(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】環状分子に長鎖アルキル基を有するポリロタキサン、該ポリロタキサンを有する組成物、及び該ポリロタキサンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
C08L101/02
(21)【出願番号】P 2021526862
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2020023897
(87)【国際公開番号】W WO2020256046
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2019113431
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505136963
【氏名又は名称】株式会社ASM
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝成
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/095493(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/061988(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/108411(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/074099(WO,A1)
【文献】特開2019-001990(JP,A)
【文献】特開2017-214498(JP,A)
【文献】国際公開第2013/147300(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/041322(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0218323(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が下記式I
(式中、Xは単結合又はNHであり;
nは0又は1であり;
Rは、炭素数が12~20の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基(アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基中の一部の水素がOH基、CN基又はNH
2基で置換されていてもよい)を表し;
*は環状分子と結合する位置である)
で表わされる第1の基を有するポリロタキサン。
【化1】
【請求項2】
前記環状分子が水酸基を有し、該水酸基の一部が上記第1の基で置換され、置換前の水酸基の量を100%とすると、前記第1の基が20~80%で置換される請求項1記載のポリロタキサン。
【請求項3】
前記ポリロタキサンが水酸基を有し、水酸基価が60~300mgKOH/gである請求項1又は2記載のポリロタキサン。
【請求項4】
(A)請求項1~3のいずれか一項記載のポリロタキサン;及び
(B)ポリシロキサン構造を有する第1の化合物;
を含有する組成物。
【請求項5】
前記(A)ポリロタキサン及び前記(B)第1の化合物の合計重量を100重量部とすると、該100重量部中、前記(A)ポリロタキサンが3~70重量部有する請求項4記載の組成物。
【請求項6】
前記(B)第1の化合物が、水酸基を有する請求項4又は5記載の組成物。
【請求項7】
前記(B)第1の化合物が、ポリジメチルシロキサン構造を有する請求項4~6のいずれか一項記載の組成物。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか一項記載の組成物
であって、
前記(A)ポリロタキサンが水酸基を有し、
前記(B)第1の化合物が水酸基を有し、
前記組成物が(C)前記(A)ポリロタキサン及び前記(B)第1の化合物と反応できる反応基を有する成分をさらに有し、該反応基がイソシアネート基、ブロックイソシアネート基及びエポキシ基からなる群から選ばれる上記組成物から形成され
且つ前記(A)ポリロタキサン;及び(B)第1の化合物を有して形成される架橋体。
【請求項9】
請求項8記載の架橋体を有する物質。
【請求項10】
(I)環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が(1)水酸基を有するか又は(2)ヒドロキシプロピル基を有する、ポリロタキサンを準備する工程;
(II)RCOOH、RCOCl、及びRNCO(式中、Rは、炭素数が12~20の直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基(アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基中の一部の水素がOH基、CN基又はNH
2基で置換されていてもよい)を表す)からなる群から選ばれるいずれか1種の第2の化合物を準備する工程;
(III)前記(I)工程で準備したポリロタキサンと前記(II)工程で準備した第2の化合物とを反応させる工程;
を有することにより、
環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が下記式I
(式中、Xは単結合又はNHであり;
nは0又は1であり;
Rは、炭素数が12~20の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基(アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基中の一部の水素がOH基、CN基又はNH
2基で置換されていてもよい)を表す)であり;
*は環状分子と結合する位置である)
で表わされる第1の基を有するポリロタキサンを得る、該ポリロタキサンの製造方法。
【化2】
【請求項11】
前記(I)工程の前記環状分子が前記(1)水酸基を有するか及び/又は前記(2)ヒドロキシプロピル基由来の水酸基を有し、該水酸基の量を100%とすると、前記(III)工程で得られるポリロタキサンは、前記第1の基が、前記水酸基の20~80%置換される請求項
10記載の方法。
【請求項12】
(X)環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が下記式I
(式中、Xは単結合又はNHであり;
nは0又は1であり;
Rは、炭素数が12~20の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基(アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基中の一部の水素がOH基、CN基又はNH
2基で置換されていてもよい)を表す)であり;
