(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】プラズマアーク溶射ガンのための改良された陰極装置及びホルダーアセンブリ
(51)【国際特許分類】
H05H 1/34 20060101AFI20241210BHJP
C23C 4/134 20160101ALI20241210BHJP
B05B 7/22 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H05H1/34
C23C4/134
B05B7/22
(21)【出願番号】P 2022547140
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 US2021020845
(87)【国際公開番号】W WO2021178648
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-08-02
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500092413
【氏名又は名称】プラクスエア エス.ティ.テクノロジー、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サマーヴィル、デイヴィッド、エー.
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-129049(JP,A)
【文献】特表2008-521170(JP,A)
【文献】特表2017-523552(JP,A)
【文献】特表2018-523896(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0102598(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0334817(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/34
C23C 4/134
B05B 7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマアーク溶射ガンにおいて使用するように適合された改良された陰極装置であって、前記改良された陰極装置は、
前記改良された陰極装置を第1の端部から第2の端部まで横切る長手方向中心軸線と、
部分的にドーム状の部分であって、前記部分的にドーム状の部分は丸みを帯びた縁部を有し、前記丸みを帯びた縁部は、前記改良された陰極装置の前記第1の端部に沿った平坦な表面として終了しており、前記平坦な表面は、前記平坦な表面の第1の縁部から前記平坦な表面の第2の縁部まで延びている幅と、前記第1の縁部と前記第2の縁部の間に位置する中心点とによって特徴付けられ、前記平坦な表面の前記中心点は、前記改良された陰極装置の前記長手方向中心軸線に沿って位置して
おり、前記丸みを帯びた縁部は2.54mm~7.62mm(0.1インチ~0.3インチ)の曲率半径を有し、前記平坦な表面の幅は1.27mm~3.81mm(0.05インチ~約0.15インチ)である、部分的にドーム状の部分と、
前記部分的にドーム状の本体部分から前記改良された陰極装置の前記第2の端部まで延在する本体部分と、を備えている、改良された陰極装置。
【請求項2】
前記本体部分の前記第2の端部は、陰極ホルダーに動作可能に接続されるように構成されている、請求項1に記載の改良された陰極装置。
【請求項3】
プラズマアーク溶射ガンにおいて使用するための改良された陰極アセンブリであって、
請求項1に記載された改良された陰極装置と、
前記改良された陰極装置の前記第2の端部における前記改良された陰極装置の前記本体部分を受け入れるように構成された、内面を有する陰極ホルダーであって、前記陰極ホルダーは冷却水強化部を含み、前記冷却水強化部は、前記改良された陰極装置の前記本体部分の前記第2の端部に直接接触するよう構成されている、陰極ホルダーと、を備え、
前記部分的にドーム状の部分は、前記陰極ホルダーの外部に位置しており、更に、前記改良された陰極装置及び前記陰極ホルダーの各々は、前記改良された陰極アセンブリを横切る長手方向中心軸線と同軸である、改良された陰極アセンブリ。
【請求項4】
前記冷却水強化部は管状構造であり、前記管状構造は前記陰極ホルダーの通路内に前記長手方向中心軸線の一部に沿って延びている、請求項
3に記載の改良された陰極アセンブリ。
【請求項5】
