(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】空調制御装置、空調制御システムおよび空調制御方法
(51)【国際特許分類】
F24F 11/62 20180101AFI20241210BHJP
F24F 11/46 20180101ALI20241210BHJP
F24F 140/60 20180101ALN20241210BHJP
【FI】
F24F11/62
F24F11/46
F24F140:60
(21)【出願番号】P 2021192477
(22)【出願日】2021-11-26
【審査請求日】2024-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小坂 忠義
(72)【発明者】
【氏名】馬場 宣明
(72)【発明者】
【氏名】町田 芳広
(72)【発明者】
【氏名】金澤 律子
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-199148(JP,A)
【文献】特開2014-081123(JP,A)
【文献】特開2009-265972(JP,A)
【文献】特開2008-157533(JP,A)
【文献】特開2015-124929(JP,A)
【文献】特開2011-226767(JP,A)
【文献】特開2014-074509(JP,A)
【文献】特開2015-010803(JP,A)
【文献】特開平10-030834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/62
F24F 11/46
F24F 140/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの室外機と複数の室内機とを有する空調機の消費電力を制御する空調制御装置であって、
前記空調機の消費電力の目標値を取得する目標電力取得部と、
前記空調機の現在の消費電力値を取得する消費電力取得部と、
前記室内機のそれぞれの現在の室温と設定温度とを取得する温度情報取得部と、
前記目標値が現在の消費電力値より少ない場合に、前記空調機の設定温度を変更して消費電力値が前記目標値になるように、前記空調機が冷房運転中においては、現在の室温が前記設定温度の変更値に対応するサーモオフ温度よりも高い室内機について、前記設定温度の変更値を求め、前記空調機が暖房運転中においては、現在の室温が前記設定温度の変更値に対応するサーモオフ温度よりも低い室内機について、設定温度の変更値を求める制御指示作成部と、
前記設定温度の変更値を室内機に設定する制御指示送信部と、
を備えたことを特徴とする空調制御装置。
【請求項2】
少なくとも1つの室外機と複数の室内機とを有する空調機と、前記空調機の消費電力を調整する空調制御装置を備える空調制御システムであって、
前記空調制御装置は、
消費電力の調整の目標値が前記空調機の現在の消費電力値より少ない場合に、前記空調機の設定温度を変更して消費電力値が前記目標値になるように、前記空調機が冷房運転中においては、現在の室温が前記設定温度の変更値に対応するサーモオフ温度よりも高い室内機について、前記設定温度の変更値を求め、前記空調機が暖房運転中においては、現在の室温が前記設定温度の変更値に対応するサーモオフ温度よりも低い室内機について、設定温度の変更値を求め、
前記室内機は、
設定温度とサーモオフ温度とサーモオン温度を前記空調制御装置に通知すると共に、前記設定温度の変更値に応じて動作する
ことを特徴とする空調制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載の空調制御システムにおいて、
前記室内機は、
前記空調制御装置との間で、設定温度を通知し、
前記空調制御装置は、
前記室内機から通知された前記設定温度に基づいてサーモオフ温度とサーモオン温度を算定して、設定温度の変更値を求め、求めた設定温度を前記室内機に通知する
ことを特徴とする空調制御システム。
【請求項4】
少なくとも1つの室外機と複数の室内機とを有する空調機の冷房運転時の消費電力を目標値に削減制御する空調制御装置の空調制御方法であって、
前記空調機の消費電力の目標値を取得するステップと、
