(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】キシログルカン及びアルコールを含む、活性成分の制御放出のためのゲル形態の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/06 20060101AFI20241210BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20241210BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241210BHJP
【FI】
A61K9/06
A61K47/36
A61K47/10
(21)【出願番号】P 2021576349
(86)(22)【出願日】2020-06-11
(86)【国際出願番号】 EP2020066181
(87)【国際公開番号】W WO2020254179
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】102019000009273
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】317013544
【氏名又は名称】アルファシグマ ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】ヴィスコミ, ジュゼッペ クラウディオ
(72)【発明者】
【氏名】マッフェイ, パオラ
(72)【発明者】
【氏名】ブルーノ, クリスティアーナ
(72)【発明者】
【氏名】フェデリッチ, マシア
(72)【発明者】
【氏名】ディスペンザ, クレリア
(72)【発明者】
【氏名】サバティーノ, マリア, アントニエッタ
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-533604(JP,A)
【文献】特表2008-542324(JP,A)
【文献】Chemical Engineering Transactions,2016年,Vol.49,p.289-294
【文献】Biomaterials for Medicine,2014年,p.369-370
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬活性成分、キシログルカン及び
2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを含むゲル形態の制御放出性組成物であって、キシログルカンの濃度が0.1%(w/w)~10.0%(w/w)であり、
2-(2-エトキシエトキシ)エタノールの濃度が20.0%(w/w)~50.0%(w/w)で
ある、制御放出性組成物。
【請求項2】
前記2-(2-エトキシエトキシ)エタノールの濃度が、20.0%(w/w)~30.0%(w/w)である請求項
1記載の組成物。
【請求項3】
前記キシログルカンの濃度が、1.0%(w/w)~5.0%(w/w)であり、かつ前記2-(2-エトキシエトキシ)エタノールの濃度が、20.0%(w/w)~50.0%(w/w)である請求項
1記載の組成物。
【請求項4】
前記キシログルカンの濃度が、1.0%(w/w)~5.0%(w/w)であり、かつ前記2-(2-エトキシエトキシ)エタノールの濃度が、20.0%(w/w)~30.0%(w/w)である請求項
1記載の組成物。
【請求項5】
前記キシログルカンの濃度が、2.0%(w/w)~5.0%(w/w)であり、かつ前記2-(2-エトキシエトキシ)エタノールの濃度が、20.0%(w/w)~50.0%(w/w)である請求項
1記載の組成物。
【請求項6】
前記キシログルカンの濃度が、2.0%(w/w)~5.0%(w/w)であり、かつ前記2-(2-エトキシエトキシ)エタノールの濃度が、20.0%(w/w)~30.0%(w/w)である請求項
1記載の組成物。
【請求項7】
4%(w/w)の前記キシログルカン及び50.0%(w/w)の前記2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを含む請求項1記載の組成物。
【請求項8】
100ラジアン/秒~0.1ラジアン/秒の周波数に供されたとき、貯蔵弾性率(G’)値が、T0において2000Pa~500Paであり、かつ24時間後に3000Pa~1000Paであることを特徴とす
る請求項
1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
0秒
-1~95秒
-1のせん断速度に供されたとき、粘度値がT0において1×10
10mPa・s~2×10
3mPa・sであり、かつ粘度値がT24において3×10
7mPa・s~1×10
3mPa・sであることを特徴とす
る請求項
