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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】色収差補正を有する多焦点眼科用レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20241210BHJP
   G02C 7/06 20060101ALI20241210BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20241210BHJP
   A61F 2/16 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G02C7/02
G02C7/06
G02C7/04
A61F2/16
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023094721
(22)【出願日】2023-06-08
(62)【分割の表示】P 2019557800の分割
【原出願日】2018-04-05
(65)【公開番号】P2023120252
(43)【公開日】2023-08-29
【審査請求日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】15/498,836
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】シン ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】シン ホン
【審査官】沖村 美由
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-152388(JP,A)
【文献】特表2012-529672(JP,A)
【文献】特表2008-517731(JP,A)
【文献】特表2001-519544(JP,A)
【文献】国際公開第2018/151221(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
A61F 2/16
G02B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面、後面、及び光軸を含む光学素子を含む眼科用レンズであって、
前記前面及び前記後面のうちの少なくとも1つは、
基本曲率と、
前記基本曲率を有する屈折領域と、
複数の回折ステップを含む回折プロファイルを含む回折領域と
を含む表面プロファイルを有し、前記回折プロファイルの少なくとも一部は、
前記眼科用レンズの複数の焦点を規定する基本回折プロファイルと
縦色収差を低減する色収差補正構造と
の組み合わせであり、
前記表面プロファイルは次のように規定され:
【数1】
ここで、サグ(r)は前記色収差補正構造を除いた前記眼科用レンズの前記表面プロファイルを規定し、
g(r)は前記色収差補正構造を規定し、
’及び ’は前記表面プロファイル上の接合点を表し、
rは前記光軸からの径方向距離を表し、
は前記色収差補正構造のr空間内の周期を表し
は床関数を表し、ここで,
組の整数であり、
hはステップ高を表す、眼科用レンズ。
【請求項2】
前記基本曲率は前記眼科用レンズの基本屈折力に対応する、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項3】
前記回折領域は前記光軸から第1の半径方向境界まで伸び、
前記屈折領域は前記第1の半径方向境界から前記光学素子の端まで伸びる、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項4】
前記基本回折プロファイルはアポダイズされた回折プロファイルを含む、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項5】
は前記光学素子の外端を規定する、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項6】
【数2】
請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項7】
前記aについてn=20である、請求項6に記載の眼科用レンズ。
【請求項8】
h=Nλ/(nIOL-nocularmedia);
は整数であり、
λは設計波長を表し、
IOLは眼科用レンズの屈折率を表し、
