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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】エンジン発電システム制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/08 20060101AFI20241210BHJP
   F02D 19/10 20060101ALI20241210BHJP
   F02D 19/06 20060101ALI20241210BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20241210BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20241210BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20241210BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
F02D19/08 C
F02D19/10
F02D19/06
F02D19/02 B
F02D45/00 345
F02D29/06 A
F02D29/06 Q
F02M21/02 301Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022007593
(22)【出願日】2022-01-21
(65)【公開番号】P2023106703
(43)【公開日】2023-08-02
【審査請求日】2024-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】熊野 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】島田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 暁史
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-8800(JP,A)
【文献】特表2017-522219(JP,A)
【文献】特開2018-204594(JP,A)
【文献】特開平10-309099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/08
F02D 19/10
F02D 19/06
F02D 19/02
F02D 45/00
F02D 29/06
F02M 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二種類以上の燃料を供給されて混焼が可能な複数のエンジンにより発電を行う発電システムに適用されるエンジン発電システム制御装置であって、
各エンジンの現在の状態を検知するエンジン状態検出手段を備え、前記エンジン状態検出手段により検出された各エンジン状態の比較結果に基づいて、各エンジンの少なくとも一種類の燃料供給量を制御することを特徴とするエンジン発電システム制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン発電システム制御装置であって、
前記エンジン状態検出手段は、各エンジンの劣化度を検出することを特徴とするエンジン発電システム制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジン発電システム制御装置であって、
前記エンジン状態検出手段は、各エンジンの温度を検出することを特徴とするエンジン発電システム制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載のエンジン発電システム制御装置であって、
前記エンジン状態検出手段により検出された各エンジンの劣化度によって、各エンジンに供給する二種類以上の燃料量の割合を制御することを特徴とするエンジン発電システム制御装置。
【請求項5】
請求項2に記載のエンジン発電システム制御装置であって、
供給する燃料の一つが水素であり、前記エンジン状態検出手段により検出されたエンジンの劣化度が高いエンジンほど、総供給燃料量にしめる水素量の割合を低く設定することを特徴とするエンジン発電システム制御装置。
【請求項6】
請求項2に記載のエンジン発電システム制御装置であって、
前記エンジン状態検出手段は、前記エンジンの稼働時間、シリンダ内圧力、回転速度、点火信号のうち少なくとも一つからエンジン劣化度を検出することを特徴とするエンジン発電システム制御装置。
