(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池及び非水電解質二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0587 20100101AFI20241210BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241210BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241210BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241210BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241210BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2021542767
(86)(22)【出願日】2020-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2020031042
(87)【国際公開番号】W WO2021039481
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2019155369
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鉾谷 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】森川 敬元
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-171806(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115051(WO,A1)
【文献】特開2011-165388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の正極及び帯状の負極がセパレータを介して巻回された巻回型の電極体と、前記電極体を収容する外装体とを備える非水電解質二次電池であって、
前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体に形成され、少なくとも正極活物質と結着剤とを含む正極合剤層と、を有し、
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体に形成され、少なくとも負極活物質と結着剤とを含む負極合剤層と、を有し、
前記正極合剤層及び前記負極合剤層の少なくとも一方は、始端部における前記結着剤の含有率が、終端部における前記結着剤の含有率に比べて高
く、始端部側から終端部側にかけて前記結着剤の含有率が連続的に減少する領域を有する、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記電極体における前記負極の最内周の巻半径が、1mm~5mmである、請求項
1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
帯状の正極及び帯状の負極がセパレータを介して巻回された巻回型の電極体と、前記電極体を収容する外装体とを備える非水電解質二次電池の製造方法であって、
前記正極の正極集電体に、少なくとも正極活物質と結着剤とを含む正極合剤層を形成する正極合剤層形成ステップと、
前記負極の負極集電体に、少なくとも負極活物質と結着剤とを含む負極合剤層を形成する負極合剤層形成ステップと、を含み、
前記正極合剤層形成ステップ及び前記負極合剤層形成ステップの少なくとも一方において、始端部側及び終端部側の一方から他方にかけて、前記結着剤の含有率の異なる複数の合剤スラリーの混合比を変化させつつ前記複数の合剤スラリーを塗布する、非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記正極合剤層及び前記負極合剤層の少なくとも一方において、前記始端部側から前記終端部側にかけて前記結着剤の含有率が連続的に減少する領域が形成されるように、前記複数の合剤スラリーの混合比を変化させる、請求項
3に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池及び非水電解質二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、帯状の正極及び帯状の負極についてセパレータを介して巻回した巻回型の電極体を外装体に収容した非水電解質二次電池が広く利用されている。電極体の電極(正極及び負極)は、各々金属製の集電体の両面に、活物質と結着剤とを含む合剤層を有しているが、電極が巻回されることで合剤層にクラックが発生したり、合剤層が集電体から剥がれたりすることがある。特許文献1には、集電体の内周側の合剤層に含まれる結着剤(バインダ)の含有率を高くすることで、集電体の内周側の合剤層の剥離を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、正極及び負極が小さな曲率半径で巻回される電極体の巻き始め側に位置する始端部における合剤層のクラックや剥がれを十分に抑制できない。合剤層のクラックや剥がれを抑制するために結着剤の含有量を増加すると、電池の内部抵抗が上昇して電池特性が低下するという課題がある。
