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特許7601951各種動物の血清アミロイドAの測定方法及びその測定試薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】各種動物の血清アミロイドAの測定方法及びその測定試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20241210BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20241210BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/543 581A
C12N15/12 ZNA
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023096655
(22)【出願日】2023-06-13
(62)【分割の表示】P 2019526913の分割
【原出願日】2018-06-26
(65)【公開番号】P2023118749
(43)【公開日】2023-08-25
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2017124578
(32)【優先日】2017-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】旭 由香里
(72)【発明者】
【氏名】和田 厚文
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-067398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
G01N 33/543
C12N 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物種交差性抗血清アミロイドAモノクローナル抗体又はそのフラグメントであって、
前記抗体又はそのフラグメントが、配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒト血清アミロイドA1タンパク質におけるN末端から80~90番目のアミノ酸残基又はヒト以外の動物種由来の成熟型血清アミロイドAタンパク質における前記アミノ酸残基に対応するアミノ酸残基をエピトープとして血清アミロイドAに結合し、且つ、ヒト血清アミロイドAタンパク質におけるN末端から81~90番目のアミノ酸残基「AANEWGRSGK」をエピトープとして血清アミロイドAに結合せず、且つ、
前記動物種が、ヒト、ウシ、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、サル、ブタ、ヒツジ、ロバ及びネズミから成る群より選択される複数の動物種である、
前記抗体又はそのフラグメント。
【請求項2】
請求項1記載の抗体又はそのフラグメントを含む、動物血清アミロイドA測定用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種動物の血清アミロイドA(以下、「SAA」と称する)の測定方法及びその測定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
SAAは、アミロイドーシスにおいて組織に沈着するアミロイドタンパク質Aの前駆体タンパク質であり、分子量約12000の血清タンパク質である(非特許文献1)。このSAAの血清値はアミロイドーシス以外の炎症性疾患で上昇することが明らかにされており、鋭敏な炎症マーカーとして評価されている(非特許文献2)。
【0003】
また、SAAは、ヒト以外の動物種においても重要な炎症マーカーであることが知られている(非特許文献3~7)。
【0004】
例えば、特許文献1は、泌乳哺乳類(ウシ等)の乳房から得られた乳汁のサンプルにおけるSAAタンパク質の量が、乳房組織の炎症応答(乳腺炎)レベルと明確に相互関係にあることを開示する。特許文献2は、異常な症状又は行動を示す哺乳動物(ウマ等)の血液サンプルにおけるSAA濃度に基づいて、感染症と非感染性病因とを区別できることを開示する。
【0005】
ところで、例えば特許文献3は、ヒトSAAと特異的に結合するモノクローナル抗体を記載し、また、特許文献4は、ウマSAAと特異的に結合するモノクローナル抗体を記載する。しかしながら、従来において、モノクローナル抗体を使用したヒトを含む様々な動物種由来のSAAを測定できる試薬は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2003-507725号公報
【文献】国際公開第2014/118764号
【文献】特開平9-67398号公報
【文献】特開2008-239511号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Husby G.及びNatvig J.B., J. Clin. Invest., 1974年, Vol. 53, pp. 1054-1061
【文献】山田俊幸ら, 臨床検査, 1988年, 32:2, pp. 167-172
【文献】Nunokawa Y.ら, J. Vet. Med. Sci., 1993年, 55(6), pp. 1011-1016
【文献】Kajikawa T.ら, J. Vet. Med. Sci., 1996年, 58(11), pp. 1141-1143
