(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】プレス成形機械及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
B30B 1/32 20060101AFI20241210BHJP
B30B 15/16 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B30B1/32 Z
B30B15/16 Z
(21)【出願番号】P 2021019131
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】込山 隆士
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-122968(JP,A)
【文献】特開平03-213685(JP,A)
【文献】特開2018-145908(JP,A)
【文献】特開2009-030546(JP,A)
【文献】米国特許第05092751(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 1/32
B30B 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧シリンダを駆動して押圧体を昇降させてワークを成形するプレス成形機械において、
上記液圧シリンダに作動液を送り込んで上記押圧体を押し下げる複数のギヤポンプよりなる押し下げ側ポンプと、
上記複数のギヤポンプよりなる押し下げ側ポンプをそれぞれ独立して駆動する押し下げ側電動モータと、
上記液圧シリンダに作動液を送り込んで上記押圧体を引き上げる複数のギヤポンプよりなる引き上げ側ポンプと、
上記複数のギヤポンプよりなる引き上げ側ポンプをそれぞれ独立して駆動する引き上げ側電動モータとを備えており、
複数のギヤポンプよりなる押し下げ側ポンプは、それぞれ対応する上記押し下げ側電動モータによってギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように制御可能に構成され、
複数のギヤポンプよりなる引き上げ側ポンプは、それぞれ対応する上記引き上げ側電動モータによってギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように制御可能に構成されている
ことを特徴とするプレス成形機械。
【請求項2】
液圧シリンダに作動液を送り込んで押圧体を押し下げる押し下げ側ポンプ及び該液圧シリンダに作動液を送り込んで上記押圧体を引き上げる引き上げ側ポンプの少なくとも一方を備え、
上記押し下げ側ポンプ及び上記引き上げ側ポンプの少なくとも一方は、複数のギヤポンプで構成され、液圧シリンダを駆動して押圧体を昇降させてワークを成形するプレス成形機械の制御方法において、
複数のギヤポンプよりなる押し下げ側ポンプを、それぞれ対応する押し下げ側電動モータによってギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように制御し、
複数のギヤポンプよりなる引き上げ側ポンプを、それぞれ対応する引き上げ側電動モータによってギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように制御する
ことを特徴とするプレス成形機械の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧シリンダを駆動して押圧体を昇降させてワークを成形する、LFT-D(Long Fiber Thermoplastic-Direct)成形、プリプレグ(prepreg)成形、金属の曲げ加工、金属の深絞り加工、RTM(Resin Transfer Molding)成形等を行うプレス成形機械及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液圧シリンダを駆動して押圧体を昇降させてワークを成形するプレス成形機械が知られており、このプレス成形機械のサーボ制御には、両方向に吐出可能なピストンポンプが用いられる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のようなプレス成形機械では、1つの双方向ポンプで複動油圧シリンダの受圧面積の異なるヘッド側受圧室とロッド側受圧室での作動油の供給及び排出制御を行っているので、高速押し下げ、低速押し下げ等の細やかな速度制御が困難である。また、ピストンポンプ等の双方向から作動油を吐出可能な双方向ポンプは、特殊なポンプであるため、種類が限られる。このため、大型プレスの制御には相当な大きさの双方向ポンプが必要となり、必要な大きさのものが存在しなかったり、非常に高価であったりする。