*は環状分子と結合する位置である)
で表わされる第1の基を有
し且つ水酸基を有する(A)ポリロタキサンを準備する工程;
(XI)(B)ポリシロキサン構造を有
し且つ水酸基を有する第1の化合物を準備する工程;
(XIII) (C)前記(A)ポリロタキサン及び前記(B)第1の化合物と反応できる反応基を有する成分であって該反応基がイソシアネート基、ブロックイソシアネート基及びエポキシ基からなる群から選ばれる成分を準備する工程;
(XII)
前記(A)ポリロタキサンと
前記(B)第1の化合物とを
、前記(C)成分の存在下で反応させる工程;
を有することにより、
(A)ポリロタキサン;及び(B)第1の化合物を有して形成される
架橋体を得る、(A)ポリロタキサン;及び(B)第1の化合物;を有して形成される
架橋体の製造方法。
【化3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状分子に長鎖アルキル基等を有するポリロタキサン、該ポリロタキサンを有する組成物、該ポリロタキサンを有して成る架橋体、及び該ポリロタキサンの製造方法、該架橋体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に、環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンは、それを用いた材料が、優れた伸び率、優れた柔軟性などを示すことから種々の材料に応用することが期待されている。
該ポリロタキサンの特性を活かすために、ポリロタキサンの環状分子、例えばα-シクロデキストリン(以下、単に「α-CD」と略記する場合がある)の水酸基を種々の修飾基で修飾し、溶媒への相溶性を向上させた報告、機能性を付与する報告が種々存在する。
【0003】
例えば、特許文献1は、ポリロタキサンの環状分子であるα-CDの水酸基に(i)アシル基、及び(ii)アルキルオキシ、アルキルオキシ、アルキルカーボネート基、アルキルカルバモイル基、シリル基、及び光反応性基からなる群から選択される基を修飾したポリロタキサンを開示し、該修飾ポリロタキサンにより各種溶媒に対する溶解性が向上したことを開示する。
【0004】
また、特許文献2は、ポリロタキサンのα-CDの水酸基に、ヒドロキシプロピル基を結合し、さらに水酸基の一部又は全部をε-カプロラクトン由来の修飾基で修飾し、さらに該カプロラクトン由来修飾基の末端水酸基に炭素数3~29の脂環構造を有する炭化水素基で修飾されてなる修飾ポリロタキサンを開示し、該修飾ポリロタキサンによりポリプロピレングリコールへの相溶性比が向上したことを開示する。
【0005】
さらに、特許文献3は、ポリロタキサン、ポリシロキサン含有ブロック共重合体、ポリシロキサンを含有しない重合体を含む組成物を開示し、該組成物から作製したエラストマーが、優れた耐湿性を示すことを開示する。なお、特許文献3で具体的に開示するポリロタキサンは、ポリカプロラクトン側鎖を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2008/108411。
【文献】特開2019-1990号公報。
【文献】特開2017-66318号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1~3はいずれも、修飾ポリロタキサンのシリコーンに関する相溶性については開示されていない。
例えば、特許文献1は、特許文献1の修飾ポリロタキサンのシリコーンに関する相溶性は一切開示がなされていない。
また、特許文献2は、特許文献2の修飾ポリロタキサンのポリプロピレングリコールへの相溶性が溶媒の存在下で改善したことを開示するが、シリコーンに関する相溶性については一切開示がない。
さらに、特許文献3は、ポリカプロラクトン側鎖を有するポリロタキサンとポリシロキサンとを含有するブロック共重合体を開示するものの、共重合していないポリシロキサンを用いる場合、特許文献3が比較例2で開示するように、修飾ポリロタキサンのシリコーンへの相溶性がないことがわかる。
【0008】
一方、シリコーンと高い濃度で相溶性を有するポリロタキサンが要望されている。そのようなポリロタキサンが提供できれば、優れた弾性特性、例えば所望のヤング率を有するか、及び/又は所望のヒステリシスロスを有する材料を提供できると共に、高い絶縁性を示す材料を提供することができる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、シリコーン、例えばシリコーンオイルとの相溶性が高いポリロタキサンを提供することにある。
また、本発明の目的は、上記目的以外に、又は、上記目的に加えて、高い絶縁性を示すポリロタキサン又は該ポリロタキサンを有して成る材料を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、上記目的以外に、又は、上記目的に加えて、上記ポリロタキサンの製造方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記目的以外に、又は、上記目的に加えて、上記ポリロタキサンを有する組成物、上記ポリロタキサンを有して成る架橋体、該架橋体の製造方法を提供することにある。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明者は、以下の発明を見出した。
<1> 環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が下記式I
(式中、Xは単結合又はNHであり;
nは0又は1であり;
Rは、炭素数が12~20の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基(アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基中の一部の水素がOH基、CN基又はNH2基で置換されていてもよい)を表し;
*は環状分子と結合する位置である)
で表わされる第1の基を有するポリロタキサン。
【0011】
【0012】
<2> 上記<1>において、環状分子が水酸基を有し、該水酸基の一部が上記第1の基で置換され、置換前の水酸基の量を100%とすると、前記第1の基が20~80%、好ましくは25~75%、より好ましくは30~70%、最も好ましくは40~60%で置換されるのがよい。
<3> 上記<1>又は<2>において、ポリロタキサンが水酸基を有し、水酸基価が60~300mgKOH/g、好ましくは70~250mgKOH/g、より好ましくは80~200mgKOH/g、最も好ましくは90~150mgKOH/gであるのがよい。
【0013】
<4> (A)上記<1>~<3>のいずれかに記載のポリロタキサン;及び
(B)ポリシロキサン構造を有する第1の化合物;
を含有する組成物。