1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記医薬活性成分が、抗炎症剤、抗真菌剤、抗生物質、模倣(又は擬態)抗生物質、成長因子、消毒剤、抗腫瘍剤、タンパク質、ペプチド、保湿剤からなる群より選択される請求項1記載の組成物。
【請求項11】
経腸、非経口、経皮又は経粘膜経路による投与のための請求項1記載の組成物。
【請求項12】
経腸経路による投与が、経口、舌下
又は直腸投与であり、非経口経路による投与が、皮下又は皮内投与であり、経皮又は経粘膜経路による投与が、膣、鼻又は口腔咽頭粘膜を介する請求項
11記載の組成物。
【請求項13】
以下の工程:
(a
)精製キシログルカン水溶液を調製する工程;
(b)工程(a)のキシログルカン水溶液を
2-(2-エトキシエトキシ)エタノールへ添加し、
2-(2-エトキシエトキシ)エタノールの濃度を20.0%(w/w)~50.0%(w/w)濃度とする工程
を含む請求項1記載の組成物の調製方法であって、活性成分がその溶解性に応じて両方の溶液に含まれてもよい、方法。
【請求項14】
使用時、使用前、又は保存されるゲルを調製する段階で溶液が混合される請求項
13記載の方法。
【請求項15】
前記活性成分の制御放出が有用である病状の処置に使用するための請求項1記載の組成物。
【請求項16】
医療デバイスに含まれる請求項1記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、医薬活性成分(医薬有効成分)を含むゲル組成物に関する。
【0002】
前記組成物は、組成物の総重量に対して5.0重量%~50.0重量%濃度でアルコールとともに、0.1重量%~10.0重量%濃度でキシログルカンを含む。
【0003】
本発明はまた、前記組成物の調製方法、及び活性成分の制御放出が有用である病状の処置における前記組成物の使用について記載する。前記組成物は、1以上の医薬活性成分又は栄養補助的(nutraceutical)活性成分を含んでもよく、前記組成物は、非経口、皮下、膣、頬(口腔内)、経口、局所又は直腸経路によって投与されてもよい。前記組成物は、適切な医療デバイスを使用することによって投与することができる。
【背景技術】
【0004】
技術水準
国際公開第2009/028764号(特許文献1)には、塩析特性を有する塩の存在下で高分子と熱可逆性多糖との複合体から得られたタンパク質を放出するためのゲルが記載されている。得られた処方物は室温で液体であり、注射するとゲルになり、ゲルからタンパク質が放出される。
【0005】
国際公開第1999/059549号(特許文献2)には、治療用タンパク質及び金属イオンを含むアルギン酸エステルに基づく注射可能なヒドロゲルが記載されている。
【0006】
米国特許出願公開第2002/0019336号明細書(特許文献3)には、コンドロイチン硫酸又はヒアルロン酸塩若しくはエステルなどのムコ多糖を含む組成物が記載され、この組成物はタンパク質の放出に有用であり、pH値が変化するにつれてゲルの形成が生じる。
【0007】
Miyazaki S.らは、J Contr Rel 56, 75, 1998(非特許文献1)において、水又はpH7.2のリン酸緩衝液中1重量%~2重量%の濃度で部分的に酵素分解されたキシログルカンによって得られた熱可逆性ゲルからのインドメタシンの放出を記載している。
【0008】
Kant A.らは、Pharmacology online 2: 28, 2011(非特許文献2)において、ゲルの形成が温度、pH、イオン及び紫外線の存在の変化に依存し、制御された方法で活性成分を放出できるゲルのin situ(その場所での)形成を記載している。このゲルは、合成又は天然のポリマーで形成でき、経口、眼、直腸、膣又は注射可能な経路で投与できる。この文献には、水溶液中のキシログルカンがβ-ガラクトシダーゼで部分的に分解されると、得られた生成物は、高温から冷却することによってゲル形成が生じる熱可逆性ゲルであるという特性を有することが報告されている。この現象は、ネイティブキシログルカン(未分解のキシログルカン)では生じない。
【0009】
in situゲルは、欧州特許第3173067号(特許文献4)に記載されているように、粘膜への活性成分の放出のための粘膜付着性ポリマーを含むことができる。
【0010】
欧州特許第1898876号(特許文献5)には、10.0重量%~70.0重量%濃度のグリセロールとともに、0.05重量%~5.0重量%濃度のキシログルカン水溶液を含む粘膜付着性組成物が記載され、この文献に記載の粘膜付着性組成物は、液剤、膣坐剤(ovules)、ゲル剤、膣洗浄液及びスプレー剤である。この特許には、in situゲルの形成は記載されていない。
【0011】
