(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】多重殻タンク及び船舶
(51)【国際特許分類】
B65D 90/06 20060101AFI20241210BHJP
F17C 3/04 20060101ALI20241210BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B65D90/06 B
F17C3/04 A
B63B25/16 F
(21)【出願番号】P 2022572830
(86)(22)【出願日】2020-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2020049136
(87)【国際公開番号】W WO2022144971
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 太一郎
(72)【発明者】
【氏名】冨永 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】黒田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 森
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 英和
(72)【発明者】
【氏名】神▲崎▼ 大輔
(72)【発明者】
【氏名】樫藤 瑞紀
(72)【発明者】
【氏名】細野 隆道
(72)【発明者】
【氏名】加野 大地
【審査官】矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-194166(JP,A)
【文献】特開2016-016806(JP,A)
【文献】特開平10-141595(JP,A)
【文献】実開昭63-72399(JP,U)
【文献】特表2014-502935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 90/06
F17C 3/04
B63B 25/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを貯留する内槽と、
前記内槽を取り囲むように、前記内槽の外側に間隙を空けて配置された一重又は多重の外槽と、
前記内槽の外面、前記外槽の内面、及び前記外槽の外面のうち2つ以上の面を覆うように当該面に固定されて、熱伝導及び熱対流を阻害する面状断熱材と、を備え、
各槽間に気体が充填されている、
多重殻タンク。
【請求項2】
前記内槽と当該内槽の直ぐ外側に配置された前記外槽との槽間の圧力が、1kPa以上である、
請求項1に記載の多重殻タンク。
【請求項3】
前記面状断熱材は、パネル状である、
請求項1又は2に記載の多重殻タンク。
【請求項4】
前記面状断熱材は、当該面状断熱材によって覆われる面に固定具によって固定されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の多重殻タンク。
【請求項5】
前記槽間の各々はタンク壁の厚さ方向の作業用の空隙を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の多重殻タンク。
【請求項6】
前記面状断熱材が、
前記外槽のうち前記内槽の直ぐ外側に配置された第1外槽の内面、及び前記第1外槽の外面のうちいずれかを覆うように設けられた第1面状断熱材と、
前記内槽の外面、前記外槽の内面、及び前記外槽の外面のうち第1面状断熱材で覆われていない面を覆うように設けられた第2面状断熱材とを、含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の多重殻タンク。
【請求項7】
前記外槽は一重であって、
前記面状断熱材が、前記内槽の外面と前記外槽の内面とを覆うように設けられている、
請求項1~5のいずれか一項に記載の多重殻タンク。
【請求項8】
前記外槽は一重であって、
前記面状断熱材が、前記内槽の外面及び前記外槽の外面の2面を覆うように設けられている、
請求項1~5のいずれか一項に記載の多重殻タンク。
