(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】リアルタイム予測のためのラマン分光モデルの自動校正及び自動保守
(51)【国際特許分類】
G16C 20/70 20190101AFI20241210BHJP
G16C 20/10 20190101ALI20241210BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20241210BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241210BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20241210BHJP
G01N 21/65 20060101ALI20241210BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
G16C20/70
G16C20/10
C07K14/47
C12M1/34 B
C12M3/00 Z
G01N21/65
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2021521530
(86)(22)【出願日】2019-10-23
(86)【国際出願番号】 US2019057513
(87)【国際公開番号】W WO2020086635
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-18
(32)【優先日】2018-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トゥルシャン,アディティア
【審査官】渡邉 加寿磨
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-522249(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0072122(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0311136(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0046641(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0244251(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0119244(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G16C 10/00-99/00
C07K 14/47
C12M 1/34
C12M 3/00
C12N 5/10
G01N 21/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物薬剤プロセスを監視及び/又は制御するためのコンピュータ実行方法であって、
1つ以上のプロセッサによって、分光システムによる前記生物薬剤プロセスの走査に関連するクエリポイントを特定することと、
前記1つ以上のプロセッサによって、生物薬剤プロセスの過去の観測に関連する複数の観測データセットを含む観測データベースに問い合わせることであって、前記観測データセットのそれぞれはスペクトルデータ及び対応する実際の分析測定を含み、前記観測データベースに問い合わせることは、前記複数の観測データセットの中から、前記クエリポイントに関して1つ以上の関連性基準を満たす観測データセットを訓練データとして選択することを含むことと、
前記1つ以上のプロセッサによって、及び前記選択された訓練データを用いて、前記生物薬剤プロセスに特有のローカルモデルを較正することであって、前記ローカルモデルは、スペクトルデータ入力に基づいて分析測定を予測するよう訓練されることと、
前記1つ以上のプロセッサによって、前記生物薬剤プロセスの分析測定を予測することであって、前記生物薬剤プロセスの前記分析測定を予測することは、前記ローカルモデルを用いて、前記生物薬剤プロセスを走査する際に前記分光システムが生成したスペクトルデータを分析することを含むことと、を含む、
方法。
【請求項2】
a)前記分光システムはラマン分光システムであること、及び、
b)クエリポイントを特定することは、スペクトル走査ベクトルに少なくとも部分的に基づいて前記クエリポイントを特定することを含み、前記スペクトル走査ベクトルは、前記生物薬剤プロセスを走査する際に前記分光システムによって生成され、
前記クエリポイントに関して1つ以上の関連性基準を満たす前記観測データセットを訓練データとして選択することは、前記クエリポイントの特定の基礎となった前記スペクトル走査ベクトルを、前記生物薬剤プロセスの前記過去の観測に関連するスペクトル走査ベクトルと比較することを含むこと、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項3】
クエリポイントを特定することは、前記スペクトル走査ベクトルに関連する試料数に基づいて前記クエリポイントを特定することを更に含み、
前記クエリポイントに関して1つ以上の関連性基準を満たす前記観測データセットを訓練データとして選択することは、(i)前記クエリポイントの特定の基礎となった前記スペクトル走査ベクトルを、前記生物薬剤プロセスの前記過去の観測に関連するスペクトル走査ベクトルと比較することと、(ii)前記クエリポイントに関連する前記試料数を、前記生物薬剤プロセスの前記過去の観測に関連する試料数と比較することとを含む、
請求項2に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項4】
前記クエリポイントに関して1つ以上の関連性基準を満たす前記観測データセットを訓練データとして選択することは、
前記訓練データに含めるための最新のk観測データセットを選択することを含む、
請求項3に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項5】
a)前記生物薬剤プロセスの前記分析測定を予測することは、前記ローカルモデルを用いて、前記クエリポイントの特定の基礎となった前記スペクトル走査ベクトルを分析することを含むこと、及び、
b)前記クエリポイントに関して1つ以上の関連性基準を満たす前記観測データセットを訓練データとして選択することは、
(i)前記クエリポイントの特定の基礎となった前記スペクトル走査ベクトルと、(ii)前記生物薬剤プロセスの前記過去の観測に関連する前記スペクトル走査ベクトルとの間の距離を計算することと、
前記クエリポイントの特定の基礎となった前記スペクトル走査ベクトルの閾距離内にある前記過去の観測に関連する前記スペクトル走査ベクトルのいずれかを前記訓練データとして選択することを含むことと、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項2~4のいずれか一項に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項6】
a)前記クエリポイントを特定することが、(i)前記生物薬剤プロセスに関連する媒体プロファイル、及び(ii)前記生物薬剤プロセスが分析される1つ以上の動作条件のうちの一方又は両方に少なくとも部分的に基づいて、前記クエリポイントを特定することを含むこと、
b)前記生物薬剤プロセスに特有のローカルモデルを較正することが、前記生物薬剤プロセスに特有のガウス過程機械学習モデルを較正することを含むこと、
c)前記生物薬剤プロセスに特有のローカルモデルを較正することが、スペクトルデータと所定の観測データセットの試料数の両方の関数であるモデルを較正することを含むこと、
d)前記生物薬剤プロセスの分析測定を予測することが、前記ローカルモデルを用いて、前記生物薬剤プロセスの前記予測した分析測定に関連する信頼度指標を特定することを含むこと、
e)前記方法が、前記1つ以上のプロセッサによって、及び前記生物薬剤プロセスの前記予測した分析測定に少なくとも部分的に基づいて、前記生物薬剤プロセスの少なくとも1つのパラメータを制御することを更に含むこと、
f)前記生物薬剤プロセスの前記予測した分析測定が、媒体成分濃度、媒体状態、生細胞密度、力価、重要な品質属性、又は細胞状態であること、
g)前記生物薬剤プロセスの前記予測した分析測定が、グルコース、乳酸、グルタミン酸、グルタミン、アンモニア、アミノ酸、Na
+、又はK
+の濃度であること、
h)前記生物薬剤プロセスの前記予測した分析測定は、pH、pCO
2、pO
2、温度、又は浸透圧であること、
i)前記方法が、分析機器によって、前記生物薬剤プロセスの実際の分析測定を取得することと、前記1つ以上のプロセッサによって、(i)前記実際の分析測定が得られた際に分光システムが生成したスペクトルデータ、及び(ii)前記生物薬剤プロセスの前記実際の分析測定を、前記観測データベースに追加させることと、を更に含むこと、及び、
j)前記生物薬剤プロセスは細胞培養プロセスであること、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項7】
前記1つ以上のプロセッサによって、少なくとも前記予測した分析測定が1つ以上のモデル性能基準を満たさないと特定することを更に含み、
前記実際の分析測定を取得することは、少なくとも前記予測した分析測定が前記1つ以上のモデル性能基準を満たさないと特定することに応じて実行される、
請求項6に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項8】
少なくとも前記予測した分析測定が前記1つ以上のモデル性能基準を満たさないと特定することは、
前記予測した分析測定に関連する信頼性間隔を生成することと、
前記信頼性間隔を予め定義された閾値と比較することと、を含む、
請求項7に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項9】
生物薬剤プロセスを監視及び/又は制御するための分光システムであって、
(i)ソース電磁放射を前記生物薬剤プロセスに送出し、(ii)前記ソース電磁放射が前記生物薬剤プロセスに送出されている間に電磁放射を収集するよう集合的に構成される1つ以上の分光プローブと、
生物薬剤プロセスの過去の観測に関連する複数の観測データセットを含む観測データベースを集合的に格納する1つ以上のメモリであって、前記観測データセットのそれぞれがスペクトルデータ及び対応する実際の分析測定を含む、メモリと、
1つ以上のプロセッサであって、
前記分光システムによって前記生物薬剤プロセスの走査に関連するクエリポイントを特定し、
前記複数の観測データセットの中から、前記クエリポイントに関して1つ以上の関連性基準を満たす観測データセットを訓練データとして少なくとも選択することによって、前記観測データベースに問い合わせ、
前記選択された訓練データを用いて、前記生物薬剤プロセスに特有のローカルモデルを較正することであって、前記ローカルモデルは、スペクトルデータ入力に基づいて分析測定を予測するよう訓練され、
少なくとも、前記ローカルモデルを用いて、前記1つ以上の分光プローブにより前記生物薬剤プロセスを走査する際に前記分光システムが生成したスペクトルデータを分析することによって、前記生物薬剤プロセスの分析測定を予測するよう構成される1つ以上のプロセッサと、を備える、
分光システム。
【請求項10】
a)前記分光システムはラマン分光法システムであること、
b)前記1つ以上のプロセッサは、
スペクトル走査ベクトルに少なくとも部分的に基づいて前記クエリポイントを特定することであって、前記スペクトル走査ベクトルは、前記生物薬剤プロセスを走査する際に前記分光システムによって生成され、
前記クエリポイントの特定の基礎となった前記スペクトル走査ベクトルを、前記生物薬剤プロセスの前記過去の観測に関連するスペクトル走査ベクトルと少なくとも比較することによって、前記訓練データを選択するよう構成されること、
c)前記ローカルモデルはガウス過程機械学習モデルであること、
d)前記ローカルモデルは、スペクトルデータ及び所定の観測データセットの試料数の両方の関数であること、
e)前記1つ以上のプロセッサは、前記ローカルモデルを用いて、前記
生物薬剤プロセスの前記予測した分析測定に関連する信頼度指標を特定するよう更に構成されること、
f)前記1つ以上のプロセッサは、前記生物薬剤プロセスの前記予測した分析測定に少なくとも部分的に基づいて、前記生物薬剤プロセスの少なくとも1つのパラメータを制御するよう更に構成されること、
g)前記生物薬剤プロセスの前記予測した分析測定は、媒体成分濃度、媒体状態、生細胞密度、力価、重要な品質属性、又は細胞状態であること、
h)前記生物薬剤プロセスの前記予測した分析測定は、グルコース、乳酸、グルタミン酸、グルタミン、アンモニア、アミノ酸、Na
+、又はK
+の濃度であること、
i)前記生物薬剤プロセスの前記予測した分析測定は、pH、pCO
2、pO
2、温度、又は浸透圧であること、
j)前記生物薬剤プロセスの実際の分析測定を取得するよう構成される分析機器を更に備え、
前記1つ以上のプロセッサは、更に、(i)前記実際の分析測定が得られた際に分光システムが生成したスペクトルデータ、及び(ii)前記生物薬剤プロセスの前記実際の分析測定を、前記観測データベースに追加させるよう更に構成されること、
k)前記1つ以上のプロセッサは、
少なくとも前記予測した分析測定が1つ以上のモデル性能基準を満たさないと特定し、
少なくとも前記予測した分析測定が前記1つ以上のモデル性能基準を満たさないと特定することに応じて、前記分析機器から前記実際の分析測定を取得するよう更に構成されること、
l)前記1つ以上のプロセッサは、少なくとも、
前記予測した分析測定に関連する信頼性間隔を生成することと、
前記信頼性間隔を予め定義された閾値と比較することとによって、
少なくとも前記予測した分析測定が前記1つ以上のモデル性能基準を満たさないと特定するよう構成されること、及び、
m)前記生物薬剤プロセスは細胞培養プロセスであること、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項9に記載の分光システム。
【請求項11】
前記1つ以上のプロセッサは、
前記スペクトル走査ベクトルに関連する試料数に部分的に基づいて前記クエリポイントを特定し、
(i)前記クエリポイントの特定の基礎となった前記スペクトル走査ベクトルを、前記生物薬剤プロセスの前記過去の観測に関連するスペクトル走査ベクトルと比較し、(ii)前記クエリポイントに関連する前記試料数を、前記生物薬剤プロセスの前記過去の観測に関連する試料数と比較することによって、部分的に前記クエリポイントに関して1つ以上の関連性基準を満たす前記観測データセットを訓練データとして選択するよう構成される、
請求項10に記載の分光システム。
【請求項12】
前記1つ以上のプロセッサは、
前記訓練データに含めるための最新のk観測データセットを選択することによって、
部分的に前記クエリポイントに関して1つ以上の関連性基準を満たす前記観測データセットを訓練データとして選択するよう構成される、請求項11に記載の分光システム。
【請求項13】
生物薬剤プロセスを監視及び/又は制御するための命令を格納する非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記命令は、1つ以上のプロセッサによって実行される場合に、前記1つ以上のプロセッサに、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法を実行させる、非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項14】
バイオリアクタシステムであって、
生物薬剤プロセスを含むために構成されるバイオリアクタチャンバと、
請求項9~12のいずれか一項に記載の分光システムと、を備える、
バイオリアクタシステム。
【請求項15】
細胞培養プロセスにおいて組換えタンパク質を産出するように構成された請求項14に記載のバイオリアクタシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
2018年10月23日出願の米国仮特許出願第62/749,359号、2019年4月12日出願の米国仮特許出願第62/833,044号、及び2019年6月21日出願の米国仮特許出願第62/864,565号に対する優先権を主張し、それらそれぞれの全てを引用して本明細書中に組み込む。
