(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】パネル枠
(51)【国際特許分類】
E01F 8/00 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
E01F8/00
(21)【出願番号】P 2021051800
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000192615
【氏名又は名称】日鉄神鋼建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】山本 健次郎
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-153123(JP,A)
【文献】特開2018-184777(JP,A)
【文献】特開2012-211434(JP,A)
【文献】特開平04-302608(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0178613(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 8/00
E01B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材と前記板材が嵌め込まれた枠体とを備えたパネル枠であって、
前記枠体は、上下一対の横枠と、左右一対の縦枠と、を有し、
前記上下一対の横枠のいずれか一方又は両方の前記板材よりも外側に断面欠損部が設けられ
、
塑性変形する前記横枠には、前記板材より外側に中空断面が形成され、
前記中空断面に前記断面欠損部が設けられて
おり、
前記断面欠損部は、前記中空断面の上面及び下面を上下に貫通する貫通孔であること
を特徴とするパネル枠。
【請求項2】
前記板材は、前記板材を前記枠体に固定する固定部材を挿通する孔が形成されずに前記枠体に形成された取付溝に挿入されて挟持されていること
を特徴とする請求項1に記載のパネル枠。
【請求項3】
前記断面欠損部は、塑性変形する前記横枠の長手方向を左右方向として左右対称に複数設けられていること
を特徴とする請求項1
又は2に記載のパネル枠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、一般道路や高速道路などの道路に沿って立設されて遮音して近隣への騒音の伝播を防止する遮音パネルなどのパネル枠に関し、詳しくは、事故等による衝撃力が板材に作用した際に、枠体が塑性変形して衝撃力を吸収するパネル枠に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の遮音パネルは、騒音を遮って遮音する遮音板が、パネルの外側を視認できるように可視光線を透過するポリカーボネイト板やアクリル板等の樹脂板からなる透光板である場合も多い。このような樹脂板からなる透光板が嵌め込まれた遮音パネルは、車両から積み荷などが落下して衝撃力が作用した際に、透光板が割れるおそれがあった。特に、透光板が嵌め込まれた枠体に完全固定されていると、パネルの一部に衝撃力が集中するために透光板が割れやすく、大きな破片を落下させる事故が発生するという懸念があった。また、衝撃力により透光板が枠体から抜けることによって、透光板のエッジ部がむき出しになり危険であったり、透光板が割れて破片が飛散したりして災害を拡大してしまうという問題があった。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば、特許文献1には、透光パネルのパネル2の一辺のみをパネル2を貫通する取付具5を介して取付フレーム3に強固に固定し、他の三辺を挟持部材4によって取付フレーム3から外れ易い構成とすることで、パネル2に対する衝撃力を逃がして透光パネルが破壊されることを防ぐパネル取付構造が開示されている(特許文献1の明細書の段落[0007]~[0011]、図面の
図4等参照)。
【0004】
また、特許文献2には、樹脂板1の四周に枠体2が装着されてなるパネル構造に於いて、一辺21と少なくともその他の一辺22とが係止手段3によって枠体に係止され、前記一辺21が少なくともその他の一辺22よりも強い係止力になされて、パネルに外圧が加わったときに、強い係止手段の一辺21を残して暖簾状に開口する遮音壁のパネル構造が開示されている(特許文献2の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0014]~[0019]、図面の
