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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ウイルス不活化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/718 20060101AFI20241210BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241210BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20241210BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61Q 1/06 20060101ALI20241210BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61Q 5/02 20060101ALI20241210BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20241210BHJP
   A61Q 15/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
A61K31/718
A61K8/34
A61K8/73
A61K9/06
A61K9/08
A61K47/10
A61P17/00 101
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/16
A61Q1/00
A61Q1/06
A61Q5/00
A61Q5/02
A61Q5/12
A61Q15/00
A61Q19/00
A61Q19/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023118876
(22)【出願日】2023-07-21
(62)【分割の表示】P 2020531373の分割
【原出願日】2019-07-19
(65)【公開番号】P2023139155
(43)【公開日】2023-10-03
【審査請求日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2018136872
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(74)【代理人】
【識別番号】100137512
【弁理士】
【氏名又は名称】奥原 康司
(72)【発明者】
【氏名】有野 翔子
(72)【発明者】
【氏名】白神 裕人
(72)【発明者】
【氏名】蛭間 有喜子
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-241330(JP,A)
【文献】特表2012-526857(JP,A)
【文献】国際公開第2015/015027(WO,A1)
【文献】塩化ヒドロキシプロピルトリモニウムデンプン[オンライン],Cosmetic-Info.jpホームページ,2024年07月12日,インターネット<URL:https://www.cosmetic-info.jp/jcln/detail.php?id=5339>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/718
A61K 8/34
A61K 8/73
A61K 9/06
A61K 9/08
A61K 47/10
A61P 17/00
A61P 31/12
A61P 31/14
A61P 31/16
A61Q 1/00
A61Q 1/06
A61Q 5/00
A61Q 5/02
A61Q 5/12
A61Q 15/00
A61Q 19/00
A61Q 19/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ヒドロキシプロピルトリモニウムデンプンからなる、ウイルス不活化剤。
【請求項2】
ウイルスがエンベロープを有する一本鎖RNAウイルスである、請求項1に記載のウイルス不活化剤。
【請求項3】
エンベロープを有する一本鎖RNAウイルスがオルトミクソウイルス科に属するウイルスである、請求項2に記載のウイルス不活化剤。
【請求項4】
オルトミクソウイルス科に属するウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項3に記載のウイルス不活化剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のウイルス不活化剤を、組成物全量に対して0.1質量%以上含むことを特徴とするウイルスを不活化するための組成物
