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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】運転姿勢判定装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/90 20180101AFI20241210BHJP
【FI】
B60N2/90
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021021392
(22)【出願日】2021-02-15
(65)【公開番号】P2022123925
(43)【公開日】2022-08-25
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 恒
【審査官】丸山 裕樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0354027(US,A1)
【文献】特開2018-086257(JP,A)
【文献】特表2014-520607(JP,A)
【文献】特開2007-038704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00 - 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドライバのストレス状態を推定するストレス推定部と、
前記ドライバの上半身の振動に基づいて前記ドライバの適正姿勢に対する前記ドライバの実際の姿勢の動的なずれを判定する姿勢判定部と、
ドライビングポジションの設定情報、前記車両の走行状態の情報、前記ドライバの姿勢の動的なずれの情報及び前記ドライバのストレス状態の情報を関連付けて記憶部に記憶させる学習部と、
記憶された学習データに基づいて、前記ドライバのストレス状態が大きくなる前記姿勢の動的なずれを低減する前記ドライバに適したドライビングポジションを判定する適正位置判定部と、
を備えた、運転姿勢判定装置。
【請求項2】
前記ドライビングポジションを調節する位置調整装置を制御する制御部をさらに備え、
前記学習部は、前記ドライビングポジションを変化させながら、前記ドライビングポジションの設定情報、前記車両の走行状態の情報、前記ドライバの姿勢の動的なずれの情報及び前記ドライバのストレス状態の情報を関連付けて記憶させる、請求項1に記載の運転姿勢判定装置。
【請求項3】
前記姿勢の動的なずれの情報は、前記ドライバの上半身の振動の振動モード、振幅及び周波数のうちの少なくとも一つのずれの情報である、請求項1又は2に記載の運転姿勢判定装置。
【請求項4】
前記適正位置判定部は、前記車両の使用開始時又は使用終了時に、前記ドライバに適したドライビングポジションを提示する、請求項1~3のいずれか1項に記載の運転姿勢判定装置。
【請求項5】
前記適正位置判定部は、前記車両の目的地が設定されたときに、設定された前記目的地までの走行予定ルートに応じて前記ドライバに適したドライビングポジションを提示する、請求項1~3のいずれか1項に記載の運転姿勢判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドライバの運転姿勢判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のドライバの姿勢を制御する技術が種々提案されている。例えば、特許文献1には、ドライバの性別と身体情報に基づき算出したシートの位置情報を利用してドライバの姿勢を制御するドライバの姿勢制御装置が提案されている。また、特許文献2には、車両の運動状態などに応じて適切に乗員の姿勢制御を行う乗員姿勢制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-063761号公報
【文献】特開2009-226980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ドライバ自身が運転席やステアリングの位置を調節してドライビングポジションを設定した場合であっても、その設定状態におけるドライバの運転姿勢が必ずしも最適であるとは限らない。具体的に、ドライバ自身が設定したドライビングポジションであっても、運転中にドライバの身体の揺れが大きくなって、無意識のうちにドライバにとってストレスとなることも考えられる。上記の特許文献1及び2は、ドライバの身体や車両の運転状態に応じてドライバの姿勢を制御するものの、ドライバにとってのストレスの観点から適切なドライビングポジションを提示するものではない。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、車両の運転によるドライバのストレスを低減可能なドライビングポジションを判定する運転姿勢判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、車両のドライバのストレス状態を推定するストレス推定部と、ドライビングポジションの設定情報、車両の走行状態の情報及びドライバのストレス状態の情報を関連付けて記憶部に記憶させる学習部と、記憶された学習データに基づいてドライバに適したドライビングポジションを判定する適正位置判定部と、を備えた運転姿勢判定装置が提供される。
【0007】
上記の運転姿勢判定装置において、ドライビングポジションを調節する位置調整装置を制御する制御部をさらに備え、学習部は、ドライビングポジションを変化させながら、ドライビングポジションの設定情報、車両の走行状態の情報及びドライバのストレス状態の情報を関連付けて記憶させてもよい。
【0008】
上記の運転姿勢判定装置において、ドライバの適正姿勢に対するドライバの実際の姿勢のずれを判定する姿勢判定部をさらに備え、学習部は、ドライビングポジションの設定情報、車両の走行状態の情報及びドライバのストレス状態の情報と併せて、さらに姿勢のずれの情報を関連付けて記憶部に記憶させてもよい。
【0009】
上記の運転姿勢判定装置において、適正位置判定部は、車両の使用開始時又は使用終了時に、ドライバに適したドライビングポジションを提示してもよい。
【0010】
上記の運転姿勢判定装置において、適正位置判定部は、車両の目的地が設定されたときに、設定された目的地までの走行予定ルートに応じてドライバに適したドライビングポジションを提示してもよい。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、車両の運転によるドライバのストレスを低減可能なドライビングポジションを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る運転姿勢判定装置の構成例を示す模式図である。
図2】同実施形態に係る運転姿勢判定装置の構成例を示すブロック図である。
図3】ドライバの姿勢のずれについて示す説明図である。
図4】学習データ記憶部に記憶させるデータセットの一例を示す説明図である。
図5】同実施形態に係る運転姿勢判定装置による学習データ蓄積処理のフローチャートである。
