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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】立ち上がり補助機
(51)【国際特許分類】
   A61G 7/10 20060101AFI20241210BHJP
   A61H 1/02 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
A61G7/10
A61H1/02 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021173447
(22)【出願日】2021-10-22
(65)【公開番号】P2023063128
(43)【公開日】2023-05-09
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 智宏
(72)【発明者】
【氏名】根本 知幸
(72)【発明者】
【氏名】輿石 健
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/122752(WO,A1)
【文献】特開2017-136350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 7/10
A61H 1/02
A61G 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の立ち上がり動作及び着座動作を補助する立ち上がり補助機であって、
基部と、
第1軸部材と、前記第1軸部材よりも前記補助機を使用する前記利用者の前方方向に配置される第2軸部材と、
前記第1軸部材に固定される支持部と、
前記第1軸部材を駆動する第1アクチュエータと、
前記第2軸部材を駆動する第2アクチュエータと、
前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータを制御して、前記第1軸部材及び前記第2軸部材の動きを制御する制御部と、
利用者の情報が入力される利用者情報入力部と、
を備え
前記第1軸部材は、第1外筒と、上下方向に直動可能に前記第1外筒に収容された第1ロッドと、を備え、前記第1軸部材の一方の端部は、前記基部に回動自在に支持され、前記第1軸部材の他方の端部は、前記支持部に固定され、
前記第2軸部材は、第2外筒と、直動可能に前記第2外筒に収容された第2ロッドと、を備え、前記第2軸部材の一方の端部は、前記第1軸部材よりも前方で、前記基部に回動自在に支持され、前記第2軸部材の他方の端部は、前記第1外筒に回動可能に固定され、
前記制御部は、
前記利用者の着座動作時の前記第2軸部材の第2伸展速度が、前記利用者の立ち上がり動作時の前記第2軸部材の第1収縮速度より遅くなるように前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータを制御することを特徴とする立ち上がり補助機。
【請求項2】
前記制御部は、
前記利用者の立ち上がり動作時の前記第1軸部材の第1伸展速度が、前記利用者の着座動作時の前記第1軸部材の第2収縮速度より遅くなるように前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータを制御することを特徴とする請求項1記載の立ち上がり補助機。
【請求項3】
前記制御部は、前記利用者情報入力部から入力された、前記利用者の身体情報、及び、健康情報の少なくともいずれかに応じて、支持部の軌道を変えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の立ち上がり補助機。
【請求項4】
前記健康情報とは、前記利用者についての身体の所定部位に関する情報であることを特徴とする請求項に記載の立ち上がり補助機。
【請求項5】
前記利用者についての身体の所定部位とは、腰部、及び、膝部の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項に記載の立ち上がり補助機。
【請求項6】
前記身体情報とは、前記利用者の身長、体重、又は立ち上がり時の重心の位置に関する情報のうちの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項から請求項のうちのいずれかに記載の立ち上がり補助機。
【請求項7】
前記制御部は、前記利用者情報入力部から入力された身体情報、及び、前記健康情報の少なくともいずれかに応じて、立ち上がり時、及び、着座時の少なくともいずれかにおける支持部の動作速度を変えることを特徴とする請求項から請求項のうちのいずれかに記載の立ち上がり補助機。
【請求項8】
前記利用者の立ち上がりに対する前記支持部の前記動作速度よりも、前記利用者の着座に対する前記支持部の前記動作速度の方が遅いことを特徴とする請求項に記載の立ち上がり補助機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立ち上がり補助機に関する。
【背景技術】
【0002】
膝や足腰の弱った利用者は、座椅子に座り込んだ状態から自力で立ち上がる際に大きな労力を必要とするため、体にかかる負担が大きい。そこで、座椅子からの立ち上がりを補助する機器が提案されている。特許文献1、及び特許文献2は、この種の機器として、基部と、当基部に対して上下方向に伸縮自在な軸部と、を備え、利用者が把持する部材、或は、利用者を保持する部材を当該軸部の上側に配置し、軸部を伸縮させることで利用者の立ち上がりを補助する機器を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-134430号公報
