IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ハイレックスコーポレーションの特許一覧 ▶ 日本グリース株式会社の特許一覧

特許7601682コントロールケーブル用グリース組成物およびコントロールケーブル
<>
  • 特許-コントロールケーブル用グリース組成物およびコントロールケーブル 図1
  • 特許-コントロールケーブル用グリース組成物およびコントロールケーブル 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】コントロールケーブル用グリース組成物およびコントロールケーブル
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/00 20060101AFI20241210BHJP
   C10M 117/00 20060101ALI20241210BHJP
   C10M 107/50 20060101ALI20241210BHJP
   C10M 125/22 20060101ALI20241210BHJP
   C10M 147/02 20060101ALI20241210BHJP
   F16C 1/24 20060101ALI20241210BHJP
   F16C 1/10 20060101ALI20241210BHJP
   C10M 155/02 20060101ALI20241210BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20241210BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20241210BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20241210BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20241210BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20241210BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20241210BHJP
   C10N 20/06 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
C10M169/00
C10M117/00
C10M107/50
C10M125/22
C10M147/02
F16C1/24
F16C1/10 Z
C10M155/02
C10N10:02
C10N20:02
C10N30:06
C10N40:02
C10N10:12
C10N50:10
C10N20:06 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021060428
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022156630
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】000228486
【氏名又は名称】日本グリース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕太
(72)【発明者】
【氏名】大野 加奈子
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-242889(JP,A)
【文献】特開2012-255094(JP,A)
【文献】特開2018-090732(JP,A)
【文献】特開2006-335102(JP,A)
【文献】特開2013-112711(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0137612(US,A1)
【文献】特表2017-506694(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0073612(US,A1)
【文献】特開平11-217578(JP,A)
【文献】米国特許第06010984(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0066990(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン基油、アミノ変性シリコーン、増ちょう剤、二硫化タングステンを含む層状構造の化合物粉末、およびポリテトラフルオロエチレン粉末を含有するコントロールケーブル用グリース組成物であって、
二硫化タングステンの含有量が0.1~5.0質量%であるグリース組成物。
【請求項2】
前記シリコーン基油100質量部に対する前記層状構造の化合物粉末および前記ポリテトラフルオロエチレン粉末の合計含有量が5~30質量部である、請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記シリコーン基油100質量部に対する前記アミノ変性シリコーンの含有量が1.0~13質量部である、請求項1または2記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記二硫化タングステンの体積平均粒子径が9.0μm未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記シリコーン基油の25℃における動粘度が50~2000mm2/sである、請求項1~4のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項6】