【0005】
本開示の目的は、合剤層に含まれる結着剤による電池の内部抵抗の上昇を抑制しつつ、合剤層のクラックや剥がれを抑制した非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、帯状の正極及び帯状の負極がセパレータを介して巻回された巻回型の電極体と、電極体を収容する外装体とを備える非水電解質二次電池である。正極は、正極集電体と、正極集電体に形成され、少なくとも正極活物質と結着剤とを含む正極合剤層と、を有し、負極は、負極集電体と、負極集電体に形成され、少なくとも負極活物質と結着剤とを含む負極合剤層と、を有し、正極合剤層及び負極合剤層の少なくとも一方は、始端部における結着剤の含有率が、終端部における結着剤の含有率に比べて高いことを特徴とする。
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池の製造方法は、帯状の正極及び帯状の負極がセパレータを介して巻回された巻回型の電極体と、電極体を収容する外装体とを備える非水電解質二次電池の製造方法である。正極の正極集電体に、少なくとも正極活物質と結着剤とを含む正極合剤層を形成する正極合剤層形成ステップと、負極の負極集電体に、少なくとも負極活物質と結着剤とを含む負極合剤層を形成する負極合剤層形成ステップと、を含み、正極合剤層形成ステップ及び負極合剤層形成ステップの少なくとも一方において、始端部側及び終端部側の一方から他方にかけて、結着剤の含有率の異なる複数の合剤スラリーの塗布量比を変化させつつ複数の合剤スラリーを塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る非水電解質二次電池によれば、合剤層に含まれる結着剤による電池の内部抵抗の上昇を抑制しつつ、合剤層のクラックや剥がれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態の一例である円筒型の二次電池の軸方向断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した二次電池が備える巻回型の電極体の斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態の一例である電極体を構成する正極及び負極を展開状態で示した正面図である。
【
図4】
図4(a)~
図4(d)は、
図3の長手方向における負極合剤層に含まれる結着剤の含有率の変化を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態の一例である電極体の巻回軸近傍における負極の径方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、図面を参照しながら、本開示に係る円筒型の二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。以下の説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、円筒型の二次電池の仕様に合わせて適宜変更することができる。また、以下の説明において、複数の実施形態、変形例が含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて用いることは当初から想定されている。
【0011】
図1は、実施形態の一例である円筒型の二次電池10の軸方向断面図である。
図1に示す二次電池10は、電極体14及び非水電解質(図示せず)が外装体15に収容されている。電極体14は、正極11及び負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回型の構造を有する。非水電解質の非水溶媒(有機溶媒)としては、カーボネート類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、エステル類等を用いることができ、これらの溶媒は2種以上を混合して用いることができる。2種以上の溶媒を混合して用いる場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む混合溶媒を用いることが好ましい。例えば、環状カーボネートとしてエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等を用いることができ、鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジエチルカーボネート(DEC)等を用いることができる。非水電解質の電解質塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3等及びこれらの混合物を用いることができる。非水溶媒に対する電解質塩の溶解量は、例えば0.5~2.0mol/Lとすることができる。なお、以下では、説明の便宜上、封口体16側を「上」、外装体15の底部側を「下」として説明する。
【0012】