前記冷却水強化部は、冷却水を受け入れるように適合された複数の穴を有する管状構造であり、前記複数の穴は前記管状構造内で円周方向に配置されて延びている、請求項
3に記載の改良された陰極アセンブリ。
【請求項6】
前記改良された陰極装置の前記本体部分の前記第2の端部は、前記陰極ホルダーに動作可能に接続されている、請求項
3に記載の改良された陰極アセンブリ。
【請求項7】
改良されたプラズマアーク溶射ガンであって、
請求項1に記載された改良された陰極装置と、
前記改良された陰極装置の前記第2の端部において前記改良された陰極装置の前記本体部分に動作可能に接続されて、改良された陰極アセンブリを形成する、内面を有する陰極ホルダーであって、前記陰極ホルダーは冷却水強化部を含み、前記冷却水強化部は、前記改良された陰極装置の前記本体部分の前記第2の端部に直接接触するよう構成され、
前記部分的にドーム状の部分は前記陰極ホルダーの外部に位置している、陰極ホルダーと、
外部及び内部を有する陽極であって、前記陽極の内部は、第1の内部セグメント、第2の内部セグメント、及び第3の内部セグメントによって画成されており、前記第1の内部セグメントは粉末注入経路と流体連通しており、前記第2の内部セグメントには、前記改良された陰極装置が入っており、前記第3の内部
セグメントには、前記陰極ホルダーの前記冷却水強化部が入っている、陽極と、を備え、
前記改良された陰極アセンブリ及び前記陽極は、前記改良されたプラズマアーク溶射ガンを横切る長手方向中心軸線と同軸である、改良されたプラズマアーク溶射ガン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング動作時における陽極内のプラズマアークのより均一な移動につながる特定の幾何学的属性を有する新規の陰極設計に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマアーク溶射ガンは、
図1に示したように、一般的には、基材上に堆積させる溶融した粉末を形成するために使用される。このガンは、電源と、陽極内に配置された陰極とを使用する。陰極と陽極の間に電位差を印加し、材料を基材上に堆積させる際に使用されるアークを発生させる。陽極と陰極の間のチャンバにプラズマガスが供給される。プラズマガスは、陽極と陰極の間に延びるアークを通過する際に高温のプラズマに変化する。安定的かつ制御可能なプラズマを提供するためには、陽極と陰極の間のアークの位置及び長さ、並びに陽極の内面に沿ったアークの回転運動を制御することが重要である。
【0003】
現在、プラズマアーク溶射は、より高いエンタルピー、かつ、より高い電力(power)レベルで行うことが望まれている。しかしながら、高エンタルピーかつ高電力レベルの現在のプラズマ溶射条件には、動作上の課題がある。陽極と陰極の間を流れる大電流により陰極先端部が著しく加熱され、これにより陰極にクラック、スポーリング、及び/又はチッピングが発生する可能性がある。結果として、陰極には表面欠陥が発生しやすい。陰極の欠陥に起因して、アークが実質的に静止したままとなり、その回転運動が停止する。結果として、プラズマ溶射アークガンの性能及び動作寿命が著しく低下し得る。更に、高いエンタルピーかつ高い電力レベルは、
図1に示したように採用されている水冷にもかかわらず、プラズマ溶射アークガンの過度の加熱につながる。更に、スポーリング及び/又はチッピングが生じた陰極の部分が、プラズマ流(すなわちプラズマガスに取り込まれた溶融粉末)中に入ることがあり、最終的に得られる、基材上に堆積されたコーティングに汚染を生じさせることがある。
【0004】
現在のプラズマ溶射アークガンにおける性能、耐久性、及び安定性の課題に鑑み、高エンタルピーかつ高電力レベルにおいて損傷なしに動作可能な改良されたプラズマアーク溶射ガンの満たされていないニーズが存在する。
【発明の概要】
【0005】
一態様では、プラズマアーク溶射ガンにおいて使用するように適合された改良された陰極装置であって、改良された陰極装置を第1の端部から第2の端部まで横切る長手方向中心軸線と、部分的にドーム状の部分であって、部分的にドーム状の部分は丸みを帯びた縁部を有し、丸みを帯びた縁部は、改良された陰極装置の第1の端部に沿った平坦な表面として終了しており、平坦な表面は、平坦な表面の第1の縁部から平坦な表面の第2の縁部まで延びている幅と、第1の縁部と第2の縁部の間に位置する中心点とによって特徴付けられ、平坦な表面の中心点は、改良された陰極装置の長手方向中心軸線に沿って位置している、部分的にドーム状の部分と、部分的にドーム状の本体部分から改良された陰極装置の第2の端部まで延在する本体部分と、を備えている、改良された陰極装置。
