IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電力システム 図1
  • 特許-電力システム 図2
  • 特許-電力システム 図3
  • 特許-電力システム 図4
  • 特許-電力システム 図5
  • 特許-電力システム 図6
  • 特許-電力システム 図7
  • 特許-電力システム 図8
  • 特許-電力システム 図9
  • 特許-電力システム 図10
  • 特許-電力システム 図11
  • 特許-電力システム 図12
  • 特許-電力システム 図13
  • 特許-電力システム 図14
  • 特許-電力システム 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】電力システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/00 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
H02M3/00 W
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022001249
(22)【出願日】2022-01-06
(65)【公開番号】P2023100517
(43)【公開日】2023-07-19
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 太斗
(72)【発明者】
【氏名】繁内 宏治
(72)【発明者】
【氏名】石垣 将紀
(72)【発明者】
【氏名】杉本 和大
(72)【発明者】
【氏名】半田 学
(72)【発明者】
【氏名】市田 智士
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-142077(JP,A)
【文献】特表2017-508434(JP,A)
【文献】特開2015-023715(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0308440(US,A1)
【文献】特開2016-208742(JP,A)
【文献】特開2007-060764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00 - 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DCバスラインに並列接続された複数のDC/DCコンバータと、前記DC/DCコンバータの各々を比例積分制御する複数のDC/DCコンバータ制御器と、を備え、
複数の前記DC/DCコンバータ制御器において、実際のDCバスラインの電圧V_busとDCバスラインの電圧目標値V_refとの差分の積分値を共有することで、複数の前記DC/DCコンバータの負荷分担を任意に制御し、
前記積分値を共有するためのアナログ信号バスラインを備え、
複数の前記DC/DCコンバータ制御器は、各々が積分器を備え、前記アナログ信号バスラインによって前記積分値を平均化した平均積分値を共有し、前記平均積分値を用いて積分誤差の修正処理を行うことを特徴とする電力システム。
【請求項2】
DCバスラインに並列接続された複数のDC/DCコンバータと、前記DC/DCコンバータの各々を比例積分制御する複数のDC/DCコンバータ制御器と、を備え、
複数の前記DC/DCコンバータ制御器において、実際のDCバスラインの電圧V_busとDCバスラインの電圧目標値V_refとの差分の積分値を共有することで、複数の前記DC/DCコンバータの負荷分担を任意に制御し、
前記積分値を共有するための有線方式又は無線方式の通信ラインを備え、
複数の前記DC/DCコンバータ制御器で求められた前記積分値を平均化した平均積分値を求めて前記通信ラインに対して出力する積分値平均計算機を備え、
複数の前記DC/DCコンバータ制御器は、各々が積分器を備え、前記通信ラインによって前記平均積分値を共有し、前記平均積分値を用いて積分誤差の修正処理を行うことを特徴とする電力システム。
【請求項3】
DCバスラインに並列接続された複数のDC/DCコンバータと、前記DC/DCコンバータの各々を比例積分制御する複数のDC/DCコンバータ制御器と、を備え、
複数の前記DC/DCコンバータ制御器において、実際のDCバスラインの電圧V_busとDCバスラインの電圧目標値V_refとの差分の積分値を共有することで、複数の前記DC/DCコンバータの負荷分担を任意に制御し、