外装体15の開口端部が封口体16で塞がれることで、二次電池10の内部は、密閉される。電極体14の上下には、絶縁板17,18がそれぞれ設けられる。正極リード19は絶縁板17の貫通孔を通って上方に延び、封口体16の底板であるフィルタ22の下面に溶接される。二次電池10では、フィルタ22と電気的に接続された封口体16の天板であるキャップ26が正極端子となる。他方、負極リード20は絶縁板18の貫通孔を通って、外装体15の底部側に延び、外装体15の底部内面に溶接される。二次電池10では、外装体15が負極端子となる。なお、負極リード20が終端部に設置されている場合は、負極リード20は絶縁板18の外側を通って、外装体15の底部側に延び、外装体15の底部内面に溶接される。
【0013】
外装体15は、例えば有底円筒形状の金属製外装缶である。外装体15と封口体16の間にはガスケット27が設けられ、二次電池10の内部の密閉性が確保されている。外装体15は、例えば側面部を外側からプレスして形成された、封口体16を支持する溝入部21を有する。溝入部21は、外装体15の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体16を支持する。
【0014】
封口体16は、電極体14側から順に積層された、フィルタ22、下弁体23、絶縁部材24、上弁体25、及びキャップ26を有する。封口体16を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材24を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体23と上弁体25とは各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材24が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、例えば、下弁体23が破断し、これにより上弁体25がキャップ26側に膨れて下弁体23から離れることにより両者の電気的接続が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体25が破断し、キャップ26の開口部26aからガスが排出される。
【0015】
次に、
図2を参照しながら、電極体14について説明する。
図2は、電極体14の斜視図である。電極体14は、上述の通り、正極11と負極12がセパレータ13を介して渦巻状に巻回されてなる巻回構造を有する。正極11、負極12、及びセパレータ13は、いずれも帯状に形成され、巻回軸28に沿って配置される巻芯の周囲に渦巻状に巻回されることで電極体14の径方向に交互に積層された状態となる。径方向において、巻回軸28側を内周側、その反対側を外周側という。電極体14において、正極11及び負極12の長手方向が巻き方向となり、正極11及び負極12の帯幅方向が軸方向となる。正極リード19は、電極体14の上端において、中心と最外周の間の半径方向の略中央から軸方向に延出している。また、負極リード20は、電極体14の下端において、巻回軸28の近傍から軸方向に延出している。
【0016】
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布などが挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂が好ましい。セパレータ13の厚みは、例えば10μm~50μmである。セパレータ13は、電池の高容量化・高出力化に伴い薄膜化の傾向にある。セパレータ13は、例えば130℃~180℃程度の融点を有する。
【0017】
次に、
図3~
図5を参照しながら、長手方向における負極合剤層42の結着剤の含有率が均一でない実施形態について説明する。
図3は、電極体14を構成する正極11及び負極12の正面図である。
図3では、正極11及び負極12を展開状態で示している。
図3に例示するように、電極体14では、負極12でのリチウムの析出を防止するため、負極12は正極11よりも大きく形成される。具体的には、負極12の帯幅方向(軸方向)の長さは、正極11の帯幅方向の長さよりも大きい。また、負極12の長手方向の長さは、正極11の長手方向の長さより大きい。これにより、電極体14として巻回された際に、少なくとも正極11の正極合剤層32が形成された部分が、セパレータ13を介して負極12の負極合剤層42が形成された部分に対向配置される。
【0018】
正極11は、帯状の正極集電体30と、正極集電体30に形成された正極合剤層32とを有する。正極合剤層32は、正極集電体30の内周側及び外周側の少なくとも一方に形成される。正極集電体30には、例えばアルミニウムなどの金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等が用いられる。好適な正極集電体30は、アルミニウム箔、又はアルミニウムを主成分とする合金箔である。正極集電体30の厚みは、例えば10μm~30μmである。
【0019】
正極合剤層32は、正極集電体30の両面において、後述する正極露出部34を除く全域に形成されることが好適である。正極合剤層32は、正極活物質、導電剤、及び結着剤を含むことが好ましい。正極合剤層32は、正極活物質、導電剤、結着剤、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の溶剤を含む正極合剤スラリーが正極集電体30の両面に塗布、乾燥されて形成される(正極合剤層形成ステップ)。その後、正極合剤層32が圧縮される。
【0020】