【請求項9】
前記外槽は一重であって、
前記面状断熱材が、前記外槽の内面及び前記外槽の外面の2面を覆うように設けられている、
請求項1~5のいずれか一項に記載の多重殻タンク。
【請求項10】
前記外槽は一重であって、
前記面状断熱材が、前記内槽の外面、前記外槽の内面、及び前記外槽の外面の3面を覆うように設けられている、
請求項1~5のいずれか一項に記載の多重殻タンク。
【請求項11】
船体と、
前記船体に搭載された請求項1~10のいずれか一項に記載の多重殻タンクとを備える、
船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重殻タンク及び多重殻タンクを搭載した船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、貨物タンクとして多重殻タンクを搭載した船舶が知られている。多重殻タンクは、液化ガスなどの低温流体状の貨物を貯留する内槽と、内槽を覆う外槽とを含む複数の槽を備える。多重殻タンクの槽間領域には、断熱性を高めるために、真空空間が形成されたものが知られている。特許文献1は、船舶に搭載される二重殻タンクを開示する。
【0003】
特許文献1に開示された二重殻タンクは、液化ガスを貯留する内槽と、内槽を取り囲み、内槽との間に真空空間が形成される外槽と、少なくとも一部が内槽の底面と対向するように内槽に取り付けられた少なくとも1つの金属シートと、金属シート上に載置された気体分子の吸着材と、内槽および金属シートを覆う断熱シートと、を備える。断熱シートは、交互に積み上げられた輻射シールドフィルムと、熱伝導率の小さなシート状のスペーサとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の二重殻タンクでは、内槽と外槽との槽間を高真空とすることにより、放射熱の侵入を防ぎ、自然対流を阻止して高い断熱効果を得ている。しかし、巨大な容積を有する槽間を真空引きするために時間を要し、それが製造やメンテナンスにかかる時間を長引かせる要因の一つとなり得る。また、耐真空性を備えるために槽壁に十分な厚さを要し、それがタンク重量を増加させる要因の一つとなり得る。また、タンクに多数の補強部材を追加する必要があり、構造が複雑であることから製造が高難度を伴う。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、液化ガスを貯蔵するための多重殻タンクにおいて、内槽と外槽との槽間を高真空にすることに頼らずに、高い断熱性能を備えることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る多重殻タンクは、
液化ガスを貯留する内槽と、
前記内槽を取り囲むように、前記内槽の外側に間隙を空けて配置された一重又は多重の外槽と、
前記内槽の外面、前記外槽の内面、及び前記外槽の外面のうち2つ以上の面を覆うように当該面に固定されて、熱伝導及び熱対流を阻害する面状断熱材と、を備え、
各槽間に気体が充填されていることを特徴としている。
【0008】
また、本発明の一態様に係る船舶は、
船体と、
前記船体に搭載された前記多重殻タンクとを備えることを特徴としている。
【0009】
上記構成の多重殻タンク及び船舶によれば、面状断熱材からなる二層以上の断熱層によって熱伝導及び熱対流が阻害されることにより、槽間に気体が充填されていても多重殻タンクのタンク壁に十分に高い断熱性能が備えられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液化ガスを貯蔵するための多重殻タンクにおいて、内槽と外槽との槽間を高真空にすることに頼らずに、高い断熱性能を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る多重殻タンクが搭載された船舶の全体的な構成を示す側面図である。
【
図2】
図2は、船舶に搭載された多重殻タンクの構造を説明する断面図である。
【
図3】
図3は、第1例に係る多重殻タンクの断面図である。
【
図4】
図4は、面状断熱材の固定方法を説明する図である。
【
図5】
