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特許7601885グラフェン分散液、グラフェン樹脂粉、及び電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】グラフェン分散液、グラフェン樹脂粉、及び電池
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241210BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20241210BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20241210BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 4/583 20100101ALI20241210BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20241210BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20241210BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/04
C08K5/05
H01M4/587
H01M4/583
H01G11/38
H01G11/36
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022545726
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2021031480
(87)【国際公開番号】W WO2022045286
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2020144599
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久米 亮
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106478962(CN,A)
【文献】特開2015-140296(JP,A)
【文献】特開2020-075963(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103881278(CN,A)
【文献】特開2019-119775(JP,A)
【文献】特開2013-155461(JP,A)
【文献】特開2014-143038(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105084346(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C09D
C08K
H01G
H01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中にグラフェン及び高分子が分散されたグラフェン分散液であって、
前記グラフェンのサイズ(長辺)が0.5-2μmであり、
前記高分子が水性高分子又はアニオン性高分子であり、エーテル化度が0.5~2.2であるカルボキシメチル化澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びケン化度が87mol%のポリビニルアルコールのいずれかであり、
前記高分子の重量平均分子量が1万~80万であり、
前記溶媒は、水とアルコールとを含む混合溶媒であり
前記高分子は、前記溶媒に対する含有量が1~100mg/gであり
前記グラフェン分散液は、B型粘度計を用いて、測定温度25℃、回転数50rpmで測定した粘度が500~10,000(mPa・s)であり、
前記グラフェン分散液のB型粘度計を用いて、測定温度25℃、回転数5rpmで測定した粘度を、前記グラフェン分散液のB型粘度計を用いて、測定温度25℃、回転数50rpmで測定した粘度で除した値が1.2~5.0である、
グラフェン分散液。
【請求項2】
請求項1に記載のグラフェン分散液を乾燥させた、グラフェン樹脂粉。
【請求項3】
請求項2に記載のグラフェン樹脂粉を用いた、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、グラフェン分散液、グラフェン樹脂粉、及び電池に関し、特に、グラフェン分散液、該グラフェン分散液を乾燥させて得られるグラフェン樹脂粉、及び該グラフェン樹脂粉を用いて得られる電池に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、炭素原子からなる二次元結晶を含む物質であり、非常に注目されている素材である。グラフェンは、優れた電気、熱、光学、及び機械特性を有している。グラフェンは、例えば、グラフェン系複合材料、ナノエレクトロニクス、フレキシブル/透明エレクトロニクス、ナノ複合材料、スーパーキャパシタ、電池、水素貯蔵、ナノ医療、生体工学材料などの領域で幅広い応用が期待されている。特に、グラフェンが分散した膜は、電磁波遮蔽シールド材、電磁波吸収材、燃料電池用電極材、放熱材等として期待されている。
【0003】
グラフェンが分散した膜を形成するためには、グラフェンが分散媒中に分散する必要がある。ここで、グラフェンが分散媒中に分散したものとして、熱可塑性樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料とがハロゲン化芳香族溶媒中に溶解又は分散されている分散液が知られている(特許文献1参照)。また、グラフェンが分散媒中に分散したものとして、グラフェンが溶媒中でポリメチルピロリドンにより安定分散化した分散液が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-224810号公報