図6】同実施形態に係る運転姿勢判定装置による推奨ドライビングポジション提示処理のフローチャートである。
図7】本発明の第2の実施の形態に係る運転姿勢判定装置の構成例を示すブロック図である。
図8】同実施形態に係る運転姿勢判定装置による学習モデル生成処理のフローチャートである。
図9】ドライビングポジション判定モデルの学習処理の一例を示す説明図である。
図10】同実施形態に係る運転姿勢判定装置による推奨ドライビングポジション提示処理のフローチャートである。
図11】ドライビングポジション判定モデルを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
<<1.第1の実施の形態>>
<1-1.構成例>
まず、本発明の第1の実施の形態に係る運転姿勢判定装置の構成の一例を説明する。
第1の実施の形態に係る運転姿勢判定装置は、車両を運転中のドライバのストレス状態の学習結果に基づいてドライバに適したドライビングポジションを判定し、ドライバに適したドライビングポジション(推奨ドライビングポジション)をドライバに提示する装置として構成されている。
【0015】
なお、本明細書において、「ドライバの運転姿勢」とは、ドライバ自身の姿勢を意味し、「ドライビングポジション」とは、少なくとも車両の運転席5の前後方向の位置及び背もたれ5aの角度の設定状態を意味する。また、「ドライビングポジション」は、運転席5の座部5bの高さ、座部5bの角度、座部5bの凹み度合、背もたれ5aの凹み度合又はヘッドレスト5cの位置等を調節可能な要素の設定状態を含んでもよく、ステアリングホイール9のチルト角又は前後方向の位置の設定状態を含んでもよい。以下の実施形態においては、発明の理解を容易にするために、「ドライビングポジション」として、運転席5の前後方向の位置、背もたれ5aの角度及び座部5bの高さと、ステアリングホイール9の前後方向の位置を判定する例を説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る運転姿勢判定装置1の構成例を示す模式図を示し、図2は、運転姿勢判定装置1の構成例を示すブロック図である。
【0017】
運転姿勢判定装置1は、制御装置50を備えている。また、運転姿勢判定装置1は、制御装置50へ信号を入力する機器として、ドライバ監視装置21、周囲環境センサ23、車両走行状態センサ25、車両位置検出部27及び入力部29を備えている。また、運転姿勢判定装置1は、制御装置50が信号を出力する機器として、HMI(Human Machine Interface)41、パワーシート駆動部43及びステアリング位置調節部45を備えている。ドライバ監視装置21、周囲環境センサ23、車両走行状態センサ25、車両位置検出部27、入力部29、HMI41、パワーシート駆動部43及びステアリング位置調節部45は、それぞれ直接的に、又は、CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Inter Net)等の通信手段を介して制御装置50に接続されている。
【0018】
(1-1-1.ドライバ監視装置)
ドライバ監視装置21は、少なくともドライバDを撮影範囲内に含むように設置される。ドライバ監視装置21は、例えば赤外線カメラを含んで構成される。ドライバ監視装置21は、図示しない画像処理装置を備え、取得した画像データに基づいてドライバDの発汗状態や体温、血流、心拍数等の生体情報を検出する処理を実行する。
【0019】
例えばドライバ監視装置21は、赤外線カメラにより生成される画像データに基づいてOCT(Optical Coherence Tomography)解析を行い、ドライバDの発汗状態を検出することができる。また、ストレス推定部63は、赤外線カメラにより生成される画像データに基づいて、ドライバDの体温及び血流を検出することができる。さらに、血流からは心拍数を測定することができる。ドライバ監視装置21は、生成した画像データを制御装置50へ送信する。
【0020】
なお、検出するドライバDの生体情報は発汗状態、体温、血流、心拍数の例に限られるものではなく、その他の生体情報であってもよい。また、ドライバDの生体情報を検出する方法は、上記の例に限られない。例えば、車両に設定されるカメラに代えて、あるいは、カメラとともに、生体情報を検出するセンサを備えたウェアラブル装置が用いられてもよい。この場合、ウェアラブル装置は、例えば近距離無線通信手段を介して制御装置50に接続される。ウェアラブル装置は、例えば腕時計型のウェアラブル装置であってもよく、頭部装着型のウェアラブル装置であってもよい。
【0021】
また、本実施形態では、ドライバ監視装置21は、さらにCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を備える光学カメラを含んで構成される。ドライバ監視装置21は、図示しない画像処理装置を備え、取得した画像データに基づいて物体検知処理を行い、ドライバDの少なくとも上半身の姿勢を特定する。ドライバ監視装置21は、ドライバDの姿勢を特定した画像データを制御装置50へ送信する。
【0022】
(1-1-2.周囲環境センサ)
周囲環境センサ23は、車両の周囲環境の情報を検出するセンサである。周囲環境センサ23は、例えば撮像カメラ、高周波レーダセンサ、超音波センサ、LiDARのうちの一つ又は複数を含んで構成される。撮像カメラは、ドライバ監視装置21と同様にCCDやCMOS等の撮像素子を備えた一つ又は複数のカメラからなる。周囲環境センサ23は、車両の安全機能として搭載されたものであってもよい。周囲環境センサ23は、検出したデータを含むセンサ信号を制御装置50へ送信する。本実施形態において、周囲環境センサ23は、少なくとも車両が走行する道路の形態を推定するために用いられる。具体的に、制御装置50は、周囲環境センサ23から送信される信号に基づいて、左カーブ及び右カーブが連続するワインディングロードであるかを判別する。
【0023】
(1-1-3.車両走行状態センサ)
車両走行状態センサ25は、車両の操作量及び挙動を検出する少なくとも一つのセンサからなる。車両走行状態センサ25は、例えば車速センサ、加速度センサ、角速度センサのうちの少なくとも一つを含み、車速、前後加速度、横加速度、ヨーレート、ロール角等の車両の挙動の情報を検出する。また、車両走行状態センサ25は、例えばアクセルポジションセンサ、ブレーキストロークセンサ、ブレーキ圧センサ、舵角センサ、エンジン回転数センサのうちの少なくとも一つを含み、ステアリングホイール又は操舵輪の操舵角、アクセル開度、ブレーキ操作量等の車両の操作量の情報を検出する。
【0024】
(1-1-4.車両位置検出部)
車両位置検出部27は、地図データ上の車両の位置情報を検出する。例えば車両位置検出部27は、GPS(Global Positioning System)衛星からの衛星信号を受信するGPSアンテナであってもよい。車両位置検出部27は、検出した車両位置情報を制御装置50へ送信する。なお、車両位置検出部27は、GPSアンテナの代わりに、あるいは、GPSアンテナとともに、車両の位置を特定する他の衛星システムからの衛星信号を受信するアンテナを含んでもよい。