【文献】WO2017-141372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし利用者の身体や健康についての個別の事情に合わせた補助動作をおこなうことが望ましい。
本発明は、利用者の個別の事情に合わせた立ち上がりの補助をおこなう立ち上がり補助機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一の態様は、利用者の立ち上がり動作及び着座動作を補助する補助機であって、基部と、第1軸部材と、前記第1軸部材よりも前記補助機を使用する前記利用者の前方方向に配置される第2軸部材と、前記第1軸部材に固定される支持部と、前記第1軸部材を駆動する第1アクチュエータと、前記第2軸部材を駆動する第2アクチュエータと、前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータを制御して、前記第1軸部材及び前記第2軸部材の動きを制御する制御部と、利用者の情報が入力される利用者情報入力部と、を備え、前記第1軸部材は、第1外筒と、上下方向に直動可能に前記第1外筒に収容された第1ロッドと、を備え、前記第1軸部材の一方の端部は、前記基部に回動自在に支持され、前記第1軸部材の他方の端部は、前記支持部に固定され、前記第2軸部材は、第2外筒と、直動可能に前記第2外筒に収容された第2ロッドと、を備え、前記第2軸部材の一方の端部は、前記第1軸部材よりも前方で、前記基部に回動自在に支持され、前記第2軸部材の他方の端部は、前記第1外筒に回動可能に固定され、前記制御部は、前記利用者の着座動作時の前記第2軸部材の第2伸展速度が、前記利用者の立ち上がり動作時の前記第2軸部材の第1収縮速度より遅くなるように前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータを制御することを特徴とする立ち上がり補助機である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、利用者の個別の事情に合わせた立ち上がりの補助をおこなうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】立ち上がり補助機の全体構成を示す斜視図である。
図2】立ち上がり補助機の可動機構を示す図である。
図3】立ち上がり補助機の軸部が可動したときの支持部の軌道を模式的に示す図である。
図4】第1の実施の形態に係る立ち上がり補助機の制御システムの機能的構成を示すブロック図である。
図5】立ち上がり補助機の動作を模式的に示す図である。
図6】利用者情報入力部から身体情報を入力した画面の一例である。
図7】利用者情報入力部から健康情報を入力した画面の一例である。
図8】立ち上がり動作時の立ち上がり補助機の動作を示すフローチャートである。
図9】立ち上がり補助動作における速度制御の説明である。
図10】着座動作時の立ち上がり補助機の動作を示すフローチャートである。
図11】着座補助動作における速度制御の説明である。
図12】第2の実施の形態に係る立ち上がり補助機の制御システムの機能的構成を示すブロック図である。
図13】身長の高低による立ち上がり補助機による支持位置の変化を説明する図である。
図14】立ち上がり動作時の立ち上がり補助機の動作を示すフローチャートである。
図15】立ち上がり補助動作における軌道制御の説明である。
図16】着座動作時の立ち上がり補助機の動作を示すフローチャートである。
図17】着座補助動作における軌道制御の考え方の説明である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1の実施の形態]
以下、図面を参照して本発明の第1の実施の形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る立ち上がり補助機1の全体構成を示す斜視図である。
立ち上がり補助機1は、利用者J(図3参照)の立ち上がり動作、及び着座動作を補助する機器である。立ち上がり動作は、利用者Jが椅子や寝台などのシートK(図3参照)に着座した着座状態から体の向きを変えることなくそのまま立ち上がって立位した立位状態に移行するまでの動作を言う。着座動作は、利用者Jが立位状態から体の向きを変えることなく腰を落としシートKに着座して着座状態に移行するまでの動作を言う。
【0009】
なお、以下の説明において、着座状態の利用者Jが立ち上がり動作において立ち上がる方向を前方DFと言い、立位状態の利用者Jが着座動作において腰(臀部)を移動させる方向を後方DBと言う。前方DF及び後方DBに直交する方向のうち、前方DFを向いた利用者Jの左手が位置する側を左方向DLと言い、当該利用者Jの右手が位置する側を右方向DRと言う。鉛直方向の上向きを上方DUと言い、鉛直方向の下向きを下方DDと言う。
【0010】
また、補助を必要としない健常者が立ち上がり動作、及び着座動作を行ったときの身体の動きを「自然動作」と言う。
本実施形態の立ち上がり補助機1は、利用者Jが、この自然動作に近い動きで、立ち上がり動作、及び、着座動作を行えるように補助する構成を備える。利用者Jが自然動作に近い動きで立ち上がり動作、及び着座動作することで、補助に頼り切りにならずに、自身の力を適度に使って立ち上がり、及び着座することができる。
【0011】
かかる立ち上がり補助機1の構造的構成を説明する。
【0012】
図1は、立ち上がり補助機1の全体構成を示す斜視図である。
同図に示すように、立ち上がり補助機1は、基部10と、軸部12と、支持部14と、把持部16と、を備える。