【0005】
一方、ギヤポンプを使用する場合には、ギヤポンプの吐出量は、ギヤの大きさで決まる。このため、プレス成形機械を高速化するためには、ギヤポンプを大型化するか、使用台数を増やす必要がある。
【0006】
しかしながら、ギヤポンプが大型化してポンプ容量が大きくなったり、ギヤポンプの台数が多くなったりすると、制御精度が低下してプレス成形機械を安定して作動させることができない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大容量ポンプを用いることなく、プレス成形機械を安定して作動させることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、第1の発明では、液圧シリンダを駆動して押圧体を昇降させてワークを成形するプレス成形機械を前提とする。
【0009】
そして、上記プレス成形機械は、
上記液圧シリンダに作動液を送り込んで上記押圧体を押し下げる押し下げ側ポンプ及び上記液圧シリンダに作動液を送り込んで上記押圧体を引き上げる引き上げ側ポンプの少なくとも一方を備え、
上記押し下げ側ポンプ及び上記引き上げ側ポンプの少なくとも一方は、3台以上の複数のギヤポンプで構成されており、
上記3台以上の複数のギヤポンプは、ギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように、電動モータの回転軸に回転一体に連結されている。
【0010】
上記の構成によると、3台以上の複数のギヤポンプを1つの電動モータの回転軸で同時に駆動できるので、制御が容易で且つ大容量のポンプを使用する必要がない。また、複数のギヤポンプは、機械的にギヤ位相をそれぞれ互いにずらされるように電動モータの回転軸に回転一体に連結されているので、見かけの歯数が増えた状態となり、ギヤポンプから吐出される油の脈動が軽減される上に、位置又は圧力制御の精度が上がる。
【0011】
第2の発明では、液圧シリンダを駆動して押圧体を昇降させてワークを成形するプレス成形機械を前提とし、
上記液圧シリンダに作動液を送り込んで上記押圧体を押し下げる複数のギヤポンプよりなる押し下げ側ポンプと、
上記複数のギヤポンプよりなる押し下げ側ポンプをそれぞれ独立して駆動する押し下げ側電動モータと、
上記液圧シリンダに作動液を送り込んで上記押圧体を引き上げる複数のギヤポンプよりなる引き上げ側ポンプと、
上記複数のギヤポンプよりなる引き上げ側ポンプをそれぞれ独立して駆動する引き上げ側電動モータとを備えており、
複数のギヤポンプよりなる押し下げ側ポンプは、それぞれ対応する上記押し下げ側電動モータによってギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように制御可能に構成され、
複数のギヤポンプよりなる引き上げ側ポンプは、それぞれ対応する上記引き上げ側電動モータによってギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように制御可能に構成されている。
【0012】
上記の構成によると、複数のギヤポンプをそれぞれ対応する電動モータの回転軸で同時に駆動できるので、制御が容易で且つ大容量のポンプを使用する必要がない。また、複数のギヤポンプは、意図的にギヤ位相をそれぞれずらされるように、対応する電動モータで駆動されるように制御されるので、見かけの歯数が増えた状態となり、ギヤポンプから吐出される油の脈動が軽減される上に、制御できる精度が上がる。
【0013】
第3の発明では、液圧シリンダに作動液を送り込んで押圧体を押し下げる押し下げ側ポンプ及び該液圧シリンダに作動液を送り込んで上記押圧体を引き上げる引き上げ側ポンプの少なくとも一方を備え、
上記押し下げ側ポンプ及び上記引き上げ側ポンプの少なくとも一方は、対応する電動モータの回転軸にギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように回転一体に連結された3台以上のギヤポンプで構成され、液圧シリンダを駆動して押圧体を昇降させてワークを成形するプレス成形機械の制御方法を対象とし、
上記制御方法は、
上記3台以上のギヤポンプをギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように駆動する。
【0014】