【0025】
(1-1-5.入力部)
入力部29は、制御装置50に対するドライバDの操作入力を受け付ける。入力部29は、例えばタッチパネル式のディスプレイであってもよく、ダイヤル式の操作機器であってもよく、切換スイッチであってもよい。本実施形態において、入力部29は、少なくともドライビングポジション学習機能のオンオフを選択する入力操作を受け付け可能に構成されている。また、本実施形態では、入力部29は、運転席5の前後方向の位置、背もたれ5aの角度及び座部5bの高さを調節するパワーシートの操作入力を受け付ける。さらに、本実施形態では、入力部29は、ステアリングホイール9の前後方向の位置を調節するステアリング位置調節部45の操作入力を受け付ける。入力部29は、入力された情報を含む信号を制御装置50へ送信する。
【0026】
(1-1-6.HMI)
HMI41は、制御装置50により駆動され、画像表示や音声出力等の手段により、ドライバDに対して種々の情報を提示する。HMI41は、例えばインストルメントパネル内に設けられた表示装置及びスピーカを含む。表示装置は、ナビゲーションシステムの表示装置であってもよい。また、HMI41は、フロントウィンドウ上へ表示を行うHUD(ヘッドアップディスプレイ)を含んでもよい。
【0027】
(1-1-7.パワーシート駆動部)
パワーシート駆動部43は、ドライビングポジションを調整する位置調整装置の一部を構成し、運転席5の前後方向の位置及び背もたれ5aの角度を調節するアクチュエータを含む。本実施形態においてパワーシート駆動部43は、それぞれ演算処理部51により供給電流が制御される第1モータ31、第2モータ33及び第3モータ35を含む。第1モータ31は、例えば背もたれ5aの内部に配置されて背もたれ5aの角度を変化させる。第2モータ33は、例えば座部5bの内部に配置されて運転席5を前後方向へ移動させる。第3モータ35は、例えば座部5bの内部に配置されて座部5bの高さを変化させる。
【0028】
(1-1-8.ステアリング位置調節部)
ステアリング位置調節部45は、ドライビングポジションを調整する位置調整装置の一部を構成し、ステアリングホイール9の前後方向の位置を調節するアクチュエータを含む。ステアリング位置調節部45は、例えばラックアンドピニオン式の機構と、制御装置50により供給電流が制御されるアクチュエータとを含む。アクチュエータは、例えばステアリングコラムの内部に配置されてステアリングホイール9を前後方向へ変化させるモータであってもよい。
【0029】
(1-1-9.制御装置)
制御装置50は、車両の走行状態の情報及びドライバDのストレス状態の情報を入力データとして、設定されているドライビングポジションにおける車両の走行状態に応じたドライバDのストレス状態を学習し、学習結果に基づいてドライバDに適したドライビングポジションを判定する。また、本実施形態において、制御装置50は、判定したドライバDに適したドライビングポジションを、ドライバDへ提示する。これにより、ドライバDが、提示されたドライビングポジションを受容し、運転席5の位置や背もたれ5aの角度、座部5bの高さ、あるいは、ステアリングホイール9の位置を再設定することで、ドライバDのストレスを低減可能なドライビングポジションとすることができる。以下、本実施形態に係る運転姿勢判定装置1の制御装置50の構成例を具体的に説明する。
【0030】
<1-2.制御装置の機能構成>
図2に示したように、制御装置50は、演算処理部51、記憶部53及び学習データ記憶部55を備える。 制御装置50は、少なくともCPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphic Processing Unit)等の演算処理装置を備えて構成される。なお、制御装置50の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0031】
(1-2-1.記憶部)
このうち、記憶部53は、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等の記憶素子、あるいは、HDD(Hard Disk Drive)やCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、SSD(Solid State Drive)、USB(Universal Serial Bus)フラッシュ、ストレージ装置等の記憶媒体により構成される。記憶部53は、演算処理装置により実行されるソフトウェアプログラムや、演算処理に用いられる種々のパラメタ、取得したデータ、演算結果等を記憶する。
【0032】
(1-2-2.学習データ記憶部)
学習データ記憶部55は、記憶部53は、RAMやHDDやCD、DVD、SSD、USBフラッシュ、ストレージ装置等の更新可能な記憶媒体により構成され、演算処理部51の学習部67による学習結果として得られるドライビングポジション判定モデルの学習データを記憶する。
【0033】
(1-2-3.演算処理部)
演算処理部51は、例えばCPU又はMPU等の演算処理装置及びGPU等の画像処理装置を備えて構成される。演算処理装置及び画像処理装置は、記憶部53に記憶されたプログラムを実行することにより種々の演算処理を実行する。本実施形態において、演算処理部51は、制御部61、ストレス推定部63、姿勢判定部65、学習部67及び適正位置判定部69を備える。これらの各部の一部又は全部は、演算処理装置又は画像処理装置によるプログラムの実行により実現される機能である。
【0034】
[1-2-3-1.制御部]
制御部61は、入力部29から送信されるパワーシート及びステアリング位置調節部45の操作入力信号に基づいて、パワーシート駆動部43及びステアリング位置調節部45の駆動を制御する。また、本実施形態では、制御部61は、学習機能がオンにされた状態で、ドライバDに適したドライビングポジションを探索するために、ストレス推定部63からの制御指令に基づいてパワーシート駆動部43及びステアリング位置調節部45の駆動を制御し、ドライビングポジションを調整する。
【0035】
[1-2-3-2.ストレス推定部]
ストレス推定部63は、ドライバDのストレス状態を推定する。本実施形態では、ストレス推定部63は、ドライバ監視装置21から送信されるドライバDの生体情報に基づいてドライバDのストレス状態を推定する。本実施形態において、ストレス推定部63は、ドライバ監視装置21により検出される発汗状態、体温、血流、心拍数のデータに基づいてドライバDのストレス状態を推定する。
【0036】
例えば、人がストレスを感じると、脳が刺激されることにより発汗することが知られている。このため、ストレス推定部63は、発汗量の増加度合があらかじめ設定した閾値を超えた場合にドライバDがストレスを感じ始めたと推定する。また、ストレス推定部63は、発汗量の増加度合が閾値を超えた後、発汗量が増加前の値に戻るまでの間、ドライバDがストレスを感じていると推定する。
【0037】