ocularmediaは患者の透光体の屈折率を表す、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般的には眼科用レンズに関し、具体的には色収差補正を有する眼科用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼内レンズ(IOL:intraocular lens)は、天然水晶体を置換するために白内障手術中に患者の眼内にルーチン的に埋め込まれる。IOLは、単焦点(例えば遠視力)を提供する単焦点IOLと2つ以上の焦点を提供する多焦点IOL(例えば遠視力、中間視力及び近視力を提供する三焦点IOL)とを含み得る。多焦点IOLは、光をいくつかの方向に同時に回折させる多くの同心リング状エシェレットを含み得る回折面プロファイルを含み得る。このような回折面プロファイルは、複数の回折次数を提供し、光をレンズの様々な焦点長に対応する様々な画像に集束し得る。
【0003】
レンズ及び眼の分散特性に起因して、すべてのlOL(多焦点IOLを含む)は、青色光が網膜の前に集束し赤色光が網膜の後ろに集束する色収差を呈示し得る。このような焦点ずれ光は、広帯域光エネルギーを患者の網膜上へ集結させる際にレンズの全体的効率を劣化させ、患者の視機能(遠方における明所視及び薄明視条件下の低コントラスト視力など)を妨げ得る。この問題は、光が複数焦点間で分割される多焦点IOLを有する患者にとって特に厄介である可能性がある。
【0004】
したがって、色収差補正を提供する光学設計を有する多焦点IOLの必要性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は一般的には、色収差の補正又は低減を提供する多焦点眼科用レンズ(例えばIOL)に関する。より具体的には、本開示は、回折多焦点IOL表面プロファイルへ追加されると特に明所視及び薄明視条件下の遠視力のための白色光性能を改善する色収差補正構造を提供する。
【0006】
いくつかの実施形態では、眼科用レンズは、前面、後面及び光軸を含む光学素子を含む。前面及び後面の少なくとも1つは、基本曲率、基本曲率を有する屈折領域、及び複数の回折ステップを含む回折プロファイルを含む回折領域を含む表面プロファイルを有する。回折プロファイルの少なくとも一部は、眼科用レンズの複数の焦点を規定する基本回折プロファイルと、縦色収差を低減する色収差補正構造との組み合わせを構成する。
【0007】
いくつかの実施形態では、本開示は1つ又は複数の技術的利点を提供し得る。例えば、多焦点IOLは、青色光が網膜の前に集束し赤色光が網膜の後ろに集束する色収差を呈示し得る。これらの色収差は、IOL自体の分散特性及び/又はIOLが納められる眼の分散特性に少なくとも部分的に起因し得る。色収差から生じる焦点ずれ光は、広帯域光エネルギーを網膜上へ集中させる際のIOLの全体的効率を劣化し得、視機能(例えば、遠方における薄明視条件下の低コントラスト視力)を妨げ得る。本明細書で説明される色収差補正構造の追加は、青色焦点と赤色焦点との間の距離を短縮し得、次に、広帯域白色光を網膜上の焦点に効果的に押し込むことになる。したがって、追加された色収差補正構造は広帯域白色光画質性能を改善する。
【0008】
広帯域白色光画質性能を改善することに加えて、本開示のいくつかの実施形態による色収差補正構造は、回折多焦点IOL表面プロファイルへ追加されると、患者のハローなどの視覚障害の知覚(すなわち光源周囲の明るいリングの主観的知覚)を軽減し得る。特に、本明細書で述べるように回折プロファイルへの色収差補正構造の追加は、レンズ-眼系の縦色収差(LCA:longitudinal chromatic aberration)を低減し得、この低減は、赤及び青色光の焦点ずれぼやけサイズの低減に至り得る。ハローは焦点ずれぼやけに関連付けられてきたので、焦点ずれぼやけのこの低減は、ハロー低減と場合によってはより良い網膜像コントラストとを生じ得る。
【0009】
本開示及びその利点をより完全に理解するために、添付図面と併せて以下の説明が次に参照される。同様な参照符号は同様な特徴を示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本開示のいくつかの実施形態による色収差補正を有する多焦点IOLの例示的実施形態を示す。
図1B】本開示のいくつかの実施形態による色収差補正を有する多焦点IOLの例示的実施形態を示す。
図2A】追加された色収差補正構造を含まない回折領域を有する多焦点IOLの例示的表面プロファイルを示す。
図2B】追加された色収差補正構造を含まない回折領域を有する多焦点IOLの例示的表面プロファイルを示す。
図3A】本開示のいくつかの実施形態による色収差補正を有する多焦点IOLの例示的表面プロファイルを示す。
図3B】本開示のいくつかの実施形態による色収差補正を有する多焦点IOLの例示的表面プロファイルを示す。
図3C】本開示のいくつかの実施形態による色収差補正を有する多焦点IOLの例示的表面プロファイルを示す。