【文献】特開2014-009104号公報
【発明の概要】
【0005】
本願開示は、以下に関する。
[1]溶媒中にグラフェン及び高分子が分散又は溶解されたグラフェン分散液であって、前記高分子の重量平均分子量が1万~80万であり、前記グラフェン分散液は、B型粘度計を用いて、測定温度25℃、回転数50rpmで測定した粘度が500~10,000(mPa・s)であり、前記グラフェン分散液のB型粘度計を用いて、測定温度25℃、回転数5rpmで測定した粘度を、前記グラフェン分散液のB型粘度計を用いて、測定温度25℃、回転数50rpmで測定した粘度で除した値が1.2~5.0である、グラフェン分散液。
[2]上記[1]に記載のグラフェン分散液を乾燥させた、グラフェン樹脂粉。
[3]上記[2]記載のグラフェン樹脂粉を用いた、電池。
【発明を実施するための形態】
【0006】
グラフェンはファンデルワールス力により凝集する傾向があるため、グラフェンを分散媒中で良好に分散させることは困難である。また、グラフェン分散液は、溶媒を乾燥させて膜を生成する際に、グラフェンが再凝集して分散性が低下する虞がある。また、分散液が高分子を大量に含有していると、高分子成分が膜にした際の表面に存在し、表面抵抗を上昇させて、導電性が低下する虞がある。さらに、分散液がポリビニルピロリドンを含む場合、製膜できない虞がある。
【0007】
本発明者らは、溶媒中にグラフェン及び所定の重量平均分子量の高分子を分散させ、B型粘度計を用いて、測定温度25℃、回転数50rpmで測定した値(以下、粘度測定はB型粘度計を用いて測定した時の値である)が所定範囲となるように調整した。さらに、本発明者らは、測定温度25℃、回転数5rpmで測定した粘度を、測定温度25℃、回転数50rpmで測定した粘度で除した値が所定範囲となるように調整した。その結果、分散性が良好で、且つ、導電性の高いグラフェン樹脂膜が形成可能なグラフェン分散液が得られることを見出した。
また、得られたグラフェン分散液を乾燥させたグラフェン樹脂粉は、再度、溶媒に溶かした際、分散性の良いグラフェン分散液が得られた。本発明者らは、該グラフェン分散液を用いて製膜した時の成膜性(分散性)が良好であることを見出した。
さらに、本発明者らは、グラフェン樹脂粉を二次電池の負極材に用いた際、高率放電容量保持率の高い電池になることを見出した。
【0008】
以下、本開示について、一実施形態を参照しながら詳細に説明する。
本明細書において、「XX~YY」との記載は、「XX以上YY以下」を意味する。また、本明細書において、数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせ得る。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、「グラフェン」とは、「10層以下のsp2結合炭素原子を含むシート状物質」を意味する。
本明細書において、「改質グラファイト」とは、「サイズ(長辺)が0.1nm~50μmであって、10層を超え2000層以下のsp2結合炭素原子を含むシート状物質(グラフェンは含まない)」を意味する。「改質グラファイト」のサイズは、走査電子顕微鏡(日立ハイテク社製 型式S-3400NX)を用いて測定した。「改質グラファイト」の厚みはX線回折装置(PANalytical社製 型式 X’Pert PRO)にて、(002)回折線の層間隔及び結晶の厚さより、層数を算出した。
本明細書において、「グラフェン樹脂粉」とは、「樹脂がグラフェンおよび改質グラファイトの周囲を被覆しているもの」を意味する。
【0009】
(グラフェン分散液)
本実施形態のグラフェン分散液は、グラフェンと、高分子と、溶媒とを含有し、必要に応じて、改質グラファイト、その他の成分をさらに含有する。
なお、グラフェン分散液の分散性は、実施例に記載のように、分光光度計による吸光度により測定可能である。
【0010】
グラフェン分散液の粘度は、測定温度25℃、回転数50rpmで測定した時、500~10,000mPa・sである限り、特に制限はなく、700~8,000mPa・sであってもよい。
グラフェン分散液の粘度が、測定温度25℃、回転数50rpmで測定した時、500mPa・s以上であると、構造粘性が発現しやすく、グラフェンが凝集しにくくなる。一方、グラフェン分散液の粘度が、測定温度25℃、回転数50rpmで測定した時、10,000mPa・s以下であると、塗工性等の作業性を向上させることができる。
【0011】
グラフェン分散液の粘度は、測定温度25℃、回転数5rpmで測定した時、特に制限はなく、600~50,000mPa・sであってもよく、840~40,000mPa・sであってもよい。グラフェン分散液の粘度が、測定温度25℃、回転数5rpmで測定した時、600mPa・s以上であると、溶媒の表面張力より大きくなり、均一な塗膜が得られる。一方、グラフェン分散液の粘度が、測定温度25℃、回転数5rpmで測定した時、50,000mPa・s以下であると、塗工性等の作業性を向上させることができ、未塗布箇所がない連続的な塗膜が得られる。
【0012】
グラフェン分散液の回転数5rpmで測定した粘度を、グラフェン分散液の回転数50rpmで測定した粘度で除した値(以下、「粘度比」と表記することもある)としては、1.2~5.0である限り、特に制限はなく、2.0~4.0であってもよい。上記粘度比を上記下限値以上とすることにより、グラフェン分散液が構造粘性を発現する。これは、高分子間の二次結合がグラフェン同士のファンデルワールス力よりも10倍近い反発力が働くためである。そのため、グラフェンが高濃度化しても安定に分散し、グラフェン及び改質グラファイトが凝集することを低減できる。また、上記粘度比を上記上限値以下とすることにより、グラフェン分散液が適度な流動性を有する。そのため、膜にする際の塗工性に適しており、連続した均質な膜を成形できる。
