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特許7601646ハードコートフィルムの製造方法、およびカール抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ハードコートフィルムの製造方法、およびカール抑制方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/06 20060101AFI20241210BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20241210BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20241210BHJP
【FI】
B05D3/06 102C
B32B27/16 101
G02B1/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021008955
(22)【出願日】2021-01-22
(65)【公開番号】P2022112922
(43)【公開日】2022-08-03
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松宮 俊文
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-091544(JP,A)
【文献】特開2003-093963(JP,A)
【文献】国際公開第2020/040209(WO,A1)
【文献】特開2008-183794(JP,A)
【文献】特開2006-334561(JP,A)
【文献】特開昭62-80041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
G02B 1/00-1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一主面および第二主面を有するフィルム基材の第一主面上にハードコート層を備えるハードコートフィルムの製造方法であって、
前記フィルム基材の第一主面上に、硬化性樹脂および光重合開始剤を含むハードコート組成物を塗布して塗膜を形成するコーティング工程;
前記ハードコート組成物の塗膜に活性光線を照射して前記硬化性樹脂を光硬化する光照射工程;および
前記フィルム基材と光照射後の前記塗膜との積層体を加熱する加熱工程
を、順に有し、
前記加熱工程において、前記フィルム基材の第二主面が熱ロールに接触し、塗膜形成面が外側となるように前記熱ロールに沿わせて前記積層体を湾曲させた状態で、加熱を行う、
ハードコートフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記フィルム基材の第二主面がロールに接触している状態で、前記塗膜形成面から加熱を行う、請求項に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程における加熱温度が、80℃以上である、請求項1または2に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項4】
熱ロールの直径が100mm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程において加熱を行う際に、前記塗膜が半硬化の状態であり、前記光照射工程における活性光線の照射により生成した前記光重合開始剤の活性種が塗膜中に残存している、請求項1~のいずれか1項に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ハードコート組成物は、前記硬化性樹脂が、エポキシ基およびオキセタン基からなる群から選択される1種以上の重合性官能基を有し、前記光重合開始剤として光カチオン重合開始剤を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ハードコート層の厚みが5μm以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項8】
第一主面および第二主面を有するフィルム基材の第一主面上にハードコート層を備えるハードコートフィルムのカールを抑制する方法であって、
前記フィルム基材の第一主面上に、硬化性樹脂および光重合開始剤を含むハードコート組成物の光硬化物からなるハードコート層を備える積層体を準備し、
前記積層体を、前記フィルム基材の第二主面が熱ロールに接触し、ハードコート層形成面が外側となるように前記熱ロールに沿わせて前記積層体を湾曲させた状態で、加熱を行う、カール抑制方法。
【請求項9】
前記ハードコート層は、加熱前において半硬化の状態であり、前記光重合開始剤から生成した活性種の作用により、前記加熱時に硬化が進行する、請求項に記載のカール抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム基材上にハードコート層を備えるハードコートフィルムの製造方法、およびハードコートフィルムのカールの抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、曲面ディスプレイや折り畳み可能なディスプレイ(フレキシブルディスプレイ、フォルダブルディスプレイ)が開発されており、基板やカバーウインドウの材料として、ガラスに代えて可撓性を有する樹脂フィルムが用いられるようになっている。樹脂フィルムに高い硬度を持たせるために、樹脂フィルムの表面にハードコート層を設けたハードコートフィルムが用いられている。
【0003】
カバーウインドウ等のディスプレイ表面に配置される部材には、高い硬度が要求されている。一方、折り畳み可能なディスプレイでは、屈曲を繰り返してもハードコート層に剥がれやクラックが生じないことが要求されている。ハードコート層の硬度と耐屈曲性とを両立させるためには、ハードコート層を構成する硬化性樹脂の柔軟性を高めつつ、ハードコート層の厚みを大きくして硬度を確保する必要がある。
【0004】
ハードコート層は、樹脂フィルム基材の表面に光硬化性のコーティング液(ハードコート組成物)を塗布して塗膜を形成し、必要に応じて溶媒を除去した後に、組成物を硬化させることにより形成される。ハードコート層の厚みが大きくなると、硬化収縮が大きくなり、フィルム基材とハードコート層との界面に圧縮応力が生じるため、ハードコート層形成面を内側とするフィルムの反り(カール)が生じる(図7参照)。
【0005】
