(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】スペックル生成回路および光ニューラルネットワーク装置
(51)【国際特許分類】
G06N 3/067 20060101AFI20241210BHJP
G06G 7/60 20060101ALI20241210BHJP
G06E 3/00 20060101ALI20241210BHJP
G02F 1/01 20060101ALI20241210BHJP
G02F 3/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G06N3/067
G06G7/60
G06E3/00
G02F1/01 C
G02F3/00 501
(21)【出願番号】P 2022044136
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2024-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 英明
(72)【発明者】
【氏名】管 貴志
(72)【発明者】
【氏名】石村 昇太
【審査官】山本 俊介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0110432(US,A1)
【文献】特開平5-99621(JP,A)
【文献】特表2022-512037(JP,A)
【文献】特表2019-523932(JP,A)
【文献】特表2021-518598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/067
G06G 7/60
G06E 3/00
G02F 1/01
G02F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ニューラルネットワーク装置に用いられるスペックル生成回路であって、
光源から光信号を受信し、位相変調を行う位相変調器と、
前記位相変調された変調光を受信し、伝搬させる単一のシングルモード導波路と、
前記シングルモード導波路に接続され、前記伝搬された変調光を複数に分岐させる光分岐素子と、
前記分岐された各変調光を伝搬する複数のシングルモード導波路と、
前記分岐後の各シングルモード導波路にそれぞれ接続され、前記伝搬された変調光からスペックルを生成する複数のマルチモード導波路と、を備えることを特徴とするスペックル生成回路。
【請求項2】
前記各マルチモード導波路は、導波路の幅がそれぞれ異なることを特徴とする請求項1記載のスペックル生成回路。
【請求項3】
前記各マルチモード導波路は、導波路の厚さがそれぞれ異なることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のスペックル生成回路。
【請求項4】
前記各マルチモード導波路は、導波路の長さがそれぞれ異なることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のスペックル生成回路。
【請求項5】
前記各マルチモード導波路は、前記分岐後の各シングルモード導波路の中心軸および前記分岐後の各シングルモード導波路に接続した前記各マルチモード導波路の中心軸との距離が、すべて同一の距離となる位置で接続されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のスペックル生成回路。
【請求項6】
前記各マルチモード導波路は、前記分岐後の各シングルモード導波路の中心軸および前記分岐後の各シングルモード導波路に接続した前記各マルチモード導波路の中心軸との距離が、すべて異なる距離となる位置で接続されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のスペックル生成回路。
【請求項7】
前記光分岐素子は、入力された変調光をTEモード(transverse electric modes)とTMモード(transverse magnetic modes)に分離し、前記分岐後の各シングルモード導波路に異なる信号を出力することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のスペックル生成回路。
【請求項8】
多数のニューロン数を生成する光ニューラルネットワーク装置であって、
請求項1から請求項7のいずれかに記載のスペックル生成回路と、
前記スペックル生成回路で生成されたスペックルを電気信号に光電変換する複数の受光素子と、を備えることを特徴とする光ニューラルネットワーク装置。
【請求項9】
