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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】付着物剥離コーティング
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20241210BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20241210BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20241210BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D5/16
C09D7/63
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2022531463
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-30
(86)【国際出願番号】 EP2020083734
(87)【国際公開番号】W WO2021105429
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】19212488.1
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515168776
【氏名又は名称】ヨトゥン アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリングハウグ, ヘンリク
(72)【発明者】
【氏名】ヘド, キム
(72)【発明者】
【氏名】セイム, マリト
(72)【発明者】
【氏名】リエン, アイナー マグネ
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-524949(JP,A)
【文献】特開2019-173013(JP,A)
【文献】特開2018-172676(JP,A)
【文献】特開2006-077095(JP,A)
【文献】特開2006-188453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 10/00
C09D 101/00 - 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも50重量%のポリシロキサン部分を含む硬化性ポリシロキサン系バインダーと、
b)防汚剤と、
c)10~30乾燥重量%の、
i)1~12の親水性-親油性バランス(HLB)、及び
ii)500~18,000g/molのMn
を有する、非イオン性親水性変性ポリシロキサンと
を含む、付着物剥離コーティング組成物。
【請求項2】
a)少なくとも50重量%のポリシロキサン部分を含む硬化性ポリシロキサン系バインダーと、
b)防汚剤と、
c)10~30乾燥重量%の、
i)1~12の親水性-親油性バランス(HLB)、及び
ii)1,000~50,000g/molのMw
を有する、非イオン性親水性変性ポリシロキサンと
を含む、付着物剥離コーティング組成物。
【請求項3】
前記組成物の総乾燥重量に基づいて、30~95重量%のポリシロキサン系バインダーを含む、請求項1又は2に記載の付着物剥離コーティング組成物。
【請求項4】
前記防汚剤が、前記組成物の総乾燥重量に基づいて、乾燥重量基準で、1~15重量%の量で存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の付着物剥離コーティング組成物。
【請求項5】
前記非イオン性親水性変性ポリシロキサンが、前記組成物の総乾燥重量に基づいて、11~29重量%(乾燥重量基準)の量で存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載の付着物剥離コーティング組成物。
【請求項6】
前記防汚剤が、亜鉛ピリチオン又は銅ピリチオンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の付着物剥離コーティング組成物。
【請求項7】
前記非イオン性親水性変性ポリシロキサンが、500~18,000g/molの範囲の数平均分子量(Mn)を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の付着物剥離コーティング組成物。
【請求項8】
前記非イオン性親水性変性ポリシロキサンが、20~4,000mPa-sの範囲の粘度を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の付着物剥離コーティング組成物。
【請求項9】
前記非イオン性親水性変性ポリシロキサンが、2,000~45,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の付着物剥離コーティング組成物。
【請求項10】
前記非イオン性親水性変性ポリシロキサンが、1.0~10の範囲のHLB(親水性-親油性バランス)を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の付着物剥離コーティング組成物。
【請求項11】
前記ポリシロキサン系バインダーが、以下の式(D1)によって表される、
【化1】
(D1)
[式中、
各R1は、独立して、ヒドロキシル基、C1~6-アルコキシ基、C1~6-ヒドロキシル基、C1~6-エポキシ含有基、C1~6アミン基、又はO-Si(R53-z(R6zから選択され、
各R2は、独立して、C1~10アルキル、C6~10アリール、C7~10アルキルアリール、又はポリ(アルキレンオキシド)及び/又はR1として記載される基で置換されたC1~6アルキルから選択され、
各R3及びR4は、独立して、C1~10アルキル、C6~10アリール、C7~10アルキルアリール、又はポリ(アルキレンオキシド)で置換されたC1~6アルキルから選択され、
各R5は、独立して、C1~6アルコキシ基、アセトキシ基、エノキシ基又はケトキシ基であり、
各R6は、独立して、非置換C1~6アルキル基又は置換C1~6アルキル基から選択され、
zは、0又は1~2の整数であり、
xは、2以上の整数であり、
yは、2以上の整数である]
請求項1~10のいずれか一項に記載の付着物剥離コーティング組成物。
【請求項12】
充填剤、顔料、溶媒、添加剤、硬化剤及び触媒のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の付着物剥離コーティング組成物
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の付着物剥離コーティング組成物と、充填剤、顔料、溶媒、添加剤、硬化剤及び触媒のうちの少なくとも1つとを含む、塗料
【請求項14】
前記非イオン性親水性変性ポリシロキサンがポリエーテル変性ポリシロキサンである、請求項1~12のいずれか一項に記載の付着物剥離コーティング組成物。
【請求項15】
前記非イオン性親水性変性ポリシロキサンが、0~40℃における前記バインダーの硬化反応において非硬化性である、請求項1~12のいずれか一項に記載の付着物剥離コーティング組成物。
【請求項16】
a)少なくとも50重量%のポリシロキサン部分を含む硬化性ポリシロキサン系バインダーと、
b)防汚剤と、
c)10~30乾燥重量%の、
i)5~60重量%の範囲の親水性部分の相対重量、及び
ii)500~18,000g/molのMn
を有する、非イオン性親水性変性ポリシロキサンとを含む、付着物剥離コーティング組成物。
【請求項17】
a)少なくとも50重量%のポリシロキサン部分を含む硬化性ポリシロキサン系バインダーと、
b)防汚剤と、
c)10~30乾燥重量%の、
i)5~60重量%の範囲の親水性部分の相対重量、及び
ii)1,000~50,000g/molのMw
を有する、非イオン性親水性変性ポリシロキサンとを含む、付着物剥離コーティング組成物。
【請求項18】
請求項1~12、14~17のいずれか一項に記載の付着物剥離コーティング組成物をその外面の少なくとも一部に含む海洋構造物。
【請求項19】
請求項1~12、14、15のいずれか一項に記載の付着物剥離コーティング組成物を調製する方法であって、
a)少なくとも50重量%のポリシロキサン部分を含む硬化性ポリシロキサン系バインダーと、
b)防汚剤と、
c)10~30乾燥重量%の、
i)1~12のHLB、並びに
ii)500~18,000g/molのMn及び/又は1,000~50,000g/molのMw
を有する、非イオン性親水性変性ポリシロキサンとを、
典型的には少なくとも1つの溶媒中で混合する工程を含む、方法。
【請求項20】
請求項16または17に記載の付着物剥離コーティング組成物を調製する方法であって、
a)少なくとも50重量%のポリシロキサン部分を含む硬化性ポリシロキサン系バインダーと、
b)防汚剤と、
c)10~30乾燥重量%の、
i)5~60重量%の範囲の親水性部分の相対重量、並びに
ii)500~18,000g/molのMn及び/又は1,000~50,000g/molのMw
を有する、非イオン性親水性変性ポリシロキサンとを、
典型的には少なくとも1つの溶媒中で混合する工程を含む、方法。
【請求項21】
請求項1~12、14~17のいずれか一項に記載の付着物剥離コーティング組成物を調製するためのキットであって、
(i)硬化性ポリシロキサン系バインダー、防汚剤及び/又は非イオン性親水性変性ポリシロキサンが入った第1の容器と、
(ii)架橋剤及び/又は硬化剤、任意選択で触媒が入った第2の容器と、
(iii)任意選択で、触媒が入った第3の容器と、
(iv)任意選択で、前記容器の内容物を組み合わせるための説明書とを備える、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付着物剥離コーティング組成物、かかる付着物剥離コーティングを調製する方法、及びかかる付着物剥離コーティングでコーティングされた海洋構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
海水に沈められた表面には、緑藻類及び褐藻類、粘菌、フジツボ、イガイ及びチューブワームなどの海洋生物が付着しやすい。船舶(例えば、船、タンカー)、石油プラットフォーム及びブイなどの海洋構造物では、そのような付着物は望ましくなく、経済的な結果をもたらす。付着物は、表面の生物学的劣化、負荷の増加及び腐食の加速をもたらし得る。船舶では、付着物は摩擦抵抗を増加させ、これは速度の低下及び/又は燃料消費の増加の原因となる。それはまた、操縦性を低下させる可能性がある。
【0003】
海洋生物の定着及び成長を防止するために、防汚塗料が使用される。従来、自己研磨型防汚塗料及び付着物剥離型防汚塗料という2種類の防汚塗料が用いられている。
【0004】
自己研磨性防汚塗料は、防汚剤と、海水に徐々に溶解及び/又は加水分解し、海水がコーティング表面を侵食し、それによって新しい表面を露出させることを可能にするバインダーとを含む。最も成功した自己研磨性防汚塗料は、加水分解性シリルエステルを有する(メタ)アクリレートバインダーなどの加水分解性バインダーに基づく。海水中での段階的な加水分解は、コーティングからの防汚剤の制御された放出をもたらす。
【0005】
付着物剥離防汚塗料は、低い表面張力及び低い弾性率を有するコーティングを提供し、海生生物が付着しないか又は付着しても表面に対する水の摩擦又は洗浄によって容易に洗い流される付着物剥離面を提供することによって作用する。このようなコーティングは、ポリシロキサン系バインダーに基づくことが多い。ポリシロキサンバインダーによって作製される付着物剥離面は、大きな付着物が表面に永久的に付着することを防止するのに有効である。しかしながら、ポリシロキサン表面は、経時的に粘菌や藻類などの軟質汚染物に対する良好な耐性を示していない。
【0006】