【文献】Tamamoto T.ら, J. Vet. Med. Sci., 2008年, 70(11), pp. 1247-1252
【文献】Petersen H.H.ら, Vet. Res., 2004年, 35(2), pp. 163-187
【文献】玉本隆司, 北獣会誌, 2014年, 58, pp. 539-543
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の実情に鑑み、本発明は、様々な動物種由来のSAAを測定可能な試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、抗ヒトSAAモノクローナル抗体の中に様々な動物種由来のSAAを認識する動物種交差性モノクローナル抗体を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)動物種交差性抗SAAモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含む複数の動物種のSAA測定試薬を使用して、SAAを測定する工程を含む、SAAの免疫学的測定方法。
(2)動物種交差性抗SAAモノクローナル抗体又はそのフラグメントが、配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から90番目のアミノ酸残基付近又は他の成熟型SAAタンパク質におけるその対応するアミノ酸残基付近をエピトープとしてSAAに結合する、(1)記載の方法。
(3)前記エピトープが、配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から80~90番目のアミノ酸残基又は他の成熟型SAAタンパク質におけるその対応するアミノ酸残基である、(2)記載の方法。
(4)複数の動物種がヒト、ウシ、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、サル、ブタ、ヒツジ、ロバ及びネズミから成る群より選択される複数の動物種である、(1)~(3)のいずれか1記載の方法。
(5)免疫学的測定方法がラテックス免疫凝集法である、(1)~(4)のいずれか1記載の方法。
(6)動物種交差性抗SAAモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含む、複数の動物種のSAA測定試薬。
(7)動物種交差性抗SAAモノクローナル抗体又はそのフラグメントが、配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から90番目のアミノ酸残基付近又は他の成熟型SAAタンパク質におけるその対応するアミノ酸残基付近をエピトープとしてSAAに結合する、(6)記載の測定試薬。
(8)前記エピトープが、配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から80~90番目のアミノ酸残基又は他の成熟型SAAタンパク質におけるその対応するアミノ酸残基である、(7)記載の測定試薬。
(9)複数の動物種がヒト、ウシ、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、サル、ブタ、ヒツジ、ロバ及びネズミから成る群より選択される複数の動物種である、(6)~(8)のいずれか1記載の測定試薬。
(10)配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から90番目のアミノ酸残基付近又は他の成熟型SAAタンパク質におけるその対応するアミノ酸残基付近をエピトープとしてSAAに結合する、動物種交差性抗SAAモノクローナル抗体又はそのフラグメント。
(11)前記エピトープが、配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から80~90番目のアミノ酸残基又は他の成熟型SAAタンパク質におけるその対応するアミノ酸残基である、(10)記載の抗体又はそのフラグメント。
(12)動物種がヒト、ウシ、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、サル、ブタ、ヒツジ、ロバ及びネズミから成る群より選択される複数の動物種である、(10)又は(11)記載の抗体又はそのフラグメント。
(13)(10)~(12)のいずれか1記載の抗体又はそのフラグメントを含む動物SAA測定用試薬。
【0011】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2017-124578号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るSAA測定試薬によれば、様々な動物種において炎症マーカーであるSAAを容易に検出又は測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】粒径130nmのポリスチレンラテックスに抗ヒトSAAポリクローナル抗体を固定化したラテックス試薬で、ウシ検体を測定した結果を示す図である。
図2】ウシ検体による抗ヒトSAAモノクローナル抗体のスクリーニング結果を示す図である。
図3】粒径130nmのポリスチレンラテックスに、ウシSAAとの反応が確認されたモノクローナル抗体(Clone15)を固定化したラテックス試薬で、ヒトSAA濃度既知血清検体の希釈系列を測定した結果を示す図である。