【請求項7】
請求項3に記載のエンジン発電システム制御装置であって、
前記エンジンの温度とは、各エンジンの排気管に備えられた排気浄化用触媒の温度であり、前記排気浄化用触媒の温度が、所定温度以上であるエンジンを優先して起動すること、を特徴とするエンジン発電システム制御装置。
【請求項8】
請求項2に記載のエンジン発電システム制御装置であって、
前記発電システムは、水素を含む二種類以上の燃料を供給可能な複数のエンジンから構成され、
各エンジンの水素燃料適応性を評価する水素適応性評価手段を備え、前記水素適応性評価手段から得られた各エンジンの水素適応度が高いエンジンほど、総供給燃料量にしめる水素量の割合を高く設定することを特徴とするエンジン発電システム制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載のエンジン発電システム制御装置であって、
前記水素適応性評価手段は、前記エンジンの燃料供給方法、前記エンジンの圧縮比、前記エンジンの排気量、から水素適応度を決定することを特徴とするエンジン発電システム制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生可能エネルギー由来燃料に対応したエンジン発電システム制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーの脱炭素化に向けて、再生可能エネルギーの拡大が進むに伴い、その電力変動に対応するために水素などの再生可能エネルギー由来燃料(以下、RE燃料という)を用いた調整用発電システムの重要性が増している。
【0003】
大規模ガス火力発電は調整電力として活用可能である一方で、その出力調整幅が定格運転の30%から100%の範囲に限られており、十分な調整力にはならない。また、設備設置場所が固定されるため、電力線増強が必要となり、設備コストが大きくなる。更に、大規模火力発電は利用する燃料の調達範囲が限定されるので、地域に遍在するRE燃料を有効活用することが難しい。
【0004】
RE燃料に対応したエンジン発電機を活用した分散発電システムは、地域に遍在するRE燃料を活用しながら再生可能エネルギーの変動に対応可能なシステムとして有望である。特に既存の自動車用エンジンや産業用エンジンなど量産エンジンを活用し、それらを複数組み合わせて定置式発電システムとして用いることにより、初期の設備コストを最小化することが可能である。
【0005】
係るエンジン発電システム制御装置に関して、特許文献1が知られている。特許文献1には、「水素エンジンと、上記水素エンジンの運転状態に応じて、該水素エンジンから排出されるNOx排出量が0近傍でかつ燃費効率が最適点近傍である空燃比となるように目標燃料供給量を決定する供給量決定手段と、上記供給量決定手段によって決定された目標燃料供給量に基づいて、上記水素エンジンに水素燃料を供給する燃料供給手段と、上記NOx排出量を検出するNOx検出手段と、所定の実行条件下において、上記NOx検出手段の検出値に基づいて上記燃料供給手段の劣化判定を行う劣化判定手段と、を備え、上記劣化判定手段は、上記供給量決定手段によって決定された目標燃料供給量に対し予め設定された追加量を加えた劣化判定用供給量を設定して、上記燃料供給手段に対し該劣化判定用供給量に基づく水素燃料供給を実行させると共に、その劣化判定用供給量に基づく水素燃料供給によって上記NOx排出量が所定値以上となったときに、上記燃料供給手段が劣化していると判定する水素燃料供給装置」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-250056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既存の自動車用エンジンもしくは産業用エンジンを、水素などRE燃料に対応した定置式発電に活用すると、ガソリンなど従来燃料を利用する場合と比較して、故障や劣化が発生しやすい。複数のエンジンを活用した発電モジュールにおいては、異なる使用状態もしくはエンジン仕様・性能のエンジンから構成されているため、水素などRE燃料を活用(RE燃料の専焼もしくは従来燃料とRE燃料との混焼)した際に、一部のエンジンから排気悪化や異常燃焼などなどの不具合が発生し、メンテナンスのため発電システムの稼働率が低下するという課題がある。
【0008】