ポリシロキサン系付着物剥離コーティング(FRC)は、伝統的に殺生物剤なしで使用されてきた。しかしながら、上述のように、FRCの課題は、粘菌及び藻類などの軟性付着物の付着である。FRCにおけるポリエーテル変性シリコーン油の使用は、粘菌及び藻類の付着を減少させることが知られている。さらに、近年では、付着物の防止をさらに改善するために、粘菌及び藻類に対して有効な殺生物剤がFRCに添加されている。うまく機能することが分かっている殺生物剤の1つのタイプは、銅ピリチオンなどのピリチオン塩である。しかしながら、殺生物剤を含むFRCには、特に付着物防止、長期性能及び粘着性に関して改善の余地がある。
【0007】
殺生物剤の添加によって、付着物防止、噴霧ダストの低減、並びに貯蔵安定性の改善及び付着物防止コーティングの強化を含む多くの技術的利点がもたらされることが証明されている。具体的には、ポリエーテル変性ポリシロキサン油を含有するFRCは、防汚剤(例えば、亜鉛ピリチオン(ZnPt)及び銅ピリチオン(CuPt)などのピリチオン塩)の添加によって補完されてきた。防汚剤(例えば、CuPt)は一般に約5~7乾燥重量%で存在し、ポリエーテル変性シリコーン油は一般に約1~5乾燥重量%で存在する。しかしながら、固体防汚剤の添加は、塗料の粘度に悪影響を及ぼす(粘度が増加する)。粘度の増加は、通常、溶媒の濃度を増加させて(薄めて)良好な塗布特性を維持することによって補うことができるが、これはVOCの増加とそれに関連する塗布する人の健康への悪影響及び環境への悪影響の増加をもたらす。本発明は、コーティング配合物の溶媒含有量(VOC)を増加させることなく、場合によっては、むしろ元の組成物のVOCを減少させる、上記の増加した粘度を補償する方法を開示する。
【0008】
本発明者らは、驚くべきことに、特定のパラメータ(分子量及びHLB)を有する非イオン性親水性変性シリコーン油を比較的多量に組み込むことによって、低いVOC、良好な適用特性(粘度)、良好な膜均一性及び改善された防汚特性を有する防汚剤を含有する付着物剥離配合物を得ることが可能であることを見出した。
【0009】
従来、ポリシロキサン系付着物剥離コーティング中に多量のポリエーテル変性シリコーン油を有することはできないと考えられてきたが、これは、それが膜中への過度に多くの水の取り込み、不十分な膜の均一性及び不十分な粘着をもたらす高い極性をもたらすからである。特許文献1は、銅ピリチオン殺生物剤に併せて、最適濃度として4~7重量%のポリエーテル変性シリコーン油を有するコーティングを教示している。特許文献2は、銅ピリチオン殺生物剤に併せて、0.13重量%のポリエーテル変性シリコーン油を含むコーティングを教示している。また、特許文献2では、多量のポリエーテル変性シリコーン油(10重量%超)が不十分な粘着性を与えることが議論されている。特許文献3は、4重量%のポリエーテル変性シリコーン油を含むコーティング組成物を開示している。
【0010】
特許文献4は、より多量のシリコーン油を開示しているが、金属架橋オルガノポリシロキサン-チオブロックビニルコポリマーに基づく異なるバインダー系に関する。特許文献5は、防汚組成物を開示しており、ポリエーテル変性シリコーン油を有するが、HLB値が高く(14.5)、多量(乾燥重量で30重量%超)に存在する比較例を有している。本発明者らは、本発明者らの実施例において、そのような多量かつ高いHLB値が、付着物剥離コーティングの不良な結果をもたらすことを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2011/076856号公報
【文献】国際公開第2014/077205号公報
【文献】国際公開第2017/009297号公報
【文献】欧州特許第2514776号明細書
【文献】欧州特許第2103655号明細書
【発明の概要】
【0012】
一態様から見ると、本発明は、
a)少なくとも50重量%のポリシロキサン部分を含む硬化性ポリシロキサン系バインダーと、
b)防汚剤と、
c)10~30乾燥重量%の、
i)1~12の親水性-親油性バランス(HLB)、及び
ii)500~18,000g/molのMn
を有する、非イオン性親水性変性ポリシロキサンと
を含む、付着物剥離コーティング組成物を提供する。
【0013】
別の態様から見ると、本発明は、
a)少なくとも50重量%のポリシロキサン部分を含む硬化性ポリシロキサン系バインダーと、
b)防汚剤と、
c)10~30乾燥重量%の、
i)1~12の親水性-親油性バランス(HLB)、及び
ii)1,000~50,000g/molのMw
を有する、非イオン性親水性変性ポリシロキサンとを含む、付着物剥離コーティング組成物を提供する。
【0014】
別の態様から見ると、本発明は、
a)少なくとも50重量%のポリシロキサン部分を含む硬化性ポリシロキサン系バインダーと、
b)防汚剤と、
c)10~30乾燥重量%の、
i)5~60重量%の範囲の親水性部分の相対重量、及び
ii)500~18,000g/molのMn
を有する、非イオン性親水性変性ポリシロキサンとを含む、付着物剥離コーティング組成物を提供する。
【0015】
別の態様から見ると、本発明は、
a)少なくとも50重量%のポリシロキサン部分を含む硬化性ポリシロキサン系バインダーと、
b)防汚剤と、
c)10~30乾燥重量%の、
i)5~60重量%の範囲の親水性部分の相対重量、及び
ii)1,000~50,000g/molのMw
を有する、非イオン性親水性ポリシロキサンとを含む、付着物剥離コーティング組成物を提供する。
【0016】
別の態様から見ると、本発明は、その外面の少なくとも一部に、本明細書で定義される付着物剥離コーティングを含む海洋構造物を提供する。
【0017】
別の態様から見ると、本発明は、本明細書で定義される付着物剥離コーティング組成物を調製する方法であって、
a)少なくとも50重量%のポリシロキサン部分を含む硬化性ポリシロキサン系バインダーと、
b)防汚剤と、
c)10~30乾燥重量%の、
i)1~12のHLB、並びに
ii)500~18,000g/molのMn及び/又は1,000~50,000g/molのMw
を有する、非イオン性親水性変性ポリシロキサンとを、
典型的には少なくとも1つの溶媒中で混合する工程を含む、方法を提供する。
【0018】
別の態様から見ると、本発明は、本明細書で定義される付着物剥離コーティング組成物を調製する方法であって、
a)少なくとも50重量%のポリシロキサン部分を含む硬化性ポリシロキサン系バインダーと、
b)防汚剤と、
c)10~30乾燥重量%の、
i)5~60重量%の範囲の親水性部分の相対重量、並びに
ii)500~18,000g/molのMn及び/又は1,000~50,000g/molのMw
を有する、非イオン性親水性変性ポリシロキサンとを、
典型的には少なくとも1つの溶媒中で混合する工程を含む、方法を提供する。
【0019】
別の態様から見ると、本発明は、本明細書で定義される付着物剥離コーティング組成物を調製するためのキットであって、
(i)硬化性ポリシロキサン系バインダー、防汚剤及び/又は非イオン性親水性変性ポリシロキサンが入った第1の容器と、
(ii)架橋剤及び/又は硬化剤、任意選択で触媒が入った第2の容器と、
(iii)任意選択で、触媒が入った第3の容器と、
(iv)任意選択で、上記の容器の内容物を組み合わせるための説明書とを備える、キットを提供する。
【0020】
定義
本明細書で使用される場合、「付着物剥離組成物」又は「付着物剥離コーティング組成物」という用語は、表面に塗布されたときに、海生生物が永久に付着することが困難な付着物剥離面を提供する組成物を指す。
【0021】
本明細書で使用される場合、「バインダー」という用語は、本組成物の膜形成成分を指す。本組成物のポリシロキサン系バインダーは、組成物中の主要なバインダーであり、すなわち、存在するバインダーの少なくとも50重量%を形成する。本明細書で使用される場合、「バインダー」という用語は、添加油を包含しない。添加油は、本明細書では膜形成成分とはみなされない。
【0022】
本明細書中で使用されるとき、用語「塗料」とは、本明細書中に記載されるような付着物剥離コーティング組成物と、任意選択で、すぐに使える溶媒、例えば噴霧用の溶媒とを含む組成物のことを指す。したがって、付着物剥離コーティング組成物は、それ自体がコーティングであってもよく、又は付着物剥離コーティング組成物は、コーティングを製造するために溶媒が添加される濃縮物であってもよい。
【0023】
本明細書で使用される場合、「ポリシロキサン」という用語は、シロキサン、すなわち-Si-O-繰り返し単位を含むポリマーを指す。
【0024】
本明細書で使用される場合、「ポリシロキサン系バインダー」という用語は、モチーフ-Si-O-を含む繰り返し単位を、ポリマーの総重量に基づいて、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%含むバインダーを指す。ポリシロキサン系バインダーは、ポリマーの総重量に基づいて、モチーフ-Si-O-を含む繰り返し単位を最大99.99重量%含み得る。繰り返し単位-Si-O-は、単一の配列で連結されていてもよく、又は非シロキサン部分、例えば有機系部分によって中断されていてもよい。
【0025】
本明細書で使用される場合、「非分解性ポリシロキサン系バインダー」という用語は、海水中で加水分解又は浸食を受けないポリシロキサン系バインダーを指す。
【0026】
本明細書で使用される場合、「アルキル」という用語は、飽和、直鎖状、分岐状又は環状の基を指す。アルキル基は置換又は非置換であり得る。
【0027】
本明細書で使用される場合、「シクロアルキル」という用語は、環状アルキル基を指す。
【0028】
本明細書で使用される場合、「アルキレン」という用語は、二価アルキル基を指す。
【0029】
本明細書で使用される場合、「アルケニル」という用語は、不飽和、直鎖状、分岐状又は環状の基を指す。アルケニル基は、置換又は非置換であり得る。
【0030】
本明細書で使用される場合、「アリール」という用語は、少なくとも1つの芳香環を含む基を指す。アリールという用語は、ヘテロアリール並びに1つ以上の芳香環がシクロアルキル環に縮合している縮合環系を包含する。アリール基は、置換又は非置換であり得る。アリール基の例は、フェニル、すなわちC6H5である。フェニル基は置換又は非置換であり得る。
【0031】
本明細書で使用される場合、「置換」という用語は、基中の水素原子の1個以上、例えば最大6個、より具体的には1、2、3、4、5又は6個が、対応する数の記載された置換基によって互いに独立して置き換えられている基を指す。本明細書で使用される「任意選択で置換されている」という用語は、置換又は非置換を意味する。
【0032】
本明細書で使用される場合、「アリールアルキル」基という用語は、Siへの結合がアルキル部分を介している基を指す。
【0033】
本明細書で使用される場合、「ポリエーテル」という用語は、アルキレン単位によって中断された2つ以上の-O-結合を含む化合物を指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、「ポリ(アルキレンオキシド)」、「ポリ(オキシアルキレン)」及び「ポリ(アルキレングリコール)」という用語は、-アルキレン-O-の繰り返し単位を含む化合物を指す。典型的には、アルキレンはエチレン又はプロピレンである。
【0035】
本明細書で使用される場合、「(メタ)アクリレート」という用語は、メタクリレートとアクリレートの両方を包含する。
【0036】
本明細書で使用される場合、重量%という用語は、特に明記しない限り、コーティング組成物の乾燥重量に基づく。
【0037】
本明細書で使用される場合、「PDI」又は多分散指数という用語は、Mw/Mnの比を指し、ここで、Mwは重量平均分子量を指し、Mnは数平均分子量を指す。PDIは、D(分散度)と呼ばれることもある。
【0038】
本明細書で使用される場合、「揮発性有機化合物(VOC)」という用語は、250℃以下の沸点を有する化合物を指す。
【0039】
本明細書で使用される場合、「防汚剤」は、表面への海生生物の定着を防止し、かつ/又は表面での海洋生物の成長を防止し、かつ/又は表面からの海洋生物の離脱を促進する生物学的に活性な化合物又は生物学的に活性な化合物の混合物を指す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明は、
