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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】成形体及び成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/00 20060101AFI20241210BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20241210BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B32B5/00 A
B32B27/32 E
B29C45/14
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021551473
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2020037509
(87)【国際公開番号】W WO2021066132
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2019183325
(32)【優先日】2019-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500163366
【氏名又は名称】出光ユニテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 要
(72)【発明者】
【氏名】荒木 亮祐
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-117759(JP,A)
【文献】国際公開第2012/090902(WO,A1)
【文献】特開2018-144476(JP,A)
【文献】特開2018-171933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C39/00-39/24
B29C39/38-39/44
B29C43/00-43/34
B29C43/44-43/48
B29C43/52-43/58
B29C53/00-53/84
B29C57/00-59/18
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンと繊維状の強化材料とを含む成形体本体と、
少なくとも樹脂層を含み、前記成形体本体の表面の少なくとも一部を被覆する樹脂シートと、
を含み、
前記ポリプロピレンの135℃での結晶化速度が1.25min-1以上である、成形体。
【請求項2】
前記樹脂シートにおける前記樹脂層がポリプロピレンを含む、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記樹脂層に含まれる前記ポリプロピレンの130℃での結晶化速度が2.5min-1以下である、請求項に記載の成形体。
【請求項4】
前記樹脂層に含まれる前記ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率が80モル%以上99%モル以下である、請求項2又は3に記載の成形体。
【請求項5】
前記樹脂層に含まれる前記ポリプロピレンの造核剤の含有量が、前記樹脂層の1.0質量%以下である、請求項2~4のいずれかに記載の成形体。
【請求項6】
前記樹脂層に含まれる前記ポリプロピレンが造核剤を含まない、請求項2~5のいずれかに記載の成形体。
【請求項7】
前記樹脂シートが、前記樹脂層から見て前記成形体本体側に印刷層を含む、請求項1~のいずれかに記載の成形体。
【請求項8】
前記樹脂シートが、前記樹脂層から見て前記成形体本体側に易接着層を含み、
前記易接着層が、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン及びポリエステルからなる群から選択される1以上を含む、請求項1~のいずれかに記載の成形体。
【請求項9】
前記樹脂シートが、前記樹脂層から見て前記成形体本体側に位置するアンダーコート層と、前記アンダーコート層から見て前記成形体本体側に積層された金属層とを含み、
前記アンダーコート層が、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン及びポリエステルからなる群から選択される1以上の樹脂を含み、
前記金属層が、スズ、インジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金及び亜鉛からなる群から選択される1以上の金属元素を含む、請求項1~のいずれかに記載の成形体。
【請求項10】
樹脂シートを金型の上に配置すること、及び
135℃での結晶化速度が1.25min-1以上であるポリプロピレンと繊維状の強化材料とを含む成形用樹脂組成物を前記樹脂シート上に供給することで、前記樹脂シートを金型に合致するように賦形しつつ、前記成形用樹脂組成物と前記樹脂シートとを一体化させること
を含む、請求項1~のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項11】
樹脂シートを金型に合致するよう賦形すること、及び
135℃での結晶化速度が1.25min-1以上であるポリプロピレンと繊維状の強化材料とを含む成形用樹脂組成物を前記賦形された樹脂シート上に供給することで、前記成形用樹脂組成物と前記樹脂シートとを一体化させること
を含む、請求項1~のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項12】
ポリプロピレンと繊維状強化材料とを含む成形用樹脂組成物を、前記ポリプロピレンが溶融するように加熱すること、
加熱された前記成形用樹脂組成物を、金型に配置された樹脂シート上に供給すること、及び、
前記樹脂シート上で前記成形用樹脂組成物を冷却して固化させることによって、固化された前記成形用樹脂組成物からなる成形体本体と、前記成形体本体の表面の少なくとも一部を被覆する前記樹脂シートとを含む成形体を得ること
を含み、
前記溶融に供される前記成形用樹脂組成物に含まれる前記ポリプロピレンの135℃での結晶化速度が1.25min-1以上である、
成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や二輪車等の分野では、軽量化を図るために、部品材料の金属から樹脂への変更が検討されている。金属部品と同等の強度や剛性、低線膨張係数等を得るための樹脂材料として、ガラスや炭素繊維等を含んだ繊維強化樹脂が使用される場合がある。しかしながら、繊維強化樹脂は、成形体表面に繊維に起因する凹凸が表れる、いわゆる繊維浮きにより外観が損なわれる問題がある。
【0003】
繊維強化樹脂の外観を改善する方法として、繊維強化樹脂からなる部品の表面にシートを被覆する方法が検討されている(例えば特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-158481号公報