なお、上記粘度比を上記範囲内に調整する(最適な構造粘性を得る)方法としては、例えば、高分子が所定のアニオン性高分子であること、重量平均分子量が大きい高分子を所定量(比較的少量)用いること、エーテル化度が0.5~2.2の高分子を用いること、などが挙げられる。
なお、本明細書における「エーテル化度」は、硝酸メタノール法により測定した値である。
【0013】
<グラフェン>
グラフェンとしては、グラフェン分散液中でグラフェンになるものである限り、特に制限はない。グラフェンとしては、例えば、改質グラファイトを原料として得られるものであってもよい。
改質グラファイトからグラフェンを製造する方法としては、特に制限はない。例えば、機械剥離法、CVD法、酸化還元法、化学的剥離法、などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
グラフェンにおける炭素原子の含有量としては、特に制限はなく、95質量%以上であってもよく、99質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
グラフェン中における不純物質の含有量としては、特に制限はなく、5質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
グラフェンのサイズとしては、特に制限はなく、0.1nm~50μmであってもよく、0.5nm~10μmであってもよく、0.1μm~2μmであってもよい。なお、グラフェンのサイズとはグラフェンの縦及び横の長い方(長辺)である。
グラフェンのサイズが0.1nm以上であると、グラフェンの熱伝導率が向上する。一方、グラフェンのサイズが50μm以下であると、グラフェンの分散性が向上する。
【0014】
グラフェン分散液におけるグラフェンの含有量としては、特に制限はなく、グラフェン分散液における溶媒に対して、0.1質量%~25質量%であってもよく、1.0質量%~15質量%であってもよく、3.0質量%~10質量%であってもよい。
【0015】
<<改質グラファイト>>
改質グラファイトは、例えば、天然黒鉛から製造することができる。
改質グラファイトは、炭素原子以外の原子を含まなくてもよく、炭素原子以外の原子を含んでよく、例えば、酸素原子を10質量%以下含んでもよい。酸素原子の含有量が10質量%以下であると、得られるグラフェンの熱伝導率が向上する。
改質グラファイトにおける炭素原子の含有量としては、特に制限はなく、70質量%~100質量%であってもよく、80質量%~98質量%であってもよく、85質量%~95質量%であってもよい。
改質グラファイトのサイズとしては、0.1nm~50μmである限り、特に制限はなく、0.5nm~20μmであってもよい。なお、改質グラファイトのサイズとは、改質グラファイトの縦及び横の長い方(長辺)である。
改質グラファイトのサイズが0.1nm以上であると、改質グラファイトの熱伝導率が向上する。一方、改質グラファイトのサイズが50μm以下であると、改質グラファイトの分散性が向上する。
【0016】
改質グラファイトの層数としては、10層超2000層以下である限り、特に制限はなく、屈曲性及び分散性向上の観点で、10層超200層以下であってもよく、10層超30層以下であってもよい。
【0017】
<高分子>
高分子としては、重量平均分子量が1万~80万であり、溶媒中で溶解又は分散するものである。さらに、分散液中の低せん断速度下での粘度が高く、かつ、高せん断速度下での粘度の低下を起こす性質(構造粘性の性質)を示すものであれば、特に制限はない。高分子は、水溶性高分子及び非水溶性高分子のいずれであってもよく、アニオン性高分子であってもよい。また、高分子がグラフェンに対する親和性が強い場合、グラフェンを被覆しやすくなる。そのため、グラフェン及び改質グラファイトが凝集又は沈殿を起こしにくくなり、長期保存することができる。
なお、本明細書において、「高分子の重量平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK-GEL、α-M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質として分子量既知のポリスチレンを用いて測定できる。
【0018】
<<水性高分子>>
水性高分子としては、特に制限はなく、例えば、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、ペクチン及びこれらの誘導体、カルボキシメチルセルロース(CMC)塩類、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸塩類、グルコマンナン、寒天、ラムダ(λ)カラギーナン等のゲル化能を有する増粘多糖類;重量平均分子量10万~15万のポリビニルアルコール、メタクリル酸アルキルエステルを主成分とする重量平均分子量10万~15万の重合体、架橋性アクリル酸重合体などの合成樹脂;PEG系のHLB8~12のノニオン系増粘剤(界面活性剤);などが挙げられる。
【0019】
<<アニオン性高分子>>
アニオン性高分子が有する官能基としては、特に制限はなく、例えば、カルボニル基、水酸基、スルホン酸基、リン酸基、などが挙げられる。