上記の構成によると、3台以上の複数のギヤポンプを1つの電動モータの回転軸で同時に駆動できるので、制御が容易で且つ大容量のポンプを使用する必要がない。また、複数のギヤポンプは、機械的にギヤ位相をそれぞれ互いにずらされているので、見かけの歯数が増えた状態となり、ギヤポンプから吐出される油の脈動が軽減される上に、位置又は圧力制御の精度が上がる。
【0015】
第4の発明では、液圧シリンダに作動液を送り込んで押圧体を押し下げる押し下げ側ポンプ及び該液圧シリンダに作動液を送り込んで上記押圧体を引き上げる引き上げ側ポンプの少なくとも一方を備え、
上記押し下げ側ポンプ及び上記引き上げ側ポンプの少なくとも一方は、複数のギヤポンプで構成され、液圧シリンダを駆動して押圧体を昇降させてワークを成形するプレス成形機械の制御方法を前提とし、
複数のギヤポンプよりなる押し下げ側ポンプを、それぞれ対応する押し下げ側電動モータによってギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように制御し、
複数のギヤポンプよりなる引き上げ側ポンプを、それぞれ対応する引き上げ側電動モータによってギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように制御する構成とする。
【0016】
上記の構成によると、複数のギヤポンプをそれぞれ対応する電動モータの回転軸で同時に駆動できるので、制御が容易で且つ大容量のポンプを使用する必要がない。また、複数のギヤポンプは、意図的にギヤ位相をそれぞれずらされるように、対応する電動モータで駆動されるように制御されるので、見かけの歯数が増えた状態となり、ギヤポンプから吐出される油の脈動が軽減される上に、制御できる精度が上がる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、複数台のギヤポンプをギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように駆動するようにしたので、大容量ポンプを用いることなく、プレス成形機械を安定して作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態1に係るプレス成形機械の概要を示す油圧回路図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係るプレス成形機械の1サイクルを示す概略図である。
【
図3】本発明の実施形態2に係るプレス成形機械の概要を示す油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1のプレス成形機械としての油圧プレス2の油圧回路
図1を示し、この油圧プレス2は、詳細は図示しないが、複動式の液圧シリンダとしての油圧シリンダ3を駆動して押圧体としてのスライド4を押し下げてワークを成形するものである。ワークは鍛造品、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)など特に限定されない。
【0021】
具体的には、油圧シリンダ3は、ピストン3a及びピストンロッド3bを有する複動式油圧シリンダであり、このピストンロッド3bに押圧体としてのスライド4が連結されている。このピストン3aの移動により、スライド4を昇降させてワークが成形されるようになっている。油圧シリンダ3は、スライド4の上方に設けられ、加圧力を確保するにはある程度大きな複動式油圧シリンダが必要となる。
【0022】
油圧プレス2は、油圧シリンダ3に作動液としての作動油を送り込んでスライド4を押し下げる複数の押し下げ側ポンプ5を備えている。本実施形態では、複数の押し下げ側ポンプ5は、3台のギヤポンプで構成されている。
【0023】
図2に拡大して示すように、これら3台の押し下げ側ポンプ5は、サーボモータなどの押し下げ側電動モータ6の1本の回転軸6aに回転可能に連結されている。本実施形態の特徴として、3台のギヤポンプは、予めギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように、押し下げ側電動モータ6の回転軸6aに回転一体に連結されている。例えば、
図2に示すように、同軸に各押し下げ側ポンプ5の入力軸5aが連結され、例えば、2つの吸入口5b及び3つの吐出口5cが設けられている。
【0024】
このように、押し下げ側電動モータ6を正回転に駆動して作動油を作動油タンク7から吸い上げて油圧シリンダ3のヘッド側油圧室3cに加圧した作動油を送り込んで、ピストン3aを押し下げるようになっている。また、ピストン3aが引き上げられたときに、ヘッド側油圧室3cの作動油が押し下げ側ポンプ5に流れ込み、押し下げ側電動モータ6を逆回転させながら作動油が作動油タンク7に戻るようになっている。