a)少なくとも50重量%のポリシロキサン部分を含む硬化性ポリシロキサン系バインダーと、
b)防汚剤と、
c)10~30乾燥重量%の、
i)1~12の親水性-親油性バランス(HLB)、並びに
ii)500~18,000g/molのMn及び/又は1,000~50,000g/molのMw
を有する、非イオン性親水性変性ポリシロキサンと
を含む、付着物剥離コーティング組成物に関する。
【0041】
ポリシロキサン系バインダー
付着物剥離コーティング組成物中のバインダーは、硬化性ポリシロキサン系バインダー成分(a)を含む。ポリシロキサン系バインダーは、好ましくは非分解性の硬化性ポリシロキサン系バインダーである。ポリシロキサンが非分解性ポリシロキサン系バインダーである場合、本発明の付着物剥離コーティング組成物は、純粋な付着物剥離コーティングを提供する。
【0042】
本発明のコーティング組成物中に存在するポリシロキサン系バインダーは、少なくとも50重量%のポリシロキサン部分、好ましくは60重量%を超えるポリシロキサン部分、さらにより好ましくは70重量%を超えるポリシロキサン部分、例えば99.99重量%以上のポリシロキサン部分を含む。典型的な範囲としては、ポリシロキサン系バインダー中の50~100重量%のポリシロキサン部分、60~99.999重量%のポリシロキサン部分、又は70~99.99重量%のポリシロキサン部分が挙げられる。
【0043】
ポリシロキサン部分は、ポリシロキサン系バインダーの総重量に基づいて、モチーフ-Si-O-を含む繰り返し単位として定義される。ポリシロキサン部分の重量%は、ポリシロキサン合成における出発材料の化学量論的重量比に基づいて決定することができる。別法として、ポリシロキサン含有量は、IR又はNMRなどの分析技術を用いて決定することができる。
【0044】
典型的には、ポリシロキサン部分の重量%は、ポリシロキサン合成における反応性出発物質のモル比に基づいて計算される。モル過剰のモノマーが反応混合物中に存在する場合、そのようなモル過剰はカウントされない。反応の化学量論に基づいて反応することができるモノマーのみを勘定に入れる。
【0045】
市販のポリシロキサン系バインダー中のポリシロキサン部分の重量%に関する情報は、供給業者から容易に入手可能である。
【0046】
ポリシロキサン系バインダーは、シロキサン単位の単一の繰り返し配列からなるか、又は非シロキサン部分、例えば有機部分によって中断され得ることを理解されたい。ポリシロキサン系バインダーは、Si-O繰り返し単位のみを含むことが好ましい。
【0047】
有機部分は、例えば、アルキレン、アリーレン、ポリ(アルキレンオキシド)、アミド、チオエーテル又はそれらの組み合わせを含んでいてもよく、好ましくは、有機部分は、例えば、アルキレン、アリーレン、ポリ(アルキレンオキシド)、アミド又はそれらの組み合わせを含んでいてもよい。特定の実施形態では、ポリシロキサン系バインダーはチオ基を含まない。
【0048】
本発明の付着物剥離コーティング組成物中に存在するポリシロキサン系バインダーは、原則として、任意の硬化性ポリシロキサン系バインダーであり得る。硬化性とは、ポリシロキサン系バインダーが、ポリシロキサン系バインダー分子間で又は架橋剤を介して架橋反応が起こることを可能にする官能基を含むことを意味する。
【0049】
ポリシロキサン系バインダーは、好ましくは末端及び/又はペンダント硬化反応性官能基を有するオルガノポリシロキサンである。1分子あたり最低2個の硬化反応性官能基が好ましい。硬化反応性官能基の例は、シラノール、アルコキシ、アセトキシ、エノキシ、ケトオキシム、アルコール、アミン、エポキシ及び/又はイソシアネートである。好ましいポリシロキサン系バインダーは、シラノール、アルコキシ又はアセトキシ基から選択される硬化反応性官能基を含む。硬化反応は、典型的には縮合硬化反応である。ポリシロキサン系バインダーは、任意選択で、2種類以上の硬化反応性基を含み、例えば縮合硬化及びアミン/エポキシ硬化の両方によって硬化されてもよい。
【0050】
ポリシロキサン系バインダーは、1種類のポリシロキサンのみからなっていてもよいし、異なるポリシロキサンの混合物であってもよい。
【0051】
本発明の付着物剥離コーティング組成物中に存在する好ましいポリシロキサン系バインダーは、以下の式(D1)によって表される。
【0052】
【化1】
【0053】
式中、
各R1は、独立して、ヒドロキシル基、C1~6-アルコキシ基、C1~6-ヒドロキシル基、C1~6-エポキシ含有基、C1~6アミン基、又はO-Si(R53-z(R6zから選択され、
各R2は、独立して、C1~10アルキル、C6~10アリール、C7-10アルキルアリール、又はポリ(アルキレンオキシド)及び/又はR1として記載される基で置換されたC1~6アルキルから選択され、
各R3及びR4は、独立して、C1~10アルキル、C6~10アリール、C7~10アルキルアリール、又はポリ(アルキレンオキシド)で置換されたC1~6アルキルから選択され、
各R5は、独立して、C1~6アルコキシ基、アセトキシ基、エノキシ基又はケトキシ基などの加水分解性基であり、
各R6は、独立して、非置換C1~6アルキル基又は置換C1~6アルキル基から選択され、
zは、0又は1~2の整数であり、
xは、2以上の整数であり、
yは、2以上の整数である。
【0054】
好ましくは、R1はヒドロキシル基及びO-Si(R53-z(R6zから選択され、式中、R5はC1~C6アルコキシ基であり、R6はC1~6アルキルであり、zは0又は1~2の整数である。より好ましくは、R1はヒドロキシル基及びO-Si(R53-z(R6zから選択され、式中、R5はC1~C3アルコキシ基であり、R6はC1~3アルキルであり、zは0又は1~2の整数である。さらに好ましくは、R1は水酸基である。
【0055】
好ましくは、R2はC1~10アルキル基である。より好ましくは、R2は、C1~4アルキル基、さらに好ましくはC1~2アルキル基、さらにより好ましくはメチル基である。好ましくは、各R2は同じである。
【0056】
好ましくは、R3はC1~10アルキル基である。より好ましくは、R3は、C1~4アルキル基、さらに好ましくはC1~2アルキル基、さらにより好ましくはメチル基である。好ましくは、各R3は同じである。
【0057】
好ましくは、R4はC1~10アルキル基である。より好ましくは、R4は、C1~4アルキル基、さらに好ましくはC1~2アルキル基、さらにより好ましくはメチル基である。好ましくは、各R4は同じである。
【0058】
さらに好ましくは、R1は水酸基であり、R2、R3及びR4はそれぞれメチル基である。
本発明の付着物剥離コーティング組成物中に存在する好ましいポリシロキサン系バインダーは、以下の式(D2)によって表される。
【0059】
【化2】
【0060】
式中、
各R1は、独立して、ヒドロキシル基、C1~6-アルコキシ基、C1~6-ヒドロキシル基、C1~6-エポキシ含有基、C1~6アミン基、又はO-Si(R53-z(R6zから選択され、
各R2からR4は、メチルであり、
各R5は、独立して、C1~6アルコキシ基、アセトキシ基、エノキシ基又はケトキシ基などの加水分解性基であり、
各R6は、独立して、非置換C1~6アルキル基又は置換C1~6アルキル基から選択され、
zは、0又は1~2の整数であり、
xは、2以上の整数であり、
yは、2以上の整数である。
【0061】
本発明の付着物剥離コーティング組成物中に存在する別の好ましいポリシロキサン系バインダーは、以下の式(D3)によって表される。
【0062】
【化3】
【0063】
式中、R1、R2、R3、R4及びx及びyは(D1)について定義される通りであり、RxはC2~3アルキルであり、各L1は0から50であり、各L2は0から50であり、但し、L1+L2は2から50、好ましくは4から40、より好ましくは4~20、最も好ましくは4~10であり、L3は1~200、好ましくは2~100、最も好ましくは5~50である。ポリシロキサン部分は、分子の最小50重量%を形成しなければならない。
【0064】
本発明のポリシロキサン系バインダーは、式D1で表されることが好ましい。
【0065】
当業者は、ポリシロキサン系バインダーが、少量の不純物、例えば、ポリシロキサン合成の残留物である、D4、D5及びD6環状シロキサンなどの環状シロキサンを含有し得ることを認識しており、ここで、(D4、D5、又はD6)という名称は、環状ポリシロキサン中の繰り返しSi-O単位の数(すなわち、環状ポリシロキサン中の繰り返しSi-O単位が4、5又は6個であること)を指す。健康、安全性及び環境の面から、コーティング中に存在する環状ポリシロキサンの量を制限することが好ましい。好ましい一実施形態では、ポリシロキサン系バインダーは、5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満の環状ポリシロキサンを含有する。特に好ましい一実施形態では、ポリシロキサン系バインダーは環状ポリシロキサンを含まない。
【0066】
本発明の付着物剥離コーティング組成物中に存在するポリシロキサン系バインダーの重量平均分子量は、好ましくは400~150,000g/mol、より好ましくは1000~120,000g/mol、さらにより好ましくは5000~110,000g/molである。
【0067】
一実施形態では、ポリシロキサンバインダー(a)は、非イオン性親水性変性ポリシロキサン成分(c)のHLBパラメータを満たさない。具体的には、ポリシロキサンバインダーは、0.5未満、例えば、0.1未満のHLB値を有し得る。
【0068】
本発明の好ましいコーティング組成物は、組成物の総乾燥重量に基づいて、30~95重量%のポリシロキサン系バインダー、より好ましくは40~90重量%のポリシロキサン系バインダー、さらにより好ましくは50~90重量%のポリシロキサン系バインダーを含む。
【0069】
本発明のコーティング組成物に使用するのに適したポリシロキサン系バインダーは市販されている。代表的な市販の非分解性ポリシロキサン系バインダーとしては、Dow Corning製のXiameter(登録商標)OHX-0135、Xiameter(登録商標)OHX-4000、Xiameter(登録商標)OHX-4010、Xiameter(登録商標)OHX-4040、Xiameter(登録商標)OHX-4050、Xiameter(登録商標)OHX-4060、Evonik製のPolymerOH 0.08、PolymerOH 0.75、PolymerOH 1、PolymerOH 2、PolymerOH 3.5、PolymerOH 5、PolymerOH 20、PolymerOH 80、及びGelest製のDMS-S15、DMS-S21、DMS-S27、DMS-S31、DMS-S32、DMS-S33、DMS-S35、DMS-S42、DMS-S51が挙げられる。
【0070】
防汚剤
本発明の防汚コーティング組成物は、防汚剤(b)を含む。
【0071】
防汚剤、生物学的に活性な化合物、防汚剤、殺生物剤、毒性物質という用語は、表面上の海洋汚損を防止するように作用する既知の化合物を説明するために業界で使用されている。本発明の組成物中に存在する防汚剤は、好ましくは海洋防汚剤である。防汚剤は、無機、有機金属又は有機であってもよい。好ましくは、防汚剤は有機金属防汚剤である。適切な防汚剤は市販されている。
【0072】
無機防汚剤の例としては、銅及び酸化銅などの銅化合物、例えば酸化第一銅及び酸化第二銅、銅合金、例えば銅-ニッケル合金、銅塩、例えばチオシアン酸銅及び硫化銅が挙げられる。
【0073】
有機金属系防汚剤の例としては、亜鉛ピリチオン;有機銅化合物、例えば、銅ピリチオン、酢酸銅、ナフテン酸銅、オキシン銅、銅ノニルフェノールスルホネート、銅ビス(エチレンジアミン)ビス(ドデシルベンゼンスルホネート)及び銅ビス(ペンタクロロフェノレート);ジチオカルバメート化合物、例えば、亜鉛ビス(ジメチルジチオカルバメート)[ジラム]、亜鉛エチレンビス(ジチオカルバメート)[ジネブ]、マンガンエチレンビス(ジチオカルバメート)[マンネブ]、及び亜鉛塩[マンコゼブ]と複合化したマンガンエチレンビス(ジチオカルバメート)が挙げられる。
【0074】