図4】配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から90番目のアミノ酸残基付近又は他の成熟型SAAタンパク質におけるその対応するアミノ酸残基付近をエピトープとしてSAAに結合する動物種交差性抗SAAモノクローナル抗体(Clone15)を、粒径220nmと粒径80nmの2種類のポリスチレンラテックスに固定化し、これらを2:1に混和したラテックス試薬(SAA-M)で、ヒトSAA濃度既知血清検体の希釈系列を測定した結果(検量線)を示す図である。
図5】動物種交差性抗SAAモノクローナル抗体(Clone15)を、粒径220nmと粒径80nmの2種類のラテックスに固定化し、これらを2:1に混和したラテックス試薬(SAA-M)で、ウシ、イヌ、ネコ血清検体を測定した結果を示す図である。
図6】動物種交差性抗SAAモノクローナル抗体(Clone15)を粒径215nmのポリスチレンラテックスに固定化したラテックス試薬で、各種動物(ウシ、ウマ、サル、ロバ、ヒツジ、ブタ、カピバラ、ネズミ及びウサギ)の血清におけるSAAを測定した結果を示す。
図7】各種動物(ヒト、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、サル、カピバラ、ネズミ)の血清検体による抗ヒトSAAモノクローナル抗体(Clone15、18及び21)の反応性を確認した結果を示す。
図8】抗ヒトSAAモノクローナル抗体(Clone15、18及び21)のエピトープマッピングのためのアレイマップを示す。
図9】抗ヒトSAAモノクローナル抗体(Clone15、18及び21)の成熟型ヒトSAA1タンパク質由来の各ペプチドに対する反応性を確認した結果を示す。
図10】抗ヒトSAAモノクローナル抗体(Clone15、18及び21)の成熟型ヒトSAA1タンパク質由来の各ペプチドに対する反応性を確認した結果を示す。(A):エピトープマッピングのためのアレイにおける蛍光イメージを示す。(B):エピトープマッピングのためのアレイマップを示す。(C):成熟型ヒトSAA1タンパク質由来の各ペプチドのアミノ酸配列比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る複数の(すなわち、2以上の)動物種のSAA測定試薬(以下、「本発明に係るSAA測定試薬」と称する)は、動物種交差性抗SAAモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含むものである。ここで、本発明において使用する動物種交差性抗SAAモノクローナル抗体又はそのフラグメント(以下、「本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメント」と称する)は、様々な動物種に由来するSAAを認識して当該タンパク質に結合することができるモノクローナル抗体又はそのフラグメントである。本発明に係るSAA測定方法及びそのSAA測定試薬によれば、様々な動物種において炎症マーカーであるSAAを免疫学的に測定することができる。
【0015】
本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントが認識することができるSAAとしては、例えばヒト、ウシ、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、サル、ブタ、ヒツジ、ロバ及びネズミ等の動物種由来のSAAが挙げられる。
【0016】
また、本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントは、配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から90番目のアミノ酸残基付近(例えば、N末端から76~94番目のアミノ酸残基、特にN末端から80~90番目のアミノ酸残基)又は他の成熟型SAAタンパク質におけるその対応するアミノ酸残基付近をエピトープとしてSAAに結合するものが好ましい。当該エピトープに結合する本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントは、複数の動物種のSAAに対して高い結合性を示す。本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントがエピトープとして結合する配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から90番目のアミノ酸残基付近に対応する他の成熟型SAAタンパク質(例えば、ヒト以外の動物種由来の成熟型SAAタンパク質)におけるアミノ酸残基は、例えば従来公知の方法により成熟型ヒトSAA1タンパク質のアミノ酸配列と他の成熟型SAAタンパク質のアミノ酸配列とのアラインメントによる比較により決定することができる。
【0017】
本発明に係るモノクローナル抗体は、いずれの免疫グロブリン(Ig)クラス(IgA、IgG、IgE、IgD、IgM、IgY等)及びサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2等)のものであってもよい。また、免疫グロブリンの軽鎖は、κ鎖又はλ鎖のいずれであってもよい。
【0018】
また、本発明に係るモノクローナル抗体フラグメントは、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、Fd、Fabc等を含む。このようなフラグメントの作製方法は当技術分野で公知であり、例えばパパイン、ペプシン等のプロテアーゼによる抗体分子の消化、又は公知の遺伝子工学的手法により得ることができる。