図5は、槽間に粒状断熱材が充填された第1例に係る多重殻タンクの断面図である。
【
図6】
図6は、第2例に係る多重殻タンクの断面図である。
【
図7】
図7は、第3例に係る多重殻タンクの断面図である。
【
図8】
図8は、第4例に係る多重殻タンクの断面図である。
【
図9】
図9は、第5例に係る多重殻タンクの断面図である。
【
図10】
図10は、第6例に係る多重殻タンクの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に、本発明の一実施形態に係る多重殻タンク3が搭載された船舶1を示す。この船舶1は、船体2と、船体2に搭載された2つの多重殻タンク3とを備える。多重殻タンク3は、低温流体輸送用のカーゴタンクである。多重殻タンク3は、本実施形態では船長方向に並んでいるが、船幅が広い場合は船幅方向に並んでもよい。また、船体2に搭載される多重殻タンク3の数は1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0013】
2つの多重殻タンク3は、実質的に同じ構造を有する。本実施形態では、多重殻タンク3は二重殻タンクとして構成されている。
図2に示すように、各多重殻タンク3は、貨物を貯留する内槽4と、内槽4を包み込む外槽5とを含む。内槽4と外槽5との間は略均等に離間しており、内槽4と外槽5との間にタンク壁の厚さ方向の槽間30が形成されている。多重殻タンク3のタンク壁の断熱構造については後ほど詳述する。
【0014】
貨物は、液化石油ガス(LPG、約-45℃)、液化エチレンガス(LEG、約-100℃)、液化天然ガス(LNG、約-160℃)、液化酸素(LO2、約-180℃)、液化水素(LH2、約-250℃)、及び、液化ヘリウム(LHe、約-270℃)の液化ガスなどであってよい。但し、貨物は必ずしも液体である必要はなく、気体であってもよい。
【0015】
内槽4は、水平方向に長い円筒形状の内槽本体部41と、内槽本体部41から上向きに突出する内槽ドーム42とを含む。本実施形態では、内槽本体部41の軸方向が船長方向と平行である。内槽ドーム42の軸方向は、本実施形態では鉛直方向と平行であるが、鉛直方向に対して多少傾いていてもよい。
【0016】
外槽5は、水平方向に長い円筒形状の外槽本体部51と、外槽本体部51から上向きに突出する外槽ドーム52とを含む。外槽本体部51は、内槽本体部41を取り囲む。外槽ドーム52は、内槽ドーム42を取り囲む。外槽本体部51の軸方向は、内槽本体部41と同様に船長方向と平行であり、外槽ドーム52の軸方向は、内槽ドーム42と同様に鉛直方向と平行である。但し、内槽本体部41及び外槽本体部51は、必ずしも水平方向に長い円筒形状である必要はなく、鉛直方向に長い円筒形状であってもよい。或いは、内槽本体部41及び外槽本体部51は、球形状であってもよいし、立方体状や直方体状であってもよい。
【0017】
船体2には、上向きに開口する2つの貨物艙21が形成されている。貨物艙21は船長方向に並んでおり、貨物艙21同士は隔壁22によって仕切られている。そして、各貨物艙21の内部に、多重殻タンク3の下部が挿入されている。
【0018】
各貨物艙21の内部には、船長方向に互いに離間する一対のサドル25が設けられている。サドル25は、多重殻タンク3の外槽5の外槽本体部51を支持する。また、多重殻タンク3の内槽4と外槽5との間には、内槽本体部41を支持する一対の支持部材35が設けられている。本実施形態では、支持部材35がサドル25と同じ位置に設けられているが、支持部材35はサドル25と違う位置に設けられてもよい。
【0019】
各多重殻タンク3の上方には、タンクカバー6が配置されている。各タンクカバー6は、対応する多重殻タンク3を上方から覆い、船体2との間に不活性ガスが充填される保持空間7を形成する。上述した外槽5の外槽本体部51はタンクカバー6の下方に位置しており、外槽ドーム52はタンクカバー6を貫通している。
【0020】
〔多重殻タンク3の断熱構造〕
ここで、上記構成の多重殻タンク3に備えられた断熱構造について説明する。
図3は、第1例に係る多重殻タンク3の断面図である。