【文献】特開2010-260251号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、当該シートを用いても外観を良くすることは困難であり、かえって悪化させてしまう場合もあるため、繊維強化樹脂の外観向上技術はより一層求められている。また、特許文献1の技術では、加飾シートと、繊維未含有樹脂と、繊維含有樹脂とをサンドイッチ成形することで外観向上を図るものであるが、成形体の肉厚が大きくなり、軽量化効果が損なわれ、成形体形状に制約が生じる等の問題がある。特許文献2の技術では、特に射出成形法で成形体を形成する場合には、外観向上は期待できない。
【0006】
本発明の目的は、優れた外観を有する繊維強化樹脂成形体を提供することである。
【0007】
本発明者らは、上記のような被覆シート(表面シート)を用いても外観を向上できない理由について以下のように考察した。即ち、繊維強化樹脂中では繊維がランダムに存在するため、表面シートと繊維との距離が場所によって異なる。この距離の違いにより繊維強化樹脂からなるマトリックス樹脂の収縮量にムラが生じ、シート表面に凹凸が発生し、表面平滑性、即ち外観が損なわれる。ここで、繊維強化樹脂を金型に向けて射出成形すると、金型に接する側は冷却され、結晶化度の小さい、いわゆる「スキン層」が形成される。当該スキン層においては繊維が流動方向に配向するため、シート表面と繊維との距離が均一化しやすくなる。しかしながら、表面シートを用いると、表面シートの断熱作用により繊維強化樹脂中にスキン層が十分に形成されず、繊維配向がランダムないわゆる「コア層」の割合が大きくなるため、繊維との距離の違いが助長され、シート表面の凹凸形成が増長され、外観を損ねる結果となる。
本発明者らは、繊維強化樹脂に含まれるポリプロピレンとして特定の結晶化速度を有するものを採用することで、繊維強化樹脂中でのスキン層の生成が促され、結果として表面平滑性の高い優れた外観を有する成形体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明によれば、以下の成形体等が提供される。
1.ポリプロピレンと繊維状の強化材料とを含む成形体本体と、
少なくとも樹脂層を含み、前記成形体本体の表面の少なくとも一部を被覆する樹脂シートと、
を含み、
前記ポリプロピレンの135℃での結晶化速度が0.6min-1以上である、成形体。
2.前記ポリプロピレンの135℃での結晶化速度が1.0min-1以上である、1に記載の成形体。
3.前記樹脂シートにおける前記樹脂層がポリプロピレンを含む、1又は2に記載の成形体。
4.前記樹脂層に含まれる前記ポリプロピレンの130℃での結晶化速度が2.5min-1以下である、3に記載の成形体。
5.前記樹脂層に含まれる前記ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率が80モル%以上99%モル以下である、3又は4に記載の成形体。
6.前記樹脂層に含まれる前記ポリプロピレンの造核剤の含有量が、前記樹脂層の1.0質量%以下である、3~5のいずれかに記載の成形体。
7.前記樹脂層に含まれる前記ポリプロピレンが造核剤を含まない、3~6のいずれかに記載の成形体。
8.前記樹脂シートが、前記樹脂層から見て前記成形体本体側に印刷層を含む、1~7のいずれかに記載の成形体。
9.前記樹脂シートが、前記樹脂層から見て前記成形体本体側に易接着層を含み、
前記易接着層が、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン及びポリエステルからなる群から選択される1以上を含む、1~8のいずれかに記載の成形体。
10.前記樹脂シートが、前記樹脂層から見て前記成形体本体側に位置するアンダーコート層と、前記アンダーコート層から見て前記成形体本体側に積層された金属層とを含み、
前記アンダーコート層が、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン及びポリエステルからなる群から選択される1以上の樹脂を含み、
前記金属層が、スズ、インジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金及び亜鉛からなる群から選択される1以上の金属元素を含む、1~9のいずれかに記載の成形体。
11.樹脂シートを金型の上に配置すること、及び
135℃での結晶化速度が0.6min-1以上であるポリプロピレンと繊維状の強化材料とを含む成形用樹脂組成物を前記樹脂シート上に供給することで、前記樹脂シートを金型に合致するように賦形しつつ、前記成形用樹脂組成物と前記樹脂シートとを一体化させること
を含む、1~10のいずれかに記載の成形体の製造方法。
12.樹脂シートを金型に合致するよう賦形すること、及び
135℃での結晶化速度が0.6min-1以上であるポリプロピレンと繊維状の強化材料とを含む成形用樹脂組成物を前記賦形された樹脂シート上に供給することで、前記成形用樹脂組成物と前記樹脂シートとを一体化させること
を含む、1~10のいずれかに記載の成形体の製造方法。
13.ポリプロピレンと繊維状強化材料とを含む成形用樹脂組成物を、前記ポリプロピレンが溶融するように加熱すること、
加熱された前記成形用樹脂組成物を、金型に配置された樹脂シート上に供給すること、及び、
前記樹脂シート上で前記成形用樹脂組成物を冷却して固化させることによって、固化された前記成形用樹脂組成物からなる成形体本体と、前記成形体本体の表面の少なくとも一部を被覆する前記樹脂シートとを含む成形体を得ること
を含み、
前記溶融に供される前記成形用樹脂組成物に含まれる前記ポリプロピレンの135℃での結晶化速度が0.6min-1以上である、
成形体の製造方法。
【0009】
本発明によれば、優れた外観を有する繊維強化樹脂成形体が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る成形体を示す概略断面図である。
図2】本発明の他の実施形態に係る成形体を示す概略断面図である。
図3】実施例において樹脂シートの製造に用いた装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(成形体)
本発明の一態様に係る成形体は、成形体本体と樹脂シートとを含む。成形体本体は、ポリプロピレンと繊維状の強化材料とを含む。樹脂シートは、少なくとも樹脂層を含み、成形体本体の表面の少なくとも一部を被覆するものである。成形体本体に含まれるポリプロピレンの135℃での結晶化速度は0.6min-1以上である。本発明の一態様に係る成形体は、上記の構成により、成形体の表面、即ち樹脂シート表面の平滑性が高く、優れた外観を有する。
【0012】
本発明の一態様に係る成形体において、ポリプロピレンの135℃での結晶化速度が0.6min-1以上であることによって、射出成形時に、成形体本体を形成するために供給される成形用樹脂組成物(繊維強化樹脂)の固化温度が上昇し、固化が速くなる。このような繊維強化樹脂を樹脂シート上に供給した場合、繊維強化樹脂における樹脂シート側におけるスキン層の形成が促進される。かかるスキン層においては、繊維状の強化材料が流動方向(樹脂シートに対して平行な方向)に配向する。そのため、より厚いスキン層が形成されることによって、樹脂シートの表面と、繊維強化樹脂中の繊維状の強化材料との間の距離がより均一化され、樹脂の収縮差による表面凹凸が緩和され、表面平滑性に優れる成形体(繊維強化樹脂成形体)が得られる。