【0006】
第2の態様では、プラズマアーク溶射ガンにおいて使用するための改良された陰極アセンブリであって、改良された陰極装置であって、第1の端部に沿った部分的にドーム状の部分と、部分的にドーム状の部分から改良された陰極装置の第2の端部まで延在する本体部分と、を有する、改良された陰極装置と、改良された陰極装置の第2の端部における改良された陰極装置の本体部分を受け入れるように構成された、内面を有する陰極ホルダーであって、陰極ホルダーは冷却水強化部を含み、冷却水強化部は、改良された陰極装置の本体部分の第2の端部に直接接触するよう構成されている、陰極ホルダーと、を備え、部分的にドーム状の部分は陰極ホルダーの外部に位置しており、更に、改良された陰極装置及び陰極ホルダーの各々は、改良された陰極アセンブリを横切る長手方向中心軸線と同軸である、改良された陰極アセンブリ。
【0007】
第3の態様では、改良されたプラズマアーク溶射ガンであって、改良された陰極装置であって、第1の端部に沿った部分的にドーム状の部分と、部分的にドーム状の部分から改良された陰極装置の第2の端部まで延在する本体部分と、を有する、改良された陰極装置と、改良された陰極装置の第2の端部において改良された陰極装置の本体部分に動作可能に接続されて、改良された陰極アセンブリを形成する、内面を有する陰極ホルダーであって、陰極ホルダーは冷却水強化部を含み、冷却水強化部は、改良された陰極装置の本体部分の第2の端部に直接接触するよう構成され、部分的にドーム状の部分は陰極ホルダーの外部に位置している、陰極ホルダーと、外部及び内部を有する陽極であって、陽極の内部は、第1の内部セグメント、第2の内部セグメント、及び第3の内部セグメントによって画成されており、第1の内部セグメントは粉末注入経路と流体連通しており、第2の内部セグメントには、改良された陰極装置が入っており、第3の内部セクションには、陰極ホルダーの冷却水強化部が入っている、陽極と、を備え、改良された陰極アセンブリ及び陽極は、改良されたプラズマアーク溶射ガンを横切る長手方向中心軸線と同軸である、改良されたプラズマアーク溶射ガン。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】従来のプラズマ溶射アークガンの代表的な概略図である。
【0009】
【
図2A】本発明の原理による新規の陰極設計の代表的な概略図である。
【0010】
【
図2B】本発明の原理による
図2aの新規の陰極設計の代表的な端面図である。
【0011】
【
図2C】本発明の原理による
図2a及び
図2bの新規の陰極設計の代表的な斜視図である。
【0012】
【
図3A】本発明の原理による
図2aの新規の陰極設計のための新規の陰極ホルダーの代表的な断面図である。
【0013】
【
図3B】本発明の原理による
図3aの新規の陰極ホルダーの代表的な端面図である。
【0014】
【
図3C】本発明の原理による
図3a及び
図3bの新規の陰極ホルダーの代表的な斜視図である。
【0015】
【
図4】本発明の原理による、新規の陰極ホルダー内に装填された新規の陰極設計の代表的な側面図である。
【0016】
【
図5】本発明の原理による、改良されたプラズマ溶射アークガンの一部としての新規の陰極装置及び新規の陰極ホルダーの代表的な概略図である。
【0017】
【
図6】本発明の設計に到達する前に出願人らが評価した、平坦な表面を有さない完全にドーム状の部分を有する損傷した陰極先端部の写真を示している。
【0018】
【
図7】本発明の設計に到達する前に出願人らが評価した、平坦な表面を有さず、長手方向のテーパーも有さない完全にドーム状の部分を有する陰極先端部の写真を示している。
【0019】
【
図8】出願人らが評価した、平坦な表面を有する部分的にドーム状の先端形状を有する陰極先端部の写真を示している。
【0020】
【
図9】広範な試験を実施した後の
図8の陰極先端部設計の写真であり、損傷がないことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
驚くべきことに、出願人らは、