アニオン性高分子としては、特に制限はなく、水酸基同士で水素結合し、構造粘性を示しやすくする観点で、例えば、天然又は半合成高分子カルボン酸であってもよく、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシカルボキシメチルセルロース、カルボキシメチル化澱粉、アラビアゴム、トラガントゴム、ペクチンヒアルロン酸等のカルボキシル基を有する塩、などが挙げられる。
【0020】
グラフェン分散液における高分子の含有量としては、特に制限はなく、グラフェン分散液における溶媒に対して、1~100mg/gであってもよく、5~50mg/gであってもよい。グラフェン分散液における高分子の含有量が1mg/g以上であると、構造粘性が発現し、グラフェンが凝集しにくくなる。一方、グラフェン分散液における高分子の含有量が100mg/g以下であると、成膜した際の表面抵抗の低下およびグラフェン分散液の塗工性(作業性)が向上する。
【0021】
高分子の重量平均分子量としては、1万~80万である限り、特に制限はなく、5万~60万であってもよく、10万~50万であってもよい。高分子の重量平均分子量が1万以上であると、グラフェン分散液の粘度比を1.2以上に調整することができ、グラフェン分散液が構造粘性を発現し、グラフェンが凝集しにくくなる。一方、高分子の重量平均分子量が80万以下であると、塗工性等の作業性が向上する。
高分子のエーテル化度としては、特に制限はなく、0.5~2.2であってもよく、0.7~1.5であってもよい。高分子のエーテル化度が、0.5~2.2であると、構造粘性が発現しやすくなる。
【0022】
一般的に高分子はナノフィラーを分散させるための増粘剤として用いることがある。この際、高分子(増粘剤)の配合量は、通常、溶媒に対して、少なくとも200mg/g以上である。高分子(増粘剤)はフィラー等の固形物に吸着して、高分子(増粘剤)の溶媒中での濃度が低くなってしまう。そのため、ナノフィラーが分散に必要な構造粘性を得るためには、大量の高分子(増粘剤)が必要である。しかし、高分子(増粘剤)の配合量が多いと、膜にした際、高分子(増粘剤)が表面抵抗を上昇させて導電性が悪くなる。
本実施形態のグラフェン分散液においては、グラフェンが分散質であるため、その形状により、固形物への高分子(増粘剤)の吸着量が少ない。高分子(増粘剤)が200mg/g未満の少量でも分散性を向上させることができ、且つ、表面抵抗を低減することができる。
【0023】
<溶媒>
溶媒としては、グラフェンを分散させ、高分子を溶解又は分散させるものであれば、特に制限はなく、極性溶媒であってもよい。
極性溶媒としては、特に制限はなく、例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール(IPA))、ブタノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中から、グラフェンとの親和性が高い点で、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、及び、これらのうち少なくとも2種の混合溶媒のいずれかを選択してもよい。水とアルコールとを含む混合溶媒を選択してもよく、混合比(体積比)が50/50~70/30の水/2-プロパノールを選択してもよい。
なお、溶媒として無極性溶媒を用いた場合、グラフェンが溶媒に分散しにくい。
【0024】
<その他の成分>
本実施形態のグラフェン分散液は、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、特に制限はなく、ナノフィラー;膨張黒鉛、鱗片状黒鉛等のフィラー(ナノフィラーを除く);増粘剤、粘性調整剤、樹脂、硬化剤、難燃剤泡剤、紫外線吸収剤等の添加剤;などを含有してもよい。
本実施形態のグラフェン分散液の固形分(すなわち、溶媒を除く成分)中における、グラフェン、改質グラファイト、及び重量平均分子量が1~80万の高分子の総量は、60質量%以上でもよく、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよく、95質量%以上でもよく、100質量%でもよい。
【0025】
<グラフェン分散液の調製方法>
本実施形態のグラフェン分散液の製造方法としては、特に制限はなく、公知のグラフェン分散液の製造方法を用いることができる。
例えば、改質グラファイトを溶媒に入れ超音波分散等で液相剥離を行い、グラフェンの状態に剥離してから高分子を投入し、機械的攪拌等を用いて真空下で混合処理し、グラフェン分散液を得る方法、などが挙げられる。溶媒に対する改質グラファイトの仕込量としては、5~100mg/gであってもよく、10~70mg/gであってもよい。溶媒に対する改質グラファイトの仕込量が少な過ぎると、得られるグラフェン分散液におけるグラフェンの濃度が低くなる。一方、溶媒に対する改質グラファイトの仕込量が多過ぎると、改質グラファイトが剥離しにくく、グラフェンになりにくい。
【0026】
<グラフェン樹脂膜>
本実施形態のグラフェン分散液を用いてグラフェン樹脂膜が形成される。
【0027】
<<グラフェン分散液からグラフェン樹脂膜の製造方法>>
本実施形態のグラフェン分散液は、溶媒中にグラフェンがほぼ均一に存在しており、改質グラファイトがほぼ均一に存在していてもよい。その結果、該グラフェン分散液を用いて形成される膜は、成膜性がよく、グラフェンがほぼ一様に含んだ膜となる。本実施形態のグラフェン分散液を用いて形成される膜の製造方法としては、特に制限はなく、例えば、グラフェン分散液を基材の所望表面上に塗布して、固化して形成する方法、などが挙げられる。
【0028】