【請求項6】
アルコールをさらに含有することを特徴とする、請求項5に記載の組成物
【請求項7】
アルコールの配合量が50質量%以下である、請求項6に記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハッカ油、ユーカリ油、ローズマリー油、セージ油、ティーツリー油、月桃油、ペパーミント油、レモングラス油、カユプテ油、ニアウリ・シネオール油、ライム油、レモン油、レモンバーベナ油、セントジョーンズワート油、ラビンツァラ油、ローズウッド油、メリッサ/レモンバーム油、ミルラ油、マンダリン油、ベチバー油、フランキンセンス油、シトロネラ油、カルダモン油、アンジェリカ油という特定の精油、およびカチオン化デンプンから選ばれる1種または2種以上を有効成分として含有するウイルス不活化剤、および該ウイルス不活化剤を含有する皮膚外用剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスをはじめとする様々なウイルスに対して、植物抽出物、特に植物抽出物中に含まれる芳香物質を抽出した精油の一部が不活化効果を示すことが知られている。「精油(エッセンシャルオイル)」は、化粧料における天然香料の一種であり、狭義には、植物またはその乾燥物から水蒸気蒸留して得られた油分である。天然香料の採油法としては、抽出法、圧搾法等が知られており、圧搾法で得られた香料をエッセンシャルオイルと呼ぶ場合もある(非特許文献1)。
【0003】
例えば、ラズベリー(Rubus idaeus)、ストロベリー(Fragaria vesca )、ブラックベリー(Rubus fruticosus)、イチジク(Ficus carica)、アカザ(Chenopodium album)、アグリモニー(Agrimonia eupatoria)、ユーカリ(Eucalyptus globulus)、モモ(Prunus persica)、リンゴ(Malus pumila )、ヴァイオレット(Viola odorata)、クロモジ(Lindera umbellata)、ガラナ(Paullinia cupana)、ワタフジウツギ(Buddleia officinalis)、ツユクサ(Commelina communis)、ナズナ(Capsella bursapastoris)、エンメイソウ ( Rabdosia japonica)、ワイルドストロベリー(Fragaria v esca)、ホアハウンド(Marrubium vulgare)、マーシュマロウ ( Althaea officinalis)、オオバコ(Plantago asiatica)、レモンバーベナ(Aloysia triphylla)、ヤロウ(Achillea millefolium)、アイスランドモス(Cetraria islandica)、アマチャヅル(Hydrange serrata)、およびフキ(Petasites japonicus)から選択される1種または2種以上の植物抽出物がインフルエンザウイルス不活化効果を示すことが特許文献1に記載されている。しかし、特許文献1で使用される植物抽出物は、水/エタノール(又は有機溶媒)を用いた抽出法で得られたものであり、食品に配合して経口投与することを意図している。
【0004】
特許文献2には、ドクダミ(Houttuynia cordata Thunbo)の水蒸気蒸留により得られる精油成分がインフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、エイズウイルス(HIV)等に対して不活化効果を示すことが記載され、特許文献3には、パチョリ(Pogostemon cablin Benth.)精油抽出物がインフルエンザウイルス不活化効果を有することが記載されている。しかし、特許文献2において有効成分として特定されているのは、精油成分に含まれるn-デシルアルデヒド、n-ドデシルアルデヒド及びメチルn-ノニルケトンという非テルペン化合物であり、特許文献3における有効成分はパチョリをアルコール又はn-ヘキサンで抽出した後に分画して得られるパチョリアルコール(パチョール)であるとされている。
【0005】
特許文献4には、モミの葉の抽出物(モミ精油)が抗インフルエンザウイルス剤として有用であることが開示されているが、該精油中は、30質量%以上のボルニルアセテートを含有するのが好ましく、それにカンフェン、ピネン、およびリモネンを加えた合計量がモミ精油の全量基準で90質量%以上含有しているのが好ましいとされている。特許文献5には、ピネン類などのテルペン系誘導体、オイゲノールなどのフェノール類およびサンダルウッド油が麻疹ウイルス等の病原性有膜ウイルスに対し不活化効果を示すことが報告されている。