正極活物質としては、Co、Mn、Ni等の遷移金属元素を含有するリチウム含有遷移金属酸化物が例示できる。リチウム含有遷移金属酸化物は、特に限定されないが、一般式Li1+xMO2(式中、-0.2<x≦0.2、MはNi、Co、Mn、Alの少なくとも1種を含む)で表される複合酸化物であることが好ましい。
【0021】
正極合剤層32に含まれる導電剤としては、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。
【0022】
正極合剤層32に含まれる結着剤の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。水系溶媒で正極合剤スラリーを調製する場合は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、CMC又はその塩、ポリアクリル酸又はその塩、ポリビニルアルコール等を用いることができる。結着剤としては、正極11の柔軟性の観点から、SBR、NBR等の二重結合と単結合との繰り返しの分子構造を有するゴム系樹脂が好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。正極合剤層32における結着剤の含有率は、0.5質量%~10質量%であり、好ましくは1質量%~5質量%である。
【0023】
正極11には、正極集電体30の表面が露出した正極露出部34が設けられる。正極露出部34は、正極リード19が接続される部分であって、正極集電体30の表面が正極合剤層32に覆われていない部分である。正極露出部34は、正極リード19よりも長手方向に広く形成される。正極露出部34は、正極11の厚み方向に重なるように正極11の両面に設けられることが好適である。正極リード19は、例えば、超音波溶接によって正極露出部34に接合される。
【0024】
図3に示す例では、正極11の長手方向の中央部に、帯幅方向の全長にわたって正極露出部34が設けられている。正極露出部34は、正極11の始端部又は終端部に形成されてもよいが、集電性の観点から、好ましくは始端部及び終端部から略等距離の位置に設けられるのが好ましい。このような位置に設けられた正極露出部34に正極リード19が接続されることで、電極体14として巻回された際に、正極リード19は、電極体14の半径方向中間位置で帯幅方向の端面から上方に突出して配置される。正極露出部34は、例えば正極集電体30の一部に正極合剤スラリーを塗布しない間欠塗布により設けられる。
【0025】
負極12は、帯状の負極集電体40と、負極集電体40の両面に形成された負極合剤層42とを有する。負極集電体40には、例えば銅などの金属箔、または銅などの金属を表層に配置したフィルム等が用いられる。負極集電体40の厚みは、例えば5μm~30μmである。
【0026】
負極合剤層42は、負極集電体40の両面において、後述する負極露出部44を除く全域に形成されることが好適である。負極合剤層42は、負極活物質及び結着剤を含むことが好ましい。負極合剤層42は、負極活物質、結着剤、及び水等の溶剤を含む負極合剤スラリーが負極集電体40の両面に塗布、乾燥されて形成される(負極合剤層形成ステップ)。その後、負極合剤層42が圧縮される。
【0027】
図3に示す例では、負極12の長手方向の始端部に、集電体の帯幅方向の全長にわたって負極露出部44が設けられている。負極露出部44は、負極リード20が接続される部分であって、負極集電体40の表面が負極合剤層42に覆われていない部分である。負極露出部44は、負極リード20の幅よりも長手方向に広く形成される。負極露出部44は、負極12の厚み方向に重なるように負極12の両面に設けられることが好適である。
【0028】
本実施形態では、負極リード20は、負極集電体40の内周側の表面に例えば超音波溶接により接合されている。負極リード20の一端部は負極露出部44に配置され、他端部は負極露出部44の下端から下方に延出している。
【0029】
負極リード20の配置位置は
図3に示す例に限定されるものではなく、負極12の終端部だけに負極リード20を設けてもよい。また、負極リード20を負極12の始端部及び終端部に設けてもよい。この場合、集電性が向上する。負極12の終端部の負極露出部44を外装体15(
図1参照)の内周面に接触させることにより、負極リード20を用いることなく負極12の終端部を外装体15に電気的に接続してもよい。負極露出部44は、例えば負極集電体40の一部に負極合剤スラリーを塗布しない間欠塗布により設けられる。
【0030】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、Si、Sn等のリチウムと合金化する金属、又はこれらを含む合金、酸化物などを用いることができる。
【0031】
負極合剤層42に含まれる結着剤の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。水系溶媒で負極合剤スラリーを調製する場合は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、CMC又はその塩、ポリアクリル酸又はその塩、ポリビニルアルコール等を用いることができる。結着剤としては、負極12の柔軟性の観点から、SBR、NBR等の二重結合と単結合との繰り返しの分子構造を有するゴム系樹脂が好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。負極合剤層42における結着剤の含有率は、0.5質量%~10質量%であり、好ましくは1質量%~5質量%である。