ハードコートフィルムのカールを抑制または低減する方法として、フィルム基材のハードコート層非形成面にカール抑制層を形成してフィルム基材の表裏の応力をバランスさせる方法(特許文献1)、ハードコートフィルムを水蒸気で処理する方法(特許文献2)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/029667号
【文献】特開2011-215268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ディスプレイ用カバーウインドウ等の用途において、より大きな厚みのハードコート層を備えるハードコートフィルムが要求されているが、ハードコート層の厚みが大きいほどハードコートフィルムのカールが大きくなる傾向があり、フィルムのハンドリングが困難となる場合がある。上記に鑑み、本発明は、ハードコート層の厚みが大きい場合でも、カールが抑制されたハードコートフィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、第一主面および第二主面を有するフィルム基材の第一主面上にハードコート層を備えるハードコートフィルムの製造方法に関する。ハードコート層の厚みは5μm以上であってもよい。
【0009】
フィルム基材の第一主面上に、硬化性樹脂および光重合開始剤を含むハードコート組成物を塗布して塗膜を形成し、ハードコート組成物の塗膜に活性光線を照射して硬化性樹脂を光硬化する。
【0010】
ハードコート組成物は、光カチオン重合性であってもよい。光カチオン重合性の組成物は、例えば、光カチオン重合性の官能基を有する硬化性樹脂と、光カチオン重合開始剤(光酸発生剤)を含む。光カチオン重合性の官能基としては、エポキシ基、オキセタン基等が挙げられる。エポキシ基を含む官能基としては、脂環式エポキシ基およびグリシジル基が挙げられる。
【0011】
ハードコート組成物の塗膜に活性光線を照射して光重合開始剤から活性種を生成させた後、フィルム基材上に塗膜が設けられた積層体を、塗膜形成面が外側となるように湾曲させた状態で加熱を行う。活性光線照射後の塗膜は、加熱処理までの間、半硬化の状態であってもよい。半硬化状態の塗膜では、活性光線の照射により、光重合開始剤から発生した活性種が残存していてもよい。この状態で加熱を行うことにより、硬化(重合反応)が進行するため、塗膜(ハードコート層)の硬度が上昇する。
【0012】
上記の加熱処理は、例えば、ロールに沿って積層体を湾曲させた状態で実施される。フィルム基材の第二主面(塗膜形成面と反対側の面)がロールに接触するように積層体を湾曲させれば、塗膜形成面が外側となる。積層体を添わせるロールは熱ロールであってもよい。この場合は、熱ロールからの熱により加熱処理が行われる。積層体をロールに沿わせた状態で、ヒータ等の熱源からの熱により、塗膜形成面側から加熱を行ってもよい。
【0013】
加熱処理時の積層体の湾曲の曲率半径は50mm以下が好ましい。加熱処理における加熱温度は、80℃以上が好ましい。
【発明の効果】
【0014】
ハードコート組成物の塗膜に活性光線を照射した後、塗膜形成面が外側となるように湾曲させた状態で加熱を行うことにより、カールが低減されたハードコートフィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態のハードコートフィルムの断面図である。
図2】フィルム基材上にハードコート層を形成する製膜装置およびその工程の概要を示す概念図である。
図3図2における加熱部周辺の拡大図である。
図4】加熱部の構成例を示す模式図である。
図5】加熱部の構成例を示す模式図である。
図6】加熱部の構成例を示す模式図である。
図7】ハードコートフィルムにおけるカールの発生原理の説明図である。
図8】ハードコートフィルムのカールの方向について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一態様は、フィルム基材の一方の主面上にハードコート層を備えるハードコートフィルムにおけるカールの抑制/低減に関する。本発明のさらなる態様は、当該カール抑制方法を適用したハードコートフィルムの製造方法に関する。
【0017】
[ハードコートフィルムの構成および材料]
図1は、フィルム基材1の第一主面1A上にハードコート層3を備えるハードコートフィルムの断面図である。
【0018】
<フィルム基材>
ハードコートフィルムのフィルム基材1としては、例えば、透明フィルムが用いられる。透明フィルムの可視光透過率(全光線透過率)は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0019】
透明フィルムを構成する樹脂材料としては、透明性、機械強度、および熱安定性に優れるものが好ましい。樹脂材料の具体例としては、ポリエステル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、セルロース系樹脂が挙げられる。
【0020】
ハードコートフィルムがディスプレイのカバーウインドウに用いられる場合、フィルム基材には、優れた耐熱性および機械強度が要求され、樹脂材料の好ましい例として、透明ポリイミド挙げられる。一般的な全芳香族ポリイミドは黄色または褐色に着色しているのに対して、脂環式構造の導入、屈曲構造の導入、フッ素置換基の導入等により、可視光透過率が高い透明ポリイミドが得られる。
【0021】
フィルム基材の厚みは特に限定されないが、強度や取扱性等の作業性、薄層性等の観点から、5~300μm程度が好ましく、10~250μmがより好ましく、20~200μmがさらに好ましい。
【0022】
<ハードコート組成物>
ハードコート層は、硬化性樹脂および光重合開始剤を含むハードコート組成物をフィルム基材上に塗布し、樹脂成分を光硬化することにより形成される。すなわち、ハードコート層は、ハードコート組成物の光硬化物からなる硬化樹脂層である。
【0023】
(硬化性樹脂)
硬化性樹脂(バインダー樹脂)は、光硬化性を有する。光硬化性樹脂は、2個以上の光重合性(好ましくは紫外線重合性)の官能基を有する多官能化合物である。多官能化合物はモノマーまたはオリゴマーであってもよい。光重合性官能基は、ラジカル重合性またはカチオン重合性であってもよい。ラジカル重合性官能基としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等のエチレン性不飽和二重結合を有する官能基が挙げられる。カチオン重合性官能基としては、エポキシ基、オキセタン基等の環状エーテル基が挙げられる。中でも、光カチオン重合による硬化が可能であり、硬化収縮が小さいことから、エポキシ基およびオキセタン基が好ましい。エポキシ基を含む光カチオン重合性の官能基としては、グリシジル基および脂環式エポキシ基が挙げられる。中でも、光カチオン重合の反応性が高いことから、脂環式エポキシ基が好ましい。