【0006】
しかしながら、精油に関しては、安全性(皮膚刺激性)の面で、ウイルス不活化効果量を含有させるのは現実的ではなく、そのため、より少量で効果を発揮する安全な天然成分を含有するウイルス不活化剤の開発が強く望まれていた。
【0007】
一方、天然成分ではないが、ジメチルオクタデシル[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド(EtAC)のようなケイ素を含有する第4級アンモニウムカチオンが、義歯洗浄剤などの口腔清浄剤などとして安全であり、インフルエンザウイルスやノロウイルスなどのウイルスを不活性化する能力を有することも報告されている(特許文献6)。しかし、特許文献6では、前記第4級アンモニウムカチオンの構造が僅かに相違するだけで、抗ウイルス効果や安定性に問題が生じ得ることが示唆されている(段落0008及び0009)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】「新化粧品学」第2版、光井武夫編、南山堂、2001年、第119頁
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-59463号公報
【文献】特開平7-118160号公報
【文献】特開2011-79800号公報
【文献】特開2011-84503号公報
【文献】特開平5-306217号公報
【文献】特開2011-98976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記のような技術状況の下、細菌やウイルスのみならず、花粉やPM2.5等の大気汚染物質といった皮膚に悪影響を与え得る刺激物質が増加している現状に鑑みてなされたものであり、皮膚刺激を生じない程度の量で効果を発揮するウイルス不活化剤、および該ウイルス不活化剤を含有する皮膚外用剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の植物から抽出される精油の1種または2種以上、及び/又はカチオン化デンプンを有効成分として配合することにより、皮膚刺激を生じず安全に優れたウイルス不活化効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]有効成分として、ハッカ油、ユーカリ油、ローズマリー油、セージ油、ティーツリー油、月桃油、ペパーミント油、レモングラス油、カユプテ油、ニアウリ・シネオール油、ライム油、レモン油、レモンバーベナ油、セントジョーンズワート油、ラビンツァラ油、ローズウッド油、メリッサ/レモンバーム油、ミルラ油、マンダリン油、ベチバー油、フランキンセンス油、シトロネラ油、カルダモン油、アンジェリカ油、およびカチオン化デンプンから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とするウイルス不活化剤。
[2]有効成分として、ハッカ油、ユーカリ油、ローズマリー油、およびセージ油からなる群から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする、上記[1]に記載のウイルス不活化剤。
[3]有効成分として、ハッカ油、ユーカリ油、ローズマリー油、およびセージ油からなる群から選択される3種を含有することを特徴とする、上記[2]に記載のウイルス不活化剤。
[4]有効成分として、ハッカ油、ユーカリ油、ローズマリー油、およびセージ油を含有することを特徴とする、上記[2]に記載のウイルス不活化剤。
[5]リモネン含有量が合計0.006質量%以上である、上記[1]から[4]のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤。
[6]有効成分として、カチオン化デンプンを含有することを特徴とする、上記[1]に記載のウイルス不活化剤。
[7]カチオン化デンプンが、下記式(I):
【化1】
[式(I)中、X- は無機酸あるいは有機酸から誘導されるアニオンを示し;
a、bは、a+b=1としたとき、aは0.6~0.9、bは0.4~0.1であり;
平均分子量が3万~100万である。]
で表されるカチオン性ポリマーである、上記[1]または[6]に記載のウイルス不活化剤。
[8]カチオン化デンプンの平均分子量が10万~50万である、上記[1]、[6]および[7]のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤。