前記複数の受光素子は、それぞれ接続された前記マルチモード導波路から出力されるモード数に応じた数で構成されていることを特徴とする請求項8記載の光ニューラルネットワーク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工知能分野で用いられるスペックル生成回路および光ニューラルネットワーク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工知能は、脳の神経回路を模擬した計算モデルにより実際の知能に迫る高度な情報処理を実現しようとする研究分野で、近年様々な研究がなされている。人工知能では計算に用いるニューロンの数を増やすことで計算性能を向上できる。しかしながら、一般的な人工知能モデルはコンピュータのプログラムによる電気演算で実現されているため、ニューロン数を増やすと、演算に要する電力や処理遅延が増大することが課題となる。これに対して、電気演算の代わりに光干渉を用いて計算を行う「光リザバーコンピュータ」という技術がある。光リザバーコンピュータは、光回路の複数の出力信号に重み付けを行い、加算演算を行うことで情報処理を可能としている。
【0003】
非特許文献1では、単一波長光源と、その光源の出力光を位相変調する光位相変調器と、光位相変調器からの出力光が伝搬するシングルモード導波路と、シングルモード導波路に接続され、曲線領域を有するマルチモード導波路と、マルチモード導波路からの出力光を光電変換する複数の受光素子と、複数の受光素子からの電気信号に重みを付ける機能と、重みを付けた電気信号を加算する機構を構成要素とした光ニューラルネットワーク装置(光リザバーコンピュータ)(
図11A)に関する技術が開示されている。
【0004】
その光ニューラルネットワーク装置の動作は、時間依存信号であるデータu(n)を位相変調器に印加して位相変調し、シングルモード導波路を伝搬した後、変調光を高次の空間モードを励振する働きをする曲線領域を有したマルチモード導波路で多数の空間モード光に変換し、モード間で伝搬の時間差を与えながら、導波路端で時間的に変化するスペックル(濃淡像)を生成させる(
図11B)。なお、シングルモード導波路とマルチモード導波路の接続部のそれぞれの導波路の中心のずれ幅によって、導波路端で得られるスペックルも変わる。また、マルチモード導波路では、高次の空間モードと低次の空間モードの伝送路を伝搬する時間の差が生じることを利用して、マルチモード導波路の出力端で時間的なミキシングを発生させて、時間的な記憶の代用を果たしている。そのスペックルを受光素子で電気信号に変換し、各々の電気信号に各々の重みを乗じた後にそれら全てを総和演算した出力(推論値)を得る。各々の重みは、学習の段階で目標としたデータy(n)にほぼ一致するように設定する。
【0005】
このような光ニューラルネットワーク装置では、マルチモード導波路の空間モード数が人工知能のニューロン数に相当し、推論性能を上げるためにはニューロン数を多くすることが重要となる。
【0006】
そのため、非特許文献1および非特許文献2では、マルチモード導波路の構造から計算される空間モード数は68であったが、高次の空間モードの励振が難しいため、実際には空間モード数は65で留まっていた。そのため、ニューロン数を増やす方法として、単一波長光源を複数用意し、それらを合波した後に、光位相変調器に入力し、光位相変調器からの出力で分波することにより、波長の数だけニューロン数を倍増させることを行っている。また、入力データの時間間隔の1/4毎で時分割して光電変換、重み付け、総和演算を行うことで、ニューロン数を仮想的に4倍にさせることを行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Satoshi Sunada、Atsushi Uchida著、「Photonic neural field on a silicon chip: large-scale, high-speed neuro-inspired computing and sensing」、Optica Publishing Group、2021年11月発行、第1388頁から第1396頁
【文献】Satoshi Sunada、Atsushi Uchida著、「Photonic neural field on a silicon chip: large-scale, high-speed neuro-inspired computing and sensing: supplement」、Optica Publishing Group
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1および非特許文献2における光ニューラルネットワーク装置では、推論性能をさらに向上させる目的でニューロン数を増やそうとした場合、マルチモード導波路の空間モード数をさらに増やすことができない。また、波長数を増やしてニューロン数を増やすことはできるが、それはスペックルの1ヶ所の測定点の光だけを拾って、分波素子により波長を分波してニューロン数を増やしただけにすぎず、65ヶ所の測定点で波長を分波するには、受光素子の前段に配置する分波素子の大きさにより、波長数を大きく増やすことはできない。さらに、時分割数は、電子回路の動作速度の限界、およびニューロン同士の独立性の減少により増やせない。