<5> 上記<4>において、(A)ポリロタキサン及び(B)第1の化合物の合計重量を100重量部とすると、該100重量部中、前記(A)ポリロタキサンが3~70重量部、好ましくは5~60重量部、より好ましくは8~55重量部であるのがよい。
<6> 上記<4>又は<5>において、(B)第1の化合物が、水酸基を有するのがよい。
【0014】
<7> 上記<4>~<6>のいずれかにおいて、前記(B)第1の化合物が、ポリジメチルシロキサン構造を有するのがよい。
<8> 上記<4>~<7>のいずれかに記載の組成物から形成される架橋体。
<9> 上記<8>において、(A)ポリロタキサン及び(B)第1の化合物の合計重量を100重量部とすると、該100重量部中、前記(A)ポリロタキサンが3~70重量部、好ましくは5~60重量部、より好ましくは8~55重量部であるのがよい。
<10> 上記<8>又は<9>の架橋体を有する物質。
【0015】
<11> (I)環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が(1)水酸基を有するか又は(2)ヒドロキシプロピル基を有する、ポリロタキサンを準備する工程;
(II)RCOOH、RCOCl、及びRNCO(式中、Rは、炭素数が12~20の直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基(アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基中の一部の水素がOH基、CN基又はNH2基で置換されていてもよい)を表す)からなる群から選ばれるいずれか1種の第2の化合物を準備する工程;
(III)前記(I)工程で準備したポリロタキサンと前記(II)工程で準備した第2の化合物とを反応させる工程;
を有することにより、
環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が下記式I
(式中、Xは単結合又はNHであり;
nは0又は1であり;
Rは、炭素数が12~20の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基(アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基中の一部の水素がOH基、CN基又はNH2基で置換されていてもよい)を表す)であり;
*は環状分子と結合する位置である)
で表わされる第1の基を有するポリロタキサンを得る、該ポリロタキサンの製造方法。
【0016】
【0017】
<12> 上記<11>の(I)工程の環状分子が(1)水酸基を有するか及び/前記(2)ヒドロキシプロピル基由来の水酸基を有し、該水酸基の量を100%とすると、(III)工程で得られるポリロタキサンは、第1の基が、前記水酸基の20~80%、好ましくは25~75%、より好ましくは30~70%、最も好ましくは40~60%、置換されるのがよい。
【0018】
<13> (X)環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が下記式I
(式中、Xは単結合又はNHであり;
nは0又は1であり;
Rは、炭素数が12~20の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基(アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基中の一部の水素がOH基、CN基又はNH2基で置換されていてもよい)を表す)であり;
*は環状分子と結合する位置である)
で表わされる第1の基を有する(A)ポリロタキサンを準備する工程;
(XI)(B)ポリシロキサン構造を有する第1の化合物を準備する工程;
(XII)(A)ポリロタキサンと(B)第1の化合物とを反応させる工程、例えば室温~150℃で常圧の条件下で反応させる工程;
を有することにより、
(A)ポリロタキサン;及び(B)第1の化合物を有して形成される架橋体を得る、(A)ポリロタキサン;及び(B)第1の化合物;を有して形成される架橋体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、シリコーン、例えばシリコーンオイルとの相溶性が高いポリロタキサンを提供することができる。
また、本発明により、高い絶縁性を示すポリロタキサン又は該ポリロタキサンを有して成る材料を提供することができる。
さらに、本発明により、上記効果以外に、又は、上記効果に加えて、上記ポリロタキサンの製造方法を提供することができる。
また、本発明により、上記効果以外に、又は、上記効果に加えて、上記ポリロタキサンを有する組成物、上記ポリロタキサンを有して成る架橋体、該架橋体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本願に記載する発明を詳細に説明する。
本発明は、環状分子に長鎖アルキル基等を有するポリロタキサン、該ポリロタキサンを有する組成物、該ポリロタキサンを有して成る架橋体、及び該ポリロタキサンの製造方法、該架橋体の製造方法を提供する。以下、順に説明する。
【0021】
<環状分子に長鎖アルキル基等を有するポリロタキサン>
本発明は環状分子に長鎖アルキル基等を有するポリロタキサンを提供する。具体的には、本発明は、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、該環状分子が上記式I
(式中、Xは単結合又はNH、好ましくは単結合であり;
nは0又は1、好ましくは1であり;
Rは、炭素数が12~20の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基(アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基中の一部の水素がOH基、CN基又はNH2基で置換されていてもよい)を表し;
*は環状分子と結合する位置である)
で表わされる第1の基を有するポリロタキサンを提供する。
【0022】
上記式Iにおいて、Rは、好ましくは、炭素数が11~18、好ましくは12~17、より好ましくは14~16の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基、好ましくは直鎖状アルキル基、直鎖状アルケニル基、又は直鎖状アルキニル基、より好ましくは直鎖状アルキル基、直鎖状アルケニル基であるのがよい。
具体的には、第1の基は、Xは単結合、nは1、Rは炭素数14~16のアルキル基であるのがよい。
【0023】
環状分子が水酸基を有し、該水酸基の一部が上記第1の基で置換され、置換前の水酸基の量を100%とすると、前記第1の基が20~80%、好ましくは25~75%、より好ましくは30~70%、最も好ましくは40~60%で置換されるのがよい。
【0024】