特許第6490134号(特許文献6)には、キシログルカン水溶液と、少なくとも1つの糖及び/又はアルコールとを含むゲル組成物が記載されている。この文献に記載の組成物は、0.1重量%~15.0重量%濃度でキシログルカンと、10.0重量%~50.0重量%濃度の二価、三価、四価、五価及び六価アルコールからなる群より選択されるアルコールと、水溶性ポリマーとを含む。この文献に記載の組成物は、化粧品用及び食品用のゲル組成物に言及し、その目的は、得られたゲルをその貯蔵の間維持することである。
【0012】
Todaro S.ら、Chem. in Eng. Trans. 2016; 49:289-294(非特許文献3)には、高エネルギー照射で解重合されたキシログルカンのレオロジー特性が記載されている。解重合されたキシログルカンの画分は、FT-IR及び異なる濃度のエタノールの存在下でのゲルの形成を特徴とした。
【0013】
Pasta S.らは、“I materiali biocompatibili per la medicina/Biomaterials for Medicine” 2014 (2014-01-01), Universitas Studiorum, XP055676486, 第369-370頁(非特許文献4)において、ネイティブ(未解重合の)又は解重合したキシログルカンをTranscutol(登録商標)と相対比4:1で混合する場合のゲル形成について記載し、このゲルはヒトへの応用のための組織工学に有用である可能性があると述べている。
【0014】
医薬分野では、血漿濃度を有効なレベルに維持して経時的に投与回数を減らすためなど、経時的に制御された方法で活性成分を放出できる新たな医薬組成物を見出す必要性が高まっている。
【0015】
上記の観点において、本発明の目的は、1以上の活性成分を含む、ゲル形態の制御放出性(徐放性)医薬又は栄養組成物にある。ゲルは、天然ポリマー、キシログルカン及びアルコールが直接的に接触して形成される。医薬活性成分を含む医薬ゲル組成物は、使用前に、in situで、又は室温保存若しくは冷蔵される医薬品の調製のために、成分を混合することによって得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】国際公開第2009/028764号
【文献】国際公開第1999/059549号
【文献】米国特許出願公開第2002/0019336号明細書
【文献】欧州特許第3173067号
【文献】欧州特許第1898876号
【文献】特許第6490134号
【非特許文献】
【0017】
【文献】Miyazaki S.ら、J Contr Rel 56, 75, 1998
【文献】Kant A.ら、Pharmacology online 2: 28, 2011
【文献】Todaro S.ら、Chem. in Eng. Trans. 2016; 49:289-294
【文献】Pasta S.ら、“I materiali biocompatibili per la medicina/Biomaterials for Medicine” 2014 (2014-01-01), Universitas Studiorum, XP055676486, 第369-370頁
【発明の概要】
【0018】
発明の概要
本発明は、医薬活性成分を含むゲル形態の制御放出性組成物に関する。
【0019】
この組成物は、キシログルカン、第一級アルコール及び1以上の活性成分を含む。
【0020】
本発明は、1以上の医薬活性成分と、キシログルカンと、第一級アルコールとを含むゲル形態の制御放出性組成物であって、キシログルカンが、組成物の総重量に対して0.1重量%~10.0重量%濃度である制御放出性組成物を開示する。組成物は、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール(Transcutol(登録商標))、エタノール、プロパノール、ブタノール、セチルアルコール、ステアリルアルコール及びセチルステアリルアルコールからなる群より選択される第一級アルコールを含む。
【0021】
ある目的において、第一級アルコールは2-(2-エトキシエトキシ)エタノール(Transcutol(登録商標))である。
【0022】
本発明の組成物は、抗炎症剤、抗真菌剤、抗生物質、模倣(又は擬態)抗生物質、成長因子、消毒剤、抗癌剤、タンパク質、ペプチド、保湿剤、天然成分又はそれらの混合物を含む群から選択される1以上の医薬活性成分を含むことができる。
【0023】
1つの態様において、組成物は、組成物の総重量に対して、0.1重量%~10.0重量%濃度のキシログルカン、5.0重量%~50.0重量%濃度の2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを、医薬活性成分とともに含む。組成物は、局所的及び/又は全身的効果を有する活性成分を制御された方法で放出するのに有用である。
【0024】