現在の前記空調機の消費電力値を取得するステップと、
前記室内機の現在の室温と設定温度とを取得するステップと、
前記現在の消費電力値と前記目標値とを比較して電力削減であるかを判定するステップと、
室内機毎に前記室内機の現在の室温が、設定温度を変更した際の設定温度に対応するサーモオフ温度より大きいかを判定し、大きい場合に設定温度を変更する室内機から除外するステップと、
除外しない室内機のそれぞれについて、前記現在の空調機の消費電力値から設定温度を変更した際の電力変化量を減算すると共に、設定温度を更新するステップと、
前記現在の空調機の消費電力値から設定温度を変更した際の電力変化量を減算した消費電力値が前記目標値に達したかを判定するステップと
更新した設定温度を前記室内機に送信するステップと、
を含むことを特徴とする空調制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の空調機を制御して消費電力を調整する空調制御装置、空調制御システムおよび空調制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中小規模のビルでは、室外機と複数の室内機を配管で接続し、圧縮機で冷媒を圧縮・循環させるビルマルチエアコンやパッケージエアコンと呼ばれるヒートポンプ式の空調機が設置されることが多い。
【0003】
空調機は、設定温度を元に空調機内部で、圧縮機を停止してサーモオフ状態にする制御温度(サーモオフ温度)と、圧縮機を起動してサーモオン状態にする制御温度(サーモオン温度)を設定し、圧縮機の回転速度や風量の組み合わせによって室温が設定温度に一致するように調整を行う。
【0004】
空調機は、サーモオフ状態が続くと、冷房運転なら室温が上昇し、暖房運転なら室温が低下する。その後、空調機は、サーモオン温度を超えると、圧縮機を起動して、サーモオン状態に制御する。この圧縮機が再起動する場合には、通常よりも大きな起動電力が必要となる。
【0005】
1つの冷媒配管に室内機が複数設置されたビルマルチエアコンやパッケージエアコンでは、各室内機がそれぞれ室内温度を計測して設定温度を超えた場合に、自機への冷媒配管のバルブの閉止操作を行う。これを室内機サーモオフと呼ぶ。室外機は全ての室内機のバルブが閉じられた場合に、圧縮機を停止する室外機サーモオフ制御を行う。室内機のサーモオフ状態が続いてサーモオン温度を超えた場合には、室内機のバルブを開放する。この時、室外機は、停止している場合には再起動する。
【0006】
特許文献1には、複数の室内機が1つの冷媒配管に接続された空調機において、圧縮機の停止と再起動による消費電力の増大を防ぐため、圧縮機の停止・再起動が頻繁に発生する状況を検知して、室内機毎に設定温度を変更することで各室内機のサーモオフの発生タイミングをずらす技術が示されている。
【0007】
また、特許文献2には、室内温度をモニタしながら、全ての室内機がサーモオフになりそうな場合をその都度検知して、事前にサーモオフ温度やサーモオン温度を変化させる技術が示されている。
【0008】
ところで、近年、電力の需要と供給のバランスを取るため、電力系統管理者や電力小売業者の指示により、需要家側に設置された設備の消費電力を調整するDR(Demand Response)の仕組みが実用化されている。ビルマルチエアコンやパッケージエアコンなどの空調機器を用いてDRを行う場合には、ひとつひとつの機器の消費電力が小さいため、複数の空調機器を情報的に接続し、クラウドやサーバの様態の空調制御装置からそれぞれの機器に個別に制御指示を出して必要な電力を調整する手法が知られている。ビルマルチエアコン、パッケージエアコンの電力を調整する具体的な手段としては、温度設定を変更する方法、室外機の出力上限を設定する方法、意図的にサーモオフさせる方法などがある。
【0009】
空調制御装置から個々の空調機に指示を出す際、空調制御装置が各空調機に直接指示を出す場合と、空調制御装置がビル毎あるいはフロア毎に設置された制御端末に指示を出し、制御端末が受信した指示を元に各空調機向けの新たな指示を作成して各空調機に出す場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2012-154600号公報