アナログ信号バスラインを用いて前記積分値を平均化した平均積分値を共有し、当該平均積分値を用いて積分誤差の修正処理を行う第1制御手段と、
通信ラインを用いて前記積分値を平均化した平均積分値を共有し、当該平均積分値を用いて積分誤差の修正処理を行う第2制御手段と、
を備え、
前記第1制御手段と前記第2制御手段のいずれか一方が失陥した場合に他方によって制御を行うことを特徴とする電力システム。
【請求項4】
DCバスラインに並列接続された複数のDC/DCコンバータと、前記DC/DCコンバータの各々を比例積分制御する複数のDC/DCコンバータ制御器と、を備え、
複数の前記DC/DCコンバータ制御器において、実際のDCバスラインの電圧V_busとDCバスラインの電圧目標値V_refとの差分の積分値を共有することで、複数の前記DC/DCコンバータの負荷分担を任意に制御し、
前記積分値の共有機能が失陥した場合、複数の前記DC/DCコンバータ制御器における積分制御を停止することを特徴とする電力システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数台の電池を用いた電力システムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数台の電池が接続された直流バスラインにおける電流・電力のバランスを自律分散的に制御する方法が開示されている(特許文献1、特許文献2)。具体的には、制御目標状態量の指令値と当該状態量のフィードバック値との差を積分する要素がない閉ループ制御系において、指令値がフィードバック値より一定の量だけ大きく、差が残った状態で整定するドループ制御が適用されている。ドループ制御では、制御対象において特性や負荷の変動がある場合に動作点が変動し、制御を安定化させることができるという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-141761号公報
【文献】特開2020-22331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ドループ制御は、定常的な電圧偏差が生ずる制御であるため、DC/DCコンバータの電力変換効率が最大となる条件下において定常動作させることができなかった。また、従来のドループ制御では、安定性に加えてオーバーシュート、アンダーシュート電圧を含めて上下限電圧範囲を守ることや検出可能なレベル以上の電圧偏差が必要という制約があり、制御系の設計が複雑化するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様は、DCバスラインに並列接続された複数のDC/DCコンバータと、前記DC/DCコンバータの各々を比例積分制御する複数のDC/DCコンバータ制御器と、を備え、複数の前記DC/DCコンバータ制御器において、実際のDCバスラインの電圧V_busとDCバスラインの電圧目標値V_refとの差分の積分値を共有することで、複数の前記DC/DCコンバータの負荷分担を任意に制御することを特徴とする電力システムである。
【0006】
ここで、前記積分値を共有するためのアナログ信号バスラインを備えることが好適である。
【0007】
また、複数の前記DC/DCコンバータ制御器に共有に設けられた単体の積分値計算機であって、前記積分値を求めて前記アナログ信号バスラインに対して出力する積分値計算機を備えることが好適である。
【0008】
また、複数の前記DC/DCコンバータ制御器は、各々が積分器を備え、前記アナログ信号バスラインによって前記積分値を平均化した平均積分値を共有し、前記平均積分値を用いて積分誤差の修正処理を行うことが好適である。
【0009】
また、前記積分値を共有するための有線方式又は無線方式の通信ラインを備えることが好適である。
【0010】
また、複数の前記DC/DCコンバータ制御器で求められた前記積分値を平均化した平均積分値を求めて前記通信ラインに対して出力する積分値平均計算機を備え、複数の前記DC/DCコンバータ制御器は、各々が積分器を備え、前記通信ラインによって前記平均積分値を共有し、前記平均積分値を用いて積分誤差の修正処理を行うことが好適である。
【0011】
また、アナログ信号バスラインを用いて前記積分値を平均化した平均積分値を共有し、当該平均積分値を用いて積分誤差の修正処理を行う第1制御手段と、通信ラインを用いて前記積分値を平均化した平均積分値を共有し、当該平均積分値を用いて積分誤差の修正処理を行う第2制御手段と、を備え、前記第1制御手段と前記第2制御手段のいずれか一方が失陥した場合に他方によって制御を行うことが好適である。