【0032】
図3において、負極合剤層42の始端部42aは、負極露出部44に隣接する部位である。一方、負極合剤層42の終端部42bは、負極12の終端部と同じである。負極合剤層42は、始端部42aから終端部42bまで連続的に存在している。
【0033】
次に、
図4(a)~
図4(d)を参照しつつ、
図3の長手方向における負極合剤層42に含まれる結着剤の含有率の変化について説明する。
図4(a)では、始端部から終端部にかけて一定の割合で結着剤の含有率が減少している。つまり、負極合剤層42のクラックや剥がれが生じやすい始端部42aでは結着剤の含有率が高く、始端部42aに比べて巻半径が大きくなってクラックや剥がれが生じにくくなる終端部42bの結着剤の含有率が低い。これにより、負極合剤層42に含まれる結着剤による電池の内部抵抗の上昇を抑制しつつ、負極合剤層42のクラックや剥がれを抑制することができる。
【0034】
また、
図4(b)のように、始端部42aから終端部42bにかけての結着剤の含有率の減少率を示す傾きは、一定でなくてもよく、途中で傾きが変化してもよい。
図4(c)では、始端部42aから終端部42bにかけて結着剤の含有率が減少していて、始端部42aと終端部42bの間で結着剤の含有率が一定となっている。
図4(d)では、始端部42aから終端部42bにかけて結着剤の含有率が減少していて、始端部42a近傍で結着剤の含有率が一定となっている。同様に、始端部42aから終端部42bにかけて結着剤の含有率が減少していれば、終端部42b近傍で結着剤の含有率が一定となっていてもよい。
図4(c)及び
図4(d)に示すように、負極合剤層42の少なくとも一部において、始端部42a側から終端部42b側にかけて結着剤の含有率が連続的に減少する領域が設けられていればよい。当該領域において、結着剤の含有率は直線的に減少していることが好ましいが、非直線的に減少してもよい。これにより、負極合剤層42の始端部42aにおける結着剤の含有率を終端部42bにおける結着剤の含有率に比べて高くすることができる。なお、負極合剤層42において含有率を変化させる結着剤はゴム系樹脂であることが好ましい。
【0035】
ここで、始端部42a側及び終端部42b側の一方から他方にかけて、結着剤の含有率が変化する負極合剤層42の形成方法を説明する。このような負極合剤層42を形成するために、多層ダイコーターを用いることが好ましい。多層ダイコーターを用いることにより、結着剤の含有率が異なる複数の負極合剤スラリーをそれらの塗布量比を調整しつつ負極集電体40に同時に塗布することができる。負極合剤スラリーを負極集電体40に塗布する場合、負極集電体40が多層ダイコーターに対して相対移動する。そのため、結着剤の含有率が異なる複数の負極合剤スラリーを、所定のタイミングでそれらの塗布量比を変化させつつ負極集電体40に塗布することにより、始端部42a側から終端部42b側にかけて結着剤の含有率が変化する領域を負極合剤層42に任意の位置に形成することができる。例えば、第1の負極合剤スラリーと、第1の負極合剤スラリーより結着剤の含有率が高い第2の負極合剤スラリーを準備する。次に、多層ダイコーターを用いて、第2の負極合剤スラリーに対する第1の負極合剤スラリーの塗布量比を増加させながら第1及び第2の負極合剤スラリーを負極集電体40の始端部42aから終端部42bにかけて塗布することにより、
図4(a)に示すプロファイルを有する負極合剤層42が得られる。
【0036】
上記では、負極合剤層42において、始端部42aにおける結着剤の含有率が、終端部42bにおける結着剤の含有率に比べて高い場合について説明したが、正極合剤層32において、始端部における結着剤の含有率が、終端部における結着剤の含有率に比べて高くなってもよい。また、当然に、正極合剤層32及び負極合剤層42のいずれにおいても、始端部における結着剤の含有率が、終端部における結着剤の含有率に比べて高くなっていてもよい。なお、
図3に示す正極11のように、露出部によって合剤層が2つ以上の部分に分かれている場合においても始端部における結着剤の含有率が、終端部における結着剤の含有率に比べて高くなっていればよく、始端部から連続する合剤層の少なくとも一部において結着剤の含有率が始端部側から終端部側に向かって減少する領域が形成されていることが好ましい。
【0037】
次に、
図5を参照しつつ、負極合剤層42の始端部近傍における、負極12の巻半径について説明する。
図5は、実施形態の一例である電極体14の巻回軸28近傍における負極12の径方向断面図である。
図5においては、正極11及びセパレータ13の記載を省略している。
【0038】
電極体14における負極12の最内周の巻半径は、例えば1mm~5mmである。負極12の最内周は、負極12の始端から一周する部分である。負極12の最内周の巻半径は、巻回軸28と負極12との距離Rによって特定される。二次電池10の高容量化のためにはRが小さい方が好ましいが、負極合剤層42にクラックや剥がれが発生しやすくなる。しかし、本開示によれば負極合剤層42のクラックや剥がれが抑制されるため、Rは1mm~5mmであることが好ましい。これにより、二次電池10の高容量化に対応することができる。負極12の最内周の巻半径は、正極11、負極12及びセパレータ13を巻回する際に用いる巻芯の半径により調整することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