【0025】
なお、本実施形態では、この押し下げ側電動モータ6は、コントローラ10で精密な回転等の制御をされると共に、回生制動可能に構成されていてもよい。但し、必ずしもこれに限定されない。押し下げ側電動モータ6は、コントローラ10を介して又は別の充電制御器を介して蓄電装置9に接続されている。蓄電装置9は、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、キャパシタ等特に限定されない。なお、油圧シリンダ3のロッド側及びヘッド側には、それぞれリリーフ弁8が設けられている。設定圧以上に配管内の圧力が高まらない限り、このリリーフ弁8から作動油が作動油タンク7に流れ込むことはない。
【0026】
一方、油圧シリンダ3のロッド側には、そのロッド側油圧室3dに作動油タンク7からの加圧した作動油を送り込んでピストン3aを上昇させてスライド4を引き上げる複数の引き上げ側ポンプ15が接続されている。複数の引き上げ側ポンプ15は、3台のギヤポンプで構成されている。
【0027】
これら3台の引き上げ側ポンプ15には、回生制動可能な引き上げ側電動モータ16の1本の回転軸16aが回転一体に接続されている。図示しないが、これら3台の引き上げ側ポンプ15の入力軸15aも
図2で示したように、予め引き上げ側電動モータ16の回転軸16aにギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように、回転一体に連結されている。
【0028】
ピストン3aが押し下げられたときに、ロッド側油圧室3dの作動油が引き上げ側ポンプ15の入力軸15aに流れ込み、引き上げ側電動モータ16を逆回転させながら作動油が作動油タンク7に戻るようになっている。引き上げ側電動モータ16もサーボモータ等よりなり、コントローラ10で精密な回転等の制御をされると共に、コントローラ10を介して又は別の充電制御器を介して蓄電装置9に接続されている。すなわち、スライド4の押し下げ時には、バルブによる速度制御又は圧力制御を行わずに逆回転する引き上げ側電動モータ16により速度制御又は圧力制御されるように構成されている。
【0029】
油圧シリンダ3のヘッド側油圧室3cは、パイロット付チェック弁を含むサクションバルブ11を介して作動油タンク7に接続されている。
【0030】
スライド4の位置は、位置センサ12によりリアルタイムに計測されてコントローラ10に送られるようになっている。また、押し下げ側ポンプ5の吐出側には、押し下げ側圧力センサ17が設けられ、引き上げ側ポンプ15の吐出側には、引き上げ側圧力センサ18が設けられており、これらのセンサ12,17,18で得られた情報がコントローラ10に送信されるようになっている。
【0031】
-油圧プレスの作動-
次に、本実施形態に係る油圧プレス2の作動について
図1を用いて説明する。
【0032】
まず下降工程としての高速下降工程において、スライド4の自重を利用し、引き上げ側電動モータ16を回転制御しながら引き上げ側ポンプ15を逆回転させてスライド4を高速で下降させる。このとき、サクションバルブ11は、オープンで、ヘッド側圧力Aは(背圧-質量負荷Wに対応した圧力)×ロッド側面積/ヘッド側面積となり、ロッド側圧力Bは背圧となる。サクションバルブ11がオープンなので、油圧シリンダ3のヘッド側油圧室3cへの供給油は、作動油タンク7から流れ込む。このとき、ヘッド側の押し下げ側電動モータ6はフリーである。そして、油圧シリンダ3のロッド側油圧室3dの排出油は、速度フィードバックしながら(場合により位置フィードバックも行いながら)引き上げ側電動モータ16の回転制動により排出される。このとき、回生制動により発生した電力が蓄電装置9に貯えられたり、そのまま別工程において利用されたりする。この回生制動の程度を弱くすることで、スライド4をより高速で下降させることができる。
【0033】
次いで、加圧工程では、まず、加圧下降工程で、押し下げ側電動モータ6を回転制御して押し下げ側ポンプ5から油圧シリンダ3に作動油を送り込んでスライド4を押し下げてワークを成形する。このとき、サクションバルブ11はクローズで、ヘッド側圧力Aは背圧×ロッド側面積/ヘッド側面積に成形圧力を加えた値となっており、ロッド側圧力Bは背圧となっている。このとき、ヘッド側は押し下げ側電動モータ6を速度フィードバックにより(場合により位置フィードバックも行って)力行(りっこう)運転し、ヘッド側油圧室3cへの供給油は、押し下げ側電動モータ6に駆動された押し下げ側ポンプ5から送り込まれる。そして、ロッド側油圧室3dの排出油は、速度フィードバックしながら逆回転する引き上げ側電動モータ16によって引き上げ側ポンプ15から排出され、場合によっては回生制動が行われる。このとき発生した電力が蓄電装置9に貯えられたり、そのまま別工程で利用されたりする。