この点に関して、特許文献1に記載の技術では、燃料噴射装置以外のエンジン部品の故障や劣化への対応が困難であるとともに、複数エンジンを活用した発電機システムにおけるエンジン劣化や排気悪化抑制のための方策については考慮されていない。
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みて成されたものであり、RE燃料を供給可能な複数のエンジンから構成される発電システムにおいて、排気悪化抑制および稼働率向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のことから本発明においては、「二種類以上の燃料を供給されて混焼が可能な複数のエンジンにより発電を行う発電システムに適用されるエンジン発電システム制御装置であって、各エンジンの現在の状態を検知するエンジン手段を備え、エンジン状態検出手段により検出された各エンジン状態の比較結果に基づいて、各エンジンの少なくとも一種類の燃料供給量を制御することを特徴とするエンジン発電システム制御装置。」としたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数のエンジンを駆動する際に、劣化を含む各エンジンの状態に応じて、水素などRE燃料の供給量を調整することが可能であるため、特定のエンジンからの排気悪化や異常燃焼を回避するとともに、各エンジンの劣化状態を調整することで発電システムのメンテナンス時期を延ばし、稼働率を向上することが可能である。
【0012】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1に係る発電システム制御装置を、水素とガソリンを燃料とする複数のエンジン発電機からなる発電システムに適用した例を示す概略構成図。
図2】実施例1に係る発電システム制御装置のハードウェア構成例を示すブロック図。
図3】本発明の実施例1に係るエンジン構成の一例を示す図。
図4】本発明の実施例1に係るエンジン構成の別の例を示す図。
図5】本発明の実施例1に係る水素混焼割合と燃焼圧力の関係を示す図。
図6】本発明の実施例1に係る水素混焼割合と最大筒内圧力、NOx排出量、エンジン劣化進行速度の関係を示す図。
図7】本発明の実施例1に係る劣化時の最大筒内圧力およびNOx排出量の変化を示す図。
図8】本発明の実施例1に係るエンジン発電機制御の例を示すフローチャート。
図9】本発明の実施例1に係るエンジンの劣化度、水素耐性と水素割合設定値の関係を説明する図。
図10】本発明の実施例1に係るエンジンの劣化度のタイムチャートを示す図。
図11】本発明の実施例2に係るエンジンの触媒温度と劣化度の一例を示す図。
図12】本発明の実施例2に係るエンジン発電機制御の例を示すフローチャート。
図13】本発明の実施例2に係るエンジン発電機制御の例を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0015】
なお本発明において行われる混合燃焼の少なくとも一方の燃料は再生可能エネルギー由来燃料(以下、RE燃料という)であり、以下の実施例では水素を取り上げている。また混合燃焼の他方の燃料として実施例ではガソリンを例示しているが、軽油、或は天然ガス(液化天然ガスや圧縮天然ガス)であってもよい。この組み合わせは、適宜に選定することができる。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の実施例1に係る発電システム制御装置を、水素とガソリンを燃料とする複数のエンジン発電機からなる発電システムに適用した例を示す概略構成図である。
【0017】
発電システム100は、エンジン11、発電機12、電力変換器13から構成される発電モジュールGMを複数組並列接続(GM1~GMn)して構成され、エンジン11には各エンジンを制御するための電子制御装置(ECU)15を備えている。エンジン11は、水素供給装置14を介して水素生成装置2に接続され、水素燃料を供給可能とされている。また図示していないがガソリンタンクに接続され、ガソリンを供給可能とされていることで、水素燃料、ガソリン、あるいは水素とガソリンの混合燃料により燃焼可能とされている。これら発電モジュールGMの出力は、負荷側機器3と電気的に接続されている。
【0018】
なお本発明に適用可能な発電モジュールGMの最小の構成としては、エンジン11と発電機12を備える必要があり、負荷が交流負荷であるか、直流負荷であるかにより、適宜電力変換器13を備えればよい。また発電機12は交流発電機、直流発電機のいずれであってもよい。
【0019】