図3に示すように、多重殻タンク3は、液化ガスを貯留する内槽4と、内槽4を取り囲むように、内槽4の外側に間隙を空けて配置された一重又は多重の外槽5と、内槽4の外面、外槽5の内面、及び外槽5の外面のうち2つ以上の面を覆うように設けられて、熱放射、熱伝導、及び熱対流を阻害する面状断熱材9と、を備える。
【0021】
面状断熱材9は、パネル状を呈する。面状断熱材9は、内槽4とその直ぐ外側に配置された外槽5(第1外槽5A)との間隙の0.01倍以上1倍以下の厚みを有する。面状断熱材9は、断熱材を板状の基材で挟み込んだ複層のパネルであってもよい。但し、面状断熱材9はパネル状に限定されず、シート状であってもよい。このような面状断熱材9として、発泡ウレタンパネル、エアロゲルシート、シート状グラスウールなどが例示される。
【0022】
面状断熱材9は、固定具によって内槽4又は外槽5の表面に固定されている。
図4に示すように、内槽4(又は外槽5)には、金属製のベースプレート81が溶接などにより接合されている。このベースプレート81に、ねじ構造又は溶接などによりスタッドボルト82が接合されている。スタッドボルト82の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)などの熱伝導率の低いものであることが望ましい。このスタッドボルト82は、面状断熱材9に設けられた孔に挿通されたうえ、ナット83に螺入される。この例では、スタッドボルト82及びナット83が固定具に該当する。但し、面状断熱材9は、接着剤や発泡ウレタンによる自己接着機能によって内槽4又は外槽5の表面に固定されていてもよい。
【0023】
内槽4と、内槽4の直ぐ外側に配置された外槽5(第1外槽5A)との槽間30(第1槽間30A)には、低温の気体(例えば、貨物の液化ガスが気化した気体など)が充填されている。第1槽間30Aに充填されている気体は、内槽4と第1槽間30Aとが連通されることにより内槽4から気化した気体が流入したものであってよい。
【0024】
第1槽間30Aの圧力は、1kPa以上の圧力である。第1槽間30Aの圧力は、従来の真空断熱と比較して十分に高い。また、第1槽間30Aの圧力は1kPa以上で大気圧に対して負圧であってもよい。この場合、従来の真空断熱と比較して、第1槽間30Aの真空度は十分に低い。
【0025】
第1槽間30Aには、多重殻タンク3のタンク壁の厚さ方向の空隙31が設けられている。空隙31には面状断熱材9が存在しない。この空隙31は、作業用の空間として利用され、作業のために十分な大きさを有する。なお、この空隙31は配管の配置に利用されてもよい。このような空隙31のタンク壁の厚さ方向の大きさは、例えば、槽間30の間隙の0.1倍以上0.99倍以下である。空隙31を大きくとる場合、施工時に、作業員がこの空隙31の中に入って、内槽4及び外槽5に面状断熱材9を固定する作業を行うことができる。また、メンテナンス時に、作業員がこの空隙31の中に入って面状断熱材9を検査したり、面状断熱材9をメンテナンスしたりすることができる。本実施形態において面状断熱材9の各々は固定具で内槽4又は外槽5の表面に固定されることから、面状断熱材9を移動させたり固定具を取り扱ったりするための空隙31が設けられることは特に有用である。一方で、面状断熱材9および空隙31を大きくとると外槽5が大きくなり設置スペースやタンク重量増加によるコストへの影響がある場合が考えられる。多重殻タンク3では、要求される防熱性能や設置スペースの制限に応じて、面状断熱材9の厚み、槽間30や空隙31の距離を柔軟に選択することができる。
【0026】
第1槽間30Aの空隙31には、
図5に示すように、例えばパーライトなどの粒状断熱材95が充填されてもよい。これにより、多重殻タンク3の断熱性能を更に向上させることができる。
【0027】
以下、多重殻タンク3における面状断熱材9の配置の例を説明する。望ましくは、面状断熱材9は、外槽5のうち内槽4の直ぐ外側に配置された第1外槽5Aの内面、及び第1外槽5Aの外面のうちいずれかを覆うように設けられた第1の面状断熱材と、内槽4の外面、外槽5の内面、及び外槽5の外面のうち第1面状断熱材で覆われていない面を覆うように設けられた第2の面状断熱材とを、含む。