本発明はまた、水溶液の状態で調製された精製キシログルカンと、第一級アルコール溶液(又はアルコール液)とで構成され、かつ精製キシログルカンの濃度が0.1重量%~10.0重量%であり、かつ第一級アルコールの濃度が5.0重量%~50.0重量%である組成物の製造方法であって、活性成分を、溶解度に応じて、両方の溶液に含めることができる方法を記載する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、ゲル形態の制御放出性組成物であって、ゲルが、制御された効果的な方法で放出される医薬活性成分を含む制御放出性組成物を記載する。
【0026】
本発明の組成物は、キシログルカン(XG)水溶液をアルコール(例えば、第一級アルコール)と混合することによって得られる。医薬活性成分を含む医薬ゲル組成物は、使用直前に、in situで、又は室温保存若しくは冷蔵される医薬品の調製のために、2つの成分を混合することによって得ることができる。
【0027】
組成物に含まれる医薬活性成分は、キシログルカン水溶液又はアルコール溶液(又はアルコール液)に、それらの溶解度に応じて、制限なく含むことができる。活性成分は、そのまま保存したり、さらにキシログルカンを含むか若しくは含まない水溶液で希釈したりすることもでき、投与の時点でゲルに含めることもできる。
【0028】
ゲル組成物は、キシログルカンと、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、セチルアルコール、ステアリルアルコール及びセチルステアリルアルコールから選択される第一級アルコールとを混合することによって形成される。
【0029】
好ましい1つの態様において、医薬活性成分を含み、かつキシログルカン及び2-(2-エトキシエトキシ)エタノールからなるゲル組成物が記載される。
【0030】
キシログルカンは、タマリンド種子に由来する多糖であり、(1-6)-α-D-キシロース結合が(1-2)-β-D-ガラクトキシロースに部分的に置き換わった(1-4)-β-D-グルカン鎖で構成される。キシログルカンは、β-ガラクトシダーゼによって部分的に分解されると、水中で熱可逆性ゲルを形成し、得られた生成物は、希釈水溶液中で、可逆的熱条件でゲル化する特性を有する。ガラクトースの除去率が35%を超えると、ゲルの形成が可能となる。さらに、転移温度は、ポリマー濃度及びガラクトース除去に反比例する。このような挙動は、ネイティブキシログルカン(未分解のキシログルカン)では生じない。キシログルカンは、エンドウ豆、大豆、米、竹、タマリンド種子などの植物から抽出することによって得ることができる。タマリンド種子に由来するキシログルカンの分子量は約5,000~1,000,000Daである。ポリマーは、好ましくは、アルカリ性溶液での抽出によって得られ、次いで、沸騰水中での抽出、遠心分離及び滅菌濾過によってさらに精製される。
【0031】
本発明の組成物に含まれるキシログルカンは、酵素分解されておらず、欧州特許第1898876号に記載の精製方法に従って精製された、ネイティブキシログルカンであり、前記組成物の総重量に対して0.1重量%~10.0重量%濃度で含まれる。
【0032】
キシログルカン水溶液と、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、セチルアルコール、ステアリルアルコール及びセチルステアリルアルコールから選択される第一級アルコールとを混合することによって得られ、組成物の総重量に対して、キシログルカンの濃度が0.1重量%~10.0重量%であり、かつ第一級アルコールの濃度が5.0重量%~50.0重量%であるゲル組成物は、制御された方法で活性成分を放出する。
【0033】
本発明では、前記ゲル組成物は、キシログルカン水溶液と、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、セチルアルコール、ステアリルアルコール及びセチルステアリルアルコールから選択される第一級アルコールとを混合することによって得られ、前記組成物の総重量に対して、キシログルカンの濃度が0.1重量%~10.0重量%であり、かつ第一級アルコールの濃度が20.0重量%~50.0重量%である。
【0034】
キシログルカン水溶液と、2-(2-エトキシエトキシ)エタノールとを混合することによって得られ、組成物の総重量に対して、キシログルカンの濃度が0.1重量%~10.0重量%であり、かつ2-(2-エトキシエトキシ)エタノールの濃度が5.0重量%~50.0重量%であるゲル組成物は、制御された方法で活性成分を放出する。
【0035】
前記組成物は、前記組成物の総重量に対してキシログルカンを0.1重量%~10.0重量%濃度で含み、かつ前記組成物の総重量に対して2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを20.0重量%~30.0重量%濃度で含む。