発電システム制御装置1は、発電システム100に搭載される。発電システム制御装置1は、負荷側機器3からの負荷情報Sg1により発電システムの要求負荷を演算する。さらに水素生成装置2から供給可能水素量情報Sg2を受け取る。さらにエンジン11から、各エンジンのセンサやアクチュエータの情報(エンジン状態)Sg3を受け取る。発電システム制御装置1は、これらの情報(Sg1、Sg2、Sg3)に基づき、各エンジン11のECU15にエンジン要求出力や駆動有無の指令(以下単に要求出力という)Sd1を送るとともに、所望の水素供給量(水素供給目標量)Sd2を実現するように各水素供給装置14を制御する。
【0020】
ECU15は、発電システム制御装置1からの要求出力Sd1に基づいてエンジン11の出力を制御する。具体的には、ECU15は、ガソリン燃料噴射部、点火部、スロットルバルブ、スタータの制御を実施する。エンジン11は、例えば火花点火式燃焼を用いる4気筒エンジンであり、内燃機関の一例である。エンジン11の駆動力により発電機12は所望の電力負荷を実現するよう発電する。電力変換器13により、発電機12により発生した電力の電圧や位相を調整し負荷側機器に電力を供給する。
【0021】
次に、実施例1に係る発電システム制御装置1の内部構成例について説明する。図2は、発電システム制御装置1のハードウェア構成例を示すブロック図である。なお発電システム制御装置1は、計算機装置を用いて構成されている。
【0022】
図2において、発電システム制御装置1の入力回路1aには、負荷側機器3、水素生成装置2、ECU15からそれぞれ出力された要求負荷Sg1、供給可能水素量Sg2、エンジン状態Sg3が入力される。ただし、入力信号は、これらに限られるものではない。入力回路1aに入力された各信号は、入出力ポート1b内の入力ポート(不図示)に送られる。入力ポートに送られた値は、RAM(1c)に保管され、CPU(1e)で演算処理される。演算処理の内容を記述した制御プログラムは、ROM(1d)に予め書き込まれている。
【0023】
制御プログラムに従って演算された制御対象(エンジン11、水素供給装置14等)の作動量を示す値は、RAM(1c)に保管された後、入出力ポート1b内の出力ポート(不図示)に送られ、各出力部(エンジントルク制御出力部1f、水素供給量制御出力部1g)を経て各装置(ECU15、水素供給装置14)に、要求出力Sd1、所望の水素供給量(水素供給目標量)Sd2として送られる。なお図2では、発電システム制御装置1に対し、各エンジンの制御装置(ECU15)を別に設けたが、この形態に限定されるものではなく、各装置の制御装置に該当する機能部を発電システム制御装置1内に備えてもよい。
【0024】
図3は、実施例1に係るエンジン11の構成の一例を示す図である。エンジン11は、火花点火式燃焼を実施する自動車用の4気筒ガソリンエンジンに水素を供給可能とするように改造したものである。吸入空気量を計測するエアフロセンサ21と、吸気管圧力を調整する電子制御スロットル20が、吸気管19の各々の適宜位置に備えられている。また、エンジン11には、各気筒の燃焼室17の中に点火エネルギーを供給する点火プラグ18が気筒ごとに備えられ、エンジンの冷却水の温度を計測する冷却水温度センサ25がシリンダヘッドの適宜位置に備えられている。
【0025】
燃料となるガソリンを噴射するためのガソリン燃料噴射装置22を燃焼室17内に備えており、ガソリン燃料噴射装置22に高圧燃料を供給するための高圧燃料ポンプ23が燃料配管によってガソリン燃料噴射装置22と接続されている。高圧燃料ポンプ23は燃料配管によりガソリンタンクへ接続されている。さらに、吸気管19内に水素を供給するための流路が備えられており、水素の供給量を制御する水素供給装置14と接続されている。水素供給装置24は水素用配管によって水素生成装置2に接続されている。
【0026】
さらに、排気を浄化する三元触媒27と、三元触媒27の温度を計測する触媒温度センサ28と、空燃比検出器の一態様であって、三元触媒27の上流側にて排気の空燃比を検出する空燃比センサ29とが排気管26の各々の適宜位置に備えられる。
【0027】
以上の構成によって、ガソリンを用いたエンジン駆動(ガソリン専焼)と、水素を用いたエンジン駆動(水素専焼)、水素とガソリンを同時に用いたエンジン駆動(ガソリン-水素混焼)を切り替えて使用することが可能となっている。
【0028】