[9]カチオン化デンプンが塩化ヒドロキシプロピルトリモニウムデンプンである、上記[1]および[6]から[8]のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤。
[10]カチオン化デンプンの配合量が塩化ヒドロキシプロピルトリモニウムデンプンの純分換算で0.1質量%以上である、上記[1]および[6]から[9]のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤。
[11]ウイルスがエンベロープを有する一本鎖RNAウイルスである、上記[1]から[10]のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤。
[12]エンベロープを有する一本鎖RNAウイルスがオルトミクソウイルス科に属するウイルスである、上記[11]に記載のウイルス不活化剤。
[13]オルトミクソウイルス科に属するウイルスがインフルエンザウイルスである、上記[12]に記載のウイルス不活化剤。
[14]上記[1]から[13]のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤を含むことを特徴とする皮膚外用剤組成物。
[15]アルコールをさらに含有することを特徴とする、上記[14]に記載の皮膚外用剤組成物。
[16]アルコールの配合量が50質量%以下である、上記[15]に記載の皮膚外用剤組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明のウイルス不活化剤の一態様では、好ましくはリモネン含有量が少ない精油を複数組み合わせてリモネン合計量を所定量以上とすることにより、皮膚刺激を生じずに優れたウイルス不活化効果を示す。また、本発明のウイルス不活化剤は、カチオン化デンプンという天然由来の成分を配合することにより優れたウイルス不活化効果を示す。従って、本発明のウイルス不活化剤を含有する皮膚外用剤組成物は、安全かつ容易にウイルス不活作用を有するという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0015】
本発明のウイルス不活化剤の一態様は、1種または2種以上の植物抽出物を有効成分とするものであって、該植物抽出物が(シソ科ハッカ属)ハッカ、(フトモモ科ユーカリ属)ユーカリ、(シソ科マンネンロウ属)ローズマリー、(シソ科アキギリ属)セージ、(フトモモ科コバノブラシノキ属)ティーツリー、(ショウガ科ハナミョウガ属)月桃、(シソ科ハッカ属)ペパーミント、(イネ科オガルカヤ属)レモングラス、(フトモモ科コバノブラシノキ属)カユプテ、(フトモモ科メラレウカ属)ニアウリ・シネオール、(ミカン科ミカン属)ライム、(ミカン科ミカン属)レモン、(クマツヅラ科コウスイボク属)レモンバーベナ、(オトギリソウ科オトギリソウ属)セントジョーンズワート、(クスノキ科ニッケイ属)ラビンツァラ、(マメ科ツルサイチ属)ローズウッド、(シソ科コウスイハッカ属)メリッサ/レモンバーム、(カンラン科コンミフォラ属)ミルラ、(ミカン科ミカン属)マンダリン、(イネ科オキナワミチシバ属)ベチバー、(カンラン科ボスウェリア属)フランキンセンス、(イネ科オガルカヤ属)シトロネラ、(ショウガ科ショウズク属)カルダモン、および(セリ科シシウド属)アンジェリカからなる群から選択される植物由来のものであることを特徴としている。
【0016】
本発明における植物抽出物としては、前記の植物中に含まれる芳香物質として抽出した「精油」が好ましい。
本発明における「精油(エッセンシャルオイル)」は、上記の植物またはその乾燥物から水蒸気蒸留によって得られる狭義の精油が好ましく用いられるが、それに限定されない。例えば、抽出法や圧搾法等の他の方法で植物から抽出された油分も、精油成分(芳香物質等)を含むものである限り、本発明における「精油」に包含される。
【0017】
植物から精油を抽出する他の方法としては、例えば溶剤抽出法(アルコール抽出法、有機溶剤抽出法など)、油脂吸着抽出法(温浸法または冷浸法)、超臨界流体抽出法等が知られている。植物の精油含量が少ない等の理由により水蒸気蒸留が適用できないときには溶媒抽出法が用いられることが多い。抽出に用いる溶媒としては、限定するものではないが、例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトンなどの比較的高極性のものからヘキサンなどの低極性のものを含む有機溶媒が例示される。これらの精油抽出方法の詳細については、「特許庁広報 周知慣用技術集(香料)第I部 香料一般」(平成11(1999)年1月29日、日本国特許庁発行、pp.4-21(2・1・1 植物性香料))等の文献を参照することができる。