【0036】
前記組成物は、前記組成物の総重量に対してキシログルカンを1.0重量%~5.0重量%濃度で含み、かつ2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを20.0重量%~50.0重量%濃度で含む。
【0037】
前記組成物は、前記組成物の総重量に対して、キシログルカンを1.0重量%~5.0重量%濃度で含み、かつ2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを20.0重量%~30.0重量%濃度で含む。
【0038】
前記組成物中のキシログルカン及び2-(2-エトキシエトキシ)エタノールの量を変えることにより、様々な濃度(consistency)を特徴とし、かつ経時的に活性成分の放出を調節できるゲルを様々な量で得ることが可能である。本発明の組成物は、活性成分、処置される病状及び送達部位に応じて制御放出するのに有用な、柔軟なマトリックスを保持できる。
【0039】
第一級アルコールの濃度が5.0重量%~50.0重量%、キシログルカンの重量濃度が0.1%~10、0%となるように、第一級アルコール、特に2-(2-エトキシエトキシ)エタノールをキシログルカン水溶液に添加すると、20秒未満、好ましくは1~10秒でゲルを形成することが見出された。
【0040】
前記組成物は、前記組成物の総重量に対して0.1重量%~10.0重量%、好ましくは0.5重量%~8.0重量%、より好ましくは1.0重量%~5.0重量%濃度でキシログルカンを含む。キシログルカンを0.1重量%~10.0重量%濃度で含み、かつ2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを5.0重量%~50.0重量%濃度で含む組成物は、同じ濃度でキシログルカン(XG)及び第二級アルコールを含む組成物によって得られるレオロジー挙動とは異なるレオロジー挙動を有することを特徴とする。
【0041】
キシログルカンを0.1重量%~10.0重量%濃度で含み、かつ2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを20.0重量%~50.0重量%濃度で含むゲル組成物は、前記組成物の重量に対して50.0%を超える重量パーセントでゲルを形成する。さらに、キシログルカンを0.1%~10.0%濃度で含み、かつ2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを20.0%~50.0%濃度で含む組成物によって形成されるゲルの量は、同じ濃度でキシログルカン及び、例えばプロピレングリコールなどの第二級アルコールを含む組成物から得られる量よりも多い。
【0042】
0.1%未満の量のキシログルカンはいくらかの量のゲルを形成し、この量は、溶液の重量に対して10.0%未満の量である。
【0043】
キシログルカンを2.0重量%~5.0重量%濃度で含み、かつ2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを20.0%(w/w)~50.0%(w/w)濃度で含む組成物は、溶液から分離するゲルを形成し、このゲルは、溶液の重量の60.0%よりも多い量である。
【0044】
本発明では、前記組成物は、4%(w/w)キシログルカン及び50%(w/w)2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを含むことができる。
【0045】
本発明では、前記組成物は、前記組成物の総重量に対して、キシログルカンを2.0%(w/w)~5.0%(w/w)濃度で含み、かつ2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを20.0%(w/w)~30.0%(w/w)濃度で含むことができる。
【0046】
キシログルカンを1.0重量%~5.0重量%濃度で含み、かつプロピレングリコールなどの第二級アルコールを20.0%(w/w)~50.0%(w/w)濃度で含む組成物は、溶液から分離するゲルを溶液重量の50.0%未満の量で形成し、このゲル形成は、2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを含む組成物よりも長い時間を必要とする。
【0047】
2-(2-エトキシエトキシ)エタノールと、キシログルカン水溶液とを混合することによって得られ、2-(2-エトキシエトキシ)エタノールの濃度が5.0%(w/w)~50.0%(w/w)であり、かつキシログルカンの濃度が0.1%(w/w)~10.0%(w/w)であるゲル組成物は、20秒未満、好ましくは10秒未満でこれらを混合することによって得られる。
【0048】