なお、「スキン層」と「コア層」とは、同一組成の一層の樹脂層を厚さ方向の結晶化度によって区別した場合の各部分の呼称であり、通常、両者の間には明確な境界は観察されない。
【0013】
(成形体の形態)
本発明の一態様に係る成形体の概略断面図を図1に示す。なお、図1は、単に一実施形態に係る成形体の層構成を説明するためのものであり、縦横比や膜厚比は必ずしも正確ではない。
図1に示すように、成形体1は成形体本体2と、成形体本体2を被覆する樹脂シート3(樹脂層31)を含む。
【0014】
成形体は、成形体本体と樹脂シートとを含むものであればよい。成形体の形状は特に制限されず、例えば、層状形状であってもよいし、特定の立体的形状であってもよい。
一実施形態において、成形体本体が層状である場合、成形体は、層状の成形体本体と樹脂シートとを含む積層体であり得る。このような積層体の層構成は特に限定されず、例えば、成形体本体/樹脂シートの2層構成であってもよいし、樹脂シート/成形体本体/樹脂シートの3層構成であってもよい。
樹脂シートは、成形体本体表面の一部を被覆していてもよいし、成形体本体表面の全部(全面)を被覆していてもよい。
【0015】
成形体が樹脂シートと成形体本体とを含むことは、例えば樹脂シートと成形体本体とで構成材料もしくは材料組成が異なること、又は樹脂シートと成形体本体との間に界面が存在することによって確認できる。界面の存在は、例えば位相差顕微鏡や偏光顕微鏡を用いた断面観察によって確認できる。例えば樹脂シートと成形体本体とで構成材料又は材料組成が同一であっても、樹脂シートと成形体本体とが異なる成形プロセスを経ることによって異なる結晶状態となり、樹脂シートと成形体本体との間に界面が形成される。
なお、通常、樹脂シートは繊維状の強化材料を含まない。
【0016】
(成形体本体:ポリプロピレン)
成形体本体に用いるポリプロピレンの135℃での結晶化速度は、0.6min-1以上であり、0.65min-1以上、0.7min-1以上、0.75min-1以上、0.8min-1以上、0.9min-1以上、1.0min-1以上、1.1min-1以上又は1.2min-1以上であってもよい。上限は特に限定されず、例えば、20min-1以下、15min-1以下、10min-1以下、8min-1以下、6min-1以下、5min-1以下、4min-1以下又は3min-1以下であり得る。
結晶化速度は実施例に記載の方法で測定する。
【0017】
(成形体本体:繊維状の強化材料)
繊維状の強化材料としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、セルロース繊維等の、無機繊維や有機繊維等が挙げられる。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。成形体の強度を向上させる観点では、ガラス繊維及び炭素繊維が好ましい。
【0018】
繊維状の強化材料の平均繊維長は特に限定されず、例えば、0.1mm以上、0.2mm以上、0.5mm以上又は1mm以上であり得る。上限は特に限定されず、例えば、10mm以下である。
繊維長は、繊維状の強化材料の長軸方向の長さであり、平均繊維長は、繊維状の強化材料を含む成形体を電気炉にて樹脂成分を燃焼させ、残存した繊維状の強化材料をプレパラートなどに広げ、実体顕微鏡観察にて視野中に観察される繊維状の強化材料から任意に選択した20個の強化材料について測定した繊維長の相加平均値である。
【0019】
繊維状の強化材料の平均繊維径(直径)は特に限定されず、例えば、2μm以上、6μm以上又は10μm以上であり得る。上限は特に限定されず、例えば、100μm以下である。
繊維径(直径)は、円形断面の強化材料であれば、その直径であり、その他の断面形状の強化材料では、その断面形状を同一面積の真円形に換算したときの当該真円形の直径である。平均繊維径は、繊維状の強化材料を含む成形体を電気炉にて樹脂成分を燃焼させ、残存した繊維状の強化材料をプレパラートなどに広げ、実体顕微鏡観察にて視野中に観察される繊維状の強化材料から任意に選択した20個の強化材料について測定した繊維径(直径)の相加平均値である。
【0020】
成形体本体における強化繊維の含有量は特に限定されず、成形体に十分な強度を付与する観点で、例えば、7質量%以上、10質量%以上、12質量%以上又は15質量%以上であり得る。上限は特に限定されず、例えば、75質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、38質量%以下、28質量%以下である。
成形体本体に用いるポリプロピレンに対する強化繊維の含有量は特に限定されず、例えば、7質量%以上、10質量%以上、12質量%以上又は15質量%以上であり得る。上限は特に限定されず、例えば、75質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、38質量%以下、28質量%以下である。
【0021】
(成形体本体:造核剤)
成形体本体に用いるポリプロピレンには造核剤を添加してもよい。造核剤の種類や配合量によってポリプロピレンの結晶化速度を調整でき、135℃での結晶化速度を0.6min-1以上にすることもできる。
【0022】
造核剤の具体例としては、有機カルボン酸もしくはその金属塩、芳香族スルホン酸塩もしくはその金属塩、有機リン酸化合物もしくはその金属塩、ジベンジリデンソルビトールもしくはその誘導体、ロジン酸部分金属塩、無機微粒子、イミド類、アミド類、キナクリドン類、キノン類又はこれらの混合物が挙げられる。
【0023】
有機カルボン酸の金属塩としては、安息香酸アルミニウム塩、p-t-ブチル安息香酸アルミニウム塩、アジピン酸ナトリウム、チオフェネカルボン酸ナトリウム、ピローレカルボン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0024】
ジベンジリデンソルビトール又はその誘導体としては、ジベンジリデンソルビトール、1,3:2,4-ビス(o-3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4-ビス(o-2,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4-ビス(o-4-エチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4-ビス(o-4-クロロベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4-ジベンジリデンソルビトール等が挙げられる。また、具体的には、新日本理化株式会社製の「ゲルオールMD」や「ゲルオールMD-R」(商品名)等も挙げられる。
【0025】
ロジン酸部分金属塩としては、荒川化学工業株式会社製の「パインクリスタルKM1600」、「パインクリスタルKM1500」、「パインクリスタルKM1300」(商品名)等が挙げられる。