このような事情から、ニューロン数をさらに増やすことは困難であった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、マルチモード光信号に分配する際に、データ信号を光分岐回路で分岐し、分岐した光信号をディメンションの異なる複数のマルチモード導波路で高次モードに変換することにより、ニューロン数を増やすことを可能とするスペックル生成回路および光ニューラルネットワーク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明のスペックル生成回路は、光ニューラルネットワーク装置に用いられるスペックル生成回路であって、光源から光信号を受信し、位相変調を行う位相変調器と、前記位相変調された変調光を受信し、伝搬させる単一のシングルモード導波路と、前記シングルモード導波路に接続され、前記伝搬された変調光を複数に分岐させる光分岐素子と、前記分岐された各変調光を伝搬する複数のシングルモード導波路と、前記分岐後の各シングルモード導波路にそれぞれ接続され、前記伝搬された変調光からスペックルを生成する複数のマルチモード導波路と、を備えることを特徴としている。
【0011】
(2)また、本発明のスペックル生成回路において、前記各マルチモード導波路は、導波路の幅がそれぞれ異なることを特徴としている。
【0012】
(3)また、本発明のスペックル生成回路において、前記各マルチモード導波路は、導波路の厚さがそれぞれ異なることを特徴としている。
【0013】
(4)また、本発明のスペックル生成回路において、前記各マルチモード導波路は、導波路の長さがそれぞれ異なることを特徴としている。
【0014】
(5)また、本発明のスペックル生成回路において、前記各マルチモード導波路は、前記分岐後の各シングルモード導波路の中心軸および前記分岐後の各シングルモード導波路に接続した前記各マルチモード導波路の中心軸との距離が、すべて同一の距離となる位置で接続されていることを特徴としている。
【0015】
(6)また、本発明のスペックル生成回路において、前記各マルチモード導波路は、前記分岐後の各シングルモード導波路の中心軸および前記分岐後の各シングルモード導波路に接続した前記各マルチモード導波路の中心軸との距離が、すべて異なる距離となる位置で接続されていることを特徴としている。
【0016】
(7)また、本発明のスペックル生成回路において、前記光分岐素子は、入力された変調光をTEモード(transverse electric modes)とTMモード(transverse magnetic modes)に分離し、前記分岐後の各シングルモード導波路に異なる信号を出力することを特徴としている。
【0017】
(8)また、本発明の光ニューラルネットワーク装置は、多数のニューロン数を生成する光ニューラルネットワーク装置であって、(1)から(7)のいずれかに記載のスペックル生成回路と、前記スペックル生成回路で生成されたスペックルを電気信号に光電変換する複数の受光素子と、を備えることを特徴としている。
【0018】
(9)また、本発明の光ニューラルネットワーク装置において、前記複数の受光素子は、それぞれ接続された前記マルチモード導波路から出力されるモード数に応じた数で構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光ニューラルネットワーク装置において、ニューロン数を増加させることにより、人工知能の推論性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る光ニューラルネットワーク装置の概略構成を示す図である。
【
図4】マルチモード導波路の長さ(導波路の中心の長さ)に該当する箇所を示す図である。
【
図5】シミュレーションで使用したマルチモード導波路の概略構成を示す図である。
【
図6】マルチモード導波路から出力される光強度を示す図である。
【
図7】シングルモード導波路およびマルチモード導波路の接続部分の概略構成を示す図である。
【
図8】変形例2におけるマルチモード導波路の長さの概略構成を示す図である。
【
図9】変形例3におけるシングルモード導波路およびマルチモード導波路の接続部分を示す図である。
【
図10】変形例5の光ニューラルネットワークシステムの概略構成を示す図である。
【
図11A】従来の光ニューラルネットワーク装置を示す図である。
【
図11B】従来の光ニューラルネットワーク装置による生成スペックルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、マルチモード導波路の空間モードの励振数の限界によりニューロン数を増やせないことに着目し、マルチモード光信号に分配する際に、データ信号を光分岐回路で分岐し、分岐した光信号をディメンションの異なる複数のマルチモード導波路で高次モードに変換することによって、異なるスペックルを生成し、ニューロン数を増やせることを見出し、本発明をするに至った。
【0022】
すなわち、本発明は、光ニューラルネットワーク装置に用いられるスペックル生成回路であって、光源から光信号を受信し、位相変調を行う位相変調器と、前記位相変調された変調光を受信し、伝搬させる単一のシングルモード導波路と、前記シングルモード導波路に接続され、前記伝搬された変調光を複数に分岐させる光分岐素子と、前記分岐された各変調光を伝搬する複数のシングルモード導波路と、前記分岐後の各シングルモード導波路にそれぞれ接続され、前記伝搬された変調光からスペックルを生成する複数のマルチモード導波路と、を備えることを特徴とする。