図4A】大口径と小口径との両方の本明細書で説明される色収差補正構造を除いた多焦点IOLと比較された、(本明細書で説明される色収差補正構造を含む)図1に描写されるような例示的IOLの白色光性能と緑色光性能との両方を示すMTFプロットである。
図4B】大口径と小口径との両方の本明細書で説明される色収差補正構造を除いた多焦点IOLと比較された、(本明細書で説明される色収差補正構造を含む)図1に描写されるような例示的IOLの白色光性能と緑色光性能との両方を示すMTFプロットである。
図4C】大口径と小口径との両方の本明細書で説明される色収差補正構造を除いた多焦点IOLと比較された、(本明細書で説明される色収差補正構造を含む)図1に描写されるような例示的IOLの白色光性能と緑色光性能との両方を示すMTFプロットである。
図4D】大口径と小口径との両方の本明細書で説明される色収差補正構造を除いた多焦点IOLと比較された、(本明細書で説明される色収差補正構造を含む)図1に描写されるような例示的IOLの白色光性能と緑色光性能との両方を示すMTFプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
当業者は、以下に説明される添付図面が例示目的のためだけのものであるということを理解することになる。添付図面は本出願人の開示の範囲をいかなるやり方でも制限するようには意図されていない。
【0012】
本開示は一般的には、色収差補正を提供する多焦点眼科用レンズ(例えばIOL)に関する。より具体的には、本開示は、回折多焦点IOL表面プロファイルへ追加されると特に明所視及び薄明視条件下の遠視力のための白色光性能を改善する色収差補正構造を提供する。以下の説明では、多焦点性及び色収差補正を提供するレンズ特徴は眼内レンズ(IOL)に関連して説明される。しかし、本開示はこれらの特徴がまたコンタクトレンズなどの他の眼科用レンズへ適用され得るということを企図する。本明細書で使用されるように、用語「眼内レンズ」(及びその略称IOL)は、眼の天然水晶体を置換するためか、又はそうでなければ天然水晶体が除去されるかどうかにかかわらず視力を増強するためかのいずれかのために眼の内部に埋め込まれるレンズを説明するために使用される。
【0013】
図1A~1Bは、本開示のいくつかの実施形態による色収差補正を有する多焦点IOL100の例示的実施形態を示す。IOL100は、光軸108を中心として配置される前面104及び後面106を有する光学系102を含む。IOL100はさらに、一般的には患者の眼の水晶体嚢内にIOL100を配置し安定させるように動作可能な複数の触覚110を含み得る。特定構造を有する触覚110が例示的目的のために図示されているが、本開示は、水晶体嚢内に、毛様体溝内に、又は眼内の任意の他の好適な場所にIOL100を安定させるための任意の好適な構造を有する触覚110を企図する。
【0014】
以下の説明では、光学系102の前面104は、多焦点性及び色収差補正を提供する特定表面状態を有するものとして説明される。しかし、本開示はこのような特徴が追加的に又は代替的に光学系102の後面106に位置し得るということを企図する。
【0015】
光学系102の前面104はIOL100の基本屈折力に対応する基本曲率を有し得る。IOL100などの多焦点IOLでは、IOL100の基本屈折力は通常、患者の遠視力に対応する。しかし、必ずしもそうである必要は無い。例えば、非利き眼は、患者が両眼の全体双眼視力を改善するために対応遠方屈折力より若干低い基本屈折力を有するIOLを有し得る。いくつかの実施形態では、基本曲率は非球面的であり得る(以下にさらに詳細に説明されるように)。
【0016】
基本曲率に加えて、光学系102の前面104は複数の領域を含み得る。例えば、前面104は、光軸108から第1の半径方向境界まで伸び得る回折領域112と、第1の半径方向境界から第2の半径方向境界(例えば光学系102の端)まで伸び得る屈折領域114とを含み得る。いくつかの実施形態では、回折領域112の曲率は基本曲率に対して修正され得る。光学系102の前面104は2つの領域(回折領域112及び屈折領域114)だけを有するものとして描写され説明されるが、本開示は光学系102の前面104が任意の好適な数の領域を有する表面プロファイルを含み得るということを企図する。単に一例として、前面104は代替的に、回折領域により分離された2つの屈折領域を有する表面プロファイルを含む可能性がある。
【0017】
いくつかの実施形態では、回折領域112は、複数の回折ステップ(区画としても知られる)118を有する回折構造116を含む。回折ステップ118は、固有焦点において積極的干渉を生成するために固有半径方向距離間隔を有し得る。原理的に、干渉区画内で位相シフトすることを介し積極的干渉を生成する任意の回折構造116が、多焦点回折眼科用レンズを生成するために回折領域112における使用に適応化され得る。回折領域112の回折構造116は環状区画により描写されるが、これらの区画は恐らく、半円区画又は扇型区画など部分的なものである可能性もある。以下の説明は環状回折ステップ118を含む回折構造116に関することになるが、好適な置換が、本明細書に開示される任意の実施形態においてなされ得るということを当業者は理解すべきである。
