(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ブレーキディスク
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
F16D65/12 S
F16D65/12 M
(21)【出願番号】P 2022563785
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2021042150
(87)【国際公開番号】W WO2022107785
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2020191643
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305032254
【氏名又は名称】サンスター技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】久保田 哲史
(72)【発明者】
【氏名】大畑 章人
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-092926(JP,A)
【文献】特開2020-051565(JP,A)
【文献】特開2015-094419(JP,A)
【文献】独国実用新案第9403747(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキパッドが当接する領域に正面視でそれぞれ円形に形成される複数の水切凹部を備えるブレーキディスクであって、
ブレーキパッドが当接する摩擦面と前記水切凹部の開口部の内周面とが形成する肩部の角度は
155°以上175°以下である、ブレーキディスク。
【請求項2】
ブレーキパッドが当接する領域に形成される複数の円錐状の水切凹部を備えるブレーキディスクであって、
ブレーキパッドが当接する摩擦面と前記水切凹部の開口部の内周面とが形成する肩部の角度は
155°以上175°以下である、ブレーキディスク。
【請求項3】
前記水切凹部は、一方の前記摩擦面と他方の前記摩擦面とで異なる位置に形成される、請求項1又は2に記載のブレーキディスク。
【請求項4】
前記水切凹部の開口径は7mm以上15mm以下である、請求項1から3のいずれかに記載のブレーキディスク。
【請求項5】
引張強度が800MPa以下である炭素鋼、鋳鉄又はステンレス鋼から形成される、請求項1から4のいずれかに記載のブレーキディスク。
【請求項6】
炭素鋼又は鋳鉄から形成される、請求項1から5のいずれかに記載のブレーキディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両用の制動装置として、回転軸と共に回転するブレーキディスクをブレーキパッドで挟み込むことによって、摩擦力で回転軸の回転を制止するディスクブレーキ装置が広く利用されている。このようなディスクブレーキ装置において、水や埃等の異物がブレーキディスクとブレーキパッドとの間に入り込むと制動力が低下するため、このような異物を取り除くための水切穴をブレーキディスクに設ける技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、自動二輪車用ブレーキディスクは高い強度を有する特殊なステンレス鋼等を用いて形成されるが、比較的安価な炭素鋼を用いてブレーキディスクを形成する場合もある。ブレーキディスクに水切穴を形成すると、熱応力が集中しやすくなるため、水切り穴を起点としたクラックが発生するおそれがある。そこで、本発明は、耐クラック性に優れたブレーキディスクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係るブレーキディスクは、ブレーキパッドが当接する領域に形成される複数の水切凹部を備えるブレーキディスクであって、ブレーキパッドが当接する摩擦面と前記水切凹部の開口部の内周面とが形成する肩部の角度は鈍角である。
【0006】
上述のブレーキディスクにおいて、前記肩部の角度は135°以上175°以下であってもよい。
【0007】
上述のブレーキディスクにおいて、前記水切凹部は円錐状であってもよい。
【0008】
上述のブレーキディスクにおいて、前記水切凹部は、一方の前記摩擦面と他方の前記摩擦面とで異なる位置に形成されてもよい。
【0009】
上述のブレーキディスクにおいて、前記水切凹部の開口径は7mm以上15mm以下であってもよい。
【0010】
上述のブレーキディスクは、引張強度が800MPa以下である炭素鋼、鋳鉄又はステンレス鋼から形成されてもよい。
【0011】
上述のブレーキディスクは、炭素鋼又は鋳鉄から形成されてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐クラック性に優れたブレーキディスクを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るブレーキディスクの正面図である。