図1~
図4等参照)。
【0005】
しかし、特許文献1のパネル取付構造や特許文献2の遮音壁のパネル構造は、パネルに衝撃力が作用した場合に、ポリカーボネイトなどの樹脂板からなる透光板が、上辺を除く三辺が暖簾状に枠体から離脱する構造となっている。このため、車両からの積荷や飛来物などの加撃体が、透光板が離脱して開放された箇所から遮音壁外部へ落下するおそれがあった。
【0006】
また、特許文献1のパネル取付構造や特許文献2の遮音壁のパネル構造は、透光パネルの樹脂板に、孔あけ加工する必要があり、樹脂板加工やパネル組立に時間や手間がかかるという問題がある。その上、三辺が枠体から離脱した透光パネルは、交換するまで中吊り状態で、風で煽られて危険であるという問題もある。
【0007】
一方、透光パネルの透光板に樹脂板ではなく、石英ガラスなどからなるガラス板を採用する場合は、ガラスの引張強度が低く撓まない性質のため、前述の暖簾状に三辺を離脱させて開放する手法を採用することができない。そこで、透光板にガラス板を採用する場合は、透光板を固定する透光板の枠体を全体の枠体である本体枠と別パーツとして構成し、衝撃力が作用した際に、透光板の枠体が本体枠から脱落する対策が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献3には、外枠フレームにおける枠内側内枠フレーム3が嵌合配置され、内枠フレーム3に透光材4の周縁部が弾性シール材33を介して支承されるように取り付けられ、内枠フレーム3の一辺が外枠フレームの一辺にピン固定され、内枠フレーム3の他辺は、ピン固定された一辺側よりも低強度の接合手段により外枠フレームの他辺に接合された防音パネル1とされ、内側パネル5の正面側から衝撃力が作用した場合に、その衝撃力により低強度接合された部分で外枠フレームに対して内枠フレーム3の他辺側を背面側に分離させて、内枠フレーム3をピン固定された一辺側を中心として背面側に回動させるようにした透光板を用いた防音パネル1が開示されている(特許文献3の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0012]~[0029]、図面の
図11,
図12等参照)。
【0009】
しかし、特許文献3の防音パネル1も、衝撃力が作用した際に内枠フレーム3が外枠フレーム2から脱落する構成であるため、特許文献1のパネル取付構造や特許文献2の遮音壁のパネル構造と同様に、車両からの積荷や飛来物などの加撃体が、透光板が離脱して開放された箇所から遮音壁外部へ落下するおそれがあるという問題があった。
【0010】
また、特許文献3の防音パネル1は、外枠フレーム2と内枠フレーム3の二重構造となっており、パネルを構成する部材が多く、パネル組立に時間がかかるという問題もある。そして、特許文献3の防音パネル1も、交換するまで内枠フレーム3が中吊り状態で、風で煽られて危険であるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平04-302608号公報
【文献】特開2001-193026号公報
【文献】特開2012-211434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、安価で簡単な構成により、風荷重に耐え得る断面性能を有するとともに、衝撃荷重が作用した際に上下枠のいずれかが塑性変形して衝撃荷重を逃がし、板材の破損を防ぐことができるパネル枠を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1発明に係るパネル枠は、板材と前記板材が嵌め込まれた枠体とを備えたパネル枠であって、前記枠体は、上下一対の横枠と、左右一対の縦枠と、を有し、前記上下一対の横枠のいずれか一方又は両方の前記板材よりも外側に断面欠損部が設けられ、塑性変形する前記横枠には、前記板材より外側に中空断面が形成され、前記中空断面に前記断面欠損部が設けられており、前記断面欠損部は、前記中空断面の上面及び下面を上下に貫通する貫通孔であることを特徴とする。