また、人がストレスを感じると、交感神経の働きが活発になって体温が上昇することが知られている。このため、ストレス推定部63は、体温の上昇度合があらかじめ設定した閾値を超えた場合にドライバDがストレスを感じ始めたと推定する。また、ストレス推定部63は、体温の上昇度合が閾値を超えた後、体温が上昇前の値に戻るまでの間、ドライバDがストレスを感じていると推定する。
【0038】
また、人がストレスを感じると、交感神経の働きが活発になる結果、血管が収縮して血流が低下したり、心拍数が増加したりすることが知られている。このため、ストレス推定部63は、血流があらかじめ設定した閾値未満となっている間、ドライバDがストレスを感じていると推定してもよい。また、ストレス推定部63は、心拍数があらかじめ設定した閾値を超えている間、ドライバDがストレスを感じていると推定してもよい。
【0039】
なお、ストレス推定部63は、上記の例の少なくともいずれか一つに該当する場合にドライバDがストレスを感じていると推定してもよく、いずれか二つ以上に該当する場合にドライバDがストレスを感じていると推定してもよい。また、ドライバDがストレスを感じている状態を検出する方法は、上記の例に限られない。さらに、ストレス推定部63は、発汗状態、体温、血流状態又は心拍数の値又は変化度合に応じて、ドライバDのストレスレベルを推定してもよい。
【0040】
[1-2-3-3.姿勢判定部]
姿勢判定部65は、車両を運転中のドライバDの姿勢を判定する。具体的に、姿勢判定部65は、ドライバ監視装置21から送信される画像データに基づいてドライバDの適正姿勢からの動的なずれを判定する。ドライビングポジションが適正でない場合、車両の走行状態に応じてドライバDの運転姿勢が適正な位置からずれやすくなる。このため、本実施形態では、ドライバDのストレス情報と併せてドライバDの適正な姿勢からの動的なずれの情報を入力データとして利用することで、ドライバDに適切なドライビングポジションの学習精度を向上させている。
【0041】
図3は、ドライバDの運転姿勢の動的なずれについて示す説明図である。
図3はいずれも車両が急加速及び急減速を繰り返したり、右旋回及び左旋回を繰り返したりした場合のドライバDの上半身の振動(揺れ)を示す。このうち、図中の左中央の基準振動は、ドライビングポジションがドライバDに適したドライビングポジションの状態にあり、ドライバの上半身が所定の周期及び振幅で揺れる状態であるとする。
【0042】
これに対して、ドライビングポジションがドライバDに適したドライビングポジションでない場合、例えば図中の左上段に示すように、振動モード(振動形態)がずれることがあり得る。振動モードがずれた状態は、基準振動に比べて、頭部と胴体の変位の比及び頭部と胴体の揺れ角の比が異なっている。また、図中の左下段に示すように、揺れの振幅がずれることがあり得る。振幅がずれた状態は、基準振動に比べて、振動モード及び揺れの周波数は同じである一方、揺れの振幅が変化している。また、図中の右に示すように、揺れの周波数がずれることがあり得る。周波数がずれた状態は、基準振動に比べて、振動モード及び振幅は同じである一方、揺れの周波数が変化している。
【0043】
姿勢判定部65は、ドライバDの姿勢を特定した画像データを時系列に比較し、ドライバDの姿勢のずれの有無を判定する。姿勢判定部65は、ドライバDの姿勢の動的なずれの態様を判定してもよい。
【0044】
[1-2-3-4.学習部]
学習部67は、学習機能がオンにされた状態で、ドライビングポジションの設定情報、車両の走行状態の情報及びドライバDのストレス状態の情報を関連付けて学習データ記憶部55に記憶させる。また、本実施形態では、学習部67は、車両の走行中、ドライバDの姿勢が不安定になる走行シーンでのストレス状態を学習するため、車両の走行位置の情報を関連付けて記憶させる。さらに、本実施形態では、学習部67は、ドライバDの運転姿勢の情報を関連付けて記憶させる。
【0045】
本実施形態では、学習部67は、車両の走行中にドライバDの姿勢が不安定になる走行シーンにおいて複数のドライビングポジションにおける種々のデータを取得し学習データ記憶部55に記憶させる。具体的に、学習部67は、学習機能がオンになっている状態で、車両位置検出部27から送信される、地図データ上の車両の位置の情報に基づいてドライバDの姿勢が不安定になる走行シーンを判定し、当該走行シーンを走行するごとにドライビングポジションを変化させる。ドライバDの姿勢が不安定になる走行シーンは、例えば右カーブ及び左カーブが連続するワインディングロードや、路面の凹凸が激しい道路等、あらかじめ適切に設定される。
【0046】
例えば学習部67は、車両の位置が当該走行シーンに差し掛かる際に、パワーシート駆動部43の第1モータ31、第2モータ33又は第3モータ35あるいはステアリング位置調節部45のアクチュエータのうちの一つ又は複数を駆動させ、学習機能がオンにされたときのドライビングポジションから未学習のドライビングポジションに変化させる。また、学習部67は、設定中のドライビングポジションでドライバDがストレスを感じていると推定される場合、パワーシート駆動部43の第1モータ31、第2モータ33又は第3モータ35あるいはステアリング位置調節部45のアクチュエータのうちの一つ又は複数を駆動させて、ストレスが低減するドライビングポジションを探索する。
【0047】
より具体的に、学習部67は、あるドライビングポジションでドライバDがストレスを感じている場合、パワーシート駆動部43の第1モータ31、第2モータ33又は第3モータ35あるいはステアリング位置調節部45のアクチュエータのうちの一つ又は複数を駆動させる。このとき、ドライバDのストレスが低減した場合には、さらに同じ方向へとドライビングポジションを変化させる。一方、ストレスが増加した場合には、逆方向へとドライビングポジションを変化させる。このように、学習部67は、ドライビングポジションを変化させながら、ドライバDのストレスが低減するドライビングポジションを探索する。
【0048】
なお、学習部67は、車両が当該走行シーンを通過した後には、ドライビングポジションを元の位置へ復帰させてもよい。また、学習部67は、ドライバDの姿勢が不安定になる走行シーンを車両が通過するタイミングを、車両の位置の情報及び地図データに基づいて判定する代わりに、周囲環境センサ23により検出される車両の進行方向の道路の情報に基づいて判定してもよい。
【0049】
図4は、学習データ記憶部55に記憶させるデータセットの一例を示す。
学習部67は、学習機能がオンにされた状態で、ドライバDの運転姿勢が不安定になる走行シーンを走行する際に以下のデータを取得し、学習データ記憶部55に記憶させる。学習部67は、ドライビングポジションの情報として、制御部61により駆動されるパワーシート駆動部43の第1モータ31、第2モータ33及び第3モータ35並びにステアリング位置調節部45のアクチュエータの制御量(回転量)のデータを記憶させる。それぞれのモータあるいはアクチュエータの制御量は、運転席5の前後方向の位置、背もたれ5aの角度、座部5bの高さ及びステアリングホイール9の前後方向の位置を示すデータに相当する。