前記アミノ変性シリコーンが、側鎖がアミノ基で変性されたシリコーンである、請求項1~5のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項7】
前記層状構造の化合物粉末が前記二硫化タングステンのみからなる、請求項1~6のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項8】
前記増ちょう剤がリチウム石けん系増ちょう剤である、請求項1~7のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項9】
前記シリコーン基油の含有量が50~89質量%である、請求項1~8のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項10】
前記増ちょう剤の含有量が5~44質量%である、請求項1~9のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のグリース組成物がインナーケーブルの外周面およびアウターケーシングの内周面に塗布されたコントロールケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コントロールケーブル用グリース組成物およびコントロールケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
コントロールケーブルは、ユーザの手元での操作による力または動きをユーザの手元から遠く離れた場所へ伝達させるものであり、インナーケーブルがアウターケーシングに摺動可能に挿通されて構成されている(特許文献1~3等)。例えばコントロールケーブルを介して自動車の変速レバーの動きを変速機へ伝達させる場合、ユーザが変速レバーを操作すると、インナーケーブルが押し引きされ、これにより、ユーザによる操作力が変速機へ伝達される。
【0003】
このようなコントロールケーブルでは、インナーケーブルの外周面またはアウターケーシングの内周面にグリースが塗布されていることが多い。これにより、インナーケーブルがアウターケーシングの内周面を摺動する際に生じる抵抗(摺動抵抗)の低減が図られ、よって、荷重効率の低下が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-71434号公報
【文献】特開2000-314416号公報
【文献】特開2007-321989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のグリースでは、インナーケーブルがアウターケーシングの内周面を摺動する回数(以下では「耐久数」と記すことがある)の増加につれてその潤滑性能の低下を招くことがあり、よって、コントロールケーブルの荷重効率の低下を引き起こすおそれがある。より詳しくは、アウターケーシングの内周面がインナーケーブルの外周面との摺動によって剥離し、摩耗粉が発生することによりグリースの潤滑性能を低下させる。そして、グリースの潤滑性能が低下することにより摩耗粉が増加し、グリースの潤滑性能の低下が加速され、コントロールケーブルの荷重効率を低下させてしまうおそれがある。
【0006】
これを改善するためには、例えば、耐久数が増加してもインナーケーブルの外周面またはアウターケーシングの内周面が十分に摩耗を抑制でき、その維持に優れるグリースとすることが考えられる。
【0007】
また、グリースには、長期に渡り安定した低トルク性を与えるための耐スティックスリップ性も要求される。スティックスリップは、摩擦面間に生ずる微視的な摩擦面の付着、滑りの繰り返しによって引き起こされる振動現象であり、摩擦係数が滑り速度の増加とともに低下する場合や、静摩擦から動摩擦に移るときの不連続な摩擦低下が生ずる場合などに発生する。
【0008】
本発明は、インナーケーブルの外周面またはアウターケーシングの内周面等に塗布することによって、スティックスリップおよび長期使用時における摩耗を顕著に抑制できるコントロールケーブル用グリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、シリコーン基油、アミノ変性シリコーン、増ちょう剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末、および所定量の二硫化タングステンを含有するグリース組成物が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、
〔1〕シリコーン基油、アミノ変性シリコーン、増ちょう剤、二硫化タングステンを含む層状構造の化合物粉末、およびポリテトラフルオロエチレン粉末を含有するコントロールケーブル用グリース組成物であって、二硫化タングステンの含有量が0.1~5.0質量%であるグリース組成物、
〔2〕前記シリコーン基油100質量部に対する前記層状構造の化合物粉末および前記ポリテトラフルオロエチレン粉末の合計含有量が5~30質量部である、上記〔1〕記載のグリース組成物、
〔3〕前記シリコーン基油100質量部に対する前記アミノ変性シリコーンの含有量が1.0~13質量部である、上記〔1〕または〔2〕記載のグリース組成物、