【0024】
光ラジカル重合性の硬化性樹脂の具体例として、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ポリオールアクリレート等のアクリル系樹脂が挙げられる。光カチオン重合性の硬化性樹脂の具体例として、エポキシ系樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂として、WO2018/096729号、WO2014/204010号、特開2017-8142号公報等に開示されている、光重合性官能基としてエポキシ基を有するポリシロキサン化合物を用いてもよい。
【0025】
(光重合開始剤)
光硬化性のハードコート組成物は、硬化性樹脂に加えて、光重合開始剤を含む。光重合開始剤としては、硬化性樹脂の重合性に応じて、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤(光酸発生剤)等を用いればよい。ハードコート組成物中の光重合開始剤の含有量は、硬化性樹脂100重量部に対して、0.05~10重量部程度であり、0.1~5重量部、または0.2~2重量部であってもよい。
【0026】
光ラジカル重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α-アミノキシムエステル、チオキサントン類、プロピオフェノン類、ベンジル類、ベンゾイン類、アシルホスフィンオキシド類が挙げられる。
【0027】
光カチオン重合開始剤としては、トルエンスルホン酸または四フッ化ホウ素等の強酸;スルホニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、ヨードニウム塩、セレニウム塩等のオニウム塩類;鉄-アレン錯体類;シラノール-金属キレート錯体類;ジスルホン類、ジスルホニルジアゾメタン類、ジスルホニルメタン類、スルホニルベンゾイルメタン類、イミドスルホネート類、ベンゾインスルホネート類等のスルホン酸誘導体;有機ハロゲン化合物類が挙げられる。
【0028】
光カチオン重合開始剤の活性種は、光照射により発生した酸であり、光ラジカルに比べて活性種の寿命が長く、光照射後も長期に重合反応が進行する。また、光カチオン重合の進行には加熱が必要であるため、低温で光照射を実施すると、光照射後も、組成物中に活性種としての酸が残存した半硬化の状態が維持される。そのため、光照射後に加熱を行い、未硬化の硬化性樹脂の反応を進行させることが可能である。
【0029】
(光増感剤)
ハードコート組成物は、感光性の向上等を目的として光増感剤を含んでいてもよい。光増感剤としては、アントラセン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体、アントラキノン誘導体、ベンゾイン誘導体が挙げられる。中でも、光誘起電子供与性の観点から、アントラセン誘導体、チオキサントン誘導体、およびベンゾフェノン誘導体が好ましい。
【0030】
(反応性希釈剤)
ハードコート組成物は、光硬化性樹脂に加えて、反応性希釈剤(光硬化性モノマー)を含んでいてもよい。組成物に反応性希釈剤を配合することにより、光重合の反応点(架橋点)の密度が増加するため、硬化速度が高められる場合がある。
【0031】
(添加剤)
ハードコート組成物は、微粒子、着色剤、可塑剤、分散剤、湿潤剤、増粘剤、レベリング剤、消泡剤、難燃剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤等の添加剤を含んでいてもよい。また、ハードコート組成物は、上記の光硬化性樹脂に加えて、熱可塑性または熱硬化性の樹脂材料を含んでいてもよい。
【0032】
(溶媒)
ハードコート組成物は、無溶媒型でもよく、溶媒を含んでいてもよい。溶媒は、フィルム基材を溶解させないものが好ましい。一方、フィルム基材を膨潤させる程度の溶解性を有する溶媒を用いることにより、フィルム基材とハードコート層との密着性が向上する場合がある。
【0033】
溶媒としては、アセトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、シクロヘキサノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル等のエステル類:ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル等のエーテル類;ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド類;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化アルキル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類が挙げられる。
【0034】
(ハードコート組成物の調製)
ハードコート組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、上記の各成分を配合し、ハンドミキサーやスタティックミキサー等による混合、プラネタリーミキサーやディスパー、ロール、ニーダー等による混練等を行ってもよい。
【0035】
ハードコート組成物が溶媒を含む場合、組成物の固形分(不揮発分)濃度は、通常5~80重量%程度であり、10~70重量%程度であってもよい。製膜性や溶媒の乾燥除去効率を考慮すると、ハードコート組成物の固形分濃度は15重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましく、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上または40重量%以上であってもよい。上記の様に、ハードコート組成物は無溶媒型であってもよい。
【0036】
ハードコート組成物(コーティング液)の粘度は、特に限定されず、コーティング方法等に応じて設定すればよいが、通常1~200ポイズ程度であり、5~150ポイズまたは10~100ポイズであってもよい。
【0037】
[ハードコート層の形成]
フィルム基材1の第一主面1A上にハードコート組成物を塗布して塗膜を形成し、硬化性樹脂を光硬化することにより、ハードコート層3が形成される。図2は、帯状のフィルム基材1をロールトゥーロールで搬送しながら、フィルム基材1の第一主面1A上にハードコート層3を形成する製膜装置および製膜工程の概要を示す概念図である。