【0034】
次いで、ホールディング工程では、サクションバルブ11は、クローズで、ヘッド側で位置(圧力)フィードバックによる押し下げ側電動モータ6の回生制動を行いながらワークが押圧される。
【0035】
次いで、圧抜工程において、サクションバルブ11は、クローズで、ヘッド側で圧力フィードバックによる押し下げ側電動モータ6の回生制動を行いながら、圧抜きが行われる。
【0036】
次いで、上昇工程では、まず、負荷上昇工程において、引き上げ側電動モータ16を回転制御して引き上げ側ポンプ15から油圧シリンダ3に作動油を送り込んでスライド4を引き上げる。このとき、サクションバルブ11は、クローズで、ヘッド側圧力Aは背圧で、ロッド側圧力Bはスライド4を含む質量負荷Wに対応した圧力に背圧×ヘッド側面積/ロッド側面積を加えた値となっている。このとき、油圧シリンダ3のロッド側油圧室3dへの供給油は、速度フィードバックによる引き上げ側電動モータ16の力行運転により引き上げ側ポンプ15から送り込まれる。そして、速度フィードバックによる押し下げ側電動モータ6の回生制動を行いながら押し下げ側ポンプ5により油圧シリンダ3のヘッド側の排出油が排出され、このときの回生制動により発生した電力が蓄電装置9に貯えられたり、そのまま別工程において利用されたりする。
【0037】
次いで、高速上昇工程では、サクションバルブ11は、オープンとなり、速度フィードバックによる引き上げ側電動モータ16の力行運転により引き上げ側ポンプ15から加圧された作動油を油圧シリンダ3に送り込んでスライド4を高速で上昇させる。
【0038】
油圧プレス2の停止中は、サクションバルブ11は、クローズで、ヘッド側圧力Aは0で、ロッド側圧力Bはスライド4を含む質量負荷Wに対応した圧力となっている。
【0039】
なお、加圧工程や負荷上昇工程では、加工材料や加工形状に応じ、速度制御及び圧力制御を適宜切換又は組み合わせて用いてもよい。
【0040】
ここで、ギヤポンプの吐出量は、ギヤの大きさで決まる。そのため、高速化するためには、大型化するか使用台数を増やす必要がある。本実施形態では、3台のポンプ入力軸5a,15aをそれぞれ1本の回転軸6a,16aに連結することにより、それぞれ一台のサーボモータ6,16で位置又は圧力制御ができるようになっている。
【0041】
そして、ポンプ容量をP cc/rev、回転数をN r/m、シリンダ容積をA cm2とすると、
速度V cm/m=P×N/A
となる。
【0042】
しかし、台数が多くなるに従って制度できる精度は悪化する。つまり、ポンプ数をY個、ポンプ歯数をW個とすると、
制御精度Q cm=(P×Y)/(A×W)
となる。
【0043】
この式から分かるように、歯数を増やせば精度は上がるが、ポンプ性能に大きく影響するため現実的ではない。しかし、本実施形態では、それぞれのポンプのギヤ位相を例えば、半ピッチ、1/3ピッチ等ずらすことで、見かけの歯数を増やすことによって精度を向上することができる。
【0044】
また、ギヤ位相をずらすことによってポンプから吐出される油の脈動が軽減され、油圧プレス2を安定作動させることができる。
【0045】
したがって、本実施形態に係る油圧プレス2によると、複数台のギヤポンプをギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように駆動するようにしたので、大容量ポンプを用いることなく、プレス成形機械1を安定して作動させることができる。
【0046】
-実施形態1の変形例-
本発明の実施形態1の変形例として、詳しくは図示しないが、
図1で示した上記油圧シリンダ3、押し下げ側ポンプ5、引き上げ側ポンプ15等を複数セット設けて複数の油圧シリンダ3で1つのスライド4を押し下げ及び引き上げ制御するようにしてもよい。
【0047】
(実施形態2)
図3は本発明の実施形態2に係る油圧回路
図101を示し、特にポンプの構成が異なる点で上記実施形態1と異なる。なお、以下の各実施形態では、
図1及び
図2と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0048】