【0026】
無機微粒子としては、タルク、クレー、マイカ、アスベスト、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、グラファィト、アルミニウム粉末、アルミナ、シリカ、ケイ藻土、酸化チタン、酸化マグネシウム、軽石粉末、軽石バルーン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、硫化モリブデン等が挙げられる。
【0027】
アミド化合物としては、アジピン酸ジアニリド、スペリン酸ジアニリド等が挙げられる。
【0028】
上記造核剤の中でも、結晶化速度上昇の効果が高い観点から下記一般式で示される有機リン酸金属塩(リン酸エステル金属塩)を用いることが好ましい。
【0029】
【化1】
(式中、R18は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、R19及びR20はそれぞれ水素原子、炭素数1~12のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム及び亜鉛のうちのいずれかを示し、Mがアルカリ金属のときmは0を、nは1を示し、Mがアルカリ土類金属又は亜鉛のときnは1又は2を示し、nが1のときmは1を、nが2のときmは0を示し、Mがアルミニウムのときmは1を、nは2を示す。)
【0030】
有機リン酸金属塩の具体例としては、「アデカスタブNA-11」、「アデカスタブNA-21」、「アデカスタブNA-71」(いずれも、旭電化株式会社製)が挙げられる。
【0031】
成形体本体における造核剤の配合量は、例えば、0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.05質量%以上又は0.1質量%以上としてもよく、また、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下又は0.5質量%以下としてもよい。
【0032】
(成形体本体:その他の成分)
成形体本体は、以上に説明した成分以外の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、耐候剤及び酸化防止剤等の添加剤や、顔料及び染料等の色材(着色剤)等が挙げられる。
【0033】
(成形体本体:組成)
成形体本体の50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.8質量%以上、99.9質量%以上又は100質量%が、
ポリプロピレン及び繊維状の強化材料、又は
ポリプロピレン、繊維状の強化材料、及び造核剤
であってもよい。
【0034】
(樹脂シート:樹脂層の樹脂)
樹脂層に使用される樹脂は特に限定されず、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ナイロン6(PA6)、ナイロン66(PA66)等のポリアミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン(PSF)、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルケトン(PEK)等が挙げられ、これらを2種以上用いたブレンド系樹脂又はアロイ系樹脂でもよい。また、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂等の共重合樹脂等を用いてもよい。
【0035】
樹脂層に用いる樹脂種は、成形体本体と同じでもよいし、異なってもよい。一実施形態において、樹脂層に用いる樹脂種はポリプロピレンを含む。
ポリプロピレンは、少なくともプロピレンを含む重合体である。具体的には、ホモポリプロピレン、プロピレンとオレフィンとの共重合体等が挙げられる。特に、耐熱性、硬度の理由からホモポリプロピレンが好ましい。
共重合体としては、ブロック共重合体でも、ランダム共重合体でもよく、これらの混合物でもよい。オレフィンとしては、エチレン、ブチレン、シクロオレフィン等が挙げられる。
【0036】
樹脂層に含まれるポリプロピレンは、アイソタクチックペンタッド分率が80モル%以上99モル%以下であることが好ましい。かかるアイソタクチックペンタッド分率は、80モル%以上98モル%以下、86モル%以上98モル%以下又は91モル%以上98モル%以下であり得る。
アイソタクチックペンタッド分率が80モル%以上であることによって、樹脂シートの剛性が向上する。一方、アイソタクチックペンタッド分率が99モル%以下であることによって、樹脂シートの透明性が向上する。
アイソタクチックペンタッド分率とは、樹脂組成の分子鎖中のペンタッド単位(プロピレンモノマーが5個連続してアイソタクチック結合したもの)でのアイソタクチック分率である。
アイソタクチックペンタッド分率は実施例に記載の方法で測定する。
【0037】
樹脂層に含まれるポリプロピレンは、130℃での結晶化速度が2.5min-1以下であることが、成形性の観点から好ましい。
樹脂層に含まれるポリプロピレンの結晶化速度は、2.5min-1以下が好ましく、2.0min-1以下がより好ましい。結晶化速度が、2.5min-1以下であると、金型へ接触した部分が急速に硬化すること等を抑制でき、意匠性の低下を防止することができる。下限値は特に限定されないが、通常0.1min-1以上である。
結晶化速度は実施例に記載の方法で測定する。
【0038】
ポリプロピレンの結晶構造としては、スメチカ晶を含むことが好ましい。スメチカ晶は、準安定状態の中間相であり、一つ一つのドメインサイズが小さいため、透明性に優れるため、好ましい。また、準安定状態であるため、結晶化が進んだα晶と比較して、低い熱量でシートが軟化するため、成形性に優れるため、好ましい。
ポリプロピレンの結晶構造には、他に、β晶、γ晶、非晶部等他の結晶形が含まれてもよい。
樹脂シート中のポリプロピレンの30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、85質量%以上、又は90質量%以上が、スメチカ晶でもよい。
【0039】
樹脂シート中のスメチカ晶の有無は下記の方法によって確認できる。
樹脂シート中のポリプロピレンの結晶構造を、X線発生装置(株式会社リガク製「model ultra X 18HB」)を用いて、広角X線の散乱パターンを下記測定条件で測定し、同定する。その結果、ピーク分離してもスメチカ晶型のピークが見られれば、得られた樹脂シート中にスメチカ晶が存在することを確認できる。
(測定条件)
・光源波長:300mAのCuKα線(波長=1.54Å)の単色光
・線源出力 電圧/電流:50kV/250mA
・照射時間:60分
・カメラ長:1.085m
・試料厚み:1.5~2.0mmになるようにシートを重ねる。製膜(MD)方向が揃うようにシートを重ねる。
なお、測定時間を短縮するため、1.5~2.0mmになるようにシートを重ねているが、測定時間を長くすれば、シートを重ねずに1枚でも測定可能である。
【0040】