本発明のポリロタキサンの環状分子は、上記第1の基以外に、他の材料と反応できる第1の官能基を備えるのがよい。第1の官能基として、水酸基、アミノ基、チオール基、カルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基などを挙げることができ、特に第1の官能基として、水酸基を有するのがよい。本発明のポリロタキサン、特に本発明のポリロタキサンの環状分子が水酸基を有する場合、水酸基価が60~300mgKOH/g、好ましくは70~250mgKOH/g、より好ましくは80~200mgKOH/g、最も好ましくは90~150mgKOH/gであるのがよい。
【0025】
以下、ポリロタキサンを構成する「環状分子」、「直鎖状分子」、「封鎖基」について説明する。なお、これらは従来公知のものを用いることができる。
<<環状分子>>
本発明のポリロタキサンの環状分子は、環状であり、開口部を有し、直鎖状分子によって串刺し状に包接されるものであれば、特に限定されない。
環状分子は、任意の連結基を介して第1の基を有する。なお、連結基として、-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-、-CH2CH(OH)-CH2-、-CH2-CH2-CH2-CH2-、-CO-CH2-CH2-、-CO-C(CH3)2-CH2-、-CO-CH(OH)-CH2-、-CO-CH2-CH2-CH2-CH(CH3)-などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0026】
環状分子は、上記第1の基以外の基を有してもよい。例えば、上記第1の基以外の基として、アセチル基、プロピオニル基、ブチルエステル基、メトキシ基、プロピルエーテル基、ブチルエーテル基、ブチルカルバモイル基、シクロヘキシルカルバモイル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、2、3-ジヒドロキシプロピル、フェニル基、ベンジルカルバモイル基、フェニルエチルカルバモイル基、ベンジルエステル基、ブチルベンジルエステル基などを挙げることができるがこれらに限定されない。
環状分子として、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群から選択されるのがよい。
例えば、上述したように、α-シクロデキストリンなどの-OH基の一部を、上述の第1の基で置換するのがよい。なお、α-シクロデキストリンなどの-OH基の一部が上記第1の基以外の基で置換されてもよい。
【0027】
<<直鎖状分子>>
本発明のポリロタキサンの直鎖状分子は、用いる環状分子の開口部に串刺し状に包接され得るものであれば、特に限定されない。
例えば、直鎖状分子として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル-スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロンなどのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれるのがよい。例えばポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール及びポリビニルメチルエーテルからなる群から選ばれるのがよい。特にポリエチレングリコールであるのがよい。
【0028】
直鎖状分子は、その重量平均分子量が1,000以上、好ましくは3,000~100,000、より好ましくは6,000~50,000であるのがよい。
本願の、ポリロタキサンにおいて、(環状分子、直鎖状分子)の組合せが、(α-シクロデキストリン由来、ポリエチレングリコール由来)であるのがよい。
【0029】
<<封鎖基>>
本発明のポリロタキサンの封鎖基は、擬ポリロタキサンの両端に配置され、用いる環状分子が脱離しないように作用する基であれば、特に限定されない。
例えば、封鎖基として、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、シルセスキオキサン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、及びステロイド類からなる群から選ばれるのがよい。なお、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、シルセスキオキサン類、及びピレン類からなる群から選ばれるのが好ましく、より好ましくはアダマンタン基類又はシクロデキストリン類であるのがよい。
【0030】
本発明のポリロタキサンは、式Iで表される第1の基を有することにより、シリコーンとの相溶性を向上させることができる。
【0031】
<本発明のポリロタキサンを有する組成物>
本発明は、(A)環状分子に上記式Iで表される第1の基を有するポリロタキサン;を有する組成物を提供する。
特に、本発明は、上記(A)成分;及び(B)ポリシロキサン構造を有する第1の化合物;
を含有する組成物を提供する。
なお、本発明の組成物は、上記(A)成分;及び上記(B)成分;以外の成分を有することができる。
【0032】
<<(B)ポリシロキサン構造を有する第1の化合物>>
本発明の組成物が含有する、(B)ポリシロキサン構造を有する第1の化合物として、ポリシロキサン構造を有すれば特に限定されない。
第1の化合物として、好ましくは、水酸基を有するのがよい。
また、第1の化合物は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)構造を主成分として有するのがよい。
第1の化合物は、主鎖又は側鎖に少なくとも1個の第2の官能基を有するのがよい。
第1の化合物は、その他のオリゴマー又はポリマーとブロック共重合していないポリシロキサンであるのが望ましい。
なお、第2の官能基として、水酸基、アミノ基、チオール基、カルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0033】
具体的には、(B)第1の化合物として、カルビノール末端PDMS、ビス(ヒドロキシエチルアミン)末端PDMS、シラノール末端PDMS、側鎖の一部にOH基を変性したPDMS、ビニル末端PDMS、側鎖の一部にビニル基を変性したPDMS、水素化物末端PDMS、側鎖の一部に水素化物変性したPDMS、アミノプロピル末端PDMS、側鎖の一部にアミノプロピル基を変性したPDMS、エポキシプロポキシプロピル末端変性PDMS、(メタ)クリリルオキシプロピル末端PDMS、無水コハク酸末端PDMS、カルボキシアルキル末端PDMS、クロロメチル末端PDMS、メルカプトプロピル末端PDMSなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0034】
<<上記(A)成分;及び上記(B)成分;以外の成分>>
上述したように、本発明の組成物は、上記(A)成分;及び上記(B)成分;以外の成分を有することができる。