【0014】
第2発明に係るパネル枠は、第1発明において、前記板材は、前記板材を前記枠体に固定する固定部材を挿通する孔が形成されずに前記枠体に形成された取付溝に挿入されて挟持されていることを特徴とする。
【0018】
第3発明に係るパネル枠は、第1発明又は第2発明において、前記断面欠損部は、塑性変形する前記横枠の長手方向を左右方向として左右対称に複数設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
第1発明~第3発明によれば、安価で簡単な構成により、設計荷重としての風荷重に耐え得る断面性能を有するとともに、衝撃荷重が作用した際に上下枠のいずれか又は両方が塑性変形して衝撃荷重を逃がすことができるので、衝撃力が作用した場合でも板材の破損を防ぐことができる。また、第1発明~第3発明によれば、衝撃力が作用した場合でもパネル枠の板材が枠体に装着された状態を保ち、板材が枠体から離脱して中吊り状態とならないので、開放されたスペースから車両からの積荷や飛来物などの加撃体が外部へ落下するおそれを低減することができる。それに加え、第1発明~第3発明によれば、板材が枠体から離脱して中吊り状態とならないので、構造上安定した状態であり、変形したパネル枠を交換するまでの間も安全である。
その上、第1発明~第3発明によれば、板材より外側に中空断面が形成されているので、枠体が塑性変形している際にも、曲げ剛性(EI:ヤング率×断面二次モーメント)の高い中空断面で板材が枠体から離脱することを防止することができる。
さらに、第1発明~第3発明によれば、断面欠損部が中空断面の上面及び下面に形成された孔であるので、断面欠損部の孔から騒音が漏れるおそれがなくなるだけでなく、衝撃力が作用した際に、横枠が貫通孔から千切れて塑性変形し、吸収することができる衝撃エネルギーが向上する。
【0020】
特に、第2発明によれば、板材にボルトやピンなどの固定部材を挿通する孔が形成されていないので、板材に孔を形成する手間を省いて安価にパネル枠を製造することができる。また、第2発明によれば、板材は、取付溝に挿入されて挟持されているので、従来のボルトやリベットで固定されているのと相違して、板材の変形と枠体の変形に差異が生じてもある程度遊びがある状態となり、板材を破損することなく、板材と枠体を一緒に弓なりに塑性変形させることが可能となる。
【0024】
特に、第3発明によれば、横枠の塑性変形が板材の弾性変形に追随し、板材の枠体からの抜け出しを防止しつつ、衝撃エネルギーを吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るパネル枠である遮音パネルを示す斜視図である。
【
図2】
図2は、同上の遮音パネルを示す図であり、(a)が道路側から見た正面図、(b)が右側面図、(c)が平面図、(d)が底面図である。
【
図3】
図3は、同上の遮音パネルの横枠を中間省略して示す鉛直断面図である。
【
図4】
図4は、同上の遮音パネルの縦枠を示す水平断面図である。
【
図5】
図5は、本発明のパネル枠の衝撃エネルギー吸収及び板材脱落防止メカニズムの基本的な考え方を説明する説明図であり、(a)が、衝撃力がパネル枠に作用する前の状態を示す図、(b)が、パネル枠の衝撃エネルギー吸収時の状態を示す図、(c)が、衝撃エネルギー吸収時の板材のみの変形を示す図である。
【
図7】
図7は、断面欠損部の変形例として複数の孔を左右対称に設けた遮音パネルを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係るパネル枠について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
<遮音パネル:パネル枠>
図1~
図4を用いて、本発明の実施形態に係るパネル枠について説明する。本実施形態に係るパネル枠として、道路や鉄道沿いに設置され、騒音の伝播を遮断するとともに透光性を有してパネル外部が視認可能な透光性遮音パネルを例示して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るパネル枠である遮音パネル1を示す斜視図である。また、
図2は、遮音パネル1を示す図であり、(a)が道路側から見た正面図、(b)が右側面図、(c)が平面図、(d)が底面図である。
【0028】
