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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ゴム組成物およびゴム製品
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20241210BHJP
   C08K 5/37 20060101ALI20241210BHJP
   C08K 5/372 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K5/37
C08K5/372
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022517629
(86)(22)【出願日】2021-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2021015621
(87)【国際公開番号】W WO2021220831
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2020080713
(32)【優先日】2020-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】小齋 智之
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-108003(JP,A)
【文献】特表2017-502137(JP,A)
【文献】特表2010-539269(JP,A)
【文献】国際公開第2008/071208(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、
以下の一般式(1)および(2)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、
を含む、ゴム組成物。
HS-R-COOM ・・・(1)
MOCO-R-(S)n-R-COOM ・・・(2)
(式中、
Rは、独立して、硫黄原子とCOOM基とを結ぶ直鎖部分の炭素数が8以上である、直鎖または分岐のヒドロカルビレン基であり;
Mは、独立して、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選択される原子であり;
nは、2~8の整数である)
【請求項2】
前記炭素数が、10以上である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記Rが、直鎖のヒドロカルビレン基である、請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記Mが、Li、NaおよびKからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記Mが、Naである、請求項1~4のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム成分100gに対して、前記化合物中のCOOM基の合計量が、2~20mmolである、請求項1~5のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
充填剤をさらに含み、前記ゴム成分100質量部に対して、前記充填剤の量が、20~150質量部である、請求項1~6のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
非生産工程と、生産工程とを含み、
前記非生産工程では、ゴム成分と、以下の一般式(1)および(2)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の少なくとも一部とを混練して混練物を形成し、
HS-R-COOM ・・・(1)
MOCO-R-(S)n-R-COOM ・・・(2)
(式中、
Rは、独立して、硫黄原子とCOOM基とを結ぶ直鎖部分の炭素数が8以上である、直鎖または分岐のヒドロカルビレン基であり;
Mは、独立して、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選択される原子であり;
nは、2~8の整数である)
前記生産工程では、前記非生産工程からの前記混練物に加硫系を添加して、混練してゴム組成物を製造する、ゴム組成物の製造方法。
【請求項9】
前記炭素数が、10以上である、請求項8に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項10】
前記Rが、直鎖のヒドロカルビレン基である、請求項8または9に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項11】
前記Mが、Li、NaおよびKからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8~10のいずれか一項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項12】