【
図2】
図1のブレーキディスクの部分断面図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係るブレーキディスクの部分断面図である。
【
図4】本発明の第3実施形態に係るブレーキディスクの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明をする。
図1は、本発明の第1実施形態に係るブレーキディスク1の正面図(軸方向視図)である。
図2は、
図1のブレーキディスク1の部分断面図である。
【0015】
ブレーキディスク1は、ディスクブレーキ装置に用いられる。具体的には、ブレーキディスク1は、正面視でドーナツ型の平板環状に形成され、不図示の回転軸(典型的には車軸)に固定されることにより回転軸と共に回転し、不図示のブレーキパッドに挟み込まれることによって回転軸を制動する。つまり、ブレーキディスク1の両面は、ブレーキパッドが当接する摩擦面11,12を構成する。
【0016】
ブレーキディスク1は、正面視で、内周側に回転軸に設けられるハブに固定するための複数の取付孔2と、取付孔2の外側のブレーキパッドが当接する領域に形成される複数の水切凹部3と、を有する。
【0017】
ブレーキディスク1の厚みとしては、制動する回転軸の出力等にもよるが、例えば2mm以上60mm以下とすることができる。ブレーキディスク1の内径としては、回転軸に設けられるハブ等に応じて選択され、例えば40mm以上300mm以下とすることができる。ブレーキディスク1の外径としては、ディスクブレーキ装置の設置スペースの中で、必要な制動力を得るために必要なブレーキパッドの当接面積を確保できるよう選択され、例えば100mm以上400mm以下とすることができる。
【0018】
ブレーキディスク1は、例えば炭素鋼、鋳鉄、ステンレス鋼等から形成することができるが、比較的安価な構造用炭素鋼、典型的には例えばS50C、S53C、S55C、S58C(JIS-G4051:2016)等の機械構造用炭素鋼、又は鋳鉄、典型的にはねずみ鋳鉄品(JIS-G5501:1995)、球状黒鉛鋳鉄品(JIS-G5502:2007)等から形成される場合など、機械的性質における引張強度が800MPa以下の材質から形成される場合に、本発明により耐クラック性を向上する効果が顕著となる。
【0019】
取付孔2は、通常、ボルトによってブレーキディスク1をハブに固定するために使用される。このため、取付孔2の径及び数は、必要とされる制動トルクに応じて選択される。一般的に、取付孔2は、ブレーキディスク1の中心から等距離、且つ周方向に等間隔に形成される。
【0020】
水切凹部3は、ブレーキディスク1の表面に付着した水を排出する水切り効果や埃等の噛み込みによりブレーキパッドの荒れた表面を整えるクリーニング効果を発揮することで、ブレーキディスク1とブレーキパッドとの間に生じる摩擦力が低下したり、異常な摩耗を発生させることを抑制したりできる。
【0021】
水切凹部3は、正面視でそれぞれ円形に形成される。水切凹部3は、一方の摩擦面11と他方の摩擦面12とで異なる位置に形成されることが好ましい。これにより、摩擦面11,12によって応力が集中する位置を異ならせることができるので、熱応力の最大値を抑制できる。一方の摩擦面11の水切凹部3と他方の摩擦面12の水切凹部3とは、両面の水切り効果を均等にするために、同じパターンで周方向に角度をずらして形成されることが好ましい。
【0022】
ブレーキディスク1は、中心からの距離が異なる複数組の水切凹部3の群を備えてもよい。本実施形態では、それぞれの摩擦面11,12に、中心から第1の距離且つ周方向に等間隔に形成される5つの水切凹部3からなる第1の群と、中心から第2の距離且つ周方向に等間隔に形成される5つの水切凹部3からなる第2の群と、が形成されている。このように中心からの距離が異なる水切凹部3を設けることにより、水切効果を向上できる。
【0023】
水切凹部3の径は、少なくとも開口部においてブレーキパッドが当接する摩擦面11,12に向かって拡径し、ブレーキパッドが当接する摩擦面11,12と水切凹部3の開口部の内周面とが形成する肩部31の角度αは、鈍角である。これにより、肩部31への応力集中が緩和されるため、摩擦熱により生じる熱応力の最大値が抑制される。なお、開口部の内周面とは、微細面取りによって形成されるような小さな面を意味せず、1mm以上の幅を有する実質的に形状を画定する面を意味するものとする。
【0024】
本実施形態では、水切凹部3は、円錐状に形成され、全体的に内周面の傾斜角度が一定である。このように、水切凹部3を円錐状にすれば、熱応力の最大値を効果的に低減することができる。また、円錐状の水切凹部3は形成が容易である。具体的には、円錐形状の水切凹部3は、ドリル加工によって単一工程で容易に形成することができる。