本実施形態のグラフェン分散液を用いて形成される膜を形成するための基材の材質としては、所望の膜が形成される限り、特に制限はなく、例えば、ガラス、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等のセラミックス;シリコン、アルミニウム、鉄、ニッケル等の金属;アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルニトリル、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;などが挙げられる。
【0029】
本実施形態のグラフェン分散液を用いて形成される膜を形成するための基材としては、グラフェン分散液を用いて形成される膜の形成が可能である限り、特に制限はなく、例えば、フィルム、シート等の膜状体(繊維から形成される織物又は不織布も含む);膜状体以外の成形体;粉粒体;などが挙げられる。
【0030】
本実施形態のグラフェン分散液を用いて形成される膜との密着性を向上させるために、基材表面はコロナ放電処理又はプラズマ放電処理してもよい。
【0031】
本実施形態のグラフェン分散液を用いて形成される膜を形成するための塗布方法としては、グラフェン分散液の粘度、所望する膜の形状、大きさにより、各種の一般的な塗布方法を採用できる。塗布方法としては、特に制限はなく、例えば、流涎・浸漬法、ドクターブレードコート法、ナイフコート法、バーコート法、スピンコート法、グラビアコート法、スクリーンコート法、スプレーによる噴霧法、などが挙げられる。
【0032】
グラフェン分散液は、基材に塗布後、グラフェン分散液における分散媒を除去するために、グラフェン分散液の被塗物を加熱処理してもよい。加熱処理温度は、溶媒の揮発性、基材の種類、加熱雰囲気、さらに被膜形性により付与しようとする機能によっても異なる。加熱処理温度は、基材がセラミックス又は金属である場合、50~300℃であり、基材が熱可塑性樹脂の場合、20~250℃であり、これらの温度はグラフェンや基材が変質しない温度であれば、特に限定されない。
【0033】
本実施形態のグラフェン分散液を用いて形成される膜は、基材上に固着されてもよいし、基材から剥離されてもよい。基材上に固着された膜は、基材に導電性、熱伝導性、電磁波吸収性などの機能を付与することができる。
【0034】
本実施形態のグラフェン分散液を用いて形成される膜の膜厚としては、特に制限はなく、50μm以下であってもよく、30μm以下であってもよい。膜の膜厚が50μm以下であれば、レベリング性等の低下が起きにくい。なお、膜厚の下限値は、均一な膜が得られる範囲である限り、特に制限はない。
【0035】
<グラフェン分散液を用いて形成される膜以外の成型品>
本実施形態のグラフェン分散液は、膜以外にも、該グラフェン分散液と他の有機高分子材料等とを混合した成形品の材料とすることができる。例えば、導電性、熱伝導性、電磁波吸収性等を有する成形品、特に、導電性が要求される電極等の成形品の材料として用いることができる。
【0036】
(グラフェン樹脂粉)
本実施形態のグラフェン樹脂粉は、本実施形態のグラフェン分散液を乾燥させて得られる。
【0037】
グラフェン分散液を乾燥させて得られるグラフェン樹脂粉は再度溶媒に分散させて膜を成形しても、グラフェン同士、又は、グラフェン及び改質グラファイトの混合物同士が凝集することなく成膜できる。
グラフェン分散液を乾燥させてグラフェン樹脂粉を作製する方法としては、特に制限はなく、例えば、60~120℃の真空加熱により、グラフェン分散液における溶媒を揮発させてグラフェン樹脂粉を作製する方法、などが挙げられる。
グラフェン樹脂粉を溶媒に再溶解又は分散させる方法としては、特に制限はなく、例えば、グラフェン樹脂粉を溶媒に投入し、所定温度(常温でも可)で機械的攪拌、超音波、高圧ホモジナイザー等で攪拌する方法、などである。
グラフェン樹脂粉を再溶解させる溶媒としては、特に制限はない。例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の極性溶媒;などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中から、グラフェンとの親和性が高い点で、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、及び、これらのうち少なくとも2種の混合溶媒のいずれかを選択してもよい。
グラフェン樹脂粉を再溶解させた分散液を用いた製膜方法としては、特に制限はなく、グラフェン分散液を用いた製膜方法と類似の方法を用いることができる。
【0038】
<負極電極用グラフェン分散液>
本実施形態のグラフェン樹脂粉は、負極活物質、負極電極用グラフェン分散液用バインダーを添加して負極電極用グラフェン分散液として用いることができる。
【0039】
<<負極活物質>>
負極活物質としては、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能なものであれば、特に限定されない。負極活物質としては、例えば、金属Li;その合金であるスズ合金、シリコン合金、鉛合金等の合金系物質;LiFe(この段落で、kは、0<k≦4を表す。)、LiFe、LiWO等の金属酸化物系物質;ポリアセチレン等の導電性高分子系物質;ハードカーボン等のアモルファス系炭素質材料;高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛;天然黒鉛等の炭素質粉末;カーボンブラック、炭素繊維等の炭素系材料;が挙げられる。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
【0040】
<<負極電極用グラフェン分散液用バインダー>>