前記Mが、Naである、請求項8~11のいずれか一項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項13】
前記ゴム成分100gに対して、前記化合物中のCOOM基の合計量が、2~20mmolである、請求項8~12のいずれか一項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項14】
前記非生産工程で充填剤を添加することを含み、前記ゴム成分100質量部に対して、前記充填剤の量が、20~150質量部である、請求項8~13のいずれか一項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項1~7のいずれか一項に記載のゴム組成物を用いて作製された、ゴム製品。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2020年4月30日に出願の日本国特許出願第2020-080713号の優先権の利益を主張するものであり、その内容は、参照により本願に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、ゴム組成物およびゴム製品に関する。
【背景技術】
【0003】
ゴムのヒステリシスロス(以下、単に「ロス」ということがある)は、ゴムの変形の履歴によって失われるエネルギーであり、物質の変形過程で加えられたエネルギーと回復過程で戻されるエネルギーの差を指す。この差は、熱または音などに変わる。そのため、ゴムのヒステリシスロスは、例えば、タイヤの低燃費性および免振ゴムの減衰性などに大きな影響を及ぼすことが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1では、ヒステリシスロスが小さく低発熱性であり、または耐摩耗性も改良したゴム組成物の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-108003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゴムの低歪でのロスを小さくすることで、ゴムはより低発熱性(すなわち、より低燃費性)となるが、ゴムの高歪でのロスも低下すると、エネルギー散逸能が低下し、耐久性の低下につながり得る。逆に、耐久性を高めるためにロスを大きくすると、低歪でのロスが大きくなり、発熱性の悪化につながり得る。
【0007】
そこで、本発明は、ゴムの低歪でのヒステリシスロスと、高歪でのヒステリシスロスとのバランスを改良し得るゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るゴム組成物は、
ゴム成分と、
以下の一般式(1)および(2)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、
を含む、ゴム組成物である。
HS-R-COOM ・・・(1)
MOCO-R-(S)n-R-COOM ・・・(2)
(式中、
Rは、独立して、硫黄原子とCOOM基とを結ぶ直鎖部分の炭素数が8以上である、直鎖または分岐のヒドロカルビレン基であり;
Mは、独立して、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選択される原子であり;
nは、2~8の整数である)
これにより、ゴムの低歪でのヒステリシスロスと、高歪でのヒステリシスロスとのバランスを改良することができる。
【0009】
本発明に係るゴム製品は、上記のいずれかのゴム組成物を用いて作製された、ゴム製品である。これにより、低歪でのヒステリシスロスと、高歪でのヒステリシスロスとのバランスに優れる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ゴムの低歪でのヒステリシスロスと、高歪でのヒステリシスロスとのバランスを改良し得るゴム組成物を提供することができる。本発明によれば、低歪でのヒステリシスロスと、高歪でのヒステリシスロスとのバランスに優れるゴム製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0012】
本発明では、2以上の実施形態を任意に組み合わせることができる。
【0013】
本明細書において、数値範囲は、別段の記載がない限り、その範囲の下限値および上限値を含むことを意図している。例えば、20~150質量部は、20質量部以上150質量部以下を意味する。
【0014】
(ゴム組成物)
本発明に係るゴム組成物は、
ゴム成分と、
以下の一般式(1)および(2)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、
を含む、ゴム組成物である。
HS-R-COOM ・・・(1)
MOCO-R-(S)n-R-COOM ・・・(2)
(式中、
Rは、独立して、硫黄原子とCOOM基とを結ぶ直鎖部分の炭素数が8以上である、直鎖または分岐のヒドロカルビレン基であり;
Mは、独立して、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選択される原子であり;
nは、2~8の整数である)
【0015】
以下、本発明に係るゴム組成物のゴム成分と、一般式(1)および(2)の化合物とを例示説明する。