【0018】
本発明における「精油」は、上記の方法で得た油分を、例えば多孔性ビーズ、シリカゲルやアルミナなどの担体を用いた疎水性または吸着クロマトグラフィー等の各種精製手法を用いて更に精製・濃縮したものであってもよい。
【0019】
本明細書では、段落0015に列挙した各植物から得られた「精油」を、各々、ハッカ油、ユーカリ油、ローズマリー油、セージ油、ティーツリー油、月桃油、ペパーミント油、レモングラス油、カユプテ油、ニアウリ・シネオール油、ライム油、レモン油、レモンバーベナ油、セントジョーンズワート油、ラビンツァラ油、ローズウッド油、メリッサ/レモンバーム油、ミルラ油、マンダリン油、ベチバー油、フランキンセンス油、シトロネラ油、カルダモン油、およびアンジェリカ油と称する。
【0020】
本発明のウイルス不活化剤は、ハッカ油、ユーカリ油、ローズマリー油、セージ油、ティーツリー油、月桃油、ペパーミント油、レモングラス油、カユプテ油、ニアウリ・シネオール油、ライム油、レモン油、レモンバーベナ油、セントジョーンズワート油、ラビンツァラ油、ローズウッド油、メリッサ/レモンバーム油、ミルラ油、マンダリン油、ベチバー油、フランキンセンス油、シトロネラ油、カルダモン油、およびアンジェリカ油からなる群から選択される精油の1種または2種以上を有効成分として含有する。好ましくは2種、より好ましくは3種、更に好ましくは4種またはそれ以上の精油を含有するのが好ましい。
【0021】
前記の精油の中でも、リモネンの含有量が精油100g当たり10g以下、好ましくは8g以下、より好ましくは6g以下の精油を選択するのが好ましい。特に、ハッカ油、ユーカリ油、ローズマリー油、およびセージ油からなる群から選択される少なくとも1種を用いるのが好ましい。本発明のウイルス不活化剤の好ましい態様は、ハッカ油、ユーカリ油、ローズマリー油、およびセージ油からなる群から選択される2種、好ましくは3種、より好ましくは4種を有効成分として含有する。
【0022】
なお、本発明のウイルス不活化剤は、配合する精油に含まれるリモネンの含有量が、ウイルス不活化剤の全量に対して0.006質量%以上となるように精油を組み合わせて配合するのが好ましい。リモネンの配合量が0.006質量%未満であると十分なウイルス不活化効果が得られない。
【0023】
リモネンは、主に柑橘類の果皮に含まれる単環式モノテルペン炭化水素である。リモネンは、オレンジやレモン等の柑橘類から得られる精油の主成分をなすが、橙皮油やレモン油に含まれるリモネンはD体であり、ハッカ油等に含まれるリモネンはL体であることが知られている。本発明で用いられるリモネンはD体、L体又はD体とL体の混合物(ラセミ体等)であってよく、特に限定されない。すなわち、本発明のウイルス不活剤は、D-リモネンを0.006質量%以上含有する態様、L-リモネンを0.006質量%以上含有する態様、及びD-リモネンとL-リモネンを合計で0.006質量%以上含有する態様を含む。
【0024】
リモネン配合量の上限は特に限られないが、通常は、0.05質量%以下、好ましくは0.04質量%以下、0.03質量%以下、あるいは0.02質量%以下である。リモネンの配合量が多くなり過ぎると皮膚刺激性を生じる可能性がある。
なお、配合する精油の全量に対するリモネン量は、精油100gに対して5g未満、好ましくは4.5g未満とするのが好ましい。
【0025】
本発明のウイルス不活化剤の別の態様は、カチオン化デンプンを有効成分とするものである。
カチオン化デンプンは、複数のグルコースがα-1,4-グルコシド結合を介して結合した構造を基本骨格とするデンプンに、第4級アンモニウム等のカチオン性基を導入したカチオン性ポリマーである。
【0026】
本発明で用いられるカチオン化デンプンとしては、下記式(I):
【化2】
で表されるカチオン性ポリマーが好ましい。
【0027】
上記式(I)中の各記号は以下の意味を表す。
- は、無機酸あるいは有機酸から誘導されるアニオンを示す。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸などが例示され、有機酸としては、酢酸等のカルボン酸が例示される。上記式(I)におけるアニオンXとしては、ハロゲン化物イオン、特にClが好ましい。
a及びbは、ポリマー中の各モノマー数及び各モノマーの比率を表す。各モノマー数を表す場合、式(I)で示すカチオン化デンプンの平均分子量(重量平均分子量:Mw)は3万~100万が好ましく、より好ましくは10万~50万であるので、a及びbは、平均分子量が前記の範囲内となるような値をとる。各モノマーの比率を表す場合は、例えば、a+b=1と仮定すると、aは0.6~0.9、好ましくは0.7~0.8、より好ましくは約0.75であり、bは、0.4~0.1、好ましくは0.3~0.2、より好ましくは約0.25である。