【0002】
本願は、一般に、ラマン分光測定等の分光技術を用いる生物薬剤プロセスの監視及び/又は制御に関し、より詳細には、予測モデルのオンライン較正及び保守に関する。
【背景技術】
【0003】
生物薬剤プロセスによる生物治療用タンパク質の安定した生産は、一般に、バイオリアクタが均衡のとれた一定のパラメータ(例えば、細胞代謝濃度)を維持することを必要とし、これは、ひいては、厳密なプロセス監視及び制御を必要とする。これらの要求を満たすために、プロセス解析工学(PAT)ツールがますます採用されている。pH、溶存酸素、及び細胞培養温度のオンライン監視は、フィードバック制御システムで用いられてきた従来のPATツールの幾つかの例である。近年、生細胞密度(VCD)、グルコース、乳酸、並びに他の重要な細胞代謝物、アミノ酸、力価、及び重要な品質特性等のより複雑な種の連続監視のために、他のインプロセスプローブが研究され、配備されている。
【0004】
ラマン分光法は、生物製剤製造におけるオンライン監視に広く用いられている一般的なPATツールである。化学組成及び分子構造の非破壊分析が可能な光学的方法である。ラマン分光法では、入射レーザ光は分子振動モードにより非弾性的に散乱する。入射光子と散乱光子との間の周波数差は「ラマンシフト」と称し、強度レベルに対するラマンシフトのベクトル(本明細書中で「ラマンスペクトル」、「ラマン走査」、又は「ラマン走査ベクトル」と称する)は、試料の化学組成及び分子構造を特定するよう分析することができる。過去30年間に、レーザーサンプリング及び検出器技術が進歩したことにより、ポリマー、医薬品、生物製剤製造、及び生物医学的分析におけるラマン分光の適用が急増した。これらの技術の進歩により、ラマン分光測定は現在、実験室内外の両方で用いられる実用的な分析技術となっている。生物製剤製造におけるin-situラマン測定の適用が最初に報告されて以来、グルコース、乳酸、グルタミン酸、グルタミン、アンモニア、VCD等の幾つかの重要なプロセス状態のオンライン、リアルタイム予測を提供するために採用されてきた。これらの予測は、通常、分析機器からの分析測定に基づいて、オフライン設定において構築される較正モデル又はソフトセンサモデルに基づいている。部分最小二乗法(PLS)及び多重線形回帰モデリング法は、ラマンスペクトルを分析測定と相関させるために一般に用いられている。これらのモデルは、通常、分析測定に対して較正する前に、ラマン走査の前処理フィルタリングを必要とする。較正モデルが訓練されると、モデルはリアルタイム設定において実装されて、プロセス監視及び/又は制御のためのin-situ測定を提供する。
【0005】
生物薬剤プロセスは、通常、厳しい制約及び規制の下で運用されるため、生物薬剤用途のためのラマンモデル較正は簡単ではない。生物薬剤産業におけるラマンモデル較正のための現在の最先端のアプローチは、ラマンスペクトルを分析測定に相関させるために用いられる関連データを生成するよう、第1に複数のキャンペーン試験を実行することである。各キャンペーンが、例えば、実験環境において2~4週間に及ぶ可能性があるため、これらの試験は費用及び時間の両方がかかる。更に、分析機器には限られた試料しか利用できない可能性がある(例えば、実験室規模のバイオリアクタが健全な量の生存細胞を維持することを確実にするため)。実際、インライン又はオフラインの分析機器から、毎日1つか2つの測定値しか入手できないことは珍しくない。状況を更に悪化させているのは、現在のベストプラクティスが、特定のプロセス、バイオリアクタ媒体の特定の調合又はプロファイル、及び特定の動作条件に結び付けられる較正モデルをもたらしていることである。従って、前述の変数のいずれかが変更された場合、モデルは新しいデータに基づいて再較正される必要がある。実際、ラマンモデルの較正及びモデルの保守の両方は、膨大なリソース割り当てを必要とし、通常はオフライン設定で実行される。新しい動作条件にモデルを適応させるアプローチが提案されているが(例えば、再帰的、移動ウィンドウ、及び時間差法)、これらの方法は、急激なプロセス変化を適切に処理することができない可能性がある。
【0006】
複数の分子に対して従来のケモメトリックス法(例えば、PLSモデリング)に基づく一般的なラマンモデルを説明する多くの刊行物がある。しかし、これらの一般的なモデルは、プロセスが、同一でないとしても、類似した媒体調合及び/又は実行プロセス条件を用いることを仮定している。媒体及びとプロセスは、通常、ほとんど又は全く変化なくプラットフォーム化されている。この種類の一般モデルの欠点は、一旦プロセスが標準から逸脱するか、又は訓練データセットが異なる分子間の変動(例えば、媒体添加剤、プロセス期間、及び/又は他のプロセス変化)を説明するためにプロセス範囲をあまりにも広範に含む場合、一般モデルは精度及び正確さを失うことである。従って、これらの「一般的な」モデルは、記述された厳密な境界内でのみ一般的である。Mehdizaheh他、Biotechnolo.Prog.31(4):1004-1013、2015;Webster他、Biotechnol.Prog.34(3):730-737、2018を参照されたい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Mehdizaheh他、Biotechnolo.Prog.31(4):1004-1013、2015
【文献】Webster他、Biotechnol.Prog.34(3):730-737、2018
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
用語「生物薬剤プロセス」は、所望の組換えタンパク質を生成する細胞培養プロセス等の生物製剤製造において用いられるプロセスを指す。細胞培養は、バイオリアクタ等の細胞培養容器内で、タンパク質を発現するよう操作された生物の成長及び維持を支持する条件下で行われる。組換えタンパク質産出の間、栄養及び代謝産物(例えば、グルコース、乳酸、グルタミン酸、グルタミン、アンモニア、アミノ酸、Na+、K+及び他の栄養又は代謝産物)を含む媒体成分濃度、媒体状態(pH、pCO2、pO2、温度、浸透圧等)、並びに細胞及び/又はタンパク質パラメータ(例えば、生細胞密度(VCD)、力価、細胞状態、重要な品質特性等)等のプロセスパラメータは、細胞培養プロセスの制御及び/又は維持のために監視される。
【0009】
現在の最良の工業的実施の上述の限界の幾つかに対処するために、本明細書中に説明する実施形態は、ラマン分光測定等の生物薬剤プロセスの分光分析のための従来の技術を改善するシステム及び方法に関する。特に、「ジャストインタイムラーニング」(JITL)プラットフォームは、生物薬剤用途のためにリアルタイムで較正モデル(例えば、ラマン較正モデル)を構築し、維持するために用いられる。JITLは、ローカルモデリング及びデータベースサンプリング技術に基づく非線形モデリングプラットフォームである。他の機械学習法とは異なり、JITLは一般に、利用可能な全ての観測データが中央データベースに格納され、モデルは、データベースから最も関連性の高いデータを用いて、クエリに基づいてリアルタイムで動的に構築されると想定している。これにより、比較的単純なローカルモデルを用いた複雑なプロセスダイナミクスの良好な近似が可能になる。JITLの枠組みの下では、ライブラリは、特定の動作条件下で動作する単一プロセスのスペクトルデータだけでなく、異なるプロセス、異なる媒体プロファイル、及び/又は異なる動作条件のデータも含んでいてもよい。これにより、特に、過去の製造履歴がほとんど又は全くない可能性があるパイプライン医薬品に対して、モデルを較正し、維持するのに必要な時間を大幅に短縮することができる。
【0010】
JITLのプラットフォームは、新しい分析測定が利用可能になるたびに更新されてもよい動的ライブラリを維持している。更に、ローカルモデルが新しいプロセス条件に適合することを確実にするために、最後に利用可能な分析測定(例えば、現在監視されている製品について)は、ローカルモデリングのための訓練セットに常に含まれていてもよい。これにより、ローカルモデルは、新しい条件、又は履歴のない新しい製品ラインにより迅速に適応することが可能となる。このアプローチを用いて、モデル較正及びモデル保守の両方を自動化してもよく、従来のシステムにおけるルーチン較正に関連する時間及び費用(例えば、材料及び人件費)を大幅に低減する可能性がある。更に、モデル予測に関して信頼性限界(又は信頼度スコア等の他の信頼度指標)を提供する能力は、ロバストな監視及び制御戦略を可能にしてもよい。
【0011】
幾つかの実施形態において、ガウス過程モデルを、JITLフレームワーク内のローカルモデリングのために用いる。ガウス過程モデルは、複雑な非線形プロセスダイナミクスを効率的に取り込むことができ、実質的にあらゆるプロセス変化に容易に適応することができる強力な統計的機械学習モデルである。PLS、主成分回帰(PCR)、及び他の種類の回帰モデルとは対照的に、ガウス過程モデルはノンパラメトリック法であり、ラマンスペクトルと限られたデータセットからの分析測定との間の複雑な相関を捕捉することがはるかに可能である。更に、ガウス過程モデルは一般に、ラマン走査の前処理フィルタリングを必要としない。従って、幾つかの実施形態において、ガウス過程モデルは、代わりに生のラマン走査に関して較正され(対数スケールで)、これは、モデル較正/保守プロセスにおける多くのステップを節約する可能性がある。更に、ガウス過程モデルは、PLS又はPCRモデルを用いて得ることが極めて困難である可能性がある、予測を中心とする信頼性限界を提供する。信頼性限界は、分析機器のための最適サンプリング戦略を設計するために、及び/又は、例えば、信頼できない予測に基づいて行われる変更を回避するよう、閉ループ制御(例えば、モデル予測制御、即ちMPC)を実施するために、特に有用であってもよい。
【0012】
JITLは非線形モデリングフレームワークであり、上で説明したアプローチは、最近の分析測定により動的ライブラリを更新することによって幾つかの適合性を提供するが、JITLだけでは、時変プロセス条件(例えば、設定点又は他のプロセス条件に対する急激な変化)を説明するのに十分な適合性がない可能性がある。特に、JITLを用いて較正されたローカルモデルは、最近の試料を利用できない可能性がある。例えば、特に、プロセス条件の最近の急激な変化があった場合、最近の試料は、純粋に「空間的」類似性(例えば、ラマン走査の類似性)に基づく類似性基準を満たすことができない可能性がある。(空間的類似性に関係なく)最近の試料によって提供される情報を良好に活用することができ、従って、時変プロセス変化に良好に適応することができる修正JITL技術もまた、本明細書中に説明する。特に、モデル校正及び保守のための「適応型」JITL(A-JITL)及び「時空間型」JITL(ST-JITL)技術を本明細書中に説明する。
【0013】
ローカルモデルが最新の分析測定から学習し、それによって時変条件に迅速に適応することができる実時間モデル保守は、JITL技術の成功にとって重要である可能性がある。しかし、分析機器/測定への頻繁なアクセス(例えば、オフライン試料を分析すること)は、極めてリソース集約的である傾向がある。モデル性能を過度に低下させることなく、かかるリソース使用を最小限に抑えるために、現在のモデル性能が許容できない/信頼できないと特定することに応じて、システムが分析測定をスケジューリング/トリガする性能ベースのモデル保守プロトコルが実装されてもよい。
【0014】
当業者は、本明細書において記述されている図は、例示を目的として含まれるものであり、且つ、本開示を限定するものではないことを理解するであろう。図面は、必ずしも縮尺が正確ではなく、その代わりに、本開示の原理を図示することに重点が置かれている。幾つかの例においては、記述されている実装の理解を促進するべく、記述されている実装の様々な態様が誇張又は拡大された状態で示されている場合があることを理解されたい。図面においては、様々な図面の全体を通じて、同一の参照符号は、一般に、機能的に類似した且つ/又は構造的に類似したコンポーネントを参照している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】生物薬剤プロセスの分析測定を予測するために用いられてもよい一例のラマン分光システムの簡略化されたブロック図である。
【
図2】グルコース濃度の閉ループ制御のための生物薬剤プロセスの分析測定値を予測するために用いられてもよい一例のラマン分光システムの簡略化されたブロック図である。
【
図3】本明細書中に説明するラマン分光システムの実装例を用いるグルコース濃度の閉ループ制御のための実験結果を示す。
【
図4】ジャストインタイムラーニング(JITL)技法を用いて生物薬剤プロセスを分析する際に生じる可能性がある一例のデータフローを示す。
【
図5】適応型JITL(A-JITL)技法を用いて生物薬剤プロセスを分析する際に生じる可能性がある一例のデータフローを示す。
【
図6】時空間型JITL(ST-JITL)技法を用いて生物薬剤プロセスを分析する際に生じる可能性がある一例のデータフローを示す。
【
図7】生物薬剤プロセスを分析するための一例の方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記において紹介されると共に以下において更に詳述される様々な概念は、多数の方法のうちの任意のものにおいて実装することができると共に、記述されている概念は、実装の任意の特定の方式に限定されるものではない。例示を目的として、実装の例が提供されている。
【0017】
図1は、生物薬剤プロセスの分析測定を予測するために用いられてもよい一例のラマン分光測定システム100の簡略化されたブロック図である。
図1は、ラマン分光測定法を実施するシステム100を示すが、他の実施形態において、システム100は、例えば、近赤外(NIR)分光法等の生物薬剤プロセスを分析することに適した他の分光測定法を実施してもよいことは言うまでもない。
【0018】
システム100は、バイオリアクタ102と、1つ以上の分析機器104と、ラマンプローブ108を有するラマンアナライザ106と、コンピュータ110と、ネットワーク114を介してコンピュータ110に結合されるデータベースサーバ112とを含む。バイオリアクタ102は、媒体内の生体及び/又はそこから誘導される物質(例えば、細胞培養物)を含んでいてもよい生物学的に活性な環境を支持する任意の適切な容器、デバイス、又はシステムであってもよい。バイオリアクタ102は、例えば、研究目的、臨床使用、商業的販売、又は他の流通のため等に、細胞培養物によって発現する組換えタンパク質を含んでいてもよい。監視される生物薬剤プロセスに応じて、媒体は、特定の流体(例えば、「ブロス」)及び特定の栄養素を含んでいてもよく、目標pHレベル又は範囲、目標温度又は温度範囲等のような目標媒体状態パラメータを有していてもよい。媒体はまた、有機体並びに代謝産物及び組換えタンパク質等の有機体由来の物質を含んでいてもよい。媒体の内容物及びパラメータ/特性をまとめて、本明細書中では「媒体プロファイル」と称する。
【0019】
分析機器104は、そこから採取された試料に基づいて、バイオリアクタ102内の生物学的活性内容物の1つ以上の特徴又はパラメータを測定するよう構成される任意のインライン、アットライン、及び/又はオフライン機器若しくは複数の機器であってもよい。例えば、分析機器104は、栄養素及び/又は代謝産物レベル(例えば、グルコース、乳酸、グルタミン酸、グルタミン、アンモニア、アミノ酸、Na+、K+等)並びに媒体状態パラメータ(pH、pCO2、pO2、温度、浸透圧等)等のような1つ以上の媒体成分濃度を測定してもよい。加えて、又は代替として、分析機器104は、浸透圧、生細胞密度(VCD)、力価、重要な品質属性、細胞状態(例えば、細胞周期)、及び/又はバイオリアクタ102の内容物に関連する他の特徴若しくはパラメータを測定してもよい。より詳細な実施例として、試料を採取し、遠心分離し、複数のカラムによって精製し、分析機器104(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又は超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)機器)の第1のものに通し、続いて分析機器104(例えば、質量分析計)の第2のものに通してもよく、第1及び第2の分析機器104は分析測定を提供する。分析機器104のうちの1つ、幾つか、又は全てが、破壊解析技術を用いてもよい。