【0016】
・ゴム成分
ゴム成分としては、特に限定されず、公知のゴム組成物のゴム成分を用いることができる。ゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。ゴム成分は、変性されていてもよいし、未変性でもよい。
【0017】
ゴム成分は、ゴム組成物において公知のジエン系重合体を用いてもよい。
【0018】
ゴム成分は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
一実施形態では、ゴム成分は、NR、IR、BR、SBRおよびこれらの変性体からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0020】
ゴム成分としてSBRを用いる場合、SBR中のスチレン含量は特に限定されず、適宜調節することができる。SBR中のスチレン含量は、例えば、0重量%より大きく、50重量%以下の範囲である。一実施形態では、SBR中のスチレン含量は、0重量%より大きく、1重量%以上、3重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、30重量%以上または40重量%以上である。別の実施形態では、SBR中のスチレン含量は、50重量%以下、45重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下または5重量%以下である。
【0021】
ゴム成分としてSBRを用いる場合、SBRのブタジエン部分のビニル含量は特に限定されず、適宜調節することができる。SBRのブタジエン部分のビニル含量は、例えば、1mol%~70mol%である。一実施形態では、SBRのブタジエン部分のビニル含量は、1mol%以上、5mol%以上、10mol%以上、20mol%以上、30mol%以上、35mol%以上、40mol%以上、45mol%以上、50mol%以上または60mol%以上である。別の実施形態では、SBRのブタジエン部分のビニル含量は、70mol%以下、60mol%以下、50mol%以下、45mol%以下、40mol%以下、35mol%以下、30mol%以下、20mol%以下、10mol%以下または5mol%以下である。
【0022】
ゴム成分の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されず、適宜調節することができる。ゴム成分のMwは、例えば、10,000~10,000,000である。一実施形態では、ゴム成分のMwは、10,000以上、50,000以上、100,000以上、150,000以上、200,000以上、250,000以上、300,000以上、400,000以上、500,000以上、1,000,000以上または5,000,000以上である。別の実施形態では、ゴム成分のMwは、10,000,000以下、5,000,000以下、4,000,000以下、3,000,000以下、2,000,000以下、1,000,000以下、500,000以下、400,000以下、300,000以下、250,000以下、200,000以下、150,000以下または100,000以下である。
【0023】
ゴム成分のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用いて測定し、単分散ポリスチレン換算することにより得ることができる。
【0024】
・一般式(1)および(2)の化合物
本発明に係るゴム組成物において、一般式(1)および(2)の化合物は、ゴム成分と共に配合されることで、低歪でのロスと高歪でのロスとのバランスを改良する働きを有する。
HS-R-COOM ・・・(1)
MOCO-R-(S)n-R-COOM ・・・(2)
(式中、
Rは、独立して、硫黄原子とCOOM基とを結ぶ直鎖部分の炭素数が8以上である、直鎖または分岐のヒドロカルビレン基であり;
Mは、独立して、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選択される原子であり;
nは、2~8の整数である)
【0025】
理論に束縛されることを望むものではないが、上記バランスを改良する理由は、例えば、以下のように推測される:
(i)一般式(1)および(2)の化合物中の硫黄原子が、ゴム成分と反応してゴム成分にCOOM基を導入する;
(ii)ゴム成分のポリマーのネットワーク間で、複数のCOOM基のMと、COOM基のCOO部分とが配位して非共有結合を形成する;
(iii)加硫されたゴム組成物またはゴム製品において、低歪では、加硫による硫黄-硫黄結合に加えて、その非共有結合でネットワークを固定し、ロスの発生を抑えるのに対し、高歪では、その弱い非共有結合が開裂し、エネルギー散逸を高め、ゴムの耐久性を向上させ、歪が解消すると、再度、非共有結合が形成され、低歪および高歪に応答可能な状態となる。
【0026】