具体的には、本実施形態に係る油圧プレス102では、押し下げ側ポンプ105は、2台のギヤポンプよりなり、これら押し下げ側ポンプ105をそれぞれ独立して駆動するサーボモータよりなる2台の押し下げ側電動モータ106を備えている。上記実施形態1と違って、2台の押し下げ側ポンプ105の入力軸105aは、互いには連結されておらず、それぞれ対応する押し下げ側電動モータ106に回転一体に連結されている。2台の押し下げ側電動モータ106は、互いに離れた場所に設けられていてもよい。押し下げ側ポンプ105及び押し下げ側電動モータ106は、3台以上でもよい。コントローラ10が、それぞれのギヤポンプの歯車の位置を稼働中、常に正確に把握することで、互いのギヤ位相を所定のピッチでずらすことができるようになっている。
【0049】
同様に、油圧プレス102は、2台のギヤポンプよりなる引き上げ側電動モータ116と、これら2台のギヤポンプよりなる引き上げ側ポンプ115をそれぞれ独立して駆動する2台の引き上げ側電動モータ116とを備えている。また、2台の押し上げ側電動モータ116の回転軸116aは、それぞれ対応する引き上げ側ポンプ115の入力軸115aに回転一体に連結されており、入力軸115a同士は互いには連結されていない。2台の押し上げ側電動モータ116は、互いに離れた場所に設けられていてもよい。押し上げ側電動モータ116及び押し上げ側電動モータ116は、3台以上でもよい。コントローラ10が、それぞれのギヤポンプの歯車の位置を稼働中、常に正確に把握することで、互いのギヤ位相を所定のピッチでずらすことができるようになっている。
【0050】
これら2台の押し下げ側ポンプ105は、それぞれ対応する押し下げ側電動モータ106によってギヤ位相が意図的に互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように制御可能に構成されている。また、2台の引き上げ側電動モータ116は、それぞれ対応する引き上げ側電動モータ106によってギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるように制御可能に構成されている。
【0051】
上記実施形態1のように1台の電動モータ106,116で複数のポンプを1本の回転軸106a,116aで回転させるわけではないので、それぞれの電動モータ106,116を制御しなければならないが、サーボモータであれば、それぞれのポンプのギヤ位相を確実に常に互いに半ピッチ、1/3ピッチなどずらすよう精度よく制御できる。
【0052】
したがって、本実施形態においても、複数台のギヤポンプをギヤ位相が互いにそれぞれ所定の角度だけずれるようにして駆動するようにしたので、大容量ポンプを用いることなく、プレス成形機械を安定して作動させることができる。
【0053】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0054】
すなわち、上記実施形態では、プレス成形機械として油圧プレス2,102の例を示したが、LFT-D(Long Fiber Thermoplastic-Direct)成形、プリプレグ成形、金属の曲げ加工、金属の深絞り加工、RTM(Resin Transfer Molding)成形等を行う、ポンプをサーボモータなどの電動モータでダイレクトに制御するプレス成形機械に適用可能である。
【0055】
また、押し下げ側ポンプ5,105及び引き上げ側ポンプ15,115は、加圧された作動油を一方向のみに吐出可能なポンプとしているが、加圧された作動油を両方向に吐出可能な双方向ポンプとしてもよい。
【0056】
また、各実施形態において、スライド4を押し下げてワークを成形するようにしているが、スライド4を押し上げてワークを成形するようにしてもよい。その場合、油圧シリンダ3、押し下げ側油圧シリンダ103等を地面等に埋め込んで省スペースを実現できる。自重のかかる方向が逆になるが、基本的には、構成及び制御はそれに合わせて上記各実施形態のものを天地逆にすればよい。
【0057】
上記各実施形態では、液圧シリンダとして作動液である作動油を利用した油圧シリンダを用いているが、作動液である水を利用した水圧シリンダであってもよい。その場合には、油圧ポンプではなく、水圧ポンプを用いればよい。
【0058】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0059】
1,101 油圧回路図
2,102 油圧プレス(プレス成形機械)
3 油圧シリンダ(液圧シリンダ)
3a ピストン
3b ピストンロッド
3c ヘッド側油圧室
3d ロッド側油圧室
4 スライド(押圧体)
5,105 押し下げ側ポンプ
5a,15a,105a,115a 入力軸
6,106 押し下げ側電動モータ
7 作動油タンク(作動液タンク)
8 リリーフ弁
9 蓄電装置
10 コントローラ
11 サクションバルブ
12 位置センサ
15,115 引き上げ側ポンプ
16,116 引き上げ側電動モータ