【0038】
図2では、巻き出しロール11に、長尺のフィルム基材がロール状に巻回された巻回体10が巻き掛けられている。巻き出しロール11から巻き出された帯状のフィルム基材1は、搬送ロール41,42,43、および一対のニップロール45により形成された搬送経路の下流側に連続的に搬送される。コーティング部30では、フィルム基材1の第一主面1A上にハードコート組成物の塗膜が形成される。フィルム基材上に塗膜が形成された積層体は、加熱炉の前後に配置された搬送ロール37,38および搬送ロール71,72により形成された搬送路に沿って光照射部60に搬送され、光源65からハードコート組成物に光が照射される。その後、一対のニップロール75、および搬送ロール73,74に沿って加熱部90へ搬送される。加熱部90での加熱処理後、フィルム基材1上にハードコート層3が形成された積層体(ハードコートフィルム)8は、搬送ロール83,84に沿って搬送され、巻取りロール81でロール状に巻き取られ、ハードコートフィルムの巻回体80が得られる。
【0039】
ニップロール45およびニップロール75は、2本のロールによりフィルムを挟持して、下流側に搬送する。ニップロールを構成する2本のロールのうちの少なくとも1本は駆動ロールであり、その回転速度を調整することにより、フィルムの搬送速度を一定に保持する。搬送ロールは、駆動ロールでもよく、自由回転ロールでもよい。図示していないが、加熱炉50の内部にも搬送ロールが設けられていてもよい。
【0040】
フィルム基材の搬送速度は特に制限されず、塗布厚みや、溶媒の乾燥、組成物の硬化、および加熱処理に要する時間等を勘案して適宜設定すればよい。フィルム基材の搬送速度は、一般には0.1~100m/分程度であり、0.3~50m/分、0.5~30m/分、または1~20m/分であってもよい。
【0041】
以下では、図2に沿って、ハードコート層を形成する各工程について説明する。
【0042】
<塗膜の形成>
コーティング部30に搬送されたフィルム基材1の第一主面1A上に、ハードコート組成物を塗布することにより、ハードコート組成物の塗膜が形成される。図2に示す形態では、バックアップロール33にフィルム基材1の第二主面1Bが接している状態で、フィルム基材1の第一主面1A上に、ダイス31から吐出されたハードコート組成物が塗布される。
【0043】
フィルム基材1上にハードコート組成物を塗布する方法は特に限定されない。塗布方法としては、ダイコートの他に、グラビアコート、ワイヤーバーコート、ナイフロールコート、ブレードコート、スプレーコートが挙げられる。塗布厚みは、ハードコート層の厚みに応じて適宜設定すればよい。
【0044】
<乾燥>
ハードコート組成物が溶媒を含む場合は、溶媒の乾燥が行われる。乾燥は常温でもよいが、溶媒の除去効率を高める観点から、フィルム基材上に塗膜が形成された積層体を加熱炉50内で加熱することが好ましい。加熱温度は特に限定されないが、30~200℃程度であり、加熱温度を段階的に上昇させてもよい。加熱時間は10秒から10分程度である。
【0045】
<光照射>
光照射部60で、ハードコート組成物の塗膜(組成物が溶媒を含む場合は、溶媒を除去後の塗膜)に、光源65から活性エネルギー線を照射することにより、光硬化が行われる。図2では、フィルム基材をバックアップロール63上で搬送しながら、光源65から活性光線を照射する形態が図示されている。
【0046】
光硬化の際に照射する活性エネルギー線としては、可視光、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、γ線、電子線が挙げられる。硬化速度が高くエネルギー効率に優れることから、活性光線としては、紫外線が好ましい。光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、LED、ブラックライト、ケミカルランプが挙げられる。
【0047】
活性エネルギー線の積算照射量は、例えば50~10000mJ/cm程度であり、ハードコート組成物に含まれる硬化性樹脂および光重合開始剤の種類および配合量、ハードコート層の厚み等に応じて設定すればよい。
【0048】
光照射部60で光を照射した段階では、ハードコート組成物の塗膜は、半硬化状態であることが好ましい。光照射の段階では、ハードコート組成物を半硬化とする(完全には硬化しない)ことにより、過重合や光重合開始剤の分解等に起因する黄変が抑制される。また、光照射の段階では、硬化収縮が少ないため、カールの発生が抑制され、ロールトゥーロールでの搬送性が高められる。さらには、光照射の段階で組成物中に未硬化成分が残存していれば、後述の加熱時にフィルムを湾曲させた状態で硬化が進行し、ハードコートフィルムのカールがより効率的に低減される。
【0049】
ハードコート組成物を半硬化とするためには、例えば、光照射量を調整すればよい。ハードコート組成物が光カチオン重合性である場合は、光照射量に加えて、光照射時の温度を制御することにより、硬化状態を調整できる。ハードコート組成物の塗膜を半硬化とする場合、搬送ロールやニップロールに塗膜が接触しても、組成物がロールに付着しない程度(タックフリー状態)まで硬化しておくことが好ましい。
【0050】
光カチオン重合では、光照射により光カチオン重合開始剤から活性種としての酸が生成するが、加熱を行わなければ重合反応の速度は小さい。そのため、光照射のみでは、硬化性樹脂の一部が未硬化の状態であり、活性種としての酸も未反応で膜中に残存する。ハードコート組成物を半硬化状態とする為に、光照射時の温度は、後述の加熱時の温度よりも低いことが好ましい。光照射時の温度は、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、60℃以下がさらに好ましく、50℃以下または40℃以下であってもよい。光源65からの熱等に起因する温度上昇を抑制する為に、冷風の吹き付けや、バックアップロールの温調等により、冷却を行ってもよい。
【0051】
<加熱処理>
光照射部でフィルム基材1上の塗膜に光を照射した後、加熱部90で積層体が加熱される。加熱部90において、積層体の塗膜形成面(ハードコート層3形成面)が外側となるように湾曲させた状態(図3参照)で加熱を行うことにより、カールが抑制されたハードコートフィルムが得られる。換言すれば、加熱処理は、ハードコートフィルムのカールを抑制/低減する処理である。
【0052】