一般式(1)および(2)の化合物において、Rは、独立して、硫黄原子とCOOM基とを結ぶ直鎖部分の炭素数が8以上である、直鎖または分岐のヒドロカルビレン基である。例えば、炭素数8の直鎖のヒドロカルビレン基の場合、一般式(1)の化合物の構造は、HS-(CH28-COOMである。また、Rは、硫黄原子とCOOM基とを結ぶ直鎖部分の炭素数が8以上であれば、分岐のヒドロカルビレン基であってもよい。例えば、HS-CH(CH3)-(CH27-COOMの構造の場合、Rは、硫黄原子とCOOM基とを結ぶ直鎖部分の炭素数が8であり、かつ、硫黄原子に隣接した炭素で分岐したヒドロカルビレン基である。
【0027】
一般式(1)および(2)の化合物のRにおける、硫黄原子とCOOM基とを結ぶ直鎖部分の炭素数は、例えば、8~30である。一実施形態では、一般式(1)および(2)の化合物のRにおける、硫黄原子とCOOM基とを結ぶ直鎖部分の炭素数は、8以上、10以上、12以上、14以上、16以上、18以上、20以上、22以上、24以上、26以上または28以上である。別の実施形態では、一般式(1)および(2)の化合物のRにおける、硫黄原子とCOOM基とを結ぶ直鎖部分の炭素数は、30以下、28以下、26以下、24以下、22以下、20以下、18以下、16以下、14以下、12以下または10以下である。
【0028】
一実施形態では、一般式(1)および(2)の化合物のRにおける、硫黄原子とCOOM基とを結ぶ直鎖部分の炭素数は、10以上である。これにより、当該化合物が、ゴム成分と混ざりやすくなり効率よく当該化合物がゴム成分と反応する。
【0029】
一般式(1)および(2)の化合物のRが分岐のヒドロカルビレン基の場合、ヒドロカルビレン基中の炭素の合計数は、例えば、9~50である。一実施形態では、一般式(1)および(2)の化合物のRが分岐のヒドロカルビレン基の場合、ヒドロカルビレン基中の炭素の合計数は、9以上、10以上、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上または45以上である。別の実施形態では、一般式(1)および(2)の化合物のRが分岐のヒドロカルビレン基の場合、ヒドロカルビレン基中の炭素の合計数は、50以下、45以下、40以下、35以下、30以下、25以下、20以下、15以下または10以下である。
【0030】
一実施形態では、一般式(1)および(2)の化合物のRが分岐のヒドロカルビレン基の場合、硫黄原子とCOOM基とを結ぶ直鎖部分の炭素数は、当該直鎖から分岐している分岐鎖の炭素数よりも多い。
【0031】
一実施形態では、前記Rが、直鎖のヒドロカルビレン基である。
【0032】
一実施形態では、一般式(1)および(2)の化合物のRは、分岐のヒドロカルビレン基であって、硫黄原子に隣接した炭素で分岐している。このような一般式(1)の化合物としては、例えば、HS-CH(CH3)-(CH27-COOMなどが挙げられる。
【0033】
一実施形態では、一般式(1)および(2)の化合物のRは、分岐のヒドロカルビレン基であって、硫黄原子の2つ隣りの炭素で分岐している。このような一般式(1)の化合物としては、例えば、HS-(CH2)-CH(CH3)-(CH26-COOMなどが挙げられる。
【0034】
一実施形態では、一般式(1)および(2)の化合物のRは、分岐のヒドロカルビレン基であって、硫黄原子の3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、または8つ隣りの炭素で分岐している。
【0035】
一実施形態では、一般式(1)および(2)の化合物は、硫黄原子に隣接した炭素から分岐している化合物を含まない。別の実施形態では、一般式(1)および(2)の化合物は、硫黄原子の2つ以上隣りの炭素で分岐している。
【0036】
一般式(2)の化合物の2つあるRは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0037】
一般式(1)および(2)の化合物において、Mは、独立して、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選択される原子である。Mとしては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr;Mg、Ca、Sr、Ba、Raが挙げられる。一実施形態では、一般式(1)および(2)の化合物において、Mは、独立して、Li、NaおよびKからなる群より選択される少なくとも1種である。低歪のヒステリシスロスと高歪のヒステリシスロスのバランスの観点から、MはNaであることが好ましい。
【0038】
本発明では、一般式(1)および(2)の化合物のMは、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選択される原子である。これによって、上述したように、ゴム成分のポリマーのネットワーク間で、複数のCOOM基のMと、COOM基のCOO部分とが配位して非共有結合を形成すると推測される。そのため、カルボン酸塩ではないカルボキシル(COOH)基を有する化合物を用いた場合、この配位による非共有結合が形成されず、カルボキシル基によるより弱い非共有結合のみとなり、低歪でのロスの発生を抑えられないおそれがある。
【0039】
一実施形態では、一般式(1)および(2)の化合物のRにおけるMは、Naである。
【0040】
一般式(2)の化合物の2つあるMは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0041】