〔4〕前記二硫化タングステンの体積平均粒子径が9.0μm未満である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のグリース組成物、
〔5〕前記シリコーン基油の25℃における動粘度が50~2000mm2/sである、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のグリース組成物、
〔6〕前記アミノ変性シリコーンが、側鎖がアミノ基で変性されたシリコーンである、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のグリース組成物、
〔7〕前記層状構造の化合物粉末が前記二硫化タングステンのみからなる、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のグリース組成物、
〔8〕前記増ちょう剤がリチウム石けん系増ちょう剤である、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のグリース組成物、
〔9〕前記シリコーン基油の含有量が50~89質量%である、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のグリース組成物、
〔10〕前記増ちょう剤の含有量が5~44質量%である、上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のグリース組成物、
〔11〕上記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のグリース組成物がインナーケーブルの外周面およびアウターケーシングの内周面に塗布されたコントロールケーブル、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スティックスリップおよび長期使用時における摩耗を顕著に抑制できるコントロールケーブル用グリース組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るコントロールケーブルの横断面図である。
図2】耐久試験に使用する装置の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係るグリース組成物の製造方法を含むコントロールケーブルの製造方法について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本実施形態を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0014】
<グリース組成物>
本実施形態に係るグリース組成物は、シリコーン基油、アミノ変性シリコーン、増ちょう剤、二硫化タングステンを含む層状構造の化合物粉末、およびポリテトラフルオロエチレン粉末を必須の成分として含有する。本実施形態に係るグリース組成物に含有される上記各成分の含有量は、それぞれ、グリース組成物中の合計の含有量が100質量%以下となるように、記載の範囲内から適宜選択することができる。
【0015】
(シリコーン基油)
シリコーン基油としては、例えば、ジメチルポリシロキサン(ジメチコン)、高重合メチルポリシロキサン等のジメチルシリコーン油;メチルフェニルポリシロキサン等のメチルフェニルシリコーン油;メチルシクロポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等の環状シリコーン油;ポリエーテル変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、脂肪酸変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、脂肪族アルコール変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、アルキル変性シリコーン等の変性シリコーン;メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチコノール等が挙げられる。これらのシリコーン基油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、シリコーン基油に、後述するアミノ変性シリコーンは含まれないものとする。
【0016】
シリコーン基油の25℃における動粘度は、50~2000mm2/sが好ましく、100~1500mm2/sがより好ましく、200~1000mm2/sがさらに好ましい。動粘度が50mm2/s以上とすることにより、25℃におけるシリコーン基油のインナーケーブルの外周面上またはアウターケーシングの内周面上において十分に油膜が形成される。このことから、インナーケーブルの外周面またはアウターケーシングの内周面の摩耗を抑制し、その結果、荷重効率が低下することを防止することができる。一方、動粘度が2000mm2/s以下とすることで、インナーケーブルの外周面とアウターケーシングの内周面との間へのグリース組成物の入り込み量が少なくなり、摺動抵抗が大きくなることを防止することができる。なお、本明細書における基油の動粘度は、JIS K 2283:2000に準拠し、ガラス製毛管式粘度計を用い、25℃にて測定された値である。
【0017】
グリース組成物におけるシリコーン基油の含有量は、グリース組成物の硬化および過度な離油を防止し、コントロールケーブルの耐久性を担保する観点から、50~89質量%が好ましく、60~85質量%がより好ましい。