図1に示したような既存の陰極形状及び陰極ホルダーを改良することによって、陰極の損傷の大幅な減少をもたらし、それによって、陰極及び陰極が装着される付随するプラズマアーク溶射ガンの寿命を延ばすことができることを発見した。本明細書に開示されているプラズマ溶射アークガン、陰極、及び陰極ホルダーは、本明細書に例示的に記載されている特定の構成要素及び構造のいずれかを備えている、いずれかからなる、又はいずれかから本質的になっていてよい。本開示の動作可能な実施形態を定義する際に、本開示は、制限的に定義されたプラズマ溶射アークガン、陰極、及び陰極ホルダーを更に企図しており、例えば、具体的に記載されている部品、構成要素、及び構造の1つ以上が具体的には省略されてもよい。
【0022】
本発明は、
図1に示したような既存のプラズマ溶射アークガンの欠点を認識している。例えば、出願人らは、先端部に沿った陰極表面への過度な熱負荷によって、スポーリングやチッピングなどの表面欠陥が引き起こされ得ることを観察した。陰極表面上の表面欠陥によって、(
図1に示したように)アーク経路が不規則になる、及び/又は、アークが陰極と陽極との間を望ましく一様にスイープして移動せずに静止状態となることがある。
【0023】
図1は、陰極の丸みを帯びた縁部と陽極との間に延びているアークを示している。アークは、正電位と負電位のリード線間に電位を印加することによって発生する。アークは、陰極先端部と陽極の内面との間のギャップ内に発生する。
図1には、陰極先端部と陽極との間の2つのアークが示されている。2つのアークの各々は、時刻t1におけるアークの第1の位置と、時刻t2におけるアークの第2の位置を示すように意図されている。アークの一端は陰極先端部に沿って移動し、アークの他端は陽極の内面に沿って移動する。しかしながら出願人らは、コーティング動作中、陽極内面内でのアークの回転運動が不規則になり、アークが瞬間的に回転を停止したり完全に回転を停止して、陽極内面の特定の位置で静止したままになることを観察した。このように、陽極内面におけるアークの端部は、部分的又は完全に回転運動を停止することがある。更に、コーティング動作中に陰極先端部におけるアーク付着端点が連続的又は断続的に変化する結果として、陰極先端部と陽極表面との間のアークの長さがコーティング観察中に変化することがある。
図1のアークの不規則な回転運動によって、不均一な熱分布が引き起こされる。陰極先端部の過度な熱によって陰極先端部に沿って表面欠陥が発生し、これによりアークの回転運動が著しく低下したり、回転運動が完全に停止したりする傾向が更に強まることがある。したがって、
図1の設計では、アークが陽極内面に沿った一点に付着したままとなることがあり、これは陽極の寿命に不利である。アークが回転しないと、陽極だけでなく陰極に沿っても過度な熱が集中し、表面欠陥が発生する。陰極の表面欠陥は、アークの回転運動を更に乱す原因となると考えられる。このように、出願人らが観察したように陰極先端部に沿って過度の熱が蓄積される傾向にあり、時間の経過とともに最終的に陰極が熱的に損傷することがある。スポーリング又はチッピングによって、陰極からの断片的な破片がプラズマ流に混入し、最終的なコーティングに達することがある。
【0024】
出願人らが観察した
図1の装置のこれらの欠点から、本発明が創案された。
図2aは、本発明の原理による新規の改良された陰極設計の代表的な断面概略図である。この陰極装置は、部分的にドーム状の端部を有する。部分的にドーム状の端部は、陰極装置の先端部に沿って平坦な表面として終了又は収束している丸みを帯びた縁部を有する。長手方向中心軸線は、平坦な表面の中心点が長手方向中心軸線に沿って位置するように、平坦な表面を横切っている。平坦な表面は、第1の縁部と第2の縁部との間に延在すると定義することのできる幅(
図2Aには「W」として表してある)によって特徴付けることができる。第1の縁部及び第2の縁部の各々は、長手方向中心軸線から同じ距離だけ離間している。陰極先端部に沿ったアークの付着を促進する任意の適切なWが企図されている。一例では、Wは、0.05インチ~約0.15インチ、より好ましくは0.075インチ~0.125インチの範囲であり得る。陰極は、部分的にドーム状の端部から延在する本体部分を更に含む。
【0025】
出願人らは、平坦な表面が、アークの端部が付着するための安定した付着点を形成することを意外にも発見した。アークの他端は、陽極の内面に向かって延びる。逆に、平坦部を有さない
図1の完全に丸みを帯びた先端部では、アークが陰極の中央部分に固定されず、それにより前述した問題につながる。
【0026】
図2bは、本発明の原理による
図2aの新規の改良された陰極の設計の代表的な端面図を示している。平坦な表面は、陰極先端部の周囲のドーム状部分と同軸である丸い縁として示されている。
図2cは、本発明の原理による
図2a及び