これらの成分として、特に限定されないが、(C1)上記(A)成分及び/又は上記(B)成分と反応できる反応基を有する成分、(C2)シロキサン成分を含まないポリオール成分、などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0035】
(C1)上記(A)成分及び/又は上記(B)成分と反応できる反応基を有する成分の、「反応基」として、イソシアネート基、酸無水物基、チオイソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸基、カルボン酸塩素物、アミノ基などを挙げることができるが、これらに限定されない。
「反応基」として、好ましくはイソシアネート基、ブロックイソシアネート基、エポキシ基であるのがよく、より好ましくはイソシアネート基、ブロックイソシアネート基であり、最も好ましくはイソシアネート基であるのがよい。
【0036】
(C1)上記(A)成分及び/又は上記(B)成分と反応できる反応基を有する成分とし、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリエレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビウレット型ポリイソシアネート、イソシアヌレート型ポリイソシアネート、アダクト型ポリイソシアネート、などのポリイソシアネート化合物又はそれらのブロックイソシアネート化合物;ピロメリット酸無水物、4、4’-カルボニルジフタル酸無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、などの二酸無水物;テレフタロイルジクロリド、イソフタロイルジクロリド、1、3、5-ベンゼントリカルボニルトリクロリドなどの多官能酸クロリド化合物のイソシアネート化合物;エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、m-キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどのアミン化合物;ポリプロピレングリコール、ポリカーボネートジオール、ポリエチレングリコール、カルビノール末端ポリシロキサンなどの末端水酸基をジイソシアネート化合物で変性した末端イソシアネート基を有するポポリオールなどを挙げることができるが、これらに限定されない。なお、イソシアネート基を有する場合、イソシアネート基をε-カプロラクタム、マロン酸ジエチル、2-ブタノンオキシム、ジメチルピラゾールなどの化合物をブロックして使用してもよい。
【0037】
(C2)シロキサン成分を含まないポリオール成分とは、分子構造にシロキサン構造を有しないオリゴマー又はポリマーのポリオールをいう。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトレメチレングリコール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0038】
上記(C1)、(C2)以外の成分として、上記ポリロタキサン以外のポリロタキサン、ポリロタキサン以外のポリマー又は該ポリマーを形成するモノマー又はオリゴマー、溶媒などを挙げることができるが、これらに限定されない。
また、本発明の組成物から形成される架橋体が、所望の特性を備えるための各種成分を挙げることができる。該各種成分として、酸化防止剤、UV吸収剤、架橋助剤、界面活性剤、乳化剤、可塑剤、重合開始剤、重合禁止剤、ポリマー微粒子、シリカ、アルミナなどの金属酸化物、表面調整剤、難燃剤を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0039】
さらに、ポリロタキサン以外のポリマーとして、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカルボナート、ポリアクリレート、ポリウレタン、ポリウレア、ポリシロキサン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアミド酸、ポリエン、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル及びこれらの共重合体、又はこれらの変性体を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0040】
可塑剤として、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)、リン酸トリクレジルなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0041】
UV吸収剤として、パラジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、サリチル酸2-エチルヘキシル、2、4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルベンゾフェノン、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、ビス(2、2、6、6-テトラメチル-4-ピペリジル)-セバケート、パラメトキシケイ皮酸2エチルヘキシル、パラメトキシケイヒ酸イソプロピル、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、メトキシケイヒ酸オクチルなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0042】
光重合開始剤は、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド(Lucirin(登録商標) TPO)などのベンゾイルホスフィンオキシド化合物;又はビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド(Irgacure(登録商標)819)などのビスアシルホスフィンオキシド化合物;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Irgacure(登録商標)184)などの1-ヒドロキシフェニルケトンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0043】
熱重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-へキシルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物系重合開始剤;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤を挙げることができるが、これらに限定されない。
溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、水、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトニトリル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0044】