基部10は、立ち上がり補助機1の構造(骨格)のベース部分に相当し、軸部12が立設されるメインフレームであるベース板20を備える。さらに、本実施形態の基部10は、後方DBが開放する平面視略Cの字状のパイプフレーム22と、当該パイプフレーム22を移動可能に支持する車輪24と、を備え、ベース板20は、パイプフレーム22の内側で当該パイプフレーム22に支持されている。車輪24は、パイプフレーム22の前端及び後端のそれぞれに左右に1つずつ設けられており、前後方向、及び左右方向における立ち上がり補助機1のバランスの安定化が図られている。各車輪24は移動方向が自在なキャスターであり、立ち上がり補助機1が、かかる車輪24を備えることで、立位状態の利用者Jの歩行に合わせて移動し、いわゆる歩行補助機の用途にも利用可能となっている。
【0013】
軸部12は、基部10から上方DUに延びた形状の部位であり、下端部12Dが基部10のベース板20に結合され、上端部12Uに支持部14が固定されている。換言すれば、軸部12は、基部10の上方DUで支持部14を支持する部位としても機能する。軸部12は、下端部12Dを中心に前後方向に回動自在であり、かつ、上下方向に伸縮自在となっており、これにより、支持部14が前後方向、及び、上下方向のいずれにも移動可能となっている。かかる軸部12の構成については後述する。
【0014】
支持部14は、利用者Jの身体を支える部位であり、本実施形態の支持部14は、後方DBが開放する平面視略Cの字状の棒状部材30を備える。具体的には、棒状部材30は、前後方向に延びる左右一対の肘当部31と、各肘当部31の前端部を連結する連結部32と、を有する。各肘当部31は、利用者Jの肘を支える部位であり、肘が収まるカップ形状の肘当サポート部材33が設けられている。肘当サポート部材33は、左右一対の側壁33Sと、肘の後方DBに位置する後壁33Bとを有し、側壁33Sが肘の左右方向への移動を阻止し、また、後壁33Bが肘を後方DBから支持する。
【0015】
また、支持部14には、利用者Jが手で掴む部位である左右一対の上記把持部16が設けられている。本実施形態において、把持部16は支持部14を構成する棒状部材30に一体に構成されている。具体的には、棒状部材30は、左右のそれぞれの肘当部31の前端部に上方に折れ曲がった部位を有し、これらの部位が把持部16として構成されている。
なお、利用者Jが把持可能な形状の部材(例えば棒状の部材)を各肘当部31に立設することで、支持部14を構成する棒状部材30とは別に把持部16を構成してもよい。また、利用者Jの手から肘までの長さに合わせて、肘当サポート部材33の取付位置を前後方向に調整可能な構成としてもよい。これにより、利用者Jは、肘当サポート部材33に肘を収めた状態で把持部16を常に把持できるように、肘当サポート部材33の取付位置を調整できる。
【0016】
また、支持部14には、左右一対の肘当部31の間に胸当サポート部36が設けられている。胸当サポート部36は、左右一対の肘当部31に架設された板材36Aと、当該板材36Aの左右略中央に固定された膨出形状の胸当材36Bとを備え、この胸当材36Bを含む胸当サポート部36の略全体がウレタンフォームなどの反発性を有する部材によって覆われている。利用者Jが立位状態にあるときや、前屈みの姿勢をとったときに、胸当サポート部36に胸を押し当てて上半身を支えることができる。
【0017】
図2は、立ち上がり補助機1の可動機構を示す図である。なお、図2は模式図であり、各部材の寸法や形状、位置が図1と異なっている。
立ち上がり補助機1の軸部12は、第1軸部材41と第2軸部材42を備え、それぞれが上下方向に伸縮自在であり、かつ、それぞれの下端部が基部10に結合されている。本実施の形態では、第1軸部材41は、中空筒状の外筒41Aと、当該外筒41Aに同軸に直動可能に収められたロッド41Bとを備え、当該ロッド41Bが直線的に進退することで全体が伸縮する直動装置を有する。第2軸部材42も同様に、中空筒状の外筒42Aと、当該外筒42Aに同軸に直動可能に収められたロッド42Bとを備え、当該ロッド42Bが直線的に進退することで全体が伸縮する直動装置を有する。本実施の形態において、これら直動装置には、ボールねじと、当該ボールねじを回転駆動するモータとを有した電動のシリンダが用いられる。立ち上がり動作を補助するときの可動と、当該立ち上がり動作と略逆の動きとなる着座動作を補助するときの可動とは、略正逆の関係にあり、ボールねじ及びモータを有したシリンダを直動装置に用いることで、かかる正逆の可動を簡単に実現でき、また、位置決めや速度制御が可能となる。なお、直動装置には、他の構成の周知又は公知の機構を用いることができる。
【0018】
第1軸部材41および第2軸部材42は前後方向に並べて配置されており、それぞれの外筒41A、42Aが前後方向に回動自在に基部10(ベース板20)に設けられており、また、第1軸部材41および第2軸部材42のそれぞれが第1アクチュエータ51A及び第2アクチュエータ51B(図1図4参照)によって互いに個別に駆動される。本実施形態において、第1軸部材41および第2軸部材42のそれぞれは、下端部41AD、42ADが回動自在に基部10に軸支されることで、それぞれの回動の回動軸O1、O2が下端部41AD、42ADに設けられている。
【0019】
ここで、第1軸部材41のロッド41Bの先端は、軸部12の上記上端部12Uに相当し、当該先端に支持部14が固定される。これにより、支持部14は、第1軸部材41によって支持された高さ位置において、第1軸部材41の回動に伴って回動軸O1を中心とした円弧Eに沿って移動する。この円弧Eの長さは、回動半径である第1軸部材41の長さ(高さ)に比例して大きくなるため、例えば、上記特許文献1、及び特許文献2のように、回動不能に基部に立設された軸部の先端で支持部を回動可能に支持する構成に比べ、支持部14の可動範囲を大幅に拡張することができる。
また、支持部14と第1軸部材41との固定箇所(軸部12の上端部12U)は、溶接やボルト、ネジ等の任意の締結手段によって支持部14が軸部12に対して回動不能に固定されている。これにより、利用者が把持部16を把持した状態において、支持部14が軸部12に対して意図せずに回動してしまい、当該回動の力が利用者の手首に作用して、利用者が手首を痛める、といった事態を防止できる。