樹脂層がポリプロピレン等のポリオレフィンを含む場合、かかるポリオレフィンは、造核剤を含まないことが好ましい。なお、ポリオレフィンが造核剤を含まないというのは、樹脂層が造核剤を含まないことであるということができる。造核剤を含む場合、その含有量は少量であることが好ましく、例えば、樹脂シートの1.0質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下である。
造核剤としては、上記の成形体本体で説明したもの等が挙げられる。
【0041】
樹脂層の形成方法は特に限定されず、例えば押出法等が挙げられる。
上記押出法では溶融樹脂の冷却を含み、当該冷却は、好ましくは80℃/秒以上で行い、樹脂層の内部温度が結晶化温度以下となるまで行う。これにより、樹脂層に含まれるポリプロピレンの結晶構造をスメチカ晶とすることができ、また、ポリプロピレンに造核剤を添加することなく、該ポリプロピレンの結晶化速度を2.5min-1以下にすることができる。冷却は、90℃/秒以上がより好ましく、150℃/秒以上がさらに好ましい。
【0042】
一実施形態において、造核剤を添加しないでポリプロピレンの結晶化速度を2.5min-1以下とし、上述したスメチカ晶を含有させることにより、意匠性に優れた成形体を得ることができる。また、後に成形に関して説明するように樹脂シートの加熱及び賦形を行うことによって、樹脂シートがスメチカ晶由来の微細構造を維持したまま、α晶に転移する。この転移により、成形体表面の表面硬度や透明性をさらに向上できる。
【0043】
(樹脂シート:樹脂層の組成)
一実施形態において、樹脂層の50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.8質量%以上、99.9質量%以上又は100質量%が樹脂(ポリプロピレン)である。
【0044】
樹脂シートの厚さは、特に限定されないが、例えば、10μm以上、50μm以上、又は150μm以上であり、また、例えば、1200μm以下、700μm以下、500μm以下、又は350μm以下である。
【0045】
(樹脂シート:層構成)
上記で説明したように、樹脂シートは樹脂層単独で成形体本体を被覆して成形体を形成してもよいし、樹脂層に加えて1以上の他の層と共に成形体本体を被覆して成形体を形成してもよい。
樹脂シートが樹脂層以外の層を含む場合、樹脂層以外の層は、樹脂層から見て成形体本体側に配置してもよいし、成形体本体と反対側に配置してもよいし、その両方に配置してもよい。また、樹脂層以外の層は、樹脂層上に全面的に積層されていてもよく、樹脂層上に部分的に積層されていてもよい。樹脂層以外の層が複数ある場合も同様であり、一の層は他の層の全面に積層していてもよく、部分的に積層していてもよい。
【0046】
樹脂シートにおける樹脂層以外の層としては、例えば、易接着層、アンダーコート層、金属層、印刷層等が挙げられる。
【0047】
一実施形態において、樹脂シートは、樹脂層から見て成形体本体側に印刷層を含む。
一実施形態において、樹脂シートは、樹脂層から見て成形体本体側に易接着層を含む。
一実施形態において、樹脂シートは、樹脂層から見て成形体本体側にアンダーコート層を含み、アンダーコート層から見て成形体本体側に金属層を含む。
【0048】
樹脂シートが樹脂層以外の層を含む場合の一実施形態に係る成形体の概略断面図を図2に示す。なお、図2においても縦横比や膜厚比は必ずしも正確ではない。
成形体1において、樹脂シート3は、樹脂層31と4つの他の層からなる積層体として成形体本体2を被覆している。樹脂シート3は、成形体本体2側から、印刷層35、金属層34、アンダーコート層33、易接着層32及び樹脂層31をこの順に含む積層体である。
以下、他の層の各々について詳しく説明する。
【0049】
(易接着層)
易接着層は、好ましくはウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂を含む。
そのような易接着層を設けることで、成形体が複雑な非平面状に成形された場合であっても、易接着層が樹脂シートに追従して良好に層構成を形成でき、ひび割れや剥離が生じることを防止できる。
【0050】
ウレタン系樹脂としては、ジイソシアネート、高分子量ポリオール及び鎖延長剤を反応させて得られるウレタン系樹脂が好ましい。高分子量ポリオールは、ポリエーテルポリオール又はポリカーボネートポリオールとしてもよい。ウレタン系樹脂の市販品としては、ハイドランWLS-202(DIC株式会社製)等が挙げられる。
アクリル系樹脂としては、アクリット8UA-366(大成ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂としては、アローベースDA-1010(ユニチカ株式会社製)等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0051】
易接着層は、上述した材料を1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
易接着層が含むウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂のうち、後述する金属層及び印刷層への密着性や成形性を考慮すると、ウレタン系樹脂が好ましい。
【0053】
なお、易接着層がポリプロピレン系樹脂を含む場合、易接着層が含むポリプロピレン系樹脂は、樹脂シートや成形体本体が含み得るポリプロピレンとは、通常、異なる。
【0054】
易接着層の、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上又は100質量%が、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂からなってもよい。例えば易接着層は、ウレタン樹脂のみからなる層でもよい。
【0055】
易接着層のガラス転移温度は、-100℃以上100℃以下が好ましい。ガラス転移温度が-100℃以上であると、易接着層の歪みが後述する金属層や印刷層の追従性を超えないため、長期間使用してもひび割れによる不良が発生しない。ガラス転移温度が100℃以下であると、軟化温度が適度であるため予備賦形時の伸びが良好であり、延伸部の伸びムラや金属層、印刷層のひび割れを抑制することができる。
【0056】
易接着層のガラス転移温度は、例えば、示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン株式会社製「DSC-7」)により、以下の条件で示差走査熱分析曲線を測定することで求めることができる。
測定開始温度:-90℃
測定終了温度:220℃
昇温温度:10℃/分
【0057】
易接着層の引張破断伸度は、例えば150%以上900%以下であり、好ましくは200%以上850%以下であり、より好ましくは300%以上750%以下である。
また、易接着層の引張破断伸度は、150%以上、200%以上、又は300%以上であってもよく、900%以下、850%以下、又は750%以下であってもよい。
易接着層の引張破断伸度が150%以上であると、熱成形の際の樹脂シートの伸びに易接着層が問題なく追従できるため、易接着層のひび割れ、及び金属層や印刷層のひび割れや剥離を抑制することができる。引張破断伸度が900%以下であると耐水性が良好である。