【0050】
また、学習部67は、車両の走行状態の情報として、車両走行状態センサ25から出力されるセンサ信号に基づいて、車速、前後加速度、横加速度、ヨーレート、ロール角等のデータを記憶させる。また、学習部67は、車両走行位置の情報として、車両位置検出部27から送信される車両位置のデータを記憶させる。学習部67は、車両走行位置の情報として、周囲環境センサ23から送信されるデータに基づいてカーブや路面凹凸等の道路状況データを記憶させてもよい。また、学習部67は、ドライバDの運転姿勢の情報として、姿勢判定部65により判定された運転姿勢のずれのデータを記憶させる。さらに、学習部67は、ドライバストレス状態の情報として、ストレス推定部63により推定されるドライバDのストレス状態のデータを記憶させる。
【0051】
[1-2-3-5.適正位置判定部]
適正位置判定部69は、学習データ記憶部55に蓄積された学習データに基づいて、ドライバDに適したドライビングポジションを判定する。例えば適正位置判定部69は、ドライバDがストレスを感じていないドライビングポジション、かつ、運転姿勢のずれが小さいドライビングポジションを、ドライバDに適した推奨ドライビングポジションと判定する。
【0052】
本実施形態では、学習データ記憶部55に記憶されるデータセットが、車両の走行状態の情報及び車両走行位置の情報を含んでいる。このため、車両の挙動や走行ラインによって発生する旋回加速度あるいは前後加速度が同じ場合におけるドライビングポジションの違いによるドライバDのストレス状態を比較することができる。これにより、適正位置判定部69により判定される推奨ドライビングポジションの精度を高めることができる。さらに、学習データ記憶部55に記憶されるデータセットがドライバDの姿勢の動的なずれのデータ(振動モード、振幅又は周波数)を含む場合には、ドライバDのストレスが大きくなるような姿勢のずれを低減可能な推奨ドライビングポジションを判定することができる。
【0053】
推奨ドライビングポジションの情報は、運転席5の前後方向の推奨位置、背もたれ5aの推奨角度、座部5bの推奨高さ及びステアリングホイール9の前後方向の推奨位置のデータを含む。ストレス推定部63が、ドライバDが感じたストレスレベルを推定する場合、適正位置判定部69は、ストレスレベルが最も低く、かつ、運転姿勢のずれが小さいドライビングポジションを、ドライバDに適したドライビングポジションと判定してもよい。適正位置判定部69は、ドライバDに適したドライビングポジションの判定を常時行ってもよく、学習機能がオフにされたときに行ってもよく、車両の使用開始時又は使用終了時に行ってもよい。
【0054】
また、適正位置判定部69は、学習データに基づいて判定された、ドライバDに適したドライビングポジションを、推奨ドライビングポジションとしてドライバDに提示してもよい。例えば適正位置判定部69は、HMI41を駆動して、ドライバDに推奨ドライビングポジションを提示する。具体的に、適正位置判定部69は、音声又は表示の少なくともいずれかの手段により、現在のドライビングポジションの設定を推奨ドライビングポジションの設定とするための操作ガイドを提示してもよい。例えば適正位置判定部69は、ドライバDに対して、運転席5の位置を前方又は後方に移動させる操作ガイドを提示したり、背もたれ5aの角度を小さく又は大きくさせる操作ガイドを提示したり、座部5bの高さを高く又は低くさせる操作ガイドを提示したりする。あるいは、適正位置判定部69は、ステアリングホイール9の位置を前方又は後方に移動させる操作ガイドを提示してもよい。
【0055】
また、運転席5の前後方向の位置、背もたれ5aの角度、座部5bの高さ及びステアリングホイール9の前後方向の位置を記憶する機能を備えている場合、適正位置判定部69は、次回同じドライバDが車両を使用する際に自動でドライビングポジションが設定されるように、推奨ドライビングポジションの設定を記憶させてもよい。
【0056】
さらに、適正位置判定部69は、ドライビングポジションが推奨ドライビングポジションとなるように、制御部61に制御指令を出力してもよい。ドライビングポジションを自動で推奨ドライビングポジションに調整する場合、ドライバDが不安や危険を感じないように、停車中にドライビングポジションを調整することが好ましい。
【0057】
<1-3.運転姿勢判定装置の動作例>
続いて、本実施形態に係る運転姿勢判定装置1の動作例を説明する。以下、運転姿勢判定装置1の動作例として、学習データ蓄積処理及び推奨ドライビングポジション提示処理を説明する。
【0058】
(1-3-1.学習データ蓄積処理)
図5は、学習データ蓄積処理のフローチャートを示す。
まず、学習部67は、学習機能がオンの状態になっているか否かを判別する(ステップS11)。学習機能のオン又はオフは、ドライバDによる入力部29への操作入力に基づいて設定される。学習機能がオンの状態になっていない場合(S11/No)、学習部67は、本ルーチンを終了し、ステップS11の判定を繰り返す。
【0059】
一方、学習機能がオンの状態になっている場合(S11/Yes)、学習部67は、ドライバ識別情報を取得する(ステップS13)。ドライバ識別情報は、運転席5に座るドライバDを識別するための情報であって、推奨ドライビングポジションの適用対象のドライバDを特定するために取得される。ドライバ識別情報は、特に限定されるものではないが、ドライバD等のユーザによって設定登録されるデータであってもよく、ドライバ監視装置21によるドライバDの顔画像の特徴量分析等によって特定される個々のドライバDに付与されるデータであってもよい。
【0060】
次いで、学習部67は、車両の走行シーンが、ドライバDの運転姿勢が揺れやすい走行シーンであるか否かを判別する(ステップS15)。例えば学習部67は、車両位置検出部27から送信される車両の位置の情報と地図データとに基づいて車両がワインディングロードを走行するあるいは走行していると判定される場合、ドライバDの運転姿勢が揺れやすい走行シーンであると判定する。学習部67は、周囲環境センサ23から送信される車両の進行方向の道路の状況の情報に基づいて、車両の走行シーンがドライバDの運転姿勢が揺れやすい走行シーンであるか否かを判定してもよい。
【0061】
車両の走行シーンが、ドライバDの運転姿勢が揺れやすい走行シーンであると判別されない場合(S15/No)、学習部67は、本ルーチンを終了してステップS11に戻る。一方、ドライバDの運転姿勢が揺れやすい走行シーンであると判別された場合(S15/Yes)、学習部67は、ストレス状態を推定するドライビングポジションを設定する(ステップS17)。具体的に、学習部67は、パワーシート駆動部43の第1モータ31、第2モータ33及び第3モータ35並びにステアリング位置調節部45のアクチュエータのうちの少なくとも一つを駆動させてドライビングポジションを調整する。
【0062】
例えば学習部67は、ストレス状態を推定したドライビングポジションのデータが学習データ記憶部55に保存されていない場合、車両の走行開始時に設定されていたドライビングポジションから、運転席5の前後方向の位置、背もたれ5aの角度、座部5bの高さ又はステアリングホイール9の前後方向の位置の少なくともいずれかを適宜変化させる。