光硬化性樹脂は、一般に、硬化の際に収縮する。そのため、フィルム基材701上でハードコート組成物を硬化する際の硬化収縮により、フィルム基材701とハードコート層703との界面に圧縮応力が生じ、図7に示す様に、ハードコートフィルム708は、ハードコート層703形成面を内側とするフィルムの反り(カール)が生じる。ハードコート層703の厚みが大きいほど、界面での圧縮応力が大きくなり、これに伴ってハードコートフィルムのカールが大きくなる傾向がある。
【0053】
図3は、図2における加熱部90の拡大図であり、フィルム基材1の第二主面1B(ハードコート層非形成面)が熱ロール91に接触しており、フィルム基材1上に塗膜(ハードコート層3)が形成された積層体は、塗膜形成面が外側となるように、熱ロールに沿って湾曲している。湾曲部分では、フィルム基材1の第二主面1Bには圧縮歪が生じ、フィルム基材1の第一主面1A(塗膜形成面)には膨張歪が生じている。そのため、塗膜にも膨張歪(引張応力)が生じている。
【0054】
熱ロール91に接している間、積層体は、曲率半径R(熱ロール91の直径の半分に等しい)で湾曲し、塗膜に引張応力が作用した状態で加熱される。この状態で、加熱により重合が進行すると、フィルム基材1の第一主面1Aとハードコート層3との界面では、硬化収縮による圧縮歪が、湾曲による膨張歪により相殺される。
【0055】
このように、塗膜形成面を外側として湾曲させた状態で加熱することにより、フィルム基材1とハードコート層3の界面での歪みが相殺された状態で、ハードコート層の硬化状態が固定されるため、ハードコートフィルムのカールが抑制される。湾曲時の曲率半径が小さいほど(すなわち、熱ロール91の径が小さいほど)、湾曲によるハードコート層の膨張歪(引張応力)が大きく、カール抑制効果が高い。そのため、ハードコート層の厚みが大きく、これに伴う圧縮歪が大きい場合であっても、ハードコートフィルムのカールが抑制/低減される傾向がある。
【0056】
光硬化(光照射により生じた活性種の作用により、光照射後の加熱により進行する硬化も含む)による硬化収縮は、フィルムの面内で等方的に生じる。そのため、湾曲させずに積層体の加熱を行うと、搬送方向(MD)および幅方向(TD)の両方にフィルムがカールしようとする作用が働く。
【0057】
上記の様に、ロールに沿ってフィルムを湾曲させた状態で加熱処理を実施すると、搬送方向ではハードコート層形成面に引張応力が作用して硬化収縮に起因するカールが低減されるのに対して、幅方向には引張応力が作用しない状態で硬化収縮が生じる。そのため、搬送方向に沿って湾曲させた状態で加熱処理を行ったハードコートフィルムは、幅方向に沿ったカールが生じやすいが、搬送方向に沿ってより小さな曲率半径Rで湾曲させた状態で加熱を行うと、搬送方向だけでなく、幅方向のカールも抑制/低減される傾向がある。
【0058】
搬送方向に加えて幅方向に沿ったカールが抑制される1つの推定要因として、搬送方向に沿った湾曲の曲率半径を小さくすると、搬送方向には逆向き(ハードコート層形成面が外側)にカールしようとする力が作用することが挙げられる。すなわち、搬送方向に沿ってハードコート層形成面を外側としてカールしようとする作用(引張応力)と、幅方向に沿ってハードコート層形成面を内側としてカールしようとする作用(圧縮応力)とがバランスすることにより、搬送方向だけでなく、幅方向に沿ったカールも抑制されると考えられる。
【0059】
ハードコートフィルムのカールを低減する観点において、加熱部での加熱時の湾曲の曲率半径Rは小さいほど好ましい。上記の様に、ハードコート層の厚みが大きいほど、カールが大きくなる傾向があるため、ハードコート層の厚みが大きい場合は、カールを抑制するために、加熱時の湾曲の曲率半径Rをより小さくすることが好ましい。
【0060】
曲率半径Rの最適値は、ハードコート層の厚みや、カールの発生状況によって異なるが、100mm以下が好ましい。ハードコート層の厚みが5μm以上である場合にもカールを効果的に抑制/低減する観点から、曲率半径Rは、50mm以下がより好ましく、40mm以下がさらに好ましく、30mm以下、25mm以下または20mm以下であってもよい。積層体をロールに沿って湾曲させた状態で加熱処理を実施する場合、湾曲の曲率半径Rを上記範囲とする為に、ロールの直径は、200mm以下が好ましく、100mm以下がより好ましく、80mm以下がさらに好ましく、60mm以下、50mm以下または40mm以下であってもよい。
【0061】
図2に示す様に、光照射時にバックアップロール63に沿ってフィルムを湾曲させながら光照射を実施する場合、加熱部90での湾曲の曲率半径Rは、光照射時の湾曲の曲率半径rよりも小さいことが好ましい。Rは0.5r以下がより好ましく、0.3r以下、0.2r以下または0.1r以下であってもよい。
【0062】
上記の様に、硬化収縮に起因するカールを低減する観点においては、加熱時の曲率半径Rは小さいほど好ましい。一方、曲率半径Rが過度に小さい場合は、湾曲時の引張応力の影響が大きく、ハードコート層形成面を外側としたカールが生じる場合がある。また、曲率半径Rが過度に小さい場合は、塗膜(ハードコート層)に割れや剥がれが生じる場合がある。そのため、曲率半径Rは、3mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましく、8mm以上、10mm以上または15mm以上であってもよい。熱ロール等のロールに接触した状態で加熱処理を実施する場合、湾曲の曲率半径Rを上記範囲とする為に、ロールの直径は、6mm以上が好ましく、10mm以上がより好ましく、16mm以上、20mm以上または30mm以上であってもよい。
【0063】
加熱部での加熱温度は、特に限定されず、ハードコートフィルムのカールが低減するように調整すればよい。加熱により、半硬化状態の塗膜の硬化を進行させてハードコート層の硬度を確保する観点、およびカール抑制効果を高める観点から、加熱部90でフィルムを湾曲させた状態で加熱する際の加熱温度は、光照射時よりも高温であることが好ましい。加熱部での加熱温度は、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましく、100℃以上、120℃以上、140℃以上または150℃以上であってもよい。
【0064】
熱ロール91に積層体を接触させることにより加熱を行う場合、加熱温度は熱ロールの表面温度である。後述のように塗膜(ハードコート層)形成面側から加熱を行う場合は、塗膜の直上の雰囲気温度と積層体(フィルム基材1の第二主面1B)が接しているロールの表面温度の高い方を加熱温度とする。
【0065】
