(dX、dY)分だけ伸縮するように調整ジャッキ102を制御する。
【0035】
制御手段101が求めた較差(dX、dY)分だけ個別部材DEの位置を調整しても、なお個別部材DEが計画どおりの配置となっていないこともある。そこで、適否判定手段105が調整後の個別部材DEの配置の適否判定を行う仕様にするとよい。この場合、調整後の個別部材DEの実測データが制御手段101に送られる。自動追尾型のトータルステーションを利用する場合、測量機器104が測量用プリズムを自動的に検出することから、作業者が特段の操作を行うことなく、継続的に個別部材DEの座標が計測される。
【0036】
再計測により移動後の個別部材DEの実測データが得られると、制御手段101が改めて実測データと3次元モデルとの較差(dX、dY、dZ)を求め、あらかじめ定めた許容値(「規格値」でもよい)と照らし合わせる。この許容値は、正負を含めた範囲(例えば、「-10mm以上かつ10mm」以下など)で設定するとよい。ここで、3軸のうちいずれか一つでも較差が許容値の範囲外であれば(
図2のStep40のNo)、適否判定手段105は、制御手段101に対して個別部材DEの位置を再調整するよう信号を送る。そして、この信号を受けた制御手段101は、再計測により得られた較差(dX、dY、dZ)分だけ伸縮するように調整ジャッキ102を制御する。一方、3軸すべての較差が許容値の範囲内に収まっていれば(
図2のStep40のYes)、適否判定手段105は、例えば表示手段106などに「完了」などの情報を出力するとともに、制御手段101を介して自動追尾型の測量機器104の計測を停止させる。
【0037】
本願発明の部材配置システム100は、オペレータの操作によって起動する仕様とすることができる。すなわち、オペレータが所定の指示(クリック等の操作)を行うと、部材配置システム100による一連の処理が開始される。ところで、既述したとおり日中は直射日光等の影響で部材の温度が変化しやすく、温度ムラによる部材変形が生じることもある。このような状況下では、部材配置システム100によっても個別部材DEを適切に配置することは難しい。そこで、個別部材DEの所定位置(例えば、個別部材DEの上下)に温度を検知するセンサを設置し、それぞれの温度(例えば上下の温度)が略均一(均一含む)になったときに(例えば、上下の温度差があらかじめ定めた閾値以下になったときに)本システムが自動で起動する仕様とするとよい。具体的には、日中に個別部材DEを暫定配置しておき、温度が安定する夜間になると自動的に部材配置システム100が起動し、一連の処理(例えば、個別部材の計測~調整ジャッキの制御)を行っていくわけである。あるいは、温度に関わらず(つまり温度センサを設置することなく)、あらかじめ設定された時刻を起動のトリガにすることもできる。この場合、部材配置システム100がタイマーを備えることとし、所定の時刻(例えば、22時など)になった時点で自動的に本システムが自動で起動する。
【0038】
3.完成体組立て方法
続いて本願発明の完成体組立て方法について
図7を参照しながら説明する。なお、本願発明の完成体組立て方法は、ここまで説明した部材配置システム100を用いて完成体を組立てる方法であり、したがって部材配置システム100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の完成体組立て方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.部材配置システム」で説明したものと同様である。
【0039】
まず、H型鋼などの鋼材を敷きならべて架台TRを設置するとともに、要所(例えば、個別部材DEの四隅など)に調整ジャッキ102を配置する(
図7のStep101)。また、あらかじめ3次元モデルを作成しておく。既述したとおり3次元モデルは、設計図から直接作成することもできるし、設計図にしたがって個別部材DEを一旦仮組みした「仮の完成体」に基づいて作成することもできる。設計図から直接作成する場合、例えば3D-CADを操作することによって、設計図データから3次元モデルを作成することができる。一方、仮の完成体に基づいて作成する場合は、
図8や
図9に示す手順で作成することができる。
図8のケースでは、まず設計図データにしたがって実際に個別部材DEの仮組みを行う(