図2bの新規の改良された陰極の設計の代表的な斜視図である。陰極先端部は、部分的にドーム状の部分とフォルト表面とを含み、その両方が中実(solid)である。明確に言えば、平坦な表面は、ドーム状部分から延びた突出部ではない。そうではなく、ドーム状の丸みを帯びた縁部は、平坦な表面として終了しており、これは、好ましくは、完全にドーム状の陰極先端部から所定量の材料を除去することによって作製される。
【0027】
部分的にドーム状の陰極先端部は、ラベル「ドーム」によって表された、
図2aの矢印によって示される曲率の程度によって更に特徴付けられる。陰極の平坦な表面に沿ったアークの付着を安定させる任意の適切な曲率半径は、本発明によって企図されている。一例では、曲率の程度は、0.1インチ~約0.5インチ、より好ましくは0.2インチ~約0.4インチの範囲とすることができる。
【0028】
新規の陰極の設計では、
図1の従来の陰極の設計で説明したものと比較して、アークの均一な回転運動により熱が著しく良好に分布する。安定したアークの回転運動は、少なくとも部分的には、アークの端が平坦な表面の中心線に沿って陰極先端部に付着したままであることによって達成されると考えられる(平坦な表面の中心線又は中心点は、コーティング動作中に長手方向中心軸線が横切る点である)。言い換えれば、陰極先端部に沿ったアーク端は、平坦な表面の中心線又は中心点に沿って平坦な表面に付着したままである。
図1の完全に丸みを帯びた陰極先端部とは異なり、新規の改良された陰極先端部では、アークが陰極先端部の表面に沿ってランダムに移動することを防止することができる。結果として、本発明では、アークの陰極端が平坦な表面の中心線に沿って実質的に固定されながら、アークが陽極内面の内側でより自由に回転することが可能になる。このような陰極先端部での安定したアークの付着により、アークは陽極通路内でより自由に回転するようになる。自由な回転により、アークが陰極先端部と陽極内面との間のギャップ内で、1つの位置に偏ったり、あるいは固定されたりすることが回避される。アークのより均一な回転運動により、
図1の設計と比較して、より均一な熱分布が生じ、これにより陽極及び陰極先端部に熱が蓄積する機会が減少又は排除され、それによって陽極及び陰極表面の欠陥が最小化又は排除されて、陰極及び陽極が高いエンタルピーかつ高い電力レベルで動作することが可能になる。
【0029】
新規の改良された陰極装置に加えて、陰極装置が装填される改良された陰極ホルダーが提供される。
図3a、
図3b、及び
図3cは、それぞれ、新規の改良された陰極ホルダーの断面図、端面図、及び斜視図を示している。
図3aは、
図2a、
図2b、及び
図2cの陰極装置が装填されるように設計された断面図を示している。
図3cで視認できる方のホルダーの端部は、新規の改良された陰極装置をねじ係合させる(thread)ことのできる部分を表している。
図3aは、冷却水強化部を示している。冷却水強化部は、
図3bに示したように、円周方向に配置されて延びている複数の管状通路を含む。冷却水強化部は、
図3aに示したように長手方向に延びており、以下に説明するように、陰極ホルダー及びプラズマアーク溶射ガンの後方部分から冷却水を受け入れる。冷却水強化部は、改良された陰極装置の端部と直接接触するように構成されており、それによって、溶射動作中に陰極装置から熱を放散させる能力が向上し、これにより、
図1の装置、ホルダー、及びプラズマアーク溶射ガンを用いて従来可能であったよりも高いエンタルピーかつ高い電力レベルにおいて本発明を使用することが可能になる。
図1の標準的なプラズマアーク溶射ガンにおいては、陰極ホルダーは、水との直接的な接触が可能であるようには構成されていない。
【0030】
図4は、改良された陰極アセンブリを作成するために、
図3a、
図3b、及び
図3cの陰極ホルダーに接続された、
図2a、
図2b、及び
図2cの陰極装置を示している。好ましくは、
図3aにおいて理解できるように、陰極ホルダーは、陰極とねじ係合する突出部を含む。しかしながら、陰極を陰極ホルダーに接続するための任意の他の適切な手段が企図されている。
図4は、部分的にドーム状の部分が陰極ホルダーの外部に位置することを示している。改良された陰極装置及び陰極ホルダーの各々は、改良された陰極アセンブリを横切る長手方向中心軸線と同軸である。プラズマアーク溶射ガンの動作中、冷却水が冷却水強化部の複数の管状通路に入る。
【0031】