【0020】
第2軸部材42は、ロッド42Bの先端が第1軸部材41の非可動部である外筒41Aに回動可能に結合されている。具体的には、前掲図1に示すように、第1軸部材41の外筒41Aには、左右一対の板状の結合片44が設けられており、図2に示すように、当該結合片44に第2軸部材42のロッド42Bの先端がピン等で軸支されることで、当該先端が第1軸部材41及び第2軸部材42の回動及び伸縮に応じて受動的に回動する。
【0021】
なお、本実施の形態では、前掲図1に示すように、立ち上がり補助機1は、安定感の向上、及び、ガタ付き防止のために、第1軸部材41の全周を覆うカバー部材49を備え、第2軸部材42は、当該カバー部材49を介して第1軸部材41に結合されている。具体的には、カバー部材49は、第1軸部材41の外筒41Aを内包し、当該外筒41Aに対して不動の第1カバー部材49Aと、ロッド41Bを内包する第2カバー部材49Bとを備え、第1カバー部材49Aに上記結合片44が設けられ、当該結合片44に第2軸部材42のロッド42Bの先端が結合されている。
【0022】
図3は、立ち上がり補助機1の軸部12が可動したときの支持部14の軌道を模式的に示す図である。
立ち上がり補助機1は、第1軸部材41が下端部41ADの回動軸O1で回動し、かつ、上下方向に伸縮することで、支持部14は、着座姿勢の利用者Jに対応する位置(以下、着座用ポジションという)PAと、立位姿勢の利用者Jに対応する位置(以下、立位用ポジションという)PBとの間を、様々な軌道で移動可能となっている。かかる軌道には、図3に示すように、第1軌道F1、第2軌道F2、第3軌道F3、及び第4軌道F4などがある。
【0023】
第1軌道F1は、着座用ポジションPAと立位用ポジションPBとの間を斜めに直線的に結ぶ軌道である。
第2軌道F2は、斜めに直線的に延びる第1軌道F1において、立ち上がり動作の開始時に前方F1に延びる区間F2Aを含み、かつ、立ち上がり動作の終了時に真上へ延びる区間F2Bを含む軌道である。
第3軌道F3は、第1軌道F1及び第2軌道F2とは異なり、斜め方向に直線的に延びる軌道を殆ど含まない軌道である。すなわち、第3軌道F3は、着座用ポジションPAから立位用ポジションPBの直下位置Pαに延びる区間F3Aと、当該直下位置Pαから真上の立位用ポジションPBに延びる区間F3Bと、から成る軌道である。
第4軌道F4は、着座用ポジションPAから立位用ポジションPBの直下位置Pαを超えて更に前方DFの所定前端位置Pβまで延びる区間F4Aと、当該所定前端位置Pβから前方斜め上方へ直線的に延びる区間F4Bと、移動軌道F4の上端から立位用ポジションPBに延びる区間F4Cとを含む軌道である。
第4軌道F4は、上記自然動作に対応する軌道であり、この第4軌道F4と自然動作との関係については後述する。
【0024】
図4は、立ち上がり補助機1の可動に係る制御システム50の機能的構成を示すブロック図である。
立ち上がり補助機1は、駆動部51と、利用者操作部52と、肘当検出部54と、制御部56と、利用者情報入力部58と、表示装置60を備える。
駆動部51は、軸部12を回転駆動、及び、伸縮駆動するものであり、第1軸部材41及び第2軸部材42のそれぞれごとの駆動源である第1アクチュエータ51A及び第2アクチュエータ51Bを備えている。これら第1アクチュエータ51A及び第2アクチュエータ51Bは、前掲図1に示すように、第1軸部材41及び第2軸部材42のそれぞれの下端部41AD、42ADに配置されており、これにより、立ち上がり補助機1の重心が下がり、安定度が高められている。なお、第1アクチュエータ51A及び第2アクチュエータ51Bは、第1軸部材41及び第2軸部材42のそれぞれの下端部41AD、42ADの側であり、重心を下げる位置であれば、例えば下端部41AD、42BDの近傍などの任意の位置に配置できる。
【0025】
利用者操作部52は、立ち上がり動作の補助、及び、着座動作の補助を受けるために利用者Jが操作する部位であり、当該操作を受け付け、制御部56に出力する操作検出デバイスを備える。本実施の形態では、利用者操作部52の操作検出デバイスは、立ち上がり動作の補助を受けるための操作入力、及び、着座動作の補助を受けるための操作入力ごとに、操作入力デバイスの一例であるモーメンタリースイッチを備え、また、それぞれのモーメンタリースイッチの操作入力を検出する立ち上がり指示センサ52A及び着座指示センサ52Bを備える。本実施の形態では、両方のモーメンタリースイッチが支持部14に配設されている。具体的には、右手側の把持部16には、立ち上がり動作の補助に対応するモーメンタリースイッチが配置され、左手側の把持部16には、着座動作の補助に対応するモーメンタリースイッチが配置されている。
【0026】
肘当検出部54は、利用者Jが肘当サポート部材33に肘を十分に押し当てた姿勢をとることで立ち上がり動作、又は着座動作の補助を受ける準備が出来ていることを、肘当サポート部材33に加わっている荷重に基づいて検出するものであり、当該肘当サポート部材33に配置された荷重センサ54Aを備え、検出情報を制御部56に出力する。
【0027】
制御部56は、利用者操作部52に対する利用者Jの操作に応じて駆動部51を制御する。具体的には、制御部56は、立ち上がり指示センサ52Aによって立ち上がり指示が検出されると、支持部14が着座用ポジションPAから立位用ポジションPBに移動するように駆動部51を制御する。また、着座指示センサ52Bによって着座の指示が検出されると、支持部14が立位用ポジションPBから着座用ポジションPAに移動するように駆動部51を制御する。ただし、制御部56は、肘当検出部54の検出情報に基づいて、肘当サポート部材33に所定の荷重が加わっておらず、利用者Jが肘を肘当サポート部材33に肘を十分に押し当てていないと判定した場合、利用者操作部52が操作されても、駆動部51を駆動させない。これにより、利用者Jが立ち上がり動作、又は着座動作の補助を受けるための姿勢を取っていない状態において、支持部14が移動してしまい、把持部16を把持する利用者Jの手だけが支持部14の移動に引きつられてしまい、その移動に胴体部が追いつかない(例えば、立ち上がり動作の補助においては、胴体部がシートKの側に残る)といった事態を防止できる。