【0023】
これにより、本発明者らは、光リザバーコンピュータに必要となるニューロン数の生成を大幅に増やすことを可能とした。以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
【0024】
図1は、本実施形態に係る光ニューラルネットワーク装置の概略構成を示す図である。本実施形態に係る光ニューラルネットワーク装置1は、単一波長光源111、位相変調器113、光分岐素子117、第1のシングルモード導波路121、第2のシングルモード導波路123、第3のシングルモード導波路223、第1のマルチモード導波路125、第2のマルチモード導波路225、第1の受光素子119、第2の受光素子219、A/D変換器131、重みを付ける電気回路ならびに重みを付けた電気信号を加算する電気回路およびD/A変換器からなるディジタル回路133から構成されている。
【0025】
本実施形態では、光分岐素子117、第1のシングルモード導波路121、第2のシングルモード導波路123、第3のシングルモード導波路223、第1のマルチモード導波路125および第2のマルチモード導波路225は、1つのシリコン基板(チップ)310上に形成されているが、これに限定されない。例えば、分岐素子により複数に分岐された後の回路は、分岐された回路ごとにシリコン基板(チップ)上に形成されていてもよい。
【0026】
単一波長光源111からレーザー光が出力され、時間依存信号であるデータu(n)を位相変調器113に印加して、単一波長光源111からの出力光を位相変調する。本実施形態では、位相変調器113は、ニオブ酸リチウム位相変調器を用いる。
【0027】
第1のシングルモード導波路121は、位相変調器113に接続され、位相変調器113からの変調光を伝搬する。そして、第1のシングルモード導波路121は、多モード干渉導波路の光分岐素子117において、第2のシングルモード導波路123および第3のシングルモード導波路223に2分岐される。本実施形態の分岐素子は、一例として、2分岐の素子を用いたが、4分岐、8分岐、あるいはそれ以上の分岐数の素子を用いてもよい。また、第2のシングルモード導波路123および第3のシングルモード導波路223への入力偏波をTEモード(transverse electric modes)とし、光分岐素子117に多モード干渉導波路の分岐素子を適用する。
【0028】
光分岐素子117で分岐された第2のシングルモード導波路123および第3のシングルモード導波路223は、それぞれ第1のマルチモード導波路125および第2のマルチモード導波路225に接続されている。
【0029】
図2は、
図1のs-sにおける断面図であり、第2のシングルモード導波路および第3のシングルモード導波路の断面を示す図である。
図3は、
図1のm-mにおける断面図であり、第1のマルチモード導波路および第2のマルチモード導波路の断面を示す図である。
図4は、マルチモード導波路の長さ(導波路の中心の長さ)に該当する箇所を示す図である。
【0030】
第1のシングルモード導波路121、第2のシングルモード導波路123、第3のシングルモード導波路223、第1のマルチモード導波路125および第2のマルチモード導波路225は、シリコン基板(チップ)310上に形成され、各導波路121、123、125、223、225のコアはシリコンで形成され、各導波路121、123、125、223、225のクラッドは二酸化ケイ素で形成されており、厚さは、0.22μmである。また、第1のシングルモード導波路121、第2のシングルモード導波路123および第3のシングルモード導波路223の幅は0.5μmである。第1のマルチモード導波路125および第2のマルチモード導波路225のサイズは、幅がそれぞれ23.9μm、18.8μmであり、総長39mmである。そして第1のマルチモード導波路125および第2のマルチモード導波路225は、それぞれスパイラル形状で中央はS字曲線の曲線領域を有しているが、これに限定されない。また、スパイラル形状の旋回数についても、1回でもよいし、それ以上でもよい。直線でなければよい。
【0031】
ここで、マルチモード導波路から生成されるスペックルについて説明する。
図5は、シミュレーションで使用したマルチモード導波路の概略構成を示す図である。
図5(b)は、
図5(a)のa-aにおける断面図である。サイズが異なるマルチモード導波路を用いることで、異なるスペックルが生成させることをシミュレーションする。シミュレーションでは、以下3つのサイズのマルチモード導波路を用いた。いずれも、R=25μmの曲線領域を有する。
(1)幅25μm、厚さ0.25μm、長さ230μm
(2)幅25μm、厚さ0.22μm、長さ230μm
(3)幅25μm、厚さ0.22μm、長さ280μm
【0032】
図6(a)~(c)は、(1)~(3)のマルチモード導波路から出力される光強度を示す図である。