<本発明の組成物から形成される架橋体;及び該架橋体を有する物質>
本発明は、上記(A)ポリロタキサン;及び(B)ポリシロキサン構造を有する第1の化合物;を含有する組成物から形成される架橋体を提供する。
本発明の架橋体において、(A)ポリロタキサン及び(B)第1の化合物の合計重量を100重量部とすると、該100重量部中、前記(A)ポリロタキサンが3~70重量部、好ましくは5~60重量部、より好ましくは8~55重量部であるのがよい。
【0045】
本発明の上記(A)ポリロタキサンは、(B)ポリシロキサン構造を有する第1の化合物を含めたシリコーンとの相溶性が良好であるため、(A)ポリロタキサンを上記範囲のような高濃度で含めることができる。
また、A)ポリロタキサンを上記範囲のような高濃度で含めることができるため、本発明の架橋体は、所望の特性、例えば所望のヤング率、所望のヒステリシスロス、及び/又は所望の絶縁性を有することができる。
さらに、本発明は、上記架橋体を有する物質を提供することができる。該物質は、上記架橋体を有すれば特に限定されない。
【0046】
<本発明の、環状分子に長鎖アルキル基等を有するポリロタキサンの製造方法>
本発明の、環状分子に長鎖アルキル基等を有するポリロタキサンは、次のように製造することができる。
即ち、
(I)環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が(1)水酸基を有するか又は(2)ヒドロキシプロピル基を有する、ポリロタキサンを準備する工程;
(II)RCOOH、RCOCl、及びRNCO(式中、Rは、上記と同じ定義を有する。)からなる群から選ばれるいずれか1種の第2の化合物を準備する工程;
(III)前記(I)工程で準備したポリロタキサンと前記(II)工程で準備した第2の化合物とを反応させる工程;
を有することにより、
環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が上記式Iで表わされる第1の基を有するポリロタキサンを得ることができる。
【0047】
<(I)工程>
上記(I)工程は、前記環状分子が(1)水酸基を有するか又は(2)ヒドロキシプロピル基を有する、ポリロタキサンを準備する工程である。
この工程は、WO2008/10841に記載された方法により行うことができる。
(I)工程において、環状分子が(1)水酸基を有するか及び/前記(2)ヒドロキシプロピル基由来の水酸基を有し、該水酸基の量を100%とすると、(III)工程で得られるポリロタキサンは、第1の基が、前記水酸基の20~80%、好ましくは25~75%、より好ましくは30~70%、最も好ましくは40~60%、置換されるのがよい。
【0048】
<(II)工程>
上記(II)工程は、RCOOH、RCOCl、及びRNCOからなる群から選ばれるいずれか1種の第2の化合物を準備する工程である。ここで、Rは、上記と同じ定義を有する
RCOOHとして、例えばラウリル酸、ミリシチン酸、パルミチン酸、オレイン酸などを挙げることができるがこれらに限定されない。
また、RCOClとして、例えばラウリル酸クロリド、ミリシチン酸クロリド、パルミチン酸クロリド、オレイン酸クロリドなどを挙げることができるがこれらに限定されない。
さらに、RNCOとして、例えばドデシルイソシアネート、テトラデシルイソシアネート、オクタデシルイソシアネートなどを挙げることができるがこれらに限定されない。
なお、第2の化合物は、市販購入しても、別途、製造してもよい。
【0049】
<(III)工程>
上記(III)工程は、(I)工程で準備したポリロタキサンと(II)工程で準備した第2の化合物とを反応させる工程である。
反応は、具体的には、温度:室温から150℃、圧力:常圧、の条件で行うのがよい。
【0050】
上記方法は、上記(I)工程~(III)工程以外の工程を有してもよい。
(I)工程~(III)工程以外の該工程として、溶媒を除去する工程などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0051】
<本発明のポリロタキンを有して形成される架橋体の製造方法>
本発明は、また、本発明のポリロタキン;を有して形成される架橋体、特に本発明のポリロタキン;及び(B)第1の化合物;を有する組成物を有して形成される架橋体の製造方法を提供する。
該方法は、
(X)環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が上記式Iで表わされる第1の基を有する(A)ポリロタキサンを準備する工程;
(XI)(B)ポリシロキサン構造を有する第1の化合物を準備する工程;
(XII)(A)ポリロタキサンと(B)第1の化合物とを、例えば、温度:室温から150℃、圧力:常圧、の条件下で反応させる工程;
を有することにより、
(A)ポリロタキサン;及び(B)第1の化合物を有して形成される架橋体を得ることができる。
【0052】
<<(X)工程>>
(X)工程は、環状分子が上記式Iで表わされる第1の基を有する(A)ポリロタキサンを準備する工程である。該工程は、上述の「環状分子が上記式Iで表わされる第1の基を有するポリロタキサン」の製造方法を用いることができる。
【0053】
<<(XI)工程>>
(XI)工程は、(B)ポリシロキサン構造を有する第1の化合物を準備する工程である。(B)ポリシロキサン構造を有する第1の化合物は、上述したものを用いることができ、該第1の化合物は、市販購入しても、別途調製してもよい。
【0054】
<<(XII)工程>>
(XII)工程は、(A)ポリロタキサンと(B)第1の化合物とを反応させる工程である。
反応条件として、室温から150℃、溶媒存在下又は無溶媒を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0055】
上記方法は、上記(X)工程~(XII)工程以外の工程を有してもよい。
上記(X)工程~(XII)工程以外の該工程として、C1、C2、それ以外の成分を混合する工程、溶媒を除去する工程を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0056】
本発明のポリロタキサン、該ポリロタキサンを有する組成物、ポリロタキサンを含有する成形体は、その特性から、種々の応用がある。応用として、例えば、電気・電子部品材料、アクチュエータ用電気絶縁材料、粘着剤・接着剤、センサー用材料、耐キズ性膜、防振・制振・免振材料、吸音材量、塗料、コーティング剤、シール材、インク添加物・バインダー、金属・金属酸化物のバインダー、研磨剤のバインダー、光学材料、摩擦制御剤、化粧品材料、ゴム・エラストマー添加剤、発泡材料、樹脂改質・強靭化剤、樹脂の相溶化剤、電解質材料、レオロジー制御剤、増粘剤、繊維、医療用生体材料、化粧品材料、機械・自動車材料、建築材料、衣料・スポーツ用品などを挙げることができるがこれらに限定されない。