【0020】
ラマンアナライザ106は、ラマンプローブ108(又は、幾つかの実装において、複数のラマンプローブ)に結合されるスペクトログラフデバイスを含んでいてもよい。ラマンアナライザ106は、レーザ光を光ファイバーケーブルを介してラマンプローブ108に送出するレーザ光源を含んでいてもよく、また、例えば、光ファイバーケーブルの別のチャネルを介してラマンプローブ108から受信される信号を記録する電荷結合デバイス(CCD)又は他の適切なカメラ/記録デバイスを含んでいてもよい。代替として、レーザ光源は、ラマンプローブ108自体内に一体化されてもよい。ラマンプローブ108は、浸漬プローブ、又は他の任意の適切な種類のプローブ(例えば、反射プローブ及び透過プローブ)であってもよい。
【0021】
集合的に、ラマンアナライザ106及びラマンプローブ108は、生物薬剤プロセスの分子「フィンガープリント」を励起、観測、及び記録することによって、バイオリアクタ102内の生物薬剤プロセス中に生物学的活性内容物を非破壊的に走査するよう構成される。分子フィンガープリントは、バイオリアクタ内容物がラマンプローブ108によって送出されるレーザ光によって励起される場合、生物薬剤プロセス内の生物学的活性内容物内の分子の振動、回転、及び/又は他の低周波モードに対応する。この走査プロセスの結果として、ラマンアナライザ106は、それぞれがラマンシフト(周波数)の関数として強度を表す1つ以上のラマン走査ベクトルを生成する。
【0022】
コンピュータ110は、ラマンアナライザ106及び分析機器104に結合され、一般に、生物薬剤プロセスの1つ以上の分析測定を予測するために、ラマンアナライザ106によって生成されるラマン走査ベクトルを分析するよう構成される。例えば、コンピュータ110は、ラマン走査ベクトルを分析して、分析機器104によって行われる分析測定の同じ種類を予測してもよい。より詳細な実施例として、コンピュータ110はグルコース濃度を予測してもよい一方で、分析機器104は実際にグルコース濃度を測定する。しかし、分析機器104は、バイオリアクタ102から抽出された試料の比較的低頻度の「オフライン」分析測定を行ってもよいのに対して(例えば、生物薬剤プロセスからの媒体の限られた量のため、及び/又はかかる測定を行うより高いコストのため等)、コンピュータ110は、分析測定の比較的頻繁な「オンライン」予測をリアルタイムで行ってもよい。コンピュータ110はまた、以下で更に詳細に説明するように、分析機器104によって行われた分析測定を、ネットワーク114を介してデータベースサーバ112に送信するよう構成されてもよい。
【0023】
図1に示す例示的な実施形態において、コンピュータ110は、処理ユニット120、ネットワークインターフェース122、ディスプレイ124、ユーザ入力デバイス126、及びメモリ128を含んでいる。処理ユニット120は1つ以上のプロセッサを備え、1つ以上のプロセッサのそれぞれが、メモリ128に格納されたソフトウェア命令を実行して、本明細書において記述されているようにコンピュータ110の機能の一部又は全てを実行するプログラム可能なマイクロプロセッサであってもよい。或いは、処理ユニット120におけるプロセッサのうちの1つ、幾つか、又は全ては、他のタイプのプロセッサ(例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)等)であってもよく、本明細書において記述されているコンピュータ110の機能は、代わりに、部分的又は全体的にハードウェアにおいて実装されてもよい。メモリ128は、揮発性及び/又は不揮発性メモリを含む1つ以上の物理メモリデバイス又はユニットを含んでいてもよい。読み取り専用メモリ(ROM)、ソリッドステートドライブ(SSD)、ハードディスクドライブ(HDD)等の、任意の適切なメモリの種類又は複数の種類を用いてもよい。
【0024】
ネットワークインターフェース122は、1つ以上の通信プロトコルを用いてネットワーク114を介して通信するよう構成された任意の適切なハードウェア(例えば、フロントエンド送信機及び受信機ハードウェア)、ファームウェア、及び/又はソフトウェアを含んでいてもよい。例えば、ネットワークインターフェース122は、イーサネットインターフェースであってもよいし、それを含んでいてもよい。ネットワーク114は、単一の通信ネットワークであってもよいし、又は1つ以上の種類の複数の通信ネットワーク(例えば、1つ以上の有線及び/若しくは無線ローカルエリアネットワーク(LAN)、並びに/又は、例えばインターネット等の1つ以上の有線及び/若しくは無線広域ネットワーク(WAN))を含んでいてもよい。
【0025】
ディスプレイ124は、ユーザに情報を提示するよう任意の適切なディスプレイ技術(例えば、LED、OLED、LCD等)を用いてもよく、ユーザ入力デバイス126は、キーボード又は他の適切な入力デバイスであってもよい。幾つかの実施形態において、ディスプレイ124及びユーザ入力デバイス126は、単一デバイス(例えば、タッチスクリーンディスプレイ)内に一体化される。一般に、ディスプレイ124及びユーザ入力デバイス126は、例えば、システム100内で実行されている様々なプロセスを手動で監視する等の目的のために、コンピュータ110によって提供されるグラフィカルユーザインターフェース(GUI)とユーザが対話することを可能にするよう組み合わされてもよい。しかし、幾つかの実施形態において、コンピュータ110は、ディスプレイ124及び/又はユーザ入力デバイス126を含まず、又は、ディスプレイ124及びユーザ入力デバイス126の一方若しくは両方が、コンピュータ110に通信可能に結合される別のコンピュータ又はシステムに含まれる(例えば、予測が閉ループ制御を実装する制御システムに直接送信される幾つかの実施形態において)。
【0026】
メモリ128は、ジャストインタイムラーニング(JITL)予測アプリケーション130を含む1つ以上のソフトウェアアプリケーションの命令を格納している。JITL予測アプリケーション130は、処理ユニット120によって実行される場合、概して、ローカルモデル132を較正することによって、及びローカルモデル132を用いてラマンアナライザ106によって生成されたラマン走査ベクトルを分析することによって、バイオリアクタ102における生物薬剤プロセスの分析測定を予測するよう構成される。ラマンアナライザ106がかかる走査ベクトルを生成する頻度に応じて、JITL予測アプリケーション130は、周期的又は他の適切な時間ベースで分析測定を予測してもよい。ラマンアナライザ106は、それ自体が、走査ベクトルがいつ生成されるかを制御してもよく、又はコンピュータ110は、ラマンアナライザ106にコマンドを送信することによって、走査ベクトルの生成をトリガしてもよい。JITL予測アプリケーション130は、各走査ベクトルに基づいて単一種類の分析測定のみ(例えば、グルコース濃度のみ)を予測してもよく、又は各走査ベクトルに基づいて複数種類の分析測定(例えば、グルコース濃度及び生細胞密度)を予測してもよい。他の実施形態において、複数の異なるJITL予測アプリケーション(例えば、各々がJITL予測アプリケーション130に類似する)は、全てが同じ走査ベクトルに基づいて、異なる種類の分析測定を予測する異なるローカルモデルをそれぞれが生成する。JITL予測アプリケーション130及びローカルモデル132については、以下で更に詳細に説明する。
【0027】
データベースサーバ112は、コンピュータ110から離れていてもよく(例えば、局所的な設備が、バイオリアクタ102、分析機器104、ラマンプローブ108を有するラマンアナライザ106、及びコンピュータ110のみを含んでいてもよいように)、
図1に見られるように、過去の観測に関連する観測データセットを格納する観測データベース136を含んでいてもよいか、又はそれに通信可能に結合されていてもよい。観測データベース136内の各観測データセットは、スペクトルデータ(例えば、ラマンアナライザ106によって生成された種類のうちの1つ以上のラマン走査ベクトル)及び1つ以上の対応する分析測定(例えば、分析機器104によって生成された種類の1つ以上の測定値)を含んでいてもよい。実施形態及び/又はシナリオによっては、過去の観測は、多数の異なる動作条件(例えば、異なる代謝産物濃度設定点)下で、及び/又は多数の異なる媒体プロファイル(例えば、異なる流体、栄養素、pHレベル、温度等)と共に、多数の異なる生物薬剤プロセスについて収集されていてもよい。一般に、観測データベース136が、プロセス、動作条件、及び媒体プロファイルの広範に多様な配列を表すことが望ましい可能性がある。観測データベース136は、これらのプロセス、細胞株、タンパク質、代謝産物、動作条件、及び/又は媒体プロファイルを示す情報を格納してもしなくてもよいが、実施形態による(以下で更に検討するように)。幾つかの実施形態において、データベースサーバ112は、ネットワーク114及び/又は他のネットワークを介して、コンピュータ110と類似する複数の他のコンピュータにリモートで結合される。これは、観測データベース136に格納するために多数の観測データセットを収集するために望ましい可能性がある。しかし、他の実施形態において、システム100はデータベースサーバ112を含まず、コンピュータ110は直接ローカル観測データベース136にアクセスする。
【0028】
図1に示すものの代わりに、他の構成及び/又は構成要素が用いられてもよいことは言うまでもない。例えば、異なるコンピュータ(
図1に図示せず)は、分析機器104によって提供される測定値をデータベースサーバ112に送信してもよく、1つ以上の追加のコンピューティングデバイス又はシステムは、コンピュータ110とデータベースサーバ112との間の仲介者として作動してもよく、本明細書に説明するようなコンピュータ110の機能の一部又は全部は、代わりに、データベースサーバ112及び/又は別のリモートサーバ等によってリモートで実行されてもよい。
【0029】
システム100のランタイム動作中、ラマンアナライザ106及びラマンプローブ108は、バイオリアクタ102における生物薬剤プロセスを走査する(即ち、そのためのラマン走査ベクトルを生成する)ために用いられ、ラマン走査ベクトルは、次いで、ラマンアナライザ106からコンピュータ110に送信される。ラマンアナライザ106及びラマンプローブ108は、1分に1回、又は1時間に1回等の所定スケジュールのモニタリング期間に従って、(JITL予測アプリケーション130によって行われる)予測を支持するよう、走査ベクトルを提供してもよい。代替として、予測は、各モニタリング期間が可変又は不確実な期間を有するように、不規則な間隔で(例えば、測定されたpHレベル及び/又は温度の変化等のある特定のプロセスに基づくトリガに応答して)行われてもよい。実施形態によっては、ラマンアナライザ106は、幾つの走査ベクトルローカルモデル132が単一の予測のための入力として受け入れるかに応じて、モニタリング期間当たり1つの走査ベクトルのみをコンピュータ110に送信してもよく、又はモニタリング期間当たり複数の走査ベクトルをコンピュータ110に送信してもよい。複数の走査ベクトルは、例えば、ローカルモデル132の予測精度を改善する可能性がある。
【0030】
JITL予測アプリケーション130のクエリユニット140は、単一のモニタリング期間に受信した走査ベクトルを用いて、観測データベース136を問い合わせするために用いられるクエリポイントを生成する。幾つかの実施形態において、クエリポイント(即ち、クエリポイントを定義するデータ)は、ラマンアナライザ106から受信したラマン走査ベクトル(例えば、各走査ベクトルを構成する強度/周波数タプル)を表すデータのみを含む。他の実施形態において、クエリポイントは、1つ以上の他の種類の情報も含む。例えば、クエリポイントはまた、プロセスに関連する動作条件(例えば、制御システムにおける代謝産物濃度設定点、又はラマンアナライザ106若しくはラマンプローブ108に関連するレーザ光波長及び/又は強度等)を表すデータ、生物薬剤プロセス媒体についての媒体プロファイル(例えば、流体タイプ、栄養素タイプ、又は濃度、pHレベル等)を表すデータ、及び/又は他のデータ(例えば、生物薬剤プロセスに関連する細胞株、タンパク質、又は代謝産物の指標)を含んでいてもよい。
【0031】
一般に、クエリポイントは、ローカルモデル132が入力として(即ち、ローカルモデル132の特徴セットとして)用いるものと同じベクトル、パラメータ、及び/又は分類を表すデータを含んでいてもよい。特徴セットに対して多数の異なるデータタイプを用いることにより、ローカルモデル132によって行われる分析測定予測の精度を向上させてもよい。しかし、観測データベース136内の各観測データセットは、一般に、特徴セットと同じベクトル、パラメータ、及び/又は分類を含む必要があるため、1つ以上のラマン走査ベクトルのみを含むよう、クエリポイント、及びローカルモデル132の特徴セット/入力を制限することが好ましい可能性がある。これは、観測データベース136内への格納のためにより多くの情報の収集を可能にすること、及び/又はその情報の収集を簡略化すること等の種々の利点を提供してもよい。例えば、ラマン走査ベクトルのみが用いられる場合、データセットが収集された際に存在したプロセス、細胞株、タンパク質、代謝産物、動作条件、及び/又は媒体プロファイルについてほとんど又は全く知られていない場合でも、観測データセットは観測データベース136に含まれる可能性がある。
【0032】
クエリユニット140は、次いで、生成されたクエリポイントを用いて観測データベース136に問い合わせを行う。
図1の例示的な実施形態において、クエリユニット140は、ネットワークインターフェース122に、クエリポイント(例えば、クエリメッセージ内)をネットワーク114を介してデータベースサーバ112に送信させることによってこれを達成し、ひいては、データベースサーバ112に、観測データベース136から適切なデータを検索させる。しかし、観測データベース136が代わりにコンピュータ110に含まれる(又は通信可能に結合されるメモリ内に含まれる)実施形態において、クエリユニット140は代わりに観測データベース136をより直接的に問い合わせてもよい。説明を容易にするために、
図1の残りの説明では、
図1に示すように、観測データベース136がデータベースサーバ112に結合されていると仮定する。しかし、当業者であれば、観測データベース136がコンピュータ110に対してローカルであった場合、又はシステムアーキテクチャ内の別の適切な場所にあった場合に、通信経路がどのように異なるかを容易に理解するであろう。
【0033】
クエリポイントを受信した後、データベースサーバ112は、クエリポイントを用いて、ローカルモデル132に対する訓練データとして有用な関連する観測データセットを観測データベース136から選択する。データベースサーバ112は、実施形態に応じて、どの観測データセットが「関連する」かを識別するよう、任意の適切な関連性基準を適用してもよい。一実施形態において、例えば、クエリポイントは単一のラマン走査ベクトルを含み、データベースサーバ112は、その観測データセットのラマン走査ベクトルとクエリポイントのラマン走査ベクトルとの間のユークリッド距離を計算することによって、所定の観測データセットが関連するかどうかを特定する。ユークリッド距離が幾つか所定の閾値を下回る(又は、クエリポイント走査ベクトルと全ての観測データセット走査ベクトルとの間の平均ユークリッド距離に基づいて計算される閾値等のような可変閾値を下回る)場合、観測データセットは関連する観測データセットとして識別される。当業者であれば、かかるアプローチをどのようにクエリポイント(及び各観測データセット)が複数のラマン走査ベクトルを含む実施形態に対して容易に拡張することができるかを理解するであろう。状況によっては、関連する観測データセットを選択するためにユークリッド距離を用いることは、次善の技術であってもよい。しかし、ローカルモデル132がガウス過程モデルである場合(以下で検討するように)、関連性基準としてユークリッド距離を用いることが特に有利であってもよい。これは、放射基底関数又は二乗指数関数カーネルを有するガウス過程モデル自体がユークリッド距離に基づいているためである。それにもかかわらず、他の実施形態において、他の関連性基準(例えば、角度ベース又は相関ベースの基準等)が適用されてもよい。ローカルモデル132が入力/特徴セットとして他の情報(例えば、動作条件、媒体プロファイル、プロセスデータ、細胞株情報、タンパク質情報、及び/又は代謝産物情報等)も受け入れる実施形態において、より複雑な技術を用いて「関連する」観測データセットを識別してもよいことは言うまでもない。幾つかの実施形態において、データベースサーバ112は、単一のクエリに応答して所定数の関連する観測データセットのみを選択するか、又は関連する観測データセットの幾つかの最大許容数を超えないよう選択して、観測データベース136内の全データセットの比較的小さなサブセットのみが検索されることを確実にしている。しかし、他の実施形態において、データベースサーバ112は、関連性基準がかかる各データセットについて満たされる限り、任意の数の関連する観測データセットを選択することができる。