【0018】
回折領域112の回折構造116の少なくとも一部は、基本回折プロファイル(例えば、以下の式(4)、式(9)及び式(11)のFdiffractive(r,T))と色収差補正構造(例えば、以下の式(5)及び式(11)のg(r))との組み合わせとして少なくとも部分的に特徴付けられ得る。以下に詳述されるように、色収差補正構造の追加は、追加された色収差補正構造を含まない多焦点IOLと比較して、より良い白色光性能及び/又は低減されたハローを有する多焦点IOLを提供し得る。例えばこの差を例示するために、以下の開示は最初に、追加された色収差補正構造を含まない例示的表面プロファイルについて説明する。
【0019】
本明細書で説明される追加された色収差補正構造を含まない回折領域112を有する多焦点IOLでは、前面104(回折領域112と屈折領域114との両方を含む)のプロファイルは、次のように規定され得る:
サグ(r)=Zbase(r) 0≦r≦r1
サグ(r)=Zbase(r)+Fdiffractive(r,T)+Δ r1≦r≦r2
サグ(r)=Zbase(r)+Δ r2≦r≦r3 式(1)
ここで、
rは光軸からの径方向距離を表し、
base(r)は表面の基本曲率を表し、
diffractive(r,T)は設計において多焦点性を生成する回折構造116のプロファイルを表し、
Tは回折構造116のr空間内の周期を表し、
、r及びrは様々な半径方向接合点を表し、
Δ1及びΔ2は、IOLの様々なセクション間の適切な位相シフトを保証する定数である。
【0020】
回折領域112が光軸108から第1の半径方向境界まで伸び、屈折領域114が第1の半径方向境界から光学系102の端まで伸びる一実施形態では、rは零に等しくてもよく、rは第1の半径方向境界を規定し得、rは光学系102の端を規定し得る。
【0021】
光学系102の前面104の基本曲率が非球面的であるいくつかの実施形態では、式(1)からのZbase(r)は次のように規定され得る:
【数1】
ここで、
rは光軸からの径方向距離を表し、
cは表面の基本曲率を表し、
kは円錐定数を表し、
は2次変形定数であり、
は4次変形定数であり、
は6次変形定数であり、
はn次変形定数であり、ここでnは任意の好適な偶数(例えば20)に等しくてもよい。
【0022】
式(2)はn次変形定数までを含むように上に示されるが、本開示は式(2)が任意の好適な数の変形定数(例えば、2次、4次、及び6次変形定数のみ)へ制限され得るということを企図する。
【0023】
光を複数の視距離(すなわち回折領域112)に対応する様々な次数に分割する回折構造Fdiffractive(r,T)に関して、隣接次数間の間隔は格子の周期T(r空間内の:単位:mm)により次のように判断され得る:
【数2】
ここで、
λは設計波長を表し、
ADDは屈折力空間内の隣接次数間の間隔を表す。
【0024】
本開示は回折構造Fdiffractive(r,T)が例えば二焦点回折プロファイル、三焦点回折プロファイル又はアポダイズされた回折プロファイルなどの任意の好適な回折プロファイルを規定する可能性があるということを企図する。一例として、回折構造Fdiffractive(r,T)は次のように表現され得る:
【数3】
ここで、
rは光軸からの径方向距離を表し、
、r12及びrは様々な半径方向接合点を表し(ここで、r1及びr2は上記式(1)と同じであり)、
Tは回折構造116のr空間内の周期を表し、
【数4】
は床関数を表し、ここで
【数5】
は一組の整数であり、
diffractiveは多焦点回折レンズのステップ高を表す。
【0025】
別の例として、多焦点回折構造Fdiffractive(r,T)は、その内容が参照により本明細書に援用される米国特許第5,699,142号明細書に記載されるものなどのアポダイズされた二重焦点回折構造を規定し得る。
【0026】
さらに別の例として、多焦点回折構造Fdiffractive(r,T)は、その内容が参照により本明細書に援用される米国特許第9,335,564号明細書に記載さされるものなどの三焦点回折構造を規定し得る。
【0027】
図2A~2Bは、本明細書で説明された追加色収差補正構造(式(1)~(3)に従って設計された)を含まない回折領域112を有する多焦点IOLの表面プロファイルを示す。特に、図2Aは、回折領域112内の回折ステップ118を含む「サグ(mm)対半径(mm)」のプロットを描写する。回折ステップ118をより良く図示するために、図2Bは、図2Aに描写されたものと同じ表面プロファイルのプロットであるが、追加されたFdiffractive(r,T)の効果だけを示す。描写された例では、Fdiffractive(r,T)は、回折格子のステップ高が光軸108からの径方向距離の増加と共に低減されるアポダイズされた二重焦点回折構造を規定する。