有機系防汚剤の例としては、複素環化合物、例えば、2-(tert-ブチルアミノ)-4-(シクロプロピルアミノ)-6-(メチルチオ)-1,3,5-トリアジン[シブトリン]、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン[DCOIT]、カプセル化4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン[DCOIT]、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、2-(チオシアナトメチルチオ)-1,3-ベンゾチアゾール[ベンチアゾール]、及び2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジン;尿素誘導体、例えば、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素[ジウロン];カルボン酸、スルホン酸及びスルフェン酸のアミド及びイミド、例えば、N-(ジクロロフルオロメチルチオ)フタルイミド、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-フェニルスルファミド[ジクロフルアニド]、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-p-トリルスルファミド[トリルフルアニド]、及びN-(2,4,6トリクロロフェニル)マレイミド;他の有機化合物、例えば、ピリジントリフェニルボラン[TPBP]、アミントリフェニルボラン、3-ヨード-2-プロピニルN-ブチルカルバメート[ヨードカルブ]、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、p-((ジヨードメチル)スルホニル)トルエン、及び4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル[トラロピリル]と第四級アンモニウム塩、が挙げられる。
【0075】
防汚剤の他の例としては、テトラアルキルホスホニウムハロゲニド、グアニジン誘導体、4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール[メデトミジン]及びその誘導体などのイミダゾール含有化合物、イベルメクチンなどのアベルメクチン及びその誘導体、スピノサドなどのスピノシン及びその誘導体、フェニルカプサイシンなどのカプサイシン及びその誘導体を含む大環状ラクトン、並びに、酵素、例えば、オキシダーゼ、タンパク質分解的、ヘミセルロース分解的、セルロース分解的、脂肪分解的及びアミノ分解的に活性な酵素が挙げられる。
【0076】
好ましい防汚剤は、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、亜鉛エチレンビス(ジチオカルバメート)[ジネブ]、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン[DCOIT]及びカプセル化4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン[DCOIT]である。特に好ましい防汚剤は、亜鉛ピリチオン及び銅ピリチオン、特に銅ピリチオンである。
【0077】
本発明では、非イオン性親水性変性ポリシロキサン油を含有するFRCは、典型的には、ピリチオン塩殺生物剤(亜鉛ピリチオン(ZnPt)及び銅ピリチオン(CuPt))の添加によって補完されてきた。特許文献では、CuPtは一般に約5~7乾燥重量%で存在し、ポリエーテル変性油は一般に約1~5乾燥重量%で存在する。しかしながら、針状形態を有する固体ピリチオン塩の添加は、塗料の粘度に悪影響を及ぼす(粘度が増加する)。粘度の増加は、通常、溶媒の濃度を増加させて(薄めて)良好な塗布特性を維持することによって補うことができるが、VOCの増加とそれに関連する塗布する人の健康への悪影響及び環境への悪影響の増加を伴う。本発明は、コーティング配合物の溶媒含有量(VOC)を増加させることなく、場合によっては、むしろ元の組成物のVOCを減少させる、上記の増加した粘度を補償する方法を開示する。
【0078】
殺生物剤は、典型的には、全コーティング組成物の乾燥重量の1~20%、好ましくは全コーティング組成物の乾燥重量の1~15%、2~15%又は3~12%で存在する。これらの防汚剤の使用は、防汚コーティングにおいて知られており、それらの使用は当業者によく知られている。防汚剤は、制御された放出のために、不活性担体上にカプセル化若しくは吸着されていてもよく、又は他の材料に結合されていてもよい。これらのパーセンテージは、存在する活性防汚剤の量を指し、したがって、使用される担体の量を指すものではない。
【0079】
非イオン性親水性変性ポリシロキサン
本発明のコーティング組成物は、非イオン性親水性変性ポリシロキサン(c)を含む。この成分は、ポリシロキサンバインダー成分(a)とは異なることが理解されよう。すなわち、コーティング組成物は、2つの異なる成分(a)及び(c)を含まなければならない。一実施形態では、ポリシロキサンバインダー(a)は、非イオン性親水性変性ポリシロキサン成分(c)のHLBパラメータを満たさない。具体的には、ポリシロキサンバインダーは、0.5未満、例えば、0.1未満のHLB値を有し得る。
【0080】
非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、適切な硬化温度(0~40℃)での硬化反応中にバインダー又は架橋剤と反応する反応性基を含有しないことを理解されたい。したがって、非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、硬化反応において、特にバインダー成分に関して非反応性であることが意図されている。
【0081】
バインダー上の硬化反応性基に応じて、親水性変性ポリシロキサンは、硬化反応中に存在する場合に、バインダー又は架橋剤と反応する基を含まないように選択されることを理解されたい。したがって、非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、コーティング組成物中の非硬化性成分である。本明細書において、非硬化性とは、非イオン性の親水性変性ポリシロキサンが、0~40℃の温度範囲における硬化反応中にバインダー又は架橋剤と反応しないことを意味する。
【0082】
好ましい一実施形態では、非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、適切な硬化温度(0~40℃)でバインダー又は架橋剤(存在する場合)と反応し得るSi-OH基、Si-OR(アルコキシ)、エノキシ、ケトオキシムルアップなどのシリコーン反応性基を含有しない。
【0083】
特定の実施形態では、非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、Si-OH基又はSi-OR(アルコキシ、すなわちR=アルキル)基を含有しない。
【0084】
非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、同一分子内に親水性基と親油性基の両方を含むため、界面活性剤及び乳化剤として広く使用されている。本発明による非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、非イオン性親水基で変性されることで、同じ数のポリシロキサン単位を有する対応する非置換ポリシロキサンと比較してより親水性になったポリシロキサンである。親水性は、エーテル(例えば、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレン基)、アルコール(例えば、ポリ(グリセロール)、アミド(例えば、ピロリドン、ポリビニルピロリドン、(メタ)アクリルアミド)、酸(例えば、カルボン酸、ポリ(メタ)アクリル酸)、アミン(例えば、ポリビニルアミン、アミン基を含む(メタ)アクリルポリマー)などの非イオン性親水性基による変性によって得ることができる。典型的には、非イオン性親水性変性ポリシロキサンは油状物である。
【0085】
本明細書における「非イオン性」は、親水性変性ポリシロキサンが塩部分を含まないこと、特に、典型的には金属カチオンを含まないことを意味する。
【0086】
非イオン性親水性変性ポリシロキサンの親水性は、HLB(親水性-親油性バランス)パラメータに従って決定される。本発明の非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、1~12、好ましくは1.0~10、より好ましくは1.0~8.0、最も好ましくは2.0~7.0の範囲のHLB(親水性-親油性バランス)を有する。特定の実施形態では、非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、3.0~6.0の範囲のHLBを有する。
【0087】
HLBは、本明細書では、典型的には、「親水性基の重量%」/5の式を使用してグリフィンのモデルに従って決定される(参考文献:Griffin,W.C.Calculation of HLB values of non-ionic surfactants,J.Soc.Cosmet.Chem.1954,5,249-256)。したがって、特定の実施形態では、HLBは、式HLB=「親水性基の重量%」/5に従って計算される。HLBパラメータは、非イオン性界面活性剤用に確立されたパラメータであり、市販の非イオン性親水性変性ポリシロキサンの供給業者から容易に入手可能である。界面活性剤のHLB値が高いほど、親水性が高くなる。親水性基の重量%とは、非イオン性の親水性変性ポリシロキサン中の親水性基の重量%を意味する。親水性基の重量%をHLB値に変換することができ、その逆も同様である。1~12のHLB値は、例えば、5~60重量%の親水性基の重量%に相当する。
【0088】
非イオン性の親水性変性ポリシロキサンの機能は、コーティング膜の表面への殺生物剤の溶解及び移動を促進することである。また、塗膜-水界面における水和層の形成が防汚性能にとって重要であることも周知である。
【0089】
例えば、分子中の親水性基の量が多いために、非イオン性親水性変性ポリシロキサンの親水性が高すぎる場合、これは、大きすぎる浸出速度に起因する殺生物剤及び非イオン性親水性変性ポリシロキサンの早期枯渇をもたらし得る。高い親水性はまた、ポリシロキサン系バインダーマトリックスとの不十分な相溶性をもたらし、特に高い油量(10重量%超)が使用される場合に、不十分な膜均一性及び不十分な粘着性をもたらす。
【0090】
殺生物剤及び非イオン性親水性変性ポリシロキサンの浸出速度を制御する方法としては、非イオン性親水性変性ポリシロキサンの分子量、親水性及びバインダーとの混和性が挙げられる。非常に低分子量の非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、高い浸出速度を可能にする傾向があるが、分子量が高すぎると、殺生物剤及び非イオン性親水性変性ポリシロキサンの浸出を所望の速度にすることができない場合がある。
【0091】
したがって、好ましい実施形態では、非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、500~18,000g/molの範囲、例えば1000~16,000g/molの範囲、特に2000~15,050g/mol又は4000~15,050g/molの範囲の数平均分子量(Mn)を有する。非イオン性親水性変性ポリシロキサンのさらに好適なMnの範囲としては、500~15,000g/mol、1,000~13,000g/mol、又は3,000~10,000g/molが挙げられる。本明細書で言及される数平均分子量(Mn)値は、例えば、ポリスチレン標準に対して測定されたGPCによって得られた実験的に得られた値に対応する。この方法は、以下の実験セクションに記載されている。
【0092】