【文献】特許第6033416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
DR等の消費電力の調整要求により複数の空調機に温度設定の指示を出し、全体の消費電力を調整する空調制御システムにおいて、消費電力を減らす方向に温度設定を変更した際に、温度設定に対応するサーモオフ温度が、室温の現在温度よりも、冷房運転なら高く、暖房運転なら低くなる場合に、サーモオフ状態に移行し圧縮機が停止して消費電力に不連続な変化が発生する問題がある(
図4を参照)。
【0012】
本発明の目的は、ビルマルチエアコンやパッケージエアコンなどの空調機器において、DR等により消費電力の調整を行う場合に、各空調機の消費電力の不連続な変化の発生を防止する空調制御装置、空調制御システムおよび空調制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明の空調制御装置は、少なくとも1つの室外機と複数の室内機とを有する空調機の消費電力を制御する空調制御装置であって、前記空調機の消費電力の目標値を取得する目標電力取得部と、前記空調機の現在の消費電力値を消費電力取得部と、前記室内機のそれぞれの現在の室温と設定温度とを取得する温度情報取得部と、前記目標値が現在の消費電力値より少ない場合に、前記空調機の設定温度を変更して消費電力値が前記目標値になるように、前記空調機が冷房運転中においては、現在の室温が前記設定温度の変更値に対応するサーモオフ温度よりも高い室内機について、前記設定温度の変更値を求め、前記空調機が暖房運転中においては、現在の室温が前記設定温度の変更値に対応するサーモオフ温度よりも低い室内機について、設定温度の変更値を求める制御指示作成部と、前記設定温度の変更値を室内機に設定する制御指示送信部と、を備えるようにした。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ビルマルチエアコンやパッケージエアコンなどの空調機において、DR等により消費電力の調整を行う場合に、各空調機の消費電力の不連続な変化の発生を防止できるので、目標の消費電力に調整することが容易できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態の空調制御システムの機能構成図である。
【
図2】空調制御装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図3】空調制御装置の冷房運転する空調機の動作を制御するフローチャートである。
【
図4】温度設定を変更する際の不連続な消費電力の変化の発生状況を示す図である。
【
図5】温度設定を変更する際の不連続な消費電力の変化が発生しない状況を示す図である。
【
図6】実施形態の他の空調制御システムの機能構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、実施形態の空調制御システムの機能構成図である。
空調制御システムは電力取引を行うアグリゲーションコーディネータシステム2と、空調制御装置1と、ビル5に含まれる空調系統31,32の空調機(室外機、室内機)と空調系統を制御する制御端末12とスマートメータ11と、から構成される。空調制御装置1は、ビル5の他に、図示しない制御端末、空調系統、スマートメータを含むビル6の複数ビルを制御する。
【0018】
空調制御装置1は、ネットワーク102を介して上位のアグリゲーションコーディネータシステム2から目標電力に関する情報を取得する目標電力取得部51と、ビル5の空調機の消費電力情報をビル5内に設置されたスマートメータ11から制御端末12を介して取得する消費電力取得部53と、ビル5、6の室内機から室温と設定温度の情報を取得する温度情報取得部54と、温度情報取得部54で取得した情報から各室内機へ指示する設定温度を作成する制御指示作成部52と、ネットワーク103を介してビル5、6の制御端末12に制御指示作成部52で作成した制御指示を送信する制御指示送信部55と、から構成する。
【0019】