【0012】
また、前記積分値の共有機能が失陥した場合、複数の前記DC/DCコンバータ制御器における積分制御を停止することが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電力システムによれば、直流ラインの電圧偏差がない状態において負荷分担が可能となり、DC/DCコンバータの電力変換効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一般的な電力システムの構成を示す図である。
図2】一般的な電力システムに対するシミュレーション結果を示す図である。
図3】第1の実施の形態における電力システムの基本構成を示す図である。
図4】第1の実施の形態における電力システムの具体的な構成例を示す図である。
図5】第1の実施の形態における電力システムのシミュレーションのための構成を示す図である。
図6】第1の実施の形態における電力システムのシミュレーションの結果を示す図である。
図7】第2の実施の形態における電力システムの具体的な構成例を示す図である。
図8】第2の実施の形態における電力システムのシミュレーションのための構成を示す図である。
図9】第2の実施の形態における電力システムのシミュレーションの結果を示す図である。
図10】第3の実施の形態における電力システムの具体的な構成例を示す図である。
図11】第3の実施の形態における電力システムのシミュレーションのための構成を示す図である。
図12】第3の実施の形態における電力システムのシミュレーションの結果を示す図である。
図13】本発明の実施の形態における積分値を平均積分値に補正する構成の変形例を示す図である。
図14】本発明の実施の形態における電力システムの制御例を示すフローチャートである。
図15】本発明の実施の形態における電力システムにおいて積分制御を停止し、比例制御のみ行った場合のシミュレーションの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[一般的な電力システムの構成]
図1は、一般的なPI制御を行う2台のDC/DCコンバータと分散型電源として太陽光発電機(PV)が接続された電力システム100を示す。電力システム100は、DC/DCコンバータ10(10a,10b)、DC/DCコンバータ制御器12(12a,12b)、PV14及び最大電力点追従(MPPT)付DC/DCコンバータ16を含んで構成される。
【0016】
DC/DCコンバータ10は、接続された直流電源の電圧を変換してDCバスラインに供給する。DC/DCコンバータ制御器12は、DCバスラインの電圧を目標値V_refに近づけるために、DCバスラインの電圧V_busをセンシングし、各DC/DCコンバータ10(10a,10b)の電流出力I_DC/DC(I_DC/DC1,I_DC/DC2)を制御する比例積分制御器(PI制御器)を含む。すなわち、実際のDCバスラインの電圧V_busとDCバスラインの電圧目標値V_refとの差分に対して、ゲインKの比例出力とゲインK’の積分出力とを加算してDC/DCコンバータ10の電流出力I_DC/DCを制御する。
【0017】
理想的には、電力システム100は、DCバスラインの電圧V_busが定常で一定であり、各DC/DCコンバータ10において所望の電流負荷分担が実現する。しかしながら、実際には、各DC/DCコンバータ10におけるDCバスラインの電圧V_busの測定誤差に起因して負荷分担に偏りが生じる。
【0018】
図2は、DC/DCコンバータ10bにおいて電圧測定誤差V_errorが生じる場合の各DC/DCコンバータ10の出力電圧及び出力電流のシミュレーション結果を示す。シミュレーションでは、電圧測定誤差V_errorとして-0.2Vを与えた。また、その他のパラメータとして、DC/DCコンバータ制御器12の比例制御のゲインはそれぞれK_1=0.5、K_2=1.0に設定し、積分制御のゲインはそれぞれK’_1=1.0、K’_2=2.0に設定した。また、電力システム100の初期電圧は360Vとした。
【0019】
PV14の模擬電流として、時刻t=5.0秒で電流が0Aから線形に立ち上がり時刻t=5.5秒で最大値に至り、時刻t=9.5秒で電流が線形に減少し始め、時刻t=10.0秒で0Aに至る電流I_PVを与えた。
【0020】