【0019】
本発明に係るモノクローナル抗体は、抗原(ヒトSAA)を免疫した非ヒト哺乳動物から得た抗体産生細胞(例えば脾臓細胞、リンパ系細胞等)とミエローマ細胞から融合法によってハイブリドーマを作製し、得られたハイブリドーマをヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む選択培地(「HAT培地」)を用いて増殖し、免疫に用いた抗原(ヒトSAA)又はそれらの断片ペプチド抗原(例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から90番目のアミノ酸残基付近を含むペプチド抗原)に対して特異的親和性を示すモノクローナル抗体を産生する細胞をクローニングして、抗ヒトSAAモノクローナル抗体産生細胞株を得、この抗ヒトモノクローナル抗体産生細胞をマウスの腹腔内で増殖させて得られた腹水より抗体を精製することにより得ることができる。非ヒト哺乳動物の例は、マウス、ラット等のげっ歯類である。また、ミエローマ細胞としては、免疫感作した動物と同じ動物由来の細胞が好ましく使用され、例えばマウスミエローマ細胞、ラットミエローマ細胞等が挙げられる。抗体産生細胞とミエローマ細胞の融合は、ポリエチレングリコール(PEG)を使用するか、或いは電気的融合法を用いて行うことができる。
【0020】
作製されたモノクローナル抗体は、当技術分野において公知の方法、例えばプロテインA又はプロテインGカラムによるクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、硫安塩析法、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより精製することができる。
【0021】
また、本発明は、本発明に係るSAA測定試薬を使用して、SAAを測定する工程を含む、SAAの免疫学的測定方法に関する。具体的には、様々な動物種由来の生物学的サンプル中のSAAと本発明に係るSAA測定試薬における本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントとを接触させ、抗原抗体反応を生じさせ、形成した免疫複合体に基づいて当該サンプル中のSAAを検出又は測定する。
【0022】
ここで、生物学的サンプルとしては、SAAを含有するか又は含有する可能性がある生物学的サンプルであればよく、例えば全血、血清、血漿、尿、穿刺液、汗、唾液、リンパ液、髄液等が挙げられる。
【0023】
また、免疫学的測定法としては、例えば、寒天平板内で本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントと生物学的サンプル中のSAAの結合による免疫複合体による沈降線の発現を確認する一元放射状免疫拡散法、酵素や放射性元素で標識した本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを用いる酵素免疫測定法(EIA)や放射免疫測定法、その他、本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを固定化した不溶性担体を用いる方法等が挙げられる。不溶性担体としては、例えば、ポリエチレンやポリスチレン等のラテックス粒子、アルミナ粒子、シリカ粒子、金コロイド、磁性粒子等の粒子が挙げられる。これらの不溶性担体の中ではラテックス粒子、特にポリスチレンラテックス粒子が好適に用いられる。
【0024】
また、不溶性担体粒子の粒子径としては、50~500nmが好ましく、75~350nmがさらに好ましい。
【0025】
さらに、不溶性担体に固定化する方法としては、公知の技術である、抗体またはそのフラグメントと不溶性担体を混合して、不溶性担体の表面への抗体またはそのフラグメントの物理吸着を行うことにより不溶性担体への抗体またはそのフラグメントの固定化が可能である。
【0026】
また、表面にアミノ基やカルボキシル基を導入した不溶性担体を用いる場合には、グルタルアルデヒドやカルボジイミド試薬を用いた化学結合によって、不溶性担体の表面への抗体またはそのフラグメントの固定化が可能である。
【0027】
不溶性担体を用いる方法としては、例えば、ラテックスに本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを固定化したラテックス粒子を用いるラテックス免疫凝集法、金コロイドに本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを固定化した金コロイド粒子を用いる金コロイド凝集比色法、ニトロセルロース膜等のメンブレンにおいて、金属コロイド等で標識した本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメント及び当該本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントとSAAとの免疫複合体を捕捉する捕捉抗体を用いるイムノクロマト法等が挙げられる。具体的に、ラテックス免疫凝集法では、ラテックスに本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを固定化したラテックス粒子と生物学的サンプル中のSAAとを反応させ、免疫複合体の形成によりラテックス粒子が凝集し、当該ラテックスの凝集による濁度の変化に基づいて、SAAを測定する。また、イムノクロマト法では、ニトロセルロース膜等のメンブレンにおいて、生物学的サンプルを供給し、当該生物学的サンプル中のSAAは金属コロイド等で標識した本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを保持する標識試薬保持部で本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントと反応して免疫複合体を形成し、さらに免疫複合体が毛細管現象によってメンブレン中を移動し、メンブレンの所定の位置に固定された捕捉抗体により当該免疫複合体が捕捉され、当該捕捉による呈色に基づいてSAAを検出する。