【0034】
幾つかの実施形態において、以下でより詳細に(例えば、
図5及び6を参照して)説明するように、関連する観測データセットは、「空間的」意味におけるクエリポイントに対する関連性(例えば、ラマン走査ベクトルの類似性)だけでなく、時間的意味における関連性(例えば、空間的類似性に関わらず、どのデータセットが最も新しいか)に基づいて選択される。これらの技術は、より最近の分析測定が、それらの最近の測定が異なる設定点等に対応する場合であっても、有用な情報を提供することができるという事実をより良好に活用する可能性がある。
【0035】
関連する観測データセット(その各々は、現在監視されているバイオリアクタ102内の生物薬剤プロセスと同じプロセス条件に対応していてもしなくてもよい)を識別した後、データベースサーバ112は、それらのデータセット(例えば、ラマン走査ベクトル及び対応する分析測定値)を検索し、検索されたデータセットをネットワーク114を介してコンピュータ110に送信する。クエリユニット140は、次いで、関連データセットをローカルモデル生成器142に渡してもよく、ローカルモデル生成器142は、関連データセットを訓練データとして用いて、ローカルモデル132を較正する。即ち、ローカルモデル生成器142は、各観測データセットに関連付けられたラマン走査ベクトル(及び場合によっては他のデータ)を特徴セットとして用い、同じ観測データセットに関連付けられた分析測定をその特徴セットのラベルとして用いる。
【0036】
幾つかの実施形態において、上述したように、ローカルモデル生成器142は、複雑な非線形プロセスダイナミクスを効率的に捕捉し、実質的に任意のプロセス変化に容易に適応させるために、ガウス過程モデルを構築する。PLS及びPCRモデルとは異なり、ガウス過程モデルはノンパラメトリック法を用い、極めて限られた数の訓練試料を用いる場合でも、ラマン走査ベクトルと分析測定との間の複雑な非線形相関を捕捉することがはるかに高い。これは、新しい製品又はプロセスが観測データベース136内の限られた数のデータセットのみに対応するシナリオにおいて特に重要となり得る。かかるシナリオにおいて、ガウス過程モデルは、一般に、データベースサーバ112が観測データベース136から選択する他の関連データセットと共に、それらの限られたデータセットから最も多くの情報を抽出することができる。しかし、他の実施形態において、訓練時間がモニタリング期間の最小所望持続時間を超えない限り、ローカルモデル生成器142は代わりに任意の他の適切な種類の機械学習モデル(例えば、再帰ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク等)を構築してもよい。ローカルモデル生成器142は、ローカルモデル132が信頼性限界、又は予測信頼度の他の適切な指標(例えば、信頼度スコア)を出力することができるように、ローカルモデル132を構築してもよい。少なくともPLSモデル及びPCRモデルと比較して、ガウス過程モデルは、分析測定予測の周囲の信頼性限界を提供するのに特に適している。PLSモデル及びPCRモデルに優るガウス過程モデルの種々の利点が記載されているが、幾つかの実施形態において、ローカルモデル生成器142は、PLS又はPCRモデリング方法を用いてローカルモデル132を構築してもよいことは言うまでもない。
【0037】
ローカルモデル生成器142は、予測ユニット144が、次いで、訓練されたローカルモデル132を用いて、クエリユニット140がクエリポイントを生成するために用いたものと同じラマン走査ベクトルを処理することによって、生物薬剤プロセスの1つ以上の分析測定を予測することができるように、オンラインのリアルタイム方法でローカルモデル132を構築してもよい。実際、幾つかの実施形態において、クエリユニット140は、新規クエリを実行してもよく、ローカルモデル生成器142は、ラマンアナライザ106がコンピュータ110に新しいラマン走査ベクトル(又はラマン走査ベクトルの新規セット)を提供する都度、ローカルモデル132の新しいバージョンを生成してもよい。しかし、他の実施形態において、クエリユニット140は、10回の予測/モニタリング期間に1回、又は100回の予測/モニタリング期間に1回等のような低い頻度ベースで新規クエリを実行する(及び、ローカルモデル生成器142はローカルモデル132の新しいバージョンを生成する)。
【0038】
データベース保守ユニット146はまた、分析機器104に、ラマンアナライザ106のモニタリング期間よりも極めて低い頻度(例えば、1日1回又は2回等)で、1つ以上の実際の分析測定を周期的に収集させてもよい。分析機器104による測定は、幾つかの実施形態において、破壊的であってもよく、バイオリアクタ102におけるプロセスから試料を恒久的に除去することを必要としてもよい。データベース保守ユニット146が分析機器104に実際の分析測定を収集させ、提供させる時点又はその付近で、データベース保守ユニット146はまた、ラマンアナライザ106に1つ以上のラマン走査ベクトルを提供させてもよい。データベース保守ユニット146は、次いで、観測データベース136内に新しい観測データセットとして格納するために、ネットワークインターフェース122に、ラマン走査ベクトル及び対応する実際の分析測定をネットワーク114を介してデータベースサーバ112に送信させてもよい。観測データベース132は、実施形態に応じて異なってもよい任意の適切なタイミングに従って更新されてもよい。分析機器104が、試料を測定してから数秒以内に実際の分析測定を出力する場合、例えば、観測データベース132は、試料が採取されると略即座に新しい測定により更新されてもよい。しかし、ある特定の他の実施形態において、実際の分析測定は、1つ以上の分析機器104による処理の数分、数時間、又は数日の結果であってもよく、その場合、観測データベース132は、かかる処理が完了するまで更新されない。更に他の実施形態において、分析機器104の異なるものがそれらそれぞれの測定を完了するにつれて、新しい観測データセットを段階的に観測データベース132に追加してもよい。
【0039】
従って、観測データベース136は、ローカルモデル生成器142がモデル訓練のために引き出してもよい過去の観測の「動的ライブラリ」を提供する。幾つかの実施形態において、最新の分析測定は常に観測データベース136に追加され、ローカルモデル生成器142は、ローカルモデル132を較正する場合に、常に観測データベース136内の最新の観測データセットを用いてもよい。これにより、ローカルモデル132は、最近の過去からのプロセス情報を符号化して、新しい条件に迅速に適応するか、又は履歴のない新しいプロセス条件に迅速に適応することが可能であってもよい。その上、ローカルモデル132の較正及び保守の両方を自動化してもよい。幾つかの実施形態において、ローカルモデル132の適合性は、例えば、A-JITL及びST-JITL技術に関連して以下で検討するように、更に強化される。
【0040】
幾つかの実施形態において、データベース保守ユニット146は、分析機器104に、現在のモデル性能等の何らかの他の時間ベース又は条件で実際の分析測定を収集させ、提供させてもよい。例えば、ローカルモデル132が信頼性区間(例えば、予測値の周囲で、実際の/測定された値が含まれる95%の確率又は信頼性がある値の範囲)又は他の何らかの信頼度指標を予測と共に出力する場合(例えば、ローカルモデル132がガウス過程モデルである場合)、及び、信頼度指標が特に信頼できない予測を明らかにする場合(例えば、間隔/範囲が閾値幅/範囲を超える場合等)、データベース保守ユニット146は、1つ以上の実際の分析測定の収集をトリガしてもよい。より詳細な実施例として、データベース保守ユニット146は、95%の信頼性間隔が予め定義された閾値を超えると特定することに応答して、分析測定の収集をトリガしてもよい。分析測定の最適なスケジューリングについては、以下で更に詳細に検討する。測定が行われた後、データベース保守ユニット146は、ラマンアナライザ106に1つ以上のラマン走査ベクトルを生成させ、(例えば、上で検討した方法で)観測データベース132に新しい観測データセットとして格納させるために、ネットワークインターフェース122に実際の分析測定及び対応するラマン走査ベクトルをデータベースサーバ112に提供させてもよい。ローカルモデル生成器142は、次いで、ローカルモデル132を較正する際に、適切な場合(例えば、現在のクエリに対する関連性に応じて、又は実施形態が常に最新の観測データセットを利用するかどうかに応じて)、その最新の観測データセットを利用してもよい。
【0041】
上で説明したプロセスの幾つか又は全ては、較正及び維持の両方が完全に自動化され、リアルタイムであるローカルモデルを用いてプロセスを連続的に監視するために、バイオリアクタにおける生物薬剤プロセスの寿命にわたって何回も繰り返されてもよい。分析測定は、実施形態及び/又はシナリオに応じて、種々の目的のために予測されてもよい。例えば、ある特定のパラメータを品質管理プロセスの一部として監視(即ち、予測)して、プロセスが依然として関連法規に準拠していることを確認してもよい。別の実施例として、1つ以上のパラメータを監視/予測して、閉ループ制御システムにおいてフィードバックを提供してもよい。例えば、
図2は、システム100に類似しているが、生物薬剤プロセスにおけるグルコース濃度を制御しようと試みる(即ち、予測されたグルコース濃度を、ある許容される許容範囲内で所望の設定点に一致させようと試みる)システム150を示している。他の実施形態において、システム150は、グルコースレベル以外のプロセスパラメータを制御するために、又は1つ以上の他のプロセスパラメータ(例えば、乳酸レベル)の予測に基づいてグルコースレベルを制御するために、代わりに(又は同様に)用いられてもよいことは言うまでもない。
図2では、同じ参照番号を用いて、
図1の対応する構成部品を示している。例えば、
図2のJITL予測アプリケーション130は、
図1のJITL予測アプリケーション130と同じであってもよい(明確にするために、JITL予測アプリケーション130の様々なユニットは
図2に図示していない)。
【0042】
図2において見られるように、システム150内では、メモリ128はまた、制御ユニット152も格納している。制御ユニット152は、グルコースポンプ154を制御するよう、即ち、グルコースポンプ154に、バイオリアクタ102内の生物薬剤プロセスに追加のグルコースを選択的に導入させるよう構成されている。制御ユニット152は、例えば、処理ユニット120及び/又は適切なファームウェア及び/又はハードウェアによって実行されるソフトウェア命令を備えていてもよい。幾つかの実施形態において、制御ユニット152は、グルコース濃度を閉ループアーキテクチャにおける入力として用いるモデル予測制御(MPC)技術を実施する。ローカルモデル132が各予測と共に信頼性限界又は他の信頼度指標を提供する実施形態(例えば、ローカルモデル132がガウス過程モデルである特定の実施形態)において、制御ユニット152はまた、入力として信頼度指標を受け入れてもよい。例えば、制御ユニット152は、十分に高い信頼度指標を有するグルコース濃度予測に基づいて(例えば、あるパーセンテージ又は絶対測定範囲を超えない信頼性限界に関連する予測に基づいてのみ、又はある最小閾値スコアを上回る信頼度スコアに関連する予測に基づいてのみ)、グルコースポンプ154のための制御命令を生成するのみであってもよく、又はその信頼度指標に基づいて所定の予測の重みを増加及び/又は減少してもよい。
【0043】
図3は、JITL技術を用いて局所的なガウス過程モデルを較正及び保守した一実施例のための実験結果200を示している。
図3のプロットにおいて、水平の破線202はグルコース濃度設定点を表し、円204はグルコース濃度の実際の測定値(例えば、
図1の分析機器104のうちの1つに類似する分析機器によって行われる)を表し、実線206はグルコース濃度の予測した測定値(例えば、ローカルモデル132に類似するモデルによって予測されるような)を表し、網掛け部分208は予測した測定値に関連する信頼性限界(95%信頼性について)を表している。
図3において見られるように、1リットル当たり3グラム(g/L)のグルコース濃度設定点に対して、JITL技術を用いて行った予測は、一般に、分析測定と略一致する。
【0044】
ローカルモデル132が、入力として単一のラマン走査ベクトルを用い、単一の分析測定を予測するガウス過程モデルである1つの特定のJITL実施形態を参照して、クエリを実行し、ローカルモデル132を構築/較正するプロセスを、ここで、数学的により詳細に説明する。
【0045】
【数1】
は、
【数2】
が入力であり、
【数3】
が出力であるように、入力及び出力データの順序対の集合を表すとする。更に、
【数4】
はn
a次元の入力ベクトルであり、
【数5】
はスカラー出力であると仮定する。物理的には、
【数6】
は分光測定(例えば、NIR又はラマン)、
【数7】
は対象となる状態(例えば、グルコース又は乳酸濃度)のための分析測定と考えることができる。訓練データセットDが与えられた場合、分光モデル較正問題の目的は、次の形式のモデルのための入力と出力の関係を特定することにある。
b
j=f(a
j)+E
j 式(1)
ここで、
【数8】
は分光モデルであり、E
j~N(0,σ
2)は0平均の正規分布測定ノイズで、分散σ
2は未知である。モデル較正における標準的な方法は、f(・)が線形であると仮定し、次いで、PLS等の方法を用いてモデルを訓練することである。任意の限定された又は固定された形式をf(・)と見なす代わりに、ここでf(・)は、
【数9】
がガウス過程からのランダムな試料を表し、平均
【数10】
及び共分散関数
【数11】
が、通常、以下の
【数12】
のように定義されるように、ガウス過程としてモデル化される潜在関数である。
【0046】
また、
【数13】
は、ガウス過程モデルのためのハイパーパラメータを表す。ガウス過程は確率変数の集合であり、その任意の有限数は、有限入力の集合に対して、
【数14】
であるような結合ガウス分布を有する。以下のように記述できる。
【数15】
【0047】
分光モデル較正問題は、次いで、以下の潜在ガウス過程関数を学習するよう、Dを使って縮小される。
【数16】
数学的な便宜及び一般的な簡潔さのために、ここでは以下のように仮定する。
【数17】
しかし、これが一般的な場合である必要はなく、ここでの結果は、次のようなモデルに容易に拡張することができる。
【数18】
ガウス過程における共分散関数の役割は、サポートベクタマシン(SVM)において用いられるカーネルの役割と類似している。共分散関数に対する共通の選択はガウスカーネルであり、次式のように与えられる。
【数19】
ここで、
【数20】
は、入力ペア{a
i,a
j}間の共分散である。ガウスカーネルk
θ{a
i,a
j}は、式(4)のユークリッド距離によって定義されるように、集合{a
i,a
j}における入力が互いに「近い」場合、より高い相関を割り当てる。
【0048】
ガウスカーネルの選択に対して、式(4)は以下のような正値対称行列である。
【数21】
式(4)において、集合
【数22】
はハイパーパラメータのセットである。物理的には、
【数23】
は長さスケールのパラメータであり、
【数24】
は信号分散パラメータである。式(4)におけるガウス共分散関数の選択は、fが滑らかで連続的であるという以前の仮定に対応している。従って、共分散関数のハイパーパラメータを変化させることによって、fの「滑らかさ」を変化させることができる。ここで、ガウス共分散関数を有するガウス過程を仮定する。しかし、これは一般的な場合である必要はない。
【0049】
Dが与えられた場合、他の任意の未知モデルパラメータを含むガウス過程のハイパーパラメータを学習することを目的とする。式(1)のガウス過程に対して、未知パラメータの集合は、
【数25】