一般式(2)において、nは、2、3、4、5、6、7および8から選択される整数である。
【0042】
一実施形態では、一般式(2)の化合物におけるnは、2~4である。
【0043】
一実施形態では、本発明に係るゴム組成物は、一般式(1)の化合物を含む。別の実施形態では、本発明に係るゴム組成物は、一般式(2)の化合物を含む。別の実施形態では、本発明に係るゴム組成物は、一般式(1)および(2)の化合物を含む。別の実施形態では、本発明に係るゴム組成物は、一般式(1)の化合物を含み、一般式(2)の化合物を含まない。別の実施形態では、本発明に係るゴム組成物は、一般式(2)の化合物を含み、一般式(1)の化合物を含まない。
【0044】
一実施形態では、一般式(1)の化合物は、HS-(CH28-COOLi、HS-(CH28-COONa、HS-(CH28-COOK、HS-(CH28-COOMg、HS-(CH28-COOCa、HS-(CH210-COOLi、HS-(CH210-COONa、HS-(CH210-COOK、HS-(CH210-COOMg、HS-(CH210-COOCa、HS-(CH212-COOLi、HS-(CH212-COONa、HS-(CH212-COOK、HS-(CH212-COOMg、HS-(CH212-COOCa、HS-(CH214-COOLi、HS-(CH214-COONa、HS-(CH214-COOK、HS-(CH214-COOMg、HS-(CH214-COOCa、HS-(CH216-COOLi、HS-(CH216-COONa、HS-(CH216-COOK、HS-(CH216-COOMg、HS-(CH216-COOCa、HS-(CH218-COOLi、HS-(CH218-COONa、HS-(CH218-COOK、HS-(CH218-COOMg、およびHS-(CH218-COOCaからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0045】
一実施形態では、一般式(2)の化合物は、LiOCO-(CH28-(S)2-(CH28-COOLi、NaOCO-(CH28-(S)2-(CH28-COONa、KOCO-(CH28-(S)2-(CH28-COOK、MgOCO-(CH28-(S)2-(CH28-COOMg、CaOCO-(CH28-(S)2-(CH28-COOCa、LiOCO-(CH210-(S)2-(CH210-COOLi、NaOCO-(CH210-(S)2-(CH210-COONa、KOCO-(CH210-(S)2-(CH210-COOK、MgOCO-(CH210-(S)2-(CH210-COOMg、CaOCO-(CH210-(S)2-(CH210-COOCa、LiOCO-(CH212-(S)2-(CH212-COOLi、NaOCO-(CH212-(S)2-(CH212-COONa、KOCO-(CH212-(S)2-(CH212-COOK、MgOCO-(CH212-(S)2-(CH212-COOMg、CaOCO-(CH212-(S)2-(CH212-COOCa、LiOCO-(CH214-(S)2-(CH214-COOLi、NaOCO-(CH214-(S)2-(CH214-COONa、KOCO-(CH214-(S)2-(CH214-COOK、MgOCO-(CH214-(S)2-(CH214-COOMg、CaOCO-(CH214-(S)2-(CH214-COOCa、LiOCO-(CH216-(S)2-(CH216-COOLi、NaOCO-(CH216-(S)2-(CH216-COONa、KOCO-(CH216-(S)2-(CH216-COOK、MgOCO-(CH216-(S)2-(CH216-COOMg、CaOCO-(CH216-(S)2-(CH216-COOCa、LiOCO-(CH218-(S)2-(CH218-COOLi、NaOCO-(CH218-(S)2-(CH218-COONa、KOCO-(CH218-(S)2-(CH218-COOK、MgOCO-(CH218-(S)2-(CH218-COOMg、およびCaOCO-(CH218-(S)2-(CH218-COOCaからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0046】
一般式(1)の化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
一般式(2)の化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
ゴム組成物における一般式(1)および(2)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の総量は、例えば、ゴム成分100gに対して、当該化合物中のCOOM基の合計量が2~20mmolである。一実施形態では、ゴム組成物における一般式(1)および(2)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の総量は、ゴム成分100gに対して、2mmol以上、3mmol以上、4mmol以上、5mmol以上、6mmol以上、7mmol以上、8mmol以上、9mmol以上、10mmol以上、12mmol以上、14mmol以上、16mmol以上または18mmol以上である。別の実施形態では、ゴム組成物における一般式(1)および(2)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の総量は、ゴム成分100gに対して、20mmol以下、18mmol以下、16mmol以下、14mmol以下、12mmol以下、10mmol以下、9mmol以下、8mmol以下、7mmol以下、6mmol以下、5mmol以下、4mmol以下または3mmol以下である。