【0058】
易接着層の引張破断伸度は、例えば、ガラス基板上に、易接着層の形成に用いるものと同一組成の樹脂(組成物)をバーコーターにて塗布し、80℃にて1分間乾燥し、その後分離して厚み150μmの試料を作成し、JIS K7311:1995に準拠した方法で測定することにより評価できる。
【0059】
易接着層の軟化温度は、例えば50℃以上180℃以下であり、好ましくは90℃以上170℃以下であり、より好ましくは100℃以上165℃以下である。
また、易接着層の軟化温度は、50℃以上、90℃以上、又は100℃以上であってもよく、180℃以下、170℃以下、又は165℃以下であってもよい。
軟化温度が50℃以上であると、易接着層は常温での強度に優れ、金属層や印刷層のひび割れや剥離を抑制することができる。軟化温度が180℃以下であると、熱成形時に易接着層が十分軟化するため、易接着層のひび割れ、及び金属層や印刷層のひび割れや剥離を抑制することができる。
【0060】
易接着層の軟化温度は、例えば、ガラス基板上に、易接着層となる樹脂(例えばウレタン樹脂)をバーコーターにて塗布し、80℃にて1分間乾燥し、その後分離して厚み150μmの試料を作成し、易接着層の軟化温度を高化式フローテスター(島津製作所社製「定試験力押出形細管式レオメータフローテスター CFT-500EX」)による流動開始温度を測定することにより評価できる。
【0061】
易接着層は、1層単独でもよく、又は、2層以上の積層構造でもよい。
【0062】
易接着層の厚さは、35nm以上3000nm以下としてもよく、50nm以上2000nm以下としてもよく、50nm以上1000nm以下としてもよい。
また、易接着層の厚さは、35nm以上、又は50nm以上としてもよく、3000nm以下、2000nm以下、又は1000nm以下としてもよい。
【0063】
易接着層は、例えば、上述した樹脂をグラビアコーター、キスコーター又はバーコーター等で塗布し、40~100℃にて10秒~10分間乾燥することで形成することができる。
【0064】
易接着層の上には、インキやハードコート、反射防止コート、遮熱コート等の各種コーティングを積層できる。
また、樹脂シートにおいて、上記の易接着層(第1の易接着層)と反対側の面に易接着層をもう1層設けてもよい(第2の易接着層)。このようにすることで、成形体の表面となるポリオレフィン樹脂層に、表面処理やハードコーティング等の機能性を付与することができる。
【0065】
(アンダーコート層)
アンダーコート層は、易接着層と金属層とを密着させることができる層である。アンダーコート層を設けることにより、熱成形時に応力が加わった場合でも、金属層に極めて微細なクラックを無数に生じさせることができ、レインボー現象の発生を無くし、又は低減することができる。
アンダーコート層を形成する材料としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル等が挙げられる。
【0066】
成形時の耐白化性(白化現象の起こりにくさ)や金属層との密着性の観点から、アンダーコート層を形成する材料としては、アクリル樹脂が好ましく、例えば荒川化学工業株式会社製「DA-105」を用いることができる。
【0067】
上記材料は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
アンダーコート層において、上述した樹脂成分(主剤)に硬化剤を組み合わせて用いてもよい。硬化剤としては、アジリジン系化合物、ブロックドイソシアネート化合物、エポキシ系化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられ、例えば荒川化学工業株式会社製「CL102H」を用いることができる。
【0069】
硬化剤を用いる場合、アンダーコート層における主剤と硬化剤の含有割合は、固形分の質量比で、例えば35:4~35:40であり、好ましくは35:4~35:32であり、より好ましくは35:12~35:32である。また、35:12~35:20としてもよい。
硬化剤の配合量が主剤35に対して4以上であると、硬化反応が問題なく進行し、耐白化性を維持することができる。40以下であると、アンダーコート層の伸び性が良好であり、成形時のひび割れを抑制することができる。
【0070】
アンダーコート層の形成方法としては、例えば、上述した材料をグラビアコーター、キスコーター又はバーコーター等で塗布し、50~100℃にて10秒~10分間乾燥し、40~100℃にて10~200時間エージングすることで形成することができる。
【0071】
アンダーコート層の厚さは、0.05μm~50μmとしてもよく、0.1μm~10μmとしてもよく、0.5μm~5μmとしてもよい。
また、アンダーコート層の厚さは、0.05μm以上、0.1μm以上、又は0.5μm以上としてもよく、50μm以下、10μm以下、又は5μm以下としてもよい。
【0072】
(金属層)
金属層は、金属又は金属酸化物を含む層である。
金属層を形成する金属としては、積層体に金属調の意匠を付与できる金属であれば特に限定されないが、例えば、スズ、インジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金及び亜鉛が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を含む合金を用いてもよい。
上記のうち、インジウム及びアルミニウムは伸展性と色調に特に優れるため好ましい。金属層が伸展性に優れると、積層体を三次元成形した際にひび割れが発生しにくい。
【0073】
金属層の形成方法は特に制限されないが、質感が高く高級感のある金属調の意匠を積層体に付与する観点から、例えば、上記の金属を用いた、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の蒸着法等を用いることができる。特に、真空蒸着法は低コストであり、かつ、被蒸着体へのダメージを少なくすることができる。真空蒸着法の条件は、用いる金属の溶融温度又は蒸発温度に応じて適宜設定すればよい。
【0074】
上記方法の他、上記の金属又は金属酸化物を含むペーストを塗工する方法、上記の金属を用いためっき法等を用いることもできる。
【0075】
金属層の厚さは、5nm以上80nm以下としてもよい。5nm以上であると所望の金属光沢が問題なく得られ、80nm以下であるとひび割れが発生しにくい。
【0076】
(印刷層)
印刷層の形状としては、特に制限されないが、例えばベタ状、カーボン調、木目調等の様々な形状が挙げられる。
印刷の方法としては、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、ロールコート法、スプレーコート法等の一般的な印刷方法が利用できる。特に、スクリーン印刷法はインキの膜厚が厚くできるため、複雑な形状に成形した際にインキ割れが発生しにくい。
例えば、スクリーン印刷の場合、成形時の伸びに優れたインキが好ましく、十条ケミカル株式会社製の「FM3107高濃度白」や「SIM3207高濃度白」等が例示できるが、この限りではない。