【0028】
かかる制御部56は、CPUやMPUなどのプロセッサと、ROMやRAMなどのメモリデバイスと、HDDやSSDなどのストレージ装置を有する記憶部70と、センサ類や周辺機器などを接続するための入出力インターフェースI/F部68と、を備えたコンピュータを有し、プロセッサがメモリデバイス又はストレージ装置に記憶されているコンピュータプログラムを実行することで、各種の機能を実現する。
【0029】
CPUは、記憶部70等に記憶されたプログラムを実行することで、各種演算を行う演算部62の機能と、制御における判定をおこなう判定部64の機能と、駆動部51の移動速度を制御する速度制御部66の機能を実現する。
【0030】
この立ち上がり補助機1には、各種情報を表示して利用者Jに提示する表示装置60(図1参照)と、各種情報を制御部56に入力するための利用者情報入力部58が設けられる。表示装置60は液晶パネルや有機ELパネル等のディスプレイ装置である。利用者情報入力部58は、表示装置60の表面に設けられたタッチパネルスクリーンである。利用者情報入力部58と表示装置60は、立ち上がり補助機1自体とは、独立な装置であって有線や無線の通信手段で制御部56に接続されていてもよい。利用者情報入力部58と表示装置60としていわゆるスマートフォンやタブレットPCが、立ち上がり補助機1の支持部14に固定されるようにしてもよい。
【0031】
ここで、本実施形態の立ち上がり補助機1において、制御部56は、立ち上がり動作、及び、着座動作の補助が利用者Jによって指示されると、いずれの指示においても、上記第4軌道F4に沿って支持部14が移動するように駆動部51(第1アクチュエータ51A、及び第2アクチュエータ51Bのそれぞれ)を制御することで、利用者Jが自然動作に近い動きで、立ち上がり、又は着座するように動作を補助する。
【0032】
図5は、補助を要しない健常者の立ち上がり時の動きと、第4軌道F4との対応を模式的に示す図である。なお、健常者が着座する時は、立ち上がり時の動きを時間的に巻き戻した動きと概ね一致する。
同図に示すように、立ち上がり時の動きには、健常者が着座状態から立位状態に移行するまでの間に、次の第1相P1、第2相P2、及び第3相P3の3つのフェーズを含んでいる。第1相P1は、健常者がシートKから腰を浮かして前屈みになるように身体を屈曲させ、自身の重心を前方DFへ寄らせた状態とするフェーズ(屈曲相)である。第2相P2は、健常者が上体を起き上がらせるフェーズ(移行相)である。第3相P3は、健常者が膝や足腰を伸展させるフェーズ(伸展相)である。
【0033】
一方、第4軌道F4は、前掲図3に示す通り、3つの区間F4A、F4B、及びF4Cを含み、図5に示すように、区間F4A(第1区間)が第1相P1の動きに対応し、区間F4B及びF4Cの2つの区間(第2区間)が第2相P2及び第3相P3の動きに対応する。
具体的には、区間F4Aは、上述の通り、支持部14を着座用ポジションPAから立位用ポジションPBの直下位置Pαを超えた前方DFの所定前端位置Pβまで移動させる軌道であって、第1相P1において利用者Jが前屈みになるときの身体の動きに合わせて支持部14が移動する軌道である。本実施の形態では、区間F4Aの前端位置は、鉛直方向から約10度から約20度間の所定角度で第1軸部材41が前方DFに傾く位置に設定されている。
また、区間F4B及びF4Cの2つの区間は、所定前端位置Pβから立位用ポジションPBまで支持部14を移動させる軌道であって、第2相P2及び第3相P3において、利用者Jが上体を起こし、膝や腰を伸展させるときの身体の動きに合わせて支持部14が移動する軌道である。
【0034】
このように、支持部14が第4軌道F4に沿って移動することで、利用者Jは自然動作に近い動きで立ち上がり動作、及び着座動作を行うため、補助に頼り切りにならずに、利用者に自身の力を適度に使って立ち上がり、及び着座させることができる。これにより、必要とする補助の程度が比較的軽い利用者にとって、適切な補助が与えられる。
【0035】
図5において、立ち上がり動作における第2軸部材42の収縮動作が、軸部12全体の傾斜を第1相P1(着座の状態)から第2相P2へと移行させる。この収縮速度を第1収縮速度とする。次に第1軸部材41の伸展動作が、第2相P2から第4相P4(立位状態)へと移行させる。この伸展速度を第1伸展速度とする。そしてこの一連の第1相P1から第4相P4までの、利用者Jの立ち上がり時に、支持部14が移動する速度を、本明細書では第1移動速度とする。
制御部56は、利用者情報入力部58から入力された利用者Jの身体情報、及び、健康情報の少なくともいずれかに応じて、第1移動速度を変更する。
【0036】
着座動作における第1軸部材41の収縮動作は、第4相P4から第2相P2へと移行させる。この収縮速度を第2収縮速度とする。次に第2軸部材42の伸展動作が、第2相P2から第1相P1へと移行させる。この伸展速度を第2伸展速度とする。この一連の第4相P4から第1相P1までの、利用者の着座時に、支持部14が移動する速度を本明細書では第2移動速度とする。
制御部56は、利用者情報入力部58から入力された利用者Jの身体情報、及び、健康情報の少なくともいずれかに応じて、第2移動速度を変更する。
【0037】
制御部56は、利用者情報入力部58から入力された身体情報、及び、健康情報の少なくともいずれかに応じて、立ち上がり時、及び、着座時の少なくともいずれかにおける支持部14の動作速度を変える。動作速度とは、例えば伸展動作の速度、収縮動作の速度、第1移動速度、又は第2移動速度である。