レオロジーパラメータは、液体又は固体の特徴を定義するのに有用である。すなわち、係数G’及びG”(それぞれ、貯蔵弾性率及び損失弾性率として知られる)は、周波数依存性の物質関数である。G’は固体の挙動を表し、G”は液体の挙動を表す。G’は典型的な弾性挙動に従い、変形と一致し、G”は典型的な液体挙動に従う。
【0049】
ゲル形態における本発明の組成物は、貯蔵弾性率(G’)が損失弾性率(G”)よりも大きいことを特徴とする。
【0050】
キシログルカンを0.1重量%~10.0重量%濃度で含み、かつ2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを5.0重量%~50.0重量%濃度で含む組成物は、周波数が減少するにつれてG’の値が減少することを特徴とする。この特徴は、24時間後も維持される。
【0051】
本発明の組成物は、100ラジアン/秒~0.1ラジアン/秒の周波数が印加された状態で、時間T0においてG’値が2000Pa~500Paであることを特徴とする。
【0052】
本発明の組成物は、100ラジアン/秒~0.1ラジアン/秒の周波数が印加された状態で、24時間後(T24)にG’値が3000Pa~1000Paであることを特徴とする。
【0053】
0.1重量%~10.0重量%濃度のキシログルカン及び5.0%(w/w)~50.0%(w/w)濃度の2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを含む組成物は、100ラジアン/秒~0.1ラジアン/秒の周波数で応力が印加される場合、時間ゼロ(T0)においてG”値が500Pa~100Paであることを特徴とする。
【0054】
0.1%(w/w)~10.0%(w/w)濃度のキシログルカン及び5.0%(w/w)~50.0%(w/w)濃度の2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを含む組成物は、100ラジアン/秒~0.1ラジアン/秒の周波数が印加される場合、T24においてG”値が300Pa~100Paであることを特徴とする。
【0055】
上記の濃度でキシログルカン及び、例えばプロピレングリコールなどの第二級アルコールを含む組成物は、T0において、G’値がG”値よりも低いこと、及びこれらの値が両方とも、キシログルカン及び2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを含む組成物で得られる値よりも低いことを特徴とする。プロピレングリコールを含むゲルは、2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを含むゲルよりも長い時間で形成され、形成されたゲルは弱い形成を特徴とする。このことは、G’値が、T0及び24時間後の両方において、2-(2-エトキシエトキシ)エタノールで得られる値よりも低いことによって確認される。
【0056】
キシログルカンを0.1重量%~10.0重量%濃度で含み、かつ2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを5.0重量%~50.0重量%濃度で含む組成物は、T0において、粘度値が、同じ濃度でキシログルカン及びプロピレングリコールを含む組成物で得られる粘度値よりも高いことを特徴とする。
【0057】
キシログルカンを0.1重量%~10.0重量%濃度で含み、かつ2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを5.0重量%~50.0重量%濃度で含む組成物は、時間T0において、0~95秒-1のせん断速度でせん断応力が付加される場合、粘度値が1×1010~2×103mPaの範囲であることを特徴とする。
【0058】
キシログルカンを0.1重量%~10.0重量%濃度で含み、かつ2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを5.0重量%~50.0重量%濃度で含む組成物は、せん断速度0~95秒-1でせん断応力が付加される場合、24時間後の粘度値が3×107~1×103mPa・sであることを特徴とする。
【0059】
キシログルカン及びプロピレングリコールなどの第二級アルコールを同じ濃度で含む比較組成物は、T0において、2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを含む組成物で得られる粘度値よりも低い粘度値を示す。この組成物の粘度値は、24時間後でさえも、2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを含む組成物の粘度値よりも少なくとも一桁低い。キシログルカンを0.1重量%~10.0重量%濃度で含み、かつ2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを5.0重量%~50.0重量%濃度で含む組成物は、活性成分の放出を減速できる他のアルコール又はエステルを含むことができる。このような添加物は、例えば、水又は水不溶性ワックスに可溶な天然又は合成ポリマーであってもよい。これらの化合物は、水溶液中のキシログルカンに対して1:50~10:1の重量比に調整することができる。