熱ロール91にフィルム基材1の第二主面1Bを接触させて加熱を行う場合、熱ロール91との短時間の接触では、熱ロールからの熱が十分に伝わらず、熱ロールの表面温度とフィルム基材1の第一主面1A上に形成された塗膜(ハードコート層3)の温度に乖離が生じる場合がある。塗膜の温度を十分に高めて硬化を進行させる観点から、熱ロールの表面温度は、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましく、140℃以上または150℃以上であってもよい。
【0066】
フィルム基材1が耐熱性を有する範囲であれば、加熱温度の上限は特に限定されないが、加熱温度が過度に高いと、過重合によるハードコート層の黄変や、ハードコートフィルムに逆向きのカールが生じる場合がある。そのため、加熱温度は300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、230℃以下、200℃以下または180℃以下であってもよい。
【0067】
カール抑制効果を高める観点から、湾曲状態での加熱処理の時間(熱ロール91との接触時間)は、1秒以上が好ましく、2秒以上、3秒以上、4秒以上または5秒以上であってもよい。また、半硬化状態の塗膜の硬化を進行させる観点からも、加熱温度は上記範囲であることが好ましい。
【0068】
加熱処理時間の上限は特に限定されないが、積層体をロールトゥーロール搬送しながら、ロールに沿わせて湾曲させた状態で長時間加熱を行うためには、搬送速度を小さくする必要があり、ハードコートフィルムの生産性を低下させる原因となる。そのため、積層体をロールトゥーロール搬送しながら加熱処理を実施する場合の加熱処理時間は、100秒以下が好ましく、50秒以下がより好ましく、30秒以下、20秒以下、15秒以下または10秒以下であってもよい。このような短時間であっても、ハードコート層形成面が外側となるように湾曲させた状態で加熱を行うことにより、カールが抑制されたハードコートフィルムが得られる。ハードコートフィルムのカールを効率的に低減しつつ、硬化を進行させる観点からは、湾曲時の曲率半径を小さくして、高温で短時間の加熱処理を実施することが好ましい。
【0069】
図2および図3では、加熱部90において、熱ロール91にフィルム基材1の第二主面1Bを接触させて塗膜形成面が外側となるように湾曲させた状態で、熱ロールからの熱により加熱を行う形態を図示しているが、加熱方法は、熱ロールに限定されない。例えば、図4に示す加熱部490では、搬送ロール98に対峙して、赤外線ヒータ、温風器等の熱源99が配置されており、熱源99からの熱により、塗膜形成面側から加熱が行われる。搬送ロール98が熱ロールであってもよく、熱ロールと熱源99の両方から加熱を実施してもよい
【0070】
積層体を湾曲させた状態での加熱処理は、複数回に分けて実施してもよい。例えば、図5では、加熱部590が、3本の熱ロール92,93,94を備え、それぞれの熱ロールで加熱処理が行われる。上記のように、加熱処理では、塗膜形成面を外側にして湾曲させる際の曲率半径Rが小さいほどカール抑制効果が大きくなる傾向があるが、曲率半径Rを小さくするためには、ロールの径を小さくする必要があり、ロールとの接触時間の確保が困難となる場合がある。図5に示す様に、複数のロール92,93,94上で加熱処理を実施することにより、搬送速度を小さくせずに、加熱処理の時間を確保できる。
【0071】
図5において、フィルム基材1の第二主面1Bに接するロール92,93,94は、熱ロールであるのに対して、塗膜(ハードコート層3)に接するロール74,78,79,83では加熱を行わないことが好ましい。塗膜がロール74,78,79,83に接し、塗膜形成面を内側にして積層体が湾曲している状態では加熱処理を実施せず、フィルム基材の第二主面がロール92,93,94に接し、塗膜形成面を外側にして積層体が湾曲している状態で選択的に加熱処理を実施することにより、ハードコートフィルムのカールを効率的に低減できる。なお、塗膜に接するロール74,78,79,83(図5において上側に配置されているロール)は、熱ロールであってもよいが、その温度は、フィルム基材の第二主面に接するロール92,93,94(図5において下側に配置されているロール)よりも低温であることが好ましい。両者の温度差(図5における上下のロールの温度差)は、30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、70℃以上、80℃以上、90℃以上または100℃以上であってもよい。
【0072】
図5では、複数の熱ロールで加熱処理を実施する形態を示しているが、複数のロール上での加熱方法は、熱ロールによる加熱に限定されず、ロールに対峙して配置された赤外線ヒータ、温風器等の熱源により加熱を行ってもよい。また、ロール上で、熱ロールによるフィルム基材側からの加熱と、熱源による塗膜側からの加熱をと同時に行ってもよい。
【0073】
図6では、加熱部690が、直径の異なる複数の熱ロール95,96,97を備えている。この実施形態では、加熱処理に利用する熱ロールを選択することにより、ハードコート層の厚みやカールの発生状況等に応じて、加熱処理時の湾曲の曲率半径を変更可能であり、種々の品種のハードコートフィルムのカールの抑制/低減に適用できる。また、ロール径の異なる複数のロール上で加熱処理を実施してもよい。
【0074】
[ハードコートフィルムの使用]
加熱部90での加熱処理後、フィルム基材1上にハードコート層3が形成された積層体(ハードコートフィルム)8を、巻取りロール81で巻き取ることにより、長尺フィルムの巻回体80が得られる。ハードコートフィルムは、必要に応じて、粘着剤層または接着剤層を介して、他のフィルム等と貼り合わせてもよい。ハードコート層の表面には、反射防止層、防汚層、ガスバリア層、透明電極等の機能層を設けてもよい。
【0075】
ハードコートフィルムは、所定のサイズのシートに切り出して、画像表示装置等に貼り合わせて用いられる。ハードコートフィルムのカールが抑制されているため、画像表示装置等に貼り合わせる際の作業性に優れるとともに、浮きや剥がれ等の不良を抑制できる。
【0076】
上記のように、帯状のフィルム基材1上にハードコート組成物を塗布して塗膜を形成し、必要に応じて溶媒を除去した後、光照射を行い、フィルム基材と塗膜との積層体を湾曲させた状態で加熱を行うことにより、カールが低減されたハードコートフィルムが得られる。
【0077】
ハードコート層3の厚みは、1~100μm程度である。ハードコート層の厚みは、3μm以上、5μm以上、10μm以上、15μm以上または20μm以上であってもよい。ハードコート層3の厚みは、フィルム基材1の厚みの0.1~2倍程度であってもよく、0.3倍以上、0.5倍以上、または0.7倍以上であってもよい。一般には、ハードコート層の厚みが大きいほど、カールが大きくなる傾向があるのに対して、上記の様にハードコート層の厚み等に応じて加熱処理時の曲率半径や、加熱温度、加熱時間等を調整することにより、カールが低減されたハードコートフィルムが得られる。