図6において、縦軸は光強度[a.u.]を示し、横軸y[μm]は導波路の中心軸を原点とした時の導波路横(幅)方向の位置を示す。
図6(a)~(c)に示すように、マルチモード導波路のサイズを変えることで、マルチモード導波路から出力される光強度が異なる。つまり、マルチモード導波路の出力端部では、異なるスペックルが生成されることがわかる。
【0033】
図7は、本実施形態に係るシングルモード導波路およびマルチモード導波路の接続部分の概略構成を示す図である。
図7に示すように、第2のシングルモード導波路123および第1のマルチモード導波路125、第3のシングルモード導波路223および第2のマルチモード導波路225は、それぞれの導波路の中心から同じ長さだけずれた距離、つまり、第2のシングルモード導波路123の中心軸ならびに第2のシングルモード導波路123に接続した第1のマルチモード導波路125の中心軸との距離、および第3のシングルモード導波路223の中心軸ならびに第3のシングルモード導波路223に接続した第2のマルチモード導波路225の中心軸との距離が、同一となる位置で接続されている。
【0034】
光分岐素子117で分岐された変調光は、第2のシングルモード導波路123から第1のマルチモード導波路125へ、第3のシングルモード導波路223から第2のマルチモード導波路225へ、それぞれ伝搬する。
【0035】
第1のマルチモード導波路125および第2のマルチモード導波路225へ伝搬された変調光は、高次の空間モードを励振する働きをする曲線領域を有する各マルチモード導波路125、225において、多数の空間モード光に変換され、モード間で伝搬の時間差を与えられることで、導波路端で時間的に変化するスペックル(濃淡像)が生成される。
【0036】
幅23.9μmの第1のマルチモード導波路125では65モード励振され、幅18.8μmの第2のマルチモード導波路225では51モード励振される。サイズの異なる(本実施形態では、幅が異なる)マルチモード導波路で生成されたスペックルは異なることから、導波路間でニューロン同士の独立性は保たれる。生成されたスペックルは、複数のフォトダイオードをアレイ状に集積した各受光素子で電気信号に光電変換する。
【0037】
各受光素子119、219は、モード数に応じた素子で形成されている。
図1では、簡略化して各受光素子は8つの受光素子を図示しているが、例えば、第1のマルチモード導波路は65モードであるため、第1のマルチモード導波路125に接続している第1の受光素子119は、65個の受光素子からなる。また、第2のマルチモード導波路225は51モードであるため、第2のマルチモード導波路225に接続している受光素子219は、51個の受光素子からなる。
【0038】
各受光素子119、219で光電変換された電気信号は、A/D変換器131、231でディジタル信号に変換され、ディジタル回路133へ出力される。ディジタル回路133では、重みを付ける電気回路で各々の重みを乗じる処理を行い、重みを付けた電気信号を加算する電気回路で各々の重みを乗じた値すべてを総和演算する。その後、D/A変換器を通じて推論値が出力される。なお、各々の重みは、学習の段階で目標としたデータy(n)にほぼ一致するように予め設定される。
【0039】
本実施形態における光ニューラルネットワーク装置1を用いることにより、116(65+51)のニューロン数を得ることができる。本実施形態では、光分岐素子117で2分岐の素子を用いたが、4分岐、8分岐、あるいはそれ以上の分岐数の素子を用いて分岐出力に各々の導波路幅が異なるマルチモード導波路を接続することで、ニューロン数をさらに増やすことが可能となる。このように、多波長化や時間軸上の分割を使うことなく、大幅なニューロン数を増やすことができる。
【0040】
本実施形態では、第1のマルチモード導波路125および第2のマルチモード導波路225の厚さは0.22μm、長さは39mmで同一とし、幅をそれぞれ23.9μm、18.8μmと異なるサイズにする、つまり幅のみが異なる2つのマルチモード導波路を用いることで、異なるスペックルパターンを生成させる構成について説明した。異なるスペックルパターンを生成させる別の構成について、変形例として以下に説明する。
【0041】
(変形例1)
変形例1では、第1のマルチモード導波路125および第2のマルチモード導波路225の長さ、幅は同一とし、厚さが異なるサイズのマルチモード導波路を用いた。つまり、厚さは0.22μm、幅は、例えば23.9μm、18.8μmの何れか1つのサイズを使用し、一方のマルチモード導波路の厚さを0.22μm、他方のマルチモード導波路の厚さを0.25μmとした。このように、マルチモード導波路の幅が同じでも、厚さを異なるサイズにすることで、異なるスペックルパターンを生成させることが可能となり、ニューロン数を大幅に増やすことができる。
【0042】
(変形例2)
図8は、変形例2におけるマルチモード導波路の長さの概略構成を示す図である。変形例2では、