図4は、実施例1に係るエンジン11の別の構成例を示す図である。エンジン11は、火花点火式燃焼を実施する自動車用の4気筒ガソリンエンジンに水素を供給可能とするように改造したものである。吸入空気量を計測するエアフロセンサ21と、吸気管圧力を調整する電子制御スロットル20が、吸気管19の各々の適宜位置に備えられている。また、エンジン11には、各気筒の燃焼室17の中に点火エネルギーを供給する点火プラグ18が気筒ごとに備えられ、エンジンの冷却水の温度を計測する冷却水温度センサ25がシリンダヘッドの適宜位置に備えられている。
【0029】
燃料となるガソリンを噴射するためのガソリン燃料噴射装置22を吸気管19内に備えている。ガソリン燃料噴射装置22は燃料配管によりガソリンタンクへ接続されている。さらに、燃焼室17内に水素を供給するための流路が備えられており、水素の供給量を制御する水素供給装置14と接続されている。水素供給装置24は水素用配管によって水素生成装置2に接続されている。
【0030】
さらに、排気を浄化する三元触媒27と、三元触媒27の温度を計測する触媒温度センサ28と、空燃比検出器の一態様であって、三元触媒27の上流側にて排気の空燃比を検出する空燃比センサ29とが排気管26の各々の適宜位置に備えられる。
【0031】
以上の構成によって、ガソリンを用いたエンジン駆動(ガソリン専焼)と、水素を用いたエンジン駆動(水素専焼)、水素とガソリンを同時に用いたエンジン駆動(ガソリン-水素混焼)を切り替えて使用することが可能となっている。
【0032】
図5は、本発明の実施例1に係る水素混焼割合と燃焼圧力の関係(横軸:クランク角、縦軸:シリンダ内圧力)を示す図である。水素混焼割合とは、各エンジンに供給する合計燃料量(ガソリンおよび水素お合算)に対する水素量の割合である。図は圧縮-膨張行程における圧縮上死点近傍での筒内圧力履歴である。水素混焼割合を増加させていくに伴い燃焼の時期が早期化するとともに、最大筒内圧力が上昇している。ここで図示してはいないが、さらに水素混焼割合を高めることでノッキングやプレイグニッションといった異常燃焼が発生し、エンジン性能低下やエンジンの故障に繋がる恐れがある。
【0033】
図6は、本発明の実施例1に係る水素混焼割合と最大筒内圧力、NOx排出量、エンジン劣化進行速度の関係を示す図である。図5にも示した通り、横軸の水素混焼割合が増加すると燃焼時期が早期化し、最大筒内圧力が上昇する。ある一定値を超えると異常燃焼が発生し安定した運転が不可能となる。最大筒内圧力が上昇すると、それに伴って筒内温度も上昇するため、排気中のNOx生成量(特に燃焼温度の影響を強く受けるサーマルNOx)が増加する。さらに、水素混焼割合増加による最大圧力の上昇および異常燃焼の発生は、エンジン燃焼室内部の各部品(ピストン、吸排気バルブ、燃料噴射装置、点火プラグ)の摩耗や劣化を促進する。つまりエンジン劣化進行速度が高くなる。
【0034】
図7は、本発明の実施例1に係る劣化時の最大筒内圧力およびNOx排出量の変化を示す図である。エンジンが劣化すると、劣化前と同じ水素混焼割合で運転を実施した場合でも、前述のようなエンジン燃焼室内部の部品の摩耗や劣化によって、エンジン内部に堆積物やデポジットが生成し、最大筒内圧の上昇や、それに伴う異常燃焼の発生頻度が高くなる。また最大筒内圧の上昇により筒内温度も上昇し、劣化前と比較してNOx排出量も増加する。つまりエンジンの劣化によって、安定運転が可能で排気性能を満足するための最適な水素混焼割合が変化する。従って、発電システムの安定かつ高性能な運転を維持するためには、各エンジンの劣化度をリアルタイムで検出し各エンジンを最適な水素混焼割合に制御する必要がある。
【0035】
図8は、本発明の実施例1に係るエンジン発電機制御の例を示すフローチャートである。発電システム制御装置1は、まず接続されている負荷機器3からの情報Sg1を読み込む(処理ステップS1)。負荷機器3からの情報Sg1は、例えば、負荷側に発生している機器の現在の消費電力(電圧および電流)や将来の予測値である。また、発電システムの出力が電力系統に接続されている場合は、系統側のからの現在もしくは将来の電力要求値となる。
【0036】
次に、発電システム制御装置1は、各ECU15やエンジン11から、各エンジンの情報Sg3を読み込む(処理ステップS2)。ECU15やエンジン11からの情報Sg3は、例えば、現在のエンジン回転数やトルク、エンジン温度(触媒温度、冷却水温度、吸気温度など)といったエンジン状態やエンジン仕様(排気量、圧縮比、燃料供給位置など)である。
【0037】
次に、発電システム制御装置1は、水素生成装置2から、水素生成情報Sg2を読み込む(処理ステップS3)。ここで水素生成装置は、例えば再生可能エネルギーから水素を生成する水電解槽であり、水電解槽への入力可能電力や、出力効率などの情報を、発電システム1に読み込む。