図2に示すように、各DC/DCコンバータ10に対してそれぞれ設けられたDC/DCコンバータ制御器12の積分計算ブロックにおいて電圧測定誤差V_errorを含むDCバスラインの測定電圧と目標値V_refが積算されることで、DC/DCコンバータ10の電流が発散し、所望の電流分配比を実現できなかった。
【0021】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態における電力システム200は、図3に示すように、複数のDC/DCコンバータ10に対して共通の積分値計算機20を設け、それぞれのDC/DCコンバータ制御器22(22a,22b・・・22n)へ入力する構成とする。
【0022】
積分値計算機20は、実際のDCバスラインの電圧V_busとDCバスラインの電圧を目標値V_refとの差分を所定の期間に亘って時間積分した積分値を出力する。DC/DCコンバータ制御器22は、積分値計算機20から受信した積分値をゲインK’で比例処理すると共に、実際のDCバスラインの電圧V_busとDCバスラインの電圧を目標値V_refとの差分をゲインKで比例処理し、これらの値を加算してDC/DCコンバータ10の電流出力I_DC/DCを制御する。
【0023】
このように、共通の積分値を利用して複数のDC/DCコンバータ10に対してDC/DCコンバータ制御器22によって比例積分制御(PI制御)を行うことで任意の負荷分担が実現できる。定常時の電流分配比は、各DC/DCコンバータ制御器22(22a,22b・・・22n)に設定されたゲインの比K_1’:K_2’:…:K_n’となる。また、電圧が変動する過渡変動時の電流分配比は、各DC/DCコンバータ制御器22(22a,22b・・・22n)に設定されたゲインの比K_1:K_2:…:K_nとなる。したがって、各DC/DCコンバータ10の定常時及び過渡時の電流分配比を任意に設定することができる。
【0024】
例えば、低容量で出力の大きい蓄電池(リチウムイオン電池など)を用いた場合、積分制御のゲインを低く、比例制御のゲインを大きくとることで、定常での充放電電力は小さく、過渡時の負荷分担を大きくとることができる。逆に、高容量で、出力の小さい電池(NAS電池など)を用いた場合、積分制御のゲインを高く、比例制御のゲインを小さくとることで、定常での充放電電力を大きく、過渡時の負荷分担を小さくすることができる。
【0025】
なお、上位の制御コントローラ(図示しない)を設けて、当該制御コントローラからDC/DCコンバータ制御器22に対して負荷分担率や電流オフセット値を設定するようにしてもよい。下記の他の実施の形態や変形例においても同様である。
【0026】
図4は、第1の実施の形態における電力システム200の具体的な構成例を示す。電力システム200は、DC/DCコンバータ10(10a,10b・・・10n)、積分値計算機20、DC/DCコンバータ制御器22(22a,22b・・・22n)、PV14、MPPT付DC/DCコンバータ16、交流電源(商用電源)24及びAC/DCコンバータ26を含んで構成される。電力システム200では、共通のDCバスラインに複数のDC/DCコンバータ10が接続されており、DC/DCコンバータ10のもう一端には蓄電池やEVなどの負荷が接続されている。また、AC/DCコンバータ26を介して交流電源24と接続されたり、PV14などの分散型電源が接続されたりしてもよい。
【0027】
電力システム200では、電圧センサの測定誤差による積分値の誤差をなくすため、積分値計算機20で求められた共通の積分値を複数のDC/DCコンバータ制御器22で共有するための信号バスラインが設けられている。信号バスは、アナログ信号バスラインとしてもよいし、通信バスラインとしてもよい。
【0028】
図5に示すように、2台のDC/DCコンバータ10及びDC/DCコンバータ制御器22並びにPV14を模擬した分散型電源から構成される電力システム200のモデルでシミュレーションを行った。DC/DCコンバータ10bにおける電圧測定誤差V_error、各DC/DCコンバータ制御器22におけるゲイン、PV14の電流I_PVは、図1に示した電力システム100に対するシミュレーションと同じ条件とした。
【0029】
図6は、電力システム200に対するシミュレーションの結果を示す。PV14の電流I_PVの変化に伴って、DCバスラインの電圧V_busは変化するが、共通の積分値計算機20を用いた積分制御により元の電圧に戻すことができた。また、DC/DCコンバータ10(10a,10b)の出力の定常的な電流分配比I_DC/DC1:I_DC/DC2は、DC/DCコンバータ制御器22(22a,22b)の積分制御のゲインK_1:K_2と等しくなった。