好ましい実施形態では、非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、1,000~50,000g/mol、好ましくは2,000~45,000g/mol、3,000~42,000g/mol、4,000~40,000g/mol、又は5,000~40,000g/molの範囲の重量平均分子量(Mw)を有する。さらに好適な範囲としては、5,000~30,000g/mol、例えば、5,000~25,000g/mol、又は10,000~20,000g/molが挙げられる。本明細書で言及される重量平均分子量(Mw)値は、例えば、ポリスチレン標準に対して測定されたGPCによって実験的に得られた値に対応する。この方法は、以下の実験セクションに記載されている。
【0093】
Mn又はMwの特定の範囲は、本発明の有益な特性にとって重要である。実際、これらの分子量は粘度に影響を及ぼし、そして粘度は塗布の容易さ及び表面粗さに影響を及ぼす。これらの分子量はまた、コーティング膜の表面への殺生物剤及び非イオン性親水性変性ポリシロキサンの移動に影響を及ぼし、そしてこの移動は付着物防止性能に影響を及ぼす。
また、非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、実験セクションに示される方法に従って測定した場合に、20~4,000mPa-sの範囲、例えば30~3,000mPa-sの範囲、特に50~2,500mPa-sの範囲の粘度を有することが好ましい。
【0094】
本コーティング組成物に含まれる非イオン性親水性変性ポリシロキサンの量もまた重要なパラメータである。量が少なすぎると、高粘度のコーティング組成物が得られ、これは、塗布特性の低下をもたらし得る。あるいは、より多くの溶媒を添加する必要があり、より高いVOCを有するコーティング組成物が得られる。非イオン性親水性変性ポリシロキサンの量が少ないと、非イオン性親水性変性ポリシロキサンが膜からあまりにも早く枯渇する可能性があるため、コーティングの長期的な汚損防止が不十分になる可能性もある。非イオン性親水性変性ポリシロキサンの量が多すぎると、膜の均一性が不十分になり、汚損防止が不十分になる。
【0095】
非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、乾燥重量で10~30重量%(例えば、乾燥重量で10~25重量%)、好ましくは乾燥重量で11~29重量%、好ましくは乾燥重量で12~28重量%、好ましくは乾燥重量で13~27重量%、好ましくは乾燥重量で14~26重量%、例えば乾燥重量で15~25重量%の量でコーティング組成物に含まれる。2種類以上の異なるタイプの非イオン性親水性変性ポリシロキサンが存在する場合、これらの量は、非イオン性親水性変性ポリシロキサン成分の総和を指す。
【0096】
特に興味深いのは、親水性部分(例えばポリエーテル基)の相対重量が全重量の5%以上(例えば5~60%)、例えば、非イオン性親水性変性ポリシロキサンの全重量の6%以上(例えば6~50%)、特に10%以上(例えば10~40%)であるところの、非イオン性親水性変性ポリシロキサンである。非イオン性親水性変性ポリシロキサン中の親水性部分の相対重量の他の適切な範囲としては、5~60重量%、好ましくは5~50重量%、より好ましくは5~40重量%、最も好ましくは10~35重量%、特に15~30重量%が挙げられる。
【0097】
親水性部分の重量%は、非イオン性親水性変性ポリシロキサン合成における出発物質の化学量論比に基づいて計算することができ、又はIR若しくはNMRなどの分析技術を用いて決定することができる。
【0098】
反応物がモル過剰である場合、そのようなモル過剰は、親水性部分の重量%を決定する際に勘定に入れない。反応の化学量論に基づいて反応することができるモノマーのみを勘定に入れる。
【0099】
HLBが既知である場合、親水性部分の重量%は、式HLB=「親水性基の重量%」/5を使用してグリフィンのモデルに従って計算することもできる。
【0100】
非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、少量の不純物、例えば、ポリシロキサン合成の残留物である、D4、D5及びD6環状シロキサンなどの環状シロキサンを含有し得、ここで、(D4、D5及びD6)という名称は、環状ポリシロキサン中の繰り返しSi-O単位の数(すなわち、環状ポリシロキサン中の繰り返しSi-O単位が4、5又は6個であること)を指す。健康、安全性及び環境の面から、コーティング組成物中に存在する環状ポリシロキサンの量を制限することが好ましい。好ましい一実施形態では、非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満の環状ポリシロキサンを含有する。特に好ましい一実施形態では、非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、環状ポリシロキサンを含まない。
【0101】
好ましい一実施形態では、非イオン性親水性変性ポリシロキサンはポリエーテル変性ポリシロキサンであり、換言すれば、親水性部分はポリエーテル基である。
【0102】
好ましくは、ポリエーテル基は、少なくとも3個の繰り返し単位、例えば少なくとも5個の繰り返し単位を含む。多くの興味深い実施形態では、オリゴマー又はポリマーは、5~100個の繰り返し単位、例えば5~50個、又は8~50個、又は8~20個の繰り返し単位を含む。
【0103】
いくつかの好ましい実施形態では、ポリエーテル基(すなわち、オリゴマー基又はポリマー基)は、100~2500g/molの範囲、例えば200~2000g/molの範囲、特に300~2000g/molの範囲、又は400~1000g/molの範囲の数平均分子量(n)を有する。
【0104】
特に興味深いのは、ポリエーテル部分の相対重量が全重量の5%以上(例えば5~60%)、例えば、ポリエーテル変性ポリシロキサンの全重量の6%以上(例えば6~50%)、特に10%以上(例えば10~40%)であるところの、ポリエーテル変性ポリシロキサンである。
【0105】
本発明の一変形形態では、ポリエーテル変性ポリシロキサンは、ポリ(オキシアルキレン)鎖がグラフト化されたポリシロキサンである。このようなポリエーテル変性ポリシロキサンの構造の例示的な例は、式(A)である。
【0106】
【化4】
【0107】
式中、各R7は、独立して、C1~5-アルキル(直鎖状又は分枝状の炭化水素基を含む)及びアリール(例えば、フェニル(-C6H5))、特にメチルから選択され、
各R8は、独立して、-H、C1~4-アルキル(例えば、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、-CH(CH32、-CH2CH2CH2CH3)、フェニル(-C6H5)、及びC1~4-アルキルカルボニル(例えば、-C(=O)CH3、-C(=O)CH2CH3及び-C(=O)CH2CH2CH3)、特に-H、メチル、及び-C(=O)CH3から選択され、
各R9は、独立して、C2~5-アルキレン(例えば、-CH2CH2-、-CH2CH(CH3)、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH2CH3)-)、アリーレン(例えば、1,4-フェニレン)及びアリールで置換されたC2~5-アルキレン(例えば1-フェニルエチレン)、特に-CH2CH2-及び-CH2CH(CH3)-などのC2~5-アルキレンから選択され、
kは0~240であり、lは1~60であり、k+lは1~240であり、また、
nは0~50であり、mは0~50であり、m+nは1~50である。
【0108】
詳細には、R7はメチルであり、
各R8は、独立して、-H又はC1~4-アルキル又は-C(=O)CH3から選択され、
各R9は、-CH2CH2-、又は-CH2CH2CH2-、又は-CH2CH(CH3)-であり、
kは0~240であり、lは1~60であり、k+lは1~240であり、また、
nは0~50であり、mは0~50であり、m+nは1~50である。
【0109】
全てのR7基が同じであることが好ましい。
【0110】
このタイプの市販のポリエーテル変性ポリシロキサンの例は、ShinEtsu製のKF352A、KF353、KF945、KF6012、KF6017、DOW製のXIAMETER OFX-5220、DOWSIL OFX-5247、XIAMETER OFX-5329、XIAMETER OFX-5330である。
【0111】
本発明の別の変形例では、ポリエーテル変性ポリシロキサンは、その骨格にポリ(オキシアルキレン)鎖が組み込まれたポリシロキサンである。このような親水性変性ポリシロキサンの構造の例示的な例は、式(B)である。
【0112】
【化5】
【0113】
式中、各R7は、独立して、C1~5-アルキル(直鎖状又は分枝状の炭化水素基を含む)及びアリール(例えば、フェニル(-C6H5))、特にメチルから選択され、
各R8は、独立して、-H、C1~4-アルキル(例えば、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH-CH(CH32、-CH2CH2CH2CH3)、フェニル(-C6H5)、及びC1~4-アルキルカルボニル(例えば、-C(=O)CH3、C(=O)CH2CH3及び-C(=O)CH2CH2CH3)、特に-H、メチル、及び-C(=O)CH3から選択され、
各R9は、独立して、C2~5-アルキレン(例えば、-CH2CH2-、-CH2CH(CH3)、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH2CH3)-)、アリーレン(例えば、1,4-フェニレン)及びアリールで置換されたC2~5-アルキレン(例えば1-フェニルエチレン)、特に-CH2CH2-及び-CH2CH(CH3)-などのC2~5-アルキレンから選択され、
kは0~240であり、
nは0~50であり、mは0~50であり、m+nは1~50である。
【0114】
詳細には、式中、R7はメチルであり、
各R8は、独立して、-H又はC1~4-アルキル又は-C(=O)CH3から選択され、
各R9は、-CH2CH2-、-CH2CH(CH3)-、又は-CH2CH2CH2-であり、
kは0~240であり、
nは0~50であり、mは0~50であり、m+nは1~50である。
全てのR7基が同じであることが好ましい。
【0115】
このタイプの市販の親水性変性ポリシロキサンは、DOW製のDOWSIL 2-8692及びXIAMETER OFX-3667である。
【0116】
さらに別の変形例では、ポリエーテル変性ポリシロキサンは、その骨格にポリオキシアルキレン鎖が組み込まれ、ポリオキシアルキレン鎖がグラフトされたポリシロキサンである。このような親水性変性ポリシロキサンの構造の例示的な例は、式(C)である。
【0117】
【化6】
【0118】
式中、各R7は、独立して、C1~5-アルキル(直鎖状又は分枝状の炭化水素基を含む)及びアリール(例えば、フェニル(-C6H5))、特にメチルから選択され、
各R8は、独立して、-H、C1~4-アルキル(例えば、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、-CH(CH32、-CH2CH2CH2CH3)、フェニル(-C6H5)、及びC1~4-アルキルカルボニル(例えば、-C(=O)CH3、-C(=O)CH2CH3及び-C(=O)CH2CH2CH3)、特に-H、メチル、及び-C(=O)CH3から選択され、
各R9は、独立して、C2~5-アルキレン(例えば、-CH2CH2-、-CH2CH(CH3)-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH2CH3)-)、アリーレン(例えば、1,4-フェニレン)及びアリールで置換されたC2~5-アルキレン(例えば1-フェニルエチレン)、特に-CH2CH2-及び-CH2CH(CH3)-などのC2~5-アルキレンから選択され、
kは0~240であり、lは1~60であり、k+lは1~240であり、
nは0~50であり、mは0~50であり、m+nは1~50である。
【0119】
詳細には、式中、R7はメチルであり、
【0120】
各R8は、-H又はC1~4-アルキル又は-C(=O)CH3であり、