[正極の作製]
95質量部のLiNi0.8Co0.15Al0.05O2と、2.5質量部のアセチレンブラック(AB)と、2.5質量部の平均分子量が110万のポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて、固形分70質量%の正極合剤スラリーを調製した。次に、当該正極合剤スラリーを厚み15μmのアルミニウム箔からなる帯状の正極集電体の両面に塗布し、塗膜を100℃~150℃に加熱して乾燥させた。ローラーを用いて乾燥した塗膜を圧縮した後、所定の極板サイズに切断し、正極集電体の両面に正極合剤層が形成された正極を作製した。正極の長手方向の略中央部に、合剤層が存在せず集電体表面が露出した正極露出部を設け、アルミニウム製の正極リードを正極露出部に溶接した。
【0041】
[負極の作製]
95質量部の黒鉛と、5質量部のSiOと、1質量部のカルボキシメチルセルロース(CMC)と、0.8質量部のスチレンブタジエンゴム(SBR)とを混合し、水を適量加えて、第1の負極合剤スラリーを調製した。また、95質量部の黒鉛と、5質量部のSiOと、1質量部のカルボキシメチルセルロース(CMC)と、1.2質量部のスチレンブタジエンゴム(SBR)とを混合し、水を適量加えて、第2の負極合剤スラリーを調製した。次に、第1の負極合剤スラリー及び第2の負極合剤スラリーを多層ダイコーターにセットして、厚み8μmの銅箔からなる帯状の負極集電体の両面に同様に始端部から終端部にかけて、第1の負極合剤スラリーと第2の負極合剤スラリーの塗布量比を0:1から1:0まで連続的に変化させつつ塗布し、その後に塗膜を乾燥させた。ローラーを用いて乾燥した塗膜を圧縮した後、所定の極板サイズに切断し、負極集電体の両面に負極合剤層が形成された正極を作製した。始端部に合剤層が存在せず集電体表面が露出した負極露出部を設け、ニッケル/銅製の負極リードを負極露出部に溶接した。
【0042】
[電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルメチルカーボネート(DMC)とからなる混合溶媒(体積比でEC:DMC=1:3)の100質量部に、ビニレンカーボネート(VC)を5質量部添加した。当該混合溶媒に1モル/Lの濃度になるようにLiPF6を溶解させて、電解質を調製した。
【0043】
[電極体の作製]
ポリエチレン製のセパレータを介して上記の正極及び負極を半径1mmの巻芯の周囲に巻回して電極体を作製した。
【0044】
[円筒型二次電池の作製]
電極体の上下に絶縁板をそれぞれ配置し、電極体を外装体に収容した。次いで、負極リードを外装体の底部に溶接するとともに、正極リードを封口体に溶接した。その後、外装体の内部に電解質を減圧方式により注入した後、外装体の開口端部を、ガスケットを介して封口体にかしめるように封口して、円筒型二次電池を作製した。作製した電池の容量は、2500mAhであった。
【0045】
<比較例1>
第1の負極合剤スラリーと第2の負極合剤スラリーを混合せずに、第1の負極合剤スラリーのみを負極集電体の両面に塗布した以外は、実施例と同様にして電極体及び電池を作製した。
【0046】
<比較例2>
第1の負極合剤スラリーと第2の負極合剤スラリーを混合せずに、第2の負極合剤スラリーのみを負極集電体の両面に塗布した以外は、実施例と同様にして電極体及び電池を作製した。
【0047】
[負極合剤層のクラックの有無の評価]
実施例及び比較例1~2の電極体をそれぞれ分解して負極を展開し、負極合剤層の始端部にクラック及び剥がれが発生していないかを目視で確認した。
【0048】
[内部抵抗の測定]
実施例及び比較例1~2の円筒型二次電池について、25℃の温度条件下で、電池電圧が4.2Vになるまで120mAで定電流充電を行い、その後、電流値が8mAになるまで4.2Vで定電圧充電を行った。次いで、各電池について、交流4端子法で1kHz時の電池の内部抵抗を測定した。
【0049】
実施例及び比較例1~2の評価結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
結着剤の含有率の低い第1の負極合剤スラリーのみを用いた比較例1では、電池の内部抵抗は低いものの電極体にクラックが発生している。一方、結着剤の含有率の高い第2の負極合剤スラリーのみを用いた比較例2では、電極体のクラックは発生していないものの比較例1に比べて電池の内部抵抗が大幅に増加している。ところが、第1及び第2の負極合剤スラリーを用いた実施例では、電極体のクラックが発生しておらず、比較例1に比べて電池の内部抵抗の上昇が抑制されている。これにより、始端部における結着剤の含有率を終端部における結着剤の含有率に比べて高くすることで、電極に使用される結着剤による電池の内部抵抗の上昇を抑制しつつ、合剤層のクラックや剥がれが抑制されることが確認できた。
【符号の説明】
【0052】
10 二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 外装体、16 封口体、17,18 絶縁板、19 正極リード、20 負極リード、21 溝入部、22 フィルタ、23 下弁体、24 絶縁部材、25 上弁体、26 キャップ、26a 開口部、27 ガスケット、28 巻回軸、30 正極集電体、32 正極合剤層、34 正極露出部、40 負極集電体、42 負極合剤層、44 負極露出部