である。パラメータ学習ステップは、未知パラメータの空間にわたって周辺化された尤度(又は証拠)関数を最大化することによって実行されてもよい。例えば、式(1)のガウス過程について、周辺化尤度関数は以下のように与えられる。
【数26】
ここで、
【数27】
は、周辺化尤度関数であり、
【数28】
は、
【数29】
で与えられる尤度関数であり、且つ
【数30】
は、式(3)で与えられる事前密度関数である。式(6)及び(3)におけるガウス尤度及び事前密度に対して、それぞれ、式(5)における積分は閉形式の解を有するので、周辺化尤度関数は
【数31】
で与えられる。
【0050】
ここで、式(7)が与えられると、
【数32】
は、次の最適化問題を解くことによって推定できる。
【数33】
ここで、γ*∈Γは最適推定値である。式(7)から、次式が得られる。
【数34】
ここで、
【数35】
である。式(8)の最適化問題を解くために、式(9)の偏導関数は、全てのr=1,2,...,n
γに対して、次式のように、γに関して特定される。
【数36】
ここで、
【数37】
である。式(7)の周辺化尤度関数及び式(10b)のその導関数が与えられると、勾配降下法を用いて式(8)を解くことができる。式(8)は一般に、複数の局所最適化を伴う非凸最適化問題であるため、最適化問題を解く際には注意が必要である。ここで、γ*は既知であるか、又は式(8)を解くことによって計算することができる。更に、表記上の負担を軽減するために、特に指定がない限り、ここではγを最適推定値γ*と仮定する。
【0051】
式(1)におけるガウス過程分光較正モデルが訓練されると、それはリアルタイム予測応用のために展開することができる。前述のように、Dをガウス過程モデルを訓練するために用いる訓練データセットとし、
【数38】
を新しいテスト分光信号とする。その目的は、次いで、テスト入力a*に対応する出力
【数39】
を予測することである。b*を計算することにおける第1のステップは、全ての訓練出力セット
【数40】
の結合密度並びに訓練入力セット
【数41】
及びテスト入力a*を条件とするテストガウス過程出力f(a*)を構築することにある。この結合密度は次のように与えられる。
【数42】
ここで、
【数43】
である。式(11)が与えられると、ベイジアンフレームワークの下で、ガウス過程出力f(a*)は、全てのガウス過程出力にわたる分布を構築することによって計算される。言い換えれば、ガウス過程出力f(a*)のための事後分布を求めている。無論、f(a*)にわたる事後分布は、訓練セットDと一致するそれらの関数のみを含むことが必要である。確率的設定の下で、f(a*)にわたる事後分布は、訓練セットD上の式(11)における結合分布を条件とすることによって計算することができ、次式を与える。
【数44】
ここで、p(f(a*)|D,a*)
はガウス過程出力のための事後分布であり、
【数45】
は次式
【数46】
で与えられ、且つ
【数47】
は式
【数48】
で与えられる。
【0052】
式(12)が与えられると、出力b*に対する予測事後分布は、次のように計算することができる。
【数49】
ここで、
【数50】
及び
【数51】
は、それぞれ式(13)及び(14)において与えられる。単一のテスト入力
【数52】
に対して、式(15)のガウス過程予測は、実現される確率が0ではない出力の分布を与える。制御及び監視等のリアルタイム用途において、分布全体ではなく、ポイント推定に関心があると思われる。ポイント推定は、決定論的アプローチを用いて計算することができる。式(15)のガウス事後分布に対して、平均関数は期待される絶対値及び二乗リスク関数の両方を最小化することが示される可能性があり、
【数53】
は、入力a*に対する最も可能性の高い出力である。更に、予測として
【数54】
の選択のために、約95%の信頼性間隔が次式によって与えられる。
【数55】
式(16)における間隔は、ガウス過程予測の質を評価するために、及び/又はガウス過程ベースモデル予測制御又は他のロバストモニタリング戦略を設計することにおいて用いることができる。
【0053】
ここでクエリに応じて関連試料(ここでは観測データセット)の選択に目を向けると、問題は、所定のクエリポイント
【数56】
及び入出力対(観測データセット)
【数57】
を含む中央データベース/ライブラリ
【数58】
に対して
【数59】
試料を含む時間
【数60】
におけるローカル訓練セット
【数61】
を選択することにあり、ここでD<<Lである。Lは動的であると仮定し、キャンペーン中に異なるエントリを含んでいてもよい。LからDを構成する方法は数多くある。この分析の目的のために、Dは、集合L内のスペクトル(例えば、ラマン走査ベクトル)間のユークリッド距離に基づいて選択される。JITLフレームワークにおけるユークリッドに基づく類似性測定は、ある特定の状況において準最適であると報告されているが、それらはガウス過程モデルを用いる場合に有益な選択である可能性がある。これは、ガウス過程モデル自体がユークリッド距離に基づいているためである。ガウスカーネルは、集合{ai,aj}内の入力が互いに「近い」場合にのみ、より高い相関を割り当てる。従って、全ての入力がクエリポイントに「近い」ローカル訓練セットDを作成することによって、ローカルガウス過程モデルが最大「相関」を捕捉してクエリポイントにおける出力を予測することを確実にすることができる。
【0054】
Lからローカル訓練セットDを作成し、その訓練セットを用いてガウス過程モデルを訓練し、訓練されたモデルを用いて予測を行う方法を形式的に略述するアルゴリズム例を、以下のアルゴリズム1において提供する。
【数62】
【0055】
ここで
図4に目を向けると、本明細書中に説明するようなJITL技術を用いて生物薬剤プロセスを分析する場合に生じる可能性のある例示的なデータフロー250が示されている。データフロー250は、例えば、
図1のシステム100又は
図2のシステム150内で生じる可能性がある。データフロー250において、スペクトルデータ252は、分光計/プローブによって提供される。例えば、スペクトルデータ252は、ラマンアナライザ106によって生成されたラマン走査ベクトル、又はNIR走査ベクトル等を含んでいてもよい。クエリポイント254は、スペクトルデータ252に基づいて(例えば、クエリユニット140によって)生成され、例えば、観測データベース136内の全ての観測データセットを含んでいてもよいグローバルデータセット256を問い合わせるために用いられる。クエリに基づいて、ローカルデータセット258はグローバルデータセット256内で識別される。ローカルデータセット258は、例えば、上で説明したように、関連性基準(例えば、ユークリッド距離)に基づいて選択されてもよい。
【0056】
ローカルデータセット258は、次いで、ローカルモデル260(例えば、ローカルモデル132)を較正するために、(例えば、ローカルモデル生成器142によって)訓練データとして用いられる。ローカルモデル132は、次いで、媒体成分濃度、媒体状態(例えば、グルコース、乳酸、グルタミン酸、グルタミン、アンモニア、アミノ酸、Na+、K+及び他の栄養素又は代謝産物、pH、pCO2、pO2、温度、浸透圧等)、生細胞密度、力価、重要な品質属性、細胞状態等の出力(分析測定値)262を予測し、おそらく、出力信頼性限界又は別の適切な信頼度指標も予測するために、(例えば、予測ユニット144によって)用いられる。
【0057】
JITLベースのローカルモデル(例えば、アルゴリズム1及びデータフロー250におけるような)は、ロバストな非線形モデリングフレームワークを提供するが、かかるアプローチは、時変プロセス変化への適応のための固有の機構を有していない。この欠点に対処するために、幾つかの実施形態は、「適応型」JITL(A-JITL)戦略を用いてもよい。上述のように、新しい試料は、それらの試料が利用可能になると、Lに含まれてもよい。かかる実施形態(即ち、Lが動的である場合)において、Lは、Ltとして示されてもよい。かかる実施形態の1つにおいて、移動時間ウィンドウ法が実施され、そこでは、新たに得られた試料がLtに追加され、最も古い試料がLtから除去される。最も古い試料を廃棄することは、適応戦略において、Ltのサイズを維持することが、全体的なJITLフレームワークの計算上の扱いやすさを確実にするために重要であってもよいため、有益であってもよい。しかし、このアプローチによる1つの主要な懸念は、古い試料が関連情報を含む可能性があるので、単に古い試料を廃棄することは情報損失につながる可能性があることである。
【0058】
かかる情報損失を回避するために、一実施形態において、古い/既存の試料を除去することなく、新しい試料がLtに追加される。従って、中央データベースLtは、新しい分析測定値が利用可能になると、試料数の増加に伴って拡大する。細胞培養プロセス用途において、拡大するデータベースは、かかるプロセスが典型的には2~3週間のバッチ時間を有するバッチプロセスとして操作されるという事実のために、いかなる有意な計算上の問題も生じない可能性がある。これは、当然、Ltに含まれるべき新しい試料の数を制限する。更に、限定された数の分析測定のみが、通常、細胞培養プロセスバッチの過程中にサンプリングされる(例えば、分析測定値が頻繁にサンプリングされる化学工業とは異なる)。従って、通常、データベースLtのサイズが僅かに増加するだけで、全体的なJITLフレームワークの計算上の安定性に何らかの有意な影響を与えることはない。
【0059】
Ltに新しい試料を含めることは、アルゴリズム1(上記)の連続的な適応にとって重要であるが、このアプローチの成功は、ローカルモデル較正のためのローカルデータベースDにおけるこれらの新しい試料の選択に依存している。ユークリッド距離に基づいてLからDのための試料を選択するアルゴリズム1(例えば、アルゴリズム1のライン6)は、空間において関連する(近い)試料のみを優先するので、「空間における関連」アプローチと称することができる。突然の設定点の変化(又は他の突然のプロセス条件変化)が生じる場合のように、新しい試料がクエリ試料に近くない場合、アルゴリズム1は、それらの試料をDに含めることに失敗する可能性がある。一方、再帰的方法(例えば、正則化部分最小二乗法(RPLS)、再帰的最小二乗法(RLS)、及び再帰的N方向部分最小二乗法(RNPLS))は、それらが空間における関連性にかかわらず最新の測定を優先するため、「時間における関連性」である。最新の試料を用いてローカルモデルを更新することで、再帰的方法を現在のプロセス条件に首尾よく適合させることが可能となることができる。
【0060】
本明細書中で「適応型」JITL(A-JITL)と称する1つのかかる実施形態は、空間及び時間の両方に関連する試料を優先する。
【数63】
が現在の実験(即ち、a*が発生する実験/プロセス)の開始前から利用可能なL個の履歴測定値の集合を表し、
【数64】
が現在の実験から利用可能なn個の測定値の集合を表すとすると、試料は次式のように再配分されてもよい。
【数65】
ここで、L
tは中央データベースを表し、Kは最後の(最新の)k個の測定値の集合を表す。幾つかの実施形態において、Kは、現在の実験/プロセスからの最後のk個の試料を含み、L
tは、以前の実験/プロセスからの試料、並びに最後のk個の試料より古い現在の実験/プロセスからの(潜在的な)試料を含む。上記の式(17a)及び(17b)は、所定のクエリa*に対して定義される。別の時刻に到着するクエリに対して、データセットL
t及びKは、その時刻に利用可能な測定値の数に応じて、異なる試料を含む可能性がある。例えば、試料
【数66】
が利用可能であると、
【数67】
はKから削除され、
【数68】
はKに含まれる。廃棄された試料
【数69】
は、次いで、情報損失を防ぐためにL
tに含まれる。最新の測定値でKを更新することにより、Kが少なくとも一部の現状を反映することが保証される。
【0061】
Lt及びKが与えられる場合、目的はDを選択することにある。上述したように、A-JITLに対して、空間及び時間関連試料の両方がDに含まれる。Dが次式のように分解できると仮定し、
D≡DS∪DT、式(18)
ここで、DS及びDTはそれぞれ空間及び時間関連集合であるとすると、目標はDS及びDTを選択することにある。第1に、DS∩DT=0であり、Dは固有の試料のみを含むと仮定する。DSを設計するために、D-k試料は、次式のような「類似度指数」又は「s値」等の距離ベース(空間)メトリックに基づいて、Ltから選択される。
Si=sim(ai,a*)=exp(-||ai-a*||) 式(19)
【0062】
式(19)は、例えば、上で説明した(非適応型)JITL技法における類似性メトリックとして用いてもよい。従って、例えば、最大s値を有するD-k試料は、D
Sに含めるためにL
tから選択されてもよい。D
Tを設計するために、現在の実験/プロセスからの最後のk個の試料が時間に関連すると仮定した場合、D
Tは、幾つかの実施形態において、Kに等しいと定義されてもよい。D
Sにおける試料のメンバーシップを特定するs値とは異なり、D
Tにおけるメンバーシップは、サンプリング時間に基づいて決定されることに留意されたい。無論、シナリオによっては、D
T内の試料は大きなs値を示す可能性がある。s値に関係なく、D
Tは時間において関連性があるとしか考えられない。同様に、構築によって、L
tは時間関連性がないため、D
Sは空間においてのみ関連性がある。D
S及びD
Tは所定のクエリa*に対して定義され、D
S内の試料はa*に関して計算されたそれらのs値に基づいて選択され、D
T内の試料はa*のサンプリング時間に対して計算されたそれらのサンプリング時間に基づいて選択されることに留意されたい。便宜上、D
S及びD
Tは、以下のように一般的に定義されている。
【数70】
ここで、
【数71】
及び
【数72】
は、それぞれラマン分光計からの空間及び時間関連試料であり、
【数73】
及び
【数74】
は、それぞれ分析機器からの空間及び時間関連試料である。
【数75】
【0063】
式(20a)及び(20b)を式(18)に代入すると、集合Dが得られ、一般に以下のように表される。
【数76】
、ここで、
【数77】
及び
【数78】
である。上で検討した(非適応型)JITL技法とは対照的に、ローカルライブラリ/データセットDは、空間及び時間に関連する試料を優先する。D
T及びクエリa*が与えられると、式(1)のガウス過程モデル(例えば、ローカルモデル132)を較正することができる。a*におけるポイント推定及び信頼性間隔は、それぞれ式(13)及び(16)を用いて計算することができ、ここで、
【数79】
及び
【数80】
は、以下によって与えられる。
【数81】
ここで、
【数82】
及び
【数83】
は、それぞれD
S及びD
Tに関連付けられた共分散関数であり、
【数84】
は、D
SとD
Tとの間の共分散である。
【0064】
A-JITL技法を形式的に略述するアルゴリズム例を、以下のアルゴリズム2において提供する。
【数85】
【0065】
従って、アルゴリズム2は、JITL(空間における関連)と再帰的学習(時間において関連)を組み合わせている。例えば、|DT|=0の場合、アルゴリズム2を用いるローカルモデル132の較正は、空間において関連するJITLに類似しているのに対して、|DS=0|の場合、アルゴリズム2を用いるローカルモデル132の較正は、再帰的学習に類似している。従って、|DS|及び|DT|を調整することによって、(非再帰的)JITL及び再帰的学習を適切にバランスさせることができる。
【0066】
ここで
図5に目を向けると、本明細書中に説明するようなA-JITL技術を用いて生物薬剤プロセスを分析する場合に生じる可能性のある例示的なデータフロー300が示されている。データフロー300は、例えば、
図1のシステム100又は
図2のシステム150内で生じる可能性がある。データフロー300において、スペクトルデータ302は、分光計/プローブによって提供される。例えば、スペクトルデータ302は、ラマンアナライザ106によって生成されたラマン走査ベクトル、又はNIR走査ベクトル等を含んでいてもよい。クエリポイント304は、スペクトルデータ302に基づいて(例えば、クエリユニット140によって)生成され、例えば、観測データベース136内の全ての観測データセットを含んでいてもよいグローバルデータセット306を問い合わせるために用いられる。グローバルデータセット306は、論理的に、最後のk個のエントリ307A(例えば、現在の実験/プロセスからの全て)と、最後のk個のエントリ307Aより前の全てのエントリ307B(例えば、以前の実験/プロセスから、及び場合によっては現在の実験/プロセスからも)とに分離される。kの値は、クエリポイント304の試料数に基づいて特定されてもよい。本明細書中で用いるように、用語「試料数」は、広範には、所定の試料/観測に関連する時間又は相対時間の任意の指標を指してもよい。エントリ307B中のある特定のエントリは、クエリポイント304に対する空間的類似性(例えば、ユークリッド距離)に基づいてローカルデータセット308に追加される一方で、全てのエントリ307Aは、空間的類似性にかかわらず、ローカルデータセット308に追加されてもよい。ローカルデータセット308は、例えば、アルゴリズム2に従って、エントリ307A及びエントリ307Bから生成されてもよい。