ビル5、6毎に設けられている制御端末12は、ネットワーク107を介して、ビルの空調機の消費電力情報を取得するスマートメータ11と接続している。また、制御端末12は、ネットワーク106を介して、情報線31aに接続する室外機13と室内機14~16の空調系統31と、情報線32aに接続する室外機17と室内機18の空調系統32とに接続して、後述する室温と設定温度の情報を伝達する。
【0020】
室外機13、17には、冷媒を圧縮する圧縮機41、45がそれぞれ組み込まれている。一般的に空調機の消費電力の殆どが圧縮機によるものである。
室外機13には室内機14~16が冷媒配管33で接続され、室内機14~16にはそれぞれ冷媒の流入を制御するためのバルブ42~44が設置されている。室外機17も同様に、室内機18が冷媒配管34により接続されているが、室内機18にはバルブが設置されていない。
【0021】
つぎに、室内機14~16、18の動作を、室内機14を代表にして説明する。
室内機14には、図示しないリモコンが設置され、居住者が室温の設定温度を設定できる。設定温度は、その室内機14が目指すべき室温を意味しており、室内機14は計測した室温が設定温度になるように風量や冷媒の流入量を調整する。
【0022】
室内機14の冷媒の流入量はバルブ42を用いて調整するか、若しくは、室内機14が室外機13に要求することで調整する。
室外機13は各室内機からの要求を集計して圧縮機41の回転数(回転速度)を決定する。
【0023】
室内の冷暖房負荷が空調機の容量に対して小さい場合、冷房時には冷えすぎ、暖房時には温めすぎの状態に陥りやすい。このような場合には、室内機14の冷媒の流入を止めるサーモオフ温度を設定し、室温がサーモオフ温度に到達するとバルブ42を閉じて冷媒の流入を閉止する。冷媒の流入が閉止された室内機14では冷房時には室温が上昇、暖房時には室温が下降するが、サーモオン温度に達すると、バルブ42を開いて冷媒の流入を再開する。バルブが開かれている状態を一般的には室内機のサーモオン状態、バルブが閉じられている状態を室内機のサーモオフと呼ぶ。
【0024】
同じ室外機13に接続された室内機14~16のうち1台のみがサーモオン状態の場合に、室温がサーモオフ温度に到達すると、室外機13は圧縮機41を停止する。その後、室内機14~16のうちのいずれかの室内機がサーモオン温度に達すると、室外機13は圧縮機41を再起動する。
【0025】
空調系統32のように室外機に接続される室内機が1台の場合には、室内機18のように冷媒の流入を制御するためのバルブが設置されていない場合がある。この場合、室温がサーモオフ温度に到達すると室外機17が圧縮機45を停止させ、その後、室温がサーモオン温度に到達すると圧縮機を再起動させる。
【0026】
室内機のサーモオン温度とサーモオフ温度は、設定温度Tsを元に室内機が内部で計算して決定する。サーモオフ温度と設定温度Tsの差分ΔTsoff、サーモオン温度と設定温度Tsの差分ΔTsonは、予め室内機の設計値として決められており、一般的には変えることができない。
【0027】
図2は、空調制御装置1のハードウェア構成を示す図である。
空調制御装置1は、不揮発性記憶媒体91と演算処理を行うCPU92とメモリ93と通信部94とから構成される。通信部94は、ネットワーク102、103に接続する。
そして、不揮発性記憶媒体91に記憶するプログラムをCPU92が実行することにより、目標電力取得部51と制御指示作成部52と消費電力取得部53と温度情報取得部54と制御指示送信部55の機能を実現する。
【0028】
図3は、空調制御装置1が冷房運転する空調機の消費電力増減を行う際の制御フローチャートである。
ステップS1で、空調制御装置1の目標電力取得部51が、アグリゲーションコーディネータシステム2からDRのスケジュールとして、DRの開始日時、終了日時、時間帯毎の削減電力指令を取得する。各時間帯の時間幅は国や地域やDRの商品種別によって異なるが、本実施形態では30分区切りで決定するものとする。
【0029】
ステップS2で、目標電力取得部51は、現在時刻が削減電力指令の開始時刻(DR開始時刻)に達したかどうかを判定し、達した場合には(S2のyes)、S3に処理が移る。開始時刻に達していない場合には(S2のno)、待機する。
【0030】