陰極先端部自体の新規の形状の利点として、(1)アークの一端を平坦な表面に沿って中央に位置させることができる、(2)これにより、より高いエンタルピーかつ高い電力レベルでプラズマアーク溶射ガンを動作させることができる。更に、改良された陰極ホルダーの内側に冷却水強化構造を組み込むことにより、陰極先端部を含む陰極表面の冷却効率が更に向上し、これにより、より高いエンタルピーかつ高い電力レベルで陰極を動作させることができる。
【0032】
図5は、改良された陰極ホルダーに装填された改良された陰極装置を組み込んだ、改良されたプラズマアーク溶射ガンを示している。陽極及び新規の改良された陰極は、互いに協働して、「プラズマアークガス流入」というラベル及び対応する矢印によって見て取ることができるようにプラズマアークガスが間を流れる環状フローチャンバを画成している。冷却水は、「直流電源(+)水流入」というラベルによって示されているように、ガンの後部に導入される。冷却水は、改良された陰極ホルダーの冷却強化部に入り、陰極装置に直接接触し、次いで、矢印で示され「直流電源(+)水流出」というラベルによって示されているように流出する。
図5に示した正のリードと負のリードの間に電位が印加され、その間のギャップを橋渡しするようにアークが発生する。このアークの回転運動は
図5に示してあり、「アーク経路」として示してある。アークの一端は、平坦な表面の中心線において陰極先端部に沿って付着しており、平坦な表面の詳細は
図2a、
図2b、及び
図2cに示して説明されている。アークの他端は、
図5に示したように、陽極内面に向かって延びている。陰極先端部の部分的にドーム状の部分に沿った平坦な表面によって、
図5に明確に見られるように、アークの端部が平坦な表面の中心線に沿って付着したままとなる。驚くべきことに、出願人らは、平坦な表面によって、
図1に示したようにアークが陰極の中心線表面から外れてしまうことが防止され、その代わりに、陰極先端部のアークの端部が、
図5に示したように平坦な表面の中心線に実質的に固定されたままであることを発見した。出願人らは、試験中にアークが平坦な表面の縁部に移動するものと予期しており、なぜならそのような位置は、陽極と陰極の間の抵抗が最も小さく距離が最も短い経路を表すためである。しかしながら、理由は完全には理解できないが、アークの付着位置は陰極の平坦な表面の中心線に沿っており、プラズマアーク溶射ガンの動作中にその位置にとどまっていることが観察された。
【0033】
アークの一端を、長手方向中心軸線が横切る陰極の平坦な表面の中心線に沿って位置させることにより、アークの回転運動は、
図1の回転運動と比較して実質的により均一である。言い換えれば、陽極内面に沿ったアークの端部は内面で回転し、一方、陰極先端部の平坦な表面の中心線に沿ったアークの端部は陰極の中心点に付着したままである。このようにして、より安定したプラズマが生成され、陰極表面の部品寿命が延び、それによって、陰極表面の表面欠陥が減少又は排除される。更に、回転運動中にアークの端点が短くならないため、
図1の不規則なアークの動きに比べて、アーク長が大きく変化することがない。実質的に一定のアーク長によって、より均一な電圧及び電力がプラズマ溶射プロセスに供給されて、アークの安定性が高まる。
【0034】
アークが発生した後、改良された陰極ホルダーの強化機構に冷却水が導入され、プラズマガスが
図5に示したように後部ハウジング及びガス注入器に導入され、粉末が
図5に示したようにプラズマアーク溶射ガンのハウジング前部に導入される。これらのステップは、本発明の範囲から逸脱することなく、任意の順序で行うことができる。プラズマガスは、陰極先端部の周囲を流れ、高温のアークに接触し、アークは、陽極の内面に沿って回転し、陰極の平坦な表面の中心線に実質的に固定されて付着したままである。プラズマガスはアークから熱を吸収して温度が上昇する。粉末はプラズマガンの前面に導入され、そこで高温のプラズマガスと接触し、それにより温度が上昇して溶融する。溶融した粉末と高温のプラズマガスは、
図5に示したようにプラズマ流としてプラズマガンの前面から出て、溶融した粉末を基材上に堆積させることができる。実質的に均一なアークの動きと、陰極に直接接触する冷却水により、陰極に大きな表面欠陥が生じない。このように、本発明は、
図1の装置において以前に達成可能であったよりも、より安定したプロセスを生成する。
【0035】
本発明を従来の設計と比較するために、いくつかの実験を行った。本発明の好ましい実施形態は上に記載されているが、以下の例は、本発明と他の従来設計とを比較するための基礎情報を提供することを意図しており、ただし本発明を限定するものとして解釈されないものとする。