【0030】
このように、第1の実施形態における電力システム200によれば、DCバスラインの電圧偏差が無い状態において複数のDC/DCコンバータ10において設定した分配比で負荷分担することができる。これによって、DC/DCコンバータ10の電力変換効率を向上させることができる。また、DCバスラインの制御系の設計が容易になる。
【0031】
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態における電力システム200では、積分値の計算に1つの積分値計算機20を用いるが、積分値計算機20の故障によってシステムが止まってしまう等の課題がある。
【0032】
第2の実施の形態における電力システム202は、図7に示すように、単体の積分値計算機20を適用せず、アナログ信号ラインを利用してDCバスラインの電圧の目標値V_refと実際のDCバスラインの電圧V_busの差分の積分値を求める構成を採用している。
【0033】
電力システム202は、DC/DCコンバータ10(10a,10b・・・10n)の各々に対してDC/DCコンバータ制御器28(28a,28b・・・28n)を備えている。各DC/DCコンバータ制御器28は、DCバスラインの電圧の目標値V_refと実際のDCバスラインの電圧V_busの差分ΔVの積分値ΔV/sを求め、当該積分値ΔV/sを抵抗Rを介してアナログ信号バスラインに出力する。これによって、アナログ信号バスラインの電圧値は、各DC/DCコンバータ制御器28で算出されたDCバスラインの電圧の目標値V_refと実際のDCバスラインの電圧V_busの差分の積分値の平均値ΔVave/sと等しくなる。各DC/DCコンバータ制御器28の積分値ΔV/sと当該平均積分値ΔVave/sの差分値がゲインKpで比例処理された後にDC/DCコンバータ制御器28の積分器にフィードバックされる。これによって、各DC/DCコンバータ制御器28で算出される積分値ΔV/sが平均積分値ΔVave/sに近づくように補正される。
【0034】
DC/DCコンバータ制御器28は、積分値ΔV/sをゲインK’で比例処理すると共に、実際のDCバスラインの電圧V_busとDCバスラインの電圧を目標値V_refとの差分ΔVをゲインKで比例処理し、これらの値を加算してDC/DCコンバータ10の電流出力I_DC/DCを制御する。
【0035】
このように、すべてのDC/DCコンバータ制御器28の積分値ΔV/sは、補正誤差を無視するとほぼ等しい値となる。したがって、電力システム202は、電力システム200と同等の動作を分散型のシステムとして実現できる。
【0036】
図8に示すように、2台のDC/DCコンバータ10及びDC/DCコンバータ制御器28並びにPV14を模擬した分散型電源から構成される電力システム202のモデルでシミュレーションを行った。DC/DCコンバータ10bにおける電圧測定誤差V_error、各DC/DCコンバータ制御器28におけるゲイン、PV14の電流I_PVは、図1に示した電力システム100に対するシミュレーションと同じ条件とした。フィードバックのためのゲインK_p1、K_p2は1とした。
【0037】
図9は、電力システム202に対するシミュレーションの結果を示す。DCバスラインの電圧V_busは、電流I_PVの変化に伴って変化するが、DC/DCコンバータ制御器28における積分制御により元の電圧に戻ることが確認できた。また、定常的な電流分配比であるI_DC/DC1:I_DC/DC2は、各DC/DCコンバータ制御器28の積分制御のゲイン比K’_1:K’_2と等しくなった。このように、電力システム202が所望の動作を行うことを確認できた。
【0038】
特に、共通の積分値計算機20を設けることなく、各DC/DCコンバータ制御器28において分散処理させることによって、DCバスラインの電圧の目標値V_refと実際のDCバスラインの電圧V_busの差分の積分値のフィードバックの遅延を抑制することができる。したがって、共通の積分値計算機20を用いる場合に比べて制御が滑らかになり、時間的に制御が安定化する。
【0039】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態における電力システム204は、図10に示すように、単体の積分値計算機20を適用せず、通信ラインを利用してDCバスラインの電圧の目標値V_refと実際のDCバスラインの電圧V_busの差分の積分値を求める構成を採用している。電力システム204は、DC/DCコンバータ10(10a,10b・・・10n)の各々に対してDC/DCコンバータ制御器30(30a,30b・・・30n)を備えている。また、電力システム204では、各DC/DCコンバータ制御器30によって算出されたDCバスラインの電圧の目標値V_refと実際のDCバスラインの電圧V_busの差分の積分値ΔV/sの平均値ΔVave/sを求めるための積分値平均計算機32が設けられている。