ステップS3で、目標電力取得部51は、アグリゲーションコーディネータシステム2から削減電力指令の修正情報が来ていないかを確認し、これから始まる30分間の、削減電力指令値と削減前に予測していたベースライン電力との差分から空調機の目標電力P_targetを設定する。
【0031】
ステップS4で、消費電力取得部53は現在の消費電力P_presentを取得する。詳しくは、消費電力取得部53は、制御対象の空調機が設置された各ビル(ビル5、6)のスマートメータ11から制御端末12を介して空調機の消費電力情報を取得して合算し、消費電力P_presentとする。
【0032】
ステップS5で、温度情報取得部54は、現在の各室内機(室内機14、15、16、18)の設定温度Tsとサーモオン温度Ts_onとサーモオフ温度Ts_offとの設定温度情報と、現在の室温T_presentである室温情報と、を取得する。
【0033】
なお、温度情報取得部54は、設定温度情報として設定温度Tsのみを取得し、内部で所定値を加減算してサーモオン温度Ts_onとサーモオフ温度Ts_offとを算出してもよい。空調制御装置1は、室内機の型番と前記所定値との相関リストを予め不揮発性記憶媒体91の中に保持してもよいし、予め消費電力の調整を行わない平常時に各室内機の設定温度と室内温度とサーモオン、サーモオフへの切り替えの挙動を学習して前記所定値を求めて不揮発性記憶媒体91の中に保持しても良い。
【0034】
ステップS6で、制御指示作成部52は、ステップS3で設定した目標電力P_targetとステップS4で取得した現在の消費電力P_presentを比較して、目標電力P_targetより現在の消費電力P_presentの方が大きい場合には(S6のyes)、電力削減方向の処理であるS7に進む。目標電力P_targetが現在の消費電力P_presen以上の場合には(S6のno)、電力増加方向であるS18~S23の処理に分岐する。
【0035】
ステップS7で、制御指示作成部52は、計算用の仮の電力値である電力変数P_tempに現在の消費電力P_presentを代入する。
【0036】
ステップS8で、制御指示作成部52は、室外機13、17に対応する系統番号iをパラメータに、系統番号iが1から最大系統番号まで、ステップS9~S13のループ処理を行う。系統番号はビルを跨いで順に付けられる。つまり、制御指示作成部52は、室外機毎に、ステップS9~S13のループ処理を行う。
【0037】
ステップS9で、制御指示作成部52は、系統番号i毎に、室内機14、15、16や室内機18に対応する室内機番号jをパラメータに、系統番号i毎の室内機の数だけ、ステップS10~S13のループ処理を行う。つまり、制御指示作成部52は、室内機毎に、ステップS10~S13のループ処理を行う。
【0038】
ステップS10で、制御指示作成部52は、室内機の設定温度Ts(i,j)を1℃上げた場合のサーモオフ温度Ts_off(i,j)+1と現在の室温T_present(i,j)との大小を比較する。これは、設定温度を変更した場合にサーモオフ状態への移行が生じないかの判定を意味し、移行が生じる場合の消費電力の不連続な変化が生じないように、当該空調機の設定温度Tsの変更を行わない。具体的には、室温T_present(i,j)がサーモオフ温度Ts_off(i,j)+1より大きいか否かを判定し、大きくない場合には(S10のno)、ステップS11からS13の処理を省略する。
【0039】
ステップS11で、制御指示作成部52は、室内機の設定温度Ts(i,j)を1℃上げた場合の消費電力の削減量である変化量ΔP(Ts(i,j)+1)を計算する。
【0040】
ステップS12で、制御指示作成部52は、室内機の設定温度Ts(i,j)を1℃加算して更新し、電力変数P_tempから変化量ΔP(Ts(i,j)+1)減算する。
【0041】
ステップS13で、制御指示作成部52は、ステップS12で算出した電力変数P_tempと目標電力P_targetと比較する。つまり、設定温度Ts(i,j)の変更による消費電力の削減が目標電力P_targetに達したか否かを判定する。電力変数P_tempが目標電力P_targetより小さくなれば(S13のyes)、アグリゲーションコーディネータシステム2から削減電力指令による設定温度Ts(i,j)の変更値の算出処理を終了し、ステップS14に進む。電力変数P_tempが目標電力P_target以上であれば(S13のno)、ステップS10からS12の処理を繰り返す。