【0078】
カール量は、150mm×150mmの正方形のシート状に切り出したハードコートフィルムを、ハードコート層形成面を上側として水平な台に置いて評価する。正方形の4つの頂点のそれぞれについて台からの距離(浮き上がり量)を測定し、その平均値をカール量とする。搬送方向(MD)と直交する辺ABおよび辺DCが浮き上がっている場合をMDに沿ったカール、幅方向(TD)と直交する辺ADおよび辺BCが浮き上がっている場合をTDに沿ったカールとする(図8参照)。フィルムの面内の中央部が浮き上がっている場合(逆向きのカールが生じている場合)は、ハードコート層形成面を下側として台の上にフィルムを置いて、カール量を測定する。ハードコートフィルムのカール量(絶対値)は、40mm以下が好ましく、30mm以下がより好ましく、25mm以下がさらに好ましく、20mm以下、15mm以下または10mm以下であってもよい。
【0079】
[カール抑制方法の他の実施形態]
上記の実施形態では、ロールトゥーロールで帯状のフィルム基材1を搬送しながら、ハードコート組成物を塗布して塗膜を形成し、光照射および加熱を一連の工程として実施した後に、ハードコートフィルム8を巻き取って巻回体80を得ている。カール抑制/低減のための加熱処理は、必ずしも塗膜の形成と一連にインラインで実施する必要はなく、フィルム基材上にハードコート組成物の塗膜を形成後、一旦フィルム基材と塗膜との積層体をロール状に巻き取った後、オフラインで加熱処理を実施してもよい。
【0080】
例えば、フィルム基材上にハードコート組成物を塗布して塗膜を形成し、必要に応じて溶媒を除去した後、光照射により組成物を半硬化状態として、積層体をロール状に巻き取る。その後、積層体を巻き出してロールトゥーロールで搬送しながら、塗膜形成面を外側にして積層体を湾曲させた状態で加熱処理を実施してもよい。このように、加熱処理をオフラインで実施する場合は、塗膜形成時のフィルム基材の搬送速度と、加熱処理時のフィルム基材(積層体)の搬送速度を個別に設定可能であるため、湾曲の曲率半径が小さい(加熱処理時のロールの径が小さい)場合でも、コーティングの速度を低下させることなく、加熱処理の時間を確保することが可能である。
【0081】
加熱処理は、必ずしもロールトゥーロールで実施する必要はなく、例えば、所定サイズに切り出した積層体を、塗膜形成面を外側にして湾曲させた状態で、加熱処理を実施してもよい。この場合、積層体を連続的に搬送する必要がないため、湾曲させるためにロールと接触させる必要はなく、例えば、積層体を筒状に丸めた状態で、オーブン等で加熱を実施してもよい。
【実施例
【0082】
以下、実施例と比較例との対比を示して、本発明について具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0083】
[ハードコート樹脂組成物の調製]
反応容器に、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製「SILQUEST A-186」)100重量部、塩化マグネシウム0.12重量部、水11重量部およびプロピレングリコールモノメチルエーテル11重量部を仕込み、130℃で3時間撹拌後、60℃で減圧脱揮して液状の化合物(脂環式エポキシ基を有するシロキサン樹脂)を得た。
【0084】
上記のシロキサン樹脂100重量部に、光酸発生剤(サンアプロ製「CPI-101A」)0.5重量部を配合して、ハードコート組成物を得た。
【0085】
[比較例1]
<半硬化膜の形成>
二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム基材(厚み50μm、幅275mm)を、0.5m/分でロール搬送しながら、スロットダイコーターから上記のハードコート樹脂組成物を250mmの幅で塗布した。塗膜が形成されたフィルムを、バックアップロール上で支持しながら、出力80Wの水銀ランプから、紫外線(照射面のピーク照度:20mW/cm、積算照射量:500mJ/cm)の紫外線を照射して、組成物を半硬化させた。
【0086】
<加熱処理>
フィルム基材上にハードコート層(半硬化膜)が形成された積層体を、120℃の加熱オーブン内で水平搬送しながら4分間加熱して硬化を進行させ、50μmのPETフィルム基材上に20μmのハードコート層を備えるハードコートフィルムを得た。
【0087】
[実施例1]
比較例1と同様にして、ハードコート組成物の塗布および紫外線照射を実施した後、積層体を加熱せずに、一旦ロール状に巻き取った。その後、フィルム基材上にハードコート層が形成された積層体を、150mm×150mmの正方形に切り出し、塗膜形成面を外側として、塗膜形成時の搬送方向(MD)を周方向とする直径30mm(半径15mm)の筒状に丸め、120℃のオーブン内で4分間加熱した後、室温に取り出した。
【0088】
[実施例2,3]
積層体を筒状に丸める際の筒の半径を表1に示す様に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、4分間の加熱処理を実施した。
【0089】
[実施例4]
比較例1と同様にして、ハードコート組成物の塗布および紫外線照射を実施した後、フィルム基材が熱ロール(直径30mm、温度180℃)に接するように熱ロールに180°沿わせ、フィルム基材(ハードコート層非形成面)が内側、ハードコート層側が外側となるように曲率半径15mmで湾曲させた状態で、熱ロールによる加熱を行った。フィルム基材と熱ロールとの接触時間は6秒であった。
【0090】
[実施例5]
熱ロールの直径を100mmとし、フィルムが熱ロールに沿う角度(抱き角)を60°に変更した。それ以外は実施例4と同様にして、熱ロール上で、積層体を曲率半径50mmで湾曲させた状態で6秒の加熱処理を行った。
【0091】
[比較例2]
ハードコート層の厚み(組成物の塗布厚み)を35μmに変更した。それ以外は比較例1と同様にして半硬化膜を形成し、水平搬送しながら120℃で4分加熱して、50μmのPETフィルム基材上に35μmのハードコート層を備えるハードコートフィルムを得た。
【0092】
[実施例6]
比較例2と同様にして、ハードコート組成物の塗布および紫外線照射を実施した後、積層体を加熱せずに、一旦ロール状に巻き取った。その後、フィルム基材上にハードコート層が形成された積層体を、150mm×150mmの正方形に切り出し、塗膜形成面を外側として、表1に示す半径の筒状に丸め、120℃のオーブン内で4分間加熱した後、室温に取り出した。