比較実施例1
【0036】
図1に示したような長手方向のテーパー部を有する完全にドーム状の陰極装置を、標準の陰極ホルダーに配置し、標準の陰極アセンブリを作製した。明確に言えば、この完全にドーム状の陰極装置は、陰極先端部に沿った平坦な表面を有していなかった。
図1に示したように、この標準の陰極アセンブリをプラズマ溶射アークガンに組み込んだ。このプラズマアーク溶射ガンを使用して、50~70ボルトの範囲の電力レベルで12回の動作を行った。
【0037】
出願人らは、過熱の結果として、陰極先端部に損傷を観察した。出願人らは、完全にドーム状の陰極の設計は、特に高電圧での高い熱負荷に対応できないものと結論付けた。
比較実施例2
【0038】
次に、
図1に示したような長手方向のテーパー部を有する完全にドーム状の陰極装置を、
図3a、
図3b、及び
図3cに示したような、冷却強化機構を有する改良された陰極ホルダーに配置した。明確に言えば、この完全にドーム状の陰極装置は、陰極先端部に沿った平坦な表面を有していなかった。この陰極アセンブリを、標準のアーク溶射ガンに組み込んだ。冷却強化機構を除いて、プラズマアーク溶射ガンは
図1に示したものと同様であった。このプラズマアーク溶射ガンを使用して、50~70ボルトの範囲の電力レベルで、9回の動作を行った。出願人らは、陰極先端部の損傷を観察した。具体的には、
図6は、過熱を受けた、亀裂及び欠陥のある表面を示した損傷した陰極先端部の写真を示している。陰極先端部は、平坦な表面のない完全にドーム状の部分を有していた。出願人らは、陽極の内面に明るいオレンジ色の変色を観察し、これは、アークが陽極内面を回転しながら移動するのとは対照的に、アークが内面に沿った一箇所に付着していたことを示している。アークは陽極内面に沿ったその特定の位置から離脱することができなかった。
比較実施例3
【0039】
次に、本試験では、比較実施例1及び比較実施例2で評価したような長手方向のテーパー部を有していない完全にドーム状の陰極装置を評価した。明確に言えば、完全にドーム状の陰極装置は、陰極先端部に沿った平坦な表面を有しておらず、長手方向のテーパー部も有していなかった。
図7は、試験前の陰極設計の写真を示している。
図7の陰極設計をプラズマ溶射アークガンに組み込んだ。このプラズマアーク溶射ガンを使用して50~70ボルトの範囲の電力レベルで8回の動作を行った。出願人らは、(1)アークが陽極内面内で自由に回転せず、内面に沿って単一の付着点を示したこと、及び(2)陰極先端部に沿ったアークの付着が陰極先端部の中心線上になかったこと、を観察した。(1)と(2)の望ましくない特徴から、出願人らは、
図7の陰極の設計は許容されないと結論付けた。なぜならこの陰極設計ではアークが単一点に付着する傾向があり、最終的に陰極先端部に損傷が発生するためである。
【0040】
実施例1(本発明)
【0041】
比較実施例1、比較実施例2、及び比較実施例3に関連して説明した試験を行った後、出願人らは、平坦な表面を有する部分的にドーム状の先端部を有する陰極を表す
図8の設計を評価した。
図8の陰極設計を使用して、50~70ボルトの範囲の電力レベルで47回の動作を行った。出願人らは、アークの端が陰極先端部の平坦な表面の中心線に付着したままである一方、アークの他端は、比較実施例1、比較実施例2、及び比較実施例3で観察されたよりも均一な態様で陽極の内面に対して自由に回転することができたことを観察した。動作中に陽極内面に沿った一箇所での付着は観察されなかった。
【0042】
以上の実験から、アークが陽極内面に沿って自由に回転できるかどうかは、陰極上のアークの端部が平坦な表面に沿って陰極の中心線に付着したままであることに依存することが確認された。
【0043】
本発明は、新規の陰極先端部設計を新規の陰極ホルダーと組み合わせて使用して、陰極を含むガンの様々な構成要素の高い動作温度を発生させ得る代替ガス(例えば、窒素、水素など)を用いてプラズマアーク溶射を行うための実行可能な方法を提供する。
【0044】
本発明の特定の実施形態と見なされるものを示し、説明してきたが、当然ながら、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態又は詳細の様々な修正及び変更を容易に行うことができることが理解されるであろう。したがって、本発明は、本明細書において示され、説明される正確な形態及び詳細に限定されず、本明細書において開示され、以下に特許請求される本発明の全範囲に満たない、いかなるものにも限定されないことを意図する。