負極電極用グラフェン分散液用バインダーは、活物質及び導電性の炭素材料などの粒子同士、あるいは導電性の炭素材料と集電体を結着させるために使用されるものであれば、特に限定されない。負極電極用グラフェン分散液用バインダーとしては、例えば、アクリル樹脂;ポリウレタン樹脂;カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂;スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム等の合成ゴム;ポリアセチレン等の導電性樹脂;ポリフッ化ビニリデン等のフッ素原子を含む高分子化合物;などが挙げられる。また、負極電極用グラフェン分散液用バインダーは、これらの樹脂の変性物、混合物、又は共重合体でもよい。これらバインダーは、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。また、水性の合剤インキ中で使用する場合、バインダーとしては水媒体のものを使用できる。水媒体のバインダーの形態としては、水溶性型、エマルション型、ハイドロゾル型等が挙げられ、適宜選択することができる。
【0041】
負極電極用グラフェン分散液には、さらに、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤、粘性調整剤などを必要に応じて配合できる。
【0042】
負極電極用グラフェン分散液は、リチウムイオン二次電池用電極、電気二重層キャパシタ用電極、リチウムイオンキャパシタ用電極のプライマー層等に用いることができる。
【0043】
<<電池負極合剤層>>
集電体上に、負極電極用グラフェン分散液を塗工・乾燥することで電池負極合剤層を得ることができる。
【0044】
-集電体-
電極に使用する集電体の材質及び形状は特に限定されず、各種電池にあったものを適宜選択することができる。集電体の材質としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属;これらのうち少なくとも2種の合金;などが挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したもの、穴あき箔状のもの、及びメッシュ状の集電体も使用できる。
【0045】
集電体上に電極用グラフェン分散液を塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。斯かる方法としては、例えば、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法、静電塗装法、などが挙げられる。乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥、温風乾燥、赤外線加熱乾燥、遠赤外線加熱乾燥を使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。また、集電体は塗布後に平版プレス又はカレンダーロール等による圧延処理を行ってもよい。
【0046】
(電池)
本実施形態の電池は、例えば、電池負極合剤層である負極、正極、電解液、セパレーター等を用いたリチウムイオン二次電池などである。
以下、リチウムイオン二次電池の場合を例にとって説明する。
【0047】
<電解液>
電解液としては、リチウムを含んだ電解質を非水系の溶剤に溶解したものを用いることができる。非水系の溶剤としては、特に限定されず、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類;メチルフォルメート、メチルアセテート等のエステル類;などが挙げられる。また、これらの溶剤は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。さらに、上記電解液は、ポリマーマトリクスに保持しゲル状とした高分子電解質とすることもできる。ポリマーマトリクスとしては、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するアクリレート系樹脂、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するポリホスファゼン系樹脂、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するポリシロキサン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
電解質としては、LiBF、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
<セパレーター>
セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びそれらに親水性処理を施したものが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例
【0050】
次に、実施例により、本開示を具体的に説明するが、本開示は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
[グラフェン分散液の調製方法]
改質グラファイト-1(XG sciences社製、グレードM、サイズ(長辺):15μm、層数:20層)20.00gを、溶媒としての脱イオン水及び2-プロパノールの混合溶媒(体積比:60/40)575.00gに投入し、超音波ホモジナイザー(株式会社エスエムテー製、UH-600S)で60分間処理した後、改質グラファイトからグラフェンを得た。その後、高分子としてのカルボキシメチル化澱粉(日澱化學株式会社製、商品名:カルボキシメチルでんぷん、重量平均分子量:180,000、エーテル化度0.90~1.10)28.80gを投入し、プラネタリーミキサーを用いて真空で20分間混合処理し、グラフェン分散液を調製した。調製したグラフェン分散液を分散液1とする。