【0063】
また、学習部67は、過去に当該ドライバDのストレス状態を推定したドライビングポジションのデータが学習データ記憶部55に保存されている場合、ストレス状態が低いドライビングポジションを基準に、ストレスが低減すると想定される方向へドライビングポジションを変化させる。具体的に、前回までにドライビングポジションを変化させたときの当該ドライバDのストレス状態のデータを参照し、ドライビングポジションの変化によりドライバDのストレスが低減した場合には、さらに同じ方向へとドライビングポジションを変化させる。一方、ストレスが増加した場合には、逆方向へとドライビングポジションを変化させる。その際に、あらかじめ理想とするストレス状態及び姿勢のずれの情報が設定されており、学習部67は、理想とするストレス状態に近づく方向へドライビングポジションを変化させてもよい。
【0064】
次いで、学習部67は、車両走行状態センサ25から送信される車両の走行状態の情報を取得する(ステップS19)。例えば学習部67は、前後加速度、横加速度、ヨーレート、ロール角等の車両の挙動データや、アクセル開度、ブレーキ圧、舵角、エンジン回転数等の車両の操作量データを取得する。
【0065】
次いで、学習部67は、車両の位置の情報を取得する(ステップS21)。例えば学習部67は、車両位置検出部27から送信される車両の位置の情報と地図データとに基づいて車両の位置のデータを取得する。学習部67は、車両の位置のデータと併せて、周囲環境センサ23から送信される道路の情報に基づいて、カーブの曲率半径や路面の凹凸状態等の道路の状態のデータを取得してもよい。
【0066】
次いで、ストレス推定部63は、ドライバ監視装置21から送信されるドライバDの生体情報に基づいてドライバDのストレス状態を推定する(ステップS23)。具体的に、ストレス推定部63は、ドライバ監視装置21により検出される発汗状態、体温、血流、心拍数のデータに基づいてドライバDのストレス状態を推定する。ストレス推定部63は、上記の例の少なくともいずれか一つに該当する場合にドライバDがストレスを感じていると推定してもよく、いずれか二つ以上に該当する場合にドライバDがストレスを感じていると推定してもよい。また、ストレス推定部63は、発汗状態、体温、血流状態又は心拍数のデータに基づいて、ドライバDのストレスレベルを推定してもよい。
【0067】
次いで、姿勢判定部65は、ドライバ監視装置21から送信される画像データに基づいてドライバDの適正な姿勢からの動的なずれを判定する(ステップS25)。例えば姿勢判定部65は、ドライバDの姿勢を特定した画像データを時系列に比較し、ドライバDの姿勢のずれの有無を判定する。姿勢判定部65は、ドライバDの姿勢の動的なずれの態様(振動モードのずれ、振幅のずれ又は周波数のずれ)を判定してもよい。
【0068】
次いで、学習部67は、取得したドライビングポジションの設定情報、車両走行状態の情報、車両位置情報、ドライバDのストレス状態の情報及びドライバDの運転姿勢のずれの情報を関連付けて、学習データ記憶部55に記憶させる(ステップS27)。学習部67は、ドライバDの運転姿勢が揺れやすい走行シーンを車両が走行している間、これらのデータセットを時系列データとして学習データ記憶部55に記憶させる。
【0069】
運転姿勢判定装置1は、以上のステップS11~ステップS27を繰り返し実行することにより、ドライビングポジションを変化させながら、それぞれのドライビングポジションでドライバDが感じるストレス状態及び運転姿勢のずれのデータを取得し、学習データ記憶部55に蓄積する。
【0070】
(1-3-2.推奨ドライビングポジション提示処理)
図6は、推奨ドライビングポジション提示処理のフローチャートを示す。
まず、適正位置判定部69は、推奨ドライビングポジションを提示する処理を開始するか否かを判別する(ステップS31)。例えば適正位置判定部69は、学習機能がオフにされたときや、車両の使用開始時又は使用終了時に、推奨ドライビングポジションを提示する処理を開始すると判定してもよい。あるいは、適正位置判定部69は、推奨ドライビングポジションを提示する処理を常時実行してもよい。
【0071】
推奨ドライビングポジションを提示する処理を開始すると判別されない場合(S31/No)、適正位置判定部69は、本ルーチンを終了してステップS31の判別を繰り返す。一方、推奨ドライビングポジションを提示する処理を開始すると判別された場合(S31/Yes)、適正位置判定部69は、上記のステップS13と同様の手順でドライバ識別情報を取得する(ステップS33)。
【0072】
次いで、適正位置判定部69は、学習データ記憶部55に蓄積された学習データに基づいて、ドライバDに適したドライビングポジション(推奨ドライビングポジション)を判定する(ステップS35)。例えば適正位置判定部69は、ドライバDがストレスを感じていないドライビングポジション、かつ、運転姿勢のずれが小さいドライビングポジションを、ドライバDに適したドライビングポジションと判定する。ストレス推定部63が、ドライバDが感じたストレスレベルを推定する場合、適正位置判定部69は、ストレスレベルが最も低く、かつ、運転姿勢のずれが小さいドライビングポジションを、ドライバDに適したドライビングポジションと判定してもよい。
【0073】
その際に、適正位置判定部69は、車両の挙動や走行ラインが同じである場合等、発生する旋回加速度あるいは前後加速度が同じ場合でのドライバDのストレス状態を比較して推奨ドライビングポジションを判定してもよい。さらに、適正位置判定部69は、ドライバDのストレスが大きくなるような姿勢の動的なずれ(振動モード、振幅又は周波数)を低減可能な推奨ドライビングポジションを判定してもよい。推奨ドライビングポジションの情報は、運転席5の前後方向の推奨位置、背もたれ5aの推奨角度、座部5bの推奨高さ及びステアリングホイール9の前後方向の推奨位置のデータを含む。
【0074】
次いで、適正位置判定部69は、ドライバDに適したドライビングポジションと判定した推奨ドライビングポジションをドライバDに提示する(ステップS37)。例えば適正位置判定部69は、HMI41を駆動して、音声又は表示の少なくともいずれかの手段により、現在のドライビングポジションの設定を推奨ドライビングポジションの設定とするための操作ガイドを提示してもよい。具体的に、適正位置判定部69は、ドライバDに対して、運転席5の位置を前方又は後方に移動させる操作ガイドを提示したり、背もたれ5aの角度を小さく又は大きくさせる操作ガイドを提示したり、座部5bの高さを高く又は低くさせる操作ガイドを提示したりしてもよい。あるいは、適正位置判定部69は、ステアリングホイール9の位置を前方又は後方に移動させる操作ガイドを提示してもよい。
【0075】