【0038】
第1移動速度より第2移動速度が遅いことが望ましい。換言すれば、利用者Jの立ち上がりに対する支持部14の動作速度よりも、利用者Jの着座に対する支持部14の動作速度の方が遅いことが望ましい。
【0039】
また、第2伸展速度は、第1収縮速度よりも遅くすることも考えられる。第2伸展速度を第1収縮速度よりも遅くすることで、利用者Jが着座する際に、利用者Jがよりゆっくりとした動作で着座することができる。第1伸展速度は第2収縮速度より遅くすることも考えられる。立ち上がり動作の際に急激な速度変化を避けることで利用者Jがよりゆっくりと立ち上がることができるようになる。
【0040】
なお、制御部56が、第1相と第4相の間の補助動作の速度や動作の軌道を、利用者Jの身体情報や健康状態に応じて変化させる制御をおこなってよい。
【0041】
利用者情報入力部58の例を図6及び図7に挙げる。まず支持部14の上側に固定された利用者情報入力部58には、利用者Jの身体情報を入力する画面が表示される(図6参照)。身体情報とは、利用者Jの例えば身長、体重、又は、立ち上がり時の重心位置に関する情報のうちの少なくともいずれかである。身体情報には、座高の大きさや、腕の長さ等の情報を含んでもよい。例えば、図6には、利用者Jやその補助者が、利用者Jの身長と体重が入力できる画面を示す。例えば体重が重い場合には、利用者J自身が自力で立ち上がりするための負担が大きい可能性があるので、補助動作の速度を遅くする制御を制御部56がおこなうことが考えられる。
【0042】
なお利用者情報入力部58には、身長や体重の絶対値が入力されてもよく、「高い」、「低い」、あるいは、「重い」、「軽い」といった大きな区分けの中から選択される形式でもよい。あるいは、例えば身長で言えば10cm刻み、体重ならば5kg刻みの表から利用者Jに当てはまる値が選択される方法を採用してもよい。平均的な身長、例えば男性であれば165cmを基本として、そこからプラス側、マイナス側といった区別をして、入力させる形式でもよい。また体重そのものではなくBMI値(Body Mass Index)が入力される形式でもよい。
立ち上がり時の重心に関しては「前」、「後ろ」といった選択や、通常の歩行時に杖を使用するか否かを入力し、杖を使用する人は立ち上がり時の重心が「前」と設定されてもよい。
【0043】
利用者情報入力部58に利用者Jが情報を入れる方法としては、利用者Jに結び付けられた識別番号を入力される形式でもよい。すなわち例えば元々、制御部56の記憶部70にあらかじめ、利用者Jの識別番号と、身体情報が紐づけられて記憶されていて、利用者Jが利用者情報入力部58に識別番号を入力すれば、身体情報が記憶部70から呼び出される形式でも良い。
【0044】
図7に、利用者Jが、利用者情報入力部58に健康情報を入力する入力画面の例を示す。健康情報とは、利用者Jについての身体の所定部位の状態に関する情報である。身体の各部位の機能が十全に発揮されているかどうかを、利用者Jやその補助者が、利用者情報入力部58で入力する。利用者Jについての身体の所定部位は、腰部、及び、膝部、の少なくともいずれかを含む。
立ち上がり動作に大きな影響を及ぼすと考えられる膝部や腰部の状態が、例えば膝部には問題が無く、腰部に痛みがある場合に、利用者Jは、図7のように健康状態を入力する。もちろん健康状態についても、利用者Jの識別番号と、健康情報が紐づけられて記憶されていて、利用者Jが利用者情報入力部58に識別番号を入力すれば、健康情報が記憶部70から呼び出される形式でも良い。
【0045】
図8に、第1の実施の形態に係る立ち上がり補助機1における立ち上がり動作の補助を説明するフローチャートを示す。制御部56は、表示装置60に、利用者Jについての身体情報の入力を促す画面を表示させる(ステップSA1)。ここで利用者Jやその補助者は、利用者Jの識別番号を入力できてもよい。身体情報が入力されたと、判定部64が判定したならば(ステップSA2:YES)、制御部56は、表示装置60に健康情報の入力を促す画面を表示する(ステップSA3)。一定時間経過しても身体情報が入力されなければ、ステップSA1に戻る。さて判定部64が、健康情報が入力されたと判定したならば(ステップSA4:YES)、制御部56は、入力された身体情報、及び、健康情報の少なくともいずれかに基づいて、支持部14や軸部12の移動速度を変更する(ステップSA5)。具体的には、身体情報、及び、健康情報の少なくともいずれかに基づいて演算部62が第1相P1から第4相P4に至る第1速度、及び、第2速度等の少なくともいずれかを変更する(ステップSA5)。健康情報が入力されていないと、判定部64が判定したならば(ステップSA4:NO)、ステップSA3に戻る。さて立ち上がり指示センサ52Aから立ち上がり指示を示す信号を制御部56が受け取ったならば(ステップSA6:YES)、立ち上がり補助機1は利用者Jに対して立ち上がり補助動作を開始する(ステップSA7)。立ち上がり指示センサ52Aから立ち上がり指示を示す信号を制御部56が受け取らなければ(ステップSA6:NO)、立ち上がり補助機1は動作をしないで待ち状態になる。
【0046】
図9に、入力された身体情報と健康情報に対して、立ち上がり補助機1を制御部56がどのような速度制御をおこなって立ち上がり補助動作をおこなうかについての例を挙げる。体重が重い利用者Jにとって、立ち上がり動作は困難である。そのため制御部56は、その移動速度(第1移動速度)を遅くすることが考えられる。これに対して、利用者Jの体重が標準よりも軽い場合には、速度制御部66が第1移動速度を早くすることも考えられる。また健康状態について、利用者Jの膝部や腰部が悪い場合には、急激な動作を避けるために第1移動速度を速度制御部66が遅くすることも考えられる。もちろん上述の第1収縮速度や第1伸展速度は、独立に制御されてもよい。例えば第1収縮速度の最初は収縮速度を遅くして、次第に速度を速め、収縮動作の終盤においては、収縮速度を再び速度を遅くするといった制御も考えられる。第1伸展速度についても同様である。