本発明のパネル枠の実施形態である遮音パネル1は、図示しないH形鋼や溝形鋼などの鋼製の支柱間に複数段積層され、騒音源である道路や鉄道を通過する車両からの騒音の伝播を遮断する遮音壁として用いられる。
【0029】
図1,
図2に示すように、遮音パネル1は、厚さ一定の正面視矩形状の板材である遮音板2と、その遮音板2が嵌め込まれた枠体3と、を備えている。なお、
図1に示す、内側とは、遮音パネル1が道路沿いに設置されている場合の道路側(軌道沿いに設置されている場合は軌道側)を指し、外側とは、道路側と遮音パネル1を隔てた反対側となる民地側(但し、民地でない場合もあり得る)を指している(以下、同じ)。
【0030】
(遮音板:板材)
本実施形態に係る板材である遮音板2は、ポリカーボネイト(PC)やアクリル樹脂(PMMA:ポリメタクリル酸メチル樹脂(Polymethyl methacrylate))などの透光性を有する樹脂板からなる透光性遮音板である。勿論、本発明に係る板材は、透光性を有する板材や樹脂からなる樹脂板に限られず、アルミ合金製の板材などの金属製の板材とすることも可能である。但し、後述のように、本発明に係る板材は、車両からの積荷が衝突するなどの衝撃荷重に対して一定の弾性変形をすることが必要であるため、弾性変形しにくく割れやすい単層の石英ガラスなどは除かれ、弾性変形域の広い樹脂板は好ましいと言える。
【0031】
なお、背景技術で述べた特許文献1のパネル取付構造や特許文献2の遮音壁のパネル構造と相違して、遮音板2は、リベット止めやボルト止めなどの板材を他の物に機械的に固定するための固定部材を挿通する孔が形成されずに後述の取付溝65,74に挿入されて挟持されている(
図3,
図4参照)。
【0032】
(枠体)
枠体3は、
図1,
図2に示すように、押し出し成形により継ぎ目なく一体成形されたアルミ合金からなるアルマイト製の枠体であり、上下一対の横枠4と、左右一対の縦枠5など、から構成されている。また、この上方の横枠4は、上枠6となっており、下方の横枠4は、下枠7となっている。
【0033】
また、枠体3は、後で詳述するように、構造設計上の通常の風荷重に対しては、弾性域内で対抗できる強度を有し、それを超える衝撃荷重に対しては、横枠4、即ち上枠6及び下枠7のいずれか一方又は両方が弓なりに(弓状に)中央が外側に湾曲変形して引張力を受ける一部の部材が破断して塑性変形し、衝撃荷重のエネルギーを吸収するように設計している。
【0034】
具体的には、本実施形態に係る枠体3では、上枠6の曲げ剛性(EI:ヤング率×断面二次モーメント)が、下枠7の曲げ剛性より高くなる断面形状としている。但し、上枠6の曲げ剛性が、下枠7の曲げ剛性より低くなる断面形状としてもよい。しかし、遮音パネル1が、遮音壁の最上段に設置される場合は、上枠6が弓なりに塑性変形することで、遮音板2が上方へ抜け落ち易くなることが予想される。それに加え、上枠6が弓状に変形すると、遮音パネル1に衝突した積荷が跳ね上がって、外部へ飛び出るおそれもあるため、本実施形態に係る枠体3では、下枠7が塑性変形するように曲げ剛性を低くした。
【0035】
また、本実施形態に係る枠体3では、枠材の降伏応力が、縦枠5>上枠6≧下枠7となるようにする。具体的には、縦枠5をJIS 6005C(6N01)T5のアルミニウム合金とし、上枠6をJIS 6063 T5のアルミニウム合金とし、下枠7をJIS 6063 T1のアルミニウム合金とする。つまり、枠材の機械的性質(引張強さ、耐力、伸び)が、縦枠5>上枠6>下枠7となるようにしている。風荷重に対抗し得る曲げ剛性(EI:ヤング率×断面二次モーメント)を確保しつつ、衝撃力が作用した際の塑性変形を大きくしてエネルギー吸収率を上げるためである。
【0036】
((上枠:横枠))
次に、
図3を用いて、横枠4の詳細な断面形状について説明する。
図3は、遮音パネル1の横枠4を中間省略して示す鉛直断面図である。
図3に示すように、上下一対の横枠4は、上枠6と下枠7とからなる。
【0037】
この上枠6は、
図1,
図2に示すように、横方向を長手とする条材であり、
図3に示すように、上枠本体60(横枠本体)と、この上枠本体60に装着され、押縁材61と、を備えている。
【0038】