なお、運転席5の前後方向の位置、背もたれ5aの角度、座部5bの高さ及びステアリングホイール9の前後方向の位置を記憶する機能を備えている場合、適正位置判定部69は、次回同じドライバDが車両を使用する際に自動でドライビングポジションが設定されるように、推奨ドライビングポジションの設定を記憶させてもよい。さらに、適正位置判定部69は、ドライビングポジションが推奨ドライビングポジションとなるように、制御部61に制御指令を出力してもよい。ドライビングポジションを自動で推奨ドライビングポジションに調整する場合、ドライバDが不安や危険を感じないように、停車中にドライビングポジションを調整することが好ましい。
【0076】
<1-4.第1の実施の形態による効果>
以上説明したように、第1の実施の形態に係る運転姿勢判定装置1は、車両の走行中に、ドライビングポジションの設定情報、車両の走行状態の情報及びドライバDのストレス状態の情報を関連付けて学習データ記憶部55に蓄積し、記憶された学習データに基づいてドライバDに適した推奨ドライビングポジションを判定する。このため、ドライバD自身が気付きにくいストレスを低減可能なドライビングポジションを判定することができる。
【0077】
また、本実施形態に係る運転姿勢判定装置1は、ドライバDの運転姿勢が揺れやすい走行シーンを走行するごとに、ドライビングポジションを変化させながら、ストレス状態を推定するとともに取得したデータセットを学習データ記憶部55に記憶させる。このため、効率よく、複数のドライビングポジションにおけるドライバDのストレス状態のデータを取得することができる。また、ドライバDの運転姿勢が揺れやすい走行シーンを走行する場合においてストレス状態を推定するとともに取得したデータセットを学習データ記憶部55に記憶させるため、演算処理部51の負荷を軽減することができる。
【0078】
また、本実施形態に係る運転姿勢判定装置1は、さらにドライバDの姿勢のずれの情報をデータセットに含み、ドライバDの姿勢のずれの情報を考慮して推奨ドライビングポジションが判定される。このため、ドライバDが感じるストレスを低減するだけでなく、ドライバDの姿勢のずれを低減可能な推奨ドライビングポジションを判定することができる。
【0079】
また、本実施形態に係る運転姿勢判定装置1は、判定した推奨ドライビングポジションを、ドライバDに提示する。このため、ドライバDは、容易にストレスの少ないドライビングポジションに設定することができる。さらに、パワーシート駆動部43及びステアリング位置調節部45の駆動により、自動で推奨ドライビングポジションに設定される場合には、さらに容易にストレスの少ないドライビングポジションを実現することができる。
【0080】
<<2.第2の実施の形態>>
次に、本発明の第2の実施の形態に係る運転姿勢判定装置を説明する。
第2の実施の形態に係る運転姿勢判定装置は、機械学習により、ドライビングポジションと車両の走行状態とドライバDのストレス状態との関係を学習してドライビングポジション判定モデルを生成し、当該ドライビングポジション判定モデルを用いて走行予定ルートに応じてストレスを低減可能な推奨ドライビングポジションを求め、当該推奨ドライビングポジションを提示する装置として構築される。
【0081】
図7は、本実施形態に係る運転姿勢判定装置100の構成例を示すブロック図である。本実施形態に係る運転姿勢判定装置100の基本構成は、第1の実施の形態に係る運転姿勢判定装置1の構成例と共通する一方、学習部66及び適正位置判定部68の機能が第1の実施の形態の場合と異なっている。本実施形態に係る運転姿勢判定装置100について、第1の実施の形態と異なる点を中心に説明する。
【0082】
本実施形態に係る運転姿勢判定装置100は、ナビゲーションシステム30を備えている。ナビゲーションシステム30は、公知のナビゲーションシステムであり、車両位置検出部27により検出される車両の位置の情報に基づいて、現在位置から、ドライバD等により設定された目的地まで、車両の走行ルートをガイドする機能を有する。制御装置50は、少なくとも走行予定ルートの情報をナビゲーションシステム30から取得する。
【0083】
また、本実施形態では、学習部66は、学習機能がオンにされた状態で、ドライビングポジションの設定情報、車両の走行状態の情報及びドライバDのストレス状態の情報を入力データとして機械学習を行い、ドライビングポジション判定モデルを生成する。また、本実施形態では、学習部66は、さらに車両の走行位置の情報を入力データとして用いる。さらに、学習部66は、ドライバDの運転姿勢のずれのデータを入力データとして用いる。
【0084】
以下、本実施形態に係る運転姿勢判定装置100の学習部66及び適正位置判定部68の機能について、フローチャートに沿って説明する。
【0085】
図8は、学習モデル生成処理のフローチャートを示す。
運転姿勢判定装置100の演算処理部51は、第1の実施の形態における学習データ蓄積処理と同様の手順で、ステップS11~ステップS25の処理を実行する。次いで、学習部66は、取得したドライビングポジションの設定情報、車両の走行状態の情報、車両の走行位置の情報、ドライバDの運転姿勢のずれの情報及びドライバDのストレス状態の情報からなるデータセットを学習データ記憶部54に蓄積するとともに、当該データセットを入力データとして学習処理を実行する(ステップS28)。学習部66は、学習の結果としてドライビングポジション判定モデルを生成し、当該ドライビングポジション判定モデルを学習データ記憶部54に記憶させる。
【0086】
図9は、ドライビングポジション判定モデルの学習処理の一例を示す説明図である。
学習部66は、学習機能がオンにされた状態で、ドライバDの運転姿勢が不安定になる走行シーンを走行する際に以下のデータを取得し、学習データ記憶部54に記憶させる。学習部66は、ドライビングポジションの入力データとして、制御部61により駆動されるパワーシート駆動部43の第1モータ31、第2モータ33及び第3モータ35並びにステアリング位置調節部45のアクチュエータの制御量(回転量)のデータを記憶させる。それぞれのモータあるいはアクチュエータの制御量は、運転席5の前後方向の位置、背もたれ5aの角度、座部5bの高さ及びステアリングホイール9の前後方向の位置を示すデータに相当する。
【0087】
また、学習部66は、車両の走行状態の入力データとして、車両走行状態センサ25から出力されるセンサ信号に基づいて、車速、前後加速度、横加速度、ヨーレート、ロール角等のデータを記憶させる。また、学習部66は、車両走行位置の入力データとして、車両位置検出部27から送信される車両位置のデータを記憶させる。学習部66は、車両走行位置の入力データとして、周囲環境センサ23から送信されるデータに基づいてカーブや路面凹凸等の道路状況データを記憶させてもよい。また、学習部66は、ドライバDの運転姿勢の入力データとして、姿勢判定部65により判定された運転姿勢のずれのデータを記憶させる。さらに、学習部66は、ドライバストレス状態の入力データとして、ストレス推定部63により推定されるドライバDのストレス状態のデータを記憶させる。
【0088】