得られた分散液1を用いて、下記に示す評価を行った。評価結果を表1-1に示す。
【0052】
[グラフェン分散液の評価方法]
<グラフェン濃度測定、改質グラファイト濃度測定、高分子濃度測定>
改質グラファイト-1(XG sciences社製、グレードM、サイズ(長辺):15μm、層数:20層)20.00gを、溶媒としての脱イオン水及び2-プロパノールの混合溶媒(体積比:60/40)575.00gに投入し、超音波ホモジナイザー(株式会社エスエムテー製、UH-600S)で60分間処理したもの100.00gを遠心分離機(日立工機株式会社製、型式:R-22N、1000rpm、10分間)で遠心分離したところ、上澄み液は90.00gで、沈降した残渣は10.00gであった。上澄み液90.00gを100℃で乾燥した後、溶媒を揮発させたところ、固形分は0.62gであった。よって、上澄み液90.00gの中には、グラフェン0.62gと溶媒89.38gとが含まれていた。グラフェン濃度(mg/g)はグラフェン質量(0.62g)を溶媒質量(89.38g)で除して算出した。
なお、表1-1及び表1-2におけるグラフェン量(g)は、算出したグラフェン濃度(mg/g)に溶媒の配合量(g)を乗じた値である。
また、表1-1及び表1-2における、改質グラファイト濃度(mg/g)、高分子濃度(mg/g)は、それぞれ、改質グラファイトの仕込量(mg)を溶媒の配合量(g)で除した値、高分子としてのカルボキシメチル化澱粉の配合量(mg)を溶媒の配合量(g)で除した値である。
【0053】
<グラフェンサイズ測定>
原子間力顕微鏡(キーサイトテクノロジー社製、型式:AFM/SPM7500)によって、グラフェンサイズ(長辺)が0.70μmであることを確認した。AFM試料は、劈開した雲母上にグラフェン分散液をスプレーコーティングし、乾燥することによって調製した。
【0054】
<グラフェン層数測定>
原子間力顕微鏡(キーサイトテクノロジー社製、型式:AFM/SPM7500)によって、グラフェンの厚みを測定した。その結果、グラフェン層数が10層以下であって、改質グラファイト-1がグラフェンになっていることを確認した。AFM試料は、劈開した雲母上にグラフェン分散液をスプレーコーティングし、乾燥することによって調製した。
【0055】
<グラフェン分散液粘度測定>
B型粘度計(堀場製作所社製、本体:LVT、円筒形スピンドル:LV No.4)を用い、5rpm回転の粘度と、50rpm回転の粘度を、測定温度25℃で測定した。
【0056】
<グラフェン分散液の分散性の測定>
<<分散性-1>>
分散液1を室温(25℃)で1ヶ月放置し、グラフェンの沈殿及び凝集を目視で確認し評価を行った。
A:沈殿及び凝集が全く発生しない。
B:沈殿又は凝集が少し発生する。
C:沈殿又は凝集が多数発生する
<<分散性-2>>
分散液1を遠心分離機(日立工機株式会社製、型式:CN-2060、ローター:RA-1508、1000rpm)で10分間処理し、上層から1mLの分散液を採取し、溶媒としての脱イオン水及び2-プロパノールの混合溶媒(体積比:60/40)で100倍に希釈して希釈液を調製した。調製した希釈液の吸光度(660nm)を分光光度計(日本分光製、V-570)を用いて測定し、100倍にして吸光度値とした。
【0057】
[グラフェン樹脂膜の分散性及び成膜性の評価]
金属箔に分散液1を滴下し、バーコーターで塗工して、85℃で10分間乾燥して溶媒を除去し、厚み5μmに製膜した。形成されたグラフェン樹脂膜の分散性及び成膜性の評価を目視で行った。
<<分散性>>
A:凝集がない。
B:凝集が一部ある。
C:凝集が全体にある。
<<成膜性>>
A:均一な連続膜が得られる。
B:一部に均一な連続膜にならない箇所がある。
C:膜が形成できない。
【0058】
<導電性の評価>
上記方法で製膜した厚み30μmのグラフェン樹脂膜の表面抵抗をロレスタ(三菱化学アナリック社製)で測定した。なお、表面抵抗値は、1.0Ω/□以下であってもよく、1.0×10-1Ω/□以下であってもよい。
【0059】
[グラフェン樹脂粉の分散性の評価]
分散液1の溶媒を100℃加熱して乾燥させた後、乾燥した粉をすり鉢で、粉砕処理して高分子が被覆されたグラフェン樹脂粉を調製した。
超音波よりも弱い力のディスパー型分散回転体(新東科学株式会社製スリーワンモータ)を用いて、溶媒としての脱イオン水及び2-プロパノールの混合溶媒(体積比:60/40)575gに、グラフェン樹脂粉を各500rpm×10分間で溶解させ、グラフェン再分散液を作製した。グラフェン再分散液を遠心分離機(日立工機株式会社製、型式:CN-2060、ローター:RA-1508、1000rpm)で10分間処理し、上層から1mLの分散液を採取し、溶媒で100倍に希釈して希釈液を調製した。調製した希釈液の吸光度(660nm)を測定し、100倍にして吸光度値とした。
【0060】
(実施例2~8、比較例1~5)
実施例1と同一の方法で、表1-1及び表1-2に記載の組成で配合してグラフェン分散液(分散液2~13)を調製した。さらに、調製されたグラフェン分散液(分散液2~13)を用いて、実施例1と同一の評価を行った。評価結果を表1-1及び表1-2に示す。
なお、具体的には、高分子を配合しない分散液9を比較例1とし、高分子の代わりに、界面活性剤を所定の量で配合した分散液10を比較例2、粘度比が実施例に該当しない分散液11,12を比較例3及び4とし、改質グラファイトの代わりにグラフェンと類似した導電性を発現するナノフィラーを配合した分散液13を比較例5とした。
【0061】
【表1-1】


【0062】
【表1-2】

【0063】
なお、表1-1及び表1-2に記載の配合成分の詳細は以下の通りである。
・改質グラファイト-2(XG sciences社製、グレードM、サイズ(長辺):25μm、層数:20層)