この上枠本体60は、全体として鉛直断面の外形が内側面の高さが外側面の高さより高くなった略台形状の枠材であり、枠断面の外側に位置する中空断面である台形(四角形)枠状の外側ボックス部62と、この外側ボックス部62の上部と接続する台形(四角形)枠状の上部ボックス部63を有している。また、上枠本体60には、上部ボックス部63の内側下端から垂下する内側壁64が形成されている。
【0039】
そして、
図3に示すように、この内側壁64に、押縁材61がスポット止めされて固定され、押縁材61の外側壁である支持辺部61aと、外側ボックス部62の内側壁との間が、遮音板2を嵌め込む取付溝65となっている。なお、スポット止めとは、遮音板2を嵌め込む押縁材61の機能を達成できる程度の強度を発揮できる所定間隔で飛び飛びに接合されていることを指す。本実施形態では、押縁材61は、上枠本体60にリベットr1で接合されている。勿論、押縁材61は、リベットではなく、ボルトやビス止めなど他の機械的接合で接合されていてもよく、材質によっては、スポット溶接で接合されていてもよい。
【0040】
押縁材61は、
図3に示すように、横方向を長手とする一辺が開放された断面コの字状の条材であり、取付溝65に遮音板2を嵌め込んだ後、押縁材61を取り付けて遮音板2を固定する機能を有している。この押縁材61は、部材全体の外側面に位置し、後述のガスケットG1を介して遮音板2と当接して支持する支持辺部61aと、この支持辺部61aと対向して反対側に位置する縦辺部61cと、これらを連絡する連絡辺部61bと、を有している。この支持辺部61a及び縦辺部61cの先端が断面コの字状の開放端となっている。また、この縦辺部61cには、リベット用孔61dが所定間隔で形成されている。
【0041】
また、支持辺部61aの外側面には、ガスケットG1が接着されている。このガスケットG1は、プロロプレンゴムなどのゴム弾性体からなる厚さ2mmのゴム材である。このガスケットG1は、押縁材61と遮音板2との間に押し込まれて介在することでその反発力で、支持辺部61aの連絡辺部61bに対する角度変形や遮音板2の板面の弓なりの弾性変形に追随して遮音板2との密着性を高める機能を有している。このため、遮音板2が取付溝65から脱落するおそれを低減することができる。
【0042】
((下枠:横枠))
下枠7は、
図1,
図2に示すように、上枠6と同様に、横方向を長手とする条材であり、下段の遮音パネル1の上枠6と嵌合して遮音パネル1のパネル面の垂直方向の力に対抗するように構成されている。また、
図3に示すように、下枠7は、下枠本体70(横枠本体)と、この下枠本体70に装着される前述の押縁材61と、を備えている。
【0043】
この下枠本体70は、枠断面の外側に位置する中空断面である内側壁の高さが低い台形(四角形)枠状の外側ボックス部71を有しており、この外側ボックス部71の傾斜した底面部がそのまま内側に延長されて断面への字状の下部72が形成されている。この下部72の断面への字状の形状は、前述の略台形状の上枠本体60と嵌合する形状となっている。
【0044】
そして、下枠本体70には、下部72内側下端から立ち上がる内側壁73が形成されている。
図3に示すように、この内側壁73に、押縁材61がリベットr1で固定され、押縁材61の外側壁である支持辺部61aと、外側ボックス部71の内側壁との間が、遮音板2を嵌め込む取付溝74となっている。
【0045】
また、外側ボックス部71の幅d2は、押縁材61の幅や取付溝74から内側壁73の内側面までの距離d1より長くなっている、即ち、取付溝74(取付溝65)の位置が、下枠7の中心軸に対して内側に偏心配置されている。このため、後で詳述するように、衝撃力が入力された変形時において遮音板2が抜け出し易い下枠7の外側部分(外側ボックス部71)の健全性を保ちつつ、下枠本体70の内側壁73を曲げ座屈させることができる。
【0046】
なお、
図3に示すように、遮音パネル1では、上枠6には、外側へ湾曲して曲がる際の圧縮側となる位置に、上部ボックス部63が設けられているのに対し、下枠7には、対応する位置に、矩形枠状に閉じられた部位が存在しない、このため、下枠7の曲げ剛性(EI)は、上枠6の曲げ剛性(EI)より低くなる断面形状となっている。
【0047】
また、
図3に示すように、下枠7には、中空断面である外側ボックス部71の上面に断面欠損である円形の孔71aが形成され、外側ボックス部71の下面に断面欠損である円形の孔71bが形成されている。これらの孔71aと孔71bは、平面上同位置に設けられた同径の孔であり、外側ボックス部71を上下に貫通する貫通孔となっている。