【0047】
図10に、利用者JがシートKに着座をする際の、着座動作の補助を説明するフローチャートを示す。着座指示センサ52Bから着座指示を示す信号を制御部56が受け取ったならば(ステップSB1:YES)、速度制御部66において第2移動速度が適用される(ステップSB2)。そして、速度制御部66の制御に基づいて、立ち上がり補助機1が利用者Jに対して着座補助動作を開始する(ステップSB3)。着座指示を示す信号を制御部56が受け取らなければ、ステップSB1に戻る。
【0048】
図11に、利用者情報入力部58に入力された身体情報と健康情報に対して、立ち上がり補助機1を制御部56がどのような移動速度で着座補助制御をおこなうかについての例を挙げる。利用者Jの体重が重い場合には、急な体重移動を支えきれないため、速度制御部66は、第2移動速度を遅くすることが考えられる。逆に体重が軽い人については、速度制御部66は、標準的な速度での補助制御か、あるいは標準よりも早い補助制御をすることが考えられる。
また健康情報について、膝部や腰部の状態が悪いと利用者情報入力部58に入力されていた場合には、利用者Jは屈伸運動が難しいと考えられるので、第2移動速度を遅くすることが考えられる。逆に膝部や腰部の調子が良いと利用者情報入力部58に入力された場合には、リハビリテーションの観点から、第2移動速度を早くすることも考えられる。もちろん上述の第2収縮速度や第2伸展速度は、独立に制御されてもよい。例えば第2収縮速度の最初は収縮速度を遅くして、次第に速度を速め、収縮動作の終盤においては、収縮速度を再び速度を遅くするといった制御も考えられる。第2伸展速度についても同様である。
【0049】
[第2の実施の形態]
図12は、第2の実施の形態に係る立ち上がり補助機1の制御システム150の機能的構成を示すブロック図である。制御部56が実現する機能として、支持部14等が移動する軌道を制御する軌道制御部166を備える点が第1の実施の形態と異なるが、他の構成は同様である。従って構成について詳細な記載は省略する。
【0050】
図13は、利用者Jの身体情報に応じた補助動作の変更について示す。体格が大きな利用者J1を実線で示し、体格が小さな利用者J2を点線で示す。身体情報として身長が高く、重心位置が前方にあり、体重が重いと入力された場合に、立ち上がり補助機1がどのような立ち上がり補助動作をおこなうかについての軌道F5の例を実線矢印で示す。なお図13において身長が低く、重心位置が通常であり、体重が軽いと入力された場合の人物を補助する場合の軌道F4の例を点線矢印で示す。
利用者Jの身長、体重、又は重心位置が異なる場合、立ち上がり時における腕部での体重支持に適した支持部14の位置や移動する軌道は異なってくる。制御部56は、利用者情報入力部58から入力された利用者Jについての身体の所定部位の状態に関する健康情報に応じて、立ち上がり時、及び、着座時の少なくともいずれかにおける支持部14の軌道を変更する。
【0051】
図14に、第2の実施の形態に係る立ち上がり補助機1における立ち上がり動作の補助を説明するフローチャートを示す。制御部56は、表示装置60に、利用者Jについての身体情報の入力を促す画面を表示する(ステップSC1)。ここで利用者Jやその補助者は、利用者Jの識別番号を入力できてもよい。身体情報が入力されたと、判定部64が判定したならば(ステップSC2:YES)、制御部56は表示装置60に健康情報の入力を促す画面を表示する(ステップSC3)。身体情報が入力されなければ、ステップSC1に戻る。さて判定部64が、健康情報が入力されたと判定したならば(ステップSC4:YES)、制御部56は、入力された身体情報、及び、健康情報の少なくともいずれかに基づいて、演算部62が第1相P1から第4相P4に至る支持部や軸部の軌道等を変更する(ステップSC5)。健康情報が入力されていないと、判定部64が判定したならば(ステップSC4:NO)、ステップSC3に戻る。さて立ち上がり指示センサ52Aから立ち上がり指示を示す信号を制御部56が受け取ったならば(ステップSC6:YES)、立ち上がり補助機1は利用者Jに対して立ち上がり補助動作を開始する(ステップSC7)。立ち上がり指示センサ52Aから立ち上がり指示を示す信号を制御部56が受け取らなければ(ステップSC6:NO)、立ち上がり補助機1は動作をしないで待ち状態になる。
【0052】
図15に、入力された身体情報と健康情報に応じて、立ち上がり補助機1を制御部56がおこなう立ち上がり補助制御の結果としての支持部の位置や軌道の例を挙げる。身長が高い利用者Jである場合(例えば図13の実線の場合)、制御部56は、支持部14の高さを高くする制御をおこなう。利用者Jの身長が低い場合(例えば図13の点線の場合)には、制御部56は、支持部14の高さを低くする制御をおこなう。
普段、杖を使用している人や腰が曲がっている人は、立ち上がり完了時の支持部の位置を前寄りにする。反った姿勢の人は立ち上がり完了時の支持位置を後寄りにする制御をおこなう。
体重が重い旨、利用者情報入力部58から入力された場合、利用者Jが立ち上がり動作をする場合、足腰への負担を軽くするために、腕部で体重を支えることが容易になるように、支持部14について前傾姿勢を保つ深い角度まで傾斜させることが考えられる。具体的には第2軸部材42の収縮を大きくすることが考えられる。
健康情報について、膝部に痛みがあると入力された場合、利用者Jは、前傾姿勢が深い方が楽に立ち上がりができることがある。そのような場合には制御部56は、支持部14について前傾姿勢を支えられるように深い角度まで傾斜させることが考えられる。具体的には第2軸部材42の収縮を大きくする。