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例)
各化合物の分析装置
1H-NMR測定は、400MHz JEOL JNM-AL400(日本電子株式会社製)によって測定した。
分子量、分子量分布の測定は、TOSOH HLC-8220GPC装置で行った。カラム:TSKガードカラムSuper AW-HとTSKgel Super AWM-H(2本連結)、溶離液:ジメチルスルホキシド(DMSO)/0.01M LiBr、カラムオーブン:50℃、流速:0.5ml/min、試料濃度を約0.2wt/vol%、注入量:20μl、前処理:0.2μmフィルターでろ過、スタンダード分子量:PEO、の条件下で測定した。
水酸基価、酸価の測定は、JIS 0070-1992に準ずる方法で測定した。
【0058】
<合成例1:ヒドロキシプロピル基修飾ポリロタキサンHAPRの合成>
直鎖分子:ポリエチレングリコール(数平均分子量Mn=2.0万)、環状分子:α-シクロデキストリン、封鎖基:アダマンタン基からなるポリロタキサン及び該ポリロタキサンをヒドロキシプロピル基で修飾したポリロタキサン(HAPR)をWO2008-108411に記載された方法で作製した。
GPCにより、得られたHAPRの重量平均分子量Mwを測定したところ、12.9万であった。また、NMR分析から、シクロデキストリンの水酸基の50%がヒドロキシプロピルに置換されたことが分かった。水酸基価を測定した結果、398mgKOH/gであった。
【0059】
<合成例2:架橋剤PPG-Bの調製>
反応フラスコに1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(タケネート600、三井化学製)91.6gを加えた後、80℃のオイルバス中で窒素気流下撹拌した。この溶液にポリプロピレングリコール、ジオール型(Mn=700)100gを2時間かけて滴下した後、さらに2時間撹拌した。反応後、室温まで温度を下げた後、2-ブタノンオキシム(東京化成製)76.6gを滴下し、室温で8時間撹拌し、末端にブタノンオキシムでブロックしたブロックイソシアネート基を有するポリプロピレングリコール(架橋剤PPG-B)を得た。
【0060】
<合成例3:架橋剤溶液PDMS-g-PCL-Bの調製>
三口ナスフラスコに両末端カルビノール変性ポリジメチルシロキサン(X-22-160AS、信越シリコーン製)100g、及びε-カプロラクトン(ダイセル社製)200gを加えた後、110℃のオイルバス中で窒素気流下2時間撹拌して脱水した。オイルバスを130℃に昇温した後、2-エチルヘキサン酸スズ(Aldrich社製)0.1gを加えて6時間撹拌し、両末端にポリカプロラクトンがグラフト化されたポリカプロラクトン-ポリジメチルシロキサンブロック共重合体を得た。
【0061】
別の三口ナスフラスコに1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(タケネート600、三井化学製)31.6gを加えた後、90℃のオイルバス中で窒素気流下撹拌した。この溶液にトルエン152.7gに溶解させた上記両末端にポリカプロラクトンがグラフト化されたポリジメチルシロキサン152.7gを2時間かけてゆっくりと滴下した後、更に2時間撹拌した。反応後、室温まで液温を低下させた後、2-ブタノンオキシム(東京化成製)22.9gを液温が60℃以上にならないようにゆっくりと滴下した。滴下後、室温で5時間撹拌して末端ブロックイソシアネート基を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)が含有された架橋剤溶液(濃度57.6wt%)PDMS-g-PCL-Bを得た。
【0062】
(実施例1:修飾ポリロタキサンA1の調製)
反応器に合成例1で得たHAPR 10g及びジメチルアセトアミド40mlを加えて溶解させ、さらに撹拌しながらトリエチルアミン6mlを加えた。反応容器を水冷しながらミリシチン酸クロリド9.6mlをゆっくり滴下した後、15時間反応を続けた。得られた溶液を水に再沈殿し、固体を水で数回洗浄した後、80℃の乾燥機で減圧乾燥し、環状分子であるα-CDにミリシチン酸エステル基を有する修飾ポリロタキサンA1を得た。
GPCで分析した結果、重量平均分子量17.4万であった。水酸基価を測定した結果、133mgKOH/gであった。
【0063】
(実施例2:修飾ポリロタキサンA1とポリシロキサンとの組成物の作製)
サンプル瓶に両末端に水酸基を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)X-22-160AS(信越化学工業製)1.90g及び実施例1で得られた修飾ポリロタキサンA1 0.10gを入れ、マグネチックスターラーで撹拌し、透明で不溶物がない組成物を得た。
本実施例の組成物は、本発明のポリロタキサンである修飾ポリロタキサンA1;及びポリジメチルシロキサンのみから成り、修飾ポリロタキサンA1とポリジメチルシロキサンとの総重量を100重量%とすると、修飾ポリロタキサンA1が5重量%である組成物を提供することができる。
【0064】
(比較例1:ポリカプロラクトン鎖を有するヒドロキシプロピル化ポリロタキサンSH2400Pのポリシロキサンに対する溶解性)
ポリカプロラクトン鎖を有するヒドロキシプロピル化ポリロタキサンSH2400P(アドバンスト・ソフトマテリアルズ製)を用いて、実施例2と同様な実験、即ちポリジメチルシロキサン(PDMS)X-22-160AS(信越化学工業製)を1.90g、SH2400Pを0.10g用いる、溶解性実験を行った結果、不溶物があって、均一な組成物は得られなかった。
なお、SH2400Pは、直鎖分子:ポリエチレングリコール(数平均分子量Mn=2.0万)、環状分子:α-CD、封鎖基:アダマンタン基からなるポリロタキサンの環状分子:α-CDのOH基をヒドロキシプロピル基で置換し、さらに該ヒドロキシプロピル基のOH基をポリカプロラクトン鎖で置換した、下記構造を有する(水酸基価:76mgKOH/g)。
【0065】
【0066】
(比較例2:ブチルカルバモイル基を有するHAPRの作製とポリシロキサンへの溶解性)
反応器に、合成例1で得られたHAPR 10gをジメチルアセトアミド40mlに溶解し、窒素フロー条件下でブチルイソシアネート4mlを滴下し、15時間反応させた。反応溶液をイソプロパノール(IPA)に再沈殿し、固体を2回、IPAで洗浄して、80℃で乾燥し、ブチルカルバモイル修飾ポリロタキサン(PR-X1)を得た。
NMRで分析した結果、ブチルカルバモイル基がCDの水酸基に対して51%置換されていることを確認した。GPCで分析した結果、重量平均分子量16.5万であった。