学習部66は、これらの入力データを機械学習モデルに入力することにより、ドライビングポジション判定モデルを生成する。その際に、学習部66は、車両の走行状態又は走行位置のデータの少なくともいずれかに応じて設定された理想とするストレス状態及び理想とする姿勢のずれを教師データとする教師ありの機械学習を行ってもよく、教師なしの機械学習を行ってもよい。教師ありの機械学習の場合、理想とするストレス状態及び理想とする姿勢のずれに近づく推奨ドライビングポジションが得られやすくなる。一方、教師なしの機械学習の場合であっても、ドライバDそれぞれストレス状態又は姿勢のずれが小さくなる推奨ドライビングポジションが得られやすくなる。
【0089】
なお、機械学習モデルは、例えば、サポートベクタマシン、近傍法、ディープラーニング等のニューラルネットワーク又はベイジアンネットワーク等を用いた計算モデルであってよい。ドライビングポジション判定モデルは、ドライバDに紐づけられたドライバ識別データごとに生成され、学習データ記憶部54に記憶される。
【0090】
図10は、推奨ドライビングポジション提示処理のフローチャートを示す。
まず、適正位置判定部68は、推奨ドライビングポジションの提示機能がオンの状態になっているか否かを判別する(ステップS41)。提示機能のオン又はオフは、ドライバDによる入力部29への操作入力に基づいて設定される。あるいは、ナビゲーションシステムの目的地が設定されたときに提示機能がオンの状態に設定されてもよい。提示機能がオンの状態になっていない場合(S41/No)、適正位置判定部68は、本ルーチンを終了し、ステップS41の判定を繰り返す。一方、提示機能がオンの状態になっている場合(S41/Yes)、適正位置判定部68は、上記のステップS13と同様の手順でドライバ識別情報を取得する(ステップS43)。これにより、ドライバDに対応するドライビングポジション判定モデルが選択される。
【0091】
次いで、適正位置判定部68は、現在地からドライバDにより設定された目的地までの走行予定ルートのデータに基づいて走行予定ルート情報を求める(ステップS45)。例えば適正位置判定部68は、現在地からドライバDにより設定された目的地までの走行予定ルートのデータから、走行予定ルート上のカーブの数、右カーブ及び左カーブの連続回数、法定速度、路面の凹凸状態等の走行ルート状況データを求める。また、適正位置判定部68は、求められた走行予定ルートの情報に基づいて、走行予定ルートを走行中の想定車速、想定前後加速度、想定横加速度、想定ヨーレート等の想定走行状態データを設定する。
【0092】
次いで、適正位置判定部68は、学習部67により生成されたドライビングポジション判定モデルに基づいて、走行予定ルートに応じた推奨ドライビングポジションを求める(ステップS47)。図11に示すように、適正位置判定部68は、想定走行状態データ及び走行ルート状況データをドライビングポジション判定モデルに入力し、出力される推奨ドライビングポジションのデータを取得する。例えばドライビングポジション判定モデルが教師ありの機械学習により生成された場合、走行予定ルート全体での理想とするストレス状態又は理想とする姿勢のずれとの差分を最小とすることができる推奨ドライビングポジションが出力される。また、ドライビングポジション判定モデルが教師なしの機械学習により生成された場合、走行予定ルート全体でのドライバDのストレス状態あるいは姿勢のずれを最小とすることができる推奨ドライビングポジションが出力される。推奨ドライビングポジションの情報は、運転席5の前後方向の推奨位置、背もたれ5aの推奨角度、座部5bの推奨高さ及びステアリングホイール9の前後方向の推奨位置のデータを含む。
【0093】
次いで、適正位置判定部68は、ドライビングポジション判定モデルから出力された推奨ドライビングポジションをドライバDに提示する(ステップS49)。推奨ドライビングポジションの提示方法は、第1の実施の形態に係る適正位置判定部69と同様の方法とすることができる。また、適正位置判定部68は、ドライビングポジションが推奨ドライビングポジションとなるように、制御部61に制御指令を出力してもよい。
【0094】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る運転姿勢判定装置100は、車両の走行中に、ドライビングポジションの設定情報、車両の走行状態の情報及びドライバDのストレス状態の情報を関連付けて学習データ記憶部55に蓄積するとともに、これらのデータセットを入力データとして機械学習を行い、ドライビングポジション判定モデルを生成する。また、運転姿勢判定装置100は、現在位置から目的地までの走行予定ルートのデータに基づいて得られる想定走行状態データ及び走行ルート状況データをドライビングポジション判定モデルに入力し、出力される推奨ドライビングポジションをドライバDに提示する。
【0095】
このため、本実施形態に係る運転姿勢判定装置100によれば、第1の実施の形態に係る運転姿勢判定装置1と同様の効果を得ることができるとともに、ドライバDは、走行予定ルートに応じて、ドライバDのストレスを低減可能な推奨ドライビングポジションに設定することができる。さらに、パワーシート駆動部43及びステアリング位置調節部45の駆動により、自動で推奨ドライビングポジションに設定される場合には、さらに容易にストレスの少ないドライビングポジションを実現することができる。
【0096】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0097】
例えば、上記実施形態では、運転席5の前後方向の位置、背もたれ5aの角度及び座部5bの高さ、並びにステアリングホイール9の前後方向の位置を調整してドライビングポジションを調整する例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。運転席5の座部5bの傾きや、背もたれ5a又は座部5bの凹み度合、ヘッドレスト5cの位置、ステアリングホイール9のチルト角等を調整可能に構成されていてもよい。
【0098】
また、上記実施形態では、アクチュエータを用いてドライビングポジションを調整可能に構成されていたが、運転席5の姿勢やステアリングホイール9の位置等を手動で調整する車両であっても本発明を適用することができる。この場合、センサにより運転席5の姿勢やステアリングホイール9の位置等を検出し、ストレス状態等を学習するとともに、学習時や推奨ドライビングポジションを提示する際には、例えばドライバDに対して調整量等を指示するように構成される。このように構成される場合であっても、複数のドライビングポジションにおけるストレス状態及び運転姿勢のずれ等を学習して、ドライバDに適したドライビングポジションを判定することができる。
【符号の説明】
【0099】
1…運転姿勢判定装置、5…運転席、5a…背もたれ、5b…座部、5c…ヘッドレスト、9ステアリングホイール、21…ドライバ監視装置、43…パワーシート駆動部、45…ステアリング位置調節部、50…制御装置、51…演算処理部、53…記憶部、55…学習データ記憶部、61…制御部、63…ストレス推定部、65…姿勢判定部、66・67…学習部、68・69…適正位置判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11