腰部に痛みがあると入力された場合には、利用者Jは、中腰状態がつらく背筋を伸ばすことが困難であることが考えられ、その場合には制御部56は、支持部14の位置を高くする制御をおこなう。
【0053】
図16に、利用者JがシートKに着座をする際の、フローチャートを示す。着座指示センサ52Bから着座指示を示す信号を制御部56が受け取ったならば(ステップSD1:YES)、軌道制御部166が、支持部14や軸部12の位置で決まる変更された軌道を適用する(ステップSD2)。そして、速度制御部66の制御のもと、立ち上がり補助機1が利用者Jに対して着座補助動作を開始する(ステップSD3)。着座指示を示す信号を制御部56が受け取らなければ、ステップSD1に戻る。
【0054】
図17に、入力された身体情報と健康情報に対して、立ち上がり補助機1を制御部56がどのような軌道や支持位置で着座補助制御をおこなうかについての例を挙げる。利用者Jの身長が高い場合、支持部14の位置を高く保つ軌道にする補助動作をすることが考えられる。身長が低い場合については、その身長に合わせて着座時の支持部の位置を低く保つ補助動作をする。
また健康状態について、利用者Jの膝部や腰部が悪い場合には、利用者Jは膝を曲げ伸ばしすることが困難である可能性があるので、支持部14の位置を低く保つ軌道に軌道制御部166が支持部14の動作を制御する。
【0055】
[上記実施の形態によりサポートされる構成]
上記実施の形態は、以下の構成の具体例である。
【0056】
(構成1)基部と、前記基部に一端が接続され、少なくとも上下動可能な軸部と、前記軸部の他端に設けられる支持部と、前記軸部の動きを制御する制御部と、利用者の情報が入力される利用者情報入力部とを備える立ち上がり補助機において、前記制御部は、前記利用者情報入力部から入力された、前記利用者の身体の所定部位に関する健康情報に応じて、支持部の軌道を変えることを特徴とする立ち上がり補助機。
このような構成によれば、利用者の体調に合わせた立ち上がり補助をすることができる。そのため利用者の自立に役立つという効果を奏する。
【0057】
(構成2)前記健康情報とは、前記利用者についての身体の所定部位に関する情報であることを特徴とする構成1に記載の立ち上がり補助機。
利用者が、立ち上がりし難い場合、その原因は様々考えられる。このような構成によれば、利用者それぞれの身体の部位の状態に合わせた速度や軌道での補助動作が可能になる。そのため利用者の介助に役立つという効果を奏する。
【0058】
(構成3)前記利用者についての身体の所定部位とは、腰部、及び、膝部の少なくともいずれかであることを特徴とする構成1または構成2に記載の立ち上がり補助機。
腰痛や膝痛によって立ち上がり動作、着座動作が妨げられる場合が多くある。このような構成にすれば、どの部位をどのように痛めているか等に合わせて、それに適した軌道で利用者の介助ができるという効果を奏する。
【0059】
(構成4)前記身体情報とは、前記利用者の身長、体重、又は立ち上がり時の重心の位置に関する情報のうちの少なくともいずれかであることを特徴とする構成1から構成3のうちのいずれかに記載の立ち上がり補助機。
利用者の普段の姿勢や身長、体重等に応じて、どのような姿勢を目指して支持をしたらよいか、またどのような速度や軌道で補助をおこなうのが適切かは異なってくる。このような構成によれば利用者の個別の事情に応じた介助ができるという効果を奏する。
【0060】
(構成5)前記制御部は、前記利用者情報入力部から入力された身体情報、及び、前記健康情報の少なくともいずれかに応じて、立ち上がり時、及び、着座時の少なくともいずれかにおける支持部の動作速度を変えることを特徴とする構成1から構成4のうちのいずれかに記載の立ち上がり補助機。
立ち上がり動作と着座動作について、同じ速度での体位変化は利用者にとって恐れを感じさせる可能性がある。このような構成によれば、それぞれの動作に適した速度で、利用者に対して補助動作を行うことができるという効果を奏する。
【0061】
(構成6)前記利用者の立ち上がりに対する前記支持部の前記動作速度よりも、前記利用者の着座に対する前記支持部の前記動作速度の方が遅いことを特徴とする構成5に記載の立ち上がり補助機。
着座動作は、自分の背中側であって視界外の椅子等に座る動作なので、立ち上がり動作と同じ速度での体位変化は利用者にとって恐れを感じる可能性がある。このような構成によれば、利用者が恐れを感じにくい速度で着座動作を行うことができるという効果を奏する。
【0062】
上述した実施形態は、本発明の一態様を例示したものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に変形、及び応用が可能である。もちろん第1実施形態と第2実施形態を組み合わせた態様であってもよい。
【0063】
上述した実施形態において、軸部12は、3本以上の軸部材を前後方向に備えてもよい。また、軸部12は、前後方向に並んだ軸部材の他に、左右方向に並んだ軸部材を備えてもよい。
【0064】
上述した実施形態において、着座動作時に、胸当サポート部36によって利用者Jの身体を圧迫されることを防ぐために、胸当サポート部36に荷重センサを設けてもよい。この場合、制御部56は、着座動作の補助のために駆動部51を制御している間に、利用者Jとの接触による胸当サポート部36への荷重が荷重センサによって検出された場合、駆動部51による駆動を停止する。
【0065】
上述した実施形態における水平、及び垂直等の方向や各種の数値、形状、材料は、特段の断りがない限り、それら方向や数値、形状、材料と同じ作用効果を奏する範囲(いわゆる均等の範囲)を含む。
【符号の説明】
【0066】
1 立ち上がり補助機
10 基部
12 軸部
14 支持部
56 制御部
58 利用者情報入力部
J 利用者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17