(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】メッシュネットワークシステム及び通信制御方法
(51)【国際特許分類】
H04W 40/00 20090101AFI20241210BHJP
H04W 92/20 20090101ALI20241210BHJP
H04W 8/26 20090101ALI20241210BHJP
H04W 84/22 20090101ALI20241210BHJP
【FI】
H04W40/00
H04W92/20 110
H04W8/26 110
H04W84/22
(21)【出願番号】P 2021155352
(22)【出願日】2021-09-24
【審査請求日】2023-09-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、総務省、「無人航空機の目視外飛行における周波数の有効利用技術の研究開発」に係わる委託業務、産業技術力強化第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達也
【審査官】鈴木 重幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-124813(JP,A)
【文献】国際公開第2005/125113(WO,A1)
【文献】特開2007-235895(JP,A)
【文献】特開2022-139408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1,4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線ネットワークを形成する無線ノードとして、移動ノードと、複数の固定ノードとを有するメッシュネットワークシステムにおいて、
前記複数の固定ノードのうちの2つ以上の固定ノードは有線ネットワークにも接続されており、
前記無線ネットワークと前記有線ネットワークの両方に接続された固定ノードは、送信元が無線ネットワーク側のパケットを有線ネットワーク側から受信した場合、又は、送信元が有線ネットワーク側のパケットを無線ネットワーク側から受信した場合に、受信したパケットを破棄
し、
更に、前記無線ネットワークと前記有線ネットワークの両方に接続された固定ノードは、有線ネットワークに接続されているネットワーク機器との間でアドレス解決を行い、アドレス解決結果を前記移動ノードに通知することを特徴とするメッシュネットワークシステム。
【請求項2】
請求項
1に記載のメッシュネットワークシステムにおいて、
前記移動ノードは、複数の固定ノードからアドレス解決結果を受信した場合に、通信コストの最も低い固定ノードを前記無線ネットワーク内の最終ノードに指定することを特徴とするメッシュネットワークシステム。
【請求項3】
無線ネットワークを形成する無線ノードとして、移動ノードと、複数の固定ノードとを有するメッシュネットワークシステムにおける通信制御方法において、
前記複数の固定ノードのうちの2つ以上の固定ノードは有線ネットワークにも接続されており、
前記無線ネットワークと前記有線ネットワークの両方に接続された固定ノードは、送信元が無線ネットワーク側のパケットを有線ネットワーク側から受信した場合、又は、送信元が有線ネットワーク側のパケットを無線ネットワーク側から受信した場合に、受信したパケットを破棄
し、
更に、前記無線ネットワークと前記有線ネットワークの両方に接続された固定ノードは、有線ネットワークに接続されているネットワーク機器との間でアドレス解決を行い、アドレス解決結果を前記移動ノードに通知することを特徴とする通信制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線と有線の両方でメッシュネットワークを構成した有線/無線メッシュネットワークシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のロボット技術の進展は実に目覚しく、様々な社会課題の解決にロボットが利用されることも多くなっている。このようなロボットの多くは、無人航空機や自律運転車両等の無人移動体である。無人移動体は、遠隔操縦や自律制御のための制御指令データや、無人移動体に搭載したカメラ等で撮影した映像データを伝送するために、通信システムを具備する必要がある。このとき、無人移動体がレール等に沿った所定の経路を移動する機械でない場合には、移動に適した無線通信が利用されることが多い。
【0003】
例えば、特許文献1には、移動基地局と端末局が、近距離通信を準備するための長距離通信機能と、データ伝送用の近距離通信機能を備え、長距離通信機能を用いた通信により、近距離通信を行うタイミングをスケジューリングする発明が開示されている。また、特許文献2には、無人飛行体を用いた中継システムにおいて、中継の通信品質、予定の中継時間、無人飛行体の電源の状態(電力供給可能量)に基づいて、無人飛行体の中継位置を探索する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/018021号