【0028】
このように、本発明に係るSAA測定試薬は、SAAの免疫学的測定方法に使用するものであり、例えば、免疫学的測定法が不溶性担体を用いる方法である場合には、本発明に係るSAA測定試薬は、本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを固定化した不溶性担体、例えばラテックスを含むラテックス溶液を含むことができる。免疫学的測定法がイムノクロマト法である場合には、本発明に係るSAA測定試薬は、本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを固定化した不溶性担体、例えば金コロイド、および本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを固定化したニトロセルロース膜等のメンブレンを含むイムノクロマトグラフデバイス(例えば、試料供給部と、金属コロイド等で標識した本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを保持する標識試薬保持部と、所定の位置に固定された捕捉抗体を含む検出部とを有する、支持体に担持されたニトロセルロース膜等のメンブレン)に使用することができる。
【0029】
また、本発明に係るSAA測定試薬は、本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメント以外に、免疫反応に必要なpHを与える緩衝剤、免疫反応を促進する反応増強剤、非特異的反応を抑制する反応安定剤やブロッカー、試薬の保存性を高めるアジ化ナトリウム等の防腐剤等を含むことができる。
【0030】
緩衝剤としては、例えば次のようなものが挙げられる。
GOOD緩衝剤:
2-モルホリノエタンスルホン酸(2-(N-Morpholino)ethanesulfonic acid;「MES」と省略される);
ピペラジン-ビス(2-エタンスルホン酸)(Piperazine-N,N'-bis(2-ethanesulfonic acid);「PIPES」と省略される);
(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonic acid;「ACES」と省略される);
ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoehtanesulfonic acid;「BES」と省略される);
ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis(2-hydroxyethyl)iminotris(hydroxymethyl)methane;「Bis-Tris」と省略される);
3-[ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(3-[N,N-Bis(2-hydroxyethyl)amino]-2-hydroxypropanesulfonic acid;「DIPSO」と省略される);
2-ヒドロキシエチルピペラジン-3-プロパンスルホン酸(N-2-Hydroxyethylpiperazine-N'-3-propanesulfonic acid;「EPPS」と省略される);
ヒドロキシエチルピペラジン-2-エタンスルホン酸(N-2-Hydroxyethylpiperazine-N'-2-ethanesulfonic acid;「HEPES」と省略される);
2-ヒドロキシエチルピペラジン-2-ヒドロキシプロパン-3-スルホン酸(N-2-Hydroxyethylpiperazine-N'-2-hydroxypropane-3-sulfonic acid;「HEPPSO」と省略される);
3-(モルホリノ)プロパンスルホン酸(3-(N-Morpholino)propanesulfonic acid;「MOPS」と省略される);
3-(モルホリノ)-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(3-(N-Morpholino)-2-hydroxypropanesulfonic acid;「MOPSO」と省略される);
ピペラジン-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)(Pioerazine-N,N'-bis(2-hydroxypropanesulfonic acid);「POPSO」と省略される);
トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic acid;「TAPS」と省略される);
トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-hydroxy-3-aminopropanesulfonic acid;「TAPSO」と省略される);
トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノメタンスルホン酸(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid;「TES」と省略される)。
その他の緩衝剤:
2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール(2-Amino-2-hydroxymethyl-1,3-propanediol)(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)とも呼ばれる);
リン酸緩衝液;
アンモニウム緩衝液。
【0031】
これらの緩衝剤の中でも、HEPESやPIPES等のGOOD緩衝剤は、免疫反応に有利なpHを与えるのみならず、タンパク質への影響が小さいので特に好ましい緩衝剤として挙げられる。免疫反応に必要なpHとしては、pH5~11であればよく、好ましくはpH6~9である。
【0032】
また、反応増強剤としては、ポリエチレングリコールやデキストラン硫酸等が知られている。更に反応安定剤やブロッカーとして、BSA(ウシ血清アルブミン)、動物血清、IgG、IgG断片(FabやFc)、アルブミン、乳タンパク質、アミノ酸、ポリアミノ酸、コリン、ショ糖等の多糖類、ゼラチン、ゼラチン分解物、カゼイン、グリセリン等の多価アルコール等が免疫反応において反応の安定化や非特異的反応の抑止に有効なことが知られている。
【0033】
これらの各種成分を含む本発明に係るSAA測定試薬は、溶液状態で、又は乾燥状態で供給することができる。溶液状態で流通させるには、タンパク質の安定性を高めることを目的として、更に各種界面活性剤、糖、不活性タンパク質等を加えても良い。これらの安定化剤は、試薬を乾燥するときにも安定剤として、又は賦形剤として有効である。
【実施例
【0034】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
以下の比較例及び実施例において使用する各モノクローナル抗体の成熟型ヒトSAA1タンパク質(配列番号1に示すアミノ酸配列)に対するエピトープは、以下の通りである:
Clone17:N末端から30番目のアミノ酸残基付近;
Clone14:N末端から15番目のアミノ酸残基付近;
Clone15,18:N末端から90番目のアミノ酸残基付近;
Clone21,25:不明。ただし、ウシSAAとの反応からClone21はClone15等と同様であると推察される。
【0036】
〔比較例1〕抗ヒトSAAポリクローナル抗体を固定化したラテックス試薬によるウシ検体の測定
1.目的
抗ヒトSAAポリクローナル抗体をポリスチレンラテックスに固定化したラテックス試薬で、ウシSAAが測定できるかを確認した。
(1)抗ヒトSAAポリクローナル抗体のポリスチレンラテックス粒子への固定化
抗ヒトSAAポリクローナル抗体を粒径130nmのポリスチレンラテックスに固定化した。
上記ポリスチレンラテックス粒子への固定化は、公知の方法により行った。すなわち、抗ヒトSAAポリクローナル抗体とポリスチレンラテックスとを混合して、ポリスチレンラテックスの表面に抗ヒトSAAポリクローナル抗体を物理的に吸着することにより固定化を行った。
【0037】
2.材料・方法
手術前及び手術後に経時的に採血したウシ血漿検体を、上記ラテックス試薬を用いて、日立7170S形自動分析装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)にて測定した。測定方法は、血漿検体2.0μLに第1試薬(50mM HEPES緩衝液pH7.4)100μLを混和し37℃で5分間インキュベーションした後、この混合液に第2試薬(10mM HEPES緩衝液pH7.4を含む、ポリクローナル抗体固定化ラテックス溶液)100μLを混合し37℃で反応させ、第2試薬混合後約5分間の波長800/570nm(副波長/主波長)の二波長での吸光度変化を測定した。
血漿検体中のSAA濃度は、SAA濃度既知の試料を測定して得られた検量線から算出した。
【0038】
3.結果
手術前及び手術後に経時的に採血したウシ血漿検体のSAA値は、0.62~1.72mg/Lとポリクローナル抗体で作製したSAA試薬の測定範囲(5~500mg/L)以下であった(図1)。
【0039】
4.結論
抗ヒトSAAポリクローナル抗体で作製したSAA試薬はウシSAAとの反応性が低く、ウシSAAの測定はできなかった。実施例1に示すようにポリクローナル抗体を用いたEIAではウシSAAが測定できたが、ラテックス凝集法では測定はできなかった。
【0040】
〔実施例1〕ウシ検体によるモノクローナル抗体のスクリーニング
1.目的
ウシSAAと反応するモノクローナル抗体のスクリーニングを行った。
【0041】
2.材料・方法
手術前後のウシ血漿検体をマイクロプレートに固相化(抗原の固相化)し、抗ヒトSAAポリクローナル抗体及び抗ヒトSAAモノクローナル抗体(特許文献3の表1に示すClone14、15、17、18、21、25)を反応させた後、POD標識抗ウサギIgG抗体又はPOD標識抗ラットIgG抗体を反応させるEIA法にて反応性を確認した。
【0042】
3.結果
術後2日目のウシ血漿検体との反応性において、Clone18、Clone21、Clone15、ポリクローナル抗体の順で高く、他のCloneにおいては術前後での反応性に違いが認められなかった(図2)。
【0043】
4.結論