【0028】
IOL自体の分散特性及び/又はIOLが納められ得る眼の分散特性に少なくとも部分的に起因して、上記式(1)~(3)に従って設計された多焦点IOL(その例が図2A~2Bに描写される)は、青色光が網膜の前に集束し赤色光が網膜の後ろに集束する色収差を呈示し得る。このような焦点ずれ光は、広帯域光エネルギーを網膜上へ集中させる際のIOLの全体的効率を劣化し得、視機能(例えば、遠方における薄明視条件下の低コントラスト視力)を妨げ得る。
【0029】
したがって、いくつかの実施形態では、上述の多焦点IOLは、色収差補正を有する多焦点IOL100を生成するために表面プロファイルに追加される色収差補正構造をさらに含むように修正され得る。別の言い方をすると、回折領域112の回折構造116の少なくとも一部は、光学系102(回折領域112及び屈折領域114を含む)が複数の焦点を生成し、低減された色収差を呈示するように、基本回折プロファイルと色収差補正構造との組み合わせとして少なくとも部分的に特徴付けられ得る。色収差補正構造は、多焦点IOLの回折領域の基本回折構造に追加されると、基本回折構造だけを含む回折領域を有する多焦点IOLと比較して、縦色収差の振幅を低減する任意の好適な回折構造を含み得る。
【0030】
例示的色収差補正構造は次のように表現され得る:
【数6】
ここで、
rは光軸からの径方向距離を表し、
’、r’及びrは様々な半径方向接合点を表し(ここでrは上記式(1)と同じである)、
は追加された色収差補正構造のr空間内の周期を表し、
【数7】
は床関数を表し、ここで
【数8】
は一組の整数であり、
hはステップ高を表す。
【0031】
いくつかの実施形態では、式(5)のr’は式(1)のr(上に論述したように零に等しくてもよい)に等しくてもよく、式(5)のr’は式(1)のrに等しくてもよい(上に論述したように回折領域112と屈折領域114とを分離する第1の半径方向境界の場所を規定し得る)。いくつかの他の実施形態では、式(5)のr’は式(1)のrに等しくなくてもよく、式(5)のr’は式(1)のrに等しくなくてもよい。このような実施形態では、式(5)のr’は式(1)のrより大きくてもよく、式(5)のr’は式(1)のr未満でもよい。
【0032】
式(5)内のステップ高hは次式のように整数の波長に対応し得る:
【数9】
ここで、
は整数であり(いくつかの実施形態では、Nは第1の回折領域の1/2でもよい)、
λは設計波長を表し、
IOLはIOLの屈折率を表し、
ocularmediaは水性又はガラス質などの周囲透光体の屈折率を表す。
【0033】
いくつかの実施形態では、式(5)内の周期Tは式(1)の多焦点格子周期Tと同じでもよい。いくつかの他の実施形態では、周期Tは次の関係式により制約され得る:
=NT
又は
T=NT 式(7)
ここで、
Nは整数であり、
Tは式(1)内の元の多焦点格子構造のr空間内の周期を表し、
は追加された色収差補正構造のr空間内の周期を表す。
【0034】
式(5)により規定される追加色収差補正構造は、光を、式(1)内に含まれる標準的回折格子とは別の次数へシフトさせ得る。これは、次式により多焦点設計の焦点距離を変更することになる:
【数10】
ここで、
λは設計波長を表し、
Δfはシフトされた回折次数と元次数との間隔を表し、
は式(6)内のステップ高に関連付けられた整数である。
【0035】
このようなピンぼけシフトを補償するために、基本曲線の対応部分は次のように調整され得る:
サグ(r)=Zbase(r) 0≦r≦r1
サグ(r)=Zbase(r)+Fdiffractive(r,T)+Δ’ r1≦r≦r1’
サグ(r)=Z’base(r)+Fdiffractive(r,T)+Δ’’ r1’≦r≦r2’
サグ(r)=Zbase(r)+Fdiffractive(r,T)+Δ’’’ r2’≦r≦r2
サグ(r)=Zbase(r)+Δ’ r2≦r≦r3 式(9)
ここで、
rは光軸からの径方向距離を表し、
base(r)は、式(2)に示すような患者遠視力を補正する基本曲率を表し、
Z’base(r)は患者遠視力を補正する基本曲率を表し、式(5)内の色収差補正構造の追加により引き起こされる焦点シフトを考慮し、
diffractive(r,T)は、設計において多焦点性を提供する基本回折プロファイルを表し、
Tは基本回折プロファイルのr空間内の周期を表し、
r1、r2及びr3は式(1)に示すように表面における接合点を表し、
’及びr’は式(5)に示すように表面における接合点を表す。
ΔΔ’’Δ’’’及びΔ’はIOLの様々なセクション間の適切な位相シフトを保証する定数である。