【0038】
次に、発電システム制御装置1は、負荷機器3からの情報Sg1に基づき、発電システムに要求されている負荷を演算する(処理ステップS4)。ここで、電力変換器13や発電機12の損失などを考慮してエンジンに対するトータルの要求出力が演算される。
【0039】
次に、発電システム制御装置1は、演算したトータルの要求出力Sd1を、各エンジン発電モジュールに分配し、個別要求出力Sd11、Sd12、・・・Sd1nを得る(処理ステップS5)。例えば、トータルの要求出力Sd1と各エンジン発電モジュールの定格出力から、必要なエンジン発電モジュールの駆動台数を算出し、駆動するエンジン発電モジュールでトータル要求出力Sd1を均等に配分する。
【0040】
次に、発電システム制御装置1は、ECU15やエンジン11からの情報Sg3に基づき、エンジンの劣化度を演算する(処理ステップS6)。例えば、これまでのエンジン駆動累積時間や累積出力、もしくはエンジンの燃焼状態(燃焼時期、燃焼安定性、排気性能)から、各々のエンジンでの劣化度が演算される。
【0041】
次に、発電システム制御装置1は、演算した各エンジンでの劣化度および水素生成装置2からの水素生成情報Sg2に基づき、各エンジンにおける水素混焼割合を演算する(処理ステップS7)。図7に示したように、劣化度が高いほど同じ水素混焼割合条件においても最大筒内圧力の上昇することで、異常燃焼発生確率が高くなり、またNOx排出量が増加することから、発電システム制御装置1は各エンジンの劣化度を比較し、劣化度の高いエンジンほど、水素混焼割合が低くなるように、水素混焼割合を設定する。ここで、発電システムトータルの水素必要量が、水素生成装置から得られた水素生成可能量と同等になるもしくは超えないように設定される。
【0042】
次に、発電システム制御装置1は、処理ステップS5にて演算されたエンジン別のトルク指令値(個別要求出力Sd11、Sd12、・・・Sd1n)を各ECU15に送る(処理ステップS8)。
【0043】
次に、発電システム制御装置1は、処理ステップS7にて演算された各エンジンの水素混焼割合を実現するよう水素供給量制御を実行する(処理ステップS9)。個別水素供給量指令値(Sd21、Sd22、・・・Sd2n)を各エンジンに送り(処理ステップS9)、一連の制御を終了する。
【0044】
図9は、本発明の実施例1に係るエンジンの劣化度、水素耐性と水素割合設定値の関係を説明する図である。ここでは例えばエンジンA、エンジンB、エンジンC、エンジンD、エンジンEの5つの異なるエンジンが並列接続されている発電システムを想定して説明する。エンジンA、エンジンB、エンジンCは、水素を直接筒内に供給する筒内噴射式のもので水素耐性が高いエンジン(図3に示したエンジン構成)である。一方で、エンジンDおよびエンジンEは、水素を吸気管内に供給する吸気管噴射式のもので水素耐性が低いエンジン(図4に示したエンジン構成)である。
【0045】
図9上に、発電システム制御装置1によって得られた各エンジンの劣化度を示している。ここではエンジンAの劣化度が最も低く、次いでエンジンC、エンジンEの順に高くなり、劣化度が最も高いのがエンジンB、エンジンDである。
【0046】
図9下に、上記エンジンの劣化度およびエンジンの水素耐性に基づいて発電システム制御装置1が設定した各エンジンの水素混焼割合を示している。劣化度が最も低いエンジンAの水素混焼割合が最も高く設定され、劣化度の上昇に伴い、その他のエンジンの水素混焼割合は低く設定される。同等の劣化度の場合(例えばエンジンBとエンジンD、エンジンCとエンジンE)、水素耐性が高いエンジンの方が、水素混焼率が高く設定される。点線は要求平均水素混焼割合を示している。要求平均水素混焼割合は、水素生成装置2が生成する水素量に基づいて演算される各エンジンの平均水素混焼割合であり、実際の各エンジンの水素混焼割合の平均が、要求平均水素混焼割合と合致するように、水素供給量が制御される。
【0047】
図10は、本発明の実施例1に係るエンジンの劣化度のタイムチャートを示す図である。上からエンジンAの劣化度、エンジンBの劣化度、エンジンCの劣化度、エンジンDの劣化度、エンジンEの劣化度の推移(月・年単位の時間スケール)である。実線が本発明適用時、点線が従来の劣化度を示している。劣化度が劣化限界値(Limit)に到達するとメンテナンスや修理が必要になることを意味する。時刻0における各エンジンの劣化度の初期値は、図9の想定に準ずる。
【0048】