抗ヒトSAAポリクローナル抗体は、反応が弱いもののウシ血漿と反応するが、モノクローナル抗体(Clone17、Clone25)は急性期のウシ血漿検体とは反応しないことが認められた。スクリーニングに用いたモノクローナル抗体のうち、急性期のウシ血漿検体と反応するモノクローナル抗体3クローン(Clone18、Clone21、Clone15)が確認された。
【0044】
〔実施例2〕動物SAA測定用試薬(「SAA-M」)の作製検討と検体測定
1.目的
動物SAA測定用のラテックス試薬の検討を行った。
【0045】
2.材料・方法
抗ヒトSAAモノクローナル抗体(Clone15)及びポリスチレンラテックス(粒径130nm又は粒径220nmと粒径80nm)を用いてラテックス試薬を作製し、SAA濃度が既知である血清検体の希釈系列、及びウシ、イヌ、ネコ血清検体を測定した。比較例として、市販のLZテスト‘栄研'SAA(栄研化学株式会社製)での測定も行った。
【0046】
上記ポリスチレンラテックス粒子への固定化は、公知の方法により行った。すなわち、抗ヒトSAAモノクローナル抗体とポリスチレンラテックスとを混合して、ポリスチレンラテックスの表面に抗ヒトSAAモノクローナル抗体を物理的に吸着することにより固定化を行った。
【0047】
上記、SAA濃度が既知である血清検体(ヒトSAA)の希釈系列及びウシ、イヌ、ネコ血清検体の測定は、日立7170S形自動分析装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)にて測定した。測定方法は、血清検体2.0μLに第1試薬(50mM HEPES緩衝液pH7.4)100μLを混和し37℃で5分間インキュベーションした後、この混合液に第2試薬(10mM HEPES緩衝液pH7.4を含む、モノクローナル抗体固定化ラテックス溶液)100μLを混合し37℃で反応させ、第2試薬混合後約5分間の波長800/570nm(副波長/主波長)の二波長での吸光度変化を測定した。
【0048】
ウシ、イヌ、ネコ血清検体中のSAA濃度は、SAA濃度既知の試料を測定して得られた検量線から算出した。
【0049】
3.結果
3-1.モノクローナル抗体による試薬化
粒径130nmのポリスチレンラテックスにモノクローナル抗体(Clone15)を固定化したSAA試薬にて、SAA濃度が既知である血清検体(ヒトSAA)の希釈系列を測定した結果を図3に示す。Clone15を固定化したSAA試薬では、希釈系列による吸光度変化量(ΔAbs)の変動が認められ、検量線を作成することができた。
【0050】
Clone15のモノクローナル抗体を粒径220nmと粒径80nmの2種類のラテックスに固定化して、これらを2:1に混和したラテックス試薬(SAA-M)を作製し、SAA濃度が既知である血清検体の希釈系列を測定した結果(検量線)を図4に示す。
【0051】
3-2.動物検体の測定
ウシ、イヌ、ネコ血清検体を測定した結果を図5に示す。また、Clone15のモノクローナル抗体を粒径220nmと粒径80nmの2種類のラテックスに固定化して作製したラテックス試薬(SAA-M)では、ウシ、イヌ、ネコのSAAを測定できた。これに対し、LZテスト‘栄研'SAA(LZ-SAA)でのウシ及びイヌ血清はいずれの血清検体においてもLZテスト‘栄研'SAAの測定範囲以下であり、LZテスト‘栄研'SAAではウシ及びイヌSAAは測定できなかった。またイヌ検体では市販のイヌ用CRP測定試薬を用いた値よりも変動が大きく、ネコ検体においてもLZテスト‘栄研’SAAで測定した結果に比べて大きな変動を示した。
【0052】
4.結論
配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から90番目のアミノ酸残基付近をエピトープとしてSAAに結合するモノクローナル抗体(Clone15)を用いることで、ウシ、イヌ、ネコと反応するSAAラテックス試薬を作製することが可能である。
【0053】
〔実施例3〕各種動物の検体におけるSAAの測定
1.目的
配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から90番目のアミノ酸残基付近をエピトープとしてSAAに結合するモノクローナル抗体(Clone15)で各種動物のSAAが測定できるかを確認した。
【0054】
2.材料・方法
各種動物の検体中のSAAを、Clone15のモノクローナル抗体を担持したラテックス試薬(動物SAA試薬)を用いて測定した。
【0055】
また、比較例として、実施例2に記載のLZテスト‘栄研’SAA(LZ-SAA)を用いて、同様に測定を行った。LZテスト‘栄研’SAA(LZ-SAA)での反応が認められない動物種(ウサギ)については、参考としてSAAと同様に炎症性疾患で上昇するCRPの測定を行った。
【0056】
上記動物SAA試薬は、粒径215nmのポリスチレンラテックスを使用した以外は実施例2と同様に調製した。
【0057】
各種動物の検体中のSAA測定は、日立7170S形自動分析装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)にて測定した。測定方法は、各種検体3.0μLに第1試薬(50mM HEPES緩衝液 pH7.4)100μLを混和し37℃で5分間インキュベーションした後、この混合液に第2試薬(10mM HEPES緩衝液pH7.4を含む、モノクローナル抗体固定化ラテックス溶液)100μLを混合し37℃で反応させ、第2試薬混合後約5分間の波長600nmでの吸光度変化を測定した。
【0058】
各種動物の検体中のSAA濃度は、SAA濃度既知の試料を測定して得られた検量線から算出した。