【文献】特開2019-169848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無人移動体との通信に使用され得る通信ネットワークの一つにメッシュネットワークがある。メッシュネットワークは複数のノードから構成され、隣接する通信可能なノード同士を接続することで、全体で網の目状のネットワークを形成する。特に、ノード間の接続が無線で行われる場合は無線メッシュネットワークと呼ばれ、複数のノードに渡ってバケツリレー式にデータが無線転送される。
【0006】
通常、メッシュネットワークには複数の経路が存在し、ある経路で通信不能になっても代替経路に切り替えることができるため、他のネットワークトポロジと比較して障害に強いという特徴がある。但し、複数の経路が存在するということは、ネットワークにループ状の経路が存在することも意味する。このようなネットワークにIPパケットをブロードキャストする場合、IPパケットがループ状の経路を一周してからもブロードキャストを繰り返してブロードキャストストームを引き起こすことを避けるため、一般的にスパニングツリープロトコルが適用される。
【0007】
スパニングツリープロトコルではスパニングツリーアルゴリズムを使用し、自動的に特定のノード間の通信をブロッキング状態にすることで、ループを防ぐことが可能である。また、障害が発生した際は、ブロッキング状態を解除することによって、代替経路による通信を継続することが可能である。
【0008】
しかしながら、このようなメッシュネットワークは、特定の優先度の高いノードによる集中制御で経路を決定するのではなく、全てのノードが対等な関係で経路を決定するため、集中制御方式と比較して効率が低下する。特に、高スループットや低遅延が要求されるケースでは、耐障害性の高いメッシュネットワークを採用できない恐れがある。
【0009】
耐障害性に加えて、高スループットと低遅延が要求されるユースケースとして、無人航空機(UAV;Unmanned Aerial Vehicle)の遠隔操縦に係る映像伝送を行う無線通信システムが考えられる。
図1には、そのような無線通信システムに関する従来例1の構成例を示してある。同システムは、UAVの目視外飛行において、UAVの周辺状況を撮影した映像をUAVからサーバに転送し、操縦者がリアルタイムで映像を確認できるようにするものである。
【0010】
図1に示した従来例1の無線メッシュネットワークでは、UAV本体を含む移動ノード101の飛行経路に沿って、第1固定ノード111、第2固定ノード112、第3固定ノード113、第n固定ノード114が地上に配置されている。また、サーバ121が、第1固定ノード111に有線で接続されている。なお、以降の説明では、移動ノードか固定ノードかを問わず、2台のノード間で無線通信が行われた場合を1ホップ、3台連なったノード間で無線通信が行われた場合を2ホップといったように、通信が行われたノード数から1を減算した値をホップ数と定義する。
【0011】
移動ノード101が第1固定ノード111の上空を飛行している場合は、移動ノード101と第1固定ノード111との間で1ホップの通信が行われ、サーバ121まで最短の経路でデータが転送される。次に、移動ノード101が第2固定ノード112の上空に移動し、第1固定ノード111と直接通信できなくなると、移動ノード101から第2固定ノード112を経由して第1固定ノード111まで2ホップの通信が行われる。同様にして、移動ノード101が第3固定ノード113の上空に移動すると3ホップの通信になり、第n固定ノード114の上空に移動するとnホップの通信になる。そして、ホップ数の増大に伴ってスループットが低下していき、遅延時間も増大してしまう。
【0012】
図2には、従来例2として、有線と無線によるメッシュネットワーク(以下、「有線/無線メッシュネットワーク」と称する)の構成例を示してある。
図2のシステムでは、
図1のシステムと同様に、UAV本体を含む移動ノード201の飛行経路に沿って、第1固定ノード211、第2固定ノード212、第3固定ノード213、第n固定ノード214が地上に配置され、更にサーバ221が全ての固定ノードと有線で接続されている。
【0013】
従って、一見すると移動ノード201がどの固定ノードと無線接続されていても、サーバ221との間で1ホップの通信が実現できるように見える。しかしながら、有線ネットワークと無線ネットワークとの間でループが形成されているため、いずれか1つの固定ノードとサーバ221との間でのみ有線回線での通信が許可され、残りの全ての固定ノードへの有線回線はブロッキングされる。