従来においては、各エンジンの劣化度の初期値にばらつきがあるため、同等な使用頻度で運用していくと、劣化度限界に到達する時期にもばらつきが発生する。この例では、最も初期の劣化度の高いエンジンBが時刻taにおいて最も早く劣化限界に到達し、発電システム100のメンテナンスが必要となる。
【0049】
一方で、本発明を適用したシステムでは、各エンジンの劣化度に基づいて、水素混焼割合が制御・調整される。例えば、初期劣化度の高いエンジンBにおいては、水素混焼割合が低く設定されるため、図6で示したように筒内の圧力が低く抑えられ、劣化進行速度が低下する。その結果、劣化限界に到達する時期を遅らせることが可能となる。逆に初期劣化度が低いエンジンAは、水素混焼割合が高く設定されるため、劣化進行度が増加し、劣化限界に到達する時期が早期化する。以上の制御により、全てのエンジン(A~E)の劣化限界到達時期が時刻tb付近に集約され、発電システム100のメンテナンス時期を延ばすとともに、各エンジンに対して一度にメンテナンスを実施できることから、メンテナンス頻度やコストを抑制し、稼働率を向上することが可能となる。
【0050】
本実施例では、各エンジンの劣化度に基づき劣化限界時期を均一化させ、発電システム100の一斉メンテナンスを効率的に実施する方法を記述したが、エンジン発電モジュールごとにメンテナンスが可能な発電システム100においては、各エンジンの劣化限界到達時期を意図的にばらつかせて、各発電モジュールのメンテナンス中にも発電システム100の運用を継続させ(発電システムの全面停止を抑制し)、稼働率を向上してもよい。
【0051】
また、本実施例では、各エンジンの水素耐性を、水素供給位置により評価しているが、各エンジンの仕様(圧縮比、排気量)や、水素混焼時の燃焼状態によって評価してもよい。
【0052】
以上の説明から明らかなように、本発明は二種類以上の燃料を供給可能な複数のエンジン11により発電を行う発電システム100に適用されるエンジン発電システム制御装置1であって、各エンジンの現在の状態を検知する状態検出手段(例えばECU)を備え、前記状態検出手段ECUにより検出された各エンジン状態(例えば図9の劣化度)の比較結果に基づいて、各エンジンの少なくとも一種類の燃料供給量を制御することを特徴とするエンジン発電システム制御装置としたものである。つまり本発明では、エンジンの相対的な状態に基づいて、各エンジンの燃料を定めたものである。
【実施例2】
【0053】
本発明の実施例2について説明する。本実施例では、エンジンの始動および停止制御を実施する。システム構成、ハードウェア構成については実施例1と同一である。本実施形態に係る、システム構成、ハードウェア構成については実施例1と同一である。
【0054】
図11は、本発明の実施例2に係るエンジンの触媒温度と劣化度の一例を示す図である。図11下に示した各エンジン(A~E)の劣化度の想定は図9と同様である。図11上には各エンジンのECU15もしくはエンジン11から得た排気中の三元触媒温度を示している。三元触媒は、特定の温度(触媒活性温度)を超えると本来の浄化性能が実現できるが、触媒活性温度以下では、浄化性能が不十分であり、NOxなどを浄化できずにエンジンから排出してしまうことになる。三元触媒はエンジンの排気によって温められるため、エンジン稼働時間と共に触媒温度は上昇する。エンジンが停止すると、周囲のガスへの放熱によって触媒温度は緩やかに低下していく。この例においては、エンジンB、エンジンD、エンジンEの触媒温度は、触媒活性温度以上となっており、エンジンA、エンジンCにおいては、触媒活性温度未満となっている。
【0055】
図12は、本発明の実施例2に係るエンジン発電機の始動および停止制御の例を示すフローチャートである。
【0056】
発電システム制御装置1は、まず接続されている負荷機器3からの情報Sg1を読み込む(処理ステップS11)。負荷機器3からの情報Sg1は、例えば、負荷側に発生している機器の現在の消費電力(電圧および電流)や将来の予測値である。また、発電システムの出力が電力系統に接続されている場合は、系統側のからの現在もしくは将来の電力要求値となる。
【0057】
次に、発電システム制御装置1は、負荷機器3からの情報Sg1に基づき、発電システムに要求されている負荷Sd1を演算する(処理ステップS12)。ここで、電力変換器13や発電機12の損失などを考慮してエンジンに対するトータルの要求出力Sd1が演算される。
【0058】