各R9は、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、又は-CH2CH(CH3)-であり、
kは0~240であり、yは1~60であり、x+yは1~240であり、
nは0~50であり、mは0~50であり、m+nは1~50である。
【0121】
上記構造(A)、(B)及び(C)において、基-CH2CH(CH3)-、-CH2CH(CH2CH3)-などは、2つの可能な配向のうちのいずれかの配向で存在し得る。同様に、k倍及びl倍存在するセグメントは、典型的にはポリシロキサン構造中にランダムに分布していることを理解されたい。
【0122】
これらの実施形態及び変形例では、ポリエーテル又はポリ(オキシアルキレン)は、好ましくは、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン及びポリ(オキシエチレン-コ-オキシプロピレン)から選択され、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリ(エチレングリコール-コ-プロピレングリコールと呼ばれることもある。したがって、上記構造(A)、(B)及び(C)において、2つの酸素原子を連結する各R9は、好ましくは-CH2CH2-及び-CH2CH(CH3)-から選択される一方で、ケイ素原子及び酸素原子を連結する各R9は、好ましくはC2~5-アルキルから選択される。
【0123】
上記構造(A)、(B)及び(C)のいくつかの実施形態では、R8は好ましくは水素ではない。
【0124】
1つ以上のポリエーテル変性ポリシロキサンは、異なるタイプ、例えば上記のタイプのうちの2つ以上であってもよいことを理解されたい。
【0125】
別の好ましい実施形態では、非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、ポリグリセロール基又はピロリドン基を含む。
【0126】
架橋剤及び/又は硬化剤
先に説明したように、本発明のポリシロキサン系バインダーは、硬化性であり、シラノール基、カルビノール基、カルボキシル基、エステル基、ヒドリド基、アルケニル基、ビニルエーテル基、アリルエーテル基、アルコキシシラン基、ケトオキシム基、アミン基、エポキシ基、イソシアネート基及び/又はアルコキシ基などの硬化反応性官能基を含む。好ましくは、ポリシロキサン系バインダーは、少なくとも2つの硬化反応性官能基を含む。任意選択で、ポリシロキサン系バインダーは、2種類以上の硬化反応性官能基を含む。好ましくは、ポリシロキサン系バインダーは、単一タイプの硬化反応性官能基を含む。適切な架橋剤及び/又は硬化剤は、ポリシロキサン系バインダー中に存在する硬化反応性官能基に応じて選択される。
【0127】
好ましいポリシロキサン系バインダーにおいて、硬化反応性官能基は、シラノール、カルビノール、アルコキシシラン、イソシアネート、アミン及び/又はエポキシである。さらに好ましいポリシロキサン系バインダーにおいて、硬化反応性官能基はシラノール、カルビノール及び/又はアルコキシシランである。
【0128】
所望の架橋密度を得るために架橋剤を添加することが必要な場合がある。硬化反応性官能基がシラノールである場合、好ましい架橋剤は、以下に示す一般式で表される有機ケイ素化合物、その部分加水分解縮合物又はその2つの混合物である。
【0129】
Rd-Si-K4-d
式中、
各Rは、独立して、1~6個の炭素原子を有する非置換又は置換の一価炭化水素基、ポリ(アルキレンオキシド)で置換されたC1~6アルキル、又は構造(O-(CRD 2r’r1’-(O-(CRD 2s’s1’-(Si(RPP2-O)t’-Si(RPP3のポリシロキサンから選択され、式中、r’、r1’、s’及びs1’は0~10の整数であり、各RDはH又はC1~4アルキルから独立して選択され、各RPPはC1~10アルキル、C6~10アリール、C7~10アルキルアリールから独立して選択され、t’は1から50の整数であり、各Kは、アルコキシ基などの加水分解性基から独立して選択され、dは、0、1又は2、より好ましくは0又は1である。
【0130】
このタイプの好ましい架橋剤には、テトラエトキシシラン、ビニルトリス(メチルエチルオキシモ)シラン、メチルトリス(メチルエチルオキシモ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン及びビニルトリイソプロペノキシシラン並びにそれらの加水分解縮合生成物が含まれる。
【0131】
硬化反応性官能基がジ又はトリアルコキシである場合、別個の架橋剤は一般に必要とされない。
【0132】
架橋剤は、好ましくは、コーティング組成物の総乾燥重量の0~10重量%の量で存在する。適切な架橋剤、例えば、Wacker製のSilcate TES-40 WN及びEvonik製のDynasylan Aは市販されている。
【0133】
硬化反応性官能基がカルビノールである場合、好ましい硬化剤は、モノマーイソシアネート、ポリマーイソシアネート及びイソシアネートプレポリマーである。ポリイソシアネートは、毒性が低いため、モノマーイソシアネートよりも好ましい。ポリイソシアネートは、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)及びイソホロンジイソシアネート(IPDI)化学に基づくことができる。これらは、例えば、CovestroによってDesmodurの商品名で供給され、VencorexによってTolonateの商品名で供給されている。ポリイソシアネートの例は、Covestroから供給されるDesmodur N3300、Desmodur 3390 BA/SN、Desmodur N3400、Desmodur N3600、Desmodur N75、Desmodur XP2580、Desmodur Z4470、Desmodur XP2565及びDesmodur VLである。
【0134】
ポリイソシアネートは、異なるNCO官能価で作製することができる。NCO官能価は、ポリイソシアネート1分子又はイソシアネートプレポリマー1分子あたりのNCO基の量である。異なるNCO官能価を有するポリイソシアネート硬化剤を使用することができる。
【0135】
硬化剤は、好ましくは、ヒドロキシル基の量に対して0.8~2.5当量のNCO基の量で存在し、好ましくは0.9~2.0当量、より好ましくは0.95~1.7当量、さらにより好ましくは1~1.5当量で存在する。
【0136】
硬化反応性官能基がアミン、エポキシ又はイソシアネートである場合、硬化剤は、好ましくはアミン、硫黄又はエポキシ官能性である。
【0137】
硬化剤は、例えば、アミン/硫黄/エポキシ/イソシアネート及びアルコキシシランの両方を含有する二重硬化剤であってもよい。好ましい二重硬化剤は、以下の一般式によって表される。
【0138】
【化7】
【0139】
式中、
LLは、独立して、1~6個の炭素原子を有する非置換又は置換の一価炭化水素基から選択され、
各Mは、独立して、アルコキシ基などの加水分解性基から選択され、
aは、0、1又は2、好ましくは0又は1であり、
bは、1~6の整数であり、
Fnは、アミン基、エポキシ基、グリシジルエーテル基、イソシアネート基又は硫黄基である。
【0140】
このような二重硬化剤の好ましい例としては、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランが挙げられる。1つの特に好ましい硬化剤は、Evonik製のDynasylan AMEOなどの3-アミノプロピルトリエトキシシランである。
【0141】
このタイプの二重硬化剤は、別個の硬化剤として使用することができ、又はポリシロキサン系バインダーの末端基が硬化反応の前に変性されるようにポリシロキサン系バインダーをエンドキャップするために使用することができる。例えば、ポリシロキサン系バインダーと硬化剤との混合は、物品にコーティングを塗布する直前に、例えばコーティングの1時間前又はそれより前に行うことができ、又はポリシロキサン系バインダーは、硬化性形態で供給することができるが、早期硬化を防止するために乾燥したままにすることができる。いくつかの組成物において、硬化剤/エンドキャップ剤は、好ましくは、コーティングが物体に塗布される前に硬化するのを防止するために、コーティング組成物の残りの部分に別々に供給される。したがって、本発明のコーティング組成物は、以下でより詳細に論じられる多液型(好ましくは3液型)配合物として供給することができる。
【0142】
触媒
硬化プロセスを補助するために、本発明のコーティング組成物は、好ましくは触媒を含む。使用することができる触媒の代表的な例としては、遷移金属化合物、金属塩及び様々な金属の有機金属錯体、例えば、スズ、鉄、鉛、バリウム、コバルト、亜鉛、アンチモン、カドミウム、マンガン、クロム、ニッケル、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、チタン、ホウ素、リチウム、カリウム、ビスマス及びジルコニウムが挙げられる。塩は、好ましくは、長鎖カルボン酸の塩及び/又はキレート又は有機金属塩である。
【0143】
適切なスズ系触媒の例としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズ2-エチルヘキサノエート、ジブチルスズジネオデカノエート、ジブチルスズジメトキシド、ジブチルスズジベンゾエート、ジブチルスズアセトアセトネート、ジブチルスズアセチルアセトネート、ジブチルスズアルキルアセトアセトネート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクトエート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクチルスズ2-エチルヘキサノエート、ジオクチルスズジネオデカノエート、ジオクチルスズジメトキシド、ジオクチルスズジベンゾエート、ジオクチルスズアセトアセトアセトネート、ジオクチルスズアセチルアセトアセトネート、ジオクチルスズアルキルアセトアセトアセトネート、ジメチルスズジ酪酸、ジメチルスズビスネオデカノエート、ジメチルスズジネオデカノエート、ナフテン酸スズ、酪酸スズ、オレイン酸スズ、カプリル酸スズ、オクタン酸スズ、ステアリン酸スズ、酒石酸トリエチルスズ、イソブチルスズトリクロエート及びオクタン酸スズが挙げられる。市販のスズ触媒の例としては、BNT Chemicals製のBNT-CAT 400及びBNT-CAT 500、PMC Organometallix製のFASCAT 4202、並びにDOW製のMetatin Katalysator 702が挙げられる。好ましいスズ触媒は、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレートである。
【0144】
好適な亜鉛触媒の例は、2-エチルヘキサン酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛及びステアリン酸亜鉛である。市販の亜鉛触媒の例としては、King Industries製のK-KAT XK-672及びK-KAT670、並びにBorchers製のBorchi Kat22が挙げられる。
【0145】
適切なビスマス触媒の例は、2-エチルヘキサン酸ビスマス、オクタン酸ビスマス及びネオデカン酸ビスマスなどの有機ビスマス化合物である。市販の有機ビスマス触媒の例は、Borchers製のBorchi Kat 24及びBorchi Kat 315、King Industries製のK-KAT XK-651、Reaxis製のReaxis C739E50、及びTIB Chemicals製のTIB KAT716である。
【0146】
適切なチタン触媒の例は、有機チタン触媒、例えば、ナフテン酸チタン、テトラブチルチタネート、テトラキス(2-エチルヘキシル)チタネート、トリエタノールアミンチタネート、テトラ(イソプロペニルオキシ)チタネート、チタンテトラブタノレート、チタンテトラプロパノレート、チタンテトライソプロパノレート及びキレート化チタネート、例えばジイソプロピルビス(アセチルアセトニル)チタネート、ジイソプロピルビス(エチルアセトアセトニル)チタネート及びジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)である。適切な市販のチタン触媒の例は、Dorf Ketal製のTyzor IBAY及びTIB Chemicals製のTIB KAT 517である。