【0028】
式(I)で表されるカチオン化デンプンは、化粧品成分表示名称で「塩化ヒドロキシプロピルトリモニウムデンプン」である。当該表示名称で市販されている商品として、例えば、「センサマーCI-50」(NALCO Performance Products社製)、「DOCCTARCH CP」(DOC Japan社製)、「アミロマー25L」(Graefe Chemie社製)、「アミロマー50M」(Graefe Chemie社製)、「ファーマルMS5940」(Corn Products International社製)、「エキセルFM-004」(日本澱粉社製)等が例示でき、これら市販品を用いることができる。これらの中でも、「センサマーCI-50」(平均分子量=20万;a:b=0.75:0.25)が好ましく使用できる。
【0029】
カチオン化デンプンは、カチオン化セルロースやポリクオタニウム等とともにカチオン性ポリマーとして主にヘアコンディショニング剤として使用されているが、カチオン化デンプンがウイルス不活化効果を有することは、本発明によって初めて見出された驚くべき知見である。
【0030】
本発明のウイルス不活化剤におけるカチオン化デンプンの配合量は、ウイルス不活化剤の全量に対して、ポリマー純分で0.1質量%以上、好ましくは0.15質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。配合量が0.1質量%未満であると十分なウイルス不活化効果が得られない。カチオン化デンプンの配合量上限は、特に限定されないが、通常は5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
【0031】
本発明および本願明細書において、「ウイルス不活化」とは、ウイルスの感染または増殖能力を除去もしくは著しく低下させることを意味する。本発明のウイルス不活化剤で不活化できるウイルスについては特に限定はなく、ゲノムの種類、エンベロープの有無等に拘わらず、様々なウイルスを不活化対象とすることができる。
【0032】
例えば、A型、B型、C型インフルエンザウイルス、イサウイルス、クアランジャウイルス、トゴトウイルス、ライノウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、エンテロウイルス、ヘパトウイルス、アストロウイルス、サポウイルス、E型肝炎ウイルス、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス、ニパウイルス、ヘンドラウイルス、黄熱ウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、B型、C型肝炎ウイルス、東部および西部馬脳炎ウイルス、風疹ウイルス、ラッサウイルス、フニンウイルス、マチュポウイルス、グアナリトウイルス、サビアウイルス、クリミアコンゴ出血熱ウイルス、ハンタウイルス、シンノンブレウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、マーブルグウイルス、コウモリリッサウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトコロナウイルス、SARSコロナウイルス、ヒトポルボウイルス、ポリオーマウイルス、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、水痘、帯状発疹ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、天然痘ウイルス、サル痘ウイルス、牛痘ウイルス、モラシポックスウイルス、パラポックスウイルスなどを挙げることができ、好ましくはエンベロープを有する一本鎖RNAウイルス、より好ましくはオルトミクソウイルス科に属する、A型、B型、C型インフルエンザウイルス、イサウイルス、クアランジャウイルス、およびトゴトウイルス、特に好ましくはインフルエンザウイルスを不活化対象とすることができる。
【0033】
本発明のウイルス不活化剤は、ハッカ油、ユーカリ油、ローズマリー油、セージ油、ティーツリー油、月桃油、ペパーミント油、レモングラス油、カユプテ油、ニアウリ・シネオール油、ライム油、レモン油、レモンバーベナ油、セントジョーンズワート油、ラビンツァラ油、ローズウッド油、メリッサ/レモンバーム油、ミルラ油、マンダリン油、ベチバー油、フランキンセンス油、シトロネラ油、カルダモン油、およびアンジェリカ油からなる群から選択される精油の1種または2種以上、あるいは、カチオン化デンプンを、各々単独で配合することで十分な効果を奏するが、精油とカチオン化デンプンとを組み合わせて有効成分としたウイルス不活化剤としてもよい。