【0014】
つまり、第1固定ノード211とサーバ221との間だけがブロッキングされていない状態となる。このため、移動ノード201が第1固定ノード211の上空から第2固定ノード212の上空に移動し、第1固定ノード211と直接通信できなくなると、移動ノード201から第2固定ノード212を経由して第1固定ノード211まで2ホップの通信が行われ、サーバ221と接続されることになる。
【0015】
また、ループ検知は一般的にループ検知用のパケットをブロードキャストして行うため、ネットワークの規模が大きい場合や通信負荷が大きい場合、ループを検知するまでに長時間を要する恐れがある。更に、ループ検知機能そのものによりネットワーク負荷を増大させるため、可能な限りループを形成しないネットワークを構築すべきである。
【0016】
図3には、従来例3として、有線/無線メッシュネットワークの別の構成例を示してある。
図3のシステムでは、
図2のシステムと同様に、UAV本体を含む移動ノード301の飛行経路に沿って、第1固定ノード311、第2固定ノード312、第3固定ノード313、第n固定ノード314が地上に配置され、更にサーバ321が全ての固定ノードと有線で接続されている。但し、固定ノード同士の無線通信は禁止されている。
【0017】
具体的には、第1固定ノード311には、第2固定ノード312のMACアドレスと、第3固定ノード313のMACアドレスと、第n固定ノード314のMACアドレスを指定し、MACアドレスフィルタリングによりこれら固定ノードとの接続を禁止する。これにより、第1固定ノード311は、移動ノード301とだけ無線接続することが可能になる。他の固定ノードにも同様な設定がなされている。
【0018】
また、
図3のシステムは、ホップ数の最大値が1に設定されている点も、従来例2と異なっている。これは、送信するパケットのIPヘッダ内にあるTTL(Time To Live)を1に設定することで実現可能である。パケットが無線ノードから無線ノードへ転送された際に、TTLから1が減算されて直ちに0になり、この時点で宛先ノードに到達していなければパケットは破棄されるので、最大ホップ数が1の無線ネットワークになる。つまり、
図3の破線で示した経路を1回しか通過できないため、無線ネットワークと有線ネットワークが複数のノードで接続されていてもループが形成されず、任意の固定ノードとサーバ321との間でブロッキングされることはない。
【0019】
このように、無線ネットワーク側で所定のホップ数を超えた場合は強制的にパケットを破棄してループを形成させないことによって、有線ネットワーク側のブロッキングが発生しないようにする。更に、無線ネットワークから所定のホップ数以内で必ず有線ネットワークに到達できるように経路を設定することによって、移動ノード301がどの固定ノードと接続されていても常に最短の経路で通信が行われるようにする。これにより、高スループットと低遅延が得られるネットワークを構築することが可能となる。
【0020】
しかしながら、このようなメッシュネットワークは、無線ネットワーク側のホップ数の制約により、許容されるホップ数が小さくなるほど、有線ネットワークから離れた場所まで通信エリアを拡大させるのが難しいという問題があった。また、許容されるホップ数が大きくなるほど、ループを形成させないようにホップ数を考慮しながら固定ノードを配置するのが難しいという問題があった。また、例えば、移動ノード301が第2固定ノード312とだけ通信が可能である場合に、第2固定ノード312とサーバ321との間に障害が発生した場合は、移動ノード301がサーバ321へアクセスできなくなるなど、本来メッシュネットワークの持つ耐障害性の高さが犠牲になっている側面もあった。
【0021】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、移動ノードと固定ノードを有する有線/無線メッシュネットワークにおいて、無線ネットワークと有線ネットワークの間でループが形成されないように制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の目的を達成するために、本発明の一態様であるメッシュネットワークシステムは、以下のように構成される。すなわち、本発明に係るメッシュネットワークシステムは、無線ネットワークを形成する無線ノードとして、移動ノードと、複数の固定ノードとを有するメッシュネットワークシステムにおいて、複数の固定ノードのうちの2つ以上の固定ノードは有線ネットワークにも接続されており、無線ネットワークと有線ネットワークの両方に接続された固定ノードは、送信元が無線ネットワーク側のパケットを有線ネットワーク側から受信した場合、又は、送信元が有線ネットワーク側のパケットを無線ネットワーク側から受信した場合に、受信したパケットを破棄することを特徴とする。