【0147】
他の適切な触媒は、ステアリン酸鉄及び2-エチルヘキサン酸鉄などの鉄触媒、オクタン酸鉛及び2-エチルオクタン酸鉛などの鉛触媒、コバルト-2-エチルヘキサン酸及びナフテン酸コバルトなどのコバルト触媒、2-エチルヘキサン酸マンガンなどのマンガン触媒、及びナフテン酸ジルコニウム、テトラブチルジルコネート、テトラキス(2-エチルヘキシル)ジルコネート、トリエタノールアミンジルコネート、テトラ(イソプロペニルオキシ)-ジルコネート、ジルコニウムテトラブタノレート、ジルコニウムテトラプロパノレート及びジルコニウムテトライソプロパノレートなどのジルコニウム触媒である。
【0148】
さらに好適な触媒は、ジルコン酸エステルである。
【0149】
触媒はまた、トリエチルアミン、グアニジン、アミジン、環状アミン、テトラメチルエチレンジアミン、1,4-エチレンピペラジン及びペンタメチルジエチレントリアミンなどの有機化合物であってもよい。さらなる例としては、アミノシラン、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン及びN,N-ジブチルアミノメチル-トリエトキシシランが挙げられる。
【0150】
好ましい一実施形態では、触媒は、スズ、ビスマス及び/又は亜鉛触媒であり、より好ましくはスズ及び/又はビスマス触媒である。
【0151】
好ましくは、触媒は、コーティング組成物の総乾燥重量に基づいて0.01から5重量%、より好ましくは0.05から4重量%の量で本発明のコーティング組成物中に存在する。
【0152】
添加油
本発明のコーティング組成物は、任意選択で、添加油を含む。好ましくは、本発明のコーティング組成物は、コーティング組成物の固形分に基づいて、0~30重量%、より好ましくは0.1~15重量%の添加油を含む。本明細書に記載の非イオン性親水性変性ポリシロキサンは、「添加油」とはみなされない。したがって、添加油は、本明細書に記載の非イオン性親水性変性ポリシロキサンとは異なる油である。
【0153】
適切な非反応性添加油は、メチルフェニルシリコーン油などのシリコーン油、石油、ポリオレフィン油、ポリ芳香族油、ポリテトラフルオロエチレン又は流体フッ素化アルキル若しくはアルコキシ含有ポリマーなどのフルオロ樹脂、あるいはラノリン及びラノリン誘導体、並びに、国際公開第2013024106号に開示されているような他のステロール及び/又はステロール誘導体、あるいはそれらの組み合わせである。好ましい非反応性添加油は、メチルフェニルシリコーン油である。
【0154】
本発明のコーティング組成物中に任意選択で存在するさらなる添加油は、国際公開第2014131695号に記載されているようなフッ素化両親媒性ポリマー/オリゴマーである。
【0155】
本発明のコーティング組成物は、任意選択で親水性変性添加油を含む。親水性変性添加油は、国際公開第2016004961号に記載されているような親水性変性ステロール及び/又はステロール誘導体、又は国際公開第2019101920号及び国際公開第2019101912号に記載されているような親水性変性アクリルポリマーであってもよい。
【0156】
非反応性親水性変性添加油は、典型的には、極性及び/又は水素結合が可能であり得る非イオン性のモノマー基、オリゴマー基又はポリマー基の添加によって変性され、極性溶媒、特に水との相互作用、又は他の極性オリゴマー基又はポリマー基との相互作用を強化する。これらの基の例としては、アミド(例えば、ピロリドン、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド])、ポリ(N,N-ジメタクリルアミド)、酸(例えば、ポリ(アクリル酸))、アルコール(例えば、ポリ(グリセロール)、ポリHEMA、多糖類、ポリ(ビニルアルコール))、ケトン(ポリケトン)、アルデヒド(例えば、ポリ(アルデヒドグルロネート)、アミン(例えばポリビニルアミン)、エステル(例えば、ポリカプロラクトン、ポリ(酢酸ビニル))、イミド(例えば、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン))などが挙げられ、前述のもののコポリマーが挙げられる。
【0157】
コバインダー
任意選択で、ポリシロキサン系バインダーに加えて、コバインダーが本発明のコーティング組成物中に存在してもよい。好ましくは、コバインダーは、硬化反応においてポリシロキサン系バインダーと反応することができる硬化反応基を含む。そのようなコバインダーの代表例としては、シリコーン樹脂、シリコーン-エポキシ樹脂、シリコーン-ポリエステル樹脂、ポリウレタン系バインダー、アクリル-ポリオールバインダーなどのポリオール系バインダー、ポリエステル系バインダー及びアクリル系バインダーが挙げられる。
【0158】
顔料
本発明のコーティング組成物は、好ましくは、1つ以上の顔料を含む。顔料は、無機顔料、有機顔料又はそれらの混合物であってもよい。無機顔料が好ましい。顔料は表面処理されていてもよい。
【0159】
顔料の代表例としては、黒色酸化鉄、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、二酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、グラファイト、赤色モリブデン酸塩、黄色モリブデン酸塩、硫化亜鉛、酸化アンチモン、ナトリウムアルミニウムスルホシリケート、キナクリドン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、インダントロンブルー、酸化コバルトアルミニウム、カルバゾールジオキサジン、イソインドリンオレンジ、ビス-アセトアセトアセト-トリジオール、ベンズイミダゾロン、キナフトロンイエロー、イソインドリンイエロー、テトラクロロイソインドリノン、及びキノフタロンイエロー、金属フレーク材料(例えば、アルミニウムフレーク)が挙げられる。好ましい顔料は、黒色酸化鉄、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、フタロシアニンブルー及び二酸化チタンである。好ましい一実施形態では、二酸化チタンは、シリコーン化合物、ジルコニウム化合物又は亜鉛化合物で表面処理される。
【0160】
本発明のコーティング組成物中に存在する顔料の量は、コーティング組成物の全乾燥重量に基づいて、好ましくは0から25重量%、より好ましくは0.5から15重量%である。
【0161】
溶媒
本発明の付着物剥離コーティング組成物は、好ましくは溶剤を含む。本発明の組成物に使用するのに適した溶媒は市販されている。
【0162】
適切な有機溶媒及び希釈剤の例は、キシレン、トルエン、メシチレンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸ブチル、酢酸tert-ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどのエステル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;n-ブタノール、イソブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類;ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノールなどのエーテルアルコール;ホワイトスピリットなどの脂肪族炭化水素;及び、任意選択で、2種以上の溶媒及び希釈剤の混合物である。
【0163】
本発明の付着物剥離コーティング組成物中に存在する溶媒の量は、VOC含有量を最小限に抑えるので、可能な限り少ないことが好ましい。好ましくは、溶媒は、本発明の組成物中に、組成物の総重量に基づいて0~35重量%、より好ましくは1~30重量%の量で存在する。当業者は、溶媒の含有量が存在する他の成分に応じて変動することを理解するであろう。
【0164】
充填剤
本発明のコーティング組成物は、任意選択で充填剤を含む。
【0165】
本発明によるコーティング組成物に使用することができる充填剤の例は、酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、ヒュームドシリカ、ベントナイト及び他の粘土を含むシリカ又はケイ酸塩(タルク、長石、カオリン、及びネフェリンサイエナイトなど)、及び一般に縮合分岐ポリシロキサンである固体シリコーン樹脂である。ヒュームドシリカなどのいくつかの充填剤は、コーティング組成物に対して増粘効果を有し得る。
【0166】
好ましい充填剤はヒュームドシリカ充填剤である。ヒュームドシリカ充填剤は、未処理表面又は疎水性に変性された表面を有してもよい。好ましくは、ヒュームドシリカ充填剤は、疎水性に変性された表面を有する。市販のヒュームドシリカ充填剤の例は、Cabot製のTS-610、TS-530、EH-5、H-5、及びM-5、及びEvonik製のAerosil(登録商標)R972、Aerosil(登録商標)R974、Aerosil(登録商標)R976、Aerosil(登録商標)R104、Aerosil(登録商標)R202、Aerosil(登録商標)R208、Aerosil(登録商標)R805、Aerosil(登録商標)R812、Aerosil(登録商標)816、Aerosil(登録商標)R7200、Aerosil(登録商標)R8200、Aerosil(登録商標)R9200、Aerosil(登録商標)R711である。
【0167】
本発明のコーティング組成物中に存在する充填剤の量は、コーティング組成物の総乾燥重量に基づいて、好ましくは0から25重量%、より好ましくは0.1から10重量%、さらに好ましくは0.15から5重量%である。
【0168】
添加剤
本発明のコーティング組成物は、任意選択で1つ以上の添加剤を含む。本発明のコーティング組成物に存在し得る添加剤の例としては、補強剤、チキソ剤、増粘剤、沈降防止剤、脱水剤、分散剤、湿潤剤、界面活性剤、バインダー、可塑剤、染料が挙げられる。
チキソトロープ剤、増粘剤及び沈降防止剤の例は、ヒュームドシリカなどのシリカ、有機変性粘土、アミドワックス、ポリアミドワックス、アミド誘導体、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、水素化ヒマシ油ワックス及びそれらの混合物である。好ましくは、チキソトロープ剤、増粘剤及び沈降防止剤はそれぞれ、本発明の組成物中に、組成物の総乾燥重量に基づいて、0~10重量%、より好ましくは0.1~6重量%、さらにより好ましくは0.1~2.0重量%の量で存在する。
【0169】
付着物剥離コーティング組成物に使用され得る脱水剤及び乾燥剤としては、有機化合物及び無機化合物が挙げられる。脱水剤は、水を吸収するか又は結晶水として水を結合する、しばしば乾燥剤と呼ばれる吸湿性材料であり得る。乾燥剤の例としては、硫酸カルシウム半水和物、無水硫酸カルシウム、無水硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸亜鉛、モレキュラーシーブ及びゼオライトが挙げられる。脱水剤は、水と化学的に反応する化合物であり得る。水と反応する脱水剤としては、オルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルトギ酸トリプロピル、オルトギ酸トリイソプロピル、オルトギ酸トリブチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルト酢酸トリブチル、オルトプロピオン酸トリエチルなどのオルトエステル;ケタール;アセタール;エノールエーテル;ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリブチル及びホウ酸トリ-tert-ブチルなどのオルトボレート;トリメトキシメチルシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、及びポリケイ酸エチルなどのオルガノシランが挙げられる。
【0170】