【0034】
本発明は、上記のウイルス不活化剤を含有する皮膚外用剤組成物を提供する。本発明の「皮膚外用剤組成物」は、皮膚(頭皮を含む)に適用される外用剤組成物であればよく、例えば化粧料(基礎化粧料およびメークアップ化粧料を含む)、洗浄料、外用医薬品、および外用医薬部外品等を含むことができる。
本発明の皮膚外用剤組成物は、上記したウイルス不活化剤のみからなる形態でもよく、一般的に皮膚外用剤組成物に用いられる各種成分を必要に応じて適宜配合した形態でもよい。
【0035】
例えば、本発明の皮膚外用剤組成物は、エタノール等の低級アルコール(炭素数6以下のアルコール)を含んでもよい。エタノール等の低級アルコールは、インフルエンザウイルスをはじめとする様々なウイルスに対する不活化効果を持つことが知られ、アルコールを高配合したウイルス不活化剤組成物も知られている。しかしながら、本発明の皮膚外用剤組成物においては、アルコールを配合する場合の配合量を50質量%以下、好ましくは40%質量以下あるいは30質量%以下とするのが好ましく、そのようにすることによって敏感肌の方も安心して使用することができる。
【0036】
本発明の皮膚外用剤組成物に配合可能な他の任意成分としては、例えば、油分(動植物油、鉱物油、エステル油、ワックス油、シリコーン油、高級アルコール、リン脂質類、脂肪酸類等)、界面活性剤(アニオン性、カチオン性、両性または非イオン性界面活性剤)、ビタミン類(ビタミンA群、ビタミンB群、葉酸類、ニコチン酸類、パントテン酸類、ビオチン類、ビタミンC群、ビタミンD群、ビタミンE群、その他フェルラ酸、γ-オリザノール等)、紫外線吸収剤(p-アミノ安息香酸、アントラニル、サリチル酸、クマリン、ベンゾトリアゾール、テトラゾール、イミダゾリン、ピリミジン、ジオキサン、フラン、ピロン、カンファー、核酸、アラントインおよびそれらの誘導体、アミノ酸系化合物、シコニン、バイカリン、バイカレイン、ベルベリン等)、抗酸化剤(ステアリン酸エステル、ノルジヒドログアセレテン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、パラヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル、セサモール、セサモリン、ゴシポール等)、増粘剤(ヒドキシエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドキシプロピルセルロース、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメタアクリレート、ポリアクリル酸塩 、カルボキシビニルポリマー、アラビアゴム、トラガントゴム、寒天、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、ペクチン、アルギン酸およびその塩等)、保湿剤(プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、1 ,2-ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、コンドロイチン硫酸およびその塩、ヒアルロン酸およびその塩、乳酸ナトリウム等)、水溶性高分子、pH調整剤、防腐・防黴剤、着色料、清涼剤、安定化剤、微生物培養代謝成分、血流促進剤、消炎剤、抗炎症剤、抗アレルギー剤、アミノ酸およびその塩、角質溶解剤、収斂剤、創傷治療剤、消臭・脱臭剤、各種粉末成分などが挙げられる。これらは1種を選択して配合してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0037】
本発明の皮膚外用剤組成物の剤型は任意であり、例えば、化粧水、クリーム、軟膏、乳液、ファンデーション、オイル、パック、石鹸(薬用石鹸も含む)、ボディソープ、口紅、香水、洗顔料、防臭剤(腋臭、足臭等)、浴用剤、シャンプー、コンディショナー、ヘアトニック、ヘアスプレー等の剤型とすることができる。
【0038】
本発明の皮膚外用剤組成物の形態は、その剤型に応じて、溶液状、クリーム状、ペースト状、ゲル状、ジェル状、泡状、固形状または粉末状とすることができる。
本発明の皮膚外用剤組成物は、上述したウイルス不活化剤を必須成分として、剤型及び形態に応じた通常の方法に準じて調製可能である。
【実施例