【0060】
キシログルカン水溶液を2-(2-エトキシエトキシ)エタノールと混合すると、ゲルが形成される。したがって、2つの溶液は、必要に応じて使用する適切な容器に保存し、キシログルカンと2-(2-エトキシエトキシ)エタノールとを混合して作用部位にゲルを形成することによって調製できる。2つの成分を所望の(目的の)部位に送達するためには、2つの溶液を含み、かつ2つのチャネル(導路)若しくは2つのチャンバー(室)を有するシステム又は医療デバイスを用いて活性成分を放出可能なゲルをこの部位に形成することによって可能となる。水中での溶解度に応じて、活性物質(有効物質)は、キシログルカン水溶液に含めることもでき、2-(2-エトキシエトキシ)エタノールのアルコール溶液(又はアルコール液)に含めることもできる。
【0061】
本発明による組成物の調製方法は、以下の工程を含む:
・0.1重量%~10.0重量%濃度の精製キシログルカン水溶液を調製する工程、得られたキシログルカン溶液を第一級アルコール溶液(又はアルコール液)に添加して、第一級アルコールの濃度を5.0重量%~50.0重量%濃度とする工程
前記方法において、活性成分は、その溶解度に応じて両方の溶液に含まれてもよい。
【0062】
溶液は、使用時、使用前、又は保存されるゲルを調製する段階で混合される。
【0063】
0.1重量%~10.0重量%濃度でキシログルカンと、5.0重量%~50.0重量%濃度で2-(2-エトキシエトキシ)エタノールと、医薬又は栄養成分とを含み、これらの成分が速やかにゲルに含まれるゲル組成物は、これらの成分の安定性に有利であり、起こり得る劣化の問題を回避する。0.1重量%~10.0重量%のキシログルカン及び5.0重量%~50.0重量%の2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを含むゲル組成物は、抗炎症剤、抗真菌剤、抗生物質、模倣(又は擬態)抗生物質、成長因子、消毒剤、抗癌剤、タンパク質、ペプチド、保湿剤及び天然成分又はそれらの混合物を含む群において選択される1以上の医薬活性成分を含むことができる。
【0064】
ゲル組成物は、他の賦形剤とともに処方される場合、保存される際に分解する可能性のあるペプチド、タンパク質及び他の活性成分を放出するのに有用である。
【0065】
投与は、経腸(経口、舌下、直腸)、非経口(皮下、皮内)、経皮経路で行うことができる。前記組成物はまた、経膣的に、経鼻的に、又は口腔咽頭粘膜を介して投与することができる。
【0066】
例えば、この組成物は、例えば、炎症又は感染、傷害、脱水による患部に容易に到達する薬物を投与するのに有用であり得る。前記組成物はまた、例えば、ヒト組換えインターフェロン(rIFN)、rIFNα、rIFNβ及びrIFNγ、G-CSFなどの組換えタンパク質を含んでもよく、ここで、放出は、投与量の全回収を伴う制御された方法で行われる。制御された方法で活性成分を放出する本発明による組成物の能力は、以下に記載されるように、活性成分の一例としてrIFN α2bを使用する実験によって実証された。前記システムによって放出された活性IFNの量は、1、3、5、24及び48時間後に測定された。測定により、5時間後、放出されたIFNの総量は約26%であり、24時間後、放出されたIFNの総量は約60%であり、48時間後、IFNは完全に放出されたことが示された。24時間及び48時間に生じるこのような放出により、より少ない投与で、有効量の活性成分の血漿濃度を常に得ることができる。
【0067】
本発明はまた、本明細書に記載の方法を実現するためのキットを提供する。キットには、適切な包装(packaging)に服用量(一回量)の治療剤が含まれている。
【実施例】
【0068】
実施例
実施例1:2-(2-エトキシエトキシ)エタノールによるキシログルカンゲル形成の測定
0.4重量%、1.0重量%、3.2重量%及び4.0重量%の濃度でキシログルカン水溶液を調製した。
【0069】
キシログルカン溶液は、必要量のキシログルカンを水中で混合し、完全に溶解するまで攪拌下で放置することによって調製された。
【0070】
キシログルカン溶液を、目盛り管内で、表に示した濃度で2-(2-エトキシエトキシ)エタノールと混合した。2つの液体を混合してから10秒未満で、ゲルの形成が観察された。視覚的評価に加えて、溶液の遠心分離後にゲル量を決定し、溶液中のゲルのパーセンテージを評価した。
【0071】
以下の表は、溶液中に存在するキシログルカン、水及び2-(2-エトキシエトキシ)エタノールの成分の相対量と、混合後に形成されたゲルの量とを示す。形成されたゲルのパーセンテージは、溶液の総量に対して得られる。