【0067】
ローカルデータセット308は、次いで、ローカルモデル310(例えば、ローカルモデル132)を較正するために、(例えば、ローカルモデル生成器142によって)訓練データとして用いられる。ローカルモデル310は、次いで、媒体成分濃度、媒体状態(例えば、グルコース、乳酸、グルタミン酸、グルタミン、アンモニア、アミノ酸、Na+、K+及び他の栄養素又は代謝産物、pH、pCO2、pO2、温度、浸透圧等)、生細胞密度、力価、重要な品質属性、細胞状態等の出力(分析測定値)312を予測し、おそらく、出力信頼性限界又は別の適切な信頼度指標も予測するために、(例えば、予測ユニット144によって)用いられる。
【0068】
実際の分析測定(例えば、分析機器104のうちの1つ等の分析機器によって行われる測定)が利用可能である場合、新規エントリ314が作成され、グローバルデータセット306に追加される。かかる測定は、例えば、周期的サンプリングベース(例えば、1日に1回又は2回)で利用可能であってもよく、及び/又は、以下で更に検討するように、可変タイミングを有するトリガに応答して利用可能になってもよい(例えば、行内のある特定数の予測が許容できない程広範な信頼性限界を有する場合等)。
【0069】
Dに空間及び時間関連試料を含めることは、上で検討したA-JITLアプローチの連続的適合のために必要であるが、A-JITLによって達成される適合の全体的な程度は、Dがローカルモデル較正のために如何に効果的に利用されるかに依存する。クエリ試料/ポイントa*に対して、空間関連試料(ai,bi)∈DSは、関数(f(a*),f(ai))間に高い相関を提供する。これは、クエリa*に対して、(ai,bi)の空間関連性と(f(a*),f(ai))間の相関関係が両方とも(ai,a*)間のユークリッド距離に基づいて計算されるためである。従って、式(19)におけるユークリッドに基づく類似性測定の選択、及び式(4)におけるユークリッドに基づくカーネルに対して、DSにおける試料は高い関数相関を提供することが期待される。逆に、時間関連試料(aj,bj)∈DTは、関数(f(a*),f(aj))間の強い相関を提供しない可能性がある。これは、上述したように、DTにおける試料が必ずしも空間において関連しないためである。結果として、(aj,bj)の空間関連性が小さければ、(f(a*),f(aj))間の式(4)におけるガウスカーネルに起因する相関は小さくなる。モデル化の観点からは、式(1)のガウス過程モデルを小さな相関を有する試料で訓練することは、これがモデル性能を低下させるので、望ましくない。数学的には、これは次のように証明することができる。
【0070】
アルゴリズム2のクエリa*及び較正されたガウス過程モデルに対して、モデル予測
【数86】
は、式(13)を用いて計算することができる。一般性を失うことなく、仮にσ
2=0ならば(ノイズのない場合)、式(13)は次のように記述することができる。
【数87】
【0071】
仮に、
【数88】
が無視できる空間関連性を有する(即ち、
【数89】
とa*との間のs値が無限大である)場合、式4は結果として以下を生じる。
【数90】
更に、構造によって、
【数91】
は
【数92】
よりもa*に近いため、結果は
【数93】
となる。これらを式(23)に代入すると、次式が得られる。
【数94】
式(24c)から、ポイント推定がD
Tとは無関係であることが明らかである。同様に、式(16)もD
Tとは無関係であることを示すことができる。例えば、式(16)内の
【数95】
は、以下のように計算することができる。
【数96】
式(25b)及び(25c)から、以下を含む幾つかの近似が用いられることが分かる。
【数97】
及び
【数98】
式(20a)及び(20b)から、集合が限定された空間関連性を有する場合、アルゴリズム2はD
Tをうまく利用できないことが明らかである。
【0072】
幾つかの実施形態において、Dにおける空間及び時間関連試料の両方が寄与することができることを確実にするために、「時空間」JITL(ST-JITL)アプローチが、以下の時空間ラマンモデル(例えば、ローカルモデル132として)と共に用いられる。
b
i=g(a
i,t
i)+E
i 式(26)
ここで、
【数99】
は時空間ラマンモデル、t
iはa
iの試料数、E
i~N(0,σ
2)は、0平均及び未知の分散
【数100】
を有する一連の独立ガウス確率変数である。式(1)とは対照的に、式(26)の時空間モデルはスペクトル信号及びそのサンプリング時間の両方に依存する。上述のように、gはガウス過程としてモデル化された潜在関数であり、任意の入力(a,t)に対して、
g(a,t)~GP(0,r
θ(a,a,t,t) 式(27)
は確率関数であると仮定する。便宜上、式(27)の平均関数は0であると仮定するが、これは一般的な場合である必要はない。更に、任意の入力(a
i,t
i)及び(a
j,t
j)に対して、共分散関数r
θ(a
ia
jt
it
j)は次のように定義できる。
r
θ(a
ia
jt
it
j)=k
space(a
i,a
j)+k
time(t
i,t
j) 式(28)
ここで、
【数101】
は、それぞれ、(g(a
i,t
i),g(a
j,t
j))間の空間共分散及び時間共分散である。クエリ(a*,t*)に対して、試料(a
j,b
j)∈D
Tが無視できる空間関連性を有する場合、k
space(a
j,a*)≒0であるが、k
time(t
j,t*)>0であり、式(28)は、(g(a*,t*),g(a
j,t
j))間の非0相関を定義する。最後に、式(28)は、2つの独立したカーネルの合計もカーネルであるため、有効な共分散関数であることに留意されたい。任意の入力ペア(a
i,t
i)及び(a
j,t
j)に対して、k
space及びk
timeがガウスカーネルであると仮定する。
【数102】
ここで、
【数103】
はカーネルパラメータである。式(29a)及び(29b)が与えられると、式(28)は、(a
i,t
i),(a
j,t
j)が互いに近い場合、(g(a
i,t
i),g(a
j,t
j))の間に高い相関があることを示している。
【数104】
及び
【数105】
は、
【数106】
であるように、それぞれDにおける状態及び時間関連試料のための試料数を示し、従って、クエリ(a*,t*)に対して、式(28)の共分散関数r
θは次式のように記述することができる。
【数107】
【0073】
変数a及びbとは異なり、式(30a)及び(30b)におけるtの役割は、単にD
Tの寄与を改善することであることに留意されたい。物理的には、aが与えられると、変数tはbに影響を及ぼさない。従って、仮に
【数108】
が、D
Tにおける試料に対応する試料数として定義されると、
【数109】
は以下を満たすように定義することができる。
|t
i-t
j|>>M 式(31a)
|t
i-t*|>>N 式(31b)
|t
i-t
k|>>P 式(31c)
全てのi,j∈{1,...,D-k}及びk∈{D-k+1,...,D}に対して、ここで、
【数110】
は任意の大きな正の定数である。更に、
【数111】
及びt*が
【数112】
であるように仮定すると、上で説明したような
【数113】
及び
【数114】
に対して、
【数115】
は次のように記述することができる。
【数116】
ここで、式(32b)は式(31a)からのものであり、それにより、
【数117】
における非対角エントリをゼロに導く。同様に、共分散
【数118】
及び
【数119】
は次のように計算することができる。
【数120】
ここで、式(33b)は式(31b)に基づいており、式(33d)は式(31c)に基づいている。式(32b)、(33b)、及び(33d)を式(30a)及び(30b)に代入すると、次式が得られる。
【数121】
【0074】
式(30a)及び(30b)から、共分散r
θがk
space及びK
timeの両方からの寄与を含むことを確認することは容易である。式(30a)及び(30b)における時空間ラマンモデルに対する共分散関数が与えられると、カーネルパラメータθ及びノイズ分散σ
2は、次式を最大化することによって推定することができる。
【数122】
ここで、
【数123】
は対数周辺化尤度関数であり、r
γ=r
θ+I
D×Dである。Γに対して式(35)を最大化することにより、最適な推定値γ*が得られる。勾配ベースの最適化では、γに対する式(35)の勾配は、式(10b)と同様の方法で計算することができる。γ*が与えられると、クエリ(a*,t*)のポイント推定及び事後分散は次のように計算することができる。
【数124】
ここで、共分散関数は式(34a)及び(34b)で与えられる。同様に、式(36a)のポイント推定に関する信頼性限界
【数125】
は、次式のように計算することができる。
【数126】
ここで、
【数127】
である。式(36a)、(37a)、及び(37b)から、空間及び時間関連試料の両方がモデル予測及び信頼性限界計算に寄与することが容易に分かる。最後に、式(34a)及び(34b)を式(36a)及び(36b)に代入すると、それぞれ事後平均及び分散が得られる。アルゴリズム2の場合とは異なり、式(36a)におけるモデル予測、式(37a)及び(37b)における信頼性間隔は、D
Tが空間関連性を持たない場合でもD
Tに依存する。例えば、D
Tが空間関連性を持たない場合(即ち、
【数128】
及び
【数129】
の場合)、式(36a)及び(36b)は次のように記述することができる。
【数130】
【0075】
上記から、式(38a)及び(38b)は依然としてk
space及びk
timeの両方からの寄与を含むことが分かる。ST-JITL技法を形式的に略述するアルゴリズム例を、以下のアルゴリズム3において提供する。
【数131】
【0076】
A-JITL及びST-JITL(それぞれアルゴリズム2及び3における)は、β1=0の場合に同一であってもよいことに留意されたい。これは、β1=0、Ktime=0に対して、rθ=kspace=kθとなるためである(式(28)及び(29b)から分かるように)。
【0077】
ここで
図6に目を向けると、本明細書中に説明するようなST-JITL技術を用いて生物薬剤プロセスを分析する場合に生じる可能性のある例示的なデータフロー350が示されている。データフロー350は、例えば、
図1のシステム100又は
図2のシステム150内で生じる可能性がある。データフロー350において、スペクトルデータ352は、分光計/プローブによって提供される。例えば、スペクトルデータ352は、ラマンアナライザ106によって生成されたラマン走査ベクトル、又はNIR走査ベクトル等を含んでいてもよい。クエリポイント354は、スペクトルデータ352に基づいて(例えば、クエリユニット140によって)生成され、例えば、観測データベース136内の全ての観測データセットを含んでいてもよいグローバルデータセット356を問い合わせるために用いられる。グローバルデータセット356は、論理的に、最後のk個のエントリ357A(例えば、現在の実験/プロセスからの全て)と、最後のk個のエントリ357Aより前の全てのエントリ357B(例えば、以前のものから、及び場合によっては現在の実験/プロセスからも)とに分離される。kの値は、クエリポイント354の試料数に基づいて特定されてもよい。ローカルデータセット358は、例えば、アルゴリズム3に従って、エントリ357A及びエントリ357Bから生成されてもよい。
【0078】
ローカルデータセット358は、次いで、ローカルモデル360(例えば、ローカルモデル132)を較正するために、(例えば、ローカルモデル生成器142によって)訓練データとして用いられる。ローカルモデル360は、次いで、媒体成分濃度、媒体状態(例えば、グルコース、乳酸、グルタミン酸、グルタミン、アンモニア、アミノ酸、Na+、K+及び他の栄養素又は代謝産物、pH、pCO2、pO2、温度、浸透圧等)、生細胞密度、力価、重要な品質属性、細胞状態等の出力(分析測定値)362を予測し、おそらく、出力信頼性限界又は別の適切な信頼指標も予測するために、(例えば、予測ユニット144によって)用いられる。
【0079】
実際の分析測定(例えば、分析機器104のうちの1つ等の分析機器によって行われる測定)が利用可能である場合、新規エントリ364(その試料数を含む)が作成され、グローバルデータセット356に追加される。かかる測定は、例えば、周期的サンプリングベース(例えば、1日に1回又は2回)で利用可能であってもよく、及び/又は、可変タイミングを有するトリガに応答して利用可能になってもよい(例えば、行内のある特定数の予測が許容できない程広範な信頼性限界を有する場合等)。
【0080】
上述のように、分析測定は、リソース使用(例えば、分析機器の使用)を低減しながら予測精度を維持又は改善するために、1つ以上のローカルモデル(例えば、ローカルモデル132、260、310、又は360)の現在及び/又は最近の性能に基づいてスケジューリング/トリガされてもよい。この技法は、例えば、A-JITL、ST-JITL、又はストレートJITLと共に用いられてもよい。
【0081】
一実施形態において、信頼性間隔は、モデル保守をトリガするために用いられる。特に、所定のモデル予測を中心とする(例えば、ローカルモデル132、260、310、又は360によって行われる最新の予測を中心とする)信頼性区間(例えば、式(16)又は式(37a)、(37b)を用いて計算されるような信頼性限界間の距離)の幅が、予め定義された閾値よりも大きい場合、データベース保守ユニット146は、要求メッセージを生成し、コンピュータ110に、メッセージを分析機器104に送信させて、測定を要求してもよい。例えば、
図3の結果例において、データベース保守ユニット146は、2017年12月08日、2017年12月09日、及び2017年12月14日の終わり近くに新しい分析測定値をトリガしてもよく、ここで網掛け部分208は、広範な信頼性間隔(即ち、b
U-b
Lの大きな値)を示している。
【0082】
要求メッセージに応答して、分析測定104は測定を実行し、測定をコンピュータ110に提供する。データベース保守ユニット146は、次いで、測定及びラマンアナライザ106から受信した対応するラマン走査ベクトルを、観測データベース136内に格納するためにデータベースサーバ112に送信してもよい。例えば、測定及び走査ベクトルは、上で検討したライブラリL(ストレートJITLの場合)又はライブラリK(A-JITL又はST-JITLの場合)に追加されてもよい。
【0083】
逆に、所定のモデル予測を中心とする信頼性間隔の幅が予め定義された閾値よりも大きくない場合、データベース保守ユニット146は、新しい分析測定を要求しなくてもよく、その場合、観測データベース136内のライブラリは変更されないままである。分析機器104が、媒体成分濃度、媒体状態(例えば、グルコース、乳酸、グルタミン酸、グルタミン、アンモニア、アミノ酸、Na+、K+及び他の栄養素又は代謝産物、pH、pCO2、pO2、温度、浸透圧等)、生細胞密度、力価、重要な品質属性、細胞状態等の異なる特性を測定する複数の機器を含み、別々のローカルモデルが、異なる種々の特性値を予測するために用いられる実施形態において、スケジューリングプロセスは、各予測された特性及び場合によっては、各特性について異なる信頼性間隔幅閾値を有する特性を測定する分析機器について別々に実施されてもよい。
【0084】
数学的には、データベース保守ユニット146は、以下の条件下で、クエリポイントa*において新しい分析測定をスケジューリング/トリガしてもよい。
bU-bL≧THR 式(39)