【0049】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分と上記一般式の化合物に加えて、ゴム組成物に用いられる公知の成分を含むことができる。このような公知の成分としては、例えば、シリカおよびカーボンブラックなどの充填剤;加硫剤(架橋剤)、加硫促進剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、補強剤、軟化剤、加硫助剤、着色剤、難燃剤、滑剤、発泡剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、可塑剤、加工助剤、酸化防止剤、スコーチ防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、着色防止剤およびオイルなどが挙げられる。これらは、それぞれ、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
・充填剤
充填剤としては、カーボンブラック、およびシリカなどの公知の充填剤を適宜選択して用いることができる。
【0051】
(カーボンブラック)
カーボンブラックは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。カーボンブラックは、例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードなどのカーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、特に限定されず、例えば、20~250m2/gであってもよい。カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2:2001に準拠して測定する。
【0053】
(シリカ)
シリカは特に限定されず、例えば、一般グレードのシリカ、シランカップリング剤などで表面処理を施した特殊シリカなど、用途に応じて使用することができる。
【0054】
シリカは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
シリカは、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、湿式シリカが好ましい。
【0056】
また、湿式シリカは、沈降シリカを用いることができる。沈降シリカとは、製造初期に、反応溶液を比較的高温、中性~アルカリ性のpH領域で反応を進めてシリカ一次粒子を成長させ、その後、酸性側へ制御することで、一次粒子を凝集させて得られるシリカを指す。
【0057】
シリカのセチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB比表面積)は、特に限定されず、適宜調節することができる。シリカのCTAB比表面積は、例えば、70~250m2/gであってもよい。
【0058】
本明細書において、CTAB比表面積は、ASTM D3765-92に準拠して測定した値を指す。ただし、シリカ表面に対するセチルトリメチルアンモニウムブロミド1分子当たりの吸着断面積を0.35nm2として、CTABの吸着量から算出される比表面積(m2/g)をCTAB比表面積とする。
【0059】
シリカのBET比表面積は、特に限定されず、適宜調節することができる。シリカのBET比表面積は、例えば、100~250m2/gとすることができる。
【0060】
本明細書において、BET比表面積は、BET法により求めた比表面積を指す。BET比表面積は、ASTM D4820-93に準拠して測定することができる。
【0061】
ゴム組成物における充填剤の量は、例えば、ゴム成分100質量部に対して、20~150質量部である。
【0062】
一実施形態では、充填剤の量は、ゴム成分100質量部に対して、20質量部以上、30質量部以上、40質量部以上、50質量部以上、60質量部以上、70質量部以上、80質量部以上、90質量部以上、100質量部以上、110質量部以上、120質量部以上、130質量部以上または140質量部以上である。別の実施形態では、充填剤の量は、ゴム成分100質量部に対して、150質量部以下、140質量部以下、130質量部以下、120質量部以下、110質量部以下、100質量部以下、90質量部以下、80質量部以下、70質量部以下、60質量部以下、50質量部以下、40質量部以下または30質量部以下である。
【0063】
・ゴム組成物の調製方法
ゴム組成物の調製方法は、上記ゴム成分と一般式の化合物を含むこと以外は特に限定されず、公知のゴム組成物の調製方法を用いることができる。
【0064】