ステップS8によるステップS9~S13のループ処理が終了した場合、又は、ループ処理の途中にステップS13がyesの場合、ステップS14に進む。
【0042】
ステップS14で、制御指示送信部55は、ステップS10からS12の処理で算出した設定温度Ts(i,j)を、ネットワーク103を介してビル5、6の制御端末12に送信する。この際、設定温度Ts(i,j)に対応するサーモオフ温度Ts_off(i,j)とサーモオン温度Ts_on(i,j)とを合わせて送信してもよい。なお、制御端末12は、通知された設定温度Ts(i,j)を、設定温度情報として各室内機に伝達する。
【0043】
ステップS15で、制御指示作成部52は、1分の休止を計測し(1分間の待機)、1分経過したらステップS16に進む。
【0044】
ステップS16で、制御指示作成部52は、ステップS4の処理開始からの時間経過を計測し、30分が経過していなければ(S16のno)、ステップS4に戻る。30分が経過していれば(S16のyes)、ステップS17に進む。
【0045】
ステップS15、S16により、制御指示作成部52は、1分間毎に30分間、ステップS10~S12の設定温度Ts(i,j)の変更値の算出処理を行う。これにより、設定温度Ts(i,j)を1℃加算して徐々に現在の消費電力P_presentを目標電力P_targetに近づけている。
【0046】
ステップS17で、制御指示作成部52は、DRの終了時刻であるかを判定し、終了時刻でなければ(S17のno)、ステップS3に戻り、削減電力指令による設定温度Ts(i,j)の変更値の算出処理を繰り返す。終了時刻であれば(S17のyes)、処理を終了する。
【0047】
つぎに、ステップS6で分岐判定した目標電力P_targetが現在の消費電力P_present以上の電力増加方向の場合に処理について説明する。
ステップS18で、制御指示作成部52は、計算用の仮の電力値である電力変数P_tempに現在の消費電力P_presentを代入する。
【0048】
ステップS19で、制御指示作成部52は、室外機13、17に対応する系統番号iをパラメータに、系統番号iが1から最大系統番号まで、ステップS20~S23のループ処理を行う。系統番号はビルを跨いで順に付けられる。つまり、制御指示作成部52は、室外機毎に、ステップS20~S23のループ処理を行う。
【0049】
ステップS20で、制御指示作成部52は、系統番号i毎に、室内機14、15、16や室内機18に対応する室内機番号jをパラメータに、系統番号i毎の室内機の数だけ、ステップS21~S23のループ処理を行う。つまり、制御指示作成部52は、室内機毎に、ステップS21~S23のループ処理を行う。
【0050】
ステップS21で、制御指示作成部52は、室内機の設定温度Ts(i,j)を1℃下げた場合の消費電力の増加量である変化量ΔP(Ts(i,j)-1)を計算する。
【0051】
ステップS22で、制御指示作成部52は、室内機の設定温度Ts(i,j)を1℃減算して更新し、電力変数P_tempに変化量ΔP(Ts(i,j)-1)加算する。
【0052】
ステップS23で、制御指示作成部52は、ステップS22で算出した電力変数P_tempと目標電力P_targetと比較する。つまり、設定温度Ts(i,j)の変更による消費電力の増加が目標電力P_targetに達したか否かを判定する。電力変数P_tempが目標電力P_target以上であれば(S23のyes)、アグリゲーションコーディネータシステム2から削減電力指令による設定温度Ts(i,j)の変更値の算出処理を終了し、ステップS14に進む。電力変数P_tempが目標電力P_target以上でなければ(S13のyes)、ステップS21からS23の処理を繰り返す。
【0053】
図3のフローチャートでは、系統番号iと室内機番号jの順に温度設定Ts(i,j)の変更を行う処理を説明したが、室内機の順序はこれに限らず、ランダムに行ってもよい。
また、温度設定Ts(i,j)の増減値は1℃に限定されない。
さらに、ステップS15の1分経過やステップS16の30分経過もこれに限定されない。