・ナノフィラー(アルミナナノフィラー、住友化学株式会社製、品名:AA-03、サイズ0.4μm)
・カルボキシメチル化澱粉(日澱化學株式会社製、品名:カルボキシメチルでんぷん重量平均分子量:340,000、エーテル化度0.90~1.10)
・カルボキシメチルセルロース(日本製紙株式会社製、品名:MAC350HC、重量平均分子量:340,000、エーテル化度0.78~0.88)
・ヒドロキシエチルセルロース(住友精化株式会社製、品名:HEC-CF-H、重量平均分子量:700,000、エーテル化度0.90~1.20)
・ポリビニルアルコール-1(三菱ケミカル株式会社製、品名:EG-05C、重量平均分子量:120,000、ケン化度:87mol%)
・ポリビニルアルコール-2(株式会社クラレ製、品名:PVA-217、重量平均分子量:1700)
・ポリアクリル酸(株式会社日本触媒製、品名:DL-100、重量平均分子量:3500)
・界面活性剤(花王株式会社製、品名:ネオペレックスG-65、分子量:350)
【0064】
このように、溶媒中にグラフェン及び重量平均分子量が1万~80万である高分子を分散させ、B型粘度計を用いて、測定温度25℃、回転数50rpmで測定した粘度が500~10,000(mPa・s)となるように調整し、B型粘度計を用いて、測定温度25℃、回転数5rpmで測定した粘度を、B型粘度計を用いて、測定温度25℃、回転数50rpmで測定した粘度で除した値(粘度比)が1.2~5.0となる(チキソにする(構造粘性の分散液にする))ように調整することにより、分散性に優れ、且つ、導電性の高いグラフェン樹脂膜が形成可能なグラフェン分散液が得られた。このことは、実施例1~8と比較例1~5との対比により明らかである。
【0065】
<負極電極用グラフェン分散液の調製>
分散液1から製造したグラフェン樹脂粉10.00g、負極活物質として球状黒鉛を85.00g、負極電極用バインダーを5.00g、脱イオン水及び2-プロパノールの混合溶媒(体積比:60/40)122.00gを加え、プラネタリーミキサーに入れて真空状態で混練し、さらに負極電極用グラフェン分散液用バインダーとしてスチレンブタジエンエマルション48%水系分散液を混合して、固形分濃度45%負極電極用グラフェン分散液を得た。分散液2~13についても同一方法で調製した。
【0066】
<電池負極合剤層の作製>
負極用グラフェン分散液と集電体である銅箔(厚み18μm)を用いて、電池電極合剤層を作製した。負極電極用グラフェン分散液はドクターブレードを用いて所定の厚みに塗布した。これを120℃で1時間真空乾燥し、18mmΦに打ち抜いた。さらに、打ち抜いた電池負極合剤層を超鋼製プレス板で挟み、プレス圧が電池負極合剤層に対して1,000~3,000kg/cmとなるようにプレスし、目付け量7~9mg/cm、厚さ40~60μmで、電極密度を1.6g/cmとした。その後、真空乾燥機で120℃12時間乾燥し、評価用負極とした。
【0067】
<正極の製造>
プラネタリーミキサーに、正極活物質としてニッケル酸リチウム90.00g、導電助剤であるアセチレンブラック5.00g(デンカ株式会社製HS-100)、正極用バインダーとしてKFポリマーW7300(PVDF)5.00g、さらにNMPを加えて混合し、固形分濃度67%の正極用合剤スラリーを調製した。正極用合剤スラリーをアルミ箔(厚み10μm)に、ドクターブレードを用いて所定の厚みに塗布した。これを120℃で1時間真空乾燥し、18mmΦに打ち抜いた。さらに、打ち抜いた電極を超鋼製プレス板で挟み、プレス圧が電極に対して1,000~3,000kg/cmとなるようにプレスした。その後、真空乾燥機で120℃12時間乾燥し、評価用正極とした。厚さ約80μm、電極密度は約3.5g/cmであった。
【0068】
<高率放電容量保持率>
上記で作製したリチウムイオン電池試験用セルを用い、定電流定電圧充放電試験を行った。
充電はレストポテンシャルから4.3Vまで3.6mA/cmで定電流充電を行った。次に4.3Vで定電圧充電に切り替え、電流値が15.0μAに低下した時点で停止させた。放電は各電流密度(3.6mA/cm(0.1Cに相当)、及び72.0mA/cm(2.0Cに相当))でそれぞれ定電流放電を行い、電圧2.8Vでカットオフした。0.1C時の放電容量に対する2.0C時の放電容量の割合を、高率放電容量保持率として評価を行った。以下の基準で評価した。以下の基準で評価した結果を表1-1及び表1-2に示す。
A(優秀):高率放電容量保持率が95%以上、許容内。
B(良好):高率放電容量保持率が90%以上、95%未満、許容内。
C(やや不良):高率放電容量保持率が80%以上、90%未満、許容内。
D(不良):高率放電容量保持率が80%未満、許容外。
【0069】
<バインダー>
・負極電極用グラフェン分散液用バインダーとしてのスチレンブタジエンエマルション(SBR)(JSR社製、品名:TRD2001、固形分48%水分散液)
・正極用バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)(クレハ社製、品名:KFポリマーW7300、重量平均分子量約1,000,000)
<電極活物質>
・正極活物質:ニッケル酸リチウム(JFEミネラル株式会社製、品名:503LP、平均粒子径11μm)
・負極活物質:球状黒鉛(日本黒鉛工業株式会社、品名:CGB-20平均粒子径20μm)
【0070】
表1-1及び表1-2より、実施例1~8の電池は、比較例1~5の電池よりも、高率放電容量保持率は良好な結果を示すことが分かった。特に、グラフェン樹脂粉の分散性(吸光度)が高いもので、かつ、グラフェン樹脂膜の成膜性が良いもので、高率放電容量保持率に優れる二次電池の電極層を得ることができる。