【0036】
式(9)内のZ’base(r)はさらに、次式のように非球面として表現され得る:
【数11】
ここで、
rは光軸からの径方向距離を表し、
c’は表面の基本曲率を表し、
k’は円錐定数を表し、
’は2次変形定数であり、
’は4次変形定数であり、
’は6次変形定数であり、
’はn次変形定数であり、ここでnは任意の好適な偶数(例えば20)に等しくてもよい。
【0037】
式(10)はn次変形定数までを含むように上に示されるが、本開示は式(10)が最大で20次変形定数までに制限され得るということを企図する。
【0038】
いくつかの実施形態では、式(10)のパラメータ(c’.k’,a’,a’,a’,…,a’)のうちの1つ又は複数は、式(8)において概説されたピンぼけシフトΔfを補償するために式(2)のパラメータ(c.k,a,a,a,…,a)に対して調整される。
【0039】
広帯域白色光性能を改善する色収差補正(追加された色収差補正構造に起因する)を有するIOL100の前面104の表面プロファイルは、次のように式(5)と式(9)(又は、別の方法では式(1))とを組み合わせることにより実現され得る。
サグachromatized_multifocal=サグ(r)+g(r) 式(11)
【0040】
図3A~3Cは、本開示のいくつかの実施形態による色収差補正(式(11)に従って設計された)を有する多焦点IOL100の表面プロファイルを示す。特に、図3Aは、上述の色収差補正構造の追加から生じる修正された回折ステップ118を含む例示的な色収差補正された多焦点IOL100の「サグ(mm)対半径(mm)」のプロットを描写する。またプロットされるのは、色収差補正構造を含まない表面プロファイル(図2Aにおいて描写されたものと同じプロファイル)である。2つを比較することにより、色収差補正構造の追加がより顕著な回折ステップ118を生じるということが分かる。また、ピンぼけシフト(上記式(9)及び対応説明を参照)の補償の結果は色収差補正された多焦点表面プロファイルの回折領域112内のサグの減少として理解され得る。図3Bは式(5)において規定された追加された色収差補正構造g(r)だけを示すプロットであり、一方、図3Cは、図3Aにおいて描写された同じ色収差補正された多焦点表面プロファイルのプロットであるが、加算されたFdiffractive(r,T)及びg(r)の効果だけを示す。
【0041】
上に論述したように、式(1)~(3)に従って設計される多焦点IOL(その例示的表面プロファイルが図2A~2Bに描写される)は、眼の分散及びIOL材料の分散に起因する縦色収差(LCA)を呈示し得る。換言すれば、青色光は網膜の前に集束し得、赤色光は網膜の後方に集束し得る。このような多焦点IOLのLCAは次のように特徴付けられ得る:
【数12】
ここで、
blueは青色波長(例えば400nm)下の偽水晶体眼の焦点長を表し、
redは赤色波長(例えば700nm)下の偽水晶体眼の焦点長を表す。
【0042】
多焦点設計が本明細書で説明された色収差補正構造を含む式(11)を介し修正されると、追加された色収差補正構造は次のようにLCAを低減することになる:
【数13】
【0043】
特に、青色光の波長は赤色光の波長より短いので、追加された構造g(r)は常に負のΔLCAを生じる。換言すれば、追加された構造は、青色焦点と赤色焦点との間の距離を短縮することになる。これは次に、広帯域白色光を網膜上の焦点に効果的に押し込むことになる。したがって、追加された色収差補正構造は広帯域白色光画質性能を改善する。
【0044】
式(13)はまた、次のように書き換えられ得る:
【数14】
これは、LCA補正(ΔLCA)を所与として式(14)はどのようにNが選択されなければならないか指示し得るということを意味する。
【0045】
図4A~4Dは、大口径と小口径との両方の本明細書で説明された色収差補正構造を除いた多焦点IOLと比較された、(本明細書で説明された色収差補正構造を含む)例示的IOL100の白色光性能と緑色光性能との両方を示す変調伝達関数(MTF:modulation transfer function)プロットである。図示のように、IOL100は、大口径と小口径との両方の緑色光性能をほぼ維持する一方で大口径と小口径との両方の白色光性能の向上を提供する。
【0046】
様々な上記開示された及び他の特徴と機能又はその代替物が多くの他の様々なシステム又は用途へ好適に組み合わせられ得るということが理解されることになる。様々な現在予知されない又は予期されない代替、修正、変形又は改良が後に当業者によりなされ得、これらの代替、変形、又は改良もまた添付特許請求の範囲により包含されるように意図されているということも理解されることになる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D