ここで、THRはユーザ定義の閾値である。幾つかの実施形態において、THRは、特定の用途又は使用事例に適合するようユーザによって調整されてもよい。例えば、ユーザは、モデル信頼性が重要である用途に対して(データベース保守ユニット146によって用いられる)比較的小さいTHR値を設定してもよく、それによって、モデル/ライブラリ保守動作をより頻繁に生じさせてもよい。一般に、THRは、プロセス臨界に基づいて、媒体成分濃度、媒体状態(例えば、グルコース、乳酸、グルタミン酸、グルタミン、アンモニア、アミノ酸、Na+、K+及び他の栄養素又は代謝産物、pH、pCO2、pO2、温度、浸透圧等)、生細胞密度、力価、重要な品質属性、細胞状態等のような予測されるパラメータに基づいて、及び/又は現在の期間(例えば、初日と比較して培養の後日にはより低いTHRを用いる)に基づいて、異なる値に設定されてもよい。THRの選択は、モデル精度とリソース(分析機器)使用との間のトレードオフを表し、より低い閾値は、増加したリソース使用を犠牲にしてモデル精度を増加させる傾向がある。
【0085】
このスケジューリングプロトコルの変形も可能である。一実施形態において、例えば、データベース保守ユニット146は、1つ以上のモデル性能基準を、現在の(最新の)予測だけでなく、1つ以上の他の最新の予測(例えば、N>1である最新のNの予測)にも適用してもよい。かかる実施形態の一例として、データベース保守ユニット146は、最新のNの予測(N≧1)に対する信頼性間隔の平均幅を計算し、次いで、その平均幅を閾値THRと比較してもよい。別の実施例として、データベース保守ユニット146は、最後のYの予測のうちのXの最大信頼性間隔(X<Y)を識別し、それらXの幅の各々が閾値THRより大きい場合にのみ、新しい分析測定をスケジューリング/トリガしてもよい。
【0086】
図7は、生物薬剤プロセスを分析するための(例えば、モニタリング及び/又は制御プロセスのための)方法例400のフロー図である。方法400は、
図1のコンピュータ110(例えば、JITL予測アプリケーション130の命令を実行する処理ユニット120によって)又は
図2のコンピュータによって、及び/又は、例えば、
図1又は
図2のデータベースサーバ112等のサーバによって実装されてもよい。
【0087】
ブロック402において、分光システムによる(例えば、システム100又はシステム150のラマンアナライザ104及びラマンプローブ106による)生物薬剤プロセスの走査に関連するクエリポイントが特定される。クエリポイントは、例えば、生物薬剤プロセスを走査する場合に分光システムによって生成されたスペクトル走査ベクトル(例えば、ラマン又はNIR走査ベクトル)に少なくとも部分的に基づいて特定されてもよい。実施形態に応じて、クエリポイントは、生スペクトル走査ベクトルに基づいて、又は生スペクトル走査ベクトルの適切な前処理フィルタリング後に特定されてもよい。幾つかの態様において、クエリポイントはまた、生物薬剤プロセスに関連する媒体プロファイル(例えば、流体種類、特定の栄養素、pHレベル等)、及び/又は、例えば、生物薬剤プロセスが分析される1つ以上の動作条件等(例えば、代謝産物濃度設定点等)の他の情報に基づいて特定される。
【0088】
ブロック404において、観測データベース(例えば、観測データベース136)が照会される。観測データベースは、多数の生物薬剤プロセスの過去の観測に関連する観測データセットを含んでいてもよい。観測データセットの各々は、スペクトルデータ(例えば、ラマン又はNIR走査ベクトル)及び対応する分析測定(又は幾つかの実施形態においては、2つ以上の分析測定)を含んでいてもよい。分析測定は、例えば、媒体成分濃度、媒体状態(例えば、グルコース、乳酸、グルタミン酸、グルタミン、アンモニア、アミノ酸、Na+、K+及び他の栄養素又は代謝産物、pH、pCO2、pO2、温度、浸透圧等)、生細胞密度、力価、重要な品質特性、及び/又は細胞状態であってもよい。
【0089】
ブロック404は、観測データセットの中から、クエリポイントに関して1つ以上の関連性基準を満たすそれらの観測データセットを訓練データとして選択することを含んでいてもよい。クエリポイントがスペクトル走査ベクトルを含む場合、例えば、ブロック404は、そのスペクトル走査ベクトルを、観測データベース内に表された過去の観測の各々に関連付けられたスペクトル走査ベクトルと比較することを含んでいてもよい(例えば、(1)クエリポイントの特定の基礎となったスペクトル走査ベクトルと、(2)過去の観測に関連付けられたスペクトル走査ベクトルの各々との間のユークリッド又は他の距離を計算し、次いで、クエリポイントの特定の基礎となったスペクトル走査ベクトルの閾距離内にあると特定された過去の観測に関連付けられたスペクトル走査ベクトルのいずれかを訓練データとして選択することによって)。
【0090】
ブロック406において、選択した訓練データは、監視する生物薬剤プロセスに特有のローカルモデルを較正するために用いられる。ローカルモデル(例えば、ローカルモデル132)は、スペクトルデータ入力(例えば、ラマン又はNIRスペクトル走査ベクトル)に基づいて分析測定を予測するために、ブロック406において訓練される。幾つかの実施形態において、ローカルモデルはガウス過程機械学習モデルである。
【0091】
ブロック408において、生物薬剤プロセスの分析測定は、ローカルモデルを用いて予測される。ブロック408は、ローカルモデルを用いて、生物薬剤プロセスを走査する際に分光システムが生成したスペクトルデータ(例えば、ラマン又はNIR走査ベクトル)を分析することを含んでいてもよい。例えば、ブロック408は、ローカルモデルを用いて、クエリポイントが基づいた同じ走査ベクトル又は他のスペクトルデータを処理することによって、分析測定値を予測することを含んでいてもよい。実施形態に応じて、ローカルモデルは、生スペクトルデータ(例えば、生ラマン走査ベクトル)を分析するために、又は生スペクトルデータの適切な前処理フィルタリング後にスペクトルデータを分析するために用いられてもよい。幾つかの実施形態において、ブロック408はまた、生物薬剤プロセスの予測された分析測定に関連する信頼度指標(例えば、信頼性限界、信頼度スコア等)を特定することを含んでいる。幾つかの実施形態において、ローカルモデルはまた、ブロック408において1つ以上の追加の分析測定も予測する。
【0092】
幾つかの実施形態において、方法400は、
図5に図示しない1つ以上の追加ブロックを含む。例えば、方法400は、ブロック408において予測される分析測定に少なくとも部分的に基づいて、生物薬剤学プロセスの少なくとも1つのパラメータが制御される追加ブロックを含んでいてもよい。実施形態によっては、パラメータは、予測される分析測定と同じ種類(例えば、予測されるグルコース濃度に基づいてグルコース濃度を制御すること)であってもよく、又は異なる種類であってもよい。モデル予測制御(MPC)技術は、例えば、パラメータ(又は複数のパラメータ)を制御するために用いられてもよい。
【0093】
別の実施例として、方法400は、生物薬剤プロセスの実際の分析測定が得られる(例えば、予測された分析測定、及び場合によっては、上で検討したような、1つ以上の以前の/最近の測定が、1つ以上のモデル性能基準を満たす/満たさないことの特定に応じて、分析機器104のうちの1つによって又はそれから)第1の追加ブロック、並びに、(1)実際の分析測定値が得られた際に分光システムが生成したスペクトルデータ、及び(2)生物薬剤プロセスの実際の分析測定が観測データベースに追加されることをもたらす(例えば、スペクトルデータ及び分析測定をデータベースサーバ112等のデータベースサーバに送信することによって、又はスペクトルデータ及び分析測定をローカル観測データベース等に直接追加することによって)第2の追加ブロックを含んでいてもよい。複数の種類の分析測定が予測される実施形態において、複数の実際の分析測定が得られ、観測データベースに追加されてもよい。
【0094】
更に別の実施例として、方法400は、それぞれがブロック402~408に類似する1つ以上の追加のブロックのセットを含んでいてもよい。これらの追加のブロックのセットのそれぞれにおいて、ローカルモデルは、観測データベース(又は他の観測データベース)を照会することによって較正され、異なる種類の分析測定を予測するために用いられてもよい。
【0095】
この開示に属する追加の考慮事項について、ここで取り上げる。
【0096】
用語「ポリペプチド」又は「タンパク質」は、全体を通して互換的に用いられ、ペプチド結合によって互いに連結される2つ以上のアミノ酸残基を含む分子を指す。ポリペプチド及びタンパク質はまた、天然配列のアミノ酸残基からの1つ以上の欠失、挿入、及び/又は置換を有する高分子も含み、即ち、天然に存在する非組換え細胞によって産生されるポリペプチド又はタンパク質、或いは、遺伝子操作された細胞又は組換え細胞によって産生され、天然タンパク質のアミノ酸配列のアミノ酸残基からの1つ以上の欠失、挿入、及び/又は置換を有する分子を含む。ポリペプチド及びタンパク質はまた、1つ以上のアミノ酸が対応する天然に存在するアミノ酸及びポリマーの化学的アナログであるアミノ酸ポリマーも含む。ポリペプチド及びタンパク質はまた、グリコシル化、脂質結合、硫酸化、グルタミン酸残基のγ-カルボキシル化、ヒドロキシル化、及びADP-リボシル化を含むが、これらに限定されない修飾も含む。
【0097】
ポリペプチド及びタンパク質は、タンパク質ベースの治療を含む科学的又は商業的関心の対象であってもよい。タンパク質は、とりわけ、分泌タンパク質、非分泌タンパク質、細胞内タンパク質、又は膜結合型タンパク質を含む。ポリペプチド及びタンパク質は、細胞培養法を用いる組換え動物細胞株によって産生することができ、「組換えタンパク質」と称されてもよい。発現したタンパク質は、細胞内で産生されてもよいか、又はそれを回収及び/又は収集することができる培養媒体中に分泌されてもよい。タンパク質は、標的、特に以下に列挙し、それらから誘導される標的、それらに関連する標的、及びそれらの改変を含む標的に結合することによって治療効果を発揮するタンパク質を含む。
【0098】
タンパク質は、「抗原結合タンパク質」である。抗原結合タンパク質は、それが結合する別の分子(抗原)に対して強い親和性を有する抗原結合領域又は抗原結合部分を含むタンパク質又はポリペプチドを指す。抗原結合タンパク質は、抗体、ペプチボディ、抗体フラグメント、抗体誘導体、抗体アナログ、融合タンパク質(単鎖可変フラグメント(scFv)及び二重鎖(二価)scFvを含む)、ムテイン、xMAbs、及びキメラ抗原受容体(CAR)を包含する。
【0099】
scFvは、一体に連結された抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域を有する単鎖抗体断片である。米国特許第7,741,465号明細書及び同第6,319,494号明細書並びにEshhar,et al.,Cancer Immunol.Immunotherapy(1997)45:131-136を参照されたい。scFvは、標的抗原と特異的に相互作用する親抗体の能力を保持している。
【0100】
用語「抗体」は、任意のアイソタイプ又はサブクラスのグリコシル化及び非グリコシル化免疫グロブリンの両方、又は特異的結合についてインタクトな抗体と競合するその抗原結合領域への言及を含む。特に指定のない限り、抗体は、ヒト、ヒト化、キメラ、多特異性、モノクローナル、ポリクローン、ヘテロIgG、XmAbs、二重特異性、及びそれらのオリゴマー又は抗原結合フラグメントを含む。抗体は、lgG1、lgG2、lgG3、又はlgG4型を含む。また、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、ダイアボディ、Fd、dAb、マキシボディ、一本鎖抗体分子、単一ドメインVHH、相補性決定領域(CDR)フラグメント、scFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ等の抗原結合フラグメント又は領域を有するタンパク質、及び標的ポリペプチドへの特異的抗原結合を付与するのに十分である免疫グロブリンの少なくとも一部を含むポリペプチドも含まれる。
【0101】
また、ヒトに投与した場合に著しく有害な免疫応答を生じない、ヒト、ヒト化、及びヒト及びヒト化抗体等の他の抗原結合タンパク質も含まれる。
【0102】
また、任意にリンカーを介してFcドメインと共に結合される1つ以上の生物活性ペプチドを含むポリペプチドであるペプチボディも含まれる。米国特許第6,660,843号明細書、米国特許第7,138,370号明細書、及び米国特許第7,511,012号明細書を参照されたい。
【0103】
タンパク質はまた、キメラ抗原受容体(CAR又はCAR-T)及びT細胞受容体(TCR)等の遺伝子操作された受容体も含む。CARは、通常、1つ以上の共刺激(「シグナル伝達」)ドメイン及び1つ以上の活性化ドメインと協力して抗原結合ドメイン(scFv等)を取り込む。
【0104】
また、2つの柔軟に連結した抗体由来結合ドメインから作製された組換えタンパク質コンストラクトである二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE(登録商標))抗体コンストラクトも含む(国際公開第99/54440号パンフレット及び国際公開第2005/040220号パンフレットを参照されたい)。コンストラクトの1つの結合ドメインは、標的細胞上の選択された腫瘍関連表面抗原に特異的であり;第2の結合ドメインは、T細胞上のT細胞受容体複合体のサブユニットであるCD3に特異的である。BiTE(登録商標)コンストラクトはまた、T細胞をより特異的に活性化するために、CD3s鎖(国際公開第2008/119567号パンフレット)のN末端において文脈非依存性エピトープに結合する能力を含んでいてもよい。半減期延長BiTE(登録商標)コンストラクトは、小さい二重特異性抗体コンストラクトの、好ましくはBiTE(登録商標)抗体コンストラクトの治療効果を妨げないより大きいタンパク質との融合を含む。二重特異性T細胞エンゲージャーのかかる更なる開発の例は、例えば、米国特許出願公開第2014/0302037号明細書、米国特許出願公開第2014/0308285号明細書、国際公開第2014/151910号パンフレット、及び国際公開第2015/048272号パンフレットに記載される二重特異性Fc分子を含む。別の戦略は、二重特異性分子に融合したヒト血清アルブミン(HAS)、又はヒトアルブミン結合ペプチドの単なる融合の使用がある(例えば、国際公開第2013/128027号パンフレット、国際公開第2014/140358号パンフレットを参照されたい)。別のHLE BiTE(登録商標)戦略は、標的細胞表面抗原に結合する第1のドメイン、ヒト及び/又はアカゲザルCD3e鎖の細胞外エピトープに結合する第2のドメイン、及び特異的Fcモダリティである第3のドメインを融合することを含む(国際公開第2017/134140号パンフレット)。
【0105】
また、非共有結合、共有結合、又は共有結合と非共有結合の両方によって化学的に修飾されるタンパク質等の修飾タンパク質も含まれる。また、細胞改変システムによってなされてもよい1つ以上の翻訳後修飾か、又は酵素及び/若しくは化学的方法によって生体外に導入されるか又は他の方法で導入される修飾を更に含むタンパク質も含まれる。
【0106】
タンパク質はまた、例えば、例えば、ロイシンジッパー、コイルドコイル、免疫グロブリンのFc部分等のような多量体化ドメインを含む組換え融合タンパク質を含んでいてもよい。また、分化抗原のアミノ酸配列の全て又は一部を含むタンパク質(CDタンパク質と呼ばれる)又はそれらのリガンド或いはこれらのいずれかに略類似するタンパク質も含まれる。
【0107】
幾つかの実施形態において、タンパク質は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)等のコロニー刺激因子を含んでいてもよい。かかるG-CSF剤には、Neupogen(登録商標)(フィルグラスチム)及びNeulasta(登録商標)(ペグフィルグラスチム)が含まれるが、これらに限定されない。また、Epogen(登録商標)(エポエチンアルファ)、Aranesp(登録商標)(ダルベポエチンアルファ)、Dynepo(登録商標)(エポエチンデルタ)、Mircera(登録商標)(メトキシポリエチレングリコール-エポエチンベータ)、Hematide(登録商標)、MRK-2578、INS-22、Retacrit(登録商標)(エポエチンゼータ)、Neorecormon(登録商標)(エポエチンベータ)、Silapo(登録商標)(エポエチンゼータ)、Binocrit(登録商標)(エポエチンアルファ)、エポエチンアルファHexal、Abseamed(登録商標)(エポエチンアルファ)、Ratioepo(登録商標)(エポエチンシータ)、Eporatio(登録商標)(エポエチンシータ)、Biopoin(登録商標)(エポエチンシータ)、エポエチンアルファ、エポエチンベータ、エポエチンゼータ、エポエチンシータ、及びエポエチンデルタ、エポエチンオメガ、エポエチンイオタ、組織プラスミノーゲン活性化因子、GLP-1受容体アゴニスト、並びに、それらの分子若しくは変異体又はそれらのアナログ及び前記のいずれかのバイオシミラーも含むが、それらに限定されない。