【0023】
ここで、本発明に係るメッシュネットワークシステムにおいて、無線ネットワークと有線ネットワークの両方に接続された固定ノードは、有線ネットワークに接続されているネットワーク機器との間でアドレス解決を行い、アドレス解決結果を移動ノードに通知するように構成され得る。
【0024】
また、本発明に係るメッシュネットワークシステムにおいて、移動ノードは、複数の固定ノードからアドレス解決結果を受信した場合に、通信コストの最も低い固定ノードを無線ネットワーク内の最終ノードに指定するように構成され得る。
【0025】
本発明の別の態様である通信制御方法は、以下のように構成される。すなわち、無線ネットワークを形成する無線ノードとして、移動ノードと、複数の固定ノードとを有するメッシュネットワークシステムにおける通信制御方法において、複数の固定ノードのうちの2つ以上の固定ノードは有線ネットワークにも接続されており、無線ネットワークと有線ネットワークの両方に接続された固定ノードは、送信元が無線ネットワーク側のパケットを有線ネットワーク側から受信した場合、又は、送信元が有線ネットワーク側のパケットを無線ネットワーク側から受信した場合に、受信したパケットを破棄することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、移動ノードと固定ノードを有する有線/無線メッシュネットワークにおいて、無線ネットワークと有線ネットワークの間でループが形成されないように制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】従来例1に係る無線メッシュネットワークの構成例を示す図である。
【
図2】従来例2に係る有線/無線メッシュネットワークの構成例を示す図である。
【
図3】従来例3に係る有線/無線メッシュネットワークの構成例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る有線/無線メッシュネットワークの構成例を示す図である。
【
図5】
図4の有線/無線メッシュネットワークにおける経路例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一実施形態について、以下に図面を参照して説明する。
図4には、本発明の一実施形態に係る有線/無線メッシュネットワークの構成例を示してある。本例の有線/無線メッシュネットワークは、移動ノード401と、第1固定ノード411と、第2固定ノード412と、第3固定ノード413と、第n固定ノード414と、サーバ421とを備えている。サーバ421は、第2固定ノード412を除く複数の固定ノード、すなわち、第1固定ノード411、第3固定ノード413、第n固定ノード414と、有線で接続されている。本例では、移動ノード401としてUAVを想定しているが、列車や自動車に搭載された無線機や、人が携帯可能な無線機など、任意の移動無線機を適用することができる。
【0029】
ここで、移動ノード401および全ての固定ノード411~414の間の経路は、スパニングツリープロトコルで決定される。また、有線ネットワークに接続された第1固定ノード411、第3固定ノード413、第n固定ノード414は、無線ネットワークと有線ネットワークの間でループを形成しないように、MACアドレスフィルタリング機能を具備している。
【0030】
具体的には、無線ネットワークに属する送信元アドレスを有するパケットを有線ネットワーク側から受信した場合は、当該パケットを破棄する。同様に、有線ネットワークに属する送信元アドレスを有するパケットを無線ネットワーク側から受信した場合も、当該パケットを破棄する。これにより、有線ネットワーク側の経路をブロッキングすることなくブロードキャストストームを回避することが可能となる。なお、有線ネットワークに接続されている固定ノードは、有線側と無線側で異なるMACアドレス、すなわち、送信元アドレスを有している。
【0031】
また、有線ネットワークに接続された第1固定ノード411、第3固定ノード413、第n固定ノード414は、定期的にサーバ421との間で直接通信を行い、例えば、pingを一定の時間間隔で送信することで、アドレス解決状態を監視し、その結果を移動ノード401へ報告する機能も具備している。
【0032】
次に、
図5を用いて、本例の有線/無線メッシュネットワークの動作を説明する。
図5は、基本的な構成は
図4と同一であり、移動ノードの位置によって移動ノードと無線接続が可能な固定ノードが限定されている様子を示している。また、
図5において、ノード間のメトリック値を括弧内の数値で表している。例えば、第1固定ノード411と第2固定ノード412の間のメトリック値は、図中に(4)と示すように4である。
【0033】