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。また実施例における「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味する。
【0040】
(実施例1)
インフルエンザウイルスに対する不活化効果(その1)
1)検体(試験液)の調製
以下の表1に示す処方で、ウイルス不活化剤の検体(試験液)を調製した。
【0041】
【表1】
【0042】
2)試験方法
インフルエンザウイルスA型(H1N1/PR/8/34)株を試験ウイルス株として用いた。
表1に示した各検体(試験液)1.080mLにウイルス液0.12mL(1×104 pfu/mL)を加え、30分間反応後、SCDLP培地で10倍ずつ段階希釈し、あらかじめ96穴プレートで培養していたイヌ腎臓細胞(MDCK)に接種し、37℃、5%CO2 条件下で培養後、形成されたプラーク数を測定し、残存ウイルス感染力価を決定した。
【0043】
3)試験結果
結果を表2に示した。下記の表2から明らかなように、ハッカ系精油4種(ハッカ油、ローズマリー油、ユーカリ油、セージ油)の組み合わせ(検体2)では、ウイルス感染力価の対数減少値が約4となり、インフルエンザウイルスに対して高い不活化効果を有することが示された。これに対して、精油の種類を減らす、あるいは精油の配合量を減らすことにより、リモネン量を0.006質量%未満とした他の検体(3~8)では、いずれの場合にもウイルス不活化効果は認められなかった。
【0044】
【表2】
【0045】
(実施例2)
インフルエンザウイルスに対する不活化効果(その2)
1)検体(試験液)の調製
以下の表3に示す処方で、ウイルス不活化剤の検体(試験液)を調製した。
【0046】
【表3】
【0047】
2)試験方法
上記実施例1に記載の試験方法に準ずる。
【0048】
3)試験結果
結果を表4に示した。下記表4から明らかなように、カチオン化デンプン(塩化ヒドロキシプロピルトリモニウムデンプン)をポリマー純分で0.24質量%含有する検体10は、ウイルス感染力価の対数減少値が4以上であり、非常に高いインフルエンザウイルス不活化効果を有することが認められた。これに対して、ポリマー純分で同程度の量(0.1質量%)のカチオン化セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロースヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド)を配合した検体12、及び、有効量より少量(0.024質量%)のカチオン化デンプンを配合した検体11では、ウイルス不活化効果は認められなかった。
【0049】
【表4】
【0050】
以下に、本発明に係る皮膚外用剤組成物の他の処方例を挙げる。
(処方例1)皮膚外用剤(ウイルスブロックミスト)
配合成分 質量%
エタノール 20.0
カチオン化デンプン(*) 1.0
クエン酸 0.02
クエン酸ナトリウム 0.08
水 残余
合計 100
(*)センサマーCI-50
【0051】
前記の処方例1の皮膚外用剤をミスト状ディスペンサーにて吐出することで、抗ウイルスミストが得られた。
また、本処方を原液とし、適宜圧縮ガス(窒素、LPG、炭酸等)を用いてエアゾール製品としてもよい。
【0052】
(処方例2)皮膚外用剤(ジェル)
配合成分 質量%
エタノール 30.0
ハッカ油 0.07
ローズマリー油 0.032
セージ油 0.02
ユーカリ油 0.03
(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)
コポリマー 0.5
カルボキシビニルポリマー 0.45
2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール 0.4
(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))
クロスポリマー 0.05
ポリクオタニウム-51 0.1
水 残余
香料 0.1
合計 100
【0053】
(処方例3)皮膚外用剤(ジェル)
配合成分 質量%
ヒドロキシプロピルセルロース 0.5
カチオン化デンプン 1.0
水 残余
合計 100
(*)センサマーCI-50
【0054】
(処方例4)皮膚外用剤(ジェル)
配合成分 質量%
エタノール 10.0
ハッカ油 0.07
ローズマリー油 0.032
セージ油 0.02
ユーカリ油 0.03
カルボキシビニルポリマー 0.5
水酸化カリウム 0.2
グリセリン 10.0
PEG-60水添ヒマシ油 0.1
水 残余
合計 100