図8に示すように、第1のマルチモード導波路125および第2のマルチモード導波路225の幅、厚さは同一とし、長さが異なるサイズのマルチモード導波路を用いた。つまり、幅は例えば、23.9μm、18.8μmの何れか1つのサイズを使用し、厚さは、例えば0.22μm、0.25μmの何れか1つのサイズを使用し、一方のマルチモード導波路の長さを39mm、他方のマルチモード導波路の長さを35mmとした。このように、マルチモード導波路の幅、厚さが同じでも、長さが異なることで、異なるスペックルパターンを生成させることが可能となり、ニューロン数を大幅に増やすことができる。
【0043】
(変形例3)
図9は、変形例3におけるシングルモード導波路およびマルチモード導波路の接続部分を示す図である。変形例3では、各マルチモード導波路は、幅、長さ、厚さがいずれも同じサイズの導波路を用いており、
図9に示すように、第2のシングルモード導波路123および第1のマルチモード導波路125、第3のシングルモード導波路223および第2のマルチモード導波路225は、それぞれの導波路の中心から異なる長さだけずれた距離、つまり、第2のシングルモード導波路123の中心軸ならびに第2のシングルモード導波路123に接続した第1のマルチモード導波路125の中心軸との距離、および第3のシングルモード導波路223の中心軸ならびに第3のシングルモード導波路223に接続した第2のマルチモード導波路225の中心軸との距離が異なる位置で接続されている。第1のマルチモード導波路125および第2のマルチモード導波路225の幅、長さ、厚さを同じサイズであっても、シングルモード導波路とマルチモード導波路との接続部分での各導波路の中心軸間の距離を変えることで、異なるスペックルパターンを生成させることが可能となり、ニューロン数を大幅に増やすことができる。
【0044】
(変形例4)
前述した実施形態および変形例では、第2のシングルモード導波路123および第3のシングルモード導波路223への入力偏波をTEモード(transverse electric modes)とし、光分岐素子117に多モード干渉導波路の分岐素子を適用した。変形例4では、各マルチモード導波路は、幅、長さ、厚さがいずれも同じサイズの導波路を用いており、第2のシングルモード導波路123および第3のシングルモード導波路223への入力偏波を、第1のシングルモード導波路121への入力の角度を変えて、光波の電界の振動方向が導波路の横幅方向のTEモード(transverse electric modes)と、光波の電界の振動方向が厚さ方向のTMモード(transverse magnetic modes)の両モード励振するように設定し、分岐素子にTE/TMモードの分離器を適用する。つまり、第2のシングルモード導波路123、第1のマルチモード導波路125、第1の受光素子119をTEモード用、第3のシングルモード導波路223、第2のマルチモード導波路225、第2の受光素子219をTMモード用とすることで、マルチモードの導波路幅、厚さ、長さが同じでも、ニューロン数を2倍にすることが可能となる。
【0045】
(変形例5)
図10は、変形例5の光ニューラルネットワーク装置2の概略構成を示す図である。
図10に示すように、変形例5は、第2のマルチモード導波路225をさらに第3のマルチモード導波路227に接続するマルチモード導波路の多段構成をとっている。このような構造をとることで、モード間でさらにミキシングさせ、出力信号の相関性が減り、実効的にニューロン数を増やすことが可能となる。
【0046】
本実施形態、変形例1~5で前述したマルチモード導波路の幅、長さ、導波路中心からのずれ、分岐素子へのTE/TMモードの分離器適用は、いずれを組み合わせてもニューロン数は大幅に増やすことができることはいうまでもない。
【0047】
なお、先の例では、マルチモード導波路はシングルモード導波路に接続されていたが、位相変調器から出力光をどの段階でもマルチモード化してさらにマルチモード導波路125、225に結合さえ行われれば、前述した構成でニューロン数を大幅に増やすことができる。
【0048】
さらに、マルチモード導波路入力受光素子で電気信号に変換した後にA/D変換器でディジタル信号に変換し、ディジタル回路で各々の重みを乗じた後にそれら全てを総和演算し、D/A変換器でアナログ信号に戻し出力(推論値)を得ていたが、受光素子からの電気出力を直接積算する回路を適用すれば出力が得られる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によれば、光ニューラルネットワーク装置において、ニューロン数を増加させることにより、人工知能の推論性能の向上することが可能となる。
【符号の説明】
【0050】
1、2 光ニューラルネットワーク装置
111 単一波長光源
113 位相変調器
117 光分岐素子
119 第1の受光素子
121 第1のシングルモード導波路
123 第2のシングルモード導波路
125 第1のマルチモード導波路
131、231 A/D変換器
133 ディジタル回路
219 第2の受光素子
223 第3のシングルモード導波路
225 第2のマルチモード導波路
227 第3のマルチモード導波路
310 シリコン基板(チップ)