【0025】
肩部31の角度αの下限としては、135°が好ましく、155°がより好ましい。一方、肩部31の角度αの上限としては、175°が好ましく、165°がより好ましい。肩部31の角度αを前記下限以上とすることによって熱応力の最大値を小さくすることができる。また、肩部31の角度αを前記上限以下とすることによって、水切凹部3の容積を確保して十分な水切り効果を得られる。また、肩部31の角度αを小さくすることで水切凹部3の形成が容易となる。例えば、ドリルの先端角は最大140°程度であるため、160°以下の角度αを有する肩部31を形成する水切凹部3であれば、ドリルを用いて容易に形成できる。
【0026】
水切凹部3の開口径の下限としては、7mmが好ましく、8mmがより好ましい。一方、水切凹部3の開口径の上限としては、15mmが好ましく、12mmがより好ましい。水切凹部3の開口径を前記下限以上とすることによって、水切凹部3の容積を確保して有効な水切り効果が得られる。また、水切凹部3の開口径を前記上限以下とすることによって、ブレーキディスク1とブレーキパッドとの摩擦力を安定させられる。
【0027】
図3は、本発明の第2実施形態に係るブレーキディスク1Aの部分断面図である。以降の説明において、先に説明した実施形態と重複する説明は省略することがある。
【0028】
ブレーキディスク1Aは、ブレーキパッドが当接する領域に形成される複数の水切凹部3Aを有する。
図3のブレーキディスク1Aは、それぞれの水切凹部3Aの形状が、
図1,2のブレーキディスク1の水切凹部3の形状と異なるだけである。
【0029】
本実施形態の水切凹部3Aは、球の一部を切り取ったような形状である。より詳しくは、水切凹部3Aの内面は、中心が摩擦面11,12よりも大きく外側に存在する球面状である。このような水切凹部3Aは、例えばボールエンドミル等によって形成することができる。ブレーキディスク1Aの全体の厚みが小さい場合等には、このような球状の水切凹部3Aを形成することによって、厚みが部分的に小さくなり過ぎることによる強度低下を防止できる。
【0030】
図4は、本発明の第3実施形態に係るブレーキディスク1Bの部分断面図である。ブレーキディスク1Bは、ブレーキパッドが当接する領域に形成される複数の水切凹部3Bを有する。
図4のブレーキディスク1Bは、それぞれの水切凹部3Bの形状が、
図1,2のブレーキディスク1の水切凹部3の形状と異なるだけである。
【0031】
本実施形態の水切凹部3Bは、円筒状の凹部の開口部を円錐状に拡径したものである。この水切凹部3Bは、円錐状の開口部を形成するドリルによる加工と、円筒状の奥部を形成するスクエアエンドミルによる加工と、を組み合わせることにより形成できる。本実施形態の水切凹部3Bは、
図1の水切凹部3と比べて容積を大きくできるので、熱応力の最大値を抑制しつつ、水切り効果を大きくできる。
【0032】
以上、本発明の各実施形態のブレーキディスクについて説明したが、本発明に係るブレーキディスクの構成及びその効果は、上述したものに限定されない。例として、本発明に係るブレーキディスクは、例えばカップ状のハブが一体に接続されたものであってもよく、例えば外周部の切り欠き等、他の構造を有するものであってもよい。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
S50Cから形成され、厚み7.5mm、内径155mm、外形262mmのブレーキディスクのモデル1~6について、シミュレーションにより、摩擦面にブレーキパッドを圧接することにより生じる摩擦熱によって作用する熱応力の最大値を求めた。
【0035】
なお、モデル1は、開口径10mm、肩部の角度が175°の水切凹部を有するものとした。モデル2は、開口径10mm、肩部の角度が160°の水切凹部を有するものとした。モデル3は、開口径10mm、肩部の角度が135°の水切凹部を有するものとした。モデル4は、直径10mmの円筒状の非貫通穴を有するものとした。モデル5は、直径10mmの貫通穴を有するものとした。モデル6は、直径12mmの貫通穴を有するものとした。
【0036】
モデル1の熱応力の最大値は450MPaであった。モデル2の熱応力の最大値は598MPaであった。モデル3の熱応力の最大値は798MPaであった。モデル4の熱応力の最大値は893MPaであった。モデル5の熱応力の最大値は989MPaであった。モデル6の熱応力の最大値は1013MPaであった。
【0037】
以上の結果から、肩部の角度が大きい水切凹部を形成したブレーキディスクは、熱応力の最大値が小さく、耐クラック性に優れることが確認できた。
【符号の説明】
【0038】
1,1A,1B ブレーキディスク
11,12 摩擦面
2 取付孔
3,3A,3B 水切凹部
31 肩部