【0054】
つぎに、アグリゲーションコーディネータシステム2から削減電力指令により温度設定を変更した際の消費電力の変化の様子を
図4、
図5により説明する。
図4、
図5は、冷房運転時における室内機の設定温度、サーモオン温度、サーモオフ温度、室温の温度値の時間変化と、対応する空調機(室外機)の消費電力の時間変化を示す図である。
【0055】
まず、
図3のフローチャートで説明した実施形態の空調制御装置1の制御により、温度設定を変更する際の不連続な消費電力の変化を回避する場合を
図4により説明する。
図4は、温度設定を変更する際の不連続な消費電力の変化の発生状況を示す図である。
【0056】
冷房運転時では、設定温度(破線)に設定された室内機により、室温(太実線)はサーモオン温度とサーモオフ温度の範囲に収まるように制御される。アグリゲーションコーディネータシステム2から削減電力指令により、設定温度が高くなるように設定変更された際に、変更された設定温度におけるサーモオフ温度よりも室温が低くなり、室内機がサーモオフ状態に移行することがある。この際に、
図4に示すように、室外機もサーモオフ状態となった場合に、圧縮機が停止して不連続な電力変動が生じると共に消費電力が増加する問題がある。
【0057】
実施形態の空調制御装置1では、
図3に示したように、ステップS10で、制御指示作成部52は、室温T_present(i,j)がサーモオフ温度Ts_off(i,j)+1より大きいか否かを判定し、大きくない場合には(S10のno)、ステップS11~S13の処理を省略する。つまり、サーモオフ温度よりも室温が低い場合には、ステップS11~S13の処理を省略する。これにより、室内機の設定温度Ts(i,j)の変更を除外するので、
図4で示した圧縮機の不連続な電力変動と消費電力の増加を抑制する。
【0058】
したがって、実施形態の空調制御装置1では、アグリゲーションコーディネータシステム2から削減電力指令により、温度設定が高くなるように設定変更された際に、サーモオフ状態になる室内機が除外され、サーモオフ状態に移行しない室内機について設定変更されるので、
図5に示すように、室内機がサーモオフ状態に移行せず、室外機の消費電力に不連続な電力変動が生じなくすることができる。ここで、
図5は、温度設定を変更する際の不連続な消費電力の変化が発生しない状況を示す図である。
【0059】
冷房運転時の室内機の設定温度Ts(i,j)の変更による室外機の消費電力の変動は、アグリゲーションコーディネータシステム2から増加電力指令により、温度設定が低くなるように設定変更する際にも生じることがある。詳しくは、設定温度を低く設定することで、室温がサーモオン温度を超えて室内機がサーモオフ状態からサーモオン状態に移行し、室外機もサーモオン状態に移行して、室外機に不連続な電力変動が生じる。
【0060】
このため、
図3にフローチャートにおいて、ステップS20とS21の間に、室温T_present(i,j)がサーモオン温度Ts_on(i,j)-1より大きいか否かを判定し、大きい場合に、ステップS21~S23の処理を省略するステップを追加してもよい。
【0061】
また、暖房運転時で電力削減方向の場合には、
図3のステップS10において、室温T_present(i,j)がサーモオフ温度Ts_off(i,j)-1より大きいか否かを判定し、大きい場合に、ステップS11~S13の処理を省略するようにしてもよい。
【0062】
さらに、暖房運転時で電力増加方向の場合には、
図3のステップS20とS21の間に、室温T_present(i,j)がサーモオン温度Ts_on(i,j)+1より大きいか否かを判定し、大きくない場合に、ステップS21~S23の処理を省略するステップを追加してもよい。
【0063】
上述では、実施形態の空調制御装置1が、室内機の温度設定を変更する際に、現在の室温と変更する設定温度に対応するサーモオフ温度またはサーモオン温度とを比較して、サーモオフ状態またはサーモオン状態に移行する室内機を除外して、室内機の設定温度を変更することを説明した。
【0064】
これを言い換えれば、実施形態の空調制御装置1は、空調機が冷房運転中で電力削減する場合には、現在の室温が変更する設定温度に対応するサーモオフ温度よりも高い室内機について、室内機の設定温度を変更すると言える。