メッシュネットワークでは一般に、経路毎に通信コストを算出し、最小の通信コストの経路を選択するように制御される。例えば、無線LANのメッシュネットワークの標準規格であるIEEE 802.11sでは、通信コストとして下記のメトリック値Caが算出される。
Ca=[0+Bt/r]/(1-ef)
ここで、0はチャネルアクセスオーバーヘッド、Btは8192(テストフレームのbitサイズ)、rはデータレート(Mbit/sec)、efはフレームエラーレートである。メトリック値が小さいほど、その経路の無線品質が良好であることを示している。
【0034】
このメトリック値は、エアタイム、つまり、所定のデータ量を無線送信する際の所要時間と捉えることができる。また、複数ホップを行う経路では、各ノード間のメトリック値を加算したものを、経路全体のメトリック値と見做すことができる。例えば、移動ノード401が第1固定ノード411と通信を行う場合、1ホップの経路と、第2固定ノード412を経由する2ホップの経路が存在し、1ホップの経路のメトリック値は7、2ホップの経路のメトリック値は5+4=9となる。この場合、メトリック値の小さい1ホップの経路が選択されることになる。なお、
図5では、説明を簡単にするために、メトリック値を1桁の小さい値としている。
【0035】
更に、
図5では、有線/無線メッシュネットワークにおける移動ノード401を起点とした経路がスパニングツリープロトコルで構築され、一部の経路がブロッキングされていることも明示している。具体的には、第1固定ノード411と第2固定ノード412の間がブロッキングされ、有線/無線メッシュネットワーク内において移動ノード401が他の固定ノードと通信を行う際にループを形成しないようにツリー型トポロジの経路が決定されている。
【0036】
ここで、
図5に示すように、移動ノード401は第1固定ノード411と第2固定ノード412の中間地点を飛行しており、移動ノード401は第1固定ノード411と第2固定ノード412とだけ直接通信(1ホップ)ができる状態であるとする。また、第1固定ノード411と第2固定ノード412の間はスパニングツリープロトコルでブロッキングされ、第2固定ノード412と第3固定ノード413と第n固定ノード414は1本の経路で接続されているものとする。
【0037】
この状態で、移動ノード401からブロードキャストパケットが送信された場合、当該ブロードキャストパケットは、第1固定ノード411と第2固定ノード412に到達する。そして、第1固定ノード411に到達したブロードキャストパケットは、有線ネットワークを介してサーバ421、第3固定ノード413、第n固定ノード414に到達する。しかしながら、第3固定ノード413と第n固定ノード414では、有線ネットワーク側から受信した送信元アドレスが移動ノード401のパケットを、MACアドレスフィルタリングにより破棄するため、ブロードキャストストームが阻止される。
【0038】
一方、移動ノード401から第2固定ノード412に到達したブロードキャストパケットは、第3固定ノード413に到達する。そして、第3固定ノード413に到達したブロードキャストパケットは、有線ネットワークを介してサーバ421、第1固定ノード411、第n固定ノード414に到達する。しかしながら、第1固定ノード411と第n固定ノード414では、有線ネットワーク側から受信した送信元アドレスが移動ノード401のパケットを、MACアドレスフィルタリングにより破棄するため、ブロードキャストストームが阻止される。
【0039】
また、第3固定ノード413に到達したブロードキャストパケットは、第n固定ノード414を経由してから、有線ネットワークを介してサーバ421、第1固定ノード411、第3固定ノード413に到達する。しかしながら、第1固定ノード411と第3固定ノード413では、有線ネットワーク側から受信した送信元アドレスが移動ノード401のパケットを、MACアドレスフィルタリングにより破棄するため、ブロードキャストストームが阻止される。
【0040】
サーバ421からブロードキャストパケットを送信する場合も、同様に作用する。例えば、サーバ421から第3固定ノード413に到達したブロードキャストパケットが、無線ネットワーク側の経路で第n固定ノード414に到達したとする。この場合、第n固定ノード414は、無線ネットワーク側から受信した送信元アドレスがサーバ421のパケットを、MACアドレスフィルタリングにより破棄するため、ブロードキャストストームが阻止される。
【0041】
このように、本例の有線/無線メッシュネットワークシステムは、無線ネットワーク側と有線ネットワーク側で個別のMACアドレスフィルタリングを行うように構成されている。これにより、無線ネットワークと有線ネットワークが複数のノードで接続されてループが形成されていても、複数の固定ノードとサーバ421との間にブロッキングを生じさせずに、無線と有線が統合された有線/無線メッシュネットワークを構築することができる。