【0040】
各DC/DCコンバータ制御器30は、DCバスラインの電圧の目標値V_refと実際のDCバスラインの電圧V_busの差分ΔVの積分値ΔV/sを求め、当該積分値ΔV/sを通信ラインに出力する。積分値平均計算機32は、通信ラインから各DC/DCコンバータ制御器30において算出された積分値ΔV/sを受信し、これらの平均値ΔVave/sを算出して通信ラインに出力する。各DC/DCコンバータ制御器30の積分値ΔV/sと当該平均積分値ΔVave/sの差分値がゲインKpで比例処理された後にDC/DCコンバータ制御器30の積分器にフィードバックされる。これによって、各DC/DCコンバータ制御器30で算出される積分値ΔV/sが平均積分値ΔVave/sに近づくように補正される。
【0041】
DC/DCコンバータ制御器30は、積分値ΔV/sをゲインK’で比例処理すると共に、実際のDCバスラインの電圧V_busとDCバスラインの電圧を目標値V_refとの差分ΔVをゲインKで比例処理し、これらの値を加算してDC/DCコンバータ10の電流出力I_DC/DCを制御する。
【0042】
このように、すべてのDC/DCコンバータ制御器30の積分値ΔV/sは、補正誤差を無視するとほぼ等しい値となる。したがって、電力システム204は、電力システム200と同等の動作を分散型のシステムとして実現できる。
【0043】
図11に示すように、2台のDC/DCコンバータ10及びDC/DCコンバータ制御器30並びにPV14を模擬した分散型電源から構成される電力システム204のモデルでシミュレーションを行った。DC/DCコンバータ10bにおける電圧測定誤差V_error、各DC/DCコンバータ制御器30におけるゲイン、PV14の電流I_PVは、図1に示した電力システム100に対するシミュレーションと同じ条件とした。フィードバックのためのゲインK_p1、K_p2は1とした。また、積分値平均計算機32によって算出される積分値の平均値ΔVave/sは0.5秒ごとに共有されて積分誤差の補正を行った。
【0044】
図12は、電力システム204に対するシミュレーションの結果を示す。DCバスラインの電圧V_busは、電流I_PVの変化に伴って変化するが、DC/DCコンバータ制御器30における積分制御により元の電圧に戻ることが確認できた。また、定常的な電流分配比であるI_DC/DC1:I_DC/DC2は、各DC/DCコンバータ制御器30の積分制御のゲイン比K’_1:K’_2と等しくなった。このように、電力システム204が所望の動作を行うことを確認できた。
【0045】
特に、共通の積分値計算機20を設けることなく、各DC/DCコンバータ制御器30において分散処理させることによって、DCバスラインの電圧の目標値V_refと実際のDCバスラインの電圧V_busの差分の積分値のフィードバックの遅延を抑制することができる。したがって、共通の積分値計算機20を用いる場合に比べて制御が滑らかになり、時間的に制御が安定化する。
【0046】
なお、本実施の形態では、通信ラインを有線方式とした例を示したが、通信ラインを無線方式としてもよい。
【0047】
[他の変形例]
図13は、積分値を平均積分値に補正する構成についての変形例を示す。図13(a)の構成では、図7の電力システム202や図10の電力システム204と同様に平均積分値ΔVave/sと計算した積分値ΔV/sの差分に応じてゲインKpの比例制御を行う構成としている。この場合、定常偏差が生じる。図13(b)の構成では、平均積分値ΔVave/sと計算した積分値V/sの差分に対してゲインKpの比例及びゲインKiの積分制御を行う構成としている。この場合、定常偏差が生じない。
【0048】
また、図13(c)の構成では、平均積分値ΔVave/sと計算した積分値ΔV/sの差分に対して一般的なコントローラCを適用した構成としている。コントローラCは、平均積分値ΔVave/sと計算した積分値ΔV/sの差分が小さくなるような演算を施すものであればよい。また、図13(d)の構成では、積分値ΔV/sが平均積分値ΔVave/sとなるようにリフレッシュ処理を行う構成としている。リフレッシュ処理の周期は、電力システムが安定に動作する程度の時間に適宜設定すればよい。