好ましくは、脱水剤は、本発明の組成物中に、組成物の総乾燥重量に基づいて、0~5重量%、より好ましくは0.5~2.5重量%、さらにより好ましくは1.0~2.0重量%の量で存在する。
【0171】
組成物及び塗料
本発明はまた、本組成物中に存在する成分を混合する、本明細書に先に記載の組成物を調製する方法に関する。任意の従来の製造方法を使用することができる。
【0172】
本明細書に記載の組成物は、例えば、スプレー塗装での使用に適した濃度で調製され得る。この場合、本組成物はそれ自体が塗料である。あるいは、本組成物は、塗料を調製するための濃縮物であってもよい。この場合、さらなる溶媒及び任意選択で他の成分を本明細書に記載の組成物に添加して塗料を形成する。好ましい溶媒は、本組成物に関して先に記載した通りである。
【0173】
混合後に、また任意選択で溶媒の添加後に、付着物剥離コーティング組成物又は塗料は、好ましくは容器に充填される。適切な容器として、缶、ドラム及びタンクが挙げられる。
【0174】
付着物剥離コーティング組成物は、1液型、2液型又は3液型として供給されてもよい。好ましくは、本組成物は、2液型又は3液型として、さらにより好ましくは3液型として供給される。
【0175】
1液型として供給される場合、本組成物は、好ましくは、すぐに混合できる形態又はすぐに使用できる形態で供給される。任意選択で、1液型製品は、塗布前に溶媒で薄めることができる。
【0176】
2液型として供給される場合、第1の容器は、好ましくは、ポリシロキサン系バインダー、非イオン性親水性変性ポリシロキサン、及び防汚剤を含み、第2の容器は、好ましくは、架橋剤/硬化剤及び/又は触媒を含む。任意選択で、容器の内容物を混合するための説明書を提供してもよい。
【0177】
3液型として供給される場合、第1の容器は、好ましくは、ポリシロキサン系バインダー、防汚剤及び非イオン性親水性変性ポリシロキサンを含み、第2の容器は、好ましくは架橋剤/硬化剤を含み、第3の容器は、好ましくは触媒を含む。任意選択で、容器の内容物を混合するための説明書を提供してもよい。
【0178】
特定の実施形態では、本発明は、本明細書で定義される付着物剥離組成物を調製するためのキットを提供する。
【0179】
本発明の付着物剥離コーティング組成物及び塗料は、好ましくは50~99重量%、より好ましくは60~99重量%、さらにより好ましくは65~99重量%の固形分を有する。
好ましくは、本発明の付着物剥離コーティング組成物及び塗料は、50から400g/L、好ましくは50から350g/L、例えば、50から300g/Lの揮発性有機化合物(VOC)含有量を有する。VOC含有量は、計算することができ(ASTM D5201-05A)又は測定することができる(US EPA法24又はISO11890-1)。
【0180】
好ましくは、本発明の付着物剥離コーティング組成物及び塗料は、100/sの剪断速度下で700から1100mPaの粘度を有する。
【0181】
本発明のコーティング組成物は、ポリシロキサン系付着物剥離コーティング用に設計された任意の前処理されたコーティング層に塗布され得る。そのようなコーティング層の例は、基材と最終ポリシロキサン系ファウリング剥離層との間の粘着を確実にするように設計されたエポキシ防食層及びシリコーン含有タイ層である。そのようなタイ層の一例は、国際公開第2013/107827号に記載されている。任意選択で、タイ層は防汚剤を含んでいてもよい。
【0182】
また、本発明に係るコーティング組成物は、古くなった防汚コーティング層又は付着物剥離層を含む基材に塗布することもできる。このような古くなった層に本発明によるコーティング組成物を塗布する前に、この古い層を高圧水洗により洗浄して、汚れを除去する。
【0183】
本発明によるコーティング組成物は、1層又は2層又はそれ以上の層で塗布することができる。好ましくは、本発明によるコーティング組成物は、1層で塗布される。
【0184】
本発明のコーティング組成物の各コーティング層の乾燥膜厚は、好ましくは50~500μm、より好ましくは100~400μm、最も好ましくは150~300μmである。
【0185】
本発明の付着物剥離コーティング組成物及び塗料は、海洋付着物にさらされる任意の物品の表面の全体又は一部に塗布することができる。この表面は、恒久的に水中にあってもよく、又は(例えば、潮汐運動、異なる貨物重量又は波のうねりによって)断続的に水中にあってもよい。物品の表面は、典型的には、船舶の船体、又は石油プラットフォーム若しくはブイなどの固定された海洋物体の表面である。コーティング組成物及び塗料の塗布は、任意の便利な手段によって、例えば、塗装(例えば、ブラシ又はローラを用いて)によって、又はより好ましくはコーティングを物品に噴霧することによって達成することができる。典型的には、コーティングを可能にするために表面を海水から隔てる必要がある。コーティングの塗布は、当技術分野で従来知られているように達成することができる。コーティングを塗布した後、コーティングは好ましくは乾燥及び/又は硬化される。
【0186】
塗布
本発明の付着物剥離コーティングは、典型的には、海洋構造物の表面、好ましくは使用時に沈められる海洋構造物の部分に塗布される。典型的な海洋構造物としては、船舶(限定するものではないが、ボート、ヨット、モーターボート、発動機艇、海洋ライナー、タグボート、タンカー、コンテナ船や他の貨物船、潜水艦、及びあらゆる種類の海軍艦艇など)、パイプ、海岸及び沖合の機械、構造物及びあらゆる種類の物体、例えば、桟橋、杭、橋梁下部構造物、水力設備及び構造物、水中油井構造物、ネット及び他の水生養殖設備、並びにブイなどが挙げられる。基板の表面は、「天然の」表面(例えば、鋼表面)であってもよい。
【0187】
[実施例]
定量法
ポリマー平均分子量分布の決定
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によってポリマーの特性を明らかにした。Agilent製の直列の2つのPLgel 5μm Mixed-Dカラムを備えたMalvern Omnisec Resolve and Revealシステムを使用して分子量分布(MWD)を決定した。カラムは、ナローポリスチレン標準を使用する従来の較正によって較正した。分析条件は、以下の表1に示す通りであった。
【0188】
【表1】
【0189】
乾燥ポリマー25mgに相当する量の非イオン性親水性変性ポリシロキサンをTHF5mlに溶解することによって試料を調製した。試料を室温で最低3時間保持した後、GPC測定のためにサンプリングした。分析前に、試料を0.45μmナイロンフィルターで濾過した。重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を記録する。
【0190】
非イオン性親水性変性ポリシロキサンの粘度の測定
ブルックフィールド粘度計及びスピンドルを用いて非イオン性親水性変性ポリシロキサンの粘度を測定した。粘度は、Brookfield LVT粘度計及び対応するLVスピンドルを用いて25℃で測定した。スピンドルは、BROOKFIELD DIAL VISCOMETER Operating Instructions,Manual No.M/85-150-P700,Brookfield Engineering Laboratories,Inc.に従って、非イオン性親水性変性ポリシロキサンの仕様範囲に適切に選択した。
【0191】
塗料配合物の粘度の測定
塗料配合物(本発明の実施例及び比較例)の粘度は、コーンプレートによって23℃で測定した。コーン直径40mm、コーン角度4°剪断速度を0.01/sから100/sに上げて、試料の剪断速度依存粘度を得た。
【0192】
コーティング組成物の調製
まず、インペラディスクを備えた高速溶解機を用いて、下記表5及び表6に示す(A)部の成分を混合することにより、コーティング組成物を調製した。非イオン性親水性変性ポリシロキサンを、粉砕段階の後にコーティング組成物に添加した。コーティングを塗布する直前に、(B)部の成分を(A)部の成分と混合した。
【0193】
シンガポールにおける防汚性能の試験
PVCパネルを、Jotun Jotacote Universal N10プライマーの第1のコート及びJotun SeaQuest Tiecoatの第2のコートを用いて、指定条件下でエアレススプレーを用いてコーティングした。本発明及び比較例のコーティング組成物を、300μmのクリアランスを有するフィルムアプリケーターを使用して、プライマー及びタイコートで予めコーティングされたPVCパネルに塗布した。
【0194】
このパネルをシンガポールの浮き台での静的試験に使用し、このパネルを海面下0.3~1.3mに沈めた。パネルは、下記表2に示すスケールを用いて目視で評価した。
【0195】
【表2】
【0196】
コーティングの粘着性の判定
コーティングの粘着性をASTM D6677:18に従って判定した。5以上の評価を合格とみなした(表5及び表6における「OK」)。
【0197】
コーティングの均一性の判定
コーティングの均一性を表3に従って目視観察によって判定した。
【0198】
【表3】
【0199】
【表4】
【0200】
表4に記載された特性を有する非イオン性親水性変性ポリシロキサンは市販されており、商業的供給業者から容易に入手することができる。
【0201】
本発明の実施例及び比較例のコーティング組成物及び防汚性能を以下の表に示す。
【0202】
【表5】
【0203】
【表6A】
【0204】
【表6B】
【0205】
上記の例に関して、以下の考察をなし得る。
・比較例2は、ポリエーテル変性ポリシロキサンを含むコーティングに銅ピリチオンを添加すると、比較例1と比較してコーティングの粘度が上昇することを示している。粘度の増加は、塗布特性及び表面粗さに悪影響を及ぼし得る。さらに、5重量%の油は、銅ピリチオンの添加に起因する粘度上昇を低減するのに十分ではない。
【0206】
・本発明の実施例1及び実施例2は、銅ピリチオンを含有するコーティング組成物を例示し、15~25重量%の量の油のポリエーテル変性ポリシロキサンは、低いVOCを維持しながら、良好な膜均一性及び良好な粘着性を有する。さらに、比較例2で見られた粘度上昇は、より高い油量によって相殺されている。ポリエーテル変性ポリシロキサンを5重量%含む比較例2と比較して、防汚性能も向上している。
【0207】
・比較例2は、5重量%の油は、満足のいく防汚性能を達成するには不十分であることを示している。
【0208】
・比較例3及び比較例4は、溶媒を用いて希釈すると銅ピリチオン含有コーティングの粘度を元のレベルまで低下させることができるが、健康及び環境上の懸念の点で悪影響を有するVOCが増加するという犠牲を伴うことを示している。
【0209】
・比較例5は、油をさらに35重量%(乾燥重量基準)まで増加させると、VOC及び粘度がさらに低下するが、コーティングの均一性及び防汚性能が犠牲になることを示している。
【0210】
・本発明の実施例3~6は、16重量%(乾燥重量基準)の高い油量で良好な膜均一性及び粘着性を維持しながら、良好な防汚性能を示すいくつかの可能なポリエーテル変性ポリシロキサン油が存在することを示している。粘度が低い油は、コーティングの最終粘度をより大きく低下させる。
【0211】
・比較例6及び比較例7は、12を超えるHLBレベルを有する油が、16重量%及び25重量%(乾燥重量基準)の油の濃度でコーティングの均一性及び粘着性に悪影響を及ぼすことを示している。
【0212】
・比較例8~10は、18000を超える数平均分子量を有する油が、最大34重量%(乾燥重量基準)の油の濃度で良好な膜均一性及び良好な粘着性を与えるが、防汚性能が劣ることを示している。これはおそらく、分子量が大きすぎると、膜を通る油の移動が制限されるためである。油の粘度が高すぎる場合、塗料配合物の粘度を低下させるために、より多くの油も必要となる。
【0213】
要約すると、本発明では、特定のパラメータ(量、分子量及びHLB)を有する非イオン性親水性変性ポリシロキサンを選択することにより、低VOC、良好な塗布特性、良好な膜均一性及び粘着性並びに改善された防汚特性を有し、銅ピリチオンなどの殺生物剤を含有する付着物剥離配合物を得ることが可能であることが見出された。