【0018】
(アミノ変性シリコーン)
本実施形態に係るグリース組成物は、アミノ変性シリコーンを必須の成分として含有する。アミノ変性シリコーンを配合することで、グリース組成物の耐スティックスリップ性を顕著に向上させることができる。
【0019】
アミノ変性シリコーンとしては、末端がアルキルアミノ基で変性されたシリコーン、側鎖がアルキルアミノ基で変性されたシリコーン等が挙げられ、側鎖がアルキルアミノ基で変性されたシリコーンが好ましい。
【0020】
シリコーン基油100質量部に対するアミノ変性シリコーンの含有量は、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましく、2.5質量部以上がさらに好ましく、3.0質量部以上が特に好ましい。アミノ変性シリコーンの含有量が1.0質量部以上とすることにより、充分な耐スティックスリップ性能が得られる傾向がある。一方、シリコーン基油100質量部に対するアミノ変性シリコーンの含有量は、13質量部以下が好ましく、12質量部以下がより好ましく、11質量部以下がさらに好ましく、10質量部以下がさらに好ましく、9.0質量部以下が特に好ましい。アミノ変性シリコーン基油の含有量が13質量部超の場合、グリースの経時硬化や樹脂に対する影響が懸念される。
【0021】
なお、本実施形態に係るグリース組成物は、シリコーン基油およびアミノ変性シリコーン以外の基油を含有していてもよく、含有していていなくてもよい。グリース組成物におけるシリコーン基油およびアミノ変性シリコーン以外の基油の含有量は、5.0質量%未満が好ましく、1.0質量%未満がより好ましく、0.1質量%未満がさらに好ましい。
【0022】
(増ちょう剤)
増ちょう剤は、グリースの増ちょう剤として通常使用される材料であれば特に限定されない。増ちょう剤の具体的としては、例えば、金属石けん系増ちょう剤、複合体金属石けん系増ちょう剤、ウレア系化合物等が挙げられ、リチウム石けん系増ちょう剤が好ましい。
【0023】
リチウム石けん系増ちょう剤(リチウム石けん)としては特に限定されないが、炭素数10~28の高級脂肪酸のリチウム塩、1個以上の水酸基を有する炭素数10~28の高級ヒドロキシ脂肪酸のリチウム塩、またはそれらの混合物等が挙げられる。前記高級脂肪酸としては、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、アラキジン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、オレイン酸、アラキドン酸、ベヘン酸等が例示されるが、ちょう度収率(グリースが硬くなる度合い)がよい点から、ステアリン酸が好ましい。前記高級ヒドロキシ脂肪酸としては、12-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシラウリン酸、16-ヒドロキシパルミチン酸等が例示されるが、入手しやすく、安価である点から、12-ヒドロキシステアリン酸が好ましい。
【0024】
リチウム石けんの具体例としては、例えば、ラウリン酸リチウム、ステアリン酸リチウム、12-ヒドロキシステアリン酸リチウム、およびそれらの混合物等が例示される。
【0025】
グリース組成物における増ちょう剤の含有量は、5~44質量%が好ましく、7~40質量%がより好ましく、9~35質量%がさらに好ましく、11~30質量%が特に好ましい。増ちょう剤の含有量を5質量%以上とすることにより、インナーケーブルの摺動時に生じる摩擦力が高くなり、荷重効率が低下することを防止することができる。一方、増ちょう剤の含有量を44質量以下とすることにより、グリース組成物の寿命を担保することができる。
【0026】
(層状構造の化合物粉末)
層状構造の化合物粉末は、層状の結晶構造を有する化合物の粉末であり、例えば、二硫化タングステン、二硫化モリブデン、黒鉛、フッ化黒鉛、雲母、MCA(Melamine Cyanurate Acid)、窒化ホウ素、遷移金属ジカルコゲナイド等のインカレーション化合物の粉末である。本実施形態に係る層状構造の化合物粉末は、二硫化タングステンを必須の成分と含有し、前記の二硫化タングステン以外の層状構造の化合物粉末を含有していてもよいが、層状構造の化合物粉末が二硫化タングステンのみからなることが好ましい。
【0027】
グリース組成物における層状構造の化合物粉末の含有量は、摩耗の抑制効果の観点から、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。また、グリース組成物における層状構造の化合物粉末の含有量は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0028】
グリース組成物における二硫化タングステンの含有量は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましく、1.8質量%以上が特に好ましい。また、該含有量は、5.0質量%以下が好ましく、4.5質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下がさらに好ましく、3.5質量%以下がさらに好ましく、3.2質量%以下が特に好ましい。二硫化タングステンの含有量を前記の範囲とすることにより、ケーブル耐久試験の荷重効率、無負荷摺動抵抗において優れた効果を発揮する。また、二硫化タングステンの含有量を5.0質量%以下とすることにより、グリース組成物の硬化および過度な離油を防止し、コントロールケーブルの耐久性を担保することができる。