PR-X1を用いて実施例2と同様な実験、即ちポリジメチルシロキサン(PDMS)X-22-160AS(信越化学工業製)を1.90g、PR-X1を0.10g用いる、溶解性実験を行った結果、不溶物があって、均一な組成物は得られなかった。
【0067】
(比較例3:シクロヘキシルバモイル基を有するHAPRの作製とポリシロキサンへの溶解性)
比較例2において、ブチルイソシアネート4mlの代わりに、シクロヘキシルイソシアネート4.5mlを用いて同様な実験を行った結果、シクロヘキシルカルバモイル修飾ポリロタキサン(PR-X2)を得た。
NMRで分析した結果、シクロヘキシルカルバモイル基がCDの水酸基に対して48%置換されていることを確認した。GPCで分析した結果、重量平均分子量17.2万であった。
PR-X2を用いて実施例2と同様な実験、即ちポリジメチルシロキサン(PDMS)X-22-160AS(信越化学工業製)を1.90g、PR-X2を0.10g用いる、溶解性実験を行った結果、不溶物があって、均一な組成物は得られなかった。
【0068】
(実施例3:修飾ポリロタキサンA1及びポリシロキサンを含有する組成物B1の調製;及び該組成物からのフィルムC1の調製)
<組成物B1の調製>
実施例1の修飾ポリロタキサンA1を用いて、下記表1の組成の組成物B1を作製した。表1において、酸化防止剤Thanox1726として、Rianlon Corp.製を用いた(以降の実施例においても同じ)。
なお、組成物B1において、修飾ポリロタキサンA1、ポリプロピレングリコール及びポリジメチルシロキサン(PDMS)X-22-160ASの合計水酸基量と架橋剤PPG-Bのイソシアネート基の量とが当量になるように、架橋剤PPG-Bの量を調整した。
組成物B1において、修飾ポリロタキサンA1とポリジメチルシロキサン(PDMS)X-22-160ASとの総重量を100重量%とすると、該100重量%中、修飾ポリロタキサンA1の量(重量%)は、64.5重量%であった。
【0069】
<フィルムC1の調製>
剥離剤処理したPETシートに膜厚が50μmになるように上記の組成物B1を塗布し、80℃で1時間及び130℃で5時間硬化させた。PETシートから剥離し、透明なフィルムC1を得た。
なお、フィルムC1において、修飾ポリロタキサンA1とポリジメチルシロキサン(PDMS)X-22-160ASとの総重量を100重量%とすると、該100重量%中、修飾ポリロタキサンA1の量(重量%)は、組成物B1における重量%と同様に、64.5重量%であった。また、フィルムC1において、フィルムC1の全重量のうち、ポリジメチルシロキサン(PDMS)構造に基づく重量の割合(重量%)を測定したところ、15.5重量%であった。
【0070】
【0071】
(実施例4:修飾ポリロタキサンA1及びポリシロキサンを含有する組成物B2の調製;及び該組成物からのフィルムC2の調製)
<組成物B2の調製>
実施例1の修飾ポリロタキサンA1を用いて、下記表2の組成の組成物B2を作製した。なお、組成物B2は、上記組成物B1と比較して、ポリプロピレングリコールを含まない系とした。組成物B2において、修飾ポリロタキサンA1及びポリジメチルシロキサン(PDMS)X-22-160ASの合計水酸基量と架橋剤PPG-Bのイソシアネート基の量とが当量になるように、架橋剤PPG-Bの量を調整した。
組成物B2において、修飾ポリロタキサンA1とポリジメチルシロキサン(PDMS)X-22-160ASとの総重量を100重量%とすると、該100重量%中、修飾ポリロタキサンA1の量(重量%)は、47.6重量%であった。
【0072】
<フィルムC2の調製>
実施例3における組成物B1を組成物B2に代えた以外、実施例3と同様な方法により、透明なフィルムC2を得た。
なお、フィルムC2において、修飾ポリロタキサンA1とポリジメチルシロキサン(PDMS)X-22-160ASとの総重量を100重量%とすると、該100重量%中、修飾ポリロタキサンA1の量(重量%)は、組成物B2における重量%と同様に、47.6重量%であった。また、フィルムC2において、フィルムC2の全重量のうち、ポリジメチルシロキサン(PDMS)構造に基づく重量の割合(重量%)を測定したところ、29.7重量%であった。
【0073】
【0074】
(比較例4:ポリロタキサンSH2400Pとポリシロキサンを含有する組成物B3のフィルムC3の作製)
<組成物B3>
比較例1で用いた、ポリカプロラクトン鎖を有するヒドロキシプロピル化ポリロタキサンSH2400Pを用いて、下記表3の組成の組成物B3を作製した。なお、実施例3及び実施例4に用いたポリジメチルシロキサン(PDMS)X-22-160ASは、比較例1で示したように、SH2400Pとの相溶性がないため、ポリジメチルシロキサン(PDMS)X-22-160ASの代わりに、合成例3で調製した架橋剤溶液PDMS-g-PCL-Bを用いた。
【0075】
<フィルムC3>
実施例3における組成物B1を組成物B3に代えた以外、実施例3と同様な方法により、透明なフィルムC3を得た。なお、フィルムC3において、フィルムC3の全重量のうち、ポリジメチルシロキサン(PDMS)構造に基づく重量の割合(重量%)を測定したところ、5.2重量%であった。
【0076】
【0077】
(実施例5: フィルムの引張特性及び耐電圧)
<引張試験>
フィルムの引張試験は島津オートグラフAGS-5kNXで測定した。JIS K-6251に準拠し、ダンベル状7号型に切り出して、引張の有効長さが20mmで、100mm/分の引張速度で行った。応力と変位(伸張)曲線から、ヤング率を算出した。また、同一速度で、一定の伸張で繰り返し引っ張ると緩むことで、ヒステリシスロスを算出した(JIS K6400に準拠)。つまり、応力-歪曲線において、{(引張時の曲線の面積-緩む時の面積)/引張時の面積}×100%、で算出した。
<耐電圧測定試験>
作製したフィルムをJIS8703に準じて、常温常圧における絶縁破壊電界を測定した。硬化フィルムを設置側の円盤電極に貼り付け、フィルムの上に別の円盤電極を載せ、フィルムと電極間に空気泡がないように真空装置で脱気した。電極を絶縁破壊測定器の電源に接続し、昇圧速度10V/0.1秒で電圧を印加した。電療が流れない状態から絶縁破壊電界(V/μm)まで測定した。
【0078】
実施例3、実施例4、比較例4で得られたフィルムC1~C3を用いて、上記に示す試験により、引張特性(具体的にはヤング率及びヒステリシスロス)及び耐電圧を測定した。その結果を表4に示す。
表4から、本発明の修飾ポリロタキサンを用いるフィルムC1及びC2は、平均漏れ電流が小さい値を示し、高い絶縁性を示すことがわかった。また、フィルムC1及びC2は、低いヤング率を有する。したがって、本発明の修飾ポリロタキサンを用いるフィルムC1及びC2は、低いヤング率を有し且つ高い絶縁性を有することがわかる。一方、本発明の修飾ポリロタキサンを用いないフィルムC3は、フィルムC1及びC2と同程度のヤング率を有するが、平均漏れ電流が相対的に大きく、絶縁性を示さないことがわかる。
【0079】