例えば、ゴム組成物の調製が、非生産工程(ノンプロ練り工程ともいう)と生産工程(プロ練り工程ともいう)とを含む場合、非生産工程で、加硫系(加硫剤および加硫促進剤)を含まない、ゴム成分;一般式の化合物の一部または全部;充填剤;およびステアリン酸などのその他の成分を混練し、生産工程で、非生産工程からの混練物に加硫系および酸化亜鉛などを添加して、その混合物を混練して、ゴム組成物を調製してもよい。
【0065】
一実施形態では、ゴム組成物の調製が、非生産工程と生産工程とを含む場合、非生産工程で、一般式の化合物を全て添加する。別の実施形態では、ゴム組成物の調製が、非生産工程と生産工程とを含む場合、非生産工程で、一般式の化合物の一部を添加し、生産工程で残りの一般式の化合物を添加する。
【0066】
ゴム組成物の調製が、非生産工程と生産工程とを含む場合、非生産工程は、1段階のみでもよいし、2段階でもよい。
【0067】
(ゴム製品)
本発明に係るゴム製品は、上記のいずれかのゴム組成物を用いて作製された、ゴム製品である。ゴム製品としては、例えば、タイヤ;防振ゴム;免振ゴム;ホース;コンベヤベルトなどのベルト;ゴムパッド(MTパッド);ゴムクローラ;ベローズ(空気バネ);エアピッカー、エアグリッパーなどの空気圧式チャック;橋梁用ゴム支承などゴム支承;ゴム被覆チェーン式落橋防止装置;OAローラなどの事務機器用ゴムなどが挙げられる。
【0068】
一実施形態では、ゴム製品は、タイヤ;防振ゴム;免振ゴム;ホース;コンベヤベルトなどのベルト;ゴムパッド(MTパッド);ゴムクローラ;ベローズ(空気バネ);エアピッカー、エアグリッパーなどの空気圧式チャック;橋梁用ゴム支承などゴム支承;ゴム被覆チェーン式落橋防止装置;OAローラなどの事務機器用ゴムからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0069】
・タイヤ
本発明に係るタイヤは、上記いずれかのゴム組成物を用いた、タイヤである。
【0070】
タイヤは、上記いずれかのゴム組成物を用いたこと以外は特に限定されず、公知のタイヤの構成と製造方法を採用することができる。タイヤにおける部材としては、例えば、トレッド部、ショルダー部、サイドウォール部、ビード部、ベルト層およびカーカスなどが挙げられる。
【実施例
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。実施例において、配合量は、特に断らない限り、質量部を意味する。
【0072】
実施例で用いた材料の詳細は以下のとおりである。
スチレンブタジエンゴム(SBR):スチレン含量10重量%、ビニル含量40mol%、数平均分子量201,000、重量平均分子量211,000
一般式(1)の化合物:SH(CH210COONa
比較化合物1:SHCH2COONa
比較化合物2:SH(CH210COOH
充填剤:カーボンブラック、東海カーボン社製、「Seast7HM」N234
ワックス:精工化学社製、「サンタイト」
老化防止剤:大内新興化学工業社製、「ノクラック6C」
加硫促進剤1:ビス(2-ベンゾチアゾリル)ペルスルフィド
加硫促進剤2:N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド
【0073】
(実施例1)
表1に示す配合で、非生産工程と生産工程を行い、加硫ゴムを得た。非生産工程では、ゴム組成物の最高温度が150℃となるように調整した。生産工程では、ゴム組成物の最高温度が110℃となるように調整した。一般式(1)の化合物の配合量は、SBR100gに対して、COONa基のモル数が5mmolとなる量とした。
(比較例1~3)
ゴム組成物の配合を表1に示す配合に変更したこと以外は、実施例1と同様に加硫ゴムを得た。比較例2および3では、比較化合物のCOONa基またはCOOH基のモル数が、実施例1の一般式(1)の化合物のCOONa基のモル数と等しくなるように、比較化合物を配合した。
【0074】
得られた加硫ゴムに対して、以下のヒステリシスロス測定を行った。
【0075】
・ヒステリシスロス測定
万能材料試験機(インストロン社製)を使用し、温度25℃、歪10%または歪300%、速度200ミリメートル/秒でローディング―アンローディング試験を行い損失するエネルギーの割合を測定した。比較例1の各ヒステリシスロスを100として、他の実施例と比較例のヒステリシスロスを指数化した。結果を表1に示す。歪10%でのヒステリシスロスが小さいほど、低発熱性に優れることを示す。歪300%でのヒステリシスロスが大きいほど、耐久性に優れることを示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1から、本発明に係るゴム組成物を用いた加硫ゴムによれば、低歪でのヒステリシスロスと、高歪でのヒステリシスロスとのバランスを改良し得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、ゴムの低歪でのヒステリシスロスと、高歪でのヒステリシスロスとのバランスを改良し得るゴム組成物を提供することができる。本発明によれば、低歪でのヒステリシスロスと、高歪でのヒステリシスロスとのバランスに優れるゴム製品を提供することができる。