【0029】
層状構造の化合物粉末中の二硫化タングステンの割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0030】
二硫化タングステンの体積平均粒子径は、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.3μm以上がさらに好ましく、0.4μm以上がさらに好ましく、0.5μm以上が特に好ましい。また、二硫化タングステンの体積平均粒子径は、9.0μm未満が好ましく、8.0μm以下がより好ましく、7.0μm以下がさらに好ましく、5.0μm以下がさらに好ましく、3.0μm以下がさらに好ましく、2.0μm以下がさらに好ましく、1.5μm以下が特に好ましい。二硫化タングステンの体積平均粒子径を前記の範囲とすることにより、インナーケーブルの外周面またはアウターケーシングの内周面の摩耗の抑制効果をより向上させることができる。なお、本明細書における体積平均粒子径は、レーザー回折散乱法にしたがって測定された値である。
【0031】
(ポリテトラフルオロエチレン粉末)
二硫化タングステンを配合することにより、グリース組成物に優れた耐摩耗性や低摩擦特性を付与できるが、二硫化タングステンの比重が基油よりも高いことから、離油を促進しやすい性質があると考えられる。そうすると、離油により潤滑特性が向上する反面、離油度が大きすぎると油膜切れを起こしやすく、また飛散による摺動部周辺の汚染等が懸念される。そこでPTFEを併用することで、摩耗の抑制効果や低摩擦特性が向上するのみならず、離油度の安定性が保たれ、長期的に適度に離油することが可能となり、その結果、(ケーブル耐久試験において)長寿命化につながると考えられる。なお、適度な離油とは、例えば、JIS K 2220 11に準拠し、100℃で1000hにおいて、好ましくは1.0~30質量%、より好ましくは1.5~25質量%、さらに好ましくは2.0~20質量%の離油度を有する場合が挙げられる。
【0032】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、全体として帯状構造を持っており、その帯は、板状結晶部分と非晶質部分とがサンドイッチ状に交互に配置されてなるバンド構造を有している。
【0033】
グリース組成物におけるPTFE粉末の含有量は、離油度および摩耗の抑制効果の観点から、4.9質量%以上が好ましく、5.5質量%以上がより好ましく、6.0質量%以上がさらに好ましく、6.5質量%以上がさらに好ましく、7.0質量%以上がさらに好ましく、7.5質量%以上が特に好ましい。また、グリース組成物におけるPTFE粉末の含有量は、29質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下が特に好ましい。
【0034】
PTFE粉末の体積平均粒子径は、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1.0μm以上がさらに好ましく、1.5μm以上が特に好ましい。また、PTFEの体積平均粒子径は、25μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましく、7.0μm以下が特に好ましい。PTFEの体積平均粒子径を前記の範囲とすることにより、インナーケーブルの外周面またはアウターケーシングの内周面の摩耗の抑制効果をより向上させることができる。なお、本明細書における体積平均粒子径は、レーザー回析散乱法にしたがって測定された値である。
【0035】
シリコーン基油100質量部に対する層状構造の化合物粉末とPTFE粉末の合計含有量は、5~30質量部が好ましく、7~25質量部がより好ましく、9~22質量部がさらに好ましく、11~19質量部が特に好ましい。該合計含有量を5質量部以上とすることにより、摩耗の抑制および低摩擦を実現することができる。一方、該合計含有量を30質量部以下とすることにより、適切なちょう度を得ることができ、グリース組成物の過度な離油を防止し、コントロールケーブルの耐久性を担保することができる。
【0036】
層状構造の化合物粉末とPTFE粉末の合計含有量に対する層状構造の化合物粉末の含有量は、摩耗の抑制効果の観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、18質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が特に好ましい。また、層状構造の化合物粉末とPTFE粉末の合計含有量に対する層状構造の化合物粉末の含有量は、摩耗の抑制効果の観点から、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましく、40質量%以下が特に好ましい。
【0037】
(その他の添加剤)