次に、発電システム制御装置1は、各ECU15やエンジン11から、各エンジンの情報Sg3を読み込む(処理ステップS13)。ECU15やエンジン11からの情報Sg3は、例えば、現在のエンジン回転数やトルク、エンジン温度(触媒温度、冷却水温度、吸気温度など)といったエンジン状態やエンジン仕様(排気量、圧縮比、燃料供給位置など)である。
【0059】
次に、発電システム制御装置1は、ECU15やエンジン11からの情報Sg3に基づき、エンジンの劣化度を演算する(処理ステップS14)。例えば、これまでのエンジン駆動累積時間や累積出力、もしくはエンジンの燃焼状態(燃焼時期、燃焼安定性、排気性能)から、各々のエンジンでの劣化度が演算される。
【0060】
次に、発電システム制御装置1は、エンジンの触媒温度と、エンジンの劣化度に基づいて、各エンジンの始動順序を決定する(処理ステップS15)。その後、各エンジンに始動指令を送り(処理ステップS16)、一連の制御を終了する。
【0061】
図13は、本発明の実施例2に係るエンジン発電機の始動および停止制御の例を示すタイムチャートである。図13の上から、システム停止状態から始動する際の、発電システム要求出力、エンジンAの出力、エンジンBの出力、エンジンCの出力、エンジンDの出力、エンジンEの出力、発電システムからのNOx排出量積算値の推移である。本発明を適用した場合を実線で、従来の制御を点線で示している。
【0062】
点線で示す従来制御においては、時刻taにおいて発電要求が開始すると、予め定められた序列に基づいてエンジンAが始動し発電を開始する。さらに要求出力が増加して時刻tbとなるとエンジンBが始動、その後tcにてエンジンCが始動する。その後発電要求出力の低下に伴い時刻tdにてエンジンCが、時刻teにてエンジンBが停止する。ここで、図12で示した通り、エンジンAおよびエンジンCは触媒温度が触媒活性温度以下であることから、始動(時刻taおよび時刻tc)直後には排気成分が浄化できず、多くのNOxを輩出してしまうことになる。
【0063】
一方で、本制御を適用した場合には、時刻taにおいて発電要求が開始すると、触媒温度が触媒活性温度以上、かつ劣化度の低いエンジンEから優先的に始動される。さらに要求出力が増加して時刻tbとなると、やはり触媒温度が触媒活性温度以上であるエンジンDが始動、その後tcにてエンジンBが始動する。その後発電要求出力の低下に伴い時刻tdにてエンジンBが、時刻teにてエンジンDが停止する。発電に利用したエンジンすべてが、触媒温度が触媒活性温度以上であることから、エンジン始動(時刻ta、時刻tb、および時刻tc)直後においても排気浄化効率が高く、従来制御と比較してNOxを大幅に削減できる。
【0064】
本実施例では、発電システム制御装置1は、エンジン温度として触媒温度を用いてエンジン始動の順序を決定したが、エンジンの冷却水温度に基づいて指導順序を決定してもよい。
【0065】
本発明は上述した各実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りその他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
【0066】
例えば、上述した各実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために装置及びシステムの構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、ここで説明した実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることは可能であり、さらにはある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0067】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1:発電システム制御装置
1a:入力回路
1b:入出力ポート
1c:RAM
1d:ROM
1e:CPU
1f:エンジントルク制御出力部
1g:水素供給量制御出力部
2:水素生成装置
3:負荷側機器
11:エンジン
12:発電機
13:電力変換器
14:水素供給装置
15:ECU
17:燃焼室
18:点火プラグ
19:吸気管
20:スロットル
21:エアフロセンサ
22:ガソリン用燃料噴射装置
23:高圧燃料ポンプ
24:ガス用燃料供給装置
25:冷却水温度センサ
26:排気管
27:三元触媒
28:触媒温度センサ
29:空燃比センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13