【0048】
但し、これらの孔71aと孔71bは、部材を貫通する孔に限られず断面欠損であればよい。ここで、断面欠損とは、下枠7に形成された凹みや薄肉部や切欠きなど、強度的弱点部を設けることを指し、部分的に低い応力で降伏する強度の低い合金等を接合することを含むものである。
【0049】
しかし、後で詳述するように、本発明では、衝撃エネルギーを吸収する際に、下枠7を弓状又は、くの字状に中央部が外側に突出して湾曲させ、遮音板2の外側の部分が曲げ応力の引張力で断裂して塑性変形するように誘導する。このため、本実施形態に係る遮音パネル1では、曲げ応力の引張力が作用する外側ボックス部71の外側に断面欠損を設けることが好ましい。
【0050】
また、枠体3を水平に貫通する孔を設けると、遮音パネル1の遮音機能を損なうおそれがある。しかし、本実施形態に係る遮音パネル1では、下枠7に設ける断面欠損は、外側ボックス部71を上下に貫通する貫通孔となっており、道路側からの騒音が枠内にそもそも直接侵入しない。このため、遮音パネル1は、断面欠損部の孔71a,71bから騒音が漏れるおそれがなくなる。
【0051】
((縦枠))
次に、
図4を用いて、横枠4の詳細な断面形状について説明する。
図4は、遮音パネル1の縦枠5を示す水平断面図である。縦枠5は、
図1,
図2に示すように、上下方向を長手とする条材であり、
図4に示すように、縦枠本体50と、この縦枠本体50に装着された押縁材51と、を備えている。この押縁材51は、前述の押縁材61と同様の上下方向を長手とする一辺が開放された断面コの字状の条材である。また、押縁材61の外側壁には、前述のガスケットG1が接着されている。
【0052】
縦枠本体50は、全体として水平断面の外形が矩形状の枠材であり、枠断面の外側に位置する矩形枠状の外側ボックス部52と、この外側ボックス部52の内側と隣接し、遮音板2を取り付ける取付溝となる取付溝部53を有している。また、取付溝部53の内端は、縦枠本体50の左右端まで延びる内側壁54となっており、外側ボックス部52の外側壁は、縦枠本体50の左右端まで延びる突出壁55となっている。
【0053】
外側ボックス部52には、
図4に示すように、3つのビスホール52aが形成されている。このビスホール52aは、ビスで上下一対の横枠4から縦枠5にビス止めするためのものである。つまり、遮音パネル1では、横枠4からビスが打ち込まれて縦枠5と横枠4とが連結されている。このため、遮音パネル1によれば、横枠4(下枠7,上枠6)がビスを中心に縦枠5に対して回転し易くなり、横枠4を弓なりに中央部が外側に突出して湾曲変形させるように誘導することができる。
【0054】
また、内側壁54と突出壁55との間となる外側ボックス部52の左右の側壁には、丸環M1がボルト止めされている。この丸環M1は、落下防止ワイヤーを挿通し、遮音パネル1が脱落しないように支柱と連結するためのものである。
【0055】
なお、内側壁54の内側端部には、プロロプレンゴムなどのゴム弾性体からなる縦枠シール材G2が接着されている。この縦枠シール材G2は、支柱と遮音パネル1との密着性を高めるための部材である。
【0056】
<パネル枠の衝撃エネルギー吸収及び板材脱落防止メカニズム>
次に、
図5~
図7を用いて、本発明の本質的部分であるパネル枠の衝撃エネルギー吸収及び板材脱落防止メカニズムについて、パネル枠として前述の遮音パネル1を例示して詳細に説明する。
図5は、本発明のパネル枠の衝撃エネルギー吸収及び板材脱落防止メカニズムの基本的な考え方を説明する説明図であり、(a)が衝撃力が遮音パネル1に作用する前の状態を示す図、(b)が遮音パネル1の衝撃エネルギー吸収時の状態を示す図、(c)が衝撃エネルギー吸収時の遮音板2のみの変形を示す図である。
【0057】
図5に示すように、本発明では、構造設計時の風荷重を超える、車両からの積荷が衝突するなどの衝撃力がパネル枠である遮音パネル1に作用する際には、枠体3の上下一対の横枠4のうちいずれか一方又は両方を塑性変形させることで衝撃エネルギーを吸収させて、板材である遮音板2の破壊や枠体3からの離脱を防ぐというものである。
【0058】