本実施形態に係るグリース組成物は、さらに下記に列挙する添加剤のうちの1種以上を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、またはアルカリ土類金属サリシレート等の金属系清浄剤;、アルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸イミド硼素化変性物、ベンジルアミン、またはアルキルポリアミン等の清浄分散剤;メチレンビスジチオカーバメート、ポリカルボキシレート、亜鉛系耐摩耗剤、硫黄系耐摩耗剤、リン系耐摩耗剤等の耐摩耗剤;ポリメタクリレート系、エチレンプロピレン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体の水素化物、ポリイソブチレン等の増粘剤;2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール等のアルキルフェノール類、4,4’-メチレンビス-(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)等のビスフェノール類、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェノール)プロピオネート等のフェノール系化合物、ナフチルアミン類もしくはジアルキルジフェニルアミン類等の芳香族アミン化合物等の酸化防止剤;硫化オレフィン、硫化油脂、メチルトリクロロステアレート、塩素化ナフタレン、ヨウ素化ベンジル、フルオロアルキルポリシロキサン、ナフテン酸鉛等の極圧剤;ステアリン酸等のカルボン酸、ジカルボン酸、金属石鹸、カルボン酸アミン塩、重質スルホン酸の金属塩、または多価アルコールのカルボン酸部分エステル等の防錆剤;ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール等の腐食防止剤等が挙げられる。
【0038】
本実施形態に係るグリース組成物は、公知の方法により、シリコーン基油、アミノ変性シリコーン、増ちょう剤、二硫化タングステンを含む層状構造の化合物粉末、およびポリテトラフルオロエチレン粉末をそれぞれ所定量混合し、必要に応じて上記添加剤の少なくとも一種を添加することにより、製造される。
【0039】
<コントロールケーブル>
本実施形態に係るコントロールケーブルは、図1に示されるように、インナーケーブルがアウターケーシングに挿通され、かつ、本実施形態に係るグリース組成物がインナーケーブルの外周面およびアウターケーシングの内周面に塗布されて構成されたものである。インナーケーブルの外周面は樹脂または金属で構成されており、アウターケーシングの内周面は樹脂で構成されている。
【0040】
インナーケーブルの外周面およびアウターケーシングの内周面の単位面積当たりのグリース組成物の塗布量は、摩耗の抑制効果と潤滑性能のバランスの観点から、例えば、30.0~200.0g/m2、35.0~150.0g/m2、40.0~100.0g/m2とすることができる。
【0041】
ここで、グリース組成物の塗布量の基準となる上記「インナーケーブルの外周面」について記す。インナーケーブルがシャフトとストランドとの2層で構成される場合(後述の図1に示す場合)、上記「インナーケーブルの外周面」は、インナーケーブルの径方向において最も外側に位置するストランド側線27に接する仮想的な周面となる。図1に示されるように、インナーケーブル20の径方向外側に、クリアランス41を設けた場合は、上記「インナーケーブルの外周面」は、クリアランス41の外周面となる。
【0042】
本実施形態では、インナーケーブルおよびアウターケーシングの各構成に限定されない。以下では、インナーケーブルおよびアウターケーシングの各構成の概略を示す。
【0043】
インナーケーブルは、シャフトとストランドとの2層からなってもよいし、シャフトとストランドとコート層との3層からなってもよい。ストランドは、図1が示す通りストランド芯線25およびストランド側線27からなる。シャフトは、適度な剛性を有しつつ靭性を有する材料からなることが好ましく、例えば炭素鋼線材または炭素繊維である。ストランドは、シャフトの外周面上に配置されて所定の方向に撚られており、シャフトと同じく適度な剛性を有しつつ靭性を有する材料からなってもよい。コート層は、ストランド
を覆っており、シャフトと同じく適度な剛性を有する材料からなってもよいし、PA(polyamide)66等の樹脂からなってもよい。
【0044】
アウターケーシングは、インナーケーブルが挿通されるライナーと、シールドと、コート層との3層からなることが好ましい。ライナーは、樹脂からなれば良く、好ましくはPTFE樹脂からなることである。これにより、インナーケーブルとの摺動性能が向上するという効果が得られる。シールドは、ライナーの外周面上に配置されて所定の方向に撚られており、インナーケーブルのシャフトと同じく適度な剛性を有しつつ靭性を有する材料からなればよい。コート層は、シールドを覆っており、PP(polypropylene)樹脂またはポリエステルエラストマー(以下では「TPC」と記す)等の樹脂からなればよい。
【実施例
【0045】
以下、実施例によって本実施形態をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
本実施例では、以下の原料を使用した。
シリコーン基油:ジメチルポリシロキサン
アミノ変性シリコーン:ダウ・東レ(株)製のDOWSIL CF 1029(側鎖がアルキルアミノ基で変性されたシリコーン)
増ちょう剤:堺化学工業(株)製のS7000(ステアリン酸リチウム)
二硫化タングステン1:粉末、体積平均粒子径0.6μm
二硫化タングステン2:粉末、体積平均粒子径7.0μm
窒化ホウ素:粉末、体積平均粒子径1.5μm
PTFE:粉末、体積平均粒子径4.0μm
【0047】
<グリース組成物の作製>
表1に記載の処方に従い、各種原料を十分に攪拌させてリチウム石けんを分散させ、ミル処理を行なうことにより、リチウム石けんがシリコーン基油中に分散された各試験用グリース組成物を得た。
【0048】