【0077】
(成形体の製造方法)
以上に説明した成形体を製造する方法は特に限定されない。
一実施形態において、樹脂シート上に成形体本体を形成するための組成物(成形用樹脂組成物)を射出成形することによって、成形体を製造することができる。成形方法は、具体的には、例えば、インモールド成形及びインサート成形等が挙げられる。
【0078】
(インモールド成形)
一実施形態において、成形体の製造方法は、以上に説明した本発明の一態様に係る成形体を製造する方法であって、樹脂シートを金型の上に配置すること、及び、135℃での結晶化速度が0.6min-1以上であるポリプロピレンと繊維状の強化材料とを含む成形用樹脂組成物を前記樹脂シート上に供給することで、前記樹脂シートを金型に合致するように賦形しつつ、前記成形用樹脂組成物と前記樹脂シートとを一体化させることを含む。ここで、成形用樹脂組成物は、樹脂シート上で冷却され、固化されることによって、成形体本体を形成する。
かかる成形体の製造方法(インモールド成形法)では、金型内に樹脂シートを設置して、金型内に供給される成形用樹脂組成物の圧力によって所望の形状に成形して、成形体を得ることができる。
【0079】
(インサート成形)
他の実施形態において、成形体の製造方法は、以上に説明した本発明の一態様に係る成形体を製造する方法であって、樹脂シートを金型に合致するよう賦形すること、及び135℃での結晶化速度が0.6min-1以上であるポリプロピレンと繊維状の強化材料とを含む成形用樹脂組成物を前記賦形された樹脂シート上に供給することで、前記成形用樹脂組成物と前記樹脂シートとを一体化させることを含む。ここで、成形用樹脂組成物は、樹脂シート上で冷却され、固化されることによって、成形体本体を形成する。
かかる成形体の製造方法(インサート成形法)では、金型内に設置する賦形体(樹脂シート)を予備賦形しておき、その形状に合わせて成形用樹脂組成物を充填することで、成形体を得ることができる。インサート成形では、上述したインモールド成形と比べ、より複雑な形状の成形体を形成することができる。
金型に合致するように行う賦形(予備賦形)は、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形、プラグアシスト成形等で行うことができる。賦形に際して、予め樹脂シートを加熱することができる。
【0080】
また、本発明の一態様における成形体の製造方法は、ポリプロピレンと繊維状強化材料とを含む成形用樹脂組成物を、ポリプロピレンが溶融するように加熱すること、加熱された成形用樹脂組成物を、金型に配置された樹脂シート上に供給すること、及び、樹脂シート上で成形用樹脂組成物を冷却して固化させることによって、固化された成形用樹脂組成物からなる成形体本体と、成形体本体の表面の少なくとも一部を被覆する前記樹脂シートとを含む成形体を得ることを含む。溶融に供される成形用樹脂組成物に含まれるポリプロピレンの135℃での結晶化速度は0.6min-1以上である。
【0081】
(成形体の用途)
以上に説明した成形体の用途は特に限定されず、種々の用途に用いることができる。一実施形態において、成形体は、鞍乗型車両の外装部品又は四輪車両の外装部品に用いることができる。また、成形体は、車両の内装材、外装材、家電の筐体、化粧鋼鈑、化粧板、住宅設備、情報通信機器の筐体等に用いることができる。
【実施例
【0082】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例により限定されない。
【0083】
実施例1
(1)樹脂シートの製造
図3に示す装置を用いて樹脂シートを製造した。樹脂シートの原料には、ポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロF133A」、以下、「PP-1」と称する場合がある。)を使用した。
当該装置の動作を説明する。押出機のTダイ52より押し出されたポリプロピレンの溶融樹脂を第1冷却ロール53上で金属製エンドレスベルト57と第4冷却ロール56との間に挟み込む。この状態で、溶融樹脂を第1、第4冷却ロール53、56で圧接するとともに急冷し、樹脂シートとする。
樹脂シートは、続いて、第4冷却ロール56の略下半周に対応する円弧部分で金属製エンドレスベルト57と第4冷却ロール56とに挟まれて面状圧接される。第4冷却ロール56で面状圧接及び冷却された後、金属製エンドレスベルト57に密着した樹脂シートは、金属製エンドレスベルト57の回動とともに第2冷却ロール54上に移動される。樹脂シートは、前述同様、第2冷却ロール54の略上半周に対応する円弧部分で金属製エンドレスベルト57により面状圧接され、再び冷却される。第2冷却ロール54上で冷却された樹脂シート51は、その後金属製エンドレスベルト57から剥離される。なお、第1、第2冷却ロール53、54の表面には、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)製の弾性材62が被覆されている。また、第3冷却ロール55は、金属製エンドレスベルト57を下部で支えて回転する機能を果たしている。
樹脂シートの製造条件は以下の通りである。
・押出機の直径:75mm
・Tダイ52の幅:900mm
・厚さ:200μm
・樹脂シート51の引き取り速度:4.5m/分
・第4冷却ロール56及び金属製エンドレスベルト57の表面温度:20℃
・冷却速度:8,100℃/分
【0084】
(2)樹脂シートのポリプロピレンの結晶化速度(130℃での結晶化速度)
示差走査熱量測定器(DSC)(パーキンエルマー社製「Diamond DSC」)を用いて、樹脂シートに用いたポリプロピレンの結晶化速度を測定した。具体的には、樹脂シートから採取した断片を80℃/分にて50℃から230℃に昇温し、230℃にて5分間保持し、80℃/分で230℃から130℃に冷却し、その後130℃に保持してポリプロピレンの結晶化を行った。130℃になった時点から熱量変化について測定を開始し、DSC曲線を得た。得られたDSC曲線から、以下の手順(i)~(iv)により結晶化速度を求めた。
(i)測定開始からピークトップまでの時間の10倍の時点から、20倍の時点までの熱量変化を直線で近似したものをベースラインとした。
(ii)ピークの変曲点における傾きを有する接線とベースラインとの交点を求め、結晶化開始及び終了時間を求めた。
(iii)得られた結晶化開始時間から、ピークトップまでの時間を結晶化時間として測定した。
(iv)得られた結晶化時間の逆数から、結晶化速度を求めた。
【0085】
(3)樹脂シートのポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率
13C-NMRスペクトルを評価することで、樹脂シートのポリプロピレンのアイソタクチックペンダット分率を測定した。具体的には、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,8,687(1975)」で提案されたピークの帰属に従い、下記の装置、条件及び計算式を用いて行った。その結果、樹脂シートのアイソタクチックペンダット分率は98モル%であった。
(装置・条件)