この発想は、特許文献1のパネル取付構造や特許文献2の遮音壁のパネル構造のように、樹脂板の四辺のうち上辺のみを固定し、暖簾状に上辺を除く三辺をフリーにして衝撃エネルギーを逃がすという着想とは明らかに相違する。
【0059】
板材(遮音板2)の四辺をリベット等で機械的に完全に固定すると、板材(遮音板2)の変形可能な範囲が狭くなるだけでなく、衝撃エネルギーを板材(遮音板2)の弾性変形だけで吸収することとなり、吸収しきれずに破損してしまうおそれが高い。
【0060】
これに対して、暖簾状に上辺固定のみで三辺をフリーにすると、前述の車両からの積荷や飛来物などの加撃体がフリーとなって開放された箇所から外部へ落下するおそれがあるという問題等の前述の諸問題が発生する。
【0061】
そこで、本発明では、
図5(c)に示すように、板材(遮音板2)へ衝撃力が作用する際、板材(遮音板2)が湾曲しようとする方向に対し、板材(遮音板2)を固定する上下一対の横枠も一緒に塑性変形させる。横枠は上下の一方でも両方でも良い。左右一対の縦枠5は、支柱へ固定される面を有するため、板材(遮音板2)の変形に追随できないため、塑性変形させないことが好ましいと言える。
【0062】
但し、前述のように、遮音パネル1が、遮音壁の最上段に設置される場合は、上枠6が弓なりに塑性変形する際に、上枠6が上方にも変形し、その結果、遮音板2が上枠6から抜け落ちることも予想される。一方下枠7は、地覆もしくはパネル積層時には下枠パネルの上枠などに接しており、下方に変更することがなく、板材(遮音板2)の変形に追随しやすい。よって、下枠7が弓なりに塑性変形するように誘導することが好ましいと言える。
【0063】
このため、前述のように、遮音パネル1では、下枠7に、湾曲して曲がる際の引張側となる位置に、断面欠損部(孔71a,71b)を設けて弓なりに塑性変形するように誘導する。つまり、下枠7の曲げ剛性(EI)は、上枠6の曲げ剛性(EI)より低くなる断面形状としている。このため、遮音パネル1では、遮音パネル1が遮音壁の最上段に設置された場合でも板材(遮音板2)が衝撃力で上方へ抜け出すおそれを低減することができるだけでなく、加撃体が遮音パネル1で跳ね返って外部へ飛び出るおそれも低減することができる。
【0064】
また、特許文献1のパネル取付構造や特許文献2の遮音壁のパネル構造では、樹脂板に孔をあけ、固定する上辺をボルト等で機械的に完全に固定している。しかし、本発明の実施形態に係る遮音パネル1では、取付溝65,74,53へ遮音板2を差し込むだけの緩やかな固定としている。このため、遮音板2の弾性変形の許容度が高くなり、遮音板2が割れるなど破損するおそれを低減することができる。また、樹脂板である遮音板2に孔をあけない分、孔に応力が集中し、そこから亀裂が入るおそれも低減でき、その点でも遮音板2が割れるなど破損するおそれを低減することができる。
【0065】
但し、取付溝65,74,53へ遮音板2を差し込むだけでは、枠体3の横枠4(下枠7)が塑性変形している最中に遮音板2が脱落するおそれがある。本発明では、この板材(遮音板2)脱落防止対策として、前述のように、幅d2>距離d1(
図3参照)とし、取付溝65,74,53の位置を、枠体3(下枠7)の中心軸に対して内側に偏心配置している。
【0066】
また、塑性変形させる下枠7の遮音板2の外側となる位置に、断面性能(断面二次モーメントや断面係数)の高い中空断面であるボックス形状の外側ボックス部71を設けた構成としている。このため、遮音板2が変形しても、断面性能の高い中空断面の外側ボックス部71で遮音板2が掛け止められ、取付溝74から遮音板2が外れにくい構成となっている。
【0067】
その一方で、外側ボックス部71の外側には、断面欠損を設けた構成としている。このため、下枠7は、衝撃エネルギーを吸収する際に、弓状又は、くの字状に中央部が外側に突出して湾曲し、板材(遮音板2)の外側の部分が曲げ応力の引張力で断裂して塑性変形するように誘導される(
図5(b)参照)。
【0068】
また、遮音パネル1では、前述のように、縦枠5にビスホール52aを設け、横枠4からビスを打ち込んで縦枠5と横枠4とを連結している、このため、横枠4である下枠7がビスを中心に縦枠5に対して回転し易くなり、この点でも下枠7を湾曲変形するように誘導することができる。
【0069】