<コントロールケーブルの作製>
得られたグリース組成物を用いて、図1に示すコントロールケーブル10を作製した。図1は、コントロールケーブル10の横断面を模式的に示す図である。
【0049】
具体的には、コントロールケーブル10を構成するインナーケーブル20およびアウターケーシング30を用意した。インナーケーブル20は、シャフト21と、9本のストランド23とからなり、ストランド23がシャフト21の外周面上に配置されてS方向に撚られて構成されている。各ストランド23は、ストランド芯線25と6本のストランド側線27とからなり、ストランド側線27がストランド芯線25の外周面上に配置されてZ方向に撚られて構成されている。さらに、インナーケーブル20の径方向外側に、クリアランス41を設けた。
【0050】
シャフト21は、JIS G 3506のSWRH72Aで規定される炭素鋼線材にオイルテンパー処理が施された線材からなる。ストランド芯線25およびストランド側線27は、それぞれ、JIS G 3506のSWRH62Aで規定される炭素鋼線材に亜鉛メッキを施した後に伸線加工が施された線材からなる。
【0051】
インナーケーブル20の外径は2.92mmであり、シャフト21の外径は1.6mmであり、ストランド芯線25の外径は0.265mmであり、ストランド側線27の外径は0.24mmである。
【0052】
また、アウターケーシング30は、インナーケーブル20が挿通されるライナー31と、20本のシールド33と、コート層35とで構成されている。シールド33は、ライナー31の外周面上に配置されてZ方向に撚られており、コート層35で覆われている。
【0053】
ライナー31は、PTFE樹脂(日星電気(株)製の製品名「ハイフロン」)からなり、シールド33は、JIS G 3506のSWRH62Aで規定される炭素鋼線材に亜鉛メッキが施された線材からなり、コート層35は、PP樹脂(三菱ケミカル(株)製の製品名「ゼラス」)からなる。
【0054】
アウターケーシング30の外径は8.2mmであり、ライナー31の内径は3.2mmであり、ライナー31の外径は4.5mmであり、シールド33の外径は0.8mmである。
【0055】
そして、得られた各試験用グリース組成物を、単位面積当たりの塗布量が50.0g/m2となるようにクリアランス41の外周面およびアウターケーシング30の内周面に塗布し、インナーケーブル20をアウターケーシング30のライナー31に挿通して、コントロールケーブル10を得た。
【0056】
<耐久試験>
得られたコントロールケーブル10に対して耐久試験を行なった。図2は、耐久試験に使用する装置の概略平面図である。
【0057】
具体的には、コントロールケーブル10を表2中の「配索」に記載の形状に配索させて恒温槽91内に入れた。そののち、インナーケーブル20の一端にバネ95を接続して試験荷重Wを与え、インナーケーブル20の他端を押引力測定器93によって速度30cpm(cycle/min)、ストローク長30mmで往復させ、操作荷重F(引張力)を測定した。そして、(荷重効率(%))={(試験荷重W)/(操作荷重F)}×100により、往復回数(耐久数)毎の荷重効率を算出した。この試験を、恒温槽91の温度を130℃および25℃に変更して行ない、下記の評価基準に従い評価した。荷重効率が高いほどインナーケーブルの外周面およびアウターケーシングの内周面の摩耗が抑制されていることを示す。
(初期の荷重効率)
A:91%以上
B:91%未満
(100万回後の荷重効率)
A:88%以上
B:88%未満
【0058】
<スティックスリップ試験>
前記耐久試験の条件にてインナーケーブル20を100万回往復させた際のスティックスリップの有無を確認した。具体的には、インナーケーブル20の停止状態から動き出す際に必要な静摩擦係数由来の操作荷重F1、およびインナーケーブル20を一定速度で動かすために必要な動摩擦係数由来の操作荷重F2をそれぞれモニターし、F1/F2が0.005以上となることがない場合スティックスリップは発生していないものとし、スティックスリップ有りの場合を「+」、スティックスリップ無しの場合を「-」とそれぞれ表示した。
【0059】
<長期離油度試験>
JIS K 2220 11に準拠し、100℃で1000h静置した後の、各試験用グリース組成物の離油度(質量%)を測定した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
表2における注釈は以下のとおりである。
(注1)R150×180°:曲げ半径Rが150mmで総曲がり角度180度となるようにコントロールケーブル10を配索する。ここで、曲げ半径Rは図2に示す「R」である。
【0063】
表1の結果より、シリコーン基油、アミノ変性シリコーン、増ちょう剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末、および所定量の二硫化タングステンを含有する本実施形態に係るグリース組成物をインナーケーブルの外周面およびアウターケーシングの内周面に塗布したコントロールケーブルは、スティックスリップおよび長期使用時における摩耗を顕著に抑制できることがわかる。
【符号の説明】
【0064】
10 コントロールケーブル、20 インナーケーブル、21 シャフト、23 ストランド、25 ストランド芯線、27 ストランド側線、30 アウターケーシング、31 ライナー、33 シールド、35 コート層、41 クリアランス、91 恒温槽、93 押引力測定器、95 バネ
図1
図2