【0072】
【0073】
実施例2:グリコールプロピレンによるキシログルカンゲル形成の測定(比較例)
キシログルカン水溶液を、0.4重量%、1.0重量%、3.2重量%及び4.0重量%の濃度で調製した。溶液を、表に示した濃度でプロピレングリコールと混合した。キシログルカン溶液は、必要量のキシログルカンを水中で混合し、完全に溶解するまで混合することによって作製された。
【0074】
キシログルカン溶液を、目盛り管内で、表に示した濃度でプロピレングリコールと混合した。視覚的評価に加えて、溶液の遠心分離後にゲル量を決定し、溶液中のゲルのパーセンテージを評価した。
【0075】
以下の表は、溶液中のキシログルカン、水及びプロピレングリコールの成分の相対量と、混合後に形成されたゲルの量とを示す。形成されたゲルのパーセンテージは、溶液の総量に対して得られる。
【0076】
【0077】
実施例3:キシログルカン-2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを含む組成物の係数G’及びG”の測定
3.2%(w/w)濃度のキシログルカン水溶液40mlを10mlの2-(2-エトキシエトキシ)エタノールと混合した。溶液を2つのシリンジに入れ、レオメータープレートに直接押し出して(注出して)分析した。G’及びG”を、50mmのフラットコーンを使用して、37℃の温度に調整されたAntoon Paar MCR101レオメーターによって測定した。G’及びG”の測定を、T0及びT24で実行した。
【0078】
表3は、印加された応力が増大するときの係数G’及びG”の値を示す。
【0079】
【0080】
実施例4:キシログルカン及びプロピレングリコールを含む組成物の貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)の測定(比較例)
この実施例は実施例3と同様に実施され、40mlの3.2%(w/w)キシログルカン水溶液を10mlの2-(2-エトキシエトキシ)エタノールと混合することによって得られた組成物の貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)の値を測定した。
【0081】
表4は、時間T0及び24時間後(T24)に測定された係数G’及びG”の値を示す。
【0082】
【0083】
実施例5:キシログルカン及び2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを含む組成物の粘度の測定
粘度値を、50mmのフラットコーン形状(flat cone geometry)を用いて、Antoon Paar MCR101レオメーターによって得た。この測定は37℃で実行された。表5は、40mlの3.2%(w/w)キシログルカン水溶液を10mlの2-(2-エトキシエトキシ)エタノールと混合することによって得られた組成物のT0及び24時間後での粘度値を報告する。
【0084】
【0085】
実施例6:キシログルカン及びプロピレングリコールを含む組成物の粘度の測定(比較例)
粘度値を、50mmのフラットコーン形状を用いて、Antoon Paar MCR101レオメーターによって得た。この測定は37℃で実行された。
【0086】
表6は、40mlの3.2%(w/w)キシログルカン水溶液を10mlのプロピレングリコールと混合することによって得られた組成物の時間T0及び24時間後での粘度値を報告する。
【0087】
【0088】
実施例7:キシログルカン-2-(2-エトキシエトキシ)エタノールゲルからの組換えインターフェロン(rIFN α2b)の放出の測定
2.6×108IU/mgの割合で組換えIFN α2bを含む溶液を、pH7で4重量%キシログルカン溶液において調製した。単位組成を表7で報告する。
【0089】
【0090】
ゲル中のrIFN α2bの濃度は25,000,000IU/mlであるため、押し出された(注出された)ゲル中には20,000,000IUが存在する。
【0091】
ダブルチャンバー(2室)シリンジにおいて、表7に従ってキシログルカンを含む2mlの溶液を一方のチャネル(導路)に入れ、0.5mlの2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを他方のチャネル(導路)に入れた。シリンジからの押し出し(注出)に続いて、10秒未満で速やかにゲルが形成される。
【0092】
IFNの放出を評価するために、ゲルを2%(w/w)培地(MEM)に載置し、37℃で温度調節して、細胞変性効果(CPE)の生物学的試験によって評価した。
【0093】
【0094】
in vitro放出動態は、IFNが24~48時間の間に完全に放出され、100%回収されることを示す。