【0093】
[実施例7,8]
比較例2と同様にして、ハードコート組成物の塗布および紫外線照射を実施した後、フィルム基材が接するように熱ロールに沿わせ、フィルム基材(ハードコート層非形成面)が内側、ハードコート層側が外側となるように湾曲させた状態で、熱ロールによる加熱を行った。熱ロールの直径および抱き角は、湾曲の曲率半径Rおよび加熱時間(ロールとフィルムとの接触時間)が表1に示す値となるように調整した。
【0094】
[比較例3]
ハードコート層の厚み(組成物の塗布厚み)を50μmに変更した。それ以外は比較例1と同様にして半硬化膜を形成し、水平搬送しながら120℃で4分加熱して、50μmのPETフィルム基材上に50μmのハードコート層を備えるハードコートフィルムを得た。
【0095】
[比較例4]
水平搬送による加熱時間を20秒に変更したこと以外は、比較例3と同様にしてハードコートフィルムを得た。
【0096】
[実施例9,10]
比較例3と同様にして、ハードコート組成物の塗布および紫外線照射を実施した後、積層体を加熱せずに、一旦ロール状に巻き取った。その後、フィルム基材上にハードコート層が形成された積層体を、150mm×150mmの正方形に切り出し、塗膜形成面を外側として、表1に示す半径の筒状に丸め、120℃のオーブン内で4分間加熱した後、室温に取り出した。
【0097】
[実施例11~13]
比較例3と同様にして、ハードコート組成物の塗布および紫外線照射を実施した後、フィルム基材が接するように熱ロールに沿わせ、フィルム基材(ハードコート層非形成面)が内側、ハードコート層側が外側となるように湾曲させた状態で、熱ロールによる加熱を行った。
【0098】
[評価]
<カール>
フィルムを150mm×150mmの正方形に切り出し、ハードコート層形成面を上側として水平な台に置き、正方形の4つの頂点の台からの距離(浮き上がり量)を測定し、その平均値をカール量とした。比較例1~3では、フィルムがハードコート層形成面を内側として筒状に丸まり、カール量を測定できなかったため、筒の直径から、カールの強さを評価した。実施例3および実施例10では、ハードコート層形成面を外側としてMDに沿ったカールが生じていたため、ハードコート層形成面を下側として水平な台に置いて、カールを測定し、カール量の符号をマイナスとした。
【0099】
<鉛筆硬度>
JIS K5400:1990の「8.4.1 鉛筆引っかき試験」に従って、ハードコートフィルムのハードコート層表面の鉛筆硬度を測定した。
【0100】
[評価結果]
実施例および比較例におけるハードコート層の厚みおよび加熱処理条件、ならびにハードコートフィルムのカール量および鉛筆硬度を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
フィルムを水平搬送しながら加熱処理を実施した比較例1~3では、フィルムを平坦に広げた状態で、MDの中央を図8の辺ABおよび辺DCに平行な方向に沿って押さえるとMDに沿った筒状に丸まり、TDの中央を図8の辺ADおよび辺BCに平行な方向に沿って押さえるとTDに沿った筒状に丸まった。これらの結果から、比較例1~3では、MDおよびTDの両方向に、ハードコート層の硬化時の収縮応力が作用していると考えられる。ハードコート層の厚みが大きいほど、筒状に丸まった際の直径が小さいことから、ハードコート層の厚みが大きいほど硬化収縮による作用が大きいと考えられる。
【0103】
水平搬送での加熱温度を120℃、加熱時間を20秒とした比較例4では、カールは小さかったものの、ハードコート層の鉛筆硬度が4Bであり、硬度が不足していた。比較例4では、加熱が不十分であったために、ハードコート層が十分に硬化しておらず、硬化収縮が小さいためにカールが小さかったと考えられる。
【0104】
ハードコート層形成面を外側として湾曲させた状態で加熱を行った実施例1~5では、ハードコート層が比較例1と同等の硬度を示し、かつ比較例1に比べてカールが抑制されていた。比較例2と実施例6~8との対比、および比較例3と実施例9~13との対比においても同様の結果が得られた。
【0105】
シート状に切り出したフィルムを筒状に丸めて120℃で4分間処理した実施例1,2では、MDにはカールがなく、TDにわずかなカールがみられた。丸める際の曲率半径を小さくした実施例3では、ハードコート層形成面を外側とするカールが発生していた。実施例9と実施例10との対比においても同様の傾向がみられた。
【0106】
これらの結果から、加熱処理時の湾曲の曲率半径を小さくするほど、外側に向かってカールしようとする作用が強くなり、この作用がハードコート層の硬化収縮とバランスすることにより、カールが小さいハードコートフィルムが得られることが分かる。また、ハードコート層の厚みが大きく、元のカールが大きい(湾曲させずに加熱した際により小さな径の筒状に丸まる)ものほど、カールを小さくするためにはより小さな曲率半径で加熱処理を実施する必要があることが分かる。
【0107】
180℃の熱ロール上でフィルムを搬送しながら加熱処理を行った実施例4では、加熱処理時間(熱ロールとの接触時間)が6秒と短いにも関わらず、実施例1と同様にカールの小さいハードコートフィルムが得られた。実施例1と実施例4との対比から、ロールトゥーロールでフィルムを搬送しながら、ロール上で加熱を実施する場合は、高温で短時間の加熱を行うことにより、フィルムを切り出して加熱処理を実施する場合と同様のカール低減効果を得られることが分かる。
【0108】
直径100mmの熱ロールを用いて曲率半径を50mmで湾曲させて加熱処理を行った実施例5においても、比較例1に比べるとカールの低減効果がみられたが、曲率半径15mmで湾曲させて加熱処理を行った実施例4に比べるとTDに沿ったカールが大きくなっていた。実施例7と実施例8との対比、および実施例11~13の対比においても同様の傾向がみられた。これらの結果から、ロールに沿ってフィルムを湾曲させた状態で加熱処理を実施する場合は、ロールの径を小さくして、小さな曲率半径で湾曲させることにより、よりカールが小さいハードコートフィルムが得られることが分かる。
【符号の説明】
【0109】
1 基材
3 ハードコート層
8 ハードコートフィルム
11 巻き出しロール
81 巻取りロール
30 コーティング部
33 バックアップロール
31 ダイス
50 加熱炉
60 光照射部
65 光源
63 バックアップロール
90,490,590,690 加熱部
91~97 熱ロール
99 熱源

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8