【0028】
第1の面状断熱材と第2の面状断熱材の防熱性能は、その面状断熱材9が配置される場所に応じて互いに異なっていてもよい。温度条件や雰囲気条件が異なる第1槽間30Aと第2槽間30Bとに応じて、第1の面状断熱材と第2の面状断熱材の種類や厚みを適宜調整することで、多重殻タンク3は槽間30が高真空でなくても十分に高い断熱性能を備えることができる。
【0029】
<第1例>
図3に示す多重殻タンク3Aは二重殻タンクであって、内槽4と一重の外槽5とを有する。内槽4の外面を覆うように面状断熱材9が内槽4の外面に固定されている。また、外槽5の外面を覆うように、面状断熱材9が外槽5の外面に固定されている。
【0030】
<第2例>
図6に示す多重殻タンク3Bは二重殻タンクであって、内槽4と一重の外槽5とを有する。外槽5の内面を覆うように面状断熱材9が外槽5の内面に固定されている。また、外槽5の外面を覆うように、面状断熱材9が外槽5の外面に固定されている。
【0031】
<第3例>
図7に示す多重殻タンク3Cは二重殻タンクであって、内槽4と一重の外槽5とを有する。内槽4の外面を覆うように、面状断熱材9が内槽4の内面に固定されている。外槽5の内面を覆うように面状断熱材9が外槽5の内面に固定されている。更に、外槽5の外面を覆うように、面状断熱材9が外槽5の外面に固定されている。
【0032】
<第4例>
図8に示す多重殻タンク3Dは三重殻タンクであって、内槽4と二重の外槽5とを有する。二重の外槽5は、内槽4の直ぐ外側に配置された第1外槽5Aと、第1外槽5Aの外側に配置された第2外槽5Bで構成されている。第1外槽5Aと第2外槽5Bとの槽間30(第2槽間30B)には、第1槽間30Aに充填された気体よりも沸点の高い不活性ガス(例えば、窒素など)が充填されている。
【0033】
多重殻タンク3Dでは、内槽4の外面を覆うように、面状断熱材9が内槽4の外面に固定されている。第1外槽5Aの外面を覆うように、面状断熱材9が第1外槽5Aの外面に固定されている。更に、第2外槽5Bの外面を覆うように、面状断熱材9が第2外槽5Bの外面に固定されている。多重殻タンク3Dにおいて、第1外槽5Aの外面を覆っている面状断熱材9に代えて、第1外槽5Aの内面を覆うように面状断熱材9が第1外槽5Aの内面に固定されてもよい。また、多重殻タンク3Dにおいて、第2外槽5Bの外面を覆っている面状断熱材9に代えて、第2外槽5Bの内面を覆うように面状断熱材9が第2外槽5Bの内面に固定されてもよい。
【0034】
<第5例>
図9に示す多重殻タンク3Eは三重殻タンクであって、内槽4と二重の外槽5(第1外槽5A及び第2外槽5B)とを有する。この多重殻タンク3Eでは、第1外槽5Aの内面を覆うように、面状断熱材9が第1外槽5Aの内面に固定されている。更に、第1外槽5Aの内面を覆うように、面状断熱材9が第1外槽5Aの外面に固定されている。多重殻タンク3Eにおいて、第1外槽5Aの内面及び外面に加えて、内槽4の外面、第2外槽5Bの内面、第2外槽5Bの外面のうち少なくとも1つの面が面状断熱材9で覆われていてもよい。
【0035】
<第6例>
図10に示す多重殻タンク3Fは三重殻タンクであって、内槽4と二重の外槽5(第1外槽5A及び第2外槽5B)とを有する。この多重殻タンク3Fでは、第1外槽5Aの内面を覆うように、面状断熱材9が第1外槽5Aの内面に固定されている。更に、第2外槽5Bの内面を覆うように、面状断熱材9が第2外槽5Bの内面に固定されている。多重殻タンク3Fにおいて、第1外槽5Aの内面を覆っている面状断熱材9に代えて、第1外槽5Aの外面を覆うように面状断熱材9が第1外槽5Aの外面に固定されてもよい。また、多重殻タンク3Fにおいて、第2外槽5Bの内面を覆っている面状断熱材9に代えて、第2外槽5Bの外面を覆うように面状断熱材9が第2外槽5Bの外面に固定されてもよい。また、多重殻タンク3Fにおいて、第2外槽5Bの内面を覆っている面状断熱材9に代えて、内槽4の外面を覆うように面状断熱材9が内槽4の外面に固定されてもよい。
【0036】
〔総括〕