【0042】
ところで、移動ノード401が初めてサーバ421と通信を行う際に、移動ノード401からサーバ421へARP要求パケットをブロードキャストする場合、通信可能な複数の経路でARP要求パケットがサーバ421へ到達する。そして、サーバ421が移動ノード401へARP応答パケットをユニキャストすることでアドレス解決がなされ、移動ノード401とサーバ421との間で通信可能な状態となる。但し、複数のARP応答パケットのうちの最後に受信したARP応答パケットでアドレス解決情報が上書きされるため、必ずしも最短の経路が選択されるわけではない。また、移動ノード401とサーバ421との間で通信ができなくなった場合に、ARP要求パケットを再度送信することにより、アドレス解決に伴う処理遅延が発生する。
【0043】
従って、移動ノード401からARP要求パケットをブロードキャストしない手法でアドレス解決を行うことが、最良の経路を選択しつつ処理遅延を抑える上で望ましい。そこで、本例の有線/無線メッシュネットワークでは、以下に示す手法で、移動ノード401とサーバ421との間のアドレス解決を行う。
【0044】
まず、有線ネットワークと接続されている第1固定ノード411、第3固定ノード413、第n固定ノード414は、サーバ421に対して定期的にpingを送信する。アドレス解決がなされていなければ、これら固定ノードは、有線ネットワーク側から、つまり送信元アドレスに有線側のMACアドレスを設定したARP要求パケットをブロードキャストする。
【0045】
ここで、第1固定ノード411がARP要求パケットを有線ネットワークにブロードキャストした場合、当該ARP要求パケットは、サーバ421、第3固定ノード413、第n固定ノード414に到達する。そして、サーバ421が、ARP応答パケットを第1固定ノード411に返して、アドレス解決がなされる。一方、例えば、第3固定ノード413に到達したARP要求パケットが、無線ネットワークを介して第n固定ノード414に到達したとする。この場合、第n固定ノード414は、無線ネットワーク側から受信した送信元アドレスが有線ネットワークに属するパケットを、MACアドレスフィルタリングにより破棄するため、ブロードキャストストームが阻止される。
【0046】
このように、有線ネットワークに接続された固定ノードがブロードキャストした場合であっても、MACアドレスフィルタリングによってループを形成させない動作となる。このため、固定ノード411~414とサーバ421の間を、ブロッキングされない状態に維持することができる。また、有線ネットワークに障害が発生してサーバ421との通信ができなくなる場合を除き、以後はARP要求パケットのブロードキャストを伴うことなく、定期的なpingだけで到達確認が行われる。
【0047】
有線ネットワークに特に障害が発生していなければ、サーバ421は、第1固定ノード411、第3固定ノード413、第n固定ノード414にそれぞれping応答を返す。ping応答を受信した第1固定ノード411、第3固定ノード413、第n固定ノード414は、サーバ421のMACアドレスを付加した制御パケットを移動ノード401へ送信し、自身がサーバ421と通信可能であることを通知する。逆に、有線ネットワークに障害等が発生して、サーバ421からping応答が得られない場合は、移動ノード401への制御パケットの送信は行わない。
【0048】
制御パケットを受信した移動ノード401は、当該制御パケットに付加されたサーバ421のMACアドレスを取得してアドレス解決がなされるとともに、当該制御パケットの送信元アドレスからサーバ421と通信可能な固定ノードを認識する。
【0049】
一方、移動ノード401は、有線/無線メッシュネットワーク内の経路探索時に、各ノードと通信する際のメトリック値を把握している。例えば、
図5に示した経路毎のメトリック値に対応させて算出すると、第1固定ノード411とのメトリック値は7、第2固定ノード412とのメトリック値は5、第3固定ノード413とのメトリック値は5+3=8、第n固定ノード414とのメトリック値は5+3+6=14となる。つまり、サーバ421と有線で接続されている固定ノードの中で最も無線品質が良い固定ノードは、第1固定ノード411であると判断することができる。
【0050】
従って、移動ノード401は、サーバ421と通信する際に、第1固定ノード411を有線/無線メッシュネットワーク内の最終ノードとすることで、最良の経路を選択することが可能である。また、当該経路が使用できなくなった場合は、2番目にメトリック値の低い第3固定ノード413を有線/無線メッシュネットワーク内の最終ノードに選択することで、最良の経路へ瞬時に切り替えることが可能である。
【0051】