【0059】
3.結果
測定結果を図6に示す。
比較例(LZテスト‘栄研'SAA)では測定できない(測定感度以下)のに対し、動物SAA試薬(配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から90番目のアミノ酸残基付近をエピトープとしてSAAに結合するClone15のモノクローナル抗体:「本発明に係るSAA測定試薬」に相当)を使用することで、各種動物(ウシ、ウマ、サル、ロバ、ヒツジ、ブタ、ネズミ、ウサギ)の検体におけるSAAを測定することができた。
【0060】
4.結論
動物SAA試薬(Clone15のモノクローナル抗体)を使用することで、各種動物の検体におけるSAAを測定することが可能である。
【0061】
〔実施例4〕各種クローンから得られた抗体を使用したSAA試薬の評価
1.目的
配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から90番目のアミノ酸残基付近をエピトープとしてSAAに結合するClone18及びClone21から得られたモノクローナル抗体が、Clone15のモノクローナル抗体と同様に、各種動物の検体におけるSAAを測定できるかを確認した。
【0062】
2.材料・方法
各種動物血清(ヒト、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、サル、カピバラ、ネズミ)をマイクロプレートに固相化(抗原の固相化)し、Clone15、Clone18及びClone21から得られた抗SAAモノクローナル抗体を反応させた後、POD標識抗ラットIgG抗体を反応させるEIA法にて反応性を確認した。
【0063】
3.結果
測定結果を、図7に示す。図7の表における「○」、「×」は、反応の有無(有:○、無:×)を示す。また、図7の表における「盲検補正値」については、バラつきも加味し、盲検補正値が0.020以上である場合に反応(+)と判断する。
【0064】
「本発明に係る配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から90番目のアミノ酸残基付近をエピトープとしてSAAに結合するClone18のモノクローナル抗体」及び「本発明に係る配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から90番目のアミノ酸残基付近をエピトープとしてSAAに結合するClone21のモノクローナル抗体」は、「本発明に係る配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質におけるN末端から90番目のアミノ酸残基付近をエピトープとしてSAAに結合するClone15のモノクローナル抗体」と同様に各種動物の検体におけるSAAを測定できた。さらに、図7のグラフに示すように、Clone18のClone15に対する相関係数は0.982であり、Clone21のClone15に対する相関係数は0.975であった。
【0065】
4.結論
Clone18のモノクローナル抗体とClone21のモノクローナル抗体は、Clone15のモノクローナル抗体と同等の性能を示していると示唆された。
【0066】
〔実施例5〕各種クローンから得られた抗体のエピトープマッピング
1.目的
Clone15、Clone18及びClone21から得られたモノクローナル抗体が、配列番号1に示すアミノ酸配列から成る成熟型ヒトSAA1タンパク質に、いずれのアミノ酸配列をエピトープとして結合するのかを確認した。
【0067】
2.材料・方法
表1及び図8に示すように、成熟型ヒトSAA1タンパク質由来の各ペプチドをスライドガラスに固相化(抗原の固相化)することでアレイを作製した。
【0068】
次いで、Clone15、Clone18及びClone21から得られた抗SAAモノクローナル抗体をアレイ上の各ペプチドと反応させた後、ビオチン標識ヤギ抗ラットIgG抗体を反応させた。その後、蛍光標識ストレプトアビジンをアレイと反応させ、各ペプチドに対する抗SAAモノクローナル抗体の反応性を確認した。
【0069】
【表1】
【0070】
なお、表1及び図8における陽性対照は、以下の通りである:
Biotin-BSA:成熟型ヒトSAA1タンパク質由来の各ペプチドに代えて、ビオチン標識BSAをスライドガラスに固相化したもの;
Rat IgG(Raybiotech):成熟型ヒトSAA1タンパク質由来の各ペプチドに代えて、ビオチン標識ヤギ抗ラットIgG抗体をスライドガラスに固相化したもの。
【0071】
3.結果
結果を図9及び10に示す。
図9及び10に示すように、Clone15、Clone18及びClone21から得られた抗SAAモノクローナル抗体は、ペプチド#7~#11に対して良好な結合性を示した。
【0072】
4.結論
Clone15、Clone18及びClone21から得られた抗SAAモノクローナル抗体は、ペプチド#7~#11に対して良好な結合性を示したことから、ペプチド#7~#11に共通するアミノ酸配列(QAANEWGRSGK:配列番号14)をエピトープとして成熟型ヒトSAA1タンパク質に結合することが示唆された(図10C)。当該エピトープは、配列番号1に示すアミノ酸配列におけるN末端から80~90番目のアミノ酸配列に相当する。
【0073】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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