【0065】
また、実施形態の空調制御装置1は、空調機が暖房運転中で電力削減する場合には、現在の室温が変更する設定温度に対応するサーモオフ温度よりも低い室内機について、室内機の設定温度を変更すると言える。
【0066】
また、実施形態の空調制御装置1は、空調機が冷房運転中で電力増加する場合には、現在の室温が変更する設定温度に対応するサーモオン温度よりも低い室内機について、室内機の設定温度を変更すると言える。
【0067】
さらに、実施形態の空調制御装置1は、空調機が暖房運転中で電力増加する場合には、現在の室温が変更する設定温度に対応するサーモオン温度よりも高い室内機について、室内機の設定温度を変更すると言える。
【0068】
以上の実施形態の空調制御システムでは、ビルマルチエアコンやパッケージエアコンなどの空調機器を用いてDRを行う場合に、各空調機の消費電力の不連続な変化の発生を防止するので、目標の消費電力に調整することを容易にすることができる。
つぎに、実施形態の他の空調制御システムを説明する。
【実施例2】
【0069】
図6は、実施形態の他の空調制御システムの機能構成図である。
図1で説明した空調制御システムとは、
図1の制御端末12に替えて上述した空調制御装置1を設けるようにすると共に、アグリゲーションコーディネータシステム2からの電力削減指示をビル毎の電力削減指示に分解して空調制御装置1に伝達するリソースアグリゲータシステム3を備えることが異なる。また、空調制御装置1の機能は、制御指示送信部55が、求めた設定温度Ts(i,j)を各室内機で伝達することが異なり、他は、実施例1と同様のため、説明を省略する。
【0070】
空調制御装置1は、ビル5内の空調機を対象に制御するので、DRを行う場合に、各空調機の消費電力の不連続な変化の発生を防止するので、目標の消費電力に調整することを容易にすることができると共に、各室内機とのネットワークの距離が短くなるため、DRに対するレスポンス遅れの発生を防止することができる。
【0071】
空調制御装置1の温度情報取得部54が、設定温度情報として設定温度Tsのみを取得し、内部で所定値を加減算してサーモオン温度Ts_onとサーモオフ温度Ts_offとを算出し、制御指示作成部52が、算出したサーモオン温度Ts_onとサーモオフ温度Ts_offによりアグリゲーションコーディネータシステム2から削減電力指令による設定温度Ts(i,j)の変更値の算出処理を行い、制御指示送信部55が、求めた設定温度Ts(i,j)のみを各室内機で伝達するようにしてもよい。
この場合には、各室内機は、伝達された設定温度Tsに基づいて、サーモオン温度とサーモオフ温度を算出して、空調制御する。
【0072】
なお、空調制御装置1は、室内機の型番と前記所定値との相関リストを予め不揮発性記憶媒体91の中に保持してもよいし、予め消費電力の調整を行わない平常時に各室内機の設定温度と室内温度とサーモオン、サーモオフへの切り替えの挙動を学習して前記所定値を求めて不揮発性記憶媒体91の中に保持しても良い。
【0073】
空調制御装置1と各室内機との間で、設定温度情報として設定温度Tsのみを伝達することにより、空調制御システムの情報伝送量が少なくなるので、DRに対するレスポンス遅れの発生を防止することができる。
【0074】
上述では、実施形態の空調制御装置1がアグリゲーションコーディネータシステム2から削減電力指令により室内機の温度設定を変更することを説明したが、空調制御装置1が削減電力量の目標値を定めて、室内機の温度設定を変更するデマンドコントロールシステムにも適用できる。
【0075】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明で分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 空調制御装置
2 アグリゲーションコーディネータシステム
11 スマートメータ
12 制御端末
51 目標電力取得部
52 制御指示作成部
53 消費電力取得部
54 温度情報取得部
55 制御指示送信部
13、17 室外機(空調機)
14、15、16、18 室内機(空調機)