ここで、本例では、有線ネットワークに接続されていない固定ノードを第2固定ノード412だけとしているが、複数の固定ノードが有線ネットワークに接続されている条件さえ満たしていれば、一般性は失われない。また、本例では、固定ノードからサーバへpingを送信しているが、特にpingに限定するものではない。また、サーバ側から有線ネットワークに接続された複数の固定ノードと通信が可能であるかどうかを個々に確認する構成であってもよい。また、本例では、有線ネットワークに接続された固定ノードに具備したMACアドレスフィルタリング機能によりループを回避する構成としているが、ループを回避する機能を有するネットワークスイッチを追加する構成であってもよい。
【0052】
以上のように、本例の有線/無線メッシュネットワークシステムは、無線ネットワークを形成する無線ノードとして、移動ノード401と、複数の固定ノード411,412,413,414とを有し、複数の固定ノードのうちの2つ以上の固定ノード411,413,414は有線ネットワークにも接続され、無線ネットワークと有線ネットワークの両方に接続された固定ノード411,413,414は、送信元が無線ネットワーク側のパケットを有線ネットワーク側から受信した場合、又は、送信元が有線ネットワーク側のパケットを無線ネットワーク側から受信した場合に、受信したパケットを破棄するように構成されている。このように、無線ネットワーク側と有線ネットワーク側で個別のアドレスフィルタリングを行うように構成することで、無線ネットワークと有線ネットワークの間でループが形成されないように制御することが可能となる。
【0053】
また、本例の有線/無線メッシュネットワークシステムでは、無線ネットワークと有線ネットワークの両方に接続された固定ノード411,413,414は、有線ネットワークに接続されているサーバ421との間でアドレス解決を行い、アドレス解決結果を移動ノード401に通知するように構成されている。従って、移動ノード401からARP要求パケットをブロードキャストせずにアドレス解決し、移動ノード401とサーバ421との間で通信可能な状態とすることができる。本例では、本発明に係るネットワーク機器の一例としてサーバ421を挙げたが、本発明に係るアドレス解決手法は、有線ネットワークに接続された他の任意のネットワーク機器とのアドレス解決に適用することが可能である。
【0054】
また、本例の有線/無線メッシュネットワークシステムでは、移動ノード401は、複数の固定ノード411,413,414からアドレス解決結果を受信した場合に、通信コストの最も低い固定ノードを無線ネットワーク内の最終ノードに指定するように構成されている。従って、移動ノード401は、サーバ421と通信する際に最良の経路を選択することが可能となる。
【0055】
以上のように、無線と有線の両方でメッシュネットワークを構成し、無線ネットワーク側は通常のスパニングツリープロトコルで経路を構築し、有線ネットワーク側は無線側と有線側で異なるアドレスフィルタリングを行なってループを形成させない(すなわち、ブロッキングを発生させない)ようにしつつ、最良の経路に合わせて無線メッシュネットワークの最終ノードを決定することで、高スループット、低遅延、高速経路切替、耐障害性の高いネットワークを構築することが可能である。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これら実施形態は例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明は、その他の様々な実施形態をとることが可能であると共に、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等の種々の変形を行うことができる。これら実施形態及びその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0057】
また、本発明は、上記の説明で挙げたような装置や、これら装置で構成されたシステムとして提供することが可能なだけでなく、これら装置により実行される方法、これら装置の機能をプロセッサにより実現させるためのプログラム、そのようなプログラムをコンピュータ読み取り可能に記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、無線と有線の両方でメッシュネットワークを構成した有線/無線メッシュネットワークシステムに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
101,201,301,401:移動ノード、 111,211,311,411:第1固定ノード、 112,212,312,412:第2固定ノード、 113,213,313,413:第3固定ノード、 114,214,314,414:第n固定ノード、 121,221,321,421:サーバ