【0049】
また、電力システム202のようなアナログ信号バスラインと電力システム204のような通信ラインの両方を備える構成としてもよい。このように積分値の共有手段を複数備えるシステムでは、いずれか一方の共有手段が故障したとしても他方の共有手段を用いることによって、充放電を安定的に行うことができる。
【0050】
図14は、積分値の共有手段を複数備えるシステムにおける制御例のフローチャートを示す。図14の例では、アナログ信号バスラインによる制御をデジタル通信ラインによる制御より優先するように順位付けした処理とした。
【0051】
まず、アナログ信号バスラインを用いた積分制御が健全であるか否かが判定される(ステップS10)。アナログ信号バスラインを用いた積分制御が健全であれば(ステップS10で「はい」)、アナログ信号バスラインを用いて積分値を共有して制御を行う(ステップS12)。アナログ信号バスラインを用いた積分制御が健全でなければ(ステップS10で「いいえ」)、通信ラインを用いた積分制御が健全であるか否かが判定される(ステップS14)。通信ラインを用いた積分制御が健全であれば(ステップS14で「はい」)、通信ラインを用いて積分値を共有して制御を行う(ステップS16)。通信ラインを用いた積分制御が健全でなければ(ステップS14で「いいえ」)、積分制御を停止して比例制御のみを行う(ステップS18)。
【0052】
このように、積分値を共有する手段に順位をつけ、最も高い順位の手段が失陥した場合にはより下位の手段に変更する制御を行う。また、すべての手段が失陥した場合、積分制御を停止し、比例制御のみで任意の負荷分担を行う。これによって、積分値の共有が行えなくなった場合であっても電力システム全体の運転を継続することが可能となる。
【0053】
図15は、2台のDC/DCコンバータ及びDC/DCコンバータ制御器並びにPVを模擬した分散型電源から構成される電力システムにおいて、積分値の共有ができなくなった場合に測定したDCバスラインの電圧V_busとDCバスラインの電圧を目標値V_refの差分により比例制御のみを行った場合のシミュレーション結果を示す。
【0054】
電圧測定誤差V_error、各DC/DCコンバータ制御器におけるゲイン、PVの電流I_PVは、図1に示した電力システム100に対するシミュレーションと同じ条件とした。DC/DCコンバータの一方のバスライン電圧は誤差を含むため、電流分配比に若干の差は生じたが、2台のDC/DCコンバータの電流分配比I_DC/DC1:I_DC/DC2はおよそゲインの比K_1:K_2となった。このように、所望の電流分配比を実現できることが確認できた。
【0055】
以上のように、共有している積分値に対して各DC/DCコンバータ制御器において各々のゲインとの積を取って電流出力とすることにより、ゲインの比率を各DC/DCコンバータの電流の比率と一致させることができる。これによって、DCバスラインの電圧偏差がない状態において負荷分担が可能となる。
【0056】
また、DC/DCコンバータの電力効率の高い電圧とDCバスラインの電圧を一致させることができるため、DC/DCコンバータの電力変換効率を向上させることができる。
【0057】
また、従来のDCドループ制御では、安定性に加えオーバーシュート、アンダーシュート電圧を含めた上下限電圧範囲を守ることや検出可能なレベル以上の電圧偏差が必要という制約のために制御系の設計が複雑であった。これに対して、本発明では、安定性と過渡特性を保証するだけでよく、DCバスラインの制御系の設計が容易となる。
【0058】
アナログ信号バスラインと有線方式又は無線方式の通信ラインを用いて2重の冗長性を持たせることで、電力システムにおける制御を安定化させることができる。さらに、積分制御を停止しても、電圧偏差のみに基づく比例制御によって電力バランスを保つ制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0059】
10 DC/DCコンバータ、12 DC/DCコンバータ制御器、14 PV、16 MPPT付DC/DCコンバータ、20 積分値計算機、22 DC/DCコンバータ制御器、24 交流電源(商用電源)、26 AC/DCコンバータ、28 DC/DCコンバータ制御器、30 DC/DCコンバータ制御器、32 積分値平均計算機、100,200,202,204 電力システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15