装置:13C-NMR装置(日本電子株式会社製「JNM-EX400」型)
方法:プロトン完全デカップリング法(濃度:220mg/ml)
溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼンと重ベンゼンの90:10(容量比)混合溶媒
温度:130℃
パルス幅:45°
パルス繰り返し時間:4秒
積算:10000回
(計算式)
アイソタクチックペンダット分率[mmmm]=m/S×100
(式中、Sは全プロピレン単位の側鎖メチル炭素原子のシグナル強度を示し、mはメソペンダット連鎖を示す(21.7~22.5ppm)。)
【0086】
(4)成形用樹脂組成物の調製
ガラス短繊維強化ポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロV7100」、ガラス繊維含有量20質量%(平均繊維長:0.3mm、平均繊維径(直径):0.013mm)、以下「繊維強化PP-1」と称する場合がある。)に、造核剤としてリン酸エステル金属塩(株式会社ADEKA製「アデカスタブNA-11」、以下「リン酸エステル金属塩-1」と称する場合がある。)を含むマスターバッチを、組成物全量に対するリン酸エステル金属塩の濃度が1500ppmとなるよう添加して、成形用樹脂組成物とした。上記添加に際して、ドライブレンドによる混合を施した。
【0087】
(5)成形体の製造
(1)で得られた樹脂シートを100mm×100mmにカットし、平板形状の金型(125mm×125mm、厚さ2mm)の固定側キャビティ表面へ装着し、油圧式射出成形機(東芝機械株式会社製「IS-80EPN」)を用いて、(4)で得られた成形用樹脂組成物を金型内に供給して一体化させて成形体を得た。この際、金型に供給される成形用樹脂組成物の温度は230℃とし、金型温度は50℃とした。
【0088】
(6)成形用樹脂組成物のポリプロピレンの結晶化速度測定(135℃結晶化速度)
示差走査熱量測定器(DSC)(パーキンエルマー社製「Diamond DSC」)を用いて、成形体における成形体本体からサンプリングした成形用樹脂組成物(ガラス短繊維強化ポリプロピレンと造核剤とを含む)のポリプロピレンの結晶化速度を測定した。具体的には、成形用樹脂組成物を80℃/分にて50℃から230℃に昇温し、230℃にて5分間保持し、80℃/分で230℃から135℃に冷却し、その後135℃に保持してポリプロピレンの結晶化を行った。135℃になった時点から熱量変化について測定を開始し、DSC曲線を得た。得られたDSC曲線から、以下の手順(i)~(iv)により結晶化速度を求めた。
(i)測定開始からピークトップまでの時間の10倍の時点から、20倍の時点までの熱量変化を直線で近似したものをベースラインとした。
(ii)ピークの変曲点における傾きを有する接線とベースラインとの交点を求め、結晶化開始及び終了時間を求めた。
(iii)得られた結晶化開始時間から、ピークトップまでの時間を結晶化時間として測定した。
(iv)得られた結晶化時間の逆数から、結晶化速度を求めた。
【0089】
(7)成形体表面の最大高さRz
(5)で得られた成形体について株式会社東京精密製「ハンディサーフE-35B」を使用し、JIS B 0601:2001に準拠して、下記測定条件で、成形体表面(樹脂シート表面)における流動方向と直交する方向の表面形状を測定した。このようにして得られた断面曲線における山頂線と谷底線との間隔を最大高さRzとした。結果を表1に示す。
<測定条件>
・測定距離:10mm
・カットオフ:無し
・触針:先端直径5μm、先端確度90°円錐、材質ダイヤモンド
・測定力:4mN以下
【0090】
(8)光沢度
(5)で得られた成形体について、JIS Z 8741:1997の60度鏡面光沢の測定方法に準拠し、光沢計(日本電色工業株式会社製「VG7000」)を使用し、成形体の樹脂シート面から光を入射角60度で照射し、同じく60度で反射光を受光したときの反射光束ψsを測定し、屈折率1.567のガラス表面からの反射光束ψ0sとの比により、下記式(1)により光沢度を求めた。結果を表1に示す。
光沢度(Gs)=(ψs/ψ0s)*100・・・(1)
【0091】
実施例2
実施例1において、成形用樹脂組成物の造核剤として、リン酸エステル金属塩-1に代えて、リン酸エステル金属塩(株式会社ADEKA製「アデカスタブNA-21」、以下「リン酸エステル金属塩-2」と称する場合がある。)を用いた以外は、実施例1と同様にして成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0092】
実施例3
実施例1において、成形用樹脂組成物の造核剤として、リン酸エステル金属塩-1に代えて、リン酸エステル金属塩(株式会社ADEKA製「アデカスタブNA-71」、以下「リン酸エステル金属塩-3」と称する場合がある。)を用いた以外は、実施例1と同様にして成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0093】
実施例4
実施例3において、造核剤であるリン酸エステル金属塩類3を成形用樹脂組成物全量に対して3000ppmとなるよう添加したこと以外は、実施例3と同様にして成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0094】
実施例5
実施例4において、繊維強化PP-1に代えて、ガラス短繊維強化ポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製「モストロンL-4040P」、ガラス繊維含有量40質量%(平均繊維長:1.0mm、平均繊維径(直径):0.015mm)、以下「繊維強化PP-2」と称する場合がある。)を用いた以外は、実施例4と同様にして成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0095】
比較例1
成形用樹脂組成物に造核剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0096】
比較例2
成形用樹脂組成物に造核剤を添加しなかった以外は、実施例5と同様にして成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1より、本発明の成形体は表面平滑性が高く、優れた外観を有することが分かる。なお、実施例5の最大高さRzは比較例1と比較すると大きい値となっているが、これは、最大高さRzが、成形体に含まれる繊維状強化材料の物性(特に繊維長)とその含有量に大きく依存することによる。実施例5では繊維長の大きい繊維状強化材料を多く含むためRzの値が高いが、比較例2(造核剤以外の条件が同一)と比較するとRzは大きく低下していることから、成形体を構成するポリプロピレンの結晶化速度を特定することによって、成形体の表面平滑性を向上しうる効果が分かる。
【0099】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
この明細書に記載の文献、及び本願のパリ条約による優先権の基礎となる出願の内容を全て援用する。
図1
図2
図3