以上に説明したように、本実施形態の多重殻タンク3は、液化ガスを貯留する内槽4と、内槽4を取り囲むように、内槽4の外側に間隙を空けて配置された一重又は多重の外槽5と、内槽4の外面、外槽5の内面、及び外槽5の外面のうち2つ以上の面を覆うように当該面に固定されて、熱伝導及び熱対流を阻害する面状断熱材9と、を備え、各槽間30に気体が充填されていることを特徴としている。
【0037】
外槽5が一重である場合の面状断熱材9の配置として、以下が例示され得る。
(第1例)面状断熱材9が、内槽4の外面と外槽5の内面とを覆うように設けられている。
(第2例)面状断熱材9が、内槽4の外面及び外槽5の外面の2面を覆うように設けられている。
(第3例)面状断熱材9が、外槽5の内面及び外槽5の外面の2面を覆うように設けられている。
(第4例)面状断熱材9が、内槽4の外面、外槽5の内面、及び外槽5の外面の3面を覆うように設けられている。
【0038】
また、本実施形態に係る船舶1は、船体2と、船体2に搭載された多重殻タンク3とを備えることを特徴としている。
【0039】
上記構成の多重殻タンク3及び船舶1によれば、面状断熱材9からなる二層の断熱層によって熱伝導、及び熱対流が阻害されることにより、槽間30に気体が充填されていても多重殻タンク3のタンク壁に十分に高い断熱性能が備えられる。更に、上記構成の多重殻タンク3では、面状断熱材9は内槽4又は外槽5の表面に固定されていることから、内槽4と外槽5が熱収縮しても面状断熱材9のそれが取り付けられた表面に対する位置ズレや偏りが生じにくく、タンク壁の各部分における断熱性能の信頼性を向上させることができる。
【0040】
上記構成の多重殻タンク3において、内槽4と当該内槽4の直ぐ外側に配置された外槽5(第1外槽5A)との槽間30(第1槽間30A)の圧力が、1kPa以上であってよい。
【0041】
更に、第1槽間30Aの圧力が大気圧に対し負圧であってもよい。これにより、多重殻タンク3のタンク壁は更に高い断熱性能を備えることができる。
【0042】
上記構成の多重殻タンク3において、面状断熱材9は、パネル状であってよい。
【0043】
上記構成の多重殻タンク3において、面状断熱材9は、当該面状断熱材9によって覆われる面に固定具(スタッドボルト82及びナット83)によって固定されていてよい。
【0044】
このように面状断熱材9が固定具によって固定されていることによって着脱が比較的容易であるので、現場施工を単純化することができる。
【0045】
上記構成の多重殻タンク3において、槽間30の各々は厚さ方向の作業用の空隙31を有していてよい。ここで空隙31は、槽間30のうち面状断熱材9によって占有されておらず、気体以外の物体(例えば、作業員や配管など)が通過できる空間を意味する。
【0046】
このように槽間30に空隙31が設けられていることにより、施工時にはこの空隙31を利用して作業員が面状断熱材9の取付作業や配管作業等を行うことができ、メンテナンス時にはこの空隙31に検査機器を導入して面状断熱材9の検査を行ったり空隙31を利用して作業員が面状断熱材9の取り換え作業などを行ったりすることができる。
【0047】
上記構成の多重殻タンク3において、面状断熱材9が、外槽5のうち内槽4の直ぐ外側に配置された第1外槽5Aの内面、及び第1外槽5Aの外面のうちいずれかを覆うように設けられた第1面状断熱材 と、内槽4の外面、外槽5の内面、及び外槽5の外面のうち第1面状断熱材で覆われていない面を覆うように設けられた第2面状断熱材とを、含むことが望ましい。
【0048】
これにより、第1外槽5Aの内外で特に重点的に断熱が行われる。
【0049】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本発明に含まれ得る。上記の構成は、例えば、以下のように変更することができる。
【0050】
例えば、上記実施形態において多重殻タンク3は船舶1に搭載されているが、多重殻タンク3の構造は地上に設置される液化ガス貯蔵用のタンクに適用されてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 :船舶
2 :船体
3,3A~3F:多重殻タンク
4 :内槽
5 :外槽
5A :第1外槽
9 :面状断熱材
30 :槽間
31 :空隙