【0108】
幾つかの実施形態において、タンパク質は、1つ以上のCDタンパク質、HER受容体ファミリータンパク質、細胞接着分子、成長因子、神経成長因子、線維芽細胞増殖因子、形質転換成長因子(TGF)、インスリン様成長因子、骨誘導性因子、インスリン及びインスリン関連タンパク質、凝固及び凝固関連タンパク質、コロニー刺激因子(CSF)、他の血液及び血清タンパク質血液型抗原;受容体、受容体関連タンパク質、成長ホルモン、成長ホルモン受容体、T細胞受容体;神経栄養因子、ニューロトロフィン、リラキシン、インターフェロン、インターロイキン、ウイルス抗原、リポタンパク質、インテグリン、リウマチ因子、免疫毒素、表面膜タンパク質、輸送タンパク質、ホーミング受容体、アドレシン、調節タンパク質、及びイムノアドヘシンに特異的に結合するタンパク質を含んでいてもよい。
【0109】
幾つかの実施形態において、タンパク質は、単独で又は任意の組合せで、以下のうちの1つ以上に結合するタンパク質を含んでいてもよい:CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD19、CD20、CD22、CD25、CD30、CD33、CD34、CD38、CD40、CD70、CD123、CD133、CD138、CD171、CD174を含むがこれらに限定されないCDタンパク質、例えばHER2、HER3、HER4を含むHER受容体ファミリータンパク質、EGF受容体であるEGFRvIII、細胞接着分子、例えばLFA-1、Mol、p150、95、VLA-4、ICAM-1、VCAM、αv/β3インテグリン、例えば、血管内皮成長因子(「VEGF」)を含むがこれらに限定されない成長因子、VEGFR2、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、成長ホルモン放出因子、副甲状腺ホルモン、ミュラー抑制物質、ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP-1-α)、エリスロポエチン(EPO)、NGF-β等の神経成長因子、血小板由来成長因子(PDGF)、例えばaFGF及びbFGFを含む線維芽細胞成長因子、上皮成長因子(EGF)、クリプト、数ある中でも、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4、又はTGF-β5を含むTGF-α及びTGF-βを含む形質転換成長因子(TGF)、インスリン様成長因子-I及び-II(IGF-I及びIGF-II)、des(1-3)-IGF-I(脳内IGF-I)、及び骨形成促進因子、インスリン、インスリンA鎖、インスリンB鎖、プロインスリン、及びインスリン様成長因子結合タンパク質を含むがこれらに限定されないインスリン及びインスリン関連タンパク質、数ある中でも、第VIII因子、組織因子、フォンウィルブランド因子等の凝固及び凝固関連タンパク質、プロテインC、α-1-アンチトリプシン、ウロキナーゼ及び組織プラスミノーゲンアクチベーター(「t-PA」)等のプラスミノーゲンアクチベーター、ボンバジン、トロンビン、トロンボポエチン、トロンボポエチン受容体、数ある中でも、M-CSF、GM-CSF、及びG-CSFを含むコロニー刺激因子(CSF)、アルブミン、IgE、及び血液型抗原を含むがこれらに限定されない他の血液及び血清タンパク質、例えば、flk2/flt3受容体、肥満(OB)受容体、成長ホルモン受容体、及びT細胞受容体を含む受容体及び受容体関連タンパク質、(x)骨由来神経栄養因子(BDNF)及びニューロトロフィン-3、-4、-5、又は-6(NT-3、NT-4、NT-5、又はNT-6)を含むがこれらに限定されない神経栄養因子;(xi)リラキシンA鎖、リラキシンB鎖、及びプロレラキシン、例えば、インターフェロン-α、-β、及び-γを含むインターフェロン、インターロイキン(IL)、例えば、IL-1~IL-10、IL-12、IL-15、IL-17、IL-23、IL-12/IL-23、IL-2Ra、IL1-R1、IL-6受容体、IL-4受容体及び/又はIL-13から受容体であるIL-13RA2、又はIL-17受容体であるIL-1RAP、(xiv)エイズエンベロープウイルス抗原、リポタンパク質、カルシトニン、グルカゴン、心房性ナトリウム利尿因子、肺サーファクタント、腫瘍壊死因子-α及び-βを含むがこれらに限定されないウイルス抗原、エンケファリナーゼ、BCMA、IgKappa、ROR-1、ERBB2、メソセリン、RANTES(Regulated on activation normal T-cell expressed and secreted)、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、Dnase、FR-α、インヒビン、及びアクチビン、インテグリン、プロテインA又はD、リウマチ因子、免疫毒素、骨形成タンパク質(BMP)、スーパーオキシドディスムターゼ、表面膜タンパク質、崩壊促進因子(DAF)、AIDSエンベロープ、輸送タンパク質、ホーミング受容体、MIC(MIC-a、MIC-B)、ULBP 1-6、EPCAM、アドレシン、制御タンパク質、イムノアドヘシン、抗原結合タンパク質、ソマトロピン、CTGF、CTLA4、エオタキシン-1、MUC1、CEA、c-MET、クローディン-18、GPC-3、EPHA2、FPA、LMP1、MG7、NY-ESO-1、PSCA、ガングリオシドGD2、グラングリオシドGM2、BAFF、OPGL(RANKL)、ミオスタチン、Dickkopf-1(DKK-1)、Ang2、NGF、IGF-1受容体、肝細胞増殖因子(HGF)、TRAIL-R2、c-Kit、B7RP-1、PSMA、NKG2D-1、プログラムされた細胞死タンパク質1及びリガンド、PD1及びPDL1、マンノース受容体/hCGβ、C型肝炎ウイルス、メソセリンdsFv[PE38コンジュゲート、レジオネラニューモフィラ(lly)、IFNガンマ、インターフェロンガンマ誘導タンパク質10(IP10)、IFNAR、TALL-1、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)、幹細胞因子、Flt-3、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、OX40L、α4β7、血小板特異的(血小板糖タンパクIib/IIIb(PAC-1)、トランスフォーミング成長因子β(TFGβ)、透明帯精子結合タンパク質3(ZP-3)、TWEAK、血小板由来成長因子受容体α(PDGFRα)、スクレロスチン、及び前記のいずれかの生物活性フラグメント又は変異体。
【0110】
別の実施形態において、タンパク質は、アブシキシマブ、アダリムマブ、アデカツムマブ、アフリベルセプト、アレムツズマブ、アリロクマブ、アナキンラ、アタシセプト、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ、ビオスズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブベドチン、ブロダルマブ、カンツズマブメルタンシン、カナキヌマブ、セツキシマブ、セルトリズマブペゴル、コナツムマブ、ダクリズマブ、デノスマブ、エクリズマブ、エドレコロマブ、エファリズマブ、エプラツズマブ、エタネルセプト、エボロクマブ、ガリキシマブ、ガニツマブ、ゲムツズマブ、ゴリムマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、イピリムマブ、レルデリムマブ、ルミリキシマブ、イキセキズマブ(lxdkizumab)、マパツズマブ、モテサニブ二リン酸、ムロモナブ-CD3、ナタリズマブ、ネシリチド、ニモツズマブ、ニボルマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、オプレルベキン、パリビズマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペニツムマブ、パキセリズマブ、ラニビズマブ、リロツムマブ、リツキシマブ、ロミプロスチム、ロモソズマブ、サルグラモスチム、トシリズマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、ウステキヌマブ、ベドリズマブ、ビジリズマブ、ボロシキシマブ、ザノリムマブ、ザルツムマブ、及び前記のいずれかのバイオシミラーを含む。
【0111】
タンパク質は、前記の全てを包含し、更に、上記抗体のいずれかの相補性決定領域(CDR)の1、2、3、4、5、又は6を含む抗体を含む。また、対象タンパク質の基準アミノ酸配列に対して70%以上、特に80%以上、より特に90%以上、更により特に95%以上、特に97%以上、より特に98%以上、更により特に99%以上のアミノ酸配列が同一である領域を備える変異体も含まれる。この点に関する同一性は、種々の周知であり且つ容易に利用可能なアミノ酸配列分析ソフトウェアを用いて特定することができる。好ましいソフトウェアには、スミス-ウォーターマンアルゴリズムを実装するものが含まれ、配列の検索及び整列の問題に対する満足な解決策と考えられる。特に速度が重要な考慮事項である場合には、他のアルゴリズムも採用してもよい。この点に関して用いることができるDNA、RNA、及びポリペプチドの整列及びホモロジーマッチングのために一般に用いられるプログラムには、FASTA、TFASTA、BLASTN、BLASTP、BLASTX、TBLASTN、PROSRCH、BLAZE、及びMPSRCHが含まれ、後者は、MasParによって作製された超並列プロセッサ上で実行するためのスミス-ウォーターマンアルゴリズムの実装である。
【0112】
本明細書において記述されている図の幾つかは、1つ以上の機能可能なコンポーネントを有する例示用のブロック図を示している。このようなブロック図は、例示を目的としたものであり、且つ、記述及び図示されている装置は、図示されているものよりも多くの数の、少ない数の、又は代替的な、コンポーネントを有し得ることを理解されたい。これに加えて、様々な実施形態においては、コンポーネント(のみならず、個々のコンポーネントによって提供される機能)は、任意の適切なコンポーネントと関連付けられていてもよく、或いは、さもなければ、その一部として統合されてもよい。
【0113】
本開示の実施形態は、様々なコンピュータ実装された動作を実行するべくコンピュータコードを有する非一時的コンピュータ可読ストレージ媒体に関する。「コンピュータ可読ストレージ媒体」という用語は、本明細書においては、本明細書において記述されている動作、方法、及び技法を実行するべく、命令又はコンピュータコードのシーケンスを保存又はエンコードする能力を有する任意の媒体を含むべく、用いられている。媒体及びコンピュータコードは、本開示の実施形態を目的として特別に設計及び構築されたものであってもよく、或いは、これらは、コンピュータソフトウェア技術の分野における当業者にとって周知の且つ入手可能な種類のものであってもよい。コンピュータ可読ストレージ媒体の実施例は、ハードディスク、フロッピーディスク、及び磁気テープ等の磁気媒体、CD-ROM及びホログラフィック装置等の光媒体、光ディスク等の磁気-光媒体、並びに、ASIC、プログラム可能な論理装置(「PLD:programmable logic device」)、及びROM装置やRAM装置等のプログラムコードを保存及び実行するように特別に構成されたハードウェア装置を含むが、これらに限定されない。
【0114】
コンピュータコードの例は、コンパイラによって生成されるもの等の、機械コードと、インタープリタ又はコンパイラを用いてコンピュータによって実行される相対的にハイレベルなコードを収容するファイルと、を含む。例えば、本開示の一実施形態は、Java、C++、又はその他のオブジェクト指向のプログラミング言語及び開発ツールを用いることにより、実装することができる。コンピュータコードの更なる例は、暗号化されたコード及び圧縮されたコードを含む。更には、本開示の一実施形態は、コンピュータプログラム製品としてダウンロードされてもよく、これは、リモートコンピュータ(例えば、サーバコンピュータ)から要求元のコンピュータ(例えば、クライアントコンピュータ又は異なるサーバコンピュータ)に送信チャネルを介して転送されてもよい。本開示の別の実施形態は、機械実行可能なソフトウェア命令の代わりに、或いは、これとの組合せにおいて、配線接続された回路として実装することができる。
【0115】
本明細書において用いられている「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」という単数形の用語は、文脈がそうではない旨を明示的に示していない限り、複数の参照物を含んでいてもよい。
【0116】
本明細書において用いられている「接続する(connect)」、「接続された(connected)」、及び「接続(connection)」という用語は、機能可能な結合又はリンク付けを意味している。接続されたコンポーネントは、例えば、別のコンポーネントの組を通じて、互いに直接的に又は間接的に結合されてもよい。
【0117】
本明細書において用いられている「ほぼ(approximately)」、「実質的に(substantially)」、「実質的な(substantial)」、及び「約(about)」という用語は、小さな変動を記述及び説明するべく用いられている。イベント又は状況との関連において用いられた際に、これらの用語は、そのイベント又は状況が正確に発生している事例のみならず、イベント又は状況が、近接した程度にまで、発生している事例をも意味し得る。例えば、数値との関連において用いられた際に、これらの用語は、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、又は±0.05%以下等の、その数値の±10%以下の変動の範囲を意味し得る。例えば、2つの数値は、値の間の差が、値の平均の±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、又は±0.05%以下等の、±10%以下である場合に、「実質的に(substantially)」同一であると判断されてもよい。
【0118】
これに加えて、量、比率、及びその他の数値は、場合により、本明細書においては、範囲のフォーマットにおいて提示されている。このような範囲のフォーマットは、利便及び簡潔性を目的として用いられており、且つ、範囲の限度として明示的に規定された数値を含んでいるが、それぞれの数値及びサブ範囲がまるで明示的に規定されているのかのように、その範囲内において包含される全ての個々の数値又はサブ範囲をも含むものとして、柔軟に理解するべきであることを理解されたい。
【0119】
本開示は、その特定の実施形態を参照して説明及び図示されているが、これらの説明及び図示は、本開示を限定するものではない。当業者には、添付の請求項によって定義されている本開示の真の趣旨及び範囲を逸脱することなしに、様々な変更が実施されてもよいと共に、均等物が置換されてもよいことが理解されるはずである。図示は、必ずしもその縮尺が正確ではない場合がある。製造プロセス、公差、及び/又は他の理由に起因して、本開示における技術的表現と実際の装置との間には、差異が存在し得る。具体的に示されていない本開示のその他の実施形態が存在し得る。(特許請求の範囲以外の)本明細書及び図面は、限定ではなく、例示を目的としたものとして見なすことを要する。特定の状況、材料、事物の組成、技法、又はプロセスを本開示の目的、趣旨、及び範囲に対して適合させるべく、変更を実施することができる。全てのこのような変更は、本明細書に添付されている特許請求の範囲に含まれるべく意図されている。本明細書において開示されている技法は、特定の順序において実行される特定の動作を参照して記述されているが、これらの動作は、本開示の教示内容を逸脱することなしに、均等な技法を形成するべく、組み合わせられてもよく、サブ分割されてもよく、或いは、再順序付けられてもよいことを理解されたい。従って、本明細書において具体的に示されていない限り、動作の順序及びグループ分けは、本開示を限定するものではない。