図8のStep101a)とともに設計図データと比較し、設計図データとの較差が最小になったときに仮の完成体の完成とする(
図8のStep101b)。そして、実際の現場で形状が再現できるように基準孔(パイロットホール)や基準線を設置するとともに仮の完成体の形状の測量を行い(
図8のStep101c)、ここで得られた3次元座標に基づいて3次元モデルを作成する(
図8のStep101d)。
図9のケースでは、まずそれぞれの個別部材DEの形状を測量して3次元座標を取得し(
図8のStep101e)、これら3次元座標に基づいて例えば3D-CADコンピュータ上で個別部材DEの仮想組み立て(シミュレーション)を行い(
図8のStep101f)、この仮想組み立てよって形成された仮の完成体に基づいて3次元モデルを作成する(
図8のStep101d)。そして、第1の個別部材DEを複数の調整ジャッキ102の上に載置し、続いて第2の個別部材DEも複数の調整ジャッキ102の上に載置する(
図7のStep102)。このとき、基準とされる個別部材DE(例えば、第1の個別部材DE)は調整ジャッキ102上に載置しない(つまり、一方の個別部材DEの下には調整ジャッキ102を配置しない)こともできる。なお、ここで調整ジャッキ102上に載置する個別部材DEの位置は正確である必要はなく、あくまで暫定である。調整ジャッキ102上に載置された第1の個別部材DEと第2の個別部材DEは、仮締めボルトによって仮に連結しておく(
図7のStep103)。
【0040】
計画された数(便宜上ここでは、2個の場合で説明する)の個別部材DEが調整ジャッキ102上に載置されると、個別部材DEの要所の座標を計測する(
図7のStep104)。より詳しくは、個別部材DEの要所に設置された測量用プリズムを自動追尾型の測量機器104が自動的に検出したうえで、その測量用プリズムの位置(3次元座標)、すなわち実測データを取得する。
【0041】
実測データが得られると、制御手段101を用いて実測データと3次元モデルを照らし合わせ、実測データと3次元モデルとの較差(dX、dY、dZ)を求める(
図7のStep105)。そして、制御手段101を用いて調整ジャッキ102を制御することで個別部材DEの位置を調整する(
図7のStep106)。
【0042】
個別部材DEの位置を調整すると、再度、個別部材DEの要所の座標を計測する(
図7のStep107)。自動追尾型のトータルステーションを利用する場合、測量機器104が測量用プリズムを自動的に検出することから、作業者が特段の操作を行うことなく、移動後の個別部材DEの座標を再計測することができる。
【0043】
再計測により移動後の個別部材DEの実測データが得られると、改めて実測データと3次元モデルとの較差(dX、dY、dZ)を求め、適否判定手段105によってこの較差と許容値を照らし合わせる(
図7のStep108)。ここで、3軸のうちいずれか一つでも較差が許容値の範囲外であれば(
図7のStep108のNo)、再度、個別部材DEの位置を調整する。一方、3軸すべての較差が許容値の範囲内に収まっていれば(
図7のStep108のYes)、第1の個別部材DEと第2の個別部材DEを連結する(ボルトの締め付けを行う)ことで完成体を構築し(
図7のStep109)、この完成体を橋台上や橋脚上の所定位置に架設する(
図7のStep110)。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本願発明の部材配置システム、完成体組立て方法は、道路橋、鉄道橋、管路橋といったあらゆる用途の橋梁に利用でき、また橋梁の主桁以外の長尺物などを完成させる様々なケースで利用することができる。本願発明が、建設業界における人手不足という問題を解決することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0045】
100 本願発明の部材配置システム
101 (部材配置システムの)制御手段
102 (部材配置システムの)調整ジャッキ
103 (部材配置システムの)モデル記憶手段
104 (部材配置システムの)測量機器
105 (部材配置システムの)適否判定手段
106 (部材配置システムの)表示手段
EP 電動ポンプ
DE 個別部材
TR 架台