それに加え、遮音パネル1では、前述のように、枠体3の各枠材の降伏応力を、縦枠5をJIS 6005C(6N01)T5のアルミニウム合金とし、上枠6をJIS 6063 T5のアルミニウム合金とし、下枠7をJIS 6063 T1のアルミニウム合金としている。つまり、枠材の機械的性質(引張強さ、耐力、伸び)が、縦枠5>上枠6>下枠7となるようにしている。このため、風荷重に対抗し得る曲げ剛性(EI:ヤング率×断面二次モーメント)を確保しつつ、衝撃力が作用した際の塑性変形を大きくしてエネルギー吸収率を上げることができる。
【0070】
また、前述のように、本実施形態に係る遮音パネル1では、下枠本体70(横枠本体)と押縁材61とを別体として構成しているが、
図6に示すように、下枠本体70と押縁材61を一体に構成しても構わない。但し、外側ボックス部71と比べて曲げ剛性(EI)を低くするため、遮音板2の内側を支持する取付溝74の内側壁が取付溝74を形成する底面(下部72)と接続されないようにする。即ち、取付溝74の内側壁の一端をボックス形状とならないように自由端(キャンチレバー:cantilever)とする。
図6は、下枠の変形例を示す鉛直断面図である。
【0071】
なお、遮音パネル1では、断面欠損として遮音パネル1の中心の下枠7の長手方向の中央に孔71a,71bを設けたものを例示した。しかし、
図7に示すように、断面欠損部(孔71a)は、下枠7の長手方向を左右方向として左右対称に、前述の外側ボックス部71の上面の外側に複数設けても構わない。断面欠損部(孔71a)を複数設けることで、曲げ応力の引張力で断面欠損部が引き千切れ易くなり、下枠7を弓なりに塑性変形するようによりスムーズに誘導することができる。
図7は、断面欠損部の変形例として複数の孔71aを左右対称に設けた遮音パネル1’を示す斜視図である。
【0072】
また、断面欠損部(孔71a)を左右対称とすることで、下枠7をなだらかに湾曲変形させることができ、遮音板2を取付溝74内に確実に保持しつつ、より衝撃力のエネルギーを吸収することが可能となる。
【0073】
以上説明した、本実施形態に係る遮音パネル1によれば、安価で簡単な構成により、枠体3の各枠材が設計荷重としての風荷重に耐え得る断面性能を有するとともに、衝撃荷重が作用した際に上枠6及び下枠7のいずれか又は両方が塑性変形して衝撃荷重を逃がすことができるので、衝撃力が遮音パネル1に作用した場合でも遮音板2の破損を防ぐことができる。
【0074】
また、遮音パネル1によれば、衝撃力が作用した場合でも遮音板2が枠体3(取付溝65,74,53)に装着された状態を保ち、遮音板2が枠体3から外れて中吊り状態とならないので、遮音板2が外れて開放されたスペースから加撃体が外部へ落下するおそれを低減することができる。
【0075】
それに加え、遮音パネル1によれば、遮音板2が枠体3から外れて中吊り状態とならないので、構造上安定した状態であり、変形した遮音パネル1を交換するまでの間も安全である。
【0076】
また、遮音パネル1によれば、下枠7の曲げ剛性が上枠6の曲げ剛性より低く、下枠7の断面形状を曲げ応力の引張力で断裂し易い形状としたので、下枠7が弓なりに中央が外側に突出して湾曲して塑性変形するように誘導することができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態に係る遮音パネル1について詳細に説明した。しかし、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎず、例示した実施形態によって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0078】
1,1’:遮音パネル(パネル枠)
2:遮音板(板材)
3:枠体
4:横枠
5:縦枠
50:縦枠本体
51:押縁材
52:外側ボックス部
52a:ビスホール
53:取付溝部(取付溝)
54:内側壁
55:突出壁
6:上枠(横枠)
60:上枠本体(横枠本体)
61:押縁
61a:支持辺部
61b:連絡辺部
61c:縦辺部
61d:リベット用孔
62:外側ボックス部
63:上部ボックス部
64:内側壁
65:取付溝
7:下枠(横枠)
70:下枠本体(横枠本体)
71:外側ボックス部
71a,71b:孔(断面欠損部)
72:下部
73:内側壁
74:取付溝
G1:ガスケット
G2:縦枠シール材
M1:丸環
r1:リベット